IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 竹本油脂株式会社の特許一覧

特許7304104炭素繊維用サイジング剤、炭素繊維の製造方法、および、炭素繊維
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】炭素繊維用サイジング剤、炭素繊維の製造方法、および、炭素繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/41 20060101AFI20230629BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
D06M15/41
D06M101:40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022205399
(22)【出願日】2022-12-22
【審査請求日】2022-12-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】濱島 暁
(72)【発明者】
【氏名】西村 玲音
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-207099(JP,A)
【文献】特開2016-065136(JP,A)
【文献】特開2003-212943(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102912637(CN,A)
【文献】特開平08-060550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715
D01F9/08-9/32
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が350未満のフェノール樹脂を含有し、
前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂が、数平均分子量が350未満のレゾール型フェノール樹脂であることを特徴とする炭素繊維用サイジング剤。
【請求項2】
非レゾール型のフェノール樹脂である第二フェノール樹脂をさらに含有し、
前記レゾール型フェノール樹脂の質量と前記第二フェノール樹脂の質量との合計に対して前記レゾール型フェノール樹脂の質量が占める割合が75質量%以上である請求項に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項3】
水と混合されて前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂が1質量%となる水希釈液が調製されたときに、当該水希釈液の25℃におけるpHが8.0以上11.0以下になる請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項4】
数平均分子量が350未満のフェノール樹脂を含有し、
水と混合されて前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂が1質量%となる水希釈液が調製されたときに、当該水希釈液の25℃におけるpHが8.0以上11.0以下になることを特徴とする炭素繊維用サイジング剤。
【請求項5】
希釈剤をさらに含有し、
前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の質量と前記希釈剤の質量との合計に対して前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の質量が占める割合が、1質量%以上67質量%以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の炭素繊維用サイジング剤と、溶媒と、を混合して、前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の含有率が0.05質量%以上20質量%以下であるサイジング液を調製する工程と、
炭素繊維を前記サイジング液に接触させる工程と、を含むことを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の炭素繊維用サイジング剤が付着していることを特徴とする炭素繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維用サイジング剤、炭素繊維の製造方法、および、炭素繊維、に関する。
【背景技術】
【0002】
サイジング剤は、炭素繊維などの無機繊維に塗布される薬剤であり、繊維の損傷を抑える、繊維の集束性を高める、などの目的で使用される。たとえば特開平8-92461号公報(特許文献1)には、オルソ・パラ比が2以上の芳香族溶剤可溶フェノール樹脂を含むバインダー組成物が開示されている。当該バインダー組成物において、フェノール樹脂はサイジング剤としての役割を果たしている。特許文献1に記載のバインダー組成物は、吸湿性が少なく、タール・ピッチとの相溶性にも優れ、しかも炭化時の残炭率が高いという有利な性質を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-92461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の発明においては、フェノール樹脂の分子量が比較的高いことに起因して、炭素繊維に対して均一に付着させることが難しい場合があった。そのため、当該発明を用いて得られる炭素繊維複合材料の品質が安定しない場合があった。
【0005】
そこで、フェノール樹脂を含むサイジング剤を炭素繊維に対して均一に付着させることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る第一の炭素繊維用サイジング剤は、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂を含有し、前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂が、数平均分子量が350未満のレゾール型フェノール樹脂であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る第二の炭素繊維用サイジング剤は、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂を含有し、水と混合されて前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂が1質量%となる水希釈液が調製されたときに、当該水希釈液の25℃におけるpHが8.0以上11.0以下になることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る炭素繊維の製造方法は、上記のいずれかの炭素繊維用サイジング剤と、溶媒と、を混合して、前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の含有率が0.05質量%以上20質量%以下であるサイジング液を調製する工程と、炭素繊維を前記サイジング液に接触させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る炭素繊維は、上記のいずれかの炭素繊維用サイジング剤が付着していることを特徴とする。
【0010】
上記の構成の炭素繊維用サイジング剤によれば、従来のサイジング剤に比べて炭素繊維に対する付着性が向上しうる。そのため、当該炭素繊維用サイジング剤を用いて炭素繊維を製造すれば、炭素繊維用サイジング剤が均一に付着した炭素繊維が得られやすい。
【0011】
レゾール型フェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂等の他の種類のフェノール樹脂に比べてヒドロキシ基が分子中に占める割合が大きい。ヒドロキシ基は炭素繊維に対する接着性に寄与する官能基であるので、上記の第一の炭素繊維用サイジング剤によれば、炭素繊維への付着性がさらに向上しうる。
【0012】
上記の第二の炭素繊維用サイジング剤によれば、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の自己重合を抑制できるので、サイジング剤の安定性が向上しうる。
【0013】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0014】
本発明に係る第一の炭素繊維用サイジング剤は、一態様として、非レゾール型のフェノール樹脂である第二フェノール樹脂をさらに含有し、前記レゾール型フェノール樹脂の質量と前記第二フェノール樹脂の質量との合計に対して前記レゾール型フェノール樹脂の質量が占める割合が75質量%以上であることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、炭素繊維に対する付着性が良好なレゾール型フェノール樹脂が占める割合が比較的大きいため、炭素繊維への付着性が一層向上しうる。
【0016】
本発明に係る第一の炭素繊維用サイジング剤は、一態様として、水と混合されて前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂が1質量%となる水希釈液が調製されたときに、当該水希釈液の25℃におけるpHが8.0以上11.0以下になることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の自己重合を抑制できるので、サイジング剤の安定性が向上しうる。
【0018】
本発明に係る炭素繊維用サイジング剤は、一態様として、希釈剤をさらに含有し、前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の質量と前記希釈剤の質量との合計に対して前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の質量が占める割合が、1質量%以上67質量%以下であることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の自己重合を抑制できるので、サイジング剤の安定性が向上しうる。
【0020】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る炭素繊維用サイジング剤、炭素繊維の製造方法、および炭素繊維の実施形態について説明する。以下では、本発明に係る炭素繊維用サイジング剤(以下、単に「サイジング剤」と称する。)を、炭素繊維のサイジング処理に適用した例について説明する。
【0022】
〔サイジング剤の構成〕
本実施形態に係るサイジング剤は、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂を含有する。また、サイジング剤は、希釈剤やpH調整剤などの成分を含みうる。
【0023】
(フェノール樹脂)
上述の通り、本実施形態に係るサイジング剤に含まれるフェノール樹脂は、数平均分子量が350未満のものである。サイジング剤がこの条件を満たすフェノール樹脂を含むことにより、炭素繊維に対するサイジング剤の付着性が従来に比べて向上しうる。その理由は完全には明らかではないが、分子量が比較的小さいフェノール樹脂を用いることによって、炭素繊維への付着性を発現するヒドロキシ基が分子中に占める割合が比較的大きくなることと、サイジング剤の粘度が比較的低くなって炭素繊維の表面において均一に広がりやすくなることと、が寄与して、付着性が向上していると考えられる。フェノール樹脂の数平均分子量は、340以下であることが好ましい。
【0024】
フェノール樹脂の数平均分子量は、たとえばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて決定できる。その測定条件の一例は次のとおりである。
カラムオーブン :CTO-10A(株式会社島津製作所製)
デガッサー :DGU-20A3(株式会社島津製作所製)
ポンプ :LC-10ATvp(株式会社島津製作所製)
検出器 :RID-6A(株式会社島津製作所製)
カラム :Shodex OHpak SB-806M HQ(昭和電工株式会社製)
カラム温度 :40℃
溶離液 :50mM硝酸ナトリウム水溶液
流量 :毎分0.7mL
基準物質 :Pullulan POLYSACCHARIDE
【0025】
フェノール樹脂は、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、およびその他のフェノール樹脂に区分される。本実施形態に係るサイジング剤は、数平均分子量が350未満のレゾール型フェノール樹脂を含有することが好ましい。レゾール型フェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂およびその他のフェノール樹脂に比べてヒドロキシ基が分子中に占める割合が大きいため、炭素繊維への付着性を特に発現しやすいのだと考えられる。
【0026】
なお、サイジング剤がレゾール型フェノール樹脂および非レゾール型のフェノール樹脂(すなわち、ノボラック型フェノール樹脂、その他のフェノール樹脂、またはその双方)を同時に含むことは妨げられない。以下では、非レゾール型のフェノール樹脂を「第二のフェノール樹脂」と称し、上記の「数平均分子量が350未満のレゾール型フェノール樹脂」と区別する。
【0027】
サイジング剤が第二のフェノール樹脂を含む場合、レゾール型フェノール樹脂の質量と第二フェノール樹脂の質量との合計に対してレゾール型フェノール樹脂の質量が占める割合が75質量%以上であることが、より好ましい。なお、サイジング剤が第二のフェノール樹脂を含まないことは妨げられないので、レゾール型フェノール樹脂の質量と第二フェノール樹脂の質量との合計に対してレゾール型フェノール樹脂の質量が占める割合の上限は100質量%である。
【0028】
フェノール樹脂が第二のフェノール樹脂を含む場合、第二のフェノール樹脂の数平均分子量については特に限定されないが、フェノール樹脂全体(すなわちレゾール型フェノール樹脂と第二のフェノール樹脂との混合物)の数平均分子量が350未満であることが好ましく、第二のフェノール樹脂の数平均分子量が350未満であることがより好ましい。なお、第二のフェノール樹脂の数平均分子量が350未満である場合、フェノール樹脂全体の数平均分子量も当然に350未満である。
【0029】
すなわち、本発明の好ましい一態様は、フェノール樹脂を含有し、前記フェノール樹脂が、数平均分子量が350未満のレゾール型フェノール樹脂と、他のフェノール樹脂と、を含み、前記フェノール樹脂の数平均分子量が350未満であることを特徴とする炭素繊維用サイジング剤、でありうる。また、本発明のより好ましい一態様は、フェノール樹脂を含有し、前記フェノール樹脂が、数平均分子量が350未満のレゾール型フェノール樹脂と、数平均分子量が350未満の他のフェノール樹脂と、を含むことを特徴とする炭素繊維用サイジング剤、でありうる。
【0030】
レゾール型フェノール樹脂は、公知の方法で製造されうる。すなわち、フェノールとホルムアルデヒドとを、塩基性触媒の存在下で反応させることによって、レゾール型フェノール樹脂が得られる。塩基性触媒としては、酢酸亜鉛、水酸化ナトリウム、およびアンモニアが例示されるが、これらに限定されない。
【0031】
ノボラック型フェノール樹脂は、公知の方法で製造されうる。すなわち、フェノールとホルムアルデヒドとを、酸性触媒の存在下で反応させることによって、ノボラック型フェノール樹脂が得られる。酸性触媒としては、塩酸およびシュウ酸が例示されるが、これらに限定されない。
【0032】
その他のフェノール樹脂は、たとえば変性フェノール樹脂であり、原料としてフェノールおよびホルムアルデヒド以外の成分を使用して製造されうる。その他のフェノール樹脂についても、変性フェノール樹脂の製造方法などとして公知の方法で製造されうる。
【0033】
(希釈剤)
本実施形態に係るサイジング剤は、希釈剤を含みうる。サイジング剤がレゾール型フェノール樹脂を含む場合、サイジング剤の貯蔵中にレゾール型フェノール樹脂の自己重合が進行して、フェノール樹脂の分子量が上昇するとともにサイジング剤の粘度が高くなるおそれがある。そこで、希釈剤を配合してサイジング剤中のレゾール型フェノール樹脂の濃度を下げると、自己重合が生じにくくなり、サイジング剤の安定性が向上する。
【0034】
希釈剤として、サイジング剤に配合される希釈剤として通常使用されるものを用いることができる。希釈剤の非限定的な例として、水、メタノールやエタノールなどの有機溶剤、および、アルキレンオキサイドのアルコール付加体などの界面活性剤、が挙げられる。なお、希釈剤として使用する物質は一種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0035】
希釈剤を含む場合のサイジング剤は、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の質量と希釈剤の質量との合計に対して数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の質量が占める割合が1質量%以上67質量%以下(すなわち、希釈剤の質量が占める割合が33質量%以上99質量%以下)であることが好ましい。数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の質量割合を67質量%以下にすることによって、サイジング剤中のレゾール型フェノール樹脂の濃度を下げるという目的が十分に達せられ、自己重合を生じにくくすることができる。また、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の質量割合を1質量%以上とすることによって、サイジング剤の実効成分としての数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の割合が過度に小さくなることを防ぎ、サイジング処理に使用しやすいサイジング剤を実現できる。数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の質量が占める割合は10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。また、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂の質量が占める割合は50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
(pH調整剤)
本実施形態に係るサイジング剤は、pH調整剤を含みうる。pH調整剤として、炭素繊維用サイジング剤に配合されるpH調整剤として公知のものを用いることができる。かかるpH調整剤としては、有機酸類(オクタン酸、オレイン酸、酢酸、クエン酸、および酒石酸等、ならびに、これらの誘導体および塩)、無機酸類(塩酸、リン酸、および炭酸等)、アルカリ類(水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム等)、および、アミン類(アルカノールアミン、アルキルアミン、およびアルキルアミン等の、アルキレンオキサイド付加物等)、などが例示されるが、これらに限定されない。これらは単独で使用することもできるし、また二つ以上を併用することもできる。
【0037】
本実施形態に係るサイジング剤におけるpH調整剤の種類および量(濃度)は、サイジング剤が水と混合されて数平均分子量が350未満のフェノール樹脂が1質量%となる水希釈液が調製されたときに、当該水希釈液の25℃におけるpHが8.0以上11.0以下になるように決定されることが好ましい。この条件を満たす場合、レゾール型フェノール樹脂の自己重合を抑制できるので、サイジング剤の安定性が向上する。上記のpHは、9.0以上であることがより好ましい。また、上記のpHは、10.0以下であることがより好ましい。
【0038】
(その他の成分)
本実施形態に係るサイジング剤は、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂、希釈剤、およびpH調整剤以外の成分を含んでいてもよい。かかる他の成分としては、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂以外のフェノール樹脂のほか、防腐剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(変性シリコーン等)などが例示されるが、これらに限定されない。
【0039】
〔サイジング剤の製造方法〕
本実施形態に係るサイジング剤は、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂と、任意に加えられうる上記の各成分とを、公知の方法で混合することによって得られる。たとえば、数平均分子量350未満のフェノール樹脂、ならびに、任意に配合される数平均分子量が350未満のフェノール樹脂以外のフェノール樹脂およびその他の成分を、所望の質量比になるように秤量したものに、希釈剤を加えて均一に混合し、さらに所定のpHになるまでpH調製剤を加える、という方法で、本実施形態に係るサイジング剤を得ることができる。ただしサイジング剤が、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂のみからなる場合は、混合を要さない。
【0040】
〔炭素繊維の製造方法〕
本実施形態に係る炭素繊維の製造方法は、上記のサイジング剤と溶媒とを混合してサイジング液を調製する工程と、炭素繊維を前記サイジング液に接触させる工程と、を含む。
【0041】
サイジング剤は、数平均分子量350未満のフェノール樹脂の含有率が0.1質量%以上20質量%以下となるように調製される。サイジング剤と混合される溶媒は水であってもよいし、有機溶剤であってもよいし、これらの混合物であってもよい。有機溶剤としては、メタノールやエタノールなどが例示されるが、これらに限定されない。また、有機溶剤は、一種類の物質であってもよいし、複数種類の物質の混合物であってもよい。なお、サイジング液を調製する際に用いる溶剤と、サイジング剤に含まれる希釈剤とは、同一の物質であってもよいし、異なる物質であってもよい。
【0042】
サイジング液におけるサイジング剤の態様は限定されない。すなわちサイジング液は、サイジング剤が溶媒に溶解した溶液状のものであってもよいし、サイジング剤が溶媒に溶解せず分散した分散液状のものであってもよい。
【0043】
炭素繊維をサイジング液に接触させる方法としては、当分野において炭素繊維にこの種のサイジング剤を付着させる際に通常用いられる方法を適用できる。すなわち、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、およびガイド給油法などが採用されうる。
【0044】
炭素繊維を製造する際に本実施形態に係るサイジング剤を適用すると、当該サイジング剤が付着した炭素繊維が得られる。この炭素繊維は、本発明に係る炭素繊維の一例である。ここで、サイジング剤が付着した炭素繊維全体に対して、数平均分子量350未満のフェノール樹脂が0.05質量%以上10質量%以下付着していることが好ましい。
【0045】
〔その他の実施形態〕
本発明の一態様は、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂を含有することを特徴とする炭素繊維用サイジング剤でありうる。また、この炭素繊維用サイジング剤において、前記数平均分子量が350未満のフェノール樹脂が、数平均分子量が350未満のレゾール型フェノール樹脂でありうる。
【0046】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例
【0047】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。なお、以下の実施例は本発明を限定しない。
【0048】
〔フェノール樹脂の合成〕
(1)レゾール型フェノール樹脂の合成
攪拌機および還流冷却器を備えた2L四つ口フラスコに、フェノール470g、37%ホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)730g、および酢酸亜鉛5gを投入し、これを大気圧下で70℃に加熱して3時間攪拌した。続いて、フラスコを70℃に維持したままフラスコ内を減圧して、1時間攪拌した。その後、常法による脱水および精製を行い、フェノール樹脂A-1を得た。なお、酢酸亜鉛は塩基性触媒の例である。
【0049】
また、37%ホルムアルデヒド水溶液の量、ならびに、塩基性触媒の種類および量を、後掲の表1のように変更した他は上記と同様の方法で、フェノール樹脂A-2、A-3、およびA-4、ならびに、フェノール樹脂ra-1およびra-2を得た。ここで、フェノール樹脂A-1、A-2、A-3、およびA-4は数平均分子量が350未満のレゾール型フェノール樹脂の例であり、フェノール樹脂ra-1およびra-2は数平均分子量が350以上のレゾール型フェノール樹脂の例である。
【0050】
(2)ノボラック型フェノール樹脂の合成
攪拌機および還流冷却器を備えた2L四つ口フラスコに、フェノール940g、37%ホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)284g、および36%塩酸5gを投入し、これを大気圧下で100℃に加熱して3時間攪拌した。続いて、フラスコを100℃に維持したままフラスコ内を減圧して、1時間攪拌した。その後、常法による脱水および精製を行い、フェノール樹脂B-1を得た。なお、36%塩酸は酸性触媒の例である。
【0051】
また、37%ホルムアルデヒド水溶液の量、ならびに、酸性触媒の種類および量を、後掲の表1のように変更した他は上記と同様の方法で、フェノール樹脂B-2およびフェノール樹脂rb-1を得た。ここで、フェノール樹脂B-1およびB-2は数平均分子量が350未満のノボラック型フェノール樹脂の例であり、フェノール樹脂rb-1は数平均分子量が350以上のノボラック型フェノール樹脂の例である。
【0052】
(3)数平均分子量の特定
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、各フェノール樹脂の数平均分子量を特定した。測定条件は次のとおりとした。
カラムオーブン :CTO-10A(株式会社島津製作所製)
デガッサー :DGU-20A3(株式会社島津製作所製)
ポンプ :LC-10ATvp(株式会社島津製作所製)
検出器 :RID-6A(株式会社島津製作所製)
カラム :Shodex OHpak SB-806M HQ(昭和電工株式会社製)
カラム温度 :40℃
溶離液 :50mM硝酸ナトリウム水溶液
流量 :毎分0.7mL
基準物質 :Pullulan POLYSACCHARIDE
【0053】
表1:フェノール樹脂
【表1】
【0054】
〔希釈剤〕
希釈剤として、以下の希釈剤S-1、S-2、S-3、およびS-4を用いた。
S-1:蒸留水
S-2:メタノール
S-3:エタノール
S-4:ラウリルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物
【0055】
〔サイジング剤の調製〕
実施例1~23および比較例1~3のそれぞれについて、フェノール樹脂および希釈剤を後掲の表2に記載の通り秤量して混合した。その後、pH調整剤を加えて表2に記載のpHに調整して、サイジング剤を得た。
【0056】
〔サイジング剤の評価〕
(1)均一付着性
実施例1~23および比較例1~3のサイジング剤をそれぞれ水と混合し、フェノール樹脂と希釈剤の合計重量比が5質量%のサイジング液を調製した。サイジング剤が付着していない炭素繊維束の重量(浸漬前重量Wi)を測定した後に、当該炭素繊維束をサイジング液に浸漬した。炭素繊維束をサイジング剤から引き上げた後に、引き上げた炭素繊維束を絞り、重量(浸漬後重量Wf)を測定した。ここで、炭素繊維束を絞る程度を、浸漬前重量Wiと浸漬後重量Wfとの比Wf/Wiが1.5となる程度とした。その後、炭素繊維束を150℃の熱風オーブンで1時間乾燥させ、サイジング剤付着炭素繊維束を得た。
【0057】
実施例1~23および比較例1~3の各例について、サイジング剤付着炭素繊維束の表面を走査型電子顕微鏡で観察した。なお、観察試料を、金を蒸着剤とする金属コーティング法により前処理した。顕微鏡像の外観に基づいて、サイジング剤の均一付着性を三つの水準に区分した。顕微鏡像において、サイジング剤が付着している箇所と炭素繊維が露出している箇所とは、その質感の違いにより区別できる。
A:表面の斑および炭素繊維の露出がほとんど見られない。
B:表面に少し斑があるものの、炭素繊維が露出している部分は少ない。
C:表面に多数の斑があり、かつ、炭素繊維が多く露出している。
【0058】
(2)安定性
実施例1~23および比較例1~3の各サイジング剤を容器に充填し、25℃で静置した。静置開始から一週間にわたってサイジング剤の外観を観察し、その観察結果に基づいてサイジング剤の安定性を五つの水準に区分した。
A:静置開始から一週間後の時点で、沈殿および分離がほとんど見られない。
B:静置開始から一週間後の時点で、わずかに沈殿が生じるが、分離は見られない。
C:静置開始から三日以内に沈殿が生じるが、一週間経過後も分離が見られない。
D:静置開始から一日以内に沈殿が生じるが、一週間経過後も分離が見られない。
E:静置を開始した日のうちに沈殿および分離が生じる。また、試料を撹拌しても沈殿および分離が解消しない。
【0059】
〔結果〕
表2:サイジング剤
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、たとえば炭素繊維の製造に利用できる。

【要約】
【課題】フェノール樹脂を含むサイジング剤を炭素繊維に対して均一に付着させる。
【解決手段】本発明に係る炭素繊維用サイジング剤は、数平均分子量が350未満のフェノール樹脂を含有することを特徴とする。
【選択図】なし