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  • 特許-保持パッド及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】保持パッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/30 20120101AFI20230629BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230629BHJP
   C08L 75/06 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
B24B37/30 C
H01L21/304 622H
C08L75/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019062181
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020157448
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 敏秀
(72)【発明者】
【氏名】水野 紀仁
(72)【発明者】
【氏名】田實 直哉
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-071385(JP,A)
【文献】特開2014-012322(JP,A)
【文献】特開2011-224703(JP,A)
【文献】特開2009-241424(JP,A)
【文献】特開2005-212027(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0053833(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00-3/60
B24B21/00-39/06
H01L21/304;21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂シートを備え、
前記樹脂シートにおいて、下記式(1)から算出される前記保持面の明度指数の変動係数が0.835以下である、
保持パッド。
CV(ΔL*)=SD(ΔL*)/AVE(ΔL*)・・・(1)
(式中、ΔL*はJIS Z 8722:2000に準拠し、L*a*b*色空間において、前記樹脂シートが有する前記保持面における任意の基準点と、該基準点に対して前記保持面の縦方向及び横方向にそれぞれ等間隔の20cmずつ移動した各10箇所の点とにおける各明度指数であり、CV(ΔL*)はΔL*の変動係数を示し、SD(ΔL*)はΔL*の標準偏差を示し、AVE(ΔL*)はΔL*の相加平均を示す。)
【請求項2】
前記標準偏差が0.10以下である、
請求項に記載の保持パッド。
【請求項3】
前記相加平均が0.20以下である、
請求項1又は2に記載の保持パッド。
【請求項4】
前記樹脂シートにおいて、JIS B 0601:1994に準拠して測定される前記保持面の表面粗さが1.0μm以下である、
請求項1~のいずれか一項に記載の保持パッド。
【請求項5】
前記樹脂シートが顔料を含む、
請求項1~のいずれか一項に記載の保持パッド。
【請求項6】
前記樹脂シートがポリエステル系ポリウレタン樹脂を含む、
請求項1~のいずれか一項に記載の保持パッド。
【請求項7】
前記樹脂シートが疎水性添加剤を含む、
請求項1~のいずれか一項に記載の保持パッド。
【請求項8】
前記樹脂シートの前記保持面とは反対側に、基材をさらに備える、
請求項1~のいずれか一項に記載の保持パッド。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の保持パッドを製造する方法であって、
樹脂を含む樹脂溶液を、撹拌翼を配した撹拌装置を用いて調製する工程と、
前記樹脂溶液から樹脂シートを成形する工程と、を有する、保持パッドの製造方法。
【請求項10】
前記撹拌翼による前記樹脂溶液に対する剪断速度が10~100/秒である、請求項に記載の保持パッドの製造方法。
【請求項11】
前記撹拌翼による前記樹脂溶液に対する撹拌時間が900秒以上である、請求項9又は10に記載の保持パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持パッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイス、電子部品等の材料、特に、Si基板(シリコンウェハ)、GaAs(ガリウム砒素)基板、ガラスやLCD(液晶ディスプレイ)用基板等の薄型基板(被研磨物)の表面(加工面)では、平坦性が求められるため、研磨パッドをスラリと共に用いる化学機械研磨加工が行われている。このような研磨加工、中でも片面研磨加工においては、被研磨物を保持するための保持パッドが使用されることがある。当然、その保持パッドにおいても、研磨パッドと同様に平坦性が求められる。
【0003】
例えば特許文献1には、被加工物を保持する被加工物保持材の平坦度を高めて被加工物の品質の向上を図ることを目的として、支持層と該支持層上に積層された発泡層とを備え、被加工物を保持する被加工物保持材であって、発泡層は、湿式凝固法によって形成された発泡層の裏面が研削加工されてなり、また、発泡層は、研削加工された発泡層の裏面を、支持層側にして支持層上に積層されるとともに、発泡層の表面が、被加工物の保持面とされ、発泡層の表面のろ波うねり曲線における高低差が、12μm以下であることを特徴とする被加工物保持材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-23625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来は、保持パッドの被研磨物を保持する保持面について、平坦性のみを担保すれば、該保持面の品質が向上すると考えられていた。しかしながら、本発明者らが検討を進めていくと、保持面の平坦性のみを担保した保持パッドを用いて研磨しても、得られる被研磨物の被研磨面の平坦性が向上し難いことが分かってきた。よって、保持面の平坦性以外に被研磨面の平坦性を向上させる手段が求められる。本発明者らは、被研磨面の平坦性が向上し難い要因が、保持パッドの保持面におけるどのような品質と対応するのかを検討した結果、そのように被研磨物の被研磨面の平坦性が向上し難い場合に用いられる保持パッドは、その保持面に色ムラが生じていることが確認された。
【0006】
そこで、本発明は、保持面の色ムラが小さく、被研磨物における被研磨面の平坦性を向上できる保持パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決すべく鋭意検討した結果、被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂シートを備え、その樹脂シートの当該保持面について、所定の測定方法で複数の明度指数(ΔL*)を測定し、それらから所定の計算式で算出する明
度指数(ΔL*)の変動係数(CV(ΔL*))が1.0未満である保持パッドを用いる
ことで、保持面の色ムラが小さく、被研磨物における被研磨面の平坦性を向上できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂シートを備え、
前記樹脂シートにおいて、下記式(1)から算出される前記保持面の明度指数の変動係数が1.0未満である、
保持パッド。
CV(ΔL*)=SD(ΔL*)/AVE(ΔL*)・・・(1)
(式中、ΔL*はJIS Z 8722:2000に準拠し、L*a*b*色空間におい
て、前記樹脂シートが有する前記保持面における任意の基準点と、該基準点に対して前記保持面の縦方向及び横方向にそれぞれ等間隔の20cmずつ移動した各10箇所の点とにおける各明度指数であり、CV(ΔL*)はΔL*の変動係数を示し、SD(ΔL*)は
ΔL*の標準偏差を示し、AVE(ΔL*)はΔL*の相加平均を示す。)
[2]
前記変動係数が0.9以下である、
[1]に記載の保持パッド。
[3]
前記標準偏差が0.10以下である、
[1]又は[2]に記載の保持パッド。
[4]
前記相加平均が0.20以下である、
[1]~[3]のいずれかに記載の保持パッド。
[5]
前記樹脂シートにおいて、JIS B 0601:1994に準拠して測定される前記保持面の表面粗さが1.0μm以下である、
[1]~[4]のいずれかに記載の保持パッド。
[6]
前記樹脂シートが顔料を含む、
[1]~[5]のいずれかに記載の保持パッド。
[7]
前記樹脂シートがポリエステル系ポリウレタン樹脂を含む、
[1]~[6]のいずれかに記載の保持パッド。
[8]
前記樹脂シートが疎水性添加剤を含む、
[1]~[7]のいずれかに記載の保持パッド。
[9]
前記樹脂シートの前記保持面とは反対側に、基材をさらに備える、
[1]~[8]のいずれかに記載の保持パッド。
[10]
[1]~[9]のいずれかに記載の保持パッドを製造する方法であって、
樹脂を含む樹脂溶液を、撹拌翼を配した撹拌装置を用いて調製する工程と、
前記樹脂溶液から樹脂シートを成形する工程と、を有する、保持パッドの製造方法。
[11]
前記撹拌翼による前記樹脂溶液に対する剪断速度が10~100/秒である、[10]に記載の保持パッドの製造方法。
[12]
前記撹拌翼による前記樹脂溶液に対する撹拌時間が900秒以上である、[10]又は[11]に記載の保持パッドの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る保持パッドは、保持面の色ムラが小さく、被研磨物における被研磨面の平坦性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の保持パッドの一例を模式的に示す断面図である。
図2】本実施形態の保持パッドの保持面に対する明度指数:ΔL*の測定点を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
本実施形態の保持パッドは、被研磨物を保持するための保持面を有する樹脂シートを備える。このような保持パッドは、例えば、粘着層と離型シートとを備える両面テープを樹脂シートの保持面とは反対側に貼り付けることにより作製することができる。
【0013】
図1は、本実施形態の保持パッドの一例を模式的に示す断面図である。保持パッド1は、ポリウレタン製樹脂シート2(以下、単に「樹脂シート2」という。)を備えている。樹脂シート2は被研磨物を保持するための保持面Pを有しており、保持面Pは、平坦な表面を有し樹脂シート2より硬いフィルム状基材を加圧して密着させた密着体を熱処理することにより平坦化されている。保持面Pの背面側は樹脂シート2の厚さ(図1の縦方向の長さ)がほぼ一様となるようにバフ処理又はスライス処理が施されている。ただし、バフ処理又はスライス処理が施されていなくてもよい。
【0014】
樹脂シート2には、保持面P側に、図示しない緻密な微多孔が形成されたスキン層4を有している。スキン層4より内側には、樹脂シート2の厚さ方向に沿って丸みを帯びた断面略三角状の発泡3が形成されている。樹脂シート3の発泡3同士の間には、スキン層4に形成された微多孔より大きく発泡3より小さな空間体積を有する発泡3が形成されている。発泡3は、スキン層4に形成された微多孔の空間体積の直径より大きい連通孔で立体網目状につながっていてもよい。保持面Pの背面側がバフ処理されているため、発泡3がバフ処理された面で開口している。
【0015】
また、保持パッド1は、保持面Pの背面側(バフ処理された面側)に、基材の両面に粘着剤が塗着され研磨機に保持パッド1を装着するための両面テープ7の一面側が貼り合わされており、両面テープ7の他面側は離型シート8で覆われている。
【0016】
樹脂シート2において、下記式(1)から算出される保持面Pの明度指数(ΔL*)の
変動係数(CV(ΔL*))は、1.0未満であり、好ましくは0.9以下であり、より
好ましくは0.6以下であり、さらに好ましくは0.4以下である。
CV(ΔL*)=SD(ΔL*)/AVE(ΔL*)・・・(1)
式中、CV(ΔL*)はΔL*の変動係数を示し、SD(ΔL*)はΔL*の標準偏差
を示し、AVE(ΔL*)はΔL*の相加平均を示し、ΔL*はJIS Z 8722:
2000に準拠し、L*a*b*色空間において、樹脂シート2が有する保持面Pにおける任意の基準点と、該基準点に対して縦方向及び横方向にそれぞれ等間隔の20cmずつ移動した20箇所の点とにおける各明度指数である。
上記保持面の明度指数(ΔL*)の変動係数(CV(ΔL*))が1.0未満である保
持パッドを得るためには、後述する保持パッドの製造方法によって保持パッドを製造すればよい。
より具体的なΔL*を測定する方法は、後述する実施例に示す。
【0017】
上記変動係数が1.0未満であることにより、本実施形態の保持パッドの保持面の色ムラが小さく、被研磨物における被研磨面の平坦性を向上できる要因は次のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。保持面の平坦性のみを担保した従来の保持パッドを用いても、得られる被研磨物における被研磨面の平坦性が向上し難い場合がある。これは、被研磨面の平坦性を向上し難い要因が、保持パッドにおける保持面の平坦性が低いこと以外にもあることを示している。その主な要因の一つとして、樹脂シート中の発泡の形状が、保持面における微小かつ局所的な物性値や組成にバラツキを生じさせていることがあると推察される。一方、本実施形態の保持パッドは、当該保持面について、所定の測定方法で複数の明度指数(ΔL*)を測定し、それらから所定の計算式で算出する明度指
数(ΔL*)の変動係数(CV(ΔL*))が1.0未満であることで、測定することが
困難な保持面における微小かつ局所的な物性値や組成のバラツキが直接得られなくとも、保持面の色ムラが小さく、被研磨面の平坦性を向上することが可能である。
【0018】
樹脂シート2において、上記ΔL*の標準偏差は、特に限定されないが、好ましくは0
.10以下であり、より好ましくは0.05以下であり、さらに好ましくは0.02以下である。上記ΔL*の標準偏差が、0.10以下であることにより、保持面の色ムラがよ
り小さく、被研磨面の平坦性をより向上できる傾向にある。上記ΔL*の標準偏差が0.
10以下である保持パッドを得るためには、例えば樹脂シート2に含まれる顔料の含有量を制御すればよい。
【0019】
樹脂シート2において、上記ΔL*の相加平均は、特に限定されないが、好ましくは0
.20以下であり、より好ましくは0.15以下であり、さらに好ましくは0.10以下である。上記ΔL*の相加平均が、0.20以下であることにより、保持面の色ムラがよ
り小さく、被研磨面の平坦性をより向上できる傾向にある。ここで、上記ΔL*は、保持
面の明度指数であり、最も明るい色である白色を基準として、最も暗い色である黒色に向かって、どの程度暗いかを指標化した値である。よって、上記ΔL*の相加平均が、所定
値以下であるということは、保持パッドの色が全体的に比較的明るい色であることを示す。上記ΔL*の相加平均が0.20以下である保持パッドを得るためには、例えば樹脂シ
ート2が含む顔料の含有量を制御すればよい。
【0020】
樹脂シート2において、JIS B 0601:1994に準拠して測定される保持面Pの表面粗さは、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下であり、さらに好ましくは0.3μm以下である。上記表面粗さが、1.0μm以下であることにより、被研磨面の平坦性をより向上できる傾向にある。上記表面粗さが、1.0μm以下である保持パッドを得るためには、例えば樹脂シート2に含まれる顔料の含有量を制御すればよい。
【0021】
樹脂シート2の厚さは特に限定されないが、例えば、0.2~1.5mmであってもよく、0.6~1.2mmであってもよい。なお、樹脂シート2の厚さは、JIS K6550:1994に記載された測定方法に準拠して測定される。つまり、樹脂シート2の厚み方向に初荷重として1cm2当たり100gの荷重をかけた(負荷した)ときの厚さである。
【0022】
樹脂シート2は、樹脂等のマトリックスを構成する材料(以下、「マトリックス材料」という。)中に複数の気泡3を有するものであり、所謂湿式成膜法により形成されたものである。ただし、樹脂シート2は、公知の乾式成型法あるいはその他の成型法により形成されたものに変えることもできる。
【0023】
樹脂シート2を構成するマトリックス材料は、例えばポリウレタン樹脂を最も多く含む組成であり、ここで、樹脂シート2は、そのマトリックス材料の全体量に対して、ポリウレタン樹脂を80~100質量%含むものであってもよい。樹脂シート2は、その全体量に対して、ポリウレタン樹脂をより好ましくは85~100質量%含み、更に好ましくは90~100質量%含み、特に好ましくは90~95質量%含む。
【0024】
ポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、本発明の目的をより有効且つ確実に奏する観点から、ポリエステル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0025】
ポリウレタン樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、クリスボン(DIC(株)社製商品名)、サンプレン(三洋化成工業(株)社製商品名)、レザミン(大日本精化工業(株)社製商品名)が挙げられる。ポリウレタン樹脂は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0026】
樹脂シート2は、ポリウレタン樹脂以外に、ポリサルホン樹脂及び/又はポリイミド樹脂等の他の樹脂を含んでもよい。ポリサルホン樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、ユーデル(ソルベイアドバンストポリマーズ(株)社製商品名)が挙げられる。ポリイミド樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、オーラム(三井化学(株)社製商品名)が挙げられる。
【0027】
樹脂シート2は、樹脂以外にも、本発明の課題解決を阻害しない範囲で、保持パッドの樹脂シートに通常用いられる材料、例えば、カーボンブラック等の顔料、ラウリル硫酸ナトリウム等の親水性添加剤、及びポリプロピレングリコール等の疎水性添加剤、撥水剤の1種又は2種以上を含んでもよい。更には、樹脂シート2には、樹脂シート2の製造過程において用いられた溶媒等の各種の材料が、本発明の課題解決を阻害しない範囲で残存していてもよい。
【0028】
樹脂シート2における顔料の含有量は、樹脂シート2を構成する全固形分100質量部に対して、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは5.0質量%以上10質量%以下である。顔料の含有量が上記範囲内にあることにより、樹脂シート内部の気泡の均一性が乱れることに起因すると思われる保持面の色ムラがより小さく、被研磨面の平坦性をより向上できる傾向にある。
【0029】
樹脂シート2における疎水性添加剤の含有量は、樹脂シート2を構成する全固形分100質量部に対して、好ましくは0.01質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上5.0質量%以下である。疎水性添加剤の含有量が上記範囲内にあることにより、樹脂シート内部の気泡の均一性が乱れることに起因すると思われる保持面の色ムラがより小さく、被研磨面の平坦性をより向上できる傾向にある。
【0030】
樹脂シート2における親水性添加剤の含有量は、樹脂シート2を構成する全固形分100質量部に対して、好ましくは0.01質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上3.0質量%以下である。親水性添加剤の含有量が上記範囲内にあることにより、樹脂シート内部の気泡の均一性が乱れることに起因すると思われる保持面の色ムラがより小さく、被研磨面の平坦性をより向上できる傾向にある。
【0031】
樹脂シート2の保持面Pには微細気孔が存在していてもよい。微細気孔は、例えば、樹脂シート2の成膜時に、保持面(スキン層)に微細気孔を形成させる添加剤を添加することにより形成することができる。
【0032】
両面テープ7は、従来知られている保持パッドに用いられている接着剤又は粘着剤を含むものであってもよい。両面テープ7の材料としては、例えば、アクリル系、ニトリル系、ニトリルゴム系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリエステル系等の各種粘着剤を基材の両面に塗り付けたものが挙げられる。また、両面テープ7は、基材を用いないノンサポート型のものであってもよい。
【0033】
離型シート8は、保持パッド1を搬送又は保管する際に両面テープ7が表面に露出することを防止するための離型性を有するものであり、特に限定されず、従来の保持パッドに離型シートとして含まれるものであってもよい。離型シート8としては、例えば、シリコーン系又は非シリコーン系の離型剤を露出面Qにコーティングした紙が挙げられる。
【0034】
ここで、図1に示す保持パッド1における、離型シート8は、それを備える両面テープ7由来のものであってもよい。その両面テープ7は、基材の両面に接着剤又は粘着剤を含む粘着層及び離型シートをそれぞれ有し、それぞれの粘着層と基材が両面テープ7に、一方の離型シートが離型シート8に相当する。他方の離型シートは、樹脂シート2に両面テープ7を接合させる際に、剥離される。
【0035】
次に、本実施形態の保持パッドの製造方法の一例について説明する。ここでは、樹脂シート2を湿式成膜法で作製する場合を説明するが、樹脂シート2の作製方法は、これに限定されない。この製造方法では、樹脂シート2を準備する工程と、樹脂シート2に両面テープ7を接合して保持パッド1を得る工程とを有する。
【0036】
樹脂シート2を準備する工程は、更に、樹脂と溶媒と、必要に応じて顔料、親水性添加剤及び疎水性添加剤とを含む樹脂溶液を、撹拌翼を配した撹拌装置を用いて調製する工程(樹脂溶液調製工程)と、樹脂溶液から樹脂シート2を成形する工程(成形工程)とを有するものである。
樹脂シート2を成形する工程は、また更に、樹脂溶液を成膜用基材の表面に塗布する工程(塗布工程)と、樹脂溶液中の樹脂を凝固再生して、前駆体シートを形成する工程(凝固再生工程)と、前駆体シートから溶媒を除去して樹脂シート2を得る工程(溶媒除去工程)と、樹脂シート2をバフ処理又はスライス処理により研削及び/又は一部除去する工程(研削・除去工程)とを有するものである。以下、各工程について説明する。
【0037】
まず、樹脂溶液調製工程では、上述のポリウレタン樹脂等の樹脂と、その樹脂を溶解可能であって、後述の凝固液に混和する溶媒と、必要に応じて樹脂シート2に顔料、親水性添加剤及び疎水性添加剤やその他の材料(例えば、孔形成剤、撥水剤等)とを、撹拌翼を配した撹拌装置を用いて混合し、更に必要に応じて減圧下で脱泡して樹脂溶液を調製する。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という。)及びN,N-ジメチルアセトアミドが挙げられる。樹脂溶液の全体量に対する樹脂の含有量は、特に限定されないが、例えば10~50質量%の範囲であってもよく、15~35質量%の範囲であってもよい。
【0038】
撹拌翼を配した撹拌装置を用いて混合する条件として、本実施形態の保持パッドを得ることができる条件であれば特に限定されないが、撹拌翼による樹脂溶液に対する剪断速度が、好ましくは10~100/秒であり、より好ましくは20~80/秒であり、さらに好ましくは30~70/秒である。ここでの剪断速度は、公知の撹拌翼を配した撹拌装置における剪断速度と同義である。
【0039】
なお、剪断速度は次のように求めることができる。すなわち、剪断速度は、剪断速度(/秒)=攪拌翼の翼先端の直径(mm)×円周率×攪拌翼の回転数(rpm)÷60÷攪拌翼の翼先端と混合槽の内壁とのクリアランス(mm)により求めることができる。
【0040】
さらに、撹拌翼による樹脂溶液に対する撹拌時間(秒)が、好ましくは900秒以上であり、より好ましくは1800~18000秒であり、さらに好ましくは3000~15000秒である。
【0041】
上記剪断速度、上記剪断回数、及び上記撹拌時間が上記範囲内にあることにより、樹脂シート2の保持面Pにおける微小な範囲の物性値や組成のバラツキが小さいことに起因して、保持面の色ムラがより小さく、被研磨面の平坦性をより向上できる傾向にある。
【0042】
次に、塗布工程では、樹脂溶液を、好ましくは常温下で、ナイフコーター等の塗布装置を用いて帯状の成膜用基材の表面に塗布して塗膜を形成する。このときに塗布する樹脂溶液の厚さは、最終的に得られる樹脂シート2の厚さが所望の厚さになるように、適宜調整すればよい。成膜用基材の材質としては、例えば、PETフィルム等の樹脂フィルム、布帛及び不織布が挙げられる。これらの中では、液を浸透し難いPETフィルム等の樹脂フィルムが好ましい。
【0043】
次いで、凝固再生工程では、成膜用基材に塗布された樹脂溶液の塗膜を、樹脂に対する貧溶媒(例えばポリウレタン樹脂の場合は水)を主成分とする凝固液中に連続的に案内する。凝固液には、樹脂の再生速度を調整するために、樹脂溶液中の溶媒等の極性溶媒等の有機溶媒を添加してもよい。また、凝固液の温度は、樹脂を凝固できる温度であれば特に限定されず、例えば、15~65℃であってもよい。凝固液中では、まず、樹脂溶液の塗膜と凝固液との界面に皮膜(スキン層)が形成され、皮膜の直近の樹脂中に無数の緻密な微多孔が形成される。その後、樹脂溶液に含まれる溶媒の凝固液中への拡散と、樹脂中への貧溶媒の浸入との協調現象により、好ましくは連続気泡構造を有する樹脂の再生が進行する。このとき、成膜用基材が液を浸透し難いもの(例えばPETフィルム)であると、凝固液がその基材に浸透しないため、樹脂溶液中の溶媒と貧溶媒との置換がスキン層付近で優先的に生じ、スキン層付近よりもその内側にある領域の方に、より大きな空孔が形成される傾向にある。こうして成膜用基材上に前駆体シートが形成される。
【0044】
次に、溶媒除去工程では、形成された前駆体シート中に残存する溶媒を除去して樹脂シート2を得る。溶媒の除去には、従来知られている洗浄液を用いることができる。また、溶媒を除去した後の樹脂シート2を、必要に応じて乾燥してもよい。樹脂シート2の乾燥には、例えば、内部に熱源を有するシリンダを備えたシリンダ乾燥機を用いることができるが、乾燥方法はこれに限定されない。シリンダ乾燥機を用いる場合、前駆体シートがシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。更に、得られた樹脂シート2をロール状に巻き取ってもよい。
【0045】
次いで、研削・除去工程では、樹脂シート2の好ましくはスキン層側の反対側である裏面を、バフ処理又はスライス処理で研削及び/又は一部除去する。バフ処理やスライス処理により樹脂シート2の厚さの均一化を図ることができるため、被研磨物に対する押圧力を一層均等化し、被研磨物の損傷を更に抑制すると共に被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0046】
次に、樹脂シート2に両面テープ7を接合して保持パッド1を得る。この工程では、例えば基材及び粘着層を有する両面テープを用いて、それぞれ、1枚の樹脂シート2の保持面Pとは反対側の面上に粘着層を介して両面テープを接合する。更に、両面テープが樹脂シート2と接合した面とは反対側に、両面テープの他方の粘着層と離形シートとが備えられている。こうして、樹脂シート2の一面に対して、粘着層、基材、粘着層の順からなる両面シート7と、離形シート8とがその順に積層されて、保持パッド1が得られる。
【0047】
以上、本実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。例えば、上記本実施形態では、樹脂シート2に基材を含む両面シート7を用いているが、代わりにノンサポート型粘着テープを用いてもよい。ただし、本発明の保持パッドは、保持パッドの取扱い性の観点から、基材を含む両面テープ7を更に備えることが好ましい。また、保持パッドの製造方法において、研削・除去工程を省略してもよい。
【実施例
【0048】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
マトリックス樹脂となる原料樹脂のポリエステル系ポリウレタン樹脂をDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)に溶解させた30質量%の溶液100質量部に対して、粘度調整用のDMF50質量部、水8質量部、顔料のカーボンブラック6.7質量%を含むDMF分散液44質量部、疎水性添加剤のポリプロピレングリコール2.5質量部、親水性添加剤のラウリル硫酸ナトリウム1.0質量部を、撹拌翼を配した撹拌装置内に供給し、撹拌翼の剪断速度を60/秒で、1時間撹拌した後、所定時間撹拌装置内で滞留させて調製した。
【0050】
次に、成膜用基材として市販のPETフィルムを用意し、そこへ調製した樹脂溶液をナイフコーターを用いて塗布し、厚さ1.0mmの塗膜を得た。次いで得られた塗膜を成膜用基材と共に、凝固液である水からなる18℃の凝固浴に浸漬し、樹脂を凝固再生して前駆体樹脂シートを得た。前駆体樹脂シートを凝固浴から取り出し、成膜用基材を前駆体樹脂シートから剥離した後、前駆体樹脂シートを水からなる室温の洗浄液(脱溶媒浴)に浸漬し、乾燥しつつ巻き取った。次に、樹脂シートの裏面(成膜用基材を剥離した側の面であって、成膜用基材に接触していた面)に対してバフ処理を施して、0.8mmの厚さとした。
次に、樹脂シートのバフ処理を施した面に市販のPET基材と市販の離型シートからなる両面テープを貼り合わせ、保持パッドを得た。
【0051】
(実施例2)
撹拌翼の剪断速度を23/秒に変更した以外は、実施例1と同様にして保持パッドを作製した。
【0052】
(比較例1)
撹拌翼の剪断速度を8.5/秒に変更した以外は、実施例1と同様にして保持パッドを作製した。
【0053】
(比較例2)
撹拌した時間を1時間から5分に変更した以外は、実施例1と同様にして保持パッドを作製した。
【0054】
実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2で得られた各保持パッドの明度指数(Δ
L*)及び表面粗さを下記の方法でそれぞれ測定した。
【0055】
(明度指数:ΔL*)
JIS Z 8722:2000に準拠して、分光色彩計(日本電色社製、SD6000)を用いて測定を行った。測定した保持パッドの部分は、本実施形態の保持パッドの保持面に対する明度指数:ΔL*の測定点を示す模式図を用いて説明する。ここで、図2
保持面において、横方向は保持パッドの成膜方向を示し、縦方向は成膜方向と直行する方向を示す。
CIE1976L*a*b*色空間における明度指数:ΔL*の値を、図2に示す保持
面において、点線矢印同士が交わる点を基準点として、それぞれの点線矢印の方向に沿って、当該基準点と、当該基準点に対して縦方向及び横方向にそれぞれ等間隔の20cmずつ移動した各10箇所の点との計21点で測定した。なお、測定条件は、光源をCIE標準光源D65、視野角を10°とし、正反射光は除いた。
【0056】
(ΔL*の変動係数:CV)
上記で得られた各明度指数:ΔL*から、その相加平均と標準偏差を算出し、さらに下
記式(1)からΔL*の変動係数:CVを算出した。得られた結果を表1に示す。
CV(ΔL*)=SD(ΔL*)/AVE(ΔL*)・・・(1)
ここで、式中、CV(ΔL*)はΔL*の変動係数を示し、SD(ΔL*)はΔL*の標
準偏差を示し、AVE(ΔL*)はΔL*の相加平均を示す。
【0057】
(表面粗さ(単位:μm))
日本工業規格のJIS B 0601:1994に準拠して、表面粗さ測定機(東京精密社製、サーフコム480B)を用いて測定を行った。具体的には、測定速度0.6mm/秒にて測定距離を4mmとし、保持パッドの保持面の5区間を測定し、その平均値を表面粗さ(単位:μm)とした。カットオフ値は0.8mmとし、それ以上の値を測定値から除外した。
【0058】
【表1】
【0059】
実施例1及び2では、比較例1及び2に比べて、保持パッドの保持面における色ムラの指標として算出した変動係数:CVの値が小さく、色ムラが抑制されていることが分かった。
【0060】
各実施例および比較例の保持パッドを用いて、以下の研磨条件にてガラス基板の研磨加工を行った。
(研磨条件)
被研磨物:LCD用ガラス基板(355mm×406mm×0.5mm)
研磨機:オスカー研磨機(スピードファム社製、SP-1200)
スラリ:セリウムスラリ
研磨速度(回転数):61rpm
加工圧力:76gf/cm2
研磨時間:30min×20回
【0061】
(平坦度)
上記の研磨加工を行った後、各保持パッドを用いた場合における、研磨加工後のガラス基板表面の被研磨面について、日本工業規格のJIS B0601:’82に準拠して、ろ波中心うねりから平坦度aを測定した。平坦度aの測定では、表面粗さ形状測定機(東京精密社製、サーフコム480A)を使用し、以下に示す測定条件に設定した。
【0062】
研磨加工後のガラス基板表面の凹凸に起因して得られる測定曲線から、隣り合う凸部(山部)と凸部との間の幅W、及び凸部と凹部(谷部)との高さSを算出した後、幅Wを横軸、高さSを縦軸とした散布図を作成した。得られた散布図から、一次式S=aWの近似直線を求め、傾きaを研磨加工後の最終の平坦度aとした。一般に、平坦性が高くなるほど幅Wが大きくなり高さSが小さくなるため、傾きaが小さいほど平坦性に優れることを示す。
【0063】
【表2】
【0064】
実施例1及び2では、比較例1及び2に比べて、被研磨物の被研磨面における平坦度aを向上できることが分かった。
【符号の説明】
【0065】
1…保持パッド
2…樹脂シート
3…発泡
4…スキン層
7…両面テープ
8…離型シート
P…保持面
B…基準点。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、研磨加工分野の被研磨物の保持パッドとして産業上の利用可能性を有する。
図1
図2