(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】木管楽器用マウスピース向け音質改善部または音質改善体
(51)【国際特許分類】
G10D 9/02 20200101AFI20230629BHJP
【FI】
G10D9/02
(21)【出願番号】P 2023505998
(86)(22)【出願日】2022-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2022036879
【審査請求日】2023-01-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年10月12日に、https://youtu.be/So8-EMZKhXAにおいて、令和4年2月25日に、https://www.gottsu-japan.com/products-japanese/sepia-tone-vintage-signature/、https://www.gottsu-japan.com/home-english/products-en/sepia-tone-vintage-signature-english/において、令和4年3月8日に、https://youtu.be/-W4SvVHNy8sにおいて、それぞれ、電気通信回線を通じて発表。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523029777
【氏名又は名称】株式会社 GOTTSU
(74)【代理人】
【識別番号】100102738
【氏名又は名称】岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 将彦
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-028706(JP,A)
【文献】米国特許第05289753(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 7/00-11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リードの裏面の一方の端部側を当接固定するテーブル面と、テーブル面からティップに向かって傾斜状に延びるフェイシングとを有し、くわえ部側において、裏面の他方の端部との間にティップオープニングを形成することにより、リードを片持ち梁状に上下振動させて発音可能とする木管楽器用マウスピースの外周側面に対して、マウスピースの長手方向のまわりに環状に設けられる木管楽器用マウスピース向け
音質改善体であって、
該音質改善体の外周側面には、各々平面または曲面からなる多面部からなる不規則模様が環状に形成され、互いに隣接する多面部は、マウスピースと同心状の同一円筒面内に包含されないように凹凸状に設けられる、
ことを特徴とする木管楽器用マウスピース向け
音質改善体。
【請求項2】
前記不規則模様は、槌目模様である、請求項1に記載の木管楽器用マウスピース向け
音質改善体。
【請求項3】
前記不規則模様は、梨地模様である、請求項1に記載の木管楽器用マウスピース向け
音質改善体。
【請求項4】
前記凹凸の高さの差は、0.1ミリ以上に設定される、請求項1に記載の木管楽器用マウスピース向け
音質改善体。
【請求項5】
前記多面部の各々は、曲面上で多角形を構成し、互いに隣接する多面部は、多角形の辺を共有する、請求項1に記載の木管楽器用マウスピース向け
音質改善体。
【請求項6】
前記音質改善体は、締め付けタイプの純銀製リガチャーであって、両端部それぞれに、対向するネジ穴が設けられ、対向するネジ穴にねじ込み可能な金属製ねじ込み部を有し、厚みが1ミリないし3ミリの純銀製平板を鍛造により不規則模様を形成する前記多面部を形成し、純銀製平板を環状に曲げ加工する、請求項1に記載の木管楽器用マウスピース向け
音質改善体。
【請求項7】
前記純銀製リガチャーの幅は、リードの横幅の80%以上に設定される、
請求項6に記載の木管楽器用マウスピース向け
音質改善体。
【請求項8】
前記純銀製リガチャーの厚みは、リードの横幅に応じて設定され、3ミリ以下に設定される、
請求項7に記載の木管楽器用マウスピース向け
音質改善体。
【請求項9】
前記純銀製リガチャーの不規則模様を形成する前記多面部は、幅方向に1条であり、周方向に横縞状に連なるように形成される、
請求項6に記載の木管楽器用マウスピース向け
音質改善体。
【請求項10】
前記純銀製リガチャーの表面全体に金メッキを施している、
請求項6に記載の木管楽器用マウスピース向け
音質改善体。
【請求項11】
リードの裏面の一方の端部側を当接固定するテーブル面と、テーブル面からティップに向かって傾斜状に延びるフェイシングとを有し、くわえ部側において、裏面の他方の端部との間にティップオープニングを形成することにより、リードを片持ち梁状に上下振動させて発音可能とする木管楽器用マウスピースの外周側面に対して、マウスピースの長手方向のまわりに環状に設けられる木管楽器用マウスピース向け
音質改善部であって、
該音質改善部の外周側面には、各々平面または曲面からなる多面部からなる不規則模様が環状に形成され、互いに隣接する多面部は、マウスピースと同心状の同一円筒面内に包含されないように凹凸状に設けられる、
ことを特徴とする木管楽器用マウスピース向け
音質改善部。
【請求項12】
前記音質改善部は、サキソフォン用メタル製またはラバー製マウスピースの外周側面の凹凸であって、研削加工により形成される、
請求項11に記載の木管楽器用マウスピース向け
音質改善部。
【請求項13】
前記
音質改善部は、純銀製シャンクリングであって、厚みが 0.5ミリないし 1.5ミリの純銀製平板鍛造により多面部を形成し、純銀製平板を環状に曲げ加工し、マウスピースのティップオープンニングと逆側の端部に締まり嵌めされる、
請求項11に記載の木管楽器用マウスピース向け
音質改善部。
【請求項14】
前記純銀製シャンクリングの表面全体に金メッキを施している、
請求項13に記載の木管楽器用マウスピース向け
音質改善部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木管楽器用マウスピース向け音質改善部または音質改善体に関し、より詳細には、経験の浅い演奏者でも、音の操作性が容易でありながら音の豊かさが向上可能で、音楽性の高い演奏が可能であるとともに、木管楽器のデザイン性を向上することも可能な木管楽器用マウスピース向け音質改善部または音質改善体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サキソフォーン、クラリネット等の木管楽器は、クラシック演奏だけでなく、ジャズ、ポップス、演歌演奏においても多用されている。
このような木管楽器は、通常、リガチャ―によりリードをマウスピースに締め付け固定し、リードの振動音を楽器で増幅させて演奏される。
より詳細には、マウスピースは、リードの裏面の一方の端部側を当接固定するテーブル面と、テーブル面からティップに向かって傾斜状に延びるフェイシングとを有し、くわえ部側において、裏面の他方の端部との間にティップオープニングを形成することにより、リードを片持ち梁状に上下振動させて発音可能とする。
【0003】
木管楽器の中でもサキソフォン向けのマウスピースには、メタル製、ラバー製、木製、陶器製等多種材質があり、クラシック、ジャズ等音楽ジャンルに応じて、使い分けられている。
このようなサキソフォン向けのマウスピースには、特に、真鍮製銀メッキまたは純銀製リガチャ―が使われており、純銀製でないリガチャ―に比べて、独特の音色が出せることから採用されている。
しかしながら、このような銀メッキまたは純銀製リガチャ―には、以下のような不具合、または改善要望点がある。
【0004】
第1に、発音または消音の際の音の操作性がむずかしく、特に、音をコントロールするのに重要なアンブシュア(唇によるリードおよびマウスピースの締付)が確立していない経験の浅い演奏者にとって、無音状態から、スムーズかつ連続的に有音状態としたり、有音状態において、ある音のみが強調され過ぎるため、音の全体としての響き、または伸び感に劣り、有音状態からフェードアウトする際も、スムーズかつ連続的に無音状態とすることが困難であり、総じて、音楽性の高い演奏が困難である。
第2に、さらなる音質の向上が求められる。純銀製ゆえの独特な音色が出せるが、そのような音色はそれなりの経験者でないと発音困難であり、初心者でも倍音が多数含まれる豊かな音色を出せるような付属品が要望されている。
なお、従来、音質向上するマウスピースとしては、材質、ハイバッフル化、チップオープニングの大小等により対応されてきたが、このようなマウスピースは、プロまたは上級アマチュア等のアンブシュアが出来上がっている経験者でないと使いこなせないものであった。
第3に、演奏をより視覚的に演出するデザイン性が求められる。屋内演奏の場合、夜間ジャズライブ演奏のように室内が暗い場合には、楽器自体は比較的大きいので形状、模様により視覚に訴えることが可能であるが、楽器補助品の場合には、形状、模様の特殊性は目立たず、一方、屋外演奏の場合、聴衆との距離が比較的あることから、演奏会場が明るくても、楽器補助品の形状、模様の特殊性は目立たず、視覚的効果に乏しい。
第4に、薄肉構造上ゆえ強度が弱い。純銀製ゆえに変形しやすく、リガチャーのマウスピースからの取り外し、締め付けを繰り返すことにより、マウスピースへの密着フィットがしにくくなり、強く締め付け過ぎると、リガチャーが切れることがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上より、本発明の目的は、経験の浅い演奏者でも、音の操作性が容易でありながら音の豊かさが向上可能で、音楽性の高い演奏が可能であるとともに、木管楽器のデザイン性を向上することも可能な木管楽器用マウスピース向け音質改善部または音質改善体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明の木管楽器用マウスピース向け音質改善部または音質改善体は、
リードの裏面の一方の端部側を当接固定するテーブル面と、テーブル面からティップに向かって傾斜状に延びるフェイシングとを有し、くわえ部側において、裏面の他方の端部との間にティップオープニングを形成することにより、リードを片持ち梁状に上下振動させて発音可能とする木管楽器用マウスピースの外周側面に対して、マウスピースの長手方向のまわりに環状に設けられる木管楽器用マウスピース向け音質改善部または音質改善体であって、
外周側面には、各々平面または曲面からなる多面部からなる不規則模様が環状に形成され、互いに隣接する多面部は、マウスピースと同心状の同一円筒面内に包含されないように凹凸状に設けられる、構成としている。
【0007】
以上の構成を有する木管楽器用マウスピース向け音質改善部または音質改善体によれば、マウスピースの外周側面において、環状に、各々平面または曲面からなる多面部により構成される不規則模様として、マウスピースの円筒部と同心状にない凹凸状が形成されるので、マウスピースにティップオープニングを介して息を吹き込んで発音する際、無音状態から、スムーズかつ連続的に有音状態とすることが可能で、有音状態において、凹凸による外周側面の表面積増大および不規則模様ゆえに、リードの特定の振動数に共鳴して、その音のみが強調されるのではなく、和太鼓の共鳴箱の内周面の波動形状としての凹凸形状よろしく、種々の振動数に対して分散的に呼応するので、複数倍音を含む音の豊かさとともに、音の響き、または伸び感に優れ、有音状態からフェードアウトする際も、スムーズかつ連続的に無音状態とすることが可能であり、総じて、音をコントロールするのに重要なアンブシュアが確立していない経験の浅い演奏者でも、音の操作性が容易になることで、音楽性の高い演奏が可能であるとともに、特に暗い屋内でライトの光に対して不規則模様の多面部が種々の方向にキラキラ反射して、マウスピースが装着される木管楽器のデザイン性を向上することも可能である。
【0008】
また、前記不規則模様は、槌目模様でもよい。
さらに、前記不規則模様は、梨地模様でもよい。
さらにまた、前記凹凸の高さの差は、0.1ミリ以上に設定されるのがよい。
加えて、前記多面部の各々は、曲面上で多角形を構成し、互いに隣接する多面部は、多角形の辺を共有するのがよい。
【0009】
また、前記音質改善部は、サキソフォン用メタル製またはラバー製マウスピースの外周側面の凹凸であって、研削加工により形成されるのでもよい。
【0010】
さらに、前記音質改善体は、締め付けタイプの純銀製リガチャーであって、両端部それぞれに、対向するネジ穴が設けられ、対向するネジ穴にねじ込み可能な金属製ねじ込み部を有し、厚みが1ミリないし3ミリの純銀製平板を鍛造により不規則模様を形成する前記多面部を形成し、純銀製平板を環状に曲げ加工するのでもよい。
さらにまた、前記純銀製リガチャーの幅は、リードの横幅の80%以上に設定されるのがよい。
加えて、前記純銀製リガチャーの厚みは、リードの横幅に応じて設定され、3ミリ以下に設定されるのがよい。
また、前記純銀製リガチャーの不規則模様を形成する前記多面部は、幅方向に1条であり、周方向に横縞状に連なるように形成されるのでもよい。
【0011】
さらに、前記音質改善体は、純銀製シャンクリングであって、厚みが0.5ミリないし1.5ミリの純銀製平板鍛造により多面部を形成し、純銀製平板を環状に曲げ加工し、マウスピースのティップオープンニングと逆側の端部に締まり嵌めされるのでもよい。
さらにまた、マウスピースは、ソプラノサキソフォン、アルトサキソフォン、テナーサキソフォン、またはバリトンサキソフォン用のメタル製またはラバー製マウスピースであるのがよい。
加えて、前記純銀製リガチャーの表面全体に金メッキを施しているのでもよく、前記純銀製シャンクリングの表面全体に金メッキを施しているのでもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図を参照しながら、木管楽器としてサキソフォンを例として、本発明の木管楽器用マウスピース向け音質改善部または音質改善体として、いわゆる純銀製シャンクリング付きマウスピースに純銀製リガチャーを用いる場合を説明する。
図1ないし
図3に示すように、マウスピース10は、リードRの裏面の一方の端部A側を当接固定するテーブル面26と、テーブル面26からティップ20に向かって傾斜状に延びるフェイシング22とを有し、くわえ部側において、裏面の他方の端部Bとの間にティップオープニングOを形成することにより、リードRを片持ち梁状に上下振動させて発音可能とする。本発明の音質改善部または音質改善体は、マウスピース10の外周側面16に対して、マウスピース10の長手方向のまわりに環状に設けられる。マウスピース10は、ソプラノサキソフォン、アルトサキソフォン、テナーサキソフォン、またはバリトンサキソフォン用のメタル製またはラバー製マウスピース10である。
【0013】
外周側面16には、各々平面または曲面からなる多面部13からなる不規則模様が環状に形成され、互いに隣接する多面部13は、マウスピース10と同心状の同一円筒面内に包含されないように凹凸状に設けられる。凹凸の高さの差は、0.1ミリ以上に設定される。0.1ミリ未満では、外周側面16の表面積の増大により、マウスピース10を介して本発明の音質改善効果を得るのが困難である。不規則模様は、槌目模様でもよく、梨地模様でもよい。
多面部13の各々は、曲面上で多角形を構成し、互いに隣接する多面部13が、多角形の辺17を共有するのでよい。多面部13において、多角形の大きさおよび形状が異なることにより、不規則模様が構成されている。
【0014】
図4および
図5に示すように、音質改善体は、締め付けタイプの純銀製リガチャー100であって、両端部105、107それぞれに、対向するネジ穴109が設けられ、対向するネジ穴109にねじ込み可能な金属製ねじ込み部108を有し、厚みが1ミリないし3ミリの純銀製平板を鍛造により不規則模様を形成する多面部13を形成し、純銀製平板を環状に曲げ加工する。
これにより、純銀製薄肉構造上ゆえ強度が弱い欠点を鍛造により補強するとともに、鍛造の結果として、多面部から構成される槌目模様であり、各多面部の形状、大きさにバラツキのある不規則な模様が得られ、それが、和太鼓の共鳴箱の内周面に形成される凹凸状よろしく、音響効果が得られ、さらに、特に暗い屋内でライトの光に対して不規則模様の多面部が種々の方向にキラキラ反射して、マウスピースが装着される木管楽器のデザイン性を向上することが可能である。
純銀製リガチャー100の幅wは、リードRの横幅Wの80%以上に設定される。80%以下では、マウスピース10を介して音質効果を得るのが困難である。
純銀製リガチャー100の厚みtは、リードRの横幅Wに応じて設定され、3ミリ以下に設定される。3ミリ以上では、マウスピース10を介して本発明の音質改善効果を得るのが困難である。
純銀製リガチャー100の幅wおよび厚みtについて、幅wを確保する場合には、多面部13において、多角形の大きさを増大して、不規則模様の密度を低くするのでもよく、リガチャーの強度確保可能な範囲で厚みtをなるべく薄くするのが好ましい。
図5に示すように、金属製ねじ込み部108の一端側には、先細穴116が設けられた厚肉ブースター114が設けられ、この外周面を指で摘まんでねじ込むように構成されるとともに、通常のねじ込み部に比し、発音の際、抵抗感を増し、音質改善に資するようになっている。これは、サキソフォンにおいて、ネック部を本体に装着するのに用いられるねじ込み部に適用されている厚肉ブースターをリガチャーに応用したものである。
変形例として、純銀製リガチャー100の不規則模様を形成する多面部13は、幅方向に1条であり、周方向に横縞状に連なるように形成されるのでもよい。
【0015】
さらに、音質改善体は、純銀製シャンクリング200であって、厚みが0.5ミリないし1.5ミリの純銀製平板鍛造により多面部13を形成し、純銀製平板を環状に曲げ加工し、マウスピース10のティップオープンニングOと逆側の端部に締まり嵌めされる。純銀製シャンクリング200においても、純銀製リガチャー100と同様に、外周面に凹凸状の不規則模様を設けることにより、種々の振動数に対して分散的に呼応するので、複数倍音を含む音の豊かさとともに、音の響き、または伸び感に優れる効果を有し、純銀製リガチャー100および純銀製シャンクリング200両方用いることにより、このような効果およびでデザイン性向上はさらに際立つ。
【0016】
一方、音質改善部としては、サキソフォン用メタル製またはラバー製マウスピース10の外周側面16の凹凸であって、マウスピースの外周側面において、環状に、各々平面または曲面からなる多面部により構成される不規則模様として、マウスピースの円筒部と同心状にない凹凸状が形成される限り、研削加工により形成されるのでもよい。
このような純銀製リガチャー100および/または純銀製シャンクリング200の表面全体に金メッキを施すのもよく、それにより、金材質特有の複雑な温かい音色を引き出すことが可能となる。
なお、このような音質改善体としての純銀製リガチャー100および純銀製シャンクリング200において、材質を特に純銀製とすることにより、銀は、金、銅に比べて、特定の固有振動数を有さないことから、外表面に設ける多面部により構成される不規則模様による凹凸の効果を顕著にする効果がある。
【0017】
図6に示すように、純銀製リガチャー100を用いて、純銀製シャンクリング200付きマウスピースに対してリードRを締付固定すれば、マウスピースの外周側面において、環状に、各々平面または曲面からなる多面部により構成される不規則模様として、マウスピースの円筒部と同心状にない凹凸状が形成されるので、マウスピースにティップオープニングを介して息を吹き込んで発音する際、無音状態から、スムーズかつ連続的に有音状態とすることが可能で、有音状態において、凹凸による外周側面の表面積増大および不規則模様ゆえに、リードの特定の振動数に共鳴して、その音のみが強調されるのではなく、和太鼓の共鳴箱の内周面の波動形状としての凹凸形状よろしく、種々の振動数に対して分散的に呼応するので、複数倍音を含む音の豊かさとともに、音の響き、または伸び感に優れ、有音状態からフェードアウトする際も、スムーズかつ連続的に無音状態とすることが可能であり、総じて、音をコントロールするのに重要なアンブシュアが確立していない経験の浅い演奏者でも、音の操作性が容易になることで、音楽性の高い演奏が可能であるとともに、特に暗い屋内でライトの光に対して不規則模様の多面部が種々の方向にキラキラ反射して、マウスピースが装着される木管楽器のデザイン性を向上することも可能である。
【実施例】
【0018】
本出願人は、本発明による音質改善効果の確認試験を行った。
具体的には、サキソフォンにおいて、共通のマウスピースのもとで、従来のリガチャーと本発明のリガチャーとにおいて、音質を周波数分析により比較した。
(1) 楽器、リード、マウスピース、ストラップおよび演奏者は、共通であり、テナーサキソフォンを用い、音程Bbをピアニシモで約10秒間発音して、周波数分析を行った。
(2) マウスピースは、本発明の純銀製シャンクリング200を具備するマウスピースを共通に用いた。
(3) パラメータは、リガチャーであり、第1に、通常のリガチャー、第2に、表面に凹凸状の不規則模様がない純銀製リガチャー、第3に、表面に凹凸状の不規則槌目模様がある本発明の純銀製リガチャー、第4に、表面に凹凸状の不規則槌目模様がある本発明の純銀製リガチャーの表面に金メッキを施したものの4ケースである。
試験結果であるスペクトルグラフを
図7ないし
図10に示す。
図7ないし
図10の比較により、理解可能なように、従来のリガチャーに比し、本発明のリガチャーによれば、際立つ周波数成分の数が多く、音の豊かさが向上している点が示されている。
【0019】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば、種々の修正あるいは変更が可能である。
たとえば、本実施形態において、サキソフォン用マウスピースに装着するマウスピース用リガチャーとして説明したが、それに限定されることなく、サキソフォンに限らず、木管楽器に用いるマウスピースに適用可能である。
たとえば、本実施形態において、純銀製リガチャーを用いて、リードを純銀製シャンクリング付きマウスピースに締付固定した状態でテナーサキソフォンで発音する場合として説明したが、それに限定されることなく、本発明の第1実施形態に係る純銀製リガチャーを用いて、リードを従来のラバー製、メタル製マウスピースに締付固定した状態でテナーサキソフォンで発音する場合にも、本発明の効果を奏することが可能である。
【0020】
たとえば、本実施形態において、純銀製リガチャーおよび純銀製シャンクリングそれぞれの外表面に、鍛造加工の際の槌目模様の凹凸を設ける場合として説明したが、それに限定されることなく、製造段階の鍛造加工とは別に、たとえば、リガチャーおよびシャンクリング完成後に、梨地模様等の不規則模様を加工する場合でも、本発明の効果を奏することが可能である。
たとえば、本実施形態において、純銀製リガチャーを用いて、リードを純銀製シャンクリング付きマウスピースに締付固定した状態でテナーサキソフォンで発音する場合として説明したが、それに限定されることなく、ものとして説明したが、それに限定されることなく、純銀製リガチャーでない通常のメタルリガチャー、または純銀製でないシャンクリングそれぞれの表面に凹凸状の不規則模様を加工する場合でも、本発明の効果を奏することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る純銀製シャンクリング付きマウスピースの斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る純銀製シャンクリング付きマウスピースの平面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る純銀製シャンクリング付きマウスピースの側断面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る純銀製リガチャーの斜視図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る純銀製リガチャーのねじ込み部の
図4の線B-Bに沿う側断面図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係る純銀製リガチャーを用いて、リードを純銀製シャンクリング付きマウスピースに締付固定した状態を示す図である。
【
図7】従来のリガチャーを用いて、リードを純銀製シャンクリング付きマウスピースに締付固定した状態で、テナーサキソフォンで発音した場合のスぺクトル図である。
【
図8】リードを表面に凹凸加工のない(不規則模様のない)純銀製リガチャーを用いて、純銀製シャンクリング付きマウスピースに締付固定した状態でテナーサキソフォンで発音した場合のスぺクトル図である。
【
図9】本発明の第1実施形態に係る純銀製リガチャーを用いて、リードを純銀製シャンクリング付きマウスピースに締付固定した状態でテナーサキソフォンで発音した場合のスぺクトル図である。
【
図10】本発明の第1実施形態に係る純銀製リガチャーにおいて、外表面に金メッキをしたものを用いて、リードを純銀製シャンクリング付きマウスピースに締付固定した状態でテナーサキソフォンで発音した場合のスぺクトル図である。
【符号の説明】
【0022】
R リード
A 一方の端部
B 他方の端部
O 木管楽器ティップオープニング
10 マウスピース
13 多面部
15 多角形
16 外周側面
17 辺
18 ピーク
20 ティップ
22 フェイシング
24 サイドレール
26 テーブル面
100 純銀製リガチャー
105、107 両端部
108 金属製ねじ込み部
109 ネジ穴
114 厚肉ブースター
116 先細穴
200 シャンクリング
【要約】
【課題】経験の浅い演奏者でも、音の操作性が容易でありながら音の豊かさが向上可能で、音楽性の高い演奏が可能であるとともに、木管楽器のデザイン性を向上することも可能な木管楽器用マウスピース向け音質改善部または音質改善体を提供する。
【解決手段】リードR の裏面26 の一方の端部A側を当接固定するテーブル面26と、テーブル面26からティップ20に向かって傾斜状に延びるフェイシング22とを有し、くわえ部側において、裏面26 の他方の端部Bとの間にティップ20オープニングを形成することにより、リードR を片持ち梁状に上下振動させて発音可能とする木管楽器用マウスピース10の外周側面16に対してマウスピース10の長手方向のまわりに環状に設けられる木管楽器用マウスピース10向け音質改善部または音質改善体であって、
外周側面には、各々平面または曲面からなる多面部13からなる不規則模様が環状に形成され、互いに隣接する多面部は、マウスピースと同心状の同一円筒面内に包含されないように凹凸状に設けられる、
ことを特徴とする木管楽器用マウスピース向け音質改善部または音質改善体。
【選択図】
図1