(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】放射線検出器
(51)【国際特許分類】
G01T 1/20 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
G01T1/20 J
G01T1/20 E
(21)【出願番号】P 2023024289
(22)【出願日】2023-02-20
【審査請求日】2023-02-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511195312
【氏名又は名称】学校法人玉田学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼久 圭二
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-106782(JP,A)
【文献】特開平07-225280(JP,A)
【文献】特開2007-225569(JP,A)
【文献】特開2014-157116(JP,A)
【文献】特開2018-124176(JP,A)
【文献】特開2018-189567(JP,A)
【文献】特開2019-049469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物からの放射線が入ると、チェレンコフ光及びシンチレーション光を放出するシンチレーターと、
前記シンチレーターに対して第一方向に位置し、前記シンチレーターからの光を検知する第一光検知器と、
前記シンチレーターに対して前記第一方向とは異なる第二方向に位置し、前記シンチレーターからの光を検知する第二光検知器と、
前記第一光検知器からの検知信号の発生時刻である第一時刻と、前記第二光検知器からの検知信号の発生時刻である第二時刻とから、
前記チェレンコフ光が検知されていないかを判定することで、検知結果がバックグランドノイズによるものであるかを判定する判定器と、
を備える、放射線検出器。
【請求項2】
前記第一時刻と前記第二時刻との差が所定の範囲であれば検知結果がバックグランドノイズによるものと判定する、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記第一光検知器と前記
第二光検知器とが、前記シンチレーターを挟んで対向している、請求項1又は2に記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記第一光検知器及び前記第二光検知器が、マルチピクセルフォトンカウンターである、請求項1又は2に記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記シンチレーターに対して前記第一方向及び前記第二方向とは異なる第三方向に位置し、前記シンチレーターからの光を検知する第三光検知器をさらに備え、
前記判定器が、前記第一時刻と、前記第二時刻と、前記第三光検知器からの検知信号の発生時刻である第三時刻とから、検知結果がバックグランドノイズによるものであるかを判定する、請求項1又は2に記載の放射線検出器。
【請求項6】
(A)
測定対象物からの放射線が入るとチェレンコフ光及びシンチレーション光を放出するシンチレーターを挟んで、測定対象物と反対側に位置する第一光検知器でシンチレーターからの光を検知するステップ、
(B)前記シンチレーターに対して、前記第一光検知器が位置する方向とは異なる方向に位置する第二光検知器で、前記シンチレーターからの光を検知するステップ、
及び
(C)前記第一光検知器からの検知信号の発生時刻である第一時刻と、前記第二光検知器からの検知信号の発生時刻である第二時刻とから、
前記チェレンコフ光が検知されていないかを判定することで、検知した放射線がバックグランドノイズによるものであるかを判定するステップ
を含む、放射線検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、放射線検出器を開示する。
【背景技術】
【0002】
食品や土壌等に残留した放射性物質(残留放射性物質)からの放射線量を、精度良く測定することが重要となっている。従来、放射線の測定には、一般にシンチレーター検出器及びゲルマニウム検出器が使用されている。例えばシンチレーター検出器は、シンチレーターと光検出器とを備える。シンチレーターは、γ線やβ線等の放射線が入射すると、これと相互作用を起こして発光する。シンチレーターからの光は、光検出器により検知され電気信号に変換される。特開2018-013439公報には、シンチレーター放射線検出器の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自然界には、環境に存在する物質からの環境放射線が存在する。残留放射性物質からの放射線量は微量であることが多く、環境放射線がバックグランドノイズとなり、シンチレーター検出器では、精度の高い測定が困難な場合が起こりうる。バックグランドノイズを低減するために、環境放射線を遮蔽するための容器内で、放射線を測定する方法がある。しかし、例えば厚さ5cmの鉛製の遮蔽容器を使用しても、環境放射線の量は半分程度にしか低減できない。さらにこのような遮蔽容器は重く、取扱いが困難となる。ゲルマニウム検出器は、エネルギー分解能が高く高精度な測定が可能であるが、非常に高価でありまた検出器自体も大掛かりなものとなる。
【0005】
本発明者の意図するところは、簡易な構成で精度の高い放射線の検出が可能な、放射線検出器の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係る放射線検出器は、シンチレーターと、前記シンチレーターに対して第一方向に位置し前記シンチレーターからの光を検知する第一光検知器と、前記シンチレーターに対して前記第一方向とは異なる第二方向に位置し前記シンチレーターからの光を検知する第二光検知器と、前記第一光検知器からの検知信号の発生時刻である第一時刻と前記第二光検知器からの検知信号の発生時刻である第二時刻とから、検知結果がバックグランドノイズによるものであるかを判定する判定器とを備える。
【発明の効果】
【0007】
この放射線検出器は、判定器が、第一光検知器からの検知信号の発生時刻である第一時刻と第二光検知器からの検知信号の発生時刻である第二時刻とから、検知結果がバックグランドノイズによるものであるかを判定する。バックグランドノイズと判定された検知信号を計数しないようにすることで、バックグランドノイズの影響が低減された放射線の測定が可能となる。さらにこの放射線検出器は、シンチレーターを使用した簡易な構成で実現されている。この放射線検出器では、簡易な構成で精度の高い放射線の検出が実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る放射線検出器が示された模式図である。
【
図2】
図2は、
図1の放射線検出器に測定対象物からの放射線が入力したときの、チェレンコフ光とシンチレーション光とが示された、模式図である。
【
図3】
図3は、
図2の場合において、第一光検知器及び第二光検知器からの検知結果を同一の画面で表示したグラフである。
【
図4】
図4は、
図1の放射線検出器にバックグランドノイズが入力したときの、チェレンコフ光とシンチレーション光とが示された、模式図である。
【
図5】
図5は、
図4の場合において、第一光検知器と第二光検知器からの検知結果を同一の画面で表示したグラフである。
【
図6】
図6は、他の実施形態に係る放射線検出器が示された模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0010】
図1は、一実施形態に係る放射線検出器2が示された、模式図である。本検出器2は、シンチレーター4、第一光検知器6a、第二光検知器6b、判定器8、計数器10及び表示器12を備えている。
図1には、検査対象物14も併せて示されている。検査対象物14は、例えば残留放射性物質の量が検査される、食品である。図示されないが、実際に放射線を計測する際には、外部からの光の影響を抑えるために、例えば遮光性のケース内で計測がされる。外部からの光の影響を抑えるために、遮光テープが使用されてもよい。
図1において、矢印Xは本検出器2の前方を表す。この逆が後方である。矢印Yは本検出器2の右方向を表す。この逆が左方向である。矢印Zは本検出器2の上方向を表す。この逆が下方向である。
【0011】
シンチレーター4は、放射線が入力するとこの放射線と相互作用を起こして発光する。シンチレーター4は、例えばγ線やX線などの光子が入力すると、コンプトン散乱によるチェレンコフ光と、シンチレーション光とを放出する。この実施形態では、シンチレーター4は、立方体の形状を呈している。この実施形態では、シンチレーター4の材質は、特にγ線の検出に有効な、LYSO(ルテチウム・イットリウム・オルトケイ酸塩)である。シンチレーター4の材質は、LYSOに限られない。典型的なシンチレーター4の材質として、LYSOの他に、NaI(Tl)、CsI(Tl)、CsI(Na)、ZnS(Ag)、CdWO4、Bi4Ge3O12が例示される。シンチレーター4の材質は、検出対象とする放射性物質等、用途に応じて適宜選択される。
【0012】
第一光検知器6aは、シンチレーター4の後方に位置する。第一光検知器6aは、シンチレーター4を挟んで、検査対象物14の反対側に位置する。第一光検知器6aは、シンチレーター4からの光を検知して、電気信号に変換する。第一光検知器6aは判定器8に接続されている。第一光検知器6aの検知結果は、判定器8に送られる。第一光検知器6aとシンチレーター4との間隔は、検出精度、組み立て易さ等を考慮して、適宜決められる。第一光検知器6aとシンチレーター4とが接していてもよい。第一光検知器6aとシンチレーター4との間に、シンチレーター4と光の屈折率が近いオプティカルグリースを介在させて、オプティカルグリースによって第一光検知器6aとシンチレーター4とを接着させていてもよい。この実施形態では、第一光検知器6aはマルチピクセルフォトンカウンター(MPPC)である。第一光検知器6aが、その他の光検知器であってもよい。
【0013】
第二光検知器6bは、シンチレーター4に対して、第一光検知器6aが位置する方向とは異なる方向に位置する。この実施形態では、第二光検知器6bはシンチレーター4の前方に位置する。第二光検知器6bは、シンチレーター4を挟んで第一光検知器6aと対向している。第二光検知器6bは、シンチレーター4からの光を検知して、電気信号に変換する。第二光検知器6bは判定器8に接続されている。第二光検知器6bの検知結果は、判定器8に送られる。第二光検知器6bとシンチレーター4との間隔は、検出精度、組み立て易さ等を考慮して、適宜決められる。第二光検知器6bとシンチレーター4とが接していてもよい。第二光検知器6bとシンチレーター4との間に、シンチレーター4と光の屈折率が近いオプティカルグリースを介在させて、オプティカルグリースによって第二光検知器6bとシンチレーター4とを接着させていてもよい。この実施形態では、第二光検知器6bはMPPCである。第二光検知器6bが、その他の光検知器であってもよい。
【0014】
第二光検知器6bは、シンチレーター4の右方向に位置していてもよく、左方向に位置していてもよく、上方向に位置していてもよく、下方向に位置していてもよい。第二光検知器6bは、シンチレーター4に対して、第一光検知器6aが位置する方向とは異なる方向に位置していればよい。
【0015】
判定器8には、第一光検知器6aの出力信号及び第二光検知器6bの出力信号が入力される。判定器8は、第一光検知器6aの出力信号が変化を開始した時刻を、検知信号の発生時刻(第一時刻t1)として認識する。判定器8は、第二光検知器6bの出力信号が変化を開始した時刻を、検知信号の発生時刻(第二時刻t2)として認識する。判定器8は、第一時刻t1及び第二時刻t2を基にして、検知信号のうち、バックグランドノイズであるものを検出して排除する。第一光検知器6a及び第二光検知器6bの検知信号がバックグランドノイズと判定されなかったときは、これらは計数器10に送られる。判定器8は、例えば第一光検知器6a及び第二光検知器6bの出力信号をデジダル信号に変換するADコンバータ及び変換された信号を処理するマイクロコントローラーで実現されている。判定器8が、専用回路で実現されていてもよい。以下では、判定器8でのバックグランドノイズの判定方法が、
図2-5を用いて説明される。
【0016】
図2は、検査対象物14からの放射線が本検出器2に入力したときの様子が示された、模式図である。
図2では、本検出器2のうち、シンチレーター4、第一光検知器6a及び第二光検知器6bのみが示されている。検査対象物14からの放射線は、第二光検知器6bを通過して、シンチレーター4に入力する。放射線はシンチレーター4と相互作用を起こし、チェレンコフ光及びシンチレーション光が放出される。
【0017】
図2において、符号Cが付され点線で示されるのがチェレンコフ光の進行方向である。
図2に示されるように、チェレンコフ光は、放射線の進行方向に対して所定の角度で広がる円錐状に進行することが知られている。従って検査対象物14からの放射線によるチェレンコフ光は、第一光検知器6aで検出される。
【0018】
図2において、符号Sが付され一点鎖線で示されるのがシンチレーション光の進行方向である。シンチレーション光は、放射線がシンチレーター4と相互作用を起こした点から、全方向に向けて放射状に進行する。そのためシンチレーション光は、第一光検知器6a及び第二光検知器6bで検出される。すなわち、第一光検知器6aはチェレンコフ光及びシンチレーション光を検出し、第二光検知器6bはシンチレーション光のみを検出する。
【0019】
図3は、
図2の場合において、第一光検知器6aでの検出結果と、第二光検知器6bでの検出結果とを、一つのオシロスコープで重ねて表示したグラフの例である。符号D1で示されるのが第一光検知器6aでの検出結果であり、符号D2で示されるのが第二光検知器6bでの検出結果である。
図3には、第一光検知器6aの検知信号の発生時刻である第一時刻t1及び第二光検知器6bの検知信号の発生時刻である第二時刻t2も示されている。
【0020】
放射線がシンチレーター4と相互作用を起こしたとき、チェレンコフ光はシンチレーション光よりも、10n秒程度早く発光することが知られている。本明細書では、この差となる時間は、Δtで表記される。この時間差のため、まずチェレンコフ光が第一光検知器6aに到達し、その後、時間Δt遅れて、シンチレーション光が第一光検知器6a及び第二光検知器6bに到達する。従って、
図3に示されるように、第一時刻t1は、第二時刻t2よりも時間Δt早い。検査対象物14からの放射線が本検出器2に入力すると、第一時刻t1は第二時刻t2よりも時間Δt早くなることが理解できる。
【0021】
図4は、上側からの放射線が本検出器2に入力したときの様子が示された模式図である。検査対象物14は本検出器2の前方に位置するため、上側からの放射線はバックグランドノイズとなる環境放射線である。環境放射線はシンチレーター4と相互作用を起こし、チェレンコフ光及びシンチレーション光が放出される。
【0022】
図4において、符号Cが付され点線で示されるのがチェレンコフ光の進行方向であり、符号Sが付され一点鎖線で示されるのがシンチレーション光の進行方向である。前述のとおり、チェレンコフ光は、放射線の進行方向に対して所定の角度で広がる円錐状に進行するため、チェレンコフ光は、第一光検知器6a及び第二光検知器6bのいずれでも検出されない。一方シンチレーション光は、全方向に向けて放射状に進行するため、第一光検知器6a及び第二光検知器6bで検出される。すなわち、第一光検知器6a及び第二光検知器6bは、いずれもシンチレーション光のみを検出する。
【0023】
図5は、
図4の場合において、第一光検知器6aでの検出結果と、第二光検知器6bでの検出結果とを、一つのオシロスコープで重ねて表示したグラフである。符号D1で示されるのが第一光検知器6aでの検出結果であり、符号D2で示されるのが第二光検知器6bでの検出結果である。第一光検知器6a及び第二光検知器6bは、いずれもシンチレーション光を検出しているため、
図5に示されるように、第一時刻t1と第二時刻t2とは、ほぼ同じとなる。上側からの環境放射線が本検出器2に入力すると、第一時刻t1と第二時刻t2とは、ほぼ同じとなることが理解できる。
【0024】
図4及び5では上側からの放射線が入力された場合を例にとって、説明がされた。上下左右のいずれの方向から入力される放射線も、バックグランドノイズとなる環境放射線である。上下左右から環境放射線が本検出器2に入力すると、
図5で示された場合と同様に、第一時刻t1と第二時刻t2とがほぼ同じとなることは、容易に理解できる。
【0025】
後方から入力される放射線も、バックグランドノイズとなる環境放射線である。後方から環境放射線が本検出器2に入力すると、チェレンコフ光は、第二光検知器6bで検出される。この場合、第一光検知器6aはシンチレーション光のみを検出し、第二光検知器6bはチェレンコフ光及びシンチレーション光を検出する。後方から環境放射線が本検出器2に入力すると、第一時刻t1は、第二時刻t2よりも時間Δt遅くなることが理解できる。
【0026】
判定器8は、上記の関係から、前方以外の方向(上下左右後の方向)から入力される放射線を、バックグランドノイズとなる環境放射線であると判定し、これを計数の対象から除外する。一例として、判定器8は、以下の(a1)及び(a2)の方法でこの判定をする。
(a1)第一時刻t1と第二時刻t2とがほぼ同時であれば、検出結果はバックグランドノイズであると判断される。具体的には、以下の式を満たすときに、検出結果はバックグランドノイズであると判断される。
-Th1<t1-t2<Th1
ここでTh1は時間Δtよりも十分小さい閾値であり、例えばΔt/2に設定される。
(a2)第一時刻t1が第二時刻t2よりも時間Δt遅ければ、第一光検知器6aの検出結果はバックグランドノイズであると判断される。具体的には、以下の式を満たすときに、第一光検知器6aの検出結果はバックグランドノイズであると判断される。
Δt-Th2<t1-t2<Δt+Th2
ここでTh2は時間Δtよりも十分小さい閾値であり、例えばΔt/2に設定される。なお、Th1とTh2とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0027】
判定器8が、前方以外の方向から入力される放射線を、バックグランドノイズとなる環境放射線であると判断する条件は、以下の(b)の方法でもよい。
(b)第一時刻t1が第二時刻t2よりも時間Δt速い場合を除き、第一光検知器6aの検出結果はバックグランドノイズであると判断される。具体的には、以下の式を満たすときに、第一光検知器6aの検出結果はバックグランドノイズであると判断される。
t2-t1<Δt-Th3 又は t2-t1>Δt+Th3
ここでTh3は時間Δtよりも十分小さい閾値であり、例えばΔt/2に設定される。
【0028】
計数器10は、判定器8から送られた検知信号をカウントする。この実施形態では、判定器8と計数器10とは一体として実現されている。
図1の例では、計数器10の結果が表示器12に送られている。表示器12の画面に、例えば測定結果としての放射線のエネルギースペクトルが表示される。判定器8、計数器10及び表示器12が、一体となっていてもよい。判定器8と計数器10とが、別の機器として実現されていてもよい。
【0029】
本検出機器を使用した、放射線の検出方法は、以下のステップを含む。
(S1)第一光検知器6aでシンチレーター4からの光を検知するステップ
(S2)第二光検知器6bでシンチレーター4からの光を検知するステップ
(S3)検知信号がバックグランドノイズによるものであるかを判定するステップ
(S4)検知信号をカウントするステップ
【0030】
ステップ(S1)では、シンチレーター4を挟んで、測定対象物と反対側に位置する第一光検知器6aで、シンチレーター4からの光が検知される。ステップ(S2)では、シンチレーター4に対して、第一光検知器6aが位置する方向とは異なる方向に位置する第二光検知器6bで、シンチレーター4からの光が検知される。ステップ(S1)とステップ(S2)とは、並列に実行されている。ステップ(S3)では、第一光検知器6aからの検知信号の発生時刻である第一時刻t1と、前記第二光検知器6bからの検知信号の発生時刻である第二時刻t2とから、検知した放射線がバックグランドノイズであるかを判定する。ステップ(S4)では、バックグランドノイズと判定されなかった信号が、検知信号としてカウントされる。
【0031】
以下、本実施形態の作用効果が説明される。
【0032】
この放射線検出器2は、判定器8が、第一時刻t1と第二時刻t2とから、検知結果がバックグランドノイズによるものを検知する。詳細には判定器8は、検査対象物14が位置する方向とは異なる方向からシンチレーター4に入った放射線を、バックグランドノイズとして判定する。例えば
図1の実施形態では、上下左右及び後方からの環境放射線が、バックグランドノイズと判定される。前方からのバックグランドノイズは除外できないものの、上下左右及び後方からのバックグランドノイズをカウントする対象から除外することができる。これにより、計数結果に含まれるバックグランドノイズを、おおまかに見積もって1/6程度に低減できる。これは、精度の高い放射線の検出に寄与する。この放射線検出器2では、精度の高い放射線の検出が可能となっている。
【0033】
この放射線検出器2の主たる構成要素は、シンチレーター4、第一光検知器6a、第二光検知器6b、判定器8、計数器10及び表示器12である。従来のシンチレーター放射線検出器と比べて、第二光検知器6b及び判定器8のみが追加されている。この放射線検出器2の構成は簡易である。この放射線検出器2は、簡易な構成で安価に実現できる。
【0034】
この放射線検出器2では、判定器8がバックグランドノイズを判定して排除するため、放射線遮蔽用の容器を使用しなくとも、シンチレーター4を用いて精度の高い放射線の検出が可能である。この放射線検出器2は、扱いが容易である。なお、放射線遮蔽用の容器内で、この放射線検出器2が使用されてもよい。このようにすることで、さらにバックグランドノイズの影響を低減した、放射線の測定が可能となる。
【0035】
図4において、二点鎖線L1はシンチレーター4の中心と第一光検知器6aの中心とを結ぶ線を表し、二点鎖線L2はシンチレーター4の中心と第二光検知器6bの中心とを結ぶ線を表す。両矢印αは、二点鎖線L1に対する、二点鎖線L2がなす角度である。
図4では、角度αは180°である。
【0036】
角度αが小さくなる位置に第二光検知器6bを配置すると、例えば測定対象物からの放射線によるチェレンコフ光が、第二光検知器6bまで届く可能性がある。測定対象物からの放射線を、バックグランドノイズと判定する可能性がある。精度の高い放射線の検出を可能とするとの観点から、角度αの絶対値は45°以上が好ましく、70°以上がより好ましく、90°以上がさらに好ましい。この観点から、
図1で示されるように、第二光検知器6bは、第一光検知器6aとシンチレーター4を挟んで対向しているのが最も好ましい。換言すれば、角度αの絶対値は、135°以上180°以下が最も好ましい。
【0037】
図6は、他の実施形態に係る放射線検出器20が示された、模式図である。この検出器20は、シンチレーター22、ケース24、第一光検知器26a、第二光検知器26b、第三光検知器26c、第四光検知器26d、第五光検知器26e、第六光検知器26f、判定器28、計数器30及び表示器32を備えている。これらのうち、シンチレーター22、第一光検知器26a、第二光検知器26b、計数器30及び表示器32は、
図1の放射線検出器2のこれらと同じである。
図6には、検査対象物34も併せて示されている。
【0038】
ケース24は、シンチレーター22を格納する。ケース24は箱状である。ケース24は、シンチレーター22の周囲に光検知器26を取り付けるため「壁」を提供している。この実施形態では、ケース24は樹脂組成物からなる。シンチレーター22は、ケース24の中央に、図示されない適当な手段で固定されている。
【0039】
第三光検知器26c、第四光検知器26d、第五光検知器26e及び第六光検知器26fは、それぞれシンチレーター22の上、右、下及び左に位置する。それぞれの光検知器26は、ケース24の壁に取り付けられている。それぞれの光検知器26は、シンチレーター22からのチェレンコフ光又はシンチレーション光を検知して、電気信号に変換する。それぞれの光検知器26は、判定器28に接続されている。この実施形態では、第三光検知器26c、第四光検知器26d、第五光検知器26e及び第六光検知器26fは、いずれもMPPCである。これらの光検知器26が、その他の光検知器であってもよい。
【0040】
判定器28には、第一光検知器26aから第六光検知器26fの出力信号が全て入力される。判定器28は、第一光検知器26aの検知信号の発生時刻(第一時刻t1)、第二光検知器26bの検知信号の発生時刻(第二時刻t2)、第三光検知器26cの検知信号の発生時刻(第三時刻t3)、第四光検知器26dの検知信号の発生時刻(第四時刻t4)、第五光検知器26eの検知信号の発生時刻(第五時刻t5)及び第六光検知器26fの検知信号の発生時刻(第六時刻t6)を認識する。判定器28は、第一時刻t1と第二時刻t2、第一時刻t1と第三時刻t3、第一時刻t1と第四時刻t4、第一時刻t1と第五時刻t5、及び第一時刻t1と第六時刻t6のそれぞれの組み合わせで、前述のバックグランドノイズとなる環境放射線の判定を行う。例えば、それぞれの組み合わせについて、前述の(a1)及び(a2)の方法で判断がされる。これらの判断で、一つでもバックグランドノイズとなる環境放射線であると判断されれば、判定器28は、第一光検知器26aから第六光検知器26fの検知結果を、計数の対象から除外する。いずれの組み合わせでもバックグランドノイズと判断されなければ、第一光検知器26aから第六光検知器26fの検知結果が、計数器30に送られる。
【0041】
この実施形態では、放射線検出器20は、全部で六つの光検知器26を備えている。これらの検知結果から、入力した放射線が、バックグランドノイズか否かを判定している。この放射線検出器20では、精度よくバックグランドノイズの判定ができる。また、バックグランドノイズではないと判定されたときに、六つの光検知器26からの検知結果が計数器30に送られる。このように、六つの光検知器26からの検知結果を計数に使用することで、良好なエネルギー分解能が得られる。この実施形態では、より精度の高い放射線の検出が可能となっている。
【0042】
上記では、光検知器の数が2である実施形態と、6である実施形態とが説明された。光検知器の数は、3でもよく、4でもよく、5でもよい。光検知器の数は、7以上でもよい。高い検出精度が得られるとの観点から、光検知器の数は4以上が好ましい。簡易な構成で実現できるとの観点から、光検知器の数は6以下が好ましい。
【0043】
以上説明されたとおり、本実施形態では、簡易な構成で精度の高い放射線の検出が可能な、放射線検出器が得られる。このことから、本実施形態の優位性は明らかである。
【0044】
[開示項目]
以下の項目は、好ましい実施形態の開示である。
【0045】
[項目1]
シンチレーターと、
前記シンチレーターに対して第一方向に位置し、前記シンチレーターからの光を検知する第一光検知器と、
前記シンチレーターに対して前記第一方向とは異なる第二方向に位置し、前記シンチレーターからの光を検知する第二光検知器と、
前記第一光検知器からの検知信号の発生時刻である第一時刻と、前記第二光検知器からの検知信号の発生時刻である第二時刻とから、検知結果がバックグランドノイズによるものであるかを判定する判定器と、
を備える、放射線検出器。
【0046】
[項目2]
前記第一時刻と前記第二時刻との差が所定の範囲であれば検知結果がバックグランドノイズによるものと判定する、項目1に記載の放射線検出器。
【0047】
[項目3]
前記第一光検知器と前記二光検知器とが、前記シンチレーターを挟んで対向している、項目1又は2に記載の放射線検出器。
【0048】
[項目4]
前記第一光検知器及び前記第二光検知器が、マルチピクセルフォトンカウンターである、項目1から3のいずれかに記載の放射線検出器。
【0049】
[項目5]
前記シンチレーターに対して前記第一方向及び前記第二方向とは異なる第三方向に位置し、前記シンチレーターからの光を検知する第三光検知器をさらに備え、
前記判定器が、前記第一時刻と、前記第二時刻と、前記第三光検知器からの検知信号の発生時刻である第三時刻とから、検知結果がバックグランドノイズによるものであるかを判定する、項目1から4のいずれかに記載の放射線検出器。
【0050】
[項目6]
(A)シンチレーターを挟んで、測定対象物と反対側に位置する第一光検知器でシンチレーターからの光を検知するステップ、
(B)前記シンチレーターに対して、前記第一光検知器が位置する方向とは異なる方向に位置する第二光検知器で、前記シンチレーターからの光を検知するステップ、
及び
(C)前記第一光検知器からの検知信号の発生時刻である第一時刻と、前記第二光検知器からの検知信号の発生時刻である第二時刻とから、検知した放射線がバックグランドノイズによるものであるかを判定するステップ
を含む、放射線検出方法。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上説明された放射線検出器は、種々の放射線の検出に使用される。
【符号の説明】
【0052】
2、20・・・放射線検出器
4、22・・・シンチレーター
6、26・・・光検知器
8、28・・・判定器
10、30・・・計数器
12、32・・・表示器
14、34・・・測定対象物
24・・・ケース
【要約】
【課題】簡易な構成で精度の高い放射線の検出が可能な、放射線検出器の提供
【解決手段】一実施形態に係る放射線検出器2は、シンチレーター4と、前記シンチレーター4に対して第一方向に位置し前記シンチレーター4からの光を検知する第一光検知器6aと、前記シンチレーター4に対して前記第一方向とは異なる第二方向に位置し前記シンチレーター4からの光を検知する第二光検知器6bと、前記第一光検知器6aからの検知信号の発生時刻である第一時刻と前記第二光検知器6bからの検知信号の発生時刻である第二時刻とから、検知結果がバックグランドノイズによるものであるかを判定する判定器8とを備える。
【選択図】
図1