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特許7304494半結晶性粉末ポリカーボネートの製造および付加製造におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】半結晶性粉末ポリカーボネートの製造および付加製造におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/14 20060101AFI20230629BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20230629BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20230629BHJP
   B33Y 40/00 20200101ALI20230629BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230629BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230629BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230629BHJP
   B29K 69/00 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
C08J3/14 CFD
B29C64/153
B29C64/314
B33Y40/00
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
B29K69:00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022544302
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 US2020020811
(87)【国際公開番号】W WO2021177949
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】16/807,764
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514073570
【氏名又は名称】ジャビル インク
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ガードナー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヒスロップ,トラヴィス
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-070739(JP,A)
【文献】特開平02-215838(JP,A)
【文献】特開2003-020393(JP,A)
【文献】特開2001-214066(JP,A)
【文献】特開昭51-079158(JP,A)
【文献】特公昭60-031212(JP,B2)
【文献】特公昭60-031213(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28;99/00
C08G 63/00-64/42
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B29C 64/00-64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分的結晶性ポリカーボネート粉末を調製する方法において、
非晶質ポリカーボネートを極性非プロトン性溶媒中に溶解させて、第1の温度で可溶化ポリカーボネートの第1の溶液を形成する工程、および 前記第1の溶液を、前記第1の温度より低い第2の温度に冷却する工程であって、前記可溶化ポリカーボネートの一部が該第1の溶液から沈殿して、前記溶媒中に、沈殿した部分的結晶性ポリカーボネート粉末および溶解したポリカーボネートの残りの部分を含む第2の溶液を形成する工程、
を有し
前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、30マイクロメートルから100マイクロメートルの平均粒径を有してなる方法。
【請求項2】
前記沈殿した部分的結晶性ポリカーボネート粉末を前記第2の溶液から分離して、前記非プロトン性溶媒および該溶媒中の前記溶解したポリカーボネートの残りの部分を残す工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
分離した前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末を乾燥させる工程をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
残った前記第2の溶液を前記極性非プロトン性溶媒として使用して、前記溶解させる工程を繰り返す工程、および前記冷却する工程を繰り返して、別の部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む第2の溶液を形成する工程をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記極性非プロトン性溶媒がジメチルスルホキシドを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記溶解させる工程が、前記極性非プロトン性溶媒中の前記非晶質ポリカーボネートを加熱して、前記第1の温度で可溶化ポリカーボネートの前記第1の溶液を形成する工程を含み、該第1の温度が室温より高い、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記冷却する工程が、前記第1の溶液を前記第2の温度に冷却する工程を含み、該第2の温度が室温である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記第1の溶液が、前記第の温度で非晶質ポリカーボネート過飽和状態である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末が、回転楕円状粒子の形態にある、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末が、少なくとも約20%の結晶化度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
物体を調製する方法であって、
請求項1記載の方法にしたがって、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を調製する工程、および
粉末床融合プロセスに前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末を使用して、前記物体を形成する工程、
を有してなる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術は、溶媒中に粉末ポリカーボネートを沈殿させること、その粉末ポリカーボネートに晶子を形成させること、および粉末を利用する付加製造プロセスに沈殿した粉末ポリカーボネートを利用することに関する。
【背景技術】
【0002】
この項目は、必ずしも従来技術ではない、本開示に関連する背景情報を提供するものである。
【0003】
三次元(3D)印刷プロセスとしても知られている、様々な付加製造プロセスを使用して、特定の材料を、特定の位置で、および/または層状に、融合することにより三次元物体を形成することができる。材料は、コンピュータ制御下、例えば、コンピュータ支援設計(CAD)モデルの操作で、接合または固化して、三次元物体を作製することができる。液体分子、または粉粒などの材料は、典型的に、層毎に、融合される。様々なタイプの付加製造として、結合剤噴射、指向性エネルギー堆積、材料押出、材料噴射、粉末床融合、シート積層、およびバット光重合が挙げられる。
【0004】
特定の付加製造方法は、熱可塑性ポリマー(例えば、ポリカーボネート)を用いて実施することができ、この方法には、材料押出し、熱溶解積層法、および粉末床融合がある。粉末床融合は、一般に、粉末床内の材料を選択的に融合する工程を含む。この方法では、粉末材料の層のある部分を融合し、作業領域を上方に移動し、粉末材料の別の層を追加し、それから物体が構築されるまでこの過程を繰り返すことができる。粉末床融合プロセスでは、融合していない媒体を使用して、製造されている物体における張り出しおよび薄壁を支えることができるため、物体を形成する際の一時的な補助支持体の必要性を減少させることができる。選択的加熱焼結では、サーマルプリントヘッドが粉末状の熱可塑性プラスチックの層に熱を加えることができる。層が完成すると、粉末床が下に移動し、自動ローラが新しい材料の層を追加し、この層を焼結して、物体の次の断面を形成する。選択的レーザ焼結は、1つ以上のレーザを使用して粉末状の熱可塑性ポリマーを、所望の三次元物体に融合することができる、別の粉末床融合プロセスである。
【0005】
粉末床融合プロセス用の材料が、均一な形状、サイズ、および組成を有することが好ましい。熱可塑性ポリマーからそのような粉末を経済的かつ大規模に調製することは、簡単ではない。さらに、非晶質ポリカーボネートを、特に選択的レーザ焼結などの粉末床融合プロセスで使用することは、そのようなポリカーボネートがはっきりした融点を示さないことがあるため、困難になり得る。この特性により、適用された熱エネルギー源(例えば、レーザビーム)が、エネルギー源が粉末床に接触するか、または衝突する場所の周囲の領域に消散し得る。このような熱エネルギーの望ましくない消散により、加工が不安定になるだけでなく、製造されている目的の三次元物体における特徴解像度が低くなる可能性がある。
【0006】
粉末床融合用のポリカーボネート粉末を調製する方法がいくつか知られている。例えば、特許文献1から3の各々に、適切な有機溶媒中にポリカーボネートを溶解させる工程、エマルションの形成を促進し、維持するために分散ポリマーを添加する工程、および有機溶媒に混和性の溶媒であるが、ポリカーボネートの溶媒ではない溶媒を添加し、エマルションを形成し、その後、ポリカーボネート粉末を沈殿させる工程を含む方法が論じられている。それに加え、特許文献4および5には、粉砕方法から生じた、予め形成された粉末粒子中における結晶性ドメインの形成を誘発するための溶媒の使用が記載されている。
【0007】
粉末床融合プロセスで使用するための結晶性ポリカーボネート粉末を調製するこのような方法には、依然として、いくつかの技術的課題がある。具体的に、ポリカーボネート粉末を、選択的レーザ焼結(SLS)、マルチジェットフュージョン(MJF)、高速焼結(HSS)、および電子写真3D-印刷用途などの特定の方法に使用するのに適した形態に加工する従来の方法では、混合溶媒および分散剤の使用が必要になることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第9567443号明細書
【文献】特開2017-95650号公報
【文献】米国特許出願公開第2018/0244863号明細書
【文献】国際公開第2018/071578号
【文献】米国特許出願公開第2018/0178413号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、非晶質ポリマーから、最適な結晶化度および最適な粒径分布を有するポリカーボネート粉末を形成することができる単一溶媒法であって、結晶性ポリカーボネート粉末によって粉末床融合性能が改善され、溶媒の回収および再利用を促進する単一溶媒法を提供する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の技術は、部分的結晶性ポリカーボネート粉末の調製および粉末床融合プロセスを含む付加製造プロセスにおけるその使用に関連する製造のプロセス、組成物、および物品を含む。
【0011】
非晶質ポリカーボネートを極性非プロトン性溶媒中に溶解させて、第1の温度で可溶化ポリカーボネートの第1の溶液を形成する工程を含む、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を調製する方法が提供される。次に、第1の溶液を、第1の温度より低い第2の温度に冷却する。可溶化ポリカーボネートの一部が第1の溶液から沈殿して、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む第2の溶液が形成される。このような方法によって調製された部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む、粉末床融合プロセスに使用するための粉末組成物が提供される。そのような部分的結晶性ポリカーボネート粉末を粉末床融合プロセスに使用して物体を形成することによって、物体を調製することができる。
【0012】
開示された例示の装置、システム、および方法は、SLS、MJF、HSS、および電子写真3D-印刷用途での使用に適した動作領域を有する粉末ポリカーボネートを提供する。本開示の実施の形態は、溶媒中にポリカーボネートを沈殿させ、そのポリマーに晶子を形成させることによって形成された沈殿した粉末ポリカーボネートを提供し、その後、この沈殿した粉末ポリカーボネートを、粉末を用いる3D-印刷プロセスに利用することができる。
【0013】
適用の可能性があるさらなる分野が、ここに与えられた記載から明白になるであろう。この概要における記載および具体例は、説明目的のためだけであり、本開示の範囲を限定する意図はない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
ここに記載された図面は、選択された実施の形態だけの説明目的のためであって、全ての可能な実施の説明目的というわけではなく、本開示の範囲を限定する意図はない。
図1】倍率が50倍の、実施例1により製造された粉末ポリカーボネートの低真空二次電子検出器(LVSED)走査型電子顕微鏡写真(SEM)
図2】倍率が500倍の、実施例1により製造された粉末ポリカーボネートの低真空二次電子検出器(LVSED)走査型電子顕微鏡写真(SEM)
図3】実施例1により製造された粉末ポリカーボネートの示差走査熱量測定(DSC)
図4】実施例1に記載された粉末ポリカーボネートからの試料片を製造するための選択的レーザ焼結(SLS)プロセス
図5】実施例3に記載された粉末ポリカーボネートからの引張試料バーを製造するための選択的レーザ焼結(SLS)プロセス
図6】実施例3に記載された粉末ポリカーボネートから印刷された選択的レーザ焼結(SLS)された1インチ(約2.54cm)立方体。側面は、外部粉末コーティングを除去し、部品の内部を露出するために、研磨された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の技術の記載は、1つ以上の発明の主題、製造および使用の性質上で例示に過ぎず、本出願または本出願に優先権を主張して出願されるような他の出願、もしくはそこから発行された特許において請求される任意の特定の発明の範囲、適用、または使用を限定する意図はない。開示された方法に関して、提示された工程の順序は、本質的に例示であり、それゆえ、工程の順序は、様々な実施の形態で異なり得る。ここに使用される名詞は、その対象が「少なくとも1つ」存在し、可能であれば、そのような対象が複数存在してもよいことを示す。特に明記のない限り、技術の最も広い範囲を記載する上で、本記載における全ての数量は、「約」という単語により修飾されると理解されるべきであり、全ての幾何学的および空間的記述語は、「実質的に」という単語により修飾されると理解されるべきである。「約」は、数値に適用される場合、計算または測定により、その値におけるある程度のわずかな不正確さを持たせられる(値における正確さへのある取組み;その値にほぼまたは合理的に近い;ほとんど)ことを示す。何らかの理由で、「約」および/または「実質的に」により与えられる不正確さが、当該技術分野でこの通常の意味により理解されない場合、ひいては、ここに使用されているような「約」および/または「実質的に」は、少なくとも、そのようなパラメータを測定または使用する通常の方法から生じるかもしれない変動を示す。
【0016】
この詳細な説明で引用された特許、特許出願、および科学文献を含む全ての文書は、特に明示的に示されていない限り、参照することによりここに引用される。参照により組み込まれた文書とこの詳細な説明との間に矛盾または曖昧さが存在する可能性がある場合、この詳細な説明が統制する。
【0017】
本発明の技術の実施の形態を説明し、主張するために、含む、含有する、または有するなどの非制限的用語の同義語として、制約がない用語「含む(comprising)」がここに使用されているが、実施の形態は、代わりに、「からなる(consisting of)」または「から実質的になる(consisting essentially of)」などのより制限的な用語を使用して説明されることがある。したがって、材料、成分、または工程段階を記載する任意の所定の実施の形態について、本発明の技術はまた、下記のような追加の材料、成分、またはプロセスが本出願で明白に記載されていなくても、追加の材料、成分、またはプロセスを除き(からなるための)、実施の形態の重要な特性に影響を与える追加の材料、成分、またはプロセスを除く(から実質的になるための)、そのような材料、成分、または工程段階からなる、またはそれらから実質的になる実施の形態を具体的に含むものである。例えば、要素A、BおよびCを列挙する組成物またはプロセスの記載は、要素Dがここに除外されるものとして明白に記載されていないにもかかわらず、当該技術分野において記載され得る要素Dを除き、A、BおよびCからなる実施の形態、およびそれから実質的になる実施の形態を具体的に想定している。
【0018】
ここに言及されるように、範囲の開示は、特に指定しない限り、端点を含み、全範囲に入る全ての個別の値およびさらに分割された範囲を含む。それゆえ、例えば、「AからBまで」または「約Aから約Bまで」の範囲は、AおよびBを含む。特定のパラメータ(量、質量パーセントなど)についての値および値の範囲の開示は、ここに有用な他の値および値の範囲を排除するものではない。所定のパラメータに対する2つ以上の特定の例示的な値が、そのパラメータについて主張され得る値の範囲の端点を定義し得ることが想定される。例えば、パラメータXが、値Aを有するとここに例示され、値Zを有するとも例示されている場合、パラメータXは、約Aから約Zの値の範囲を有するであろうと想定される。同様に、あるパラメータに関する値の2つ以上の範囲(そのような範囲が、入れ子になっているか、重複しているか、または別個のものであるかにかかわらず)の開示は、開示された範囲の端点を使用して主張され得る値の範囲の全ての可能な組合せを包含すると想定される。例えば、パラメータXが1~10、または2~9、または3~8の範囲の値を有するとここに例示されている場合、パラメータXは、1~9、1~8、1~3、1~2、2~10、2~8、2~3、3~10、3~9などを含む他の値の範囲を有する可能性も想定される。
【0019】
ある要素または層が、別の要素または層「上にある」、「に係合される」、「に接続される」、または「に結合される」と称される場合、それは、他方の要素または層上に直接ある、係合される、接続されるまたは結合されることがある、もしくは介在する要素または層が存在することがある。これとは対照的に、ある要素または層が別の要素または層「上に直接ある」、「直接係合される」、「直接接続される」、または「直接結合される」と称される場合、介在する要素または層は存在しないであろう。要素間の関係を説明するために使用される他の単語も、同様に解釈されるべきである(例えば、「間」対「直接的に間」、「隣接」対「直接的に隣接」など)。ここに使用されるように、「および/または」という用語は、関連して列挙された項目の1つ以上の任意と全ての組合せを含む。
【0020】
本明細書では、第1、第2、第3などの用語を用いて、様々な要素、構成要素、領域、層および/またはセクションを説明することがあるが、これらの要素、構成要素、領域、層および/またはセクションは、これらの用語によって限定されるべきものではない。これらの用語は、ある要素、構成要素、領域、層、またはセクションを別の領域、層、またはセクションから区別するためだけに使用されることがある。「第1」、「第2」などの用語、および他の数値用語は、ここに使用される場合、文脈によって明確に示されない限り、順序または順番を意味することはない。それゆえ、後述する第1の要素、構成要素、領域、層またはセクションは、例示の実施の形態の教示から逸脱することなく、第2の要素、構成要素、領域、層またはセクションと称することができる。
【0021】
「内側」、「外側」、「真下」、「下」、「下方」、「上」、「上方」などの空間的に相対的な用語は、図に示されるように、ある要素または特徴の他の要素または特徴に対する関係を記載するのに、説明を容易にするためにここに使用されることがある。空間的に相対的な用語は、図に描かれた向きに加えて、使用または動作中の装置の異なる向きを包含するように意図されることがある。例えば、図中の装置がひっくり返された場合、他の要素または特徴の「下」または「真下」として記載された要素は、ひいては、他の要素または特徴の「上」に方向付けられるであろう。それゆえ、例示の用語「下」は、上と下の両方の向きを包含し得る。装置は、他に向けられても(90度回転または他の向き)よく、ここに使用される空間的に相対的な記述子は、それに応じて解釈される。
【0022】
本発明の技術は、選択的レーザ焼結(SLS)、マルチジェットフュージョン(MJF)、高速焼結(HSS)、および電子写真3D-印刷での使用に適した特性を有する部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む、部分的結晶性ポリカーボネート粉末の製造方法および使用方法を提供する。実施の形態は、溶媒中にポリカーボネートを沈殿させ、そのポリマーに晶子を形成させることによって形成された沈殿した粉体ポリカーボネートを提供し、その後、この沈殿した粉末ポリカーボネートは、粉末を用いる3D印刷プロセスに利用される。本発明の部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、最適化された粒径、形状、分布、および結晶化度を含む、粉末床融合プロセス用に最適化された特性を示すと同時に、その製造において分散剤を利用しない単一溶媒プロセスを使用している。
【0023】
部分的結晶性ポリカーボネート粉末を調製する方法は、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒中に非晶質ポリカーボネートを溶解させて、高温で溶液を形成する工程と;その溶液を室温に冷却して、150μm未満のD90粒径;100μm以下の平均粒径、または0から100μmの平均粒径;および少なくとも20%の結晶化度、または少なくとも25%の結晶化度、または25から35%の結晶化度を有する粉末の部分的結晶性ポリカーボネート沈殿物を形成する工程とを含み得る。選択的レーザ焼結(SLS)、マルチジェットフュージョン(MJF)、高速焼結(HSS)、および電子写真3D-印刷用途などの付加製造プロセスに使用するのに適した形態にポリカーボネート粉末を加工する従来の方法では、混合溶媒および分散剤を使用する必要があるのに対し、ここに記載されたプロセスは、単一溶媒法を用いることができ、溶媒の回収および再利用が促進される。この方法は、粒子が、上述したプロセスの結果と比べて上述した印刷プロセスに適した、特定のサイズ(平均直径で約30マイクロメートルから約40マイクロメートル)、低い分散性、回転楕円形状、および結晶特性を示すことのできる生成物も生じる。
【0024】
特定の実施の形態において、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を調製する方法が提供される。そのような方法は、非晶質ポリカーボネートを極性非プロトン性溶媒中に溶解させて、第1の温度で可溶化ポリカーボネートの第1の溶液を形成する工程を含み得る。次に、第1の溶液を、第1の温度より低い第2の温度に冷却し、ここで、可溶化ポリカーボネートの一部が第1の溶液から沈殿して、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む第2の溶液が形成される。この沈殿した部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、第2の溶液の残りから分離することができる。分離された部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、乾燥させることもできる。第2の溶液の残りを極性非プロトン性溶媒として使用する溶解工程を繰り返し、前記冷却する工程をさらに繰り返して、別の部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む第2の溶液を形成することも可能である。特定の実施の形態において、極性非プロトン性溶媒としては、ジメチルスルホキシドを挙げることができる。他の実施の形態において、極性非プロトン性溶媒は、ジメチルスルホキシドから実質的になり得る。そして、またさらなる実施の形態において、極性非プロトン性溶媒は、ジメチルスルホキシドからなり得る。
【0025】
部分的結晶性ポリカーボネート粉末を調製する方法に、様々な温度を使用することができる。溶解させる工程は、極性非プロトン性溶媒中の非晶質ポリカーボネートを加熱して、室温より高い第1の温度で可溶化ポリカーボネートの第1の溶液を形成する工程を含み得る。冷却する工程は、第1の溶液を、室温である第2の温度に冷却する工程を含み得る。特定の実施の形態において、第1の溶液は、第1の温度にて非晶質ポリカーボネートで過飽和状態にすることができる。例えば、第1の溶液は、第2の温度での第1の溶液中の非晶質ポリカーボネートの溶解限度と比べて、第1の温度にて非晶質ポリカーボネートで過飽和状態にすることができる。
【0026】
本発明の方法により調製された部分的結晶性ポリカーボネート粉末の様々な実施の形態は、以下の物理特性を示すことができる。この部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、約150マイクロメートル未満のD90粒径を有し得る。すなわち、部分的結晶性ポリカーボネート粉末の全分布における粒子の90体積%は、150マイクロメートル以下の粒径を有する。特定の実施の形態において、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、約100マイクロメートル未満の平均粒径を有し得る。この部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、約1マイクロメートルから約100マイクロメートルの平均粒径も有し得る。特定の実施の形態では、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、約30マイクロメートルから約40マイクロメートルの平均粒径を有する。部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、回転楕円状粒子の形態にあり得る。様々な結晶化度値が可能であり、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、少なくとも約20%の結晶化度、少なくとも約25%の結晶化度を有し得、特定の実施の形態において、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、約25%と約35%の間の結晶化度を有し得る。
【0027】
特定の実施の形態において、粉末床融合プロセスに使用するための粉末組成物が提供され、そのような粉末組成物は、ここに与えられた方法により調製された部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む。例えば、粉末床融合プロセスに使用するための粉末組成物は、約150マイクロメートル未満のD90粒径、約30マイクロメートルから約40マイクロメートルの平均粒径、および約25%と約35%の間の結晶化度を有する部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含み得る。そのような粉末組成物は、異なる物理特性並びにここに記載されたような添加剤および他の成分を有する部分的結晶性ポリカーボネート粉末の混合物を含み得る。
【0028】
特定の実施の形態において、物体を調製する方法が提供される。そのような方法は、極性非プロトン性溶媒中に非晶質ポリカーボネートを溶解させて、第1の温度で可溶化ポリカーボネートの第1の溶液を形成する工程を含む方法によって、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を調製する工程を含み得る。この第1の溶液は、次に、第1の温度より低い第2の温度に冷却することができ、この可溶化ポリカーボネートの一部は、第1の溶液から沈殿して、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む第2の溶液を形成する。次いで、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、物体を形成するために、粉末床融合プロセスに使用される。物体を調製する特定の方法は、約150マイクロメートル未満のD90粒径、約30マイクロメートルから約40マイクロメートルの平均粒径、および約25%と約35%の間の結晶化度を有する部分的結晶性ポリカーボネート粉末を提供する工程を含む。次いで、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、物体を形成するために、粉末床融合プロセスに使用される。
【0029】
特定の実施の形態において、付加製造プロセスにより調製された1つ以上の物体が提供される。そのような方法は、ここに記載された方法の1つ以上により調製された部分的結晶性ポリカーボネート粉末を提供する工程を含み得る。次いで、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、その1つ以上の物体を形成するために、粉末床融合プロセスに使用される。
【0030】
特定の実施の形態において、本発明の技術は、非晶質ポリカーボネートを部分的結晶性ポリカーボネート粉末に転化させる方法を含む。そのような方法は、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性非プロトン性溶媒中に非晶質ポリカーボネートを溶解させて、室温より高い温度で溶液を形成する工程、その後、その溶液を室温に冷却して、部分的結晶性ポリカーボネート沈殿物を形成する工程、および溶媒から実質的に均一なポリカーボネート粉末として部分的結晶性ポリカーボネート沈殿物を回収する工程を含み得る。結果として得られた部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、良好な結晶化度、粒径分布、および流動性を有し得る。詳しくは、その部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、150μm未満のD90粒径;100μm以下の平均粒径、または0から100μmの平均粒径;および少なくとも20%の結晶化度、少なくとも25%の結晶化度、または25から35%の結晶化度を有し得る。部分的結晶性ポリカーボネート粉末の粒子の大半は、150マイクロメートル(μm)未満のサイズを有し得るので、その部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、したがって、100μmから150μmの厚さを有する層を製造するために、粉末床融合プロセス、例えば、選択的レーザ焼結プロセスに効果的に使用することができる。
【0031】
特定の実施の形態において、本発明の技術は、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む粉末組成物を粉末床融合して、三次元物体を形成する方法を含む。部分的結晶性ポリカーボネート粉末の良好な流動性のために、滑らかで緻密な粉末床を形成することができ、焼結物体の最適な精密さおよび密度が可能である。このポリカーボネート材料の部分的結晶性のために、加工を容易にすることができ、結晶性ポリカーボネートの使用により、対応する非晶質高分子材料の溶融に対して、減少した溶融エネルギーを使用することができる。
【0032】
ここに用いられている「非晶質」および「結晶性」という用語は、ポリマー分子鎖のアライメントに関して、ポリマーの技術分野におけるその通常の意味を称する。例えば、非晶質ポリマー(例えば、ポリカーボネート)において、分子は、無作為に配向されることがあり、調理されたスパゲッティの麺のごとく、絡み合うことがあり、そのポリマーは、ガラスのように透明な外観を有し得る。結晶性ポリマーにおいて、そのポリマー分子は、未調理のスパゲッティの麺のごとく、秩序領域において共に整列することができる。ポリマーの技術分野において、ある種の結晶性ポリマーは、時々、「半結晶性ポリマー」と称される。ここに用いられている「結晶性」という用語は、結晶性ポリマーと半結晶性ポリマーの両方を称する。ここに用いられている「部分的結晶性ポリカーボネート」という用語は、ポリカーボネートポリマーの一部が結晶質形態にあることを意味する。ここに用いられている「結晶化度パーセント」または「結晶化度%」という用語は、部分的結晶質形態に転化された非晶質ポリマーの部分を称する。その百分率は、部分的結晶性ポリマーの総質量に基づく。
【0033】
部分的結晶性ポリマーの粒径は、付加製造プロセスへの使用に影響し得る。ここに用いられているように、D50(「平均粒径」として知られている)は、基準試料の全分布における粒子の50体積%が、述べられた粒径以下の粒径を有する、粉末の粒径を称する。同様に、D10は、基準試料の全分布における粒子の10体積%が、述べられた粒径以下の粒径を有する、粉末の粒径を称し、D90は、基準試料の全分布における粒子の90体積%が、述べられた粒径以下の粒径を有する、粉末の粒径を称し、D95は、基準試料の全分布における粒子の95体積%が、述べられた粒径以下の粒径を有する、粉末の粒径を称する。粒径は、直径で粒径を測定するための当該技術分野で公知のどの適切な方法により測定しても差し支えない。いくつかの実施の形態において、粒径は、当該技術分野に公知のように、レーザ回折によって決定される。例えば、粒径は、Microtrac S3500などのレーザ回折計を使用して決定することができる。ここに与えられる部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、150μm未満のD90粒径を有し得る。
【0034】
「高剪断混合条件」という用語は、高剪断力が生じる条件下で、混合物(例えば、液体混合物)中の成分をかき混ぜる方法を称する。当該技術分野で公知のように、高剪断ミキサーは、一般に、固定子内で回転する羽根車を使用して、流れと乱流のパターンを作り出す。この羽根車が混合物を一旦引き込んだら、多くの場合、90度に近い、方向と加速の急激な変化に混合物を曝し、よって、混合物は、遠心力により固定子の壁に接触するか、または方向と加速の最終的な撹乱変化において、大きい圧力と速度で固定子内の孔に押し通される。高剪断混合条件の特定の実施の形態において、高剪断混合は、2,000回転毎分(rpm)から20,000rpm、特に、3,000rpmから15,000rpm、より具体的に、4,000rpmから10,000rpmの速度での混合を含む。高剪断混合は、どの市販の高剪断ミキサーにより達成されても差し支えない。例えば、Silverson L5Mホモジナイザーなどの高剪断ミキサーを使用することができる。
【0035】
「粉末床融合」という用語は、3D物体を提供するために、ポリカーボネートが層毎に選択的に焼結または溶融され、融合されるプロセスを意味するためにここに使用される。焼結により、固体粉末組成物の密度の約90%未満の密度を有する物体が得られるのに対し、溶融により、固体粉末組成物の90%~100%の密度を有する物体が得られる。ここに提供されるような結晶性ポリカーボネートを使用すると、結果として生じた密度が、射出成形法により達成される密度に近づけるように溶融を促進することができる。
【0036】
粉末床融合は、全てのレーザ焼結プロセスおよび全ての選択的レーザ焼結プロセス、並びにASTM F2792-12aにより定義される他の粉末床融合技術をさらに含む。例えば、粉末組成物の焼結は、レーザにより生じるもの以外の電磁放射線の適用によって達成することができ、焼結の選択性は、例えば、阻害剤、吸収剤、サセプタ、または電磁放射線(例えば、マスクの使用または有向レーザビーム)の選択的適用により達成される。例えば、赤外放射線源、マイクロ波発生器、レーザ、放射加熱器、ランプ、またはその組合せを含む、どの他の適切な電磁放射線源を使用しても差し支えない。特定の実施の形態において、選択的マスク焼結(「SMS」)技術を使用して、三次元物体を製造することができる。SMSプロセスのさらなる議論について、例えば、赤外放射線を選択的に遮断し、粉末層の一部の選択的照射をもたらすために、遮蔽マスクが使用される、SMS装置を記載している、米国特許第6531086号明細書を参照のこと。本発明の技術の粉末組成物から物体を製造するためにSMSプロセスを使用する場合、粉末組成物の赤外吸収特性を向上させる1種類以上の材料を粉末組成物に含ませることが望ましいことがあり得る。例えば、粉末組成物は、1種類以上の吸熱体または暗色材料(例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、または炭素繊維)を含み得る。
【0037】
ここに記載された部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む粉末床融合組成物により製造された全ての三次元物体も、ここに含まれる。物体の層毎の製造後、その物体は、優れた解像度、耐久性、および強度を示すことができる。そのような物体は、試作品、最終製品、並びに最終製品の成形型としての使途を含む、幅広い使途を有する様々な製造物品を含み得る。
【0038】
詳しくは、粉末床融合(例えば、レーザ焼結)された物体は、レーザ焼結プロセスを含むどの適切な粉末床融合プロセスを使用して、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む組成物から製造しても差し支えない。これらの物体は、いくつかの実施の形態において、ポリマーマトリクス全体に分散された強化粒子を有し得るポリマーマトリクスを含む、複数の重なった接着性焼結層を含み得る。レーザ焼結プロセスが公知であり、これは、ポリマー粒子の選択的焼結に基づき、ポリマー粒子の層がレーザ光に短期間暴露され、レーザ光に暴露されたポリマー粒子が、それゆえ、互いに結合される。ポリマー粒子の層の連続焼結により、三次元物体が製造される。選択的レーザ焼結プロセスに関する詳細が、一例として、米国特許第6136948号明細書および国際公開第96/06881号に見つかる。しかしながら、ここに記載された部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、従来技術の他の高速試作形成または高速製造プロセス、特に、先に記載されたプロセスにも使用することができる。例えば、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、具体的に、米国特許第6136948号明細書または国際公開第96/06881号に記載されたような、SLS(選択的レーザ焼結)プロセスにより、国際公開第01/38061号に記載されたような、SIBプロセス(粉末の結合の選択的阻害)により、欧州特許第0431924号明細書に記載されたような、3D印刷により、または独国特許第10311438号明細書に記載されたような、マイクロ波プロセスにより、粉末からの成形型の製造に使用することができる。
【0039】
特定の実施の形態において、本発明の技術は、付加製造プロセスにより既定パターンの複数の層を形成することを含む。付加製造の文脈において使用される「複数」は、5以上の層、または20以上の層を含み得る。層の最大数は、例えば、製造されている物体のサイズ、使用される技術、使用される設備の容量と能力、および最終物体に望ましい詳細度などの検討事項によって決まり、大幅に変動し得る。例えば、5から100,000層が形成され得る、または20から50,000層が形成され得る、または50から50,000層が形成され得る。
【0040】
ここに用いられているように、「層」は、少なくとも所定の厚さを有する、規則的かまたは不規則な任意の形状を有する便宜上の用語である。特定の実施の形態において、二次元のサイズと輪郭が予め定められており、特定の実施の形態において、層の三次元全てのサイズと形状が予め定められている。各層の厚さは、付加製造方法に応じて、幅広く変動し得る。特定の実施の形態において、形成されたままの各層の厚さは、先のまたは後の層と異なり得る。特定の実施の形態において、各層の厚さは、同じであり得る。特定の実施の形態において、形成されたままの各層の厚さは、0.5ミリメートル(mm)から5mmであり得る。
【0041】
物体は既定パターンから形成することができ、このパターンは、当該技術分野で公知のように、ここに記載されるように、所望の物体の三次元デジタル表現から決定することができる。材料は、三次元物体を作るために、コンピュータ制御下で、例えば、コンピュータ支援設計(CAD)の作業により、接合または固化させることができる。
【0042】
粉末床融合物体の融合層は、選択的レーザ焼結加工に適したどの厚さのものであっても差し支えない。個々の層は各々、平均で、好ましくは、少なくとも50マイクロメートル(μm)厚、より好ましくは、少なくとも80μm厚、さらにより好ましくは、少なくとも100μm厚であり得る。好ましい実施の形態において、複数の焼結層の各々は、平均で、好ましくは500μm未満の厚さ、より好ましくは、300μm未満の厚さ、さらにより好ましくは、200μm未満の厚さである。それゆえ、いくつかの実施の形態に関する個々の層は、50から500μm、80から300μm、または100から200μm厚であり得る。選択的レーザ焼結以外の層毎の粉末床融合プロセスを使用して本発明の技術の粉末組成物から製造された三次元物体は、先に記載されたものと同じかまたは異なる層厚を有し得る。
【0043】
ここに用いられている「ポリカーボネート」は、式(1):
【0044】
【化1】
【0045】
の繰り返し構造のカーボネート単位を有するポリマーまたはコポリマーを意味し、式中、R基の総数の少なくとも60パーセントは芳香族である、または各Rは、少なくとも1つのC6-30芳香族基を含む。詳しくは、各Rは、次のような、式(2)の芳香族ジヒドロキシ化合物または式(3)のビスフェノールなどのジヒドロキシ化合物に由来し得る:
【0046】
【化2】
【0047】
【化3】
【0048】
式(2)において、各Rは、独立して、ハロゲン原子、例えば、臭素、C1-10アルキルなどのC1-10ヒドロカルビル基、ハロゲン置換C1-10アルキル、C6-10アリール、またはハロゲン置換C6-10アリールであり、nは0から4である。
【0049】
式(3)において、RおよびRの各々は、独立して、ハロゲン、C1-12アルコキシ、またはC1-12アルキルであり、pおよびqの各々は、独立して0から4の整数であり、よって、pまたはqが4未満である場合、その環の各炭素の原子価は水素で満たされる。特定の実施の形態において、pおよびqの各々は0であり、またはpおよびqの各々は1であり、RおよびRの各々は、各アリーレン基のヒドロキシ基に対してメタに位置された、C1-3アルキル基、特に、メチルである。Xは、2つのヒドロキシ置換芳香族基を接続する架橋基であり、ここで、この架橋基と各Cアリーレン基のヒドロキシ置換は、Cアリーレン基上に互いにオルト、メタ、またはパラ(特に、パラ)に配置され、例えば、単結合、-O-、-S-、-S(O)-、-S(O)-(例えば、ビスフェノール-Sポリカーボネート、ポリスルホン)、-C(O)-(例えば、ポリケトン)、またはC1-18有機基(環式または非環式、芳香族または非芳香族であり得る)であり、ハロゲン、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、またはリンなどのヘテロ原子をさらに含み得る。例えば、Xは、置換または非置換C3-18シクロアルキリデン;式-C(R)(R)-のC1-25アルキリデン、式中、RおよびRの各々は、独立して、水素、C1-12アルキル、C1-12シクロアルキル、C7-12アリールアルキル、C1-12ヘテロアルキル、または環状C7-12ヘテロアリールアルキルである;または式-C(=R)-の基(式中、Rは、二価C1-12炭化水素基である)である。使用できるジヒドロキシ化合物の特定の説明例が、例えば、国際公開第2013/175448号、米国特許出願公開第2014/0295363号明細書、および国際公開第2014/072923号に記載されている。
【0050】
特定のジヒドロキシ化合物としては、レゾルシノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」または「BPA」)、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミジン、2-フェニル-3,3’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フタルイミジン(N-フェニルフェノールフタレインビスフェノール、「PPPBP」、または3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニルイソインドリン-1-オンとしても知られている)、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、および1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(イソホロンビスフェノール)が挙げられる。
【0051】
ここに用いられている「ポリカーボネート」は、カーボネート単位およびエステル単位を含むコポリマー(「ポリ(エステル-カーボネート)」、ポリエステル-ポリカーボネートとしても知られている)も含む。ポリ(エステル-カーボネート)は、式(1)の繰り返すカーボネート鎖単位に加え、式(4):
【0052】
【化4】
【0053】
の繰り返しエステル単位をさらに含み、式中、Jは、ジヒドロキシ化合物に由来する二価基(その反応性誘導体を含む)であり、例えば、C2-10アルキレン、C6-20シクロアルキレン、C6-20アリーレン、またはアルキレン基が2から6の炭素原子、特に、2、3、または4の炭素原子を含有するポリオキシアルキレン基であり得;Tは、ジカルボン酸に由来する二価基(その反応性誘導体を含む)であり、例えば、C2-20アルキレン、C6-20シクロアルキレン、またはC6-20アリーレンであり得る。異なるTまたはJ基の組合せを含有するコポリエステルを使用しても差し支えない。ポリエステル単位は、分岐していても、直鎖であっても差し支えない。
【0054】
特定のジヒドロキシ化合物としては、式(2)の芳香族ジヒドロキシ化合物(例えば、レゾルシノール)、式(3)のビスフェノール(例えば、ビスフェノールA)、エタンジオール、n-プロパンジオール、i-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-シクロヘキサンジオール、1,6-ヒドロキシメチルシクロヘキサンなどのC1-8脂肪族ジオール、または先のジヒドロキシ化合物の少なくとも1つを含む組合せが挙げられる。使用できる脂肪族ジカルボン酸としては、C6-20脂肪族ジカルボン酸(末端カルボキシル基を含む)、特に、デカン二酸(セバシン酸)などの直鎖C8-12脂肪族ジカルボン酸;およびドデカン二酸(DDDA)などのアルファ、オメガ-Cジカルボン酸が挙げられる。使用できる芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,6-シクロヘキサンジカルボン酸、または先の酸の少なくとも1つ含む組合せが挙げられる。テレフタル酸に対するイソフタル酸の質量比が91:9から2:98である、イソフタル酸とテレフタル酸の組合せを使用しても差し支えない。
【0055】
特定のエステル単位としては、エチレンテレフタレート単位、n-プロピレンテレフタレート単位、n-ブチレンテレフタレート単位、イソフタル酸と、テレフタル酸と、レゾルシノールとに由来するエステル単位(ITRエステル単位)、およびセバシン酸とビスフェノールAに由来するエステル単位が挙げられる。ポリ(エステル-カーボネート)におけるカーボネート単位に対するエステル単位のモル比は、幅広く変動し得る、例えば、1:99から99:1、特に、10:90から90:10、より詳しくは、25:75から75:25、または2:98から15:85であり得る。
【0056】
ポリカーボネートは、0.3から1.5デシリットル毎グラム(dl/gm)、特に、0.45から1.0dl/gmの、25℃でクロロホルム中に決定されるような、固有粘度を有し得る。ポリカーボネートは、架橋スチレン-ジビニルベンゼンカラムを使用し、ポリカーボネート基準に対して較正された、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される、5,000から200,000ダルトン、特に、15,000から100,000ダルトンの重量平均分子量を有し得る。GPC試料を1mg毎ml(mg/ml)の濃度で調製し、1.5ml毎分の流量で溶出させる。
【0057】
特定の実施の形態において、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を調製する方法は、室温より高い温度でジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性非プロトン性溶媒中に非晶質ポリカーボネートを溶解させる工程を含む。室温は、約20℃(68°F)であると理解される。それゆえ、非晶質ポリカーボネートは、約20℃より高い温度でDMSO中に溶解させることができる。非晶質ポリカーボネートは、DMSO溶媒中に可溶性であり、それゆえ、ポリカーボネート溶液が形成される。一般に、その溶液は、溶解した非晶質ポリカーボネートの量が、室温で過飽和状態であると考えられるように、室温より高い温度で調製することができる。DMSO溶媒中への非晶質ポリカーボネートの混合は、インラインまたはバッチで行うことができる。このプロセスは、製造規模で容易に行うことができる。溶解した非晶質ポリカーボネートは、室温(例えば、約20℃)に冷却された際に、結晶化し、DMSO溶媒から沈殿し始め、部分的結晶性ポリカーボネート沈殿物が沈殿する。沈殿が高剪断混合条件下で起こる場合、結晶性ポリカーボネート粒子が形成される比率が増加するのと同時に、しっかりと凝集したポリカーボネート粒子の形成が妨げられることがさらに可能である。例えば、凝集体は、粉砕、高速混合、もしくは他の低または中力剪断プロセスによって、容易に壊せることが分かった。
【0058】
沈殿後、DMSO溶媒は除去され、真空の有無にかかわらずに、熱によって部分的結晶性ポリカーボネート粉末を乾燥させることができる。得られた結晶性ポリカーボネート粉末は、150マイクロメートル未満の粒径、並びに比較的狭い粒径分布を有する粒子を高い比率で有し得る。回収したDMSO溶媒は、追加の非晶質ポリカーボネートを溶解させることによりプロセスを新たに始めるために、再利用することができる。これは、結晶性ポリカーボネート粉末を沈殿させるために非溶媒と混合される1種類以上の溶媒を利用する他の方法とは違っている。溶媒と非溶媒のそのような混合物は、容易に利用することができない。
【0059】
ここに与えられるように、非晶質ポリカーボネートは、DMSO溶媒中に溶解される。例えば、非晶質ポリカーボネートは、ポリカーボネートの過飽和溶液をもたらす条件下でDMSO中に溶解させることができ、条件を変えること(例えば、溶液の温度を変えること)により、そこから部分的結晶性ポリカーボネート粉末が沈殿する。特定の実施の形態において、溶媒は、DMSO並びに1種類以上の他の極性非プロトン性溶媒を含み得る。特定の実施の形態において、溶媒はDMSOから実質的になり得、ポリカーボネートの結晶化に実質的に影響を与えるどの他の成分も存在しない;例えば、米国特許出願公開第2018/0244863号明細書に記載されるように、非極性溶媒は存在しない。特定の実施の形態において、溶媒はDMSOからなり得、DMSOに関して従来技術で達成可能な純度レベルに基づいて、実質的にどの他の溶媒も存在しない。すなわち、溶媒は、実質的に100%のDMSOであり得る。非晶質ポリカーボネートおよびDMSOの溶液から部分的結晶性ポリカーボネート粉末を沈殿させる際に、可溶化された非晶質ポリカーボネートの一部が、溶液中に残存し得ることにさらに留意されたい。したがって、溶液の残りから沈殿した部分的結晶性ポリカーボネート粉末を分離すると、可溶化された非晶質ポリカーボネートの一部を含むDMSOの溶液が残り、これは、追加の非晶質ポリカーボネートを再び溶解させるために、再利用することができる。このDMSO(非晶質ポリカーボネートの既に溶解した部分を含む)の繰り返しの利用に際して、過飽和状態を達成するために、より少ない非晶質ポリカーボネートしか加える必要がないであろう。例えば、第1の温度を、それより低い第2の温度に変えると、部分的結晶性ポリカーボネート粉末が別に沈殿する。
【0060】
特定の実施の形態において、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、150マイクロメートル未満のD85粒径、特に、150マイクロメートル未満のD90粒径を有する。特定の実施の形態において、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、150マイクロメートル未満のD93粒径を有し、ここで、部分的結晶性ポリカーボネート粉末の93%は、150μm未満の粒径を有する。特定の実施の形態は、部分的結晶性ポリカーボネート粉末が150μm未満のD90粒径を有するものを含む。粒径の100%が150マイクロメートル未満のサイズを有する部分的結晶性ポリカーボネート粉末も、この方法によって製造することができる。
【0061】
部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、100μm以下の平均粒径も有し得る。詳しくは、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、10μmから100μmの平均粒径を有し得る。部分的結晶性ポリカーボネート粉末の平均粒径は、100μm以下であり得る、または0から100μmの平均粒径を含み得る。
【0062】
特定の実施の形態において、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、少なくとも20%、例えば、20%から80%、特に、少なくとも25%、例えば、25%から60%、より具体的に、少なくとも27%、例えば、27%から40%の結晶化度パーセントを有する。部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、25%から30%の結晶化度も有し得る。実施の形態は、25%から35%の結晶化度をさらに含む。
【0063】
特定の実施の形態において、物品を調製する方法は、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む粉末組成物を提供する工程、およびその粉末組成物を含む粉末床融合プロセスを利用して、三次元物体を形成する工程を含む。少なくとも1つの部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、直径が150マイクロメートル未満のD50粒径を有し得、上述した方法により製造される。実施の形態は、部分的結晶性ポリカーボネート粉末が、150μm未満のD90粒径、100μm以下の平均粒径、または0から100μmの平均粒径、および少なくとも20%の結晶化度、または少なくとも25%の結晶化度、または25から35%の結晶化度を有するものを含む。部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、非晶質ポリカーボネートを結晶性ポリカーボネート粉末に転化させることによって、ここに記載されたように製造することができる。非晶質ポリカーボネートの転化は、DMSO溶媒中に非晶質ポリカーボネートを溶解させて、室温より高い温度で溶液を形成する工程、その溶液を室温に冷却して、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む沈殿物を形成する工程、その沈殿物から溶媒を除去する工程、沈殿物を乾燥させる工程、および結晶性ポリカーボネート粉末を回収する工程を含む。
【0064】
部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、粉末組成物中の唯一の成分として使用し、粉末床融合工程に直接適用することができる。あるいは、部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、最初に、他のポリマー粉末、例えば、別の結晶性ポリマーまたは非晶質ポリマー、または部分的結晶性ポリマーと非晶質ポリマーの組合せと混合することができる。粉末床融合に使用される粉末組成物は、粉末組成物中の全てのポリマー材料の総質量に基づいて、50質量%から100質量%の部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含み得る。
【0065】
部分的結晶性ポリカーボネート粉末は、粉末床融合方法に有用な粉末を作るために、1種類以上の添加剤/成分と組み合わせることもできる。そのような随意的な成分は、粉末床融合またはそれから調製される物体における粉末組成物の性能に悪影響を与えずに、特定の機能を果たすのに十分な量で存在し得る。随意的な成分は、部分的結晶性ポリカーボネート粉末または随意的な流動剤(flow agent)の平均粒径の範囲内に入る平均粒径を有し得る。必要であれば、各随意的な成分は、部分的結晶性ポリカーボネート粉末に実質的に類似であり得る、所望の粒径および/または粒径分布に粉砕することができる。随意的な成分は、粒状物質であり得、充填剤、流動剤、および着色剤などの有機材料と無機材料を含み得る。さらに他の追加の随意的な成分としては、例えば、トナー、増量剤、充填剤、着色料(例えば、顔料および染料)、滑剤、耐食剤、チキソトロピー剤(thixotropic agent)、分散剤、酸化防止剤、接着促進剤、光安定剤、有機溶媒、界面活性剤、難燃剤、帯電防止剤、可塑剤、先のものの少なくとも1つを含む組合せが挙げられる。さらに別の随意的な成分は、部分的結晶性ポリカーボネートの特性を変える第2のポリマーであり得る。特定の実施の形態において、各随意的な成分は、仮にも存在する場合、粉末組成物の総質量に基づいて、0.01質量%から30質量%の量で粉末組成物中に存在し得る。粉末組成物中の全ての随意的な成分の総量は、粉末組成物の総質量に基づいて、0から30質量%までに及び得る。
【0066】
各随意的な成分が、粉末床融合プロセス、例えば、レーザ焼結プロセス中に溶融することは必要ではない。しかしながら、各随意的な成分は、強力で耐久性のある物体を形成するために、部分的結晶性ポリカーボネートポリマーと適合するように選択することができる。随意的な成分は、例えば、形成される物体に追加の強度を与える補強剤であり得る。補強剤の例としては、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、粘土、珪灰石、ガラスビーズ、およびその組合せの内の1種類以上が挙げられる。
【0067】
粉末組成物は、必要に応じて、流動剤を含有し得る。詳しくは、粉末組成物は、粉末組成物の総質量に基づいて、0.01質量%から5質量%、特に、0.05質量%から1質量%の量で粒状流動剤を含み得る。特定の実施の形態において、粉末組成物は、粉末組成物の総質量に基づいて、0.1質量%から0.25質量%の量で粒状流動剤を含む。粉末組成物中に含まれる流動剤は、10μm以下の中央粒径を有する粒状無機材料であり得、水和シリカ、非晶質アルミナ、ガラス状シリカ、ガラス状リン酸塩、ガラス状ホウ酸塩、ガラス状酸化物、チタニア、タルク、マイカ、ヒュームドシリカ、カオリン、アタパルジャイト、ケイ酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸マグネシウム、およびその組合せからなる群より選択され得る。流動剤は、部分的結晶性ポリカーボネートポリマーが流れ、粉末床融合装置(例えば、レーザ焼結装置)の構築面上に平らになるのに十分な量で存在し得る。特定の実施の形態において、流動剤はヒュームドシリカを含む。
【0068】
別の随意的な成分は、物体の所望の色を与える着色剤、例えば、カーボンブラックのような顔料または染料である。着色剤は、着色剤が組成物またはそれから調製された物体に悪影響を与えない限り、制限されず、着色剤は、粉末床融合プロセスの条件下および熱および/または電磁放射線、例えば、焼結プロセスに使用されるレーザへの曝露下で、その色を維持するのに十分に安定である。
【0069】
またさらなる添加剤の例としては、トナー、増量剤、充填剤、着色料(例えば、顔料および染料)、滑剤、耐食剤、チキソトロピー剤、分散剤、酸化防止剤、接着促進剤、光安定剤、有機溶媒、界面活性剤、難燃剤、帯電防止剤、可塑剤、そのようなものの組合せが挙げられる。
【0070】
さらに別の随意的な成分は、部分的結晶性ポリカーボネート粉末の特性を変える第2のポリマーであり得る。
【0071】
粉末組成物は、融合可能な(fusible)粉末組成物であり、選択的レーザ焼結などの粉末床融合プロセスに使用することができる。融合可能な粉末組成物から部品を製造するための、特に、ここに開示された融合可能な結晶性ポリカーボネート粉末から部品を製造するための、選択的レーザ焼結システムの一例を、下記のように説明することができる。部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む粉末組成物の1つの薄層が焼結チャンバ上に広げられる。レーザビームが、CADモデルの断面切片に対応するコンピュータ制御パターンをトレースして、溶融温度よりわずかに低く予熱された粉末を選択的に溶融する。粉末の1層が焼結された後、粉末床ピストンが所定の増分(典型的に100μm)だけ降下され、粉末の別の層がローラによって先に焼結された層の上に広げられる。次いで、全物体が完成するまで、レーザが各連続層を溶融し、先の層に融合しながら、このプロセスを繰り返す。このように、ここに記載された部分的結晶性ポリカーボネート粉末を使用して、複数の融合層から作られた三次元物体を製造することができる。
【0072】
本発明の技術は、特定の利益および利点を提供する。1つの利点は、溶媒の回収とその再利用を促進する、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を調製する際の単一の溶媒の使用である。別の利点は、非晶質ポリカーボネートを、最適な結晶化度および最適な粒径分布を有するポリカーボネート粉末に転換できることである。さらに別の利点は、部分的結晶性ポリカーボネート粉末が、改善された粉末床融合性能を提供することである。したがって、選択的レーザ焼結(SLS)、マルチジェットフュージョン(MJF)、高速焼結(HSS)、および電子写真3D印刷を含む、粉末床の融合を利用する付加製造プロセスは、ここに記載されたように製造された部分的結晶性ポリカーボネート粉末を形成し、使用することによって、恩恵を受けることができる。
【実施例
【0073】
以下の実施例は、先の概念をさらに説明する。
【0074】
実施例1
付加製造に適した粉末ポリカーボネートを製造する方法の実施の形態を以下に説明する。オーバーヘッドスターラーを備えた5Lの4つ口丸底フラスコに、1kgのポリカーボネート(Lupoy 1303EP-22、分子量=約38,000Da)および3LのDMSO(99.7%、Acros Organics)を加えた。溶媒を散布し、フラスコを20分間に亘り窒素雰囲気でフラッシングした。200rpmの速度で撹拌しながら、混合物を電気マントルで160℃に加熱して、ポリカーボネートのDMSO溶液を生成した。マントルを取り外して、200rpmで撹拌を継続しながら、反応器の温度を1℃/分の速度で冷ませた。ポリカーボネートが、約70℃と約80℃の間で沈殿した。濃いスラリーを反応器から取り出し、同じ寸法の100μmのナイロンメッシュバッグの内部に入れ子にされた50μmのナイロンメッシュバッグ中に注いだ。それらのバッグを搾ることによって、DMSOを分離した。残留粉末を4Lの水で、最初に30分間、2回目は15時間、3回目は4時間と、3回洗浄した。粉末スラリーを濾過し、16時間に亘り120℃で乾燥させ、その後、250μmと180μmのふるいに連続してかけた。
【0075】
密度および流動性。この実施の形態において調製した粉末ポリカーボネートの平均嵩密度は、0.42g/cmであった。平均タップ密度は、0.52g/cm(平均ハウスナー比(Hausner ratio)=1.26、カーの指数(Carr's index)0.20)であった。流動性は、ノズル直径が10mmの円錐を使用して決定し、平均値は2.58g/秒であった。
【0076】
粒径、形状および分布(PSSD)。PSSDは、Microtrac S3500装置を使用して、水中で決定した。D90=67.8μm、D50=37.7μm、D10=16.8μm。真球度データが、表1に示されている。
【0077】
【表1】
【0078】
分子量。GPC試料を、2mg/mLのテトラヒドロフラン(THF)濃度で調製し、Styragel HR4 5-μm 7.8×300mm(THF)カラムおよび2414 Refractive Index Detectorを備えたWaters GPC装置で、1mL/分の流量で溶出させた。未加工のポリカーボネートのピーク分子量(M)=38093Da、粉末ポリカーボネートのM=29900Da。
【0079】
走査型電子顕微鏡法(SEM)。SEM画像により、PSSD結果と一致した、典型的なサイズの回転楕円の部分的に凝集した粒子が明らかである。
【0080】
示差走査熱量測定(DSC)および結晶化度。DSCは、20℃/分で走査するTA Instruments DSC 250装置で行い、図3に示されている。溶融は、208.88℃で開始され、236.39℃でピークとなった。冷却の際に、ガラス転移が142℃と、再び147℃での二次加熱の際に現れ、その後、溶融挙動は観察されなかった。
【0081】
半結晶性粉末ポリカーボネートの結晶化度パーセントは、溶融ピークにおける融解エンタルピー(31.407J/g)を測定し、それを、文献(K. Varadarajan等, J. Polym. Sci. Polym. Phys. 1982年, 20(1), 141-154頁)に134J/gと報告された、100%の結晶性ポリカーボネートについての融解エンタルピーの基準値と比較することによって、予測した。したがって、半結晶性ポリカーボネートの予測結晶化度は、23.4%であった。
【0082】
粉末ポリカーボネートのSLS印刷。Farsoon ST252Pレーザ焼結システムのレーザ焼結プロセスに、粉末ポリカーボネートを使用した。3キログラムの材料を装置の供給ピストンに装填し、ピストン中に落ち着かせ、セメント振動器を使用して、最適タップ密度を達成した。不活性窒素雰囲気下で、材料を、0.080mmの層厚で反転ローラを使用して、層毎の様式で供給ピストンから部品床に動かした。近赤外線ヒータからの十分な熱吸収を可能にするために、層を90秒間隔で広げ、その最中に、供給ピストンの温度を60℃から180℃に昇温させ、部品床の温度を60℃から207℃に昇温させた。部品床の温度が207℃の設定点に一端到達したら、選択された区域を固体部品に溶融するために、表2に示された走査システムパラメータを使用して、部品区域を曝露した。
【0083】
【表2】
【0084】
製造された部品には、薄いディスク、十字架、「窓」試験片、およびASTM D638 Type IV引張バーがあった。部品は、薄い黄色を帯びていたが、ほとんど半透明であり、典型的なレーザ焼結材料の不透明な外観ではなかった。
【0085】
実施例2
付加製造に適した粉末ポリカーボネートを製造する方法の実施の形態を以下に説明する。オーバーヘッドスターラーを備えた20Lの反応器に、4.0kgのポリカーボネート(Lexan 121R 112)および15.73LのDMSO(99.7%、Acros Organics)を加えた。溶媒を散布し、反応器を4時間に亘りアルゴン雰囲気でフラッシングした。180rpmの速度で撹拌しながら、混合物をオイルジャケットで160℃に加熱して、ポリカーボネートのDMSO溶液を生成した。180rpmで撹拌を継続しながら、反応器を0.1~0.2℃/分の速度で冷ませた。ポリカーボネートが、約70℃と約80℃の間で沈殿した。濃いスラリーを反応器から取り出し、同じ寸法の100μmのナイロンメッシュバッグの内部に入れ子にされた50μmのナイロンメッシュバッグ中に注いだ。それらのバッグを搾ることによって、DMSOを分離した。残留粉末を3日間に亘り30Lの水中に1回浸漬した。上述したバッグを使用することによって、これを取り除いた。残留粉末を、2時間に亘り10Lのメタノール中に1回浸漬し、20Lの真空フィルタ内に5μmの濾過紙を使用して分離した。粉末を、33時間に亘り120℃で乾燥させ、その後、250μmと180μmのふるいに連続してかけた。
【0086】
粒径および分布(PSD)。PSDは、Microtrac S3500装置を使用して、空気中で決定した。D90=22.48μm、D50=14.96μm、D10=10.93μm。
【0087】
示差走査熱量測定(DSC)および結晶化度。DSCは、20℃/分で走査するTA Instruments DSC 250装置で行い、図3に示されている。溶融は、207.56℃で開始され、241.28℃でピークとなった。
【0088】
半結晶性粉末ポリカーボネートの結晶化度パーセントは、溶融ピークにおける融解エンタルピー(31.377J/g)を測定し、それを、文献(K. Varadarajan等, J. Polym. Sci. Polym. Phys. 1982年, 20(1), 141-154頁)に134J/gと報告された、100%の結晶性ポリカーボネートについての融解エンタルピーの基準値と比較することによって、予測した。したがって、半結晶性ポリカーボネートの予測結晶化度は、23.4%であった。
【0089】
粉末ポリカーボネートのSLS印刷。Farsoon ST252Pレーザ焼結システムのレーザ焼結プロセスに、粉末ポリカーボネートを使用した。2.5キログラムの材料を装置の供給ピストンに装填し、ピストン中に落ち着かせ、セメント振動器を使用して、最適タップ密度を達成した。不活性窒素雰囲気下で、材料を、0.061mmの層厚で反転ローラを使用して、層毎の様式で供給ピストンから部品床に動かした。近赤外線ヒータからの十分な熱吸収を可能にするために、層を90秒間隔で広げ、その最中に、供給ピストンの温度を60℃から180℃に昇温させ、部品床の温度を60℃から207℃に昇温させた。部品床の温度がこの設定点に一端到達したら、部品床が亀裂形成をし始めたので、その温度を205.5℃に低下させ、選択された区域を固体部品に溶融するために、表3に示された走査システムパラメータを使用して、部品区域を曝露した。
【0090】
【表3】
【0091】
製造された部品には、薄いディスク、十字架、「窓」試験片、およびASTM D638 Type IV引張バーがあった。部品は、薄い黄色を帯びていたが、ほとんど半透明であり、典型的なレーザ焼結材料の不透明な外観ではなかった。
【0092】
実施例3
付加製造に適した粉末ポリカーボネートを製造する方法の実施の形態を以下に説明する。オーバーヘッドスターラーを備えた20Lの反応器に、3.21kgのポリカーボネート(Lupoy 1080C 70、分子量=約30,000Da)および13.76LのDMSO(99.7%、Acros Organics)を加えた[これと並行して、3.00kgのポリカーボネート(Lupoy 1080C 70)および12.96LのDMSO(99.7%、Acros Organics)からなる第2のバッチを調製した]。溶媒を散布し、反応器を3時間に亘りアルゴン雰囲気でフラッシングした。180rpmの速度で撹拌しながら、混合物をオイルジャケットで160℃に加熱して、ポリカーボネートのDMSO溶液を生成した。180rpmで撹拌を継続しながら、反応器を0.1~0.2℃/分の速度で冷ませた。ポリカーボネートが、約70℃と約80℃の間で沈殿した。スラリーを反応器から取り出し、第2のバッチと組み合わせ、4μmの濾過紙が設けられた20Lの真空フィルタフラスコ中に注ぎ入れた。この方法を使用して、15LのDMSOを回収した。残留粉末を、以下のように、140Lの脱イオン水および20Lのアセトンを使用して処理した:1日間、15Lの水に2回浸漬した;濾過し、1日間、25Lの水に1回浸漬した;濾過し、20Lの水で2回洗浄し、1日間、25Lの水に浸漬した;濾過し、20Lの水で1回、20Lのアセトンで1回、洗浄した。粉末を、72時間に亘り110℃で乾燥させ、その後、250μmのふるいにかけて、4.5kgの粉末を得た。
【0093】
密度および流動性。この実施の形態において調製した粉末ポリカーボネートの平均嵩密度は、0.42g/cmであった。平均タップ密度は、0.48g/cm(平均ハウスナー比=1.15、カーの指数0.12)であった。流動性は、ノズル直径が15mmの円錐を使用して決定し、平均値は8.93g/秒であった。
【0094】
粒径分布(PSD)。PSDは、Microtrac S3500装置を使用して、空気中で決定した。D90=101.5μm、D50=69.56μm、D10=45.69μm。
【0095】
分子量。GPC試料を、2mg/mLのテトラヒドロフラン(THF)濃度で調製し、Styragel HR4 5-μm 7.8×300mm(THF)カラムおよび2414 Refractive Index Detectorを備えたWaters GPC装置で、1mL/分の流量で溶出させた。未加工のポリカーボネートのピーク分子量(M)=30318Da。
【0096】
走査型電子顕微鏡法(SEM)。SEM画像により、PSSD結果と一致する、典型的なサイズの回転楕円の部分的に凝集した粒子が明らかである。
【0097】
示差走査熱量測定(DSC)および結晶化度。DSCは、20℃/分で走査するTA Instruments DSC 250装置で行い、図3に示されている。溶融は、196.67℃で開始され、233.97℃でピークとなった。二次加熱の際に、ガラス転移が138.84℃で起こり、その後、溶融挙動は観察されなかった。
【0098】
半結晶性粉末ポリカーボネートの結晶化度パーセントは、溶融ピークにおける融解エンタルピー(31.407J/g)を測定し、それを、文献(K. Varadarajan等, J. Polym. Sci. Polym. Phys. 1982年, 20(1), 141-154頁)に134J/gと報告された、100%の結晶性ポリカーボネートについての融解エンタルピーの基準値と比較することによって、予測した。したがって、半結晶性ポリカーボネートの予測結晶化度は、26.9%であった。
【0099】
粉末ポリカーボネートのSLS印刷。Farsoon ST252Pレーザ焼結システムのレーザ焼結プロセスに、粉末ポリカーボネートを使用した。4.5キログラムの材料を装置の供給ピストンに装填し、ピストン中に落ち着かせ、セメント振動器を使用して、最適タップ密度を達成した。不活性窒素雰囲気下で、材料を、0.102mmの層厚で反転ローラを使用して、層毎の様式で供給ピストンから部品床に動かした。近赤外線ヒータからの十分な熱吸収を可能にするために、層を90秒間隔で広げ、その最中に、供給ピストンの温度を60℃から200℃に昇温させ、部品床の温度を60℃から219℃に昇温させた。部品床の温度が219℃の設定点に一端到達したら、選択された区域を固体部品に溶融するために、表4に示された走査システムパラメータを使用して、部品区域を曝露した。
【0100】
【表4】
【0101】
製造された部品には、薄いディスク、大きい立方体、およびASTM D638 Type IV引張バーがあった。部品は、薄い黄色を帯びていたが、ほとんど半透明であり、典型的なレーザ焼結材料の不透明な外観ではなかった。
【0102】
実施例4
30gのLexan 121ポリカーボネートを100mlのアセトフェノン中に溶解させた。この混合物を300mlの三角フラスコに入れ、撹拌し、磁気ホットプレート上で182℃に加熱した。ポリカーボネートは、この温度で、完全に溶解するのが観察された。ヒータのスイッチを切り、撹拌しながら、溶液を冷ませた。この溶液は、約52℃で観察したときに、視覚的に濁っていた。この溶液を、一晩、約15時間に亘り、周囲条件(約20℃)に保持した。真空濾過により濾過する前に、200mlのアセトンを加えて、溶液を薄めた。溶液から分離された固体を、一晩、換気した実験室のフード内に置くことによって、乾燥させた。
【0103】
プロセス
付加製造および他の用途のための粉末ポリカーボネートを製造する説明のためのプロセスは:ジメチルスルホキシド(DMSO);シクロペンタノン、シクロヘキサノン、またはアセトフェノンなどの非環式および環式ケトン;非環式および環式第2級アミド(例えば、N-メチルピロリジノン(NMP)またはN,N-ジメチルホルムアミド(DMF));非環式および環式エステル(γ-ブチロラクトン);ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン);アニソール;またはフェノール(例えば、m-クレゾール)を含む群から選択することのできる溶媒を収容する反応器にポリカーボネートを添加する工程;必要に応じて、粒子の核形成、粒子の分散、IR吸収、無機化と強化、難燃性、および/または着色の目的のために、追加の物質(例えば、無機酸化物、有機化合物、炭素超極細繊維、ガラス超極細繊維、および/または補助ポリマー)中で混合する工程;反応器に不活性雰囲気を施す工程;混合物をかき混ぜる工程;容器内の温度を上昇させる工程;ポリカーボネートの溶液を形成する工程;溶液をポリカーボネートの沈殿温度に冷却する工程;粉末形態のポリカーボネートを溶液から沈殿させる工程;反応器からポリカーボネート粉末スラリーを除去する工程;濾過によって、溶媒からポリカーボネートを分離する工程;ポリカーボネート粉末をある量の洗浄溶媒(例えば、水および/またはポリカーボネートが著しくはその中に溶解しないアルコール、ケトン、エーテル、エステルまたは炭化水素などの揮発性有機溶媒)で洗浄して、沈殿溶媒を除去する工程;および好ましくは減圧下で、150℃超、好ましくは175℃超、最も好ましくは195℃超であるが、205℃以下の温度に加熱することによって、ポリカーボネートを乾燥させる工程を含む。
【0104】
ポリカーボネート鎖における極性官能基と効果的な分子間相互作用を示す極性溶媒の存在は、沈殿プロセスにおいてポリマー鎖を結晶性領域に組織化するのを促進させると考えられる。
【0105】
上述したポリマーを化学的に沈殿させる様々な方法を利用してよい。当業者には、下記に記載される実例の方法に基づいて、ここに明白に開示されていないけれども、他の沈殿方法をこの実施の形態に用いてもよいことが認識されよう。
【0106】
ポリカーボネートから粉末を製造する別の実例の方法は、蒸発制限合体および貧溶媒沈殿を含むことがある。
【0107】
「混合物をかき混ぜる工程」という用語は、一般に、固定子内で回転する羽根車を使用して、剪断力が生じ、流れと乱流のパターンを作り出す条件下で液体またはスラリー混合物中の成分を撹拌する方法を称する。羽根車が混合物を中に一端引き込んだら、混合物が遠心力により固定子の壁に接触するか、または方向と加速の最終的な崩壊変化において、圧力と速度下で固定子内の孔に押し通されるように、方向と加速の急激な変化に混合物が曝される。高剪断混合条件の例示の実施の形態において、混合は、50回転毎分(rpm)から500rpmの速度での作動を含む。かき混ぜる工程は、どの市販のミキサーにより行われても差し支えない;例えば、Hei-Torque 200反応器撹拌モータなどのミキサーを使用することができる。
【0108】
結果として生じるポリカーボネート粉末の粒径に潜在的に影響を与えるために、スターラーの回転速度、沈殿温度、および時間を変えられることが認識される。粉末が再沈殿していてもよいことも認識される。
【0109】
ポリカーボネートは、異なる比率および粒径で混合されてもよいことがさらに認識される。このことには、結果として得られる粉末ポリカーボネートの特性を変えるまたは制御する効果があるであろう。ポリカーボネートは、化学沈殿の他の方法により粉末形態で生じてもよいとさらに考えられる。
【0110】
融点およびエンタルピーは、示差走査熱量測定(DSC);例えば、TA Instruments Discovery Series DSC 250を使用して決定することができる。
【0111】
粉末流は、ASTM D 1895の方法Aを使用して測定することができる。
【0112】
弾性のヤング率および引張強度は、ASTM D 790基準にしたがって決定することができる。
【0113】
走査型電子顕微鏡法は、低真空二次電子検出器(LVSED)モードで作動するJEOL装置を使用して行った。
【0114】
付加製造のために製造された粉末ポリカーボネート材料を改質するプロセスは、少なくとも1種類の適合する充填剤をポリカーボネートに添加する工程を含むことがあり、充填剤は、有機または無機のいずれかであり;少なくとも1種類の充填剤は、ガラス、金属、またはセラミック粒子、顔料、二酸化チタン粒子、およびカーボンブラック粒子からなる群より選択され;少なくとも1種類の充填剤の粒径は、ポリカーボネートの粒径とほぼ等しいかまたはそれより小さく;少なくとも1種類の充填剤の粒径は、ポリカーボネートの平均粒径の約15~20パーセントを超えて変動せず;少なくとも1種類の充填剤は、ポリカーボネートの約3質量%未満であり、流動剤が、粉末ポリカーボネート中に含まれ;流動剤は、ヒュームドシリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナ、非晶質アルミナ、ケイ酸マグネシウム、ガラス状シリカ、水和シリカ、カオリン、アタパルジャイト、ガラス状リン酸塩、ガラス状ホウ酸塩、ガラス状酸化物、チタニア、タルク、顔料、およびマイカの少なくとも1つから選択され;流動剤は、約10マイクロメートル以下の粒径を有し;流動剤は、ポリカーボネートのガラス転移温度を著しくは変えず;流動剤は、ポリカーボネートの約5質量%未満の量で存在する。
【0115】
部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む粉末組成物を粉末床融合して、三次元物品を形成する方法も、ここに開示されている。ポリマー粉末粒子の回転楕円形状により、部分的結晶性ポリカーボネート粉末の良好な流動性がもたらされ、それゆえ、滑らかで緻密な粉末床が形成され、焼結部品の最適な精度および密度が可能になる。また、ポリマー材料の部分的結晶性により、加工が容易になる。
【0116】
「粉末床融合」は、全てのレーザ焼結および全ての選択的レーザ焼結並びにASTM F2792-12aにより既定されるような他の粉末床融合技術を含む。例えば、粉末組成物の焼結は、レーザにより生じるもの以外の電磁放射線の適用によって達成することができ、焼結の選択性は、例えば、阻害剤、吸収剤、サセプタ、または電磁放射線(例えば、マスクの使用または有向レーザビーム)の選択的適用により達成される。例えば、赤外放射線源、マイクロ波発生器、レーザ、放射加熱器、ランプ、またはその組合せを含む、どの他の適切な電磁放射線源を使用しても差し支えない。
【0117】
これらの粉末組成物を粉末床融合することによって製造された全ての三次元製品も、ここに含まれる。製造物品の層毎の製造後、その物品は、優れた解像度、耐久性、および強度を示すことができる。これらの製造物品は、試作品、および最終製品、並びに最終製品の成形型を含む、幅広い使途を有する様々な製造物品を含み得る。
【0118】
前記方法のいくつかの実施の形態において、付加製造プロセスによる予め定められたパターンで複数の層が形成される。付加製造の文脈において使用される「複数」は、5以上の層、または20以上の層を含む。層の最大数は、例えば、製造されている物品のサイズ、使用される技術、使用される設備の能力、および最終物品に望ましい詳細度などの検討事項によって決まり、大幅に変動し得る。
【0119】
ここに用いられているように、「層」は、少なくとも所定の厚さを有する、規則的かまたは不規則な任意の形状を有する便宜上の用語である。いくつかの実施の形態において、二次元のサイズと輪郭が予め定められており、いくつかの実施の形態において、層の三次元全てのサイズと形状が予め定められている。各層の厚さは、付加製造方法に応じて、幅広く変動し得る。いくつかの実施の形態において、形成されたままの各層の厚さは、先のまたは後の層と異なる。いくつかの実施の形態において、各層の厚さは、同じである。いくつかの実施の形態において、形成されたままの各層の厚さは、0.05ミリメートル(mm)から5mmであり得る。
【0120】
既定パターンは、当該技術分野で公知のように、ここに以下に記載されるように、所望の物品の3Dデジタル表現から決定することができる。
【0121】
粉末床融合物品の融合層は、選択的レーザ焼結加工に適したどの厚さのものであっても差し支えない。個々の層は各々、平均で、好ましくは、少なくとも100μm厚、より好ましくは、少なくとも80μm厚、さらにより好ましくは、少なくとも50μm厚であり得る。好ましい実施の形態において、複数の焼結層の各々は、平均で、好ましくは500μm未満の厚さ、より好ましくは、300μm未満の厚さ、さらにより好ましくは、200μm未満の厚さである。それゆえ、いくつかの実施の形態に関する層は、50から500μm、80から300μm、または100から200μm厚であり得る。選択的レーザ焼結以外の層毎の粉末床融合プロセスを使用して本発明の技術の粉末組成物から製造された三次元物品は、先に記載されたものと同じかまたは異なる層厚を有し得る。
【0122】
粉末を利用する3D印刷は、部品床および供給機構を含む。この部品床は、一般に、エネルギー源に曝される前に、定常温度にある。そのエネルギー源は、融解温度に到達するまで昇温される。粉末ポリカーボネートは、開始温度で供給機内に配置されることがある。作動中、追加のポリカーボネートが、冷まされ、再び昇温される必要のある元のポリカーボネートの上部に配置される。エネルギーに直接曝されるポリカーボネートの部分のみが溶融され、周囲のポリカーボネートは溶融されないと考えられる。
【0123】
本開示の目的のために、「動作領域」は、溶融温度と再結晶化(またはガラス転移)温度との間の典型的な範囲により規定される。半結晶性ポリカーボネートは、明確な融点を有し、SLS、MJF、HSS、およびことによると、電子写真3D印刷用途におけるポリカーボネートの融点に近い動作温度を確立することができる。この明確な溶融挙動により、固体形態において3D印刷中に使用されるレーザまたはIRヒータの存在下などでさえ、材料の残りを未溶融に維持する動作領域が可能になる。次に、未溶融の固体材料は、溶融したポリカーボネートの支持構造として機能することができる。
【0124】
本開示が完全であり、当業者にその範囲を完全に伝えられるように、例示の実施の形態が提供される。本開示の実施の形態の完全な理解を与えるために、特定の成分、装置、および方法の例などの多数の特定の詳細が述べられている。特定の詳細は利用される必要はなく、例示の実施の形態は、多くの異なる形態で具体化されることがあり、いずれも、本開示の範囲を限定すると考えるべきではないことが、当業者に明白であろう。いくつかの例示の実施の形態において、周知のプロセス、周知の装置の構造、および周知の技術は、詳しく記載されていない。いくつかの実施の形態、材料、組成物および方法の同等の変更、改変およびバリエーションが、本発明の技術の範囲内で行うことができ、実質的に同様の結果が得られる。
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
実施形態1
部分的結晶性ポリカーボネート粉末を調製する方法において、
非晶質ポリカーボネートを極性非プロトン性溶媒中に溶解させて、第1の温度で可溶化ポリカーボネートの第1の溶液を形成する工程、および
前記第1の溶液を、前記第1の温度より低い第2の温度に冷却する工程であって、前記可溶化ポリカーボネートの一部が該第1の溶液から沈殿して、前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む第2の溶液を形成する工程、
を有してなる方法。
実施形態2
沈殿した前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末を前記第2の溶液の残りから分離する工程をさらに含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態3
分離した前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末を乾燥させる工程をさらに含む、実施形態2に記載の方法。
実施形態4
前記第2の溶液の残りを前記極性非プロトン性溶媒として使用して、前記溶解させる工程を繰り返す工程、および前記冷却する工程を繰り返して、別の部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む第2の溶液を形成する工程をさらに含む、実施形態2に記載の方法。
実施形態5
前記極性非プロトン性溶媒がジメチルスルホキシドを含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態6
前記極性非プロトン性溶媒がジメチルスルホキシドから実質的になる、実施形態1に記載の方法。
実施形態7
前記溶解させる工程が、前記極性非プロトン性溶媒中の前記非晶質ポリカーボネートを加熱して、前記第1の温度で可溶化ポリカーボネートの前記第1の溶液を形成する工程を含み、該第1の温度が室温より高い、実施形態1に記載の方法。
実施形態8
前記冷却する工程が、前記第1の溶液を前記第2の温度に冷却する工程を含み、該第2の温度が室温である、実施形態7に記載の方法。
実施形態9
前記第1の溶液が、前記第1の温度で非晶質ポリカーボネートで過飽和状態である、実施形態1に記載の方法。
実施形態10
前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末が、約150マイクロメートル未満のD90粒径を有する、実施形態1に記載の方法。
実施形態11
前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末が、約1マイクロメートルから約100マイクロメートルの平均粒径を有する、実施形態1に記載の方法。
実施形態12
前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末が、約30マイクロメートルから約40マイクロメートルの平均粒径を有する、実施形態1に記載の方法。
実施形態13
前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末が、回転楕円状粒子の形態にある、実施形態1に記載の方法。
実施形態14
前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末が、少なくとも約20%の結晶化度を有する、実施形態1に記載の方法。
実施形態15
前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末が、約25%と約35%の間の結晶化度を有する、実施形態1に記載の方法。
実施形態16
粉末床融合プロセスに使用するための粉末組成物であって、実施形態1に記載の方法にしたがって調製された部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む粉末組成物。
実施形態17
粉末床融合プロセスに使用するための粉末組成物であって、約150マイクロメートル未満のD90粒径、約30マイクロメートルから約40マイクロメートルの平均粒径、および約25%と約35%の間の結晶化度を有する部分的結晶性ポリカーボネート粉末を含む粉末組成物。
実施形態18
物体を調製する方法であって、
実施形態1に記載の方法にしたがって、部分的結晶性ポリカーボネート粉末を調製する工程、および
粉末床融合プロセスに前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末を使用して、前記物体を形成する工程、
を有してなる方法。
実施形態19
物体を調製する方法であって、
約150マイクロメートル未満のD90粒径、約30マイクロメートルから約40マイクロメートルの平均粒径、および約25%と約35%の間の結晶化度を有する部分的結晶性ポリカーボネート粉末を提供する工程、および
粉末床融合プロセスに前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末を使用して、前記物体を形成する工程、
を有してなる方法。
実施形態20
物体であって、
実施形態1に記載の方法にしたがって調製された部分的結晶性ポリカーボネート粉末を提供する工程、および
粉末床融合プロセスに前記部分的結晶性ポリカーボネート粉末を使用して、前記物体を形成する工程、
を有してなる付加製造プロセスにより調製された物体。

図1
図2
図3
図4
図5
図6