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特許7304198インジェクタ診断装置及びインジェクタ診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】インジェクタ診断装置及びインジェクタ診断方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D45/00 368Z
F02D45/00 372
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019086099
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020180605
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レ ティエンチエン
(72)【発明者】
【氏名】横山 尚
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 聡志
(72)【発明者】
【氏名】國岡 昭吾
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-150246(JP,A)
【文献】特開2005-120842(JP,A)
【文献】特開2001-221096(JP,A)
【文献】特開2020-002897(JP,A)
【文献】特開2001-123918(JP,A)
【文献】特開平10-318027(JP,A)
【文献】特開平06-137164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒エンジンに設けられて各気筒毎に等間隔で燃料を噴射するインジェクタの状態を診断するインジェクタ診断装置であって、
エンジンの気筒数及びエンジン回転数に関係する燃焼周波数成分を有する正常エンジン音モデルと、1次燃焼周波数と前記気筒数の比に関連するとともに、前記正常エンジン音モデルの燃焼周波数成分以外の異常周波数成分を有する異常エンジン音モデルと、をそれぞれ生成するエンジン音モデル生成部と、
稼動するエンジンの稼動音を取得する稼動音取得部と、
前記稼動音取得部で取得した稼動音の周波数特性を計算する周波数特性計算部と、
前記周波数特性計算部で計算した稼動音の周波数特性と前記エンジン音モデル生成部で生成した正常エンジン音モデルの燃焼周波数成分及び異常エンジン音モデルの異常周波数成分とに基づいて、前記稼動音取得部で取得したエンジンの稼動音の燃焼周波数成分の平均音圧レベル及び異常周波数成分の平均音圧レベルをそれぞれ計算し、計算した前記異常周波数成分の平均音圧レベルの前記燃焼周波数成分の平均音圧レベルに対する比を算出し、算出した前記比が予め設定された第1閾値よりも小さい場合にインジェクタの燃料噴射量に異常がないと診断し、算出した前記比が前記第1閾値以上である場合にインジェクタの燃料噴射量に異常があると診断するインジェクタ診断部と、
を備えることを特徴とするインジェクタ診断装置。
【請求項2】
前記インジェクタ診断部は、算出した前記比が前記第1閾値以上であって且つ前記第1閾値よりも大きい第2閾値と比較して前記第2閾値よりも小さい場合に、インジェクタの燃料噴射量が低下する故障の予兆を診断する請求項1に記載のインジェクタ診断装置。
【請求項3】
前記インジェクタ診断部によって診断した結果を出力する診断結果出力部を更に備える請求項1に記載のインジェクタ診断装置。
【請求項4】
前記稼動音取得部は、前記多気筒エンジンが搭載された建設機械に設けられ、
前記エンジン音モデル生成部、前記周波数特性計算部及び前記インジェクタ診断部は、前記建設機械と通信可能なサーバに設けられている請求項1に記載のインジェクタ診断装置。
【請求項5】
前記エンジン音モデル生成部、前記稼動音取得部、前記周波数特性計算部及び前記インジェクタ診断部は、携帯端末に設けられている請求項1に記載のインジェクタ診断装置。
【請求項6】
前記稼動音取得部は、携帯端末に設けられ、
前記エンジン音モデル生成部、前記周波数特性計算部及び前記インジェクタ診断部は、前記携帯端末と通信可能なサーバに設けられている請求項1に記載のインジェクタ診断装置。
【請求項7】
前記携帯端末は、スマートフォンである請求項5又は6に記載のインジェクタ診断装置。
【請求項8】
多気筒エンジンに設けられて各気筒毎に等間隔で燃料を噴射するインジェクタの状態を診断するインジェクタ診断方法であって、
エンジンの気筒数及びエンジン回転数に関係する燃焼周波数成分を有する正常エンジン音モデルと、1次燃焼周波数と前記気筒数の比に関連するとともに、前記正常エンジン音モデルの燃焼周波数成分以外の異常周波数成分を有する異常エンジン音モデルと、をそれぞれ生成するエンジン音モデル生成工程と、
稼動するエンジンの稼動音を取得し、取得した稼動音の周波数特性を計算する周波数特性計算工程と、
前記周波数特性計算工程で計算した稼動音の周波数特性と前記エンジン音モデル生成工程で生成した正常エンジン音モデルの燃焼周波数成分及び異常エンジン音モデルの異常周波数成分とに基づいて、取得したエンジンの稼動音の燃焼周波数成分の平均音圧レベル及び異常周波数成分の平均音圧レベルをそれぞれ計算し、計算した前記異常周波数成分の平均音圧レベルの前記燃焼周波数成分の平均音圧レベルに対する比を算出し、算出した前記比が予め設定された第1閾値よりも小さい場合にインジェクタの燃料噴射量に異常がないと診断し、算出した前記比が前記第1閾値以上である場合にインジェクタの燃料噴射量に異常があると診断するインジェクタ診断工程と、
を含むことを特徴とするインジェクタ診断方法。
【請求項9】
前記インジェクタ診断工程において、算出した前記比が前記第1閾値以上であって且つ前記第1閾値よりも大きい第2閾値と比較して前記第2閾値よりも小さい場合に、インジェクタの燃料噴射量が低下する故障の予兆を診断する請求項8に記載のインジェクタ診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒エンジンに設けられて各気筒毎に燃料を噴射するインジェクタの状態を診断するインジェクタ診断装置及びインジェクタ診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多気筒エンジンを備える建設機械などの車両には、エンジンの制御装置に、気筒に燃料を噴射するインジェクタの通電状態を監視することにより、断線や短絡などを検出可能な故障診断機能を備えるものがある。この故障診断機能では、インジェクタの電気的な故障は検出することができるが、固着や渋りなどによるインジェクタの機械的な故障を診断するのは難しい。このため、機械的な故障については、性能低下や白煙・黒煙等の明らかな異常状態が発生するまで気が付かないことが多いので、不具合が急に起きてしまう問題がある。このような不具合が急に起きると、建設機械のダウンタイムに繋がり、建設機械の安定稼動を妨げてしまう恐れがある。
【0003】
そこで、気筒毎に燃料噴射を意図的に停止させ、作業者の聴力でエンジンの稼動音の変化などに基づき機械的な故障を診断する方法が提案されている。しかし、この方法は、人間の聴音による感覚的なものであるため、作業者の豊富な経験や高度の知識などに依存するだけではなく、結果のばらつきも生じやすい問題がある。
【0004】
故障インジェクタを診断する従来技術として、特許文献1及び特許文献2には、それぞれ回転変動のうねりと指示燃料噴射量を測定して故障インジェクタを診断する方法が開示されている。しかしながら、これらの手法では手間がかかるので、インジェクタの機械的な故障の有無を簡単に診断できる方法が求められる。
【0005】
また、車両の故障を診断又は予測する従来技術として、特許文献3には所定の期間又は距離分の状態データを収集し、そのデータを用いて正常状態モデルを作成した後に、診断時の状態データと正常状態モデルとを比較することにより故障を診断する装置が開示されている。
【0006】
また、車両の故障診断のための基準値を生成する従来技術として、特許文献4には車両に蓄積されている不具合発生時等の走行データを利用して、正常運転時のデータを生成する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-122037号公報
【文献】特開2016-014375号公報
【文献】特開2009-146086号公報
【文献】特開2010-089760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これらの特許文献に記載の装置では、いずれも過去の関連データを収集や蓄積する必要があるので、インジェクタの機械的な故障の有無を簡単に診断できるとは言い難い。
【0009】
上述の事情に鑑みて、本発明は、インジェクタの機械的な故障の有無を簡単に検出することができるインジェクタ診断装置及びインジェクタ診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るインジェクタ診断装置は、多気筒エンジンに設けられて各気筒毎に等間隔で燃料を噴射するインジェクタの状態を診断するインジェクタ診断装置であって、エンジンの気筒数及びエンジン回転数に関係する燃焼周波数成分を有する正常エンジン音モデルと、1次燃焼周波数と前記気筒数の比に関連するとともに、前記正常エンジン音モデルの燃焼周波数成分以外の異常周波数成分を有する異常エンジン音モデルと、をそれぞれ生成するエンジン音モデル生成部と、動するエンジンの稼動音を取得する稼動音取得部と、前記稼動音取得部で取得した稼動音の周波数特性を計算する周波数特性計算部と、前記周波数特性計算部で計算した稼動音の周波数特性と前記エンジン音モデル生成部で生成した正常エンジン音モデルの燃焼周波数成分及び異常エンジン音モデルの異常周波数成分とに基づいて、前記稼動音取得部で取得したエンジンの稼動音の燃焼周波数成分の平均音圧レベル及び異常周波数成分の平均音圧レベルをそれぞれ計算し、計算した前記異常周波数成分の平均音圧レベルの前記燃焼周波数成分の平均音圧レベルに対する比を算出し、算出した前記比が予め設定された第1閾値よりも小さい場合にインジェクタの燃料噴射量に異常がないと診断し、算出した前記比が前記第1閾値以上である場合にインジェクタの燃料噴射量に異常があると診断するインジェクタ診断部と、を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明に係るインジェクタ診断装置では、インジェクタ診断部は、周波数特性計算部で計算した稼動音の周波数特性とエンジン音モデル生成部で生成した正常エンジン音モデルの燃焼周波数成分及び異常エンジン音モデルの異常周波数成分とに基づいて、稼動音取得部で取得したエンジンの稼動音の燃焼周波数成分の平均音圧レベル及び異常周波数成分の平均音圧レベルをそれぞれ計算し、計算した異常周波数成分の平均音圧レベルの燃焼周波数成分の平均音圧レベルに対する比を算出し、算出した比が予め設定された第1閾値よりも小さい場合にインジェクタの燃料噴射量に異常がないと診断し、算出した比が第1閾値以上である場合にインジェクタの燃料噴射量に異常があると診断する。このようにすれば、従来のように過去の関連データを収集や蓄積する必要がないので、インジェクタの機械的な故障の有無を簡単に診断することができる。
【0012】
本発明に係るインジェクタ診断方法は、多気筒エンジンに設けられて各気筒毎に等間隔で燃料を噴射するインジェクタの状態を診断するインジェクタ診断方法であって、エンジンの気筒数及びエンジン回転数に関係する燃焼周波数成分を有する正常エンジン音モデルと、1次燃焼周波数と前記気筒数の比に関連するとともに、前記正常エンジン音モデルの燃焼周波数成分以外の異常周波数成分を有する異常エンジン音モデルと、をそれぞれ生成するエンジン音モデル生成工程と、動するエンジンの稼動音を取得し、取得した稼動音の周波数特性を計算する周波数特性計算工程と、記周波数特性計算工程で計算した稼動音の周波数特性と前記エンジン音モデル生成工程で生成した正常エンジン音モデルの燃焼周波数成分及び異常エンジン音モデルの異常周波数成分とに基づいて、取得したエンジンの稼動音の燃焼周波数成分の平均音圧レベル及び異常周波数成分の平均音圧レベルをそれぞれ計算し、計算した前記異常周波数成分の平均音圧レベルの前記燃焼周波数成分の平均音圧レベルに対する比を算出し、算出した前記比が予め設定された第1閾値よりも小さい場合にインジェクタの燃料噴射量に異常がないと診断し、算出した前記比が前記第1閾値以上である場合にインジェクタの燃料噴射量に異常があると診断するインジェクタ診断工程と、を含むことを特徴としている。
【0013】
本発明に係るインジェクタ診断方法では、エンジン音モデル生成工程でエンジンの気筒数及びエンジン回転数に関係する燃焼周波数成分を有する正常エンジン音モデルと、1次燃焼周波数と気筒数の比に関連するとともに、正常エンジン音モデルの燃焼周波数成分以外の異常周波数成分を有する異常エンジン音モデルと、をそれぞれ生成し、周波数特性計算工程で稼動音の周波数特性を計算し、インジェクタ診断工程で、生成した正常エンジン音モデルの燃焼周波数成分及び異常エンジン音モデルの異常周波数成分とに基づいて、取得したエンジンの稼動音の燃焼周波数成分の平均音圧レベル及び異常周波数成分の平均音圧レベルをそれぞれ計算し、計算した異常周波数成分の平均音圧レベルの燃焼周波数成分の平均音圧レベルに対する比を算出し、算出した比が予め設定された第1閾値よりも小さい場合にインジェクタの燃料噴射量に異常がないと診断し、算出した比が第1閾値以上である場合にインジェクタの燃料噴射量に異常があると診断する。このようにすれば、従来のように過去の関連データを収集や蓄積する必要がないので、インジェクタの機械的な故障の有無を簡単に診断することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インジェクタの機械的な故障の有無を簡単に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るインジェクタ診断装置を示す概略構成図である。
図2】多気筒エンジンを示す概略構成図である。
図3】エンジン音モデル生成部によって生成されるエンジン音モデルの一例を示す模式図である。
図4】インジェクタ診断方法を説明するためのフローチャートである。
図5】スマートフォンによる操作を説明するための模式図である。
図6】スマートフォンによる操作を説明するための模式図である。
図7】第2実施形態に係るインジェクタ診断装置を示す概略構成図である。
図8】第3実施形態に係るインジェクタ診断装置を示す概略構成図である。
図9】第4実施形態に係るインジェクタ診断装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明に係るインジェクタ診断装置及びインジェクタ診断方法の実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、重複説明は省略する。
【0017】
[インジェクタ診断装置の第1実施形態]
図1は第1実施形態に係るインジェクタ診断装置を示す概略構成図であり、図2は多気筒エンジンを示す概略構成図である。本実施形態のインジェクタ診断装置1は、多気筒エンジン2に設けられた複数のインジェクタの状態を診断するための装置であり、より具体的には各インジェクタの機械的な故障の有無と、機械的な故障の予兆の有無とを診断する装置である。
【0018】
多気筒エンジン2は、例えば建設機械に搭載されており、例えば直列に配置された4つの気筒(第1気筒25、第2気筒26、第3気筒27及び第4気筒28)と、各気筒の内部に燃料を噴射するインジェクタ(第1インジェクタ21、第2インジェクタ22、第3インジェクタ23及び第4インジェクタ24)と、各インジェクタの燃料噴射を制御する燃料制御装置20と、を備えている。
【0019】
燃料制御装置20は、例えば、演算を実行するCPU(Central processing unit)と、演算のためのプログラムを記録した二次記憶装置としてのROM(Read only memory)と、演算経過の保存や一時的な制御変数を保存する一時記憶装置としてのRAM(Random access memory)とを組み合わせてなるマイクロコンピュータにより構成されており、記憶されたプログラムの実行によって各インジェクタの燃料噴射を制御する。例えば、この燃料制御装置20は、エンジン負荷等に応じて指示燃料噴射量を算出し、算出した指示燃料噴射量になるように各インジェクタの動作を制御する。
【0020】
正常時において、インジェクタは、燃料制御装置20に指示された指示燃料噴射量で燃料の噴射を行うが、例えば機械的な故障が生じた場合、上述の指示燃料噴射量と異なった量で燃料を噴射することになる。これに起因してエンジンの稼動音が変化する。本実施形態のインジェクタ診断装置1は、この稼動音の変化に着目し、稼動音の変化に基づいてインジェクタの機械的な故障の有無を診断し、インジェクタの機械的な故障がない場合に更に機械的な故障の予兆の有無を診断する。
【0021】
インジェクタ診断装置1は、スマートフォン、タブレット端末、携帯電話、PDA(Personal Data Assistant)などの携帯端末に設けられている。以下の説明では、インジェクタ診断装置1がスマートフォン10に設けられる例を挙げるが、タブレット端末、携帯電話、PDAなどの携帯端末に設けられても良い。
【0022】
図1に示すように、インジェクタ診断装置1は、エンジン情報入力部11と、稼動音取得部12と、周波数特性計算部13と、エンジン音モデル生成部14と、インジェクタ診断部15と、診断結果出力部16とを備えている。
【0023】
エンジン情報入力部11は、エンジンの気筒数とエンジンの燃焼パターンとを入力できるように形成されている。例えば、等間隔で燃焼する多気筒エンジンの場合、多気筒エンジン2の種類(機種ともいう)によってエンジンの回転数が決められる。そして、ローアイドルモードの稼動条件を診断条件として決定すれば、作業者がスマートフォン10の画面にて多気筒エンジン2の機種を選択することで、エンジンの気筒数とエンジンの燃焼パターンを取得することができる。ここで、エンジンの燃焼パターンは、エンジンの爆発間隔のことを意味しており、エンジンの回転数によって定められる。なお、エンジンの気筒数とエンジンの燃焼パターンの取得方法として、上述した内容のほか、例えばスマートフォン10がBluetooth(登録商標)やWi-Fiなどを介し、多気筒エンジン2が搭載された建設機械との通信を通じて行われても良い。
【0024】
稼動音取得部12は、例えばスマートフォン10に内蔵されたマイクであり、入力したエンジンの燃焼パターンで稼動している多気筒エンジン2の稼動音を一定時間(例えば15秒)で録音する。この稼動音取得部12は、周波数特性計算部13と電気的に接続され、取得した稼動音を周波数特性計算部13に出力する。なお、録音位置は特に限定されないが、できるだけ多気筒エンジン2に近い場所が好ましい。
【0025】
周波数特性計算部13は、例えば、高速フーリエ変換(FFT)を用いて稼動音取得部12から出力された稼動音の周波数特性を計算する。計算した稼動音の周波数特性の中には、エンジンの稼動音のほか、雑音(いわゆるノイズ)も含まれている。この周波数特性計算部13は、インジェクタ診断部15と電気的に接続され、計算した稼動音の周波数特性をインジェクタ診断部15に出力する。
【0026】
エンジン音モデル生成部14は、エンジン情報入力部11から得たエンジンの気筒数及びエンジンの燃焼パターンに基づいて、正常エンジン音モデル及び異常エンジン音モデルをそれぞれ生成する。例えば、このエンジン音モデル生成部は、エンジンの気筒数及びエンジンの燃焼パターンに関係する燃焼周波数成分と、1次燃焼周波数と気筒数の比に関係する異常エンジン音モデルにしか現れない異常周波数成分とを生成する。
【0027】
図3はエンジン音モデル生成部によって生成されるエンジン音モデルの一例を示す模式図であり、図3(a)は正常エンジン音モデルの一例であり、図3(b)は異常エンジン音モデルの一例である。図3は4ストローク/1サイクルのエンジンの例を示しており、周波数fは1次燃焼周波数のことであり、下記式(1)に基づいて求められる。周波数f1は異常エンジン音モデルにしか現れない異常周波数のことであり、下記式(2)に基づいて求められる。
【0028】
図3(a)と図3(b)とを比較して分かるように、異常エンジン音モデルでは、正常エンジン音モデルに存在する燃焼周波数以外の周波数成分(すなわち、異常周波数)も所定の箇所に出ている。すなわち、異常周波数は異常エンジン音モデルにしか現れない。なお、この異常周波数は後述する特定の周波数のことである。なお、図3(b)中の符号Kは気筒数のことである。
【0029】
エンジン音モデル生成部14は、インジェクタ診断部15と電気的に接続され、生成した正常エンジン音モデル及び異常エンジン音モデルをインジェクタ診断部15に出力する。
【0030】
インジェクタ診断部15は、周波数特性計算部13で計算した稼動音の周波数特性とエンジン音モデル生成部14で生成した正常エンジン音モデル及び異常エンジン音モデルに基づいて、インジェクタの機械的な故障の有無を診断する。より具体的には、インジェクタ診断部15は、周波数特性計算部13で計算した稼動音の周波数特性とエンジン音モデル生成部14で生成した正常エンジン音モデル及び異常エンジン音モデルに基づいて、燃焼周波数成分と特定の周波数(すなわち、上述の異常周波数)成分をそれぞれ検出し、更に特定の周波数成分の音圧レベルと燃焼周波数成分の音圧レベルとの比較を行うことで、インジェクタの機械的な故障の有無を診断する。以下、例を挙げて詳細に説明する。
【0031】
まず、インジェクタ診断部15は、周波数特性計算部13で計算した稼動音の周波数特性とエンジン音モデル生成部14で生成した正常エンジン音モデル及び異常エンジン音モデルに基づいて、例えば1次燃焼周波数成分付近の音圧レベルと、2次燃焼周波数成分付近の音圧レベルと、1次燃焼周波数と2次燃焼周波数との間にある1次燃焼周波数と気筒数の比の周波数の整数倍成分付近における音圧レベルと、雑音の音圧レベルと、をそれぞれ検出する。なお、1次燃焼周波数と2次燃焼周波数との間にある1次燃焼周波数と気筒数の比の周波数の整数倍成分付近における音圧レベルは、上述した特定の周波数成分の音圧レベルの一例である。
【0032】
次に、インジェクタ診断部15は、例えば検出した1次燃焼周波数成分付近の音圧レベル及び2次燃焼周波数成分付近の音圧レベルに基づいて、1次と2次燃焼周波数成分の平均音圧レベルを計算し、その計算した結果を上述した雑音の音圧レベルと比較する。そして、雑音の音圧レベルと比べて1次と2次燃焼周波数成分の平均音圧レベルが十分高くないと判定した場合、多気筒エンジン2が診断対象ではない或いは録音条件が間違いであると判定する。
【0033】
一方、雑音の平均音圧レベルと比べて1次と2次燃焼周波数成分の平均音圧レベルが十分高い場合、インジェクタ診断部15は、1次燃焼周波数と2次燃焼周波数との間にある1次燃焼周波数と気筒数の比の周波数の整数倍成分付近における音圧レベルと、1次と2次燃焼周波数成分の平均音圧レベルとの比を算出し、算出した比を用いてインジェクタの状態を診断する。
【0034】
例えば、1次燃焼周波数と2次燃焼周波数との間にある1次燃焼周波数と気筒数の比の周波数の整数倍成分付近における平均音圧レベルと、1次と2次燃焼周波数成分の平均音圧レベルとの比が、予め設定された第1閾値よりも小さい場合、インジェクタ診断部15は、インジェクタの機械的な故障がない(すなわち、異常なし)と診断する。一方、上述の比が第1閾値以上であって且つ予め設定された第2閾値よりも小さい場合、インジェクタ診断部15は、インジェクタの燃料噴射量に異常があり、すなわちインジェクタの機械的な故障の予兆があると診断する。そして、上述の比が第1閾値以上であって且つ第2閾値以上である場合、インジェクタ診断部15は、インジェクタの機械的な故障がある(すなわち、故障インジェクタあり)と診断する。なお、ここでの第2閾値は第1閾値よりも大きい。
【0035】
診断結果出力部16は、インジェクタ診断部15と電気的に接続され、インジェクタ診断部15から診断結果を受信して作業者等に知らせる。例えば、診断結果出力部16は、インジェクタの機械的な故障の有無、機械的な故障の予兆の有無等の情報をスマートフォン10の表示画面に表示することにより、作業者等に知らせる。また、診断結果の情報は、スマートフォン10の表示画面に表示するとともに、後述するサーバに送信しても良い。
【0036】
本実施形態に係るインジェクタ診断装置1では、インジェクタ診断部15は、周波数特性計算部13で計算した稼動音の周波数特性とエンジン音モデル生成部14で生成した正常エンジン音モデル及び異常エンジン音モデルに基づき、インジェクタの機械的な故障の有無を診断する。このようにすれば、従来のように過去の関連データを収集や蓄積する必要がないので、インジェクタの機械的な故障の有無を簡単に診断することができる。
【0037】
そして、インジェクタ診断部15は、周波数特性計算部13で計算した稼動音の周波数特性とエンジン音モデル生成部14で生成した正常エンジン音モデル及び異常エンジン音モデルに基づいて燃焼周波数成分と異常エンジン音モデルにしか現れない特定の周波数成分とをそれぞれ検出し、検出した特定の周波数成分の音圧レベルと燃焼周波数成分の音圧レベルとの比較を行うことにより、インジェクタの機械的な故障の有無を容易に診断することができる。
【0038】
しかも、このように特定の周波数成分に着目することで、ノイズの影響を受けにくくなるので、雑音環境下でも精度良く診断することが可能になる。
【0039】
また、インジェクタの機械的な故障がないと診断した場合、インジェクタ診断部15は、更に特定の周波数成分の音圧レベルと燃焼周波数成分の音圧レベルとの比を第1閾値よりも大きい第2閾値と比較することにより、インジェクタの機械的な故障の予兆の有無を診断することできる。これによって、インジェクタの機械的な故障の有無のみならず、インジェクタの機械的な故障の予兆の有無も診断することが可能になる。
【0040】
更に、インジェクタ診断装置1は、携帯しやすいスマートフォンに設けられるので、現場でインジェクタの状態を手軽に且つ簡単で診断することができる。
【0041】
[インジェクタ診断方法について]
以下、図4図6を参照してインジェクタ診断装置1を用いたインジェクタ診断方法を説明する。図4はインジェクタ診断方法を説明するためのフローチャートであり、図5及び図6はスマートフォンによる操作を説明するための模式図である。
【0042】
本実施形態に係るインジェクタ診断方法は、エンジンの気筒数及びエンジンの燃焼パターンに基づき、正常エンジン音モデル及び異常エンジン音モデルをそれぞれ生成するエンジン音モデル生成工程と、前記燃焼パターンで稼動するエンジンの稼動音を取得し、取得した稼動音の周波数特性を計算する周波数特性計算工程と、エンジン音モデル生成工程で生成した正常エンジン音モデル及び異常エンジン音モデルと周波数特性計算工程で計算した稼動音の周波数特性に基づき、インジェクタの機械的な故障の有無を診断するインジェクタ診断工程と、を含む。なお、このインジェクタ診断方法は、例えば多気筒エンジン2のローアイドル(エンジンの最低回転速度)時に実施される。
【0043】
具体的には、まず、作業者は、スマートフォン10にインストールされたインジェクタ診断装置1のアプリケーションソフトを選択し、インジェクタ診断装置1の準備を行う(図5(a)参照)。
【0044】
次に、図4に示すステップS101に示すように、作業者は診断対象である多気筒エンジン2の機種を選択する(図5(b)参照)。機種が選択されると、エンジン情報入力部11は、選択された機種に関するエンジンの気筒数とエンジンの燃焼パターンを取得することができる。
【0045】
ステップS101に続くステップS102では、エンジン音モデル生成部14は、エンジン情報入力部11で取得したエンジンの気筒数とエンジンの燃焼パターンに基づいて、正常エンジン音モデル及び異常エンジン音モデルをそれぞれ生成する(図3参照)。
【0046】
なお、このステップS102は、特許請求の範囲に記載の「エンジン音モデル生成工程」に対応するものである。
【0047】
ステップ102に続くステップS103では、稼動音の取得が行われる。具体的には、作業者は、スマートフォン10の画面に表示された指示に従い(図5(c)参照)、定められた録音位置までスマートフォン10を建設機械の多気筒エンジン2に接近させ(図6(a)参照)、スマートフォン10に内蔵されたマイク(すなわち、稼動音取得部12)で多気筒エンジン2の稼動音を一定時間(例えば15秒程度)録音する(図6(b)参照)。
【0048】
ステップS103に続くステップS104では、周波数特性計算部13は、ステップS103で取得した稼動音に基づき、例えば高速フーリエ変換(FFT)で稼動音の周波数特性を計算する。その際に、雑音の影響を抑制するために、周波数特性計算部13は、15秒程度の稼動音を例えば3秒程度のフレームを、例えば半分ずつずらして、FFTを計算して加算平均を行う。
【0049】
なお、ステップS103及びステップS104は、特許請求の範囲に記載の「周波数特性計算工程」に対応するものである。
【0050】
ステップS104に続くステップS105では、インジェクタ診断部15は、まず、周波数特性計算部13で計算した周波数特性とエンジン音モデル生成部14で生成した正常エンジン音モデル又は異常エンジン音モデルに基づいて、稼動音の燃焼周波数を検出する。
【0051】
より具体的には、インジェクタ診断部15は、エンジン音モデル生成部14で生成した例えば正常エンジン音モデルに基づいて稼動音の1次燃焼周波数の理論値を検出し、更に検出した1次燃焼周波数の理論値を基に、ある許容範囲内(例えば2Hzなど)にある音圧レベルが一番高いピーク値を稼動音の1次燃焼周波数の実際値として検出する。この場合、取得した稼動音のN次燃焼周波数は1次燃焼周波数の実際値のN倍になる。
【0052】
ステップS105に続くステップS106では、インジェクタ診断部15は、ステップS105で検出した稼動音の燃焼周波数の実際値に基づいて燃焼周波数成分の平均音圧レベルを更に計算し、計算した燃焼周波数成分の平均音圧レベルが高いか否かを判定する。
【0053】
より具体的には、例えば検出した稼動音の1次燃焼周波数の実際値、2次燃焼周波数の実際値及び3次燃焼周波数の実際値を用いて、1次燃焼周波数から3次燃焼周波数までの成分の平均音圧レベルを計算し、計算した燃焼周波数成分の平均音圧レベルを雑音の音圧レベルと比較する。
【0054】
そして、燃焼周波数成分の平均音圧レベルが雑音の音圧レベルよりも高くないと判定した場合、インジェクタ診断部15は、多気筒エンジン2が診断対象ではない、あるいは診断対象である多気筒エンジン2が稼動している燃焼パターンが想定した燃焼パターンではないものとして、その診断結果を診断結果出力部16に送信する(ステップS107参照)。「診断対象ではない」例として、例えばステップS101で作業者が多気筒エンジン2の機種を選択する際に選択ミスがあったことが挙げられる。「多気筒エンジン2が稼動している燃焼パターンが想定した燃焼パターンではない」例として、例えば作業者のミスによって作動モードが想定したローアイドルではなく、ハイアイドルで設定されたことが挙げられる。
【0055】
一方で、燃焼周波数成分の平均音圧レベルが雑音の音圧レベルよりも高いと判定した場合、インジェクタ診断部15は、エンジン音モデル生成部14で生成した異常エンジン音モデルに現れる異常周波数成分を検出する(ステップS108参照)。
【0056】
より具体的には、インジェクタ診断部15は、周波数特性計算部13で計算した稼動音の周波数特性とエンジン音モデル生成部14で生成した異常エンジン音モデルとを比較し、異常エンジン音モデルに存在する特定の周波数(すなわち、異常周波数)成分に基づいて、ある許容範囲内(例えば1Hzなど)に存在する音圧レベルが一番高いピーク値を検出する。更に、インジェクタ診断部15は、検出した一番高いピーク値の平均レベルを求め、求めた結果を異常周波数成分の平均音圧レベルとする。
【0057】
ステップS108に続くステップS109では、インジェクタ診断部15は、燃焼周波数成分の平均音圧レベルと、ステップS108で求めた異常周波数成分の平均音圧レベルとの比較を行う。
【0058】
より具体的には、インジェクタ診断部15は、異常周波数成分の平均音圧レベルと燃焼周波数成分の平均音圧レベルとの比を算出し、算出した比を予め設定された第1閾値と比較する。そして、上述算出した比が第1閾値よりも小さい場合、インジェクタ診断部15はインジェクタの機械的な故障がない(すなわち、異常なし)と診断する(ステップS110参照)。
【0059】
一方、上述算出した比が第1閾値以上であった場合、インジェクタ診断部15は、更に上述算出した比を予め設定された第2閾値と比較する(ステップS111参照)。ここでの第2閾値は第1閾値よりも大きい。そして、上述算出した比が第2閾値よりも小さい場合、インジェクタ診断部15は、インジェクタ噴射量が少なくなっており、インジェクタの燃料噴射量に異常がある(すなわち、インジェクタの機械的な故障の予兆がある)と診断する(ステップS112参照)。一方、上述算出した比が第2閾値以上である場合、インジェクタ診断部15は、インジェクタ噴射量が大きく低下しており、インジェクタの機械的な故障があると診断する(ステップS113参照)。
【0060】
なお、ステップS105~ステップS113は、特許請求の範囲に記載の「インジェクタ診断工程」に対応するものである。
【0061】
本実施形態に係るインジェクタ診断方法では、エンジン音モデル生成工程で正常エンジン音モデル及び異常エンジン音モデルをそれぞれ生成し、周波数特性計算工程で稼動音の周波数特性を計算し、インジェクタ診断工程で正常エンジン音モデル及び異常エンジン音モデルと稼動音の周波数特性に基づいてインジェクタの機械的な故障を診断する。このようにすれば、従来のように過去の関連データを収集や蓄積する必要がないので、インジェクタの機械的な故障の有無を簡単に診断することができる。
【0062】
また、インジェクタ診断工程において、特定の周波数成分の音圧レベルと燃焼周波数成分の音圧レベルとの比を第1閾値よりも大きい第2閾値と比較することにより、インジェクタの機械的な故障の予兆の有無を更に診断することできる。これによって、インジェクタの機械的な故障の有無のみならず、インジェクタの機械的な故障の予兆の有無も診断することができる。
【0063】
しかも、インジェクタの機械的な故障の有無を診断する際に特定の周波数成分に着目することにより、ノイズの影響を受けにくくなるので、雑音環境下でも精度良く診断することができる。
【0064】
更に、本実施形態のインジェクタ診断方法は、多気筒エンジン2のローアイドル時に実施されるので、多気筒エンジン2の最低回転速度にしてから診断することで、燃料リークや渋りなどが起因するインジェクタの初期不具合の発見に繋がるので、タイムリーに顧客に修理の提案が可能になる。
【0065】
なお、本実施形態のインジェクタ診断方法では、上述したステップS111及びステップS112を省いても良い。すなわち、本実施形態のインジェクタ診断方法は、インジェクタの機械的な故障の予兆の有無を診断せずに、インジェクタの機械的な故障の有無だけを診断しても良い。
【0066】
また、上述したエンジン音モデル生成ステップS102は、気筒数と燃焼パターン取得ステップS101と燃焼周波数検出ステップS105との間であれば良く、稼動音取得ステップS103及び周波数特性計算ステップS104との位置を入れ替えても良い。
【0067】
[インジェクタ診断装置の第2実施形態]
図7は第2実施形態に係るインジェクタ診断装置を示す概略構成図である。本実施形態のインジェクタ診断装置1Aは、周波数特性計算部13、エンジン音モデル生成部14、インジェクタ診断部15及び診断結果出力部16がサーバ30に設けられる点において上述の第1実施形態と異なるが、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0068】
図7に示すように、本実施形態のインジェクタ診断装置1Aでは、エンジン情報入力部11と稼動音取得部12はスマートフォン10に設けられているが、周波数特性計算部13、エンジン音モデル生成部14、インジェクタ診断部15及び診断結果出力部16はサーバ30に設けられている。サーバ30は、例えば管理センターに配置され、スマートフォン10との間で通信可能に構成されている。
【0069】
このような構造を有するインジェクタ診断装置1Aでは、エンジン情報入力部11は入力されたエンジンの気筒数及びエンジンの燃焼パターンをサーバ30に設けられたエンジン音モデル生成部14に、稼動音取得部12は取得した稼動音をサーバ30に設けられた周波数特性計算部13にそれぞれ送信する。診断結果出力部16は、例えば診断結果をスマートフォン10又は/及び多気筒エンジン2が搭載される建設機械に更に送信できるように構成されている。このようにすれば、スマートフォン10又は/及び建設機械側でも診断結果を容易に確認することができる。
【0070】
本実施形態のインジェクタ診断装置1Aによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られるほか、周波数特性計算部13、エンジン音モデル生成部14、インジェクタ診断部15及び診断結果出力部16がサーバ30に設けられるので、第1実施形態のインジェクタ診断装置1と比べて診断を処理する速度が速くなる。
【0071】
なお、インジェクタ診断装置1Aを用いたインジェクタ診断方法は、上述の第1実施形態で述べた内容と同様であるので、重複説明を省略する。
【0072】
[インジェクタ診断装置の第3実施形態]
図8は第3実施形態に係るインジェクタ診断装置を示す概略構成図である。本実施形態のインジェクタ診断装置1Bは、スマートフォンを用いず、エンジン情報入力部11、稼動音取得部12、周波数特性計算部13、エンジン音モデル生成部14、インジェクタ診断部15及び診断結果出力部16が全て多気筒エンジン2のエンジン制御部40に設けられる点において上述の第1実施形態と異なるが、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0073】
エンジン制御部40は、例えば、演算を実行するCPU(Central processing unit)と、演算のためのプログラムを記録した二次記憶装置としてのROM(Read only memory)と、演算経過の保存や一時的な制御変数を保存する一時記憶装置としてのRAM(Random access memory)とを組み合わせてなるマイクロコンピュータにより構成されており、記憶されたプログラムの実行によって多気筒エンジン2全体の制御を行う。
【0074】
本実施形態のエンジン情報入力部11は、診断開始時に、エンジンの気筒数及びエンジンの燃焼パターンを多気筒エンジン2から直接に取得し、取得した結果をエンジン音モデル生成部14に送信する。
【0075】
本実施形態の稼動音取得部12は、エンジン制御部40の指令に従って、例えばエンジンルームに配置されたマイクを使って稼動音を録音するように設定されている。
【0076】
本実施形態のインジェクタ診断装置1Bによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られるほか、エンジン情報入力部11、稼動音取得部12、周波数特性計算部13、エンジン音モデル生成部14、インジェクタ診断部15及び診断結果出力部16が多気筒エンジン2の内部に設けられるので、現場に行かなくてもインジェクタの機械的な故障の有無、インジェクタの機械的な故障の予兆の有無を容易に診断できるだけではなく、診断対象の様々な稼動条件で診断することが可能である。
【0077】
そして、インジェクタ診断装置1Bを用いたインジェクタ診断方法は、例えば予め設定された条件(例えば1回/500時間、エンジン回転数が最低回転数になった場合等)で自動的に実施されるようになっている。例えば、多気筒エンジン2が500時間稼動すると、エンジン制御部40はインジェクタ診断装置1Bを作動させて、インジェクタの機械的な故障の有無の診断、機械的な故障の予兆の有無の診断を実施させる。なお、インジェクタ診断方法に関する具体的な処理は、スマートフォンを使用しない点を除き、上述の第1実施形態で述べた内容と同様であるので、重複説明を省略する。
【0078】
[インジェクタ診断装置の第4実施形態]
図9は第4実施形態に係るインジェクタ診断装置を示す概略構成図である。本実施形態のインジェクタ診断装置1Cは、エンジン情報入力部11及び稼動音取得部12が多気筒エンジン2のエンジン制御部40に、周波数特性計算部13、エンジン音モデル生成部14、インジェクタ診断部15及び診断結果出力部16がサーバ30に設けられる点において上述の第1実施形態と異なるが、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0079】
図9に示すように、本実施形態のインジェクタ診断装置1Cでは、エンジン情報入力部11と稼動音取得部12は多気筒エンジン2のエンジン制御部40に設けられているが、周波数特性計算部13、エンジン音モデル生成部14、インジェクタ診断部15と診断結果出力部16はサーバ30に設けられている。サーバ30は、例えば管理センターに配置され、多気筒エンジン2との間で通信可能に構成されている。
【0080】
このような構造を有するインジェクタ診断装置1Cでは、エンジン情報入力部11は入力されたエンジンの気筒数及びエンジンの燃焼パターンをサーバ30に設けられたエンジン音モデル生成部14に、稼動音取得部12は取得した稼動音をサーバ30に設けられた周波数特性計算部13に送信する。診断結果出力部16は、例えば診断結果を多気筒エンジン2が搭載される建設機械に更に送信できるように構成されている。このようにすれば、建設機械側でも診断結果を容易に確認することができる。
【0081】
本実施形態のインジェクタ診断装置1Cによれば、上述の第3実施形態と同様な作用効果を得られるほか、周波数特性計算部13、エンジン音モデル生成部14、インジェクタ診断部15及び診断結果出力部16がサーバ30に設けられるので、第3実施形態のインジェクタ診断装置1Bと比べて診断を処理する速度が速くなる。
【0082】
なお、インジェクタ診断装置1Cを用いたインジェクタ診断方法は、スマートフォンを使用しない点を除き、上述の第1実施形態で述べた内容と同様であるので、重複説明を省略する。
【0083】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0084】
1,1A,1B,1C インジェクタ診断装置
2 多気筒エンジン
10 スマートフォン
11 エンジン情報入力部
12 稼動音取得部
13 周波数特性計算部
14 エンジン音モデル生成部
15 インジェクタ診断部15
16 診断結果出力部
20 燃料制御装置
21 第1インジェクタ
22 第2インジェクタ
23 第3インジェクタ
24 第4インジェクタ
25 第1気筒
26 第2気筒
27 第3気筒
28 第4気筒
30 サーバ
40 エンジン制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9