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特許7303962培養容器、及び細胞-担体複合体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】培養容器、及び細胞-担体複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230629BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230629BHJP
   C12N 11/14 20060101ALI20230629BHJP
   C12N 11/02 20060101ALI20230629BHJP
   C12N 11/08 20200101ALI20230629BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M3/00 A
C12N11/14
C12N11/02
C12N11/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019047298
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020145990
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】エン ライ
(72)【発明者】
【氏名】景山 達斗
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/204563(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/108069(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108324993(CN,A)
【文献】国際公開第2012/115079(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/073625(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/235375(WO,A1)
【文献】国際公開第88/002398(WO,A1)
【文献】特開2002-112763(JP,A)
【文献】Nature Communications,2012年,3:784,pp.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 11/00-11/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養するためのウェルを含む培養容器であって、
前記培養容器に固定され、その少なくとも一部が前記細胞の培養中に前記ウェル内に配置されるファイバー状の担体を含
前記担体は、前記ウェルの内面に固定された一方の端部と、上方に延びる自由端である他方の端部とを有し、又は、前記培養容器の前記ウェル外の部分に固定されている、
培養容器。
【請求項2】
1つの前記ウェル内には、1つの前記担体が配置される、請求項1に記載の培養容器。
【請求項3】
前記担体は、前記ウェルの内面に固定された前記一方の端部を有し、
前記担体の一部は、前記ウェル外まで延びている、請求項1又は2に記載の培養容器。
【請求項4】
前記細胞の培養中に前記ウェルより上方に配置される支持部をさらに含み、
前記担体は、前記支持部に固定される、
請求項1又は2に記載の培養容器。
【請求項5】
前記支持部は、着脱可能に設けられる、請求項に記載の培養容器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の培養容器を用意すること、
前記培養容器に固定された前記ファイバー状の担体の少なくとも一部が配置された前記ウェル内で細胞を培養すること、及び、
前記細胞の培養により、前記担体に接着した前記細胞を含む細胞-担体複合体を形成すること、
を含む、細胞-担体複合体の製造方法。
【請求項7】
前記担体を前記培養容器から分離することにより、前記細胞-担体複合体を回収することをさらに含む、請求項に記載の細胞-担体複合体の製造方法。
【請求項8】
前記細胞の培養により、前記担体に接着した細胞集合体を含む前記細胞-担体複合体を形成する、請求項又はに記載の細胞-担体複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養容器、及び細胞-担体複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、規則的な配置の微小凹部からなるマイクロ凹版に、間葉系細胞及び上皮系細胞を播種し、酸素を供給しながら混合培養することにより、毛包原基を形成させる工程を備えることを特徴とする再生毛包原基の集合体の製造方法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、ガイドを有する移植用再生器官原基の製造方法であって、間葉系細胞から実質的に構成される第1の細胞集合体と、上皮系細胞から実質的に構成される第2の細胞集合体とを密着させて支持担体内部で培養することにより再生器官原基を調製する工程と、当該再生器官原基にガイドを挿入する工程とを含む製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/073625号
【文献】国際公開第2012/108069号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の方法においては、まず再生器官原基を調製し、その後、当該再生器官原基にガイドを挿入するため、操作には熟練を要していた。また、大量の再生器官原基を調製する場合、当該再生器官原基の各々にガイドを挿入する操作は煩雑にならざるを得なかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、細胞-担体複合体を簡便に製造することができる培養容器、及び細胞-担体複合体の製造方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る培養容器は、細胞を培養するためのウェルを含む培養容器であって、前記培養容器に固定され、その少なくとも一部が前記細胞の培養中に前記ウェル内に配置されるファイバー状の担体を含む。本発明によれば、細胞-担体複合体を簡便に製造することができる培養容器が提供される。
【0008】
前記培養容器において、1つの前記ウェル内には、1つの前記担体が配置されることとしてもよい。前記培養容器において、前記担体は、前記ウェルの内面に固定されていることとしてもよい。この場合、前記担体の一部は、前記ウェル外まで延びていることとしてもよい。
【0009】
また、前記培養容器において、前記担体は、前記培養容器の前記ウェル外の部分に固定されていることとしてもよい。この場合、前記細胞の培養中に前記ウェルより上方に配置される支持部をさらに含み、前記担体は、前記支持部に固定されることとしてもよい。また、これらの場合、前記支持部は、着脱可能に設けられることとしてもよい。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法は、ウェルを含む培養容器を用意すること、前記培養容器に固定されたファイバー状の担体の少なくとも一部が配置された前記ウェル内で細胞を培養すること、及び、前記細胞の培養により、前記担体に接着した前記細胞を含む細胞-担体複合体を形成すること、を含む。本発明によれば、細胞-担体複合体を簡便に製造することができる細胞-担体複合体の製造方法が提供される。
【0011】
前記方法は、前記担体を前記培養容器から分離することにより、前記細胞-担体複合体を回収することをさらに含むこととしてもよい。前記方法においては、前記細胞の培養により、前記担体に接着した細胞集合体を含む前記細胞-担体複合体を形成することとしてもよい。前記方法においては、前記培養容器は、前記いずれかの培養容器であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細胞-担体複合体を簡便に製造することができる培養容器、及び細胞-担体複合体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る培養容器の一例について、その外観を斜視で示す説明図である。
図2図1に示す培養容器を平面視で示す説明図である。
図3図2のIII-III線で切断した培養容器の断面を示す説明図である。
図4A】本実施形態に係る培養容器に含まれるウェルの断面形状の他の例を示す説明図である。
図4B】本実施形態に係る培養容器に含まれるウェルの断面形状のさらに他の例を示す説明図である。
図4C】本実施形態に係る培養容器に含まれるウェルの断面形状のさらに他の例を示す説明図である。
図4D】本実施形態に係る培養容器に含まれるウェルの断面形状のさらに他の例を示す説明図である。
図4E】本実施形態に係る培養容器に含まれるウェルの断面形状のさらに他の例を示す説明図である。
図5A】本実施形態に係る培養容器に含まれるファイバー状の担体の他の例を示す説明図である。
図5B】本実施形態に係る培養容器に含まれるファイバー状の担体のさらに他の例を示す説明図である。
図5C】本実施形態に係る培養容器に含まれるファイバー状の担体のさらに他の例を示す説明図である。
図6A】本実施形態に係る培養容器に含まれるファイバー状の担体及び支持部の一例を示す説明図である。
図6B】本実施形態に係る培養容器に含まれるファイバー状の担体及び支持部の他の例を示す説明図である。
図6C】本実施形態に係る培養容器に含まれるファイバー状の担体及び支持部のさらに他の例を示す説明図である。
図6D】本実施形態に係る培養容器に含まれるファイバー状の担体及び支持部のさらに他の例を示す説明図である。
図6E】本実施形態に係る培養容器に含まれるファイバー状の担体及び支持部のさらに他の例を示す説明図である。
図6F】本実施形態に係る培養容器に含まれるファイバー状の担体及び支持部のさらに他の例を示す説明図である。
図7A】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の一例に含まれる工程の一部を概略的に示す説明図である。
図7B】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の一例に含まれる工程の他の一部を概略的に示す説明図である。
図7C】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の一例に含まれる工程のさらに他の一部を概略的に示す説明図である。
図7D】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の一例に含まれる工程のさらに他の一部を概略的に示す説明図である。
図7E】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の一例に含まれる工程のさらに他の一部を概略的に示す説明図である。
図7F】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の一例に含まれる工程のさらに他の一部を概略的に示す説明図である。
図7G】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の一例に含まれる工程の一部の他の例を概略的に示す説明図である。
図8A】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の他の例に含まれる工程の一部を概略的に示す説明図である。
図8B】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の他の例に含まれる工程の他の一部を概略的に示す説明図である。
図8C】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の他の例に含まれる工程のさらに他の一部を概略的に示す説明図である。
図8D】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の他の例に含まれる工程のさらに他の一部を概略的に示す説明図である。
図8E】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の他の例に含まれる工程のさらに他の一部を概略的に示す説明図である。
図8F】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の他の例に含まれる工程のさらに他の一部を概略的に示す説明図である。
図8G】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法の他の例に含まれる工程の一部の他の例を概略的に示す説明図である。
図9A】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法のさらに他の例に含まれる工程の一部を概略的に示す説明図である。
図9B】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法のさらに他の例に含まれる工程の他の一部を概略的に示す説明図である。
図9C】本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法のさらに他の例に含まれる工程のさらに他の一部を概略的に示す説明図である。
図10】本実施形態に係る実施例において製造された細胞-担体複合体の位相差顕微鏡写真を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。なお、本明細書において、「上方」及び「下方」は、培養容器を用いて細胞の静置培養を行う場合における上方及び下方をそれぞれ指す。また、複数の図面において対応する要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略することがある。
【0015】
まず、本実施形態に係る培養容器について説明する。図1には、本実施形態に係る培養容器1の一例について、その外観を斜視で示す。図2には、図1に示す培養容器1を平面視で示す。図3には、図2に示すIII-III線で切断した培養容器1の断面を示す。
【0016】
培養容器1は、細胞を培養するためのウェル20と、当該培養容器1に固定され、その少なくとも一部が当該細胞の培養中に当該ウェル20内に配置されるファイバー状の担体(以下、「ファイバー担体」という。)30と、を含む。
【0017】
ウェル20は、その内部で細胞を培養するために用いられる。ウェル20には、細胞及び培養培地を保持するための空間21が形成されている。ウェル20の空間21は、内面22に囲まれる。ウェル20の内面22は、底面22aと、側面22bとを含む。
【0018】
ここで、ウェル20の底面22aは、内面22のうち、平面視(図2参照)において視認される部分である。ウェル20内に播種された細胞は、培養培地中で重力によって沈降し、底面22a上に堆積する。ウェル20は、底面22aの上方に開口23を有する。例えば、ウェル20内への細胞の播種は、開口23を介して行われる。
【0019】
ウェル20の内面22(特に底面22a)は、細胞非接着性であることが好ましい。ウェル20の内面22が細胞非接着性である場合、当該ウェル20内における細胞の培養中、当該細胞は当該内面22に接着せず、培養培地中に浮遊し、又は、ピペッティング等により培養培地を流動させることで当該内面22から容易に脱離する。細胞非接着性の内面22上で培養される細胞の形状は、ほぼ球形に維持される。
【0020】
これに対し、ウェル20の内面22が細胞接着性である場合、当該ウェル20内における細胞の培養中、当該細胞は当該内面22に接着し、ピペッティング等により培養培地を流動させても当該内面22から容易には脱離しない。細胞接着性の内面22上で培養された細胞は、当該内面22に接着して伸展し、その形状は、培養培地中を浮遊している場合に比べて扁平になる。
【0021】
ウェル20の底面22a及び開口23の形状は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限られず、円形、楕円形、多角形、又はその他の任意の形状であってよい。ウェル20の底面22aの面積は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、100μm以上であってもよく、1000μm以上であることが好ましく、10000μm以上であることがより好ましく、100000μm以上であることが特に好ましい。また、ウェル20の底面22aの面積は、例えば、1000mm以下であってもよく、100mm以下であることが好ましく、50mm以下であることがより好ましく、20mm以下であることが特に好ましい。
【0022】
ウェル20の底面22aの面積は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。具体的に、ウェル20の底面22aの面積は、例えば、100μm以上、1000mm以下であってもよく、1000μm以上、100mm以下であることが好ましく、10000μm以上、50mm以下であることがより好ましく、100000μm以上、20mm以下であることが特に好ましい。
【0023】
ウェル20の深さ(底面22aの最下部とウェル20の上端(例えば、開口23が形成された基板10の表面11)との距離)は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、100μm以上であることとしてもよく、150μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましく、300μm以上であることが特に好ましい。また、ウェル20の深さは、例えば、30mm以下であることとしてもよく、20mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることが特に好ましい。
【0024】
ウェル20の深さは、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。具体的に、ウェル20の深さは、例えば、100μm以上、30mm以下であることとしてもよく、150μm以上、20mm以下であることが好ましく、200μm以上、10mm以下であることがより好ましく、300μm以上、5mm以下であることが特に好ましい。
【0025】
培養容器1に含まれるウェル20の数は特に限られないが、培養容器1は、複数のウェル20を含むことが好ましい。さらに、培養容器1は、図1図3に示すように、規則的に配置された複数のウェル20を含むことが好ましい。具体的に、培養容器1は、例えば、等間隔で配置された複数のウェル20を含む。また、培養容器1は、例えば、複数の列及び複数の行を構成する複数のウェル20を含む。
【0026】
図1図3に示す例において、培養容器1は、基板10と、当該基板10に形成されたウェル20とを含む。具体的に、基板10の表面11には、ウェル20の開口23が形成されている。基板10は、板状の部材であれば特に限られない。例えば、基板10の形状(図2のように平面視で視認される形状)は特に限られず、矩形、円形、楕円形、その他の任意の形状であってよい。基板10を構成する材料は特に限られず、樹脂等の有機高分子、ガラス等の無機材料、金属等、任意の材料が用いられるが、樹脂等の有機高分子が好ましく用いられる。
【0027】
ファイバー担体30は、ファイバー状の形状を有し、その少なくとも一部に細胞が接着可能な担体である。ファイバー担体30を構成する材料は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限られず、例えば、有機材料、無機材料、金属等、任意の材料が用いられる。ファイバー担体30としては、例えば、人工繊維、又は天然繊維が好ましく用いられる。
【0028】
人工繊維としては、例えば、合成樹脂繊維等の人工有機繊維、半合成繊維、再生繊維、ガラス繊維等の人工無機繊維、ステンレス繊維等の金属繊維が用いられる。天然繊維としては、例えば、動物由来繊維、植物由来繊維、鉱物由来繊維が用いられる。動物由来繊維としては、例えば、ヒトの毛髪、又は非ヒト動物の毛(非ヒト哺乳類の毛、鳥類の毛、絹繊維等の昆虫由来繊維を含む。)が用いられる。植物由来繊維としては、例えば、綿繊維、又は麻繊維が用いられる。ファイバー担体30としては、生分解性繊維を用いることとしてもよい。
【0029】
ファイバー担体30は、可撓性を有することが好ましく、動物の毛(特に、ヒトの毛髪)に類似した可撓性を有することが特に好ましい。ファイバー担体30の形状は、本発明による効果が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、動物の毛(特に、ヒトの毛髪)に類似した形状を有することが好ましい。ファイバー担体30の断面形状は、本発明による効果が得られる範囲であれば特に限られず、円形、楕円形、矩形、その他の任意の形状であってよいが、円形又は楕円形であることが好ましい。
【0030】
各ファイバー担体30は、単独で存在する1本のファイバー状の担体であることが好ましい。すなわち、ファイバー担体30は、例えば、他のファイバーと編まれていない。また、ファイバー担体30は、例えば、シート状の布(例えば、織布及び不織布)を構成するものではない。また、ファイバー担体30は、中空体(例えば、中空糸)であってもよいし、中実体であってもよいが、中実体であることが好ましい。ファイバー担体30は、少なくとも細胞が接触する部分に、細胞接着性の表面を有することが好ましい。
【0031】
ファイバー担体30の断面積(ファイバー担体30の長手方向に直交する断面の面積)は、本発明による効果が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、100μm以上であることとしてもよく、300μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましく、1000μm以上であることが特に好ましい。また、ファイバー担体30の断面積は、例えば、1mm以下であることとしてもよく、100000μm以下であることが好ましく、50000μm以下であることがより好ましく、30000μm以下であることが特に好ましい。
【0032】
ファイバー担体30の断面積は、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。具体的に、ファイバー担体30の断面積は、例えば、100μm以上、1mm以下であることとしてもよく、300μm以上、100000μm以下であることが好ましく、500μm以上、50000μm以下であることがより好ましく、1000μm以上、30000μm以下であることが特に好ましい。
【0033】
ファイバー担体30の長さは、本発明による効果が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、100μm以上であることとしてもよく、200μm以上であることが好ましく、300μm以上であることがより好ましく、400μm以上であることが特に好ましい。また、ファイバー担体30の長さは、例えば、30mm以下であることとしてもよく、20mm以下であることが好ましく、15mm以下であることがより好ましく、10mm以下であることが特に好ましい。
【0034】
ファイバー担体30の長さは、上述した下限値の一つと、上述した上限値の一つとを任意に組み合わせて特定されてもよい。具体的に、ファイバー担体30の長さは、例えば、100μm以上、30mm以下であることとしてもよく、200μm以上、20mm以下であることが好ましく、300μm以上、15mm以下であることがより好ましく、400μm以上、10mm以下であることが特に好ましい。
【0035】
培養容器1において、1つのウェル20に配置されるファイバー担体30の数は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限られないが、1つのウェル20内には、1つのファイバー担体30が配置されることが好ましい。この場合、図1図3に示すように、各ウェル20には、ファイバー担体30が1本ずつ配置される。
【0036】
ファイバー担体30は、培養容器1に固定されている。すなわち、ファイバー状の部材であるファイバー担体30の一部が、培養容器1に固定される。なお、ファイバー担体30の一部が培養容器1に固定されているとは、当該ファイバー担体30の一部と、当該培養容器1のうち当該ファイバー担体30の一部が固定されている部分との相対的な位置関係が固定されていることを意味する。
【0037】
培養容器1に固定されるファイバー担体30の部分は、本発明による効果が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、図1図3に示すように、その一方の端部31が培養容器1に固定される。
【0038】
ファイバー担体30が固定される培養容器1の部分は、本発明による効果が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、ファイバー担体30は、ウェル20の内面22に固定されることとしてもよい。すなわち、図1図3に示す例において、ファイバー担体30は、その一部(具体的には、一方の端部31)が、ウェル20の内面22(具体的には、底面22a)に固定されている。
【0039】
ファイバー担体30は、自由端を有することとしてもよい。すなわち、図1図3に示す例において、ファイバー担体30は、培養容器1に固定された一方の端部31(固定端)と、自由端である他方の端部32とを有している。
【0040】
ファイバー担体30がウェル20の内面22に固定されている場合、当該ファイバー担体30の一部は、当該ウェル20外まで延びていることとしてもよい。すなわち、図3に示す例において、ファイバー担体30は、その一方の端部31がウェル20の内面22に固定され、且つ、その他方の端部32(自由端)が当該ウェル20の開口23から上方に延び出している。換言すれば、ファイバー担体30の自由端である上記他方の端部32は、ウェル20が形成されている基板10の表面11から突出している。このようにファイバー担体30の長さは、ウェル20の深さより大きいこととしてもよい。
【0041】
ファイバー担体30の少なくとも一部は、後述するとおり、細胞の培養中に、ウェル20内に配置される。図1図3に示す例では、上述のとおり、ファイバー担体30の自由端(端部32)がウェル20外に配置される結果、当該ファイバー担体30の一部がウェル20内に配置されている。ファイバー担体30のうち、ウェル20の底面22aに固定されている一方の端部31は、当該底面22a近傍に配置されている。
【0042】
ウェル20内にファイバー担体30を配置する目的は、後述するように、当該ウェル20内で培養される細胞を当該ファイバー担体30に接着させることにある。この点、ファイバー担体30の少なくとも一部を、ウェル20の底面22aに接して配置することが好ましいが、後述するように、当該ファイバー担体30が当該底面22aに接していない場合であっても、当該ファイバー担体30の少なくとも一部を、細胞の培養中に当該細胞が存在する当該底面22aの近傍に配置することにより、当該細胞を当該ファイバー担体30の少なくとも一部に接着させることができる。
【0043】
具体的に、例えば、細胞の培養中において、ウェル20の底面22aの少なくとも一部から500μm以下の範囲内に、ファイバー担体30の少なくとも一部を配置する。この細胞の培養中におけるファイバー担体30の少なくとも一部と、ウェル20の底面22aの少なくとも一部との距離は、100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。
【0044】
なお、培養容器1において、ファイバー担体30は、細胞の培養中に、その少なくとも一部がウェル20内に配置されればよい。すなわち、細胞培養の開始前、又は、細胞培養の終了後は、ファイバー担体30はウェル20内に配置されていなくてもよい。もちろん、培養容器1において、細胞の培養中かどうかに関わらず、ファイバー担体30の少なくとも一部が、ウェル20内に配置されることとしてもよい。
【0045】
図3に示す例において、培養容器1のウェル20は、平坦な(水平な)形状の底面22aを有する、いわゆる平底のウェルであるが、ウェル20の形状はこれに限られず、例えば、他の形状の内面22を有してもよい。すなわち、ウェル20は、例えば、図4Aに示すように湾曲したU形状の底面22aを有する、いわゆるU底のウェルであってもよいし、図4Bに示すようにテーパ―形状の底面22aを有してもよいし、図4Cに示すようにV形状の底面22a(内面22)を有してもよい。また、ウェル20の断面形状は、さらに他の形状であってもよい。
【0046】
培養容器1は、図4Dに示すように、ウェル20を収容するキャビティ40をさらに含むこととしてもよい。キャビティ40には、培養培地を保持するための空間41が形成されている。そして、キャビティ40の底面を構成する表面11にウェル20が形成されている。キャビティ40に培養培地を保持することにより、必然的に、ウェル20にも培養培地が保持される。すなわち、ウェル20は、その全体が培養培地中に浸漬される。
【0047】
図4Dに示す例において、ウェル20及びキャビティ40は、同一の基板10に形成されているが、これに限られず、図4Eに示すように、ウェル20が形成された基板10と別体に成形された基板45にキャビティ40が形成されていることとしてもよい。すなわち、この場合、ウェル20が形成された基板10は、当該基板10と別体に成形された基板45に形成されたキャビティ40内に載置される。
【0048】
図3に示す例において、ファイバー担体30は、その一方の端部31がウェル20の底面22a(具体的には、底面22aを構成する基板10の一部)に挿入されることで固定されているが、当該ファイバー担体30がウェル20の内面22に固定される態様は、これに限られない。
【0049】
すなわち、例えば、ファイバー担体30は、図5Aに示すように、その一部が、ウェル20内に配置された、基板10と異なる材料から構成される固定層24に固定されてもよい。この場合、ファイバー担体30の一部(図5Aに示す例では、一方の端部31)を、固定層24に埋め込むことにより、当該ファイバー担体30を培養容器1に固定する。ウェル20内の固定層24にファイバー担体30が固定される場合、図5Aに示すように、当該固定層24の上面が、当該ウェル20の底面22aとなる。
【0050】
具体的に、例えば、まずウェル20内にゲルから構成される固定層24を形成し、次いで、当該固定層24に、ファイバー担体30の一方の端部31を刺し込むことにより、当該ファイバー担体30を当該固定層24に固定する。
【0051】
また、例えば、まずウェル20内にゲル化前の原料液を入れてゲル化能を有する原料液層を形成し、次いで、ファイバー担体30の一方の端部31を当該原料液層に挿入し、その後、当該原料液層をゲル化して固定層24を形成することにより、当該ファイバー担体30を当該固定層24に固定する。
【0052】
固定層24を構成するゲルは、ファイバー担体30の一部を固定できるものであれば特に限られないが、例えば、合成高分子ゲル、又は天然由来高分子ゲルが好ましく用いられる。また、固定層24には、細胞非接着性のゲルが好ましく用いられる。細胞非接着性のゲルとしては、親水性高分子ゲルが好ましく用いられ、例えば、アガロースゲル、アルギン酸ゲル、及び合成高分子ゲル(例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド等を含むゲル)からなる群より選択される1以上の親水性高分子ゲルが好ましく用いられる。
【0053】
図3に示す例において、ファイバー担体30は、基板10と別体に成形された部材であるが、これに限られない。すなわち、ファイバー担体30は、図5Bに示すように、基板10と一体的に成形されてもよい。この場合、ファイバー担体30は、ウェル20(具体的に、図5Bに示す例では、底面22a)と一体的に成形されているともいえる。したがって、ファイバー担体30と基板10とは同一の材料で構成される。一方、ファイバー担体30が基板10と別体に成形される場合、当該ファイバー担体30を構成する材料は、当該基板10を構成する材料と異なってもよいし、同一であってもよい。
【0054】
図3に示す例において、ファイバー担体30は、その一部がウェル20外まで延びているが、これに限られない。すなわち、ファイバー担体30は、図5Cに示すように、その全体がウェル20内に配置されてもよい。具体的に、図5Cに示す例において、ファイバー担体30は、その一方の端部31がウェル20の内面22(具体的には、底面22a)に固定され、他方の端部32は、自由端として当該ウェル20の空間21内に配置される。
【0055】
また、ファイバー担体30は、培養容器1のウェル20外の部分に固定されていることとしてもよい。この場合、ファイバー担体30が固定される培養容器1の部分は、ウェル20以外の部分であれば特に限られず、例えば、基板10の一部(例えば、ウェル20の開口23が形成されている基板10の表面11)、又は基板10以外の他の部材であってもよい。
【0056】
すなわち、培養容器1は、細胞の培養中にウェル20より上方に配置される支持部をさらに含み、ファイバー担体30は、当該支持部に固定されることとしてもよい。図6Aには、この場合の一例を示す。
【0057】
図6Aに示す例において、培養容器1は、ウェル20より上方に配置される支持部50を含んでいる。そして、ファイバー担体30の一部が支持部50に固定されている。また、ファイバー担体30の他の一部は、ウェル20内に配置されている。
【0058】
すなわち、ファイバー担体30は、ウェル20より上方に配置された支持部50から吊り下げられている。そして、ファイバー担体30の一部は、ウェル20内まで下方に延びている。具体的に、支持部50には、ファイバー担体30の一方の端部31が固定されている。また、ファイバー担体30の他方の端部32は、自由端として、ウェル20内(具体的には、ウェル20の底面22a近傍)に配置されている。
【0059】
また、培養容器1は、細胞の培養中、当該培養容器1における支持部50の位置を固定する位置決め部をさらに含むこととしてもよい。図6Aには、この場合の一例を示す。図6Aに示す例において、培養容器1は、支持部50の位置を固定する位置決め部51を含んでいる。
【0060】
位置決め部51は、基板10に固定されるとともに、支持部50と連結されている。位置決め部51によって、支持部50の基板10に対する相対的な位置が固定される。その結果、ファイバー担体30の支持部50に固定された部分(図6Aに示す例では、ファイバー担体30の一方の端部31)の、ウェル20又は基板10に対する相対的な位置も固定される。
【0061】
なお、図6Aに示す例では、位置決め部51に形成された凸部52が、基板10の表面11に形成された凹部12に嵌め入れられることにより、当該位置決め部51が当該基板10に固定されているが、位置決め部51を基板10に固定する方法は、当該凹凸構造に限られず、フック等を含む係合構造や、接着剤を用いた接着構造等、任意の方法が用いられる。
【0062】
支持部50は、図6Aに示すように、ウェル20の直上に配置されてもよいが、これに限られず、ウェル20の直上以外の位置に配置されてもよい。図6Bには、この場合の一例を示す。図6Bに示す例において、支持部50は、ウェル20より上方であって、当該ウェル20が形成されている基板10の表面11の上の位置(具体的には、隣接する一対のウェル20の間の位置)に配置されている。
【0063】
支持部50は、細胞の培養中、ウェル20の開口23を完全には塞がないことが好ましい。すなわち、細胞の培養中、培養容器1においては、ウェル20の開口23を介して、当該ウェル20内に培養培地を入れ、又は当該ウェル20内から培養培地を出すことが可能な程度に、当該開口23が維持されていることが好ましい。
【0064】
具体的に、支持部50は、培養容器1の平面視(図2参照)において、ウェル20の開口23の全体を覆わないことが好ましい。この点、図6A及び図6Bに示すいずれの例においても、支持部50は、培養容器1の平面視において、ウェル20の開口23の全体を覆うものではない。
【0065】
すなわち、図6Aに示す例において、支持部50は、培養容器1の平面視において、ウェル20の開口23の一部のみを覆っている。また、図6Bに示す例において、支持部50は、培養容器1の平面視において、ウェル20の開口23を全く覆っていない。
【0066】
支持部50を有する培養容器1において、ファイバー担体30は、図6A及び図6Bに示すように、ウェル20内からウェル20外まで延びていてもよいが、これに限られず、ファイバー担体30は、その全体がウェル20内に配置されてもよい。図6Cには、この場合の一例を示す。
【0067】
図6Cに示す例において、ファイバー担体20の一方の端部31は、ウェル20の上端面、すなわち当該ウェル20が形成されている基板10の表面11と同一平面上で支持部50に固定され、当該ファイバー担体20は当該支持部50から吊り下げられている。
【0068】
このため、支持部50に固定されている一方の端部31を含め、ファイバー担体30の全体がウェル20内に配置されている。また、図6Cに示す例では、位置決め部51は、隣接するウェル20の間の位置に配置されている。
【0069】
なお、断面が図6Cのように示される支持部50は、ウェル20の開口23の全体を塞ぐ蓋部であってもよいが、上述した他の態様と同様に、当該ウェル20の開口23を一部のみを塞ぐこととしてもよい。この点、支持部50は、図6Dに示すように、培養容器1の平面視において、ウェル20の開口23の一部のみを塞ぐ構造を有してもよい。
【0070】
培養容器1が、ウェル20を収容するキャビティ40を含む場合、図6Eに示すように、支持部50は、当該キャビティ40より上方に配置されてもよい。図6Eに示す例において、位置決め部51は、キャビティ40が形成された表面43に固定されている。また、培養容器1がキャビティ40を含む場合において、位置決め部51は、図6Fに示すように、ウェル20が形成された表面11に固定されてもよい。また、培養容器1がキャビティ40を含む場合、支持部50は、当該キャビティ40内に配置されてもよい。
【0071】
培養容器1がキャビティ40より上方に配置された支持部50を含む場合、当該支持部50に固定されたファイバー担体30は、図6E及び図6Fに示すように、当該キャビティ40の外から、ウェル20内まで延びる。
【0072】
また、支持部50は、着脱可能に設けられることとしてもよい。この場合、支持部50は、例えば、図6A図6Fに示すように、培養容器1の基板10とは別体に成形される。そして、支持部50は、細胞の培養中は、位置決め部51を介して基板10に固定されることが好ましい。
【0073】
一方、細胞培養の開始前、又は細胞培養の終了後、支持部50は、基板10から脱離させることができる。なお、支持部50が脱離可能に設けられる場合であっても、細胞培養の開始前、又は細胞培養の終了後に、当該支持部50を基板10に固定したままにしておいてもよい。また、細胞培養中に、支持部50を一時的に脱着させてもよい。
【0074】
図6A図6B図6E及び図6Fに示す例では、位置決め部51に形成された凸部52が、基板10の表面11に形成された凹部12に嵌め入れられることにより、当該位置決め部51を介して支持部50が着脱可能に設けられているが、支持部50を着脱可能とする方法は、当該凹凸構造に限られず、フック等を含む係合構造や、剥がすことができる接着剤を用いた接着構造等、任意の方法が用いられる。
【0075】
次に、本実施形態に係る細胞-担体複合体の製造方法(以下、「本方法」という。)について説明する。図7A図7Fには、本方法の一例に含まれる工程を概略的に示す。
【0076】
本方法は、ウェル20を含む培養容器1を用意すること、当該培養容器1に固定されたファイバー担体30の少なくとも一部が配置された当該ウェル20内で細胞60を培養すること、及び、当該細胞60の培養により、当該ファイバー担体30に接着した当該細胞60を含む細胞-担体複合体100を形成すること、を含む。
【0077】
本方法においては、まず、ウェル20を含む培養容器1を用意する。培養容器1は、上述した培養容器であることが好ましい。すなわち、図7Aに示すように、その少なくとも一部がウェル20内に配置されたファイバー担体30が固定された培養容器1を用意する。
【0078】
次いで、ファイバー担体30の少なくとも一部が配置されたウェル20内で細胞60を培養する。すなわち、図7Bに示すように、培養容器1のウェル20に細胞60を播種することにより、当該細胞60の培養を開始する。具体的には、培養培地80に分散された細胞60を含む細胞懸濁液をウェル20に入れる。
【0079】
本方法において培養する細胞60は、動物に由来する生きた細胞であれば特に限られない。動物は、ヒトであってもよいし、非ヒト動物(ヒト以外の動物)であってもよいが、ヒト細胞を用いることが好ましい。非ヒト動物は、特に限られないが、非ヒト脊椎動物(ヒト以外の脊椎動物)であることが好ましい。非ヒト脊椎動物は、特に限られないが、非ヒト哺乳類であることが好ましい。非ヒト哺乳類は、特に限られないが、例えば、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、又は有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ)であってもよい。
【0080】
細胞は、分化細胞であってもよいし、未分化細胞(幹細胞)であってもよい。幹細胞は、全能性幹細胞であってもよいし、多能性幹細胞であってもよいし、組織幹細胞であってもよい。具体的に、幹細胞は、例えば、人工多能性(iPS)幹細胞であってもよいし、胚性幹(ES)細胞であってもよいし、胚性生殖(EG)細胞であってもよい。分化細胞は、分化した機能を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、生体から採取された細胞(生体から採取された後に培養された細胞であってもよい。)であってもよいし、生体外において幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
【0081】
細胞は、生体内の組織に由来する細胞であることとしてもよい。生体内の組織は、特に限られないが、例えば、毛包組織、皮膚組織、肝臓組織、心臓組織、腎臓組織、神経組織、骨組織、軟骨組織、骨髄組織、肺組織、腺組織、歯周組織又は血液であることとしてもよい。
【0082】
細胞は、接着性細胞であることが好ましい。接着性細胞は、生体内において、他の細胞及び/又は細胞外マトリクスに接着した状態で存在する細胞である。細胞としては、1種の細胞のみを用いてもよいし、2種以上の細胞を組み合わせて用いてもよい。2種以上の細胞を組み合わせる場合、これらの細胞を共培養することとなる。
【0083】
2種以上の細胞の組み合わせは、相互作用する異なる細胞の組み合わせであれば特に限られない。異なる細胞の組み合わせは、例えば、分化機能、増殖性、及び細胞表面マーカーからなる群より選択される1以上が異なる細胞の組み合わせである。
【0084】
2種以上の細胞の組み合わせは、生体内において相互作用する細胞の組み合わせであることが好ましい。この場合、細胞の組み合わせは、生体内の同一の組織において相互作用する細胞の組み合わせであってもよい。生体内の組織は、特に限られないが、例えば、毛包組織、腺組織、皮膚組織、肝臓組織、心臓組織、腎臓組織、神経組織、骨組織、軟骨組織、骨髄組織、肺組織、歯周組織又は血液であることとしてもよい。
【0085】
2種以上の細胞の組み合わせは、同一の動物に由来する細胞の組み合わせであってもよいし、異なる動物に由来する細胞の組み合わせであってもよい。すなわち、2種以上の細胞は、いずれもヒト細胞(ヒトに由来する細胞)であってもよいし、いずれも非ヒト動物細胞(ヒト以外の動物に由来する細胞)であってもよいし、一方がヒト細胞であり、他方が非ヒト動物細胞であってもよい。ただし、2種以上のヒト細胞を用いることが好ましい。
【0086】
2種以上の細胞の組み合わせは、例えば、上皮系細胞と間葉系細胞との組み合わせであることが好ましい。上皮系細胞と間葉系細胞との組み合わせは、特に限られないが、例えば、毛包組織又は腺組織(例えば、汗腺、皮脂腺、涙腺、及び唾液腺からなる群より選択される1以上)において相互作用する上皮系細胞と間葉系細胞との組み合わせであることが好ましい。
【0087】
上皮系細胞及び/又は間葉系細胞は、生体の毛包組織又は腺組織(例えば、汗腺、皮脂腺、涙腺、及び唾液腺からなる群より選択される1以上)から採取された細胞(当該毛包組織から採取された後に培養された細胞であってもよい。)であってもよいし、生体外において幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
【0088】
具体的に、上皮系細胞は、毛包組織のバルジ領域の外毛根鞘最外層細胞、毛母基部に由来する上皮系細胞、又は幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞、又はEG細胞)から誘導された毛包上皮系細胞であることとしてもよい。また、上皮系細胞は、上皮幹細胞であってもよい。
【0089】
間葉系細胞は、毛乳頭細胞、真皮毛根鞘細胞、発生期の皮膚間葉系細胞、又は幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞、又はEG細胞)から誘導された毛包間葉系細胞であることとしてもよい。
【0090】
上皮系細胞は、発毛関連特性(例えば、発毛関連遺伝子の発現、及び/又は、間葉系細胞との共培養による毛包原基の形成)を有するものであってもよい。上皮系細胞は、毛包組織(例えば、毛包組織のバルジ領域の外毛根鞘最外層、及び又は、毛母基部)に由来する細胞であってもよく、皮膚組織に由来する細胞であってもよく、生体外で幹細胞(例えば、iPS幹細胞、ES細胞、又はEG細胞)から誘導された細胞であってもよい。上皮系細胞は、生体から採取された初代細胞であってもよく、予め培養された細胞(例えば、継代培養された細胞、及び/又は、株化された細胞)であってもよい。上皮系細胞は、例えば、サイトケラチンを発現する細胞として特定される。上皮系細胞は、上皮幹細胞であることが好ましい。上皮幹細胞は、例えば、サイトケラチン15、及び/又は、CD34を発現する細胞として特定される。
【0091】
間葉系細胞は、発毛関連特性(例えば、発毛関連遺伝子の発現、及び/又は、上皮系細胞との共培養による毛包原基の形成)を有するものであってもよい。間葉系細胞は、成体毛包組織(例えば、毛乳頭及び/又は毛球部毛根鞘)に由来する細胞であってもよく、皮膚組織(胎児、幼体、成体のいずれの皮膚組織であってもよい。)に由来する細胞であってもよく、生体外で幹細胞(例えば、人工多能性(iPS)幹細胞、胚性幹(ES)細胞、又は胚性生殖(EG)細胞)から誘導された細胞であってもよい。間葉系細胞は、生体から採取された初代細胞であってもよく、予め培養された細胞(例えば、継代培養された細胞、及び/又は、株化された細胞)であってもよい。間葉系細胞は、例えば、Versican及びALP(アルカリフォスファターゼ)を発現する細胞として特定される。具体的に、間葉系細胞としては、毛乳頭細胞及び/又は毛球部毛根鞘細胞が好ましく用いられる。毛乳頭細胞及び毛球部毛根鞘細胞は、Versican及びALPを発現する。
【0092】
培養培地80は、その中で細胞60の生存を維持するための成分を含む液体であれば特に限られず、例えば、培養する細胞60の種類に応じて商業的に流通している公知の培養培地が用いられる。
【0093】
細胞60の培養は、当該細胞60の培養に適した温度で、当該細胞60の培養に適した組成及び湿度の気相中、ウェル20内において、培養培地中で当該細胞60を保持することにより行う。また、本方法においては、ファイバー担体30に接着した細胞60を得るため、播種された細胞60の少なくとも一部が当該ファイバー担体30に接した状態で、培養を行う。
【0094】
ウェル20への細胞60の播種後、培養容器1を静置することで、細胞60は、図7Cに示すように、ウェル20内の培養培地80中で、重力により、当該ウェル20の底面22a上に沈降する。
【0095】
この結果、一部の細胞60は、ファイバー担体30の周囲(具体的には、ウェル20の底面22aに固定されたファイバー担体30の一方の端部31の周囲)に沈降し、当該ファイバー担体30に接した状態で保持される。
【0096】
ウェル20内で培養される細胞60の密度は、本発明による効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、図7Cに示すように、当該ウェル20の底面22a上に沈降した場合に、複数の細胞層が積み重なる程度の密度にて細胞60を播種し、培養することが好ましい。
【0097】
播種された細胞60の少なくとも一部がファイバー担体30に接した状態で培養を継続することにより、図7Dに示すように、少なくとも一部の細胞61が当該ファイバー担体30に接着する。
【0098】
すなわち、細胞60に接しているファイバー担体30の一部の表面に予め細胞接着性を付与する処理(例えば、コラーゲンのコーティング処理)が施されている場合には、少なくとも一部の細胞61は、当該細胞接着性の表面に接着する。
【0099】
また、細胞接着性を付与する処理を行わない場合であっても、接着性の細胞61は、例えば、培養培地80に含まれるタンパク質等の成分、及び/又は、当該細胞61が培養培地80中に分泌する細胞外マトリックス等の成分を介して、ファイバー担体30の表面に接着する。
【0100】
このような細胞60の培養により、図7Dに示すように、ファイバー担体30と、当該ファイバー担体30に接着した細胞61とを含む細胞-担体複合体100が形成される。
【0101】
また、一部の細胞61がファイバー担体30に接着した後も培養を継続することにより、図7Eに示すように、当該ファイバー担体30に接着した細胞集合体70を含む細胞-担体複合体100を形成することができる。
【0102】
すなわち、一部の細胞61がファイバー担体30に接着し、他の細胞60が当該一部の細胞61と接した状態で培養を継続することにより、当該一部の細胞61と他の細胞60との結合、及び、当該他の細胞60同士の結合の形成により、当該細胞60が自発的に凝集する。
【0103】
その結果、ファイバー担体30に接着した細胞61を含み、当該ファイバー担体30の一部を囲む細胞集合体70が形成される。換言すれば、その内部にファイバー担体30の一部が配置された細胞集合体70が形成される。
【0104】
こうして、本方法においては、細胞-担体複合体100を製造することができる。本方法によれば、ファイバー担体30が固定された培養容器1を用いて細胞60の培養を行うことにより、簡便に、細胞-担体複合体100を製造することができる。
【0105】
また、図1及び図2に示すように、各々にファイバー担体30が配置された複数のウェル20内で細胞60を培養することにより、大量の細胞-担体複合体100を効率よく製造することができる。
【0106】
また、本方法は、細胞-担体複合体100の形成後、ファイバー担体30を培養容器1から分離することにより、当該細胞-担体複合体100を回収することをさらに含むこととしてもよい。
【0107】
すなわち、ファイバー担体30は、ファイバー状の部材であることから、培養容器1から容易に分離することができ、その結果、当該培養容器1から分離されたファイバー担体30を含む細胞-担体複合体100をウェル20から回収することができる。この場合、回収された細胞-担体複合体100は、培養容器1から分離されたファイバー片であるファイバー担体30を含む。
【0108】
具体的に、例えば、図7A図7Eに示すように、ファイバー担体30が、ウェル20の底面22aに挿入されて固定されている場合には、図7Fに示すように、当該ファイバー担体30を当該底面22aから引き抜くことにより、細胞-担体複合体100を回収することができる。なお、図7Fに示す例では、細胞-担体複合体100を回収した後のウェル20の底面22aには、ファイバー担体30の一方の端部31が挿入されていた凹部13が露出している。
【0109】
また、例えば、図5Aに示すように、ファイバー担体30がゲルで構成される固定層24に固定されている場合、当該ファイバー担体30を当該固定層24から引き抜くことにより、細胞-担体複合体100を回収することができる。
【0110】
また、例えば、図5Bに示すように、ファイバー担体30が基板10と一体的に成形されている場合、当該ファイバー担体30のうち、ウェル20の底面22aに固定されている部分(一方の端部31)をメスやハサミ等の器具で切断することにより、細胞-担体複合体100を回収することができる。
【0111】
培養容器1において、ファイバー担体30がウェル20の底面22a等の内面22に固定されている場合、当該ファイバー担体30の一部が当該ウェル20外まで延び出ていることは、当該ファイバー担体30を当該培養容器1から分離するための操作が容易となるため好ましい。
【0112】
また、図7A図7Eに示すように、ファイバー担体30の一部がウェル20内の培養培地80外まで延び出ていることは、図5Cに示すように、ファイバー担体30の全体がウェル20内に配置される場合も含めて、当該ファイバー担体30を当該培養容器1から分離するための操作が容易となるため好ましい。
【0113】
図7Gには、培養容器1が、ウェル20を収容するキャビティ40を含む場合において、当該ウェル20内に細胞60が保持された様子を示す。この場合、キャビティ40に培養培地80を保持し、当該培養培地80中に配置されたウェル20内で細胞60を培養する。図7Gに示す例において、その一部(具体的には、一方の端部31)がウェル20の内面22(具体的には、底面22a)に固定されたファイバー担体30は、他の一部(具体的には、自由端である他方の端部32)が培養培地の外まで延びている。
【0114】
図8A図8Fには、本方法の他の例に含まれる工程を概略的に示す。図8A図8Fに示す例において、培養容器1は、ウェル20より上方の位置に配置され、ファイバー担体30が固定された支持部50を含む。
【0115】
本方法においては、まず、図8Aに示すように、一方の端部31が支持部50に固定されたファイバー担体30の少なくとも一部がウェル20内に配置された培養容器1を用意する。この培養容器1においては、支持部50から吊り下げられたファイバー担体30の自由端である端部32が、ウェル20の底面22a近傍に配置されている。
【0116】
次いで、ファイバー担体30の少なくとも一部が配置されたウェル20内で細胞60を培養する。すなわち、図8Bに示すように、培養容器1のウェル20に、培養培地80に分散された細胞60を播種することにより、当該細胞60の培養を開始する。
【0117】
その後、培養容器1を静置することで、細胞60は、図8Cに示すように、ウェル20内の培養培地中で、重力により、当該ウェル20の底面22a上に沈降する。この結果、一部の細胞60は、ファイバー担体30の周囲(具体的には、ウェル20の底面22a近傍に配置されたファイバー担体30の他方の端部32(自由端)の周囲)に沈降し、当該ファイバー担体30に接した状態で保持される。
【0118】
そして、少なくとも一部の細胞60がファイバー担体30に接した状態で培養を継続することにより、図8Dに示すように、一部の細胞61が当該ファイバー担体30に接着する。すなわち、ファイバー担体30が配置されたウェル20内における細胞60の培養により、当該ファイバー担体30と、当該ファイバー担体30に接着した細胞61とを含む細胞-担体複合体100が形成される。
【0119】
さらに、ファイバー担体30の周囲で細胞60の培養を継続することにより、図8Eに示すように、当該ファイバー担体30に接着した細胞集合体70を含む細胞-担体複合体100が形成される。
【0120】
また、細胞-担体複合体100の形成後、図8Fに示すように、ファイバー担体30を培養容器1(具体的には、支持部50)から分離することにより、当該細胞-担体複合体100を回収することができる。具体的に、図8Fに示す例では、支持部50に固定されていたファイバー担体30の一方の端部31付近をメスやハサミ等の器具で切断することにより、当該支持部50から分離された当該ファイバー担体30と、当該ファイバー担体30の他方の端部32の周囲に形成された細胞集合体70を含む細胞-担体複合体100を回収することができる。
【0121】
図8Gには、支持部50を含む培養容器1が、ウェル20を収容するキャビティ40を含む場合において、当該ウェル20内に細胞60が保持された様子を示す。この場合、キャビティ40に培養培地80を保持し、当該培養培地80中に配置されたウェル20内で細胞60を培養する。図8Gに示す例において、その一部(具体的には、一方の端部31)が、キャビティ40より上方に配置された支持部50に固定されたファイバー担体30は、他の一部(具体的には、自由端である他方の端部32)が、ウェル20内まで延びている。なお、支持部50は、キャビティ40内であって、当該キャビティ40に保持された培養培地80外に配置されてもよい。
【0122】
上述の図7A図7F、及び図8A図8Fに示す例では、予めファイバー担体30の少なくとも一部が配置されたウェル20に細胞60を播種したが、これに限られず、当該ファイバー担体30が配置されていないウェル20に細胞60を播種し、次いで、当該ウェル20内に当該ファイバー担体30を配置することとしてもよい。図9A図9Cには、この場合の本方法の一例に含まれる工程の一部を概略的に示す。
【0123】
本方法においては、図9Aに示すように、ウェル20内にファイバー担体30が配置されていない培養容器1を用意する。次いで、ファイバー担体30の少なくとも一部が配置されたウェル20内で細胞60を培養する。すなわち、まず、図9Bに示すように、ファイバー担体30が配置されていないウェル20に、培養培地80に分散された細胞60を播種する。
【0124】
次いで、図9Cに示すように、予め細胞60が播種されたウェル20内に、ファイバー担体30の少なくとも一部を配置することにより、当該細胞60の培養を開始する。すなわち、細胞60の播種後、ファイバー担体30が固定された支持体50を培養容器1に設置することにより、当該ファイバー担体30の一部(具体的には、ファイバー担体30の自由端である端部32)を、ウェル20内の培養培地80に浸漬して、底面22a近傍に配置する。この支持体50の設置は、当該支持体50に連結された位置決め部51を、基板10に固定することにより行う。
【0125】
本方法により製造される細胞-担体複合体100は、ファイバー担体30を含むという特徴を利用して、様々な用途に適用される。すなわち、例えば、細胞-担体複合体100が生体への移植用細胞を含む場合には、当該細胞-担体複合体100は、移植片として利用される。細胞-担体複合体100が移植される生体は、ヒトであってもよいし、非ヒト動物であってもよいが、ヒトであることが好ましい。
【0126】
具体的に、細胞-担体複合体100が、毛包組織由来の細胞又は腺組織由来の細胞を含む場合、細胞-担体複合体100は、毛包組織又は腺組織を再生させるため、生体に移植することができる。移植された細胞-担体複合体100において、ファイバー担体30は、例えば、当該細胞-担体複合体100に含まれる細胞が増殖し、及び/又は遊走するためのガイドとしての役割を果たす。
【0127】
本方法により製造された細胞-担体複合体100を生体に移植して当該細胞-担体複合体100から毛を生やす場合、当該生体は特に限られず、ヒトであってもよいし、非ヒト動物であってもよい。細胞-担体複合体100の生体への移植は、当該生体の皮膚への移植であることが好ましい。皮膚への移植は、例えば、皮下移植であってもよいし、皮内移植であってもよい。
【0128】
細胞-担体複合体100の製造及びその生体への移植は、医学的用途であってもよいし、研究用途であってもよい。すなわち、例えば、脱毛を伴う疾患の治療又は予防のために、当該疾患を患っている又は患う可能性のあるヒト患者に移植する目的で細胞-担体複合体100を製造し、当該細胞-担体複合体100を当該ヒト患者に移植することとしてもよい。
【0129】
脱毛を伴う疾患は、特に限られないが、例えば、男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)、女子男性型脱毛症(Female Androgenetic Alopecia:FAGA)、分娩後脱毛症、びまん性脱毛症、脂漏性脱毛症、粃糠性脱毛症、牽引性脱毛症、代謝異常性脱毛症、圧迫性脱毛症、円形脱毛症、神経性脱毛症、抜毛症、全身性脱毛症、及び症候性脱毛症からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0130】
また、例えば、脱毛を伴う疾患の治療又は予防に使用され得る物質の探索、及び/又は当該疾患の機構に関与する物質の探索のために、細胞-担体複合体100を製造し、又は当該細胞-担体複合体100を非ヒト動物に移植することとしてもよい。
【0131】
なお、細胞-担体複合体100を生体に移植した後、当該細胞-担体複合体100に含まれるファイバー担体30は除去される。すなわち、例えば、移植された細胞-担体複合体100から延び出るファイバー担体30をピンセットで引き抜くことにより、当該ファイバー担体30を除去することができる。また、ファイバー担体30が生体分解性材料で構成されている場合には、移植後、当該ファイバー担体30は、加水分解等によって分解され、除去される。
【0132】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例
【0133】
[上皮系細胞及び間葉系細胞の採取]
胎齢18日のC57BL/6マウス胎児より背部の皮膚組織を採取し、中尾らが報告した方法(Koh-ei Toyoshima et al. Nature Communication, 3, 784, 2012)を一部改変して、ディスパーゼ処理を4℃で1時間、30rpm震盪条件で行い、当該皮膚組織の上皮層と間葉層とを分離した。その後、上皮層に100U/mLのコラゲナーゼ処理を1時間20分施し、さらにトリプシン処理を10分施すことで、上皮系細胞を単離した。また、間葉層には100U/mLのコラゲナーゼ処理を1時間20分施すことで間葉系細胞を単離した。
【0134】
[培養容器の製造]
規則的に配置された複数のウェルを含む培養容器を製造した。すなわち、まずCADソフト(V Carve Pro 6.5)を用いて、作製するマルチウェルのパターンをコンピューターで設計した。次いで、切削機を用いて、設計したパターン通りにオレフィン系樹脂基板を切削することで、当該パターンを有する凹鋳型を作製した。この鋳型にエポキシ樹脂(クリスタルリジン、日新レジン株式会社製)を流し込み、1日硬化させ、その後、離型することで、上述の設計されたパターンを有する凸鋳型を形成した。形成した凸鋳型を24ウェルプレートの底面に固定し、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を流し込んで固化し、その後、離型することで、PDMS基板に規則的なパターンで形成されたマルチウェル(各ウェルの直径は1mm、深さは1mm)を有するマルチウェル培養容器を作製した。
【0135】
一方、ファイバー担体として、ステンレス繊維(外径100μm、長さ10mm)を用意した。このステンレス繊維の表面の細胞接着性を高めるため、当該ステンレス繊維にコラーゲンコーティングを施した。
【0136】
そして、コラーゲンが塗布されたステンレス繊維の一方の端部を、マルチウェル培養容器のウェルのPDMS製底面に突き刺すことにより、当該ステンレス繊維を当該培養容器に固定した。なお、1つのウェルに1本のステンレス繊維を配置した。こうして、ファイバー担体としてのステンレス繊維が配置されたウェルを含む培養容器を得た。
【0137】
[細胞-担体複合体の製造]
上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞密度がそれぞれ4×10個/ウェルとなるように(すなわち、総細胞密度が8×10個/ウェルとなるように)、当該上皮系細胞と当該間葉系細胞とを混合して、上述のようにして製造した培養容器の各ウェルに播種した。
【0138】
なお、培養培地としては、間葉系細胞培養培地(DMEM+10%FBS+1%ペニシリン/ストレプトマイシン)と、HuMedia-KG2とを体積比1:1で混合して調製された混合培地を用いた。その後、各ウェル内で3日間、細胞培養を行った。
【0139】
[結果]
3日間の細胞培養により、ファイバー担体の表面に接着した細胞集合体が形成された。3日間の細胞培養後に、ファイバー担体をウェルの底面から引き抜くことにより、当該ファイバー担体と、当該ファイバー担体に接着した細胞集合体とから構成される細胞-担体複合体を回収した。
【0140】
図10には、回収された細胞-担体複合体の位相差顕微鏡写真を示す。図10においてスケールバーは200μmを示す。図10に示すように、ファイバー担体の一部に接着した細胞集合体を含む細胞-担体複合体が得られた。

図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図9A
図9B
図9C
図10