(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】抗Pre-S1 HBV抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230629BHJP
C07K 16/08 20060101ALI20230629BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230629BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230629BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230629BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230629BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230629BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20230629BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230629BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 S
A61P31/20
C12N15/63 Z ZNA
C12P21/08
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020116317
(22)【出願日】2020-07-06
(62)【分割の表示】P 2017560539の分割
【原出願日】2016-05-23
【審査請求日】2020-07-06
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2015/079534
(32)【優先日】2015-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517106833
【氏名又は名称】華輝安健(北京)生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】隋 建華
(72)【発明者】
【氏名】李 丹
(72)【発明者】
【氏名】李 文輝
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】Virology, (2000), Vol.270, pp.9-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 1/00~19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ウイルス(HBV)表面抗原のPre-S1ドメインにHBVを特異的に結合させる抗体またはその抗原結合断片であって、
a)Kabatシステムを利用した、配列番号59の残基6~10に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR1、配列番号60に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR2、配列番号61の残基3~11に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR3、配列番号62に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR1、配列番号63に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR2、および配列番号64に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR3;
b)Kabatシステムを利用した、配列番号65の残基5~9に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR1、配列番号66に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR2、配列番号67の残基3~10に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR3、配列番号68の残基1~12に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR1、配列番号69に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR2、および配列番号70に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR3;
c)Kabatシステムを利用した、配列番号71の残基6~10に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR1、配列番号72に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR2、配列番号73の残基3~7に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR3、配列番号74に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR1、配列番号75に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR2、および配列番号76に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR3;
d)Kabatシステムを利用した、配列番号77の残基6~12に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR1、配列番号78に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR2、配列番号79の残基3~13に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR3、配列番号80に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR1、配列番号81に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR2、および配列番号82に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR3;
e)Kabatシステムを利用した、配列番号83の残基6~10に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR1、配列番号84に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR2、配列番号85の残基3~9に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR3、配列番号86に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR1、配列番号87に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR2、および配列番号88に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR3;
f)Kabatシステムを利用した、配列番号95の残基6~10に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR1、配列番号96に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR2、配列番号97の残基3~12に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域CDR3、配列番号98に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR1、配列番号99に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR2、および配列番号100に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域CDR3;
を含み、
前記抗体またはその抗原結合断片は、
g)配列番号3に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号4に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
h)配列番号7に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号8に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
i)配列番号11に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号12に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
j)配列番号15に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号16に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
k)配列番号19に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号20に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
l)配列番号27に示すアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号28に示すアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
を含む、ことを特徴とする抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記抗体またはその抗原結合断片は、Fcドメインをさらに含む、請求項1
に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記抗体またはその抗原結合断片は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)アッセイにおいてADCC活性を示す、請求項1
または請求項2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号146に示すアミノ酸配列を含むPre-S1のエピトープに結合する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗体は、モノクローナル抗体である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
前記抗体は、ヒトモノクローナル抗体である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする
遺伝子。
【請求項8】
請求項7に記載の
遺伝子を含む発現ベクター。
【請求項9】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片を発現する培養細胞。
【請求項10】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合断片を対象に投与することを含む、対象におけるB型肝炎ウイルス(HBV)またはD型肝炎ウイルス(HDV)感染を処置または予防する方法において使用される組成物であって、前記対象は、HBVもしくはHDVを有する、HBVもしくはHDVに曝露された、HBVもしくはHDVの曝露もしくは感染のリスクが高い、Pre-S1ドメインの拮抗作用が必要である、またはそうでなければそれを必要とする、と判断されている、組成物。
【請求項11】
前記抗体またはその抗原結合断片は、注射によって投与されることを特徴とする、請求項
10に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
導入
世界の3分の1を超える人口がB型肝炎ウイルス(HBV)に感染しており、現在2億4000万人が慢性的に感染している。HBV感染および関連疾患により、毎年約100万人が死亡する。
【背景技術】
【0002】
HBVの表面抗原は、大(L)、中(M)および小(S)タンパク質からなる。LおよびMタンパク質は、Sドメインのみを有するSタンパク質と比較して、それらのN末端にさらなるドメインを有する。LはPre-S1、Pre-S2およびSドメインを含み;MはPre-S2およびSドメインを含み;Sタンパク質はSドメインのみを含む。Lタンパク質のpre-S1ドメインは、ヒト肝細胞表面上に発現されるHBV受容体の標的分子であり、HBVのpre-S1ドメインに対する抗体が報告されている。例えば、Watashiら、Int.J.Mol.Sci.2014年、15巻、2892~2905頁、参考文献22~27。関連文献としては、WO2013159243A1におけるHBV受容体、マウスハイブリドーマ由来のヒト化抗体、US7115723におけるKR127、およびUS7892754におけるpre-S1ペプチドの記載が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/159243号
【文献】米国特許第7115723号明細書
【文献】米国特許第7892754号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】Watashiら、Int.J.Mol.Sci.2014年、15巻、2892~2905頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、HBVおよび/またはHDVを阻害することによる免疫活性化のための方法および組成物を提供する。1態様では、本発明は、HBV Pre-S1に特異的に結合し、相補性決定領域(CDR)1、CDR2およびCDR3を、以下の(a)~(r)から選択される組合せで含む抗体抗原結合ドメインを提供する。ここで、抗体(Ab)、重鎖(HC)または軽鎖(LC)、およびCDRの組合せが由来するCDR命名システム(Kabat、IMGTまたは複合体)が最初のカラムに示され、太字の残基はKabatシステム、および下線で示した残基はIMGTシステムである。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
実施形態では、本発明は、CDR1、CDR2およびCDR3の組合せを含む重鎖可変領域(Vh)ならびにCDR1、CDR2およびCDR3の組合せを含む軽鎖可変領域(Vl)を含む、または、m36、71、76、T47、m1Q、2H5、m150;および4、31、32、69、A14、A21、B103、B129、B139、B172;および8、20、20-m1、20-m2、20-m3から選択される、重鎖可変領域(Vh)および/もしくは軽鎖可変領域(Vl)を含む抗体抗原結合ドメインを提供する。
実施形態では、抗体抗原結合ドメインは、pre-S1のaa11~28またはaa19~25に特異的に結合する。
【0006】
本発明はまた、対象の結合ドメインを含む抗体、特にモノクローナル抗体、およびF(ab)またはF(ab)2を提供する。
【0007】
本発明はまた、対象の抗原結合ドメインをコードするcDNAおよび発現ベクターのような新規なポリヌクレオチド、ならびにそのようなポリヌクレオチドを含む細胞、ならびにそのような細胞を含む非ヒト動物を提供する。ポリヌクレオチドは、発現のために異種の転写調節配列に作動可能に連結されてもよく、そのようなベクター、細胞などに組み込まれてもよい。
【0008】
本発明は、HBVもしくはHDV感染を治療するため、または抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を誘発するために、対象のドメインを使用する方法であって、HBVもしくはHDV感染を有する、HBVもしくはHDVに曝露された、HBVもしくはHDVの曝露もしくは感染のリスクが高い、Pre-S1ドメインの拮抗作用が必要である、またはそうでなければそれを必要とすると判断された人にそのドメインを投与することを含む方法を提供する。本発明はさらに、任意選択でウイルス複製阻害剤と合わせた、HBVまたはHDV感染のための医薬の製造のための対象の組成物の使用を提供する。
【0009】
本発明は、記載した特定の実施形態の全ての組合せを含む。本発明のさらなる実施形態および適用性の全ての範囲は、本明細書の以下に与えられる詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および特定の例は、本発明の好ましい実施形態を示す一方で、この詳細な説明から本発明の主旨および範囲内の様々な変更および改変が、当業者には明白であるから、説明の手段としてのみ与えられるものであることは理解されるべきである。本明細書に引用された全ての刊行物、特許および特許出願は、それらの中の引用物を含み、全ての目的のために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
HBV Pre-S1に特異的に結合し、相補性決定領域(CDR)1、CDR2およびCDR3を、以下の(a)~(r)から選択される組合せで含む抗体抗原結合ドメインであって、抗体(Ab)、重鎖(HC)または軽鎖(LC)、および前記CDRの組合せが由来するCDR命名システム(Kabat、IMGTまたは複合体)が最初のカラムに示され、太字の残基はKabatシステム、および下線で示した残基はIMGTシステムである、抗体抗原結合ドメイン。
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
(項目2)
m36、71、76、T47、m1Q、2H5、m150;および
4、31、32、69、A14、A21、B103、B129、B139、B172;および
8、20、20-m1、20-m2、20-m3
から選択される、CDR1、CDR2およびCDR3の組合せを含む重鎖可変領域(Vh)ならびにCDR1、CDR2およびCDR3の組合せを含む軽鎖可変領域(Vl)を含む、項目1に記載の抗体抗原結合ドメイン。
(項目3)
m36、71、76、T47、m1Q、2H5、m150;および
4、31、32、69、A14、A21、B103、B129、B139、B172;および
8、20、20-m1、20-m2、20-m3
から選択される重鎖可変領域(Vh)または軽鎖可変領域(Vl)を含む、項目1に記載の抗体抗原結合ドメイン。
(項目4)
m36、71、76、T47、m1Q、2H5、m150;および
4、31、32、69、A14、A21、B103、B129、B139、B172;および
8、20、20-m1、20-m2、20-m3
から選択される重鎖可変領域(Vh)および軽鎖可変領域(Vl)を含む、項目1に記載の抗体抗原結合ドメイン。
(項目5)
pre-S1のaa11~28またはaa19~25に特異的に結合する、項目1から4のいずれかに記載の抗体抗原結合ドメイン。
(項目6)
項目1から5のいずれかに記載の抗体抗原結合ドメインを含むモノクローナルIgG抗体。
(項目7)
HBVもしくはHDV感染を処置するため、または抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を誘発するために、項目1から5のいずれかに記載の抗体抗原結合ドメインを使用する方法であって、HBVもしくはHDV感染を有する、HBVもしくはHDVに曝露された、HBVもしくはHDVの曝露もしくは感染のリスクが高い、Pre-S1ドメインの拮抗作用が必要である、またはそうでなければそれを必要とすると判断された人に前記ドメインを投与するステップを含む方法。
(項目9)
項目1から5のいずれかに記載の抗体抗原結合ドメインをコードする発現ベクター。
(項目10)
項目1から5のいずれかに記載の抗体抗原結合ドメインを発現する培養細胞。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】2H5 VH鎖シャッフルライブラリー選択由来の10個の抗体によるHBV中和。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の特定の実施形態の説明
文脈で別に示した場合を除いて、用語「抗体」は最も広い意味で使用され、HBV/HDV Pre-S1を認識するか、そうでなければHBV/HDVを阻害する限り、抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)および抗体断片を特に包含する。抗体分子は通常、単一特異性であるが、独自特異性(idiospecific)、異種特異性、または多特異性として記載されることもあり得る。抗体分子は、抗原上の特定の抗原決定基またはエピトープに対する特異的結合部位によって結合する。「抗体断片」は、完全長抗体の一部分、一般的にその抗原結合領域または可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’).sub.2およびFv断片;ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子;ならびに抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。
【0012】
天然のおよび操作された抗体構造は、当該技術分野において周知である。例えば、Strohlら、Therapeutic antibody engineering:Current and future advances driving the strongest growth area in the pharmaceutical industry、Woodhead Publishing Series in Biomedicine 11巻、2012年10月;Holligerら、Nature Biotechnol 23巻、1126~1136頁(2005年); Chamesら、Br J Pharmacol. 2009年5月;157巻(2号):220~233頁。
【0013】
モノクローナル抗体(mAb)は、当業者に公知の方法によって得ることができる。例えば、Kohlerら(1975年);US4,376,110;Ausubelら(1987~1999年);Harlowら(1988年);およびColliganら(1993年)を参照されたい。本発明のmAbは、IgG、IgM、IgE、IgA、およびそれらの任意のサブクラスを含む任意の免疫グロブリンクラスのものであってもよい。mAbを産生するハイブリドーマは、in vitroまたはin vivoで培養することができる。高い力価のmAbは、個々のハイブリドーマからの細胞を、例えば初回刺激を受けた(pristine-primed)Balb/cマウスのような、マウスに腹腔内注射して、高濃度の所望のmAbを含む腹水を生成することで、in vivo生成で得ることができる。アイソタイプIgMまたはIgGのmAbは、そのような腹水または培養上清から、当業者に周知のカラムクロマトグラフィー法を使用して、精製することができる。
【0014】
「単離されたポリヌクレオチド」とは、天然に存在する状態においてそれに隣接する配列から分離されたポリヌクレオチドセグメントまたは断片、例えば、通常、断片に隣り合う配列、例えば、天然に存在するゲノム中の断片に隣り合う配列から除去されたDNA断片を指す。したがって、この用語は、例えば、ベクター、自律的に複製するプラスミドもしくはウイルス、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれる組換えDNA、あるいは、他の配列とは独立した別個の分子として(例えば、cDNA、またはPCRもしくは制限酵素消化によって生成されたゲノム断片もしくはcDNA断片として)存在する組換えDNAを含む。それはまた、追加のポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAも含む。
【0015】
「構築物」は、1つまたは複数のポリヌクレオチド分子が機能的に作動可能な様式で(すなわち、作動可能に連結されている)ポリヌクレオチド分子を含む、プラスミド、コスミド、ウイルス、自律的に複製するポリヌクレオチド分子、ファージ、あるいは線状もしくは環状の一本鎖または二本鎖のDNAもしくはRNAポリヌクレオチド分子などの、任意の起源に由来し、ゲノムへの組み込みまたは自律的に複製することが可能な、任意の組換えポリヌクレオチド分子を意味する。組換え構築物は、典型的には、意図された宿主細胞中でのポリヌクレオチドの転写を指令する転写開始制御配列に作動可能に連結された本発明のポリヌクレオチドを含む。異種および非異種(すなわち、内因性)プロモーターの両方を用いて、本発明の核酸の発現を指令することができる。
【0016】
「ベクター」とは、形質転換、すなわち、宿主細胞への異種DNAの導入の目的のために使用することができる任意の組換えポリヌクレオチド構築物のことを指す。ベクターの1つのタイプとしては「プラスミド」があり、これは追加のDNAセグメントをライゲーションすることができる環状の二本鎖DNAループのことを指す。別のタイプのベクターとしては、追加のDNAセグメントをウイルスゲノムにライゲーションすることができるウイルスベクターがある。ある種のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自律的複製が可能である(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム性哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞へ導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある種のベクターは、それらが作動可能に連結されている遺伝子の発現を指向させることができる。本明細書において、そのようなベクターを「発現ベクター」と呼ぶ。
【0017】
本明細書で使用される「発現ベクター」とは、宿主細胞に形質転換、トランスフェクトまたは形質導入された場合に、目的の遺伝子を複製および発現することができる核酸分子を指す。発現ベクターは、ベクターの維持を確実にするため、および、所望の場合には、宿主内で増幅を提供するために、1つまたは複数の表現型選択可能マーカーおよび複製起点を含む。発現ベクターは、細胞内のポリペプチドの発現を駆動するためのプロモーターをさらに含む。適切な発現ベクターは、例えば、商業的に利用可能なpBR322または様々なpUCプラスミド由来のプラスミドであってもよい。他の発現ベクターは、バクテリオファージ、ファージミドまたはコスミド発現ベクターに由来していてもよい。
【実施例】
【0018】
ヒトモノクローナル抗体はB型およびD型肝炎ウイルスのウイルス感染を遮断する
ここで、本発明者らは、HDVおよびHBVウイルス感染を遮断することができるヒトモノクローナル抗体を開示する。これらの抗体は、93人の健康なドナーからの末梢血単核細胞を使用して樹立された大きなファージディスプレイ抗体ライブラリーから同定された。HBVエンベロープタンパク質のpre-S1ドメインを標的として使用した抗体ライブラリーの選択およびスクリーニングにより、HBVおよびHDV感染に対する中和活性を有するヒトモノクローナル抗体のパネルが同定された。それらのうち、2H5は、HBVおよびHDV感染に対して最も良い中和活性を示した。その標的(Pre-S1ドメインの8個のアミノ酸)と複合体化した2H5の共結晶構造が解明された。鎖シャッフリングアプローチにより2H5を最適化することにより、本発明者らはさらに強力な中和抗体を開発した。これらの抗体は2H5と同様のエピトープを認識し、エピトープはHBVの異なる遺伝子型の間で高度に保存されている。例示的な抗体、A14を、ヒト化NTCPを有するマウスにおいて試験したところ、HDV感染からマウスは完全に防御され動物研究によりHBV感染に対する防御が確認された。
【0019】
抗原標的:pre-S1ペプチド。選択のための抗原として、本発明者らはHBVのpre-S1ドメインに由来する2つのペプチドを使用した。それらはScilight-ペプチド(Scilight-peptide)(北京、中国)によって95%を超える純度で合成された。NC36b:C末端にビオチン修飾を有するHBV Lタンパク質のpre-S1ドメインの残基4~38を含むペプチド。m47b:C末端におけるビオチン修飾およびN末端におけるミリストイル化修飾を有する、pre-S1ドメインのアミノ酸2~48を含むミリストイル化リポペプチド。
【化5】
【0020】
pre-S1ペプチドに対するヒトモノクローナル抗体は、修飾を有するファージディスプレイ抗体技術に基づいて生成された[1、2]。
【0021】
ファージディスプレイ抗体ライブラリー。93人の健康なドナーの末梢血単核細胞(PBMC)からヒト非免疫scFv(一本鎖可変断片)抗体ライブラリーを構築した。ライブラリーのサイズは合計1.1×1010メンバーである。
【0022】
ファージ抗体ライブラリーの選択およびスクリーニング。表面にscFvを発現するファージ粒子(ファージ-scFv)をライブラリーから調製し、合成したNC36bおよびm47bに対するscFvの選択のために使用した。ペプチドをストレプトアビジンコンジュゲートマグネチックM-280 Dynabeads(登録商標)(Life Technologies)上に捕捉し、その後、それぞれ、ライブラリーから調製した5×1012個のファージ粒子と共にインキュベートした。各ペプチドについて、2ラウンドの選択を行った。各々の選択のラウンドについて、高親和性抗体を得るために、磁気ビーズ上に捕捉されたペプチドの量を最適化し、広範に及ぶ洗浄ステップを適用した。さらに、磁気ビーズから高親和性バインダーを回収し、回収されたファージ-scFvの多様性を増加させるために、ペプチド競合溶出および従来の塩基性トリエタノールアミン溶液を含む2つの溶出法を使用した。続いて、合計約2000個の単一クローンを採取し、レスキューして細菌培養上清中にファージ-scFvを生成させ、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によりm47bおよび/またはNC36bへの特異的結合についてスクリーニングした。450nmにおいて1.0超の光学密度の値でm47bおよび/またはNC36bに結合したクローンを陽性としてスコアリングし、陰性クローンは0.1未満の値を与えた。m47bおよび/またはNC36b特異的結合クローンについては、重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域の遺伝子を配列決定し、それらの対応するアミノ酸配列をアライメントして、反復クローンを排除し、さらなる特徴付けのために異なる配列を有する抗体を同定した。固有な配列を有する合計109個のクローンが同定された。
【0023】
最良の抗体候補を同定するための固有な抗体配列を有する抗体のさらなる特徴付け。固有な配列を有する抗体クローンは、精製されたファージ-scFv粒子として生成された、またはscFv-Fcミニボディもしくは完全長ヒトIgG1に変換され、その後、ELISAによりその結合活性について試験され、ならびに細胞培養液におけるHBVおよびHDV中和活性について試験された。これらのアッセイによって、抗体は、それらの結合活性および中和活性に基づいてランク付けされた。最高の中和活性を有する上位の抗体を、さらなる開発のために選択した。
【0024】
ELISAまたは中和アッセイのための精製ファージ-scFvの調製。10~30mLの細菌培養液の上清中のファージ-scFvをPEG/NaCLにより沈殿させ、その後、分光計により定量した。抗原結合またはウイルス感染を中和するための様々なファージ-scFvの活性を、同じ濃度に正規化された連続希釈ファージ-Abの用量応答に基づいて評価した。
【0025】
scFv-Fcミニボディの調製。ファージ-scFv発現ベクターからのscFvをコードする遺伝子を、scFvのC末端にヒトIgG1 Fc断片を含有する発現ベクターにサブクローニングした。scFv-Fcを産生するために、293F(Life Technologies)または293T細胞(ATCC)にscFv-Fc発現プラスミドを一過的にトランスフェクトし、トランスフェクションから72時間後に、細胞培養液上清を採取し、scFv-FcをプロテインAアフィニティークロマトグラフィー(プロテインAセファロースCL-4B、GEヘルスケア)により精製した。
【0026】
完全長IgG1抗体の調製。scFvのVHおよびVLをコードする配列を、抗体重鎖(HC)発現ベクターおよび軽鎖(LC)発現ベクターに別々にサブクローニングした。IgG1抗体を作製するために、293Fまたは293T細胞に、2つの発現プラスミド(HC+LCプラスミド)を、1:1の比で一過的に共トランスフェクションした。トランスフェクションの72時間後、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーによりIgG1の精製のために細胞培養液上清を採取した。
【0027】
ELISAアッセイ。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の5μg/mLストレプトアビジン(Sigma)を、1ウェル当たり100μL、4℃で一晩または37℃で1時間、U底96ウェルプレート(Nunc、MaxiSorp(商標))中にコーティングした。その後、2μg/mL(370nM)のm47bまたはNC36bペプチドを1ウェルあたり100μLで、30℃で0.5~1時間のインキュベーションによってプレート上に捕捉した。ファージ-scFvに基づいたELISAについては、2%無脂肪ミルクを含有するPBS中に連続希釈したファージ-scFvを、各々のウェルに1ウェルあたり100μLで加えた。HRPコンジュゲートマウス抗M13抗体(GE Healthcare)を添加して、30℃で30分間インキュベートすることによって、特異的結合ファージ-scFvを検出した。各々のインキュベーションステップの間に、PBST溶液(0.05%Tween20含有PBS)を1ウェルあたり200μLで用いて、ELISAプレートを6回洗浄した。HRPコンジュゲート抗体インキュベーションに続いて、30℃で5~10分間TMB基質(Sigma)とともにインキュベートすることにより、ELISAシグナルを発色させ、次に2M H2SO4を1ウェルあたり25μLで用いて反応を停止させる。450nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(Bio-Rad)で読み取った。scFv-FcまたはIgG1に基づくELISAについては、結合した抗体がHRPコンジュゲートマウス抗ヒトIgG Fc抗体(Sigma)によって検出された以外は、ファージ-scFvについて上記の方法と基本的に同じであった。
【0028】
HBVおよびHDVウイルスの調製。HBVおよびHDVは、以前、記載されたようにして生成された[3]。HDV。簡潔に述べると、CMVプロモーターのコントロール下にある遺伝子型Iウイルス(Genebank受託番号:AF425644.1)の1.0×HDV cDNAのヘッドトゥーテール三量体(head to tail trimer)を含有するプラスミドを、HDV RNPの生成のための新規合成HDV cDNAを用いて構築した。内因性HBVプロモーターのコントロール下でHBVエンベロープタンパク質を発現させるために、HBVのヌクレオチド2431~1990(遺伝子型D、Genebank受託番号:U95551.1)を含有するpUC18プラスミドを使用した。以前にSureauら[4]によって記載されたように、Huh-7におけるプラスミドのトランスフェクションによって、HDVビリオンを生成した。トランスフェクトした細胞培養液上清を採取し、HDV中和アッセイのために直接使用した。HBV。CMVプロモーターの制御下の1.05コピーのHBVゲノムを含有するプラスミドをHuh-7細胞にトランスフェクションすることによって、HBV遺伝子型B、CおよびDウイルスを生成した。遺伝子型BまたはCのHBVウイルスもまた、HBV患者の血漿由来であった。
【0029】
HBVおよびHDV中和アッセイ。中和アッセイは、若干の改変を施すと共に以前に記載される[3、5]ように行った。HepG2-hNTCP細胞(HBVおよびHDV受容体hNTCP(human sodium taurocholate cotransporting polypeptide;ヒトタウロコール酸ナトリウム共輸送ポリペプチド)を安定に発現するHepG2細胞株)をこれらのアッセイに使用した。HepG2-hNTCP細胞をウイルス感染前に48ウェルプレート中で12~24時間、PMM培地[3]中で培養した。様々な型の抗体:ファージ-scFv、scFv-FcまたはIgG1と混合した約500多重度のゲノム相当(multiplicities of genome equivalents;mge)のHDVまたは200mgeのHBVを、5%PEG8000の存在下でHepG2-hNTCP細胞に接種し、16時間インキュベートした。その後、細胞を培地で3回洗浄し、PMMで維持した。細胞培養培地は、新鮮なPMM培地で2~3日ごとに変えた。HDV感染については、感染の7日後(days post infection;dpi)に、100%メタノールを用い、HDV感染細胞を室温で10分間固定し、細胞内デルタ抗原を5μg/mLのFITCコンジュゲート4G5(マウス抗HDVデルタ抗原モノクローナル抗体)で染色し、核をDAPIで染色した。蛍光顕微鏡(Nikon)により画像を収集した。HDVに対する中和活性は、染色されたデルタ抗原の量および強度に基づいて決定された。HBV感染については、dpi 3、5および7において、培養上清を収集し、市販のELISAキット(Wantai、北京、中国)を用い、HBV分泌ウイルス抗原HBsAgおよび/またはHBeAgについて試験した。HBeAgおよび/またはHBsAgのレベルを使用して、抗体のHBV中和活性を評価した。
【0030】
上に記載のELISAおよびHBV中和アッセイを介して、本発明者らは、NC36bならびにm47bおよび47b(m47bと同様であるが、ミリストイル化を伴わないペプチド)との特異的結合を示し、HBVにおいて中和活性を示したいくつかの上位の抗体を同定した。
【0031】
これらの上位の抗体の中で、m36、2H5およびm1Qは、最良のHBV(遺伝子型D)中和活性を示す上位3種の抗体であった。m36は、完全長IgG1に変換したときに発現の減少を示したため、さらなる試験から除外した。2H5およびm1QをHDV中和活性についてさらに比較したところ、2H5は中和HDV感染においてより良好な活性を示した。ペプチドとの高い結合活性およびHBVおよびHDVに対する強力な中和活性に基づいて、2H5をさらなる開発のために選択した。さらに、2H5は、以前に刊行されたpre-S1ペプチド抗体KR127[6~8]よりもより大きなHBVおよびHDV中和活性を示した。HBV感染アッセイにおいて、IC50(HBV感染の50%阻害をもたらす抗体濃度)によって示されるように、2H5-IgG1は、KR127よりも11倍強力である;2H5もまた、HDV感染アッセイにおいて、より大きな阻害効果を示した。
【0032】
2H5抗体の結合エピトープのマッピング。pre-S1領域上の2H5のエピトープをマッピングするために、本発明者らは、pre-S1ドメインの様々な領域をカバーする短いペプチドを合成し、競合ELISAアッセイにより、m47bへの2H5の結合について競合するそれらの能力を試験した。結合を競合することができる最も短いペプチドは、LN16ペプチド(HBV Lタンパク質(遺伝子型D)のpre-S1ドメインのNTアミノ酸(aa)11~28に対応する)であり、2H5の結合エピトープがこの領域内に位置することを示している。LD15およびLA15ペプチドもまた、ある程度の競合活性を示したが、LN16よりも低いレベルであった。3つのペプチドLN16、LD15およびLA15によって共有される共通アミノ酸は、pre-S1のaa19~25である。したがって、本発明者らは、19、20、22および23位にそれぞれ単一のアラニン変異を持つLN16ペプチド、LN16-L19A、-D20A、-P21A、-F23Aをそれらの競合活性について試験し、その結果は、それら全ての競合活性が低減した(LN16-L19A)、またはこの活性を完全に失った(LN16-D20A、-P21A、-F23A)ことを示したが、このことは、これらのアミノ酸が、2H5へのpre-S1結合について非常に重要であることを示している。
【0033】
2H5エピトープは、大部分のHBV遺伝子型の間で高度に保存されている。8つのHBV遺伝子型のpre-S1ペプチドの配列アライメントにより、それらの間でそのエピトープが、高度に保存されていることが示された。主要な可変アミノ酸は、24位:遺伝子型AおよびCにおけるグリシン、遺伝子型Dおよび他の遺伝子型におけるリジンまたはアルギニンである。pre-S1ペプチドへの2H5結合にこのアミノ酸変化が影響を及ぼすかどうかを試験するために、24位にアルギニンを含有するNC36bペプチドを合成し、ELISAにより2H5との結合を試験する。その結果は、このアミノ酸変化が結合に対して最小限の影響しか有さないことを示した。これは、2H5が、遺伝子型DのHBVおよびHBV遺伝子型Dエンベロープを持つHDVを中和したHBVおよびHDVウイルス中和結果と一致する。
【0034】
2H5 scFvおよびpre-S1ペプチド複合体の構造的特徴付け。本発明者らはまた、pre-S1ペプチド、59Cと複合体化した2H5の結晶構造(そのN末端にHis
6タグを融合させたscFv断片として)を決定した。59Cのアミノ酸配列は、遺伝子型Cのpre-S1のaa-10~48に対応する:
【化6】
2H5-scFvおよび59CをE.coliで共発現させた。この複合体を、Ni-NTAアガロースビーズ(QIAGEN)を使用した固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、続いてSuperdex S200 10/300カラム(GE Healthcare)を用いたサイズ排除クロマトグラフィー-HPLC(SEC-HPLC)によって複合体として精製した。その後、精製した2H5-scFv/59C複合体を濃縮し、1μLのタンパク質(10mM Tris-HCl pH 8.0および100mM NaCl中に29mg/mL)および1μLの2.8M酢酸ナトリウム、pH7.0を含有するリザーバー溶液を混合することによるハンギングドロップ蒸気拡散法を使用して、20℃で結晶化させた。針状の結晶が10日後に現れた。X線回折データを、上海シンクロトロン放射施設のビームラインBL17Uで収集し、HKL2000により処理した[9]。構造は、ハーセプチン-Fab複合体(PDB 3H0T)[12]の構造に由来するVHおよびVLをスターティング・モデルとして使用して、Phaser[10、11]での分子置換によって2.7Åの分解能で決定した。分子置換から得られた初期モデルは、Phenix[13]においてさらに精密化され、Coot[14]において手動で再構築された。最終的なモデルは、2H5 scFvの220残基、59Cペプチドの残基20~27を含む。RAMPAGE分析は、96.71%の残基が好ましい領域にあり、3.29%の残基が許容領域にあることを示している[15]。2H5 scFvのVHおよびVLの両方がペプチドとの相互作用に関与していることが、構造により明らかになった。この構造に含まれるペプチドの8個のアミノ酸はD
20P
21A
22F
23G
24N
25A
26S
27である。そのうち、D
20、P
21、A
22、F
23、A
26およびS
27は2H5と相互作用する。3つのアミノ酸、D
20、P
21およびF
23は、2H5結合にとって重要な相互作用をする。
【0035】
VH鎖シャッフリングによる2H5親和性および中和活性の改善。
【0036】
2H5のVH鎖シャッフルライブラリーからの4つの上位抗体の同定。次に、本発明者らは、2H5の結合親和性および中和活性を改善するために、鎖シャッフリングを使用した。この鎖シャッフリングでは、優れた活性について選択できる二次ライブラリーを生じさせるために、2つの鎖(VHおよびVL)のうち1つは固定され、他の鎖のレパートリーと組み合わせた。まず、2H5のVLを固定し、VH鎖のライブラリーと対にしたVH鎖シャッフリングを行った。2つのVH-Lib/2H5VLファージディスプレイライブラリーを構築した。1つのライブラリーサイズは約2×10
8で、もう1つは約9×10
8である。ストレプトアビジンコンジュゲートマグネチックM-280 Dynabeads(登録商標)(Life Technologies)上に捕捉されたペプチドを標的として使用することにより、2つのVH-Lib/2H5VLライブラリーを各々1ラウンドずつ別々に選択した。両方のライブラリーからの選択の1ラウンドの終わりに、合計576個の個々のクローンを無作為に採取し、ELISAによってm47bとの結合についてスクリーニングした。ELISAにおける陽性クローンを選択し、配列決定した。ファージ抗体型において、2H5に比べて同等またはより強力なm47
bに対する結合活性を示した、固有のVH配列(表1)を有する10個のクローンを同定した。その後、これらの10個のクローンを完全長ヒトIgG1に変換し、ELISAによるm47bへの結合と、in vitro中和アッセイによるHBV(遺伝子型D)(
図1)およびHDVの中和について、確証した。m47bへの結合、HBVおよびHDVの中和におけるそれらの全体的な活性に基づいて、4つの上位抗体、#31、#32、A14およびA21を選択した。
【0037】
【0038】
図1は、2H5 VH鎖シャッフルライブラリー選択からの10個の抗体によるHBV中和を示す。抗体の存在下、様々な濃度で16時間、HBV(遺伝子型D)とインキュベーションすることにより、HepG2-hNTCP細胞を感染させた。その後、抗体およびウイルスを洗い流し、7日間培養し続け、細胞培養用培地を2日ごとに交換した。感染の7日後にELISAによって、分泌されたHBeAgを検出した。HBeAgレベルの低減に基づいて、HBV中和活性を計算し、抗体の存在下での感染細胞の、対照(対照抗体の存在下で感染させた細胞)と比較した変化パーセンテージとして表した。
【0039】
2H5 VH鎖シャッフルライブラリーからの4つの上位抗体のエピトープマッピング。上に記載のように、本発明者らは、2H5 VH鎖シャッフルライブラリーから同定された4つの上位抗体の結合エピトープをマッピングするために、ペプチド競合ELISA法を使用した。LN16ペプチド(pre-S1ドメインのNTアミノ酸(aa)11~28に対応する)、およびLN16ペプチド変異体、LN16-L19A、-D20A、-P21A、-F23Aを使用して、これら抗体のm47bペプチドへの結合について競合させた。それらの全てが2H5と同様のペプチド競合パターンを有し、アミノ酸、L19、D20、P21およびF23がこれらの抗体の結合に重要であることが、本発明者らのデータにより明らかになった。D20およびF23は全ての抗体にとって最も重要である一方で、L19およびP21は様々な抗体に対してわずかに変わりやすい役割を果たす。
【0040】
2H5 VH鎖シャッフルライブラリーからの4つの上位抗体のさらなる特徴付け。これらの抗体は、親の2H5抗体と比較して、HBV(遺伝子型D)中和活性が15~20倍を超えて改善されている。これらの抗体のIC50は約10~40pM前後である。これらの4つの抗体のうちの代表的な抗体、A14を、HBV(遺伝子型D)感染の中和において、B型肝炎免疫グロブリン(Hepatitis B Immune Globulin)とさらに比較した。HBIGは、B型肝炎表面抗原(hepatitis B surface antigen;HBsAg)の高い抗体レベルを有するドナーの血漿から調製され、臨床でB型肝炎を発症する危険性のある人々のための曝露後予防法として使用される。A14は、HBIGよりも1000倍を超える中和活性を示した。さらに、A14は、他の2つのHBV遺伝子型、BおよびCに対して、広く中和活性を示した。遺伝子型B、CおよびDのIC50は、それぞれ80pM、30pMおよび10pMである。A14はまた、HBV感染患者の血漿からの6つのHBV遺伝子型Cウイルスの中和について試験された。やはり、A14は、これらのウイルスの中和において、HBIGよりも少なくとも数百倍から1000倍強力であった。
【0041】
A14は、その可変ドメインの最も高い熱安定性を反映して、80.2℃の最も高いFab融解温度(Tm)を有するものである。A14は、起源の2H5と比較しておよそ2℃、安定化されている一方で、他の3つのnAbは全て、わずかに熱安定性が低減する。示差走査熱量測定(DSC)を使用して、熱安定性を測定した。
【0042】
初代ヒト肝細胞(primary human hepatocytes;PHH)を使用して、本発明者らはまた、HBV患者の血漿サンプルからの2つのHBV臨床株に対するA14の強力な中和活性を実証した。1つのウイルスは遺伝子型Bであり;他のウイルスは遺伝子型Cウイルスである。細胞培養液上清に分泌されたHBsAgまたはHBeAgを、市販のキット(Autobio Diagnostics Co.,Ltd.)を使用して、感染過程の全体にわたって2日ごとに検査した。
【0043】
A14は、細胞上に発現したNTCPへの結合について、pre-S1と競合した。A14は、用量依存的にHepG2細胞上に発現したNTCPへの結合に関してpre-S1(FITC標識pre-S1ペプチド:m59)と効果的に競合した。
【0044】
A14は、6つの異なる組織を代表する12の異なる細胞株との交差反応性が無い。このことは、ウエスタンブロッティングおよび免疫染色アッセイによって分析された。
【0045】
A14は、感染細胞と同様に細胞表面上にそのエピトープを持つ細胞およびHBV産生細胞に対する抗体媒介性細胞傷害(antibody mediated cytotoxicity;ADCC)活性を有する。ADCCアッセイにおいて、A14のエピトープはCHO細胞表面上に安定して発現され、HBVを産生するDE19細胞、感染したHepG2-hNTCP細胞は、標的細胞として使用された。ヒトNK細胞株(CD16(V158対立遺伝子)およびFcRgamma鎖を発現するNK92-MI)をエフェクター細胞として使用した。エフェクター細胞および標的細胞(E/T)を、A14またはそのFc変異体の存在下、6:1の比で6時間、共培養した。プロメガ(Promega)からのLDH放出アッセイキットを使用して、細胞殺滅を測定した。A14は、エピトープを発現するCHO細胞、HBV産生細胞、およびHBVに感染したHepG2-hNTCP細胞の強い特異的殺滅を示すものの、エピトープ発現を欠く対照細胞、非HBV産生細胞、非HBV感染細胞の強い特異的殺滅は示さないことが、ADCCアッセイにより示された。一方で、ADCC活性を欠くが、同じ結合活性を保持するA14のFc変異体(D265A/N297A)は、ADCC活性を有していなかった。
【0046】
ADCC活性は、A14と同じまたは類似のエピトープを有する抗体であって、2H5およびそのVH鎖シャッフル由来のもの:4、31、32、69、A14、A21、B103、B129、B139、B172、およびそのVL鎖シャッフルしたクローン#8、20、20-m1、20-m2、20-m3を含む抗体に共通しており、ならびにm36、71、76、T47、m150、m1Qのような異なるエピトープを有する抗体もまたADCC活性を示すことができる;例えばm1QもまたADCC活性を示し、そのエピトープはpreS1上のA14のエピトープのC末端に接近している。
【0047】
A14はマウスをHDV感染から保護した。本発明者らは以前に、HBVおよびHDVのウイルス侵入を支援するようにマウスNTCP(mouse NTCP;mNTCP)を限定する分子決定基が、mNTCPの残基84~87内に位置することを明らかにした。残基84~87がヒトNTCPの対応部分で置き換えられた場合、これは細胞培養においてウイルス感染を効果的に支援することができる[16]。このことに基づき、本発明者らは、ゲノム編集法、TALEN[17、18]を使用して、mNTCPの84~87における残基をhNTCPの対応する残基に置き換えることにより、HDV感染を支援することのできるマウスモデル(FVB株のバックグラウンド)を樹立した。このマウスモデルを使用して、本発明者らは、A14がHDV感染からマウスを保護できるかどうかを試験した。mNTCP修飾ホモ接合体のaa84~87を有するFVBマウス(生後9日齢)に、10mg/kg体重でA14 mAbを投与した。mAb投与の1時間後、HDVウイルスでマウスをチャレンジした。HDVチャレンジ後6日目に、マウスを屠殺し、収集直後に肝臓組織を液体窒素中で採取した。その後、マウス肝臓サンプルをホモジナイズし、Trizol(登録商標)試薬で溶解して全RNAを抽出した。RNAサンプルを、Prime Script RT-PCRキット(Takara)を用いてcDNAに逆転写した。HDV全RNA(ゲノム等価物)および編集されたNTCP RNAコピーを定量するために、20ngのRNAから得られたcDNAをリアルタイムPCRアッセイのための鋳型として使用した。リアルタイムPCRは、ABI Fast 7500リアルタイムシステム機器(Applied Biosystems、米国)で行った。編集されたNTCPおよびHDVウイルスゲノム等価コピーを、標準曲線を用いて計算し、細胞内GAPDH RNAを内部対照として使用した。A14 mAbはHDV感染を完全に遮断した一方で、対照群においては、HDV感染は1~10×106コピー/20ng肝臓RNAに達した。両方の群のマウスは、肝臓組織において、同等のNTCP mRNAコピーを有していた。
【0048】
A14は、予防マウスモデルにおいてHBV感染からマウスを保護し、処置マウスモデルにおいてHBV感染を阻害した。ヒト肝細胞を移植したFRG(Fah-/-Rag2-/-/IL2rg-/-)三重ノックアウトマウスを使用してマウスHBV感染モデルを樹立した[19、20]。FRGマウスは、移植されたヒト肝細胞をマウス肝臓において複製させ、98%までヒト肝細胞を有するキメラ肝臓を形成することを可能となるが、このような肝臓ヒト化FRGマウス(FRGC)はHBV感染に対して非常に感受性が高い。A14の予防効果を試験するために、10匹のFRGCマウスを各々5匹ずつの2つのグループに分けた。A14予防群のマウスには、HBVウイルスチャレンジの1日前に、1回のIP投与によってA14を15mg/kgの用量で注射した一方で、対照群のマウスには、同量のPBSを注射した。0日目に、全てのマウスに10e9 GE(genome equivalent;ゲノム等価量)HBVを各々、尾の静脈経由で注射した。A14の治療効果を試験するために、0日目に、尾の静脈経由で10e9 GE/マウスのHBVによりFRGCマウスをチャレンジし、感染後5日目に、マウスをエンテカビル(ETV)対照またはA14またはHBIGで処置した。ETVは毎日0.1mg/kgで経口的に与えられ;A14またはHBIGは、3日ごとにI.P.注射により、それぞれ20mg/kgおよび72mg/kg(40IU/kg)で投与された。予防および処置モデルの両方において、血清中のHBsAgおよびHBV DNA力価を測定するために、全てのマウスから3日ごとに血液サンプルを採取した。マウスを実験の最後に屠殺し、dpi35および肝臓組織をHBsAgおよびHBcAgの免疫組織化学染色(IHC)のために保存した。A14は、予防モデルにおいて、HBV感染からのFRGCマウスの100%保護を示した;それはまた、処置モデルにおいてもHBV感染の有意な阻害を示した。
【0049】
まとめると、結果は、A14 mAbが動物モデルにおける強力なHDVおよびHBV侵入阻害剤であることを明白に実証した。HDVおよびHBV感染の防止のために、HBIGに置き換えて、A14 mAbを使用することができる。一方、マウスにおいて樹立されたHBV感染のA14処置により、HBV感染が有意に阻害され、さらに、A14は、HBV感染細胞に対して特異的ADCC活性を示したが、非HBV感染細胞に対しては示さなかった。これらの結果は、HBVに慢性的に感染した患者を処置する目的で、A14 mAbをETVと組み合わせられ得ることを示している。A14は宿主細胞への新たなウイルス侵入を遮断し、感染細胞に対するADCC活性を有する一方で、ETVはウイルス複製を阻害するので、A14とETV、ラミブジン(lamivudine)、アデフォビル(adefovir)、テノホビル(tenofovir)、テルビブジン(telbivudine)または他のヌクレオシドおよびヌクレオチドアナログ(NUC)などのウイルス複製阻害剤との組合せは、患者に新しい治療的および予防的選択肢を提供すると共に、より良好なウイルス血症制御およびHBsAg減少を達成することができる。
【0050】
VL鎖シャッフリングによるA14親和性および中和活性の改善。A14活性をさらに改善するために、本発明者らは、A14のVHを固定し、VL鎖のライブラリーと対にした、A14-VL鎖シャッフルファージディスプレイライブラリーを作製した。構築した最終ライブラリー(A14VH/VLlib)は、約3×108のサイズであった。ストレプトアビジンコンジュゲートマグネチックM-280 Dynabeads(登録商標)(Life Technologies)上に捕捉されたm47bペプチドを標的として使用して、A14VH/VLlibライブラリーを2ラウンド選択した。m47bとの結合についてELISAにより、196個のクローンがスクリーニングされた。全てのクローンは陽性であったが、最も高いOD450読み取り値を有する24個のクローンを配列決定のために採取した。A14のVLとは異なるVL鎖配列を有する2個のクローン、#8および#20が同定された。これら2つの抗体を完全長ヒトIgG1に変換し、ELISAにより、m47bへの結合について試験した。それらは両方とも、A14よりも強いm47bへの結合活性を示した。HBV(遺伝子型D)のHBV中和アッセイにおいて、#8は、HBV感染の中和について5倍の改善を示したが、#20は、A14と同様の活性を示した。#20(#20-m1、-m2、-m3)のVLのさらなる変異生成により、その中和活性がA14よりも約3~5倍改善し、#8と同様のレベルにまで達した。これらの#20変異体のHDV中和活性が、A14と比較して上昇したことが実証された。したがって、さらに改善された活性を有するこれらのA14由来抗体は、上に記載のA14と同様に、単独またはウイルス複製阻害剤と組み合わせて使用することができる。
【0051】
【0052】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【配列表】