(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】コンクリートの材料分離抵抗性および骨材連行性の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20230629BHJP
G01N 11/00 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G01N33/38
G01N11/00 E
(21)【出願番号】P 2019143810
(22)【出願日】2019-08-05
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】野中 潔
(72)【発明者】
【氏名】多田 克彦
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-218196(JP,A)
【文献】特開平10-111287(JP,A)
【文献】特開2003-322602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
G01N 11/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS A 1150のコンクリートのスランプフロー試験方法に用いる鋼板のコンクリートが接しない面(裏面)に、2個以上の変位センサを設置してなる鋼板を用いて、JIS A 1150に規定するスランプコーンの引き上げを行い、変位センサで鋼板上のコンクリートの変位を測定しつつスランプフロー試験を実施してコンクリートの
材料分離抵抗性および骨材連行性を評価する方法であって、
あるフロー径に達するまでの時間が長いコンクリートは、そうでないコンクリートと比べて材料分離抵抗性に優れていると評価し、また、
フロー値の経時変化が直線的なコンクリートは、初期に速く広がり次第に広がり方が遅くなるコンクリートと比べ、骨材連行性に優れていると評価する、
コンクリートの
材料分離抵抗性および骨材連行性の評価方法。
【請求項2】
前記変位センサが、超音波を用いてコンクリートの変位を感知するセンサである、請求項1に記載のコンクリートの
材料分離抵抗性および骨材連行性の評価方法。
【請求項3】
前記2個以上の変位センサが鋼板の裏面に同心円状に設置されてなる、請求項1または2に記載のコンクリートの
材料分離抵抗性および骨材連行性の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレッシュコンクリートの材料分離抵抗性および骨材連行性(以下「フレッシュ性状」という。)を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートのフレッシュ性状を評価する一般的な方法の一つに、JIS A 1150「コンクリートのスランプフロー試験方法」に規定するスランプフロー試験がある。この方法は、鋼板の中央に載置したスランプコーンにフレッシュコンクリートを充填して、
図1に示すように、スランプコーンを引き上げた後のコンクリートのフローの最終の長さ(スランプフロー値)や、コンクリートのスランプフローの停止時間を測定する方法である。しかし、スランプフローの停止時間は、コンクリートのスランプフロー値が同じでも、コンクリートの粘性等が異なれば相違する。また、スランプフロー値は、コンクリートの降伏値と高い相関があるが、コンクリートの粘性の評価には必ずしも適さない。
【0003】
コンクリートの粘性の評価方法として、鋼板に描かれた直径が500mmの円にコンクリートが最初に達した時間(500mmフロー到達時間)を測定する方法がある。しかし、スランプフローが500mmに達しない場合(例えば、中流動コンクリートでは、標準的なスランプフロー値は450mm程度である。)は測定できない。また、スランプフローの中心が500mmの円の中心からずれた場合も正しい評価ができない。
そこで、スランプフローを連続撮影して、画像解析によりスランプフローの広がりの経時変化を観察する方法も一部で行われている。しかし、スランプコーンを人が引き上げるため、引き上げ時のスランプフローを真上から撮影することは難しい。また、斜めから撮影する場合、フローの一部がスランプコーンの陰に隠れるため、スランプフローの中心が、鋼板の円の中心からずれると、評価が困難になる。もっとも、鋼板の代わりに、アクリル板等の透明な板を用いて、アクリル板の下からスランプフローを撮影する方法もあるが、樹脂と鋼板ではコンクリートとの表面相互作用が異なるため、前記JISに規定するスランプフロー試験の代替にはならない。
【0004】
このような事情から、コンクリートのフレッシュ性状を評価する新たな方法がいくつか提案されている。
例えば、特許文献1に記載の方法は、スランプ試験を行ったコンクリートに対してスランプフローが予め設定した基準径になるまで振動を与える第一工程と、スランプフローが基準径となったコンクリートの上面の形状を確認する第二工程とを備えるコンクリートの評価方法であって、第二工程において、コンクリートの上面に円形が保持されていない場合はコンクリートの粘性が不足していると評価する方法である。しかし、この方法は、コンクリートの粘性が不足しているか否かの二値的評価に過ぎず、定量評価ではない。
また、特許文献2に記載の方法は、スランプコーン内でコンクリートを一定時間保持してから試験を行って得られた試験結果と、前記JISの試験結果を比較してコンクリートのこわばりとその経時変化を評価する方法である。しかし、コンクリートのこわばりと粘性は異なる特性であるから、コンクリートのこわばりに基づきコンクリートの粘性を評価することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-053944号公報
【文献】特開2011-69836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、前記JISに規定するスランプフロー試験を改良して、コンクリートのフレッシュ性状を、簡易かつ精度よく評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的にかなう方法について検討したところ、下記の構成を有するコンクリートのフレッシュ性状の評価方法は前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。
【0008】
[1]JIS A 1150のコンクリートのスランプフロー試験方法に用いる鋼板のコンクリートが接しない面(裏面)に、2個以上の変位センサを設置してなる鋼板を用いて、JIS A 1150に規定するスランプコーンの引き上げを行い、変位センサで鋼板上のコンクリートの変位を測定しつつスランプフロー試験を実施してコンクリートの材料分離抵抗性および骨材連行性を評価する方法であって、
あるフロー径に達するまでの時間が長いコンクリートは、そうでないコンクリートと比べて材料分離抵抗性に優れていると評価し、また、
フロー値の経時変化が直線的なコンクリートは、初期に速く広がり次第に広がり方が遅くなるコンクリートと比べ、骨材連行性に優れていると評価する、
コンクリートの材料分離抵抗性および骨材連行性の評価方法。
[2]前記変位センサが、超音波を用いてコンクリートの変位を感知するセンサである、前記[1]に記載のコンクリートの材料分離抵抗性および骨材連行性の評価方法。
[3]前記2個以上の変位センサが鋼板の裏面に同心円状に設置されてなる、前記[1]または[2]に記載のコンクリートの材料分離抵抗性および骨材連行性の評価方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記JISに規定するスランプフロー試験を改良して、コンクリートのフレッシュ性状を、簡易かつ精度よく評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】前記JISに規定するスランプフロー試験において、スランプコーンを引き上げた状態を示す図である。
【
図2】鋼板の裏面に、複数のセンサを同心円状に設置した状態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.コンクリートのフレッシュ性状の評価
コンクリートのフレッシュ性状の評価方法は、JIS A 1150のコンクリートのスランプフロー試験方法に用いる鋼板のコンクリートが接しない面(裏面)に、2個以上の変位センサを設置してなる鋼板を用いて、JIS A 1150に規定するスランプコーンの引き上げを行い、変位センサで鋼板上のコンクリートの変位を測定しつつスランプフロー試験を実施してコンクリートのフレッシュ性状を評価する方法である。
前記変位センサは、好ましくは超音波を用いてコンクリートの変位を感知するセンサである。該センサは、スランプフローの測定前では鋼板の厚さを測定するが、コンクリートが流れた後は、鋼板の厚さに加えてコンクリートの厚さも測定することになるから、この厚さの変化を検知することによりスランプフローの広がりを測定できる。
また、前記フレッシュ性状は、コンクリートの材料分離抵抗性および骨材連行性が挙げられる。例えば、最終的なスランプフロー値が同じでも、あるフロー径に達するまでの時間が長いコンクリートは、そうでないコンクリートと比べて材料分離抵抗性に優れると言える。また、フロー値の経時変化が直線的なコンクリートは、初期に速く広がり次第に広がり方が遅くなるコンクリートと比べ、骨材の連行性に優れていると言える。材料分離抵抗性および骨材連行性は、どちらも粘性が高いほど優れるが、動粘度など特定の物性値で表されるものではない。
【0012】
2.スランプフローの中心の補正
前記2個以上の変位センサは、好ましくは鋼板の裏面に同心円状に設置する。同心円状に設置すれば、スランプフローの中心が鋼板の円の中心からずれた場合でも、補正できる。
位置の補正には、例えば、フローが同心円状に広がることを仮定して、各センサの検出時間が仮定に反しないように位置をフィッティングする方法や、対称の位置にあるセンサをフローが通過する時間の差から推定する方法などがある。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は該実施例に限定されない。
1.スランプフロー試験
r = 150, 175, 200, 225, 250mm、θ=n/4π(n=0~7)の位置に、合計40個の変位センサを設置した鋼板を用いて、前記JISに準拠してスランプフロー試験を行い、スランプコーンを引き上げた時から変位センサがコンクリートを検知するまでの時間t(s)を測定した。その結果を、変位センサと鋼板の円の中心との距離r(mm)、および、鋼板の円の中心を通る座標軸と変位センサの角度θ(rad)とともに表1に示す。なお、表1中の「―」の表示は、スランプフローが検出されなかった、すなわち、スランプフローが変位センサ上に到達しなかったことを示す。
【0014】
前記スランプフロー試験では、スランプフローの半径は230mm、目視によるスランプフローの停止時間は8.3秒だった。また、このデータに対し、前記の方法によりパラメータを求めると、r
0= 3.2、θ
0=3.11、k=2.44、T=7.80が得られた。この結果は、スランプフローの中心が、鋼板の円の中心から3.2mm、θ=3.11(≒178°)の方向にずれていることを示しており、また、この試験のスランプフロー半径r
flow(mm)と時間(s)の関係は、
で近似できる。
【0015】