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特許7304432スクロール圧縮機、及び、当該スクロール圧縮機を用いる冷凍サイクル装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機、及び、当該スクロール圧縮機を用いる冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20230629BHJP
   F04B 39/12 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
F04C18/02 311B
F04B39/12 J
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021566618
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050720
(87)【国際公開番号】W WO2021130875
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯島 遼太
(72)【発明者】
【氏名】松永 和行
(72)【発明者】
【氏名】實川 仁美
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-056463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04B 39/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦巻き状のラップを有する固定スクロールと、
前記固定スクロールのラップと噛み合う渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと、
前記固定スクロールを支持するフレームと、
前記固定スクロールと前記旋回スクロールと前記フレームとを収容する密閉容器と、を備え、
前記密閉容器は、円筒状のケースと、前記ケースの上に配置された蓋チャンバと、を有し、
前記固定スクロールと前記フレームとは、それぞれ、前記蓋チャンバと前記ケースとに挟持されて前記密閉容器に対して固定されるフランジ部を有しており、
前記固定スクロールのフランジ部には、側面溝又は最外周部分の互いと接する鏡板面側の段差部が形成されており、
前記側面溝又は前記段差部は、前記固定スクロールのフランジ部の側面の全周に設けられている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
渦巻き状のラップを有する固定スクロールと、
前記固定スクロールのラップと噛み合う渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと、
前記固定スクロールを支持するフレームと、
前記固定スクロールと前記旋回スクロールと前記フレームとを収容する密閉容器と、を備え、
前記密閉容器は、円筒状のケースと、前記ケースの上に配置された蓋チャンバと、を有し、
前記固定スクロールと前記フレームとは、それぞれ、前記蓋チャンバと前記ケースとに挟持されて前記密閉容器に対して固定されるフランジ部を有しており、
記フレームのフランジ部には、側面溝又は最外周部分の互いと接する鏡板面側の段差部が形成されており、
前記側面溝又は前記段差部は、前記フレームのフランジ部の側面の全周に設けられている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のスクロール圧縮機において、
前記側面溝の底面は、前記蓋チャンバの内径及び前記ケースの内径のいずれか小さい方よりも内側に位置するように形成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のスクロール圧縮機において、
前記段差部の内径側面は、前記蓋チャンバの内径及び前記ケースの内径のいずれか小さい方よりも内側に位置するように形成されている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
渦巻き状のラップを有する固定スクロールと、
前記固定スクロールのラップと噛み合う渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと、
前記固定スクロールを支持するフレームと、
前記固定スクロールと前記旋回スクロールと前記フレームとを収容する密閉容器と、を備え、
前記密閉容器は、円筒状のケースと、前記ケースの上に配置された蓋チャンバと、を有し、
前記固定スクロールと前記フレームとは、それぞれ、前記蓋チャンバと前記ケースとに挟持されて前記密閉容器に対して固定されるフランジ部を有しており、
前記固定スクロールのフランジ部又は前記フレームのフランジ部には、側面溝又は最外周部分の互いと接する鏡板面側の段差部が形成されており、
前記蓋チャンバの下端部が前記ケースの内部に入り込む形状になっている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項1に記載のスクロール圧縮機において、
前記蓋チャンバの下端部が前記ケースの上端部の上に載る形状になっている
ことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機と、凝縮器と、蒸発器と、を備える
ことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機、及び、当該スクロール圧縮機を用いる冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール圧縮機は、固定スクロールに設けられた渦巻き状のラップと旋回スクロールに設けられた渦巻き状のラップとが噛み合うことで圧縮室を形成し、作動流体(冷媒)を圧縮する。固定スクロールは、密閉容器に対して固定されている。固定スクロールを固定する方法としては、ボルトを用いて固定スクロールとフレームとを締結する方法が広く用いられている。しかしながら、ボルトを用いて締結する方法は、ボルト孔の形成やボルト組付作業を要するため、機械加工や組立作業に手間を要していた。
【0003】
一方、ボルト締結を行わないことで部品点数の削減や、組立工程の簡素化を図る方法もある。その一例として、特許文献1には、「上部ケ-スと下部ケ-スとに分割された密閉ケ-スと、この密閉ケ-スの上記上部ケ-スと下部ケ-スとの間に形成された挟持部と、上記密閉ケ-スの内部に収容され周辺部の上下面が上記挟持部に挟持された圧縮機部とを具備したことを特徴とするスクロ-ル式圧縮機」が示されている。
【0004】
特許文献1に記載された従来のスクロール圧縮機は、ケース(密閉ケース)と蓋チャンバ(上部ケース)とで、固定スクロールのフランジ部とフレームのフランジ部とを挟み込む構造になっている。この構造の従来のスクロール圧縮機は、運転時において固定スクロールがフレームから離れないように、固定スクロールのフランジ部とフレームのフランジ部とを挟み込む力(以下、「固定スクロールの締結力」と称する)が残るようにすることを要する。特許文献1では、ケースの溶接時に熱膨張したケースが冷却されて収縮(凝固)することで、固定スクロールの締結力(挟持力)が発生するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-26468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ケースと蓋チャンバとの溶接時に、ケースや固定スクロール、フレームを任意の温度分布に制御することは、困難である。そのため、従来のスクロール圧縮機は、ケースや固定スクロール、フレームの温度差を利用して固定スクロールを締結する際に、固定スクロールの締結力を所望の値に制御することが困難であった。特に、従来のスクロール圧縮機は、固定スクロールの締結力が過大となることで、部品同士の接触応力が降伏点を超えてしまい、その結果、部品が塑性変形して、組付精度の低下や固定スクロールの締結力(保持力)の低下を招く可能性があった。組付精度や固定スクロールの締結力(保持力)が低下すると、固定スクロールの周囲のシール性が低下する可能性があるため、好ましくない。
【0007】
また、固定スクロールを固定する方法としては、溶接熱によるケースや固定スクロール、フレームの温度差を利用しない方法がある。その一例として、溶接直前に、プレス荷重を蓋チャンバに与えて、蓋チャンバをケース側に押し付けた状態として、ケースと蓋チャンバとの位置を保持しつつ、ケースと蓋チャンバとを溶接する方法が考えられる。この方法では、組立時に与えるプレス荷重を自在に制御することができ、そのプレス荷重で所望の固定スクロールの締結力を設定することができる。
【0008】
しかしながら、この方法では、組立時に与えるプレス荷重は、プレス荷重の解放時と密閉容器の内部の圧力が増加する圧縮機運転時とにおいて、その一部が失われる。したがって、組立時に与えるプレス荷重は、その一部のみが最終的に固定スクロールの締結力として残る。プレス荷重の解放時と圧縮機運転時とにおいて、プレス荷重の低下幅が大きいと、その分だけ組立時におけるプレス荷重を予め過大に与えることを要する。そのため、この方法においても、従来のスクロール圧縮機は、固定スクロールの締結力が過大となることで、部品の接触応力が降伏点を超えてしまい、その結果、部品が塑性変形して、組付精度の低下や固定スクロールの締結力(保持力)の低下を招く可能性があった。組付精度や固定スクロールの締結力(保持力)が低下すると、固定スクロールの周囲のシール性が低下する可能性があるため、好ましくない。
【0009】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、ケースと蓋チャンバとの溶接時における固定スクロールの締結力の低下を抑制したスクロール圧縮機、及び、及び、当該スクロール圧縮機を用いる冷凍サイクル装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、スクロール圧縮機であって、渦巻き状のラップを有する固定スクロールと、前記固定スクロールのラップと噛み合う渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと、前記固定スクロールを支持するフレームと、前記固定スクロールと前記旋回スクロールと前記フレームとを収容する密閉容器と、を備え、前記密閉容器は、円筒状のケースと、前記ケースの上に配置された蓋チャンバと、を有し、前記固定スクロールと前記フレームとは、それぞれ、前記蓋チャンバと前記ケースとに挟持されて前記密閉容器に対して固定されるフランジ部を有しており、前記固定スクロールのフランジ部には、側面溝又は最外周部分の互いと接する鏡板面側の段差部が形成されており、前記側面溝又は前記段差部は、前記固定スクロールのフランジ部の側面の全周に設けられている構成とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ボルトを用いることなく、ケースと蓋チャンバとの溶接時における固定スクロールの締結力の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
図2】実施形態1に係るスクロール圧縮機の図1に示すA部の拡大図である。
図3】固定スクロールの斜視図である。
図4】固定スクロールの上面図である。
図5】蓋チャンバとケースとが溶接される前の、挟み込み部付近の弾性変形(バネ)モデルの説明図である。
図6】組立時における挟み込み部付近の変形及び荷重変化の説明図(1)である。
図7】組立時における挟み込み部付近の変形及び荷重変化の説明図(2)である。
図8】密閉容器の内圧による挟み込み部付近の変形及び荷重変化の説明図である。
図9】プレス力を与えてから溶接し、プレス力を解放するまでの荷重と変位の変化(ただし、内圧を与える前の状態)を示すグラフ図である。
図10】組立プレス荷重に対する最小締結力の変化を示すグラフ図である。
図11】実施形態1に係るスクロール圧縮機の変形例の説明図である。
図12】実施形態2に係るスクロール圧縮機の図1に示すA部の拡大図である。
図13】実施形態2に係るスクロール圧縮機の変形例の説明図である。
図14】実施形態3に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
図15】深く切り欠けた構成を示す斜視図である。
図16】冷凍サイクル装置の一例としての空気調和機の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と称する)について詳細に説明する。なお、各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示しているに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0014】
[実施形態1]
<スクロール圧縮機の全体構成>
以下、図1を参照して、本実施形態1に係るスクロール圧縮機1の全体構成について説明する。図1は、本実施形態1に係るスクロール圧縮機1の縦断面図である。
【0015】
図1に示すように、スクロール圧縮機1は、密閉容器2と、圧縮機構部3と、圧縮機構部3の旋回スクロール6を駆動する電動機4と、を備えている。
【0016】
密閉容器2は、円筒状のケース2aに蓋チャンバ2bと底チャンバ2cとが溶接部31で上下に溶接されて構成されている。蓋チャンバ2bには、吸込パイプ2dが設けられている。ケース2aの側面には、吐出パイプ(図示せず)が設けられている。
【0017】
密閉容器2の内部の上部には、圧縮機構部3が配置されている。密閉容器2の内部の下部には、電動機4が配置されている。密閉容器2の底部には、潤滑油13が貯留されている。
【0018】
圧縮機構部3は、固定配置された固定スクロール5と、固定スクロール5に対して旋回運動を行う旋回スクロール6と、密閉容器2に固定されたフレーム9と、を有している。
【0019】
固定スクロール5は、渦巻き状(螺旋状)のラップ5c(固定側ラップ)を有している。固定スクロール5の台板5dは、中空部分を有している。ラップ5c(固定側ラップ)は、固定スクロール5の中空部分の内部において、台板5dの上内壁面から下方向に立設するように形成されている。固定スクロール5は、フレーム9と当接する部分が外周方向に突出するフランジ部(以下、「固定スクロールフランジ部5b」と称する)として形成されている。
【0020】
旋回スクロール6は、ラップ5c(固定側ラップ)に噛み合うように形成された渦巻き状(螺旋状)のラップ6a(旋回側ラップ)を有している。ラップ6a(固定側ラップ)は、旋回スクロール6の台板6bの上面に上方向に立設するように形成されている。
固定スクロール5は、固定スクロールフランジ部5bの側面に側面溝5iが設けられている。
【0021】
フレーム9は、固定スクロール5を支持している。フレーム9は、固定スクロール5と当接する部分が外周方向に突出するフランジ部(以下、「フレームフランジ部9b」と称する)として形成されている。フレーム9の上には、固定スクロール5が配置される。フレーム9は、上に固定スクロール5を配置した状態でケース2aの内部に収納される。その際に、フレーム9は、フレームフランジ部9bがケース2aに設けられた段差部2g(図2参照)に接触することで、所定位置に配置される。固定スクロール5とフレーム9とがケース2aの内部に収納された状態で、蓋チャンバ2bが固定スクロール5とフレーム9との上に配置される。その際に、固定スクロールフランジ部5bとフレームフランジ部9bとが蓋チャンバ2bとケース2aの段差部2g(図2参照)とによって軸方向(上下方向)に挟み込まれる。以下、蓋チャンバ2bとケース2aとによって挟み込まれる部位を「挟み込み部10」と称する。挟み込み部10の上方と下方とでケース2aの厚さを異ならせることで、ケース2aの内周面には、内側に突出した段差部2gが形成される。段差部2gに対応した挟み込み部10の外周面は、段差がなく、平坦な形状になっている。フレームフランジ部9bは、上部が外側に突出しており、段差が形成されている。フレームフランジ部9bの段差の下面と段差部2gの上面とが接触している。固定スクロール5とフレーム9とは、その状態で蓋チャンバ2bとケース2aとが溶接部31で溶接されることで、密閉容器2に対して固定される。
【0022】
フレーム9は、クランク軸7を回転自在に支持する主軸受9aを備えている。クランク軸7の偏心部7bは、旋回スクロール6の下面側に連結されている。旋回スクロール6の下面側とフレーム9との間には、オルダムリング12が配置されている。オルダムリング12は、旋回スクロール6の下面側に形成された溝とフレーム9に形成された溝とに装着されている。オルダムリング12は、旋回スクロール6を自転させることなく、クランク軸7の偏心部7bの偏心回転を受けて、旋回スクロール6を公転運動させる。
【0023】
電動機4は、固定子4aと、回転子4bと、を備えている。固定子4aは、密閉容器2に圧入又は溶接等によって締結されている。回転子4bは、固定子4aの内部に回転可能に配置されている。回転子4bには、クランク軸7が固定されている。
【0024】
クランク軸7は、主軸7aと、偏心部7bと、を備えている。クランク軸7は、フレーム9に設けられた主軸受9aと下軸受17とによって支持されている。偏心部7bは、クランク軸7の主軸7aに対して偏心して一体に形成されており、旋回スクロール6の背面に設けられた旋回軸受6cに嵌合されている。クランク軸7は、電動機4によって回転駆動される。その際に、偏心部7bは、主軸7aに対して偏心回転運動して、旋回スクロール6を旋回運動させる。また、クランク軸7は、内部に、主軸受9aと下軸受17と旋回軸受6cとに潤滑油13を導く給油通路7cを有している。
【0025】
電動機4がクランク軸7を回転駆動すると、旋回スクロール6が旋回運動する。このとき、吸込パイプ2dと同軸に設けられた吸込ポート5aを経て、吸込パイプ2dから固定スクロール5に冷媒ガスが導かれる。冷媒ガスは、さらに、旋回スクロール6と固定スクロール5とによって形成される圧縮室11に導かれる。圧縮室11の容積は、旋回スクロール6がスクロールの中心方向に移動することで縮小する。これにより、冷媒ガスが圧縮される。圧縮された冷媒ガスは、固定スクロール5の略中央に設けられた吐出口5eからその上方に設けられた空間に吐出される。
【0026】
一方、潤滑油13は、圧力差やポンプ等によって給油通路7cを経て上方へ汲み上げられ、主軸受9aや旋回軸受6cを潤滑する。その後に、潤滑油13は、背圧室16へ流入し、さらに、圧縮室11へ流入する。これにより、潤滑油13は、圧縮室11の内部においてラップ5c(固定側ラップ)とラップ6a(旋回側ラップ)との間をシールしつつ、潤滑する。潤滑油13は、圧縮室11の内部において冷媒ガスと混合され、吐出口5eからその上方に設けられた空間に吐出される。
【0027】
<挟み込み部の構成>
本実施形態1に係るスクロール圧縮機1は、ケース2aと蓋チャンバ2bとの溶接時における固定スクロール5の締結力の低下を抑制するために、挟み込み部10に凹部10c(図2乃至図4参照)が形成されている。以下、図2乃至図4を参照して、挟み込み部10の構成について説明する。図2は、スクロール圧縮機1の図1に示すA部の拡大図である。図3は、固定スクロール5の斜視図である。図4は、固定スクロール5の上面図である。
【0028】
図2乃至図4に示すように、蓋チャンバ2bとケース2aとによって挟み込まれた挟み込み部10には、凹部10cが設けられている。凹部10cは、固定スクロールフランジ部5bとフレームフランジ部9bとの少なくとも一方に設けられる。
【0029】
図2に示すように、凹部10cは、挟み込み部10の上面部10a(すなわち、固定スクロールフランジ部5bの上面部)と挟み込み部10の下面部10b(すなわち、フレームフランジ部9bの下面部)とを残す形状に形成される。図2乃至図4に示すように、本実施形態では、凹部10cが側面溝5iとして設けられているものとして説明する。側面溝5iは、固定スクロールフランジ部5bの側面に設けられた溝である。
【0030】
図2に示すように、側面溝5iの深さ(破線A11から破線A14までの距離)は、固定スクロールフランジ部5bと接する蓋チャンバ2bの端面における内線(破線A12)よりも深く(ケース2aの中心軸に近く)なっている。また、側面溝5iの深さ(破線A11から破線A14までの距離)は、フレームフランジ部9bと接するケース2aに設けられた段差部2gの内線(破線A13)よりも深く(ケース2aの中心軸に近く)なっている。すなわち、側面溝5iの底面は、蓋チャンバ2bの内径及びケース2aの内径のいずれか小さい方よりも内側に位置するように形成されている。なお、側面溝5iの深さは、固定スクロール5の筒部分5g(図2及び図3参照)の側面より浅いことが望ましい。
【0031】
また、図3及び図4に示すように、側面溝5iは、固定スクロールフランジ部5bの側面の全周に設けられている。なお、図3及び図4に示す例では、固定スクロールフランジ部5bには、固定スクロールフランジ部5bを部分的に切り欠いた切欠部5kが設けられている。切欠部5kは、側面溝5iと比較すると、固定スクロールフランジ部5bの上面部から下面部までを貫通するように設けられている点で異なっている。すなわち、切欠部5kは、挟み込み部10の上面部10aが残らない形状に形成されている点で異なっている。側面溝5iの外面は、固定スクロール5の中心からの距離が全周にわたって均一であることが望ましい。したがって、切欠部5kがある箇所では、切欠部5kがない箇所よりも、側面溝5iは浅くなっている。
【0032】
<挟み込み部付近の弾性変形モデル>
以下、図5を参照して、挟み込み部10付近の弾性変形モデルについて説明する。図5は、蓋チャンバ2bとケース2aとが溶接される前の、挟み込み部10付近の弾性変形(バネ)モデルの説明図である。図5は、挟み込み部10とその周囲の構成要素とを並列する2つのバネで置き換えて、挟み込み部10付近の弾性変形モデルを示している。
【0033】
図5に示す2つのバネモデルMD1,MD2のうち、左側のバネモデルMD1は、ケース2aの弾性変形を示している。一方、右側のバネモデルMD2は、蓋チャンバ2bと固定スクロールフランジ部5bとフレームフランジ部9bとを1つのバネとして合成したときの弾性変形を示している。
【0034】
スクロール圧縮機1は、固定スクロールフランジ部5bに側面溝5iを設けることにより、右側のバネの剛性を低下させている点に大きな特徴を有する。なお、図5に示す例では、2つのバネモデルMD1,MD2が上下方向に1次元的にのみ変形するものとする。
【0035】
また、図5に示す例では、2つのバネモデルMD1,MD2の下端は、ケース2aに設けられた段差部2gに位置している。なお、段差部2gの上には、常にフレームフランジ部9bが押し付けられて接しているものとする。
【0036】
また、図5に示す例モデルでは、蓋チャンバ2bとケース2aとが溶接される前の状態であるため、2つのバネモデルMD1,MD2の上端は、結合していない。しかしながら、2つのバネモデルMD1,MD2は、溶接点30で溶接されると、溶接部31(図7参照)で連結される。その結果、溶接点30で溶接されると、2つのバネモデルMD1,MD2の上端は、結合して、一体になって変位する。
【0037】
<固定スクロールの締結力>
以下、図6乃至図8を参照して、スクロール圧縮機1の組立時から運転時までの挟み込み部10付近における固定スクロール5の締結力の変化について説明する。図6及び図7は、それぞれ、スクロール圧縮機1の組立時における挟み込み部10変形及び荷重変化の説明図である。図8は、スクロール圧縮機1の密閉容器2の内圧による挟み込み部10の変形及び荷重変化の説明図である。
【0038】
図6は、蓋チャンバ2bとケース2aとを溶接する前において、蓋チャンバ2bにプレス荷重Pを与えているときの挟み込み部10付近の変形及び荷重変化を示している。このとき、ケース2aと蓋チャンバ2bとが未接合であるため、2つのバネモデルMD1,MD2は、独立している。そして、左側のバネモデルMD1は、自然長の状態になっている。一方、右側のバネモデルMD2は、プレス荷重P(>0)で圧縮された状態になっている。したがって、右側のバネモデルMD2には、プレス荷重Pに対する反力(弾性力)としての圧縮荷重Fpが、膨張しようとする上向きの力として発生し、プレス荷重Pと圧縮荷重Fp(弾性力)とが釣り合った状態で静止する。このとき、右側のバネモデルMD2の圧縮荷重は、固定スクロールフランジ部5bとフレームフランジ部9bとを挟み込んでいる力に相当する。したがって、このときの右側のバネモデルMD2の圧縮荷重は、固定スクロール5の締結力そのものである。
【0039】
図6に示す状態の後に、蓋チャンバ2bにプレス荷重Pを与えたまま、ケース2aと蓋チャンバ2bとが溶接され、さらに、プレス荷重Pが解放される。図7は、このときの挟み込み部10付近の変形及び荷重変化を示している。図7では、溶接点30に溶接が施されて溶接部31が形成されている。
【0040】
図6に示す状態から図7に示す状態に移行することで、2つのバネモデルMD1,MD2(図6参照)の上端が連結されて、1つのバネモデルMD3(図7参照)が形成される。その後、プレス荷重Pが解放されることにより、バネモデルMD3は、プレス荷重Pが付与されていない状態になる。これにより、特に図6において右側のバネモデルMD2(図6参照)を圧縮方向に押さえ付けていたプレス荷重Pが無くなったため、右側のバネモデルMD2(図6参照)が伸長する。一方、2つのバネモデルMD1,MD2(図6参照)は、1つのバネモデルMD3(図7参照)として連結されているため、左側のバネモデルMD1(図6参照)も同じだけ伸長する。これにより、元々自然長であった左側のバネモデルMD1(図6参照)には、元の長さに縮もうとする引張荷重Fcが発生する。2つのバネモデルMD1,MD2(図6参照)の力の大きさは、引張荷重Fcと、圧縮荷重Fp(=プレス荷重P)から変位Δx1だけ伸長したことで減少した右側のバネモデルMD2(図6参照)の圧縮荷重Ffと、が釣り合う位置で一致する。これにより、バネモデルMD3(図7参照)の変形が終了する。
【0041】
このような図6図7に示す状態からは、以下の式(1)乃至式(3)を得ることができる。
【数1】
【数2】
【数3】
【0042】
ここで、kc、kfは、それぞれ、左側のバネモデルMD1(図6参照)の剛性係数と、右側のバネモデルMD2(図6参照)の剛性係数に相当する。
【0043】
ここで、前記した式(1)より、以下の式(4)が得られる。
【数4】
【0044】
前記した式(2)に式(4)を代入し、さらに、式(3)を代入することにより、以下の式(5)が得られる。
【数5】
【0045】
前記した式(5)より、以下の式(6)が得られる。
【数6】
【0046】
前記した式(6)より、以下の式(7)が得られる。
【数7】
【0047】
前記した式(7)からは、組立時の作用として、以下のことが読み取れる。
すなわち、スクロール圧縮機1は、側面溝5iを設けて右側のバネモデルMD2(図6参照)の剛性kfを小さくすることで、圧縮荷重Fpと同じ値であるプレス荷重Pを与えたときにも、右側のバネモデルMD2(図6参照)の圧縮荷重Ff(すなわち、固定スクロール5の締結力)をより大きくすることができる。このようなスクロール圧縮機1は、組立時のプレス荷重Pから固定スクロール5の締結力に用いられずに失われる荷重の低下量を小さくすることができる。そのため、スクロール圧縮機1は、組立時に過大なプレス荷重Pを与えることなく、十分な固定スクロール5の締結力を維持することができる。
【0048】
図8は、スクロール圧縮機1の運転時に密閉容器2の内圧が上昇した場合の挟み込み部10付近の変形及び荷重変化を示している。密閉容器2の内部の冷媒圧力によって蓋チャンバ2bに発生する引張荷重をFgとすると、バネモデルMD3に対する上向きの力としてガス荷重Fgが作用する。このとき、左側のバネモデルMD1(図6参照)と右側のバネモデルMD2(図6参照)は等しい変位Δx2で伸長する。また、このとき、左側のバネモデルMD1(図6参照)と右側のバネモデルMD2(図6参照)とには、ガス荷重Fgが作用する前からの差分として、引張荷重ΔFcと引張荷重ΔFfとが発生する。
【0049】
これらの釣り合いは、以下の式(8)~式(10)で表される。
【数8】
【数9】
【数10】
【0050】
前記した式(10)より、以下の式(11)が得られる。
【数11】
【0051】
前記した式(9)に式(11)を代入することにより、以下の式(12)が得られる。
【数12】
【0052】
前記した式(8)に式(12)を代入することにより、以下の式(13)が得られる。
【数13】
【0053】
前記した式(13)より、以下の式(14)が得られる。
【数14】
【0054】
前記した式(14)からは、運転時の作用として、以下のことが読み取れる。
すなわち、スクロール圧縮機1は、固定スクロールフランジ部5bに側面溝5iを設けて剛性kfを低下させることで、ガス荷重Fgに対する引張荷重ΔFfを小さくすることができる。なお、引張荷重ΔFfは、固定スクロール5の締結力の低下量を表している。図6図7に示す状態と同様に、このようなスクロール圧縮機1は、組立時のプレス荷重Pから固定スクロール5の締結力に用いられずに失われる荷重の低下量を小さくすることができる。そのため、スクロール圧縮機1は、組立時に過大なプレス荷重Pを与えることなく、十分な固定スクロール5の締結力を維持することができる。
【0055】
前記した組立時の作用と運転時の作用とにより、スクロール圧縮機1は、組立時のプレス荷重Pを小さくしつつ、運転時における固定スクロール5の締結力を十分高く維持することができる。このようなスクロール圧縮機1は、固定スクロール5の締結にボルトを用いないことで部品点数や組立工程を削減することができる。そのため、スクロール圧縮機1は、製造コストを低減することができる。また、スクロール圧縮機1は、固定スクロール5とフレーム9とが十分な力で締結されることで、固定スクロール5とフレーム9との間のシール性を十分に確保することができる。そのため、スクロール圧縮機1は、高効率化を実現することができる。
【0056】
なお、組立時のプレス荷重Pの低減の観点からは、側面溝5iによる固定スクロールフランジ部5bの剛性の低減効果は、大きいほど望ましい。固定スクロールフランジ部5bの剛性の大きな低減効果を得るためには、図2に示すように、側面溝5iの深さ(破線A11から破線A14までの距離)は、破線A12及び破線A13のいずれよりも深いことがより望ましい。すなわち、側面溝5iの深さ(破線A11から破線A14までの距離)は、固定スクロールフランジ部5bと接する蓋チャンバ2bの端面における内線(破線A12)よりも深く(ケース2aの中心軸に近く)なっているとよい。また、側面溝5iの深さ(破線A11から破線A14までの距離)は、フレームフランジ部9bと接するケース2aに設けられた段差部2gの内線(破線A13)よりも深く(ケース2aの中心軸に近く)なっているとよい。換言すると、側面溝5iの底面は、蓋チャンバ2bの内径及びケース2aの内径のいずれか小さい方よりも内側に位置するように形成されているとよい。
【0057】
<固定スクロールの締結力の低下量>
図9は、プレス力(プレス荷重P)を与えてから溶接し、プレス力を解放するまでの荷重と変位の変化(ただし、内圧を与える前の状態)を示すグラフ図である。横軸は変位を示しており、縦軸は荷重を示している。破線は、比較例のスクロール圧縮機(図示せず)の荷重変化を示しており、実線は本実施形態に係るスクロール圧縮機1の荷重変化を示している。ここでは、比較例のスクロール圧縮機(図示せず)が挟み込み部10に凹部10cとしての側面溝5iが形成されていない構成になっているものとして説明する。図9において、「CAold」は、比較例のスクロール圧縮機(図示せず)のケーシング剛性(ケース2aの剛性)を示している。また、「FRold」は、比較例のスクロール圧縮機(図示せず)のフランジ剛性(固定スクロールフランジ部5bの剛性)を示している。また、「DEold」は、比較例のスクロール圧縮機(図示せず)の固定スクロール5の締結力の低下量を示している。一方、「CAnew」は、本実施形態に係るスクロール圧縮機1のケーシング剛性(ケース2aの剛性)を示している。また、「FRnew」は、本実施形態に係るスクロール圧縮機1のフランジ剛性(固定スクロールフランジ部5bの剛性)を示している。また、「DEnew」は、本実施形態に係るスクロール圧縮機1の固定スクロール5の締結力の低下量を示している。
【0058】
図9からは、以下のことが読み取れる。
(1)本実施形態に係るスクロール圧縮機1の固定スクロール5の剛性は比較例のスクロール圧縮機(図示せず)の固定スクロール5の剛性よりも低い。そのため、本実施形態に係るスクロール圧縮機1の固定スクロール5の締結力の低下量DEnewは、比較例のスクロール圧縮機(図示せず)の固定スクロール5の締結力の低下量DEoldよりも変位に対する荷重の変化(グラフの傾き)が小さい。
(2)プレス力を解放した瞬間において、本実施形態に係るスクロール圧縮機1のケーシング剛性CAnewの変位と比較例のスクロール圧縮機(図示せず)のケーシング剛性CAoldの変位は、ともにゼロ(自然長)になる。また、プレス力を解放した瞬間において、本実施形態に係るスクロール圧縮機1のフランジ剛性FRnewの変位と比較例のスクロール圧縮機(図示せず)のフランジ剛性FRoldの変位は、ともに黒点で示す位置の長さになる。
(3)本実施形態に係るスクロール圧縮機1において、ケーシング剛性CAnewとフランジ剛性FRnewは、2本の実線の交点で弾性力が釣り合う。本実施形態に係るスクロール圧縮機1のケース2aと固定スクロール5の弾性変形は、変位がこの交点が表す長さになることで、停止する。同様に、比較例のスクロール圧縮機(図示せず)において、ケーシング剛性CAoldとフランジ剛性FRoldは、2本の破線の交点で弾性力が釣り合う。比較例のスクロール圧縮機(図示せず)のケース2aと固定スクロール5の弾性変形は、変位がこの交点が表す長さになることで、停止する。
(4)フランジ剛性FRnew,FRoldの荷重値は、固定スクロール5の締結力を示している。そして、フランジ剛性FRnewの方が、フランジ剛性FRoldよりも、固定スクロール5の締結力の低下が小さくなっている。
【0059】
したがって、図9に示すように、本実施形態に係るスクロール圧縮機1の固定スクロール5の締結力の低下量DEnewは、比較例のスクロール圧縮機(図示せず)の固定スクロール5の締結力の低下量DEoldよりも少なくなっている。
【0060】
図10は、組立プレス荷重に対する最小締結力の変化を示すグラフ図である。横軸は組立プレス荷重を示し、縦軸は最小締結力を示している。図10は、最小締結力の数値解析例を示している。ここで、「最小締結力」とは、スクロール圧縮機1の組立後に、既定内の最大圧力をかけたときに残留する固定スクロール5の締結力を意味している。「COold」は、比較例のスクロール圧縮機(図示せず)の組立プレス荷重に対する最小締結力の変化を示している。一方、「COnew」は、本実施形態に係るスクロール圧縮機1の組立プレス荷重に対する最小締結力の変化を示している。図10に示すように、本実施形態に係るスクロール圧縮機1は、比較例のスクロール圧縮機(図示せず)と比較して、少ない組立プレス荷重で大きな最小締結力を得ることができる。
【0061】
<変形例>
図1乃至図8に示すスクロール圧縮機1では、挟み込み部10の凹部10c(図2乃至図4参照)が側面溝5iとして固定スクロールフランジ部5bの側面に設けられている。しかしながら、図11に示すように、凹部10cは、フレームフランジ部9bに設けてもよい。図11は、スクロール圧縮機1の変形例の説明図である。図11は、凹部10cとしての側面溝9cがフレームフランジ部9bの側面に設けられた構成を示している。
【0062】
側面溝9cは、好ましくは、図2に示す側面溝5iと同様の深さに形成されているとよい。また、側面溝9cは、フレームフランジ部9bの側面の全周に設けられている。このような構成のスクロール圧縮機1は、固定スクロールフランジ部5bに側面溝5iを設けたときと同様に、ケース2aと蓋チャンバ2bとの溶接時における固定スクロール5の締結力の低下を抑制する等の効果を得ることができる。
【0063】
なお、図11に示す例では、スクロール圧縮機1は、固定スクロールフランジ部5bに側面溝5iを設けていないが、前記した実施形態1のように側面溝5iを設けるようにしてもよい。この場合も、スクロール圧縮機1は、固定スクロールフランジ部5bに側面溝5iを設けたときと同様に、ケース2aと蓋チャンバ2bとの溶接時における固定スクロール5の締結力の低下を抑制する等の効果を得ることができる。
【0064】
以上の通り、本実施形態1に係るスクロール圧縮機1によれば、ケース2aと蓋チャンバ2bとの溶接時における固定スクロール5の締結力の低下を抑制することができる。
【0065】
[実施形態2]
以下、図12を参照して、本実施形態2に係るスクロール圧縮機1Aの構成について説明する。図12は、本実施形態2に係るスクロール圧縮機1Aの図1に示すA部の拡大図である。
【0066】
図12に示すように、本実施形態2に係るスクロール圧縮機1Aは、実施形態1に係るスクロール圧縮機1(図2参照)と比較すると、側面溝5iの代わりに、凹部10cとしての段差部5jが固定スクロールフランジ部5bに設けられている点で相違している。段差部5jは、固定スクロールフランジ部5bの最外周部分の鏡板面5fにおいて全周に亘って設けられている。段差部5jの内径側面は、図2に示す側面溝5iの底面と同様に、蓋チャンバ2bの内径及びケース2aの内径のいずれか小さい方よりも内側に位置するように形成されているとよい。すなわち、段差部5jの最外周面から内径側面までの距離は、図2に示す側面溝5iの底面と同様に、図2に示す破線A12及び破線A13のいずれよりも深く(ケース2aの中心軸に近く)なっているとよい。
【0067】
このような本実施形態2に係るスクロール圧縮機1Aは、実施形態1に係るスクロール圧縮機1(図2参照)と同様に、固定スクロールフランジ部5bの剛性を低下させることができる。しかも、本実施形態2に係るスクロール圧縮機1Aは、固定スクロールフランジ部5bにラップ5c(固定側ラップ)を形成する際に、同時に、鏡板面5fを垂直方向に切削して段差部5jを形成することができる。そのため、本実施形態2に係るスクロール圧縮機1Aは、実施形態1に係るスクロール圧縮機1(図2参照)よりも製造性を向上させることができる。このような本実施形態2に係るスクロール圧縮機1Aは、組立時のプレス荷重Pを小さくしつつ、運転時にも固定スクロール5の締結力が十分に高く維持できる。また、本実施形態2に係るスクロール圧縮機1Aは、部品点数や組立工程の削減による低コスト化とシール性向上による高効率化とを両立することができる。
【0068】
<変形例>
図13に示すように、凹部10cとしての段差部は、フレームフランジ部9bに設けてもよい。図13は、スクロール圧縮機1Aの変形例の説明図である。図13は、凹部10cとしての段差部9eがフレームフランジ部9bの側面に設けられた構成を示している。段差部9eは、フレームフランジ部9bの最外周部分の鏡板面9dにおいて全周に亘って設けられている。図13に示す構成は、図12に示す構成と同様の作用効果を得ることができる。なお、スクロール圧縮機1Aは、段差部5jと段差部9eとの双方を有する構成にすることもできる。
【0069】
[実施形態3]
以下、図14を参照して、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bの構成について説明する。図14は、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bの縦断面図である。
【0070】
前記した実施形態1,2に係るスクロール圧縮機1,1A(図1参照)は、蓋チャンバ2bの下端部がケース2aの内部に入り込む形状になっている。つまり、前記した実施形態1,2に係るスクロール圧縮機1,1A(図1参照)は、「内被せ型」の構成になっている。これに対して、図14に示すように、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、蓋チャンバ2bの下端部がケース2aの上端部の上に載る形状になっている。つまり、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、「外被せ型」の構成になっている。この点で、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、前記した実施形態1,2に係るスクロール圧縮機1,1A(図1参照)と相違している。
【0071】
図14に示すように、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、挟み込み部10において、フレームフランジ部9bと固定スクロールフランジ部5bとがケース2aの上端面の上に載っている。そして、蓋チャンバ2bの径方向に拡大された拡大部2hが固定スクロールフランジ部5bの上に載っている。蓋チャンバ2bの拡大部2hは、ケース2aの上端部との間で挟み込み部10(固定スクロールフランジ部5b及びフレームフランジ部9b)を挟み込み、挟み込み部10を密閉容器2に固定している。このような本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、蓋チャンバ2bの内径がケース2aの外径よりも大きくなっており、蓋チャンバ2bがケース2aを覆うように被さった構成になっている。
【0072】
なお、固定スクロールフランジ部5bの側面に設けられた側面溝5iの深さは、ケース2aの内周面よりも深くなっている。また、側面溝5iの深さは、蓋チャンバ2bと固定スクロールフランジ部5bとの接触箇所よりも深くなっている。
【0073】
図14に示す例では、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、実施形態1に係るスクロール圧縮機1(図1参照)と同様に、凹部10cとしての側面溝5iが固定スクロールフランジ部5bに設けられている。しかしながら、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、実施形態1に係るスクロール圧縮機1の変形例(図11参照)と同様に、凹部10cとしての側面溝9c(図11参照)がフレームフランジ部9bに設けられていてもよい。また、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、凹部10cとしての側面溝5iと側面溝9c(図11参照)の双方を有する構成であってもよい。また、実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、実施形態2に係るスクロール圧縮機1A(図12参照)と同様に、側面溝5iの代わりに、凹部10cとしての段差部5j(図12参照)が固定スクロールフランジ部5bに設けられていてもよい。また、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、実施形態2に係るスクロール圧縮機1Aの変形例(図13参照)と同様に、側面溝5iの代わりに、凹部10cとしての段差部9e(図13参照)がフレームフランジ部9bに設けられていてもよい。また、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、凹部10cとしての段差部5j(図12参照)と段差部9e(図13参照)の双方を有する構成であってもよい。
【0074】
本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、実施形態1,2に係るスクロール圧縮機1,1A(図1参照)よりも、蓋チャンバ2bの形状が若干複雑になる。しかしながら、実施形態1,2に係るスクロール圧縮機1,1A(図1参照)は、ケース2aの内側に設けられていた段差部2gでフレーム9を支える構成になっている。これに対し、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、ケース2aの上端面全体でフレーム9を支える構成になっている。このような本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、実施形態1,2に係るスクロール圧縮機1,1A(図1参照)よりも、組立時のプレス荷重Pを大きくすることができる。そのため、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、実施形態1,2に係るスクロール圧縮機1,1A(図1参照)よりも、運転時の固定スクロール5の締結力を増大することができる。これにより、本実施形態3に係るスクロール圧縮機1Bは、さらに、固定スクロール5とフレーム9との間のシール性を向上させることができ、高効率化を実現することができる。
【0075】
なお、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更や変形を行うことができる。
【0076】
例えば、前記した実施形態は、本発明の要旨を分かり易く説明するために詳細に説明したものである。そのため、本発明は、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されるものではない。また、本発明は、ある構成要素に他の構成要素を追加したり、一部の構成要素を他の構成要素に変更したりすることができる。また、本発明は、一部の構成要素を削除することもできる。
【0077】
前記した実施形態に係るスクロール圧縮機1は、例えば図15に示す構成にように変形してもよい。図15は、切欠部5kが深く切り欠けた構成を示す斜視図である。図15に示す例では、切欠部5kが深く切り欠かれることで、側面溝5iが分断された構成になっている。すなわち、側面溝5iは、固定スクロール5の外周面の全周に形成されているものの、切欠部5kによって分断された構成になっている。
【0078】
前記した実施形態に係るスクロール圧縮機1は、圧縮機、凝縮器、蒸発器を備える冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)を備える冷凍サイクル装置(図16参照)の圧縮機として用いることができる。なお、冷凍サイクル装置としては、空気調和機、ヒートポンプ給湯機、冷凍機等がある。なお、スクロール圧縮機1は、空気やその他のガスを圧縮するガス圧縮機としても用いることができる。
【0079】
図16は、冷凍サイクル装置の一例としての空気調和機101の構成を示す説明図である。図16に示すように、空気調和機101は、スクロール圧縮機1と、四方弁102と、膨張器等の冷暖房絞り装置103と、室内熱交換器104と、室外熱交換器105とを備えており、これらが所定の配管106で環状に接続された構成になっている。
【0080】
空気調和機101は、四方弁102を切替えることで冷房運転と暖房運転とを行うことができる。空気調和機101は、冷房運転時に、室内熱交換器104を蒸発器として使用すると共に、室外熱交換器105を凝縮器として使用する。一方、空気調和機101は、暖房運転時に、室内熱交換器104を凝縮器として使用すると共に、室外熱交換器105を蒸発器として使用する。冷暖房絞り装置103は、冷媒の膨張に使用される。
【符号の説明】
【0081】
1,1A,1B スクロール圧縮機
2 密閉容器
2a ケース
2b 蓋チャンバ
2c 底チャンバ
2d 吸込パイプ
2g 段差部
2h 拡大部
2i 段差部
3 圧縮機構部
4 電動機
4a 固定子
4b 回転子
5 固定スクロール
5a 吸込ポート
5b 固定スクロールフランジ部(フランジ部)
5c ラップ(固定側ラップ)
5d 台板
5e 吐出口
5f 鏡板面
5g 筒部分
5i 側面溝
5j 段差部
5k 切欠部
6 旋回スクロール
6a ラップ
6b 台板
6c 旋回軸受
7 クランク軸
7a 主軸
7b 偏心部
7c 給油通路
9 フレーム
9a 主軸受
9b フレームフランジ部(フランジ部)
9c 側面溝
9d 鏡板面
9e 段差部
10 挟み込み部
10a 上面部
10b 下面部
10c 凹部
11 圧縮室
12 オルダムリング
13 潤滑油
16 背圧室
17 下軸受
18 下フレーム
18a 側面溝
30 溶接点
31 溶接部
Fc 引張荷重
Ff 圧縮荷重
Fg ガス荷重
Fp 圧縮荷重(弾性力)
kc,kf 剛性係数
P プレス荷重
Δx1 変位
Δx2 変位
MD1,MD2,MD3 バネモデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16