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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】構造指向剤を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/06 20060101AFI20230629BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20230629BHJP
   C07D 211/14 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C01B39/06
C01B39/48
C07D211/14
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2017554464
(86)(22)【出願日】2016-04-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-05-24
(86)【国際出願番号】 US2016028326
(87)【国際公開番号】W WO2016172128
(87)【国際公開日】2016-10-27
【審査請求日】2019-04-17
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】62/150,015
(32)【優先日】2015-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ウィルト, ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】コリアー, スティーヴン
(72)【発明者】
【氏名】ゴウ, ダー-ミン
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5958370号明細書
【文献】特表2008-500982号公報
【文献】中国特許第1460674号明細書
【文献】特開2005-47836号公報
【文献】特表2009-541040号公報
【文献】WAGNER,Paul et al.,Guest/Host Relationships in the Synthesis of the Novel Cage-Based Zeolites SSZ-35,SSZ-36,and SSZ-39,J. Am. Chem. Soc.,2000年,Vol.122,pp.263-273
【文献】FERGUSON,Jamie L.et al.,A greener, halide-free approach to ionic liquid synthesis,Pure Appl. Chem.,2012年,Vol.84,No.3,pp.723-744
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性モレキュラーシーブ合成用の構造指向剤(SDA)を調製するための方法であって:
a.四級アンモニウム塩のアルキル硫酸対イオンを加水分解し、硫酸水素対イオンを有する有機アンモニウム塩を生成する工程;及び
b.硫酸水素対イオンを有する有機アンモニウム塩を、溶液中の水酸化物源と接触させ、水酸化物対イオンを有する有機アンモニウム塩を形成する工程
を含み、
水酸化物対イオンを有する有機アンモニウム塩が、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム;N,N-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウム;N,N-ジメチル-2,6-ジメチルピペリジニウム;N-エチル-N-メチル-2,6-ジメチルピペリジニウム;N,N-ジエチル-2-エチルピペリジニウム;N,N-ジメチル-2-エチルピペリジニウム;N-エチル-N-メチル-2-エチルピペリジニウム;及びN-エチル-N-プロピル-2,6-ジメチルピペリジニウムから選択されるアンモニウムイオンを含み、水酸化物対イオンを有する有機アンモニウム塩が結晶性モレキュラーシーブ合成のための構造指向剤(SDA)であり、
接触させる工程が、溶液から硫酸塩を沈殿させることをさらに含む、
方法。
【請求項2】
沈殿させた硫酸塩を、濾過により溶液から除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加水分解する工程が、四級アンモニウム塩のアルキル硫酸対イオンを硫酸又は水酸化物と接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
水酸化物源が、アルカリ金属水酸化物又は水酸化アンモニウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
水酸化物対イオンを有する有機アンモニウム塩が、CHA、AEI、AFX、ERI、LEV、AFT、又はこれらのうちの二つ以上の連晶から選択されるフレームワークを有するモレキュラーシーブの合成用の構造指向剤(SDA)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
水酸化物対イオンを有する有機アンモニウム塩が、AEIフレームワークを有するモレキュラーシーブの合成用の構造指向剤(SDA)である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
水酸化物対イオンを有する有機アンモニウム塩が、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム又はN,N-ジエチル-2,6-ジエチルピペリジニウムであるアンモニウムイオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
硫酸ジアルキルを用いて三級アミンを四級化し、硫酸メチル対イオンを有する有機アンモニウム塩を生成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
三級アミンが環状三級アミンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
環状三級アミンが、1,3,5-トリメチルピペリジン;1-エチル-2,6-ジメチルピペリジン;1,2,6-トリメチルピペリジン;1-メチル-2-エチルピペリジン;1,2-ジエチルピペリジン;及び1-プロピル-2,6-ジメチルピペリジンからなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
環状三級アミンが1,3,5-トリメチルピペリジンである、請求項に記載の方法。
【請求項12】
N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム硫酸メチル;N,N-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸エチル;N,N-ジメチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸メチル;N-エチル-N-メチル-2,6-ジメチルピペリジニウム アルキル硫酸;N,N-ジエチル-2-エチルピペリジニウム硫酸エチル;N,N-ジメチル-2-エチルピペリジニウム硫酸メチル;N-エチル-N-メチル-2-エチルピペリジニウム アルキル硫酸;及びN-エチル-N-プロピル-2,6-ジメチルピペリジニウム アルキル硫酸のうちの少なくとも一つを含む組成物。
【請求項13】
N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム硫酸メチルを含む組成物。
【請求項14】
N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジメチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N-エチル-N-メチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジエチル-2-エチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジメチル-2-エチルピペリジニウム硫酸水素;N-エチル-N-メチル-2-エチルピペリジニウム硫酸水素;及びN-エチル-N-プロピル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素のうちの少なくとも一つを含む組成物。
【請求項15】
N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム硫酸水素を含む組成物。
【請求項16】
結晶性モレキュラーシーブ合成用の構造指向剤(SDA)を調製するための方法であって:
a.アミンベースのSDA前駆体を、溶液中の一又は複数の硫酸ジアルキルと反応させ、第1の中間体溶液を形成する工程;
b.第1の中間体溶液を酸又は塩基と接触させ、アンモニウム硫酸水素イオンを含有する第2の中間体溶液を生成する工程;及び
c.第2の中間体溶液を塩基と接触させ、アンモニウムベースの水酸化物形態のSDAを含む最終溶液を生成する工程
を含み、
アンモニウム硫酸水素が、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジメチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N-エチル-N-メチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジエチル-2-エチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジメチル-2-エチルピペリジニウム硫酸水素;N-エチル-N-メチル-2-エチルピペリジニウム硫酸水素;及びN-エチル-N-プロピル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素から選択され、
工程(c)が、最終溶液から硫酸塩を沈殿させることをさらに含む、
方法。
【請求項17】
硫酸ジアルキルが、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
第1の中間体溶液が、アンモニウムベースのSDAカチオン及び結合したアルキル硫酸アニオンを含有する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
第2の中間体溶液が、アンモニウムベースのSDAカチオン及び結合した硫酸水素アニオンを含有する、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
アンモニウムベースの水酸化物形態のSDAが、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム水酸化物又はN,N-ジメチル-2,6-ジエチルピペリジニウム水酸化物である、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
アミンベースのSDA前駆体が、1,3,5-トリメチルピペリジン又は1,2,6-トリメチルピペリジンである、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
結晶性モレキュラーシーブがアルミノシリケートである、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
SDAが、CHA、AEI、AFX、ERI、LEV、及びAFTから選択されたゼオライト型フレームワークを有する結晶性モレキュラーシーブを生成するために有効である、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
フレームワークがAEIである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
結晶性モレキュラーシーブ合成用の構造指向剤(SDA)を調製するための方法であって:
[式中、アルキルは、直鎖状及び分岐状C-C-アルキル又はシクロアルキル基であり、Xは、1から5の整数であり、各Rは、独立して、アルキル官能基である]
a.置換されていてもよいピリジンベースのSDA前駆体を、溶液中の一又は複数の硫酸ジアルキルと反応させ、ピリジニウム アルキル硫酸を含有する第1の中間体溶液を形成する工程;
b.ピリジニウム アルキル硫酸の第1の中間体溶液を還元し、ピペリジニウム アルキル硫酸の第2の中間体溶液を提供する工程;
c.ピペリジニウム アルキル硫酸の第2の中間体溶液を、溶液中の一又は複数の硫酸ジアルキルと反応させ、ピペリジニウム アルキル硫酸の第3の中間体溶液を形成する工程;
d.第3の中間体溶液を酸又は塩基と接触させ、ピペリジニウム硫酸水素の第4の中間体溶液を生成する工程;及び
e.第4の中間体溶液を塩基と接触させ、ピペリジニウムの水酸化物形態のSDAを含む最終溶液を生成する工程
を含み、
ピペリジニウム硫酸水素が、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジメチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N-エチル-N-メチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジエチル-2-エチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジメチル-2-エチルピペリジニウム硫酸水素;N-エチル-N-メチル-2-エチルピペリジニウム硫酸水素;及びN-エチル-N-プロピル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素から選択され、
工程(e)が、最終溶液から硫酸塩を沈殿させることをさらに含む、
方法。
【請求項26】
硫酸ジアルキルが、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト合成において有用な有機構造指向剤を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、規則的な繰り返しパターンに構成された、シリケート及びアルミネートといった無機酸化物から構築されたフレームワークを有する多孔質結晶性又は準結晶性構造である。このようなフレームワークは、ゼオライトの分子的に多孔質の性質を生じさせるケージとチャネルのパターンからなる。国際ゼオライト学会(IZA)によって認識される特徴的なゼオライトフレームワークの各々には、フレームワークのタイプを表すために、CHA(チャバサイト)、BEA(ベータ)、及びMOR(モルデナイト)といった三文字のコードが割り付けられている。
【0003】
特定のゼオライト結晶は、四級有機テトラメチルアンモニウム(TMA)塩のような有機構造指向剤(SDA)の存在下において、様々な酸化物を混合することにより形成することができる。SDAは、周りにゼオライトの様々な構築単位が生じ、互いに接合して結晶性格子構造を形成しうる種類のテンプレートとして役立つ。ゼオライト結晶は、形成された後、その宿主母液から分離して乾燥させることができる。結果として得られる結晶は次いで、内部のSDA分子を熱分解するために通常加熱され、この時点でSDA残遺物はゼオライト結晶から抽出することができ、したがって多孔質酸化ゼオライトフレームワークのみが残る。
【0004】
SDAは、合成に長時間と多工程プロセスを要する複合分子であることが多い。SDAのコストが比較的高いこと、及びそれらがゼオライト合成の間に消費されるという事実は、ゼオライトの製造コストに大きく影響している。したがって、当技術分野において、SDAを商業規模で製造するための、より効率の高い、コスト効率的な合成ルートに対する需要が依然として存在している。本発明は、特にこの需要を満たすものである。
【発明の概要】
【0005】
環状アミンが迅速且つ容易に、1,1,3,5-テトラメチルピペリジン-1-イウム水酸化物のような機能的SDAに変換されうることが発見された。例えば、環状アミンをアルキル硫酸と反応させることにより、アルキル硫酸対イオンを有する新規の中間体四級アンモニウム塩が生成される。この四級アンモニウム/アルキル硫酸塩を、硫酸などの加水分解剤と接触させることにより、アルキル硫酸対イオンが硫酸水素対イオンに変換され、次いでこれを水酸化物源と反応させてSDAの水酸化物形態及び無機硫酸塩を生成することができ、無機硫酸塩は溶液から容易に除去されうる沈殿物を形成する。したがって、ここに記載される本方法は、単純であるが新規のSDA合成ルートである。有利には、本方法はさらに、ゼオライト合成にさらに容易に使用されうる水酸化物の形態のSDAを直接生成する。加えて、本発明は、低濃度のアルカリ金属及び硫黄を有するSDAを生成することができる。
【0006】
したがって、結晶性モレキュラーシーブ合成用の構造指向剤(SDA)を調製するための方法が提供され、この方法は、(a)四級アンモニウム塩のアルキル硫酸対イオンを加水分解し、硫酸水素対イオンを有する四級アンモニウム塩を生成する工程;及び(b)硫酸水素対イオンを有する四級アンモニウム塩を、溶液中の水酸化物源と接触させ、水酸化物対イオンを有する四級アンモニウム塩を形成する工程を含み;前記四級アンモニウム塩は、結晶性モレキュラーシーブ合成用の構造指向剤(SDA)である。
【0007】
別の態様では、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム硫酸メチル;N,N-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸メチル;N,N-ジメチル-9-アゾニアビシクロ[3.3.1]ノナン硫酸メチル;N,N-ジメチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸メチル;N-エチル-N-メチル-2,6-ジメチルピペリジニウム アルキル硫酸;N,N-ジエチル-2-エチルピペリジニウム硫酸エチル;N,N-ジメチル-2-エチルピペリジニウム硫酸メチル;N-エチル-N-メチル-2-エチルピペリジニウム アルキル硫酸;N-エチル-N-プロピル-2,6-ジメチルピペリジニウム アルキル硫酸;及び2,2,4,6,6-ペンタメチル-2-アゾニアビシクロ[3.2.1]オクタン硫酸メチルのうちの少なくとも一つを含む新規の組成物が提供される。
【0008】
別の態様では、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジメチル-9-アゾニアビシクロ[3.3.1]ノナン硫酸水素;N,N-ジメチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N-エチル-N-メチル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジエチル-2-エチルピペリジニウム硫酸水素;N,N-ジメチル-2-エチルピペリジニウム硫酸水素;N-エチル-N-メチル-2-エチルピペリジニウム硫酸水素;N-エチル-N-プロピル-2,6-ジメチルピペリジニウム硫酸水素;及び2,2,4,6,6-ペンタメチル-2-アゾニアビシクロ[3.2.1]オクタン硫酸水素のうちの少なくとも一つを含む組成物が提供される。
【0009】
別の態様では、提供される結晶性モレキュラーシーブ合成用の構造指向剤(SDA)を調製するための方法は:(a)四級アンモニウム-SDA前駆体を、溶液中の一又は複数の硫酸ジアルキルと反応させ、第1の中間体溶液を形成する工程;(b)第1の中間体溶液を酸又は塩基と接触させ、硫酸水素アニオンを含有する第2の中間体溶液を生成する工程;及び(c)第2の中間体溶液を塩基と接触させ、アンモニウムベースのSDAの水酸化物形態を含む最終溶液を生成する工程を含む。
【0010】
本発明のまた別の態様では、提供される結晶性モレキュラーシーブ合成用の構造指向剤(SDA)を調製するための方法は:(a)置換されていてもよいピリジンベースのSDA前駆体を、溶液中の一又は複数の硫酸ジアルキルと反応させ、ピリジニウム アルキル硫酸を含有する第1の中間体溶液を形成する工程;(b)ピリジニウム アルキル硫酸の第1の中間体溶液を還元し、ピペリジニウム アルキル硫酸の第2の中間体溶液を提供する工程;(c)ピペリジニウム アルキル硫酸の第2の中間体溶液を、溶液中の一又は複数の硫酸ジアルキルと反応させ、ピペリジニウム アルキル硫酸の第3の中間体溶液を生成する工程;(d)第3の中間体溶液を酸又は塩基と反応させ、ピペリジニウム硫酸水素の第4の中間体溶液を生成する工程;及び(e)第4の中間体溶液を塩基と接触させ、アンモニウムベースのSDAの水酸化物形態を含む最終溶液を生成する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施態様によるSDAの合成を示している。
図2】本発明の一実施態様によるN,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム水酸化物の合成を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
結晶性モレキュラーシーブ(例えば、ゼオライト)合成に有用な構造指向剤(SDA)を調製するための改善された方法が提供される。特定の実施態様では、方法は、部分的には、金属イオン交換プロセス(例えば、イオン交換樹脂による)を要さない、所望のSDAの水酸化物形態の迅速な形成により改善される。本方法により生成されるSDAは、CHA、AEI、AFX、AFT、ERI、及びLEV、並びにこれらの二つ以上の連晶を含むフレームワークのうちの一又は複数を有するゼオライトの合成に有用なものを含む。このようなSDAには、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム水酸化物及びN,N-ジメチル-2,6-ジエチルピペリジニウム水酸化物が含まれる。
【0013】
特定の実施態様では、SDA合成は、系から容易に除去できる固体沈殿物が硫酸部分により形成される方法による、アルキル硫酸から硫酸水素へ、次いで水酸化物への四級アンモニウム塩対イオンの変換を含む。好ましくは、本方法は:(a)四級アンモニウム塩のアルキル硫酸対イオンを加水分解し、硫酸水素対イオンを有する四級アンモニウム塩を生成する工程;及び(b)硫酸水素対イオンを有する有機アンモニウム塩を、溶液中の水酸化物源と接触させ、水酸化物対イオンを有する有機アンモニウム塩を生成する工程を含み;前記有機四級アンモニウム塩の水酸化物形態は、結晶性モレキュラーシーブ合成用の構造指向剤(SDA)として有用である。工程(a)は、酸、例えば硫酸、又は水酸化物の存在下において実施することができる。好ましくは、工程(b)における水酸化物源は、アルカリ金属水酸化物又はアンモニウム水酸化物である。特定の実施態様では、方法は、反応溶液からSDAを抽出する工程をさらに含む。特定の実施態様では、方法は、アルキル硫酸を用いて環状アミンを四級化することによる四級アンモニウム塩前駆体の形成をさらに含む。特定の実施態様では、方法は、3,5-ルチジン又は3,5-ジメチルピペリジンといった出発物質をアルキル化し、続いて好ましくは工程(a)で使用される同種のアルキル硫酸を用いて還元し、環状アミンを生成する工程をさらに含む。方法の工程(a)に関し、有用な四級アンモニウム塩は、好ましくは、非芳香族の5又は6員の環状アンモニウムイオンを含み、この場合窒素は二つの追加的アルキルに結合するか、又はスピロ環状中心の第2の環構造を形成する。特定の実施態様では、四級アンモニウムは以下の部分:
[式中、R及びRは、独立して、アルキルであるか又は環構造の構成員であり、Xは1から5の整数であり、各Rは、独立して、アルキル官能基である]を含有する。本明細書において使用される用語「アルキル」は、直鎖状及び分岐状C-C-アルキル又はシクロアルキル基を包含する。
【0014】
好ましいアンモニウムイオンは、N位に二つのアルキル基を有する6員の単環式環である。アルキル基の例は、特に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、2-ペンチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、及び2,2-ジメチルプロピルである。アンモニウムイオンのN位における特に好ましいアルキル基は、メチル、エチル、及びn-プロピルを含む。N位の二つのアルキル基は、同じとすることができ、例えばジメチル又はジエチルであるか、又はエチルとメチル、若しくはn-プロピルとエチルのように異なっていてもよい。
【0015】
一又は複数の追加的アルキル置換が、環構造上の他の位置で行われてもよい。例えば、アルキル官能基を、-2-、-3-、-4-、-5-、及び/又は-6-位において置換することができる。追加的置換の数は、好ましくは一つ又は二つである。二つの追加的置換が行われる場合、それらは好ましくはアンモニウム環上のN原子について対称である。好ましくは、アルキル置換が-2,6-又は-3,5-位において行われる。二つの追加的なアルキル基は、同じとすることができ、例えばジメチル又はジエチルであるか、又はエチルとメチル、若しくはn-プロピルとエチルのように異なっていてもよい。特に好ましいのは、ジメチル置換及びジエチル置換である。
【0016】
好ましい四級アンモニウム塩の具体的な例は、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム;N,N-ジエチル-2,6-ジメチルピペリジニウム;N,N-ジメチル-9-アゾニアビシクロ[3.3.1]ノナン;N,N-ジメチル-2,6-ジメチルピペリジニウム;N-エチル-N-メチル-2,6-ジメチルピペリジニウム;N,N-ジエチル-2-エチルピペリジニウム;N,N-ジメチル-2-エチルピペリジニウム;N-エチル-N-メチル-2-エチルピペリジニウム;N-エチル-N-プロピル-2,6-ジメチルピペリジニウム;及び2,2,4,6,6-ペンタメチル-2-アゾニアビシクロ[3.2.1]オクタンからなる群より選択されるイオンを有するものであり、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウムが特に好ましい。
【0017】
好ましくは、この方法により生成される中間体四級アンモニウム塩はアルキル硫酸対イオンも含む。特に好ましいアルキル硫酸対イオンには、硫酸メチル及び硫酸エチルが含まれる。したがって、本発明は、1,1,3,5-テトラメチルピペリジン-1-イウム硫酸メチルのような新規の塩を包含する。この塩は、好ましくは水溶液の形態である。
【0018】
工程(a)は、好ましくは、四級アンモニウム/アルキル硫酸塩を加水分解し、硫酸水素対イオンを有する四級アンモニウム塩を形成することを含む。この加水分解は、例えば、四級アンモニウム/アルキル硫酸塩を硫酸又は水酸化物と接触させることにより達成することができる。有用な水酸化物には、アルカリ金属水酸化物及びアンモニウム水酸化物が含まれる。アルカリ金属水酸化物の例には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムが含まれる。特定の実施態様では、硫酸又は水酸化物源は、四級アンモニウム/アルキル硫酸塩の溶液に直接付加され、反応混合物を形成する。典型的には、加水分解反応は、約25-125℃の温度において約30分間から数時間進行する。メタノールのような加水分解反応のアルキル-アルコール副産物は、アルキル硫酸から硫酸水素への、95%を上回る、好ましくは99%を上回る全変換を達成するために、共沸蒸留により水溶液から除去することができる。好ましくは、工程(a)は非有機溶媒を用いて実施される。
【0019】
工程(b)は、有機四級アンモニウム/硫酸水素塩の溶液を水酸化物源と接触させ、水酸化物対イオンを有する有機アンモニウム塩を形成することを含む。好ましい水酸化物源には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムといったアルカリ金属水酸化物が含まれる。特定の実施態様では、工程(b)の結果、合成中にアルカリ金属を使用するにも関わらず、ほとんど又はまったくアルカリ金属含有量を有さないSDAが得られる。好ましくは、このようなSDAのアルカリ含有量は、SDAの総重量に基づいて5重量パーセント未満、さらに好ましくは3重量パーセント未満、及びそれよりもさらに好ましくは1重量パーセント未満である。
【0020】
工程(b)は、イソプロピルアルコールといった有機溶媒、又は非有機溶媒を用いて実施することができる。好ましくは、アルカリ水酸化物及び有機アンモニウム塩/硫酸水素塩は、溶液から沈殿するアルカリ金属硫酸塩を形成するために有効な条件下において、系に混合される。次いで固体無機硫酸塩を、濾過のような任意の既知の手段により溶液から除去することができる。濾液は、水酸化物形態の有機アンモニウム塩を含有する。したがって、本発明の方法は、イオン交換樹脂のようなイオン交換なしで、水酸化物形態のSDAを調製するために用いることができる。
【0021】
工程(a)及び(b)を含む本方法の特定の実施態様が図1に示されている。
【0022】
工程(a)の四級アンモニウム/アルキル硫酸塩は、窒素含有前駆体から調製することができる。有用な前駆体化合物の例には、窒素を含有する置換された5員又は6員環化合物、例えば置換されたペリジン又は置換されたピリジンが含まれる。特定の実施態様では、前駆体化合物は、一つ又は二つの環位置、好ましくは-2-、-2-と-6-、又は-3-と-5-位に、メチル、エチル、及び/又はプロピルの置換を含む。このような前駆体分子の例には、3,5-ジメチルピペリジン及び3,5-ルチジンが含まれる。
【0023】
前駆体化合物のアルキル化は、好ましくは、化合物の-1-位におけるメチル、エチル、又はプロピル基の付加を含む。アルキル化剤は、好ましくは硫酸ジアルキル、例えば硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、メチルエチルスルフェート、硫酸ジプロピル、メチルプロピルスルフェート、エチルプロピルスルフェート、及びこれらの混合物であり、硫酸ジメチルが特に好ましい。必要に応じて、アルキル化前駆体化合物をさらに処理して対応する非芳香族環を得ることができる。好ましいメチル化の例には:
及び
[式中、x=0から5の整数、好ましくは1又は2である]が含まれる。
【0024】
前駆体化合物のアルキル化により、-1-位にアルキル基を有する置換された環状アミンが得られる。本発明において有用な置換された環状アミンの例には、アルキル置換N-メチルピペリジン、アルキル置換N-エチルピペリジン、及びアルキル置換N-プロピルピペリジンが含まれる。このような化合物のアルキル置換には、-2-、-3-、-5-、及び/又は-6-位におけるメチル、エチル、プロピル、及び/又はブチルが含まれる。-1位におけるアルキル置換に加えて、これら化合物は、一つ、二つ、又は三つの追加的置換を有しうる。特定の実施態様では、メチル置換は、-2-及び-6位、又は-3-及び-5位で行われる。特定の実施態様では、エチル置換は-2位で行われる。例えば、好ましい置換ピペリジンは、二つ又は三つのアルキル置換、例えばトリメチルピペリジン、トリエチルピペリジン、ジメチルエチルピペリジン、及びメチルエチルピペリジン、特に-1位におけるメチル又はエチル置換を有するものを有する。他の置換は、好ましくは、-2-及び-6位において置換されたメチル、-3-及び-5位において置換されたメチル、又は-2位において置換されたエチルを含む。特に好ましい置換ピペリジンは、1,3,5-トリメチルピペリジンである。
【0025】
特定の実施態様では、三級環状アミン前駆体は、アルキル硫酸で四級化され、四級アンモニウム塩を生成する。四級化に有用なアルキル硫酸には、上述のものが含まれる。特定の実施態様では、前駆体化合物のアルキル化に使用される同種のアルキル硫酸を四級化に用いることができる。例えば、硫酸ジメチルは、前駆体化合物のアルキル化と、対応する三級環状アミンの四級化の両方に使用することができる。他の実施態様では、異なるアルキル硫酸を、前駆体化合物のアルキル化と、対応する三級環状アミンの四級化に使用することができる。
【0026】
四級化は、好ましくは、-1位にアルキル又は環置換を含む。好ましい置換により、-1,1-ジメチル、-1,1-メチルエチル、又は-1,1-ジエチル部分が得られる。
【実施例
【0027】
実施例1-3,5-ルチジンからの1,3,5-トリメチルピペリジニウム硫酸メチルの合成
図2に示すように、3,5-ルチジン(10.47g)をフラスコ内に配置し、-10℃で撹拌した。硫酸ジメチル(12.89g)を少しずつ加え、バッチ温度を60℃未満に維持した。次いで反応が完了するまでバッチを40~50℃で撹拌した。完了後、バッチを水で希釈し、1,3,5-トリメチルピリジン-1-イウム硫酸メチルの約60wt%溶液を調製した。
【0028】
この溶液をステンレス鋼の反応器に加え、スポンジニッケル触媒(Alfa Aesar)をバッチに付加した。次いで水素(16バール)を25℃で導入し、バッチを5時間撹拌した。完了後、触媒を濾過して1,3,5-トリメチルピペリジニウム硫酸メチル(99%)を水溶液として得た。
【0029】
実施例2-N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム水酸化物の合成
再び図2を参照する。清潔で乾燥したジャケット付き反応器に3,5-ジメチルピペリジン(11kg)及びトルエン(11L)を充填した。混合物を0~10℃に冷却した。バッチ温度を<70℃に維持しながら硫酸ジメチル(12.2kg)を注意深く充填した。付加完了後、バッチを10~25℃に冷却し、少なくとも1時間撹拌した。
【0030】
次いでバッチをさらに5~10℃に冷却した。硫酸ジメチル(13.5kg)を反応混合物に付加した後、精製水(11.0kg)を加えた。水酸化ナトリウム溶液(10.8kgの水;4.6kgの水酸化ナトリウム)を5~10℃で加え、バッチ温度を10℃未満に維持した。
【0031】
反応完了後、精製水(4.8kg)中、硫酸(4.7kg)の溶液を1時間かけてバッチに付加し、バッチ温度を<50℃に維持した。バッチを95~100℃に加熱し、出発物質に対して約2容量の溶媒が収集されるまで蒸留により溶媒を除去した。
【0032】
次いで精製水(2~3L)をバッチに加え、約2~3Lの溶媒が除去されるまで蒸留を継続した。このようなウォーターチェースを二回繰り返した。最後に、約38~40Lが残るまで蒸留によりバッチを濃縮した。バッチを約25℃に冷却し、次いでイソプロパノール(25.9kg)をバッチに付加した。
【0033】
バッチを10℃に冷却し、次いで温度を<46℃に維持しながら水酸化ナトリウムの溶液(16.2kg)及び精製水(16.2kg)をバッチに付加した。得られたスラリーに追加のイソプロパノール(5.5kg)を充填した。バッチを0~5℃に冷却して濾過した。固体をイソプロパノール(3×5.5kg)で洗浄した。得られた濾液を≦45℃でエバポレートし、残留イソプロパノールを水で除き、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルピペリジニウム水酸化物を~ 50wt%水溶液として得た(収率97%)。
【0034】
実施例3-AEIゼオライトの合成(SAR=22)
60部のSiO、1.2部のAl、13.41部のNaO、9.5部のN,N‐ジエチル‐2,6‐ジメチルピペリジニウム水酸化物(22.23wt%溶液)、及び2721部のHOの(モル)組成の反応ゲルを、以下のように調製した:約130.6グラムのシリカ源(30wt%のSiO)を、300rpmで回転するように設定された撹拌機を用いて、1リットルのステンレス鋼オートクレーブに充填した。約341.4gの1NのNaOHを、98.3gのテンプレートとビーカー内で混合した。約7.6gのアンモニウム交換Yゼオライトをこの混合物に付加した。混合物を、オートクレーブ内のコロイド状シリカに加える前に、10~15分間室温で撹拌した。オートクレーブをシールし、室温で10分間混合を継続した後、135℃に加熱した。温度を12日間維持し、次いでオートクレーブを室温に冷却し、生成物を放出した後濾過し、脱塩水で洗浄し、110℃で一晩乾燥させた。
【0035】
得られた生成物を、X線紛体回析によって解析し、高度に結晶化したAEIタイプのゼオライトを見出した。
図1
図2