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特許7304272珪藻中に蓄積されたオイルの濃度の測定装置
<図1>
  • 特許-珪藻中に蓄積されたオイルの濃度の測定装置 図1
  • 特許-珪藻中に蓄積されたオイルの濃度の測定装置 図2
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  • 特許-珪藻中に蓄積されたオイルの濃度の測定装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】珪藻中に蓄積されたオイルの濃度の測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019205368
(22)【出願日】2019-11-13
(65)【公開番号】P2021076545
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219451
【氏名又は名称】東亜ディーケーケー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000217686
【氏名又は名称】電源開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】浦田 美由貴
(72)【発明者】
【氏名】大日方 智
(72)【発明者】
【氏名】西村 恭彦
【審査官】柳澤 朱香
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-146539(JP,A)
【文献】特開2019-117079(JP,A)
【文献】特開2017-106831(JP,A)
【文献】特開2001-083094(JP,A)
【文献】特開2014-174034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソラリス株(Fistulifera sp. JPCC DA0580株)およびルナリス株(Mayamaea sp. JPCC CTDA0820株)からなる群から選ばれる少なくとも1種の珪藻の培養液中の、前記珪藻中に蓄積されたオイルの濃度の測定装置であって、
前記培養液をオーバーフローさせて液面を形成させることが可能なオーバーフロー筒と、
光源と、
前記光源から発せられる光を斜め上方から照射光として前記オーバーフロー筒からオーバーフローする前記培養液の液面に導く照射光学系と、
前記照射光によって、前記培養液から発せられる応答光を受光する受光器と、
前記液面の上方に配置され前記応答光を前記受光器に導く受光光学系と、
装置全体を制御すると共に、前記受光器が得た前記応答光の強度が入力されて所定の演算を行う演算制御部と、を備え、
前記受光光学系は、前記応答光の内、少なくとも前記オイルによる蛍光と、前記珪藻の藻体数に応じた補正応答光とを含む、波長が異なる複数の光を選択的に前記受光器に導くように構成され、
前記照射光学系は、前記光源から発せられる光の内、少なくとも前記蛍光を得るための励起光と、前記補正応答光を得るための補正照射光とを含む、波長が異なる複数の光を選択的に前記培養液の液面に導くように構成され、
前記蛍光を得るための励起光の波長が230±10nm、前記蛍光の波長が330±10nmであり、
下記ステップ1~3を行うことを特徴とする珪藻中蓄積オイル濃度の測定装置。
ステップ1:前記照射光学系により、前記光源から発せられる光の内、前記蛍光を得るための励起光を前記培養液の液面に導き、前記受光光学系により、前記応答光の内、前記蛍光を前記受光器に導き、蛍光強度Ifを得る。
ステップ2:前記照射光学系により、前記光源から発せられる光の内、前記補正照射光を前記培養液の液面に導き、前記受光光学系により、前記応答光の内、前記補正応答光を前記受光器に導き、前記補正応答光の強度Imを得る。
ステップ3:前記蛍光強度Ifに基づき、前記培養液中の前記オイルの濃度を演算する。前記オイルの濃度を演算するにあたり、前記補正応答光の強度Imに基づき、前記珪藻が増殖期からオイル蓄積期に移行したか否かを判定し、前記オイル蓄積期に移行する前は、前記増殖期に対応する第1の検量線を用いて前記オイルの濃度を演算し、前記オイル蓄積期に移行した以降は、前記オイル蓄積期に対応する第2の検量線を用いて前記オイルの濃度を演算する。
【請求項2】
前記補正照射光の波長が280±10nm、前記補正応答光の波長が330±10nmである、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記補正照射光の波長が660±10nm、前記補正応答光の波長が660±10nmである、請求項1に記載の測定装置。
【請求項4】
前記補正応答光の強度Imの1日の増加率が前日よりも低くなったときに、前記オイル蓄積期に移行したと判定する、請求項1~3のいずれか一項に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソラリス株(Fistulifera sp. JPCC DA0580株)およびルナリス株(Mayamaea sp. JPCC CTDA0820株)からなる群から選ばれる少なくとも1種の珪藻の培養液中の、前記珪藻中に蓄積されたオイルの濃度の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オイル蓄積能を有する微細藻類を培養し、微細藻類中に蓄積されたオイルを回収してバイオ燃料として利用することが検討されている。近年、ソラリス株およびルナリス株が優れたオイル蓄積能を有することが報告されている(非特許文献1~5)。
【0003】
微細藻類からバイオ燃料を製造する際には、バイオ燃料の生産効率の観点から、微細藻類中のオイル蓄積量が十分に増えたタイミングでオイルを回収することが望ましい。オイルを回収するタイミングを見極めるために、培養中に継続的に、微細藻類中のオイル蓄積量を把握することが望ましい。
【0004】
微細藻類中に蓄積された脂質を簡易に検出可能な方法として、微細藻類を含む流体をフローセルに流し、フローセルに励起光を照射し、励起光を照射された微細藻類の脂質で生じた自家蛍光(波長540から620nmの黄色光)を検出する方法が提案されている(特許文献1)。自家蛍光の強さは、微細藻類中の脂質の大きさを反映するとされている。励起光としては波長450nmから495nmの青色光が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-106831号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】松本光史,田中剛、「微細藻類を用いたバイオ原料・燃料用オイル生産技術開発への挑戦」、Journal of Environmental Biotechnology、vol.12、No.1,9-14,2012
【文献】松本光史、「微細藻類によるグリーンオイル生産技術の実用化に向けて」、化学と生物、vol.54、No.3,181-190,2016
【文献】田中剛、「海洋微細藻類の高層化培養によるバイオディーゼル生産」、戦略的創造研究推進事業CREST 平成26年度研究終了報告書、国立研究開発法人科学技術振興機構、[online]、[令和1年9月4日検索]、〈URL:https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/report/heisei21/pdf/pdf09/09-009.pdf〉
【文献】「戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発」、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、平成27年10月、[online]、[令和1年9月4日検索]、〈URL:https://www.nedo.go.jp/content/100764464.pdf〉
【文献】「好冷性微細藻類を活用したグリーンオイル一貫生産プロセスの構築」、第10回福岡県地域エネルギー政策研究会、平成26年5月26日、[online]、[令和1年9月4日検索]、〈URL:http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/362369_54044148_misc.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法は、珪藻類であるソラリス株やルナリス株に蓄積されたオイルの濃度を精度良く測定することが難しい。
【0008】
本発明は、ソラリス株やルナリス株の培養中に、それらの珪藻中に蓄積されたオイルの濃度を精度良く測定できる測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するために、本発明は、以下の構成を採用した。
[1]ソラリス株(Fistulifera sp. JPCC DA0580株)およびルナリス株(Mayamaea sp. JPCC CTDA0820株)からなる群から選ばれる少なくとも1種の珪藻の培養液中の、前記珪藻中に蓄積されたオイルの濃度の測定装置であって、
前記培養液をオーバーフローさせて液面を形成させることが可能なオーバーフロー筒と、
光源と、
前記光源から発せられる光を斜め上方から照射光として前記オーバーフロー筒からオーバーフローする前記培養液の液面に導く照射光学系と、
前記照射光によって、前記培養液から発せられる応答光を受光する受光器と、
前記液面の上方に配置され前記応答光を前記受光器に導く受光光学系と、
装置全体を制御すると共に、前記受光器が得た前記応答光の強度が入力されて所定の演算を行う演算制御部と、を備え、
前記受光光学系は、前記応答光の内、少なくとも前記オイルによる蛍光と、前記珪藻の藻体数に応じた補正応答光とを含む、波長が異なる複数の光を選択的に前記受光器に導くように構成され、
前記照射光学系は、前記光源から発せられる光の内、少なくとも前記蛍光を得るための励起光と、前記補正応答光を得るための補正照射光とを含む、波長が異なる複数の光を選択的に前記培養液の液面に導くように構成され、
前記蛍光を得るための励起光の波長が230±10nm、前記蛍光の波長が330±10nmであり、
下記ステップ1~3を行うことを特徴とする珪藻中蓄積オイル濃度の測定装置。
ステップ1:前記照射光学系により、前記光源から発せられる光の内、前記蛍光を得るための励起光を前記培養液の液面に導き、前記受光光学系により、前記応答光の内、前記蛍光を前記受光器に導き、蛍光強度Ifを得る。
ステップ2:前記照射光学系により、前記光源から発せられる光の内、前記補正照射光を前記培養液の液面に導き、前記受光光学系により、前記応答光の内、前記補正応答光を前記受光器に導き、前記補正応答光の強度Imを得る。
ステップ3:前記蛍光強度Ifに基づき、前記培養液中の前記オイルの濃度を演算する。前記オイルの濃度を演算するにあたり、前記補正応答光の強度Imに基づき、前記珪藻が増殖期からオイル蓄積期に移行したか否かを判定し、前記オイル蓄積期に移行する前は、前記増殖期に対応する第1の検量線を用いて前記オイルの濃度を演算し、前記オイル蓄積期に移行した以降は、前記オイル蓄積期に対応する第2の検量線を用いて前記オイルの濃度を演算する。
[2]前記補正照射光の波長が280±10nm、前記補正応答光の波長が330±10nmである、前記[1]の測定装置。
[3]前記補正照射光の波長が660±10nm、前記補正応答光の波長が660±10nmである、前記[1]の測定装置。
[4]前記補正応答光の強度Imの1日の増加率が前日よりも低くなったときに、前記オイル蓄積期に移行したと判定する、前記[1]~[3]のいずれかの測定装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の測定装置によれば、ソラリス株やルナリス株の培養中に、それらの珪藻中に蓄積されたオイルの濃度を精度良く測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る測定装置の概略構成図である。
図2】[試験例1]で作製した第1の検量線および第2の検量線を示すグラフである。
図3】[試験例1]でのステップ2の測定結果(補正照射光の波長=280nm、補正応答光の波長=330nm)と藻体数の測定結果を示すグラフである。
図4】[試験例1]でのステップ1の測定結果(補正照射光の波長=230nm、補正応答光の波長=330nm)と藻体数の測定結果を示すグラフである。
図5】[試験例2]でのステップ2の測定結果(補正照射光の波長=660nm、補正応答光の波長=660nm)と藻体数の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の測定装置は、ソラリス株(Fistulifera sp. JPCC DA0580株)およびルナリス株(Mayamaea sp. JPCC CTDA0820株)からなる群から選ばれる少なくとも1種の珪藻の培養液中の、前記珪藻中に蓄積されたオイル(以下、「珪藻中蓄積オイル」ともいう。)の濃度を測定するものである。
【0013】
本発明の一実施形態に係る測定装置の構成を図1に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る測定装置1は、上端が開口し、培養液Sが導入される測定槽ユニット10と、測定槽ユニット10の上方における開口を外部からの光を遮断して閉塞するように配置された光学ユニット20と、演算制御部30とを備える。なお、測定槽ユニット10には、培養液導入管と培養液排出管が接続されている。
測定装置1は、演算制御部30により、装置全体の動作が制御される。また、光学ユニット20で検出された信号等が演算制御部30に入力され、入力された値等に基づき、必要な演算を行うようになっている。
また、測定装置1は、図示を省略する表示器を備え、演算制御部30で演算された珪藻中蓄積オイル濃度等を適宜表示できるようになっている。
【0014】
本実施形態の測定槽ユニット10は、外槽11と、外槽11に斜め下方から挿入されたオーバーフロー筒12とで構成されている。
【0015】
外槽11は、前面から観察した際に略三角形である略三角柱状の形状とされている。前面から観察した際に略三角形として見える部分は、上端に形成された矩形状の開口11aと、開口11aを囲む周面の内の第一面11bと第二面11cとで囲まれた部分である。
【0016】
オーバーフロー筒12はその上端側が、第一面11b部分で外槽11に挿入されている。
オーバーフロー筒12の下端側は培養液入口12aとされ、上端は開口12bとされ、培養液入口12aに連結された培養液導入管から流入した培養液Sが開口12bでオーバーフローし、開口12b付近にオーバーフロー面(液面)を形成するようになっている。オーバーフロー筒12の開口12bは水平とされ、オーバーフロー筒12の開口12bの近傍は良好なオーバーフロー面を形成できるように肉薄とされている。
オーバーフロー筒12の開口12bは、外槽11の開口11aよりも低い位置とされている。
第二面11cとオーバーフロー筒12との間の下端には、オーバーフロー筒12からオーバーフローした培養液Sを培養液排出管に排出するための培養液出口11dが設けられている。
【0017】
光学ユニット20は、培養液Sに接触することなく、測定槽ユニット10の上端における開口を外部からの光を遮断して閉塞するように配置されており、培養液Sの液面に向けて照射光を照射し、照射光によって培養液Sから発せられる応答光を検出するようになっている。
【0018】
本実施形態の光学ユニット20は、ベース板21とフード22で囲まれた空間に、照射光となる光を発する光源24と、照射光学系25と、応答光を受光する受光器26と、受光光学系27とが収容され、これら全体がベース板21上に載置されて構成されている。光源24、照射光学系25、受光器26、受光光学系27それぞれの内部機構の図示は省略している。
【0019】
ベース板21には、照射光学系25の先端を測定槽ユニット10に向かって突出させるための第1開口21aが照射光学系25の先端形状に沿って形成されている。また、受光光学系27の先端を測定槽ユニット10に向かって突出させるための第2開口21bが受光光学系27の先端形状に沿って形成されている。
【0020】
照射光学系25は、その先端が培養液Sの液面の上方に配置され、光源24から発せられる光を、図1において照射光光軸L1で示す光軸に沿って、斜め上方から照射光としてオーバーフロー筒12からオーバーフローする培養液Sの液面に導くようになっている。
【0021】
受光光学系27は、その先端が、照射光が照射された培養液Sの液面の上方に配置され、図1において応答光光軸L2で示す光軸に沿って、照射光によって培養液Sから発せられる応答光を受光器26に導くようになっている。本実施形態において、応答光光軸L2は、鉛直方向、すなわち、培養液Sの液面に対して垂直な方向となっている。
照射光光軸L1と応答光光軸L2とは、オーバーフロー筒12上端の開口12bの位置近傍において交叉している。
応答光は、例えば、照射光を励起光として発せられる蛍光であってもよいし、照射光の散乱光であってもよい。
【0022】
照射光光軸L1と応答光光軸L2とがなす角度θは、典型的には30°以上であり、45±15゜が好ましく、45±10゜がより好ましく、45±5゜がさらに好ましく、45゜が特に好ましい。
角度θが30゜以上であることにより、励起光の光路と応答光の光路とを分離できる。そのため、各光路(照射光学系25、受光光学系27)に回折格子を配置して分光することにより、培養液Sの液面に照射される照射光の波長と、応答光の内、受光器26に導入される光の波長とを、測定のステップに応じて個別に選択できる。
また、角度θが好ましい下限値より大きいことにより、光学ユニット20に入射する迷光(照射光の散乱光や反射光等)を低減させることができる。また、角度θが好ましい上限値より小さいことにより、照射光の液面での反射率が増加してしまうことを防ぎ、培養液S中のオイルから、充分な蛍光を応答光として発生させることができる。また、角度θが好ましい上限値より小さいことにより、液面における照射光のスポット径が大きくなりすぎることを防止し、応答光を安定して検出することができる。
【0023】
光源24としては、Xeフラッシュランプ(キセノン放電管)、Dランプ(重水素放電管)等を適宜用いることができる。
【0024】
本実施形態の照射光学系25は、回折格子を有している。
照射光学系25の回折格子は、光源24から入射した光(光源光)を分光するようになっている。回折格子は、図示を省略するモータにより回転可能とされており、その回転位置に応じて、入射した光源光の内、特定の波長の光を照射光学系25から照射させるようになっている。すなわち、回折格子の回転位置により、培養液Sの液面に向けて照射させる照射光の波長を選択できるようになっている。
照射光学系25から照射させる特定の波長の光としては、少なくとも、測定対象成分である珪藻中蓄積オイルによる蛍光を得るための励起光(波長λe)と、珪藻の藻体数に応じた補正応答光を得るための補正照射光を含む、波長が異なる複数の光を選択できるようになっている。選択する補正照射光は、一種(波長λx)でも二種以上(波長λx,λx・・・)でもよい。
【0025】
本実施形態の受光光学系27は、回折格子を有している。
受光光学系27の回折格子は、測定槽ユニット10から入射した応答光を分光するようになっている。回折格子は図示を省略するモータにより回転可能とされており、その回転位置に応じて、入射した応答光の内、特定の波長の光を受光器26に入射させるようになっている。すなわち、回折格子の回転位置により、受光器26に入射させる応答光の波長を選択できるようになっている。
受光器26に入射させる特定の波長の光としては、少なくとも、測定対象成分である珪藻中蓄積オイルによる蛍光(波長λf)と、珪藻の藻体数に応じた補正応答光を含む、波長が異なる複数の光を選択できるようになっている。選択する補正応答光は、一種(波長λm)でも二種以上(波長λm,λm・・・、但し、波長λmの補正応答光は波長λxの補正照射光によって得られる補正応答光であり、波長λmの補正応答光は波長λxの補正照射光によって得られる補正応答光である。)でもよい。
【0026】
受光器26としては、光電子増倍管、フォトダイオード、フォトトランジスタ、アバランシェフォトダイオード等を適宜用いることができる。
受光器26の感度は可変である。すなわち、受光器26が検出する応答光(蛍光または補正応答光)の光量に応じて適切な感度が、演算制御部30の制御の下、選択できるようになっている。例えば、受光器26が光電子増倍管の場合、演算制御部30が印加電圧を調整することにより感度を調整できるようになっている。受光器26の感度が可変とされていることにより、後述するステップ1の蛍光強度Ifとステップ2の補正応答光の強度Imに大きな差があっても、各々の強度を正確に測定することができる。
受光器26で検出した結果は、演算制御部30に送られ、珪藻中蓄積オイル濃度等が求められるようになっている。
演算制御部30は適宜、珪藻中蓄積オイル濃度等を表示器に出力し、表示器で表示させる。
なお、本実施形態では、表示器を備える構成としたが、表示器は必須ではない。測定装置を、プリンタを備えるものとし、珪藻中蓄積オイル濃度等のデータをプリンタに出力して印字するようにしてもよい。測定装置を、記憶部および出力部を備えるものとし、珪藻中蓄積オイル濃度等のデータを記憶部に出力して記録し、適宜、記憶部に記録されたデータを出力部に出力して外部(遠隔地にある端末等)に送信するようにしてもよい。
【0027】
本実施形態の測定装置1は、演算制御部30の制御下、下記ステップ1~3を行うようになっている。
ステップ1:照射光学系25により、光源24から発せられる光の内、珪藻中蓄積オイルによる蛍光を得るための励起光(波長λe)を培養液Sの液面に導き、受光光学系27により、培養液Sから発せられる応答光の内、珪藻中蓄積オイルによる蛍光(波長λf)を受光器26に導き、蛍光強度Ifを得る。
ステップ2:照射光学系25により、光源24から発せられる光の内、前記珪藻の藻体数に応じた補正応答光を得るための補正照射光(波長λx)(複数の場合、波長λx,λx・・・)を培養液Sの液面に導き、受光光学系27により、培養液Sから発せられる応答光の内、前記補正応答光(波長λm)(複数の場合、波長λm,λm・・・)を受光器26に導き、前記補正応答光の強度Im(複数の場合強度Im,強度Im・・・)を得る。
但し、波長λmは波長λxの補正照射光によって得られる補正応答光の波長であり、強度Imは、その時の補正応答光の強度である。同様に、波長λmは波長λxの補正照射光によって得られる補正応答光の波長であり、強度Imは、その時の補正応答光の強度である。
ステップ3:前記蛍光強度Ifに基づき、培養液S中の珪藻中蓄積オイル濃度を演算する。珪藻中蓄積オイル濃度を演算するにあたり、前記補正応答光の強度Im(複数の場合強度Im,強度Im・・・)に基づき、培養液S中の前記珪藻が増殖期からオイル蓄積期に移行したか否かを判定し、オイル蓄積期に移行する前は、増殖期に対応する第1の検量線を用いて珪藻中蓄積オイル濃度を演算し、オイル蓄積期に移行した以降は、オイル蓄積期に対応する第2の検量線を用いて珪藻中蓄積オイル濃度を演算する。
【0028】
ステップ1における励起光の波長λeは230±10nmであり、蛍光の波長λfは330±10nmである。
【0029】
ステップ2における補正照射光は、珪藻の藻体数を測定するための補正照射光、または表面散乱光を測定するための補正照射光を含み、補正応答光は、藻体数を測定するための補正応答光、または散乱光を測定するための補正応答光を含むことが好ましい。
藻体数を蛍光で測定する場合、補正照射光の波長λxは280±10nm、補正応答光の波長λmは330±10nmである。
散乱光を測定する場合、補正照射光の波長λx、補正応答光の波長λmは同じ値となる。散乱光を測定する場合、補正照射光の波長λx、補正応答光の波長λmは共に660±10nmであることが好ましい。
【0030】
ステップ3では、前記蛍光強度Ifに基づき、培養液S中の珪藻中蓄積オイル濃度を演算する。この演算にあたり、補正応答光の強度Im(複数の場合、強度Im,強度Im・・・)に基づき、培養液S中の前記珪藻が増殖期からオイル蓄積期に移行したか否かを判定し、オイル蓄積期に移行する前は、増殖期に対応する第1の検量線を用いて珪藻中蓄積オイル濃度を演算し、オイル蓄積期に移行した以降は、オイル蓄積期に対応する第2の検量線を用いて珪藻中蓄積オイル濃度を演算する。
前記珪藻の培養を行うと、まず藻体数が増加し(増殖期)、その後、藻体数がほとんど変化せずにオイル蓄積量が増える(オイル蓄積期)。増殖期では主に藻体数の増加により珪藻中蓄積オイル濃度が増加し、オイル蓄積期では主に藻体毎のオイル蓄積量の増加により珪藻中蓄積オイル濃度が増加する。いずれの時期でも珪藻中蓄積オイル濃度は増加するが、増加率は異なる。増殖期とオイル蓄積期とを判別し、増殖期、オイル蓄積期それぞれに適した検量線を用いることで、珪藻中蓄積オイル濃度の測定精度が向上する。また、増殖期とオイル蓄積期とを判別することで、珪藻中蓄積オイルを回収するタイミングの見極めも容易となる。
【0031】
補正応答光の強度Im(複数の場合強度Im,強度Im・・・)は、藻体数と相関しているので、例えば、前記珪藻の培養中、演算制御部30に入力された補正応答光の強度Imに基づき、補正応答光の強度Imの1日の増加率を算出し、この増加率が前日よりも低くなったときに、増殖期からオイル蓄積期に移行したと判定することができる。増加率が前日よりも低くなったときは、換言すれば、補正応答光の強度Imが、増殖期における補正応答光の強度Imの増加直線から乖離したときである。
【0032】
補正応答光の強度Imが、前日と比較して増加しなかったときに、増殖期からオイル蓄積期に移行したと判定してもよい。
予め作製した検量線により、補正応答光の強度Imから藻体数(個/mL)を算出し、藻体数が目標値に達したときに、増殖期からオイル蓄積期に移行したと判定してもよい。
補正応答光の強度Imと藻体数との関係を示す検量線は、培養期間が異なる複数の培養液について、補正応答光の強度Imと藻体数とを実際に測定し、それらの測定値から最小二乗法により求めることができる。
実際の藻体数(個/L)は、血球計算盤を用いて測定できる。
【0033】
第1の検量線は、下式(1)で表すことができる。第2の検量線は、下式(2)で表すことができる。
y=a×x+b ・・・(1)
y=d×x+e ・・・(2)
但し、xは蛍光強度Ifであり、yは珪藻中蓄積オイル濃度であり、a、b、d、eは係数である。
【0034】
第1の検量線は、補正応答光の強度Imに基づきオイル蓄積期に移行したと判定される前の複数の培養液(培養期間の異なるもの)について、蛍光強度Ifと珪藻中蓄積オイル濃度(mg/L)とを実際に測定し、それらの測定値から最小二乗法により求めることができる。
第2の検量線は、複数の培養液として、補正応答光の強度Imに基づきオイル蓄積期に移行したと判定された後のものを用いる以外は、第1の検量線と同様にして求めることができる。
実際の珪藻中蓄積オイル濃度(mg/L)は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0035】
ステップ1~3は、前記珪藻の培養中、連続的にまたは断続的に(例えば1日1回以上)行われる。
【0036】
以上、実施形態を示して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【実施例
【0037】
[試験例1]
<第1の検量線および第2の検量線の作製>
ルナリス株を培養し、培養中に複数回、蛍光強度Ifと珪藻中蓄積オイル濃度(mg/L)を測定した。増殖期にあるかオイル蓄積期にあるかは、下記の<増殖期とオイル蓄積期の判別>に示すとおり、励起光の波長λe=280nm、蛍光の波長λf=330nmにおける蛍光強度Imの変化により確認した。蛍光強度Ifは、図1の測定装置を用い、励起光の波長λe=230nm、蛍光の波長λf=330nmにて測定した。珪藻中蓄積オイル濃度は、溶媒抽出法により測定した。
増殖期における蛍光強度Ifと珪藻中蓄積オイル濃度の測定値から最小二乗法により第1の検量線を求めた。また、オイル蓄積期における蛍光強度Ifと珪藻中蓄積オイル濃度の測定値から最小二乗法により第2の検量線を求めた。
結果を図2に示す。図2に示すとおり、増殖期とオイル蓄積期とでは、得られる検量線が異なっていた。具体的には、第1の検量線は、y=0.0088x+0.5203(決定係数R=0.9779)、第2の検量線は、y=0.0587x-15.254(決定係数R=0.779)であった。
【0038】
<増殖期とオイル蓄積期の判別>
ルナリス株を培養し、培養中に1日1回、図1の測定装置を用いてステップ1とステップ2を行い、培養液の珪藻中蓄積オイル濃度を測定した。ステップ1における励起光の波長λeは230nm、蛍光の波長λfは330nmとした。ステップ2における補正照射光の波長λxは280nm、補正応答光の波長λmは330nmとした。
ステップ1、2と並行して、培養液中の実際の藻体数(個/mL)を、ビルケルチュルク血球計算盤を用いて測定した。
【0039】
ステップ2で得た補正応答光の強度Imと藻体数の測定結果を図3に示す。また、ステップ1で得た蛍光強度Ifと藻体数の測定結果を図4に示す。図3中の「EX280EM330」はステップ2の結果であり、図4中の「EX230EM330」はステップ1の結果である。図3~4中の右側の縦軸の「4.0E+06」との表記は「4.0×10」を意味し、他も同様である。
図3に示すとおり、波長280nmの補正照射光によって得られる補正応答光の強度Imと藻体数とは高い相関があり、補正応答光の強度Imで増殖期とオイル蓄積期とを判別することができた。
一方、図4に示すとおり、藻体数の影響があるため蛍光強度Ifと蓄積オイル濃度とは相関性が低く、適切な検量線を使用できないと(オイル蓄積期に第1の検量線を使用する、または増殖期に第2の検量線を使用することで)、蛍光強度Ifと検量線から算出される珪藻中蓄積オイル濃度と、実際の珪藻中蓄積オイル濃度とは乖離する。
【0040】
[試験例2]
ルナリス株を培養し、培養中に複数回、図1の測定装置を用いてステップ2を行った。ステップ2における補正照射光の波長λxは660nm、補正応答光の波長λmは660nmとした。
ステップ2と並行して、培養液中の実際の藻体数(個/mL)を、ビルケルチュルク血球計算盤を用いて測定した。
ステップ2で得た補正応答光の強度Imと藻体数の測定結果を図5に示す。
図5に示すとおり、波長660nmの補正照射光によって得られる補正応答光の強度Im(散乱光強度)は、前記した波長280nmの補正照射光によって得られる補正応答光と同様に、藻体数と高い相関があった。
したがって、波長660nmの補正照射光によって得られる補正応答光の強度Imによって、増殖期とオイル蓄積期とを判別することができる。また、この強度Imから藻体数を求め、その藻体数によって増殖期とオイル蓄積期とを判別することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の測定装置によれば、ソラリス株やルナリス株の増殖期とオイル蓄積期とを判別し、増殖期、オイル蓄積期それぞれに適した検量線を用いることで、それらの珪藻中に蓄積されたオイルの濃度を精度良く測定できる。また、増殖期とオイル蓄積期とを判別することで、オイルを回収するタイミングの見極めも容易となる。また、培養液をオーバーフローさせて形成した液面に励起光等を照射するオーバーフロー方式であるため、従来のフローセル方式に比べ、汚れに強くメンテナンスが容易である。
【符号の説明】
【0042】
1 測定装置
10 測定槽ユニット
11 外槽
12 オーバーフロー筒
20 光学ユニット
21 ベース板
22 フード
24 光源
25 照射光学系
26 受光器
27 受光光学系
30 演算制御部
L1 照射光光軸
L2 応答光光軸
S 培養液
図1
図2
図3
図4
図5