(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】エマルション組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 120/28 20060101AFI20230629BHJP
C08F 289/00 20060101ALI20230629BHJP
C08F 2/26 20060101ALI20230629BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C08F120/28
C08F289/00
C08F2/26 A
C08F2/44 C
(21)【出願番号】P 2022538907
(86)(22)【出願日】2021-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2021028743
(87)【国際公開番号】W WO2022074925
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2020171018
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109635
【氏名又は名称】星光PMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164828
【氏名又は名称】蔦 康宏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 康史
(72)【発明者】
【氏名】真継 美佳
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/156175(WO,A1)
【文献】特開2018-119027(JP,A)
【文献】特開2010-197954(JP,A)
【文献】特開2002-294561(JP,A)
【文献】特開平08-188607(JP,A)
【文献】特開2002-138394(JP,A)
【文献】特開2005-297262(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142766(WO,A1)
【文献】特開2006-241427(JP,A)
【文献】特開2003-291530(JP,A)
【文献】特開2003-176315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2、6-246
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水(A)と、界面活性剤(B)と、融点が57~71℃の範囲であるパラフィンワックス(C)の存在下に、
グリシジルメタクリレート(E)を除くビニル基含有モノマー混合物(D)を乳化重合することにより得られるエマルション組成物の製造方法であって、
界面活性剤(B)が、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)を含み、
カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)が、カルボキシ基を有するビニルモノマーが共重合成分として用いられているスチレンアクリル樹脂、アクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種であり、
ビニル基含有モノマー混合物(D)が、スチレン類やアルキル基の炭素数が1~8である (メタ)アクリル酸アルキルエステル類であり、
乳化重合を行う温度が乳化重合時に存在するパラフィンワックス(C)の融点以上であり、
かつ、下記(1)、(2)、の条件を共に満足することを特徴とする水蒸気バリア性に優れるエマルション組成物の製造方法。
(1)界面活性剤(B)が、スルホン酸ナトリウム基を有する低分子乳化剤(B1)を含むこと
(2)乳化重合時に、グリシジルメタクリレート(E)を含むこと
【請求項2】
水(A)と、界面活性剤(B)と、融点が57~71℃の範囲であるパラフィンワックス(C)の存在下に、
グリシジルメタクリレート(E)を除くビニル基含有モノマー混合物(D)を乳化重合することにより得られるエマルション組成物の製造方法であって、
乳化重合を行う温度が乳化重合時に存在するパラフィンワックス(C)の融点以上であり、かつ、界面活性剤(B)が、スルホン酸ナトリウム基を有する低分子乳化剤(B1)及びカルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)を含
み、
カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)が、カルボキシ基を有するビニルモノマーが共重合成分として用いられているスチレンアクリル樹脂、アクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種であり、
ビニル基含有モノマー混合物(D)が、スチレン類やアルキル基の炭素数が1~8である (メタ)アクリル酸アルキルエステル類である
ことを特徴とする水蒸気バリア性に優れるエマルション組成物の製造方法。
【請求項3】
水(A)と、界面活性剤(B)と、融点が57~71℃の範囲であるパラフィンワックス(C)の存在下に、
グリシジルメタクリレート(E)を除くビニル基含有モノマー混合物(D)を乳化重合することにより得られるエマルション組成物の製造方法であって、
界面活性剤(B)が、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)を含み、
カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)が、カルボキシ基を有するビニルモノマーが共重合成分として用いられているスチレンアクリル樹脂、アクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種であり、
ビニル基含有モノマー混合物(D)が、スチレン類やアルキル基の炭素数が1~8である (メタ)アクリル酸アルキルエステル類であり、
乳化重合を行う温度が乳化重合時に存在するパラフィンワックス(C)の融点以上であり、かつ、乳化重合時に、グリシジルメタクリレート(E)を含むことを特徴とする水蒸気バリア性に優れるエマルション組成物の製造方法。
【請求項4】
エマルション組成物に含まれるポリマー成分に対するパラフィンワックス(C)の比率が2~10質量%であることを特徴とする、請求項1~3いずれか一項に記載のエマルション組成物の製造方法。
【請求項5】
グリシジルメタクリレート(E)を除くビニル基含有モノマー混合物(D)に対するスルホン酸ナトリウム基を有する低分子乳化剤(B1)の比率が0.5~5質量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載のエマルション組成物の製造
方法。
【請求項6】
グリシジルメタクリレート(E)を除くビニル基含有モノマー混合物(D)に対するグリシジルメタクリレート(E)の比率が0.5~10質量%であることを特徴とする、請求項1または3に記載のエマルション組成物の製造方法。
【請求項7】
グリシジルメタクリレート(E)を除くビニル基含有モノマー混合物(D)/カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)=60~80/20~40(質量%)であることを特徴とする、請求項1~3いずれか一項に記載のエマルション組成物の製造方法。
【請求項8】
40℃静置1日後に対する40℃静置28日後の、エマルション組成物の25℃における粘度変化率(%)が、-10~10%であることを特徴とする、請求項1~7いずれか一項に記載のエマルション組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙やフィルムなどの基材上に水蒸気バリア性に優れた塗膜を形成し、かつ保存安定性に優れるエマルション組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品包装材料に代表される紙やフィルムに求められる機能に水蒸気バリア性があり、内容物の劣化や変色、菌の増殖やカビの発生を抑制するために重要な特性とされている。紙やフィルムに水蒸気バリア性を付与するための方法として、マイカ等の無機化合物やワックス等の有機化合物、ポリ塩化ビニリデン等のポリマー、さらにはこれらを組み合わせた製品を塗工する方法が広く使用されている。
【0003】
その中でも、安価で安全性の高いパラフィンワックスを用いた水蒸気バリア剤の検討が古くから行われている。例えば、パラフィンワックスと高分子乳化剤存在下でビニル基含有モノマーを乳化重合して得る、スチレンアクリル系エマルションからなる水蒸気バリア性エマルションがあるが、この技術では水蒸気バリア性は得られるものの、高温下ではパラフィンワックスの分離が経時で起こり、水蒸気バリア性エマルションの保存安定性に課題があった(特許文献1)。
【0004】
また、ワックスによるブリード現象の問題を解決することを目的として、ワックスエマルションと低分子乳化剤の存在下で、ビニル基含有モノマーを乳化重合して得る、紙塗工用の水蒸気バリア性エマルションがあるが、得られる水蒸気バリア性は不十分なものであった(特許文献2)。
【0005】
この保存安定性の課題を解決する方法として、ワックスエマルションとポリマーエマルションをブレンドすることで水蒸気バリア性を発現する発明も行われてきたが、ブレンド後の水蒸気バリア性エマルションの保存安定性が悪いため、使用する直前にブレンドする2液処方となるため、操業性の観点において煩雑であることが課題であった(特許文献3)。
【0006】
水蒸気バリア性エマルションの開発に関して、性能面においては優れた水蒸気バリア性を発現し、操業性の観点からは1液で使用可能であり、かつ保存安定性に優れる製品が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-119528
【文献】特開2002-138394
【文献】特開平8-176992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、紙やフィルムなどの基材上に水蒸気バリア性に優れた塗膜を形成し、操業性の観点からは1液で使用可能であり、かつ保存安定性に優れる、エマルション組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題について鋭意検討した結果、水蒸気バリア性を発現し、かつ保存安定性に優れるエマルション組成物の製造方法を見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、
<1>水(A)と、界面活性剤(B)と、融点が57~71℃の範囲であるパラフィンワックス(C)の存在下に、ビニル基含有モノマー混合物(D)を乳化重合することにより得られるエマルション組成物の製造方法であって、
乳化重合を行う温度が乳化重合時に存在するパラフィンワックス(C)の融点以上であり、かつ、下記(1)または(2)の条件を満足することを特徴とするエマルション組成物の製造方法、
(1)界面活性剤(B)が、スルホン酸ナトリウム基を有する低分子乳化剤(B1)を含むこと
(2)乳化重合時に、グリシジルメタクリレート(E)を含むこと
<2>水(A)と、界面活性剤(B)と、融点が57~71℃の範囲であるパラフィンワックス(C)の存在下に、ビニル基含有モノマー混合物(D)を乳化重合することにより得られるエマルション組成物の製造方法であって、
乳化重合を行う温度が乳化重合時に存在するパラフィンワックス(C)の融点以上であり、かつ、界面活性剤(B)が、スルホン酸ナトリウム基を有する低分子乳化剤(B1)を含むことを特徴とするエマルション組成物の製造方法、
<3>水(A)と、界面活性剤(B)と、融点が57~71℃の範囲であるパラフィンワックス(C)の存在下に、ビニル基含有モノマー混合物(D)を乳化重合することにより得られるエマルション組成物の製造方法であって、
乳化重合を行う温度が乳化重合時に存在するパラフィンワックス(C)の融点以上であり、かつ、乳化重合時に、グリシジルメタクリレート(E)を含むことを特徴とするエマルション組成物の製造方法、
<4>エマルション組成物に含まれるポリマー成分に対するパラフィンワックス(C)の比率が2~10質量%であることを特徴とする、前記<1>~<3>いずれか一項に記載のエマルション組成物の製造方法、
<5>ビニル基含有モノマー混合物(D)に対するスルホン酸ナトリウム基を有する低分子乳化剤(B1)の比率が0.5~5質量%であることを特徴とする、前記<1>または<2>に記載のエマルション組成物の製造方法、
<6>ビニル基含有モノマー混合物(D)に対するグリシジルメタクリレート(E)の比率が0.5~10質量%であることを特徴とする、前記<1>または<3>に記載のエマルション組成物の製造方法、
<7>界面活性剤(B)が、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)を含み、ビニル基含有モノマー混合物(D)/カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)=60~80/20~40(質量%)であることを特徴とする、前記<1>~<3>いずれか一項に記載のエマルション組成物の製造方法、
<8>40℃静置1日後に対する40℃静置28日後の、エマルション組成物の25℃における粘度変化率(%)が、-10~10%であることを特徴とする、前記<1>~<7>いずれか一項に記載のエマルション組成物の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明で得られるエマルションを用いることにより、紙やフィルム基材の水蒸気バリア性を高めることが可能であり、このエマルションは保存安定性に優れ、1液で目的の性能を得られることから、操業性を改善することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明のエマルション組成物の製造方法について、具体的に説明する。
【0013】
本発明のエマルション組成物の製造方法で用いられる原料は、少なくとも、水(A)と、界面活性剤(B)と、融点が57~71℃の範囲であるパラフィンワックス(C)と、ビニル基含有モノマー混合物(D)である。
【0014】
<水(A)>
本発明で使用する水(A)は、ビニル基含有モノマー混合物(D)の乳化重合時に使用することから、ラジカル重合を阻害しない、イオン交換水、軟水が好ましい。
【0015】
<界面活性剤(B)>
本発明で使用する界面活性剤(B)は、発明の効果を損なわない限り、後述する(1)、(2)の条件に応じて適宜選択され、イオン性やその化学種、分子量、使用量など特に制限なく使用することができる。なお、本発明において、低分子乳化剤、高分子乳化剤はいずれも乳化重合に用いることのできる界面活性剤を意味し、高分子乳化剤はラジカル重合により合成するポリマーと天然に存在する高分子からなるものを指し、低分子乳化剤はそれ以外の乳化剤を指す。
【0016】
<融点が57~71℃の範囲であるパラフィンワックス(C)>
本発明で使用する融点が57~71℃の範囲であるパラフィンワックス(C)は、その融点が本発明で規定する範囲にあれば特に限定されない。なお、本発明でパラフィンワックスとは、常温において固体(蝋状)で水に不溶な炭素数20以上のノルマルパラフィンの混合物を指す。入手可能な融点が57~71℃の範囲であるパラフィンワックスとしては、例えば、日本精蝋株式会社製の商品名「Paraffin WAX」シリーズ(135(融点59℃)、140(同61℃)、145(同63℃)、150(同66℃)、155(同69℃))などが挙げられる。
【0017】
本発明で使用する融点が57~71℃の範囲であるパラフィンワックス(C)は、水蒸気バリア性の観点から、エマルション組成物に含まれるポリマー成分に対するパラフィンワックス(C)の比率が2~10質量%であることが好ましい。なお、本発明でエマルション組成物に含まれるポリマー成分とは、後述するビニル基含有モノマー混合物(D)を乳化重合した共重合物および高分子乳化剤であるカルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)を指す。
【0018】
<ビニル基含有モノマー混合物(D)>
本発明でビニル基含有モノマーとは、後述するグリシジルメタクリレート(E)を除くビニル基含有モノマーを指す。本発明の効果を損なわない限り、特に限定はされないが、20℃での水への溶解度が2質量%未満である疎水性モノマーが好ましい。スチレン類やアルキル基の炭素数が1~8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル類が好ましい。スチレン類としてはスチレン、αメチルスチレン、アルキル基の炭素数が1~8である(メタ)アクリル酸エステル類としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルが挙げられ、これらビニル基含有モノマーを1種または2種以上混合して用いる。より好ましくは、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルから選ばれる1種または2種以上である。また、疎水性モノマー以外のモノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸等のアニオン性モノマー、アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等のノニオン性モノマーが使用できる。
【0019】
本発明のエマルション組成物の製造方法においては、水(A)と、界面活性剤(B)と、融点が57~71℃の範囲であるパラフィンワックス(C)の存在下に、ビニル基含有モノマー混合物(D)を乳化重合する際に、乳化重合を行う温度が乳化重合時に存在するパラフィンワックス(C)の融点以上である必要がある。パラフィンワックスの融点未満で重合するとパラフィンワックスの状態が液体で無いために、ポリマー粒子に組み込まれ難くなる。このため、得られるエマルション組成物は経時で分離を起こすおそれがある。
【0020】
また、本発明のエマルション組成物の製造方法においては、更に、保存安定性の観点から少なくとも下記(1)または(2)の条件を満足する必要がある。
(1)界面活性剤(B)が、スルホン酸ナトリウム基を有する低分子乳化剤(B1)を含むこと
(2)乳化重合時に、グリシジルメタクリレート(E)を含むこと
前記(1)、(2)の条件をいずれも満足しない場合、得られるエマルション組成物の保存安定性に劣るため、高温下では経時での増粘や分離を起こすおそれがある。以下、前記(1)、(2)の条件それぞれに対応する本発明の製造方法の態様について説明する。
【0021】
<(1)の条件における態様>
前記(1)の条件においては、界面活性剤(B)が、スルホン酸ナトリウム基を有する低分子乳化剤(B1)を含む必要がある。スルホン酸ナトリウム基を有する低分子乳化剤(B1)としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物等が挙げられる。好ましくは、塗膜の耐水性の観点から、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンなど)アルキル(またはアルケニル)エーテル構造を有しないスルホン酸ナトリウム基を有する低分子乳化剤であり、より好ましくは、アルキル基の炭素数が10~14であるアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物である。ビニル基含有モノマー混合物(D)に対するスルホン酸ナトリウム基を有する低分子乳化剤(B1)の比率は0.5~5質量%であることが好ましい。
【0022】
<(2)の条件における態様>
前記(2)の条件においては、乳化重合時に、グリシジルメタクリレート(E)を含む必要がある。ビニル基含有モノマー混合物(D)に対するグリシジルメタクリレート(E)の比率は、0.5~10質量%であることが好ましい。
【0023】
前記(1)、(2)の条件とも、塗膜の耐水性の観点から、界面活性剤(B)は、高分子乳化剤としてカルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)を含むことが好ましい。とりわけ、前記(1)、(2)の条件を共に満足した場合において、更にカルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)を含むと、本発明で得られるエマルション組成物を基材に塗工した塗膜は、より水蒸気バリア性に優れるものとなる。
【0024】
高分子乳化剤であるカルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)としては、(メタ)アクリル酸やマレイン酸などのカルボキシ基を有するビニルモノマーが共重合成分として用いられているスチレンアクリル樹脂やアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂などが挙げられる。本発明のエマルションの製造方法においては、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)をアンモニア、有機アミン、水酸化ナトリウム等の塩基性物質で中和することにより水溶化して用いる。乳化重合安定性や、得られるエマルションの濃度、ハンドリングの観点から、重量平均分子量が5000~30000の範囲が好ましく、酸価は100~300の範囲が好ましく、耐水性の観点から、アンモニアや有機アミンで中和することが好ましい。
【0025】
界面活性剤(B)にカルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)を用いる場合は、前記(1)、(2)の条件に関わらず、塗膜の耐水性の観点から、ビニル基含有モノマー混合物(D)/カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)=60~80/20~40(質量%)であることが好ましい。
【0026】
本発明のエマルション組成物の製造方法においては、従来公知の乳化重合の方法を適用することが出来る。例えば、攪拌機、および窒素ガス導入管を備えた反応容器に、水(A)、界面活性剤(B)、パラフィンワックス(C)を仕込み、重合開始剤として過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素等の過酸化物、あるいはこれらの過酸化物と硫酸亜鉄、重亜硫酸ソーダ、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム等の還元剤との組み合わせからなる任意のレドックス開始剤を使用し、ビニル基含有モノマー混合物(D)を60~180分間かけて滴下し、滴下終了後60~480分間反応させることで、エマルション組成物を得ることが出来る。必要に応じて、ビニル基含有モノマー混合物(D)の反応時に、アルキルメルカプタンなどの公知の連鎖移動剤を併用してもよい。ただし、乳化重合の反応温度をパラフィンワックス(C)の融点以上の温度で行うことを必須とする。
【0027】
本発明のエマルション組成物の製造方法で得られるエマルション組成物は、本発明の課題である保存安定性の観点から、その指標として、40℃静置1日後に対する40℃静置28日後の、エマルション組成物の25℃における粘度変化率(%)が、-10~10%であることが好ましい。
【0028】
本発明で得られるエマルション組成物は、水性コート剤として有用であり、必要に応じてイソプロピルアルコール(IPA)やブチルセルソルブなどの汎用の有機溶剤や、フィラー、ワックス、造膜助剤、レベリング剤、消泡剤、防腐剤を添加することが出来る。
【0029】
本発明で得られるエマルション組成物を水性コート剤の原料として使用する際、対象となる基材は紙の様な吸収性基材に加えて、PET、ポリエチレン、ポリプロピレン等の非吸収性基材に対しても使用することが出来る。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明する。なお、%は特に記載がない限り、質量%である。
【0031】
<パラフィンワックス(C)の融点の測定>
融点については示差走査熱量測定計を使用し以下の条件で測定した。
装置:ティー・エイ・インスツルメントジャパン製 DISCOVERY DSC25
昇温速度:10℃/分
測定温度範囲:0~200℃
<分子量の測定>
重量平均分子量については以下の条件によりGPC法で測定した。
装置:HLC-8320GPC
カラム:東ソー製 TSK-gel SUPER MULTIPORE HZ-HとSUPER MULTIPORE HZ-Mを連結して使用
溶離液:テトラヒドロフラン、0.35mL/分
<酸価の測定>
酸価については、試料を0.1g採取し、50mLのテトラヒドロフランに溶解した後、指示薬としてフェノールフタレインを数滴加え、撹拌下、0.5N水酸化カリウムエタノール溶液を、淡赤色に呈色するまで滴下した。
酸価 =
滴下した0.5N水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)×0.5×56.11/試料(g)
<粘度の測定>
B型粘度を用いて25℃で測定した。
【0032】
<カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)の合成>
(合成例1)
温度計、冷却管、撹拌機を有するセパラブルフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート500gを仕込み、窒素置換下で、145℃まで昇温した。次いで、スチレン175g、αメチルスチレン200g、アクリル酸125g、ジターシャリーブチルパーオキサイド7.5gの混合液を120分間かけて滴下した。滴下終了から60分後、常圧蒸留および減圧蒸留を行い、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを留去して、重量平均分子量10000、酸価195mgKOH/gのカルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を得た。
【0033】
(合成例2)
温度計、冷却管、撹拌機を有するセパラブルフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート500gを仕込み、窒素置換下で、145℃まで昇温した。次いで、スチレン250g、アクリル酸2-エチルヘキシル125g、アクリル酸125g、ジターシャリーブチルパーオキサイド7.5gの混合液を120分間かけて滴下した。滴下終了から60分後、常圧蒸留および減圧蒸留を行い、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを留去して、重量平均分子量14500、酸価196mgKOH/gのカルボキシ基含有ビニルポリマー(B2b)を得た。
【0034】
<エマルション組成物の調製>
(実施例1)
温度計、冷却管、撹拌機を有するセパラブルフラスコに、イオン交換水500g、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)121g、28%アンモニア水25.6gを仕込み、90℃で120分間かけて加熱しカルボキシ基含有ビニルポリマーの水溶液とした。次いで、窒素置換下で、低分子乳化剤(B1)としてネオゲンS20(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、第一工業製薬株式会社製、有効分20%)28.3g、パラフィンワックス(C)として融点69℃のパラフィンワックス(日本精蝋株式会社製、商品名Paraffin WAX155)20.2g(エマルション組成物に含まれるポリマー成分に対し5質量%)を加え、80℃に保持した。重合開始剤として過硫酸アンモニウム1.7gをイオン交換水17gに溶解した希釈液を添加し、5分後、ビニル基含有モノマー混合物(D)としてスチレン142g、アクリル酸2-エチルヘキシル142gの混合液を120分間かけて滴下し乳化重合を行った。滴下終了から60分後、過硫酸アンモニウム0.3gをイオン交換水3gに溶解した希釈液を添加した。滴下終了から120分後、冷却し、イオン交換水で41%濃度に希釈して、エマルション組成物(1)を得た。
【0035】
(実施例2)
低分子乳化剤(B1)としてリカサーフP-10(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、新日本理化株式会社製、有効分70%)8.1gを用いた以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(2)を得た。
【0036】
(実施例3)
低分子乳化剤(B1)としてセルフロー110(ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、第一工業製薬株式会社製、有効分40%)14.3gを用いた以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(3)を得た。
【0037】
(実施例4)
ビニル基含有モノマー混合物(D)の乳化重合時に、低分子乳化剤(B1)を用いず、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して2質量%となるグリシジルメタクリレート(E)5.7gを加えた以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(4)を得た。
【0038】
(実施例5)
カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を123g、28%アンモニア水を26.0g、ネオゲンS20を28.7g、融点69℃のパラフィンワックスを8.4g(エマルション組成物に含まれるポリマー成分に対し2質量%)、スチレンを143g、アクリル酸2-エチルヘキシルを143gとし、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して2質量%となるグリシジルメタクリレート(E)5.7gを加えた以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(5)を得た。
【0039】
(実施例6)
カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を120g、28%アンモニア水を25.3g、ネオゲンS20を27.9g、融点69℃のパラフィンワックスを20.3g、スチレンを140g、アクリル酸2-エチルヘキシルを140gとし、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して5質量%となるグリシジルメタクリレート(E)5.6gを加えた以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(6)を得た。
【0040】
(実施例7)
カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を114g、28%アンモニア水を24.0g、ネオゲンS20を26.6g、融点69℃のパラフィンワックスを38.8g(エマルション組成物に含まれるポリマー成分に対し10質量%)、スチレンを133g、アクリル酸2-エチルヘキシルを133gとし、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して10質量%となるグリシジルメタクリレート(E)5.3gを加え、過硫酸アンモニウム1.6gをイオン交換水16gに溶解した希釈液で乳化重合を開始した以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(7)を得た。
【0041】
(実施例8)
パラフィンワックス(C)として融点59℃のパラフィンワックス(日本精蝋株式会社製、商品名Paraffin WAX135)20.3gを用いた以外は、実施例6と同様にして、エマルション組成物(8)を得た。
【0042】
(実施例9)
カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を122g、28%アンモニア水を25.7g、ネオゲンS20を7.1g(ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して0.5質量%)、融点69℃のパラフィンワックスを20.4g、スチレンを143g、アクリル酸2-エチルヘキシルを143gとした以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(9)を得た。
【0043】
(実施例10)
イオン交換水を450g、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を119g、28%アンモニア水を25.1g、ネオゲンS20を69.4g(ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して5質量%)、融点69℃のパラフィンワックスを19.8g、スチレンを139g、アクリル酸2-エチルヘキシルを139gとした以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(10)を得た。
【0044】
(実施例11)
ビニル基含有モノマー混合物(D)の乳化重合時に、低分子乳化剤(B1)を用いず、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を122g、28%アンモニア水を25.7g、融点69℃のパラフィンワックスを20.5g、スチレンを143g、アクリル酸2-エチルヘキシルを143gとし、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して0.5質量%となるグリシジルメタクリレート(E)1.4gを加えた以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(11)を得た。
【0045】
(実施例12)
ビニル基含有モノマー混合物(D)の乳化重合時に、低分子乳化剤(B1)を用いず、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を115g、28%アンモニア水を24.3g、融点69℃のパラフィンワックスを21.0g、スチレンを134g、アクリル酸2-エチルヘキシルを134gとし、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して10質量%となるグリシジルメタクリレート(E)26.8gを加え、過硫酸アンモニウム1.6gをイオン交換水16gに溶解した希釈液で乳化重合を開始した以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(12)を得た。
【0046】
(実施例13)
カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2)として、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2b)を用いた以外は、実施例6と同様にして、エマルション組成物(13)を得た。
【0047】
(実施例14)
ビニル基含有モノマー混合物(D)として、メタクリル酸メチル95g、アクリル酸ブチル92g、アクリル酸2-エチルヘキシル92gを用いた以外は、実施例6と同様にして、エマルション組成物(14)を得た。
【0048】
(実施例15)
温度計、冷却管、撹拌機を有するセパラブルフラスコに、窒素置換下でイオン交換水440g、低分子乳化剤(B1)としてネオゲンS20を39.4g、パラフィンワックス(C)として融点69℃のパラフィンワックスを20.1g加え、80℃に保持した。過硫酸アンモニウム2.4gをイオン交換水24gに溶解した希釈液を添加し、5分後、ビニル基含有モノマー混合物(D)としてメタクリル酸メチル173g、アクリル酸ブチル150g、アクリル酸2-エチルヘキシル55g、アクリル酸16gと、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して2質量%となるグリシジルメタクリレート(E)7.9gの混合液を120分間かけて滴下した。滴下終了から60分後、過硫酸アンモニウム0.4gをイオン交換水4gに溶解した希釈液を添加した。滴下終了から120分後、28%アンモニア水溶液13.2gを添加した後、冷却し、イオン交換水で39%濃度に希釈して、エマルション組成物(15)を得た。
【0049】
(実施例16)
アクリル酸をメタクリル酸に、28%アンモニア水溶液を11.1gとした以外は、実施例15と同様にして、エマルション組成物(16)を得た。
【0050】
(実施例17)
カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を124g、28%アンモニア水を26.2g、ネオゲンS20を29.0g、融点69℃のパラフィンワックスを4.2g(エマルション組成物に含まれるポリマー成分に対し1質量%)、スチレンを145g、アクリル酸2-エチルヘキシルを145gとし、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して2質量%となるグリシジルメタクリレート(E)5.8gを加えた以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(17)を得た。
【0051】
(実施例18)
カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を112g、28%アンモニア水を23.6g、ネオゲンS20を26.2g、融点69℃のパラフィンワックスを45.8g(エマルション組成物に含まれるポリマー成分に対し12質量%)、スチレンを131g、アクリル酸2-エチルヘキシルを131gとし、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して2質量%となるグリシジルメタクリレート(E)5.2gを加え、過硫酸アンモニウム1.6gをイオン交換水16gに溶解した希釈液で乳化重合を開始した以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(18)を得た。
【0052】
(実施例19)
カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を123g、28%アンモニア水を26.0g、ネオゲンS20を1.4g(ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して0.1質量%)、融点69℃のパラフィンワックスを20.5g、スチレンを143g、アクリル酸2-エチルヘキシルを143gとした以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(19)を得た。
【0053】
(実施例20)
イオン交換水を390g、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を115g、28%アンモニア水を24.3g、ネオゲンS20を134.4g(ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して10質量%)、融点69℃のパラフィンワックスを19.2g、スチレンを134g、アクリル酸2-エチルヘキシルを134gとし、過硫酸アンモニウム1.6gをイオン交換水16gに溶解した希釈液で乳化重合を開始した以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(20)を得た。
【0054】
(実施例21)
ビニル基含有モノマー混合物(D)の乳化重合時に、低分子乳化剤(B1)を用いず、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を123g、28%アンモニア水を26.0g、融点69℃のパラフィンワックスを20.5g、スチレンを143g、アクリル酸2-エチルヘキシルを143gとし、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して0.1質量%となるグリシジルメタクリレート(E)0.3gを加えた以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(21)を得た。
【0055】
(実施例22)
ビニル基含有モノマー混合物(D)の乳化重合時に、低分子乳化剤(B1)を用いず、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を123g、28%アンモニア水を23.4g、融点69℃のパラフィンワックスを21.3g、スチレンを129g、アクリル酸2-エチルヘキシルを129gとし、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して15質量%となるグリシジルメタクリレート(E)38.8gを加え、過硫酸アンモニウム1.6gをイオン交換水16gに溶解した希釈液で乳化重合を開始した以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(22)を得た。
【0056】
(比較例1)
パラフィンワックス(C)として融点48℃のパラフィンワックス(日本精蝋株式会社製、商品名Paraffin WAX115)20.3gを用いた以外は、実施例6と同様にして、エマルション組成物(23)を得た。
【0057】
パラフィンワックス(C)として融点77℃のパラフィンワックス(日本精蝋株式会社製、商品名HNP-51)20.3gを用いた以外は、実施例6と同様にして、エマルション組成物(24)を得た。
【0058】
(比較例3)
乳化重合を65℃(パラフィンワックス(C)の融点未満)で行った以外は、実施例6と同様にして、エマルション組成物(25)を得た。
【0059】
(比較例4)
低分子乳化剤(B1)を使用せず、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を123g、28%アンモニア水を26.0g、融点69℃のパラフィンワックスを20.5g、スチレンを143g、アクリル酸2-エチルヘキシルを143gとした以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(26)を得た。
【0060】
(比較例5)
カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)を120g、28%アンモニア水を25.3g、低分子乳化剤(B1)に代えてスルホン酸ナトリウム基を含まない低分子乳化剤であるプルロニック(登録商標)L-31(EOPOブロック共重合物、ADEKA株式会社製、有効分100%)を5.6g(ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して2質量%)、融点69℃のパラフィンワックスを20.3g、スチレンを140g、アクリル酸2-エチルヘキシルを140gとした以外は、実施例1と同様にして、エマルション組成物(27)を得た。
【0061】
(比較例6)
温度計、冷却管、撹拌機を有するセパラブルフラスコに、イオン交換水500g、カルボキシ基含有ビニルポリマー(B2a)120g、28%アンモニア水25.3gを仕込み、90℃で120分間かけて加熱した。次いで、窒素置換下で、低分子乳化剤(B1)としてネオゲンS20を27.9g加え、80℃に保持した。過硫酸アンモニウム1.7gをイオン交換水17gに溶解した希釈液を添加し、5分後、ビニル基含有モノマー混合物(D)としてスチレン140g、アクリル酸2-エチルヘキシル140gと、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対して2質量%となるグリシジルメタクリレート(E)5.6gの混合液を120分間かけて滴下した。滴下終了から60分後、過硫酸アンモニウム0.3gをイオン交換水3gに溶解した希釈液を添加した。滴下終了から120分後、30℃まで冷却を行った後、パラフィンワックス(C)として融点69℃のパラフィンワックスエマルションEMUSTER1155(日本精蝋株式会社製、有効分40%)51gを加え、イオン交換水で41%濃度に希釈して、エマルション組成物(28)を得た。
【0062】
実施例1~22、および比較例1~6で得られた各エマルション組成物(1)~(28)の組成および物性を表1に示す。
【0063】
【0064】
表中の略号:
<界面活性剤(B)>
B1a:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
B1b:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
B1c:ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物
B2a:スチレン/αメチルスチレン/アクリル酸=35/40/25(質量%)の共重合体
B2b:スチレン/アクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸=50/25/25(質量%)の共重合体
b1d:エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合物
<ビニル基含有モノマー混合物(D)のモノマー組成>
Da:スチレン/アクリル酸2-エチルヘキシル=50/50(質量%)
Db:メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2-エチルヘキシル=34/33/33(質量%)
Dc:メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸=44/38/14/4(質量%)
Dd:メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/アクリル酸2-エチルヘキシル/メタクリル酸=44/38/14/4(質量%)
【0065】
実施例1~22、および比較例1~6で得られた各エマルション組成物(1)~(28)の保存安定性、水蒸気バリア性を表2に示す。
【0066】
<保存安定性>
エマルション組成物を40℃で静置した1日後および28日後の25℃における粘度の変化および、外観観察における分離の有無を確認することで評価した。なお、本発明においては、分離が発生しないことが必要レベルである。このため、保存安定性が40℃静置1日後で分離した比較例3~6のエマルション組成物(25)~(28)については透湿度の評価を行わなかった。40℃静置1日後に対する28日後の粘度変化率(%)は、以下の式で求めた。
粘度変化率(%)=(40℃静置28日後の粘度-40℃静置1日後の粘度)/(40℃静置1日後の粘度)×100
粘度変化率(%)は-10~10%以内であることが好ましい。
【0067】
<塗工評価>
ワイヤーバー♯5を用いて、中性上質紙(坪量65g/m2)、PET(ポリエステル)フィルムの片面にエマルション組成物(1)~(24)を塗工した。塗工液の塗布量は9g/m2であった。塗工後、水蒸気バリア性の指標として透湿度を測定した。その結果を表2に示す。
【0068】
<透湿度>
JIS Z0208(カップ法、40℃、湿度90%RH、24時間)に準拠し評価を行った。透湿度の値が小さいほど、水蒸気バリア性に優れることを示す。なお、本発明において透湿度は、中性上質紙では100以下、PETフィルムでは15以下が実用レベルである。
【0069】
透湿度は塗工量を増やすことで向上させることもできるが、本発明の評価条件において、保存安定性と水蒸気バリア性の両方の性能をバランスよく有していることが好ましく、粘度変化率(%)が-7~7%以内、かつ透湿度が中性上質紙では50以下、PETフィルムでは10以下であることがより好ましい。
【0070】
【0071】
本発明の構成要件を全て満足する実施例1~22は、パラフィンワックス(C)の融点が範囲外である比較例1、2、乳化重合を行う温度が範囲外である比較例3、条件(1)、(2)ともに満足しない比較例4、5、パラフィンワックス(C)存在下で乳化重合を行わない比較例6のように、本発明の構成要件を一つでも満足しない比較例に比べて、エマルションが分離することなく安定で、かつ水蒸気バリア性に優れていることがわかる。
【0072】
実施例5、7と実施例17、18より、エマルション組成物に含まれるポリマー成分に対するパラフィンワックス(C)の比率が2~10質量%の範囲にあると、水蒸気バリア性により優れ、粘度変化率も小さいことが分かる。
【0073】
実施例9、10と実施例19、20より、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対するスルホン酸ナトリウム基を有する低分子乳化剤(B1)の比率が0.5~5質量%の範囲にあると、水蒸気バリア性により優れ、粘度変化率も小さいことが分かる。
【0074】
実施例11、12と実施例21、22より、ビニル基含有モノマー混合物(D)に対するグリシジルメタクリレート(E)の量が0.5~5質量%の範囲にあると、粘度変化率が小さく、より好ましい。