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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】無機多孔質成形体
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20230629BHJP
   C04B 14/18 20060101ALI20230629BHJP
   C04B 28/04 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
C04B38/00 301B
C04B14/18
C04B28/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019151501
(22)【出願日】2019-08-21
(65)【公開番号】P2021031324
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山口 彰
(72)【発明者】
【氏名】贄田 哲史
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-001376(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012565(WO,A1)
【文献】特開2008-001571(JP,A)
【文献】特開平02-055275(JP,A)
【文献】特開平06-144950(JP,A)
【文献】特開平07-133169(JP,A)
【文献】特開2000-109380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00-38/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全細孔容積に対する細孔径1.0μm以上の細孔の細孔容積の割合が10~45%であり、
比重が1.0以下であり、
全細孔容積に対する細孔径0.1μm未満の細孔の細孔容積の割合が40~65%であり、
全細孔容積が0.4~1.0cc/gであり、
セメントと、珪砂と、無機多孔質粒子と、を含み、
前記無機多孔質粒子は、パーライト、ゼオライト、黒曜石発泡体、シラス発泡体、気泡コンクリート、ロックウール、及び軽石からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記無機多孔質粒子の嵩比重は0.2以下である、無機多孔質成形体。
【請求項2】
前記無機多孔質粒子は、パーライトである、請求項1に記載の無機多孔質成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機多孔質成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外壁材等の建材として広く用いられる無機成形体が知られているが、近年の作業者の減少や高齢化に伴い、軽量化による施工性向上が強く求められている。
【0003】
特許文献1には、木質繊維や無機発泡体を必須成分とする軽量無機質成形体に関する技術が開示されている。このような軽量無機質成形体は、低比重で軽量であるが、多量の無機質発泡体を添加すると、成形体の細孔容積が増大して吸水率が上昇するとともに、吸水された水分が凍結して成形体にクラックが発生する、いわゆる凍害の問題がある。
【0004】
上記に対し、無機成形体における微細な細孔径の細孔容積の割合を増大させることで、軽量化と耐凍害性を両立させる手段が考えられる。この種の技術として、特許文献2には、0.1μm以下の微細気孔の割合を50%以上としたセラミック建材に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4287943号公報
【文献】特許第2870382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示されたセラミック建材は、耐凍害性に優れているが、微細気孔の容積割合を増大させることのみでは、成形体が緻密化して比重が増大するため、近年要求されている更なる軽量化(低比重化)の観点からは十分なものであるとは言えない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、吸水率が低く耐凍害性に優れ、かつ、十分に低比重化された無機多孔質成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、全細孔容積に対する細孔径1.0μm以上の細孔の細孔容積の割合が10~45%であり、比重が1.0以下である、無機多孔質成形体に関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0010】
本実施形態に係る無機多孔質成形体は、セメント組成物を水と混合して硬化させたセメント硬化体である。上記セメント硬化体は、例えば、建築物の外壁や間仕切壁等に使用される窯業系サイディング材(セメント板等)として用いられる。
【0011】
[セメント組成物の含有成分]
本実施形態のセメント硬化体の原料であるセメント組成物は、水硬性材料と、無機多孔質粒子と、パルプ材と、を含む。以下、各含有成分について説明する。
【0012】
(水硬性材料)
水硬性材料は、後述する無機多孔質粒子及びパルプ材の結合剤として用いられ、セメントに対し、珪砂、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、珪藻土、シラス、シリカヒューム等の珪酸質原料を加えて生成されるものである。
本実施形態において、水硬性材料中のカルシウム/シリカのモル比であるC/Sは、0.8~1.6である。また、セメント組成物における水硬性材料の含有量は特に制限されるものではないが、固形分比率で30~58質量%含まれることが好ましい。
【0013】
〔セメント〕
本実施形態に係るセメント組成物に含まれるセメントとしては、特に制限されず、水と混合されて水和反応により硬化体を形成する各種セメント類が用いられる。例えば、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、耐硫酸塩性セメント等を、セメント硬化体の使用目的に応じて適宜選択することができる。これらのセメントは1種のみを用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0014】
〔珪砂〕
珪砂は、二酸化ケイ素(SiO)を主成分とする砂状物質であり、本実施形態に係るセメント組成物の骨材として用いられる。骨材としての珪砂は吸水率が低く、強度及び耐久性が高く、化学的な安定性が高いことから好ましく用いられる。このような珪砂としては、例えば、石英を粉砕加工及び分級して製造される人造珪砂や、石英砂の状態で陸地や河口、海岸等で採取及び分級される天然珪砂等が用いられる。
【0015】
(無機多孔質粒子)
無機多孔質粒子は、本実施形態に係るセメント硬化体における、細孔径1.0μm以上の細孔の細孔容積の割合を10~45%の範囲内に制御するために用いられる。このような無機多孔質粒子としては、パーライト、ゼオライト、黒曜石発泡体、シラス発泡体、気泡コンクリート、ロックウール、軽石等が用いられる。中でもパーライトを用いることが好ましい。
無機多孔質粒子としては、嵩比重が0.1以下であるものがより好ましく用いられる。嵩比重が0.2を超える無機多孔質粒子を用いた場合、セメント硬化体の比重を1.0以下にするためには、無機多孔質粒子の添加量が増加し、相対的なセメントの量が減少するため、セメント硬化体の強度が低下する。
【0016】
本実施形態のセメント組成物における無機多孔質粒子の含有量は特に制限されるものではないが、固形分比率で10~60質量%含まれることが好ましい。
【0017】
(パルプ材)
パルプ材は、本実施形態に係るセメント硬化体の強度を高めるために用いられる。このようなパルプ材としては、特に制限されないが、N材パルプ、L材パルプ等の木材パルプや古紙パルプ、機械パルプ、化学パルプ等の各種パルプ材が用いられる。
【0018】
本実施形態のセメント組成物におけるパルプ材の含有量は特に制限されるものではないが、固形分比率で8~10質量%含まれることが、製造されるセメント硬化体の強度及び成形性の観点から好ましい。
【0019】
(その他の含有成分)
本実施形態に係るセメント組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で上記成分の他、公知のセメント組成物に含まれ得る成分が含まれていてもよい。例えば、珪砂以外の細骨材、粗骨材などの骨材、又は、マイカ、シリカヒューム、スラグ、フライアッシュ、補強繊維(ポリプロピレン等)、木質繊維、硬化促進剤(塩化カルシウム等)、撥水剤、減水剤、遅延剤、発泡剤、消泡剤、又は、リサイクル材(セメント硬化体の製造工程で発生する、硬化前又は硬化後のセメント硬化体の不良材)等が含まれていてもよい。
中でも、撥水材が含まれることでセメント硬化体の吸水率が低下するため好ましい。撥水材の種類は特に制限されず、脂肪酸系、シリコーン系等の撥水材が用いられる。
【0020】
[セメント硬化体の製造方法]
本実施形態に係る無機多孔質成形体としてのセメント硬化体の製造方法としては、特に制限されるものではなく、公知の方法で製造できる。例えば、上記セメント組成物と水とをミキサー等で混合・混錬させてスラリーを作成した後、押出成形、注型成形、抄造成形、プレス成形等により成形し、必要に応じてオートクレーブ養生や湿潤養生、常温養生等により硬化させることで製造できる。
【0021】
[セメント硬化体]
本実施形態に係る無機多孔質成形体としてのセメント硬化体は、全細孔容積に対する細孔径1.0μm以上の細孔の細孔容積の割合が10~45%であり、比重が1.0以下である。なお、本明細書における「細孔」とは、水銀圧入法で測定される細孔を示し、全細孔容積及び、特定範囲の細孔径の細孔容積の累計は、市販の水銀ポロシメータを用いて測定することができる。
【0022】
従来の無機多孔質成形体において、低比重化(軽量化)のため、細孔径1.0μm以上の細孔の細孔容積の割合を増大させることは、吸水率増大及び凍害のリスク増大に繋がると考えられていた。具体的には、無機多孔質成形体の表面に付着した水分が、細孔径が1.0μm以上の細孔から毛細管現象により無機多孔質成形体の内部に含侵し、含侵した水分が凍結して膨張することで、無機多孔質成形体にクラックを生じさせ、凍害を発生させると考えられていた。
そして、凍害を抑制するには、毛細管現象の起こり難い、より細孔径の小さい細孔の細孔容積の割合のみを増大させることが重要であると考えられていた。
【0023】
本実施形態に係る無機多孔質成形体の1.0μm以上の細孔の細孔容積の割合は10%以上である。これにより、無機多孔質成形体の比重を1.0以下とすることができ、無機多孔質成形体を好適に軽量化できる。
また、同様に1.0μm以上の細孔の細孔容積の割合は45%以下である。これにより、無機多孔質成形体の凍害を抑制できる。
すなわち、本実施形態に係る無機多孔質成形体において、細孔径1.0μm以上の細孔の細孔容積の割合を10~45%とすることで、無機多孔質成形体の軽量化と、凍害の抑制とを両立できる。
【0024】
また、本実施形態に係る無機多孔質成形体は、全細孔容積に対する細孔径0.1μm未満の細孔の細孔容積の割合が40~65%である。これにより、無機多孔質成形体内部への水の含侵を抑制できるため、凍害を好ましく抑制できる。
【0025】
また、本実施形態に係る無機多孔質成形体は、全細孔容積が0.4~1.0cc/gである。全細孔容積が0.4cc/gを下回ると、無機多孔質成形体の比重を1.0以下とすることが困難になり、全細孔容積が1.0cc/gを超過すると、無機多孔質成形体の吸水率が高くなり、凍害発生のリスクが増大する。
【0026】
上記説明した本実施形態に係る無機多孔質成形体は、低比重で軽量化されているため施工性に優れ、かつ吸水率が低く凍害発生のリスクが低い。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【0027】
上記実施形態において、無機多孔質成形体としてセメント板等のセメント硬化体を例に挙げて説明したが、これに限定されない。無機多孔質成形体としては、セメント硬化体に限定されず、例えばセラミックス等の焼結体であってもよいし、用途としても外壁や間仕切壁等に用いられるセメント板に限定されず、例えば下地材、床材等に用いてもよい。
【0028】
上記実施形態において、セメント硬化体の細孔径1.0μm以上の細孔の細孔容積の割合を10~45%の範囲内に制御するために無機多孔質粒子を用いるものとして説明したが、これに限定されない。発泡剤等の他の成分、又は焼成温度や成型時のプレス圧等の製造条件により上記制御を行ってもよい。
【実施例
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0030】
[実施例1~6、比較例1~4]
表1に示した配合量で(表1中の数字の単位は質量部、C/Sはモル比を示す)、パルプ材に水を添加し混合して得られたパルプ水に水硬性材料、無機多孔質体、等を添加し混合して得られた混合物を加圧脱水して成形し、170℃、8時間オートクレーブ養生を行い、実施例1~6、比較例1~4の無機多孔質成形体を得た。なお、実施例4,5,6は、原料の配合量は同一であるが、得られる無機多孔質成形体の狙い比重が異なる。
【0031】
【表1】
【0032】
表1中の各含有成分として、以下の材料を使用した。
・セメントA:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
・セメントB:中庸熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
・セメントC:低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
・パーライトA:嵩比重0.2、浮水率79%
・パーライトB:嵩比重0.2、浮水率90%
・パーライトC:嵩比重0.1、浮水率94%
上記パーライトの浮水率、とは、約10gの試料を200mlのメスシリンダーに入れて水を入れ、十分に攪拌した後に静置し、水の濁りがなくなるまで置き、浮いた試料の容積Va(cm)と、沈んだ試料の容積Vb(cm)を測定し、Va/(Va+Vb)×100(vol%)の式により算出したものである。
なお、表1中の「リサイクル材」は、無機多孔質成形体の製造工程で発生する、硬化前又は硬化後の無機多孔質成形体の不良材を示す。
【0033】
[測定]
実施例1~6及び比較例1~4で得られた無機多孔質成形体について、比重、細孔径容積、吸水率、曲げ強度、耐凍害性の測定を行った。測定条件は以下の通りである。
【0034】
《細孔径分布》
全細孔径容積(cc/g)及び1.0μm以上の細孔の細孔容積(cc/g)並びに全細孔容積に対する1.0μm以上の細孔の細孔容積の割合(%)については、細孔径分布測定結果から得た。細孔径分布測定は、全自動細孔径分布測定装置(Poremaster 33P、Quantachrome社)を用い、以下の測定条件により測定した。結果を表2に示す。
(測定条件)
測定回数:検体当たり1回
測定範囲:8.6kPa-200MPa(細孔直径6.4nm-175μm)
加圧モード:連続加圧 speed=5
前処理条件:室温真空排気 10min
使用セル:SM-2mm標準セル
試料乾燥:真空12時間以上
ScanMode:11
【0035】
《吸水率》
実施例1~6及び比較例1~4で得られた無機多孔質成形体について、吸水率(%)を測定した。吸水率はJIS A 5430に準拠した方法に従って、浸漬時間をそれぞれ1時間、又は24時間として測定した。結果を表2に示す。
【0036】
《曲げ強度》
実施例1~6及び比較例1~4で得られた無機多孔質成形体について、曲げ強度(kgf/cm)を測定した。曲げ強度は、JIS A 5422及びJIS A 1408に準拠した方法に従って測定した。結果を表2に示す。
【0037】
《耐凍害性》
実施例1~6及び比較例1~4で得られた無機多孔質成形体について、耐凍害性を評価した。耐凍害性の評価は、72時間吸水した上記実施例及び比較例の無機多孔質成形体の試験板でASTMC666-A法に準ずる凍結融解サイクル試験を行い、50サイクル時点での体積膨張率(ΔV%)を測定して行った。体積膨張率(ΔV%)が12.5%未満を〇と評価し、12.5%以上を×と評価した。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示す通り、1.0μm以上の細孔の細孔容積の割合が10~45%である実施例1~6の無機多孔質成形体は、比重を1.0以下とすることができ、かつ吸水率が低く耐凍害性の点でも優れていることが確認された。
【0040】
また、表2に示す通り、細孔径0.1μm未満の細孔の細孔容積の割合が40~65%である実施例1~6の無機多孔質成形体は、上記範囲外である比較例の無機多孔質成形体と比較して、耐凍害性に優れることが確認された。
【0041】
また、表2に示す通り、全細孔容積が0.4~1.0cc/gである実施例1~6の無機多孔質成形体は、全細孔容積が1.0cc/gを超過する比較例2、3の無機多孔質成形体と比較して、吸水率が低いことが確認された。