(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】細胞シート製造装置、および細胞シート
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20230629BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230629BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20230629BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20230629BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20230629BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20230629BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20230629BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230629BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/071
A61L27/38 100
A61L27/38 300
A61L27/56
A61L27/18
A61L27/58
A61K9/70 401
A61K47/34
(21)【出願番号】P 2021552433
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2020038938
(87)【国際公開番号】W WO2021075502
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019189611
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020010229
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人科学技術振興機構、世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム「健康“生き活き”羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】516054689
【氏名又は名称】株式会社水田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】堀 武志
(72)【発明者】
【氏名】岩田 博夫
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 修
(72)【発明者】
【氏名】谷 敍孝
(72)【発明者】
【氏名】水田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】石原 甲平
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/222065(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/033181(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/005349(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179375(WO,A1)
【文献】Development, Growth Differentiation,Vol.60,2018年,p.183-194
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12N 5/071
A61L 27/38
A61L 27/56
A61L 27/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
細胞を培養するための培地を収容する容器と、
前記細胞を付着させて培養する基材であるメッシュシートと、当該メッシュシートを前記容器の底面から浮くように保持する保持部材と、を有し、前記容器に離接可能に収容されている支持体ユニットと、を備え、
前記支持体ユニットは、前記培地中で鉛直方向および水平方向の位置が一定となるように前記容器に収容されており、
前記保持部材は、前記メッシュシートを取り外し可能に保持し、
前記保持部材には、前記メッシュシートを載置する筒状載置部が形成されており、
前記支持体ユニットは、前記筒状載置部の外周を取り囲む形状を有し、前記保持部材に対して取り外し可能に設けられた、環状部材を備え、
前記メッシュシートの周縁は、前記筒状載置部と前記環状部材とにより挟持されていることを特徴とする細胞シート製造装置。
【請求項4】
前記保持部材および前記環状部材の少なくとも一方には、前記保持部材と前記環状部材とが分離しないように係止する係止部が形成されており、
前記保持部材および前記環状部材の何れか一方には、他方を押圧する押圧ピンを貫通させるための貫通孔が形成されており、
前記他方の押圧により前記係止が解除され、前記保持部材と前記環状部材とが離間することを特徴とする請求項3に記載の細胞シート製造装置。
【請求項5】
細胞を培養するための培地を収容する容器と、
前記細胞を付着させて培養する基材であるメッシュシートと、当該メッシュシートを前記容器の底面から浮くように保持する保持部材と、を有し、前記容器に離接可能に収容されている支持体ユニットと、を備え、
前記支持体ユニットは、前記培地中で鉛直方向および水平方向の位置が一定となるように前記容器に収容されており、
前記保持部材は、前記メッシュシートを取り外し可能に保持し、
前記支持体ユニットは、
前記保持部材に対して取り外し可能に設けられ、前記メッシュシートの周縁を挟むように配された一対の枠体と、
前記一対の枠体を挟持することによって、前記メッシュシートと前記一対の枠体とを一体化させる挟持部材と、を備えたことを特徴とする細胞シート製造装置。
【請求項7】
前記支持体ユニットは、前記メッシュシートの一方の面を覆う蓋体であって、前記細胞を含む懸濁液を前記メッシュシートと前記蓋体との間に注入する注入口が設けられた蓋体を備え、
前記懸濁液が前記メッシュシートと前記蓋体との両方に接触しながら前記メッシュシートと前記蓋体との間に注入されるように、前記蓋体と前記メッシュシートとの間隔が設定されていることを特徴とする請求項3~6の何れか1項に記載の細胞シート製造装置。
【請求項8】
前記メッシュシートの開口部は、一方向に伸長した形状であることを特徴とする請求項3~7の何れか1項に記載の細胞シート製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞シート製造装置、および細胞シートに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞シートは、火傷部位を治療する際の皮膚シートなどとして実際に使用されている。将来的には、細胞シートは、心不全患者へ移植される心筋細胞シートまたは糖尿病患者へ移植される膵島細胞シートとしても使用され得、多くの患者に適用されることが期待されている。
【0003】
一方で、複数の細胞層からなる細胞シートによって、生体内に類似した組織構造を再構築する試みがなされている。それゆえ、3次元的に細胞が配置されている細胞シートの作製法の重要性が認識されている。既存の温度応答性培養皿を用いた細胞シート作製法で作製した場合、作製される細胞シートは脆いために取り扱いが難しいことが多い(非特許文献1および2参照)。また、ディッシュの上で複数の細胞層(真皮層や表皮層)からなる細胞シートを作製しようとする場合、成熟した表皮層がタイトジャンクションと呼ばれる一種のバリアを形成するために、細胞シート内部への栄養供給が阻害されることが懸念されている。
【0004】
また、非細胞性のシート状の支持体の上で細胞シートを作製する方法が提案されている。しかし、支持体が患部の細胞と馴染まない場合、この方法では支持体が露出している面を患部へ貼付できない。すなわち、細胞シートの患部に対する貼付面が片方の面に限定される。線維芽細胞層(真皮層)の上に角化細胞層(表皮層)が配置されているような細胞シートを患部に貼付する場合、上述のように貼付面が限定されることは極めて都合が悪い。なぜなら、細胞シートを移植する場合は、真皮層側の面を患部へ接着させる必要があるからである。
【0005】
また、他の方法として、多孔膜(例えばポリカーボネート製の多孔膜)の上に複数の細胞層からなる細胞シートを作製する方法が知られている(非特許文献3参照)。この方法により作製した細胞シートは、多孔膜の孔を介した細胞への栄養供給が期待されるために、ディッシュの上で複層の細胞シートを作製した時よりも、細胞への栄養供給が優れている。しかし、多孔膜の上で細胞シートを作製した場合においても、作製された細胞シートは、患部に対する貼付面が片方の面であるため、移植に使用することは難しい。それゆえ、上記方法により作製された細胞シートは、主に化合物の透過性試験等で使用されている。
【0006】
ゼラチン、ポリ乳酸(PLA)、乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)等のナノファイバーシートを用いた細胞シート作製方法が提案されている(非特許文献4参照)。この方法では、エレクトロスピニング法によりナノファイバーからなるシートを作り、当該シート上にて細胞を培養する。このような方法に関しては、エレクトロスピニングにより各ナノファイバーの配置を正確に制御することが難しいという問題がある。そして、このナノファイバーの不規則性の問題のため、作製された細胞シートについて、再現性の高い結果を得られ難い可能性がある。
【0007】
また、細胞シートを作製するために、マイクロメッシュシートを用いることが提案されている。マイクロメッシュシートを用いた方法として、例えば、(i)マイクロメッシュシートの上で細胞を培養して二次元の細胞シートを作製する方法、(ii)マイクロメッシュシートの上でiPS細胞を培養してスフェア状のトロフォブラスト様細胞を作製する方法等が報告されている(特許文献1および2、並びに非特許文献5参照)。このマイクロメッシュシートを用いた細胞培養法の応用として、マイクロメッシュシート上で株化肝細胞HepG2細胞を培養して3次元細胞シートを作製する技術が開発されている。この3次元細胞シートは、3次元スフェロイドよりも細胞機能の一部が向上しており、また、細胞観察や栄養供給に優れ、流体デバイスとの適合性に優れていることが示唆されている(非特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開WO2015/005349号パンフレット(2015年 1月15日公開)
【文献】特開2019-50773号公報(2019年 4月 4日公開)
【非特許文献】
【0009】
【文献】Green H, Kehinde O, Thomas J. Growth of cultured human epidermal cells into multiple epithelia suitable for grafting. Proc Natl Acad Sci U S A. 1979;76(11):5665-8.
【文献】Yamada N, Okano T, Sakai H, Karikusa F, Sawasaki Y, Sakurai Y. Thermo-responsive polymeric surfaces; control of attachment and detachment of cultured cells. Die Makromolekulare Chemie, Rapid Communications. 1990;11(11):571-6.
【文献】Kojima H, Ishii I, Nakata S, Konishi H. Dose-response Evaluation Using an Epidermal Model, an Alternative to Skin Irritation Testing. Alternatives to Animal Testing and Experimentation. 2006;11(3):177-84.
【文献】Li J, Minami I, Shiozaki M, Yu L, Yajima S, Miyagawa S, et al. Human Pluripotent Stem Cell-Derived Cardiac Tissue-like Constructs for Repairing the Infarcted Myocardium. Stem Cell Reports. 2017;9(5):1546-59.
【文献】Okeyo KO, Kurosawa O, Yamazaki S, Oana H, Kotera H, Nakauchi H, et al. Cell Adhesion Minimization by a Novel Mesh Culture Method Mechanically Directs Trophoblast Differentiation and Self-Assembly Organization of Human Pluripotent Stem Cells. Tissue Eng Part C Methods. 2015;21(10):1105-15.
【文献】Hori T, Kurosawa O. A Three-dimensional Cell Culture Method with a Micromesh Sheet and Its Application to Hepatic Cells. Tissue Eng Part C Methods. 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
マイクロメッシュシートを用いた細胞シートの製造方法では、まず、細胞を培養するための培地中に浮かせた状態で、メッシュシートを容器内に設置する。続いて、マイクロメッシュ上に細胞を播種する。そして、マイクロメッシュシート上に播種された細胞を培地中で培養する。このような細胞シートの製造方法においては、細胞シートを構成する細胞の生育状況を確認するため、細胞シートの両面を顕微鏡で確認する必要がある。
【0011】
例えば特許文献1に開示された技術では、細胞を播種するためのマイクロメッシュシートは、容器に設置された吊るし用部材に設置されている。このような構成では、(i)細胞シートを反転させて培養すること、(ii)細胞シートを反転させて顕微鏡観察すること(すなわち両面観察)が難しい。
【0012】
また、特許文献2に開示された装置では、培地を収容する容器の内壁に設けられた溝にマイクロメッシュシートが保持されている。このような構成では、マクロメッシュシートを容器から分離し、裏表逆に配置することが困難である。このため、細胞シートの両面を顕微鏡で確認することは困難である。
【0013】
上述の細胞観察に関わる困難性は、例えば、複数の細胞層からなる細胞シートを作製する場合に、特に問題となり得る。
【0014】
本発明の一態様は、細胞シートを構成する細胞の生育状況を確認するために、培地内の細胞シートの位置が安定した状態で細胞シートの両面を容易に観察できる細胞シート製造装置を実現することを第1の目的としている。
【0015】
また、本発明の一態様は、厚さを十分に確保でき、強度を向上させることができる細胞シートを実現することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る細胞シート製造装置は、細胞を培養するための培地を収容する容器と、前記細胞を付着させて培養する基材であるメッシュシートと、当該メッシュシートを前記容器の底面から浮くように保持する保持部材と、を有し、前記容器に離接可能に収容されている支持体ユニットと、を備え、前記支持体ユニットは、前記培地中で鉛直方向および水平方向の位置が一定となるように前記容器に収容されていることを特徴としている。
【0017】
本発明の一態様に係る細胞シートは、細胞層を少なくとも2つ有し、前記2つの細胞層の間に、細胞を付着させて培養する基材であるメッシュシートが配されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、細胞シート中の細胞の生育状況を確認するために、培地内の細胞シートの位置が安定した状態で細胞シートの両面を容易に観察できる細胞シート製造装置を実現できる。さらに、本発明の一態様によれば、厚さを十分に確保でき、強度を向上させることができる細胞シートを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】構成例1の細胞シート製造装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す細胞シート製造装置の効果を説明するための図である。
【
図3】変形例1の細胞シート製造装置の構成を示す図である。
【
図4】変形例2の細胞シート製造装置の構成を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る細胞シート製造装置を用いて作製した皮膚シートの断面構造を示す模式図である。
【
図6】構成例2の細胞シート製造装置に備えられた支持体ユニットの概略構成を示す図である。
【
図7】構成例2の細胞シート製造装置の概略構成を示す図である。
【
図8】構成例3の細胞シート製造装置の概略構成を示す図である。
【
図9】構成例4の細胞シート製造装置の概略構成を示す図である。
【
図20】変形例3の細胞シート製造装置の構成を示す図である。
【
図21】変形例3の細胞シート製造装置の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0021】
1.細胞シート製造装置
本実施形態に係る細胞シート製造装置は、メッシュシートが培地中に設置され、当該メッシュシート上に播種された細胞を培地中で生育させることにより細胞シートを製造することを前提とした装置である。メッシュシートを培地(培養液)中に設置することにより、メッシュシートの形状に沿って細胞を増殖させることができる。
【0022】
本実施形態に係る細胞シート製造装置は、細胞を培養するための培地を収容する容器と、支持体ユニットと、を備えた構成である。前記支持体ユニットは、前記容器に離接可能に収容されており、メッシュシートと、保持部材と、を有する。前記メッシュシートは、細胞を付着させて培養するための基材である。また、前記保持部材は、前記メッシュシートを前記容器の底面から浮くように保持する。そして、前記支持体ユニットは、前記培地中で鉛直方向および水平方向の位置が一定となるように前記容器に収容されている。
【0023】
ここで、「メッシュシートを前記容器の底面から浮くように保持する」とは、メッシュシートの両面が、容器の底面(好ましくは、容器の内壁および底面)に接触しておらず、メッシュシートの両面が前記培地に十分に接触するように、メッシュシートを保持することをいう。前記保持部材は、メッシュシートを前記容器の底面から浮くように保持する構成であればよく、具体的な構成は限定されない。
【0024】
上述のメッシュシートを用いた細胞シート製造において、本実施形態に係る細胞シート製造装置は使用者による細胞観察の利便性を向上させる。より具体的には、上記の構成では、前記支持体ユニットは、容器に離接可能に収容されている。このため、使用者は、前記支持体ユニットを、容器から取り出して裏返した後、再び、容器に収容することによって、前記支持体ユニットを容易に裏返しにすることができる。前記支持体ユニットが裏返ると、支持体ユニットの保持部材に保持されたメッシュシート上に形成された細胞シートも裏返る。それゆえ、上記の構成によれば、前記メッシュシート上に形成された細胞シートの両面を顕微鏡で容易に観察することができる。
【0025】
さらに、前記支持体ユニットは、培地中で鉛直方向および水平方向の位置が一定となるように容器に収容されているので、顕微鏡による細胞シートの観察中に、メッシュシートの容器内の位置、換言すれば、メッシュシート上に形成された細胞シートの位置が、変化することがない。それゆえ、上記の構成によれば、細胞シートを精密に観察することができる。
【0026】
また、本実施形態に係る細胞シート製造装置において、前記保持部材は、前記メッシュシートを取り外し可能に保持することが好ましい。これにより、前記メッシュシート上に形成された細胞シートを容易に前記支持体ユニットから分離することができる。それゆえ、例えば、細胞シートを移植する際に細胞シートの取り扱いが容易になる。
【0027】
また、前記支持体ユニットは、前記培地中で鉛直方向および水平方向の位置が一定になるように前記容器中に収納できる構成であればよく、その具体的な構成は限定されない。例えば、前記支持体ユニットは、前記保持部材が前記培地よりも比重が大きい構成が挙げられる。前記保持部材が前記培地よりも比重が大きいことにより、前記保持部材は前記培地中を浮遊せずに沈み、特に鉛直方向の位置が安定する。前記保持部材の比重は、前記培地の種類に応じて適宜設定可能であり、例えば、培地の比重を1としたときに、前記保持部材の比重は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.5以上、より好ましくは2.0以上、より好ましくは5.0以上、最も好ましくは10.0以上である。また、前記保持部材を構成する材料としては、例えば、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0028】
また、メッシュシートとしては、細胞を播種できることができ、かつ細胞を増殖することができる構造であれば、特に限定されない。前記メッシュシートは、所定の形状の開口部が規則的又は非規則的に繰り返し並んだ平面状の構造体が好ましい。前記メッシュシートは、平面視において、多角形の開口部を多数有することがより好ましい。メッシュシートの開口部の形状は、典型的には三角形、四角形、六角形などの多角形であるが、円や楕円、その他の多角形であってもよい。
【0029】
ここで、前記メッシュシートの開口部以外の部分をフレーム又はフレーム部と呼ぶことにする。なお、開口部がマイクロメートルサイズであるとき、メッシュシートは、マイクロメッシュなどと称することもある。なお、メッシュシートの開口部の形状とは、メッシュシートを構成するフレームに囲まれた領域の形状であるともいえる。
【0030】
前記メッシュシートの開口部は、培養する細胞少なくとも1個が通過できる大きさであり得る。開口部が培養する細胞少なくとも1個が通過できる大きさであるとは、開口部の大きさと、細胞の大きさとが、細胞が変形して又は変形しないで、開口部を通過できる関係であることを意味する。開口部は、細胞が開口部に接触しないで通過できる大きさであってもよいし、細胞が接触しながら(換言すれば、細胞が変形しながら)通過できる大きさであってもよい。
【0031】
好ましくは、メッシュシートの開口部の形状は、一方向に伸長した形状である。「一方向に伸長した形状」とは、当該形状を規定する複数の軸線のうち、他の軸(短軸)よりも長い軸(長軸)が1つ存在する形状をいう。このような形状として、例えば、長方形、菱形、楕円などが挙げられる。開口部の形状が長方形である場合、長辺が長軸に対応し、短辺が短軸に対応する。また、開口部の形状が菱形である場合、2つの対角線のうちの長い方の対角線が長軸に対応し、短い方の対角線が短軸に対応する。「一方向に伸長した形状」は、例えば、長軸(長辺)が短辺(短軸)よりも遥かに長い長方形、長軸が短軸よりも遥かに長い菱形または楕円が挙げられる。長方形である場合、一方向が伸長した形状は、短辺:長辺が1:2~1:5、好ましくは1:2~1:10の形状である。また、菱形である場合、一方向が伸長した形状は、短軸:長軸が1:2~1:5、好ましくは1:2~1:10の形状である。また、楕円である場合、一方向が伸長した形状は、短軸:長軸が1:2~1:5、好ましくは1:2~1:10である形状である。勿論、本発明は、これらの構成に限定されない。なお、「一方向に伸長した形状」は、長方形、菱形、楕円に限定されず、当該形状を規定する複数の軸線のうち、他の軸よりも遥かに長い軸が1つ存在する形状であればよい。
【0032】
上記の構成のように前記メッシュシートの開口部が一方向に伸長した形状である場合、開口部は、一方向へ長く伸びた大きな壁面を有することになる。当該壁面に接着して増殖する細胞の数は多く、かつ、同様の配向性を有して増殖するので、上記の構成によれば、増殖する細胞の配向性を開口部の伸長方向へ制御することができる。
【0033】
また、前記メッシュシートの材料は、細胞が付着し増殖できる材料であればよく、例えば、光硬化性樹脂、生体適合性材料、生体分解性材料などを用いることができる。
【0034】
光硬化性樹脂を用いれば、フォトリソグラフィ法によって前記メッシュシートを作製することができる。前記光硬化性樹脂としては、例えば、アクリレート化合物、メタクリレート化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、チオール化合物、シリコーン系化合物などが挙げられる。これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。光硬化性樹脂の具体例としては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、エトキシ化ビスフェノールAアクリレート、脂肪族ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル変性脂環式エポキシド、2官能アルコールエーテル型エポキシド、アクリルシリコーン、アクリルジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0035】
また、フォトリソグラフィ法によって前記メッシュシートを作製する場合、露光した部分が除去されるポジ型のレジストを用いてマイクロメッシュシートを作製することができる。例えば、前記ポジ型のレジストとして、DNQ(ジアゾナフトキノン)ノボラック系樹脂ポジ型レジスト、t-ブトキシカルボニル、テトラヒドロピラン、フエノキシエチル、トリメチルシリル、t-ブトキシカルボニルメチル等の脱保護反応型、ポリフタルアルデヒド、ポリカーボネート、ポリシリルエーテル等の解重合反応型のものが挙げられる。また、現像液にはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、MEK(メルエチルケトン)、GBL(γ-ブチロラクトン)、EL(乳酸エチル)などが用いられる。
【0036】
また、前記メッシュシートの材料が生体適合性材料または生体分解性材料である場合、得られる細胞シートは、そのままメッシュシートと共に生体に移植できるので、再生医療または創薬に好適に用いられる。
【0037】
前記生体適合性材料としては、シリコーン、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)、ポリウレタン、シリコーン-ポリウレタン共重合体、セラミックス、コラーゲン、ヒドロキシアパタイト、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ゴアテックス(商標)などの超高分子量ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、その他生体由来材料などが挙げられるがこれらに限定されない。また、前記メッシュシートは、生体適合性材料以外の材料で形成し、表面を生体適合性材料で処理したものであってもよい。
【0038】
前記生体分解性材料としては、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、及びそれらの共重合体、PHB-PHV系ポリ(アルカン酸)類、ポリエステル類、デンプン、セルロース、キトサンなどの天然高分子やその誘導体などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
前記メッシュシートの材料としては、上記の中でも、ポリエステル、とりわけポリエチレンテレフタレートが好ましい。ポリエチレンテレフタレートは生体への毒性が低いため、得られた細胞シートを生体内へ移植できる。また、蛍光顕微鏡観察の際に自家蛍光を抑えるため、ポリエチレンテレフタレートは黒色に染色されていることが好ましい。ポリエステル製のメッシュシートの具体例として、天池合繊社製の生地AG001N0、AG00Z1N0、AG00Z3N0等が挙げられる。また、黒色に染色されたポリエステル製のメッシュシートの具体例として、天池合繊社製の生地AG001N1、AG00Z1N9、AG00Z3N9等が挙げられる。
【0040】
また、前記メッシュシートは、予め細胞接着促進材料でコーティングしてもよい。細胞接着促進材料は、細胞を培養支持体に定着させて伸展や増殖をしやすくするために用いられ、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンなどの細胞外マトリックスタンパク質、ポリLリジンなどの陽性電荷物質などが挙げられる。細胞接着促進材料として、具体的には、マトリゲル(登録商標)が挙げられる。
【0041】
また、本実施形態に係る細胞シート製造装置において、前記容器は、細胞を培養するための培地を収容することが可能であればよく、その構成(例えば形状)は特に限定されない。前記容器は、例えば、細胞培養用のディッシュ、複数個のウェルを有するプレート(6穴プレート、12穴プレート等)、細胞培養用のカラムが挙げられる。
【0042】
2.本実施形態に係る細胞シート製造装置の構成例1
本実施形態に係る細胞シート製造装置の構成例1について、説明する。
図1は、構成例1としての細胞シート製造装置100の構成の概略を示す図である。
図1の1010は、細胞シート製造装置100に備えられた支持体ユニット10の構成を示す斜視図である。
図1の1020~1023は、細胞シート製造装置100を用いた細胞シートの製造方法の手順を示す図である。
図1の1030は、細胞シート製造装置100を用いて作製された細胞シートの構成を示す図である。また、
図1の1040は、細胞シート製造装置100の具体的構成の一例を示す像である。
【0043】
図1の1023に示されるように、細胞シート製造装置100は、支持体ユニット10と、容器20と、を備えている。支持体ユニット10は、容器20に離接可能に収容されている。
【0044】
図1の1010に示されるように、支持体ユニット10は、環状部材1と、メッシュシート2と、土台3(保持部材)と、を備えている。土台3は、土台本体3aと、筒状載置部3bと、底面当接部3cと、側壁当接部3dと、を有している。
【0045】
土台本体3aは、円盤形状である。筒状載置部3bは、無底円筒形状であり、軸方向の両端部が開口している。筒状載置部3bは、土台本体3aの一方の面からのみ鉛直方向に突出して形成されている。筒状載置部3bは、土台本体3aの内部を貫通する構成になっている。換言すれば、土台本体3aの上側および下側は、筒状載置部3bを介して連通している。筒状載置部3b上には、メッシュシート2が載置される。メッシュシート2は、土台本体3aに対して筒状載置部3bと反対側から、筒状載置部3bを通して、顕微鏡などにより観察可能となる。
【0046】
土台本体3aに対して垂直な方向からみた平面視において、側壁当接部3dは、土台本体3aから水平方向に伸長した矩形板形状である。側壁当接部3dは、土台本体3aに対して対称になるように少なくとも2つ形成されている。
図1の1010に示される構成では、側壁当接部3dは、4つ形成されている。側壁当接部3dは、水平方向の先端部分が容器20の側壁に当接する。側壁当接部3dは、土台本体3aと容器20の側壁との間の水平方向の間隔を一定に維持するスペーサーの役割を果たす。それゆえ、容器20が水平方向に振動した場合であっても、側壁当接部3dの先端部が容器20の側壁に当接することにより、培地中で、土台本体3aの水平方向の位置は変動することなく安定に維持される。なお、土台3は、容器20から離接可能となるように、全ての側壁当接部3dが容器20の側壁と寸法的なクリアランスを形成するように構成されている。
【0047】
底面当接部3cは、矩形板形状であり、矩形板形状の側壁当接部3dそれぞれに対して立設されている。底面当接部3cは、側壁当接部3dと交差している。
図1の1010に示された構成では、底面当接部3cは、側壁当接部3dに対して鉛直方向(重力方向)に交差している。そして、底面当接部3cにおける鉛直方向の先端部が容器20の底面と当接する。底面当接部3cは、土台本体3aと容器20の底面との間の鉛直方向の間隔を一定に維持するスペーサーの役割を果たす。それゆえ、容器20に土台3が収納されたとき、底面当接部3cが容器20の底面と当接することにより、培地中で、土台本体3aの鉛直方向の位置は変動することなく安定に維持される。また、底面当接部3cは、側壁当接部3dと交差しており、側壁当接部3dに対して上下両方向から突出して形成されている。このため、上下逆方向に裏返して土台3が容器20に収容されても、土台本体3aの鉛直方向の位置は安定に維持される。
【0048】
環状部材1は、筒状載置部3bの外周を取り囲む環形状を有し、土台3に対して取り外し可能に設けられている。環状部材1の環形状は、特に限定されず、円環、四角環等の任意の形状であってもよい。
図1の1010に示された構成では、環状部材1は、円環形状である。
【0049】
メッシュシート2は、環状部材1と筒状載置部3bとの間に配置される。メッシュシート2は、その周縁が環状部材1の内側面と筒状載置部3bの外側面とにより挟持された状態で、土台3に保持されている。環状部材1が円環形状であり、かつ筒状載置部3bが円筒形状である場合、メッシュシート2が安定に保持されるとの観点から、環状部材1の内径と筒状載置部3bの外径との差は、メッシュシート2の厚さに近ければ近いほどよい。
【0050】
次に、細胞シート製造装置100を用いた細胞シートの製造方法について説明する。まず、
図1の1020に示されるように、土台3の筒状載置部3bにメッシュシート2を載置する。そして、メッシュシート2が筒状載置部3bに載置された状態で、筒状載置部3bに環状部材1を装着する。
【0051】
このとき、環状部材1は、その内側面が筒状載置部3bの外側面を取り囲むように装着される。このため、
図1の1021に示されるように、メッシュシート2の周縁は、環状部材1の内側面と筒状載置部3bの外側面とにより挟持される。これにより、メッシュシート2を保持する支持体ユニット10が作製される。作製された支持体ユニット10では、筒状載置部3bの軸方向の両端部の開口のうち、一方の端部の開口がメッシュシート2によって閉塞され、他方の端部の開口が開放されている。
【0052】
次いで、メッシュシート2が筒状載置部3bよりも下側に位置するように、支持体ユニット10を上下逆に裏返す。この結果、支持体ユニット10には、メッシュシート2と筒状載置部3bの内側面とにより、メッシュシート2を底面とする有底筒部10aが形成される。
図1の1022に示されるように、ピペットマン5等を用いて、細胞4を培地6中に懸濁した懸濁液を有底筒部10aに注入する。このとき、筒状載置部3bの内側面およびメッシュシート2に対する前記懸濁液の表面張力により、前記懸濁液は、メッシュシート2を通過せず、メッシュシート2上に保持される。そして、懸濁液中の細胞4をメッシュシート2に付着させることにより、メッシュシート2上に細胞4を播種する。
【0053】
その後、支持体ユニット10を容器20に収容する。そして、容器20を培地6で満たし、メッシュシート2に付着した細胞4の培養を行う。
【0054】
図1の1030に示されるように、メッシュシート2の開口を埋めるように、開口中心に向かって個々の細胞4同士が自発的に伸展しながら接着する。増殖能を保持した細胞4をメッシュシート2上で培養したとき、細胞4はメッシュシート2に対して水平方向だけでなく鉛直方向へも増殖する。その結果、メッシュシート2の開口を覆うように、細胞4からなる細胞層が単層または複数層形成された細胞シート200を得ることができる。メッシュシート2に播種する細胞4の量および/または細胞4の増殖速度を制御することにより、細胞シート200の厚さを制御可能である。細胞シート200は、メッシュシート2により支持されているため、頑丈であり、取り扱いやすい。
【0055】
また、細胞シート200は、細胞4からなる細胞層を少なくとも2つ有し、前記2つの細胞層の間に、細胞4を付着させて培養する基材であるメッシュシート2が配された構成となっている。すなわち、細胞シート200の両面が細胞4により構成されている。それゆえ、細胞シート200は、患部に対する貼付面が片方の面に限定されない。また、ディッシュや多孔膜を足場として利用した従来の細胞シートの製造方法と比較して、細胞シート製造装置100を用いた細胞シートの製造方法は、細胞4への栄養供給や細胞4の観察の点で優れている。また、メッシュシート2のようにパターン化された開口を有するシートを用いることにより、同様の構造(換言すれば性質)を有する細胞シート200を再現性高く得ることができる。
【0056】
図1の1040に示されるように、容器20は、ウェル21が複数形成されたプレートであってもよい。より具体的には、容器20は、12穴プレートである。この場合、土台3を備えた支持体ユニット10は、ウェル21に対し離接可能に収容されるように構成されている。
【0057】
図2は、細胞シート製造装置100の効果を説明するための図である。
図2の2010および2011に示されるように、支持体ユニット10は、容器20に対して離接可能に収容されているので、上下逆方向に裏返して土台3を容器20に収容しても、支持体ユニット10は使用可能である。それゆえ、支持体ユニット10を裏返すと、メッシュシート2上に形成された細胞シートも裏返るので、メッシュシート2上に形成された細胞シートの両面を顕微鏡7により容易に観察することができる。
【0058】
また、
図2の2020~2022に示されるように、細胞シート製造装置100を用いれば、複数種類の細胞層を有する細胞シートを作製することができる。より具体的には、細胞4aからなる第1細胞層と、細胞4aと種類が異なる細胞4bからなる第2細胞層とを有する細胞シートを作製することができる。まず、
図2の2020に示されるように、メッシュシート2上に細胞4aが播種された状態で、支持体ユニット10を培地6中に浸す。次いで、
図2の2021に示されるように、支持体ユニット10を上下逆になるように裏返す。このとき、メッシュシート2の細胞4aとは反対側の面が上側となる。それゆえ、上側からピペットマン5等を用いて細胞4bの懸濁液をメッシュシート2上へ滴下すれば、メッシュシート2の細胞4aと反対側の面にも細胞4bを播種することができる(
図2の2022参照)。このように、細胞シート製造装置100の構成によれば、細胞シートの表面および裏面のどちらの面に対しても、追加して細胞を播種することが可能である。なお、細胞シートの両面に細胞を容易に播種するという観点から、
図2の2020~2022に示されるように、好ましくは、環状部材1は、筒状載置部3bから突出して、土台3に取り付けられている。当該構成によれば、支持体ユニット10を裏返すと、環状部材1の内側面とメッシュシート2とにより、メッシュシート2を底面とする有底筒部10bが形成される。このため、有底筒部10bに細胞4bの懸濁液を注入することで、当該懸濁液がメッシュシート2上で安定して保持される。
【0059】
さらに、細胞シート製造装置100の構成によれば、支持体ユニット10から細胞シート200を容易に分離することができる。
図2の2030に示されるように、容器20内の培地中で細胞4を培養することにより、細胞4からなる細胞シート200を作製する。その後、
図2の2031に示されるように、支持体ユニット10を容器20から分離する。次いで、
図2の2032に示されるように、土台3の筒状載置部3bから環状部材1を取り外す。これにより、メッシュシート2に形成された細胞シート200は、例えばピンセット8等を用いて、土台3の筒状載置部3bから取り外すことが可能である。このような細胞シート製造装置100からの取り外しが容易な細胞シート200は、例えば、細胞シートを移植する際に便利である。
【0060】
(変形例1)
細胞シート製造装置100の変形例について、説明する。
図3は、変形例1としての細胞シート製造装置100Aの構成、および当該細胞シート製造装置100Aを用いた細胞シートの製造方法を示す図である。
図3の3010は、細胞シート製造装置100Aに備えられた土台3の構成例を示す斜視図である。また、
図3の3020~3024は、細胞シート製造装置100Aを用いた細胞シートの製造方法を示す図である。
図3の3030は、細胞シート製造装置100Aに備えられた蓋体9の構成を示す断面図である。細胞シート製造装置100Aは、大面積の細胞シートを製造することが可能である。
【0061】
図3の3010に示されるように、土台3は、直径3.5cmのディッシュ用(6穴プレート用)、直径6cmのディッシュ用、直径10cmのディッシュ用に設計することが可能である。すなわち、土台3の筒状載置部3bの直径を大きくすることによって、作製される細胞シートを大面積にすることができる。これに伴い、メッシュシート2の面積も大きくすればよい。
【0062】
変形例1の細胞シート製造装置100Aは、このような大面積のメッシュシート2上に懸濁液を保持し、大面積の細胞シートを製造するのに適した構成となっている。
図3の3021~3024に示されるように、細胞シート製造装置100Aの支持体ユニット10Aは、蓋体9を備えている。蓋体9は、メッシュシート2の一方の面2aを覆う構成となっている。蓋体9には、細胞4を含む懸濁液をメッシュシート2と蓋体9との間に注入する注入口9iが設けられている。より具体的には、蓋体9は、メッシュシート2における筒状載置部3bと接触する面2aを覆うように配置されている。メッシュシート2と蓋体9とは離間している。メッシュシート2と蓋体9との間に筒状載置部3bが配置されている。筒状載置部3bにより、メッシュシート2と蓋体9との間隔が一定に保持されている。
【0063】
ここで、メッシュシート2と蓋体9との間隔は、細胞4の懸濁液がメッシュシート2と蓋体9との両方に接触しながらメッシュシート2と蓋体9との間に注入されるように設定されている。メッシュシート2と蓋体9との間隔は、好ましくは1mm~3mm、より好ましくは1mm~2mm、特に好ましくは1mm~1.5mmに設定されている。
【0064】
換言すれば、蓋体9は、メッシュシート2と筒状載置部3bとにより形成された有底筒部10aを閉塞する部材である。蓋体9は、少なくとも第1層9aおよび第2層9bを含む積層構造であり得る。第1層9aは、メッシュシート2から最も遠い層であり、第2層9bは、メッシュシート2から最も近い層である。
図3の3030に示される構成では、蓋体9は、第1層9aおよび第2層9bからなる2層構造となっている。第1層9aを構成する材料としては、シリコーン樹脂等が挙げられる。また、第2層9bを構成する材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。なお、蓋体9は、第1層9aおよび第2層9bの何れかの単層構造であってもよい。
【0065】
細胞シート製造装置100Aを用いた細胞シートの製造方法では、まず、支持体ユニットをディッシュ22内に配置する。この支持体ユニットには、蓋体9が設けられていない。また、前記支持体ユニットは、メッシュシート2が筒状載置部3bよりも下側に位置するように上下逆に配置されている。このように支持体ユニット10を配置することにより、有底筒部10aが形成される。この有底筒部10aは、メッシュシート2と筒状載置部3bの内側面とにより形成され、メッシュシート2を底面とする(
図3の3020参照)。次いで、有底筒部10aの開放した上部を閉塞するように蓋体9を配置することにより、支持体ユニット10Aを作製する(
図3の3021参照)。
【0066】
次いで、ピペットマン5等を用いて、注入口9iから、細胞4を培地6中に懸濁した懸濁液を有底筒部10aに注入する(
図3の3022参照)。このとき、細胞4の懸濁液は、メッシュシート2と蓋体9との両方に接触しながら有底筒部10a内に注入される。このため、蓋体9およびメッシュシート2それぞれに対する前記懸濁液の表面張力により、前記懸濁液が重力によりメッシュシート2を通過して落下するのが防止される。このため、メッシュシート2が大面積であっても、蓋体9に対する前記懸濁液の表面張力により、前記懸濁液がメッシュシート2上に保持される(
図3の3023参照)。このように懸濁液中の細胞4をメッシュシート2に付着させることにより、メッシュシート2(例えば、大面積のメッシュシート2)に細胞4を均一播種することができる。
【0067】
その後、ディッシュ22全体を培地6で満たし、メッシュシート2に付着した細胞4の培養を行う(
図3の3024参照)。
【0068】
なお、上述した方法では、有底筒部10aに蓋体9を配置した後に細胞4の懸濁液を注入していた。しかし、細胞4の懸濁液を有底筒部10aに注入した後に、前記懸濁液がメッシュシート2から落下しないように蓋体9を設置してもよい。
【0069】
(変形例2)
細胞シート製造装置100の他の変形例について、説明する。
図4は、変形例2としての細胞シート製造装置100Bの構成、および当該細胞シート製造装置100Bを用いた細胞シートの製造方法を示す図である。
図4の4010は、細胞シート製造装置100Bに備えられた支持体ユニット10Bの構成を示す分解斜視図である。
図4の4020~4022は、細胞シート製造装置100Bを用いた細胞シートの製造方法を示す図である。
【0070】
細胞シート製造装置100Bは、変形例1と同様に、蓋体9を備え、大面積の細胞シートを製造することが可能である。細胞シート製造装置100Bでは、支持体ユニット10Bの構成が変形例1とは異なる。
図4の4010に示されるように、支持体ユニット10Bの土台3は、筒状載置部3bが土台本体3aから突出した構成ではない。筒状載置部3bは、土台本体3aに形成された開口部として設けられている。底面当接部3eは、土台本体3aに対して下方へ突出して設けられており、上方へは突出していない。また、側壁当接部3fは、土台本体3aから水平方向に伸びて設けられている。
【0071】
また、環状部材1は、筒状載置部3bの内径とほぼ同じ内径を有する。それゆえ、メッシュシート2は、環状部材1の下面と土台本体3aの上面とにより挟持される。
【0072】
また、蓋体9は、メッシュシート2における環状部材1と接触する面2bを覆うように配置されている。メッシュシート2と蓋体9とは離間している。メッシュシート2と蓋体9との間に環状部材1が配置されている。環状部材1により、メッシュシート2と蓋体9との間隔が一定に保持されている。蓋体9は、メッシュシート2と環状部材1とにより形成された有底筒部10bを閉塞する部材である。
【0073】
細胞シート製造装置100Bを用いた細胞シートの製造方法では、まず、支持体ユニット10Bをディッシュ22内に配置する。支持体ユニット10Bは、メッシュシート2が環状部材1よりも下側に位置するように配置されている。このように配置することにより、支持体ユニット10Bに有底筒部10bが形成される。この有底筒部10bは、メッシュシート2と環状部材1の内側面とにより形成され、メッシュシート2を底面とする(
図4の4020参照)。
【0074】
次いで、ピペットマン5等を用いて、注入口9aから、細胞4を培地6中に懸濁した懸濁液を有底筒部10aに注入し、メッシュシート2上に細胞4を播種する(
図4の4021および4022参照)。その後、ディッシュ22を培地6で満たし、細胞培養を行う。
【0075】
細胞シート製造装置100Bは、作製した細胞シートを支持体ユニット10Bから容易に分離できない構造となっている。しかし、ハサミやナイフを用いることにより、支持体ユニット10Bから細胞シートを切り取ることが可能である。
【0076】
本実施形態に係る細胞シート製造装置を用いて作製した細胞シートは、培地中で細胞シートの上面と下面との両面からの栄養供給が可能である。ディッシュ上で細胞シートを作製する従来の方法では、細胞シートの下面からの栄養供給が不可能であるため、上面からの栄養供給のみに頼って細胞を培養している。したがって、細胞シートの上面からの栄養供給が制限されるような状況では、細胞シート内部の細胞への栄養供給が不十分になることがある。
【0077】
細胞シートの上面からの栄養供給が制限される状況として、例えば、皮膚シートの作製時の状況がある。皮膚シート製造においては、線維芽細胞層(真皮層)の上に角化細胞層(表皮層)を形成させることにより皮膚シートを作製する場合がある。この場合、成熟した表皮細胞はタイトジャンクションを形成するため、皮膚シートの上部からの栄養供給が阻害される。したがって、ディッシュ上で細胞シートを作製する従来の方法では、線維芽細胞層と真皮層とからなる皮膚シートを作製することが困難である。
【0078】
図5は、本実施形態に係る細胞シート製造装置を用いて作製した皮膚シートの断面構造を示す模式図である。11は、死んだ角化細胞を示す。12は、上述したタイトジャンクションを示す。また、13は、角化細胞を示す。14は、皮膚線維芽細胞を示す。
図5に示されるように、本実施形態に係る細胞シート製造装置を用いて作製した皮膚シートは、上部の角化細胞13の層からの栄養供給が減少しても、下部の皮膚線維芽細胞14の層からの栄養供給が期待できる。このため、皮膚シートを構成している角化細胞13および皮膚線維芽細胞14により多くの栄養を供給することができる。
【0079】
また、他の従来技術として、多孔膜の上に複数の細胞層からなる皮膚シートを作製する方法が知られている。多孔膜を使用しているため、細胞シートの下面から、ある程度栄養が供給されると考えられる。しかし、この方法により作製した細胞シートは、そのまま移植に使用することは困難である。なぜなら、患部への移植に際し、表皮層の面と患部とを接触させるのではなく、真皮層の面と患部とを接触させながら、皮膚シートを移植する必要があるため、真皮層が多孔膜と表皮層との間に挟まれている細胞シートを移植に使用することはできないからである。一方、本実施形態に係る細胞シート製造装置を用いて作製した皮膚シートは、表皮層面だけでなく真皮層面も細胞が培地側に存在する、すなわち培地に露出している。このため、皮膚シートの真皮層面を患部へ貼付することが可能である。
【0080】
また、タイトジャンクション12は腸管細胞や血管内皮細胞などにも観察される。それゆえ、皮膚シート以外にも、タイトジャンクション12を形成する腸管細胞や血管内皮細胞などを含む細胞シートを培養および使用する際にも、本実施形態に係る細胞シート製造装置を利用できる。
【0081】
(変形例3)
細胞シート製造装置の変形例について、説明する。
図20および
図21は、変形例3としての細胞シート製造装置の支持体ユニット60を示す図である。なお、
図20および
図21では、細胞シート製造装置を構成する容器については、記載を省略している。
【0082】
本実施の形態の細胞シート製造装置は、土台3(保持部材)および環状部材1の少なくとも一方には、土台3と環状部材1とが分離しないように係止する係止部67が形成されており、土台3および環状部材1の何れか一方には、他方を押圧する押圧ピン65を貫通させるための貫通孔66が形成されており、他方の押圧により係止が解除され、土台3と環状部材1とが離間するように構成されている。なお、本実施の形態の細胞シート製造装置は、押圧ピン65を備えている構成であってもよいし、押圧ピン65を備えていない構成であってもよい。本実施の形態の細胞シート製造装置が押圧ピン65を備えていない構成である場合には、押圧ピン65を、細胞シート製造装置とは別の構成として準備すればよい。
【0083】
係止部67は、押圧ピン65によって土台3と環状部材1との係止が解除され得る構成であればよく、具体的な構成は限定されない。係止部67の具体的な構成としては、例えば、(i)土台3および環状部材1の少なくとも一方の表面に形成された、土台3と環状部材1との間で大きな摩擦力を発生させる摩擦力発生領域、(ii)土台3の表面に形成された凸部と、環状部材1の表面に形成された、上記凸部の押圧方向への移動を係止する係止凸部と、の組み合わせ、(iii)環状部材1の表面に形成された凸部と、土台3の表面に形成された、上記凸部の押圧方向への移動を係止する係止凸部と、の組み合わせ、および、(iv)上述した(ii)と(iii)との組み合わせ、を挙げることができる。摩擦発生領域は、例えば、土台3および環状部材1の少なくとも一方の表面に、所望の摩擦力を発生させ得る材料(例えば、ゴム)を貼付することによって形成することができる。
【0084】
貫通孔66は、土台3および環状部材1の何れか一方に形成されていればよいが、支持体ユニット60の扱い易さの観点から、土台3に形成されていることが好ましい。
【0085】
特定の貫通孔66に着目すると、土台3に当該貫通孔66が形成されている場合には、当該貫通孔66と対向する環状部材1の領域には貫通孔が形成されていない構成であり得、環状部材1に当該貫通孔66が形成されている場合には、当該貫通孔66と対向する土台3の領域には貫通孔が形成されていない構成であり得る。当該構成であれば、貫通孔66に押圧ピン65を貫通させれば、当該押圧ピン65によって、貫通孔が形成されていない方の構成(土台3または環状部材1)を効果的に押圧することができる。
【0086】
貫通孔66の形状および数は、限定されない。貫通孔66の形状としては、例えば、円柱状、および角柱状を挙げることができる。1つの保持部材、または、1つの環状部材あたりに形成される貫通孔66の数は、偶数個であってもよいし、奇数個であってもよいが、土台3または環状部材1の全体を略均等に押圧するという観点から、偶数個であることが好ましい。貫通孔66の数としては、例えば、1~10個、または、1~20個を挙げることができるが、土台3および環状部材1の大きさに基づいて、貫通孔66の数を適宜設定すればよい。
【0087】
より具体的に、
図20の20010および
図20の20011において、矢印の左側の図は、支持体ユニット60の斜視図である。後述する
図21にても詳細に示すように、土台3には、メッシュシート2を載置する筒状載置部3bが形成されており、メッシュシート2の周縁は、筒状載置部3bと環状部材1とにより挟持されている。なお、支持体ユニット60は、土台3または環状部材1の上に蓋体(図示せず)を備えていてもよい。
【0088】
図20の20010、および
図20の20011において、矢印の右側の図は、貫通孔66に押圧ピン65を貫通させて環状部材1を押圧することによって土台3と環状部材1との係止が解除された後の、支持体ユニット60の分解斜視図である。これらの図面では、土台3に貫通孔66が形成されており、かつ、当該貫通孔66と対向する環状部材1の領域には貫通孔が形成されていない。それ故に、貫通孔66に押圧ピン65を貫通させれば、当該押圧ピン65によって環状部材1が効果的に押圧され、土台3と環状部材1との係止が解除される。これらの図面では、土台3に対して、例示的に4個の貫通孔66が形成されている。これらの貫通孔66の各々に押圧ピン65を貫通させれば、環状部材1の全体を略均等に押圧することができる。
【0089】
図21の21010は、支持体ユニット60の上面図である。
図21の21011は、当該支持体ユニット60の「A-A」の位置における断面図であって、貫通孔66に押圧ピン65を貫通させた場合の、各構成の経時変化を示す断面図である。まず、
図21の21011の左側に示すように、矢印の方向に沿って、押圧ピン65を貫通孔66へ挿入させる。次いで、
図21の21011の中央に示すように、押圧ピン65が貫通孔66を貫通すると、押圧ピン65が環状部材1を下側へ向かって押圧する。最後に、
図21の21011の右側に示すように、押圧ピン65が環状部材1を下側へ向かって更に押圧することによって、土台3と環状部材1との係止が解除されて土台3と環状部材1とが離間し、その結果、筒状載置部3bと環状部材1とにより挟持されているメッシュシート2(具体的には、メッシュシート2の周縁)が取り外される。
【0090】
3.本実施形態に係る細胞シート製造装置の構成例2
本実施形態に係る細胞シート製造装置の構成例2について、説明する。
図6は、構成例2の細胞シート製造装置に備えられた支持体ユニット30の構成の概略を示す図である。
図6の6010~6013は、支持体ユニット30の組み立て手順を示す斜視図である。
図6の6020は、支持体ユニット30の概略構成を示す断面図である。
【0091】
図6の6010~6013、および6020に示されるように、支持体ユニット30は、メッシュシート2と、一対の枠体31および32と、クリップ33(挟持部材)と、保持部材34と、スペーサー35と、を備えている。保持部材34は、支持体ユニット30の本体を構成している。メッシュシート2と、一対の枠体31および32と、クリップ33とにより、メッシュ集合体Aが構成される。
【0092】
枠体31および32は、メッシュシート2を挟持することにより、メッシュシート2を補強する部材である。枠体31および32は、メッシュシート2の周縁を挟むように配置されている。また、枠体31および32は、保持部材34に対して取り外し可能に設けられている。
【0093】
また、
図6の6011に示されるように、クリップ33は、一対の枠体31および32を挟持することによって、メッシュシート2と一対の枠体31および32とを一体化させる部材である。このクリップ33による挟持により、枠体31および枠体32は、互いに分離せず、密着した状態で固定される。
【0094】
メッシュ集合体Aは、一対の枠体31および32の間にメッシュシート2を配置し、クリップ33により枠体31および32を固定することにより構築される(
図6の6010~6012参照)。
【0095】
保持部材34は、無底筒形状を有している。保持部材34の内径は、一対の枠体31および32の外径よりも大きくなっている。保持部材34の内壁の互いに対向する2つの部分それぞれには、メッシュ集合体Aを装着するための装着部34aが形成されている。装着部34aは、平板部34bおよび平板部34cを有する。平板部34bおよび34cは、互いに離間して、保持部材34の内壁から内側に水平方向へ突出して設けられている。メッシュ集合体Aの周縁部分が平板部34bおよび平板部34cの間に挿入されることにより、メッシュ集合体Aは保持部材34に装着される。また、保持部材34の上端には、水平方向に突出したつば34dが形成されている。
【0096】
メッシュ集合体Aが保持部材34に装着された状態では、メッシュ集合体Aと平板部34bとの間に隙間がある(
図6の6013参照)。スペーサー35は、メッシュ集合体Aと平板部34bとの間を埋める部材である。このスペーサー35により、メッシュ集合体Aは、保持部材34の装着部34a内での移動が係止される。このため、メッシュ集合体Aは、保持部材34内にて安定して保持されることになる。
【0097】
また、スペーサー35には、上方に突出して伸びる摘み35aが設けられている。保持部材34からメッシュ集合体Aを分離するに際し、使用者は、スペーサー35の摘み35aを摘んで、スペーサー35を保持部材34から取り外す。次いで、保持部材34からメッシュ集合体Aを分離する。
【0098】
図7は、構成例2としての細胞シート製造装置100Cの構成などを示した図である。
図7の7010~7012は、細胞シート製造装置100Cを用いた細胞シートの製造方法を示す図である。また、
図7の7020~7022、7030および7031は、細胞シート製造装置100Cの効果を説明するための図である。
【0099】
細胞シート製造装置100Cを用いた細胞シートの製造方法では、まず、容器23内に支持体ユニット30を収容する。このとき、メッシュ集合体Aが容器23の底面に最も近くなるように、支持体ユニット30を配置する(
図7の7010参照)。
【0100】
また、保持部材34のつば34dの下面は、容器23の上端面全体に当接している。また、保持部材34の外径は、容器23の内径に近い寸法になっている。そして、容器23に対し保持部材34が取り外し可能な程度に、保持部材34の外周面と容器23の内側面との間にクリアランスが形成されている。このような構成により、支持体ユニット30は、培地中で鉛直方向および水平方向の位置が一定となるように容器23に収容される。
【0101】
次いで、メッシュシート2上に細胞4を播種する(
図7の7011参照)。細胞4の播種方法は、細胞シート製造装置100を用いた方法と同様であるので、説明を省略する。
【0102】
次いで、容器23全体を培地6で満たし、メッシュシート2上に付着した細胞4の培養を行う。これにより、細胞シート200が作製される。
【0103】
次に、細胞シート製造装置100Cの効果について、説明する。上述したように、スペーサー35を保持部材34から取り外すことにより、メッシュ集合体Aは保持部材34から分離される。分離されたメッシュ集合体Aは、容易に、上下逆にして保持部材34に装着することができる。それゆえ、
図7の7020および7021に示されるように、メッシュシート2の上面および下面それぞれに種類の異なる細胞4aおよび4bを播種することができる。さらには、細胞シート200が形成された後、容易に集合体Aから細胞シート200を分離することができる。クリップ33を取り外すだけで枠体31および32は互いに分離しやすくなる。それゆえ、枠体31および32を分離すれば、細胞シート200を容易に取り出すことができる。また、
図7の7030および7031に示されるように、メッシュシート2の両面を顕微鏡7により観察することが可能である。
【0104】
また、細胞シート製造装置100Cでは、保持部材34のつば34dと容器23の上端面との当接により支持体ユニット30が容器23内に保持されている。つば34dは、培地6に接触しない部分である。また、スペーサー35の摘み35aも培地6に接触しない部分である。それゆえ、ピンセットを用いて支持体ユニット30を別の容器に移動するに際し、ピンセットによりスペーサー35を上方に移動させることで、ピンセットが培地6に触れることなく支持体ユニット30を移動することができる。さらに、容器23の比較的底部に近い位置にて細胞4を培養する場合には、支持体ユニット30を移動しても細胞4が容器23に接触することがない。
【0105】
なお、容器23の底面にて細胞4とは異なる細胞を培養した場合であっても、この細胞は、支持体ユニット30に接触することがない。つまり、細胞シート製造装置100Cにおいて、(i)支持体ユニット30のメッシュシート2上および(ii)容器23の底面に互いに異なる細胞を共培養したとき、容器23の底面に培養された細胞に支持体ユニット30は接触しない。さらに、支持体ユニット30が容器23の上側からインサートする構造であるため、容器23に対する支持体ユニット30の位置が安定する。
【0106】
4.本実施形態に係る細胞シート製造装置の構成例3
本実施形態に係る細胞シート製造装置の構成例3について、説明する。
図8は、構成例3の細胞シート製造装置100Dの構成を示す図である。
図8の8010および8020は、細胞シート製造装置100Dに備えられた支持体ユニット40の構成を示す像である。また、
図8の8030~8033は、細胞シート製造装置100Dを用いた細胞シートの製造方法を示す図である。
【0107】
支持体ユニット40は、ウェル24(容器)に対して離接可能に収容されるカラムの形態となっている。支持体ユニット40は、メッシュシート2と、カラム本体41と、を備えている。カラム本体41の下面がメッシュシート2によって構成されている。また、カラム本体41のつば部分をウェル24に乗せることにより、カラム本体41は、培地6中で鉛直方向および水平方向の位置が一定となるようにウェル24に収容される(
図8の8030参照)。なお、支持体ユニット40は、例えば、市販のTranswell(登録商標)のカラムから多孔質膜を除去し、メッシュシート2を貼り付けることにより作製され得る。
【0108】
細胞シート製造装置100Dを用いることにより、作製された細胞シートに対して液相-気相培養を行うことが容易になる。例えば、皮膚シートの製造においては、まず、
図8の8031に示されるように、メッシュシート2に皮膚線維芽細胞14を播種し、培地6中で培養する。次いで、
図8の8032に示されるように、生育した皮膚線維芽細胞14からなる層の上にさらに角化細胞13を播種し培地6中で培養することにより、皮膚シートが作製される。
図8の8033に示されるように、作製された皮膚シートは、皮膚線維芽細胞14が培地に接し、また、角化細胞13の一部が気体に接した状態での培養、すなわち、液相-気相培養が可能である。
【0109】
5.本実施形態に係る細胞シート製造装置の構成例4
本実施形態に係る細胞シート製造装置の構成例4について、説明する。
図9は、構成例3の細胞シート製造装置100Eの構成を示す図である。
図9の9010は、細胞シート製造装置100Eに備えられた支持体ユニット50の構成を示す斜視図である。また、
図9の9011は、細胞シート製造装置100Eの構成を示す像である。
【0110】
図9の9011に示されるように、細胞シート製造装置100Eでは、容器として、ウェル25aが複数形成されたウェルプレート26が使用される。
図9の9011に示された構成では、ウェルプレート26は、12穴プレートである。支持体ユニット50は、このようなウェルプレート26に対して離接可能に収容される。支持体ユニット50は、メッシュシート2と、カラム本体51と、を備えている。
【0111】
カラム本体51は、第1円環部51aと、足部51bと、第2円環部51cと、を有している。足部51bは、第1円環部51aと第2円環部51cとの間を連結する部分である。第1円環部51aと第2円環部51cとは、中心軸が一致するように配置されている。
【0112】
第1円環部51aの外径は、ウェルプレート25のウェル25aの内径よりも大きくなっている。また、第2円環部51cの内径は、第1円環部51aの内径よりも小さくなっている。第2円環部51cの底部は、メッシュシート2により閉塞している。
【0113】
細胞シート製造装置100Eにおいては、カラム本体51の第1円環部51aをウェル25aに乗せることにより、カラム本体51は、培地6中で鉛直方向および水平方向の位置が一定となるようにウェル25aに収容される。また、細胞の懸濁液は、第2円環部51cの内側面および足部51bの内側面とメッシュシート2とにより形成された空間に注入される。
【0114】
また、細胞シート製造装置100Eでは、カラム本体51の第1円環部51aをウェル25aに乗せることにより、支持体ユニット50がウェル25a内に保持されている。第1円環部51aは、培地6に接触しない部分である。それゆえ、ピンセットを用いて支持体ユニット50を別のウェル25aに移動するに際し、ピンセットにより第1円環部51aを摘まむことで、ピンセットが培地6に触れることなく支持体ユニット50を移動することができる。さらに、ウェル25aの比較的底部に近い位置にて細胞を培養する場合には、支持体ユニット50を移動しても細胞4がウェル25aに接触することがない。なお細胞シート製造装置100Eにおいて、(i)支持体ユニット50のメッシュシート2上および(ii)ウェル25aの底面に、互いに異なる細胞を共培養したとき、ウェル25aの底面に培養された細胞に支持体ユニット50は接触しない。
【0115】
また、細胞シート製造装置100Eでは、メッシュシート2の位置は、第1円環部51aおよび足部51bによって安定に保持されている。それゆえ、細胞シート製造装置100Eによれば、ウェル25a内での支持体ユニット50の鉛直方向および水平方向の位置が、より安定に保持される。
【0116】
〔まとめ〕
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る細胞シート製造装置は、細胞を培養するための培地を収容する容器と、前記細胞を付着させて培養する基材であるメッシュシートと、当該メッシュシートを前記容器の底面から浮くように保持する保持部材と、を有し、前記容器に離接可能に収容されている支持体ユニットと、を備え、前記支持体ユニットは、前記培地中で鉛直方向および水平方向の位置が一定となるように前記容器に収容されていることを特徴としている。
【0117】
上記の構成によれば、前記支持体ユニットは、容器に離接可能に収容されている。このため、使用者は、前記支持体ユニットを、容器から取り出して裏返した後、再び、容器に収容することによって、前記支持体ユニットを容易に裏返しにすることができる。前記支持体ユニットが裏返ると、前記支持体ユニットの保持部材に保持されたメッシュシート上に形成された細胞シートも裏返る。それゆえ、上記の構成によれば、前記メッシュシート上に形成された細胞シートの両面を顕微鏡で容易に観察することができる。
【0118】
さらに、支持体ユニットは、培地中で鉛直方向および水平方向の位置が一定となるように容器に収容されているので、顕微鏡による細胞シートの観察中に、メッシュシートの容器内の位置、換言すれば、メッシュシート上に形成された細胞シートの位置が、変化することがない。それゆえ、上記の構成によれば、細胞シートを精密に観察することができる。
【0119】
本発明の一態様に係る細胞シート製造装置では、前記保持部材は、前記メッシュシートを取り外し可能に保持することが好ましい。
【0120】
上記の構成によれば、前記メッシュシート上に形成された細胞シートを容易に支持体ユニットから分離することができる。
【0121】
本発明の一態様に係る細胞シート製造装置では、前記保持部材には、前記メッシュシートを載置する筒状載置部が形成されており、前記支持体ユニットは、前記筒状載置部の外周を取り囲む形状を有し、前記保持部材に対して取り外し可能に設けられた、環状部材を備え、前記メッシュシートの周縁は、前記筒状載置部と前記環状部材とにより挟持されていることが好ましい。
【0122】
上記の構成によれば、環状部材を保持部材に取り付けることによって、メッシュシートの周縁を筒状載置部と環状部材とにより挟持させ、これによってメッシュシートを筒状載置部に安定的に載置することができる。一方、環状部材を保持部材から取り外すことによって、筒状載置部と環状部材とにより挟持されているメッシュシートの周縁を解放し、これによって筒状載置部に載置されたメッシュシートを容易に取り外すことができる。
【0123】
本発明の一態様に係る細胞シート製造装置では、前記保持部材および前記環状部材の少なくとも一方には、前記保持部材と前記環状部材とが分離しないように係止する係止部が形成されており、前記保持部材および前記環状部材の何れか一方には、他方を押圧する押圧ピンを貫通させるための貫通孔が形成されており、前記他方の押圧により前記係止が解除され、前記保持部材と前記環状部材とが離間することが好ましい。
【0124】
上記の構成によれば、貫通孔に押圧ピンを挿入し、前記保持部材または前記環状部材を、押圧ピンにて押圧することにより、保持部材と環状部材との係止が解除され、これによって筒状載置部に載置されたメッシュシートを容易に取り外すことができる。
【0125】
本発明の一態様に係る細胞シート製造装置では、前記支持体ユニットは、前記保持部材に対して取り外し可能に設けられ、前記メッシュシートの周縁を挟むように配された一対の枠体と、前記一対の枠体を挟持することによって、前記メッシュシートと前記一対の枠体とを一体化させる挟持部材と、を備えていることが好ましい。
【0126】
上記の構成によれば、メッシュシートの周縁を挟むように配された一対の枠体が保持部材に対して取り外し可能に設けられているので、一対の枠体を保持部材から分離することによって、一対の枠体に保持された前記メッシュシートを容易に取り外すことができる。
【0127】
本発明の一態様に係る細胞シート製造装置では、前記保持部材は、前記培地よりも比重が大きいことが好ましい。
【0128】
上記の構成によれば、保持部材は、培地よりも比重が大きいので、培地中での、保持部材、および、保持部材に保持されたメッシュシート上に形成された細胞シートの鉛直方向および水平方向の位置が安定に維持される。
【0129】
本発明の一態様に係る細胞シート製造装置では、前記支持体ユニットは、前記メッシュシートの一方の面を覆う蓋体であって、前記細胞を含む懸濁液を前記メッシュシートと前記蓋体との間に注入する注入口が設けられた蓋体を備え、前記懸濁液が前記メッシュシートと前記蓋体との両方に接触しながら前記メッシュシートと前記蓋体との間に注入されるように、前記蓋体と前記メッシュシートとの間隔が設定されていることが好ましい。
【0130】
上記の構成によれば、懸濁液がメッシュシートと蓋体との両方に接触しながらメッシュシートと蓋体との間に注入されるように、蓋体とメッシュシートとの間隔が設定されている。この場合、細胞を含む懸濁液がメッシュシートを通過してメッシュシートの下側へ移動することを抑制しながら、当該懸濁液を横方向へ広げることができる。それゆえ、メッシュシートの面積を大きくしても、細胞を含む懸濁液をメッシュシート上に均一に広げることができ、大面積のメッシュシートを用いた細胞培養を容易に行うことができる。
【0131】
本発明の一態様に係る細胞シート製造装置では、前記メッシュシートの開口部は、一方向に伸長した形状であることが好ましい。
【0132】
上記の構成のようにメッシュシートの開口部が一方向に伸長した形状である場合、開口部は、一方向へ長く伸びた大きな壁面を有することになる。当該壁面に接着して増殖する細胞の数は多く、かつ、同様の配向性を有して増殖するので、上記の構成によれば、増殖する細胞の配向性を開口部の伸長方向へ制御することができる。
【0133】
本発明の一態様に係る細胞シートは、細胞層を少なくとも2つ有し、前記2つの細胞層の間に、細胞を付着させて培養する基材であるメッシュシートが配されたことを特徴としている。
【0134】
上記の構成によれば、細胞シートの厚さを十分に確保でき、細胞シートの強度を向上させることができる。また、上記の構成によれば、複数種類の細胞層を有する細胞シートを提供することができる。
【実施例】
【0135】
〔実施例1:構成例1の細胞シート製造装置を用いた細胞培養〕
<支持体ユニット10の作製>
12穴プレートに収容される土台3の設計図を作成し、当該設計図を基に、3DプリンタAGILISTA-3200(キーエンス)を用いて土台3を作製した。ラボコータ PDS-2010(日本パリレン)を用いて、生体適合性に優れたパリレン(DPXC, CAS No.28804-46-8)(日本パリレン)で3Dプリント造形物(土台3)を被覆した。メッシュシート2は、ポリエステル製マイクロメッシュシート(AG00Z3N9)(天池合繊)を使用した。
【0136】
また、環状部材1は、PDMS(ポリジメチルシロキサン)(商品名:SILPOT 184,東レ・ダウコーニング)からなる2mmの板を用いて作製した。2mmのPDMS板の作製方法は、次の通りである。まず、主剤と硬化剤とを10:1の比率で混合させたPDMS溶液を厚さ2mmになるようにディッシュに流し込み、その後、加熱し硬化させた。完成した厚さ2mmのPDMS板に対して、直径8mmおよび直径6mmの2つの生検トレパン(カイインダストリーズ)を用いて、リング(外径8mm、内径6mm)を作製した。
【0137】
上記のように作製した環状部材1、メッシュシート2、および土台3を70%エタノールで洗浄し風乾した後、クリーンベンチの中で組み立て、支持体ユニット10を完成させた。完成した支持体ユニット10に対してUV処理を30分間行った後、12穴プレートの各ウェルへ支持体ユニット10を収容した。
【0138】
<細胞培養条件>
ヒト肺由来正常線維芽細胞であるTig-1-20細胞(製品番号 JCRB0501)はJCRB細胞バンク(大阪)から入手した。10%牛胎児血清(FBS)(GIBCO)と100units/mLペニシリンと100μg/mLストレプトマイシン(GIBCO)とを含有したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)(GIBCO)を用いて、Tig-1-20細胞を培養した。Tig-1-20細胞は、37℃、5%二酸化炭素(CO2)条件下のインキュベータ内で培養した。
【0139】
HepG2細胞(製品番号RCB1886)は、理化学研究所バイオリソースセンター(RIKEN BRC)から入手した。10%牛胎児血清(FBS)(GIBCO)と100units/mLペニシリンと100μg/mLストレプトマイシン(GIBCO)とを含有したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)(GIBCO)を用いて、HepG2細胞を培養した。HepG2細胞(製品番号RCB1886)は、37℃、5%二酸化炭素(CO2)条件下のインキュベータ内で培養した。
【0140】
ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(Human Mesenchymal Stem Cells from Adipose Tissue)は、Promo Cell社から購入した。間葉系幹細胞増殖培地2(Promo Cell社)を用いて、ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞を培養した。ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞は37℃、5%二酸化炭素(CO2)条件下のインキュベータ内で培養した。
【0141】
<細胞播種と顕微鏡観察>
支持体ユニット10のメッシュシート2(直径4mm円領域)上に、0.5×105個(1×106cells/mLを50μL)のTig-1-20細胞、HepG2細胞、または間葉系幹細胞を播種した。播種5時間後に、支持体ユニット10が入ったウェルへ培地3mLを加えた。培地は、3日に1度交換した(3mL/well)。デジタル顕微鏡もしくは倒立位相差顕微鏡を用いて、細胞の写真を撮った。
【0142】
16日間培養した、Tig-1-20細胞シート、HepG2細胞シート、および間葉系幹細胞シートを、光干渉式断層撮像システムCell3imager Estier(SCREENホールディングス)を用いて解析した。
【0143】
Tig-1-20細胞に関しては、細胞播種の前にメッシュシート2をコラーゲン溶液で被覆した。より具体的には、コラーゲン酸性溶液I-AC 5mg/mL(高研)を1mM HCl溶液で15倍希釈し、その希釈済コラーゲン溶液50μLをメッシュシート2の上に乗せた。そして、37℃で30分間静置した後、希釈済コラーゲン溶液を除去した。そして、PBS(-)で2回洗浄し、細胞播種時まで37℃インキュベータ内で保管した。
【0144】
<結果>
図10の1010は、細胞播種1日後の支持体ユニット10の顕微鏡画像である。50μLの細胞懸濁液はしっかりとメッシュシート2上に保持されていた(左図)。泡が隙間に生じるなどのトラブルが起きることなく、培地をウェルへ加えることができた(中央図)。さらに、支持体ユニット10を上下逆に裏返すこともできた(右図)。
【0145】
メッシュシート2の上で、Tig-1-20細胞、HepG2細胞、および間葉系幹細胞を培養できることを確認した(
図10の1011)。Tig-1-20細胞は、メッシュシート2への接着が弱いため、メッシュシート2をコーティング溶液で被覆した。コラーゲン溶液でコーティングすることにより、5時間後に培地を添加しても細胞シートがメッシュから離れることが無いことが確認された。
【0146】
また、16日間培養した、Tig-1-20細胞シート、HepG2細胞シート、および間葉系幹細胞シートを光干渉式断層撮像システムで解析した結果を
図11に示す。
図11に示されるように、Tig-1-20細胞シート表面と間葉系幹細胞シート表面とは平たんであったのに対し、HepG2細胞シートは平たんでないことが分かった。片側からの光干渉式断層撮像システム解析では、HepG2細胞シートおよび間葉系幹細胞シートは、メッシュシート2平面辺りまでは綺麗に解析できた。Tig-1-20細胞シートはそれらの細胞シートよりも薄かったため、片側からの観察により細胞シート表面が解析できた(
図11)。
【0147】
〔実施例2:構成例1の細胞シート製造装置を用いた3種類の細胞からなる細胞シートの作製〕
<細胞培養条件>
細胞培養条件は実施例1と同じである。
【0148】
<支持体ユニット10のメッシュシート2上への細胞播種>
支持体ユニット10(12穴ウェル用)のメッシュシート2をコラーゲンでコーティングした。その後、このメッシュシート2に対して、CellBrite Green Cytoplasmic Membrane-Labeling Kit(80倍希釈;Biotium,Inc.)で染色したTig-1-20細胞を4×105個(1x107cells/mLを40μL)播種した。5時間後、ウェルにFBS含有DMEM培地を3mL加えた。2日後、Tig-1-20細胞の上から、CellBrite Red Cytoplasmic Membrane-Labeling120倍希釈;Biotium,Inc.)Kitで染色した間葉系幹細胞(MSC)を4×105個(1.6×107cells/mLを25μL)播種した。そして、培地は、間葉系幹細胞用培地に置換した。翌日、支持体ユニット10を上下逆に裏返し(逆に設置し)、Tig-1-20細胞の上から0.025mg/mL DiI(1,1’-dioctadecyl-3,3,3’,3’-tetramethylindocarbocyanine perchlorate)で染色したHepG2細胞を4×105個(1.6×107cells/mLを25μL)播種した。翌日、PBS(-)で細胞を洗浄し、4%PFAに浸し室温で50分間静置した。PBS(-)で洗浄後、封入剤VECTASHIELD (VECTOR)と共に細胞シートをカバーガラスとスライドガラスの間に固定した。詳細には、カバーガラスにより細胞シートが潰れるのを防ぐために、約100ミクロンの厚さのカプトンテープを3枚重ねたものをカバーガラスとスライドガラスの間に置いた。固定した細胞シートを共焦点顕微鏡LSM 800(ZEISS)で解析した。
【0149】
<結果>
図12の1210~1212は、本実施例の結果を示す。
図12の1210~1212に示されるように、Tig-1-20細胞シートの上に間葉系幹細胞シートを作製することができた。さらに、Tig-1-20細胞シートの下にHepG2細胞シートを作製することができた。全体的な細胞シートの厚さは、約140-150μmほどだった。この結果、(i)支持体ユニット10の上下の両側から細胞を播種できること、(ii)複数種類の細胞から成る細胞シートを作製できることが示された。
【0150】
〔実施例3:構成例2の細胞シート製造装置を用いたヒト皮膚線維芽細胞の培養〕
<支持体ユニット30の作製>
支持体ユニット30のメッシュシート2以外の各種部材は、3DプリンタAGILISTA-3200を用いて作製した。作製した上記各種部材は、パリレン(DPXC, CAS No. 28804-46-8)で被覆した。メッシュシート2は、ポリエステル製マイクロメッシュシート(AG00Z3N9)(天池合繊)を使用した。対照群として、Transwell(登録商標)に使用されていた多孔膜(トランズウェルポリカーボネートメンブレン、0.4μm pore size、コーニング社)をメッシュシート2の代わりに装着した支持体ユニット30も作製した。
【0151】
<細胞培養条件>
正常ヒト成人皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts:NHDF)は、Promo Cell社から購入し、線維芽細胞増殖培地2(Promo Cell社)を用いて培養した。正常ヒト成人皮膚線維芽細胞は、37℃、5%二酸化炭素(CO2)条件下のインキュベータ内で培養した。
【0152】
<細胞播種と顕微鏡観察>
NHDFを1.65×10
6個(3×10
6cells/mLを550μL/シート)で支持体ユニット30のメッシュシート2に播種した。約18時間後に培地を加えた。3日に1回培地交換を行い、14日間培養した(6mL/well)。細胞の倒立位相差顕微鏡画像(
図11A)を撮った。また、HE染色切片を作製し(新組織科学)、細胞シートの断面図をBZ-X710 All-in-one(キーエンス)を用いて撮影した(
図13の1311)。
【0153】
<結果>
結果を
図13の1310および1311に示す。NHDFはメッシュシート2の目開きを埋める形で存在し、メッシュシート2のメッシュ糸を覆うように存在していた。メッシュシート2で作製した細胞シートと多孔膜で作製した細胞シートとの両方とも、細胞シート表面は均一で滑らかであった。メッシュシート2で作製した細胞シートは、多孔膜で作製した細胞シートと異なり細胞シートの下面は細胞が露出している。このため、栄養の供給や細胞観察に優れるとともに、移植医療の際の細胞シートの貼付にも優れていると考えられた。
【0154】
〔実施例4:構成例2の細胞シート製造装置を用いたTig-1-20細胞の培養〕
<支持体ユニット30の作製>
本実施例の支持体ユニット30の作製方法は、実施例3と同じである。しかし、本実施例の支持体ユニット30は、保持部材34の構造のみが実施例3と一部異なる。本実施例では、保持部材34には、外側から内側へ培地を流れやすくするための空隙がない(
図14の1410参照)。
【0155】
また、Tig-1-20細胞の培養条件(培地の組成)は実施例1と同じである。しかし、本実施例では、メッシュシート2のコーティングはしていない。
【0156】
<Tig-1-20細胞の播種と顕微鏡観察>
CellBrite Green Cytoplasmic Membrane-Labeling Kit (100倍希釈; Biotium, Inc.)で染色した、あるいは染色していない4×106個(8×106cells/mLを500μL/mesh)のTig-1-20細胞を、<支持体ユニット30の作製>にて作製した支持体ユニット30のメッシュシート2上に播種した。そして、17時間後に6mLの培地をウェルに加えた。その3日後に1度培地交換を行った。培養開始6日目に、作製した細胞シートを洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で細胞を固定し、洗浄後にDAPI(4’,6-diamidino-2-phenylindole)を含む封入剤VECTA中に固定した。共焦点顕微鏡LSM 800(ZEISS)を用いて固定した細胞シートを解析した。一方で、4%PFAと1%ホルムアルデヒドとにより固定した蛍光染色していない細胞シートのHE染色切片を作製し(新組織科学)、断面図をBZ-X710 All-in-one (キーエンス)で撮影した。
【0157】
<ヒトiPS細胞由来心筋細胞の播種と顕微鏡観察>
上記の実験にて解析に用いなかったTig-1-20細胞シート(6日間培養)の上からヒトiPS細胞由来心筋細胞を追加で播種するために、ウェル内の培地を4mLのMiraCell CM Culture Mediumに置換した。0.025 mg/mL DiI(1,1’-dioctadecyl-3,3,3’,3’-tetramethylindocarbocyanine perchlorate)で染色した1.8×105個のヒトiPS細胞由来心筋細胞を播種した。約16時間後に2mLの培地を追加した。その後、Tig-1-20細胞と共に3日間培養し、上記と同様に細胞を固定し、共焦点顕微鏡で解析した。
【0158】
<結果>
結果を
図14の1420~1423に示す。
図14の1420に示すように、Tig-1-20細胞はマイクロメッシュシートの目開きの形に従って配向していた。すなわち長方形の目開きの長辺に対してほぼ平行に配向していた。マイクロメッシュシート平面以外の場所にある細胞、すわなち、マイクロメッシュシート平面の上もしくは下の平面にある細胞も、マイクロメッシュシート平面にある細胞と同じ方向に配向していた。細胞シートの厚さは50μmほどだった(
図14の1421)。また、ヒトiPS細胞由来心筋細胞をTig-1-20細胞シートの上から追加で播種した結果、心筋細胞もTig-1-20細胞と同じ方向へ配向した。これらの結果から、マイクロメッシュシートを用いた細胞培養を行うことにより3次元細胞シートの配向性を制御できる場合があることが示された(
図14の1422および1423)。
【0159】
〔実施例5:変形例2の細胞シート製造装置を用いたTig-1-20細胞の培養〕
<方法>
<支持体ユニット10Bの作製および細胞培養条件>
環状部材1および土台3は、3DプリンタAGILISTA-3200を用いて作製した。そして、パリレン(DPXC, CAS No.28804-46-8 )により、作製した環状部材1および土台3を被覆した。メッシュシート2は、ポリエステル製マイクロメッシュシート(AG00Z3N9)(天池合繊)を使用した。メッシュシート2を環状部材1と土台3とにより挟み、PDMS溶液を用いて接着させた。完成した支持体ユニット10Bに対してエタノール処理およびUV処理を行った後、支持体ユニット10Bを10cmのディッシュ22に入れた。実験に使用した支持体ユニット10Bにおいて、1mmのPDMS板を用いてディッシュ22の底面からメッシュシート2までの距離を調節し、2.5mmになるようにした(
図15の1510)。
【0160】
Tig-1-20細胞の培養条件(培地の組成)は、実施例1と同様であるが、メッシュシート2のコーティングはしていない。
【0161】
<Tig-1-20細胞の播種と顕微鏡観察>
最初に、3mLのTig-1-20細胞(6x105cells/mL)をメッシュシート2の上に乗せた。その後、上から蓋体9を乗せた。そして、蓋体9の注入口9iから5mLの細胞懸濁液を加え、蓋体9とメッシュシート2との間隙を細胞懸濁液で充填した。細胞播種の3日後、支持体ユニット10Bが入った10cmのディッシュ22に25mLの培地を加えた後で、蓋体9を除去した。3日に1度培地交換を行い(35mL培地/ディッシュ)、細胞播種から14日後に培養を終了した。
【0162】
図15の1511に示されるように、ナイフを用いて支持体ユニット10Bから細胞シートを切り取った。切り取った細胞シートの一部をphosphate buffered saline(PBS)(-)で洗浄後、4%PFAで20分間処理し、DiIで染色した(37℃、1時間)。PBS(-)で洗浄後、DAPIを含んだ封入剤VECTASHIELD(VECTOR)と共に細胞シートをカバーガラスとスライドガラスとの間に固定した。固定した細胞シートを共焦点顕微鏡LSM 800(ZEISS)で解析した。
【0163】
支持体ユニット10Bにより作製した細胞シートの一部は、PBS(-)で洗浄後、4%PFAで20分間処理して固定した。次に、50%,55%,60%,65%,70%,75%,80%,85%,90%,95%,約100%のエタノールで各5分間処理し、その後風乾した。そして、低真空走査電子顕微鏡Miniscope TM3030Plus (日立)を用いて細胞シートを観察した。
【0164】
支持体ユニット10Bで培養した細胞シートを構成している細胞の生存率を調べた。支持体ユニット10Bから切り取った細胞シートの約半分をPBS(-)で洗浄し、0.05%トリプシン-EDTAで7分間処理し(37℃)、トリプシンを除去後、培地10mLに懸濁した。細胞の生存率は、Countess II Automated Cell Counter (Thermo Fisher Scientific)を用いて計測した。
【0165】
<結果>
結果を、
図15の1512、
図16の1611および1612、並びに
図17の1711および1712に示す。支持体ユニット10Bを用いてTig-1-20細胞を14日間培養した(
図15の1512)。共焦点顕微鏡で細胞シートの断面を解析した結果、厚さはおよそ40-45μmであった(
図16の1611および1612)。Tig-1-20細胞は、メッシュシート2の目開きの形に従って配向していた。すなわち、長方形の目開きの長辺に対してほぼ平行に配向していた。メッシュシート2の平面に無い細胞も、同じ方向に配向していた。
【0166】
電子顕微鏡で細胞シートを観察するために細胞シートをエタノール処理した。この処理により細胞シートが収縮し薄くなってしまった可能性があるが、メッシュシート2の開口部を細胞が隙間なく埋めていることが確認された(
図17の1711)。トリプシン-EDAT溶液とトリパンブルー溶液を用いて、支持体ユニット10Bで作製した3次元細胞シートを構成している細胞の生存率を調べた結果、約92%の細胞が生存していることが分かった
図17の1712。すなわち、3次元培養であっても多くの細胞が生存していた。
【0167】
〔実施例6:構成例4の細胞シート製造装置を用いたHepG2細胞の培養〕
<方法>
<支持体ユニット50の作製>
支持体ユニット50のカラム本体51は、3DプリンタAGILISTA-3200を用いて作製した。そして、パリレン(DPXC, CAS No.28804-46-8)により、作製したカラム本体51を被覆した。メッシュシート2は、ポリエステル製マイクロメッシュシート(AG00Z3N9)(天池合繊)を使用した。PDMS溶液を用いてメッシュシート2をカラム本体51に接着させた。完成した支持体ユニット50をエタノール処理し風乾した後、ウェルプレート25(12穴プレート)のウェル25aへ入れてUV処理を行った。
【0168】
<細胞培養条件>
HepG2細胞(製品番号RCB1886)は、理化学研究所バイオリソースセンター(RIKEN BRC)から入手した。10%牛胎児血清(FBS)(GIBCO)と100units/mLペニシリンと100μg/mLストレプトマイシン(GIBCO)とを含有したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)(GIBCO)を用いて、HepG2細胞を培養した。細胞は37℃、5%二酸化炭素(CO2)条件下のインキュベータ内で培養した。
【0169】
<細胞播種および細胞観察>
1×105個(2×x106cells/mL×50μL/mesh)のHepG2細胞を支持体ユニット50のメッシュシート2上(φ4mmの円)に播種した。細胞播種の6時間後に、ウェル25aに培地を2mL加えた。培地は2日に1度交換した(2mL/well)。コントロールとして、1×105個のHepG2細胞をウェルプレート25(12穴プレート)のウェル25aへ播種した。
【0170】
<遺伝子発現解析>
培養開始から10日目にHepG2細胞からRNAを抽出した。RNAの抽出はTRIzol RNA Isolation Reagents(Thermo Fisher Scientific)を用いて行い、抽出したRNAとReverTra Ace qPCR RT Kit(東洋紡)を用いてcDNAを合成した。得られたcDNAサンプル、DNAプライマー、PowerUp SYBR Green Master Mix(APPLIED BIOSYSTEMS)、およびQuantStudio 5 Real-Time PCR System(APPLIED BIOSYSTEMS)を用いて遺伝子発現解析を行った。ヒト肝臓の成熟マーカーとして知られているアルブミンおよび薬物代謝酵素CYP1A2の遺伝子の発現レベルを解析した。各遺伝子の発現レベルは、ハウスキーピング遺伝子として知られている18SrRNAの発現レベルを用いて標準化した。値は平均±SE(N=3)。
【0171】
<結果>
図18の1810にHepG2細胞の顕微鏡画像を示す。HepG2細胞は6時間以内にメッシュシート2に接着した。
図18の1811に遺伝子発現解析の結果を示す。HepG2細胞を通常のウェル(2D)上で培養した時と比較して、支持体ユニット50のメッシュシート2上(Mesh)で培養をした時の方がアルブミンおよびCYP1A2の遺伝子の発現量が高かった。
【0172】
〔実施例7:構成例4の細胞シート製造装置を用いたヒトiPS細胞由来心筋細胞の培養〕
<方法>
<細胞培養条件>
ヒトiPS細胞由来心筋細胞(MiraCell Cardiomyocytes from ChiPSC12,タカラ)は、製品説明書に従ってMiraCell CM Culture Mediumを用いて37℃、5%CO2存在下で培養した。ヒトフィブロネクチンがコーティングされたディッシュの上で培養した。
【0173】
<細胞播種および細胞観察>
細胞播種の前に、支持体ユニット50のメッシュシート2をヒトフィブロネクチンでコーティングした。PBS(+)で20倍希釈したフィブロネクチン溶液(最終濃度0.05mg/mL)を調整した。50μLの希釈済フィブロネクチン溶液をメッシュシート2の上に乗せて、37℃で1時間以上静置した。
【0174】
フィブロネクチン溶液を除去し、2×104個(4×105cells/mL×50μL/mesh)の心筋細胞を支持体ユニット50のメッシュシート2上(φ4mmの円)に播種した。6時間後にウェル25aに培地を2mL入れて心筋細胞を培養した。培地交換は2日に1度行った(2mL/well)。
【0175】
<結果>
結果を
図19に示す。支持体ユニット50のメッシュシート2上に心筋細胞が接着し増殖することを確認した。心筋細胞は8日間培養しても拍動能を保持していた。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明は、再生医療や移植などに使用される細胞シートの作製に利用することができる。
【符号の説明】
【0177】
1 環状部材
2 メッシュシート
3 土台(保持部材)
3b 筒状載置部
4、4a、4b 細胞
9 蓋体
9a 注入口
10、10A、10B、30、40、50、60 支持体ユニット
20、23 容器
21、24、25a ウェル(容器)
22 ディッシュ(容器)
25、26 ウェルプレート(容器)31、32 枠体
33 クリップ(挟持部材)
41、51 カラム本体(保持部材)65 押圧ピン
66 貫通孔
67 係止部
100、100A、100B、100C、100D、100E 細胞シート製造装置
200 細胞シート