(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】鉄基軟磁性粉末、それを用いた磁性部品及び圧粉磁芯
(51)【国際特許分類】
H01F 1/153 20060101AFI20230629BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20230629BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230629BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20230629BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230629BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20230629BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20230629BHJP
B22F 1/065 20220101ALI20230629BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20230629BHJP
B22F 9/08 20060101ALN20230629BHJP
【FI】
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F27/255
C22C38/00 303S
B22F3/00 B
B22F1/00 Y
B22F1/102 100
B22F1/16 100
B22F1/065
H01F1/24
H01F1/153 183
B22F9/08 A
B22F9/08 M
(21)【出願番号】P 2022555883
(86)(22)【出願日】2022-05-09
(86)【国際出願番号】 JP2022019735
(87)【国際公開番号】W WO2023007902
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2021122053
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】高下 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】中世古 誠
(72)【発明者】
【氏名】宇波 繁
(72)【発明者】
【氏名】友澤 方成
(72)【発明者】
【氏名】浦田 顕理
(72)【発明者】
【氏名】千葉 美帆
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203150(JP,A)
【文献】特開2017-034091(JP,A)
【文献】国際公開第2021/132254(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153
H01F 27/255
C22C 38/00
B22F 3/00
B22F 1/00
B22F 1/102
B22F 1/16
B22F 1/065
H01F 1/24
B22F 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄基軟磁性粉末であって、
結晶化度が10%以下であり、
体積基準の円形度の中央値(C
50)が0.85以上であり、
窒素雰囲気中、昇温速度3℃/分で400℃まで昇温し、該温度で20分間保持し、次いで室温まで自然放冷した粉末中のCuクラスタの数密度が1.00×10
3個/μm
3以上1.00×10
6個/μm
3以下であり、かつCuクラスタのCu濃度の平均値が30.0at%以上である、鉄基軟磁性粉末。
【請求項2】
不可避的不純物を除く成分組成が、組成式:Fe
aM
bSi
cB
dP
eCu
f
(式中、
79.0at%≦a+b≦84.5at%
0at%≦b≦10.0at%
0at%≦c<6.0at%
0at%<d≦11.0at%
3.0at%<e≦11.0at%
0.2at%≦f≦1.0at%、かつ
a+b+c+d+e+f=100at%であり、
Mは、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素である)
で示される、請求項1に記載の鉄基軟磁性粉末。
【請求項3】
前記組成式におけるPが、4.0at%以下の量で、C、Mn、Cr、Mo、Nb、Sn、Zr、Ta、W、Hf及びVから選ばれる少なくとも1種の元素で置換されている、請求項2に記載の鉄基軟磁性粉末。
【請求項4】
前記不可避的不純物として含まれるO含有量が0.3質量%以下である、請求項
2又は3に記載の鉄基軟磁性粉末。
【請求項5】
前記鉄基軟磁性粉末を構成する粒子の表面に絶縁被覆を有する、請求項1~4のいずれ
か一項に記載の鉄基軟磁性粉末。
【請求項6】
請求項5に記載の鉄基軟磁性粉末を用いてなる磁性部品。
【請求項7】
請求項5に記載の鉄基軟磁性粉末を用いてなる圧粉磁芯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄基軟磁性粉末、それを用いた磁性部品及び圧粉磁芯に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機(モータ)、変圧器(トランス)、リアクトル等に用いられる磁芯は、磁束密度が高く、鉄損が低いという特性が要求される。従来、このような磁芯には、電磁鋼板を積層して成形されたものが主として用いられてきた。しかし、電磁鋼板を積層して磁芯を成形する場合には、形状の自由度に限界があり、また、表面が絶縁された電磁鋼板を使用するため、鋼板面方向と鋼板面垂直方向とで磁気特性が異なり、鋼板面垂直方向の磁気特性が悪いという問題があった。また、特にリアクトル鉄芯等のインバータを用いた電力変換部品等へ用いられる鉄芯材料の場合、スイッチングによる高調波に起因する高周波鉄損の増加が問題となっており、その低減が求められていた。
【0003】
圧粉磁芯は、絶縁被覆された軟磁性粒子(鉄粉)を金型に装入しプレス成形して製造されるため、金型によって所望の形状に形成でき、電磁鋼板を積層して磁芯を成形する場合に比べて、形状の自由度が高く、三次元的な磁気回路の形成が可能である。しかも、圧粉磁芯の製造には、安価な鉄基軟磁性粒子を使用でき、製造工程も短くコスト的にも有利となるという利点がある。さらに、圧粉磁芯で使用する鉄基軟磁性粒子は、それぞれの粒子が絶縁被覆材に覆われており、あらゆる方向に対して磁気特性が均一であるいう利点があり、三次元的な磁気回路形成用として好適である。また、その構造に起因して、積層された電磁鋼板に比べ、高周波鉄損の主成分である渦電流損が小さいという利点もある。このような点から、最近では、圧粉磁芯を利用したリアクトル等の開発が盛んである。
【0004】
一方で、圧粉磁芯を低鉄損とするためには、渦電流損だけでなく、鉄損を構成するもう1つの損失であるヒステリシス損の低減も必要である。また、部品の小型化のためには一定以上の磁束密度を確保することも必要である。このような、高磁束密度と低保磁力を両立する素材として近年着目されているのがナノ結晶材料である。
【0005】
ナノ結晶材料は、従来から低保磁力と高磁束密度を両立する材料として、主に薄帯分野で注目されてきた材料であり、ミクロ組織中の非晶質相(アモルファス相)が低保磁力を、ナノ結晶相が高磁束密度を担う。結晶相に起因した保磁力増加を抑制するために、ナノ結晶相の結晶子の平均径は50nm未満である。このナノ結晶組織を圧粉磁芯で得るために、近年種々の開発が行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、Fe、B、Si、P、C及びCuからなる合金組成物が開示されている。特許文献1の合金組成物は、連続薄帯形状又は粉末形状を有している。粉末形状の合金組成物(軟磁性粉末)は、例えばアトマイズ法によって作製されており、非晶質相を主相としている。この軟磁性粉末に所定の熱処理条件による熱処理を施すことでFe(bccFe)のナノ結晶が析出し、これによりFe基ナノ結晶合金粉末が得られる。
特許文献2には、粒子の円形度の最大値が一定値以上かつ平均値が一定値以上である粉末を使用し、粉末を金型へ充填する際の流動性を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-070852号公報
【文献】特開2019-21906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で提案されているFe基ナノ結晶合金粉末及びこのFe基ナノ結晶合金粉末を用いた圧粉磁芯の磁気特性は十分とはいえず、さらなる磁束密度の向上と鉄損の低減が求められている。
特許文献2で規定されているのは粒子円形度のみである。しかしながら、良好な磁気特性を有する軟磁性粉末を得るには円形度を制御して粒子形状を球状にするのみでは不十分であって、十分な軟磁気特性を安定して確保するのが困難である。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決し、鉄損の低い圧粉磁芯を製造することができる鉄基軟磁性粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために保磁力の低減に着目し、圧粉磁芯の原料が有するミクロ組織及び粒子形状の両方を適正化する検討を鋭意行い、本発明を発明するに至った。本発明の要旨構成は次のとおりである。
[1]鉄基軟磁性粉末であって、
結晶化度が10%以下であり、
体積基準の円形度の中央値(C50)が0.85以上であり、
窒素雰囲気中、昇温速度3℃/分で400℃まで昇温し、該温度で20分間保持し、次いで室温まで自然放冷した粉末中のCuクラスタの数密度が1.00×103個/μm3以上1.00×106個/μm3以下であり、かつCuクラスタのCu濃度の平均値が30.0at%以上である、鉄基軟磁性粉末。
[2]不可避的不純物を除く成分組成が、組成式:FeaMbSicBdPeCuf
(式中、
79.0at%≦a+b≦84.5at%
0at%≦b≦10.0at%
0at%≦c<6.0at%
0at%<d≦11.0at%
3.0at%<e≦11.0at%
0.2at%≦f≦1.0at%、かつ
a+b+c+d+e+f=100at%であり、
Mは、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素である)
で示される、[1]の鉄基軟磁性粉末。
[3]前記組成式におけるPが、4.0at%以下の量で、C、Mn、Cr、Mo、Nb、Sn、Zr、Ta、W、Hf及びVから選ばれる少なくとも1種の元素で置換されている、[2]の鉄基軟磁性粉末。
[4]前記不可避的不純物として含まれるO含有量が0.3質量%以下である、[1]~[3]のいずれかの鉄基軟磁性粉末。
[5]前記鉄基軟磁性粉末を構成する粒子の表面に絶縁被覆を有する、[1]~[4]のいずれかの鉄基軟磁性粉末。
[6][5]の鉄基軟磁性粉末を用いてなる磁性部品。
[7][5]の鉄基軟磁性粉末を用いてなる圧粉磁芯。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄損の低い圧粉磁芯を製造することができる鉄基軟磁性粉末が提供される。より詳細には、本発明の鉄基軟磁性粉末を絶縁被覆することで、良好な磁気特性(飽和磁束密度、保磁力)を有する絶縁被覆鉄基粉末を製造することができ、この絶縁被覆鉄基粉末を用いることにより、鉄損の低い圧粉磁芯を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0013】
[鉄基軟磁性粉末]
本発明の一実施形態である鉄基軟磁性粉末(以下、「軟磁性粉末」ともいう。)は、結晶化度が10%以下であり、体積基準の粒子円形度の中央値(C50)が0.85以上であり、窒素雰囲気中、昇温速度3℃/分で400℃まで昇温し、該温度で20分間保持し、次いで室温まで自然放冷した粉末中のCuクラスタの数密度が1.00×103個/μm3以上1.00×106個/μm3以下であり、かつCuクラスタのCu濃度の平均値が30.0at%以上である。
ここで、「鉄基」とは、50質量%以上のFeを含むことをいう。「室温」は、0℃以上40℃以下をいう。「自然放冷」とは、特別の冷却手段を使用することなく、室温の大気中に放置したまま自然冷却させることをいう。
【0014】
(結晶化度)
本発明の軟磁性粉末は、圧粉成形後に熱処理を施し、ナノ結晶を析出させてから磁芯として用いることを想定している。そのため、粉末の状態での結晶化度は低いほうが望ましく、10%以下とする。結晶化度は、好ましくは5%以下であり、0%であってもよい。結晶化度が10%超であると、圧粉成形後の熱処理過程でのナノ結晶粗大化が進み、磁気特性が大幅に低下する。
【0015】
結晶化度は、粉末X線回折法を用いて評価することができ、X線回折により得られたプロファイルの、非晶質領域の面積と結晶ピークの面積の合計に対する結晶ピークの面積の比率として算出することができる。
【0016】
(円形度)
本発明における円形度は、(1)式で定義される値とする。
【数1】
(ここで、
Cは、円形度であり、
Aは、1粒子の投影面積であって、単位はm
2であり、
Pは、1粒子の粒子周囲長さであって、単位はmである。)
【0017】
円形度の測定は次のとおりとする。
測定対象とする粉末を、例えば圧縮空気で、平坦な表面(例えば、ガラス板の表面)上に分散させて、各粒子の画像を顕微鏡で撮影する。測定対象の粉末における全粒子数は1000個以上とする。
撮影画像をコンピュータで解析し、各粒子の投影面積と粒子周囲長さを測定する。測定結果を上記(1)式に代入して、各粒子の円形度を算出する。
各粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径(円相当径)を算出し、その直径と同じ直径を有する球の体積を算出する。これにより、各粒子の円形度と体積が得られ、各円形度における体積頻度を算出することができる。
【0018】
測定対象の粉末における全粒子の円形度について昇順で並べ、全粒子の体積の総和の50%に相当する粒子の円形度を中央値(C50)とする。円形度の上限は、その定義より1であるため、円形度の中央値は1以下である。円形度の平均値は、円形度が大きい粒子の値の影響を大きく受けるため、粉末全体の円形度を示す指標として、本発明では円形度の中央値(C50)を用いる。
【0019】
本発明の軟磁性粉末における体積基準の円形度の中央値(C50)は0.85以上であり、好ましくは0.90以上であり、さらに好ましくは0.95以上である。この範囲であれば、粒子の形状磁気異方性が低減し、保磁力が十分に低減する。
【0020】
(Cuクラスタ)
本発明の軟磁性粉末は、窒素雰囲気中、昇温速度3℃/分で400℃まで昇温し、該温度で20分間保持し、次いで室温まで自然放冷した粉末中のCuクラスタの数密度が1.00×103個/μm3以上1.00×106個/μm3以下であり、かつCuクラスタのCu濃度の平均値が30at%以上である。
【0021】
Cuクラスタとは、粉末中のCu原子が優先的に集合した領域であり、ここでは、3次元アトムプローブ電解イオン顕微鏡により測定された原子の集合体であって、原子の集合体が、Cu原子を13個以上含み、含まれるCu原子のいずれを基準としても、その基準となるCu原子と隣り合う他のCu原子との距離が互いに0.5nm以下である条件を満たす領域(以下「クラスタ領域」ともいう。)中に含まれる全原子と定義する。
また、CuクラスタのCu濃度は、以下の式で算出した数値である。
Cu濃度(at%)=クラスタ領域内のCu原子数/クラスタ領域の全原子数×100
【0022】
Cuクラスタについては、未熱処理の状態でも、クラスタの核となるものが非晶質相中に存在すると考えられるが、現状の技術ではその核を捉えるのは難しく、粉末に対して熱処理を行って、間接的に評価しなければ、定量化が困難である。そのため、本発明におけるCuクラスタの数密度及びCu濃度は、所定の条件下で測定された値とし、具体的には、本発明の軟磁性粉末を、窒素雰囲気中、昇温速度3℃/分で400℃まで昇温し、該温度で20分間保持し、次いで室温まで自然放冷した粉末に対する測定値とする。自然放冷した粉末は、自然放冷により室温に到達した後、さらなる熱処理に付されていない粉末であり、Cuクラスの測定は、自然放冷により室温に到達した直後の粉末に対して行ってもよく、自然放冷により室温に到達した後室温で放置した粉末に対して行ってもよい。
【0023】
Cuクラスタの測定における、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡による原子の検出効率は30%程度とする。検出効率が30%超の装置で測定した場合、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡の測定値を、検出効率30%とした場合の値に逆算し、Cuクラスタの数密度及びCu濃度を算出した値を利用してもよい。
Cuクラスタの解析は、Maximum Separation Methodにより、Cu原子間の最大間隔dmaxとして0.5nm、クラスタを構成する最低限指数NminとしてCu原子13個をパラメータとして行うことができる。
3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡の測定には、測定対象の粉末を構成する粒子中央部から試料を採取し、FIB(Focused Ion Beam)加工により、針状にした針状試料を使用することができる。針状試料の先端は、100nmφ以下とすることが好ましい。測定体積は、8×10-24m3以上であり、1×10-20m3以下とすることができる。
針状試料のイオン化は、電圧負荷による電解蒸発でも、レーザーアシストによる電界蒸発でもよい。
【0024】
本発明におけるCuクラスタの数密度は、1.00×103個/μm3以上1.00×106個/μm3以下である。Cuクラスタの数密度が、上記下限よりも小さいと、ナノ結晶核生成量が不十分で、十分な磁束密度が得られなくなる。また、上記上限よりも大きいと、クラスタを核として生成したbccFeであるナノ結晶の粗大化が促進されてしまうため、より短時間での熱処理が必要となり、圧粉磁芯化後のナノ結晶化熱処理において、安定した特性の確保が困難となる。
【0025】
本発明におけるCuクラスタのCu濃度の平均は、30.0at%以上である。CuクラスタのCu濃度が、上記下限よりも小さいと、これを核としてbccFeを成長させることが困難となる。CuクラスタのCu濃度は、好ましくは35.0at%以上、さらに好ましくは40.0at%以上である。Cu濃度の上限は、特に限定されず、100at%であってもよい。
【0026】
(組成)
本発明の鉄基軟磁性粉末は、不可避的不純物を除く成分組成が、
組成式:FeaMbSicBdPeCuf
(式中、
79.0at%≦a+b≦84.5at%、
0at%≦b≦10.0at%、
0at%≦c<6.0at%、
0at%<d≦11.0at%、
3.0at%<e≦11.0at%、
0.2at%≦f≦1.0at%、
a+b+c+d+e+f=100at%であり、
Mは、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素である)
であることが好ましい。このような組成とすることにより、粉末の結晶化度を10%以下に抑えることができ、熱処理後によって、bccFeのナノ結晶を析出させて磁性特性を一層改善することができる。
軟磁性粉末には、製造工程等から不可避的に混入される不可避的不純物が含まれ得るが、上記組成式は、不可避的不純物を除いたものである。
【0027】
79.0at%≦a+b≦84.5at%、0at%≦b≦10.0at%:
組成式におけるMは、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素である。Fe、Ni及びCoは軟磁気特性の発現を担う元素である。粉末の磁束密度を高いレベルに維持するために、a+bは79.0at%以上とするのが好ましい。
Ni及びCoの過度の添加は飽和磁束密度の低下や原料コストの増加を招くため、bは10.0at%以下とするのが好ましい。bは0at%であってもよい。
Fe、Ni、Coの添加量が過剰な場合、製造過程で完全な非晶質とするのが難しくなるため、a+bは84.5at%以下とするのが好ましい。
a+bは、より好ましくは84.0at%以下であり、さらに好ましくは83.0at%以下である。
【0028】
0at%≦c<6.0at%:
Siは、圧粉成形後の熱処理中に、磁気特性に悪影響を及ぼすFe-P系析出物の発生を抑制する効果がある。Si含有量は0at%であってもよいが、安定してナノ結晶組織を得るためには、2.0at%以上の添加が好ましい。一方、過度の添加はナノ結晶化後の粉末の磁束密度低下を招くため、6.0at%未満とするのが好ましい。cは、より好ましくは5.0at%以下であり、さらに好ましくは4.0at%以下である。
【0029】
0at%<d≦11.0at%:
Bは、安定した非晶質の形成を担う元素である。ただし、過度の添加は、ナノ結晶化後の粉末の磁束密度低下を招くため、11.0at%以下とするのが好ましい。dは、より好ましくは10at%以下であり、さらに好ましくは9.5at%以下である。dは、1at%以上であることが好ましい。
【0030】
3.0at%<e≦11.0at%:
Pを添加することで、さらに非晶質が形成され易くなるため、3.0at%超で添加することが好ましい。Pは粉末の保磁力を低減する効果もある。一方、過度の添加は成形後のナノ結晶化を目的とする熱処理の最中に保磁力を大幅に増加させるFe-P系析出物の形成を容易にし、ナノ結晶化後の粉末の磁束密度低下を招くため、11.0at%以下とするのが好ましい。eは、より好ましくは10.0at%以下であり、さらに好ましくは9.0at%以下である。
【0031】
0.2at%≦f≦1.0at%:
CuはCuクラスタを生成するのに必須の元素であり、0.2at%以上で添加することが好ましい。一方、過度の添加は、Cuクラスタが過多となる状況を生み出し、ナノ結晶化後の磁気特性を劣化させるため、1.0at%以下とすることが好ましい。fは、より好ましくは0.3at%以上であり、また、より好ましくは0.8at%以下である。
【0032】
Pの置換:
本発明の組成式におけるPは、4.0at%以下までの量で、C、Mn、Cr、Mo、Nb、Sn、Zr、Ta、W、Hf及びVの少なくとも1種で置換することができる。Pの一部をこれらの元素で置換することで、サイズの大きく異なる原子が混入し、非晶質が形成され易くなる。また、非晶質組織中の元素分布の均質化にも寄与するため、保磁力を低下させることができる。置換する場合、好ましくは0.3at%以上であり、より好ましくは1.0at%以上である。
【0033】
不可避的不純物:
不可避的不純物としてOが挙げられるが、Oが過度に混入すると磁束密度の低下や保磁力の増加を招くため、O含有量を0.3質量%以下に抑制することが好ましい。O含有量は、0.2質量%以下に抑制することがより好ましく、0質量%であってもよい。
【0034】
[製造方法]
本発明の軟磁性粉末は、金属溶湯に水やガスを吹き付け、噴霧状にして冷却凝固させる水アトマイズ法やガスアトマイズ法を用いて製造することができる。あるいは、粉砕法や酸化物還元法で得られた粉末を加工することによって得ることもできる。
【0035】
結晶化度は、水アトマイズ法の場合は、水アトマイズ時の水圧、水量等を制御することにより、ガスアトマイズ法の場合は、ガスアトマイズ時のガス圧、ガス流量等を制御することにより調整することができる。
【0036】
得られた粉末を様々な方法で分級して所定の円形度や粒子径に調整してもよい。例えば、水アトマイズ法やガスアトマイズ法を用いる場合、水やガスを吹き付けるガスを低圧に調整することにより、円形度を所定の範囲とすることができる。あるいは、円形度の調整は、粒子表面の平滑化や、篩での分級で円形度の低い粒子を除去することで行うこともできる。例えば、粉砕法や酸化物還元法、あるいは通常の高圧での水アトマイズ法やガスアトマイズ法で得られた粉末の粒子表面を平滑化するか、かつ/又は篩での分級により円形度の低い粒子を除去してもよい。
【0037】
Cuクラスタの数密度及び濃度は、アトマイズ法を用いて得られた粉末に対して、不活性又は減圧雰囲気下で熱処理を実施することにより調整することができる。熱処理は、水アトマイズ粉末の場合、脱水後の乾燥処理を兼ねてもよい。熱処理の温度は、100℃以上300℃以下であることが好ましい。温度が、この範囲であれば、十分な効果が得られ、クラスタの過多な生成量を抑制し、ナノ結晶化後の磁気特性が劣化することを回避することができる。熱処理の時間は、任意に変えることができるが、生産性を考慮すると12時間以下とするのが好ましい。
【0038】
本発明の鉄基軟磁性粉末は、見掛密度が3.70Mg/m3以上であることができ、好ましくは4.00Mg/m3以上である。工業的に達成可能な見掛密度は5.00Mg/m3以下である。また、平均粒子径(D50)は100μm以下であることができ、好ましくは20μm以上40μm以下である。
見掛密度は、JIS Z 2504に規定された方法で測定することができる。
平均粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準積算粒度分布が50%となる粒径である。
【0039】
[絶縁被膜]
本発明の鉄基軟磁性粉末は、該粉末を構成する粒子の表面に絶縁被覆を備えることができる。
【0040】
絶縁被覆は、特に限定されず、無機絶縁被覆であっても、有機絶縁被覆であってもよい。これらの一方を用いても、両方を用いてもよい。
無機絶縁被覆としては、アルミニウム化合物を含有する被膜が好ましく、リン酸アルミニウムを含有する被膜がより好ましい。無機絶縁被覆は、化成皮膜であってもよい。
有機絶縁被覆としては、有機樹脂被膜が好ましい。有機樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらを単独で含んでいても、2種以上を任意の比率で含んでいてもよい。中でも、シリコーン樹脂を含有する被膜がより好ましい。
絶縁被覆は、1層の被膜であっても、2層以上からなる多層被膜であってもよい。多層被膜は、同種の被膜からなる多層被膜であってもよく、異なる種類の被膜からなる多層被膜であってもよい。
【0041】
シリコーン樹脂としては、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製の、SH805、SH806A、SH840、SH997、SR620、SR2306、SR2309、SR2310、SR2316、DC12577、SR2400、SR2402、SR2404、SR2405、SR2406、SR2410、SR2411、SR2416、SR2420、SR2107、SR2115、SR2145、SH6018、DC-2230、DC3037、QP8-5314や、信越化学工業株式会社製の、KR-251、KR-255、KR-114A、KR-112、KR-2610B、KR-2621-1、KR-230B、KR-220、KR-285、K295、KR-2019、KR-2706、KR-165、KR-166、KR-169、KR-2038、KR-221、KR-155、KR-240、KR-101-10、KR-120、KR-105、KR-271、KR-282、KR-311、KR-211、KR-212、KR-216、KR-213、KR-217、KR-9218、SA-4、KR-206、ES-1001N、ES-1002T、ES1004、KR-9706、KR-5203、KR-5221などの銘柄が挙げられるが、これらに限定されない。これらは単独で用いても、2種以上を任意の比率で用いてもよい。
【0042】
アルミニウム化合物としては、アルミニウムを含む任意の化合物を使用でき、例えば、アルミニウムのリン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、水酸化物などが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を任意の比率で用いてもよい。
アルミニウム化合物を含有する被覆は、アルミニウム化合物を主体とする被膜であってよく、アルミニウム化合物からなる被膜であってもよい。被膜は、さらにアルミニウム以外の金属を含む金属化合物を含有してもよい。アルミニウム以外の金属としては、例えば、Mg、Mn、Zn、Co、Ti、Sn、Ni、Fe、Zr、Sr、Y、Cu、Ca、V、Baなどが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を任意の比率で用いてもよい。アルミニウム以外の金属を含む金属化合物としては、例えば、リン酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、水酸化物などが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を任意の比率で用いてもよい。金属化合物は、水などの溶媒に可溶であることが好ましく、水溶性金属塩であることがより好ましい。
【0043】
絶縁被覆の被覆量は、特に限定されないが、鉄基軟磁性粉末に対し、0.1質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。
【0044】
本発明の鉄基軟磁性粉末は、絶縁被覆中、絶縁被覆の下、及び絶縁被覆の上の少なくとも1つに、上記絶縁被膜とは異なる物質を含有していてもよい。このような物質としては、濡れ性を改善するための界面活性剤、粒子間結着のための結合剤、pH調整のための添加剤などが挙げられる。絶縁被覆全体に対する前記物質の総量は、10質量%以下とすることが好ましい。
【0045】
絶縁被覆の形成方法は、特に限定されないが、湿式処理により形成することが好ましい。湿式処理としては、例えば、絶縁被覆形成用処理液と軟磁性粉末とを混合する方法が挙げられる。
混合方法は、特に限定されないが、例えば、アトライター又はヘンシェルミキサーなどの槽内で軟磁性粉末と処理溶液とを撹拌混合する方法や、転動流動型被覆装置などにより軟磁性粉末を流動状態として処理溶液を供給して混合する方法などが好ましい。
軟磁性粉末への溶液の供給は、混合開始前又は開始直後に全量を供給してもよく、混合中に数回に分けて供給してもよい。あるいは、液滴供給装置、スプレーなどを用いて、混合中に継続して処理液を供給してもよい。
【0046】
[圧粉磁芯]
本発明の他の実施形態である圧粉磁芯は、上記鉄基軟磁性粉末を用いてなる圧粉磁芯である。
圧粉磁芯の製造方法は、特に限定されず、任意の方法を用いることができる。例えば、本発明の鉄基軟磁性粉末を金型に装入し、所望の寸法及び形状となるように加圧成形することによって圧粉磁芯を得ることができる。鉄基軟磁性粉末は絶縁被膜を備えたものであることが好ましい。
【0047】
加圧成形は、特に限定されず、任意の方法を用いることができ、例えば、常温成形法、金型潤滑成形法などが挙げられる。
成形圧力は、用途に応じて適宜決定することができるが、成形圧力を増加すれば、圧粉密度が高くなり、磁気特性が向上する点から、490MPa以上が好ましく、より好ましくは686MPa以上である。
【0048】
加圧成形に際しては、潤滑剤を用いることができる。潤滑剤は、金型壁面に塗布しても、鉄基軟磁性粉末に添加してもよい。潤滑剤を使用することにより、加圧成形時に金型と粉末との間の摩擦を低減することができ、成形体密度の低下の一層の抑制が可能であるとともに、金型から抜き出す際の摩擦も低減でき、取り出し時の成形体(圧粉磁芯)の割れを防止できる。
潤滑剤は、特に限定されず、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸、脂肪酸アミドなどのワックスが挙げられる。
【0049】
得られた圧粉磁芯に対して熱処理を施してもよい。熱処理を行うことにより、歪取りによるヒステリシス損失の低減や成形体強度の増加といった効果を見込むことができる。熱処理条件は、粉末の適正なナノ結晶化温度に合わせて適宜決定できるが、一般的には200℃以上700℃以下、時間は5分以上300分以下程度が好ましい。熱処理は、大気中、不活性雰囲気中、還元雰囲気中、真空中など、任意の雰囲気で行うことができる。圧粉磁芯中の均一なナノ結晶化のためには、熱処理において、過度に早い昇温速度を適用することは好ましくなく、昇温速度は10℃/分以下が好ましく、さらに好ましくは5℃/分以下である。生産性の点から、昇温速度は1℃/分以上が好ましく、さらに好ましくは2℃/分以上である。
【0050】
[用途]
本発明の鉄基軟磁性粉末を出発原料として用いることにより、鉄損の低い圧粉磁芯を製造することができる。本発明の鉄基軟磁性粉末は、特にトランス、インダクタ、モータの磁芯等の磁性部品等を製造する際の出発原料として好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により、さらに本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例により制限されるものではない。
【0052】
(鉄基軟磁性粉末の評価)
実施例における鉄基軟磁性粉末の評価は、以下のようにして行った。
【0053】
(1)円形度
対象となる鉄基軟磁性粉末を乾燥した後、粒子画像イメージング分析装置(スペクトリス株式会社製 モフォロギG3)に装入した。モフォロギG3は、顕微鏡により粒子を撮像し、得られた画像を解析する機能を有する装置である。
乾燥させた鉄基軟磁性粉末を、個々の粒子の形状が判別可能となるように、500kPaの空気によりガラス上に分散させた。次いで、ガラス上に分散させた粉末をモフォロギG3付属の顕微鏡で観察し、視野に含まれる粒子の個数が5000個になるよう自動で倍率を調整した。その後、視野内に含まれる5000個の粒子について画像解析を行い、自動的に各粒子の円形度φを算出した。得られた個々の粒子の円形度を昇順に並べた際の、円形度の中央値(C50)を求めた。
【0054】
(2)結晶化度
鉄基軟磁性粉末の結晶化度の評価は、先に述べた粉末X線回折を用いる方法によって実施した。
【0055】
(3)Cuクラスタの数密度及びCuクラスタの濃度
対象の鉄基軟磁性粉末を、窒素雰囲気中で、3℃/分で400℃に昇温し、400℃で20分間、窒素雰囲気中で保持し、次いで室温まで自然冷却した。冷却後の鉄基軟磁性粉末について、先に述べた方法で、針状試料を作成し、先に述べた方法で、3次元アトムプローブ電界イオン顕微鏡(3DAP)によるCuクラスタの評価を実施した。
3DAPの原子の検出効率は30%程度とした。針状試料は2個用意し、1個は、電圧負荷による電界蒸発でイオン化し、もう1個は、レーザーアシストによる電界蒸発でイオン化し、測定を行った。数密度及びCu濃度は、これらの平均値である。
【0056】
(4)磁気特性
上記(3)の熱処理後の鉄基軟磁性粉末について磁気特性を評価した。振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)を使用して飽和磁気モーメントを測定し、保磁力と飽和磁束密度測定を算出した。最大磁場は1300kA/mとした。
【0057】
(圧粉磁芯の作製と評価)
実施例で得られた鉄基軟磁性粉末((3)の熱処理をしていないもの)に絶縁被覆用溶液を添加し、混合することにより絶縁被覆を施した。絶縁被覆用溶液は、樹脂分60質量%のシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング株式会社製 SR2400)をさらにキシレンにより希釈したものであり、この溶液を用いて鉄基軟磁性粉末に対する樹脂が3質量%となるように被覆した。混合後、乾燥のため室温の大気中で10時間静置した。乾燥後、樹脂硬化のため150℃で60分間の熱処理を行った。次に、絶縁被覆した鉄基軟磁性粉末を、ステアリン酸リチウムを塗布した金型に充填し、加圧成形して圧粉磁芯(外径38mm、内径25mm、高さ6mm)とした。成形圧力は1470MPaとし、1回で成形した。成形体の強度向上のためN2雰囲気下の炉で室温から3℃/分で昇温後に400℃で20分間保持した。熱処理後はN2雰囲気下で炉から取り出してから室温まで空冷し、得られた試料を圧粉磁芯の試験片とした。
【0058】
上記試験片に巻き線を行い(一次側100ターン、二次側20ターン)、高周波鉄損測定器(メトロン技研株式会社製)を用いて、鉄損(0.1T、20kHz)を測定した。
【0059】
<実施例1>
表1に示す成分組成の溶鋼を水アトマイズ法により急冷凝固させて、鉄基軟磁性粉末を作製した。表1のNo.1~7は、水圧や溶鋼の注入速度を適宜調整することにより結晶化度と円形度を調整した。具体的には、No.1~4では、水アトマイズ時の水圧を変化させており、水圧が高い順にNo.1、No.2、No.3及びNo.4であり(No.1がもっとも水圧が高く、No.4がもっとも水圧が小さい。)、水圧の小さいもの程、結晶化度が高い。No.5~7は、水アトマイズ時の噴霧水の水圧及び溶鋼の注入速度を変化させており、水圧が小さい順にNo.5、No.6及びNo.7であり(No.5がもっとも水圧が低く、No.7がもっとも水圧が高い)、溶鋼注入速度が小さい順にNo.5、No.6及びNo.7である(No.5がもっとも遅く、No.7がもっとも速い)。No.8~12は、No.1と同等の条件で水アトマイズを行った。
次に、水アトマイズ法により製造した粉末に対して、Cuクラスタの密度調整を兼ねた乾燥処理を行った。乾燥処理は、No.1~7は炉温を180℃とし、6時間の大気雰囲気で、さらに大気圧に対し10Paの減圧下で6時間の処理を実施した。
乾燥処理における大気雰囲気での処理について、No.8は、120℃で6時間、No.9は80℃で6時間、No.10は220℃で6時間、No.11は290℃で6時間、No.12は360℃で6時間とした。
【0060】
得られた軟磁性粉末の特性の測定結果を表1示す。軟磁性粉末の合否判定は、以下のとおりである。
磁束密度が1.65T以上かつ保磁力が100A/m以下 ・・・◎
磁束密度が1.65T以上かつ保磁力が100A/m超150A/m以下・・・〇
磁束密度が1.65T未満かつ/又は保磁力が150A/m超 ・・・×
「〇」と「◎」が合格であり、「×」は不合格である。
【0061】
【0062】
表1より、本発明の鉄基軟磁性粉末に相当する発明例は、合否判定が「〇」と「◎」であり、優れた磁気特性を有していた。また、発明例の鉄基軟磁性粉末を用いて作製した圧粉磁芯は、鉄損が全て300kW/m3を下回っており、優れた磁気特性を有していた。
【0063】
<実施例2>
Si、B、P、Cuの添加量の影響を検討するために、表2に示す成分組成の鉄基軟磁性粉末を作製した。作製方法は、使用した溶鋼の成分組成を変更したこと以外は、実施例1のNo.1と同様である。
【0064】
【0065】
表2のNo.13~34は、所定の組成式を満たす発明例であるが、合否判定は全て「◎」であり、圧粉磁芯の鉄損も全て200kW/m3以下であり、優れた磁気特性を有していた。
【0066】
<実施例3>
Feの一部をNi、Coと置換した際の影響を検討するために、表3に示す成分組成の鉄基軟磁性粉末を作製した。作製方法は、使用した溶鋼の成分組成を変更したこと以外は、実施例1のNo.1と同様である。
【0067】
【0068】
表3のNo.35~43は、所定の組成式を満たす発明例であるが、合否判定は全て「◎」であり、圧粉磁芯の鉄損も全て200kW/m3以下であり、優れた磁気特性を有していた。
【0069】
<実施例4>
Pの一部をMn、Cr、Mo、Nb、Sn、Zr、Tr、W、Hf、Vと置換した際の影響を検討するために、表4に示す成分組成の粉末を作製した。作製方法は、使用した溶鋼の成分組成を変更したこと以外は、実施例1のNo.1と同様である。
【0070】
【0071】
表4のNo.44~72は、Pの一部を所定の元素で置換した発明例であるが、合否判定は全て「◎」であり、圧粉磁芯の鉄損も全て200kW/m3以下であり、優れた磁気特性を有していた。
【0072】
<実施例5>
軟磁性粉末の不可避的不純物として含まれるO含有量の影響を検討するために、表5のNo.73~75に示す組成の粉末を作製した。作製方法は、使用した溶鋼の成分組成を変更したこと以外は、実施例1のNo.1と同様であるが、O含有量の相違は噴霧中の雰囲気酸素濃度を調整したことによる。
【0073】
【0074】
表5のNo.73~75は、不可避的不純物であるO含有量が0.3質量%以下に抑制された発明例であるが、鉄基軟磁性粉末の合否判定は全て「◎」であり、圧粉磁芯の鉄損も全て200kW/m3以下であり、優れた磁気特性を有していた。