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特許7304285液晶ポリエステル繊維からなるメッシュ織物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル繊維からなるメッシュ織物
(51)【国際特許分類】
   D03D 9/00 20060101AFI20230629BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20230629BHJP
【FI】
D03D9/00
D03D15/20
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019512693
(86)(22)【出願日】2019-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2019002014
(87)【国際公開番号】W WO2019146620
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2018012227
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】船津 義嗣
(72)【発明者】
【氏名】川俣 千絵子
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/105657(WO,A1)
【文献】特開2010-029995(JP,A)
【文献】特開2011-093083(JP,A)
【文献】特開2004-284134(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115259(WO,A1)
【文献】実開昭62-166276(JP,U)
【文献】特開2001-064845(JP,A)
【文献】米国特許第05365840(US,A)
【文献】国際公開第2008/146690(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00-27/18
D01F 1/00- 6/96
B41N 1/00-99/00
H05K 3/10- 3/26,
3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント数1の液晶ポリエステル繊維からなり、メッシュ数が350本/2.54cm以上かつ600本/2.54cm以下であり、紗厚が10μm以上かつ25μm以下であり、繊維径が25μm以上かつ50μm以下であって、前記液晶ポリエステル繊維が下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)からなることを特徴とするメッシュ織物。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶ポリエステル繊維からなるため高強度であり塑性変形しにくく、耐薬品性に優れ、かつメッシュ数が大きく、低紗厚であるためスクリーン版とした際にペーストの透過体積が小さく、薄膜印刷に適したメッシュ織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル繊維は、高強度、高弾性率、耐薬品性の特徴に代表されるスーパー繊維の中で唯一溶融紡糸により製造される繊維であり、繊維の真円性に優れメッシュ織物用のモノフィラメントに適している。その一方で液晶ポリエステル繊維は耐摩耗性に劣り、特に製織工程でのフィブリル化が生じやすいため、メッシュ織物とするために耐摩耗性向上が望まれている。
【0003】
液晶ポリエステル繊維の耐摩耗性改善については、液晶ポリエステル繊維を、示差熱量測定において50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)+10℃以上の温度、すなわち融点+10℃以上で熱処理する技術が提案されている(特許文献1、2参照)。この技術により耐摩耗性は向上し、製織可能な液晶ポリエステル繊維が得られているが、フィルター、スクリーン印刷用等のメッシュ織物に対しては、性能向上のため織密度の高密度化(高メッシュ化)が求められており、さらに電子回路関係のスクリーン印刷用メッシュ織物に対しては、導電性ペーストの使用量削減のため、透過体積の減少が求められている。
【0004】
ここでメッシュの透過体積について説明する。透過体積(cc/m)とはメッシュ織物1mにおける開口部(透過部)の体積を表す指標である。透過体積はスクリーン印刷においてメッシュに保持されるペースト量と正の相関があることが知られており、透過体積が小さいほどペースト使用量が少なく、印刷膜厚が薄い印刷を行うことができる。この透過体積は紗厚(μm)を用いて以下の式で求めることができる。
透過体積=OPA/100×紗厚
【0005】
ここでOPA(%)とはオープニングエリアである。オープニングエリアとはメッシュの開口部の面積比率を表す指標であり、以下の式で求められる。
OPA=OP/(OP+繊維径)×100
【0006】
ここでOP(μm)とはオープニングであり、メッシュ織物における繊維と繊維の間の距離、すなわち開口部の辺の長さを表している。OP(μm)はメッシュ織物2.54cm(=1インチ)幅あたりの繊維本数であるメッシュ数(本/インチ)と繊維径(μm)から以下の式で算出できる。
OP=25400/メッシュ数-繊維径
【0007】
上記関係から分かるように、透過体積減少にはOPAを小さくし、紗厚を小さくすることが必要であり、OPAを小さくするにはOPを小さく、繊維径を大きくすることが有効である。またOPを小さくするにはメッシュ数を大きくし、繊維径を大きくすることが有効である。
【0008】
しかし、繊維径が大きすぎる場合、メッシュ織物での繊維の交点の高さが紗厚と関係するため紗厚が大きくなり透過体積が大きくなるという課題がある。さらにスクリーン印刷においてはメッシュの繊維部分はペーストが透過しないものの、繊維部分の後ろ側にペーストが回りこみ、印刷後にペーストの表面張力でレベリングすることで膜厚が均一になるのであるが、繊維径が大きすぎるとペーストの回り込みが不十分となり膜厚ムラが発生する課題がある。これらのことから、透過体積の減少に向けては、メッシュ数が大きく、紗厚が小さいメッシュが望まれている。
【0009】
この課題に対し、液晶ポリエステルとほぼ同義であるポリアリレートを繊維原料の一部として用いた薄膜印刷用スクリーンが提案されている(特許文献3)。この技術では液晶ポリエステルを芯成分に、熱可塑性ポリマーを海、液晶ポリエステルを島とする海島ブレンドポリマーを鞘成分とする芯鞘複合繊維を用いてメッシュ織物を得て、これをカレンダー加工することで紗厚が小さいスクリーンを得ている。
【0010】
また別の技術として、極細径の溶融異方性(液晶性)芳香族ポリエステル繊維からなるメッシュ織物の技術が提案されている(特許文献4)。この技術では芯成分が溶融異方性(液晶性)芳香族ポリエステル、鞘成分がポリオレフィン系ポリマーである芯鞘複合繊維を用いてメッシュ織物を製織し、その後、複合繊維の鞘成分を溶剤で溶解させて抽出除去することで極細径のメッシュ織物を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2008-240230号公報(第18頁~第19頁)
【文献】特開2010-248681号公報(第8頁)
【文献】特開2008-74073号公報(第2頁)
【文献】特開2001-140141号公報(第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献3の技術では紗厚を小さくできているのはメッシュ数が小さい場合であり、メッシュ数が大きい場合は紗厚が小さくできていない(比較例5、メッシュ数380では紗厚41μm)。これは繊維として液晶ポリエステルではない成分を含むため、繊維を潰す際に高い荷重が必要となり、交点数が多い高メッシュでは紗厚が十分に小さくできないものと考えられる。特許文献4の技術では開口率として記載されているOPA(オープニングエリア)が大きく、透過体積は小さくできていないことに加え、溶剤抽出後の繊維径が実施例でタテ13μm、ヨコ14μmであることから繊維の交点の高さと関係する紗厚も小さくできていない。
【0013】
本発明の課題は、液晶ポリエステル繊維からなるため高強度であり塑性変形しにくく、耐薬品性に優れ、かつメッシュ数が大きく、低紗厚であるためスクリーン版とした際にペーストの透過体積が小さく、薄膜印刷に適したメッシュ織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記した本発明の課題は以下の手段により達成される。
液晶ポリエステル繊維からなり、メッシュ数が350本/2.54cm(=1インチ)以上かつ紗厚が25μm以下であるメッシュ織物。
【発明の効果】
【0015】
本発明のメッシュ織物は、液晶ポリエステル繊維からなるため高強度であり塑性変形しにくく、耐薬品性に優れる。加えてメッシュ数が大きく、低紗厚であるためスクリーン版とした際にペーストの透過体積が小さく、薄膜印刷に適する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の液晶ポリエステル繊維からなるメッシュ織物について詳細に説明する。
本発明のメッシュ織物に用いられる液晶ポリエステル繊維は、実質的に液晶ポリエステル単成分からなる。実質的にとは他成分との複合繊維や海島繊維ではなく単成分からなる繊維であることを指す。ただし後述するような液晶ポリエステルの特性を損ねない範囲の5重量%程度以下の他ポリマーの添加や各種添加剤の添加は構わない。
【0017】
本発明で用いられる液晶ポリエステルとは、溶融時に異方性溶融相(液晶性)を形成し得るポリエステルである。この特性は例えば、液晶ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察することにより確認できる。
【0018】
本発明に用いられる液晶ポリエステルとしては、例えば芳香族オキシカルボン酸の重合物(a)、芳香族ジカルボン酸(b)と芳香族ジオール、脂肪族ジオールの重合物、芳香族オキシカルボン酸の重合物(a)と芳香族ジカルボン酸(b)との共重合物(c)などが挙げられるが、高強度、高弾性率、高耐熱のためには脂肪族ジオールを用いない全芳香族ポリエステルが好ましい。ここで芳香族オキシカルボン酸としては、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸など、または上記芳香族オキシカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸など、または上記芳香族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。さらに、芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジオキシジフェニール、ナフタレンジオールなど、または上記芳香族ジオールのアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられ、脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。
【0019】
本発明に用いられる液晶ポリエステルとしては、p-ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’-ジヒドロキシビフェニル成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分および/またはイソフタル酸成分とが共重合されたもの、p-ヒドロキシ安息香酸成分と6-ヒドロキシ2-ナフトエ酸成分とが共重合されたもの、p-ヒドロキシ安息香酸成分と6-ヒドロキシ2-ナフトエ酸成分とハイドロキノン成分とテレフタル酸成分とが共重合されたもの、などが高強度、高弾性率、耐薬品性に優れ、好ましい例として挙げられる。
【0020】
本発明に用いられる液晶ポリエステルは、特に下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)からなる液晶ポリエステルであることが好ましい。なお本明細書において構造単位とはポリマーの主鎖における繰り返し構造を構成し得る単位を指す。
【0021】
【化1】
【0022】
この組み合わせにより分子鎖は適切な結晶性と非直線性を持つため、繊維の強度、弾性率を高めることができ、かつ耐摩耗性を向上させることができるため高メッシュ織物に適しており、さらに繊維を横方向(繊維軸垂直方向)に潰しやすいために紗厚を小さくできる。
【0023】
さらに構造単位(II)、(III)のような嵩高くなく、直線性の高いジオールからなる成分を組み合わせることが重要であり、この成分を組み合わせることにより繊維中で分子鎖は秩序だった乱れの少ない構造を取ると共に、結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できる。これにより高い強度、弾性率が得られることに加えて、固相重合後に高温熱処理を施すことで特に優れた耐摩耗性も得られるのである。
【0024】
また、上記した構造単位(I)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40~85モル%が好ましく、より好ましくは65~80モル%、さらに好ましくは68~75モル%である。このような範囲とすることで結晶性を適切な範囲とすることができ、高い強度、弾性率が得られる。
【0025】
構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して60~90モル%が好ましく、より好ましくは60~80モル%、さらに好ましくは65~75モル%である。このような範囲とすることで結晶性が過度に高まらず繊維軸垂直方向の相互作用も維持できることから、耐摩耗性を向上させることができるため高メッシュ織物に適しており、さらに繊維を横方向(繊維軸垂直方向)に潰しやすいために紗厚を小さくできる。
【0026】
構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して40~95モル%が好ましく、より好ましくは50~90モル%、さらに好ましくは60~85モル%である。このような範囲とすることでポリマーの直線性が適度に乱れることから、耐摩耗性を向上させることができるため高メッシュ織物に適しており、さらに繊維を横方向(繊維軸垂直方向)に潰しやすいために紗厚を小さくできる。
【0027】
本発明に用いられる液晶ポリエステルの各構造単位の好ましい範囲は以下のとおりである。この範囲の中で上記した条件を満たすよう組成を調整することで本発明に用いられる液晶ポリエステル繊維が好適に得られる。
構造単位(I)45~65モル%
構造単位(II)12~18モル%
構造単位(III)3~10モル%
構造単位(IV)5~20モル%
構造単位(V)2~15モル%
【0028】
なお本発明で用いられる液晶ポリエステルには上記構造単位以外に3,3’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸(1,4-シクロヘキサンジカルボン酸)などの脂環式ジカルボン酸、クロロハイドロキノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオールおよびp-アミノフェノールなどを本発明の効果を損なわない5モル%程度以下の範囲で共重合させても良い。
【0029】
また本発明の効果を損なわない5重量%程度以下の範囲で、ポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレンなどのビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリケトン、半芳香族ポリエステルアミド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などのポリマーを添加しても良く、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、ポリエステル99Mなどが好適な例として挙げられる。
【0030】
さらに本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、相溶化剤等の各種添加剤を少量含有しても良い。
【0031】
本発明で用いられる液晶ポリエステル繊維のポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、分子量と記載する)は25.0万以上200.0万以下であることが好ましい。25.0万以上の高い分子量を有することで高い強度、弾性率、伸度を有する。分子量は高いほど強度、弾性率が向上するため、30.0万以上がより好ましい。分子量の上限は特に限定されないが、本発明で達し得る上限としては200.0万程度であり、100.0万で十分高い効果が得られる。なお本明細書で言う分子量とは実施例記載の方法により求められた値とする。
【0032】
本発明で用いられる液晶ポリエステル繊維は、示差熱量測定において、50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm1)におけるピーク半値幅が15℃以上であることが好ましい。この測定法におけるTm1は繊維の融点を表し、ピーク形状はその面積が広いほど、即ち融解熱量ΔHm1が大きいほど結晶化度が高く、またその半値幅が狭いほど結晶の完全性は高いと言える。液晶ポリエステルは溶融紡糸した後、固相重合を施すことでTm1が上昇、ΔHm1が増加、半値幅は減少し、結晶化度、結晶の完全性が高くなることで繊維の強度、伸度、弾性率が増加、耐熱性が向上する。一方で耐摩耗性が悪化するが、これは結晶の完全性が高まることにより、結晶部と非晶部の構造差が顕著となるため、その界面で破壊が起こるためと考えられる。そこで本発明で用いられる液晶ポリエステル繊維では固相重合した繊維の特徴である高いTm1、高い強度、伸度、弾性率を維持したまま、ピーク半値幅を、固相重合していない液晶ポリエステル繊維のような15℃以上という値に増加させることで、結晶性を低下させて破壊の起点となる結晶/非晶の構造差を減少させ、フィブリル構造を乱し、繊維全体を柔軟化させることで耐摩耗性を高めることができる。Tm1におけるピーク半値幅は、高い方が耐摩耗性は高いため、好ましくは20℃以上である。なお、上限は特に制限されないが、工業的に達し得る上限は80℃程度であり、50℃で十分高い効果が得られる。
【0033】
加えてピーク半値幅を15℃以上に増加させることで結晶性が低下し、繊維全体が柔軟化することで繊維を横方向(繊維軸垂直方向)に潰す際の荷重を小さくできる。このため製織後のカレンダー加工等により紗厚を小さくすることが容易となる。
【0034】
なお、本発明の液晶ポリエステル繊維においては、吸熱ピークは1つであるが、固相重合が不十分な場合など繊維構造によっては2つ以上のピークが観測されることがある。この場合のピーク半値幅はそれぞれのピークの半値幅を合計した値とする。
【0035】
本発明で用いられる液晶ポリエステル繊維の融点(Tm1)は290℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、310℃以上がさらに好ましい。このような高い融点を有することでメッシュとしての耐熱性が優れる。繊維の高融点化を達成するためには、高融点の液晶ポリエステルポリマーを製糸するなどの方法があるが、特に高い強度、弾性率を有し、さらに長手方向の均一性に優れる繊維を得るためには溶融紡糸した繊維を固相重合することが好ましい。なお、融点の上限は特に限定されないが、本発明で達し得る上限としては400℃程度である。
【0036】
また本発明で用いられる液晶ポリエステル繊維の融解熱量ΔHm1の値は、液晶ポリエステルの構成単位の組成により変化するが、6.0J/g以下であることが好ましい。ΔHm1が6.0J/g以下に低下することで結晶化度は低下し、フィブリル構造が乱れ、繊維全体が柔軟化し、かつ破壊の起点となる結晶/非晶の構造差が減少することで耐摩耗性が向上するため高メッシュ化に適しており、かつ繊維を横方向(繊維軸垂直方向)に潰す際の荷重を小さくできる。ΔHm1は低いほど耐摩耗性は向上するため5.0J/g以下がより好ましい。なおΔHm1の下限は特に限定されないが、高い強度、弾性率を得るためには0.2J/g以上が好ましい。
【0037】
分子量が25.0万以上と高いにも関わらず、ΔHm1が6.0J/g以下と低いことは驚くべきことである。分子量が25.0万以上の液晶ポリエステルは融点を超えても粘度が著しく高く流動せず溶融紡糸が困難であり、このような高分子量の液晶ポリエステル繊維は低分子量の液晶ポリエステルを溶融紡糸し、この繊維を固相重合することで得られる。液晶ポリエステル繊維を固相重合すると分子量が増加し強度、伸度、弾性率、耐熱性は向上し、同時に結晶化度も高まりΔHm1が増加する。結晶化度が高まると強度、伸度、弾性率、耐熱性はさらに向上するが、結晶部と非晶部の構造差が顕著となり、その界面が破壊されやすくなり耐摩耗性は低下してしまう。これに対し本発明で用いられる液晶ポリエステル繊維では固相重合した繊維の1つの特徴である高い分子量を持つことで高い強度、伸度、弾性率、耐熱性を保持すると共に、固相重合をしていない液晶ポリエステル繊維のような低い結晶化度すなわち低いΔHm1を有することで耐摩耗性を向上できるのである。本発明で用いられる液晶ポリエステル繊維では、液晶ポリエステルのみからなる繊維を、構造変化すなわち結晶化度を低下させることにより耐摩耗性向上を達成できたため高メッシュ織物に適しており、かつ結晶化度が低いため繊維を横方向(繊維軸垂直方向)に潰す際の荷重を小さくできることから低紗厚に適している。
【0038】
また本発明に用いられる液晶ポリエステル繊維のTm2は組成により変化するが、耐熱性を高めるためには300℃以上が好ましい。Tm2は繊維を一旦Tm1よりも高温に保持した後、冷却、再昇温した際に観測される融解ピーク温度であり、繊維構造の影響を最小化した、樹脂そのものの融点に近い温度である。Tm2の上限は特に制限されないが、本発明で到達し得る上限としては400℃程度である。
【0039】
本発明で用いられる液晶ポリエステル繊維のΔHm2は過度に大きいとポリマーそのものの結晶性が高くなり、耐摩耗性の向上が難しくなるため5.0J/g以下が好ましく、2.0J/g以下がより好ましい。ΔHm2は繊維を一旦Tm1よりも高温に保持した後、冷却、再昇温した際に観測される融解熱量であり、繊維構造の影響を最小化した、樹脂そのものの結晶融解熱量であり、樹脂そのものの結晶性の指標となる。なお、本発明に用いられる液晶ポリエステル繊維においては上記した測定条件における冷却後の再昇温時の吸熱ピークは1つであるが、2つ以上のピークが観測されることがある。この場合のΔHm2はそれぞれのピークのΔHm2を合計した値とする。
【0040】
なお本明細書で言うTm1、Tm2、Tm1ピーク半値幅、ΔHm1、ΔHm2とは実施例記載の方法により求められた値とする。
本発明のメッシュ織物はメッシュ数が350本/2.54cm(=1インチ)以上かつ紗厚が25μm以下である。メッシュ数が350本/インチ以上かつ紗厚が25μm以下であることでメッシュの透過体積が小さく、スクリーン版とした際にペーストの透過体積が小さく、薄膜印刷に適する。
【0041】
本発明のメッシュ織物のメッシュ数は350本/インチ以上である。すなわち、2.54cm(=1インチ)幅当たりに350本以上の繊維があることでオープニング(OP)が小さくなり、透過体積が小さくなり薄膜印刷に適する。この観点からメッシュ数は大きいほうが良く、380本/インチ以上がより好ましい。メッシュ数の上限は特に制限されないが、本発明で到達し得る上限としては600本/インチ程度である。なお本明細書で言うメッシュ数とは実施例記載の方法により求められた値とする。
【0042】
本発明のメッシュ織物の紗厚は25μm以下である。25μm以下であることで透過体積が小さくなり薄膜印刷に適する。この観点から紗厚は小さいほうが良く、23μm以下がより好ましい。紗厚の下限は特に制限されないが、本発明で到達し得る下限としては10μm程度である。なお本明細書で言う紗厚とは実施例記載の方法により求められた値とする。
【0043】
本発明のメッシュ織物の繊維径は25μm以上が好ましい。繊維径が25μm以上であることでオープニングを小さくでき、透過体積が小さくなり薄膜印刷に適する。この観点から繊維径は大きいほうが良く、30μm以上がより好ましい。繊維径が大きすぎると印刷時にペーストの回りこみが不十分となり、膜厚ムラが生じる懸念があるため、繊維径は50μm以下が好ましい。本明細書で言う繊維径とは実施例記載の方法により求められた値とする。なお本発明のメッシュ織物の繊維断面は真円ではなく、繊維軸垂直方向に潰された楕円に近い形である。本明細書ではメッシュ織物の繊維径と記載するが、その長さは楕円形の断面の長軸に相当する長さであることに注意が必要である。
【0044】
本発明のメッシュ織物のオープニング(OP)は50μm以下が好ましい。OPが50μm以下であることで透過体積が小さくなり薄膜印刷に適する。この観点からOPは小さいほうが良く45μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましい。OPの下限は特に制限されないが、本発明で到達し得る下限としては10μm程度である。なお本明細書で言うOPとは実施例記載の方法により求められた値とする。
【0045】
本発明のメッシュ織物のオープニングエリア(OPA)は30%未満が好ましい。OPAが30%未満であることで透過体積が小さくなり薄膜印刷に適する。この観点からOPAは小さいほうが良く25%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。OPAの下限は特に制限されないが、本発明で到達し得る下限としては10%程度である。なお本明細書で言うOPAとは実施例記載の方法により求められた値とする。
【0046】
本発明のメッシュ織物の引張強度は200N/5cm以上が好ましい。液晶ポリエステル繊維からなるメッシュ織物で引張強度が200N/5cm以上であれば強度が十分に高く、メッシュが塑性変形しにくいため印刷耐久性に優れる。この観点から引張強度は高い方が良く300N/5cm以上がより好ましい。引張強度の上限は特に制限されないが、本発明で到達し得る上限としては600N/5cm程度である。なお本明細書で言う引張強度とは実施例記載の方法により求められた値とする。
【0047】
本発明のメッシュ織物は、液晶ポリエステル繊維からなるため高強度であり塑性変形しにくく、耐熱性耐薬品性に優れる。このためスクリーン版や耐熱耐薬品フィルター等に好適に使用される。特にメッシュ数が大きく、低紗厚であるためペーストの透過体積が小さく、薄膜印刷に適したスクリーン版とすることができる。
【0048】
以下、本発明のメッシュ織物の製造例を示す。
本発明に好適に用いられる液晶ポリエステルの組成は前記の通りである。このような組成の液晶ポリエステルを用いて、特開2008-240230号公報や特開2010-248681号公報、WO2015/115259号公報に記載の技術により、溶融紡糸、固相重合、ならびに繊維を走行させながらの高温熱処理を行うことで耐摩耗性に優れる液晶ポリエステル繊維を得る。このようにして得られた液晶ポリエステル繊維を整経し、公知のレピア織機等を用いて高メッシュ織物を得る。
【0049】
次に紗厚を小さくするためメッシュに圧力をかけて薄くする。圧力の付与方法は平板を用いたプレス加工、2本の回転するロール間にメッシュを通すカレンダー加工があるが、長いメッシュ織物を連続加工できる点からカレンダー加工が好ましい。カレンダー加工条件として例えば金属(鉄製)ロール、線圧は100kgf/cm以上、ロール温度50℃以上としてカレンダー加工を行うことで本発明のメッシュ織物が得られる。
【実施例
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0051】
A.熱特性(Tm1、Tm2、Tm1ピーク半値幅、ΔHm1、ΔHm2)
TA instruments社製DSC2920により示差熱量測定を行い、50℃から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークの温度をTm1(℃)とし、Tm1での融解熱量をΔHm1(J/g)とした。Tm1の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で50℃まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピークの温度をTm2とし、Tm2での融解熱量をΔHm2(J/g)とした。繊維、樹脂とも同様の測定を行い、樹脂ではTm2を融点とした。
【0052】
B.ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)
溶媒としてペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65(重量比)の混合溶媒を用い、液晶ポリエステルの濃度が0.04~0.08重量/体積%となるように溶解させGPC測定用試料とした。なお、室温24時間の放置でも不溶物がある場合は、さらに24時間静置し、上澄み液を試料とした。これを、Waters社製GPC測定装置を用いて測定し、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
カラム:ShodexK-806M 2本、K-802 1本
検出器:示差屈折率検出器RI
温度 :23±2℃
流速 :0.8mL/分
注入量:200μL
【0053】
C.繊維の総繊度、単繊維繊度
検尺機にて繊維を100mカセ取りし、その重量(g)を100倍し、1水準当たり3回の測定を行い、平均値を総繊度(dtex)とした。これをフィラメント数で除した商を単繊維繊度(dtex)とした。
【0054】
D.繊維の強度、伸度、弾性率
JIS L1013:2010記載の方法に準じて、試料長100mm、引張速度50mm/分の条件で、オリエンテック社製テンシロンUCT-100を用い1水準当たり10回の測定を行い、平均値を強力(cN)、強度(cN/dtex)、伸度(%)、弾性率(cN/dtex)とした。なお、弾性率とは初期引張抵抗度のことである。
【0055】
E.メッシュ織物の引張強度
JIS L1913(2010年)の6.3.1に準じ、サンプルサイズ5cm×30cm、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/分の条件でn=3の引張試験を行い、サンプルが破断した時の強度を引張強度(N/5cm)とし、平均値を算出し小数点以下第二位を四捨五入したものを引張強度(N/5cm)とした。
【0056】
F.紗厚
メッシュ織物を300mm角の版枠に紗張りした状態で、ミツトヨ社製デジマチックインジケーターを用いて計測した。メッシュ織物中の異なる9ヶ所の計測を行い、これを平均化したものを紗厚(μm)とした。
【0057】
G.メッシュ織物の繊維径、OP、メッシュ数、OPA、透過体積
メッシュ織物を300mm角の版枠に紗張りした状態で、キーエンス社製マイクロスコープVHX-2000を用いて繊維径、OPを計測した。計測位置はメッシュを構成する繊維の交点間のほぼ中間点とし、繊維径、OPをメッシュ織物中の異なる10ヶ所で計測し、これを平均化したものを繊維径(μm)、OP(μm)とした。メッシュ数(本/インチ)については以下の式で算出した。
メッシュ数=25400/(OP+繊維径)
【0058】
OPA(%)については以下の式で算出した。
OPA=OP/(OP+繊維径)×100
【0059】
透過体積(cc/m)はD項で得られた紗厚(μm)を用いて以下の式で算出した。
透過体積=OPA/100×紗厚
【0060】
本発明のメッシュ織物として、薄膜印刷に適用できるのは透過体積6.0cc/m以下である。5.0cc/m以下がより好ましく、4.0cc/m以下がさらに好ましい。
【0061】
参考例1
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1460重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、335℃まで4時間で昇温した。
【0062】
重合温度を335℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に40分間反応を続け、トルクが28kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
【0063】
得られた液晶ポリエステルの組成、融点、重量平均分子量(Mw)は表1に記載の通りである。
【0064】
【表1】
【0065】
この液晶ポリエステルを用い、160℃、12時間の真空乾燥を行った後、大阪精機工作株式会社製φ15mm単軸エクストルーダーにて溶融押し出しし、ギアーポンプで計量しつつ紡糸パックにポリマーを供給した。紡糸パックでは金属不織布フィルターを用いてポリマーを濾過し、表2記載の条件にてポリマーを吐出した。なお口金孔の直上に位置する導入孔はストレート孔とし、導入孔と口金孔の接続部分はテーパーとしたものを用いた。吐出したポリマーは40mmの保温領域を通過させた後、25℃、空気流の環状冷却風により糸条の外側から冷却し固化させ、その後、脂肪酸エステル化合物を主成分とする紡糸油剤を付与し、全フィラメントを表2記載の紡糸速度で第1ゴデットロールに引き取った。これを同じ速度である第2ゴデットロールを介した後、全フィラメント中の1本以外はサクションガンにて吸引し、残りのフィラメント数1の繊維はダンサーアームを介しパーンワインダー(神津製作所社製EFT型テークアップワインダー、巻取パッケージに接触するコンタクトロール無し)にてパーンの形状に巻き取った。得られた紡糸繊維物性を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
この紡糸繊維パッケージから神津製作所社製SSP-MV型リワインダー(接触長200mm、ワインド数8.7、テーパー角45°)を用いて巻き返しを行った。紡糸繊維の解舒は、縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に行い、調速ローラーは用いず、オイリングローラー(梨地仕上げのステンレスロール)を用いて固相重合用油剤の給油を行った。固相重合用油剤には下記化学式(1)で示されるリン酸系化合物を6.0重量%含有する水溶液に、タルクSG-2000(日本タルク株式会社製)を1.0重量%分散させた
【0068】
【化2】
【0069】
巻き返しの芯材にはステンレス製の穴あきボビンにケブラーフェルト(目付280g/m、厚み1.5mm)を巻いたものを用い、面圧は100gfとした。巻き返し後の繊維への固相重合油剤の油分付着率、ならびに巻き返し条件を表3に示す。
【0070】
次に巻き返したパッケージからステンレスの穴あきボビンを外し、ケブラーフェルトに繊維を巻き取ったパッケージの状態として固相重合を行なった。固相重合は、密閉型オーブンを用い、室温から240℃までは約30分で昇温し、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で表3に示す最高到達温度まで昇温し、表3に示す保持時間の間保持し、固相重合を行った。なお、雰囲気は除湿窒素を流量20NL/分にて供給し、庫内が過度に加圧にならないよう排気口より排気させた。得られた固相重合後繊維物性を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
次に、固相重合後のパッケージから繊維を解舒し、連続して高温非接触熱処理を行なった。固相重合後のパッケージをフリーロールクリール(軸およびベアリングを有し、外層部は自由に回転できる。ブレーキおよび駆動源なし。)にはめ、ここから糸を横方向(繊維周回方向)に引き出し、連続して、繊維を両端にスリットを設けた浴長150cm(接触長150cm)の浴槽(内部に繊維と接触するガイドなし)内に通し、油剤を洗浄除去した。洗浄液は非イオン・アニオン系の界面活性剤(三洋化成社製グランアップUS-30)を0.2wt%含有した50℃の温水とし、外部タンクにてこれを温調し、ポンプにて水槽に供給した。水槽への供給に際しては、水槽内に5cm間隔で穴を開けたパイプを通し、このパイプに供給することで水槽内に液流を与えるようにした。なおスリットおよび液面調整用の穴からあふれた洗浄液は回収し、外部タンクに戻す機構を設けている。
【0073】
洗浄後の繊維は引き続き、両端にスリットを設けた浴長23cm(接触長23cm)の浴槽(内部に繊維と接触するガイドなし)内に通し、50℃の温水ですすいだ。すすぎ後の繊維はベアリングローラーガイドを通し、空気流を当てて水を吹き飛ばして除去した後にセパレートローラー付きの第1ローラーに通した。なお、クリールはフリーロールであるため、このローラーにより繊維に張力を付与することで、固相重合パッケージからの解舒を行い、繊維を走行させることになる。
【0074】
ローラーを通過した繊維を加熱したスリットヒーター間を走行させ、表4に示した条件で高温非接触熱処理を行なった。スリットヒーター内にはガイド類を設けず、またヒーターと繊維も非接触としている。ヒーター通過後の繊維はセパレートローラー付きの第2ローラーに通した。なお、熱処理前の糸速度は第1ローラーの表面速度、熱処理後の糸速度は第2ローラーの表面速度を表している。第2ローラーを通過した繊維は、セラミック製のオイリングローラーにより脂肪酸エステル化合物を主体とする仕上げ油剤を付与し、EFT型ボビントラバースワインダー(神津製作所社製)にてパーンの形状に巻き取った。高温熱処理後の繊維物性を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
参考例2
参考例1で得られた液晶ポリエステルを用い、吐出量、紡糸度を表2の通りに変えた以外は参考例1と同様の方法で溶融紡糸を行った。得られた紡糸繊維物性を表2に示す。次に巻き返し条件を表3の通りに変えた以外は参考例1と同様の方法で巻き返し、固相重合を行った。固相重合後の繊維物性を表3に示す。高温熱処理条件を表4の通りに変えた以外は参考例1と同様の方法で解舒、洗浄、高温熱処理を行った。高温熱処理後の繊維物性を表4に示す。
【0077】
実施例1
参考例1で得られた液晶ポリエステル繊維を用い、経糸用の整経を行い、レピア織機を用いてメッシュ数が380本/インチとなるよう製織を行った。得られた織物を上下鉄ロールからなり、加熱温度が70℃とし、線圧を200kgf/m、加工速度3m/分としてカレンダー加工を行い、メッシュ織物を得た。
【0078】
このメッシュ織物の特性を表5に示す。メッシュ数は350本/インチ以上、紗厚は25μm以下であることから透過体積は小さくなっており、ペースト使用量が削減可能である薄膜印刷に適したメッシュ特性であることが分かる。
【0079】

【表5】
【0080】
比較例1、実施例2
実施例1と同様の方法で製織を行い、織物を得た。これを比較例1ではカレンダー加工を行わず、そのまま用い、実施例2では線圧を100kgf/mとすること以外は実施例1と同様の方法でカレンダー加工を行い、メッシュ織物を得た。
【0081】
これらのメッシュ織物の特性を表5に示す。比較例1ではメッシュ数は350本/インチ以上であるが紗厚が25μmを超えるため透過体積が大きいことが分かる。メッシュ数が350本/インチ以上、紗厚が25μm以下である実施例2では透過体積は小さくなっており、ペースト使用量が削減可能である薄膜印刷に適したメッシュ特性であることが分かる。
【0082】
比較例2
参考例1で得られた液晶ポリエステル繊維を用い、メッシュ数を330本/インチとすること以外は実施例1と同様の方法で製織を行い、線圧を100kgf/mとすること以外は実施例1と同様の方法でカレンダー加工を行い、メッシュ織物を得た。
【0083】
このメッシュ織物の特性を表5に示す。紗厚は25μm以下であるがメッシュ数が350本/インチよりも小さいため透過体積が大きいことが分かる。
【0084】
実施例3
参考例2で得られた液晶ポリエステル繊維を用い、実施例1と同様の方法で製織を行った。これを実施例1と同様の方法でカレンダー加工を行い、メッシュ織物を得た。
【0085】
このメッシュ織物の特性を表5に示す。メッシュ数は350本/インチ以上、紗厚は25μm以下であることから透過体積は小さくなっており、ペースト使用量が削減可能である薄膜印刷に適したメッシュ特性であることが分かる。