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特許7304321地山計測システム、地山計測方法、地山管理システム、及び地山管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】地山計測システム、地山計測方法、地山管理システム、及び地山管理方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020116700
(22)【出願日】2020-07-06
(65)【公開番号】P2022014396
(43)【公開日】2022-01-19
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】水野 史隆
(72)【発明者】
【氏名】谷 卓也
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-140687(JP,A)
【文献】特開2020-88803(JP,A)
【文献】特開2003-75247(JP,A)
【文献】特開2016-61080(JP,A)
【文献】特開2011-256525(JP,A)
【文献】特表2022-513444(JP,A)
【文献】特開2019-016006(JP,A)
【文献】特開2003-028991(JP,A)
【文献】特開2013-053444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00-19/06
23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネルの掘進に伴って地山性状を示す定量データの計測を行う、地山計測システムであって、
前記山岳トンネルの坑壁から地山側に延びる計測孔に収容されている、計測器と、
前記計測孔よりも坑口側に配設されている、通信器と、を有し、
前記計測器は、計測部と、第一通信部と、を備え、
前記第一通信部は、前記計測部にて計測された計測データを前記通信器に無線送信する、LPWA無線通信モジュールと、通信アンテナと、を備えていることを特徴とする、地山計測システム。
【請求項2】
前記計測器の全体が前記計測孔に収容されていることを特徴とする、請求項1に記載の地山計測システム。
【請求項3】
前記通信器が、以下のいずれか一種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の地山計測システム。
(1)前記計測データの送受信が可能なゲートウェイ、
(2)前記計測データの受信が可能なゲートウェイと、該ゲートウェイに接続されている坑内LANと、該坑内LANに接続されている送信用アクセスポイント。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の地山計測システムと、
前記通信器とネットワークを介して接続される、サーバ装置と、
前記サーバ装置とネットワークを介して接続される、ユーザ端末と、を有し、
前記サーバ装置は、前記計測データを受信する第二通信部と、該計測データを格納する格納部と、を備え、
前記ユーザ端末は、前記サーバ装置から少なくとも前記計測データを受信する第三通信部と、少なくとも該計測データを表示する表示部と、を備え、
前記サーバ装置と前記ユーザ端末の少なくとも一方が、前記計測データに基づいて前記地山性状、及び/又は、前記地山性状に応じた地山評価を判定する判定部をさらに備えていることを特徴とする、地山管理システム。
【請求項5】
山岳トンネルの掘進に伴って地山性状を示す定量データの計測を行う、地山計測方法であって、
前記山岳トンネルの坑壁から地山側に延びる計測孔を施工する、計測孔施工工程と、
計測部と、第一通信部と、を備え、該第一通信部は、前記計測部にて計測された計測データを通信器に無線送信する無線通信モジュールと、通信アンテナと、を備えている、計測器の全体を前記計測孔に設置する、計測器設置工程と、
前記計測孔よりも坑口側に通信器を設置する、通信器設置工程と、
前記計測部にて前記定量データを計測し、計測された計測データを前記通信器に対してLPWA無線にて送信する、計測送信工程と、を有することを特徴とする、地山計測方法。
【請求項6】
請求項5に記載の地山計測方法における前記計測送信工程に次いで、前記通信器からネットワークを介して前記計測データをサーバ装置に送信し、該サーバ装置から少なくとも前記計測データをユーザ端末に送信し、該ユーザ端末において少なくとも前記計測データを表示することにより、前記山岳トンネルの地山性状を特定して施工管理を行う、地山管理方法であって、
前記サーバ装置と前記ユーザ端末の少なくとも一方において、前記計測データに基づいて前記地山性状、及び/又は、前記地山性状に応じた地山評価を判定する判定工程を有することを特徴とする、地山管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山計測システム、地山計測方法、地山管理システム、及び地山管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工においては、地山の性状(もしくは状態、挙動等)を把握するべく、切羽を目視観察したり、支保部材や地山の変形や応力状態を測定する坑内計測が一般に行われており、日常の施工管理のために必ず実施される所謂A計測の他に、地山条件を考慮してA計測に追加して設定される所謂B計測がある。このB計測には、地中変位計測や覆工応力計測、ロックボルト軸力計測等が含まれ、いずれも特殊な計測器を設置して定量データ(計測データ)を取得し、現在の地山の性状を評価したり、さらには掘進に伴う将来的な地山の性状を評価している。
例えば、特許文献1には、トンネルの沈下に加えて水平内空変位を精度よく特定することにより、切羽前方の地山状況の高精度な予測を可能とする、地山状況予測方法が提案されている。具体的には、少なくとも半円形部を含む断面形状のトンネルのトンネルアーチ部において、トンネルの軸方向に間隔を置いて複数の傾斜計を設置し、各傾斜計の計測データを取得し、隣接する傾斜計のそれぞれの計測データから傾斜角の変化量を算定し、算定結果に基づいて切羽前方の地山状況を予測する方法において、水平方向のスプリングラインと鉛直方向のセンターラインの交点を中心として、スプリングラインから角度55度乃至65度の範囲に傾斜計を設置するものである。
【0003】
ところで、山岳トンネルの施工において計測器により計測された計測データを回収する方法としては、計測器から有線ケーブルを介してデータロガーやPC(パーソナルコンピュータ)にて回収する有線回収方法が主流である。しかしながら、トンネル内における有線ケーブルの設置や養生、電源の確保等に手間がかかること、山岳トンネル内は通信状態が良好でないことから、Bluetooth等の近距離無線にて計測データを回収する、近距離無線回収方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-61080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記する有線回収方法と近距離無線回収方法のいずれを適用した場合でも、計測場所の近傍に作業員や管理者がアクセスする必要があることから、データ回収の時間帯(データ回収タイミング)と計測場所(計測器の設置場所)の双方が往々にして制限されるといった課題がある。すなわち、トンネル内においては様々な車輌や工事関係者が往来することから、施工の妨げにならない時間帯や計測場所である必要があること等がその理由である。
計測場所が限定的になることに関してはさらに、切羽の近傍を計測場所とした際に切羽における肌落ち等の懸念があることから、切羽面からある程度離れた安全な場所を計測場所とすることなどもその理由となる。この切羽面からある程度離れた計測場所での地山計測に関しては、地山に近接した場所での計測が地山前方の性状評価に好適であることに鑑みると、性状評価精度の低下に繋がり得る。また、データ回収の時間帯が限定的になることにより、以後の山岳トンネル施工に対して計測データを速やかにフィードバックさせ難いといった課題も生じ得る。
【0006】
本発明は、計測データの回収タイミングや計測場所が制限されることがなく、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることのできる、地山計測システム、地山計測方法、地山管理システム、及び地山管理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による地山計測システムの一態様は、
山岳トンネルの掘進に伴って地山性状を示す定量データの計測を行う、地山計測システムであって、
前記山岳トンネルの坑壁から地山側に延びる計測孔に収容されている、計測器と、
前記計測孔よりも坑口側に配設されている、通信器と、を有し、
前記計測器は、計測部と、第一通信部と、を備え、
前記第一通信部は、前記計測部にて計測された計測データを前記通信器に無線送信する、LPWA無線通信モジュールと、通信アンテナと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、山岳トンネルの坑壁から地山側に延びる計測孔に収容される計測器が第一通信部を備え、当該第一通信部がLPWA無線通信モジュールを備え、計測孔よりも坑口側に配設されている通信器に対して計測データ(定量データ)を送信することにより、山岳トンネルにおける長距離無線通信を実現することができる。このことにより、計測データの回収タイミングや計測場所が制限されることが解消され、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることが可能になる。
ここで、LPWA(Low Power Wide Area)は、広域データ通信と低消費電力を可能にした無線通信方式(例えば、920MHz帯のISM(Industrial Scientific and Medical Band)を使用した通信方式)のことであり、従来、山岳トンネルにLPWAを適用した計測システムや計測方法は存在しない。そのため、山岳トンネルにLPWAを適用した場合に、長距離通信が可能であるかは定かでないことから、本発明者等は山岳トンネルにおいて計測器からLPWA無線通信にて通信器に計測データの送信が可能か否かを検証し、その適用妥当性を実証している。
尚、本明細書において「長距離通信」とは、例えば1km以上の距離において計測データを無線通信することを意味する。
【0009】
本態様において、山岳トンネルの坑壁から地山側に延びる計測孔に対して計測器が収容される。ここで、吹付けコンクリートの厚みが厚い(例えば20cm以上)場合は、吹付けコンクリートの内部に計測孔が造成され得る。また、吹付けコンクリートの厚みが例えば5cm乃至10cm程度の場合は、この吹付けコンクリートを貫通し、さらにその背面の地山に亘る計測孔が造成され得る。
計測器としては傾斜計(例えば二軸の傾斜計)や変位計、ロックボルトの軸力計(応力計)、吹付けコンクリートの応力計等が含まれる。例えば、計測器が傾斜計である場合は、計測部により山岳トンネルの掘進方向(軸方向)と断面方向(横断方向)の傾斜角に関する計測データが得られる。得られた計測データは、計測器の備える制御部の制御により、LPWA無線通信モジュールに繋がる通信アンテナを介して、例えば1km以上離れた坑口側にある通信器に無線通信される。
計測データを受信した通信器は、例えばネットワークを介してサーバ装置や施工関係者(施工管理者、施工会社の本支店担当者、施工業者等)の備えるユーザ端末(スマートフォンやタブレット、パーソナルコンピュータ等)に送信される。LPWA無線通信を適用することにより、トンネルに設置される通信器の数を可及的に低減することができ、山岳トンネルの長さによっては、例えば一台の通信器のみで、計測器にて計測された計測データをネットワークを介してサーバ装置等に送信することが可能になる。
【0010】
また、本発明による地山計測システムの他の態様は、前記計測器の全体が前記計測孔に収容されていることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、計測器の全体が計測孔に収容されていること、言い換えると、計測器の一部が坑壁から坑内に突出していないことにより、山岳トンネル施工における発破等の際に飛散し得る岩塊により計測器が破損することを防止できる。計測器は計測部と第一通信部を備え、第一通信部はLPWA無線通信モジュールと通信アンテナを備えており、これらの構成要素の中でも通信アンテナが最もトンネル坑内側に配設されることになるが、通信アンテナが計測孔内に完全に収容されていることにより、特に通信アンテナの破損が防止される。尚、例えば通信アンテナを坑壁から坑内側に突出させ、通信アンテナを防護する防護片等を計測孔の近傍に設けることにより通信アンテナを防護する方策もあり得るが、防護片が通信アンテナの先端を防護することにより、通信アンテナから通信器への計測データの送信が阻害される恐れがあることから好ましい方策とは言い難い。
ここで、計測孔の内部に計測器を完全に収容した際に、通信アンテナから通信器に計測データが良好に送信できるかが問題となり得るが、計測孔内に計測器を完全に収容した場合においても長距離通信が可能であることが本発明者等により実証されている。
【0012】
また、本発明による地山計測システムの他の態様は、前記通信器が、以下のいずれか一種であることを特徴とする。
(1)前記計測データの送受信が可能なゲートウェイ、
(2)前記計測データの受信が可能なゲートウェイと、該ゲートウェイに接続されている坑内LANと、該坑内LANに接続されている送信用アクセスポイント。
本態様によれば、二つの形態の通信器のいずれか一種を有することにより、ネットワークを介してサーバ装置や施工関係者の備えるユーザ端末に対して計測データを良好に送信することが可能になる。
【0013】
また、本発明による地山管理システムの一態様は、
前記地山計測システムと、
前記通信器とネットワークを介して接続される、サーバ装置と、
前記サーバ装置とネットワークを介して接続される、ユーザ端末と、を有し、
前記サーバ装置は、前記計測データを受信する第二通信部と、該計測データを格納する格納部と、を備え、
前記ユーザ端末は、前記サーバ装置から少なくとも前記計測データを受信する第三通信部と、少なくとも該計測データを表示する表示部と、を備え、
前記サーバ装置と前記ユーザ端末の少なくとも一方が、前記計測データに基づいて前記地山性状、及び/又は、前記地山性状に応じた地山評価を判定する判定部をさらに備えていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、山岳トンネル内において長距離無線通信にて計測データを送信し、通信器からネットワークを介してサーバ装置に計測データを送信することにより、複数の施工関係者の備えるユーザ端末が同時かつリアルタイムに計測データを共有することができる。
また、サーバ装置とユーザ端末の少なくとも一方が、計測データに基づいて地山性状、及び/又は、地山性状に応じた地山評価(地山の硬軟の程度、地山の安定性/不安定性、支保パターンの適否等)を判定する判定部を備えていることにより、例えば複数のユーザ端末が現状の地山性状や、地山の硬軟の程度等に応じた当初計画の支保パターンの適否等を速やかに特定することができる。そして、現状の地山性状が当初計画段階における地山性状よりも不良(例えば軟らかい)の場合は速やかに支保パターンの見直しを行うことが可能になり、地山性状の急変に対しても高い施工安全性を保証する施工管理を実現することができる。
判定部では、地山の硬軟の程度等に応じた複数の地山の良否レベル(例えば、硬質、準硬質、準軟質、軟質等)が設定され、各良否レベルに応じた支保パターンが設定されており、計測データから良否レベルが判定され、良否レベルに応じた支保パターンが割り出される。
判定部における判定結果がユーザ端末の表示部に表示されることにより、例えば複数の施工関係者は、随時、リアルタイムに地山の良否と現状計画の支保パターンの適否、変更される場合の支保パターン等を特定することが可能になる。
ここで、サーバ装置とユーザ端末の少なくとも一方が判定部を備えていることに関し、判定部がサーバ装置に内蔵されている場合は、第二通信部を介して受信され、格納部に格納される計測データに基づいて、サーバ装置の備える判定部にて地山性状等が判定される。そして、サーバ装置の第二通信部を介して、計測データに加えて判定部による判定結果がユーザ端末に送信される。
一方、判定部がユーザ端末に内蔵されている(例えば、判定アプリケーションソフトがユーザ端末にダウンロードされ、判定部を形成している)場合は、サーバ装置の第二通信部から送信され、第三通信部を介して受信された計測データに基づいて、ユーザ端末の判定部にて地山性状等が判定される。
【0015】
また、本発明による地山計測方法の一態様は、
山岳トンネルの掘進に伴って地山性状を示す定量データの計測を行う、地山計測方法であって、
前記山岳トンネルの坑壁から地山側に延びる計測孔を施工する、計測孔施工工程と、
計測部と、第一通信部と、を備え、該第一通信部は、前記計測部にて計測された計測データを通信器に無線送信する無線通信モジュールと、通信アンテナと、を備えている、計測器の全体を前記計測孔に設置する、計測器設置工程と、
前記計測孔よりも坑口側に通信器を設置する、通信器設置工程と、
前記計測部にて前記定量データを計測し、計測された計測データを前記通信器に対してLPWA無線にて送信する、計測送信工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、LPWA無線にて計測器から計測データを通信器に送信する、計測送信工程を有することにより、山岳トンネルにおける長距離無線通信を実現することができ、計測データの回収タイミングや計測場所が制限されることがなく、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることが可能となる。
また、計測器設置工程において、計測器の全体を計測孔に設置することにより、山岳トンネルの施工の発破等の際に飛散し得る岩塊により計測器が破損することを防止できる。
【0017】
また、本発明による地山管理方法の一態様は、
前記地山計測方法における前記計測送信工程に次いで、前記通信器からネットワークを介して前記計測データをサーバ装置に送信し、該サーバ装置から少なくとも前記計測データをユーザ端末に送信し、該ユーザ端末において少なくとも前記計測データを表示することにより、前記山岳トンネルの地山性状を特定して施工管理を行う、地山管理方法であって、
前記サーバ装置と前記ユーザ端末の少なくとも一方において、前記計測データに基づいて前記地山性状、及び/又は、前記地山性状に応じた地山評価を判定する判定工程を有することを特徴とする。
本態様によれば、サーバ装置とユーザ端末の少なくとも一方において、計測データに基づいて地山性状、及び/又は、地山性状に応じた地山評価(地山の硬軟の程度、地山の安定性/不安定性、支保パターンの適否等)を判定する判定工程を有することにより、例えば複数のユーザ端末が現状の地山性状や、地山の硬軟の程度に応じた当初計画の支保パターンの適否等を速やかに特定することができる。そのため、現状の地山性状が当初計画段階における地山性状よりも不良の場合は、速やかに支保パターンの見直しを図ることが可能になり、地山性状の急変に対しても高い施工安全性を保証する施工管理を実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の地山計測システム、地山計測方法、地山管理システム、及び地山管理方法によれば、計測データの回収タイミングや計測場所が制限されることがなく、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る地山計測システムの一例を示す全体構成図である。
図2】地山計測システムを構成する計測器の機能構成の一例を示す図である。
図3】(a)、(b)はいずれも、通信器の機能構成の一例を示す図である。
図4】実施形態に係る地山管理システムの一例を示す全体構成図である。
図5】コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
図6】(a)は、地山管理システムを構成するサーバ装置の機能構成の一例を示す図であり、(b)は、地山管理システムを構成するユーザ端末の機能構成の一例を示す図である。
図7】実施形態に係る地山計測方法と地山管理方法の一例を示すフローチャートである。
図8】山岳トンネル坑内におけるLPWA通信の通信距離と受信信号強度との関係を検証する実験の概要を説明した図であって、(a)は直線部の概要を説明した図であり、(b)は丁字部の概要を説明した図である。
図9】LPWA通信の通信距離と受信信号強度との関係に関する実験結果を示すグラフである。
図10】計測孔に収容される計測器の挿入深さと受信信号強度との関係を検証する実験の概要を説明した図である。
図11】計測孔における計測器の挿入深さと受信信号強度との関係に関する実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施形態に係る易切削性セグメントについて、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0021】
[実施形態]
<地山計測システム>
はじめに、図1乃至図3を参照して、実施形態に係る地山計測システムの一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る地山計測システムの一例を示す全体構成図であり、図2は、地山計測システムを構成する計測器の機能構成の一例を示す図である。また、図3(a)と図3(b)はいずれも、通信器の機能構成の一例を示す図である。
【0022】
図示する地山計測システム50が適用されるトンネルは、坑内における通信状況が一般に不良である山岳トンネルである。山岳トンネル10は、切羽11に対してドリルジャンボ等の掘削機にて装薬孔を削孔し、ダイナマイトを装薬して爆破することにより造成される。尚、山岳トンネルは、トンネルボーリングマシン(図示せず)により造成される場合もある。
【0023】
発破等によりトンネルを所定延長造成した後、H形鋼等による鋼製アーチ支保工(支保部材14)を掘進方向Xにおいて所定間隔にて設置することにより、坑壁防護を図る。その後、支保部材14を巻き込むようにしてコンクリートの吹付け施工を行うことにより、所定厚み(例えば5cm乃至25cm程度)の吹付けコンクリート15を施工する。吹付けコンクリート15の施工は、坑内にコンクリートミキサー車を運び込み、吹付け機にてコンクリートを吹付けることにより行われる。コンクリートの吹付け完了後、必要に応じて不図示のロックボルトが施工される。このロックボルトは、例えば3m乃至4m程度の棒状鋼材からなり、地山Gの坑内側へ向かう変形に起因する引張力をボルトに負担させ、坑壁13の変形を抑制するものである。
【0024】
地山計測システム50は、山岳トンネル10の掘進に伴って地山性状を示す定量データの計測を行うシステムである。地山計測システム50は、山岳トンネル10の坑壁13から地山G側に延びる計測孔16に収容されている計測器20と、坑口12側に配設されている通信器30とを有する。尚、図1には、坑口12の近傍に一基の通信器30が図示されているが、山岳トンネル10の延長が数km以上に亘って長くなる場合、切羽11から例えば1乃至2km置きに通信器30が設置され、切羽近傍にある計測器20にて計測された計測データを坑口近傍の通信器30に送信できるように、例えば複数の計測器20と複数の通信器30とにより地山計測システム50が構成される。以下で説明するように、坑口側にある通信器30より、ネットワークを介してサーバ装置に計測データが送信され、サーバ装置より複数の施工関係者の備えるユーザ端末に対して、計測データや、この計測データに基づいて判定された地山性状等に関する結果データが送信され、各ユーザ端末にて表示されるようになっている。
【0025】
図示例では、切羽11から距離t1離れた切羽近傍に設けられている計測孔16Aと、計測孔16Aよりも坑口側に設けられている計測孔16Bを図示しており、各計測孔16A,16Bにそれぞれ計測器20A,20Bが収容されている状態を示しているが、山岳トンネル10の掘進に応じて随時計測孔16が造成され、計測器20が収容設置されることから、掘進延長が長くなるにつれて計測孔16と計測器20の組み合わせ数は増加する。また、一つの横断面に複数の計測孔16が造成され、各計測孔16に計測器20が収容設置されることも往々にしてあり、例えば、特許文献1に記載されるように、横断面においてスプリングラインから角度55度乃至65度の範囲に複数の計測孔16が造成され、各計測孔16に計測器20の一種である傾斜計が収容設置される形態を挙げることができる。
【0026】
図1に示すように、計測孔16に対して、計測器20はその全体が完全に収容された状態で設置され、計測器20の坑壁側の先端(例えば、以下で説明する通信アンテナ)から坑壁13までの長さt2は、例えば数cm乃至20cm程度に設定することができる。
【0027】
図2に示すように、計測器20は、外管28と、外管28の内部に収容される本管21とを有する。外管28の一端28aには押圧棒29aが突出し、押圧棒29aを中心に拡縮自在な拡径固定爪29bが設けられている。外管28の他端28bにある開口を介して本管21がY1方向に挿入されることにより計測器20が構成され、拡径固定爪29bが閉じた状態で外管28を計測孔16に差し込み、計測孔16の奥壁に押圧棒29aが当接して押圧されることにより、拡径固定爪29bが開き、計測孔16の内部に計測器20が固定される。計測孔16の内部に収容設置された計測器20は、そのまま計測孔16内に残置されてもよいし、山岳トンネル10の掘進に応じて例えば計測不要になった坑口側の計測器20においては、拡径固定爪29bを閉じて固定状態を解除することにより計測孔16から計測器20を取り外し、計測を要する別途の計測孔16に対して取り外された計測器20を転用してもよい。
【0028】
計測器20の全体が計測孔16に収容されていること、言い換えると、計測器20の一部の通信アンテナ等が坑壁13から坑内に突出していないことにより、山岳トンネル10の施工における発破等の際に飛散し得る岩塊により計測器20(の例えば通信アンテナ等)が破損することを防止できる。
【0029】
計測器20を構成する本管21は、制御部22,格納部23,計測部24,及び第一通信部25を備えている。制御部22は、図示しないCPU(Central Processing Unit)を中心に構成されており、格納部23を構成するROM(Read Only Memory)等から所定のプログラムを読み出し、同様に格納部23を構成するRAM(Random Access Memory)をワーク領域としてRAMにロードされたプログラムを処理することにより、各種の機能を実現する。
【0030】
計測器20としては傾斜計(例えば二軸の傾斜計)や変位計、ロックボルトの軸力計、吹付けコンクリートの応力計等が含まれるが、計測器20が傾斜計である場合は、計測部24により山岳トンネルの掘進方向(軸方向)と断面方向(横断方向)の傾斜角に関する計測データ(定量データ)が得られ、格納部23に格納される。尚、格納部23に計測データを格納(記憶)する形式は特に限定されるものでなく、例えば計測した時刻等とともにログデータ等として記憶されてよい。
【0031】
第一通信部25は、LPWA無線通信モジュール26と通信アンテナ27とを備える。LPWA無線通信モジュール26はLPWA無線通信(無線送信)を実現する機器であり、例えば無線チップと周辺回路を小型基板に実装した電子部品である。
【0032】
LPWAの主な通信方式(通信プロトコル)には、Sigfox、LoRaWAN(Long Range Wide Area Network)、NB-IoT等があるが、例えばライセンスを必要とせず、携帯電話通信の波が届き難い山岳地帯でも坑内に自営の基地局を設置することができ、低コストの通信システムを構築可能なLoRaWANを適用するのが好ましい。LoRaWANは、920MHz帯のISMバンドを使用し、13dBm以下の低い出力でも遠距離通信を可能とする、LoRa変調を採用した通信方式である。
【0033】
制御部22は、通信器30に対して同じ計測データを繰り返し送信しないように制御する。例えば、制御部22は、通信器30に対して計測データを送信する制御を実行した後に通信器30から受取完了報告データを受信し、受信した受取完了報告データに対応する計測データを再送しないように、当該計測データにフラグを立てる等の処理を実行する。
【0034】
通信器30には、図3(a)、(b)に示す二つの形態が含まれる。図3(a)に示す形態の通信器30は、計測データの受信が可能なゲートウェイ31と、ゲートウェイ31に接続されている坑内LAN(Local Area Network)35と、坑内LAN35に接続されている送信用アクセスポイント36とを有する。
【0035】
ゲートウェイ31は、制御部32とLPWA無線通信モジュール33とを有し、計測器20よりLPWA無線にて送信されてきた計測データを受信する通信アンテナ34と、ネットワークを介して計測データをサーバ装置に送信する通信アンテナ37とをさらに有する。
【0036】
坑内LAN35は、不図示の有線LAN制御部を備え、LANによる通信制御が実行されるようになっている。また、送信用アクセスポイント36は、各種のネットワークによる通信を実現する機器であり、通信アンテナ37を介して、例えば2.4GHzの無線帯域を用いた無線通信を実行する。
【0037】
一方、図3(b)に示す形態の通信器30Aは、計測データの送受信が可能なゲートウェイ31のみを有する通信器であり、計測データを受信する通信アンテナ34と、計測データをサーバ装置に送信する通信アンテナ37とがゲートウェイ31に取り付けられている。ゲートウェイ31のみが計測データの送受信を全て処理することにより、計測器の機器構成を可及的に簡素化することができる。
【0038】
図1に戻り、地山計測システム50によれば、計測孔16に収容される計測器20から坑口12側に配設されている通信器30に対して計測データ(定量データ)がLPWA無線方式にて送信されることにより、山岳トンネル10の坑内における1km以上の長距離無線通信を実現することができる。このことにより、計測データの回収タイミングや計測場所が制限されることが解消され、計測データを以後の山岳トンネル施工に速やかにフィードバックすることが可能になる。
【0039】
尚、以下で説明する検証実験によれば、山岳トンネル10の坑内におけるLPWA無線方式による計測データの送受信は、1km乃至2km程度の長距離通信が可能であることが特定されている。この検証実験結果より、地山計測システム50では、例えば切羽近傍の計測器20からの距離が1km乃至2km程度ごとに通信器30を設置し、外部のネットワークに接続される最も坑口側にある通信器30に対して計測データを送信するシステムとして構築されるのが望ましい。
【0040】
<地山管理システム>
次に、図4乃至図6を参照して、実施形態に係る地山管理システムの一例について説明する。ここで、図4は、実施形態に係る地山管理システムの一例を示す全体構成図である。また、図5は、コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図であり、図6(a)と図6(b)はそれぞれ、地山管理システムを構成するサーバ装置とユーザ端末の機能構成の一例を示す図である。
【0041】
地山管理システム100は、山岳トンネル10における坑口側の通信器30と、複数の施工関係者の備えるユーザ端末80とがネットワーク60を介して接続されることにより形成される。ユーザ端末80としては、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)やタブレット等が挙げられる。
【0042】
複数の施工関係者の備えるユーザ端末80とは、例えば、山岳トンネル10を施工する施工管理者の備えるユーザ端末80A、山岳トンネル10の施工現場における工事作業所(工事管理棟)に備えられるユーザ端末80B、施工会社の本支店担当者の備えるユーザ端末80C等があり、その他、施工に関連する様々な施工業者や施主の備えるユーザ端末もある。
【0043】
ネットワーク60には、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等が含まれる。ここで、地山管理システム100は、一つの施工会社のみで情報共有がなされるクローズドネットワークを有する形態の他、様々な施工業者や施主との間においても情報共有が可能なオープンネットワークを有する形態である。
【0044】
サーバ装置70へのアクセスにはアクセス権限を要し、アクセス権限が付与されているユーザ端末のみがサーバ装置70にアクセスでき、サーバ装置70に格納されている各種データを共有することができる。ここで、サーバ装置70は、データ保管の他にも、各種のアプリケーションソフトウェア(アプリ)を複数のユーザが共有できるクラウドサーバであってもよい。例えば、以下で説明する計測データに基づいた地山性状等を判定する判定アプリがサーバ装置70に格納され、アクセス権限を有するユーザ端末80が、サーバ装置70にアクセスし、サーバ装置70内に格納されている計測データに基づいて判定アプリを起動することにより地山性状等の判定を行うことが可能になる。
【0045】
図5に示すように、サーバ装置70は、パーソナルコンピュータやワークステーション(WS:Work Station)等の情報処理装置からなり、ユーザ端末80も情報処理装置であり、いずれも図6に示すコンピュータにより構成される。
【0046】
サーバ装置70等のコンピュータは、接続バス76により相互に接続されているCPU71、主記憶装置72、補助記憶装置73、通信IF(interface)74、及び入出力IF75を備えている。主記憶装置72と補助記憶装置73は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0047】
CPU71は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU71は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU71は、コンピュータからなるサーバ装置70等の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU71は、例えば、補助記憶装置73に記憶されたプログラムを主記憶装置72の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0048】
主記憶装置72は、CPU71が実行するコンピュータプログラムや、CPU71が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置72は、例えば、フラッシュメモリ、RAMやROMを含む。補助記憶装置73は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置73には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF74を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、ネットワークに接続するパーソナルコンピュータ(PC)、ワークステーション(WS)、山岳トンネル10内の通信器30等が含まれる。
【0049】
補助記憶装置73は、例えば、主記憶装置72を補助する記憶領域として使用され、CPU71が実行するコンピュータプログラムや、CPU71が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置73は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置73として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0050】
通信IF74は、サーバ装置70等が接続するネットワーク60とのインターフェイスである。通信IF74は、ネットワーク60を介して、山岳トンネル10内の通信器30から計測データを受信し、各ユーザ端末80に対して計測データや当該計測データに基づいて判定された地山性状等に関する判定結果データを送信する。
【0051】
入出力IF75は、サーバ装置70等に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF75には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。サーバ装置70等は、入出力IF75を介し、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0052】
また、入出力IF75には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。例えば、ユーザ端末80においては、サーバ装置70のCPU71により処理される計測データや地山性状等に関する判定結果データが通信IF74を介して受信され、入出力IF75を構成する表示デバイスに表示されることにより、複数の施工関係者は、同時かつリアルタイムに計測データ等を視認することができる。
【0053】
図6(a)に示すように、サーバ装置70は、CPU71によるプログラムの実行により、少なくとも、第二通信部702、判定部704、及び格納部706の各種機能を提供する。尚、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0054】
第二通信部702は、山岳トンネル10内に設置されている通信器30より送信される計測データをネットワーク60を介して受信し、格納部706に格納する。
【0055】
判定部704には、地山の硬軟の程度に応じた複数の地山の良否レベル(例えば、硬質、準硬質、準軟質、軟質等)が設定されており、さらに、各良否レベルに応じた支保パターンが設定されている。
【0056】
例えば、判定部704を起動することにより、第二通信部702にて受信され、格納部706に格納されている計測データを判定部704が読み出し、読み出された複数の計測データ(傾斜角度データや変位データ等)に基づき、坑壁13の横断面における変位モードや縦断面における変位モード等を作成し、この変位モードをもたらす地山性状を評価する。変位モードや最大変位量等に基づき、地山の良否レベルを判定する。
【0057】
判定部704では、良否レベルが判定された地山に対して、良否レベルに応じて設定されている支保パターンを特定する。例えば、硬質の地山であると判定された際には、仕様△のH形鋼からなるアーチ支保工を○mピッチで施工するといった支保パターンが特定され、軟質の地山であると判定された際には、ロックボルトを施工し、かつ、仕様□のH形鋼からなるアーチ支保工を▽mピッチで施工するといった支保パターンが特定される。
【0058】
格納部706には、地質調査等に基づき設定されている、各施工区間における地山性状と支保パターンが格納されている。判定部704では、計測データに基づいて例えば現状の地山性状(地山の良否)を判定し、判定結果に対応する支保パターンを特定することに加えて、計画段階で設定されている支保パターンを格納部706から読み出し、計画されている支保パターンが現状の地山性状に相応しい支保パターンであるか否かに関しても判定を行う。尚、判定部704では、計測データに基づいて、切羽前方の地山性状(将来的に掘削される地山の性状)をさらに評価し、計画段階における支保パターンの必要に応じた見直しにも供される。
【0059】
一方、図6(b)に示すように、ユーザ端末80は、CPU71によるプログラムの実行により、少なくとも、第三通信部802、及び表示部804の各種機能を提供する。尚、図示例では、サーバ装置70が判定部704を備えているが、各ユーザ端末80に判定アプリがダウンロード等されることにより判定部が備えられていてもよい。また、ユーザ端末80も固有の格納部を備えていてもよい。
【0060】
第三通信部802は、サーバ装置70より送信される計測データと判定結果データをネットワーク60を介して受信する。
【0061】
表示部804は、第三通信部802にて受信された計測データと判定結果データを表示する。表示部804における表示内容には、各計測器20の計測データ、現状の施工区間における地山性状と坑壁の変位モード、現状の施工区間における支保パターンの適否等が含まれる。
【0062】
施工関係者が固有のユーザ端末80にて上記各種の情報を同時かつリアルタイムに共有することにより、計測データに基づいて判定された現状の地山性状に対して、計画段階での支保パターンでは安全性が懸念される場合は、より支保強度の高い支保パターンへの見直しを速やかに行うことが可能になる。また、計画段階に比べて地山性状が良好である場合は、必要に応じて支保強度の低い支保パターンへの見直しを図る(例えば、ロックボルトの施工を不要にする、支保部材のサイズダウンや配置ピッチを長くする等)ことにより、施工コストの低減に繋がる。
【0063】
<地山計測方法と地山管理方法>
次に、図7を参照して、実施形態に係る地山計測方法と地山管理方法の一例について説明する。ここで、図7は、実施形態に係る地山計測方法と地山管理方法の一例を示すフローチャートである。
【0064】
実施形態に係る地山計測方法は、図7に示すフローチャートにおいて、計測孔施工工程(ステップS102)乃至計測送信工程(ステップS108)までの各工程を有する。また、実施形態に係る地山管理方法は、図7に示すフローチャートにおいて、計測孔施工工程(ステップS102)乃至支保パターン評価工程(ステップS114)までの各工程を有する。すなわち、地山管理方法は、地山計測方法を含む方法となる。
【0065】
地山計測方法では、まず、山岳トンネル10において計測孔16を施工する。計測孔16はトンネルの掘進に応じて随時施工され、切羽11から所定距離離れた位置の横断面において単数もしくは複数の計測孔16が施工される(以上、計測孔施工工程(ステップS102))。
【0066】
次に、計測器20(図2参照)の全体を計測孔16に設置する。計測器20の全体を計測孔16に収容することにより、山岳トンネル10の施工における発破等の際に飛散し得る岩塊により計測器20が破損することを防止できる。尚、計測孔16に設置される計測器20は、トンネルの掘進に応じて、別途施工される計測孔16に転用されてもよい(以上、計測器設置工程(ステップS104))。
【0067】
計測器設置工程と同様のタイミングにて、もしくは相前後するタイミングにて、計測器20が設置される計測孔16(例えば切羽11の近傍の計測孔16)よりも坑口12側に通信器30を設置する(通信器設置工程(ステップS106))。
【0068】
通信器設置工程では、トンネルの施工当初の段階(LPWA無線により計測データの送受信が可能な1km乃至2km程度の掘進長の段階)では、1台の通信器30を坑口12の近傍に設置し、この1台の通信器30と例えば複数の計測器20とにより地山計測システム50を構築する。
【0069】
一方、トンネルの掘進長がLPWA無線による送受信不可な長さとなった段階で、通信器30を随時追加していき、複数の通信器30と複数の計測器20とにより地山計測システム50を構築する。例えば、延長の長い山岳トンネル10においては、切羽11の近傍において直近にて設置された計測器20が設けられ、この計測器20から例えば1.5km程度の間隔で通信器30を坑内に設置していくことにより、切羽11の近傍にある計測器20による計測データを最も坑口12側に設置されている通信器30に送信することが可能になり、この通信器30からネットワーク60を介してサーバ装置70に計測データを送信することが可能になる。
【0070】
トンネルの掘進に応じた各段階において、LPWA無線による計測データを最も坑口12側に設置されている通信器30に送信可能な地山計測システム50を構築した後(通信器設置工程の後)、計測部24にて計測されている定量データ(計測データ)を通信器30に対してLPWA無線にて送信する(計測送信工程(ステップS108))。
【0071】
以上、計測孔施工工程(ステップS102)乃至計測送信工程(ステップS108)までの各工程を有する地山計測方法によれば、坑内における通信状況が一般に不良である山岳トンネルの施工においても、LPWA無線による長距離無線通信により、可及的に少ない通信器30にて計測データの送受信が可能になる。そのため、例えば切羽11の近傍に計測器20を設置して計測データを取得することが可能になり、高い精度で地山性状を評価できるとともに、データ回収の時間帯と計測場所の双方が制限されることなく、計測データを随時取得することができる。
【0072】
次に、山岳トンネル10の坑内に設置されている通信器30からネットワーク60を介してサーバ装置70に計測データを送信する。サーバ装置70では、計測データに基づいて現状の地山性状、地山の硬軟の程度等、様々な地山の評価判定を行い、例えば、判定結果に対応する支保パターンを特定し、計画段階で設定されている支保パターンが現状の地山性状に相応しい支保パターンであるか否かに関する判定を行う。尚、この判定は、サーバ装置70から送信された計測データに基づき、各ユーザ端末80の判定部において行ってもよい(以上、判定工程(ステップS110))。
【0073】
例えば、サーバ装置70にて判定された判定結果データは、計測データとともに各ユーザ端末80に送信され、各ユーザ端末80の表示部804には、受信された判定結果データ等が表示される。この表示内容には、各計測器20の計測データ、現状の施工区間における地山性状と坑壁の変位モード、実測最大変位量と許容変位量、現状の施工区間における支保パターンの適否等が含まれる(以上、表示工程(ステップS112))。
【0074】
施工関係者は、自身のユーザ端末80にて上記各種の情報を同時かつリアルタイムに共有し、計測データに基づいて判定された現状の地山性状に対する、計画段階での支保パターンの適否を評価し、必要に応じて支保パターンの見直しを行う(支保パターン評価工程(ステップS114))。
【0075】
以上、計測孔施工工程(ステップS102)乃至支保パターン評価工程(ステップS114)までの各工程を有する地山管理方法によれば、計測データに基づいて判定された現状の地山性状に対する、計画段階での支保パターンの適否を速やかに評価でき、必要に応じて支保強度の高い支保パターンへの見直しを図ることにより、高い施工安全性を保証することが可能になる。また、必要に応じて支保強度の低い支保パターンへの見直しを図ることにより、施工コストの低減にも繋がる。
【0076】
[LPWA通信の通信距離と受信信号強度との関係に関する検証実験]
本発明者等は、山岳トンネルにおけるLPWA通信の通信距離と受信信号強度との関係に関する検証実験を行い、山岳トンネルにおける通信可能な距離を特定した。
【0077】
LPWA通信におけるLoRAWANは、見通しの良い屋外においては数km乃至数十kmの距離を通信可能であることが知られているが、線形構造物である山岳トンネルの坑内における通信特性については知られていない。そこで、2つの山岳トンネル工事(ここでは、実際のトンネル名称を伏せ、仮称としてAトンネル、Bトンネルとする)において、LoRAWAN規格の通信機器(PLNetworks社製のLoRa無線通信ユニット)を用いた坑内通信実験を行った。
【0078】
通信状況の評価には、RSSI(Received Signal Strength Indication)を用いた。RSSIは、無線通信における受信信号の強度を表す指標であり(単位はdBm)、通信距離が長くなるに従いその値が低下し、ある値を下回ると電波が受信できなくなる。本実験に用いた通信機器の通信可能最低RSSIは約-134dBmであった。
【0079】
本実験では、図8(a)に示すように、山岳トンネルの直線部における送受信距離の特定の他に、図8(b)に示すように、見通しのきかない丁字路においても実験を行った。
【0080】
各トンネルの概要を説明する。Aトンネルは、断面積が約50mで、ほぼ直線の見通しの良いトンネル線形を有している。一方、Bトンネルは、小断面(約35m)で、一部に曲率の大きな箇所があり、通信環境としてはAトンネルと比較して不利な条件にある。
【0081】
坑内の坑壁に関しては、Aトンネルでは殆どの実験区間の坑壁が覆工コンクリートにて覆われた状態であったが、Bトンネルでは全線で吹付けコンクリートと鋼製支保工が露出した状態であった。また、両トンネルともに、ずり出し用のベルトコンベアが設置されていた。
【0082】
実験結果を図9に示す。図9においては、Frisの伝達公式により導出される以下の式(1)の伝搬損失の推定式を点線と一点鎖線と二点鎖線にて示した。
【0083】
【数1】
【0084】
図9より、双方のトンネルともに通信距離が長くなるにつれてRSSIが低下することが分かった。具体的には、Aトンネルでは、送受信器間の距離が1.7kmまで通信可能であることが確認されたが、切羽に到達したため、それ以上の距離での検証はできなった。
【0085】
一方、見通しの悪いBトンネルでは、1.4kmまで通信可能であることが確認された。Bトンネルにおいては、さらに1.6km地点でも通信を試みたが、電波が受信できなかった。
【0086】
図9に示すように、Frisの伝達公式により導出される伝搬損失の推定式に基づくグラフを双方のトンネルの実験結果に重ね合わせてみると、山岳トンネルの坑内は概ねn=2.5乃至3.0の間の条件に合致することが分かる。
【0087】
一方、図8(b)に示す丁字路において通信を行った結果、RSSIは-120dBmであった。これは、直線部における通信距離1.5kmに相当するRSSIであり、見通しがきかない場合は電波が大きく減衰することが分かった。しかしながら、まったく見通しのきかない条件においても、通信が可能であることが実証されている。
【0088】
本実験より、山岳トンネルにおいてLPWA無線通信を適用した場合、1.5km程度の長距離無線通信が可能であることが実証されている。
【0089】
[計測孔における計測器の挿入深さと受信信号強度との関係に関する検証実験]
本発明者等はさらに、計測孔における計測器の挿入深さと受信信号強度との関係に関する検証実験を行い、計測孔に計測器を完全に収容した際の計測データの送受信可能性を検証した。
【0090】
本実験では、図10に示すように、天端に設けたφ50mmの計測孔に計測器を挿入し、計測データを受信する受信器は計測孔から約10m離れた坑内に設置し、挿入深さが通信に与える影響について調べた。
【0091】
実験結果を図11に示す。図11より、計測器の挿入深さに比例してRSSIが低下することが分かった。尚、計測器にLoRa通信モジュール(LPWA通信モジュール)と通信アンテナを組み込む場合の挿入深さは10cm以下を想定している。このことと本実験結果より、周囲の吹付けコンクリートが通信に及ぼす影響は、十数dBm程度のRSSI低減に留まることが分かる。
【0092】
本実験より、山岳トンネルにおいてLPWA無線通信を適用し、計測孔内に計測器の全体を完全に収容した場合でも、計測データを長距離無線通信できることが実証されている。
【0093】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0094】
10:山岳トンネル
11:切羽
12:坑口
13:坑壁
14:支保部材
15:吹付けコンクリート
16,16A,16B:計測孔
20,20A,20B:計測器
21:本管
22:制御部
23:格納部
24:計測部
25:第一通信部
26:LPWA無線通信モジュール
27:通信アンテナ
28:外管
30,30A:通信器
31:ゲートウェイ
32:制御部
33:LPWA無線通信モジュール
34,37,38:通信アンテナ
35:LANケーブル
36:送信用アクセスポイント
50:地山計測システム
60:ネットワーク
70:サーバ装置
80,80A,80B,80C:ユーザ端末
100:地山管理システム
702:第二通信部
704:判定部
706:格納部
802:第三通信部
804:表示部
G:地山
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11