IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 資生堂の特許一覧 ▶ ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティーの特許一覧

<>
  • 特許-ブロックコポリマー 図1
  • 特許-ブロックコポリマー 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】ブロックコポリマー
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/90 20060101AFI20230629BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20230629BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20230629BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20230629BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
A61K8/90
C08L53/00
C08F293/00
C08K3/00
C08K9/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020521804
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017780
(87)【国際公開番号】W WO2019230289
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2018102625
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(73)【特許権者】
【識別番号】506076891
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 和之
(72)【発明者】
【氏名】伊東 祐仁
(72)【発明者】
【氏名】後藤 淳
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-132931(JP,A)
【文献】特開2014-162880(JP,A)
【文献】特開2012-013962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
C08F 293/00-297/08
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性セグメント及び親水性セグメントを含むブロックコポリマーであって、
前記疎水性セグメントが、下記の式1及び式2から選択される少なくとも一種のモノマーから構成されるモノマー単位を含み、
前記親水性セグメントが、下記の式3のモノマーから構成されるモノマー単位を含む、
ブロックコポリマー、並びに
前記ブロックコポリマーで表面処理した無機粒子を含む、
化粧料
【化1】
式1中、
は、水素又はメチル基であり、かつ
mは、0~21の整数であり、
【化2】
式2中、
は、水素又はメチル基であり、
及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、
mは、1~6の整数であり、かつ
nは、5~70の整数であり、
【化3】
式3中、
は、水素又はメチル基である。
【請求項2】
前記式1のRが、メチル基であり、mが、10~15の整数であり、
前記式2のR及びRが、メチル基であり、Rが、ブチル基であり、mが、1~3の整数であり、nが、10~60の整数であり、かつ
前記式3のRが、メチル基である、請求項1に記載の化粧料
【請求項3】
前記疎水性セグメントの割合が、50~99モル%であり、かつ、前記親水性セグメントの割合が、1~50モル%である、請求項1又は2に記載の化粧料
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なブロックコポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、防汚性、防曇性、無機粒子等の分散性の付与などを目的とし、ポリマー材料などを用いた種々の表面改質技術が検討されている。
【0003】
特許文献1には、水、水溶性化合物、顔料、及び顔料を分散させる酸価100mgKOH/g以上160mgKOH/g以下である(メタ)アクリル酸エステル系ランダム共重合体を含有する、インクジェット記録用インクが開示されている。
【0004】
特許文献2には、少なくとも疎水性セグメントと、親水性セグメントと、を含み、親水性セグメントが、少なくとも陽イオン性モノマー及び陰イオン性モノマーのモノマー単位を含む、各種部材に防曇性、静電気防止性等を付与し得るブロックポリマーが開示されている。
【0005】
特許文献3には、顔料、液媒体及び高分子分散剤を含有する顔料分散液であって、高分子分散剤が、A-B又はA-B-Cで表されるブロックポリマーであり、Aブロック及びCブロックが、アミノ基及び水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーからなるポリマーブロックであり、Bブロックが、グリシジル基又はイソシアネート基を有するモノマーからなるポリマーブロックに、グリシジル基又はイソシアネート基を介してアミノ化合物及び水酸基を有する化合物のいずれか一方が結合しているポリマーブロックである、顔料分散液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-052058号公報
【文献】特開2017-179112号公報
【文献】国際公開第2010/016523号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
表面処理剤として使用されるポリマーには、種々の要望が存在し、例えば、紫外線を散乱させるための酸化チタン等の無機粒子を使用する日焼け止め用化粧料においては、従来より、係る無機粒子の分散性等をより向上させ得るポリマーが望まれていた。
【0008】
したがって、本発明の主題は、無機粒子等の対象物に対して分散性等の各種特性を付与し得る表面処理剤として使用可能な、新規なブロックコポリマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〈態様1〉
疎水性セグメント及び親水性セグメントを含むブロックコポリマーであって、
前記疎水性セグメントが、下記の式1及び式2から選択される少なくとも一種のモノマーから構成されるモノマー単位を含み、
前記親水性セグメントが、下記の式3のモノマーから構成されるモノマー単位を含む、
ブロックコポリマー:
【化1】
式1中、
は、水素又はメチル基であり、かつ
mは、0~21の整数であり、
【化2】
式2中、
は、水素又はメチル基であり、
及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、
mは、1~6の整数であり、かつ
nは、5~70の整数であり、
【化3】
式3中、
は、水素又はメチル基である。
〈態様2〉
前記式1のRが、メチル基であり、mが、10~15の整数であり、
前記式2のR及びRが、メチル基であり、Rが、ブチル基であり、mが、1~3の整数であり、nが、10~60の整数であり、かつ
前記式3のRが、メチル基である、態様1に記載のブロックコポリマー。
〈態様3〉
前記疎水性セグメントの割合が、50~99モル%であり、かつ、前記親水性セグメントの割合が、1~50モル%である、態様1又は2に記載のブロックコポリマー。
〈態様4〉
式1及び式2から選択される少なくとも一種のモノマーを用い、リビングラジカル重合法により疎水性セグメントを形成し、次いで、式3のモノマーを用い、リビングラジカル重合法により親水性セグメントを形成し、又は
式3のモノマーを用い、リビングラジカル重合法により親水性セグメントを形成し、次いで、式1及び式2から選択される少なくとも一種のモノマーを用い、リビングラジカル重合法により疎水性セグメントを形成する、
態様1~3の何れか一項に記載のブロックコポリマーの製造方法。
〈態様5〉
リビングラジカル重合法が、ヨウ素化合物を開始化合物とし、リン化合物、窒素化合物又は酸素化合物を触媒とする重合法である、態様4に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無機粒子等の対象物に対して分散性等の各種特性を付与し得る表面処理剤として使用可能な、新規なブロックコポリマーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)は、ブロックコポリマーで表面処理された対象物の模式図であり、(b)は、ランダムコポリマーで表面処理された対象物の模式図であり、(c)は、低分子型の表面処理剤で表面処理された対象物の模式図である。
図2】本発明の一実施態様のブロックコポリマーで表面処理された対象物の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0013】
本発明のブロックコポリマーは、疎水性セグメント及び親水性セグメントを含み、疎水性セグメントが、下記の式1及び式2から選択される少なくとも一種のモノマーから構成されるモノマー単位を含み、かつ、親水性セグメントが、下記の式3のモノマーから構成されるモノマー単位を含む、ブロックコポリマーである。
【0014】
【化4】
式1中、
は、水素又はメチル基であり、かつ
mは、0~21の整数であり、
【化5】
式2中、
は、水素又はメチル基であり、
及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、
mは、1~6の整数であり、かつ
nは、5~70の整数であり、
【化6】
式3中、
は、水素又はメチル基である。
【0015】
原理によって限定されるものではないが、このようなブロックコポリマーが、対象物に対して表面処理性能を付与し得る作用原理は以下のとおりであると考える。なお、ここでは、対象物として無機粒子を採用した場合を例示する。
【0016】
例えば、疎水性のモノマー及び親水性のモノマーからランダムコポリマーを作製した場合、係るコポリマーは、疎水性の部位と親水性の部位とが、コポリマー中にランダムに配置されるため、ランダムコポリマー全体としては、疎水性と親水性とが混ぜ合わさったような中間的な性能を奏する。一方、ブロックコポリマーの場合は、疎水性のモノマーからなる疎水性セグメントと、親水性のモノマーからなる親水性セグメントとが、コポリマー中に別々に形成されているため、ブロックコポリマーに、疎水性及び親水性といった性質のそれぞれ異なる部分を付与することができる。
【0017】
例えば、従来から一般的に使用されている低分子型の表面処理剤で表面処理した無機粒子を含む油分を、化粧料などに配合して乳化させた場合、凝集及び沈殿が生じ易かった。これは、係る低分子型の表面処理剤の一部は無機粒子から脱着して化粧料中に移行し易く、無機粒子表面に剥き出しとなった部分が生じるため安定性に欠けていたものと考えている。一方、本発明のブロックコポリマーは、特定の疎水性セグメント及び特定の親水性セグメントを有しており、この内の親水性セグメントの少なくとも一部が、複数の吸着点を介して無機粒子と吸着し、或いは無機粒子表面に絡みつくように吸着し、場合によっては無機粒子と親水性セグメントとの間で水素結合も生じるため、係るコポリマーが無機粒子から脱着しづらくなり、無機粒子の分散安定性を向上させているものと考えている。
【0018】
また、油相中において、コポリマー中の疎水性セグメントは、例えば、図2に示されるように、くし型構造を呈し、かつ、無機粒子に対して外側に向かって配向していると考えている。その結果、図1の(b)及び(c)に示されるような、ランダムコポリマー及び低分子型の表面処理剤と比べ、立体的な障害作用が向上し、油相中における無機粒子の凝集及び沈殿をより一層抑制し得るため、無機粒子の分散性がより向上するものと考えている。
【0019】
また、例えば、油中水滴型の化粧料に無機粒子を配合する場合、従来の表面処理による無機粒子は、一般的に、化粧料の粘度を大幅に増加させてしまう傾向にあるが、本発明のブロックコポリマーで表面処理された無機粒子は、化粧料の粘度を大幅に増加させることがない。
【0020】
これは、例えば、ランダムコポリマーで表面処理された無機粒子は、図1の(b)に示すように、親水性及び疎水性の部分が粒子にまとわりつくような構造を呈し、立体的な障害作用が低く、疎水部に基づく油相との親和層が薄いため、粒子同士は近接して油相中に分散していると考えられる。
【0021】
また、従来の低分子型の表面処理剤で表面処理された無機粒子も、図1の(c)に示すように疎水部が短く、立体的な障害作用が低く、疎水部に基づく油相との親和層が薄いため、粒子同士は近接して油相中に分散していると考えられる。その結果、これらの材料で表面処理された無機粒子は、粒子間に油が密に詰まったような状態を呈するため、化粧料等の粘度を増加させるものと考えている。
【0022】
一方、本発明のブロックコポリマーによって表面処理された無機粒子は、疎水性セグメントによる油相との親和層が、図1の(a)に示されるように、ランダムコポリマー及び低分子型の表面処理剤の構成よりも厚く覆われていて、粒子同士が比較的離れて分散しているため、粒子間に存在する油はより自由に流動することができるものと考えている。その結果、化粧料等の粘度増加を抑制し得るものと考えている。
【0023】
したがって、例えば、本発明のブロックコポリマーで酸化チタン等を表面処理すると、日焼け止め用化粧料等の粘度を大幅に上昇させることなく、係る粒子を分散性よく高度に配合することができるため、皮膚への塗布性、日焼け防止性能等の性能を向上させ得るものと考えている。
【0024】
《ブロックコポリマー》
本発明のブロックコポリマーは、疎水性セグメントに基づく性能の発現性等を考慮し、コポリマー中の式1又は式2の疎水性セグメントの割合を、50モル%以上、55モル%以上又は60モル%以上とすることができ、また、99モル%以下、95モル%以下又は90モル%以下とすることができる。対象物への吸着性等を考慮し、式3の親水性セグメントの割合を、1モル%以上、5モル%以上又は10モル%以上とすることができ、また、50モル%以下、45モル%以下又は40モル%以下とすることができる。
【0025】
本発明のブロックコポリマーの分子量については、特に限定されないが、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ測定における、ポリスチレン換算の数平均分子量としては、1,000~80,000の範囲とすることができ、5,000~20,000の範囲であることが好ましい。また、数平均分子量と重量平均分子量との比である分子量分布としては、1.05~5の範囲とすることができ、1.05~1.7の範囲であることが好ましい。
【0026】
〈疎水性セグメント〉
疎水性セグメントにおける式1及び式2から選択される少なくとも一種のモノマーから構成されるモノマー単位は、要する表面処理性能、ブロックコポリマーで表面処理した対象物を配合する分散媒との親和性等を考慮して適宜選定することができる。
【0027】
(式1のモノマー)
以下の式1のモノマーは、
【化7】
例えば、極性油のような分散媒を使用する場合に採用することが好ましい。
【0028】
式1中、Rは、水素又はメチル基であり、かつ、mは、0~21の整数である。分散性、低粘度化等の性能の発現性等の観点から、Rは、メチル基であることが好ましく、mは、3以上、5以上、8以上又は10以上の整数であることが好ましく、また、20以下、18以下又は15以下の整数であることが好ましい。ここで、式1中の(CHの部位は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0029】
(式2のモノマー)
以下の式2のモノマーは、
【化8】
例えば、シリコーン油のような分散媒のときに採用することが好ましい。
【0030】
式2中、Rは、水素又はメチル基であり、R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、mは、1~6の整数であり、かつ、nは、5~70の整数である。分散性、低粘度化等の観点から、式2のR及びRは、メチル基であることが好ましく、Rは、ブチル基であることが好ましく、mは、1~3の整数であることが好ましく、nは、6以上、8以上又は10以上の整数であることが好ましく、また、60以下、50以下又は40以下の整数であることが好ましい。ここで、式1中の(CHの部位は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0031】
〈親水性セグメント〉
(式3のモノマー)
以下の式3のモノマーは、
【化9】
親水性セグメントのモノマー単位を構成し、対象物の表面に吸着する部位を形成する。
【0032】
式3中、Rは、水素又はメチル基である。ブロックコポリマーの重合性等の観点から、Rは、メチル基であることが好ましい。
【0033】
〈任意のモノマー〉
本発明のブロックコポリマーは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記式1~式3のモノマー以外のモノマーから構成されるモノマー単位をさらに有していてもよい。係るモノマー単位の割合は、構成するモノマー単位全量の30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、又は5モル%以下の範囲とすることができる。係るモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチルアクリルアミド、メチルメタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、エチルアクリルアミド、エチルメタクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、ε―カプロラクタム、ビニルアルコール、無水マレイン酸、N,N’-ジメチルアミノエチルメタクリル酸、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、N,N’-ジメチルアクリルアミド、スチレン等が挙げられる。
【0034】
〈ブロックコポリマーの製造方法〉
本発明のブロックコポリマーは、公知のリビングラジカル重合法によって得ることができる。例えば、上記の式1及び式2から選択される少なくとも一種のモノマーを用い、リビングラジカル重合法により疎水性セグメントを形成し、次いで、上記の式3のモノマーを用い、リビングラジカル重合法により親水性セグメントを形成してブロックコポリマーを得ることができる。或いは、上記の式3のモノマーを用い、リビングラジカル重合法により親水性セグメントを形成し、次いで、上記の式1及び式2から選択される少なくとも一種のモノマーを用い、リビングラジカル重合法により疎水性セグメントを形成してブロックコポリマーを得ることができる。
【0035】
リビングラジカル重合法は、従来のラジカル重合法に触媒や連鎖移動剤などを加えることによって、末端活性ラジカルの反応性を制御して、擬似リビング的に重合を進行させる方法である。通常のラジカル重合に比べて分子量分布を狭くすることができ、分子量の制御も可能である。公知のリビングラジカル重合法として、具体的には、国際公開第2010/016523号等に開示される非金属触媒を用いるリビングラジカル重合法、国際公開第96/030421号等に開示される金属錯体の添加によるATRP法、米国特許第4,581,429号等に開示される熱解離基を導入するTEMPO法、国際公開第98/001479号等に開示される可逆的付加開裂連鎖移動剤を添加するRAFT重合法、Chem.Express 5(10),801(1990)等に開示される光・熱解離基を有するイニファータ法などを挙げることができる。
【0036】
中でも、安価で、環境に対する負荷も少ない、非金属触媒を用いるリビングラジカル重合法が好ましい。係る重合法は、例えば、上述した各種モノマー、開始化合物、触媒、ラジカル重合開始剤、及び重合溶媒を用いて実施される。
【0037】
(開始化合物)
開始化合物としては、以下の式4
【化10】
で表されるヨウ素化合物を用いることが好ましい。
【0038】
係る開始化合物におけるヨウ素原子は、二級又は三級の炭素原子に結合しており、かつ、X、Y及びZは、同じでも異なってもよく、水素、炭化水素基、ハロゲン基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリロキシ基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、及びアリルカルボニル基から選択されることが好ましい。
【0039】
ヨウ素原子は、ヨウ素の解離性を考慮し、二級又は三級の炭素原子に結合していることが好ましい。その結果、X、Y及びZのうち少なくとも2つが水素原子であることはない。以下に、X、Y及びZについて具体的に例示するが、これらに限定されるものではない。
【0040】
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基が挙げられる。具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、2-メチルプロピル、t-ブチル、ペンチル、ドデシルなどのアルキル基;ビニル、アリル、2-メチルビニル、ブテニル、ブタジエニルなどの二重結合を含むアルケニル基;アセチレン、メチルアセチレンなどの三重結合を含むアルキニル基;フェニル、ナフチル、メチルフェニル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ドデシルフェニル、ビフェニルなどのアリール基であって、その中にはピリジニル、イミダゾリニルなどの複素環も含むことができるアリール基;フェニルメチル、1-フェニルエチル、2-フェニルエチル、2-フェニルプロピルなどのアリールアルキル基などが挙げられる。
【0041】
ハロゲン基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0042】
アルコキシカルボニル基又はアリロキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロピルカルボニル、シクロへキシルカルボニル、ベンジロキシカルボニルやフェノキシカルボニル、ナフトキシカルボニルなどが挙げられる。
【0043】
アシルオキシ基又はアリロキシ基としては、アセトキシ、エチルカルボニルオキシ、シクロへキシルカルボニルオキシやベンゾイルオキシ、ナフチルカルボキシオキシなどが挙げられる。
【0044】
アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、メトキシエトキシ、フェノキシエトキシなどが挙げられる。
【0045】
アルキルカルボニル基又はアリルカルボニル基としては、メチルカルボニル、エチルカルボニル、フェニルカルボニルなどが挙げられる。
【0046】
開始化合物の好ましい具体例としては、1-アイオド-1-フェニルエタン、2-アイオド-2-シアノプロパン、2-アイオド-2-シアノ-4-メチルペンタンなどが挙げられる。
【0047】
また、係る重合法では、開始化合物の量によってコポリマーの分子量をコントロールすることができる。開始化合物のモル数に対してモノマーのモル数を設定することで、任意の分子量、又は分子量の大小を制御できる。開始化合物とモノマーのモル比は、特に限定されず、要する分子量等に応じて適宜規定することができる。例えば、開始化合物を1モル使用して、分子量100のモノマーを500モル使用して重合した場合、1×100×500=50,000の理論分子量を提供することができる。
【0048】
(触媒)
触媒としては、開始化合物のヨウ素、又はポリマー末端のヨウ素を引き抜くことが可能なラジカルになる非金属系化合物、例えば、係る性質を有するリン化合物、窒素化合物又は酸素化合物などを使用することができる。
【0049】
次のものに限定されないが、例えば、リン化合物としては、ヨウ素原子を含むハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート系化合物などが挙げられ、窒素化合物としては、イミド系化合物、ヒダントイン類、バルビツル酸類、シアヌル酸類などが挙げられ、酸素化合物としては、フェノール系化合物、アイオドオキシフェニル化合物、ビタミン類などが挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0050】
具体的には、リン化合物としては、ヨウ素原子を含むハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート系化合物であり、例えば、ジクロロアイオドリン、ジブロモアイオドリン、三ヨウ化リン、ジメチルフォスファイト、ジエチルフォスファイト、ジブチルフォスファイト、ジ(パーフロロエチル)フォスフィネート、ジフェニルフォスファイト、ジベンジルフォスファイト、ビス(2-エチルヘキシル)フォスファイト、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)フォスファイト、ジアリルフォスファイト、エチレンフォスファイト、エチルフェニルフォスフィネート、フェニルフェニルフォスフィネート、エチルメチルフォスフィネート、フェニルメチルフォスフィネートなどが挙げられる。
【0051】
窒素化合物としては、イミド類として、例えば、スクシンイミド、2,2-ジメチルスクシンイミド、α,α-ジメチル-β-メチルスクシンイミド、3-エチル-3-メチル-2,5-ピロリジンジオン、シス-1,2,3,6-テトラヒドロフタルイミド、α-メチル-α-プロピルスクシンイミド、5-メチルヘキサヒドロイソインドール-1,3-ジオン、2-フェニルスクシンイミド、α-メチル-α-フェニルスクシンイミド、2,3-ジアセトキシスクシンイミド、マレイミド、フタルイミド、4-メチルフタルイミド、N-クロロフタルイミド、N-ブロモフタルイミド、N-ブロモフタルイミド、4-ニトロフタルイミド、2,3-ナフタレンカルボキシイミド、ピロメリットジイミド、5-ブロモイソインドール-1,3-ジオン、N-クロロスクシンイミド、N-ブロモスクシンイミド、N-アイオドスクシンイミドなどが挙げられる。ヒダントイン類としては、ヒダントイン、1-メチルヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、5-フェニルヒダントイン、1,3-ジアイオド-5,5-ジメチルヒダントインなどが挙げられる。バルビツル酸類としては、バルビツル酸、5-メチルバルビツル酸、5,5-ジエチルバルビツル酸、5-イソプロピルバルビツル酸、5,5-ジブチルバルビツル酸、チオバルビツル酸、などが挙げられる。シアヌル酸類としては、シアヌル酸、N-メチルシアヌル酸、トリアイオドシアヌル酸などが挙げられる。
【0052】
酸素化合物としては、芳香環に水酸基を有するフェノール性水酸基であるフェノール系化合物、そのフェノール性水酸基のヨウ素化物であるアイオドオキシフェニル化合物、ビタミン類であり、例えば、フェノール類として、フェノール、ヒドロキノン、4-メトキシフェノール、4-t-ブチルフェノール、4-t-ブチル-2-メチルフェノール、2-t-ブチル-4-メチルフェノール、カテコール、レゾルシン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,4,6-トリメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェノール、4-ヒドロキシスチレンを重合したポリマー又はそのヒドロキシフェニル基担持ポリマー微粒子、メタクリル酸3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルエチルなどのフェノール性水酸基を有するモノマーなどが挙げられる。これらはエチレン性不飽和モノマー中に重合禁止剤として添加されているので、市販品のエチレン性不飽和モノマーを精製せずそのまま使用することで効果を発揮することもできる。アイオドオキシフェニル化合物としては、チモールアイオダイドなどが挙げられ、ビタミン類としては、ビタミンC、ビタミンEなどが挙げられる。
【0053】
触媒の使用量は、一般的にはラジカル重合開始剤のモル数未満であり、重合の制御状態等を考慮し、任意に決定され得る。
【0054】
(ラジカル重合開始剤)
ラジカル重合開始剤としては、従来公知のものを使用することができ、特に限定されないが、例えば、有機過酸化物又はアゾ化合物などを使用することができる。具体的には、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーキシド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシル-3,3-イソプロピルヒドロパーオキシド、t-ブチルヒドロパーオキシド、ジクミルヒドロパーオキシド、アセチルパーオキシド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、イソブチルパーオキシド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(イソブチレート)などが挙げられる。
【0055】
ラジカル重合開始剤は、重合性等の観点から、モノマーのモル数に対して、0.001モル倍以上、0.002モル倍以上又は0.005モル倍以上の範囲で使用することができ、また、0.1モル倍以下、0.05モル倍以下又は0.01モル倍以下の範囲で使用することができる。
【0056】
(重合溶媒)
重合溶媒としては、モノマーの官能基に対して反応性を示さないような溶媒が適宜選択される。次のものに限定されないが、例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、イソデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルトリエチレングリコール、メチルジプロピレングリコールなどの水酸基含有グリコールエーテル;ジグライム、トリグライム、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶剤;ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルシクロプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶剤;ジメチルケトン、ジエチルケトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノンなどのケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、カプロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、o-ジクロロベンゼンなどのハロゲン系溶剤;ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタムなどのアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、ニトロメタン、アセトニトリル、ニトロベンゼン、ジオクチルフタレートなどが挙げられる。
【0057】
(重合温度)
重合温度は、ラジカル重合開始剤の半減期によって適宜調整され、特に限定されないが、例えば、0℃以上又は30℃以上にすることができ、また、150℃以下又は120℃以下にすることができる。
【0058】
(重合時間)
重合時間は、モノマーがなくなるまで重合を続けることが好ましく、特に限定されないが、例えば、0.5時間以上、1時間以上又は2時間以上とすることができ、また、48時間以下、24時間以下又は12時間以下とすることができる。
【0059】
(重合雰囲気)
重合雰囲気は、特に限定されず、大気雰囲気下でそのまま重合してもよく、すなわち、重合系内に通常の範囲内で酸素が存在してもよいし、必要に応じて酸素を除去するため窒素雰囲気下で行ってもよい。使用する各種材料は、蒸留、活性炭又はアルミナ等で不純物を除去してもよいが、市販品をそのまま使用してもよい。また、重合を遮光下で行ってもよく、ガラスのような透明容器中で行ってもよい。
【0060】
《ブロックコポリマーの用途》
本発明のブロックコポリマーは、例えば、表面処理剤などとして使用することができる。本発明のブロックコポリマーによる対象物の表面処理は、通常の処理方法を用いればよく、その方法は特に限定されるものではない。例えば、本発明のブロックコポリマーを適当な分散媒中に溶解し、この溶液中に対象物を混合、攪拌して、表面処理された対象物を含む分散液を得ることができる。表面処理された対象物は、分散液の状態で使用してもよく、或いは、乾燥させた粉末形態のものを使用してもよい。
【0061】
本発明のブロックコポリマーを表面処理剤として対象物に適用する場合、対象物及びブロックコポリマーの割合は、分散性等の所望の性能が発揮される限り特に限定されないが、例えば、質量比で、100:5~100:40の範囲にすることができ、また、100:7~100:30の範囲が好ましく、100:10~100:20の範囲がより好ましい。
【0062】
また、分散液中の対象物の含有量としては、分散液全体の10質量%以上、20質量%以上又は30質量%以上の範囲にすることができ、また、90質量%以下、80質量%以下又は70質量%以下の範囲にすることができる。
【0063】
〈対象物〉
本発明のブロックコポリマーを適用し得る対象物としては、特に制限されず、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができ、例えば、親水性の表面を有する対象物、中でも、水酸基を表面に有する無機粒子、例えば、金属酸化物が好ましい。対象物表面のこのような水酸基は、親水性セグメントの水酸基との間で水素結合等を形成し得る。係る無機粒子としては、特に限定されないが、例えば、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、タルク、カオリン、マイカ(雲母)、ベントナイト、チタン被覆雲母、オキシ塩化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クロム、水酸化クロム、カーボンブラック及びこれらの複合体等の粒子が挙げられる。また、粒子の形状についても、例えば、板状、塊状、鱗片状、球状、多孔性球状等、どのような形状のものでも用いることができ、粒径についても特に制限されない。
【0064】
(分散媒)
分散媒としては、有機溶媒、特に、種々の油分を使用することができ、次のものに限定されないが、例えば、流動パラフィン、スクワラン、イソパラフィン、分岐鎖状軽パラフィン、ワセリン、セレシン等の炭化水素油、イソプロピルミリステート、セチルイソオクタノエート、グリセリルトリオクタノエート等のエステル油、デカメチルペンタシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0065】
中でも、化粧料などとした場合の使用感等の観点から、シリコーン油が好適に用いられる。具体的には、分散媒全体に対して、シリコーン油は10質量%以上、50質量%以上又は70質量%以上の範囲で使用することができ、また、100質量%以下の範囲で使用することができる。
【0066】
シリコーン油としては、次のものに限定されないが、例えば、鎖状ポリシロキサン、環状ポリシロキサン、変性シリコーン、シリコーン系樹脂等を使用することができるが、特に、常圧における沸点が200℃以下のものが好適である。例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等の鎖状ポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラメチルテトラハイドロジェンシクロテトラシロキサン等の環状ポリシロキサン等が挙げられる。
【0067】
中でも、低重合度ジメチルポリシロキサン(重合度3~7)等の揮発性鎖状ポリシロキサンや、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状揮発性ポリシロキサン等の揮発性シリコーン油を用いた場合には、例えば、化粧料などとして皮膚に適用した際にオイル感が残りにくく、さっぱりとした使用感が得られるため特に好適である。
【0068】
《無機粒子分散液の用途》
本発明のブロックコポリマーで表面処理した無機粒子の分散液は、従来の表面処理による無機粒子分散系に比べ、無機粒子の配合に伴う粘度上昇を大幅に抑制することができるため、処方を制限することなく無機粒子を高度に配合することができる。したがって、係る分散液は、例えば、化粧料、樹脂組成物、塗料、インキ、コーティング用組成物等、種々の用途に使用することができ、中でも、化粧料、特に、日焼け止め用化粧料に使用することが好ましい。本発明を限定するものではないが、具体的に、本発明のブロックコポリマーで表面処理した無機粒子の分散液を用いた化粧料について以下に説明する。
【0069】
〈化粧料〉
本発明の無機粒子分散液を化粧料に適用する場合には、そのまま又は油性成分で希釈して油性タイプの化粧料とすることができ、さらにこれらを水相成分と公知の方法により乳化処理して、水中油型又は油中水型の乳化タイプの化粧料、特に、水中油型の乳化化粧料とすることもできる。
【0070】
本発明の無機粒子分散液を含む化粧料、特に日焼け止め用化粧料は、大幅に粘度増加させることなく、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化鉄、マイカ等の紫外線散乱剤を、分散性よく化粧料中に高度に配合することができる。その結果、係る化粧料は、皮膚に対する塗布性に優れるとともに、均一分散した散乱剤による紫外線の散乱及び遮蔽効果に基づくSPF値の増加をもたらすことができる。
【0071】
SPF値は、無機粒子の分散度合によって変動する数値であるため、分散安定性の指標としてSPF値を使用することもできる。係る化粧料のSPF値及び粘度は、次のものに限定されないが、例えば、SPF値としては、15以上、20以上、又は25以上とすることができ、また、60以下、55以下又は50以下とすることができ、粘度としては、50000Pa・s以下、30000Pa・s以下、又は10000Pa・s以下とすることができ、特に、3000Pa・s以下、2800Pa・s以下、又は2500Pa・s以下とより低粘度にすることもでき、また、100Pa・s以上、150Pa・s以上又は200Pa・s以上とすることができる。ここで、粘度とは、ビストメトロン粘度計としてVDA-2又はVS-H1(いずれも芝浦システム社製)を用いて、32℃、1気圧で測定したときの測定対象物の剪断速度1/s時の粘度を意図する。
【0072】
本発明の無機粒子分散液は、化粧料中に無機粒子を高度に配合することができ、次に限定されないが、例えば、化粧料中への無機粒子の配合量としては、化粧料の全量に対して、5質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上配合することができ、また、50質量%以下、48質量%以下、又は45質量%以下配合することができる。
【0073】
本発明の化粧料の剤型は任意であり、溶液系、可溶化系、乳化系、水-油二層系、ゲル、エアゾール、ミスト、及びカプセル等、任意の形態で提供することができる。また、本発明の化粧料の製品形態も任意であり、化粧水、乳液、クリーム、パック等のフェイシャル化粧料;化粧下地、ファンデーション、頬紅、口紅、リップクリーム、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、サンスクリーン等のメーキャップ化粧料;ボディー化粧料;芳香化粧料;メーク落とし、洗顔料、ボディーシャンプー等の皮膚洗浄料;ヘアースプレー、ヘアークリーム、ヘアーローション、ヘアーリンス、シャンプー等の毛髪化粧料等、従来皮膚外用剤に用いるものであればいずれの形で適用することもできる。特に、紫外線防止を目的とする製品として好適に用いられる。
【0074】
(任意成分)
本発明の化粧料は、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、各種成分を適宜配合することができる。各種成分としては、化粧料に通常配合し得るような添加成分、例えば、液体油脂、固体油脂、ロウ、高級脂肪酸等の油分、高級アルコール、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、皮膜剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、各種抽出液、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、キレート剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、医薬品、医薬部外品、化粧品等に適用可能な水溶性薬剤、酸化防止剤、緩衝剤、防腐剤、酸化防止助剤、有機系粉末、顔料、染料、色素、香料、水等を挙げることができる。
【0075】
日焼け止め用の化粧料とする場合には、水溶性又は油溶性の有機系紫外線吸収剤を1種又は2種以上配合してもよい。
【0076】
水溶性紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-4’-メチルベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸塩、4-フェニルベンゾフェノン、2-エチルヘキシル-4’-フェニル-ベンゾフェノン-2-カルボキシレート、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、4-ヒドロキシ-3-カルボキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、フェニルベンズイミダゾール-5-スルホン酸及びその塩、フェニレン-ビス-ベンゾイミダゾール-テトラスルホン酸及びその塩等のベンゾイミダゾール系紫外線吸収剤、3-(4’-メチルベンジリデン)-d,l-カンファー、3-ベンジリデン-d,l-カンファー、ウロカニン酸、ウロカニン酸エチルエステル等が挙げられる。
【0077】
油溶性紫外線吸収剤としては、例えば、パラアミノ安息香酸(PABA)、PABAモノグリセリンエステル、N,N-ジプロポキシPABAエチルエステル、N,N-ジエトキシPABAエチルエステル、N,N-ジメチルPABAエチルエステル、N,N-ジメチルPABAブチルエステル等の安息香酸系紫外線吸収剤;ホモメンチル-N-アセチルアントラニレート等のアントラニル酸系紫外線吸収剤;アミルサリシレート、メンチルサリシレート、ホモメンチルサリシレート、オクチルサリシレート、フェニルサリシレート、ベンジルサリシレート、p-イソプロパノールフェニルサリシレート等のサリチル酸系紫外線吸収剤;オクチルシンナメート、エチル-4-イソプロピルシンナメート、メチル-2,5-ジイソプロピルシンナメート、エチル-2,4-ジイソプロピルシンナメート、メチル-2,4-ジイソプロピルシンナメート、プロピル-p-メトキシシンナメート、イソプロピル-p-メトキシシンナメート、イソアミル-p-メトキシシンナメート、オクチル-p-メトキシシンナメート、2-エチルヘキシル-p-メトキシシンナメート、2-エトキシエチル-p-メトキシシンナメート、シクロヘキシル-p-メトキシシンナメート、エチル-α-シアノ-β-フェニルシンナメート、2-エチルヘキシル-α-シアノ-β-フェニルシンナメート、グリセリルモノ-2-エチルヘキサノイル-ジパラメトキシシンナメート、3,4,5-トリメトキシケイ皮酸3-メチル-4-[メチルビス(トリメチルシリキシ)シリル]ブチル等のケイ皮酸系紫外線吸収剤;2-フェニル-5-メチルベンゾキサゾール、2,2’-ヒドロキシ-5-メチルフェニルベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニルベンゾトリアゾール、ジベンザラジン、ジアニソイルメタン、4-メトキシ-4’-t-ブチルジベンゾイルメタン、5-(3,3-ジメチル-2-ノルボルニリデン)-3-ペンタン-2-オン、オクトクリレン等が挙げられる。
【実施例
【0078】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下、特に断りのない限り、配合量は質量部で示す。
【0079】
《実施例1~5及び比較例1~8》
【0080】
〈共重合体の合成方法〉
(共重合体1)
攪拌機、逆流コンデンサー、温度計及び窒素導入管を取り付けた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート30質量部、下記式2のモノマー110質量部、ヨウ素0.25質量部、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.3質量部を仕込み、窒素バブリングしながら80℃で2時間重合させて疎水性セグメント部を作製した。
【0081】
【化11】
式2中、R及びRはメチル基であり、Rはブチル基であり、mは3であり、かつ、nは10である。
【0082】
続いて、メタクリル酸を15質量部添加し、さらに同温度で2時間重合させて親水性ブロック部を形成して、疎水性セグメント及び親水性セグメントを有するブロックコポリマーを得た。各モノマー原料の使用量から、得られるブロックコポリマーのモル比を換算すると、前記式2のモノマー単位の割合は、約80.5モル%であり、メタクリル酸のモノマー単位の割合は、約19.5モル%であった。
【0083】
(共重合体2)
上記式2のモノマーのnを10から30に変更したこと以外は、共重合体1と同様の方法で共重合体2のブロックコポリマーを作製した。
【0084】
(共重合体3)
上記式2のモノマーに代えて、下記式1のモノマーを80質量部使用したこと以外は、共重合体1と同様の方法で共重合体3のブロックコポリマーを作製した。
【0085】
【化12】
式1中、Rはメチル基であり、かつmは11である。
【0086】
(共重合体4)
上記式2のモノマーに代えて、メタクリル酸メチルに変更したこと以外は、共重合体1と同様の方法で共重合体4のブロックコポリマーを作製した。
【0087】
〈表面処理した無機粒子分散液の作製方法〉
(分散液1)
20gの共重合体1を200gのブチルジグリコール中に溶解し、次いで、この溶液中に、80gの酸化チタン(ST-485WD、チタン工業株式会社製)を添加し、室温で1時間攪拌して、表面処理された酸化チタンを50質量%含む酸化チタンの分散液1を作製した。
【0088】
(分散液2~4)
共重合体1に代えて、共重合体2~4を各々使用したこと以外は、分散液1と同様の方法で酸化チタンの分散液2~4を作製した。
【0089】
〈粘度及びSPF値の評価〉
下記に示す表1~2の処方及び製造方法により得た乳化物の粘度及び紫外線防御指数とも呼ばれるSPF値を評価した。ここで、粘度は、ビストメトロン粘度計として、低粘度の場合にVDA-2、高粘度の場合にVS-H1を用いて、32℃、1気圧で測定したときの測定対象物の剪断速度1/s時の粘度を採用した。また、SPF値は、得られた乳化物を透明テープ上に2mg/cmの塗付量で塗付して評価試料とし、係る評価試料を、紫外線領域において太陽光とほぼ同一のスペクトルを有する光源であるソーラーライト社製のソーラーシミュレーターと分光光度計との間に挿入し、評価試料の有無によるスペクトルを比較してSPF値を算出した。それぞれのスペクトルからの算出方法は、特公平6-27064号公報の段落番号「0076」及び「0077」に記載されている方法と同様である。
【0090】
〈実施例1~2及び比較例1~6の乳化物の製造方法〉
(実施例1)
油分であるシクロペンタシロキサン、及び酸化チタンの分散液1を乾燥させて得られた酸化チタン粉末を室温で攪拌混合して混合物Aを作製した。次いで、界面活性剤であるPEG-10 ジメチコン及びイオン交換水を60℃で攪拌混合して混合物Bを作製し、60℃で攪拌しながら、係る混合物Bに混合物Aを添加して実施例1の乳化物を作製した。また、係る乳化物の組成を表1にまとめる。
【0091】
(実施例2)
油分としてシクロペンタシロキサン及びセチルイソオクタノエートを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の乳化物を作製した。また、係る乳化物の組成を表1にまとめる。
【0092】
(比較例1~2、4及び5)
表1に記載される各種成分及び配合割合を採用したこと、並びに分散液B及びCは、乾燥させずにそのまま使用したことを除いて、実施例1と同様にして、比較例1~2、4及び5の乳化物を各々作製した。また、係る乳化物の組成を表1にまとめる。ここで、表1中の粉末Aとは、ステアリン酸アルミニウムで表面処理された酸化チタン粉末であり、分散液Bとは、シクロペンタシロキサン中にステアリン酸アルミニウムで表面処理された酸化チタンを40質量%及び界面活性剤を10質量%含む分散液であり、また、分散液Cとは、シクロペンタシロキサン中にハイドロゲンジメチコンで表面処理された酸化チタンを40質量%及び界面活性剤を10質量%含む分散液である。
【0093】
(比較例3及び6)
油分であるシクロペンタシロキサン、イオン交換水、及び分散液B又は分散液Cを60℃で攪拌混合して比較例3及び6の乳化物を各々作製した。また、係る乳化物の組成を表1にまとめる。
【0094】
【表1】
【0095】
〈結果〉
表1から明らかなように、従来より一般的に使用されている材料で表面処理した酸化チタンを採用した比較例1~6の乳化物は、粘度が6700Pa・s程度以上と高粘度であったり、油分と水が分離するなどして不安定であったが、本発明のブロックコポリマーで表面処理した酸化チタンを採用した実施例1及び2は、酸化チタンの分散性に優れることに加え、比較例1~6に比べて、乳化物の粘度を大幅に低減し得ることが分かった。また、例えば、比較例2及び4から分かるように、従来の材料で表面処理した酸化チタンを使用した場合には、油分の種類によって粘度が大きく変動するが、実施例1及び2の乳化物は、油分の種類による影響をほとんど受けないことが判明した。したがって、本発明のブロックコポリマーで表面処理した酸化チタン等の対象物は、油分の種類に対して制約を受けにくいことも分かった。
【0096】
〈実施例3~5及び比較例7~8の乳化物の製造方法〉
(実施例3)
表2に記載される油分及びUV散乱剤である分散液2の乾燥粉末を、80℃の雰囲気下、表2に記載される配合割合で攪拌混合して混合物Cを作製した。次いで、表2に記載される、水、アルコール、増粘剤、保湿剤、界面活性剤、UV吸収剤及び他成分を、80℃の雰囲気下、表2に記載される配合割合で攪拌混合して混合物Dを作製し、80℃で攪拌しながら、係る混合物Dに混合物Cを添加して実施例3の乳化物を作製した。また、係る乳化物の組成を表2にまとめる。
【0097】
(実施例4及び5)
UV散乱剤を分散液2の乾燥粉末から分散液3の乾燥粉末又は分散液4の乾燥粉末に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、実施例4及び5の乳化物を各々作製した。また、係る乳化物の組成を表2にまとめる。
【0098】
(比較例7)
表2に記載される、水、アルコール、増粘剤、保湿剤、油分、界面活性剤、UV吸収剤及び他成分を、80℃の雰囲気下、表2に記載される配合割合で攪拌混合して比較例7の乳化物を作製した。また、係る乳化物の組成を表2にまとめる。
【0099】
(比較例8)
UV散乱剤を分散液2の乾燥粉末から粉末Aに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、比較例8の乳化物を作製した。また、係る乳化物の組成を表2にまとめる。
【0100】
【表2】
【0101】
〈結果〉
表2から明らかなように、UV散乱剤を含まない比較例7のUV吸収剤の一部を、UV散乱剤で置き換えた場合、一般的には、比較例8に示されるように、粘度の大幅な上昇を伴ってしまい、また、UV散乱剤の分散性の低下などからSPF値も減少する傾向にある。一方、本発明のブロックコポリマーで表面処理した酸化チタンを採用した実施例3~5の場合には、UV吸収剤の一部をUV散乱剤で置き換えたとしても、粘度が上昇するどころか、逆に粘度を減少させることができ、また、SPF値も増大させ得ることが分かった。
【0102】
また、表2の比較例7及び実施例3~5の結果から、本発明のブロックコポリマーで表面処理した酸化チタンなどを含むUV散乱剤を使用すると、比較例7に示されるようなUV散乱剤を含まない系と同等以上のSPF値をより低粘度の状態で得られることから、UV散乱剤を含まない系の粘度までより高濃度にUV散乱剤を配合した場合には、係る系よりもSPF値をより一層高められることは容易に推認し得るものと考える。
【符号の説明】
【0103】
1 疎水性セグメント
2 親水性セグメント
3 対象物
図1
図2