(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】免疫調節用組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/00 20160101AFI20230629BHJP
A23L 17/60 20160101ALI20230629BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20230629BHJP
A61K 36/03 20060101ALI20230629BHJP
A61K 36/06 20060101ALI20230629BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
A23L33/00
A23L17/60 102
A23L5/00 J
A61K36/03
A61K36/06 A
A61P37/02
(21)【出願番号】P 2019009953
(22)【出願日】2019-01-24
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504214626
【氏名又は名称】濱田 奈保子
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】濱田 奈保子
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-186797(JP,A)
【文献】特開2018-145161(JP,A)
【文献】特開2006-320257(JP,A)
【文献】国際公開第2006/093267(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00
A23L 17/60
A61K 36/03
A61P 37/02
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒダカコンブ(ミツイシコンブ)の麹菌発酵物を有効成分として含有する免疫調節用組成物。
【請求項2】
IgE産生阻害活性及び/又は
IL-12産生誘導活性を有する、請求項1に記載の免疫調節用組成物。
【請求項3】
ヒダカコンブ(ミツイシコンブ)を原料として含有する培養液に、麹菌を接種して好気性条件下で培養することにより、褐藻類に属する海藻の麹菌発酵物を得ることを特徴とする免疫調節用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記免疫調節用組成物は、IgE産生阻害活性及び/又は
IL-12産生誘導活性を有する、請求項
3に記載の免疫調節用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記培養液中の前記
ヒダカコンブ(ミツイシコンブ)の固形分濃度を0.1~10.0質量%とする、請求項
3又は4に記載の免疫調節用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記麹菌の培養を36~60時間行う、請求項
3~5のいずれか1項に記載の免疫調節用組成物の製造方法。
【請求項7】
前記麹菌発酵物又はその乾燥物を、30~60℃の温水で処理して抽出物を得る、請求項
3~6のいずれか1項に記載の免疫調節用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褐藻類に属する海藻を麹菌で発酵させて得られる免疫調節用組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アレルギーや癌等の免疫に関わる疾患の患者数が増加している。その治療は長期間に及び、高額な医療費がかかること、また Quality of Life を低下させるだけでなく、最悪の場合は死に至らしめることから、その予防や多種の治療が必要とされる。このため、免疫調節作用を有する有用で安全な食品や医薬品が求められている。
【0003】
一方、海藻は日本では古くから食材や薬として用いられてきた。海藻はミネラル、炭水化物を多く含むが、この炭水化物の大部分は海藻特有の多糖類であり、有用なものである。海藻が含む多糖類は、細胞壁に含まれて藻体を支える骨格多糖類、細胞間を充填する粘質多糖類、エネルギー貯蔵形態である貯蔵多糖類に特に分類される。特に粘質多糖類のフコイダンやアルギン酸は褐藻類特有の成分であり、利用の範囲は広く、工業、医療、食品等さまざまな分野に応用されている。さらに、生理活性としては抗凝固・抗血栓作用、抗炎症作用、抗ウイルス作用、コレステロール低下作用、高血圧低下作用等の報告がある。
【0004】
ここで、海藻の発酵物が免疫調節作用を有することを開示した文献として、例えば下記文献1には、海藻の納豆菌発酵物がマクロファージ産生能に基づく免疫賦活活性と抗腫瘍活性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、褐藻類に属する海藻の麹菌発酵物が免疫調節作用を有するという報告は、発明者が知る限り未だない。
【0007】
したがって、本発明の目的は、IgE産生阻害活性、及びIL-12産生誘導活性を有する免疫調節用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の1つは、褐藻類に属する海藻の麹菌発酵物を有効成分として含有する免疫調節用組成物を提供するものである。本発明の有効成分である褐藻類に属する海藻の麹菌発酵物は、IgE産生阻害活性、及びIL-12産生誘導活性を有するので、免疫調節作用を有する。
【0009】
本発明の免疫調節用組成物は、IgE産生阻害活性及び/又はL-12産生誘導活性を有することが好ましい。
【0010】
本発明の免疫調節用組成物における褐藻類に属する海藻は、マコンブ、ヒダカコンブ(ミツイシコンブ)、リシリコンブ、ナガコンブ、アラメ、及びワカメからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のもう1つは、褐藻類に属する海藻を原料として含有する培養液に、麹菌を接種して好気性条件下で培養することにより、褐藻類に属する海藻の麹菌発酵物を得ることを特徴とする免疫調節用組成物の製造方法を提供するものである。これによれば、IgE産生阻害活性、及びIL-12産生誘導活性を有する免疫調節用組成物を得ることができる。
【0012】
本発明の免疫調節用組成物の製造方法において、前記免疫調節用組成物はIgE産生阻害活性及び/又はIL-12産生誘導活性を有することが好ましい。
【0013】
本発明の免疫調節用組成物の製造方法において、前記培養液中の前記褐藻類に属する海藻の固形分濃度を0.1~10.0質量%とすることが好ましい。これによれば、培養液の粘度等が発酵に適した状態となり、麹菌による発酵を良好に進行させることができる。
【0014】
本発明の免疫調節用組成物の製造方法において、前記麹菌の培養を36~60時間行うことが好ましい。これによれば、IgE産生阻害活性、及びIL-12産生誘導活性を有する発酵物を効率よく得ることができる。
【0015】
本発明の免疫調節用組成物の製造方法において、前記麹菌発酵物又はその乾燥物を、30~60℃の温水で処理して抽出物を得ることが好ましい。これによれば、IgE産生阻害活性、及びIL-12産生誘導活性を有する発酵物を効率よく得ることができる。
【0016】
本発明の免疫調節用組成物の製造方法において、前記褐藻類に属する海藻として、マコンブ、ヒダカコンブ(ミツイシコンブ)、リシリコンブ、ナガコンブ、アラメ、及びワカメからなる群より選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有効成分である褐藻類に属する海藻の麹菌発酵物は、IgE産生阻害活性、及びIL-12産生誘導活性を有するので、免疫調節作用を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】麹菌(アスペルギルス・オリゼ)、及び納豆菌(バチルス・サブチリス ナットー)を用いて発酵させたヒダカコンブのIL-12産生量を示す図表である。
【
図2】麹菌6株を用いて発酵させたヒダカコンブのIgE産生阻害率を示す図表である。
【
図3】麹菌5株を用いて発酵させたヒダカコンブのIL-12産生量を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明における褐藻類に属する海藻は、コンブ目コンブ科のマコンブ、ヒダカコンブ(ミツイシコンブ)、リシリコンブ、ナガコンブ、およびアラメ、コンブ目チガイソ科のワカメ、ヒバマタ目ホンダワラ科のヒジキ、ホンダワラ、およびアカモク、並びにナガマツモ目モズク科のモズク等が挙げられる。本発明においては、いずれの褐藻類に属する海藻も用いることができるが、容易かつ安価に入手でき、麹菌発酵物のIgE産生阻害効果やIL-12産生誘導活性が高いという点で褐藻類コンブ目に属する海藻のマコンブ、ヒダカコンブ(ミツイシコンブ)、リシリコンブ、ナガコンブ、アラメ、及びワカメからなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0020】
原料として用いる褐藻類に属する海藻の形態は、特に限定されず、例えば、生、又は乾燥した褐藻類に属する海藻の粉砕物や粉末等が使用できる。
【0021】
本発明における麹菌としては、特に限定されないが、黄麹菌のアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、及びアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchuensis)黒麹菌のアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、及びアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、並びに白麹菌のアスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、及びアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)等が挙げられる。この中でも特にアスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・ルーチェンシスが好ましく使用される。
【0022】
本発明における免疫調節用組成物の製造方法は、褐藻類に属する海藻を原料として含有する培養液に、麹菌を接種して好気性条件下で培養することにより、褐藻類に属する海藻の麹菌発酵物を得ることを特徴とする。
【0023】
培養液中には、褐藻類に属する海藻原料を固形分濃度で好ましくは0.1~10.0質量%、より好ましくは0.2~5.0質量%となるように添加し、更に必要に応じてその他の原料を添加して、好ましくは加熱滅菌することにより調製することができる。
【0024】
褐藻類に属する海藻原料の固形分濃度が上記範囲であれば、培養液の粘度等が発酵に適した状態となり、麹菌による発酵を良好に進行させることができる。褐藻類に属する海藻原料の固形分濃度が0.1質量%未満では、培養液の単位体積当たりの発酵物の収量が少なくなり、生産性が悪くなり、10.0質量%を超えると、培養液の撹拌がしにくくなることによって通気性が悪くなり、発酵の進行が低下する傾向がある。
【0025】
培養液としては、麹菌の通常の培養に用いられるものでよく、例えば、ペプトン、イーストエクストラクト等のエキス類等を添加することができる。
【0026】
また、加熱滅菌条件は、特に限定されないが、好ましくは65~130℃で5~50分程度の加熱滅菌が好ましく採用される。
【0027】
なお、本発明においては、麹菌を用いることにより、褐藻類に属する海藻原料を酵素等によって分解することなく発酵させることができるが、更に発酵を促進させるため、海藻原料を酵素等によって分解して培地原料としてもよい。この場合の酵素としては、例えばセルラーゼ、ヘミセルラーゼ等を用いることができる。
【0028】
上記培養液に、好ましくは、予め前培養して活性化した麹菌を接種し、好気性条件下で、好ましくは20~37℃、より好ましくは25~30℃の温度下で、好ましくは36~60時間、より好ましくは48~52時間培養する。培養温度や時間が上記範囲未満ではIgE産生阻害活性やIL-12産生誘導活性が十分に上昇しない傾向があり、上記範囲を超えてもIgE産生阻害活性やIL-12産生誘導活性がそれ以上上昇せず、生産性が悪くなる傾向がある。
【0029】
培養を好気性条件下とする方法としては、特に限定されないが、例えば振とう培養、通気撹拌培養、静置培養等が挙げられる。工業的に生産する場合には、通気撹拌培養が好ましく採用される。
【0030】
このようにして得られた麹菌の培養液は、そのまま、あるいは更に加工処理することにより、本発明の免疫調節用組成物の有効成分として利用することができる。なお、本発明において、麹菌発酵物とは、麹菌の培養液そのものだけでなく、その加工処理物も含むものとする。
【0031】
培養液の加工処理方法としては、例えば、(1)培養液を濃縮して濃縮液としたり、(2)培養液をろ過、遠心分離等の手段で固液分離したり、(3)培養液又はその濃縮液を、例えば凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥等の手段で乾燥し、必要により更に粉砕し、篩分け等を行って粉末化したり、(4)培養液を固液分離した上清を必要により濃縮し、乾燥させて粉末エキスとしたり、(5)培養液、その濃縮液、あるいは培養液の乾燥物に、抽出溶媒を添加して有効成分を抽出し、固液分離して抽出液を採取し、該抽出液を濃縮又は乾燥粉末化する方法等を採用することができる。
【0032】
培養液、その濃縮液、あるいは培養液の乾燥物に、抽出溶媒を添加して有効成分を抽出する場合、抽出溶媒としては、水、又は含水アルコールが好ましく用いられ、特に30~60℃の温水が好ましく、40~55℃の温水がさらに好ましく用いられる。温水の温度が30℃未満では、IgE産生阻害活性やIL-12産生誘導活性を高めにくく、60℃を超えると、IgE産生阻害活性やIL-12産生誘導活性が低下する傾向がある。
【0033】
本発明の免疫調節用組成物は、上記のようにして得られた麹菌発酵物を有効成分として含有するものであればよい。本発明の免疫調節用組成物においては、本発明の目的を損なわない限り、他の成分を含有することに特に制限はない。例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、発色剤、矯味剤、着香剤、酸化防止剤、防腐剤、呈味剤、酸味剤、甘味剤、強化剤、ビタミン剤、膨張剤、増粘剤、界面活性剤等を添加することができる。
【0034】
本発明の免疫調節用組成物の投与形態は、特に限定されないが、経口投与組成物であることが好ましい。
【0035】
本発明の免疫調節用組成物の製品形態は、特に限定されない。経口投与組成物である場合の製品形態の例としては、液状(液剤)、シロップ状(シロップ剤)、粉末状(顆粒、細粒)、錠剤(錠剤、タブレット)、カプセル状(カプセル剤)、ソフトカプセル状(ソフトカプセル剤)、固形状、半液体状、クリーム状、ペースト状等が挙げられる。
【0036】
また、免疫調節用組成物は、例えば医薬品、医薬部外品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、健康食品、動物用医薬品、動物用医薬部外品、動物用機能性食品、動物用栄養補助食品、動物用サプリメント、動物用健康食品等の製品自体あるいはその原料として使用することができる。
【0037】
さらに、免疫調節用組成物は、IgE産生阻害活性やIL-12産生誘導活性を増加させる効果を付与する目的で、広く一般食品の原料としても使用できる。一般食品としては、例えば、パン、菓子、麺、畜肉又は魚肉の加工品、スープ、飲料、ふりかけ、調味料等が挙げられる。
【0038】
本発明の免疫調節用組成物の有効投与量は、特に限定されず、服用者の年齢、体重、性別等によって適宜決定することができるが、通常、成人1日当たりの麹菌発酵物の服用量は、乾燥固形分量として3.5~60gが好ましく、10~50gがより好ましく、30~40gがさらに好ましい。本発明の免疫調節用組成物は、1日1回~数回に分け、又は任意の期間及び間隔で服用され得る。
【0039】
本発明の免疫調節用組成物は、後述する実施例に示されるように、IgE産生阻害活性及び/又はIL-12産生誘導活性を有するので、対象に投与することにより、その対象の免疫を調節することができる。ここで、「調節」とは、本明細書では、免疫応答を誘発し、増強し、刺激して、または支持することを指す。
【0040】
免疫調節によって改善が期待される具体的な疾患等としては、例えば、アナフィラキシーショック、アレルギー性鼻炎、結膜炎、自己免疫性溶血性貧血、顆粒球減少症、血小板減少症、血清症、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、糸球体腎炎、接触性皮膚炎、アレルギー性脳炎、移植拒絶反応等が挙げられる。その他、インフルエンザや風邪等にも改善が期待される。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。なお、特に断らない限り、含有率を示す%は質量%を表す。
【0042】
<実験例1>
各種微生物を用いて発酵させたヒダカコンブのIL-12産生量を定量した。
【0043】
ここで、IL-12は、主にT細胞やナチュラルキラー(NK)細胞に作用して、その増殖促進、IFN-γ産生誘導作用、細胞傷害性の増強、さらにナイーブT細胞のTh1細胞への分化誘導等を引き起こす。そのため、IL-12 の産生量を増加させることで、細胞性免疫が亢進し、癌細胞にアポトーシスを誘導できるという報告がある。
【0044】
1.各種微生物によるヒダカコンブ発酵培養液の作製
ヒダカコンブを原料として、各種微生物の発酵培養液を作製した。発酵に用いた微生物には、納豆菌はバチルス・サブチリス ナットー、麹菌はアスペルギルス・オリゼを用いた。なお、これらの微生物は、いずれも市販されており、当業者が容易に入手できる微生物である。
(1)納豆菌の培養方法
-80℃中で冷凍保存していた納豆菌をSP培地を用いて30℃で1日振とう培養し、これを納豆菌前培養液とした。
【0045】
5%となるように蒸留水にヒダカコンブ粉末を添加し、ヒダカコンブ懸濁液を調製した。その懸濁液に121℃、15分間の加圧加熱滅菌を行い、十分に冷ましてから、ヒダカコンブ懸濁液の1%の納豆菌前培養液を添加した。その後、30℃で振とう培養を2日間行い、発酵培養液を得た。
(2)麹菌の培養方法
-80℃中で冷凍保存していた麹菌をPDB培地を用いて28℃で1日振とう培養し、これを麹菌前培養液とした。
【0046】
1%となるように蒸留水にヒダカコンブ粉末を添加し、ヒダカコンブ懸濁液を調製した。その懸濁液に121℃、15分間の加圧加熱滅菌を行い、十分に冷ましてから、ヒダカコンブ懸濁液の1%の麹菌前培養液を添加した。その後、28℃で振とう培養を2日間行い、発酵培養液を得た。
【0047】
2.発酵物の作製
上記の各発酵培養液を-20℃で凍結し、次いで凍結乾燥を行った。この凍結乾燥物を10μg/mLとなるように蒸留水に懸濁し、50℃恒温槽中で1時間振とうした。これを遠心分離し、上清をヒダカコンブの発酵物とした。なお、対照には、ヒダカコンブ粉末を蒸留水と懸濁させた懸濁液を未発酵物として用いた。
【0048】
3.IL-12産生量の定量
上記の未発酵物又は発酵物と、RPMI-1640培地に希釈したBALB/Cマウス脾臓の細胞懸濁液(5×106cells/mL)をそれぞれ100μLずつ、96wellプレートに添加し、37℃で72時間インキュベートした。その後、培養上清を回収して遠心分離を行い、上清のみを回収し、IL-12産生量の定量に供した。
【0049】
IL-12産生量は、Quantikine(登録商標) ELISA Mouse IL-12 p70 Immunoassay を用いてキットのプロトコルに従い、定量した。
【0050】
4.結果
図1に示すように、未発酵物のIL-12産生量は2.7pg/mL、納豆菌発酵物は検出限界以下、麹菌発酵物は58.7pg/mLであった。麹菌発酵物が顕著なIL-12産生量を示したことから、麹菌発酵ヒダカコンブを摂取することによる免疫調節作用を期待することができた。
【0051】
<実験例2>
麹菌を用いて発酵させたヒダカコンブ(以下、「麹菌発酵物」ともいう)のIgE産生阻害活性を測定した。
【0052】
ここで、IgEは、その抗体が産生されることによりI型アレルギーの主な原因となる。IgE抗体とはB細胞から産生される抗原特異的な抗体であり、マスト細胞表面のFcεRに結合して、体内に侵入してきた抗原と結合して、マスト細胞をさせることでマスト細胞からヒスタミン等の血管透過性の亢進や粘液分泌の促進を起こし、数分という単位で組織の発赤・膨張を誘導する。そのため、IgE抗体の産生を阻害することで、アレルギーの症状を緩和できると考えられている。
【0053】
1.麹菌発酵物の作製
麹菌としては A. oryzae 001(受託番号:NITE P-02748)、株式会社樋口松之助商店から購入した A. oryzae M-01、A. oryzae S-03、A. oryzae W-30、A. sojae No.9 、及び A. luchuensis SH-34を使用した。
【0054】
上記実験1と同様の方法で、各麹菌発酵物を得た。
【0055】
2.IgE産生阻害活性の測定
各麹菌発酵物をRPMI-1640培地で初濃度200μg/mL、600μg/mL、又は2000μg/mLに調整したものと、RPMI-1640培地に希釈したU266細胞懸濁液(2×105cells/mL)をそれぞれ300μLずつ、48wellプレートに添加し、37℃で24時間インキュベートした。その後、プレートシェイクを行い、次いで遠心分離を行った。上清を回収し、IgE産生阻害活性の測定に供した。
【0056】
IgE産生阻害活性は、Human IgE ELISA Quantitation Setを用いてキットのプロトコルに従い、定量した。IgE産生阻害率(%)は以下の式を用いて算出した。コントロールには抽出物の代わりに蒸留水を添加した。
【0057】
IgE産生阻害率(%)=(1-S/C)*100
S:発酵物添加区のIgE産生量、C:コントロールのIgE産生量
3.結果
図2に示すように、未発酵物のIgE産生阻害率は2.6%、A. oryzae 001発酵物(200μg/mL)は4.1%、A. oryzae M-01発酵物(200μg/mL)は6.6%、A. oryzae S-03発酵物(600μg/mL)は4.2%、A. oryzae W-30発酵物(200μg/mL)は19.4%、A. sojae No.9発酵物(2000μg/mL)は9.7%、及びA. luchuensis SH-34発酵物(600μg/mL)は4.1%であり、未発酵物と比較すると、いずれの発酵物にもIgE産生阻害活性の上昇が確認できた。
【0058】
このことから、麹菌発酵ヒダカコンブを摂取することによる免疫調節作用を期待することができた。
【0059】
<実験例3>
麹菌発酵ヒダカコンブのIL-12産生量を定量した。
【0060】
1.麹菌発酵ヒダカコンブの作製
上記実験1と同様の方法で、各麹菌発酵物を得た。
ただし、凍結乾燥物は10μg/mL、又は100μg/mLとなるように蒸留水に懸濁し、50℃恒温槽中で1時間振とうしたものを用いた。
【0061】
2.IL-12産生量の定量
上記実験1と同様の方法で、各麹菌発酵物のIL-12産生量を定量した(A. sojae No.9発酵抽出物は除く)。
【0062】
3.結果
図3に示すように、未発酵物のIL-12産生量は2.7pg/mL、A. oryzae 001発酵物(10μg/mL)は58.7pg/mL、A. oryzae M-01発酵物(100μg/mL)は8.9pg/mL、A. oryzae S-03発酵物(100μg/mL)は6.6pg/mL、A. oryzae W-30発酵物(100μg/mL)は31.4pg/mL、及びA. luchuensis SH-34発酵物(10μg/mL)は87pg/mLであり、未発出物と比較すると、いずれの発酵物にもIL-12産生量の上昇が確認できた。
【0063】
このことから、麹菌発酵ヒダカコンブを摂取することによる免疫調節作用を期待することができた。