(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】車両ドア停止装置
(51)【国際特許分類】
E05C 17/02 20060101AFI20230629BHJP
B60J 5/10 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
E05C17/02
B60J5/10 M
B60J5/10 Z
(21)【出願番号】P 2019221169
(22)【出願日】2019-12-06
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】宮田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】夏目 貴史
(72)【発明者】
【氏名】小島 侑也
(72)【発明者】
【氏名】日比 和宏
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-41853(JP,A)
【文献】特開2011-46280(JP,A)
【文献】特開2019-27533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05C 17/02-17/36
E05F 5/00
B60J 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に形成されるドア開口部を全閉する全閉位置及び前記ドア開口部を全開する全開位置の間で開閉動作する車両ドアであって且つ開方向に付勢される車両ドアを、前記全閉位置及び前記全開位置の間の任意の位置で停止させる車両ドア停止装置であって、
前記車両ドアが開動作するときに第1回転方向に回転し、前記車両ドアが閉動作するときに前記第1回転方向の逆方向となる第2回転方向に回転するドラムと、
前記ドラムから伝達されるトルクによって、前記ドラムが前記第1回転方向に回転するときに第3回転方向に回転し、前記ドラムが前記第2回転方向に回転するときに第4回転方向に回転する回転体と、
前記回転体の前記第3回転方向の回転を制限する一方で前記第4回転方向の回転を許容するロック位置と、前記回転体の前記第3回転方向及び前記第4回転方向の回転を許容するアンロック位置と、に変位するロック部材と、を備え、
前記ドラムと前記回転体とは、両者の間で伝達されるトルクが設定トルク以上の場合に相対的に回転し、両者の間で伝達されるトルクが前記設定トルク未満の場合に一体的に停止又は回転するように構成される
車両ドア停止装置。
【請求項2】
前記ドラムと前記回転体とは、同一軸線上に並んで配置され、
前記第1回転方向及び前記第3回転方向は同方向であり、前記第2回転方向及び前記第4回転方向は同方向である
請求項1に記載の車両ドア停止装置。
【請求項3】
前記ドラムには、前記回転体の少なくとも一部を収容する収容凹部が形成される
請求項2に記載の車両ドア停止装置。
【請求項4】
前記ドラムは、前記ドラムの軸方向に延びるとともに、前記収容凹部を前記ドラムの周方向にわたって囲う周壁を有し、
前記回転体は、前記周壁に係合する係合部と、前記係合部を前記周壁に向けて付勢する付勢部材と、を有する
請求項3に記載の車両ドア停止装置。
【請求項5】
前記回転体は、前記係合部を前記回転体の径方向に移動可能に支持する支持板を有し、
前記周壁には、前記係合部と係合する係合凹部が前記ドラムの径方向における外方に凹み形成され、
前記係合部は、前記回転体の径方向における外方に進むにつれて周方向における幅が短くなり、
前記係合凹部は、前記ドラムの径方向における外方に進むにつれて周方向における幅が狭くなる
請求項4に記載の車両ドア停止装置。
【請求項6】
前記回転体は、前記回転体の周方向に複数の前記係合部を有し、
前記ドラムは、前記ドラムの周方向に複数の前記係合凹部を有する
請求項5に記載の車両ドア停止装置。
【請求項7】
前記係合凹部の数は、前記係合部の数よりも多い
請求項6に記載の車両ドア停止装置。
【請求項8】
前記ドラムが前記第2回転方向に回転した後に前記第1回転方向に回転することでノック動作するノック機構を備え、
前記ノック機構は、前記ノック動作の度に、前記ロック部材を前記ロック位置に位置する状態及び前記ロック部材を前記アンロック位置に位置する状態の一方の状態から他方の状態に切り替わる
請求項1~請求項7の何れか一項に記載の車両ドア停止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ドア停止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両後部に開口部が形成される車体と、開口部を全開する全開位置及び開口部を全閉する全閉位置の間で変位するバックドアと、バックドアを全閉位置及び全開位置の間の任意の位置で停止させる開閉調節装置と、を備える車両が開示されている。開閉調節装置は、停止操作及び停止解除操作を行うための操作部材と、バックドアを開閉可能に保持する調節部と、を有する。調節部は、操作部材の停止操作に伴って任意の位置からバックドアが開方向に変位しないようにロックしたり、操作部材の停止解除操作に伴ってバックドアのロックを解除したりする。
【0003】
こうして、車両の後方に障害物が存在するなどの理由により、バックドアを全開位置まで開動作できない状況下において、ユーザは、障害物の手前の位置でバックドアを停止させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような開閉調節装置は、バックドアをロックした状態でバックドアに荷重が作用すると、装置の構成部品に過負荷が作用するおそれがある。本発明の目的は、停止中の車両ドアに荷重が作用する場合であっても、装置の構成部品に過負荷が作用しにくい車両ドア停止装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する車両ドア停止装置は、車体に形成されるドア開口部を全閉する全閉位置及び前記ドア開口部を全開する全開位置の間で開閉動作する車両ドアであって且つ開方向に付勢される車両ドアを、前記全閉位置及び前記全開位置の間の任意の位置で停止させる車両ドア停止装置であって、前記車両ドアが開動作するときに第1回転方向に回転し、前記車両ドアが閉動作するときに前記第1回転方向の逆方向となる第2回転方向に回転するドラムと、前記ドラムから伝達されるトルクによって、前記ドラムが前記第1回転方向に回転するときに第3回転方向に回転し、前記ドラムが前記第2回転方向に回転するときに第4回転方向に回転する回転体と、前記回転体の前記第3回転方向の回転を制限する一方で前記第4回転方向の回転を許容するロック位置と、前記回転体の前記第3回転方向及び前記第4回転方向の回転を許容するアンロック位置と、に変位するロック部材と、を備え、前記ドラムと前記回転体とは、両者の間で伝達されるトルクが設定トルク以上の場合に相対的に回転し、両者の間で伝達されるトルクが前記設定トルク未満の場合に一体的に停止又は回転するように構成される。
【0007】
上記構成の車両ドア停止装置は、ロック部材をロック位置に配置することで、車両ドアを任意の位置で停止できる。さらに、車両ドア停止装置は、任意の位置に停止させた車両ドアに対して開方向に大きな負荷が作用することにより、ドラムから回転体に伝達されるトルクが設定トルク以上となる場合には、停止する回転体に対してドラムが相対的に回転する。このため、車両ドア停止装置は、装置の構成部品に大きな負荷が作用することを抑制できる。
【0008】
上記車両ドア停止装置において、前記回転体は、前記ドラムと前記ドラムの回転軸線の延びる方向に並んで配置され、前記第1回転方向及び前記第3回転方向は同方向であり、前記第2回転方向及び前記第4回転方向は同方向であることが好ましい。
【0009】
上記構成の車両ドア停止装置は、ドラムの回転軸線の延びる方向にドラムと回転体とが並んで配置される点で、ドラムの径方向における装置の体格が大きくなることを抑制できる。
【0010】
上記車両ドア停止装置において、前記ドラムには、前記回転体の少なくとも一部を収容する収容凹部が形成されることが好ましい。
上記構成の車両ドア停止装置は、回転体の少なくとも一部がドラムの収容凹部に収容される点で、ドラムの軸方向における装置の体格が大きくなることを抑制できる。
【0011】
上記車両ドア停止装置において、前記ドラムは、前記ドラムの軸方向に延びるとともに、前記収容凹部を前記ドラムの周方向にわたって囲う周壁を有し、前記回転体は、前記周壁に係合する係合部と、前記係合部を前記周壁に向けて付勢する付勢部材と、を有することが好ましい。
【0012】
上記構成の車両ドア停止装置は、付勢部材が係合部を周壁に押し付ける力に応じて、上記設定トルクが定まる。言い換えれば、車両ドア停止装置は、付勢部材の弾性係数により、上記設定トルクを管理しやすい。
【0013】
上記車両ドア停止装置において、前記回転体は、前記係合部を前記回転体の径方向に移動可能に支持する支持板を有し、前記周壁には、前記係合部と係合する係合凹部が前記ドラムの径方向における外方に凹み形成され、前記係合部は、前記回転体の径方向における外方に進むにつれて周方向における幅が短くなり、前記係合凹部は、前記ドラムの径方向における外方に進むにつれて周方向における幅が狭くなることが好ましい。
【0014】
上記構成の車両ドア停止装置は、係合部が係合凹部に係合することにより、ドラムと回転体との間でトルクが伝達される。このため、車両ドア停止装置は、設定トルクを大きくしやすい。
【0015】
上記車両ドア停止装置において、前記回転体は、前記回転体の周方向に複数の前記係合部を有し、前記ドラムは、前記ドラムの周方向に複数の前記係合凹部を有することが好ましい。
【0016】
上記構成の車両ドア停止装置は、複数の係合部及び複数の係合凹部がそれぞれ係合する点で、ドラムと回転体との係合部位が多くなる。このため、車両ドア停止装置は、設定トルクをより大きくしやすい。
【0017】
上記車両ドア停止装置において、前記係合凹部の数は、前記係合部の数よりも多いことが好ましい。
係合凹部の数が係合部の数と同数の場合、ドラムが回転体に対して相対的に回転するときに、係合凹部と係合していた係合部が当該係合凹部の隣の係合凹部と係合する状態となるまでのドラムの回転量が多くなりやすい。つまり、車両ドアの開方向の移動量が多くなりやすい。この点、上記構成の車両ドア停止装置は、係合凹部の数が係合部の数よりも多い。このため、係合凹部と係合していた係合部が当該係合凹部の隣の係合凹部と係合する状態となるまでのドラムの回転量が少なくなりやすい。したがって、車両ドア停止装置は、ドラムから回転体に伝達されるトルクが設定トルク以上となることで、ドラムが回転体に対して相対的に回転する場合に、車両ドアの開方向の移動量が多くなることを抑制できる。
【0018】
上記車両ドア停止装置は、前記ドラムが前記第2回転方向に回転した後に前記第1回転方向に回転することでノック動作するノック機構を備え、前記ノック機構は、前記ノック動作の度に、前記ロック部材を前記ロック位置に位置する状態及び前記ロック部材を前記アンロック位置に位置する状態の一方の状態から他方の状態に切り替わることが好ましい。
【0019】
上記構成の車両ドア停止装置が適用される車両ドアにおいて、ユーザは、車両ドアを停止させる場合には車両ドアを閉操作した後に開操作すればよく、車両ドアの停止を解除させる場合にも車両ドアを閉操作した後に開操作すればよい。こうして、車両ドア停止装置は、ノック機構により、車両ドアの停止状態を切り替えるための操作をユーザにとって簡単な操作とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
車両ドア停止装置は、停止中の車両ドアに荷重が作用する場合であっても、装置の構成部品に過負荷が作用することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態に係る停止装置を備える車両の概略構成を示す側面図。
【
図6】ドラムと回転体とを正面から見たときの分解斜視図。
【
図7】ドラムと回転体とを背面から見たときの分解斜視図。
【
図11】ノック機構の作用を説明するための模式図。
【
図12】ノック機構の作用を説明するための模式図。
【
図13】ノック機構の作用を説明するための模式図。
【
図14】ノック機構の作用を説明するための模式図。
【
図15】ノック機構の作用を説明するための模式図。
【
図16】バックドアが全閉位置に位置するときの停止装置の背面図。
【
図17】
図16からバックドアが僅かに開動作するときの停止装置の背面図。
【
図18】
図17からバックドアが僅かに開動作するときの停止装置の背面図。
【
図19】バックドアが中途位置に位置するときの停止装置の背面図。
【
図20】バックドアが中途位置から僅かに閉動作するときの停止装置の背面図。
【
図21】
図20からバックドアが僅かに開動作するときの停止装置の背面図。
【
図22】ドラムが回転体に対して相対的に回転する様子を示す断面図。
【
図23】ノック機構の作用を説明するための模式図。
【
図24】ノック機構の作用を説明するための模式図。
【
図25】ノック機構の作用を説明するための模式図。
【
図27】変更例に係る停止装置のドラムと回転体との断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、車両ドア停止装置(以下、「停止装置」とも言う。)を備える車両の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、車両10は、後部にドア開口部11が形成される車体12と、ドア開口部11を開閉する「車両ドア」の一例としてのバックドア20と、車体12とバックドア20との間に配置されるガススプリング30と、バックドア20を任意の位置で停止させる停止装置40と、を備える。
【0023】
ドア開口部11は、略矩形状をなし、車両後方に開口している。ドア開口部11は、ユーザが車両10の荷室から荷物を取り出したり、ユーザが車両10の荷室に荷物を積み込んだりするための開口部である。
【0024】
バックドア20は、ドア開口部11に対応する形状をなしている。バックドア20は、車両幅方向に延びる回動軸21を介して、ドア開口部11の上部に回動可能に支持されている。バックドア20は、回動軸21の軸線回りに回動することで、ドア開口部11を全開する全開位置及びドア開口部11を全閉する全閉位置の間で開閉動作する。また、バックドア20は、ユーザがバックドア20を開こうとする際にユーザに操作されるドアハンドル22を有する。
【0025】
ガススプリング30は、筒状のシリンダ31と、棒状のピストンロッド32と、を有する。ガススプリング30は、シリンダ31とピストンロッド32との間に封入された高圧ガスの反力でバックドア20を付勢する。ガススプリング30は、バックドア20が全閉位置に位置するときも、バックドア20が全開位置に位置するときも、バックドア20を開方向に付勢する。ガススプリング30の一端は、車体12に対して、車両幅方向に延びる軸線回りに回動可能に連結されており、ガススプリング30の他端は、バックドア20に対して、車両幅方向に延びる軸線回りに回動可能に連結されている。
【0026】
バックドア20には、バックドア20の重量と、ガススプリング30の反力と、ユーザによるドアハンドル22の操作力と、が作用し得る。つまり、バックドア20には、バックドア20の重量に応じた第1のモーメントと、ガススプリング30の反力に応じた第2のモーメントと、ユーザの操作力に応じた第3のモーメントと、が作用し得る。
【0027】
ここで、第1のモーメントは、バックドア20の重量と、バックドア20の回動軸21からバックドア20の重心までの距離と、の積で表現されるモーメントである。第2のモーメントは、ガススプリング30の反力と、バックドア20の回動軸21からバックドア20とガススプリング30との連結位置までの距離と、の積で表現されるモーメントである。第3のモーメントは、ユーザの操作力と、バックドア20の回動軸21からドアハンドル22までの距離と、の積で表現されるモーメントである。
【0028】
ドアハンドル22の操作力は、バックドア20の開方向に作用する場合に正の値になり、バックドア20の閉方向に作用する場合に負の値になるとする。また、以降の説明では、第1のモーメントを「M1」で表現し、第2のモーメントを「M2」で表現し、第3のモーメントを「M3」で表現する。
【0029】
バックドア20において、「M1>M2+M3」が成立する場合、言い換えれば、バックドア20の閉方向に作用するモーメントがバックドア20の開方向に作用するモーメントよりも大きい場合、バックドア20は閉動作する。また、「M1<M2+M3」が成立する場合、言い換えれば、バックドア20の開方向に作用するモーメントがバックドア20の閉方向に作用するモーメントよりも大きい場合、バックドア20は開動作する。さらに、「M1=M2+M3」が成立する場合、言い換えれば、バックドア20の閉方向に作用するモーメントとバックドア20の開方向に作用するモーメントとが釣り合う場合、バックドア20は停止する。
【0030】
以降の説明では、ユーザがバックドア20を操作しない場合に、「M1=M2」が成立するときのバックドア20の位置を「中立位置」という。本実施形態では、バックドア20が中立位置よりも全閉位置寄りに位置する場合、言い換えれば、バックドア20が中立位置及び全閉位置の間に位置する場合、バックドア20が閉動作しようとする。一方、バックドア20が中立位置よりも全開位置寄りに位置する場合、言い換えれば、バックドア20が中立位置及び全開位置の間に位置する場合、バックドア20が開動作しようとする。
【0031】
次に、停止装置40について説明する。
停止装置40は、ユーザのバックドア20の開閉操作に基づいて、全開位置及び全閉位置の間、詳しくは、全閉位置及び中立位置の間の任意の位置でバックドア20を停止させる装置である。言い換えれば、停止装置40は、「M1<M2」が成立する範囲内でバックドア20を停止させる装置である。
【0032】
図2~
図5に示すように、停止装置40は、筐体100と、ドラムユニット200と、伝達機構300と、ロック機構400と、ノック機構500と、キャンセル機構600と、を備える。
図2以降の一部の図面には、方向を示すX軸、Y軸及びZ軸を記載する。停止装置40は、車両10に搭載される場合、X軸が車両幅方向に延び、Y軸が車両前後方向に延び、Z軸が車両上下方向に延びる。
【0033】
初めに、筐体100について説明する。
図2及び
図3に示すように、筐体100は、平板状をなすベースプレート110と、ベースプレート110の板厚方向における一方側に設けられるケース120と、ベースプレート110の板厚方向における他方側に設けられるカバー130と、を備える。また、筐体100は、ベースプレート110とケース120とに支持される第1支軸141、第2支軸142及び第3支軸143を備える。
【0034】
ベースプレート110は、例えば金属板からなる。ベースプレート110には、ケース120及びカバー130を固定したり、第1支軸141、第2支軸142及び第3支軸143を支持したりするための孔及び突起が複数形成されている。ケース120は、ベースプレート110と同程度の大きさに形成され、カバー130は、ケース120よりも小さく形成されている。ケース120及びカバー130は、例えば、スナップフィットによりベースプレート110に取り付つくように構成してもよいし、ボルトなどの締結部材によりベースプレート110に取り付くように構成してもよい。
【0035】
図3に示すように、ケース120には、ドラムユニット200のドラム210を収容するドラム収容部121と、伝達機構300のセクターギヤ340を収容するセクターギヤ収容部122と、ノック機構500を収容するノック機構収容部123と、が凹み形成されている。また、ドラム収容部121を区画する壁部は、ベースプレート110に向かって延びる第4支軸124を有する。セクターギヤ収容部122を区画する壁部は、第1支軸141の軸線回りに対向する第1壁部125及び第2壁部126を有する。ノック機構収容部123を区画する壁部は、ケース120の長手方向に並ぶ第3壁部127、第4壁部128及び第5壁部129を有する。
【0036】
次に、ドラムユニット200について説明する。
図4及び
図5に示すように、ドラムユニット200は、第1支軸141とともに回転するドラム210と、ドラム210に巻き掛けられるケーブル220と、を備える。また、
図3に示すように、ドラムユニット200は、ドラム210を付勢する第1スプリング230を備える。
【0037】
図6及び
図7に示すように、ドラム210は、略円板状をなしている。ドラム210には、後述するロック機構400の回転体410を収容する収容凹部211と、ケーブル220の巻き取りを案内する周溝212と、ケーブル220の第1端が挿入される挿入孔213と、周溝212と挿入孔213とを接続する接続溝214と、が形成されている。また、
図7に示すように、ドラム210は、収容凹部211を径方向における外方から周方向にわたって囲う周壁215を有する。ここで、本実施形態の周壁215は、ドラム210と別体に構成されるが、ドラム210と一体に構成してもよい。
【0038】
図7に示すように、収容凹部211は、略円柱状をなす空間である。収容凹部211は、ドラム210の側面からドラム210の軸方向に凹み形成されている。言い換えれば、周壁215は、ドラム210の軸方向に延びている。収容凹部211は、収容凹部211からドラム210の径方向における外方に凹む複数の係合凹部216を含む。複数の係合凹部216は、ドラム210の周方向に等間隔に形成されている。係合凹部216は、ドラム210の軸方向から見たとき、ドラム210の径方向における外方に進むにつれてドラム210の周方向における幅が狭くなっている。詳しくは、係合凹部216は、互いに交差する方向に延びる第1斜面217及び第2斜面218によって構成されている。本実施形態では、第1斜面217及び第2斜面218は、略90°の角度で交差している。
【0039】
周溝212は、ドラム210の外周面に螺旋状に形成されている。挿入孔213は、ドラム210を軸方向に貫通している。接続溝214は、周溝212の基端と挿入孔213とを接続するように、ドラム210の収容凹部211が形成される側面とは逆側の側面に形成されている。
【0040】
図4に示すように、ケーブル220の第1端は、ドラム210の挿入孔213に挿入された状態で固定される。挿入孔213から延びるケーブル220は、ドラム210の周溝212に巻き取られる。
図1に示すように、ドラム210から延びるケーブル220の第2端は、バックドア20に固定される。
図2及び
図3に示すように、ドラム210は、収容凹部211をベースプレート110に向けた状態で、ベースプレート110とケース120との間に配置される。このとき、ドラム210は、ケース120のドラム収容部121に収容され、第1支軸141と一体回転可能に第1支軸141に支持される。
【0041】
図3に示すように、第1スプリング230は、いわゆる渦巻ばねである。第1スプリング230は、ベースプレート110において、ドラム210とは反対側に配置される。第1スプリング230の一端は、ベースプレート110を貫通する第1支軸141の先端に係止され、第1スプリング230の他端はベースプレート110に係止される。このとき、第1スプリング230は、ドラム210がケーブル220を巻き取る方向に回転するように、第1支軸141に初期荷重を付与する。また、第1スプリング230は、カバー130により覆われる。
【0042】
こうして、バックドア20が開動作する場合、開動作するバックドア20がケーブル220を牽引するため、ドラム210からケーブル220が繰り出される。このとき、第1スプリング230は、ドラム210の回転量、具体的には第1支軸141の回転量に応じて弾性変形する。一方、バックドア20が閉動作する場合、第1スプリング230の復元力によって第1支軸141とともにドラム210が回転するため、ドラム210がケーブル220を巻き取る。つまり、バックドア20が閉動作する場合であっても、ケーブル220に緩みが発生しない。
【0043】
以降の説明では、バックドア20が開動作する場合にドラム210が回転する方向を「第1回転方向R11」とし、バックドア20が閉動作する場合にドラム210が回転する方向を「第2回転方向R12」とする。第1回転方向R11は、第2回転方向R12の逆方向である。
【0044】
次に、伝達機構300について説明する。
図4及び
図5に示すように、伝達機構300は、ドラム210と同一軸線上に配置されるドライブギヤ310と、ドライブギヤ310と噛み合うアイドルギヤ320と、アイドルギヤ320と噛み合うドリブンギヤ330と、ドリブンギヤ330と同一軸線上に配置されるセクターギヤ340と、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340の間に配置されるロータリダンパ350と、を備える。
【0045】
ドライブギヤ310は、第1支軸141と一体回転可能に第1支軸141に支持される。アイドルギヤ320は、第2支軸142と相対回転可能に第2支軸142に支持される。
図5に示すように、アイドルギヤ320は、アイドルギヤ320の軸方向に突出する係合突起321を有する。係合突起321は、略円柱状をなし、アイドルギヤ320のベースプレート110を向く側面から突出している。
図4及び
図5に示すように、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340は、ベースプレート110に回転可能に支持される第5支軸331及びケース120に回転可能に支持される第5支軸341をそれぞれ有する。セクターギヤ340は、ケース120のセクターギヤ収容部122に収容される。
【0046】
ドライブギヤ310、アイドルギヤ320及びドリブンギヤ330は円形のギヤであり、セクターギヤ340は扇形のギヤである。本実施形態では、ドライブギヤ310、アイドルギヤ320及びドリブンギヤ330の中で、ドリブンギヤ330の歯数が最も少なく、アイドルギヤ320の歯数が最も多くなっている。
【0047】
ロータリダンパ350は、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340の間で、所定値未満のトルクが伝達されることを許容し、所定値以上のトルクが伝達されることを制限する。つまり、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340は、一体的に回転することにあれば、相対的に回転することもある。こうして、本実施形態では、ロータリダンパ350は、いわゆるトルクリミッタとして機能する。
【0048】
伝達機構300において、ドラム210が回転する場合には、ドライブギヤ310、アイドルギヤ320、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340が回転する。以降の説明では、ドラム210と同一軸線状に配置されるドライブギヤ310の回転方向を第1回転方向R11及び第2回転方向R12とし、アイドルギヤ320の回転方向を第1回転方向R21及び第2回転方向R22とし、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340の回転方向を第1回転方向R31及び第2回転方向R32とする。
【0049】
ドラム210が第1回転方向R11に回転する場合、伝達機構300において、ドライブギヤ310が第1回転方向R11に回転し、アイドルギヤ320が第2回転方向R22に回転し、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340が第1回転方向R31に回転する。一方、ドラム210が第2回転方向R12に回転する場合、伝達機構300において、ドライブギヤ310が第2回転方向R12に回転し、アイドルギヤ320が第1回転方向R21に回転し、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340が第2回転方向R32に回転する。
【0050】
本実施形態において、バックドア20が全閉位置及び全開位置の間で開閉動作する場合には、アイドルギヤ320が略1回転し、ドライブギヤ310及びドリブンギヤ330はアイドルギヤ320よりも多く回転する。一方、
図5に示すように、セクターギヤ340が回転可能な範囲は、セクターギヤ収容部122の第1壁部125及び第2壁部126の間をなす角度未満である。したがって、ドリブンギヤ330が回転可能な状態であって且つセクターギヤ340が回転不能な状態である場合、ロータリダンパ350により、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340が相対的に回転する。
【0051】
次に、ロック機構400について説明する。
図4及び
図5に示すように、ロック機構400は、ドラム210から伝達されるトルクによって回転する回転体410と、回転体410の回転をロックするロック部材470と、を備える。
【0052】
図6及び
図7に示すように、回転体410は、略円板状をなす支持板420と、略円板状をなすラチェット歯車430と、支持板420とラチェット歯車430とを連結する複数の連結軸440と、支持板420に支持される複数の係合部450と、複数の係合部450をそれぞれ付勢する複数の第2スプリング460と、を有する。
【0053】
図6に示すように、支持板420には、軸方向に貫通する挿通孔421と、径方向に延びる複数の案内溝422と、が形成されている。挿通孔421の断面形状は円形であり、挿通孔421の内径は第1支軸141の外径よりも大きい。案内溝422は、支持板420の外周面から挿通孔421の中心に向かって延びる。案内溝422の径方向における断面形状は、矩形状をなしている。複数の案内溝422は、周方向に等間隔に形成されている。また、本実施形態の支持板420は、複数の案内溝422の形成数が偶数個であるため、複数の案内溝422が挿通孔421を径方向に挟んでいる。
【0054】
図7に示すように、ラチェット歯車430は、通常の歯車と比較して、周方向に歯が傾いている。ラチェット歯車430の中心から歯先までの距離は、支持板420の半径よりも大きい。このため、ラチェット歯車430と支持板420とが連結された状態では、ラチェット歯車430の歯先が支持板420の外周面よりも径方向における外方に飛び出す。また、ラチェット歯車430には、支持板420と同様に、軸方向に貫通する挿通孔431が形成されている。ラチェット歯車430の挿通孔431の内径は、支持板420の挿通孔421の内径と同等の大きさとなっている。
【0055】
図6に示すように、係合部450は、回転体410の軸方向を高さ方向とする略三角柱状をなしている。複数の係合部450は、先端を支持板420の径方向における外方を向けた状態で、支持板420の複数の案内溝422にそれぞれ収容される。係合部450は、案内溝422の内部において、案内溝422の形成方向、すなわち、径方向に移動することが可能である。こうして、係合部450は、回転体410の径方向に移動可能に支持板420に支持される。係合部450の先端を構成する第1斜面451及び第2斜面452の間をなす角度は略90°であり、係合部450の先端は丸み面取りされている。つまり、係合部450は、回転体410の径方向における外方に進むにつれて、回転体410の周方向における幅が狭くなる。
【0056】
第2スプリング460は、「付勢部材」の一例に該当し、いわゆるコイルばねである。複数の第2スプリング460は、支持板420の複数の案内溝422の底面と複数の係合部450との間にそれぞれ配置されている。第2スプリング460は、弾性変形可能な立体物でもよく、例えば、ゴム及び樹脂などのエラストマーなどから構成することもできる。
【0057】
図4に示すように、回転体410は、第1支軸141が挿通された状態で、ドラム210とドライブギヤ310との間に配置される。つまり、回転体410は、ドラム210とドライブギヤ310と同一軸線上に並んで配置される。このため、回転体410は、ドラム210と同じく、第1回転方向R11及び第2回転方向R12に回転する。この点で、本実施形態では、ドラム210が第1回転方向R11に回転するときの回転体410の回転方向である「第3回転方向」が第1回転方向R11となり、ドラム210が第2回転方向R12に回転するときの回転体410の回転方向である「第4回転方向」が第2回転方向R12となる。
【0058】
図5に示すように、回転体410の構成部材のうち、支持板420と複数の係合部450と複数の第2スプリング460とがドラム210の収容凹部211内に収容され、ラチェット歯車430がドラム210の収容凹部211外に配置される。つまり、回転体410の一部がドラム210の収容凹部211に収容される。
【0059】
図8に示すように、複数の第2スプリング460は案内溝422の内部で圧縮され、複数の係合部450はドラム210の複数の係合凹部216にそれぞれ係合する。詳しくは、係合部450の第1斜面451及び第2斜面452は、第2スプリング460の弾性力により、係合凹部216の第1斜面217及び第2斜面218にそれぞれ押し付けられる。こうして、ドラム210と回転体410とが一体化する。
図8に示すように、本実施形態では、係合部450の数が係合凹部216の数よりも少なくなっている。詳しくは、係合部450の数は係合凹部216の数の3分の1となっている。
【0060】
また、ドラム210とドライブギヤ310とが第1支軸141に固定される一方で、支持板420とラチェット歯車430とは、第1支軸141が挿通されるのみである。このため、支持板420とラチェット歯車430とは、第1支軸141に対して相対的に回転することが可能となる。また、ドラム210に回転体410が係合する状態では、ラチェット歯車430は、歯が第1回転方向R11に傾く状態となる。
【0061】
図4及び
図5に示すように、ロック部材470は、レバー状をなしている。ロック部材470は、先端部に係止爪471を有し、ロック部材470には、基端部を貫通する第1貫通孔472と、先端部を貫通する第2貫通孔473と、が形成されている。
【0062】
第1貫通孔472は、断面形状が略円形状であり、第2貫通孔473は、断面形状が略長円形状である。ロック部材470は、第1貫通孔472に第3支軸143が挿入されることにより、第3支軸143と相対回転可能に第3支軸143に支持される。ロック部材470は、回転体410のラチェット歯車430に係止するロック位置と、回転体410のラチェット歯車430に係止しないアンロック位置と、の間で第3支軸143の軸線回りに回転する。ロック部材470がロック位置に位置する場合、回転体410の第1回転方向R11の回転が制限され、回転体410の第2回転方向R12の回転が許容される。一方、ロック部材470がアンロック位置に位置する場合、回転体410の第1回転方向R11及び第2回転方向R12の回転が許容される。
【0063】
次に、ノック機構500について説明する。
図9及び
図10に示すように、ノック機構500の構成部品が連結される方向を「軸方向A」とし、ノック機構500の軸方向Aにおける一方向を「第1方向A1」とし、第1方向A1の逆方向を「第2方向A2」とする。また、ノック機構500の周方向Cにおける一方向を「第1周方向C1」とし、第1周方向C1の逆方向を「第2周方向C2」とする。
【0064】
図9及び
図10に示すように、ノック機構500は、筒状をなす筒体510と、筒体510に対して軸方向Aに移動するノック体520と、筒体510に対して軸方向Aに移動するプッシュ体530と、筒体510に対して周方向Cに回転する回転子540と、を有する。また、ノック機構500は、回転子540を第2方向A2に付勢する第3スプリング550と、ロック部材470と回転子540とを連結する連結体560と、を有する。
【0065】
筒体510には、ノック体520の軸方向Aの移動をガイドする第1ガイド溝511と、プッシュ体530の軸方向Aの移動をガイドする第2ガイド溝512と、が形成されている。第1ガイド溝511及び第2ガイド溝512は、筒体510の第2方向A2の端部から第1方向A1に向かって延びる。
【0066】
筒体510は、第1周方向C1に進むに連れて第2方向A2に向かうように傾斜する第1カム面513及び第2カム面514と、軸方向Aに延びる第1規制面515及び第2規制面516と、を内部に有する。第1カム面513及び第2カム面514の各々は、周方向Cに交互に並ぶように複数形成されている。第2カム面514の第1周方向C1における前端部と第1カム面513の第1周方向C1における後端部との間には、第2方向A2に延びる退避溝517が形成されている。第1規制面515は、第1カム面513の第1周方向C1における前端部と第2カム面514の第1周方向C1における後端部とを軸方向Aに接続する。第2規制面516は、第1カム面513の第1周方向C1における後端部から第2方向A2に延びる面であって且つ退避溝517の内面である。
【0067】
ノック体520は、伝達機構300のセクターギヤ340と噛み合うラック521と、略円筒状をなす筒状部522と、ラック521と筒状部522とを接続する連結部523と、を有する。筒状部522は、第2方向A2における端部から径方向における外方に延びる第1ガイド軸524と、ノック体520の第1方向A1における端部に形成される第3カム面525及び第4カム面526と、を有する。第3カム面525は、第1周方向C1に進むに連れて第2方向A2に向かうように傾斜し、第4カム面526は、第1周方向C1に進むに連れて第1方向A1に向かうように傾斜する。第3カム面525及び第4カム面526の各々は、周方向Cに交互に並ぶように複数形成されている。
【0068】
プッシュ体530は、略筒状をなしている。プッシュ体530には、プッシュ体530の第2方向A2における端部から第1方向A1に延びる第3ガイド溝531が形成されている。プッシュ体530は、軸方向Aにおける中間部から径方向における外方に延びる第2ガイド軸532と、第2ガイド軸532の先端から延びるカム軸533と、プッシュ体530の第2方向A2における端部に形成される第5カム面534と、を有する。第2ガイド軸532は略角柱状をなし、カム軸533は略円柱状をなしている。第5カム面534は、第1周方向C1に進むに連れて第2方向A2に向かうように傾斜する。第5カム面534は、周方向Cに並ぶように複数形成されている。プッシュ体530における第5カム面534の形成数は、ノック体520における第3カム面525の形成数の半数、言い換えれば、ノック体520における第4カム面526の形成数の半数である。
【0069】
回転子540は、軸方向Aに延びる軸体541と、軸体541から軸体541の径方向に放射状に延びる複数のリブ542と、を有する。軸体541には、第1方向A1における端部から第2方向A2に向かって係合孔543が形成されている。リブ542の第2方向A2における先端には、第1周方向C1に進むに連れて第2方向A2に向かう第6カム面544が設けられる。
【0070】
連結体560は、円板状をなすフランジ561と、フランジ561から第1方向A1に延びる屈曲軸562と、フランジ561から第2方向A2に延びる係合軸563と、を有する。フランジ561は、例えば、コイルばねである第3スプリング550の端部を支持する部位となる。屈曲軸562は、略L字状に屈曲する。
【0071】
そして、ノック体520とプッシュ体530とが筒体510に対して第1方向A1に挿入され、回転子540と第3スプリング550と連結体560とが筒体510に対して第2方向A2に挿入されることで、ノック機構500が構成される。ノック体520とプッシュ体530とが筒体510に挿入される状態では、ノック体520の第1ガイド軸524が筒体510の第1ガイド溝511及びプッシュ体530の第3ガイド溝531に収まり、プッシュ体530の第2ガイド軸532が筒体510の第2ガイド溝512に収まる。こうして、ノック体520は、筒体510とプッシュ体530とに対し、周方向Cに回転不能且つ軸方向Aに移動可能となる。同様に、プッシュ体530は、筒体510に対し、周方向Cに回転不能且つ軸方向Aに移動可能となる。
【0072】
回転子540が筒体510に挿入される状態では、回転子540の第6カム面544が筒体510の第1カム面513又は筒体510の退避溝517の底面518に接触する。つまり、回転子540が筒体510に係合する。回転子540が筒体510に係合する状態では、回転子540の周方向Cの回転が制限される。一方、回転子540が筒体510と係合しない状態、言い換えれば、回転子540が筒体510に対して第1方向A1に変位した状態では、回転子540の第1周方向C1の回転が可能となる。
【0073】
連結体560が筒体510に挿入される状態では、連結体560の係合軸563が回転子540の係合孔543に挿入される。連結体560は、第3スプリング550により第2方向A2に付勢されることになるため、連結体560は回転子540を常時に第2方向A2に押す状態となる。このため、回転子540が第1方向A1及び第2方向A2に移動する場合には、連結体560は回転子540に接したまま回転子540とともに移動する。
【0074】
図5に示すように、ノック機構500は、ケース120のノック機構収容部123に収容される。このとき、筒体510は、第3壁部127及び第4壁部128の間に配置され、第1方向A1及び第2方向A2に移動不能となる。また、第3スプリング550は、連結体560のフランジ561と第3壁部127との間で圧縮される。こうして、第3スプリング550は、回転子540と連結体560とを第2方向A2に付勢する。また、連結体560の屈曲軸562は、ロック部材470の第2貫通孔473に挿入される。つまり、連結体560の屈曲軸562が軸方向Aに進退することにより、ロック部材470がロック位置及びアンロック位置の間で変位する。
【0075】
図2に示すように、ノック体520のラック521は、伝達機構300のセクターギヤ340とともに、ラックアンドピニオン機構を構成する。このため、ノック体520は、伝達機構300のセクターギヤ340の回転方向に応じて、第1方向A1に移動したり第2方向A2に移動したりする。詳しくは、バックドア20が開動作することでドラム210が第1回転方向R11に回転する場合には、ノック体520が第2方向A2に移動し、バックドア20が閉動作することでドラム210が第2回転方向R12に回転する場合には、ノック体520が第1方向A1に移動する。
【0076】
続いて、
図11~
図15を参照して、ノック機構500の作用について説明する。
図11~
図15は、筒体510の第1カム面513及び第2カム面514に関する構成と、ノック体520の第3カム面525及び第4カム面526に関する構成と、回転子540の第6カム面544に関する構成と、を模式的に図示している。
【0077】
図11は、ノック体520が第2方向A2に移動しているときの筒体510とノック体520と回転子540との位置関係の一例を示している。
図11に示すように、回転子540は、第3スプリング550によって第2方向A2に付勢されるため、回転子540の第6カム面544は、筒体510の第1カム面513を第2方向A2に押す。筒体510の第1カム面513及び回転子540の第6カム面544は、ともに第1周方向C1に進むに連れて第2方向A2に向かうように傾斜するため、第2方向A2に付勢される回転子540は、筒体510の第1カム面513に沿って移動しようとする。その結果、回転子540は、筒体510の第1カム面513及び第1規制面515に接触する。
【0078】
以降の説明では、
図11に示す回転子540の位置を「前進位置」という。前進位置は、回転子540が筒体510の第1カム面513及び第1規制面515と係合することで、回転子540の姿勢が安定する位置の1つである。回転子540が前進位置に位置する場合、ロック部材470はアンロック位置に位置する。なお、回転子540が前進位置に位置する状態は、ノック式ボールペンにおいて、軸筒からペン先が突出した状態に相当する。
【0079】
図12に実線で示すように、
図11に示す状態からノック体520が第1方向A1に移動すると、ノック体520の第3カム面525が回転子540の第6カム面544を第1方向A1に押す。ノック体520の第3カム面525が筒体510の第1カム面513よりも第1方向A1に移動すると、回転子540が筒体510の第1カム面513及び第1規制面515に係合しなくなる。ノック体520の第3カム面525及び回転子540の第6カム面544は、ともに第1周方向C1に進むに連れて第2方向A2に向かうように傾斜するため、回転子540は、ノック体520の第3カム面525に沿って移動しようとする。詳しくは、
図12に二点鎖線で示すように、回転子540がノック体520に対して第1周方向C1に回転するように、回転子540の第6カム面544がノック体520の第3カム面525と摺動する。
【0080】
一方、ノック体520の第3カム面525と第1周方向C1に隣り合う第4カム面526は、第1周方向C1に進むに連れて第1方向A1に向かうように傾斜するため、回転子540の第6カム面544はノック体520の第4カム面526と摺動しない。その結果、回転子540は、リブ542の先端が、ノック体520の第3カム面525及び当該第3カム面525と第1周方向C1に隣り合う第4カム面526の境界に留まる。
【0081】
以降の説明では、
図12に二点鎖線で示す回転子540の周方向Cにおける位置を「第1の位置」という。回転子540が第1の位置に位置する場合、軸方向Aにおいて、回転子540の第6カム面544の少なくとも一部が筒体510の第2カム面514と対向する。
【0082】
図13に実線で示すように、
図12に示す状態からノック体520が第2方向A2に移動すると、回転子540の第6カム面544がノック体520の第3カム面525に接触しなくなる。つまり、ノック体520の第3カム面525が回転子540の第6カム面544を第1方向A1に押す状態が解消され、回転子540の第6カム面544が筒体510の第2カム面514を押す状態となる。筒体510の第2カム面514及び回転子540の第6カム面544は、ともに第1周方向C1に進むに連れて第2方向A2に向かうように傾斜するため、回転子540は、筒体510の第2カム面514に沿って移動しようとする。詳しくは、回転子540がノック体520に対して第1周方向C1に回転するように、回転子540の第6カム面544が筒体510の第2カム面514と摺動する。
【0083】
筒体510の第2カム面514と当該第2カム面514の第1周方向C1に隣り合う第1カム面513との間には、第2方向A2に退避溝517が延びる。このため、回転子540の第6カム面544が筒体510の第2カム面514と摺動し続けると、
図13に二点鎖線で示すように、回転子540のリブ542が筒体510の退避溝517に収まる。つまり、回転子540が筒体510の第2規制面516及び筒体510の退避溝517の底面518に接触する。
【0084】
以降の説明では、
図13に示す回転子540の位置、すなわち、回転子540が前進位置よりも第2方向A2に移動した位置を「後退位置」という。後退位置は、回転子540が筒体510の第2規制面516及び退避溝517の底面518に係合することで、回転子540の姿勢が安定する位置の1つである。回転子540が後退位置に位置する場合、ロック部材470はロック位置に位置する。なお、回転子540が前進位置に位置する状態は、ノック式ボールペンにおいて、軸筒にペン先が収容される状態に相当する。
【0085】
図14に実線で示すように、
図13に示す状態からノック体520が第1方向A1に移動すると、ノック体520の第3カム面525が回転子540の第6カム面544を第1方向A1に押す。ノック体520の第3カム面525が筒体510の第1カム面513よりも第1方向A1に移動すると、回転子540が筒体510の第2規制面516及び退避溝517の底面518に係合しなくなる。このため、
図14に二点鎖線で示すように、回転子540がノック体520に対して第1周方向C1に回転するように、回転子540の第6カム面544がノック体520の第3カム面525と摺動する。こうして、回転子540は、リブ542の先端がノック体520の第3カム面525及び当該第3カム面525と周方向Cに隣り合う第4カム面526の境界に留まる。
【0086】
以降の説明では、
図14に二点鎖線で示す回転子540の周方向Cにおける位置を「第2の位置」という。回転子540が第2の位置に位置する場合、軸方向Aにおいて、回転子540の第6カム面544の少なくとも一部が筒体510の第1カム面513と対向する。
【0087】
図15に実線で示すように、
図14に示す状態からノック体520が第2方向A2に移動すると、回転子540の第6カム面544がノック体520の第3カム面525に係合しなくなる。つまり、ノック体520の第3カム面525が回転子540の第6カム面544を第1方向A1に押す状態が解消され、回転子540の第6カム面544が筒体510の第1カム面513を押す状態となる。このため、
図15に二点鎖線で示すように、回転子540がノック体520に対して周方向Cに回転するように、回転子540の第6カム面544が筒体510の第1カム面513と摺動する。その結果、
図13と同様に、回転子540が筒体510の第1カム面513及び第1規制面515に接触する。つまり、回転子540が「前進位置」に位置する。
【0088】
図11~
図13及び
図13~
図15に示すように、ノック機構500において、ノック体520が第1方向A1に移動した後に第2方向A2に移動する動作を「ノック動作」という。そして、ノック機構500は、ノック動作の度に、回転子540を後退位置から前進位置に移動させたり、回転子540を前進位置から後退位置に移動させたりする。つまり、ノック機構500は、ノック動作の度に、ロック部材470をロック位置からアンロック位置に変位させたり、ロック部材470をアンロック位置からロック位置に変位させたりする。
【0089】
上述したように、ノック機構500は、ノック体520が第1方向A1に移動した後に、ノック体520が第2方向A2に移動することでノック動作する。つまり、ノック機構500は、ドラム210が第2回転方向R12に回転した後に、ドラム210が第1回転方向R11に回転することでノック動作する。言い換えれば、ノック機構500は、バックドア20が閉動作した後にバックドア20が開動作することでノック動作する。この点で、ノック機構500は、ユーザがバックドア20を閉め開けすることでノック動作する。なお、ノック機構500にノック動作させるために必要なバックドア20の変位量は適宜に設定すればよい。
【0090】
次に、キャンセル機構600について説明する。
図4及び
図5に示すように、キャンセル機構600は、正面視略L字状をなすキャンセルレバー610と、キャンセルレバー610を付勢する第4スプリング620と、を有する。
【0091】
キャンセルレバー610は、支持孔611が貫通形成される基部612と、基部612から支持孔611の径方向に延びる第1レバー613及び第2レバー614と、を有する。第1レバー613及び第2レバー614は、異なる方向に延び、第1レバー613及び第2レバー614の間をなす角度は略120°となっている。第2レバー614には、支持孔611と同じ方向に貫通する係止孔615及び長孔616が形成されている。第4スプリング620は、いわゆる引張コイルばねである。
【0092】
図5に示すように、キャンセルレバー610は、基部612の支持孔611にケース120の第4支軸124が挿通されることで、第4支軸124に回転可能に支持される。キャンセルレバー610が第4支軸124に支持される状態では、第1レバー613がアイドルギヤ320の係合突起321に接触可能となり、第2レバー614の長孔616にノック機構500のプッシュ体530のカム軸533が挿通される。また、第4スプリング620は、伸長された状態で、一端がキャンセルレバー610の係止孔615に係止され、他端がケース120の第4壁部128に係止される。
【0093】
次に、
図16~
図25を参照して、停止装置40の作用について説明する。
まず、任意の位置まで開動作させたバックドア20に対し、ユーザが停止操作及び停止解除操作を行うときの停止装置40の作用について説明する。ここで、停止操作とは、バックドア20を開動作可能な状態から開動作不能な状態とするための操作であり、停止解除操作とは、バックドア20を開動作不能な状態から開動作可能な状態とするための操作である。停止操作及び停止解除操作は、両操作とも、バックドア20を僅かに閉動作させた後にバックドア20を僅かに開動作させる操作である。
【0094】
図16は、バックドア20が全閉位置に位置するときの停止装置40の状態を示している。バックドア20が全閉位置に位置する場合、ドラム210は最も第2回転方向R12に回転し、アイドルギヤ320は最も第1回転方向R21に回転し、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340は最も第2回転方向R32に回転している。
【0095】
また、アイドルギヤ320の係合突起321と係合するキャンセルレバー610は、最も第2回転方向R42に回転した位置に位置する。キャンセルレバー610が最も第2回転方向R42に回転するとき、ノック機構500のプッシュ体530は、カム軸533を介して、第1方向A1に最も押し上げられている。このため、ノック機構500の回転子540は、その移動範囲において最も第1方向A1に移動し、ロック部材470は、係止爪471が最もラチェット歯車430から離れている。
【0096】
図17は、ユーザがバックドア20を開操作することにより、バックドア20が全閉位置から僅かに開動作したときの停止装置40の状態を示している。
図17に示すように、バックドア20が全閉位置から開動作すると、バックドア20がケーブル220を牽引するため、ドラム210からケーブル220が繰り出される。つまり、ドラム210が第1回転方向R11に回転するため、アイドルギヤ320が第2回転方向R22に回転し、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340が第1回転方向R31に回転する。
【0097】
アイドルギヤ320が第2回転方向R22に回転すると、アイドルギヤ320の係合突起321とキャンセルレバー610との係合関係が変化する。ただし、キャンセルレバー610におけるアイドルギヤ320の係合突起321との係合位置が僅かに変化するだけで、キャンセルレバー610の姿勢は略変化しない。
【0098】
また、セクターギヤ340が第1回転方向R31に回転すると、ラック521を有するノック機構500のノック体520が
図11に示すように第2方向A2に移動する。ところが、キャンセルレバー610の姿勢が変化しないため、ノック機構500のプッシュ体530と回転子540とは、その移動範囲において最も第1方向A1に移動する位置に留まる。
【0099】
なお、セクターギヤ340は、ノック体520がケース120の第5壁部129に接触するまで、第1回転方向R31に回転し、ノック体520がケース120の第5壁部129に接触した後は、第1回転方向R31に回転できなくなる。このため、
図17に示すように、ノック体520がケース120の第5壁部129に接触した後、ドリブンギヤ330が第1回転方向R31に回転しようとする場合、ドリブンギヤ330がセクターギヤ340に対して相対的に回転する。
【0100】
図18は、ユーザがバックドア20を開操作することにより、バックドア20が
図17に示す状態から僅かに開動作したときの停止装置40の状態を示している。
図18に示すように、バックドア20がさらに開動作すると、アイドルギヤ320の係合突起321とキャンセルレバー610の係合関係が変化する。詳しくは、キャンセルレバー610が第4スプリング620の復元力に基づき、第1回転方向R41に回転する。すると、ノック機構500のプッシュ体530は、カム軸533を介して、第2方向A2に押し下げられる。このため、プッシュ体530が第2方向A2に移動する。
【0101】
図18に示すように、キャンセルレバー610が、最も第1回転方向R41に回転した位置に位置すると、プッシュ体530は、その移動範囲において最も第1方向A1に移動する。キャンセルレバー610が最も第1回転方向R41に回転するとき、プッシュ体530は、ノック機構500の回転子540に接触不能となる。したがって、ノック機構500の回転子540は、
図11に示すように、前進位置に位置する。なお、
図18に示す状態からキャンセルレバー610が第1回転方向R41に回転できなくなるのは、プッシュ体530がケース120の第4壁部128に接触することで、プッシュ体530が第2方向A2に移動できなくなるためである。また、ドリブンギヤ330が第1回転方向R31に回転する一方で、セクターギヤ340とプッシュ体530とが停止し続ける。
【0102】
図19は、ユーザがバックドア20を開操作することにより、バックドア20が中立位置及び全開位置の間の任意の位置(以下、「中途位置」ともいう。)まで開動作したときの状態を示している。
図19に示すように、バックドア20が中途位置まで開動作すると、
図18に示す場合よりも、ドラム210が第1回転方向R11にさらに回転することで、アイドルギヤ320が第2回転方向R22にさらに回転する。つまり、アイドルギヤ320の回転方向において、アイドルギヤ320の係合突起321がキャンセルレバー610から離れる。また、ドリブンギヤ330が第1回転方向R31に回転する一方で、セクターギヤ340とプッシュ体530とが停止し続ける。その後、ユーザが停止操作を行う場合、ユーザはバックドア20を中途位置から僅かに閉操作する。
【0103】
図20は、ユーザが停止操作を開始することにより、バックドア20が中途位置から僅かに閉動作したときの停止装置40の状態を示している。
図20に示すように、
図19に示す状態からバックドア20が僅かに閉動作すると、ケーブル220に弛みが発生するため、ドラム210がケーブル220を巻き取る。つまり、ドラム210が第2回転方向R12に回転するため、アイドルギヤ320が第1回転方向R21に回転し、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340が第2回転方向R32に回転する。
【0104】
セクターギヤ340が第2回転方向R32に回転すると、ラック521を有するノック機構500のノック体520が第1方向A1に移動する。すると、
図12に実線及び二点鎖線で示すように、ノック体520が回転子540を第1方向A1に押すことにより、回転子540が前進位置よりも第1方向A1に移動する。その結果、
図20に示すように、ロック部材470がアンロック位置よりも第1方向A1に変位する。
【0105】
図21は、ユーザが停止操作を完了させたときの停止装置40の状態であって、
図20に示す状態からバックドア20が僅かに開動作したときの停止装置40の状態を示している。このとき、ユーザは、バックドア20を開方向に操作したり、バックドア20から手を離したりすることで、バックドア20を開動作させればよい。バックドア20から手を離すだけでバックドア20が開動作するのは、バックドア20が中立位置よりも全開位置寄りに位置するためである。
【0106】
図21に示すように、
図20に示す状態からバックドア20が僅かに開動作すると、バックドア20がケーブル220を牽引するため、ドラム210からケーブル220が繰り出される。つまり、ドラム210が第1回転方向R11に回転するため、アイドルギヤ320が第2回転方向R22に回転し、ドリブンギヤ330及びセクターギヤ340が第1回転方向R31に回転する。セクターギヤ340が第1回転方向R31に回転すると、ラック521を有するノック機構500のノック体520が第2方向A2に移動する。すると、
図13に示すように、回転子540が後退位置まで移動する。その結果、
図20に示すように、ロック部材470がロック位置に変位する。
【0107】
ロック部材470がロック位置に位置すると、ドラム210が第1回転方向R11に回転不能となる。つまり、バックドア20がドラム210からケーブル220を引き出すことができなくなり、バックドア20が開動作不能となる。こうして、停止装置40は、バックドア20を停止させる。
【0108】
ここで、停止装置40がバックドア20を停止させる状況下において、バックドア20に開方向に強風が吹き付けたり、ユーザがバックドア20を無理に開操作したりすると、停止装置40の構成部品に過負荷が作用するおそれがある。この点、本実施形態の停止装置40は、バックドア20が僅かに開動作することを許容することで、停止装置40の構成部品に過負荷が作用することを抑制する。以下、停止中のバックドア20に開方向の力が加えられる場合の停止装置40の作用について詳しく説明する。
【0109】
停止装置40がバックドア20を停止させる状況下において、バックドア20が開動作しようとする場合には、ドラム210が第1回転方向R11に回転しようとするが、ドラム210と係合する回転体410は第1回転方向R11への回転が制限されている。このため、バックドア20の開方向に作用する力が大きくなるにつれて、ドラム210から回転体410に伝達されるトルクが次第に大きくなる。ドラム210から回転体410に伝達されるトルクが所定の設定トルク以上となると、ドラム210が回転体410に対して相対的に第1回転方向R11に回転する。
【0110】
詳しくは、
図8及び
図22に示すように、ドラム210から回転体410に伝達されるトルクが設定トルク以上となる場合、ドラム210の周壁215の第1斜面217が回転体410の係合部450の第1斜面451と摺動することにより、係合部450が第2スプリング460を圧縮する方向に変位する。続いて、ドラム210の周壁215の第1斜面217が回転体410の係合部450の第1斜面451と摺動し終わるとともに、ドラム210の周壁215の第2斜面218が回転体410の係合部450の第2斜面452と摺動し始める。すると、第2スプリング460の復元力により、係合部450が第2スプリング460を伸長する方向に変位する。その結果、ドラム210の係合凹部216に係合していた回転体410の係合部450は、当該係合凹部216の第2回転方向R12に隣り合う係合凹部216に係合する。こうして、ドラム210は、隣り合う係合凹部216の形成間隔に応じた回転量(以下、「単位回転量」ともいう。)だけ、回転体410に対して第1回転方向R11に回転する。
【0111】
ドラム210が回転体410に対して単位回転量だけ相対回転することにより、ドラム210から回転体410に伝達されるトルクが設定トルク未満となれば、ドラム210が回転体410に対して相対回転しなくなる。つまり、ドラム210が第1回転方向R11に回転しなくなる。一方、ドラム210が回転体410に対して単位回転量だけ相対回転しても、ドラム210から回転体410に伝達されるトルクが設定トルク以上の場合、ドラム210の回転体410に対する相対回転が継続する。つまり、ドラム210が第1回転方向R11に回転する。
【0112】
こうして、本実施形態において、ドラム210と回転体410とは、両者の間で伝達されるトルクが設定トルク以上の場合に相対的に回転し、両者の間で伝達されるトルクが設定トルク未満の場合に一体的に停止又は回転するように構成される。なお、設定トルクは、予め適当な値に設定することが好ましい。設定トルクは、例えば、ドラム210と係合部450における第1斜面217,451及び第2斜面218,452の角度及び表面粗さに応じて変化させたり、第2スプリング460のばね定数に応じて変化させたりすることができる。
【0113】
続いて、ユーザが停止解除操作を行う場合について説明する。
図21に示す状態の停止装置40に対し、ユーザが停止解除操作を行う場合、ユーザはバックドア20を僅かに閉操作した後に開操作する。つまり、ユーザが停止解除操作を行う場合、ドラム210が第2回転方向R12に回転した後に第1回転方向R21に回転するため、ノック体520が第1方向A1に移動した後に第2方向A2に移動する。すると、
図14及び
図15に示すように、ノック体520が回転子540を第1方向A1に押した後にノック体520が第2方向A2に移動することで、回転子540が後退位置から前進位置に移動する。その結果、ロック部材470がロック位置からアンロック位置に変位し、ドラム210が第1回転方向R11に回転可能となる。つまり、バックドア20がドラム210からケーブル220を引き出すことが可能となり、バックドア20が開動作可能となる。こうして、停止装置40は、バックドア20の停止を解除する。
【0114】
次に、バックドア20が閉動作するときの停止装置40の作用について説明する。
バックドア20の閉動作中には、ドラム210が第2回転方向R12に回転するため、アイドルギヤ320が第1回転方向R21に回転し、セクターギヤ340が第2回転方向R32に回転する。
図18に示すように、バックドア20が全閉位置の近傍まで閉動作すると、アイドルギヤ320の係合突起321がキャンセルレバー610に接触する。その後、
図16及び
図17に示すように、バックドア20がさらに閉動作すると、アイドルギヤ320の係合突起321に押されることで、キャンセルレバー610が第4スプリング620を伸長させつつ第2回転方向R42に回転する。
【0115】
キャンセルレバー610が第2回転方向R42に回転するとき、ノック機構500のプッシュ体530は、カム軸533を介して、第1方向A1に押し上げられる。つまり、ノック機構500のプッシュ体530が第1方向A1に移動する。
図16及び
図17に示すように、キャンセルレバー610が最も第2回転方向R42に回転すると、ノック機構500のプッシュ体530が第1方向A1に最も移動した状態となる。その結果、ノック機構500のプッシュ体530は、ノック機構の回転子540を第1方向A1に押す。
【0116】
ここで、停止装置40は、ロック部材470の位置に応じて、バックドア20の開動作を制限したり許容したりする。一方、停止装置40は、ロック部材470の位置に関わらず、バックドア20の閉動作を許容する。このため、ユーザがバックドア20の閉動作を開始するときには、例えば
図19に示すように、ロック部材470がアンロック位置に位置する場合と、例えば
図21に示すように、ロック部材470がロック位置に位置する場合と、の双方の場合がある。言い換えれば、停止装置40が
図11及び
図15に示すように回転子540が前進位置に位置するときにユーザがバックドア20の閉動作を開始する場合もあれば、停止装置40が
図13に示すように回転子540が後退位置に位置するときにユーザがバックドア20の閉動作を開始する場合もある。
【0117】
図23は、ロック部材470がアンロック位置に位置する状況下で、バックドア20が閉動作される場合のノック機構500の動作を示している。つまり、
図23に実線で示す回転子540の位置は、
図12に二点鎖線で示す回転子540の位置と対応している。
【0118】
図23に二点鎖線で示すように、バックドア20が全閉位置の付近まで閉動作されることで、プッシュ体530の第5カム面534がノック体520の第3カム面525よりも第1方向A1に移動すると、プッシュ体530の第5カム面534が回転子540の第6カム面544を第1方向A1に押す。すると、
図23に二点鎖線で示すように、回転子540がプッシュ体530に対して第1周方向C1に回転するように、回転子540の第6カム面544がプッシュ体530の第5カム面534と摺動する。
【0119】
その結果、回転子540は、周方向Cにおいて、
図23に実線で示す第1の位置から
図23に二点鎖線で示す第2の位置に移動する。詳しくは、回転子540は、軸方向Aにおいて、第6カム面544の少なくとも一部が筒体510の第2カム面514と対向する第1の位置から、第6カム面544の少なくとも一部が筒体510の第1カム面513と対向する第2の位置に移動する。
【0120】
一方、
図24は、ロック部材470がロック位置に位置する状況下で、バックドア20が閉動作される場合のノック機構500の動作を示している。つまり、
図24に実線で示す回転子540の位置は、
図14に二点鎖線で示す回転子540の位置と対応している。
【0121】
図24に二点鎖線で示すように、バックドア20が全閉位置の付近まで閉動作されることで、プッシュ体530の第5カム面534がノック体520の第3カム面525よりも第1方向A1に移動すると、プッシュ体530の第5カム面534が回転子540の第6カム面544を第1方向A1に押す。すると、
図25に二点鎖線で示すように、回転子540がプッシュ体530に対して第1周方向C1に回転するように、回転子540の第6カム面544がプッシュ体530の第5カム面534と摺動する。
【0122】
その結果、回転子540は、周方向Cにおいて、
図24に実線で示す第2の位置から
図24に二点鎖線で示す第2の位置に僅かに移動する。詳しくは、回転子540は、軸方向Aにおいて、第6カム面544の少なくとも一部が筒体510の第1カム面513と対向する第2の位置から、第6カム面544の少なくとも一部が筒体510の第1カム面513と対向する第2の位置に僅かに移動する。つまり、プッシュ体530の移動前後における回転子540の位置は、ともに第2の位置である。
【0123】
こうして、
図23及び
図24に示すように、バックドア20の閉動作の開始時点における回転子540が前進位置に位置しているか後退位置に位置しているかに関わらず、バックドア20が全閉位置の付近まで閉動作する場合、回転子540が常に第2の位置に位置する。
【0124】
このため、
図23及び
図24に二点鎖線で示すように回転子540が第2の位置に位置する状態で、バックドア20が開動作する場合には、
図26に示すように、回転子540が筒体510に対して第1周方向C1に回転するように、回転子540の第6カム面544が筒体510の第1カム面513と摺動する。このため、回転子540は、
図26に二点鎖線で示す前進位置に移動する。言い換えれば、回転子540が後退位置に移動しない点で、停止装置40がバックドア20の開動作を停止しない。
【0125】
こうして、プッシュ体530は、バックドア20が全閉位置の付近まで閉動作される場合に、回転子540を第2の位置に移動させることで、回転子540の位置を初期化する。以降の説明では、プッシュ体530が回転子540の位置を初期化する機能を「初期化機能」ともいう。
【0126】
また、
図23及び
図24に実線で示すように、プッシュ体530が回転子540を後退位置よりも第1方向A1に移動させる場合、すなわち、プッシュ体530の第5カム面534が筒体510の退避溝517の底面518よりも第1方向A1に位置する場合には、回転子540が後退位置に移動できなくなる。つまり、この場合には、停止装置40がバックドア20の開動作を停止できなくなる。
【0127】
こうして、プッシュ体530には、バックドア20が全閉位置の付近に位置する場合に、回転子540を退避位置に移動できなくすることで、ロック部材470によるドラム210の回転のロックを無効化する。以降の説明では、プッシュ体530がドラム210の回転のロックを無効化する機能を「無効化機能」ともいう。
【0128】
ここで、バックドア20が閉動作する状況下において、プッシュ体530がドラム210の回転のロックを無効化し始めるときのバックドア20の位置を「無効化位置」とし、プッシュ体530がノック機構500の回転子540の位置を初期化するときのバックドア20の位置を「初期化位置」とする。この場合、無効化位置及び初期化位置は、中立位置及び全閉位置の間の位置とすることが好ましい。
【0129】
本実施形態の効果について説明する。
(1)停止装置40は、ロック部材470をロック位置に配置することで、バックドア20を任意の位置で停止できる。さらに、停止装置40は、任意の位置に停止させたバックドア20に対して開方向に大きな負荷が作用することにより、ドラム210から回転体410に伝達されるトルクが設定トルク以上となる場合には、停止状態の回転体410に対してドラム210が相対的に回転する。このため、停止装置40は、装置の構成部品に大きな負荷が作用することを抑制できる。
【0130】
(2)停止装置40は、ドラム210の回転軸線の延びる方向にドラム210と回転体410とが並んで配置される点で、ドラム210の径方向における装置の体格が大きくなることを抑制できる。
【0131】
(3)停止装置40は、回転体410の少なくとも一部がドラム210の収容凹部211に収容される点で、ドラム210の軸方向における装置の体格が大きくなることを抑制できる。
【0132】
(4)停止装置40は、第2スプリング460が係合部450を周壁215に押し付ける力に応じて、上記設定トルクが定まる。言い換えれば、停止装置40は、第2スプリング460の弾性係数により、上記設定トルクを管理しやすい。
【0133】
(5)停止装置40は、係合部450が係合凹部216に係合することにより、ドラム210と回転体410との間でトルクが伝達される。このため、停止装置40は、設定トルクを大きくしやすい。
【0134】
(6)停止装置40は、複数の係合部450及び複数の係合凹部216がそれぞれ係合する点で、ドラム210と回転体410との係合部位が多くなる。このため、停止装置40は、設定トルクを大きくしやすい。
【0135】
(7)係合凹部216の数が係合部450の数と同数の場合、ドラム210が回転体410に対して相対的に回転するときに、係合凹部216と係合していた係合部450が当該係合凹部216の隣の係合凹部216と係合する状態となるまでのドラム210の回転量が多くなりやすい。つまり、バックドア20の開方向の移動量が多くなりやすい。この点、本実施形態の停止装置40は、係合凹部216の数が係合部450の数よりも多い。このため、係合凹部216と係合していた係合部450が当該係合凹部216の隣の係合凹部216と係合する状態となるまでのドラム210の回転量が少なくなりやすい。したがって、停止装置40は、ドラム210から回転体410に伝達されるトルクが設定トルク以上となることで、ドラム210が回転体410に対して相対的に回転する場合に、バックドア20の開方向の移動量が多くなることを抑制できる。
【0136】
(8)ユーザは、バックドア20を停止させる場合にはバックドア20を閉操作した後に開操作すればよく、バックドア20の停止を解除させる場合にもバックドア20を閉操作した後に開操作すればよい。こうして、停止装置40は、バックドア20の停止状態を切り替えるための操作をユーザにとって簡単な操作とすることができる。
【0137】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態において、ドラム210と回転体410とは、いわゆるトルクリミッタを構成する。このため、ドラム210と回転体410との係合態様は、トルクリミッタを構成し得る係合態様に変更することが可能である。
【0138】
・一例として、ドラムユニット200とロック機構400とは、
図26及び
図27に示すドラムユニット200Aとロック機構400Aとに置き換えてもよい。
図26及び
図27に示すように、ドラムユニット200Aは、ドラム210Aと、複数のボール241と、第1支軸141に支持される皿ばね242と、第1支軸141に固定される保持ナット243と、を備える。ドラム210Aには、収容凹部211に面する側面に複数のボールポケット216Aが形成されている。複数のボールポケット216Aは、ドラム210Aの周方向に等間隔に形成されている。
図27に示すように、ロック機構400Aの回転体410Aは、円板状をなす支持板420Aと、支持板420Aに連結されるラチェット歯車430と、を備える。支持板420Aのドラム210Aに面する側面には、複数のボールポケット422Aが形成されている。複数のボールポケット422Aは、収容凹部211に形成されるボールポケット216Aと対応し、支持板420Aの周方向に等間隔に形成されている。支持板420Aは、保持ナット243に位置決めされる皿ばね242により、ドラム210Aに向かって付勢される。つまり、支持板420Aは、複数のボール241を介して、ドラム210Aと一体化している。
【0139】
そして、ドラム210Aと支持板420Aとの間で伝達されるトルクが設定トルク未満の場合、ドラム210Aと支持板420Aとが一体に回転したり一体に停止したりする。一方、ドラム210Aと支持板420Aとの間で伝達されるトルクが設定トルク以上の場合、ドラム210Aと支持板420Aとが相対的に回転する。詳しくは、ドラム210A及び支持板420Aの一方のボールポケット216A,422Aからボール241が周方向に飛び出すことにより、皿ばね242の付勢力に抗して回転体410がドラム210Aから軸方向に離れる。続いて、ボール241が周方向に移動することにより、ドラム210Aが回転体410に対して相対的に回転する。そして、回転体410のドラム210Aに対する回転量が周方向におけるボールポケット216A,422Aの形成間隔に応じた角度となると、ドラム210A及び支持板420Aのボールポケット216A,422Aの間にボール241が収まる。こうして、ドラム210Aと支持板420Aとが相対的に回転する。この構成によれば、上記実施形態の効果(1)と同等の効果を得ることができる。
【0140】
・ドラム210と回転体410とは、互いに押し付けられる摩擦面をそれぞれ有してもよい。この場合、ドラム210と回転体410とは、摩擦面同士が押し付けられることによって生じる摩擦力によりトルクを伝達すればよく、摩擦面同士が互いに滑ることによって相対的に回転すればよい。
【0141】
・ドラム210と回転体410とは、第1支軸141の軸方向に対向するフェースギヤをそれぞれ有してもよい。この場合、ドラム210と回転体410とは、第1支軸141の軸方向において、一方が他方に接近するように付勢されるとともに、一方が他方に対して離れる方向に変位できるように構成されることが好ましい。この構成によれば、ドラム210と回転体410とは、フェースギヤ同士の噛み合いによって設定トルク未満のトルクを伝達することができ、フェースギヤ同士の噛み合う位置が周方向に変化することによって設定トルク以上のトルクを伝達しないようにできる。
【0142】
・ドラム210の係合凹部216の数は適宜に変更してもよいし、回転体410の係合部450の数は適宜に変更してもよい。例えば、ドラム210の係合凹部216の数は回転体410の係合部450の数と同数であってもよいし、ドラム210の係合凹部216の数は回転体410の係合部450の数の倍数でなくてもよい。
【0143】
・ドラム210の収容凹部211に、回転体410を全て収容させてもよい。この場合、ロック部材470は、ドラム210の軸方向から回転体410に近付いたり離れたりできるように構成することが好ましい。
【0144】
・ドラム210の回転軸線及び回転体410の回転軸線が平行になるようにドラム210と回転体410とを配置してもよいし、ドラム210の回転軸線及び回転体410の回転軸線が直交するようにドラム210と回転体410とを配置してもよい。この場合、ドラム210が第1回転方向R11に回転するときの回転体410の回転方向が「第3回転方向」となり、ドラム210が第2回転方向R12に回転するときの回転体410の回転方向が「第4回転方向」となる。
【0145】
・停止装置40は、ドア開口部11の車両幅方向における片端に1つだけ設けてもよいし、ドア開口部11の車両幅方向における両端に1つずつ設けてもよい。
・停止装置40はバックドア20に取り付けてもよい。この場合、停止装置40から延びるケーブル220の端部は車体12に取り付けることが好ましい。
【0146】
・本実施形態では、伝達機構300のセクターギヤ340とノック機構500のノック体520のラック521とにより、回転運動を直線運動に変換する機構を構成したが、例えば、ウォームホイールとウォームとにより、当該機構を構成してもよい。
【0147】
・ロック部材470をロック位置及びアンロック位置の間で変位させるための機構は、ノック機構でなくてもよい。例えば、当該機構は、ソレノイドなどのアクチュエータを用いてもよい。
【0148】
・停止装置40は、車体12の側部に形成されるドア開口部を開閉する「車両ドア」の一例としてのサイドドアに適用することも可能である。この場合、サイドドアは、車両上下方向と交差する方向に延びる軸線回りに回動可能に車体12に支持されることが好ましい。
【符号の説明】
【0149】
10…車両
12…車体
11…ドア開口部
20…バックドア(車両ドアの一例)
40…車両ドア停止装置
210…ドラム
211…収容凹部
215…周壁
216…係合凹部
410…回転体
420…支持板
450…係合部
460…第2スプリング(付勢部材の一例)
470…ロック部材
500…ノック機構
R11…第1回転方向(第3回転方向)
R12…第2回転方向(第4回転方向)