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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】超音波撮像装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/08 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
A61B8/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019137933
(22)【出願日】2019-07-26
(65)【公開番号】P2021019813
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 秀樹
【審査官】佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/096556(WO,A1)
【文献】特開2015-198710(JP,A)
【文献】国際公開第2007/063619(WO,A1)
【文献】特開2006-055493(JP,A)
【文献】特開2015-186491(JP,A)
【文献】特開2019-088672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に超音波を送信し、当該送信により前記被検体から到来した超音波を受信したプローブから、受信信号を受け取って、前記受信信号を処理することにより、前記被検体内の所定の撮像範囲に少なくとも2次元に設定された複数の点について、移動量と移動方向を示す移動ベクトルを算出し、移動ベクトル分布を求める移動ベクトル分布算出部と、
前記受信信号から前記被検体の前記撮像範囲についてBモード画像を生成する画像構成部と、
前記移動ベクトル分布に含まれる血流ベクトル、拍動または呼吸または消化器の蠕動による組織の移動ベクトル(以下、組織移動ベクトルと呼ぶ)、および、被検体を伝搬する弾性波による組織の移動ベクトル(以下、弾性波ベクトルと呼ぶ)のうち所望の1つ以上抽出する分離フィルタとを備え
前記移動ベクトル分布算出部は、時系列に前記移動ベクトル分布を算出し、
前記分離フィルタは、移動ベクトル分離フィルタと、輝度分離フィルタとを含み、
前記移動ベクトル分離フィルタは、前記移動ベクトル分布の前記複数の点について、前記移動ベクトルの振幅値の時間変動の周波数と、前記移動ベクトルの振幅値の時間変動の固有値のランクとを解析し、
前記輝度分離フィルタは、前記複数の点の前記Bモード画像の輝度に基づいて、前記Bモード画像から、輝度が大きい高輝度領域と、前記高輝度領域より輝度が小さい低輝度領域を抽出し、
前記分離フィルタは、
前記移動ベクトル分布から前記弾性波ベクトルを抽出する場合、前記移動ベクトル分離フィルタの算出した前記周波数が所定値より大きい高周波数であり、かつ、前記輝度分離フィルタが抽出した前記高輝度領域内の前記点の移動ベクトルを抽出し、
前記移動ベクトル分布から前記血流ベクトルを抽出する場合、前記移動ベクトル分離フィルタの算出した前記固有値のランクが予め定めた高ランクである前記点の移動ベクトルを抽出し、
前記移動ベクトル分布から前記組織移動ベクトルを抽出する場合、前記移動ベクトル分離フィルタの算出した前記周波数が所定値より小さい低周波数であって、前記固有値のランクが予め定めた低ランクであり、かつ、前記輝度分離フィルタが抽出した前記高輝度領域内の前記点の移動ベクトルを抽出する
ことを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、
前記分離フィルタは、前記血流ベクトルを抽出する場合、前記移動ベクトル分離フィルタの算出した前記固有値のランクが予め定めた高ランクであることに加えて、前記輝度分離フィルタが抽出した前記低輝度領域内の前記点の移動ベクトルを抽出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波撮像装置であって、
前記分離フィルタは、前記血流ベクトルを抽出する場合、前記移動ベクトル分離フィルタの算出した前記固有値のランクが予め定めた高ランクであり、かつ、前記周波数が所定の帯域であり、かつ、前記輝度分離フィルタが抽出した前記低輝度領域内の前記点の移動ベクトルを抽出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、
前記分離フィルタは、前記弾性波ベクトルを抽出する際に、前記移動ベクトル分離フィルタの算出した前記周波数が、前記高周波数であることに加えて、前記固有値のランクが予め定めた高ランクであり、かつ、前記輝度分離フィルタが抽出した前記高輝度領域内の前記点の移動ベクトルを抽出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、前記移動ベクトル分布算出部は、前記受信信号のドプラ効果によりシフトした周波数を検出することにより、前記移動量を算出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項6】
請求項に記載の超音波撮像装置であって、前記移動ベクトル分布算出部は、複数の方向から超音波を被検体に送信してそれぞれ得られた前記受信信号を処理して、前記複数の方向についてそれぞれ移動量を算出し、算出した複数の方向についての移動量を合成することにより、前記移動ベクトルを求めることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波撮像装置であって、前記分離フィルタは、抽出した前記移動ベクトの分布に基づいて、予め定めた評価指標を算出し、表示装置にそれぞれ表示させることを特徴とする超音波撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波受信信号の処理方法に係り、生体内部における組織等の移動を組織の種類や移動の発生要因ごとに計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波撮像装置やMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、X線CT(Computed Tomography)装置に代表される医療用の画像表示装置は、目視できない生体内の情報を数値または画像の形態で提示する装置として広く利用されている。特に、超音波撮像装置は、他の画像表示装置と比較して高い時間分解能を備えており、拍動下の心臓を滲みなく画像化できる。また、超音波撮像装置は、生体内組織の形態情報を画像化するのみならず、高い時間分解能を活用して組織性状を計測できる。例えば、血流の流速や組織の弾性率を計測することができ、これらの質的情報を医師に提供することにより、医師の診断精度の向上に貢献している。
【0003】
さらに近年、超音波の送信回数を減らしつつ、1kHzから10kHzの時間分解能でデータ収集を行なう技術が注目を集め、この技術を活用した臨床検査機能の開発も進められている。時間分解能の向上は、被検体の組織移動の計測や血流計測において、速度レンジの拡大を図ることができ、また精度を向上させることができるという点で有利に働く。例えば非特許文献1に記載の技術は、高速送受信で得た超音波信号を利用して、液体内に浮遊する反射体の動きを計測する方法であり、これにより心臓内の血液の流れを映像化する。
【0004】
一方、特許文献1に記載の技術は、超音波画像の心尖から弁輪に係る心筋壁沿いに複数の計測点を設定し、時系列な複数の超音波画像上で計測点の動きを追跡することにより、心拍動に伴う計測点の動きを追跡する。
【0005】
また、非特許文献2には、被検体に複数の方向から平面波の超音波を送受信し、ドプラ効果によりシフトした周波数を複数の方向について求めることにより、被検体内の各点の血流ベクトルを高い時間分解能で得て、血流ベクトルを映像化する技術が開示されている。この映像により、血管の狭窄部位で高速化する流れ、またはその下流で発生する渦を視覚的に確認できる。非特許文献2に記載の技術は、送信と受信の角度の組み合わせ毎にベクトル場を形成することにより、ばらつきが少ない安定したベクトル場の生成方法を提供している点で、非特許文献1、および特許文献1の技術とは異なる。
【0006】
また、特許文献2には、外部圧迫等により生体内に圧力を加えながら超音波画像を2フレーム以上撮像し、フレーム間の相互相関演算により被検体内の変位を求めることにより、生体の歪(ストレイン)を推定する技術が開示されている。また、特許文献3には、生体内にせん断波を発生させた後、互いに異なる2方向にて超音波の送受信を行い、伝搬するせん断波速度を計測して生体の弾性率を推定する技術が開示されている。
【0007】
また、従来、超音波撮像装置において、ドプラ効果によりシフトした周波数から血流速を計測する場合、組織移動による速度と、血流速とを分離するために、受信信号を周波数帯域によって分離処理することが行われている。具体的には、受信時刻の異なる2つの受信信号について自己相関演算を行って求めたドプラシフトした周波数には、低周波数帯域に組織移動によりシフトした周波数が現れ、高周波数帯域に血流によりシフトした周波数が現れることが知られている。そこで、低周波帯域除去の効果を持つフィルタで処理することにより、血流によるシフト周波数成分のみが抽出されている。
【0008】
しかしながら、血流が低速の場合には、組織移動と低速の血流のシフト周波数帯域が被るため、この方法では抽出できない。そこで非特許文献3には、固有値を利用してシフト周波数に含まれる血流信号を分離する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5753798号公報
【文献】特許第5411699号公報
【文献】特開2013-544615号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】J. Voorneveld, A. Muralidharan, T. Hope, H. J. Vos, P. Kruizinga, A. F. W. van der Steen, F. J. H. Gijsen, S. Kenjeres, N. de Jong, and J. G. Bosch: IEEE Trans. Ultrason. Ferro. Freq. Contl., Vol.65, No.12 (2018)
【文献】B. Y. S. Yiu, S. S. M. Lai, and A. C. H. Yu: Ultrasound in Med. & Biol., vol.40, No.9 (2014)
【文献】A. C. H. Yu, and L. Lovstakken: IEEE Trans. Ultrason. Ferro. Freq. Contl., Vol.57, No.5 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、超音波撮像装置を利用して得られる情報としては、形態情報のみならず、血流ベクトルや弾性率などの質的情報もあり、多岐に渡る。しかしながら、これら複数の情報を得るためには、情報ごとに術者が撮像装置を操作して異なる方法で超音波撮像を行わなければならず、時間がかかり検査効率が悪い。例えば、生体内にせん断波を伝搬させて被検体内の変位を計測する場合には、特許文献3のように超音波画像を2フレーム以上撮像し、フレーム間の相互相関演算により被検体内の変位を求めるが、血流ベクトルを計測するためには、非特許文献2や3のように、超音波受信信号のドプラ周波数を求める必要がある。また、血流ベクトルの計測において、時間分解能を向上させるためには、非特許文献3の方法のように、計測する空間範囲を限定する必要があり、血流以外の周囲の情報を計測することは困難である。
【0012】
また、複数回の計測を行って複数種類の情報を得た場合、計測間で被検体の体動も生じるため、検査対象における同一断面について同一タイミングで複数情報を得ることはできず、情報を比較する際の妨げになる。
【0013】
本発明の目的は、操作者が所望する1種類以上の情報を高効率に得て提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の超音波撮像装置は、被検体に超音波を送信し、当該送信により被検体から到来した超音波を受信したプローブから、受信信号を受け取って、受信信号を処理することにより、被検体内の所定の撮像範囲に少なくとも2次元に設定された複数の点について、移動量と移動方向を示す移動ベクトルを算出し、移動ベクトル分布を求める移動ベクトル分布算出部と、移動ベクトル分布から、所望の1つ以上の移動ベクトル成分の分布を抽出する分離フィルタとを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被検体内の2次元に設定された点の移動ベクトルの分布を求め、この移動ベクトル分布から、1種類以上のベクトル成分を区別して抽出し、それらが示す情報を表示等することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態1の超音波撮像装置の構成を示すブロック図。
図2】実施形態1の超音波撮像装置において移動ベクトル分布の計測からベクトル成分の抽出の流れの説明図。
図3】被検体内の移動ベクトルの特徴を示す表。
図4】実施形態1の超音波撮像装置の動作を示すフローチャート。
図5】(a)実施形態1の超音波撮像装置の超音波の送信方向、(b)受信方向を示す説明図。
図6】(a)実施形態1の超音波撮像装置のせん断波励起のために集束超音波を対象物に送信することを示す説明図、(b)せん断波が対象物を伝搬する間に方向を変えながら超音波を送受信することを示す説明図。
図7】実施形態1に超音波撮像装置の信号処理部の動作を示すフローチャート。
図8】実施形態1の超音波撮像装置において、組織・血流計測用の送受信と、せん断波計測用の送受信を分ける場合のシーケンスの一例。
図9】(a)実施形態2の正常な被検体のせん断波の粒子移動ベクトルを示す画像例、(b)疾患を有する被検体のせん断波の粒子移動ベクトルを示す画像例。
図10】(a)~(d)実施形態2に係るせん断波の粒子移動ベクトルの抽出から解析の流れの一例を示す説明図。
図11】(a)~(c)実施形態2に係る、せん断波の粒子移動ベクトルの表示画像例。
図12】(a)実施形態2に係る、せん断波の粒子移動ベクトルの表示画像例と、(b)および(c)信頼性指標の解析結果を示す画像例。
図13】(a)実施形態2に係る、せん断波の粒子移動ベクトルの表示画像例、(b)のう胞性病変の解析例を示す画像例。
図14】(a)~(c)実施形態3に係る、血管壁の移動ベクトルの計測と計測結果の説明図。
図15】(a)~(b)実施形態3に係る、血管壁の移動ベクトルの計測結果と解析例を表示する画像例。
図16】実施形態3に係る、血管壁の動体計測による解析結果の画像例。
図17】実施形態3に係る、血管壁の動体計測による解析結果の画像例。
図18】実施形態3に係る、血管壁の動体計測による解析結果の画像例。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態の超音波撮像装置について図面を用いて説明する。
<<実施形態1>>
<本実施形態1の超音波撮像装置の概要>
まず、本実施形態1の超音波撮像装置の概要について、装置構成を示す図1と処理の流れを示す図2とを用いて説明する。
【0018】
本実施形態の超音波撮像装置100は、図1に示すように、送受信ビームフォーマ30と、信号処理部40とを備えている。信号処理部40には、少なくとも移動ベクトル分布算出部43と、分離フィルタ44とが配置されている。
【0019】
送受信ビームフォーマ30は、接続されているプローブ20に送信信号を生成して送信し、プローブ20から被検体10内に超音波を送信させる。この送信により被検体20から到来した超音波は、プローブ20により受信され、受信信号に変換される。送受信ビームフォーマ30は、受信信号を受け取って、所定の受信走査線上の受信焦点に焦点を合わせる受信ビームフォーミング処理を行う(図2のステップS200)。
【0020】
信号処理部40の移動ベクトル分布算出部43は、受信ビームフォーミング処理後の受信信号を用いて、被検体内の所定の撮像範囲に少なくとも2次元に設定された複数の点について、移動量と移動方向を示す移動ベクトルを算出し、移動ベクトル分布202を求める(ステップS201)。例えば、後述するように、信号処理部40の動体移動計測部42が、受信信号のドプラ効果によりシフトした周波数を検出することにより、移動量を算出し、移動ベクトル分布算出部43は、被検体10への超音波の送信および受信方向の組み合わせごとに移動量を合成することにより、移動ベクトルを求めることができる。
【0021】
この移動ベクトル分布202には、複数の点が配置された位置の組織(血流を含む)の移動情報がその発生要因にかかわらずすべて含まれている。移動の発生要因としては、その点の位置が血管内であれば血流、血管および血管の外側の両方については体動や呼吸や心拍動や消化器の蠕動運動、ならびに、被検体を弾性波が伝搬している場合には弾性波による変位等があり、移動ベクトルにはこれらのすべての移動情報が合成されて含まれている。
【0022】
分離フィルタ44は、移動ベクトル分布から、所望の1つ以上の移動ベクトル成分の分布を抽出する(ステップS203a~203c)。すなわち、分離フィルタ44は、被検体10を構成する複数の組織のうち所望の1以上の組織の移動を示す移動ベクトル成分、および、複数の移動発生要因のうち所望の1以上の移動発生要因による被検体の組織の移動を示す移動ベクトル成分のうちの1つ以上の移動ベクトル成分の分布を抽出する。例えば、複数の組織としては、血流と、血流以外の組織とが含まれ、移動発生要因としては、拍動、呼吸、および、被検体を伝搬する弾性波が含まれる。
【0023】
具体的には、分離フィルタ44は、呼吸や拍動による組織の移動を示す移動ベクトル成分の分布(組織ベクトル分布)204aや、血流ベクトル分布204bや、弾性波による組織の移動を示す弾性波ベクトル分布204cを、一つの移動ベクトル分布202から抽出することができる。
【0024】
分離フィルタ44は、移動ベクトルの示す組織の移動速度(単位時間当たりの移動量)や、移動ベクトルの時間変化の周波数や固有値のうちの1以上に基づいて移動ベクトル成分を抽出する。また、分離フィルタ44は、受信信号から生成したBモード画像の輝度に応じて、対応する位置の移動ベクトルを抽出するかどうか判断することにより、所望の移動ベクトル成分を抽出する。
【0025】
例えば、図3の表に示したように、血流以外の組織と血流と弾性波の移動ベクトルは、移動速度(単位時間当たりの移動量)や、移動ベクトルの時間変化の周波数や固有値や、Bモード像の輝度に差があるため、この差に応じて分離フィルタ44は、抽出を行うことにより、所望の移動ベクトル成分を抽出することができる。
【0026】
具体的には、組織の移動速度については、心拍動や消化器の蠕動運動に起因する組織移動が1-10mm/sであるのに対し、血流では1-1000mm/sと範囲が広く、特に高速域の範囲が広い。例えば、動脈や静脈での血流速度はおおむね10mm/s程度に収まるが、心臓内の血流では100mm/sから1000mm/sに達する場合もある。一方、弾性波の速度(粒子速度)は、0.1-10mm/s程度である。
【0027】
次に、移動ベクトルの大きさ(移動量)の時間変化(時間変動)の周波数については、組織移動や動脈血の場合、時間変動は心拍動に依存するため、その周波数帯域は数Hz程度である。静脈血のように移動ベクトルの大きさに時間変動が少ない血流の場合、血流であっても高周波域に帯域を持つことがある。一方、弾性波(粒子速度)の移動ベクトルの時間変動は、生体組織の弾性的特性に応じて100Hz-1000Hz程度の高い帯域をもつ。
【0028】
一方、組織と血流は、組織の構成要素が連続体として数cm程度のサイズを有するのに対し、血流は血球等が分散された液体であるため、空間的な構造の違いがあるため、移動ベクトルの時間変動の固有値に差が生じる。すなわち、血流に比べて、組織の移動ベクトルは極めて変動が小さいため、組織移動の時間変動の固有値は、変動が大きい血流に比べて低ランク(low-order)に成分を持つ。
【0029】
また、Bモード像の輝度は、血管内や、胆嚢内や、のう胞の内部等は、組織の実質部分と比較して、基本的に低輝度となることが知られている。また、弾性波(粒子速度)は、組織を媒質として伝搬するため、Bモード像における特徴は、組織と同じになる。
【0030】
さらに、音響放射圧を利用して発生させた弾性波(粒子速度)は、1パルス程度の波となるため、一過性になり、持続しないという特徴がある。これは、組織移動や血流には見られない特徴である。
【0031】
よって、分離フィルタ44は、上記した移動ベクトルは、移動速度や、移動ベクトルの時間変化の周波数や固有値や、Bモード像の輝度のうちの1以上を用いて、抽出を行うことにより、所望の移動ベクトル成分の分布204a~204cのように抽出することができる。
【0032】
分離フィルタ44は、抽出した1以上の移動ベクトル成分の分布(画像)204a~204cを、例えば画面210(図2)のように並べて表示部60に表示させることができる。
【0033】
このように、本実施形態の超音波撮像装置によれば、被検体内の2次元に設定された点の移動ベクトルの分布を求め、この移動ベクトル分布から、同時に1種類以上のベクトル成分を抽出してそれらが示す情報を表示等することができる。複数の移動ベクトル成分の分布(画像)204a~204cを抽出した場合、これらは同一の断面(撮像範囲)について同一のタイミングで得られた情報であるため、容易に比較することができる。
【0034】
また、抽出した1以上の移動ベクトル成分の分布(画像)204a~204cから図2のように蠕動や拍動による組織移動情報205aや、微細血管の分布情報205bや、せん断波の伝搬や粒子速度ベクトルの分布情報205cを得ることができる。これら情報に基づき、ストレイン206a、血管密度206b、粘性・弾性・構造均質性206c等の評価指標を算出することも可能であり、さらに繊維化の進行度207a、炎症の有無207b、繊維化や脂肪化の進行度207cの判断を補助する診断情報を提供することも可能になる。
【0035】
<超音波撮像装置の詳細な説明>
以下、実施形態1の超音波撮像装置についてさらに詳しく説明する。
【0036】
図1の超音波撮像装置100は、上述したように、送受信ビームフォーマ30と、信号処理部40とを備えている。
【0037】
信号処理部40には、上述の移動ベクトル分布算出部43と、分離フィルタ44の他に、画像構成部41と、移動量計測部42と、データ解析部48が配置されている。
【0038】
また、分離フィルタ44内には、速度・周波数・固有値による分離フィルタ(A)45と、輝度による分離フィルタ(B)46と、ベクトル抽出部(A×B)47が備えられている。
【0039】
また、信号処理部40には、外部の入力デバイス70とメモリ50が接続されている。外部入力デバイス70は、分離フィルタ44が抽出すべき移動ベクトル成分(情報)の種類の選択等を操作者から受け付ける。メモリ50には、受信信号や、算出した移動ベクトル分布202や、抽出した移動ベクトル成分の分布204a~204c等が必要に応じて格納される。
【0040】
(各部の動作)
本実施形態の超音波撮像装置の各部の動作(処理)について、図4のフローを用いて以下説明する。
【0041】
なお、信号処理部40内の各部は、ソフトウェアによって実現することも可能であるし、その一部または全部をハードウェアによって実現することも可能である。ソフトウェアによって実現する場合、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサとメモリにより信号処理部40を構成し、メモリに予め格納されたプログラムを読み込んで実行することにより、画像構成部41、移動量計測部42、移動ベクトル分布算出部43、分離フィルタ44、データ解析部48の機能を実現する。また、ハードウェアによって実現する場合には、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICやFPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用い、画像構成部41、移動量計測部42、移動ベクトル分布算出部43、分離フィルタ44、データ解析部48の動作を少なくとも実現するように回路設計を行なえばよい。
【0042】
送受信ビームフォーマ30は、所望の送信波形に対応する電圧をプローブに印加する送信制御と、対象物からの反射波等から変換される電気信号を受け取る受信制御と、の機能を備える。
【0043】
これら機能により、送受信ビームフォーマ30は、接続されているプローブ20に送信波形を生成して送信し、プローブ20から被検体10内に超音波を送信させる(図4のステップS20)。この送信により被検体20から到来する反射波等の超音波は、プローブ20により受信され、受信信号に変換される。送受信ビームフォーマ30は、受信信号を受け取って、所定の受信走査線上の受信焦点に焦点を合わせる受信ビームフォーミング処理を行って、複素のRF信号(ラインデータ)が方位方向(受信走査線方向)に整列した2次元データに変換する(ステップS21)。
【0044】
ステップS20、21の送受信についてさらに詳しく説明する。
【0045】
まずプローブ20から予め指定した方向に超音波を送信する。例えば、図5(a)のように3方向[-10,0,+10](単位:度)に送信する。送信する超音波は、図6(b)のように平面波であることが望ましい。そして、送信ごとにプローブ20を構成する各電気音響変換素子により被検体10内部からの反射波等を受信する。送受信ビームフォーマ30は、受信走査線を図5(b)のように3方向[-10,0,+10](単位:度)についてそれぞれ複数本の平行な受信走査線を設定し、各受信走査線についてそれぞれ受信ビームフォーミングを実行し、走査線ごとに受信RF信号を得る。つまり送受信の組み合わせとしては、3×3の9通りとなる。移動ベクトル計測は、送受信のペアで実行されるため、図5の例では3×3の9通りのペアが成立する。各ペアで計算される移動ベクトルの方向は、基本的に受信方向に従う。つまり、受信走査線方向の移動ベクトルが算出される。各ペアについて計算された移動ベクトルは成分ベクトルであるため、最終的には、これを幾何的に統合(合成)して、その受信焦点の移動ベクトルの結果とする。
【0046】
なお、平面波を送信する場合、プローブ20の内部にアレイ状に備えられた電気音響変換素子に対してそれぞれ入力する送信信号の遅延量を制御することにより、3方向[-10,0,+10](単位:度)の平面波を送信することができる。平面波送信の場合、1回の送信でカバーできる空間領域が広いため、送信箇所を移動させて所望範囲を網羅するフォーカス送信に比べて、対象物全体からの信号取得に係る時間が少なくできる。例えば対象物の音速が1500m/s、深さ7.5cm(横幅はプローブの口径)の範囲から1回の送信で全信号を取得する場合、0.1msec(10kHz)で送受信が完了する。
【0047】
本実施形態では、このような多角的な超音波の送受信を少なくとも2回行う。
【0048】
つぎに、移動量計測部42は、時系列に少なくとも2回取得した9通りの2次元データを利用して、撮像領域に縦横に設定した点(ピクセル)毎に、その点の移動量を計算する。点とは動体であり、血管や臓器等の生体組織、および、血管内の血流に対して少なくとも2次元に設定される。点(動体)は、血流や、呼吸や心拍動や消化器の蠕動運動や、せん断波の伝播に伴う粒子移動(ミクロ視点の生体組織)によって移動する。
【0049】
移動量計測部42は、送受信の方向の組み合わせが同じで、時系列に少なくとも2回取得した受信RF信号同士で自己相関演算を行う。これにより、ドプラ効果でシフトした周波数を算出する。このシフトした周波数から公知の方法により、その受信走査線上の点の受信走査線方向の移動速度を算出する。算出した移動速度と2回の送信の時間間隔から、その点の移動量(単位時間あたり)を求める。移動方向は、受信走査線の方向である。これにより、各点の移動ベクトルが求められる。
【0050】
移動ベクトル分布算出部43は、この演算を9通りの送受信の組み合わせごとに行って、各点の走査線方向の移動ベクトルを求める。そして、同一の点についての移動ベクトルを合成することにより、移動ベクトル分布202を算出する(ステップS23)。
【0051】
尚、移動ベクトルの計測方法については、本実施例に記載のRF信号を利用した自己相関法の他、包絡検波を行なった後の輝度情報を利用する方法や、方位方向と深度方向の2次元情報を利用したパタンマッチング方法が一般的に知られている。本実施形態においては、移動ベクトルの計算結果を入力情報とする動体解析を含む機能および装置に関するものであり、移動ベクトルの計算方法については、その方法を特に限定せず、どのような計算方法を用いてもよい。
【0052】
分離フィルタ(A)45は、移動ベクトルの速度、ならびに、移動ベクトルの時間変化の周波数と固有値を用いて、移動ベクトル分布202に含まれる成分を抽出する。ここでは、分離フィルタ(A)45は、移動ベクトルの時間変化の周波数、および周辺画素との同一性を用いて、血流を除いた組織と血流とを分離する(ステップS28)。この処理は、時間的な同一性と空間的な同一性の双方を評価するもので、一般的に血流成分は、時間的にも空間的にも同一性が低い(固有値のランクが高い)。弾性波(粒子速度)の成分は、時空間における同一性が血流に近く、分離フィルタ(A)45の作用としては、血流成分に混在する。但し、弾性波の伝搬は、血流や組織と異なり一過性の現象であるため、観測時間が長くなるにつれて時間的な同一性は高くなる。
【0053】
一方、Bモード像を利用して、血流または弾性波(粒子速度)の抽出精度をさらに高めるために、画像構成部41は、超音波の送信の角度が0度の時に得た受信RF信号を用いてBモード画像を再構成する(ステップS24)。輝度分離フィルタ(B)46は、Bモード像の輝度解析を行って高輝度の領域または低輝度領域を抽出する(ステップS25)。
【0054】
ベクトル抽出部(A×B)47は、分離フィルタ(A)45の抽出結果と、輝度分離フィルタ(B)46の抽出結果を掛け合わせ、所望のベクトル成分(血流、弾性波、組織移動)の抽出精度を高める。
【0055】
ここでステップS28以降において、分離フィルタ(A)45等が、組織移動、血流、弾性波(粒子速度)をそれぞれ抽出する処理方法について、図7を用いてさらに説明する。まず弾性波(粒子速度)の分離について説明する。図3を用いてすでに説明したように弾性波(粒子速度)の特徴は、周波数が高く、時間的空間的に不安定であることである。したがって、分離フィルタ(A)45は、各点の移動ベクトルの振幅値(大きさ)の時間変動を解析し、100Hz付近から上の帯域を抽出することにより、弾性波(粒子速度)のベクトル成分を移動ベクトルから抽出する。また、観測時間を弾性波の伝搬時間(1秒未満)に調整した場合、弾性波(粒子速度)の時空間での不安定性を利用し、移動ベクトルの振幅値(大きさ)の時間変動の固有値の高ランク成分を抽出することで、抽出精度をより高感度化できる。
【0056】
一方、輝度分離フィルタ(B)46は、Bモード像の輝度解析を行って高輝度の領域を抽出する(ステップS25-2)。
【0057】
ベクトル抽出部(A×B)47は、分離フィルタ(A)45の抽出結果と、輝度分離フィルタ(B)46の抽出結果を掛け合わせ、弾性波(粒子速度)の分布204cを精度よく抽出する。
【0058】
以上の条件を満たす領域を分離することで、弾性波(粒子速度)に関連するベクトル成分を選択的に得ることができる。
【0059】
次に、血流に関連するベクトルの分離方法を説明する。血流の特徴は、固有値のランクが高く、Bモード像が低輝度である点である。周波数については、基本的に100Hzに達しない範囲での低周波除去フィルタが効果的であるが、低速血流においては効果が限定的である。つまり関心領域が高速または低速かによって、分離すべき周波数帯域は変化するので、これは術者の判断で調整する必要がある。よって、基本的には、分離フィルタ(A)45は、移動ベクトル分布から高ランクの固有値成分の点を抽出する(ステップS28-3)。また、輝度分離フィルタ(B)46は、低輝度領域をBモード画像から抽出する(ステップS25-3)。ベクトル抽出部(A×B)47は、分離フィルタ(A)45の抽出結果と、輝度分離フィルタ(B)46の抽出結果を掛け合わせ、血流ベクトルの分布204cを抽出する。但し、着目する血管が非常に細く、Bモード像の空間分解能では組織と差分が得られない場合、分離フィルタ(B)を必ずしも作用させる必要はない。
【0060】
なお、特定の流速レンジの血流ベクトルを特異的に抽出したい場合には、ステップS28-3において周波数情報に対する帯域制限を追加することで実現できる。
【0061】
最後に、組織移動ベクトルの抽出方法を説明する。組織移動は、低周波、低ランクの固有値成分、B像の高輝度が特徴であるので、これら条件を満たすベクトルを選択すればよい。すなわち、分離フィルタ(A)45は、移動ベクトル分布から低周波数で低ランクの固有値の点を抽出する(ステップS28-4)。また、輝度分離フィルタ(B)46は、高輝度領域をBモード画像から抽出する(ステップS25-2)。ベクトル抽出部(A×B)47は、分離フィルタ(A)45の抽出結果と、輝度分離フィルタ(B)46の抽出結果を掛け合わせ、組織移動ベクトルの分布204cを抽出する。
【0062】
なお、組織移動は、弾性波(粒子速度)および血流に比べて、対象とする組織の種類や場所によって、特性にばらつきがある。そのため、ベクトル分布の全情報から、血流と粒子速度の情報を差し引くことで得る方法も有効である。
【0063】
データ解析部48は、ベクトル計算の結果に基づき、対象物(被検体10)の状態、性状などの医学的判断に有用な情報205a~205c、評価指標206a~206c、ならびに、診断情報207a~207c等を算出する(ステップS27)。
【0064】
分離フィルタ44は、上述したように抽出した移動ベクトル成分の分布204a~204cを表示部60に例えば画面210(図2参照)のように表示する(ステップS29)。また、データ解析部48は、算出した情報205a~205c、206a~206c、207a~207cを表示部60に表示する。
【0065】
なお、上述の実施形態のように弾性波を計測する場合には、図6(a)に示すように、被検体10の対象物(図6では肝臓)41にせん断波43を励起するための集束超音波42の送信した後、図6(b)のようにせん断波(弾性波)43が対象物41を伝播する間、連続的にベクトル計測用の送信を行う。
【0066】
また、せん断波(弾性波)計測する場合、上述してきた実施形態のように、せん断波を伝搬させながら、組織・血流計測用の送受信を行う。ただし、図8のようにバースト波送信の前に、組織・血流計測を行って、せん断波による組織変位の影響を排除し、バースト波送信の後に弾性波(せん断波)を計測してもよい。
【0067】
<<実施形態2>>
実施形態2として、図9(a)、(b)に、実施形態1で抽出したせん断波(弾性波)ベクトル成分分布を、正常対象と疾患対象(例えば肝線維化)について表示する表示画面例を示す。図9(a)は、正常対象のせん断波(弾性波)ベクトルの分布を示す図である。せん断波の正圧(図面右側の波の領域)と負圧(図面左側の波の領域)に対して、せん断波を形成する個々の粒子速度がベクトルによって表示されている。正常対象では、ベクトルの向き(角度)が個々の領域内で均一性を持つ。
【0068】
図9(b)は、疾患対象のせん断波ベクトルの分布を示す図である。例えば疾患対象が線維化した組織を仮定すると、せん断波は伝播と共に形が崩れるため、せん断波の全体形状ではなく、その構成要素である粒子速度を計測し、角度の不均一性を解析することで、より高感度に異常を判定できる。
【0069】
図10(a)から(d)は、ベクトル計測の結果に基づいて、データ解析部48が移動ベクトルの方向の均質性を評価する計算の一例の流れを示している。図10(a)のように、移動ベクトル分布算出部43は、せん断波および背景の移動ベクトル分布が計算される。図10(b)のように、分離フィルタ44は、せん断波領域の移動ベクトルを抽出する。データ解析部48は、図10(c)のように、図10(b)の指定領域(ROI)のベクトルを抽出して行列とし、図10(d)のように診断指標として、ベクトルの角度の分散を計算する。
【0070】
その他、診断指標としては、標準偏差などの統計値を求めることも可能である。また、指定領域を画面全体に設けることで、診断指標の二次元分布を形成することもできる。
図11(a)~(c)は、データ解析部48が算出した診断指標の分布の表示例を示している。図11(a)は、診断指標(図10(d)のROIごとの分散σ)をテクスチャとして画像上のROIの領域に表現した表示例であり、図11(b)は、せん断波の伝播に伴う、診断指標(平均値)の推移を示すグラフである。図11(b)の診断指標は、組織構造に異常がある場合、伝搬時間が長くなるほど粒子速度の「方向の乱れ」が顕在化し、診断指標(方向分散)が上昇しているが、均質な媒体は上昇していない。図11(c)は、フォローアップ(経過観察)における診断指標(方向分散の勾配)の推移を示すグラフである。図11(c)のグラフにおいて経過とともに数値が減少していくことを確認することにより治療効果の判定が可能である。
【0071】
図12(a)~(c)は、せん断波の計測可否、または計測結果の信頼性を評価する表示の例である。図12(a)は、本実施形態の装置によって抽出されたせん断波(弾性波)のベクトル分布を示す図である。中心領域では、ベクトルサイズ(大きさ)が低下している。図12(b)は、データ解析部48が算出したせん断波の信頼性を示す数値が、伝搬距離が長くなるにつれ変化する推移を示すグラフである。信頼性を示す数値の例としては、ベクトルの角度分散、またはベクトルのサイズを用いることができる。図12(b)のグラフから、せん断波計測の信頼性だけでなく、伝播方向のどの範囲で速度計測を実行するべきか、判定が可能になる。図12(c)は、信頼性指標の空間分布図であり、縦軸は、被検体の深さ、横軸はせん断波の伝搬方向である。
【0072】
図13(a)~(b)は、のう胞の判定方法の一例を示す図である。図13(a)は、抽出したせん断波のベクトルを示す画像であり、中心領域では、ベクトルのサイズ(大きさ)が低下していることがわかる。非のう胞の場合、中心領域のベクトル分布は一定の方向性を持つ分布となる。粘性が高いのう胞の場合、ベクトル分布は方向の乱れを含む。粘性が低いのう胞の場合、ベクトル分布は方向に乱れが生じると共に、ベクトルの大きさが縮小する。一方、非粘性流体(液性)の場合、ベクトル分布は0、つまり消失する。図13(b)は、対象物の性状に対する、ベクトルの大きさと方向により分類するグラフの一例である。
【0073】
<<実施形態3>>
実施形態3として、図14(a),(b)、(c)に、血管の性状評価のための移動ベクトル計測方法と計測結果を示す。
【0074】
図14(a)のように、血管に対して、予め指定する方向(ここでは血管断面)に対して送受信を実施する。送信数がNの場合、N個の送受信ペア(即ち移動ベクトル計測結果)が成立する。移動ベクトル分布算出部43は、移動ベクトル計測結果を合成して移動ベクトル分布を算出する。一方Bモードの輝度情報に基づき、対象とする血管領域(内径から外径に至る領域)を抽出するフィルタ画像を図14(c)のように準備し、移動ベクトル分布に掛けることにより、図14(b)のように、血管断面の移動ベクトルを抽出することができる。特に頚動脈の場合には、Bモードの画像上で周囲組織に比べて高輝度になる傾向があり、輝度情報を利用するフィルタ画像の構成は単純かつ有効な方法である。図14(b)のように血管の場合、内径から外径にかけてベクトルの大きさが減少している。
【0075】
血管領域の抽出方法には、前述の輝度情報を利用する方法の他、周波数や固有値を利用する方法も有効である。図7の領域区分では、血管領域は組織移動に属するが、頚動脈を対象にする場合、腹部組織と異なり呼吸や蠕動に起因する動きの影響は極めて軽微である。従って、低周波かつ低ランクの固有値成分のうち、特に低周波域を除去するフィルタを構成することで、拍動に伴う血管領域の動きを特異的に抽出することができる。また、例えばECG等を利用して心臓の動きと同期する周期性移動を周波数解析により抽出する方法も有効である。
【0076】
図15(a)~(b)は、血管の変位計測結果の一例を示す図である。図15(a)の左側の図は、図14(b)と同様の血管断面の移動ベクトル分布を示している。図15(a)の右側の図は、血管断面の内径から外径に例えば半径r=4.50mm,r=4.75mm,r=5.00mmの3つの円環により計測領域を設定し、ベクトル情報を抽出したものである。図15(b)は、図14の右側図の半径の位置中心から半径r=4.50mm,r=4.75mm,r=5.00mmの円環における変位(ベクトルの大きさ)を示すレーダ表示である。血管の内径側は変位が大きく、外径側に近づくにつれて変位が小さくなっていることがわかる。
【0077】
図16は、血管性状評価の表示形態の一例を示している。ここでは、プラークのある血管のケースの例である。図16の表示例において中央のグラフは、図15(b)と同様の手法により血管断面の所定の半径における拍動による対象物の変位(移動ベクトルの大きさ)(実線)と、比較例として正常な血管の変位(移動ベクトルの大きさ)(破線)を示している。図16の例では、90度から225度の角度範囲で対象物の血管の変位が比較例の正常な血管の変位より小さく、血管がこの範囲で硬くなっており変位できないことがわかる。よって、周囲に配置した円環表示により、異常領域(90度から225度)の方位を濃い色で表示し、プラークがあることを視覚的に確認できるようにしている。
【0078】
図17は、図16と同様の血管性状評価の表示形態であり、動脈硬化の血管のケースである。360度全周において、対象物の血管の変位が比較例の正常な血管の変位より小さく、血管全体が硬くなっており変位できないことがわかる。よって、周囲に配置した円環表示により、異常領域(全周)の方位を濃い色で表示し、動脈硬化があることを視覚的に確認できる。
【0079】
図18は、血管の性状評価結果をグラフの表示した例である。図18(a)は、図17の角度毎の変位計測結果をグラフにしたものであり、図18(b)は、全方位角の変位のばらつきを動脈硬化がある血管(図17の血管)と、比較例の正常血管との差と示すグラフである。これらのグラフを表示することによって、術者が動脈硬化がある血管を診断する材料を提供することができる。
【符号の説明】
【0080】
10…被検体、20…探触子(プローブ)、30…送受信ビームフォーマ、40…信号処理部、41…画像構成部、42…移動量計測部、43…移動ベクトル分布算出部、44…分離フィルタ、45…速度・周波数・固有値による分離フィルタ、46…輝度分離フィルタ、47…ベクトル抽出部、48…データ解析部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18