(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】標的細胞特異的に結合して多重免疫機能が強化されたキメラ抗原及びこの用途
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20230629BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230629BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20230629BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20230629BHJP
A61K 39/245 20060101ALI20230629BHJP
A61K 39/29 20060101ALI20230629BHJP
A61K 39/215 20060101ALI20230629BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20230629BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230629BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230629BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20230629BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20230629BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230629BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230629BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230629BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230629BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
A61K39/00 A
A61K39/12
A61K39/145
A61K39/245
A61K39/29
A61K39/215
A61P31/20
A61P31/14
A61P31/16
A61P31/18
A61P31/22
A61P31/12
A61P37/04
A61P35/00
A61P31/00
C12N15/62 Z
(21)【出願番号】P 2021544083
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(86)【国際出願番号】 KR2019013065
(87)【国際公開番号】W WO2020071869
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-04-05
(31)【優先権主張番号】10-2018-0119294
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0122966
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521143642
【氏名又は名称】アールエヌエージーン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ、ウ ギル
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/183488(WO,A1)
【文献】特表2016-526374(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0121634(US,A1)
【文献】Molecular Therapy,2013年,Vol.21, No.7,pp.1445-1455,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3702111/参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 19/00
A61K 39/00-44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ウイルスのコアタンパク質(HBc)である免疫反応誘導領域;及びPD-1である標的細胞特異的結合誘導領域;が、配列番号19のアミノ酸配列を有するリンカーを介して融合された、
第1のキメラ抗原;及び
B型肝炎ウイルスのe抗原(HBe)である免疫反応誘導領域;及びPD-1である標的細胞特異的結合誘導領域;が、配列番号21のアミノ酸配列を有するリンカーを介して融合された、第2のキメラ抗原、
から選択される、多重免疫機能が強化されたキメラ抗原。
【請求項2】
上記
第1のキメラ抗原
は配列番号9
のペプチド配列からなり、上記第2のキメラ抗原は配列番号11のペプチド配列からなることを特徴とする、請求項1に記載のキメラ抗原。
【請求項3】
請求項1に記載のキメラ抗原を有効成分として含む、がんの予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項4】
上記がんは、肺がん、胃がん、肝臓がん、骨がん、膵がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、大腸がん、結腸がん、乳がん、子宮肉腫、卵管がん腫、子宮内膜がん腫、子宮頚がん腫、膣がん腫、外陰がん腫、食道がん、喉頭がん、小腸がん、甲状腺がん、副甲状線がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、慢性又は急性白血病、小児期の固形腫瘍、分化型リンパ腫、膀胱がん、腎がん、腎細胞がん腫、腎盂がん腫(renal pelvic carcinoma)、中枢神経原発リンパ腫(primary central nervous system lymphoma)、脊髄腫瘍(spinal cord tumor)、脳幹神経膠腫及び下垂体腺腫からなる群より選択されることを特徴とする、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のキメラ抗原を有効成分として含む、
B型肝炎ウイルス感染の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のキメラ抗原を有効成分として含む、免疫増強剤組成物。
【請求項7】
上記キメラ抗原は、
(i)標的細胞である疾病細胞に特異的に結合し、
(ii)疲弊したCD8+T細胞の回復を促進してT細胞活性を誘導し、及び
(iii)抗原抗体反応を誘導して体液性免疫反応の増進及びナチュラルキラー細胞(NK cell)による細胞毒性作用を活性化させることを特徴とする、請求項
6に記載の組成物。
【請求項8】
上記(iii)の抗原抗体反応の誘導は、上記キメラ抗原の免疫反応誘導領域により個体
の体内で形成された特異的抗原抗体反応を増進させることを特徴とする、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1に記載のキメラ抗原を有効成分として含む、がん又は
B型肝炎ウイルス感染に対するワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的細胞特異的に結合して多重免疫機能が強化されたキメラ抗原及びこの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
外部から体内に細菌やウイルスのような病原体が侵入できないように防御したり、病原体が侵入してもこれを認識して抵抗したりすることができる能力を「免疫」と言う。免疫には、誰もが持って生まれた能力である先天性免疫と、後天的に獲得される後天性免疫とがある。一般的な意味での免疫は後天性免疫のことを言う。非特異的な免疫として知られている先天性免疫と異なり、後天性免疫は特異的免疫とも言い、侵入した病原体の種類を認識し、これに合わせて対応する防御作用としてリンパ球と抗体が重要な役目を果たす。すなわち、体内を循環するBリンパ球とTリンパ球が担当する。これらは表面に特定抗原を認識する受容体を有していて、抗原を認識すると、それぞれ体液性免疫と細胞性免疫を活性化させる。
【0003】
後天性免疫には抗原と抗体が関与し、抗原は、病原体や異物、他の種の臓器組織など非自己(non-self)として認識されて後天的免疫反応を誘発する原因となる物質であり、抗体は、侵入した特定抗原に対抗するためにBリンパ球が作り出す物質であり、特定抗原に結合して病原性を消滅させる。また、一度侵入した病原体の種類を記憶する機能があるため、同一の病原体が二次的に侵入した時にはこれに効果的に対処することができる。後天性免疫は病原体が体に完全に侵入した後に起きる作用であり、先天性免疫作用後にはたらくため「二次防御」とも言う。後天性免疫には細胞性免疫と体液性免疫とがあり、Tリンパ球とBリンパ球の表面には特定抗原を認識する受容体を有していて、抗原を認識するとそれぞれ細胞性免疫と体液性免疫を活性化させる。前者は、抗原を認識した毒性Tリンパ球 (Cytotoxic T lymphocyte)が病原体に感染された細胞やがん細胞を直接攻撃して取り除き、その一方で、後者の体液性免疫は、抗原を認識した補助Tリンパ球(Helper T lymphocyte)がBリンパ球を刺激して、抗体を分泌する形質細胞(Plasma cell)と抗原を記憶する記憶細胞(Memory cell)とに分化及び増殖させる。これによる記憶細胞の生成は、後に再び侵入した病原性抗原に以前よりも迅速で且つ強力に免疫的対応ができるようにする。
【0004】
形質細胞が血液に抗体を分泌すると、抗体が抗原と結合して抗原抗体反応を引き起こし抗原を取り除く。一つの抗体は一つの抗原とのみ特異的に結合するが、これを抗原抗体反応の特異性と言う。抗体は、侵入した微生物に付着することにより微生物の運動性を無くして体細胞に侵入するのを妨害する。この他に、抗体に囲まれた抗原は、血漿で発見される一連のタンパク質である補体(complement)と化学的連鎖反応を起こす。この補体反応は、侵入した微生物の分解を引き起こしたり、侵入した微生物を貧食したりする大食細胞を誘引する。このようなあらゆる種類の抗原と抗体との反応及び結合を抗原抗体反応と言う。
【0005】
体液性免疫は、段階的に一次免疫反応と二次免疫反応とに区分でき、一次免疫反応時期には、抗原が初めて侵入した時にリンパ球が分化して抗体を生産し、このとき記憶細胞が形成される。二次免疫反応は、同じ抗原が再び侵入した時に記憶細胞が形質細胞に迅速に分化し増殖して多量の抗体を生産する過程であり、より迅速且つ強力な免疫反応を誘導する。
【0006】
T及びBリンパ球から構成された適応免疫系は、多様な腫瘍抗原に反応する能力と共に、強力な抗がん潜在力を有している。さらに、免疫系は、相当な可塑性と記憶構成要素を有しており、これら適応免疫系の属性により、免疫療法はあらゆるがん治療方法の中でより効果的な方法になり得る。しかし、がんに対する内因性免疫反応が前臨床モデル及び患者から観察されはするが、このような反応は効果的ではなく、定着したがんは「自己」として見なされて免疫系に容認されたりもする。このような容認状態により、腫瘍は抗腫瘍免疫を積極的に破壊するために他の機序を悪用することがあるが、これら機序は、機能障害を引き起こしたT細胞信号伝逹、阻害性調節細胞及び免疫破壊を避けるために腫瘍による付随的被害から正常組織を保護し、適応免疫反応の強度を下向調整する作用をする内因性「免疫チェックポイント(immune checkpoint)」を活用する。
【0007】
ヒト免疫系と慢性的な感染やがんのような疾患との長期的争いは、宿主に多くの生理的負担になり、結果、免疫反応は膠着状態に陥ることがある。T細胞は、疲弊して不活性化しながらウイルス又は細菌や腫瘍に優位を渡すことになる。多数の分子データベースを基盤として、研究者等が慢性感染と自己免疫、がんとの相互作用で関連性のある疲弊したT細胞(Tex)9個の種類を究明した。正常なT細胞が疲弊すると、細菌や腫瘍に対応する能力に欠陷が生じる。Texは、重要な生化学経路を止める抑制受容体タンパク質をその表面に発現させて、遺伝子発現の調節に変化を起こし、感染及び腫瘍と戦うためにエネルギを作る代謝を変え、最適な免疫機能の発達を抑制する。免疫療法臨床試験で疲弊したT細胞に対してこのような評価を適用すると、特定の組み合わせの免疫療法のメリットを受けられる可能性の高い患者を確認することができ、感染やがんに反応する特定の種類の疲弊したT細胞の根本的な機序を理解することができるようになる。
【0008】
PD-1とCTLA-1のように疲弊したT細胞(Tex)によって発現する抑制受容体を標的とする新しく非常に効果的な免疫療法は、がん治療のための画期的な治療方法になり得るはずである。
【0009】
これに関して、最近までがん免疫療法は、活性化したエフェクター細胞の適応-転移、関連抗原に対抗した免疫化、又はサイトカインのような非特異的免疫刺激剤を提供することで抗腫瘍免疫反応を増加させる方式に研究を集中してきた。しかし、過去10年間、特異的免疫チェックポイント経路抑制剤を開発しようと集中的に努力した結果、がんを治療するための新たな免疫療法的接近方式を提供し始めたが、これは、進行性黒色腫患者を治療するために細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)と結合してこれを抑制する抗体(Ab)であるイピリムマブ(ipilimumab)のような、抑制性PD-1経路を遮断する抗体の開発を含む。
【0010】
一方、PD-1(programmed death-1)は、活性化したT及びB細胞により発現した主要免疫チェックポイント受容体であり、免疫阻害を媒介する。PD-1は、55kDaの1型膜タンパク質であり、Igスーパーファミリー遺伝子の一部をなし、兔疫グロブリン分子群に属するT細胞の補助阻害分子としてよく知られている。PD-1は、活性化したB細胞、T細胞及び骨髄細胞上に発現する受容体、すなわち、CD28、CTLA-4、ICOS、PD-1及びBTLAを含む、CD28系列受容体の一種類である。PD-1に対する2個の細胞表面糖タンパク質リガンド、すなわち、PD-L1及びPD-L2が確認されたが、これらは抗原提示細胞のみならず多くのヒトがん上で発現し、PD-1と結合する時にサイトカインの分泌及びT細胞の活性化を下向調節することが明らかにされている[Freeman et al.,2000];[Latchman et al., 2001]。PD-1は、一般的なT細胞では正常状態時は発現しないが、活性化すると発現が増加することが知られている。PD-L1の場合、正常状態のT細胞でもある程度発現し、活性化するとやはりその発現が増加することが報告されている。PD-L1は多数のヒトがんで多量発見され、PD-1とPD-L1の相互作用はT細胞に刺激又は抑制信号を伝達する。すなわち、PD-1とPD-L1との相互作用により腫瘍浸潤リンパ球が減り、T細胞受容体媒介増殖が減少し、がん細胞による免疫回避現象が発生することになる。CTLA-4とは異なり、PD-1は活性化したT細胞が腫瘍及び/又は間質細胞により発現した免疫阻害性PD-L1(B7-H1)及びPD-L2(B7-DC)リガンドに結合することができる末梢組織で主に機能する[Flies et al.,2011;Topalian et al.,2012a]。がん細胞の表面にあるタンパク質であるPD-L1、PD-L2がT細胞の表面にあるタンパク質であるPD-1と結合すると、T細胞はがん細胞を攻撃することができなくなる。
【0011】
PD-1による細胞内信号伝逹は、慢性感染でT細胞の免疫疲弊(exhaution)を誘導するのに必須のものである。一例として、慢性B型、C型肝炎などを含むウイルス性疾患の慢性化過程でPD-1が重要な役目をすることが知られており、よって、PD-1/PD-L1相互作用を抑制すれば抗腫瘍活性を誘導することができる。
【0012】
一方、体内に存在する特異的な抗原抗体反応システムは、概して独立した免疫として理解され、他の疾病とは関係のないものとみなされて、これまで他の抗原又は疾患治療にあまり活用されてこなかった。むしろ、同じ臓器を感染させる細菌又はウイルスに対して形成された免疫は他の感染源の抗体形成を妨害することから、これを克服する方法として、両方の感染源の抗原を同時に含むキメラ抗原を投与する方法の試み、又は、二つの抗原の組み換えキメラ抗原を投与して他方の抗原の免疫反応を向上させようとする試みがあった。しかし、未だキメラ抗原による効果的な薬理活性を示す成功事例は極めて珍しい。
【0013】
よって、本発明者等は、がん又は感染性疾患の効果的な治療のための方法として、体内に特異的な抗原抗体反応システムが形成された特定外部抗原に疾患と連関した標的タンパク質と結合することができるペプチドドメインキメラ抗原を融合して製造し、製造されたキメラ抗原を投与する場合、キメラ抗原は標的タンパク質が細胞膜に標識されたがん又は感染細胞に特異的に結合すると共に、キメラ抗原の他のドメインは既に体内に形成されている抗原抗体反応システムを誘導して標的細胞を効果的に取り除くことにより、がん又は感染疾患を非常に効果的に治療することができることを確認することで本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、インビトロ(in vitro)で転写させて合成したmRNA、すなわち、IVT mRNAを用いて融合されたキメラ抗原を用いてT細胞とB細胞による細胞性免疫(cellular immunity)と体液性免疫(humoral immunity)又は抗体依存性細胞傷害を同時に活性化することにより免疫治療効果を極大化することができる新たな治療剤を開発した。
【0015】
したがって、本発明の目的は、免疫反応誘導領域;及び標的細胞特異的結合誘導領域;が融合された、多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、本発明の多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を有効成分として含む、がんの予防又は治療用薬学的組成物を提供することにある。
【0017】
本発明のまた他の目的は、本発明の多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を有効成分として含む、感染疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供することにある。
【0018】
本発明のまた他の目的は、本発明の多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を有効成分として含む、免疫増強剤組成物を提供することにある。
【0019】
本発明のまた他の目的は、本発明の多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を有効成分として含む、がん又は感染疾患に対するワクチン組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記のような目的を達成するために、本発明は、免疫反応誘導領域;及び標的細胞特異的結合誘導領域;が融合された、多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を提供する。
【0021】
本発明の一実施例において、上記免疫反応誘導領域は、外来ウイルス性抗原であって、上記抗原により抗原抗体反応が形成されるものであり得る。
【0022】
本発明の一実施例において、上記免疫反応誘導領域は、B型肝炎ウイルス抗原、C型肝炎ウイルス抗原、A型肝炎ウイルス抗原、AIDSウイルス抗原、MERSウイルス抗原、インフルエンザAウイルス抗原、ヒトパピローマウイルス抗原、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)抗原及び単純ヘルペスウイルス(HSV)抗原からなる群より選択されるものであり得る。
【0023】
本発明の一実施例において、上記免疫反応誘導領域は、B型肝炎ウイルス抗原であって、B型肝炎ウイルスのコアタンパク質(HBc)、B型肝炎ウイルスのe抗原 (HBe)又はB型肝炎ウイルスの表面タンパク質(HBs)であり得る。
【0024】
本発明の一実施例において、上記標的細胞特異的結合誘導領域は、標的細胞に特異的に結合することができる細胞膜タンパク質であって、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA-4、CD28、ICOS、OX40、OX40L、GITR、GITRL、CD40、CD40L、4-1BB、4-1BBL、B7-1、B7-2、B7-H1、B7-H2、B7-DC、CD80、CD160、BTLA、HVEM、DPP-4、NTCP、CD16及びCaveolin-1からなる群より選択されるものであり得る。
【0025】
本発明の一実施例において、上記免疫反応誘導領域と標的細胞特異的結合誘導領域との間はキメラ抗原の構造的安定性のために配列番号19又は配列番号21で表されるリンカーペプチドで連結されているものであり得る。
【0026】
本発明の一実施例において、上記多重免疫機能が強化されたキメラ抗原は、配列番号9又は配列番号11のペプチド配列からなるものであり得る。
【0027】
また、本発明は、本発明の多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を有効成分として含む、がんの予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0028】
本発明の一実施例において、上記がんは、肺がん、胃がん、肝臓がん、骨がん、膵がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、大腸がん、結腸がん、乳がん、子宮肉腫、卵管がん腫、子宮内膜がん腫、子宮頚がん腫、膣がん腫、外陰がん腫、食道がん、喉頭がん、小腸がん、甲状腺がん、副甲状線がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、慢性又は急性白血病、小児期の固形腫瘍、分化型リンパ腫、膀胱がん、腎がん、腎細胞がん腫、腎盂がん腫、中枢神経原発リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫及び下垂体腺腫からなる群より選択されるものであり得る。
【0029】
また、本発明は、本発明の多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を有効成分として含む、感染疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0030】
本発明の一実施例において、上記感染疾患は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、A型肝炎ウイルス、AIDSウイルス、MERSウイルス、インフルエンザAウイルス、ヒトパピローマウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)又は単純ヘルペスウイルス(HSV)感染性疾患であり得る。
【0031】
また、本発明は、本発明の多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を有効成分として含む、免疫増強剤組成物を提供する。
【0032】
本発明の一実施例において、上記多重免疫機能が強化されたキメラ抗原は、(i) 標的細胞である疾病細胞に特異的に結合し、(ii)疲弊したCD8+T細胞の回復を促進してT細胞活性を誘導し、及び(iii)抗原抗体反応を誘導して体液性免疫反応の増進及びナチュラルキラー細胞(NK cell)による細胞毒性作用を活性化させるものであり得る。
【0033】
本発明の一実施例において、上記(iii)の抗原抗体反応誘導は、上記キメラ抗原の免疫反応誘導領域により個体の体内で形成された特異的抗原抗体反応を増進させるものであり得る。
【0034】
また、本発明は、本発明の多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を有効成分として含む、がん又は感染疾患に対するワクチン組成物を提供する。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、標的細胞特異的に結合して多重免疫機能が強化されたキメラ抗原及びこの用途に関するものであり、免疫反応誘導領域及び標的細胞特異的結合誘導領域が融合された多重免疫機能が強化されたキメラ抗原の場合、疾病細胞特異的に結合することができ、疲弊したCD8+T細胞の回復を促進してT細胞活性を誘導し、抗原抗体反応を誘導して体液性免疫反応の増進及びナチュラルキラー細胞(NK cell)による細胞毒性作用を活性化させて、疾病細胞の免疫回避を抑制し、多重免疫機能を強化して癌、感染疾患及び免疫疾患をより効果的に予防及び治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】溶解性キメラ抗原が体内に形成された抗体を誘導して体液性免疫が作用する過程を示したものであり、また、標的がん又は感染細胞で免疫疲弊状態の細胞特異的なCD8+T細胞を回復させ、キメラ抗原の特定外部抗原に特異的なCD8+T細胞が同時に標的がん又は感染細胞部位に誘導されて再活性化されたT細胞と抗体依存性細胞傷害が同時に作用することを示した模式図である。
【
図2】HBcAg、HBeAg、HBsAgの単一抗原及びPD-1/HBc、PD-1/HBeの分子生物学的に多様な構造変化が予想されるキメラ抗原をコードする融合遺伝子の設計図を示したものであり、単一抗原又はキメラ抗原をコードするIVT mRNAの生産のための組み換えDNA切片は、オープンリーディングフレーム (open reading frame)、T7プローモーター、5’非翻訳領域(UTR、untranslated region)、3’非翻訳領域などを含むように設計した。
【
図3】HBcAg、HBeAg、HBsAg、PD-1単一抗原及びPD-1/HBc、PD-1/HBeのキメラ抗原をコードするDNA切片の生産結果を示したものである。
【
図4】HBcAg、HBeAg、HBsAg、PD-1単一抗原及びPD-1/HBc、PD-1/HBeのキメラ抗原をコードするDNA切片を鋳型にしてそれぞれのIVT mRNAを製造した結果を示したものである。
【
図5】本発明のPD-1/HBc及びPD-1/HBeキメラ抗原をコードするIVT mRNAを動物細胞293Tに挿入した後、細胞内で実際に生成された抗原を酵素結合免疫吸着検査によって確認したものである。
【
図6】PD-1/HBc、PD-1/HBeキメラ抗原をコードするIVT mRNAを動物細胞293Tに挿入した後、細胞内で実際にキメラ抗原の生成をウェスタンブロッティングにより確認した結果を示したものである。
【
図7】細胞内で発現したPD-1/HBc、PD-1/HBeキメラ抗原が実際に細胞のPD-L1リガンドに特異的に結合することを共免疫沈降法(coimmunoprecipitation)を用いて確認したものである。
【
図8】本発明の一実施例で合成された単一抗原及びキメラ抗原IVT mRNAをLNP内に封入した後、粒子のサイズをナノ粒子分析器(Zetasizer)を用いて測定した結果を示したものである。
【
図9】本発明の一実施例で合成された単一抗原及びキメラ抗原IVT mRNAをLNP内に封入した後、実際にmRNAが粒子内に封入される効率を測定した結果を示したものである。
【
図10】IVT mRNAが封入されたLNPを動物細胞293Tに挿入した後、細胞内で実際にキメラ抗原タンパク質が生成されることを酵素結合免疫吸着検査によって確認したものである。
【
図11】キメラ抗原PD-1/HBe IVT mRNAが封入されたLNPをC57BL/6マウスに注入した後、実際に体内で注入されたIVT mRNAから抗原タンパク質が生成されることを酵素結合免疫吸着検査によって確認したものである。
【
図12】C57BL/6マウスにキメラ抗原を処理するのに先立って、単一抗原HBcAg、HBeAgタンパク質をマウスに事前接種してマウスで実際に各抗原に対する抗体が生成されたことを酵素結合免疫吸着検査によって確認したことを示したものである。
【
図13】HBcAgとHBeAgタンパク質を注入することによりこれらタンパク質に対して一次的に抗体が形成されたマウスにマウスメラノーマ(Melanoma)がん細胞であるB16F10を移植した後、PD-1/HBcとPD-1/HBeをコードするIVT mRNAが封入されたLNPをマウスに注入して体内生成されたキメラ抗原によりがん組織の成長が阻害されたことを示したものである。
【
図14】HBcAgとHBeAgに対して一次的に抗体が形成されたC57BL/6マウスにメラノーマがん細胞であるB16F10を移植してがん組織が生成されるように誘導した後、PD-1/HBcとPD-1/HBeをコードするIVT mRNAが封入されたLNPをマウスに注入した時、体内生成されたキメラ抗原によってマウスの生存率が増加することを示したものである。
【
図15】HBcAgとHBeAgに対して一次的に抗体が形成されたC57BL/6マウスにメラノーマがん細胞であるB16F10を移植してがん組織が生成されるように誘導した後、PD-1/HBcとPD-1/HBeをコードするIVT mRNAが封入されたLNPをマウスに注入する前と後の生存率を比較したとき、キメラ抗原処理後にマウスの生存率が増加したことを示したものである。
【
図16】HBcAg抗原に対して一次的に抗体が形成されたC57BL/6マウスにメラノーマがん細胞であるB16F10を移植してがん組織が生成されるように誘導した後、PD-1/HBcをコードするIVT mRNAが封入されたLNPをマウスに注入する前と後のHBcAg抗原に対する抗体の相対的な量とがん組織のサイズとの連関性を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は多重免疫機能が強化された組み換えキメラ抗原を提供することに特徴があり、具体的に、本発明は免疫反応誘導領域及び標的細胞特異的結合誘導領域が融合された、多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を提供することに特徴がある。
【0038】
特に、本発明で提供する多重免疫機能が強化されたキメラ抗原は、体内に特異的な抗原抗体反応システムが形成された特定外部抗原領域(ドメイン)に疾患と連関した標的タンパク質に特異的に結合することができる領域(ドメイン)を融合して製造したものであり、本発明のキメラ抗原を個体に投与すると、キメラ抗原は標的タンパク質が細胞膜に標識された特定疾病細胞、例えば、がん細胞又は感染細胞に特異的に結合することになり、キメラ抗原の他のドメイン、すなわち、免疫反応誘導領域(特定外部抗原領域)は、既に体内に形成されている抗原抗体反応システムを誘導できて標的疾病細胞を効率的に取り除くことができるように設計した。
【0039】
したがって、本発明のキメラ抗原を利用する場合、個体内に既に形成されて存在する特定抗原抗体システムによる免疫系(免疫反応)を再活性化させて対象疾患を非常に効率的に治療することができるようにした。
【0040】
本発明の上記多重免疫機能が強化されたキメラ抗原の構成要素を考察すると、大きく免疫反応誘導領域及び標的細胞特異的結合誘導領域が融合された形態の融合タンパク質で形成されている。
【0041】
上記免疫反応誘導領域は特定外部抗原領域(ドメイン)であって、外来ウイルス性抗原であり得、上記免疫反応誘導領域によりキメラ抗原が投与された個体内で抗原抗体反応が安定的に形成されることができる。
【0042】
本発明のキメラ抗原に含まれることができる上記免疫反応誘導領域は、外来抗原であって、ウイルス、細菌又は各種伝染性疾患に係る生物体のタンパク質、糖タンパク質、外被タンパク質、コアタンパク質又は機能性タンパク質を含むことができ、望ましくは、これに制限されはしないが、B型肝炎ウイルス抗原、C型肝炎ウイルス抗原、A型肝炎ウイルス抗原、AIDSウイルス抗原、MERSウイルス抗原、インフルエンザAウイルス抗原、ヒトパピローマウイルス抗原、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)抗原及び単純ヘルペスウイルス(HSV)抗原からなる群より選択されることができ、より望ましくは、B型肝炎ウイルス抗原であって、B型肝炎ウイルスのコアタンパク質(HBc)又はB型肝炎ウイルスのe抗原(HBe)又はB型肝炎ウイルスの表面タンパク質(HBs)であり得る。
【0043】
上記B型肝炎ウイルス由来抗原であるコアタンパク質の抗原(HBcAg)は配列番号1のペプチド配列からなるものであり、上記B型肝炎ウイルスのe抗原(HBeAg)は配列番号3のペプチド配列からなるものであり、上記B型肝炎ウイルスの表面タンパク質抗原(HBsAg)は配列番号5のペプチド配列からなるものであり得る。
【0044】
また、上記配列番号1のペプチドをコードするポリヌクレオチドは配列番号2に示し、配列番号3のペプチドをコードするポリヌクレオチドは配列番号4に示し、配列番号5のペプチドをコードするポリヌクレオチドは配列番号6に示した。
【0045】
また、上記標的細胞特異的結合誘導領域は、主に体内の正常な生命活動に係るタンパク質であって、細胞膜にある受容体やリガンドに物理的に結合することができる水溶性タンパク質又は細胞膜タンパク質であり得る。上記本発明の上記標的細胞特異的結合誘導領域としては、これに制限されはしないが、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA-4、CD28、ICOS、OX40、OX40L、GITR、GITRL、CD40、CD40L、4-1BB、4-1BBL、B7-1、B7-2、B7-H1、B7-H2、B7-DC、CD80、CD160、BTLA、HVEM、DPP-4、NTCP、CD16及びCaveolin-1からなる群より選択されることができる。
【0046】
本発明の一実施例では、上記標的細胞特異的結合誘導領域として、標的細胞に特異的に結合することができる細胞膜タンパク質であるPD-1を用い、細胞膜タンパク質は免疫チェックポイントシステムで核心的な役目をし、PD-1は細胞膜に付着されており、これを細胞外によく分泌する形態として知られている(Cellular Immunology、2005、235:109)。よって、本発明ではPD-1をこの受容体であるPD-L1に堅固に結合するタンパク質に変換し、よって、細胞外分泌が可能で受容体に高い結合力を有する組み換えPD-1タンパク質を使用し、本発明で使った上記PD-1タンパク質のペプチド配列は配列番号7に示し、上記配列番号7のペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を配列番号8に示した。
【0047】
また、本発明のキメラ抗原は、上記免疫反応誘導領域と標的細胞特異的結合誘導領域との間を、キメラ抗原の構造的安定性と免疫反応を最大化するために特定配列からなるリンカーペプチドで連結されるように設計した。リンカーペプチドの配列によってキメラ抗原の構造的安定性に差があることを確認し、これを基にキメラ抗原の安定性と免疫反応を高めるにあたって有効なリンカーペプチドを選別した。本発明で使用可能な上記リンカーペプチド1は、配列番号19で表される46個のペプチドからなり、上記リンカーペプチド1をコードするポリヌクレオチド配列は配列番号20に示した。また、本発明で使用可能な上記リンカーペプチド2は、配列番号21で表される24個のペプチドからなり、上記リンカーペプチド2をコードするポリヌクレオチド配列は配列番号22に示した。
【0048】
本発明の一実施例で、多重免疫機能が強化されたキメラ抗原として、溶解性キメラ抗原であるPD-1/HBc及びPD-1/HBeをそれぞれ製造したが、これは、免疫反応誘導領域としてB型肝炎ウイルスのコアタンパク質(HBcAg)及びB型肝炎ウイルスのe抗原タンパク質(HBeAg)をそれぞれ使ったものであり、標的細胞特異的結合誘導領域としてPD-L1と結合力のある細胞外に分泌される水溶性PD-1を使ったものである。また、本発明の一実施例で上記PD-1とHBcドメインはこれらの間を配列番号19のリンカーペプチド1で連結させ、上記PD-1とHBeドメインはこれらの間を配列番号21のリンカーペプチド2でそれぞれ連結させた。
【0049】
また、HBcAg及びHBeAg単一抗原、PD-1/HBc及びPD-1/HBeキメラ抗原は、抗体形成をよく誘導するアミノ酸配列が大部分含まれるように設計し、各抗原タンパク質が細胞内で生産された後、細胞外によく分泌されるようにするために各タンパク質のアミノ末端にはシグナルペプチドが含まれるようにした。シグナルペプチドの合成は、当業者によく知られている方法によりなされ(PLoS One.2016.19:11;Mol Ther.2005,11(3):435;Journal of Biotechnology,2007,128(4):705;Trends in Cell and Molecular Biology,Improving mammalian cell factories:The selection of signal peptide has a major impact on recombinant protein synthesis and secretion in mammalian cells)、本発明では製造した多数のシグナルペプチドを対象として抗原タンパク質のアミノ末端に色々な種類のシグナルペプチド配列を連結させ、生産された抗原が細胞外によく分泌されるか検証過程を経た後、各抗原が細胞外によく分泌されるシグナルペプチドを選別した。
【0050】
本発明では上記実験により本発明のキメラ抗原が細胞外によく分泌されるようにするために、上記シグナルペプチドとして、配列番号23で表される21個のペプチド(シグナルペプチド1)又は配列番号25で表される17個のペプチドからなるシグナルペプチド(シグナルペプチド2)を使い、ここで上記配列番号23のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は配列番号24に示し、上記配列番号25のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は配列番号26に示した。
【0051】
このように本発明による多重免疫機能が強化されたキメラ抗原は、免疫反応誘導領域;及び標的細胞特異的結合誘導領域;が融合された形態を有するものであり、本発明の一実施例では多重免疫機能が強化されたキメラ抗原としてPD-1/HBcAg及びPD-1/HBeAgキメラ抗原をそれぞれ製造した。
【0052】
上記本発明で製造した本発明のPD-1/HBcAgキメラ抗原に対するペプチド配列は配列番号9に示し、これをコードするポリヌクレオチド配列は配列番号10に示した。
【0053】
本発明のPD-1/HBcAgキメラ抗原を示す配列番号9のポリペプチドは細胞外分泌のためのシグナルペプチド1の配列を含んでおり、上記シグナルペプチド1の配列は配列番号9の1番目アミノ酸から21番目までの計21個のアミノ酸配列からなる。
【0054】
また、上記配列番号9のPD-1/HBcAgキメラ抗原を示すポリペプチドはリンカーペプチド1を含んでおり、上記リンカーペプチド1は上記配列番号9の232番目アミノ酸から277番目アミノ酸までの計46個のアミノ酸である。
【0055】
また、上記配列番号9のPD-1/HBcAgキメラ抗原に対するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は配列番号10に示し、配列番号10で上記シグナルペプチド1をコードするポリヌクレオチドの配列は配列番号10の1番目塩基配列から63番目までの計63個の塩基配列からなり、配列番号10で上記リンカーペプチド1をコードするポリヌクレオチドの配列は配列番号10の694番目塩基配列から831番目までの塩基配列からなる。
【0056】
また、本発明のPD-1/HBeAgキメラ抗原のペプチド配列は配列番号11に示し、これをコードするポリヌクレオチド配列は配列番号12に示した。
【0057】
本発明のPD-1/HBeAgキメラ抗原を示す配列番号11のポリペプチドは細胞外分泌のためのシグナルペプチド2の配列を含んでおり、上記シグナルペプチド2の配列は配列番号11の1番目アミノ酸から17番目までの計17個のアミノ酸配列からなる。
【0058】
また、上記配列番号11のPD-1/HBeAgキメラ抗原を示すポリペプチドはリンカーペプチド2を含んでおり、上記リンカーペプチド2は上記配列番号11の228番目アミノ酸から251番目アミノ酸までの計24個のアミノ酸配列からなる。
【0059】
また、上記配列番号11のPD-1/HBeAgキメラ抗原に対するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は配列番号12に示し、配列番号12で上記シグナルペプチド2をコードするポリヌクレオチドの配列は配列番号12の1番目塩基配列から51番目までの計51個の塩基配列からなり、配列番号12で上記リンカーペプチド2をコードするポリヌクレオチドの配列は配列番号12の682番目塩基配列から753番目までの計72個の塩基配列からなる。
【0060】
一方、本発明による多重免疫機能が強化されたキメラ抗原は、免疫反応の活性化によりがん又は感染疾患を予防又は治療することができる用途で使われることができる。
【0061】
本発明のキメラ抗原は、標的細胞特異的結合誘導領域を含んでいることから標的細胞である疾病細胞に特異的に結合することができ、免疫反応誘導領域を含んでいることから疲弊したCD8+T細胞の回復を促進してT細胞の活性を誘導すると共に抗原抗体反応を誘導して体液性免疫反応の増進及びナチュラルキラー細胞(NK cell)による細胞毒性作用を同時に活性化させることにより、多重免疫機能を強化させることができるという特徴がある。
【0062】
特に、免疫反応誘導領域による多重免疫機能の強化とは、外来抗原に露出して上記外来抗原に対する特異的で安定的な抗原抗体反応システムが存在する個体を対象として上記外来抗原を含む本発明のキメラ抗原を処理することにより、抗原抗体反応を再活性化させ、よって、体液性免疫と細胞性免疫を同時に多重活性化させることを言う。
【0063】
よって、本発明は、本発明の多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を有効成分として含む、がんの予防又は治療用薬学的組成物を提供することができる。
【0064】
上記がんの種類としては、これに制限されはしないが、肺がん、胃がん、肝臓がん、骨がん、膵がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、大腸がん、結腸がん、乳がん、子宮肉腫、卵管がん腫、子宮内膜がん腫、子宮頚がん腫、膣がん腫、外陰がん腫、食道がん、喉頭がん、小腸がん、甲状腺がん、副甲状線がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、慢性又は急性白血病、小児期の固形腫瘍、分化リンパ腫、膀胱がん、腎臓がん、腎臓細胞がん腫、腎盂がん腫、中枢神経原発リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫又は下垂体腺腫であり得る。
【0065】
また、本発明は、本発明の多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を有効成分として含む、感染疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供することができる。
【0066】
本発明で上記「感染疾患」とは、外来ウイルス、細菌、原生生物などを含む各種感染源又は構成成分が哺乳類の病理状態を引き起こしたり、媒介したり、又はその他貢献したりする疾患を意味し、上記感染疾患の種類としては、これに制限されはしないが、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、A型肝炎ウイルス、AIDSウイルス、MERSウイルス、インフルエンザAウイルス、ヒトパピローマウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)又は単純ヘルペスウイルス(HSV)感染性疾患であり得る。
【0067】
また、本発明は、多重免疫機能が強化されたキメラ抗原を有効成分として含む、免疫増強剤組成物を提供することができ、このような免疫増強剤組成物は免疫機能異常として誘発される免疫疾患の予防又は治療のための薬学的組成物として使われることができる。
【0068】
本発明で上記「免疫疾患」とは、哺乳類免疫系の構成成分が哺乳類の病理状態を引き起こしたり、媒介したり、又はその他貢献したりする疾患を意味し、免疫反応の刺激又は中断がその疾病の進行に補償的な効果を有する疾患を全て含むことができる。
【0069】
本発明の一実施例ではHBcAgとPD-1が融合されたPD-1/HBcキメラ抗原及びHBeAgとPD-1が融合されたPD-1/HBeキメラ抗原をインビトロで転写過程によりそれぞれのmRNA(IVT mRNA;in vitro transcription mRNA)を製造した後、製造されたPD-1/HBc mRNA及びPD-1/HBe mRNAをそれぞれ疾病細胞に導入した後、PD-L1リガンドに選択的に上記キメラ抗原が結合するか確認した結果、PD-1/HBc及びPD-1/HBeキメラ抗原のいずれもがPD-L1リガンドに特異的に結合していることを確認できた。
【0070】
また、本発明でマウスを事前接種によりキメラ抗原PD-1/HBc及びPD-1/HBeに結合することができるHBcAg及びHBeAgの各抗体生成のためにHBcAg及びHBeAgタンパク質をそれぞれマウスに注入した後、抗体生成有無を分析した結果、HBcAg及びHBeAgに対する特異的な抗体が生成されることを確認した。
【0071】
このような結果により、本発明者等は、本発明のキメラ抗原を個体に投与する場合、疾病細胞特異的なターゲット部位に本発明のキメラ抗原が結合することができると共に個体内に存在する抗体に結合することにより、体液性免疫活性を促進させ、結果的に免疫増強作用により疾病細胞を取り除いて対象疾患を効果的に予防又は治療することができることを確認した。
【0072】
さらに、動物実験により、本発明のキメラ抗原を用いた抗がん活性を確認するために、HBsAgとHBcAgを事前接種し、これに対する一次抗体が形成されたマウスにPD-L1が細胞膜に標識されたマウスがん細胞B16F10細胞を移植してがん組織を生成させた後、本発明のキメラ抗原を注入した結果、単独抗原であるHBcAg及びHBeAgをそれぞれ単独注入した群ではがん細胞死滅効果がほぼないことが示されたのに対して、本発明のキメラ抗原であるPD-1/HBc mRNA及びPD-1/HBe mRNAを注入した群ではがん組織の成長が効果的に阻害されると共にマウスの生存率が大きく増加することが分かった。
【0073】
以上の結果により、本発明の多重免疫機能が強化されたキメラ抗原は、がん又は感染疾患を予防及び治療することができる効果があることが分かり、特に、本発明のキメラ抗原は免疫阻害を媒介するPD-1の信号経路及びPD-1とPD-L1の結合を遮断することにより、がん又は感染細胞によるT細胞疲弊(exhaustion)状態の回復を誘導し、T細胞のサイトカイン分泌能力を活性化させて免疫反応を増進させることができることが分かった。
【0074】
すなわち、体内に既に形成されたがT細胞疲弊によって不能化した疾病細胞ターゲット特異的なCD8+T細胞の活性を促進させることができることが分かった。さらに、外来抗原に特異的な抗体によって結合し活性化される体液性兔疫細胞であるナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ(Macrophage、大食細胞)、モノサイト(Monocyte、単球)は、抗体依存性細胞傷害(Antibody-dependent Cellular Cytotoxicity)の活性で一般的な単独抗体治療剤の場合よりもさらに迅速且つ強力にPD-1とPD-L1の相互作用により誘発される疾患を予防又は治療することができる。PD-1とPD-L1の相互作用により誘発される疾患は、上述したがん又は感染疾患であり得る。
【0075】
本発明で上記薬学的組成物は、薬学的に有効な量の本発明のキメラ抗原を含むか、一つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤を含むことができる。上記で薬学的に有効な量とは、がん又は感染疾患の症状を予防、改善及び治療するのに十分な量を言う。
【0076】
本発明によるキメラ抗原は、患者の体重1kg当たり0.1pgで1gの質量で含まれることができ、上記薬学的に有効な量は、疾患症状の程度、患者の年齢、体重、健康状態、性別、投与経路及び治療期間などによって適切に変化可能である。
【0077】
また、上記で「薬学的に許容される」とは、生理学的に許容され、ヒトに投与される時、通常、胃腸障害、めまいのようなアレルギ反応又はこれと類似の反応を起こさない組成物のことを言う。上記担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、カルシウムフォスフェイト、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートおよび鉱物油を挙げることができる。また、充填剤、抗凝集剤、滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤などをさらに含むことができる。
【0078】
本発明の組成物は、哺乳動物に投与された後、活性成分の迅速、持続又は遅延した放出を提供できるように当業界に公知となっている方法を用いて剤形化されることができる。剤形は、粉末、顆粒、製剤、エマルジョン、シロップ、エアロゾル、軟質又は硬質ゼラチンカプセル、滅菌注射溶液、滅菌粉末の形態であり得る。
【0079】
また、本発明によるがん又は感染疾患の予防又は治療用組成物は、経口、経皮、皮下、静脈又は筋肉を含んだ色々な経路を通して投与されることができ、活性成分の投与量は、投与経路、患者の年齢、性別、体重及び患者の重症度などの色々な因子によって適切に選択されることができ、本発明によるがん又は感染疾患の予防又は治療用組成物は、がん又は感染疾患の症状を予防、改善又は治療する効果を有する公知の化合物と並行して投与することができる。
【0080】
さらに、本発明は、ヒトを除いたがん又は感染疾患が誘発された個体に上記本発明のキメラ抗原を投与する段階を含むがん又は感染疾患の治療方法を提供することができる。
【0081】
また、適切な投与経路は、例えば、経口、鼻腔、透過粘膜、又は隔膜内経腸投与、直接心室内、腹腔内、又は眼内注射だけではなく、筋肉内、皮下、静脈、骨髄注射を含む非経口伝達を含むことができる。
【0082】
さらに、本発明は、多重免疫機能が強化された本発明のキメラ抗原を有効成分として含む、がん又は感染疾患に対するワクチン組成物を提供することができる。
【0083】
上記本発明のワクチン組成物は単独で投与可能であるが、望ましくは、アジュバントを共に含むことができる。アジュバントは、兔疫細胞の初期活性化過程で非特異的に抗原に対する免疫反応を促進する物質であり、宿主に免疫原ではないが免疫系の細胞の活性を増大させることにより免疫を強化する製剤、分子等を意味する(Annu.Rev.Immunol、1986、4:369)。本発明のワクチン組成物と共に投与されて免疫反応を増強させることができるアジュバントは、任意の多様なアジュバントを含み、典型的なアジュバントとしては、フロイントアジュバント(Freund adjuvant)、アルミニウム化合物(aluminum compound)、ムラミルジペプチド(muramyl dipeptide)、リポポリサッカライド(LPS)、モノホスホリルリピドA、又はクイルAなどが知られている。上記アジュバントは、ワクチン組成物と共に投与されるか時間間隔をおいて順次投与されることができる。
【0084】
また、本発明のワクチン組成物は、追加として溶媒、賦形剤などをさらに含むことができる。上記溶媒には、生理食塩水、蒸留水などが含まれ、上記賦形剤にはリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウムなどが含まれるが、これに制限されず、本発明の属する分野において通常ワクチン製造に使用される物質をさらに含むことができる。
【0085】
本発明のワクチン組成物は、本発明の属する技術分野において通常利用される方法で製造することができる。本発明のワクチン組成物は、経口型又は非経口型製剤として製造することができ、望ましくは、非経口型製剤である注射液剤として製造し、真皮内、筋肉内、腹膜内、静脈内、皮下内、鼻腔又は硬膜外(epidural)経路で投与することができる。
【0086】
本発明のワクチン組成物は、免疫学的有効量で個体に投与することができる。上記「免疫学的有効量」とは、疾病予防効果を発揮することができる程度の十分な量と副作用や深刻な又は過度な免疫反応を起こさない程度の量を意味し、正確な投与濃度は投与される特定免疫原によって変わり、予防接種対象者の年齢、体重、健康、性別、個体の薬物に対する敏感度、投与経路、投与方法など、医学分野でよく知られている要素によって当業者により容易に決められることができ、1回乃至数回投与可能である。
【0087】
以下、実施例を通して本発明をより詳しく説明することにする。これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるわけではない。
【0088】
<実施例1>
〔HBc、HBe、HBs、PD-1/HBc又はPD-1/HBeのキメラ抗原をコードする融合遺伝子の製造〕
B型肝炎コア抗原(HBcAg)、B型肝炎e抗原(HBeAg)、B型肝炎外被抗原(HBsAg)、PD-1、溶解性キメラ抗原PD-1/HBc及びPD-1/HBeのタンパク質をコードする各遺伝子をインビトロ(in vitro)で転写させて合成したIVT mRNA(in vitro transcribed mRNA)を生産するためのDNA切片の模式図を
図2に示した。
図2に示したように、上記IVT mRNA生産のためのDNA切片は、オープンリーディングフレーム(open reading frame)、T7プローモーター塩基配列、5’非翻訳(untranslated)塩基配列(5’UTR)、3’非翻訳(untranslated)塩基配列(3’UTR)を含むように米国System Biosciences社のmRNAExpress mRNA Synthesis kitを参考して製作した。DNA切片の設計でオープンリーディングフレーム、すなわち、目的遺伝子はカセット形態で連結させて挿入されるようにした。この時、キメラ抗原の免疫反応誘導領域と標的細胞特異的結合誘導領域をコードするオープンリーディングフレームの順序は、固定されるものではなく、両誘導領域の位置が互いに変わってもよい。すなわち、
図2でリンカーで連結された“A gene”及び“B gene”にはキメラ抗原の免疫反応誘導領域及び標的細胞特異的結合誘導領域がそれぞれ位置され、その位置は互いに変わってもよい。
【0089】
また、B型肝炎コア抗原(HBcAg)、B型肝炎e抗原(HBeAg)、B型肝炎外被抗原(HBsAg)、PD-1、溶解性キメラ抗原PD-1/HBcAg及びPD-1/HBeAgに対してインビトロで転写させたそれぞれのIVT mRNAに対するDNA塩基配列を配列番号13(HBcAg)、14(HBeAg)、15(HBsAg)、16(PD-1)、17(PD-1/HBcAg)及び18(PD-1/HBeAg)にそれぞれ示した。
【0090】
また、上記配列番号17の塩基配列はPD-1/HBcAg IVT mRNAをコードするDNA鋳型の塩基配列であり、上記塩基配列はPD-1/HBcAgのコード配列だけでなくT7プローモーター、5’UTR及び3’UTRの塩基配列も含む。
【0091】
配列番号18の塩基配列もPD-1/HBeAg IVT mRNAをコードするDNA鋳型の塩基配列であり、上記塩基配列はPD-1/HBeAgのコード配列だけでなくT7プローモーター、5’UTR及び3’UTRの塩基配列も含む。
【0092】
また、転写が完了した後、一連の隣接“ポリアデニル酸(ポリ(A))テール”がポリAポリメラーゼ(poly A polymerase)によってRNA分子の3’末端に添加されるが、この過程は当業者によく知られている方法で設計時点に最小50個のアデニン配列のポリA塩基配列が挿入されるように考案した。上記設計されたDNA切片は米国のIDT社に依頼して合成し、IDT社で製作された各抗原遺伝子を含んだベクターDNA10ngを鋳型として用い、下記配列番号27及び28のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のためのプライマを用いて遺伝子DNA増幅反応を行なった。PCR反応生成物は、当業者によく知られている溶離(elution)方法によって精製し、その後、インビトロ転写(in vitro transcription)反応のための鋳型(Template)として用いた(
図3)。
【0093】
配列番号27プライマ塩基配列(プライマ1):
5’-AGATCTTAATACGACTCACTATAGGGAAATAAGA-3’
【0094】
配列番号28プライマ塩基配列(プライマ2):
5’-TTTTTTTTTT TTTTTTTTTT TTTTTTTTTT TTCTTTTTTT TTTTTTTTTT TTTTTTTTTT TTTTTAATAT TCTTCCTACT CAGGCTTTAT TCAAAGACC-3’
【0095】
<実施例2>
〔単一抗原又はキメラ抗原をコードするDNA切片からIVT mRNA合成〕
上記実施例1で製造した鋳型(Template)DNAを用いてインビトロ転写(IVT)を行って人工的なmRNAを合成したが、これは、mRNA生産用キットである米国New England Biolabs社のHiScribe T7 ARCA mRNA kit with tailingを用いて行なった。具体的に、1μgのHBcAg、HBeAg、HBsAg、PD-1、PD-1/HBc及びPD-1/HBeの単一又はキメラ抗原遺伝子の塩基配列を含む精製されたそれぞれのDNA切片、10μl 2x ARCA/NTP Mix,2μl T7 RNA Polymerase Mixを混合し、残りは蒸留水を添加し、最終的に20μlの反応物を組成した後、37℃で60分間反応させた。反応が完了したら、2μl DNase酵素を添加した後、37℃で15分間処理して残留DNAを全て取り除いた。反応から得られたIVT mRNAは、当業者によく知られているRNA精製キットを用いて精製した後、0.5x TAE緩衝溶液を用いた1.2%アガロース電気泳動によってmRNA生産を確認した(
図4)。
【0096】
上記過程により製造された単一抗原のmRNAから発現するタンパク質である単一抗原HBcAgのポリペプチド配列は配列番号1に示し、HBeAgのポリペプチド配列は配列番号3に示し、HBsAgのポリペプチド配列は配列番号5に示し、PD-1のポリペプチド配列は配列番号7に示した。また、上記キメラ抗原のmRNA(配列番号17)から発現するキメラ抗原タンパク質であるPD-1/HBcのポリペプチド(アミノ酸)配列は配列番号9に示し、他のキメラ抗原のmRNA(配列番号18)から発現するキメラ抗原タンパク質であるPD-1/HBeのポリペプチド(アミノ酸)配列は配列番号11に示した。
【0097】
<実施例3>
〔キメラ抗原をコードするIVT mRNAのヒト293T細胞での発現確認〕
上記実施例2で精製したIVT mRNAをヒト細胞株であるHEK293T(ATCC、CRL-3216)にトランスフェクションさせた。HEK293T細胞株はヒト胎児腎臓(Human Embryonic Kidney)由来のがん細胞化された腎臓細胞であり、上記細胞の培養はT75フラスコで10%FBS(Fetus Bovine Serum:GIBCO、#16000-028)、1%ABAM(GIBCO BRL、#15240-O13)を添加したMEM培地(GIBCO、#11095-080)で3日間培養し、培養後、1x PBS緩衝溶液で洗浄した後、トリプシン処理を行って容器の底から剥がした。その後、分離された細胞を遠心分離して上澄み液は捨て、再び1x PBS緩衝溶液に再分散した後、5X10^5cells/dishになるように再分散した。24時間後、細胞が培養容器の表面によく付着したことを確認した後、Lipofectamine Messenger Max Transfection Reagent(Invitrogen、#LMRNA003)、mRNA専用トランスフェクション試薬を用いて当業者が提供する方法でキメラ抗原をコードするIVT mRNA(PD-1/Hbc及びPD-1/Hbe)を上記細胞にトランスフェクションさせた。トランスフェクションされた細胞は、60mm培養容器に分散し、5%CO2細胞培養器で2日間培養した。
【0098】
培養後、24時間後に細胞培養液を収得し、48時間経過後に付着した細胞と細胞培養液を1.5mlチューブに得た。得られた細胞と細胞培養液で単一又はキメラ抗原が生成されて分泌されたかを確認するために、酵素結合免疫吸着検査(ELISA、Enzyme-linked immunosorbent assay)をPD-1 ELISA Kit(Arigo Biolaboratories、#ARG81342)を用いて実施した。
【0099】
その結果、
図5に示したように、本発明の方法で生産されたIVT-mRNAはHEK293T細胞株にトランスフェクションされた後、培養液と細胞内の両方でPD-1タンパク質が検出された。これにより、本発明者等は、目的とするキメラ抗原が全て充分に細胞外に分泌されたことを確認することができた。また、得られた細胞でタンパク質を抽出してSDS-PAGE電気泳動後、PD-1抗体(R&D System、AF1021)を用いたウェスタンブロッティングを行なった結果、
図6に示したように、目的とするキメラ抗原が生成されたことを確認することができた。
【0100】
また、このとき得られた細胞抽出物は、細胞膜に存在するPD-L1タンパク質結合を示すことができる免疫沈降分析法(Immuno-precipitation)のためのサンプルとしても用いた。
【0101】
<実施例4>
〔免疫沈降法を用いた、細胞膜に存在するPD-L1タンパク質と293Tで発現したキメラ抗原との結合有無の確認〕
免疫沈降法(Immunoprecipitation:IP)を用いて、細胞膜に存在するPD-L1と本発明で製造された単一抗原(PD-1)及びキメラ抗原(PD-1/HBc又はHBsAg/PD-1)との結合有無を確認した。このために、PD-L1に対する抗体を添加してPD-L1/PD-1/anti-PD-L1抗体、PD-L1/PD-1/HBc/anti-PD-L1抗体、PD-L1/HBsAg/PD-1/anti-PD-L1抗体の複合沈殿物を得て、この沈殿物を電気泳動した後にウェスタンブロッティングによりPD-L1とPD-1、PD-1/HBc又はHBsAg/PD-1との相互作用を共免疫沈降法(coimmunoprecipitation、co-IP)により分析した。
【0102】
具体的に、PD-L1が細胞膜に標識されたがん細胞にPD-1、PD-1/HBc又はPD-1/HBe遺伝子をコードするIVT mRNAを電気穿孔又はLipofectamine Messenger Max Transfection Reagent(Invitrogen、#LMRNA003)mRNA専用トランスフェクション試薬を用いてトランスフェクションさせ、2日後に細胞を得た後、RIPA緩衝溶液に細胞を溶解した。細胞残骸物を遠心分離により取り除いた後、上澄み液を他の1.5ml試験管に移し、適当量の抗PD-L1抗体又は特定標識タンパク質抗体を添加して混ぜた後、1時間培養して抗原抗体複合体(免疫複合体)を形成した。この複合体に再び固定化されたProtein A又はProtein Gアガロースゲルを混合した後、2時間回転させながら培養してゲルに付着するようにし、その後、沈澱した複合体から結合されていないタンパク質は数回洗浄して取り除き、沈澱複合体をSDS-PAGE電気泳動した後、それぞれの抗原-特異的抗体を用いてウェスタンブロッティングを行なった。
【0103】
その結果、
図7に示したように、本発明による単一又はキメラ抗原のIVT-mRNAにトランスフェクションされたHEK293T細胞株の細胞抽出物を対象としてPD-L1に対する抗体を添加し分析した結果、PD-L1がPD-1、PD-1/HBc又はPD-1/HBeと相互作用することを確認することができた。
【0104】
<実施例5>
〔キメラ抗原をコードするIVT mRNAの伝達効率を増加させるための脂質ナノ粒子(LNP)の製作〕
mRNAの安定性増加及び細胞への伝達効率を増加させるために、色々な脂質からなる脂質ナノ粒子(Lipid nanoparticle、LNP)を製作した(Cell、2017、168:1)。先ず、4種類の脂質であるSS-OP、DOPC、Cholesterol、PEG-lipidを100%エタノールに溶かした後、これらをそれぞれ50:10:38.5:1.5のモル比で混ぜた。50mMクエン酸緩衝溶液(pH3.0)に含まれた本発明の上記単一抗原及びキメラ抗原をコードするIVT mRNAと脂質混合液のそれぞれをカナダのPrecision Nanosystems社のMicrofluidic機器を用いてLNPを製作した。製作されたLNPを透析膜カセットに移した後、1x PBS緩衝溶液に18時間透析し、ドイツのMerk Millipore社の遠心分離型フィルタ(Centrifugal filter)を用いて適正濃度を合わせた。濃度を合わせた後、0.22μmフィルタで濾過し、細胞内投入又はマウス注入に使用するまで4℃で冷蔵保管した。
【0105】
<実施例6>
〔キメラ抗原をコードするIVT mRNAが封入されたLNPのサイズとmRNA封入効率測定〕
上記実施例5で製作した各LNPを英国のMalvern社のZetasizerナノ粒子分析器を用いて粒子のサイズ及び多分散指数(Polydispersity Index、PDI)を測定した。
【0106】
その結果、
図8に示したように、IVT mRNAを封入したLNPは、IVT mRNAを含まないNaked LNPに比べて若干大きい90~150nmの粒子サイズを示した。また、各LNP製作過程で封入されたIVT mRNAのLNP内部へのmRNA封入効率を米国Thermo Fisher Scientific社のQuanti-iT Ribogreenキットを用いたRibogreen assayにより測定した結果、
図9で示したように、本発明の単一抗原及びキメラ抗原を封入したLNP製作過程で各IVT mRNAの封入効率は全て約86~94%範囲の高い効率を示した。
【0107】
<実施例7>
〔キメラ抗原をコードするIVT mRNAが封入されたLNPの細胞水準での抗原発現効率確認〕
上記実施例5で製作したLNPが実際に細胞内でタンパク質を生産することができるか否かを知るために、本発明で製造した単一抗原HBcAg及びHBeAg IVT mRNAを封入したLNPをヒト細胞株であるHeLa(ATCC、CCL-2)にそれぞれトランスフェクションさせた。HeLaは子宮頸がん(Cervical cancer)由来のがん細胞であり、これを培養するためにT75フラスコで10%FBS(Fetus Bovine Serum:GIBCO、#11095-080)、1%ABAM(GIBCO BRL、#15240-013)を添加したMEM培地(GIBCO、#11095-080)で3日間培養した後、1x PBS緩衝溶液で洗浄した後、トリプシン処理を行って容器の底から剥がし、分離された細胞を24ウェル培養容器に5X10^5cells/ウェルの濃度で播種(seeding)した後、24時間、5%CO2濃度の細胞培養器で培養した。翌日、上記本発明のLNPとアポリポタンパク質(Apolipoprotein E4、ApoE4)を混合し、37℃で10分間培養した後、細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションされた細胞の培養溶液を得た後、細胞で分泌された抗原の量を酵素結合免疫吸着分析法(Enzyme Linked Immunosorbent Assay、ELISA)により確認した。
【0108】
その結果、
図10に示したように、それぞれPD-1/HBc及びPD-1/HBeIVT mRNAを封入したLNPは、HeLa細胞に投入された後、効率的に各抗原が生産されることを確認することができた。
【0109】
<実施例8>
〔キメラ抗原をコードするIVT mRNAが封入されたLNPのマウスでの抗原発現確認〕
また、本発明者等は、実施例7で細胞水準で確認した抗原発現結果を実験動物を通しても確認することにした。このために、上記実施例5で製作したLNPを6週齢のC56BL/6雌マウスの左側前脛骨筋(left tibialis anterior)に注入して抗原の発現効率を確認することにより、LNPの動物体内へのIVT mRNA伝達体としての効率性を分析した。このために、2μgの本発明のIVT mRNAを封入したLNPを1x PBS緩衝溶液と共に計80μlずつマウスに接種した。接種後、1日、3日、6日目に心臓から全血を収集し、各抗原タンパク質の生成有無を酵素結合免疫吸着分析法で確認した。
【0110】
その結果、
図11に示したように、PD-1/HBeキメラ抗原は、1日目から生成され6日目まで生成されることが分かり、PD-1/HBeキメラ抗原の生成は、LNPを用いてマウスに注入したとき、マウス体内で充分に単一抗体及びキメラ抗体が実際に生産されることが分かった。
【0111】
<実施例9>
〔HBcAg及びHBeAgタンパク質を事前接種したマウスにおける一次的なこれら抗原に対する抗体形成確認〕
1日目に6週齢のC57BL/6雌マウスに対して、HBcAg(米国、MyBioSource社、#MBS355629)、HBeAgタンパク質(米国、MyBioSource社、#MBS355623)をアジュバント(米国、Sigma社、#F5881)と混合した後、マウス当たり2μgずつ左側前脛骨筋(left tibialis anterior)に30μlずつ3回に分けて注射した。一回目接種後、11日目に同じ量の抗原タンパク質を同一の方法で各マウスに注射した。一回目接種後、7日、21日、35日、44日に兔疫されたマウスで血清を尾動脈から収集して抗体の生成有無を酵素結合免疫吸着分析法で検索した。
【0112】
その結果、
図12に示したように、抗原が接種された各マウスは各HBcAg、HBeAgに対するそれぞれの抗体が形成されたことが分かった。
【0113】
<実施例10>
〔マウスXenograftモデルを用いたがん細胞で本発明のキメラ抗原(PD-1/HBc又はPD-1/HBe)の抗がん活性確認〕
抗原を事前接種した21日目に実施例9でHBcAg及びHBeAg抗原タンパク質接種により各抗原に対する抗体が形成されたC57BL/6マウスの側面皮下に約1X106個のメラノーマがん細胞B16F10を注入した。がん細胞投与10日後、本発明のキメラ抗原であるPD-1/HBc及びPD-1/HBeをコードするIVT mRNA-LNPをマウスの左側前脛骨筋にそれぞれ注入(本接種)した。がん細胞投入後、3日毎にマウスの体重変化とがん組織の生成を観察し、がん組織のサイズを測定した。このとき、上記実験に使ったマウスの数は各試験群別に6~7匹である。
【0114】
その結果、
図13に示したように、HBcAg抗原を事前接種したマウスにおけるがん組織の成長は、本発明のキメラ抗原PD-1/HBc IVT mRNA-LNPを本接種した場合、対照群に比べて顕著に抑制されることが分かり、同様にHBeAg抗原を事前接種したマウスにおけるがん組織の成長は、本発明のキメラ抗原PD-1/HBe IVT mRNA-LNPを本接種した場合、効果的に抑制されることが分かった。
【0115】
また、
図14に示したように、本発明のキメラ抗原PD-1/HBc及びPD-1/HBe IVT mRNA-LNPを本接種した実験群は、対照群に比べて、マウスの死亡率が44日間の試験期間中顕著に減少して生存率が2倍ほど増加することが分かった。このようなマウス死亡率の減少は、本発明のキメラ抗原の注入によるものであることが分かる。本発明のキメラ抗原接種前後でマウスの生存率を比較した結果、本発明のキメラ抗原を接種した実験群でのみ生存率が大きく増加したことを確認することができた(
図15)。
【0116】
また、
図16は、HBcAg抗原に対して一次的に抗体が形成されたC57BL/6マウスにメラノーマがん細胞であるB16F10を移植してがん組織が生成されるように誘導した後、PD-1/HBcをコードするIVT mRNAが封入されたLNPをマウスに注入する前と後のHBcAg抗原に対する抗体の相対的な量とがん組織のサイズとの連関性を示す結果であり、がん組織のサイズが大きく減少した個体で相対的にHBcAg抗原に対する抗体の量が若干減少したことが分かった。これは、マウス体内でHBcAg抗原に対する抗体の抗体依存性細胞傷害(ADCC)の活性によりがん組織の成長が阻害される過程において抗体がナチュラルキラー細胞付着プロセスで消耗したからとみられるが、これは、本発明者が当初にキメラ抗原が抗体依存性体液性免疫によりがん組織の成長を阻害することができるという予測を証明した結果と言える。
【0117】
結論的に、本発明者等は、体内に特異的な抗原抗体反応システムが既に形成されている特定外部抗原に疾患と連関した標的タンパク質に結合することができるペプチドドメインが結合されたキメラ抗原を投与する場合、キメラ抗原は標的タンパク質が細胞膜に標識されたがん又は感染細胞に特異的に結合することができ、同時にキメラ抗原の他のドメインにより既に体内に形成されている抗原抗体反応システムを誘導して標的疾患細胞を効果的に取り除くことによりがん又は感染疾患を治療することができると共に、患者の生存を大きく増加させることができる新たながん又はウイルス感染疾患の治療方法を提供できることが分かった。
【0118】
これまで本発明についてその望ましい実施例を中心に考察した。本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲において変形された形態で具現され得ることを理解できるはずである。よって、開示されている実施例は、限定的な観点ではなく説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は、上述の説明ではなく特許請求の範囲に示されており、それと同等の範囲内にあるすべての差異点は本発明に含まれることと解釈されるべきである。
【配列表】