(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】摩耗性シール要素を備える無潤滑システム、対応するシール要素、及びシステムを組み立てる方法
(51)【国際特許分類】
F04C 18/16 20060101AFI20230628BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20230628BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
F04C18/16 D
F04C29/00 C
F04C29/00 U
F16J15/16 B
(21)【出願番号】P 2021543418
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 IB2020000049
(87)【国際公開番号】W WO2020157568
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-08-04
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(73)【特許権者】
【識別番号】593074329
【氏名又は名称】アトラス コプコ エアーパワー,ナームローゼ フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】ATLAS COPCO AIRPOWER,naamloze vennootschap
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】マリアン カレン アンナ レオン
(72)【発明者】
【氏名】ペーテルス ギード ヨーゼフ クリスティアン
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】実開昭51-059908(JP,U)
【文献】特開昭63-230978(JP,A)
【文献】特開2013-079628(JP,A)
【文献】国際公開第2006/013761(WO,A1)
【文献】特表昭63-501373(JP,A)
【文献】特開昭59-200087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/16
F04C 29/00
F16J 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローターキャビティ(210;310)を含むハウジング(120;220;320)を有する静止ステータと、前記ローターキャビティ内に組み込まれた少なくとも1つの回転ローター要素(101、102)とを備える、気体を圧送するための無潤滑システム(100;200;300)であって、前記ステータは、前記ローターキャビティ内で前記ローター要素のうちの少なくとも1つの端面と前記ハウジングの内壁との間に組み込まれて前記端面に沿ってシールを形成する、少なくとも1つの自己支持形シール要素(121、131;221、231;321、331;531;631)をさらに備え、前記少なくとも1つの自己支持形シール要素の対応するローター要素に向かい合う少なくとも1つの側面上に、摩耗性被覆(122、132;222、232;322、332;501;601)を設け、
前記ローター要素(101、102)のうちの少なくとも1つの、前記
摩耗性被覆と接触する少なくとも1つの端面は、前記ローター要素のローター軸の周りに切り欠き(106)が形成され、前記切り欠き(106)に存在する前記自己支持形シール要素の前記摩耗性被覆は、前記切り欠き内に延びるリング(126)を含む、とを特徴とする、無潤滑システム(100;200;300)。
【請求項2】
前記自己支持形シール要素(121、131;221、231;321、331;531;631)又はその各々は、少なくとも1.0mmの厚さを有する、請求項1に記載の無潤滑システム。
【請求項3】
前記摩耗性被覆(122、132;222、232;322、332;501;601)は、少なくとも100μmの厚さを有する、請求項1又2に記載の無潤滑システム。
【請求項4】
前記自己支持形シール要素(121、131;221、231;321、331;531;631)又はその各々は、大部分が板状である、請求項1から3のいずれかに記載の無潤滑システム。
【請求項5】
前記自己支持形シール要素(121、131;221、231;321、331;531;631)又はその各々は、層状構造から成る、請求項1から4のいずれかに記載の無潤滑システム。
【請求項6】
少なくとも前記摩耗性被覆(122、132;222;232;322、332;501;601)は、炭素マトリックスから成る、請求項1から5のいずれかに記載の無潤滑システム。
【請求項7】
前記炭素マトリックスは、60%を超える、80%を超える、又は95%を超える黒鉛化度P1を有する、請求項6に記載の無潤滑システム。
【請求項8】
前記摩耗性被覆は、100から120の間の硬度HR5/100を有する、請求項1から7のいずれかに記載の無潤滑システム。
【請求項9】
前記ローター要素(101、102)のうちの少なくとも1つの少なくとも1つの端面は、粗さRa>1.0μmの接触面を有する、請求項1から8のいずれかに記載の無潤滑システム。
【請求項10】
前記自己支持形シール要素(121、131;221、231;321、331;531;631)は、前記気体を供給するための及び/又は排出するための1又は2以上の開口(270、280)を備える、請求項1から9のいずれかに記載の無潤滑システム。
【請求項11】
前記システムは、圧縮機、膨張機、又は真空ポンプである、請求項1から10のいずれかに記載の無潤滑システム。
【請求項12】
気体を圧送するために、請求項1から11のいずれかに記載されるような無潤滑システムに使用される、自己支持形シール要素。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載の無潤滑システム(100)を組み立てる方法であって、
(a)前記自己支持形シール要素(121、131;221、231;321、331;531;631)又はその各々を、前記ステータの前記ハウジング(120;220;320)の内壁に取り付け、それによって前記摩耗性被覆(122、132;222;232;322、332;501;601)のそれぞれを、前記内壁のそれぞれに背を向けるようにするステップと、
(b)前記ハウジングによって境界付けされた前記ローターキャビティ(210;310)内に、少なくとも1つのローター要素(101、102)を回転可能に組み込むステップと、
(c)前記システムを運転して前記摩耗性被覆を部分的に摩滅させるステップと、
を含む方法。
【請求項14】
少なくとも1つのローター要素の少なくとも1つの端面を粗面化するステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(a)は、前記自己支持形シール要素(121、131;221、231;321、331;531;631)又はその各々と、前記ステータの前記ハウジング(120;220;320)の前記内壁のそれぞれとの間に、密封材及び/又は接着剤を塗布するステップを含む、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記ローター要素(101、102)のうちの少なくとも1つの、前記
摩耗性被覆と接触する少なくとも1つの端面は、前記ローター要素のローター軸の周りで切り欠き(106)が形成され、前記ステップ(c)の間に、前記運転の結果として、前記自己支持形シール要素の前記摩耗性被覆上に、リング(126)が形成されてそこに存在して前記切り欠き内に延びる、請求項13、14、又は15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータと、ステータによって境界付けされたローターキャビティの中に組み込まれた少なくとも1つの回転ローター要素とを含む、気体を圧送するための無潤滑システムに関する。特に、本発明は、無潤滑の実施形態における圧縮機、真空ポンプ、又は膨張機に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の圧縮機は、圧縮プロフィール、例えばクロープロイール又はスクリュープロフィールを有する2つのローターを含むハウジングから構成される。ローター要素の回転により、これらのローター要素の間で気体が圧縮される。
【0003】
無潤滑圧縮機では、一方では各ローターの間に、他方ではローターとハウジングとの間にシールをもたらすために液体潤滑剤又は密封材が導入されない。最新技術では、この目標を達成するために、ローター表面及び/又はハウジングの内壁に摩耗性被覆が塗布され、被覆は、圧縮機の作動期間中に部分的に摩滅して、可能な限り密着したシールを作る。
【0004】
しかしながら、このような摩耗性被覆の塗布には比較的長い時間がかかり、摩耗性被覆の使用を比較的高価なものにする。
【0005】
米国特許第5,695,327号には無潤滑式スクリュー圧縮機が記載されており、焼結されたPTFE-マイカ混合物のシールディスクがローター要素の端面に使用される。作動時、これらのシールディスクは、ローター要素によって、ローター要素の端面がシールディスクに沿って非接触で動作する程度に摩耗される。
【0006】
独国特許第3609996号は、ローター要素の端面に配置され、塑性変形可能な材料で作られたディスクを備えるスクリュー圧縮機を特徴とする。
【0007】
実際の試験では、米国特許第5,695,327号及びドイツ特許第3609996号のディスクは、ローター要素の端面とハウジングとの間に適切なシールを得るのに適していないことを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第5,695,327号
【文献】独国特許第3609996号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的の1つは、気体を圧送するための無潤滑システムを提供することであり、ハウジングに対する1又は2以上のローター要素の端面のシールは、時間的及び/又は費用的により効果的な方法で得ることができる。
【0010】
本発明のさらなる目的は、無潤滑システムのハウジングの内壁に対してローター要素の端面をシールするための改善された自己支持形シール要素を提供することである。改善は、例えば、高温環境での改善された性能、改善された耐食性、及び/又は改善されたシール特性の形とすることができる。
【0011】
本発明のさらなる目的は、気体を圧送する無潤滑システムのための、時間効果及び/又は費用効果が高い組み立て方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、圧縮機、膨張機、又は真空ポンプなどの気体を圧送するための無潤滑システムを提供することに関し、無潤滑システムは、少なくとも1つの回転ローター要素が組み込まれた、ローターキャビティを含むハウジングを有する静止したステータを備え、ステータはまた、ローターキャビティ内においてローター要素の少なくとも1つの端面とハウジングの内壁との間に組み込まれた少なくとも1つの自己支持形シール要素を含み、端面に沿ってシールを形成するようになっている。少なくとも1つの自己支持形シール要素は、関連するローター要素に向かい合う少なくとも1つの側面に、摩耗性層が被覆されている。
【0013】
少なくとも1つの自己支持形シール要素は、例えば、外側に1又は2以上のローター要素の端面に向けられることが意図された少なくとも1つの摩耗性層を有する、摩耗性材料の層又は層状構造から成ることができる。
【0014】
本明細書で使用される場合、「自己支持形」は、シール要素が、そのままで、無潤滑システムの組み立て中に取り扱うのに十分な強度をもつことを意味する。その結果、シール要素は、別個に製造され、次に、ハウジングのローターキャビティに挿入され、さらに例えば、ねじ留め、付着、締め付け、ロック、又は他の方法で締結することができる。
【0015】
本明細書に使用される場合、「摩耗性」は、粉末形態で摩滅する被覆又は材料を指し、すなわち微粒子は、無潤滑システムの回転ローター要素の関連する端面との接触によって摩滅する。理想的には、これらの摩滅した微粒子は、1μmよりも小さい数平均粒子サイズを有する。
【0016】
摩耗性被覆により、システム運転中の摩耗は、運転中に発生する熱を考慮して制御することが可能になり、それによって上記に定義した微粒子が摩滅する。従って、摩耗性被覆、例えば摩耗性材料の厚さ50μmの層から、十分な摩耗性材料が除去されるまで所定量の摩耗性材料が除去され、ローター要素の適切な回転を可能にするようになっており、摩耗性被覆内の残りの摩耗性材料は、良好なシールをもたらす、すなわち残りの隙間は例えば10μmよりも小さい。
【0017】
ハウジングの内壁に摩耗性被覆を塗布するのではなく、1又は2以上の自己支持形シール要素の上に又は自己支持形シール要素として摩耗性被覆を設けることで、ハウジングの製造及び/又は組み立てが簡素化され、時間及び費用が節約され、及び/又は無潤滑システムに改善されたシールがもたらされる。さらに、シール要素の自己支持性(これにより摩耗性被覆をハウジングの関連部分に直接塗布する必要がなくなる)に起因して、摩耗性被覆としてより高い耐熱性及び/又はより優れた耐食性を有する材料を使用することができ、結果として、より高い動作温度の及び/又は腐食に対してより耐性のあるシールが得られ、これにより無潤滑システムの寿命を延ばすことができる。より詳細には、自己支持形シール要素は、これによって覆われるハウジングの一部分に腐食保護をもたらし、これは、従来技術を考慮すると、腐食に対して被覆よりもより良好な保護をもたらす。達成することができえる高い耐熱性は、より高い温度での適用性を保証する。このようなシステムでの高温は、主として、より高い入口温度及び/又はより高い圧力比の結果である。その結果、より高い耐熱性は、動作範囲の拡大を可能にする。しかしながら、材料の熱容量の範囲内で、機械的耐久性は、依然として耐用期間を決定する。より高い耐熱性は、例えば、従来技術の有機被覆の代わりに、本明細書に記載された炭素ベースの材料を使用することによって達成可能である。
【0018】
本発明の実施形態によれば、自己支持形シール要素又はその各々は、好ましくは少なくとも1.0mm、さらに好ましくは少なくとも1.5mm、さらに好ましくは少なくとも2.0mmの厚さを有することができる。
【0019】
本発明の実施形態によれば、摩耗性被覆は、少なくとも100μm、好ましくは少なくとも200μm、さらに好ましくは少なくとも300μmの厚さを有することができる。
【0020】
本発明の実施形態によれば、自己支持形シール要素又はその各々は、大部分を板状に成形することができる。
【0021】
本発明の実施形態によれば、自己支持形シール要素又はその各々は、層状構造、例えば摩耗性被覆と支持体又は補強材との組み合わせから成ることができる。
【0022】
本発明の実施形態によれば、少なくとも摩耗性被覆、場合により自己支持形シール要素全体は、摩耗性材料から成ることができる。好ましい実施形態によれば、摩耗性材料は、炭素マトリックスを含有するか又はそれから成る。炭素マトリックスは、少なくとも部分的に、好ましくは全体的に、黒鉛の形態、例えば微粒子黒鉛である。実施形態によれば、黒鉛化度はP1であり、隣接する六角形炭素層に対して60%を超える、80%を超える、又は95%を超える黒鉛関連性をもつ確率として定義される。X線回折分光法は、黒鉛化度を決定するための適切な方法を提供する。
【0023】
本発明による炭素マトリックスの形態の摩耗性材料は、複合体の炭化(例えば、酸素の存在下又は不在下での高温における)によって利用可能であり、複合体は、ポリマーマトリックス及び炭素(例えば、炭素繊維又は炭素粒子の形態である)を含む。実施形態では、ポリマーは、ポリエステル、ビニルエステル、ポリエポキシド、ポリフェノール、ポリイミド、ポリアミド、ポリプロピレン、及びポリエーテルエーテルケトンから成る群から選ばれ、さらに好ましくは、ポリマーはポリエポキシドである。
【0024】
好ましくは、本発明による炭素マトリックスの形態の摩耗性材料は、上述したような炭化複合体を、高温処理などの別個の黒鉛形成工程に供することによっても入手可能であり、これは黒鉛化度を高める。実施形態では、本発明による炭素マトリックスの形態の摩耗性材料は、炭化複合体を含浸させることによって得られ、これは、随意的に、別個の黒鉛形成工程に供される。含浸は、金属、塩、又はポリマーを用いて行うことができる。
【0025】
好ましい実施形態では、摩耗性材料は、80重量%、90重量%、又は95重量%よりも多い炭素を含む。
【0026】
摩耗性材料の好ましい硬度は、HR5/100で100から120の間である。本明細書で用いる場合及び平均的な熟練者に公知であるように、「HR5/100」は、直径5mmのボール、総荷重100重量キログラム(=980.7N)で測定されたロックウェル硬度を指す。
【0027】
本発明の実施形態によれば、少なくとも1つのローター要素はステンレス鋼で作られている。
【0028】
本発明の実施形態によれば、ローター要素の少なくとも1つの端面は、粗さRa>1.0μm、好ましくはRa>2.5μmの接触面を有する。これは、例えば、熟練者に知られている手段を用いて端面を粗くすることによって達成可能である。ローター要素は、好ましくは硬化ステンレス鋼で作られている。
【0029】
本発明の実施形態によれば、自己支持形シール要素又はその各々は、気体をローターキャビティに供給するための及び/又はローターキャビティから排出するための1又は2以上の開口を有することができる。換言すると、これらの開口は、ハウジングの入口ポートへの/出口ポートからの通路を形成する。
【0030】
本発明による第2の態様は、本明細書に記載の他の態様及び/又は実施形態と組み合わせるか否かにかかわらず、無潤滑システムを組み立てる方法の提供に関する。この方法は、
(a)自己支持形シール要素又はその各々を、ステータハウジングの内壁に取り付け、摩耗性被覆のそれぞれを内壁のそれぞれに背を向けるようにするステップと、
(b)ハウジングによって境界付けされたローターキャビティ内に少なくとも1つのローター要素を回転可能に組み込むステップと、
(c)システムを運転して摩耗性被覆を部分的に摩滅させるステップと、
を含む。
【0031】
運転は、所定の時間、例えば5分から15分の間に及び/又は所定の温度範囲、例えば302°F~572°F(150°C~300°C)の温度範囲内で行うことができる。
【0032】
本発明の実施形態によれば、方法は、少なくとも1つのローター要素のうちの少なくとも1つの端面を粗面化するステップを含むことができる。
【0033】
本発明の実施形態によれば、ステップ(a)は、自己支持形シール要素又はその各々とハウジングのそれぞれの内壁との間に密封材及び/又は接着剤を塗布するステップを含むことができる。この密封材及び/又は接着剤の目的は、自己支持形シール要素とハウジングの内壁との間のシールを保証すること及び/又は自己支持形シール要素を内壁に接着する(必要に応じて)こととすることができる。
【0034】
本発明は、本発明に従って図示された実施形態の実施例を使用して、以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の第1の実施形態による無潤滑システムの概略的な断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態による無潤滑システムの概略的な断面図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態による無潤滑システムの概略的な断面図である。
【
図4】本発明による自己支持形シール要素の実施形態の概略的な断面図である。
【
図5】本発明による自己支持形シール要素の実施形態の概略的な断面図である。
【
図6】本発明による自己支持形シール要素の実施形態の概略的な断面図である。
【
図7】第2の実施形態によるシール要素を有するハウジングの一部の斜視図である。
【
図8A】本発明の実施形態によるクロー圧縮機の動作を複数のステップで概略的に示す説明図である。
【
図8B】本発明の実施形態によるクロー圧縮機の動作を複数のステップで概略的に示す説明図である。
【
図8C】本発明の実施形態によるクロー圧縮機の動作を複数のステップで概略的に示す説明図である。
【
図8D】本発明の実施形態によるクロー圧縮機の動作を複数のステップで概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、特定の実施形態に関して、特定の図面を参照して説明されるが、本発明は、それらに限定されず、特許請求の範囲によってのみ特定される。記載された図面は、単に概略的で非制限的である。各図面において、特定の要素の寸法は、説明目的で誇張されて縮尺通りに描かれていない場合がある。寸法及び相対寸法は、必ずしも本発明の実際的な実施形態に対応するわけではない。
【0037】
さらに、第1の、第2の、第3のなどの用語は、説明及び特許請求の範囲において類似の要素を区別するために使用され、必ずしも連続的な又は時系列的な順序を説明するためではない。この用語は、適切な状況下で交換可能であり、本発明の実施形態は、本明細書に記載又は図示された順序以外の順序で適用することができる。
【0038】
さらに、本明細書及び特許請求の範囲における頂部、底部、上方、下方などの用語は、説明目的で使用されており、必ずしも相対的な位置を説明するものではない。このように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載された本発明の実施形態は、本明細書に記載された又は図示された向き以外の向きで適用することができる。
【0039】
さらに、実施形態は、「好ましい実施形態」と呼ばれるが、本発明の範囲の限定としてではなく、本発明がどのように実施できるかの例として理解すべきである。
【0040】
特許請求の範囲において使用される用語「備える」は、以後で説明する手段又はステップに限定されると解釈すべきではなく、それは、他の要素及びステップを除外するものではない。この用語は、参照される機能、要素、ステップ、又は構成要素の存在を特定するものとして解釈すべきであるが、1又は2以上の他の特徴、要素、ステップ、又は構成要素、あるいはそれらのグループの存在又は追加を除外するものではない。その結果として、「手段A及びBを備える装置」という表現の範囲は、構成要素A及びBのみからなる装置に限定されるべきではない。この意味は、本発明に関して、装置の構成要素A及びBのみが列挙されていること、及び特許請求の範囲はさらにそれらの構成要素の均等物を含んで解釈すべきであるということである。
【0041】
各図に示すシステムは、気体又は空気などの気体混合物を圧送するための、例えば圧縮機、膨張機、真空ポンプなどである無潤滑システム又はその要素である。無潤滑とは、潤滑、冷却、又はシールするために液体が気体流に注入されないことを意味する。冷却は、このようなシステムを冷却するために熟練者に知られている装置又は手段によって行われる。ローター要素の相互間の及びステータのハウジングに対するローター要素のシーリングは、本明細書に説明するように行われるが、例えば、環境に対するシーリングなどの、シーリングのための追加の装置を備えることができる。このような追加の装置は、熟練者に公知であるので本明細書ではこれ以上説明しない。
【0042】
各図に示す無潤滑システムのローター要素の駆動部、及びハウジングの外側でローター軸に嵌合することができる相互的な歯車装置は、何らかの熟練者に公知の駆動部及び歯車装置とすることができるので、本明細書ではこれ以上説明しない。
【0043】
図1は、ハウジング120を有する静止ステータ、第1のローター要素101、及び第2のローター要素102を備える無潤滑システム100を示す。静止ステータは、内部にローター要素が回転可能に組み込まれたローターキャビティを備える。例えば、ローター要素101及び102は、それぞれ、クロー圧縮機の雌ローター要素及び雄ローター要素である(例えば、
図8)。ローター要素101、102は、それぞれローター軸103、104を備え、図示すように、ローター軸103、104は、両方の側面でハウジング120を貫通して延びることができるので、両方の側面でシールが必要になる。
【0044】
自己支持形シール要素121、131は、ローター要素101、102の端面とハウジング120のそれぞれの内壁との間に設けられ、端面に沿ってシールを形成する。これらの自己支持形シール要素は、ローター要素に向かい合う少なくとも1つの側面に摩耗性被覆122、132を備える。反対側の側面125、135、すなわち、ハウジングの内壁に向かい合う側面上には、密封材及び/又は接着剤が塗布され、その側面に沿ったシールを保証すること及び/又はその位置を固定することができる。このことは、組み立て時に、ハウジングの内壁又はシール要素121、131の関連する側面125、135に密封材及び/又は接着剤を最初に塗布することによって行うことができる。
【0045】
ハウジング120は、基本的に、2つの部品、すなわちハウジングの一方の側面及びジャケットを形成する第1の部品120a及び反対側の側面を形成する第2の部品120bで構成される。これらの部品120a及び120bは、組み合わされてその目的で設けられた穴を貫通するボルトによって一緒に締め付けられる。図示するように、部品120a及び120bの各々は、それぞれの自己支持形シール要素121、131を収容するための凹部を備える。
【0046】
自己支持形シール要素121、131の各々は、摩耗性被覆122、132を有する基本的に板状の本体を備え、図示する実施形態では、この本体は、全体が摩耗性材料で作られている。この摩耗性材料は、システムの運転時に、好ましくは10μmよりも小さいシール隙間(seal opening)を実現するために、粉末形態で摩滅するようにデザインされている。摩耗性材料は、上述のように炭素マトリックスを含むか又は好ましくは炭素マトリックスから成る。システムの運転時に摩耗性材料の制御された摩耗を実現するために、ローター要素の端面の表面は、好ましくは粗面化される必要がある。
【0047】
ローター要素101、102の輪郭側面を、互いに対して及びハウジング120の内側ジャケットに対してシールするために、摩耗性被覆141、142、143は、熟練者に知られている方法でこれらの輪郭側面及び内側ジャケットに塗布されている。
【0048】
図1に示すシステムでは気体の入口開口及び出口開口は示されていない。これらは、例えば
図7に示すように実現することができ、その場合、シール要素121は、入口ポート及び出口ポートの高さで開口を備える。しかしながら、これらの入口ポート及び出口ポートは他の位置に配置することもできる。
【0049】
図2は、
図1の無潤滑システム100の変形例を示す。
図2には、明確化のためにローター要素が示されていない。
図2の無潤滑システム200は、基本的に3つの部品、すなわち側面部品220a、ジャケット部品220b、及び側面部品220cで構成されるステータ220を含み、これらは、組み合わされて、設けられた穴を貫通するボルトによって一緒に締め付けられる。図示するように、側面部品220a及び220cの各々は、それぞれの自己支持形シール要素221、231を収容するための凹部を含む。これらの凹部及びその中に配置されたシール要素221、231は、ローターキャビティ210に対して過大であり、シール要素221、231は、ジャケット部品220bを越えて横方向に延び、ジャケット部品220bによってそれぞれの側面部品220a、220cに締め付けられる。
【0050】
図2の実施形態では、ローター軸(図示せず)は、ハウジングを貫通して一方の側面にのみ延びている。このことは、反対側のシール要素231の実施形態を単純化し、シール要素231は完全に閉じた板状の本体とすることができる。
【0051】
ローター要素(図示せず)の端面とハウジング220のそれぞれの内壁との間には、板状の本体221、231の形態の自己支持形シール要素が設けられ、いずれの場合も端面に沿ってシールを形成するようになっている。これらの自己支持形シール要素は、ローターキャビティ210に向かい合う少なくとも1つの側面上で、摩耗性層222、232で被覆されている。反対側の側面225、235、すなわちハウジング220a、220cの内壁に向かい合う側面上には、密封材及び/又は接着剤が塗布され、その側面に沿ったシールを保証すること及び/又は位置を固定することができる。このことは、組み立て時に、ハウジングの内壁又はシール要素221、231の関連する側面225、235に密封材及び/又は接着剤を最初に塗布することによって行うことができる。
【0052】
自己支持形シール要素221、231の各々は、摩耗性被覆222、232を有する基本的に板状の本体を備え、図示する実施形態では、この本体は、全体が摩耗性材料で作られている。この摩耗性材料は、システム運転時に、好ましくは10μmよりも小さいシール隙間を実現するために、粉末形態で摩滅するようにデザインされている。摩耗性材料は、好ましくは本明細書の他のどこかで定義されているような摩耗性材料である。システム運転時に摩耗性材料の制御された摩耗を実現するために、ローター要素の端面の表面は、好ましくは粗面化される必要がある。
【0053】
ローター要素の輪郭側面を、互いに対して及びハウジング220bの内側ジャケットに対してシールするために、摩耗性被覆241、243は、熟練者に知られている方法でこれらの輪郭側面及び内側ジャケットに塗布されている。
【0054】
図2に示すシステムの気体の入口開口及び出口開口は、
図7に示されており、シール要素221は、入口ポート及び出口ポートの高さで開口270、280を備える。しかしながら、これらの入口ポート及び出口ポートは、他の位置に配置することもできる。
【0055】
図3は、
図1の無潤滑システム100の変形例を示す。
図3には、明確化のためにローター要素が示されていない。
図3の無潤滑システム300は、基本的に3つの部品、すなわち側面部品320a、ジャケット部品320b、及び側面部品320cで構成されるステータ320を備え、これらは、組み合わされて、設けられた穴を貫通するボルトによって一緒に締め付けられる。図示するように、側面部品320a及び320cの各々は、それぞれの自己支持形シール要素321、331を収容するための凹部を含む。これらの凹部及びその中に配置されたシール要素321、331の寸法は、ローターキャビティ310の寸法に対応する。自己支持形シール要素321、331は、埋め込み式ねじ326によってそれぞれのステータ部品320a、320cに機械的に締結され、ねじ326の頭部は、それらが摩耗性被覆を妨害しない程度に埋め込まれている。
【0056】
ローター要素(図示せず)の端面とハウジング320のそれぞれの内壁との間には、板状の本体321、331の形態の自己支持形シール要素が設けられ、いずれの場合もローター要素の端面に沿ってシールを形成するようになっている。これらの自己支持形シール要素は、ローターキャビティ310に向かい合う少なくとも2つの側面上で、摩耗性層322、332で被覆されている。反対側の側面325、335、すなわち、ハウジング320a、320cの内壁に向かい合う側面上には、密封材及び/又は接着剤が塗布され、その側面に沿ったシールを保証すること及び/又は追加的に位置を固定することができる。このことは、組み立て時に、ハウジングの内壁又はシール要素321、331の関連する側面325、335に密封材及び/又は接着剤を最初に塗布することによって行うことができる。
【0057】
自己支持形シール要素321、331の各々は、摩耗性被覆322、332を有する基本的に板状の本体を備え、図示する実施形態では、この本体は、全体が摩耗性材料で作られている。この摩耗性材料は、システム運転時に、好ましくは10μmよりも小さいシール隙間を実現するために、粉末形態で摩滅するようにデザインされている、摩耗性材料は、好ましくは本明細書の他のどこかで定義されるような摩耗性材料である。システムの運転中に摩耗性材料の制御された摩耗を実現するために、ローター要素の端面の表面は、好ましくは粗面化される必要がある。
【0058】
ローター要素の輪郭側面を、互いに対して及びハウジング320bの内側ジャケットに対してシールするために、摩耗性被覆341、343は、熟練者に知られている方法でこれらの輪郭側面及び内側ジャケットに塗布されている。
【0059】
図3に示すシステムの気体の入口開口及び出口開口は、
図7に示すように実現することができ、従って、シール要素321は、入口ポート及び出口ポートの高さに対応する開口を備える。しかしながら、これらの入口ポート及び出口ポートは他の位置に位置することもできる。
【0060】
図4~
図6は、自己支持形シール要素331、531、631の代替的な実施形態を示す。
【0061】
図4は、
図3にも示すシール要素331を示し、全体が摩耗性材料で作られた板状の本体を備えている。
【0062】
図5は、ハウジングに向かい合う側の支持体502と、ローター要素に向かい合う側の摩耗性被覆501とから成る自己支持形シール要素531を示す。摩耗性被覆501は、本明細書の他のどこかで定義されるような摩耗性材料で作られている。支持体502は、何らかの支持体材料から作ることができ、シール要素531を自己支持形にするために設けることができ、その場合、摩耗性被覆501は、摩耗性被覆の形態にすることができる。他方では、摩耗性被覆501は、それ自体を自己支持形の層として、さらなる補強のために支持体502を備えることができ、その場合、2つの層は、接着剤又は他の何らかの公知の手段によって互いに接合することができる。
【0063】
図6は、本明細書の他のどこかで定義されるような摩耗性材料で作られ、補強要素又は層602が埋め込まれている板状の本体601を備える自己支持形シール要素631を示す。
【0064】
図8Aから
図8Dは、複数の動作段階の間の無潤滑式クロー圧縮機を示す。例えば、クロー圧縮機は、
図1~
図7に示された実施形態に従って設計することができる。
図8は、対応する自己支持形シール要素を通る、頂部の入口ポート870及び中央の出口ポート880を示す。クロー圧縮機は、2つのローター要素、すなわち雄ローター要素801及び雌ローター要素802を含み、これらは矢印で示す方向に回転する。
【0065】
図8Aに示す第1の動作段階では、大気は、例えば、ローター要素801、802の回転によって入口ポート870を通ってローターキャビティ(圧縮室)に向かって引き込まれる。
【0066】
図8Bに示す第2の動作段階では、引き込まれた空気は、ローター要素801、802の歯車又は爪とステータとの間に閉じ込められる。自己支持形シール要素は、ローター要素801、802の端面に沿ってシールを提供する。
【0067】
図8Cに示す第3の動作段階では、ローター要素801、802の歯車又は爪は、互いに向かって移動し、密閉された自由空間が減少し、結果的に、閉じ込められた空気が圧縮される。ここでも、自己支持形シール要素は、ローター要素801、802の端面に沿ってシールを提供する。
【0068】
図8Dに示す第4の動作段階では、ローター要素801、802はさらに回転し、それによって雌ローター要素801が出口ポート880通って回転し、圧縮空気は、出口ポートを通って排出される。その際に、排出空気は、それぞれのシール要素の出口ポート880を通過する。
【0069】
図8A~
図8Dによる動作は、システムの運転でも使用される。ここで、ローター要素801、802は、例えば5分~15分の間の運転期間で回転し、システムの温度は、正常なシステム運転の間に、予想される動作温度に応じて、例えば302°F~572°F(150°C~300°C)の温度範囲に制御される。この運転プロセスの間に、所定量の材料が、摩耗性被覆から摩滅する。システムは、例えば最初に各摩耗性層に関して50μmを超過して組み立てることができる。本明細書に説明するように、摩耗性材料は、システムの運転時に、粉末形態で摩滅するように、すなわち全ての摩耗した粒子が1μm又はそれよりも小さい大きさの微粒子であるように選択される。このように、シールは、10μmよりも小さい残りのシール隙間により得ることができる。
【0070】
図9A及び
図9Bは、それぞれ運転の前後の
図1による実施形態の詳細を示す。運転は、選択的な摩耗方向なしで、摩耗性被覆122の表面上でのローター101のローター表面の等しい摩耗作用に基づく。実際には、多くの場合、ローター101は、ローター軸103と共に単一の構成要素を形成し、ローター軸がローター本体と結合する場所に溝106が存在する。この溝の存在は、ローター軸の開始点での応力集中を防ぐためにローター設計に固有のものである。ローター軸と同一平面にありかつ同心であるこの溝の位置では、運転時に材料が摩滅しないので、非摩耗材料のリング126がシール要素121上に形成され、リング126は、運転後にローター要素の溝106の中に部分的に位置することになる。これは、ローター軸の周囲に追加の気体シールをもたらす。運転プロセス中に自然に発生するこのリングは、ローター要素及び/又は摩耗性シール要素の製造プロセス中に、追加のステップ及び/又は手段を必要とすることなく、ローター内のこのノッチの高さで追加の気体シールをもたらす。
【符号の説明】
【0071】
100 無潤滑システム
101、102 ローター要素
120 ハウジング
121、131 自己支持形シール要素
122、132 被覆