(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ
(51)【国際特許分類】
D07B 1/06 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
D07B1/06 Z
(21)【出願番号】P 2019008209
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2018011392
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】片山 拓哉
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-103052(JP,A)
【文献】特開昭57-195948(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195284(WO,A1)
【文献】特表2015-512001(JP,A)
【文献】特開昭48-086086(JP,A)
【文献】特開平02-210078(JP,A)
【文献】実開昭53-027144(JP,U)
【文献】実開平06-042994(JP,U)
【文献】特開平04-037431(JP,A)
【文献】特開平02-210079(JP,A)
【文献】特開昭49-002953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21F1/00-99/00
D07B1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定長の1本のスチール製の心ワイヤと,心ワイヤの周囲にらせん状に一または複数層に撚り合わされた複数本のスチールと異なる金属製の撚りワイヤから構成されており,長手方向の一部において,上記複数本の撚りワイヤのうちの少なくとも一本が心ワイヤの比重よりも大きい比重の金属材料によって構成されており,長手方向に比重の異なる区域が一か所以上設けられていることを特徴とする,
フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ。
【請求項2】
表面に樹脂が被覆されている,
請求項
1に記載のフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はワイヤロープ,特に重量(質量)をフレキシブルに変更して目標とする重量を持たせることが可能なフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤロープは,鉄鋼・機械分野,土木・建築分野,レジャー・スポーツ分野,ゴム製品分野,農業分野,水産分野,船舶分野,電力・通信分野,運輸・港湾分野等に幅広く用いられ,基本的には鉄,スチール,ステンレス(これらの合金を含む)といった一種類の金属材料によって作られる。
【0003】
ワイヤロープには所定の引張強度が求められるのはもちろんであるが,大きな引張強度が常に求められるものでもなく,用途によっては引張強度よりもその重量や重量バランスが重要視されることもある。ワイヤロープの重量や重量バランスは,使用される金属材料,ワイヤロープの構造,直径等によって決まる。
【0004】
引張強度よりも重量が重要視されるワイヤロープの利用分野の一つにレジャー・スポーツ分野がある。たとえばワイヤロープ製の跳び縄は細く,適度な重量を持ち,しなやかであるとともに安定した形状を有するので競技用に適している。特許文献1,2は,スチールワイヤ,ステンレス・ワイヤ等から構成される跳び縄を開示する。
【0005】
ワイヤロープをたとえばより高速に回転させるために空気抵抗を少なくするにはワイヤロープの直径を細くすればよい。しかしながら直径を細くすればするほどワイヤロープの重量は軽くなり,遠心力も小さくなるので,回転するワイヤロープをコントロールしづらくなってしまう。比重の大きい金属材料を用いることでワイヤロープの重さを重くすることはできるが,それだけでは,たとえば直径を変えずに目標とする重量に調整するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7,789,809号公報
【文献】米国特許第8,136,208号公報
【発明の開示】
【0007】
この発明は,目標とする重量ないし重量バランスを持たせることが可能なワイヤロープを提供することを目的とする。
【0008】
第1の発明によるフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープは,所定長の1本の金属製の心ワイヤと,心ワイヤの周囲にらせん状に一または複数層に撚り合わされた複数本の金属製の撚りワイヤを備え,複数本の撚りワイヤのうちの少なくとも一本が,心ワイヤの比重と異なる比重の金属材料によって構成されていることを特徴とする。
【0009】
フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープは,心ワイヤと,心ワイヤの周囲にらせん状に撚り合わされた複数本の撚りワイヤとから構成される。撚りワイヤは心ワイヤの周囲に一層に設けられてもよいし,複数層に設けられてもよい。
【0010】
第1の発明のフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープは二種以上の比重の異なる金属材料から構成されている。たとえば比重の大きい金属製のワイヤを含ませることで所定長のワイヤロープの全体重量を大きくすることができる。逆に比重の小さい金属製のワイヤを含ませることで所定長のワイヤロープ全体の重量を小さくすることもできる。
【0011】
第1の発明によると,ワイヤロープを構成する複数本のワイヤ(心ワイヤおよび撚りワイヤ)の全体が同一の金属材料によって構成されていず,二種以上の比重の異なる金属材料から構成されているので,同一金属材料によって構成されるワイヤロープ(以下,従来のワイヤロープという)では達成することができない,細かな重量設定を行うことができる。たとえば,全体がスチールによって構成されている従来のワイヤロープと同一の構造,長さおよび直径を有しつつ,重量がより重いまたはより軽いワイヤロープを提供することができる。また,構造,長さおよび重量を従来のワイヤロープから変化させずに,より直径の細いまたは太いワイヤロープを提供することもできる。
【0012】
好ましくは,比重の異なる金属材料の比重比は0.9倍以下1.1倍以上とされる。従来のワイヤロープと物理的特性が有意に異なるワイヤロープ,たとえば従来のワイヤロープと同一直径を有しつつ重量が有意に異なるワイヤロープ,従来のワイヤロープと同一の重量を有しつつ直径が有意に異なるワイヤロープ等を得ることができる。ワイヤロープを回転させる場合であれば重量の相違は遠心力に影響をもたらし,直径の相違は空気抵抗に影響をもたらす。
【0013】
第2の発明によるフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープは,所定長の1本の金属製の心ワイヤと,心ワイヤの周囲にらせん状に一または複数層に撚り合わされた複数本の金属製の撚りワイヤから構成されており,長手方向の一部において,上記複数本の撚りワイヤのうちの少なくとも一本が上記心ワイヤの比重と異なる比重の金属材料によって構成されており,長手方向に比重の異なる区域が一か所以上設けられていることを特徴とする。
【0014】
第1の発明のワイヤロープが,ワイヤロープを構成する複数本のワイヤ(心ワイヤ,撚りワイヤ)に二種以上の金属材料が用いられ,長手方向については全体にわたって同一比重のもの(ワイヤロープの横断面はどの箇所でも同じ)であるのに対し,第2の発明のワイヤロープは,その長手方向の少なくとも一部が比重の異なる金属材料を備え,長手方向に比重の異なる区域を備えるワイヤロープを規定する。たとえば,所定長のワイヤロープの中央区域が重く,中央区域の左右につながる両端区域が軽いワイヤロープが提供される。任意の重量バランスを有するワイヤロープが提供される。
【0015】
第1,第2の発明のワイヤロープのいずれについても表面に樹脂を被覆してもよい。表面を滑らかにすることができるので,ワイヤロープを回転させたときの空気抵抗を少なくすることができる。また,ワイヤロープに加わる衝撃を緩和することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施例のワイヤロープの外観を示している。
【
図2】
図1のII-II線に沿う拡大断面図である。
【
図5】さらに他の変形例のワイヤロープの断面図である。
【
図6】さらに他の変形例のワイヤロープの断面図である。
【
図7】さらに他の変形例のワイヤロープの断面図である。
【
図8】(A)は第2実施例のワイヤロープの外観を,(B)および(C)はそれぞれ
図8(A)のB-B線,C-C線に沿う拡大断面図である。
【
図9】作製した3種類のワイヤロープのロープ構成,材質,ロープ径,質量および横断面を示す。
【
図11】作製した3種類のワイヤロープのそれぞれについて,0回転から 600回転/分に達するまでの時間とモータの負荷(トルク値)を計測した計測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は跳び縄として用いるのに適する第1実施例のフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープの外観を,
図2は
図1のII-II線に沿う拡大横断面を,それぞれ示している。
【0018】
フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1は,1本の断面円形のスチール製の心ワイヤ11と,心ワイヤ11の周りにらせん状に撚り合わされた6本の断面円形のタングステン製の内層ワイヤ12と,内層ワイヤ12の周りにらせん状に撚り合わされた12本の断面円形のスチール製の外層ワイヤ13とから構成され,横断面(
図2)から見ると,心ワイヤ11を中心にしてその周囲に6本の内層ワイヤ12が環状に配置され,内層ワイヤ12の周囲にさらに12本の外層ワイヤ13が環状に配置されている。
図2において,かっこ内に示すアルファベット文字は金属材料を示しており,STLがスチールを,TGがタングステンをそれぞれ意味する。内層ワイヤ12はたとえばS撚りされ,外層ワイヤ13はたとえばZ撚りされ,これらの撚りピッチは任意に設定することができる。フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1を構成する心ワイヤ11,内層ワイヤ12および外層ワイヤ13はいずれも直径がほぼ同一であり,1×19のロープ構造を持つ。
【0019】
飛び縄として用いられる場合,フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1の全長はたとえば2.13mとされ,その直径はたとえば1.30~1.70mm程度とされる(
図1,
図2にはフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1がかなり拡大して示されていることを理解されたい)。フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1の両端部のそれぞれにベアリングおよびグリップ(いずれも図示略)を取り付けることで跳び縄が完成する。
【0020】
心ワイヤ11と外層ワイヤ13がスチール製であるのに対し,内層ワイヤ12はタングステン製である。スチールの比重は7.85g/cm
3であり,タングステンの比重は19.3g/cm
3であり,タングステンの比重の方がスチールの比重よりも2.45倍ほど大きい。このため,心ワイヤ11,内層ワイヤ12および外層ワイヤ13のすべてをスチール製のワイヤによって構成した同一構造,同一長さ,同一直径のワイヤロープに比べて,
図1,
図2に示すフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1は重い。
【0021】
心ワイヤ11,内層ワイヤ12および外層ワイヤ13の直径は任意に設計することができ,これによってフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1の直径を任意に調整することができる。フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1の直径を細くする(心ワイヤ11,内層ワイヤ12および外層ワイヤ13のそれぞれの直径を細くする)ことで,心ワイヤ,内層ワイヤおよび外層ワイヤのすべてをスチール製ワイヤによって構成したワイヤロープと重量の変わらない,細径化したフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1を提供することもできる。
【0022】
比重の異なる二種の金属製ワイヤ(第1実施例ではスチールワイヤおよびタングステンワイヤ)を用いてフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1を構成することで,ワイヤロープ構成(1×19)を変えることなく,また長さや直径も変えることなく,ワイヤロープ1の重量(質量)を細かく設定(調整)することができる。剛性や強度も細かく設定することもできる。二種に限らず,それ以上(三種,四種)の種類の金属製ワイヤを用いて,フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープを構成することもできる。
【0023】
価格,剛性,強度等の観点から,従来のワイヤロープの多くにはその金属材料としてスチールが用いられている。スチールの比重を基準にすると,ワイヤロープに用いることができるスチールよりも比重の大きい金属材料には,上述したタングステンのほかに,銅,銀,タンタル,金,白金(これらの合金を含む)が挙げられる。スチールよりも比重の小さい金属材料にはチタン,アルミニウム,マグネシウム(これらの合金を含む)が挙げられる。スチールとほとんど比重の変わらない金属材料としてステンレスがあげられる。
【0024】
フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1を構成する比重の異なる二種以上の金属製ワイヤは0.9倍以下1.1倍以上の比重比(基準となる金属材料の比重によって他の金属材料の比重を除算した値)を有するものを用いるのが好ましい。同一の金属材料のみによって構成される従来のワイヤロープと同一直径を有しつつ重量が有意に異なるフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ,同一の金属材料のみによって構成される従来のワイヤロープと同一重量を有しつつ直径が有意に異なるフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープを得ることができる。
【0025】
図3は変形例のフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ2の横断面図を示している。
図3に示すように,心ワイヤ11および外層ワイヤ13にタングステン製のワイヤを採用し,内層ワイヤ12にスチール製のワイヤを採用することもできる。
【0026】
フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープの強度均一性等を考慮すると,内層ワイヤ12および外層ワイヤ13のそれぞれは,同一種類の複数本の金属ワイヤによって構成するのが好ましい(
図1~
図3)。もっとも,
図4に示すように,たとえば内層ワイヤ12の一部のみを,それ以外のワイヤと異なる金属材料のワイヤによって構成することも可能である。
図4に示すフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ3は,6本の内層ワイヤ12のうちの3本がタングステン製のワイヤによって,残り(心ワイヤ11,残り3本の内層ワイヤ12および12本の外層ワイヤ13)がスチール製のワイヤによって構成されている。強度均一性等を極力確保するために,心ワイヤ11の周囲において3本のタングステン製の内層ワイヤ12は一つおきに(スチール製の内層ワイヤ12を間に挟んで)設けられている。同様に外層ワイヤ13の一部のみをそれ以外のワイヤと異なる金属材料のワイヤによって構成することもできる。
【0027】
図5に示すワイヤロープ4は,
図1に示すフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1の周囲に所定の厚さを持つ樹脂20を被覆したものである。樹脂20はフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1の周囲に環状に設けられる。樹脂20の材料にはたとえばナイロンを用いることができる。樹脂20を被覆することによってフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1(特に外層ワイヤ13)に加わる衝撃を緩和することができる。また,表面を滑らかにすることができるので,ワイヤロープ4を跳び縄として用いる場合に空気抵抗が少なくなり,より高速に回転させることが可能である。
【0028】
図6に示すワイヤロープ5は,横断面が楕円形となるようにフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1の周囲に樹脂20Aを被覆し,樹脂20Aの外形を流線形としたものである。ワイヤロープ5を跳び縄として用いる場合,移動(回転)するワイヤロープ5が受ける空気抵抗をより少なくすることができ,ワイヤロープ5のさらなる高速回転が実現される。
【0029】
図7に示すワイヤロープ6のように,横断面における両端部ではなく,一端部のみが外方に突出するように,フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ1の周囲に樹脂20Bを被覆してもよい。
【0030】
フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープの構造は,上述した同一直径の1本の心ワイヤ11と,6本の内層ワイヤ12と,12本の外層ワイヤ13とから構成されるものに限られないのは言うまでもなく,フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープの構造およびワイヤ本数は適宜変更することができる。心ワイヤ11の周囲にらせん状に撚り合わされるワイヤの層数も二層(内層および外層)に限られるものではなく,たとえば心ワイヤと外層ワイヤとを備える,内層ワイヤが存在しないフレキシブル・ウエイト・ワイヤを作成することもできる。さらに,同一直径のワイヤを用いるのみならず,たとえば心ワイヤ11の直径と内層ワイヤ12の直径を異ならせてもよいし,心ワイヤ11と内層ワイヤ12とに同一直径のワイヤを用い,外層ワイヤ13にはこれよりも細いまたは太いワイヤを用いることもできる。
【0031】
図8(A)~(C)は第2実施例のフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ7を示すもので,
図8(A)はフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ7の外観を,
図8(B),(C)は
図8(A)のB-B線,C-C線に沿う拡大横断面を,それぞれ示している。
【0032】
図8(A)~(C)に示すフレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ7は,その長手方向の中央部に重量区域を備え,重量区域の左右につながる両端部のそれぞれに軽量区域を備えている。軽量区域は心ワイヤ11,内層ワイヤ12および外層ワイヤ13のすべてがスチール製のワイヤによって構成され(
図8(B)),重量区域は内層ワイヤ12がタングステン製のワイヤによって,心ワイヤ11および外層ワイヤ13がスチール製のワイヤによって構成されている(
図8(C))。はじめにタングステン製の内層ワイヤ12を全長にわたって備えるワイヤロープ(全体が重量区域のワイヤロープ)を作成する。両端部分の外層ワイヤ13およびタングステン製の内層ワイヤ12の撚りを所定長にわたって解き,所定長のタングステン製の内層ワイヤ12を切断する。次にらせん状にあらかじめ型付けたスチール製の内層ワイヤ12を,切断したタングステン製の内層ワイヤ12に代えて心ワイヤ11の周囲に撚り合わせ,最後に外層ワイヤ13を再び撚り合わせることで,フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ7は作成される。
【0033】
フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ7は,その中央部が重く(重量区域),中央部の左右につながる両端部が軽い(軽量区域)。比重の異なる二種の金属製ワイヤを用いることで,ロープ構造,ロープ径等を維持したままで,フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ8の重量バランスを任意に設定することができる。
【0034】
図9は実際に作製した3種類(比較例,実施例1および実施例2)のワイヤロープのロープ構成,材質,ロープ径,質量および横断面を示している。比較例のワイヤロープは心ワイヤ11,内層ワイヤ12および外層ワイヤ13のすべてに全長にわたってステンレス製ワイヤを用いたものである。実施例1のワイヤロープは心ワイヤ11および外層ワイヤ13に全長にわたってステンレス製ワイヤを,内層ワイヤ12に全長にわたってタングステン製ワイヤを用いたロープ1(
図1,
図2参照)である。実施例2のワイヤロープは,
図8(A)~(C)に示すワイヤロープ7であり,両側部の軽量区域における心ワイヤ11,内層ワイヤ12および外層ワイヤ13はすべてをスチール製のワイヤによって構成し,中央部の重量区域については,内層ワイヤ12にタングステン製のワイヤを,心ワイヤ11および外層ワイヤ13にスチール製のワイヤを採用したものである。中央部(重量区域)の長さは1000mmとした。
【0035】
これらの3種類のワイヤロープのそれぞれについて,
図10に示すワイヤロープ回転装置を用いて回転試験を行った。
【0036】
ワイヤロープ回転装置は,台座および台座上に間隔をあけて立設された2本の柱を備えるフレーム21と,フレーム21の2本の柱の上端部に回転可能に掛け渡された回転バー22と,回転バー22の一端部に連結されるモータ23を備えている。回転バー22に間隔をあけてワイヤロープの両端部を固定し,モータ23によって回転バー22を回転させる。
図11は,3種類のワイヤロープのそれぞれについて,0回転から 600回転/分に達するまでの時間とモータ23の負荷(トルク値)を計測した計測結果を示している。計測されるモータ23の負荷はワイヤロープに対する回転抵抗を表す。
【0037】
図11の測定結果を参照して,ロープ径の最も大きい比較例のワイヤロープが,600回転/分に達したときに回転抵抗が大きい(モータ23の負荷が大きい)ことが分かる。ロープ径が太ければ太いほど回転抵抗が大きく,ロープ径が細いほど回転抵抗が小さくなることが確認される。回転抵抗は空気抵抗に大きく依存し,ロープ径が小さいほど空気抵抗(回転抵抗)が小さくなり,より高速回転に適すると考えられる。
【0038】
ワイヤロープを回転させたときの初動時(回転開始から0~2秒程度)において,比較例のワイヤロープおよび実施例2のワイヤロープはモータ23の負荷にうねりが生じている。他方,実施例1のワイヤロープについては初動時にモータ23の負荷のうねりはない。実施例1のワイヤロープはその質量が比較例および実施例2のワイヤロープに比べて大きく,回転するワイヤロープの回転抵抗にうねりを生じさせないようにする,すなわちワイヤロープの回転をコントロールしやすくするには,ワイヤロープを軽くしすぎないことが必要であることも確認される。
【符号の説明】
【0039】
1,2,3,4,5,6,7,8 フレキシブル・ウエイト・ワイヤロープ
11 心ワイヤ
12 内層ワイヤ
13 外層ワイヤ