(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】少なくとも1つの部分水素化クロロジシランを、固体の非官能性吸着体と反応させて、ヘキサクロロジシランを入手する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/107 20060101AFI20230629BHJP
【FI】
C01B33/107 Z
C01B33/107 B
(21)【出願番号】P 2021575317
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 EP2020054490
(87)【国際公開番号】W WO2021164876
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】イェンス、フェリクス、クノト
(72)【発明者】
【氏名】ウーベ、ペーツォルト
(72)【発明者】
【氏名】モニカ、シュトラッサー
【審査官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106966397(CN,A)
【文献】国際公開第2016/091240(WO,A1)
【文献】特開昭61-275125(JP,A)
【文献】特表2017-507880(JP,A)
【文献】WAN Ye et al.,IOP Conf. Ser.: Mater. Sci. Eng.,2017年,Vol.274,012125,DOI:10.1088/1757-899X/274/1/012125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)一般式:H
xSi
2Cl
(6-x)(式中、x=1~5)で表される少なくとも1つの部分水素化クロロジシランを、液体状態において、
ポリスチレン、
ポリジビニルベンゼン、
スチレン-ジビニルベンゼン共重合体及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる固体の非官能性吸着材料と、接触させる工
程を含む、ヘキサクロロジシランの入手方法。
【請求項2】
b)前記ヘキサクロロジシランを分離する工程、及び/又は、前記非官能性吸着材料を分離する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記部分水素化クロロジシランがペンタクロロジシランである、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記非官能性吸着材料がスチレン-ジビニルベンゼン共重合体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記非官能性吸着材料の平均粒径が0.149~4.760m
mである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記非官能性吸着材料の表面積が200~2000m
2/
gである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記非官能性吸着材料の平均孔径が1~900×10
-10
mである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
接触前において、前記非官能性吸着材料が5重量%未
満の割合の水を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの部分水素化クロロジシランが、一般式:H
(4-x)SiCl
x(式中、x=1~4)で表される少なくとも1つのクロロシランを含有する混合物の成分である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記混合物が、クロロシランの水素還元による多結晶シリコンの製造で排出される排ガスである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記混合物が、水素化によるテトラクロロシランの製造で排出される排ガスである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記混合物中に存在する低沸点クロロシランを、前記非官能性吸着材料と接触させる前に分離する、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程a)の後、変換されていない部分水素化クロロジシランの割合が、前記クロロジシランの個々の開始量に対して、10%未
満である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
変換されていないペンタクロロジシランの割合が、ペンタクロロジシランの開始量に対して、5重量%未
満である、請求項
3に記載の方法。
【請求項15】
ポリスチレン、
ポリジビニルベンゼン、
スチレン-ジビニルベンゼン共重合体及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる固体の非官能性吸着材料の使用であって、
前記吸着材料を、液体状態の一般式:H
xSi
2Cl
(6-x)(式中、x=1~5)で表される少なくとも1つの部分水素化クロロジシランと接触させることで、ヘキサクロロジシランを入手するための、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの部分水素化クロロジシランを固体の非官能性吸着材料と接触させ、その後所望により、ヘキサクロロジシラン及び/又は前記吸着材料を分離する、ヘキサクロロジシランの入手方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサクロロジシラン(HCDS)は、マイクロエレクトロニクスの分野において、高純度の窒化ケイ素の層、酸化ケイ素の層及び炭化ケイ素の層を蒸着するための前駆体化合物として、重要な出発物質である。HCDSはその上、エピタキシャルシリコン層の析出のための低温エピタキシーに使用される。
【0003】
マイクロエレクトロニクスに使用するには、できるだけ微量の不純物、特にホウ素、リン、ヒ素及びアンチモンといったドーパントであっても、かなりの問題が生じる。HCDSがドーパントで汚染されると、所望でないドーピング効果に繋がり、移動の過程を通じて電気部品の寿命を短くし得る。
【0004】
特開昭60-145908号公報は、フェロシリコンと塩素との反応により、HCDSが得られることを開示している。しかしながら、フェロシリコン中に不純物が存在すると、AlCl3及びTiCl4といった副生成物が生成し、これらは沸点がHCDSと近いので蒸留精製が困難である。
【0005】
対照的に、高純度のHCDSを経済的に製造する1つの選択肢は、例えばシーメンス法により多結晶シリコン(ポリシリコン)を析出させる際の排ガスから、HCDSを得ることである。排ガスを凝縮すると、更に低濃度の不純物を有するクロロモノシランとクロロジシランとの混合物中に、HCDSが得られる。部分水素化ジシランをHCDSから分離することには、沸点が非常に近いため、技術的な複雑さを伴う。
【0006】
欧州特許出願公開EP 1 264 798 A1は、ポリシリコンの製造で排出される排ガスから、低沸点の成分(例えばトリクロロシラン(TCS))を最初に分離することを開示している。次いで四塩化ケイ素が蒸留により取り除かれる。得られる液分はその後、HCDSを高沸点の化合物(例えばオクタクロロトリシラン)から蒸留で分離する前に、更に蒸留精製するか、塩素を導入して部分水素化ジシラン(例えばテトラクロロジシラン)を塩素化する。
【0007】
米国特許第7,691,357 B2は、ポリシリコンの製造で排出される排ガスから得られるクロロシランの混合物を、塩素化することを記載している。しかしながら、この塩素化は、水素含有ジシランを塩素化するだけでなく、ジシラン特にHCDSの切断も行う。切断によってHCDSの収量が減少するだけでなく、塩素の添加が不純物の導入にもなり得る。更には、存在する塩素含有排ガスは、いかなるものでも複雑な浄化を要するので、塩素を使用すると一般的には装置のコストが上昇し、複雑さも増える。
【0008】
特開2006-176357号公報は、部分水素化ジシランの混合物においてテトラクロロジシランとペンタクロロジシランとをHCDSに部分的に変換する目的で、加熱下及び加圧下で活性炭を使用することを開示している。これによりHCDSの収量は増加するが、変換後であっても生成物は未だかなりの量の部分水素化ジシランを含有するので、コストの掛かる複雑な蒸留による除去を要する。
【0009】
独国特許出願公開DE 3503262は、ジシラン混合物を切断する目的で、非プロトン性の有機窒素化合物及び有機リン化合物を、20℃~160℃の温度で使用することを開示している。ペンタクロロジシランの分解は、HCDSの分解よりも速く進み得るので、プロセスパラメータを適切に選択することで、HCDSを実質的に分解させずに入手できる。有機窒素化合物及び有機リン化合物は、製造した混合物に導入されるため、汚染源となり得る。特に、リンはドーパントとして作用するので、リン化合物の存在は重大となり得る。記載の方法も、追加でHCDSを形成しない。
【0010】
国際公開第2016/091240号は、多結晶シリコンの製造で排出されるプロセス排ガスからHCDSを入手する目的で、触媒活性の有機窒素化合物及び有機リン化合物を使用することを開示している。しかしながら、部分水素化ジシランからHCDSへの変換に加え、相当量の高沸点成分が発生し得る。特に、触媒が不均一化の触媒として作用し、ジシランが不均一化し得るためである(カナダ特許出願公開CA1162028A参照)。この方法でも、有機窒素化合物及び有機リン化合物を使用するので、目的生成物を汚染することになる。HCDSの収量も寧ろ低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開昭60-145908号公報
【文献】欧州特許出願公開EP 1 264 798 A1
【文献】米国特許第7,691,357 B2
【文献】特開2006-176357号公報
【文献】独国特許出願公開DE 3503262
【文献】国際公開第2016/091240号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明は、従来技術で知られている不都合を避けるエレクトロニクス産業への使用に適したHCDSを、効率的に製造する方法の提供を、目的とするものである。
【0013】
この目的は、以下の工程を含むHCDSの入手方法により、達成される:
a)一般式:HxSi2Cl(6-x)(式中、x=1~5)で表される少なくとも1つの部分水素化クロロジシランを、液体状態において、ケイ酸、アルミノケイ酸(例えばゼオライト、分子篩)、有機ポリマー及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる固体の非官能性吸着材料と、接触させる工程。
b)所望によりヘキサクロロジシランを(例えば蒸留により)分離する工程、及び/又は所望により前記吸着材料を(例えば濾過により)分離する工程。
【0014】
少なくとも1つの部分水素化クロロジシランを含有する混合物が、工程a)に関わることが好ましい。
【0015】
驚くべきことに、非官能性吸着材料と接触させることで、部分水素化ジシランを選択的にHCDSに変換できるとの知見を得た。有機窒素化合物及び/又は有機リン化合物、或いは金属含有化合物及び/又は半金属含有化合物といった、追加の化合物が存在することを要しない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
「非官能性」という用語は、特に接触前において、吸着材料が追加の化学結合官能基、特に窒素含有基及びリン含有基を有しないという意味として理解されるべきである。ケイ酸及び/又はアルミノケイ酸が関係する場合、これらの構造ユニット(Si-O-Si/Al-O及びSi-OH/Al-OH)は、吸着材料を構成する官能基として理解されるべきでない。吸着材料が有機ポリマーである場合、有機ポリマーは専ら炭素原子及び水素原子で構成されること、又は少なくとも窒素原子及びリン原子を含有しないことが好ましい。「非官能性」は更に、吸着材料が接触前において浸透性でない、特に触媒活性物質及び/又は金属/半金属を含有しない、という意味として理解されるべきである。
【0017】
従来技術(国際公開第2016/091240号参照)から知られた不均一触媒及び均一触媒とは対照的に、本発明の方法は、HCDSの収量を追加で30重量%超、好ましくは40重量%超、特に好ましくは50重量%超、特に70重量%超も製造できる。
【0018】
本方法、特に工程a)では、吸着材料との接触の際に混合物が物質の液体状態となるように、圧力及び温度を選択する。工程a)は0.1~2.1MPa、特に好ましくは0.11~1.1MPa、特に0.125~0.6MPaの圧力範囲で行うことが好ましい。温度は-50℃~300℃が好ましく、-10℃~200℃が特に好ましく、0℃~180℃が特に好ましい。工程a)は通常、温度20℃且つ圧力0.1MPaで既に最適に進む。上記の圧力は絶対圧である。
【0019】
工程a)の後において、変換されていない部分水素化クロロジシランの割合は、工程a)の前における部分水素化クロロジシランの量(開始量)に対して、10%未満が特に有利であり、6%未満が好ましく、3%未満が特に好ましい。この割合は1%未満となり得る場合もあり、完全又は実質完全な変換に相当する(99%超)。
【0020】
部分水素化クロロジシランは、特にペンタクロロジシランである。工程a)の後において、変換されていないペンタクロロジシランの割合は、ペンタクロロジシランの開始量に対して、5%未満であってもよく、2%未満が好ましく、0.1%未満が特に好ましい。特に、ペンタクロロジシランは工程a)の後では最早観察されない(ペンタクロロジシランの100%の変換)。
【0021】
有機ポリマーは、ポリスチレン、ポリビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれることが好ましい。ポリエチレンが関係してもよく、所望により上述のポリマーと組み合わせてもよい。
【0022】
非官能性吸着材料はスチレン-ジビニルベンゼン共重合体を含有することが好ましい。吸着材料はスチレン-ジビニルベンゼン共重合体であることが特に好ましい。
【0023】
吸着材料は活性炭であってもよい。
【0024】
吸着材料は粒子及び/又は繊維の形態であってもよい。粒子の形態が好ましく、表面積は200~2000m2/gが好ましく、400~1000m2/gが特に好ましく、特に500~850m2/gである。表面積の測定は、例えばBET測定(DIN ISO 9277)で行うことができる。
【0025】
前記材料は、平均粒径(=粒子の直径の平均)が例えば0.149~4.760mm(4~100メッシュ)の粒子の形態であってもよく、0.177~2.0mm(10~80メッシュ)が好ましく、0.210~1.410mm(14~70メッシュ)が特に好ましい。平均粒径は、動的画像解析(ISO 13322-2)、レーザー回折、又は篩い分けで決定できる。
【0026】
吸着材料は更に多孔質でもよい。マクロ多孔質粒子も特に関係し得る。吸着材料の平均孔径は、1~900×10-10mが好ましく、2~450×10-10mが好ましく、4~200×10-10mが特に好ましく、特に5~125×10-10である。
【0027】
吸着材料は、ヘキサクロロジシラン又はヘキサクロロジシランを含有する混合物と接触させた結果として、膨潤挙動を示してもよい。しかしながら、粒状の吸着材料の体積の増加(膨潤)は、7%以下が好ましく、6%以下が特に好ましく、特に5%である。
【0028】
本発明の方法は、無水条件下、又は少なくとも実質的に無水の条件下で、行うことが好ましい。「実質的に無水」とは、微量の水が吸着材料中に存在してもよいという意味として理解されるべきである。典型的には5重量%未満、好ましくは3重量%未満、特に好ましくは2重量%未満の微量の水が存在する。
【0029】
原則として、前記微量の水を含有することは、吸着材料の扱いにとって重要でない。加水分解によるクロロジシランの減少を避けるには、含水量は通常できるだけ小さく維持する。そして、原則として水分を追加で供給しない。前記水の割合は、典型的な吸着材料にとっての限度を一貫して超えないため、工程a)の前に吸着材料を乾燥させることは原則として要しない。しかしながら、工程a)の前に乾燥工程を行うことがやはり好ましい場合があり得る。
【0030】
使用するクロロジシランは、一般的には無水であり、混合物の成分として存在するか単独で存在するかは無関係である。
【0031】
好ましい実施形態では、直列又は並列に配置された1以上の容器の中で、吸着材料は工程a)において固定床の形態にある。容器の中を、部分水素化クロロジシラン/該クロロジシランを含有する混合物が連続的に横断する。固定床として存在する吸着材料は、篩又は穴あきスクリーンを用いて保たれることが好ましい。これにより、追加の分離工程(工程b)を省略できる。
【0032】
吸着材料で満たされた反応体積(1以上の容器であってもよい)中での、部分水素化クロロジシラン又は該クロロジシランを含有する混合物の流体力学的滞留時間τは、1分~1800分が好ましく、10~240分が特に好ましく、特に15~60分である。τは
【数1】
(式中、
V
R:反応体積:吸着材料で満たされた体積[m
3]、
V:クロロジシランの体積流量[m
3/min])
により計算できる。
【0033】
部分水素化クロロジシラン又は該クロロジシランを含有する混合物を、固定床又は流動床の形態で吸着材料と所定の期間接触させ、その後に工程b)(不連続の方法)に従い分離することも、原則的には可能である。この場合、滞留時間は24時間未満が好ましく、4時間未満が特に好ましく、特に1時間未満である。最も単純な場合、容器から排出することで分離でき、固体の吸着材料は篩又は穴あきスクリーンに保持される。
一層長い滞留時間では、目的生成物の部分的な分解が起こる場合がある。
【0034】
工程b)における吸着材料の分離は、固液分離、特に濾過により行うことが好ましい。
【0035】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの部分水素化クロロジシランは、一般式:H(4-x)SiClx(式中、x=1~4)で表される少なくとも1つのクロロシランを含有する混合物の成分である。
【0036】
混合物は特に、クロロジシランの水素還元によるポリシリコンの製造(例えばシーメンス法)で排出される排ガスであってもよい。
【0037】
混合物は更に、水素化によるテトラクロロシランの製造(例えば高温変換)で排出される排ガスであってもよい。
【0038】
両方の方法において、排ガス中のHCDSの割合を増加させるために、シラン、モノクロロシラン及びジクロロシランからなる群から選ばれる一層高度に水素化されたシランを添加することができる。
【0039】
排ガスは通常、気体の形態で生産されるため、工程a)の前に凝縮して液化することが好ましい。
混合物は特に、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、ジクロロジシラン、トリクロロジシラン、テトラクロロジシラン、ペンタクロロジシラン及びHCDSからなる群から選ばれる、クロロシラン及びクロロジシランを含む。
【0040】
混合物中に存在する低沸点クロロシランを、吸着材料と接触させる前に、特に濾過によって分離することができる。「低沸点クロロシラン」とは、四塩化ケイ素(標準圧力で57.65℃)よりも低い沸点のクロロシランという意味として理解されるべきである。この分離工程の後にも、所望により濾過してもよい。
【0041】
工程a)に供給される混合物がポリシリコンの製造で排出される排ガスである場合、凝縮した排ガス中においてHDCS含有量が上昇しているので、ポリシリコンを析出させることができる。例えば、式:H(4-x)SiClx(式中、x=2~4)で表される、一層高度に水素化されたクロロシラン(例えばジクロロシラン)を、析出の間に追加で添加することで、析出させることができる。しかしながら、特に経済的なこの方法には、部分水素化ジシランも一層多く形成されるという、一般的な欠点がある。しかし今般、本発明の方法により、部分水素化ジシランを効率的にHCDSに変換できる。本発明の方法を使用しないと、部分水素化シランによって、分離コスト及び複雑さが上昇し、廃棄物量が増加する。
【0042】
工程a)の後では、混合物は上昇した量のHCDSを含有し、部分水素化ジシランの割合は顕著に減少する。工程a)の後、HCDSの割合に対する、部分水素化ジシラン(ペンタクロロジシラン、テトラクロロジシラン、トリクロロジシラン、ジクロロジシランの合計)の割合Yは、
Y=Xpart/XHCDS
(式中、
Xpart=部分水素化ジシランの質量割合、重量%
XHCDS=HCDSの質量割合、重量%)
で表される。
【0043】
本発明の方法では、特にYの値を大きく減らすことが可能になる。従って、工程a)の前におけるYの値Y0に対する、工程a)の後におけるYの値Y1の比Zは、10未満が好ましく、6未満が特に好ましく、特に3未満である。
Z=Y1/Y0
(式中、
Y1=工程a)の後における、HCDSに対する部分水素化ジシランの割合
Y0=工程a)の前における、HCDSに対する部分水素化ジシランの割合)
【0044】
ペンタクロロジシラン、テトラクロロジシラン、トリクロロジシラン及びジクロロジシランそれぞれにおいて85%超、好ましくは95%超、特に好ましくは97%超、特に99%超の変換で、このZの値が達成される。
【0045】
変換率は
U=1-c/c0
(式中、
U=個々の成分の変換率
c=工程a)の後における混合物中の個々の成分の濃度、重量%
c0=工程a)の前における混合物中の個々の成分の濃度、重量%)
に従い計算できる。
特に、一般的には分離が難しいペンタクロロジシランを、1.0%未満、好ましくは0.1%未満、特に好ましくは0.01%の割合(HCDSに対する割合)まで減らすことができる。
【0046】
工程b)において、一般式:H(4-x)SiClx(式中、x=1~4、特にx=1~2)で表されるクロロシランを、工程a)の後で得られる混合物からの蒸留物として分離できる。一般式:H(x)Si2Cl6-x(式中、x=1~4)で表されるクロロジシランを分離するための更なる蒸留を要することなく、依然として高沸点のままの留分から、HCDSを入手できる。この最後の蒸留工程は特に、工程a)の前において一層高い沸点の化合物(即ち、HCDSよりも高い沸点を有するもの、例えばSi(例えば塵)又はSi3Cl8)を混合物が含有しない場合で、省略できる。なぜならば、該化合物は原則として、工程a)では副生成物として生じないからである。
【0047】
工程a)で使用する混合物は、各不純物(例えば、金属及びリン等のドーパント)の含有量が100ppbw以下であることが好ましく、10ppbw以下であることが特に好ましく、5ppbw以下であることがとりわけ好ましい。こうすることで、不純物を分離するための更なる精製を省略できる。窒素の含有量も典型的には上記の上限の範囲内にある。非官能性吸着材料を使用すると、混合物の純度が高く保たれることが基本的に保証される。
【0048】
工程a)の前及び/又は工程a)の後、並びに所望により工程b)の後で、部分水素化クロロジシラン及び/又はHCDSの濃度を測定することが好ましい。こうすることで、例えば吸着材料を固定床として連続的に横断させる場合において、混合物の質量流量を適用することができる。熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフィー(GC-TCD)で、好ましくは連続的にサンプル採取を行うことで、濃度を測定できる。
【0049】
工程a)を連続して2回以上行うこともできる。
【0050】
本発明の更なる態様は、特に上記の方法に従い、HCDSを入手するための、前記吸着材料の使用に関する。吸着材料の更なる形態は、上記の明細書を参照できる。
【実施例】
【0051】
実施例1
一般式:H(4-x)SiClx(式中、x=1~4)で表されるクロロシラン、一般式:HxSi2Cl(6-x)(式中、x=1~5)で表される部分水素化ジシラン、及びHCDSを含有する混合物3.75gを、非官能性吸着材料0.15gと混合した。22℃で24時間滞留させた後、吸着材料を濾過で分離し、熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフィー(GC-TCD)で得られた混合物を分析した。吸着材料はスチレン-ジビニルベンゼン共重合体(例えばアンバーライトXAD-4)を使用した。非官能性吸着材料は、粒径が0.25~0.84mm(20~60メッシュ)、表面積が750m2/g、平均孔径が50×10-10mであった。
【0052】
【0053】
表1から明らかなように、工程b)の後にHCDSの割合の上昇が見られた(使用した混合物中で169%のHCDSの割合)。HCDSに対する部分水素化クロロジシランの割合は、初期値(使用した混合物中)の2.4%まで減少した。更に、この実施例は、検出範囲内において、ペンタクロロジシランの完全な変換を達成した。
【0054】
実施例2
一般式:H(4-x)SiClx(式中、x=1~4)で表されるクロロシラン、一般式:HxSi2Cl(6-x)(式中、x=1~5)で表される部分水素化ジシラン、及びHCDSを含有する混合物7.4gを、非官能性吸着材料0.30gと混合した。22℃で60分間滞留させた後、吸着材料を濾過で分離し、得られた混合物を実施例1と同様に分析した。吸着材料は実施例1と同様のものを使用した。
【0055】
【0056】
表2から明らかなように、60分という滞留時間であっても、HCDSの割合の顕著な上昇が見られた(使用した混合物中で187%のHCDSの割合)。この滞留時間では、部分水素化クロロジシランの変換率は、僅かに低い。HCDSに対する部分水素化クロロジシランの割合は、初期値(使用した混合物中)の4.1%まで減少した。94.3%のペンタクロロジシランの変換を達成した。
【0057】
実施例3
一般式:H(4-x)SiClx(式中、x=1~4)で表されるクロロシラン、一般式:HxSi2Cl(6-x)(式中、x=1~5)で表される部分水素化ジシラン、及びHCDSを含有する混合物3.75gを、吸着材料0.15gと混合した。22℃で27時間滞留させた後、吸着材料を濾過で分離し、得られた混合物を実施例1と同様に分析した。吸着材料はスチレン-ジビニルベンゼン共重合体(例えばアンバーライトXAD-1180)を使用した。吸着材料は、粒径が0.25~0.84mm(20~60メッシュ)、表面積が600m2/g、平均孔径が300×10-10mであった。
【0058】
【0059】
工程b)の後にHCDSの割合の上昇が見られた(表3;使用した混合物中で135%のHCDSの割合)。HCDSに対する部分水素化クロロジシランの割合は、初期値(使用した混合物中)の4.9%まで減少した。検出範囲内において、99.9%超のペンタクロロジシランの変換を達成した。
【0060】
比較例4
国際公開第2016/091240号に従い、アミノ官能性ポリマー樹脂(アンバーリスト21A)吸着材料を使用したこと以外は、実施例1の実験装置と同様にした。
【0061】
【0062】
HCDSに対する部分水素化クロロジシランの割合は、初期値の9.2%まで減少した一方、この減少は、本発明の方法で達成した減少よりも顕著に小さかった(表4参照)。加えて、使用した混合物におけるHCDSの割合の39%まで、混合物中のHCDSの割合が降下した。
【0063】
比較例5
国際公開第2016/091240号に従い、N-官能性ポリマー樹脂(Seplite LSC 794)吸着材料を使用したこと以外は、実施例3の実験装置と同様にした。
【0064】
【0065】
全体として低い反応性は、表5から明らかである。25.0%のペンタクロロジシランの変換しか達成しなかった。HCDS収量も減少した(使用した混合物中で94%のHCDSの割合)。
【0066】
比較例6
国際公開第2016/091240号に従い、アミノ官能性ポリマー樹脂(アンバーリスト21A)を吸着材料として使用したこと以外は、実施例2の実験装置と同様にした。
【0067】
【0068】
表6に示すように、60分という滞留時間では、HCDSの割合の僅かな上昇が見られた(使用した混合物中で112%のHCDSの割合)。この滞留時間では、部分水素化クロロジシランの変換率は一層低かった。HCDSに対する部分水素化クロロジシランの割合は、初期値(使用した混合物中)の17.1%まで減少した。83.1%のペンタクロロジシランの変換を達成した。比較例が一層低い収量のHCDSしか供給できず、経済的に重要とされる短い滞留時間では、部分水素化ジシランの変換率が本発明の方法よりも顕著に低いことは明白である。