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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】ソレノイドバルブ
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20230629BHJP
   H01F 7/16 20060101ALI20230629BHJP
   H01F 7/121 20060101ALI20230629BHJP
   H01F 7/127 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
F16K31/06 305G
F16K31/06 305D
F16K31/06 305E
H01F7/16 R
H01F7/16 F
H01F7/16 Q
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018145434
(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公開番号】P2020020418
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(72)【発明者】
【氏名】栗田 知行
(72)【発明者】
【氏名】金 久
(72)【発明者】
【氏名】萩原 洋一
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-128286(JP,U)
【文献】特開2017-002807(JP,A)
【文献】特開2016-119365(JP,A)
【文献】特開2017-183673(JP,A)
【文献】特開2017-166570(JP,A)
【文献】特開2014-214842(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0353533(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06-31/11
H01F 7/06- 7/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体の円筒状部材を含む、少なくとも2つの円筒状部材が互いの端部が接するように直列に連結され、前記非磁性体の円筒状部材に可動コアの少なくとも一部が収容され、前記非磁性体の円筒状部材には導線が巻回されてコイルが形成されるソレノイドバルブにおいて、
前記少なくとも2つの円筒状部材は互いにインロー構造によって連結され、
前記非磁性体の円筒状部材に、前記可動コアに対向する固定コアの少なくとも一部が収容され、
前記固定コアと前記可動コアの間には、リターンスプリングが配置され、
前記リターンスプリングは、前記非磁性体の円筒状部材に収容され
前記可動コアには、当該可動コアの中心軸に沿って形成された第1の座繰り穴が形成され、前記第1の座繰り穴は、当該可動コアにおける前記固定コアと対向する端部において、当該第1の座繰り穴の底部よりも当該可動コアの中心軸周りの径が大きい第1の拡径部を有し、
前記固定コアには、当該固定コアの中心軸に沿って形成された第2の座繰り穴が形成され、前記第2の座繰り穴は、当該固定コアにおける前記可動コアと対向する端部において、当該第2の座繰り穴の底部よりも当該固定コアの中心軸周りの径が大きい第2の拡径部を有し、
前記非磁性体の円筒状部材に前記可動コアの少なくとも一部及び前記固定コアの少なくとも一部が収容される際、前記リターンスプリングは前記第1の座繰り穴及び前記第2の座繰り穴に収容されることを特徴とするソレノイドバルブ。
【請求項2】
前記リターンスプリングが前記第1の座繰り穴及び前記第2の座繰り穴に収容される際、前記リターンスプリングの一端は前記第1の座繰り穴の底部に接し、前記リターンスプリングの他端は前記第2の座繰り穴の底部に接し、前記リターンスプリングの長手方向の中央部は、前記第1の拡径部及び前記第2の拡径部で形成される拡径空間に位置することを特徴とする請求項1に記載のソレノイドバルブ。
【請求項3】
前記少なくとも2つの円筒状部材では、互いに接する端部の外周が溶接され、
一方の前記円筒状部材は端部の内周側が段差状に突出する凸部を有し、他方の前記円筒状部材は端部の内周側が前記凸部に対応するように凹む凹部を有し、少なくとも2つの円筒状部材が直列に連結される際、前記凸部が前記凹部へ嵌合され、
前記互いに接する端部における外周からの溶接深さは、前記凸部まで到達することを特徴とする請求項1に記載のソレノイドバルブ。
【請求項4】
前記互いに接する端部における外周からの溶接深さは、前記端部の内周まで到達しないことを特徴とする請求項3に記載のソレノイドバルブ。
【請求項5】
前記非磁性体の円筒状部材は円筒状の絶縁材からなるボビンに覆われ、前記導線は前記ボビンに巻回され、前記ボビンは前記非磁性体の円筒状部材を挟み込むように配置される少なくとも2つの部材からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のソレノイドバルブ。
【請求項6】
前記ボビンは樹脂からなり、前記ボビンを構成する前記少なくとも2つの部材は射出成形によって形成されることを特徴とする請求項5に記載のソレノイドバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流れを制御するソレノイドバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体の流れを制御するソレノイドバルブが各種用途に用いられている。一般的なソレノイドバルブは、電磁ソレノイドを内蔵し、コイルによって発生させた磁界によって磁性体の可動コア(鉄芯)を移動させ、この可動コアの移動を流路の開閉に利用する。電磁ソレノイドとしては、非磁性体からなる円筒のスリーブ内に挿入された可動コアを、スリーブを収容するボビンに巻回された導線によって発生する磁界によって往復摺動させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ソレノイドバルブでは可動コアが挿入されるスリーブを複数の円筒状部材を接合して形成することがある。
【0003】
図8は、従来のソレノイドバルブにおける複数の円筒状部材の接合方法を説明するための工程図である。
【0004】
まず、フランジ面70aを有し、磁性体からなる略円筒状のフランジ70と、非磁性体からなる円筒状のリング71と、フランジ面72aを有し、磁性体からなる略円筒状のフランジ72とを、互いの中心軸が一致するように直列に配置する(図8(A))。その後、フランジ70とリング71の互いの端部を付き合わせ、フランジ70とリング71を溶接して接合し、さらに、リング71とフランジ72の互いの端部を付き合わせ、リング71とフランジ72を溶接して接合する(図8(B))。このとき、接合強度を確保するために、フランジ70とリング71の接合部において溶接深さは内周まで達し、リング71とフランジ72の接合部においても溶接深さは内周まで達する。また、フランジ70とリング71やリング71とフランジ72の溶接時、互いの位置関係が狙いよりも多少ずれ、各部の寸法が狙い通りとならないため、通常、フランジ70、リング71やフランジ72を予め大きめに形成し、これらを溶接した後に、フランジ70の左端部やフランジ72の右端部、さらにはフランジ70、リング71やフランジ72の内周や外周へ仕上げ加工を施してこれらを切削し、各部の寸法を合わせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭62-128286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フランジ70の左端部やフランジ72の右端部、並びに、フランジ70、リング71やフランジ72の内周や外周を切削する仕上げ加工は、手間を要し、生産性を大幅に低下させるおそれがある。
【0007】
本発明は、仕上げ加工を削減して生産性を向上させることができるソレノイドバルブを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明のソレノイドバルブは、非磁性体の円筒状部材を含む、少なくとも2つの円筒状部材が互いの端部が接するように直列に連結され、前記非磁性体の円筒状部材に可動コアの少なくとも一部が収容され、前記非磁性体の円筒状部材には導線が巻回されてコイルが形成されるソレノイドバルブにおいて、前記少なくとも2つの円筒状部材は互いにインロー構造によって連結され、前記非磁性体の円筒状部材に、前記可動コアに対向する固定コアの少なくとも一部が収容され、前記固定コアと前記可動コアの間には、リターンスプリングが配置され、前記リターンスプリングは、前記非磁性体の円筒状部材に収容され、前記可動コアには、当該可動コアの中心軸に沿って形成された第1の座繰り穴が形成され、前記第1の座繰り穴は、当該可動コアにおける前記固定コアと対向する端部において、当該第1の座繰り穴の底部よりも当該可動コアの中心軸周りの径が大きい第1の拡径部を有し、前記固定コアには、当該固定コアの中心軸に沿って形成された第2の座繰り穴が形成され、前記第2の座繰り穴は、当該固定コアにおける前記可動コアと対向する端部において、当該第2の座繰り穴の底部よりも当該固定コアの中心軸周りの径が大きい第2の拡径部を有し、前記非磁性体の円筒状部材に前記可動コアの少なくとも一部及び前記固定コアの少なくとも一部が収容される際、前記リターンスプリングは前記第1の座繰り穴及び前記第2の座繰り穴に収容されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、2つの円筒状部材が互いにインロー構造によって連結されるため、2つの円筒状部材の相対位置の精度を向上させることができる。すなわち、2つの円筒状部材を連結しても2つの円筒状部材の内周にずれが生じにくいため、各部の寸法を合わせるための仕上げ加工を少なくすることができる。その結果、ソレノイドバルブの生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係るソレノイドバルブの構成を概略的に示す断面図である。
図2図1における可動コアの動作を説明するための図である。
図3図1における可動コアの動作を説明するための図である。
図4】本実施の形態に係るソレノイドバルブのフランジ及びリングの接合方法を説明するための工程図である。
図5】フランジとリングのインロー構造を説明するための部分拡大斜視図である。
図6】フランジとリングのインロー構造を説明するための部分拡大斜視図である。
図7図1におけるボビンの構成を概略的に示す分解斜視図である。
図8】従来のソレノイドバルブにおける複数の円筒状部材の接合方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、以下の実施の形態に記載されている構成はあくまで例示に過ぎず、本発明の範囲は実施の形態に記載されている構成によって限定されることはない。
【0012】
図1は、本実施の形態に係るソレノイドバルブの構成を概略的に示す断面図である。図1では、2つの電磁ソレノイドが1つの流路に沿って直列に配置される長尺状のダブルバルブであるソレノイドバルブ10がその中心軸にそって切断されて示される。
【0013】
図1において、ソレノイドバルブ10は、構成部品として、アウトレットポート11、マウント12、リング13、ホルダ14、フランジ15、リング16、フランジ17及びインレットポート18を備え、各構成部品はこの順に直列に配置される。また、各構成部品はいずれも略円筒状又は略円柱状を呈し、互いの中心軸が一致するように配置される。その他、ソレノイドバルブ10は、ベアリング19,32、可動コア20,21、リターンスプリング22,23、固定コア24、ボビン25,26、コイル27,28、フィルタ29、ケーブル30及びオリフィス部材31を備える。
【0014】
アウトレットポート11は非磁性体の短尺の円柱状部材からなり、中心軸に沿って貫通する流体(ガスや液体)の流路を有するオリフィス部材を兼ね、中心軸に沿って可動コア20へ向けて突出するノズル11aを有する。ノズル11aの先端中心には上記流路が開口する。マウント12はフランジ面12aを有し、磁性体の略円筒状部材からなる。マウント12は内部にアウトレットポート11を収容し、さらに、ベアリング19とともに可動コア20の一部も収容する。
【0015】
リング13は非磁性体の略円筒状部材からなり、端部においてマウント12へ接合される。リング13も可動コア20の一部を収容するとともに、さらに、ホルダ14の一部を収容する。ホルダ14は固定コアとして機能する略円柱状の鉄芯であり、中心軸に沿って貫通する流路を有し、リング13へ接合される。また、ホルダ14は、リング13とは反対側の端部に略円筒状の収容部14aを有し、収容部14aは後述するオリフィス部材31を収容する。なお、ホルダ14の外周には加工が施され、外径の精度が確保される。
【0016】
フランジ15は磁性体の略円筒状部材からなり、端部に大径の略円筒状の嵌合部15aを有する。嵌合部15aにはホルダ14の収容部14aが嵌め込まれる。また、フランジ15は、ベアリング32とともに可動コア21の一部も収容する。リング16は非磁性体の略円筒状部材からなり、端部においてフランジ15へ接合される。リング16も可動コア21の一部を収容するとともに、さらに、固定コア24の一部を収容する。フランジ17は略円筒状部材からなり、端部においてリング16へ接合され、リング16とは反対側の端部に大径の略円筒状の嵌合部17aを有する。嵌合部17aにはフィルタ29とともにインレットポート18の端部が収容される。また、フランジ17は固定コア24の一部を収容する。
【0017】
オリフィス部材31は非磁性体の短尺の円柱状部材からなり、中心軸に沿って貫通する流路を有し、中心軸に沿って可動コア21へ向けて突出するノズル31aを有する。固定コア24は、略円柱状の鉄芯であり、中心軸に沿って貫通する流路を有し、可動コア21に対向する端部とは反対側の端部においてフィルタ29を介してインレットポート18と対向する。インレットポート18は非磁性体の略円柱状部材からなり、中心軸に沿って貫通する流路を有する。インレットポート18の固定コア24に対向する端部とは反対側の端部は先細りのテーパ状をなし、ソレノイドバルブ10の油穴等への挿入を容易にする。
【0018】
ボビン25は両端がフランジ状に開傘する絶縁性の円筒状部材であり、マウント12の一部、リング13及びホルダ14の大部分を収容する。ボビン26も、ボビン25と同様に、両端がフランジ状に開傘する絶縁性の円筒状部材であり、フランジ15の一部、リング16及びフランジ17の大部分を収容する。ボビン25の外周には導線が巻回されてコイル27が形成され、ボビン26の外周には導線が巻回されてコイル28が形成される。ケーブル30はコイル27やコイル28に接続され、コイル27やコイル28に電力を供給する。
【0019】
ソレノイドバルブ10では、流体が、インレットポート18の流路へ流入し、その後、フィルタ29、固定コア24の流路、可動コア21の流路、オリフィス部材31の流路、ホルダ14の流路及び可動コア20の流路を経由してアウトレットポート11の流路から流出する。すなわち、ソレノイドバルブ10全体の流路に関し、インレットポート18側が上流であり、アウトレットポート11側が下流である。なお、可動コア20や可動コア21における流体の流れの詳細については後述する。
【0020】
図2及び図3は、図1における可動コア21の動作を説明するための図である。なお、図2及び図3は、図1において破線で囲まれた領域Aの拡大図である。
【0021】
略円柱状の可動コア21は中心軸に沿う方向に関して2つの部位に分けられる。可動コア21の固定コア24側の部位、すなわち、上流側に位置する部位(以下、「上流部位」という)21aは、リング16に収容されて固定コア24に対向する。可動コア21のオリフィス部材31側の部位、すなわち、下流側に位置する部位(以下、「下流部位」という)21bは、フランジ15に収容されてオリフィス部材31に対向する。また、上流部位21aと下流部位21bの間には可動コア21を径方向に貫通する径方向流路21cが穿設される。
【0022】
固定コア24はリング16やフランジ15に固定されて移動しない一方、可動コア21の上流部位21aの外径はリング16の内径よりも小さく設定される。すなわち、上流部位21aはリング16に遊嵌する。
【0023】
可動コア21の上流部位21aは上流側端部において中心軸に沿って形成された座繰り穴21dを有する。座繰り穴21dにはリターンスプリング23の下流側が収容される。また、固定コア24は下流側端部において中心軸に沿って形成された座繰り穴24bを有する。座繰り穴24bにはリターンスプリング23の上流側が収容される。上述したように、固定コア24は移動しないため、リターンスプリング23は可動コア21全体を下流側に付勢する。さらに、可動コア21の上流部位21aは中心軸に沿って穿設される中心流路21eを有する。中心流路21eは座繰り穴21dと連通するとともに、径方向流路21cとも連通する。
【0024】
可動コア21の下流部位21bは下流側端部から中心軸に沿って穿設されたシート穴21fを有し、シート穴21fは略円柱状のシート材33を収容する。シート材33はシート穴21fから脱落しないように環状のリテーナ34によって下流部位21bに対する相対移動が規制される。
【0025】
また、下流部位21bの外径はフランジ15の内径よりも小さく設定される。ここで、上述したように、上流部位21aはリング16に遊嵌する。したがって、可動コア21はフランジ15やリング16によって移動が規制されず、フランジ15やリング16の内部において中心軸に沿って移動可能である。
【0026】
また、可動コア21全体がリターンスプリング23によって下流側に付勢されるため、通常、可動コア21は下流側に移動し、図2に示すように、シート材33がオリフィス部材31のノズル31aの先端と当接する。このときであっても、下流部位21bの下流側端部の一部は、オリフィス部材31のノズル31aを除く部分とは当接しない。すなわち、下流部位21bの下流側端部の一部とオリフィス部材31のノズル31aを除く部分の間には隙間が確保される。また、上述したように、下流部位21bの外径はフランジ15の内径よりも小さく設定されるため、下流部位21bの外周とフランジ15の内周の間には隙間が確保される。これらの隙間は隙間流路21gをなす。また、可動コア21が下流側に移動して下流部位21bのシート材33がオリフィス部材31のノズル31aの先端と当接する際、可動コア21と固定コア24の間には隙間dが生じる。
【0027】
固定コア24の流路から流入する流体は、座繰り穴24b、座繰り穴21d、中心流路21eさらには径方向流路21cを経由して隙間流路21gへ流入する。しかしながら、オリフィス部材31のノズル31aの先端がシート材33と当接している場合、オリフィス部材31の流路は隙間流路21gと連通しないため、流体は隙間流路21gに留められてオリフィス部材31から下流へ向けて流れない。
【0028】
ケーブル30によってコイル28へ電力を供給すると、コイル28内に磁界が生じて固定コア24が磁化されて可動コア21を吸着する。このとき、可動コア21は隙間dに相当する距離だけ上流側へ移動し、固定コア24と当接する(図3)。このとき、下流部位21bのシート材33がオリフィス部材31のノズル31aの先端から離間し、シート材33とノズル31aの先端の間には隙間dが生じる。その結果、オリフィス部材31の流路が隙間流路21gと連通し、隙間流路21gへ流入した流体は隙間流路21gに留められること無く、オリフィス部材31の流路を経由して下流へ向けて流れる。このときの流体の流れが、図3において、二点鎖線で示される。すなわち、ソレノイドバルブ10では、ケーブル30からコイル28へ電力を供給することにより、流体をオリフィス部材31よりも下流へ流すことができる。
【0029】
一方、コイル28への電力の供給を停止すると、コイル28内の磁界が消滅して固定コア24の磁化が解除される。これにより、可動コア21は固定コア24へ吸着されず、リターンスプリング23によって下流側に付勢され、シート材33がオリフィス部材31のノズル31aの先端と再び当接する(図2)。
【0030】
以上より、ケーブル30を介したコイル28への電力の供給の実行、停止を切り替えることにより、隙間流路21gとオリフィス部材31の流路の連通、不連通を切り替えることができる。
【0031】
また、ソレノイドバルブ10では、可動コア20が可動コア21と同様の構成を有する。したがって、ケーブル30を介したコイル27への電力の供給の実行、停止を切り替えることにより、可動コア20の下流側端部及びアウトレットポート11のノズル11aを除く部分の間の隙間の流路と、アウトレットポート11の流路との連通、不連通を切り替えることができる。
【0032】
その結果、ソレノイドバルブ10では、流体の全体流路の開閉をケーブル30を介した電力の供給によって制御することができる。すなわち、ソレノイドバルブ10では、アウトレットポート11の流路からの流体の流出(供給)を任意に制御することができる。
【0033】
また、可動コア21の近傍では、コイル28、固定コア24、リング16、可動コア21やリターンスプリング23が電磁ソレノイドを構成し、可動コア20の近傍では、コイル27、ホルダ14、リング13、可動コア20やリターンスプリング22が電磁ソレノイドを構成する。すなわち、ソレノイドバルブ10では、流体の全体流路に沿って直列に2つの電磁ソレノイドが配置される。
【0034】
ここで、電磁ソレノイドの故障モードとしては、例えば、可動コア21が傾いてリング16と干渉し、その結果、コイル28への電力の供給を停止した後に、リターンスプリング23によって下流側に付勢されても、可動コア21が移動せず、シート材33がオリフィス部材31のノズル31aの先端と当接せず、流体がオリフィス部材31から下流へ向けて流れ続けることを阻止できないモードが考えられる。
【0035】
これに対して、上述したように、ソレノイドバルブ10では、流体の全体流路に沿って直列に2つの電磁ソレノイドが配置されるため、一方の電磁ソレノイドが故障して流体が下流へ向けて流れ続けることを阻止できなくなっても、他方の電磁ソレノイドによって流体が当該電磁ソレノイドよりも下流へ向けて流れ続けることを阻止することができる。すなわち、一方の電磁ソレノイドが故障しても、アウトレットポート11の流路からの流体が流出し続けるのを阻止することができ、フェールセーフを実現することができる。
【0036】
図4は、本実施の形態に係るソレノイドバルブ10のフランジ15、リング16及びフランジ17の接合方法を説明するための工程図である。なお、図4では、フランジ15、リング16及びフランジ17が断面図を用いて示され、理解を容易にするために、フランジ15、リング16及びフランジ17以外の構成部品の図示が省略される。
【0037】
本実施の形態では、図4(A)に示すように、フランジ15の上流側端部(図中右側の端部)とリング16の下流側端部(図中左側の端部)がインロー構造を有する。具体的には、リング16は下流側端部の内周側が段差状に突出する凸部16aを有し(図5)、フランジ15は上流側端部の内周側が凸部16aに対応するように凹む凹部15bを有する(図6)。凸部16aの外径は凹部15bの内径よりも所定値だけ小さく設定され、リング16の凸部16aがフランジ15の凹部15bへ挿嵌されてリング16とフランジ15が連結される際、凹部15bと凸部16aは隙間嵌め構造を呈する。
【0038】
凸部16aはリング16の中心軸と同心に構成され、凹部15bはフランジ15の中心軸と同心に構成されるため、凸部16aが凹部15bへ挿嵌されると、フランジ15の中心軸とリング16の中心軸が一致する。また、フランジ15は少なくとも内周と外周に予め加工が施され、フランジ15の内径と外径の精度が確保され、リング16も少なくとも内周と外周に予め加工が施され、リング16の内径と外径の精度が確保される。
【0039】
凸部16aが凹部15bへ挿嵌されてリング16とフランジ15が連結されると、リング16とフランジ15の接合部には外周から溶接が施される。これにより、リング16とフランジ15の接合強度を向上させることができる。ここで、リング16とフランジ15の接合部における外周からの溶接深さは、凸部16aまで到達するが、リング16とフランジ15の内周まで到達しない。なお、リング16とフランジ15の接合部における溶接痕35は図中において三角形で概略的に示される(図4(B))。
【0040】
また、図4(A)に示すように、リング16の上流側端部とフランジ17の下流側端部もインロー構造を有する。具体的には、リング16は上流側端部の内周側が段差状に突出する凸部16bを有し、フランジ17は下流側端部の内周側が凸部16bに対応するように凹む凹部17bを有する。凸部16bの外径は凹部17bの内径よりも所定値だけ小さく設定され、リング16の凸部16bがフランジ17の凹部17bへ挿嵌されてリング16とフランジ17が連結される際、凹部17bと凸部16bは隙間嵌め構造を呈する。
【0041】
凸部16bはリング16の中心軸と同心に構成され、凹部17bはフランジ17の中心軸と同心に構成されるため、凸部16bが凹部17bへ挿嵌されると、フランジ17の中心軸とリング16の中心軸が一致する。また、フランジ17は少なくとも内周と外周に予め加工が施され、フランジ17の内径と外径の精度が確保される。
【0042】
凸部16bが凹部17bへ挿嵌されてリング16とフランジ17が連結されると、リング16とフランジ17の接合部には外周から溶接が施される。ここでも、リング16とフランジ17の接合部における外周からの溶接深さは、凸部16bまで到達するが、リング16とフランジ17の内周まで到達しない。なお、リング16とフランジ17の接合部における溶接痕36は図中において三角形で概略的に示される(図4(B))。
【0043】
なお、ソレノイドバルブ10では、マウント12とリング13もインロー構造によって連結される。さらに、インロー構造は、他の連結箇所にも適用することができ、例えば、リング13とホルダ14をインロー構造によって連結する、すなわち、リング13の一方の端側の凸部のみをインロー構造とすること無く、リング13の両方の端側の凸部をインロー構造としてもよい。
【0044】
本実施の形態によれば、ソレノイドバルブ10では、例えば、フランジ15とリング16が互いにインロー構造によって連結されるため、フランジ15とリング16の中心軸を一致させ、相対位置の精度を向上させることができる。すなわち、フランジ15とリング16を連結してもフランジ15とリング16の内周にずれが生じない。さらに、上述したように、フランジ15とリング16の内周には加工が施されてそれぞれの内径の精度が確保されている。その結果、ソレノイドバルブ10では、フランジ15とリング16の連結後も、フランジ15とリング16の内周側へ仕上げ加工を施すことなく、各部の寸法精度を確保することができる。これにより、例えば、可動コア21の外周とフランジ15又はリング16の内周との隙間を確保することができ、可動コア21の上流部位21aとリング16が干渉するのを防止することができる。また、可動コア21の下流部位21bの外周とフランジ15の内周の間が狭隘になることが無く、隙間流路21gが流体の流れを阻害するのを防止することができる。
【0045】
すなわち、ソレノイドバルブ10において仕上げ加工を削減することができ、その結果、ソレノイドバルブ10の生産性を向上させることができる。なお、インロー構造の外周側の溶接面(接合面)については、表面凹凸を仕上げるために加工又は研磨を施してもよい。
【0046】
上述したように、ソレノイドバルブ10では、リング16とフランジ17もインロー構造によって連結し、さらに、マウント12とリング13もインロー構造によって連結する。これにより、リング16とフランジ17の連結後にリング16とフランジ17の内周に仕上げ加工を施す必要を無くすことができる。また、マウント12とリング13の連結後にマウント12とリング13の内周に仕上げ加工を施す必要を無くすことができる。その結果、ソレノイドバルブ10の生産性をより向上させることができる。
【0047】
なお、インロー構造によって所定の接合強度を確保することができるため、フランジ15とリング16をインロー構造によって連結することにより、リング16とフランジ15の接合部において接合強度を確保するために溶接深さを大きくする必要を無くすことができる。理想的に、リング16とフランジ15の接合部における外周からの溶接深さは、リング16の凸部16aの根元の段差部分まで到達する一方、フランジ15やリング16の内周面まで到達しない。これにより、フランジ15やリング16の内周に熱歪みが生じるのを抑制する。また、溶接深さは凹部15bと凸部16の境界からやや凸部16側へ到達するのが好ましく、少なくともフランジ15とリング16の外周部分から凹部15bと凸部16の境界まで溶接されていることが好ましい。さらに、インロー構造の外周側の接合面全体が溶接されていることが好ましい。
【0048】
また、ソレノイドバルブ10では、例えば、導線を巻回してコイル28を形成する際、コイル28とフランジ15、リング16やフランジ17の間には、絶縁材を介在させる必要がある。ここで、フランジ15、リング16やフランジ17の外径の精度が確保されていない場合、絶縁材を形成する際に外径のバラツキを吸収するために、粉体塗装によって絶縁材を形成する必要がある。
【0049】
これに対して、本実施の形態では、上述したように、フランジ15、リング16やフランジ17の外周に予め加工が施されて外径の精度が確保される。これにより、絶縁材を形成する際に外径のバラツキを吸収する必要を無くすことができ、相手材料に所定の寸法精度を要求する成形加工された部材を、フランジ15、リング16やフランジ17の外周に組み付けてボビン26を構成することができる。例えば、図7に示すように、ボビン26を、樹脂によって形成された2つの略半円筒状部材26a,26bによって構成する。2つの略半円筒状部材26a,26bは間にフランジ15、リング16やフランジ17を挟み込むように配置されて互いに溶着され、ボビン26を構成する。略半円筒状部材26a,26bは、絶縁性部材からなり、例えば、樹脂の材料としてはエンジニアリングプラスチック(例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン))材が用いられる。
【0050】
なお、図示はしないが、ソレノイドバルブ10では、ボビン25も樹脂によって形成された2つの略半円筒状部材によって構成され、これらの略半円筒状部材は間にマウント12、リング13やホルダ14を挟み込むように配置されて互いに溶着され、ボビン25を構成する。
【0051】
本実施の形態によれば、例えば、フランジ15、リング16やフランジ17の外径の精度が確保されているため、ボビン26を、フランジ15、リング16やフランジ17を挟み込む2つの略半円筒状部材26a,26bによって構成することができる。これにより、コイル28を形成するための導線を巻回するための絶縁材を形成するにあたり、絶縁材を粉体塗装によって形成する必要を無くすことができ、もって、より生産性を向上させることができる。また、2つの略半円筒状部材26a,26bはエンジニアリングプラスチックであるPEEK材によって形成される。PEEK材は耐熱性や形成時の寸法精度が高いため、略半円筒状部材26a,26bの組み付け時の精度を向上させることができ、さらに生産性を向上させることができる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0053】
例えば、本実施の形態では、2つの電磁ソレノイドが直列に配置されるダブルバルブに本発明が適用された場合について説明したが、本発明は、1つの電磁ソレノイドのみを有し、当該電磁ソレノイドでは非磁性体の円筒状部材であるリング内において可動コアが往復するソレノイドバルブにも適用することができる。
【0054】
また、例えば、インロー構造を構成するフランジ15の凹部15bとリング16の凸部16aは隙間嵌め構造を呈したが、これらが絞まり嵌め構造を呈してもよい。この場合、接合強度を向上させるために、凹部15bと凸部16aの接合面へブラスト処理を施してもよい。さらに、フランジ15とリング16を接合する際に用いる溶接は、比較的熱量の少ない溶接であれば、様々な溶接方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
10 ソレノイドバルブ
11 アウトレットポート
12 マウント
13,16 リング
14 ホルダ
15,17 フランジ
15b 凹部
16a 凸部
20,21 可動コア
24 固定コア
25,26 ボビン
27,28 コイル
31 オリフィス部材
35,36 溶接痕
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8