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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】樹脂粒子分散体
(51)【国際特許分類】
   C08F 265/06 20060101AFI20230629BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230629BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20230629BHJP
   C09D 11/023 20140101ALI20230629BHJP
   C09D 11/107 20140101ALI20230629BHJP
【FI】
C08F265/06
C08K3/013
C08L51/06
C09D11/023
C09D11/107
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019215512
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2021084977
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】竹野 泰陽
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-295420(JP,A)
【文献】特開2011-012173(JP,A)
【文献】特開2006-206665(JP,A)
【文献】特開2005-336399(JP,A)
【文献】特開2004-154982(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180284(WO,A1)
【文献】特開2007-161600(JP,A)
【文献】特開2019-116535(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103601837(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第0434388(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 265/00-265/10
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09D 11/00-11/54
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル型樹脂粒子(A)と、水とを含有する、樹脂粒子分散体であって、
コアシェル型樹脂粒子(A)のシェル部樹脂が、炭素数4以上8以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位を含み、
コアシェル型樹脂粒子(A)のコア部樹脂が、溶解度パラメータが17.0(J/cm30.5以上21.0(J/cm30.5以下である(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)由来の構成単位を5質量%以上含み、
コア部樹脂のガラス転移温度が50℃以下であり、
コアシェル型樹脂粒子(A)の酸価が50mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である、樹脂粒子分散体。
【請求項2】
コア部樹脂が、さらに炭素数2以上18以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b-2)由来の構成単位を含む、請求項1に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸エステル(b-2)の炭素数2以上18以下の炭化水素基が、炭素数3以上12以下のアルキル基、及びベンジル基から選ばれる1種以上である、請求項2に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項4】
シェル部樹脂の酸価が、100mgKOH/g以上280mgKOH/g以下である、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【請求項5】
コアシェル型樹脂粒子(A)中の、シェル部樹脂に対するコア部樹脂の含有量の質量比[コア部樹脂/シェル部樹脂]が、1以上2.5以下である、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【請求項6】
水の含有量が30質量%以上80質量%以下である、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【請求項7】
さらに顔料を含有する、請求項1~6のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【請求項8】
顔料が白色顔料である、請求項7に記載の樹脂粒子分散体。
【請求項9】
グラビア印刷用水性インキである、請求項1~8のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の樹脂粒子分散体を用い、印刷基材として樹脂フィルムに印刷する、印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂粒子分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の印刷業界を取り巻く状況下においては、作業環境、印刷環境、職場環境の意識の高まりを受けて、低臭気性、安全性等の観点から、水を主な溶剤とする水溶性インキが求められている。その一方で、印刷性能の更なる向上も求められている。
また、従来の白地の紙基材に対する印刷から、白地ではない段ボール、板紙、樹脂フィルム等の基材に対する白地印刷の要望が増加している。印刷に用いる樹脂フィルム基材としては、ポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂等が多く使用されているが、特にポリオレフィン樹脂の基材に対して基材密着性等の塗膜物性の改善が求められている。
さらに、近年は、省エネ、環境負荷低減等の要望に加えて、プラスチックゴミの海洋汚染の問題からプラスチックの使用量の低減も求められるようになってきているため、印刷に用いる樹脂フィルム基材も厚みが薄いものが主流になってきている。
【0003】
白地ではない基材に対する印刷の場合、白色を表現したり、視認性を高めるために白色インキが使用される。白色インキに用いる顔料としては、隠蔽性の高い酸化チタンが汎用されている。しかしながら、酸化チタン等を含有する水性インキの場合には、基材との密着性が低下するという問題があった。
ここで、水性インキ組成物は、一般的に顔料、ポリマー、及び水を含み、ポリマーは顔料の分散剤やバインダーとして、印刷物の塗膜物性を向上させる目的で添加されている。バインダーとしては、乳化重合法や転相乳化法により得られる樹脂粒子が用いられている。また、該樹脂粒子は、様々な機能を発現させるために、コアシェル型とすることもある。
【0004】
例えば、特許文献1には、樹脂フィルム基材に対し、優れた塗膜物性を発現するコアシェル型樹脂微粒子分散体、及びそれを含有するグラビア印刷等に用いられる水性インキ組成物の提供を目的として、水溶性樹脂の存在下、水性媒体中でエチレン性不飽和単量体を重合してなる、特定の平均粒子径とTgを有する水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体であって、該水溶性樹脂が、芳香族エチレン性不飽和単量体とカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体とを重合してなる水溶性樹脂であり、水性インキ用コアシェル型樹脂粒子分散体、及び水性インキ組成物が記載されている。
特許文献2では、基材密着性等に優れた水性インキとして用いることができる樹脂粒子分散体の提供を目的として、コア部に特定の(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を特定量含有し、特定の酸価を有するコアシェル型樹脂粒子と、特定のグリコールエーテルとを組み合わせたコアシェル型樹脂粒子分散体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-205816号公報
【文献】特開2019-116535公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水性インキとしては、各種の樹脂フィルム基材に印刷可能で、汎用性が高く、基材密着性に優れるインキが望まれる。特許文献1及び2では、コアシェル型樹脂粒子を配合したインキによりポリオレフィン樹脂フィルム基材への密着性を改善したことが記載されている。
しかしながら、樹脂フィルム等の低吸水性の印刷基材への印刷においては、特に、例えば100μm以下の厚みを有する印刷基材のように、非常に薄く、こわさ(剛度)が低く容易に変形するような印刷基材であるほど、基材密着性が十分でなく、その改善が求められている。
本発明は、低吸水性の印刷基材への印刷において、厚みが非常に薄く容易に変形するような印刷基材を用いる際においても、基材密着性に優れた印刷物を得ることができる、樹脂粒子分散体、及び該樹脂粒子分散体を用いる印刷方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、コアシェル型樹脂粒子を含有する分散体であって、該コアシェル型樹脂粒子の外核にあるシェル部樹脂が、炭素数が特定の範囲である炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含み、該コアシェル型樹脂粒子の内核にあるコア部樹脂が、溶解度パラメータが特定の範囲である(メタ)アクリルアミド系モノマー由来の構成単位を特定の量含み、さらに該コア部樹脂のガラス転移温度を特定値以下とし、該コアシェル型樹脂粒子の酸価を特定の範囲とすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕コアシェル型樹脂粒子(A)と、水とを含有する、樹脂粒子分散体であって、
コアシェル型樹脂粒子(A)のシェル部樹脂が、炭素数4以上8以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位を含み、
コアシェル型樹脂粒子(A)のコア部樹脂が、溶解度パラメータが17.0(J/cm30.5以上21.0(J/cm30.5以下である(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)由来の構成単位を5質量%以上含み、
コア部樹脂のガラス転移温度が50℃以下であり、
コアシェル型樹脂粒子(A)の酸価が50mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である、樹脂粒子分散体。
〔2〕前記〔1〕に記載の樹脂粒子分散体を用い、印刷基材として樹脂フィルムに印刷する、印刷方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低吸水性の印刷基材への印刷において、厚みが非常に薄く容易に変形するような印刷基材を用いる際においても、基材密着性に優れた印刷物を得ることができる、樹脂粒子分散体、及び該樹脂粒子分散体を用いる印刷方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[樹脂粒子分散体]
本発明の樹脂粒子分散体は、コアシェル型樹脂粒子(A)(以下、「樹脂粒子(A)」ともいう)と、水とを含有する、樹脂粒子分散体であって、コアシェル型樹脂粒子(A)の外核にあるシェル部樹脂が、炭素数4以上8以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位を含み、コアシェル型樹脂粒子(A)の内核にあるコア部樹脂が、溶解度パラメータ(以下、「SP値」ともいう)が17.0(J/cm30.5以上21.0(J/cm30.5以下である(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)由来の構成単位を5質量%以上含み、コア部樹脂のガラス転移温度が50℃以下であり、コアシェル型樹脂粒子(A)の酸価が50mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることを特徴とする。
本発明において、「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを示す。
本発明の樹脂粒子分散体は、基材密着性に優れた水性インキとして用いることができ、さらに顔料等を含有させて印刷用、特にグラビア印刷用の水性インキとして用いることができる。また、本発明の樹脂粒子分散体に顔料を含有させない場合は、クリアインキとして用いることができる。
【0011】
本発明の樹脂粒子分散体は、基材密着性に優れた印刷物を得ることができるという効果を奏する。その理由は定かではないが、以下のように推察される。
適度な酸価を有するコアシェル型樹脂粒子は、静電的な反発力によりインキに安定性を付与することができる。また、コアシェル型樹脂粒子の外核にあるシェル部樹脂が炭素数4以上8以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含み、内核にあるコア部樹脂のガラス転移温度を50℃以下とすることで、樹脂フィルム等の基材との密着性が向上し、さらに柔軟性も適度に有するコアシェル構造体となるため、基材の物理的変形に対する追随性が向上し、一定の剥離強度を発現させることができると考えられる。
一般的に、厚みが厚い基材の場合には印刷塗膜に強い剥離応力は生じにくいが、厚みが非常に薄い基材では印刷塗膜に強い剥離応力が生じることとなる。
本発明では、前記コアシェル型樹脂粒子のコア部樹脂に、さらにアミド構造を導入することで強い凝集力(分子間相互作用)を発現させ、強い剥離力に対する抵抗性を向上させることにより、厚みが薄い基材を用いる際の剥離強度を向上させることができると考えられる。
ここで、本発明において、コア部樹脂へのアミド構造の導入に用いる(メタ)アクリルアミド系モノマーのSP値を特定の範囲とすることで、後述するコアシェル型樹脂粒子の形成において、シェル部樹脂を構成する炭素数4以上8以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含む疎水性部位を有するシェルポリマーに効率的に吸収され、コア部樹脂に所定の量の(メタ)アクリルアミド系モノマー由来の構成単位が導入することができ、これにより基材密着性が向上すると考えられる。
【0012】
<コアシェル型樹脂粒子(A)>
本発明の樹脂粒子分散体は、コアシェル型樹脂粒子(A)を含有する。
コアシェル型樹脂粒子(A)は、シェル部樹脂がコア部樹脂を内包した構造を有する樹脂粒子である。
なお、コアシェル型樹脂粒子(A)は3相以上からなるものであってもよい。この場合、前述の構成を満たす相のうち、最内核にある樹脂をコア部樹脂とし、最外核にある樹脂をシェル部樹脂とする。
【0013】
(シェル部樹脂)
コアシェル型樹脂粒子(A)のシェル部樹脂は、炭素数4以上8以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸(a-1)由来の構成単位を含むものであれば特に制限はなく、ポリエステル及びポリウレタン等の縮合系樹脂、ビニル系ポリマー等が挙げられる。
これらの中では、基材密着性を向上させる観点から、ビニル単量体(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましく、アクリル系ポリマーがより好ましい。ビニル系ポリマーは適宜合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
シェル部樹脂は、好ましくは水不溶性ポリマーであり、より好ましくは自己乳化能を有する水不溶性ポリマーである。特に印刷基材として、コロナ放電処理された二軸延伸ポリプロピレンフィルムのような表面処理によりその表面に極性基を有する樹脂フィルム基材を用いる場合には、基材密着性を向上させる観点から、該水不溶性ポリマーは、アニオン性基を有することが好ましい。
【0014】
シェル部樹脂のガラス転移温度は、印刷後のブロッキング防止の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは180℃以下であり、より好ましくは150℃以下である。前記ガラス転移温度は、Foxの式に基づいて、シェル部樹脂を構成するモノマーの質量分率と、各モノマー成分のホモポリマーのガラス転移温度の値から計算により求めることができる。
シェル部樹脂の酸価は、基材密着性を向上させる観点から、好ましくは100mgKOH/g以上、より好ましくは120mgKOH/g以上、更に好ましくは150mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは280mgKOH/g以下、より好ましくは260mgKOH/g以下、更に好ましくは250mgKOH/g以下、より更に好ましくは200mgKOH/g以下である。
シェル部樹脂の酸価は、該シェル部樹脂を構成するモノマーの質量比から算出することができる。
【0015】
シェル部樹脂がビニル系ポリマー、特にアクリル系ポリマーである場合、該シェル部樹脂は、さらにイオン性モノマー(a-2)由来の構成単位を含むことが好ましい。シェル部樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)以外の疎水性モノマー(a-3)由来の構成単位、親水性ノニオン性モノマー(a-4)由来の構成単位を含むものであってもよい。
シェル部樹脂は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)と、必要に応じてさらにイオン性モノマー(a-2)、疎水性モノマー(a-3)及び親水性ノニオン性モノマー(a-4)から選ばれる1種以上とを含むシェル部樹脂モノマーを公知の方法により付加重合して得ることができる。
【0016】
〔(メタ)アクリル酸エステル(a-1)〕
(メタ)アクリル酸エステル(a-1)は、炭素数4以上8以下の炭化水素基を有し、樹脂粒子(A)の分散安定性を向上させる観点から、シェル部樹脂のモノマー成分として用いられる。(メタ)アクリル酸エステル(a-1)としては、好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート等が挙げられ、より好ましくはアルキル(メタ)アクリレートである。
アルキル(メタ)アクリレートは、好ましくは炭素数4以上8以下、より好ましくは炭素数4以上6以下のアルキル基を有するものであり、例えば、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェノキシエチル(メタ)アクリレート等から選ばれる1種以上が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0017】
〔イオン性モノマー(a-2)〕
イオン性モノマー(a-2)は、樹脂粒子(A)の分散安定性を向上させる観点から、シェル部樹脂のモノマー成分として用いられる。
イオン性モノマー(a-2)としては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、樹脂粒子(A)の分散安定性を向上させる観点から、カルボキシ基を有するカルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸等がより好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が更に好ましい。
カチオン性モノマーとしては、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリルアミド等が挙げられる。
なお、イオン性モノマー(a-2)には、酸やアミン等の中性ではイオンではないモノマーであっても、酸性やアルカリ性の条件でイオンとなるモノマーを含む。
【0018】
〔疎水性モノマー(a-3)〕
(メタ)アクリル酸エステル(a-1)以外の疎水性モノマー(a-3)は、樹脂粒子(A)の分散安定性を向上させる観点から、シェル部樹脂のモノマー成分として用いてもよい。疎水性モノマー(a-3)としては、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)以外の、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。
例えば、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)以外のアルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、及びジビニルベンゼン等から選ばれる1種以上が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0019】
〔親水性ノニオン性モノマー(a-4)〕
親水性ノニオン性モノマー(a-4)は、樹脂粒子(A)の分散安定性を向上させる観点から、シェル部樹脂のモノマー成分として用いることができる。
親水性ノニオン性モノマー(b-4)としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2~30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(n=2~30)等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール/プロピレングリコール共重合)(n=1~30、その中のエチレングリコール:n=1~29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。
商業的に入手しうる親水性ノニオン性モノマー(a-4)の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM-20G、同40G、同90G、同230G等、日油株式会社のブレンマーPE-90、同200、同350、PME-100、同200、同400等、PP-500、同800、同1000等、AP-150、同400、同550等、50PEP-300、50POEP-800B、43PAPE-600B等が挙げられる。
上記で挙げたシェル部樹脂のモノマー成分は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
シェル部樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において、上記で挙げたモノマー成分以外の他のモノマー由来の構成単位を含んでもよい。
【0020】
(シェル部樹脂モノマー中の各成分の含有量又はシェル部樹脂中の各構成単位の含有量)
シェル部樹脂製造時における、シェル部樹脂モノマー中の含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)、又はシェル部樹脂中の各成分に由来する構成単位の含有量は、基材密着性を向上させる観点から、次のとおりである。
(メタ)アクリル酸エステル(a-1)の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
イオン性モノマー(a-2)の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
(メタ)アクリル酸エステル(a-1)及びイオン性モノマー(a-2)の合計含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下、より更に好ましくは100質量%である。
【0021】
(コア部樹脂)
コア部樹脂は、基材密着性を向上させる観点から、SP値が17.0(J/cm30.5以上21.0(J/cm30.5以下である(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)由来の構成単位を含む。
【0022】
〔(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)〕
本発明において、(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)のSP値は、Hansenの溶解度パラメータ(HSP値)であり、計算ソフトウェア「Hansen Solubility Parameter in Practice (HSPiP)Version 5.2.02」を用いて算出した値を用いる。
前記SP値は、基材密着性を向上させる観点から、17.0(J/cm30.5以上であり、好ましくは17.3(J/cm30.5以上、より好ましくは17.5(J/cm30.5以上であり、そして、21.0(J/cm30.5以下であり、好ましくは20.7(J/cm30.5以下、より好ましくは20.5(J/cm30.5以下である。
【0023】
(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)としては、N-tert-ブチルアクリルアミド(SP値:20.2)、N-tert-オクチルアクリルアミド(SP値:17.9)、N-(2-エチルヘキシル)アクリルアミド(SP値:19.4)、N-n-オクチルアクリルアミド(SP値:19.8)、N-ドデシルアクリルアミド(SP値:18.5)、N-n-ヘプチルアクリルアミド(SP値:20.3)、N-ヘキシルアクリルアミド(SP値:20.6)、N-シクロヘキシルメタクリルアミド(SP値:20.6)等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基を有するN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジベンジルアクリルアミド(SP値:20.4)等の芳香族基含有(メタ)アクリルアミド;N-イソブトキシメチルアクリルアミド(SP値:20.8)等のN-アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
前記SP値の単位は、「(J/cm30.5」である。また、(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミドを示す。
(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
これらの中でも、基材密着性を向上させる観点から、好ましくは直鎖、分岐又は環状のアルキル基を有するN-アルキル(メタ)アクリルアミドであり、より好ましくは分岐アルキル基を有するN-アルキルアクリルアミドであり、更に好ましくは炭素数4以上8以下の分岐アルキル基を有するN-アルキルアクリルアミドであり、より更に好ましくはN-tert-ブチルアクリルアミド、及びN-tert-オクチルアクリルアミドから選ばれる1種以上である。
【0025】
〔(メタ)アクリル酸エステル(b-2)〕
コア部樹脂は、さらに炭素数2以上18以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b-2)を含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル(b-2)の炭素数2以上18以下の炭化水素基は、酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。(メタ)アクリル酸エステル(b-2)の前記炭化水素基の炭素数は、基材密着性の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、そして、好ましくは12以下、より好ましくは8以下である。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステル(b-2)の前記炭化水素基としては、アルキル基及びアリール基が好ましく、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、オクタデシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル(b-2)の前記炭化水素基は、基材密着性の観点から、好ましくは、炭素数3以上12以下のアルキル基、及びベンジル基から選ばれる1種以上であり、より好ましくはブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、オクタデシル基、シクロヘキシル基、及びベンジル基から選ばれる1種以上、より好ましくは、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、及びベンジル基から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはイソブチル基である。
(メタ)アクリル酸エステル(b-2)は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルから選ばれる1種以上であり、基材密着性の観点から、アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル(b-2)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
炭素数2以上18以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b-2)は、好ましくはブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、セカンダリーブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上であり、より好ましくはイソブチル(メタ)アクリレート、セカンダリーブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはイソブチル(メタ)アクリレートである。
【0028】
(コア部樹脂モノマー中の各成分の含有量又はコア部樹脂中の各構成単位の含有量)
コア部樹脂製造時における、コア部樹脂モノマー中の含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)、又はコア部樹脂を構成する全構成単位中の各成分に由来する構成単位の含有量は、基材密着性を向上させる観点から、次のとおりである。
(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)の含有量は、基材密着性を向上させる観点から、5質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である。
コア部樹脂が炭素数2以上18以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b-2)由来の構成単位を含む場合、該(メタ)アクリル酸エステル(b-2)の含有量は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下である。
(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)及び(メタ)アクリル酸エステル(b-2)の合計含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下、より更に好ましくは100質量%である。
【0029】
コア部樹脂は、樹脂粒子(A)の応力の集中点となるため、応力緩和の観点から、そのガラス転移温度は、50℃以下であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下である。前記ガラス転移温度は、Foxの式に基づいて、コア部樹脂を構成するモノマーの質量分率と、各モノマー成分のホモポリマーのガラス転移温度の値から計算により求めることができる。
コア部樹脂の酸価は、基材密着性を向上させる観点から、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは10mgKOH/g以下、より更に好ましくは0mgKOH/gである。
コア部樹脂の酸価は、該コア部樹脂を構成するモノマーの質量比から算出することができる。
【0030】
(樹脂粒子分散体の製造)
本発明の樹脂粒子分散体は、シェル部樹脂を形成するシェルポリマーのエマルションの存在下で、コア部樹脂を形成するコア部樹脂モノマーを重合してコアシェル型樹脂粒子(A)を形成する製造方法により得ることが好ましい。該製造方法において、SP値が特定の範囲である(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)を含むコア部樹脂モノマーを、(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位を含むシェルポリマーエマルションの存在下で重合させることにより、疎水性のシェルポリマーをシード粒子として、該エマルション中で該シード粒子内部にコア部樹脂モノマーが速やかに吸収され、該コア部樹脂モノマーの重合が進行し、コアシェル型樹脂粒子(A)を形成することができる。
なお、シェルポリマーは、シェル部樹脂と同じ構成単位を含むことが好ましい。すなわち、シェルポリマーは、炭素数4以上8以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位を含み、シェルポリマーに含まれるモノマー由来の構成単位の組成及び含有量は、前述のシェル部樹脂と同様である。
【0031】
樹脂粒子分散体の製造方法としては、具体的には、シェル部樹脂を形成するシェルポリマーのエマルションと水性媒体とを混合し、次いでコア部樹脂を形成するコア部樹脂モノマーを添加し、撹拌しながら昇温し、さらに水溶性重合開始剤を滴下して反応させ、コアシェル型樹脂粒子(A)を形成して、樹脂粒子分散体を得る方法が好ましい。
反応開始後、反応容器内の色相の変化等により、粒子核の形成を確認した後、さらにコア部樹脂モノマーを滴下して反応を続けることで、目的とするコアシェル型樹脂粒子(A)を得ることができる。
コア部樹脂モノマーは、直接反応容器に滴下してもよいし、水性媒体で予め乳化液としてから滴下してもよい。シェルポリマーは水性媒体中で保護コロイドとして働き、生成する粒子核(コア部)を安定化する。この方法により得られる本発明の樹脂粒子分散体は、ニュートニアンに近い粘性を有するため印刷適正に優れている。
また、コア部樹脂モノマーの組成を適宜段階的に変更することで、複数相からなるコア部や最内核から連続的に組成が変化するコア部を製造することができる。
【0032】
樹脂粒子分散体の製造に用いる水性媒体とは、水が最大割合を占めている媒体を意味する。
水溶性重合開始剤としては、公知のものを使用することができる。例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の無機過酸化物、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジハイドロクロライド等のアゾ系開始剤、さらには過酸化化合物に亜硫酸ナトリウム等の還元剤を組み合わせたレドックス開始剤等が挙げられる。
重合の際には、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等の界面活性剤を用いることもできるが、コア部樹脂モノマーのみからなる粒子の形成を抑制し、コアシェル型樹脂粒子を効率的に形成する観点から、界面活性剤は用いないことが好ましい。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50℃以上90℃以下が好ましく、重合時間は1時間以上20時間以下であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
得られる樹脂粒子分散体は、少なくともコアシェル型樹脂粒子(A)と水とを含有するため、水性インキへの配合性の観点から、樹脂粒子分散体の製造に用いた溶剤を除去せずにそのまま用いることが好ましい。
【0033】
〔シェルポリマーエマルションの製造〕
樹脂粒子(A)のシェル部樹脂となるシェルポリマーは、シェル部樹脂モノマーを公知の重合法で適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
シェルポリマーエマルションの製造方法としては、シェルポリマーを水性媒体に添加して分散機等によって分散処理を行う方法、シェルポリマーを含む有機溶媒溶液に水性媒体を徐々に添加して転相乳化させる方法等が挙げられる。これらの中でも、操作の簡便性の観点から、転送乳化による方法が好ましい。
【0034】
転送乳化による方法において、シェルポリマーの重合法としては溶液重合法が好ましい。これにより、得られるシェルポリマー溶液を転送乳化に用いることができる。
溶液重合法で用いる有機溶媒に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、炭素数3以上8以下のケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、メチルエチルケトンがより好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、アゾ化合物が好ましく、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等がより好ましい。重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、3-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトエタノール等がより好ましい。
【0035】
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は50℃以上90℃以下が好ましく、重合時間は1時間以上20時間以下であることが好ましい。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したシェルポリマーを単離することができる。また、得られたシェルポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
シェル部樹脂は、樹脂粒子分散体の生産性を向上させる観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、そのままシェルポリマー溶液として用いることが好ましい。
シェルポリマー溶液の固形分濃度は、樹脂粒子分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。前記シェルポリマー溶液の固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0036】
本発明において、シェルポリマーがアニオン性ポリマーである場合、中和剤を用いてシェルポリマー中のアニオン性基を中和することが好ましい。中和剤を用いる場合、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、アルカリ金属水酸化物、アンモニア、有機アミン等が挙げられる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムが挙げられる。有機アミンとしては、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
中和剤は、基材密着性を向上させる観点から、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物やアンモニアが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0037】
中和剤は、十分かつ均一に中和を促進させる観点から、中和剤水溶液として用いることが好ましい。中和剤水溶液の濃度は、上記と同様の観点から、好ましくは3質量%以上30質量%以下である。
シェルポリマーのアニオン性基の中和度は、基材密着性を向上させる観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上であり、そして、好ましくは300モル%以下、より好ましくは200モル%以下、更に好ましくは150モル%以下である。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量数をシェルポリマーのアニオン性基のモル当量数で除したものである。
【0038】
シェルポリマーの重量平均分子量は、樹脂粒子(A)の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは6,000以上、より好ましくは8,000以上、更に好ましくは10,000以上であり、そして、好ましくは300,000以下、より好ましくは200,000以下、更に好ましくは100,000以下、より更に好ましくは50,000以下である。前記重量平均分子量の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0039】
コアシェル型樹脂粒子(A)中のシェル部樹脂に対するコア部樹脂の含有量の質量比[コア部樹脂/シェル部樹脂]は、基材密着性を向上させる観点から、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは1以上であり、そして、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.7以下、更に好ましくは2.5以下、より更に好ましくは2.3以下である。
【0040】
コアシェル型樹脂粒子(A)の酸価は、コア部及びシェル部を構成する樹脂全体としての酸価であり、基材密着性を向上させる観点から、50mgKOH/g以上であり、好ましくは55mgKOH/g以上、より好ましくは60mgKOH/g以上であり、そして、100mgKOH/g以下であり、好ましくは95mgKOH/g以下、より好ましくは90mgKOH/g以下である。
コアシェル型樹脂粒子(A)の酸価は、構成するモノマーの質量比から算出することができる。また、適当な有機溶剤(例えば、メチルエチルケトン)にコアシェル型樹脂粒子(A)を溶解又は膨潤させ、JIS K0070の中和滴定法に従い測定することができる。
【0041】
コアシェル型樹脂粒子(A)の樹脂粒子分散体中の平均粒径は、基材密着性を向上させる観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは40nm以上であり、そして、好ましくは150nm以下、より好ましくは120nm以下、更に好ましくは100nm以下である。
樹脂粒子分散体中の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0042】
本発明の樹脂粒子分散体の固形分濃度は、水性インキへの配合性の観点から、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
前記樹脂粒子分散体の固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0043】
<顔料>
本発明の樹脂粒子分散体は、顔料を含有することができる。顔料としては、酸化チタン等の白色顔料の他、カーボンブラック等の黒色顔料、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等の有彩色顔料等が挙げられる。
本発明の樹脂粒子分散体は、基材密着性の観点から、背景色用の顔料として用いられる機会が多い白色顔料を含有することが好ましく、酸化チタン顔料を用いる場合に特に有用である。
【0044】
(酸化チタン)
酸化チタンの結晶構造には、ルチル型(正方晶)、アナターゼ型(正方晶)、ブルッカイト型(斜方晶)があるが、結晶の安定性、隠蔽性、及び入手性の観点から、本発明ではルチル型酸化チタン(以下、単に「酸化チタン」ともいう)を用いることが好ましい。
酸化チタンは気相法又は液相法で製造することができるが、結晶性の高いものを得られ易いことから、気相法で製造された酸化チタンがより好ましい。
酸化チタンは、未処理のものを用いることもできるが、光触媒活性を封じる観点及び良好な分散性を得る観点から、表面処理されたものが好ましい。酸化チタンの表面処理としては無機物による表面処理や、チタンカップリング剤、シランカップリング剤等の有機物による表面処理等が挙げられるが、無機物による表面処理が好ましい。
酸化チタンの無機物による表面処理法としては、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、酸化亜鉛(ZnO)、及びジルコニア(ZrO)等から選ばれる1種以上で処理する方法がより好ましい。
表面処理した酸化チタンの粉末は、800~1000℃で焼成することにより、粒子間の焼結を抑制して、二次粒子サイズの流動性、分散性を向上させることもできる。
【0045】
酸化チタンの粒子形状は、粒状、針状等があり特に制限されないが、その平均一次粒径は、白色度の観点から、一次粒子の長径の算術平均で好ましくは40nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは150nm以上、より更に好ましくは200nm以上であり、そして、隠ぺい性の観点から、好ましくは600nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは400nm以下である。
なお、酸化チタンの平均一次粒径は、一次粒子の長径の算術平均であり、実施例に記載の方法により測定される。
ルチル型二酸化チタンの市販品例としては、石原産業株式会社製の商品名:タイペークR、CR、PFシリーズ、堺化学工業株式会社製の商品名:Rシリーズ、テイカ株式会社製の商品名:JR、MTシリーズ、チタン工業株式会社製の商品名:KURONOS KRシリーズ、huntsmann社製の商品名:TRシリーズ等が挙げられる。
【0046】
〔酸化チタン分散体〕
酸化チタンは、酸化チタン分散体として、本発明の樹脂粒子分散体中に配合されることが好ましい。
酸化チタンを分散するためのポリマー分散剤に特に制限はないが、コアシェル型樹脂粒子(A)のシェル部樹脂のモノマー成分として用いることができる、イオン性モノマー(a-2)由来の構成単位を含むポリマーが好ましく、さらに(メタ)アクリル酸エステル(a-1)又は疎水性モノマー(a-3)由来の構成単位、及び親水性ノニオン性モノマー(a-4)由来の構成単位から選ばれる1種以上を含むポリマーがより好ましく、イオン性モノマー(a-2)由来の構成単位と親水性ノニオン性モノマー(a-4)由来の構成単位を含有するポリマーが更に好ましい。
【0047】
酸化チタンを分散するためのポリマー分散剤の好適例としては、分散安定性の観点から、イオン性モノマー(a-2)が、好ましくはアニオン性モノマー、より好ましくはカルボン酸モノマー、更に好ましくはアクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上であり、親水性ノニオン性モノマー(a-4)が、好ましくはポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート及びアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上であり、より好ましくはメトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレートであるポリマーがより好ましい。
この場合、分散安定性の観点から、ポリマー分散剤中のイオン性モノマー(a-2)成分由来の構成単位の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
ポリマー分散剤中の親水性ノニオン性モノマー(a-4)由来の構成単位の含有量は、上記と同様の観点から、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
前記ポリマー分散剤の製造方法は、シェルポリマーの製造方法と同様の方法が好ましい。
【0048】
酸化チタン分散体は、酸化チタン、ポリマー分散剤、及び水を主成分とする水系媒体を含有する混合物を分散処理することにより得ることができる。
分散処理は、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機などを用いて、公知の方法により行うことができる。
また、ポリマー分散剤の塩生成基であるカルボキシ基を有する場合には、該カルボキシ基の少なくとも一部を、アルカリ金属水酸化物等の中和剤で中和することが好ましい。
【0049】
酸化チタン分散体中の水の含有量は、環境負荷低減の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
酸化チタン分散体中の酸化チタン粒子の平均粒径は、印刷濃度の観点から、好ましくは150nm以上、より好ましくは180nm以上、更に好ましくは200nm以上であり、そして、好ましくは700nm以下、より好ましくは600nm以下、更に好ましくは500nm以下である。酸化チタン分散体の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
酸化チタン分散体の固形分濃度(不揮発成分濃度)は、分散安定性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
酸化チタン等の顔料の分散体の固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0050】
<水溶性有機溶剤>
本発明の樹脂粒子分散体は、水溶性有機溶剤を含有することができる。該水溶性有機溶剤としては、グリコールエーテル、アルコール、グリコール等の二価以上の多価アルコール、ピロリドン、アルカノールアミン等が挙げられるが、基材密着性の観点から、グリコールエーテル、グリコールが好ましい。これらの水溶性有機溶剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
本発明の樹脂粒子分散体は、コアシェル型樹脂粒子(A)を可塑化し、基材密着性を向上させる観点から、グリコールエーテルを含むことが好ましい。
グリコールエーテルは、炭素数が2以上8以下である炭化水素基を少なくとも1つ有するものが好ましい。
グリコールエーテルとしては、エーテル部の炭化水素基の炭素数が2以上8以下である、モノアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテル、トリアルキレングリコールモノアルキルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル;モノアルキレングリコールジアルキルエーテル、ジアルキレングリコールジアルキルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテルが挙げられる。
グリコールエーテルのポリアルキレングリコール部は、エチレンオキシドの付加体、プロピレンオキシドの付加体、又はエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの混合付加体が挙げられ、エチレンオキシドの付加体が好ましい。
これらの中でも、乾燥性及びレベリング性を向上させる観点から、アルキレングリコールモノアルキルエーテルが好ましく、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテルから選ばれる1種以上がより好ましい。
【0052】
グリコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール等が挙げられるが、1,2-プロパンジオール、ジエチレングリコール等の炭素数3以上4以下のアルカンジオールが好ましい。
【0053】
<樹脂粒子分散体中における各成分の含有量>
本発明の樹脂粒子分散体中における各成分の含有量は、基材密着性を向上させる観点から、以下のとおりである。
樹脂粒子分散体中のコアシェル型樹脂粒子(A)の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
樹脂粒子分散体中の水の含有量は、環境負荷低減の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0054】
樹脂粒子分散体がさらに顔料を含有する場合、樹脂粒子分散体中の顔料の含有量は、印刷濃度の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
樹脂粒子分散体がさらに水溶性有機溶剤を含有する場合、樹脂粒子分散体中の水溶性有機溶剤の含有量は、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0055】
樹脂粒子分散体がさらに顔料を含有する場合、該樹脂粒子分散体中のコアシェル型樹脂粒子(A)に対する顔料の含有量の質量比[顔料/コアシェル型樹脂粒子(A)]は、印刷濃度の観点から、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.8以上であり、そして、基材密着性の観点から、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2.5以下である。
樹脂粒子分散体がさらに水溶性有機溶剤を含有する場合、該樹脂粒子分散体中の水溶性有機溶剤に対する水の含有量の質量比[水/水溶性有機溶剤]は、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは2以上、より更に好ましくは2.5以上であり、そして、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは30以下、より更に好ましくは10以下、より更に好ましくは5以下である。
本発明において、顔料を含有する樹脂粒子分散体は、そのままインキとして用いることができる。
【0056】
[水性インキ]
本発明の樹脂粒子分散体は、インクジェット記録用インク、グラビア印刷用インキ、フレキソ印刷用インキ等の水性インキとして用いることができるが、基材密着性の観点から、グラビア印刷用の水性インキとして用いることが好ましい。
前記水性インキには、必要に応じて、さらに、界面活性剤、保湿剤、湿潤剤、濡れ・浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を混合して調製することができる。
前記水性インキ中のコアシェル型樹脂粒子(A)、水、顔料、及び水溶性有機溶剤の含有量は、前記の樹脂粒子分散体における含有量と基本的に同様である。
【0057】
前記水性インキに用いる界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。これらの中では、ノニオン性界面活性剤が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、及び2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオールから選ばれる1種以上のアセチレングリコール、及び該アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。これらの中でも、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールが好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、日信化学工業株式会社製の「サーフィノール」シリーズ(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール又は2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキシド付加物)、川研ファインケミカル株式会社製の「アセチレノール」シリーズ等が挙げられる。
【0058】
前記水性インキのpHは、保存安定性の観点から、好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上、更により好ましくは6.5以上であり、皮膚刺激性の観点から、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは9.5以下である。
【0059】
[印刷方法]
前記水性インキを適用する印刷基材としては、高吸水性の普通紙、低吸水性のコート紙及び樹脂フィルムが挙げられる。コート紙としては、汎用光沢紙、多色フォームグロス紙等が挙げられ、樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等が挙げられる。
前記水性インキは、基材密着性に優れる点で、印刷基材として樹脂フィルムに印刷する印刷方法に用いることが好ましい。
基材の樹脂フィルムは、二軸延伸フィルム、一軸延伸フィルム、無延伸フィルムであってもよく、ポリエステルフィルム、延伸ポリプロピレンフィルムがより好ましく、コロナ放電処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、コロナ放電処理された二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムがより好ましい。
【0060】
特に、シェル部樹脂がイオン性モノマー(a-2)由来の構成単位を含み、かつコロナ放電処理された樹脂フィルムを印刷基材として用いる場合には、コロナ放電処理により付与される基材表面の極性基とコアシェル型樹脂粒子のシェル部樹脂に導入されたイオン性基との相互作用により、基材密着性がより一層向上する。当該観点から、印刷基材は、コロナ放電処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、及びコロナ放電処理された二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムから選ばれる1種以上がより好ましい。
印刷基材の厚みは、基材密着性及び入手性の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上であり、そして、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは60μm以下、より更に好ましくは40μm以下である。
【0061】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の実施態様を開示する。
<1> コアシェル型樹脂粒子(A)と、水とを含有する、樹脂粒子分散体であって、
コアシェル型樹脂粒子(A)のシェル部樹脂が、炭素数4以上8以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位を含み、
コアシェル型樹脂粒子(A)のコア部樹脂が、溶解度パラメータが17.0(J/cm30.5以上21.0(J/cm30.5以下である(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)由来の構成単位を5質量%以上含み、
コア部樹脂のガラス転移温度が50℃以下であり、
コアシェル型樹脂粒子(A)の酸価が50mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である、樹脂粒子分散体。
【0062】
<2> (メタ)アクリル酸エステル(a-1)は、好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート、及び芳香族基含有(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上であり、より好ましくはアルキル(メタ)アクリレートである、前記<1>に記載の樹脂粒子分散体。
<3> アルキル(メタ)アクリレートが、好ましくは炭素数4以上8以下、より好ましくは炭素数4以上6以下のアルキル基を有するものである、前記<2>に記載の樹脂粒子分散体。
【0063】
<4> シェル部樹脂が、さらにイオン性モノマー(a-2)由来の構成単位を含む、前記<1>~<3>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<5> イオン性モノマー(a-2)が、好ましくはカルボキシ基を有するカルボン酸モノマーであり、より好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、及び2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはアクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上である、前記<4>に記載の樹脂粒子分散体。
【0064】
<6> シェル部樹脂モノマー中の(メタ)アクリル酸エステル(a-1)の含有量、又はシェル部樹脂中の(メタ)アクリル酸エステル(a-1)由来の構成単位の含有量が、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である、前記<1>~<5>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<7> シェル部樹脂モノマー中のイオン性モノマー(a-2)の含有量、又はシェル部樹脂中のイオン性モノマー(a-2)に由来する構成単位の含有量が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である、前記<4>~<6>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【0065】
<8> シェル部樹脂の酸価が、好ましくは100mgKOH/g以上、より好ましくは120mgKOH/g以上、更に好ましくは150mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは280mgKOH/g以下、より好ましくは260mgKOH/g以下、更に好ましくは250mgKOH/g以下、より更に好ましくは200mgKOH/g以下である、前記<1>~<7>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【0066】
<9> (メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)のSP値が、好ましくは17.3(J/cm30.5以上、より好ましくは17.5(J/cm30.5以上であり、そして、好ましくは20.7(J/cm30.5以下、より好ましくは20.5(J/cm30.5以下である、前記<1>~<8>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<10> (メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)が、好ましくは、直鎖、分岐又は環状のアルキル基を有するN-アルキル(メタ)アクリルアミド、芳香族基含有(メタ)アクリルアミド、及びN-アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドから選ばれる1種以上であり、より好ましくは、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-tert-オクチルアクリルアミド、N-(2-エチルヘキシル)アクリルアミド、N-n-オクチルアクリルアミド、N-ドデシルアクリルアミド、N-n-ヘプチルアクリルアミド、N-ヘキシルアクリルアミド、N-シクロヘキシルメタクリルアミド、N,N-ジベンジルアクリルアミド、及びN-イソブトキシメチルアクリルアミドから選ばれる1種以上である、前記<1>~<9>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【0067】
<11> (メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)が、好ましくは直鎖、分岐又は環状のアルキル基を有するN-アルキル(メタ)アクリルアミドであり、より好ましくは分岐アルキル基を有するN-アルキルアクリルアミドであり、更に好ましくは炭素数4以上8以下の分岐アルキル基を有するN-アルキルアクリルアミドであり、より更に好ましくはN-tert-ブチルアクリルアミド、及びN-tert-オクチルアクリルアミドから選ばれる1種以上である、前記<1>~<10>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【0068】
<12> コア部樹脂が、さらに炭素数2以上18以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b-2)を含む、前記<1>~<11>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<13> (メタ)アクリル酸エステル(b-2)の前記炭化水素基の炭素数が、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、そして、好ましくは12以下、より好ましくは8以下である、前記<12>に記載の樹脂粒子分散体。
<14> (メタ)アクリル酸エステル(b-2)の炭素数2以上18以下の炭化水素基が、好ましくは、炭素数3以上12以下のアルキル基、及びベンジル基から選ばれる1種以上であり、より好ましくはブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、オクタデシル基、シクロヘキシル基、及びベンジル基から選ばれる1種以上、より好ましくは、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、及びベンジル基から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはイソブチル基である、前記<12>又は<13>に記載の樹脂粒子分散体。
【0069】
<15> 炭素数2以上18以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b-2)が、好ましくはブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、セカンダリーブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上であり、より好ましくはイソブチル(メタ)アクリレート、セカンダリーブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはイソブチル(メタ)アクリレートである、前記<12>~<14>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【0070】
<16> コア部樹脂モノマー中の(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)の含有量又はコア部樹脂中の(メタ)アクリルアミド系モノマー(b-1)由来の構成単位の含有量が、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である、前記<1>~<15>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<17> コア部樹脂モノマー中の炭素数2以上18以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b-2)の含有量又はコア部樹脂中の炭素数2以上18以下の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b-2)由来の構成単位の含有量が、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下である、前記<12>~<16>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【0071】
<18> コア部樹脂のガラス転移温度が、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下である、前記<1>~<17>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<19> コア部樹脂の酸価が、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは10mgKOH/g以下、より更に好ましくは0mgKOH/gである、前記<1>~<18>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【0072】
<20> コアシェル型樹脂粒子(A)中のシェル部樹脂に対するコア部樹脂の含有量の質量比[コア部樹脂/シェル部樹脂]が、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは1以上であり、そして、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.7以下、更に好ましくは2.5以下、より更に好ましくは2.3以下である、前記<1>~<19>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【0073】
<21> コアシェル型樹脂粒子(A)の酸価が、好ましくは55mgKOH/g以上、より好ましくは60mgKOH/g以上であり、そして、100mgKOH/g以下であり、好ましくは95mgKOH/g以下、より好ましくは90mgKOH/g以下である、前記<1>~<20>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<22> コアシェル型樹脂粒子(A)の樹脂粒子分散体中の平均粒径が、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは40nm以上であり、そして、好ましくは150nm以下、より好ましくは120nm以下、更に好ましくは100nm以下である、前記<1>~<21>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【0074】
<23> さらに顔料を含有する、前記<1>~<22>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<24> 顔料が白色顔料である、前記<23>に記載の樹脂粒子分散体。
<25> 顔料として、酸化チタン顔料を用いる、前記<23>又は<24>に記載の樹脂粒子分散体。
【0075】
<26> 樹脂粒子分散体中のコアシェル型樹脂粒子(A)の含有量が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である、前記<1>~<25>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<27> 樹脂粒子分散体中の水の含有量が、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である、前記<1>~<26>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<28> 樹脂粒子分散体がさらに顔料を含有する場合、樹脂粒子分散体中の顔料の含有量が、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である、前記<1>~<27>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<29> 樹脂粒子分散体がさらに顔料を含有する場合、該樹脂粒子分散体中のコアシェル型樹脂粒子(A)に対する顔料の含有量の質量比[顔料/コアシェル型樹脂粒子(A)]が、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2.5以下である、前記<1>~<28>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【0076】
<30> 樹脂粒子分散体がさらに水溶性有機溶剤を含有する場合、樹脂粒子分散体中の水溶性有機溶剤の含有量が、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である、前記<1>~<29>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<31> 樹脂粒子分散体がさらに水溶性有機溶剤を含有する場合、該樹脂粒子分散体中の水溶性有機溶剤に対する水の含有量の質量比[水/水溶性有機溶剤]が、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは2以上、より更に好ましくは2.5以上であり、そして、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは30以下、より更に好ましくは10以下、より更に好ましくは5以下である、前記<1>~<30>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
<32> グラビア印刷用水性インキである、前記<1>~<31>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体。
【0077】
<33> シェル部樹脂を形成するシェルポリマーのエマルションの存在下で、コア部樹脂を形成するコア部樹脂モノマーを重合してコアシェル型樹脂粒子(A)を形成し、樹脂粒子分散体を得る、前記<1>~<32>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体の製造方法。
<34> シェルポリマーの重量平均分子量が、好ましくは6,000以上、より好ましくは8,000以上、更に好ましくは10,000以上であり、そして、好ましくは300,000以下、より好ましくは200,000以下、更に好ましくは100,000以下、より更に好ましくは50,000以下である、前記<33>に記載の樹脂粒子分散体の製造方法。
【0078】
<35> 前記<1>~<32>のいずれかに記載の樹脂粒子分散体を水性インキとして用い、印刷基材として樹脂フィルムに印刷する、印刷方法。
<36> 印刷基材が、コロナ放電処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム、及びコロナ放電処理された二軸延伸ポリプロピレンフィルムから選ばれる1種以上である、前記<35>のに記載の印刷方法。
<37> 印刷基材の厚みが、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上であり、そして、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは60μm以下、より更に好ましくは40μm以下である、前記<35>又は<36>に記載の印刷方法。
【実施例
【0079】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、各種物性の測定は、以下の方法で行った。
【0080】
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲルクロマトグラフィー法〔GPC装置(型式:HLC-8320GPC、東ソー株式会社製)、カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolumn Super AW-H、以上、東ソー株式会社製の商品名)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、以上、東ソー株式会社製の商品名〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中にポリマー0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(商品名:DISMIC-13HP、メンブレンフィルター材質:親水性PTFE、孔径0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0081】
(2-1)酸化チタンの平均一次粒径の測定
酸化チタンの平均一次粒径は、透過電子顕微鏡「JEM-2100」(日本電子株式会社製)を用いて、画像解析で500個の酸化チタン一次粒子を抽出してその粒径を測定し、その平均を算出して数平均粒径として算出した。なお、酸化チタンに長径と短径がある場合は、長径を用いて算出した。
(2-2)酸化チタン分散体の平均粒径の測定
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA950」(株式会社堀場製作所製)を用いて、酸化チタンの屈折率を2.75とし、屈折率1.333の水を分散媒として、循環速度の目盛りを「5」、超音波の強さの目盛を「3」に設定し、1分照射後測定した。このときの体積中位粒径(D50)の値を分散体の粒子の平均粒径とした。
【0082】
(3)樹脂粒子分散体及びシェルポリマーエマルションの平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELSZ-1000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い、測定により得られるキュムラント平均粒径を樹脂粒子分散体又はシェルポリマーエマルションの平均粒径とした。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度165°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定サンプルの濃度は、5×10-3%(固形分濃度換算)で行った。
【0083】
(4-1)樹脂粒子分散体及びシェルポリマーエマルションの固形分濃度の測定
赤外線水分計(株式会社ケツト科学研究所製、商品名:FD-230)を用いて、水性分散液5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させ、水性分散液のウェットベースの水分(質量%)を測定した。固形分濃度は下記の式に従って算出した。
固形分濃度(質量%)=100-水性分散液のウェットベース水分(質量%)
(4-2)ポリマー溶液及び顔料分散体の固形分濃度の測定
30mLのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、さらにデシケーター内で15分間放置した後、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0084】
製造例1-1(酸化チタン分散用ポリマー分散剤の製造)
滴下ロートを備えたガラス製反応容器2Lに水182gを仕込み、窒素雰囲気下で80℃まで昇温した。
次に、窒素ガス雰囲気下、滴下溶液1としてメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシド(EO)平均付加モル数n=23、新中村化学工業株式会社製、商品名「NKエステルM-230G」)314.1g、メタクリル酸69.5gのモノマー溶液と、滴下溶液2として濃度15%の2-メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)水溶液21.1gと、滴下溶液3として濃度6%の過硫酸アンモニウム(重合開始剤)水溶液84.1gの3液を各々同時に90分かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、80℃で1時間熟成させた。
その後、40℃まで冷却し、濃度48%水酸化ナトリウム水溶液26.9gを加え、固形分濃度が40%となるように水484.3gを加えて、ポリマー分散剤(ポリマーの重量平均分子量:24,000)の溶液を得た。
【0085】
製造例2-1(酸化チタン分散体の製造)
製造例1-1で得られたポリマー分散剤6gとイオン交換水2gを混ぜて溶解したものを、1000mLのポリエチレン瓶に投入し、酸化チタン(ルチル型:石原産業式会社製、CR-80、Al・Si処理、平均一次粒径250nm)120g、イオン交換水88gを加え、2mmジルコニアビーズ1476gを入れて、卓上型ポットミル架台(アズワン株式会社)にて250rpmで10時間の分散処理を行った。
分散処理後、メッシュを用いてジルコニアビーズを除去し、水で固形分濃度を調整して、平均粒径325nmの酸化チタン分散体(固形分濃度51%)を得た。
【0086】
(シェルポリマーエマルションの製造)
製造例3-1
(1)シェルポリマーP1溶液の製造
ターシャリーブチルメタクリレート75.8部、及びアクリル酸24.2部を混合し、モノマー混合液を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン(以下、「MEK」と表記する)5部、2-メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)2.5部、前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤2.25部、MEK75部、及びアゾ系ラジカル重合開始剤(富士フイルム和光純薬株式会社製、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル))2.0部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を攪拌しながら77℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を5時間かけて滴下した。滴下終了後、前記重合開始剤0.5部をMEK5部に溶解させた溶液を加え、さらに77℃で2時間反応させ、最後に固形分濃度55%となるようにMEKを加えて、シェルポリマーP1溶液を得た。ポリマーP1のガラス転移温度(Tg)は106℃、酸価は180mgKOH/g、重量平均分子量は16,000であった。
(2)シェルポリマーP1のエマルションEM1の製造
1000mLセパラブルフラスコに、ポリマーP1溶液を100gを仕込み、撹拌羽根で撹拌(200rpm)を行いながら、中和度が60%となるように5Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下した後、イオン交換水372gを10mL/minで滴下した。その後、エバポレーターにて脱溶剤、脱水を行い、平均粒径15nm、樹脂固形分20%のシェルポリマーエマルションEM1(酸価:180mgKOH/g、中和度60%)を得た。
【0087】
製造例3-2~製造例3-3
製造例3-1において、シェル部樹脂モノマーの組成を表1に変更した以外は、製造例3-1と同様にして、樹脂固形分20%のシェルポリマーP2のエマルションEM2及びシェルポリマーP3のエマルションEM3を得た。シェルポリマーP2及びP3のガラス転移温度(Tg)、酸価、重量平均分子量、中和度、及びシェルポリマーエマルションの平均粒径を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
なお、表1中の各表記は以下のとおりである。
tBMA:ターシャリーブチルメタクリレート
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
AA:アクリル酸
【0090】
実施例1
(1)コアシェル型樹脂粒子(A1)を含有する樹脂粒子分散体の製造
1000mLセパラブルフラスコに、製造例3-1で得られたエマルションEM1を200gとイオン交換水12.2gを投入し、撹拌(100rpm)しながら、さらに予めコア部樹脂モノマーとしてN-tert-ブチルアクリルアミド(MCCユニテック株式会社製、SP値:20.2(J/cm3)0.5)3.7gとイソブチルアクリレート33.5gとを混合したものを加え、撹拌しながら75℃まで昇温した。
そこへ、濃度4%の過硫酸カリウム(重合開始剤)の水溶液9.3gを90分かけて徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で1時間熟成させた。その後室温まで冷却し、固形分濃度30%のコアシェル型樹脂粒子(A1)を含有する樹脂粒子分散体を得た。コア部樹脂のガラス転移温度(Tg)、樹脂粒子(A1)の酸価、及び質量比[コア部樹脂/シェル部樹脂]を表2に示す。
(2)水性インキ1の製造
得られたコアシェル型樹脂粒子(A1)を含有する樹脂粒子分散体23.3g、及び、製造例2-1で作製した酸化チタン分散体30g、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル5g、1,2-プロパンジオール15g、アセチレングリコール系界面活性剤「サーフィノール440」(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキシド(3.5モル)付加物、日信化学工業株式会社製)1g、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤「KF6011」(PEG-11メチルエーテルジメチコン、信越化学工業株式会社製)1g、イオン交換水24.7gを混合し、水性インキ1を得た。
【0091】
実施例2
(1)コアシェル型樹脂粒子(A2)を含有する樹脂粒子分散体の製造
実施例1において、エマルションEM1をエマルションEM3に変更した以外は実施例1と同様に行い、固形分濃度30%のコアシェル型樹脂粒子(A2)を含有する樹脂粒子分散体を得た。
(2)水性インキ2の製造
得られたコアシェル型樹脂粒子(A2)を含有する樹脂粒子分散体を用いた以外は実施例1と同様に行い、水性インキ2を得た。
【0092】
実施例3
(1)コアシェル型樹脂粒子(A3)を含有する樹脂粒子分散体の製造
実施例1において、コア部樹脂モノマーとしてN-tert-ブチルアクリルアミドをN-tert-オクチルアクリルアミド(MCCユニテック社製、SP値:17.9(J/cm3)0.5)に変更した以外は実施例1と同様に行い、固形分濃度30%のコアシェル型樹脂粒子(A3)を含有する樹脂粒子分散体を得た。
(2)水性インキ3の製造
得られたコアシェル型樹脂粒子(A3)を含有する樹脂粒子分散体を用いた以外は実施例1と同様に行い、水性インキ3を得た。
【0093】
実施例4
(1)コアシェル型樹脂粒子(A4)を含有する樹脂粒子分散体の製造
1000mLセパラブルフラスコに、製造例3-1で得られたエマルションEM1を200gとイオン交換水91.0gを投入し、撹拌(100rpm)しながら、さらに予めコア部樹脂モノマーとしてN-tert-オクチルアクリルアミド7.4gとイソブチルアクリレート67.0gとを混合したものを加え、撹拌しながら75℃まで昇温した。
そこへ、濃度4%の過硫酸カリウムの水溶液18.6gを90分かけて徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で1時間熟成させた。その後室温まで冷却し、固形分濃度30%のコアシェル型樹脂粒子(A4)を含有する樹脂粒子分散体を得た。
(2)水性インキ4の製造
得られたコアシェル型樹脂粒子(A4)を含有する樹脂粒子分散体を用いた以外は実施例1と同様に行い、水性インキ4を得た。
【0094】
実施例5
(1)コアシェル型樹脂粒子(A5)を含有する樹脂粒子分散体の製造
1000mLセパラブルフラスコに、製造例3-2で得られたエマルションEM2を200gとイオン交換水86.8gを投入し、撹拌(100rpm)しながら、さらに予めN-tert-オクチルアクリルアミド7.3gとイソブチルアクリレート65.3gとを混合したものを加え、撹拌しながら75℃まで昇温した。
そこへ、濃度4%の過硫酸カリウムの水溶液18.1gを90分かけて徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で1時間熟成させた。その後室温まで冷却し、固形分濃度30%のコアシェル型樹脂粒子(A5)を含有する樹脂粒子分散体を得た。
(2)水性インキ5の製造
得られたコアシェル型樹脂粒子(A5)を含有する樹脂粒子分散体を用いた以外は実施例1と同様に行い、水性インキ5を得た。
【0095】
実施例6
(1)コアシェル型樹脂粒子(A6)を含有する樹脂粒子分散体の製造
1000mLセパラブルフラスコに、製造例3-1で得られたエマルションEM1を200gとイオン交換水12.2gを投入し、撹拌(100rpm)しながら、さらに予めtert-ブチルアクリルアミド1.9gとイソブチルアクリレート35.4gとを混合していたものを加え、撹拌しながら75℃まで昇温した。
そこへ、濃度4%の過硫酸カリウムの水溶液9.3gを90分かけて徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で1時間熟成させた。その後室温まで冷却し、固形分濃度30%のコアシェル型樹脂粒子(A6)を含有する樹脂粒子分散体を得た。
(2)水性インキ6の製造
得られたコアシェル型樹脂粒子(A6)を含有する樹脂粒子分散体を用いた以外は実施例1と同様に行い、水性インキ6を得た。
【0096】
比較例1
(2)水性インキC1の製造
実施例1の水性インキの製造において、コアシェル型樹脂粒子(A1)を含有する樹脂粒子分散体23.3gに代えて製造例3-1で得られたエマルションEM1を35.0gを用い、イオン交換水の量を13.0gに変更した以外は実施例1の水性インキ1の製造と同様に配合し水性インキC1を得た。
【0097】
比較例2
(1)コアシェル型樹脂粒子(AC2)を含有する樹脂粒子分散体の製造
実施例1において、コア部樹脂モノマーとしてイソブチルアクリレートを37.5gとし、N-tert-ブチルアクリルアミドを用いなかった以外は実施例1と同様に行い、固形分濃度30%のコアシェル型樹脂粒子(AC2)を含有する樹脂粒子分散体を得た。
(2)水性インキC2の製造
得られたコアシェル型樹脂粒子(AC2)を含有する樹脂粒子分散体を用いた以外は実施例1と同様に行い、水性インキC2を得た。
【0098】
比較例3
(1)コアシェル型樹脂粒子(AC3)を含有する樹脂粒子分散体の製造
実施例1において、コア部樹脂モノマーとしてN-tert-ブチルアクリルアミドをジアセトンアクリルアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製、SP値:22.0(J/cm3)0.5)に変更した以外は実施例1と同様に行ったが、系がゲル化したため、コアシェル型樹脂粒子を得ることができなかった。
【0099】
比較例4
(1)コアシェル型樹脂粒子(AC4)を含有する樹脂粒子分散体の製造
1000mLセパラブルフラスコに、製造例3-1で得られたエマルションEM1を200gとイオン交換水12.2gを投入し、撹拌(100rpm)しながら、さらに予めコア部樹脂モノマーとしてN-tert-ブチルアクリルアミド1.2gとイソブチルアクリレート36.0gとを混合していたものを加え、撹拌し実施例ながら75℃まで昇温した。
そこへ、濃度4%の過硫酸カリウムの水溶液9.3gを90分かけて徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で1時間熟成させた。その後室温まで冷却し、固形分濃度30%のコアシェル型樹脂粒子(AC4)を含有する樹脂粒子分散体を得た。
(2)水性インキの製造
得られたコアシェル型樹脂粒子(AC4)を含有する樹脂粒子分散体を用いた以外は実施例1と同様に行い、水性インキC4を得た。
【0100】
[評価]
(基材密着性の評価)
(1)印刷物の作製
グラビア校正機(RK Print Coat Instruments Ltd社製、「K Printing Proofer」)を用い、グラビア版として線数250線、深度10μmのハニカムスクリーンを用い、実施例及び比較例で得られた水性インキを用いて、印刷基材として以下に示すコロナ放電処理OPPフィルムに速度15m/minで印刷した後、60℃で1時間乾燥してグラビア印刷物を得た。
(コロナ放電処理OPPフィルム)
OPP#50:FOS-AQ、#50(厚み50μm)、フタムラ化学株式会社製
OPP#20:FOR-AQ、#20(厚み20μm)、フタムラ化学株式会社製
(2)テープ剥離試験
25℃の環境下において、グラビア印刷物の100%濃度部にセロハンテープ(ニチバン株式会社製、18mm幅)の粘着面を貼り付け、手の腹で強く密着させた後、できるだけ速やかにテープを剥離した。剥がれた面積の割合から、以下の基準で基材密着性を評価した。結果を表2に示す。
(評価基準)
A;印刷の剥がれがない。
B;印刷の剥がれがややある(10%未満)。
C;印刷の剥がれがある(10%以上、30%未満)。
D;印刷の剥がれがある(30%以上、40%未満)。
E;印刷の剥がれがかなりある(40%以上)。
評価C以上であれば印刷物が擦られない用途において実用可能であり、評価B以上であれば、印刷物が擦られる用途においても実用可能である。
【0101】
なお、表2中の各表記は以下のとおりである。
tBuAAm:N-tert-ブチルアクリルアミド
tOAAm:N-tert-オクチルアクリルアミド
iBA:イソブチルアクリレート
DAAm:ジアセトンアクリルアミド
【0102】
【表2】
【0103】
表2から、実施例1~6の水性インキは、比較例1,2,4の水性インキに比べて、基材密着性に優れていることが分かる。
比較例1は、コアシェル構造を有さない樹脂粒子エマルションを用いた水性インキであるため、樹脂フィルムの厚みに関わらず、基材密着性が劣る。
比較例2は、コア部樹脂中に(メタ)アクリルアミド系モノマー由来の構成単位を含まないため、厚みが薄い樹脂フィルムに対する基材密着性が劣る。
比較例3は、コア部樹脂中に含まれる(メタ)アクリルアミド系モノマーのSP値が21.0(J/cm30.5超であるため、製造時に系がゲル化してしまい、コアシェル型樹脂粒子を得ることができなかった。
比較例4は、コア部樹脂中の(メタ)アクリルアミド系モノマー由来の構成単位の含有量が5質量%未満であるため、厚みが薄い樹脂フィルムに対する基材密着性が劣る。