(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20230629BHJP
H02K 41/02 20060101ALI20230629BHJP
B23Q 5/28 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
H02K41/03 A
H02K41/02 A
B23Q5/28 B
(21)【出願番号】P 2019173967
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】坂井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】野村 健
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-300759(JP,A)
【文献】特開2017-060362(JP,A)
【文献】特開平05-247333(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0207691(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104218771(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
H02K 41/02
B23Q 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な平板状でなるベッド,前記ベッドの長手方向に直動案内ユニットを介して往復移動自在な平板状のテーブル,前記テーブルの前記ベッドに対する対向面に前記テーブルの移動方向に極性が交互に異にして並設された多数のマグネットから成る界磁マグネット,及び前記界磁マグネットに対向して前記ベッドの前記テーブルに対向する面に前記長手方向に沿って電機子コイルを多数配設した基板を有する電機子組立体から成る可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置において,
すべての前記電機子コイル
および前記電機子コイルを電源線に接続する結線部の周囲が
、BMCから成
り一体構造に構成されたモールド部材で覆われて前記基板に位置決め固定されていることを特徴とする可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置。
【請求項2】
前記BMCは,前記成形収縮率が-0.02%,及び前記熱収縮率の指標となる線膨張係数が2.3×10
-5/℃であって,前記電機子コイルの熱影響による変形を低減できることを特徴とする請求項
1に記載の可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置。
【請求項3】
前記電機子コイル及び前記モールド部材を覆う表面保護シートには,前記電機子コイルのコアレス領域に対応する位置に複数のガス抜き孔が形成されており,前記ガス抜き孔を通じて前記基板が上方に露出している請求項1
または請求項2に記載の可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,半導体製造装置,各種組立装置,測定・検査装置等の各種の装置に使用される可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置は,半導体製造装置,各種の組立装置,検査・測定装置等の各種の装置に使用されている。スライド装置は,電機子組立体を構成する基板に電機子コイルとその電源線に接続するコネクタとを固定して装置そのものをシンプルでコンパクトに構成し,直動案内ユニットを組み込んでテーブルを確実に摺動させ,しかも装置そのものが安価であることが求められている。
【0003】
本出願人は,可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置を開発し,先に特許出願した。該スライド装置は,モールドする接着剤として熱硬化性樹脂系のエポキシ樹脂系のものが使用され,また,表面保護シートをガラス繊維強化プラスチックのもので構成している。該スライド装置は,可動マグネット型リニアモータを内蔵し,テーブルの往復移動のストローク長さを長くし,テーブルの推力,高速性,高応答性を向上させ,小形でコンパクトに製作効率が良好になっている。上記スライド装置は,ベッドをコイルヨークに,テーブルをマグネットヨークに構成する。電機子組立体が基板上の電機子コイル,電源線を電機子コイルに結線した配線を有している。電機子組立体は,電機子コイルの面を表面保護シートで覆われている。基板には,接着剤によるモールド部で電機子コイルを,電源線と配線との結線部を接着剤によるモールド部で固着されている。モールドする接着剤は,例えば,熱硬化性樹脂系のエポキシ樹脂系のものが使用され,中でも主剤と硬化剤を混合接触させ,化学反応で固化するものである。表面保護シートは,ガラス繊維強化プラスチックのもので構成されている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,コアレスリニアモータとして,プリント基板の片側に複数の電機子コイルを設け,エポキシ樹脂で電機子コイルを覆うようにモールドすることが知られている。該コアレスリニアモータは,硬化反応時のエポキシ樹脂の体積収縮や硬化後の残留応力によりプリント基板に曲げモーメントが生じ,電機子の強度低下や反りなどの変形が生じるものである。そして,上記コアレスリニアモータは,プリント基板内にもモールド樹脂を流入させるように,プリント基板の一部に長孔を空けて樹脂を流入させることにより,強度低下や反りなどの変形を低減できるものである(例えば,特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-300759号公報
【文献】特開2013-27055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,特許文献1のように電機子組立体の片面だけに電機子コイルを配置してモールドすると,モールド剤の熱収縮等が基板片面のみに作用する。ここで,トランスファ成形のようにモールド剤を金型に充填して成形する方法を採用すると,モールド剤が密に充填され,基板に作用する熱収縮等が大きくなって基板が反るおそれがある。また,特許文献2は,基板の反りを低減するため,基板の反対面側にモールド剤が流入するように構成すると,モールド剤の流入孔が基板に多数設けられているため,製造作業が煩雑になるという問題がある。
【0007】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,特許文献1に開示されたモールド剤を成形収縮率や熱収縮率の小さいバルクモールディングコンパウンド(以下、BMC)に変更し,基板に孔を空けることなく簡単な方法で成形後の基板の変形を低減して,基板上に電機子コイル及び結線部をBMCで固定配設して基板の変形を抑制し,テーブルのストローク長さを長く移動できるように構成し,また,テーブルの推力を向上させて高速性,高応答性等の性能を満足させるため,テーブルやベッドに設けていた各種の部品を設置型の制御装置側に移設し,特に,電機子コイル及び結線部のモールド材を軽量な材料を用いて,往復移動するテーブルそのものを軽量にシンプルに構成すると共に,コイル側面にも完全に薄いモールド層を充填し,一層の絶縁性と保護性能を向上させ,電機子組立体の上面即ち電機子コイル上面とモールド部材上面を同一平面の平滑な面に形成し,表面保護シートの接着性を向上し,製品のモジュール高さ増を無くしてより薄く個体差の少ない厚さ寸法の安定した品質を確保し,装置そのものの製作効率を良好にして小形でコンパクトに構成した可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は,長尺な平板状でなるベッド,前記ベッドの長手方向に直動案内ユニットを介して往復移動自在な平板状のテーブル,前記テーブルの前記ベッドに対する対向面に前記テーブルの移動方向に極性が交互に異にして並設された多数のマグネットから成る界磁マグネット,及び前記界磁マグネットに対向して前記ベッドの前記テーブルに対向する面に前記長手方向に沿って電機子コイルを多数配設した基板を有する電機子組立体から成る可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置において,
少なくとも前記電機子コイルの周囲が成形収縮率と熱収縮率の小さい熱硬化性樹脂であるBMCから成るモールド部材で覆われて前記基板に位置決め固定されていることを特徴とする可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置に関する。
【0009】
また,このスライド装置は,前記基板の一端には,前記電機子コイルを電源線に接続する結線部が前記モールド部材で覆われて位置決め固定されており,前記モールド部材は,前記電機子コイルと前記結線部とをモールドするため一体構造に構成されているものである。
【0010】
また,このスライド装置において,前記BMCは,前記成形収縮率が-0.02%,及び前記熱収縮率の指標となる線膨張係数が2.3×10-5/℃であって,前記電機子コイルの熱影響による変形を低減できるものである。
【0011】
また,このスライド装置は,前記電機子コイル及び前記モールド部材を覆う表面保護シートには,前記電機子コイルのコアレス領域に対応する位置に複数のガス抜き孔が形成されており,前記ガス抜き孔を通じて前記基板が上方に露出しているものである。
【発明の効果】
【0012】
このスライド装置は,上記のように,基板上に複数の電機子コイルを成形収縮率や熱収縮率の小さな熱硬化性樹脂であるBMCで配設固定したので,成形後の基板の変形を抑制でき,ベッド上を走行移動するテーブルのストロークを長く移動でき,テーブルの推力を向上させて高速性,高応答性等の性能を十分に発揮できる。また,BMCによって基板上に位置決め固定された電機子コイルは,熱影響で基板上を移動することなく,基板上に適正に配設され,良好な作動状態を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明による可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置の実施例を示す斜視図である。
【
図2】
図1のスライド装置における電機子組立体を示す斜視図である。
【
図3】
図2の電機子組立体でシートの透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明による可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置の実施例について説明する。この発明によるスライド装置は,クリーンルーム,試験実験室等のエリアで稼働される半導体製造装置,各種組立装置,測定・検査装置,試験装置,工作機械等の各種の装置に組み込んで使用して好ましいものである。また,このスライド装置は,本出願人が先に開発した従来例,例えば,特開2007-300759号公報に開示したスライド装置を踏襲したものであり,接着剤であるエポキシ樹脂のモールド部材の材料に比較して成形収縮率と熱収縮率が小さい熱硬化性樹脂であるBMC材料を使用したものであり,成形後の基板の変形を抑制し,ベッド上を走行移動するテーブルの移動ストロークを長く形成し,高速性,高応答性等の性能を十分に発揮させることができるものである。
【0015】
以下,図面を参照して,この発明による可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置を説明する。このスライド装置は,慨した,長尺な平板状でなるベッド2,ベッド2の長手方向に直動案内ユニット10を介して往復移動自在な平板状のテーブル1,テーブル1のベッド2に対する対向面にテーブル1の移動方向に極性が交互に異にして並設された多数の永久磁石25から成る界磁マグネット6,及び界磁マグネット6に対向してベッド2のテーブル1に対向する面に長手方向に沿って電機子コイル7を多数配設した基板11を有する電機子組立体5から成る可動マグネット型リニアモータを内蔵したものである。このスライド装置は,装置そのものが最小限の必要な部品に限定されており,例えば,テーブル1の推力を向上させて高速性,高応答性等の性能を満足させるため,テーブル1やベッド2に設けていた各種の部品を,設置型の制御装置側に移設し,構造そのものをシンプルに構成して軽量化を達成し,それによって,往復移動するテーブル1を軽量にシンプルに構成してテーブル1の往復移動の推力をアップし,高速性,高応答性等の性能を有効に発揮させ,テーブル1のストロークを長く構成でき,各種の装置に容易に組み込んで使用できるものである。
【0016】
このスライド装置は,小形に構成され,界磁マグネット6が装着されたテーブル1が鋼等の磁性材から成り,マグネットヨークとして磁気回路部分を構成しており,また,ベッド2が同様に磁性材から成り,各電機子コイル7に対してコイルヨークとして作用する磁気回路部分を構成している。即ち,可動マグネット型リニアモータは,ベッド2がコイルヨークとして且つテーブル1がマグネットヨークとして磁気回路部分になる磁性材料から構成されている。テーブル1のベッド2に対する対向面に,多数の永久磁石25でなる界磁マグネット6を位置決め可能にする凹部(図示せず)が形成されている。テーブル1に形成された凹部(図示せず)は,界磁マグネット6が配設される幅でテーブル1の移動方向即ちスライド方向に延びている。また,テーブル1の上面には,テーブル1のスライド方向に延びる逃げ凹部が形成されている。
【0017】
また,このスライド装置は,電機子コイル7及び界磁マグネット6の大きさを大きくして推力を向上させたものである。具体的には,電機子組立体5は,ベッド2の上面51に配設されており,電機子コイル7とその配線のみが配設された構造に構成されている。また,テーブル1の下面は,界磁マグネット6に付随して配置された部材が設けられておらず,更に支持具に支持された原点マークが無く,界磁マグネット6及びリニアスケール8のみが配設された構造に構成されている。テーブル1には,相手部材(図示せず)を固定するための取付け用ねじ孔32が設けられており,リニアスケール8を取り付けるための取付け面が移動方向に延びて設けられている。テーブル1の下面の側部には,スライド方向に沿ってリニアエンコーダであるリニアスケール8が固着され,ベッド2の側面には,リニアスケール8に対向してリニアエンコーダでなるセンサ15が取り付けられている。ベッド2には,上面51のスライド方向の中央部に形成された凹部に取付け用ねじ孔23が形成され,支持ブラケット21には取付け用孔が形成されている。また,センサ15は,ベッド2に固定された支持ブラケット21に固定されている。支持ブラケット21は,凹部に配設して固定ねじを支持ブラケット21の取付け用孔の挿通して取付け用ねじ孔に螺入して,ベッド2に固定されている。また,ベッド2には,複数の取付けねじ孔22が形成され,センサ線18は,ベッド2に形成された取付け用ねじ孔22に螺入されたねじで固定された支持バンド16でベッド2に固定されている。
【0018】
このスライド装置は,具体的には,長尺な平板状でなるベッド2に配設した電機子組立体5を構成する基板11と基板11上の電機子コイル7,及びベッド2の長手方向に直動案内ユニット10を介して往復移動自在な平板状でなるテーブル1に設けた界磁マグネット6から成る可動マグネット型リニアモータを内蔵したものである。界磁マグネット6は,テーブル1のベッド2に対する下面にテーブル1の移動方向に極性が交互に異にして並設された多数の永久磁石25から構成されており,電機子組立体5は,界磁マグネット6に対向してベッド2のテーブル1に対する上面51に長手方向に沿ってコアレスの扁平の電機子コイル7を多数配設して構成されている。即ち,このスライド装置は,テーブル1のベッド2に対する対向面即ち下面にテーブル1の移動方向に極性が交互に異にして並設された多数の永久磁石25でなる界磁マグネット6,及び界磁マグネット6に対向してベッド2のテーブル1に対する対向面即ち上面51に長手方向に沿って矩形状のコアレスでなる電機子コイル7を多数配設した電機子組立体5を有する可動マグネット型リニアモータを内蔵したものである。このスライド装置は,基板11に配設された電機子コイル7の上面を覆って,電機子コイル7の絶縁と保護を行う表面保護シート20を備えている。電機子コイル7の上面とモールド部材26の上面とは,同一平面に構成することにより電機子組立体5が平滑な面に形成され,表面保護シート20の接着性が向上し,表面保護シート20が電機子コイル7とモールド部材26とに確実に接着された構造を確保することになる。該構造によって,電機子組立体5は,上面のモールド剤の付着によるモジュール高さ増が無くなり,より薄く個体差の少ないモジュールが構成され,厚さ寸法の品質も安定するようになる。表面保護シート20は,例えば,ガラス繊維強化プラスチックで構成されている。基板11には,従来のような電機子コイル7の固定用の孔や電機子コイル7の基板11への位置決め用孔等は形成されておらず,基板11上に電機子コイル7と結線部27とは,モールド部材26でモールドして位置決め固定されている。モールド部材26は,電機子コイル7をモールドするモールド部9と電機子コイル7と電源線17とを結線する結線部27をモールドするモールド部14から構成されている。また,モールド部材26は,トランスファ成形によって密にモールドすることにより,コイル側面の薄いモールド層にも完全にモールド部材26を充填することによって,電機子組立体5を絶縁性能と保護性能とをより一層向上させることができる。また,電機子組立体5の側面のモールド部材26の形状が安定するため,後の形状処理を癇便化できる。
【0019】
電機子組立体5は,基板11に固着された電機子コイル7及び基板11と反対側になる電機子コイル7の対向面を表面保護シート20で被覆し,表面保護シート20と基板11との間で電機子コイル7の周囲を接着剤にてモールドしたモールド部材26を形成した構造を有している。また,電機子組立体5のおける薄膜状になる表面保護シート20は,界磁マグネット6に対向して配置されるように構成されている。また,電機子組立体5の基板11の下面をベッド2の上面51に配設した構造に構成されている。また,表面保護シート20には,複数の細孔から成るガス抜き孔24が形成されているので,電機子コイル7が位置する領域と外部とがガス抜き孔24を通じて通気され,熱膨張差に対応できるように構成されている。表面保護シート20は,電機子コイル7に異物が浸入して傷つき,漏電事故等が発生するのを防止すると共に,水滴にも強い性質を持っており,電機子コイル7を良好に保護する機能を有している。このスライド装置では,電機子組立体5には,電機子コイル7の界磁マグネット6に対向するほぼ全面を被覆する表面保護シート20が固着されており,表面保護シート20と基板11との間に,電機子コイル7と結線部27とをモールドしたモールド部材26が形成されている。
【0020】
この発明によるスライド装置は,電機子コイル7が配設されたベッド2がコイルヨークとしての磁気回路部分が磁性材料から構成され,永久磁石25が配設されたテーブル1がマグネットヨークとしての磁気回路部分が磁性材料から構成されている。更に,電機子組立体5は,複数の電機子コイル7,電機子コイル7を上面に配列した基板11,及び基板11の上面に配置され且つ電源線17が結線されて電機子コイル7に電源をそれぞれ供給する配線(図示せず)から構成されている。基板11に配置された電機子コイル7は,その周囲が接着剤からなるモールド部9でモールドされて基板11に固着され,基板11の下面はベッド2の上面51にねじ止めされている。基板11には,取付け用孔37が形成されている。基板11は,固定ねじ30を取付け用孔37に嵌挿してベッド2の取付けねじ孔に螺入してベッド2に固定されている。
【0021】
このスライド装置は,ベッド2の両端部にテーブル1の飛び出しを防止するためエンドプレート12が配設されている。エンドプレート12は,鋼板をL字形に折り曲げて中央部に電源線17が嵌入可能な凹欠部が形成されただけの簡単な構造に形成されており,テーブル1の当接面にパッド13が配設されている。また,エンドプレート12を電機子組立体5の基板11の端面に当接してベッド2にねじ止めすることによって,電機子組立体5を長手方向に保持する構造に構成される。エンドプレート12には,取付け用孔(図示せず)が形成され,ベッド2には,エンドプレート12の取付け用ねじ孔(図示せず)が形成される。それで,エンドプレート12は,固定ボルト29を取付け用孔に挿通して取付け用ねじ孔に螺入することによって,ベッド2にねじ止めされる。また,このスライド装置は,電機子コイル7に対する界磁マグネツト6の平行度,及びセンサ15に対するリニアスケール8の平行度を維持するために,直動案内ユニット10が組み込まれてる。直動案内ユニット10は,ベッド2に固定された一対の軌道レール3と,テーブル1の下面の取付け面に固定された4個のスライダ4から構成されている。ベッド2には,取付け用ねじ孔が形成され,軌道レール3には取付け用孔が形成されている。軌道レール3は,固定ねじ31を軌道レール3の取付け用孔に挿通して取付け用ねじ孔に螺入することによって,ベッド2に固定されている。テーブル1には,位置決めピン19用の取付け孔が形成されており,取付け孔に位置決めピン19が装着されている。直動案内ユニット10は,1本の軌道レール3に対して一対のスライダ4が配設され,一つのスライダ4に対して1本の位置決めピン19で位置決めする簡単構造で高精度に構成されている。
【0022】
この発明によるスライド装置は,特に,電機子コイル7が周囲が熱硬化性樹脂であるBMCから成るモールド部材26で覆われていることを特徴としている。このスライド装置は,電機子コイル7の周囲を基板11上にモールドするのに,従来のエポキシ樹脂に比較して,成形収縮率や熱収縮率の小さな熱硬化性樹脂であるBMCを用いてモールドし,電機子コイル7及び電源線17を電機子コイル7に接続する結線部27を基板11に配設して位置決め固定したものである。モールド部材26を構成するBMCは,主成分の不飽和ポリエステル樹脂に短いガラス繊維等の強化材と充てん材を混合した材料に硬化剤を予め決められた所定の金型に入れて射出成形したものである。BMCの熱硬化性樹脂は,エポキシ樹脂に比較して成形収縮率や熱収縮率の小さな熱硬化性樹脂である。また,本実施例で使用されたBMCは,例えば,成形収縮率が-0.02%,及び熱収縮率の指標となる線膨張係数が2.3×10-5/℃であって,基板11及び電機子コイル7の熱影響による変形を低減できるものである。このスライド装置は,具体的には,電機子組立体5が3個一組の三相通電方式で成る電機子コイル7と,電機子コイル7を片面側に配列した基板11と,基板11の片面側に配置され電機子コイル7にそれぞれ電源を供給する電源線17と,電源線17と電機子コイル7とを結線する結線部27,結線部27と電機子コイル7とを基板11に固定するモールド部材26,及び電機子コイル7の表面を覆う表面保護シート20を有している。電源線17の一端には,他の機器(ドライバ)に接続されるコネクタ49が設けられている。また,界磁マグネット6は,磁極が4極即ち永久磁石25を4個配列したものである。このスライド装置に組み込まれたリニアモータは,界磁マグネット6とそれに対応する電機子組立体5を6個の電機子コイル7とから構成したものが示されているが,例えば,界磁マグネット6の磁極を8極配列し,12個の電機子コイル7からなる電機子組立体5で構成することができる。電機子コイル7は,基板11の片面側,言い換えると,界磁マグネット6に対向する基板11の上面側に配列されている。基板11の長手方向の一端には,電機子コイル7に電源を供給する電源線17が結線部27で接続されている。界磁マグネット6に対向する電機子コイル7の表面には,絶縁シートとなる表面保護シート20が固定されている。表面保護シート20は,例えば,嫌気性の接着剤により電機子コイル7の表面側のモールド部9に固定されている。
【0023】
モールド部材26のBMCは,基板11上の電機子コイル7の周囲と,基板11と電源線17との接続部の結線部27をモールドする。BMCであるモールド部材26は,電機子コイル7の周囲に位置するモールド部9と,基板11と電源線17との結線部27に位置するモールド部14から構成されている。それによって,このスライド装置は,モールド部9により,電機子コイル7が基板11に位置決め固定される。更に,このスライド装置は,モールド部9によって防塵性,耐久性,安全性,及び使い勝手が良好になっており,また,モールド部によって基板11と電源線17との接続部のはんだ付け部である結線部27が絶縁固定され,結線部27即ちはんだ付けの外れも防止できるようになっている。このスライド装置は,具体的には,BMCが成形収縮率が小さい(例えば,―0.02%)ため,成形時のそのままの大きさ,言い換えると,成形後にBMCが収縮することによる基板11の変形を低減できる。その結果,このスライド装置は,薄く,長尺の電機子組立体5を容易に製造することができる。更に,BMCは,線膨張係数が小さい(例えば,2.3×10-5/℃)ため,テーブル1の稼働時に,電機子コイル7が発熱した場合であっても,BMCの熱変形による基板11等の変形を小さくでき,また,電機子組立体5の取付け状態での熱応力が小さな製品を提供することができる。加えて,BMCは,荷重たわみ温度が高いため(例えば,200℃より高い),熱負荷に対する強度が高い製品を提供することができる。
【0024】
次に,このスライド装置について,BMCによるモールド部材26で基板11上に電機子コイル7,電源線17及び結線部27を位置決め固定する作製方法を説明する。このスライド装置は,基板11に電機子コイル7と電源線17が固定するには,基板11を所定の金型に装着し,基板11上に電機子コイル7と電源線17を配設し,溶融したBMCを充填して硬化させるトランスファ成形によりモールドする。このスライド装置は,トランスファ成形により,電機子コイル7の周囲のモールド部9と電線接続部のモールド部14とを一体に成形することができる。これにより,モールド部9とモールド部14とを一体に成形でき,モールド部9とモールド部14との繋ぎ目を無くすことができる。このスライド装置の作製には,トランスファー成形を採用することにより,充填ムラや未充填等の充填不良,表面のヒケの発生を抑制することができ,電機子コイル7の側面の薄いモールド層にも完全に充填でき,絶縁性能及び保護性能をより一層向上させることができる。また,モールド部材26の表面を平滑にできるため,表面保護シート20の接着性が向上し,表面保護シート20がモールド部材26に密に接着できる。更に,モールド部9にならって,接着後の表面保護シート20も平滑になるため,電機子組立体5と界磁マグネット6との隙間を容易に所定の間隔に設定することができ,テーブル1即ちリニアモータの推力を安定化させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
このスライド装置は,半導体製造装置,各種組立装置,測定・検査装置,試験装置,位置決めテーブル,スライドテーブル等の各種装置に組み込んで使用される。
【符号の説明】
【0026】
1 テーブル
2 ベッド
3 軌道レール
4 スライダ
5 電機子組立体
6 界磁マグネット
7 電機子コイル
9,14 モールド部
10 直動案内ユニット
11 基板
17 電源線
20 表面保護シート
24 ガス抜き孔
25 永久磁石
26 モールド部材
27 結線部