(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】断熱材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/02 20060101AFI20230630BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230630BHJP
F16L 59/02 20060101ALI20230630BHJP
C01B 33/157 20060101ALI20230630BHJP
C01B 33/14 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
B32B5/02 Z
B32B9/00 A
F16L59/02
C01B33/157
C01B33/14
(21)【出願番号】P 2019062142
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 崇
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健史
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/157784(WO,A1)
【文献】特開2017-155402(JP,A)
【文献】特表平10-510888(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132652(WO,A1)
【文献】特開2018-141523(JP,A)
【文献】特開平07-300762(JP,A)
【文献】特開2020-056504(JP,A)
【文献】特開2018-204708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
F16L 59/00-59/22
C01B 33/00-33/193
C08J 9/00- 9/42
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアロゲル層と、
エアロゲルと繊維とを含む複合層と、を含み、
前記エアロゲルは、シリカエアロゲルであり、
前記繊維は、捲縮繊維を含
み、
前記捲縮繊維は、低融点繊維と高融点繊維と、を含み、
前記低融点繊維の融点が170~190℃であり、
前記高融点繊維の融点が250~260℃であり、
前記繊維における前記低融点繊維の配合比率は20~50重量%であり、
無負荷状態において自立した3次元形状を有している断熱材。
【請求項2】
前記3次元形状は、凹部、凸部、湾曲部、屈曲部のいずれかを有する請求項1記載の断熱材。
【請求項3】
前記繊維は、
前記捲縮繊維を交絡させた布状である請求項1または2記載の断熱材。
【請求項4】
前記繊維は、捲縮加工されたポリエステルからなり、
前記繊維の
捲縮加工前の平均繊維長は、30~100mm
であり、
前記繊維の
捲縮加工後の平均繊維長は
、20~90mmである請求項1~3のいずれか1項に記載の断熱材。
【請求項5】
前記エアロゲル層は前記複合層の両面に位置し、
前記3次元形状の部分において、前記複合層が前記エアロゲル層から露出している請求項1~4のいずれか1項に記載の断熱材。
【請求項6】
前記エアロゲルは、前記繊維の空隙部と表面に配置される請求項1~5のいずれか1項に記載の断熱材。
【請求項7】
前記捲縮繊維は、部分的に伸ばされた状態の部分を有する請求項1~6に記載の断熱材。
【請求項8】
前記断熱材は、一つの面を被覆材に被覆されている請求項1~7のいずれか1項に記載の断熱材。
【請求項9】
前記被覆材は、可逆性の熱可塑性樹脂であり、シート状、フィルム状、布状、フォーム状である請求項8に記載の断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材およびその製造方法に関する。特に、効果的な遮音性能と断熱性能を併せ持つ、自立した3次元形状を成す断熱材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、高い遮音性能と高い断熱性能を有する部材は知られておらず、音響対策としては吸音性能を有する部材による対策が主流である。用途に応じて、高温になる装置・部材に関しては繊維材による対策、比較的低温の装置・部材に関してはフォーム材による対策を講じることが主流である。
【0003】
しかしながら、遮音性と断熱性とに優れた遮音断熱材を提供する方法がある。先行技術文献としては、例えば、特許文献1が知られている。
【0004】
特許文献1において、不織布繊維にエアロゲルの前駆体であるゾル溶液を含浸、ゲル化させ、複合層を形成する方法が開示されている。この方法では、均一な厚みで高い断熱性能の断熱シートが製造可能であり、電子機器などの筐体内の狭いスペースにおいても十分な断熱効果が得られる。特許文献1により製造された断熱シート(厚さ1mm)の遮音性能については、1k~5kHz帯域の平均値において、10dBを超えることが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1における断熱シートでは、柔軟性を有することから曲げによる形状追従性を得ることが出来るが、形状自立性を得ることが難しい。
一般的に、遮音材の性能を表現する上で、音の周波数と透過損失の相関で表現されることが多い。人の可聴領域は20~20000Hzと言われており、その高周波側は個人差により可聴範囲は変動する。我々の生活上、身近なもので表現すると、一般的な88鍵タイプのピアノで数10~4200Hz程度と言われている。最低音は可聴領域の下限付近だが、最高音は余裕がある。しかし、年齢と共に高音域が聞き取りにくくなることから、ピアノの出す音が凡そ我々の生活する上での可聴領域と考えられる。以上のことから、本発明において、遮音性能については、5000Hz以下の透過損失で評価することにした。
【0007】
よって、本発明の課題は、効果的な遮音性能と断熱性能を併せ持つ、自立した3次元形状を成す断熱材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、エアロゲル層と、エアロゲルと繊維とを含む複合層と、を含み、上記繊維は、捲縮繊維を含む断熱材を用いる。
【0009】
また、繊維とエアロゲルを複合化させ断熱材にする工程と、上記断熱材を加熱する工程と、上記加熱した断熱材を型で加圧成形する工程と、を含む断熱材の製造方法を用いる。
【0010】
また、繊維とエアロゲルを複合化させ断熱材にする工程と、上記断熱材と被覆材を積層させる工程と、上記積層させた部材を加熱する工程と、上記加熱した部材を型で加圧成形する工程と、を含む断熱材の製造方法を用いる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、遮音性能がある3次元形状の断熱材が製造可能で、適用可能なアプリケーション領域を広げることが可能となる。また、表皮に吸音性能のある部材を積層することも可能であり、熱・音を発するアプリケーションへの適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態1の断熱材の製造方法の工程図
【
図2】(a)~(b)本発明の実施の形態1の断熱材の概略断面図
【
図3】(a)~(b)本発明の実施の形態1の3次元成形時の繊維の概略断面図
【
図4】(a)~(b)本発明の実施の形態1の断熱材表面のSEM画像図
【
図5】本発明の実施の形態2の断熱材の製造方法の工程図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1のシート状断熱材3の製造方法の工程図である。
図2(a)は、実施の形態1のシート状断熱材3の断面図、
図2(b)は実施の形態1のシート状断熱材3を示す。
図1~2(b)を用いて全体構成を説明する。
【0014】
<構造>
シート状断熱材3は、繊維5とエアロゲルとを含む複合層2と、複合層2の両面に位置するエアロゲル層1とを含む。
【0015】
エアロゲル層1は、繊維5を含まず、エアロゲルを含む層である。
【0016】
複合層2は、繊維5とエアロガルとを含む層である。
【0017】
<全体プロセス>
図1に沿って製造プロセスを説明する。
(1)繊維材料セット
後の含浸工程でエアロゲル前駆体(ゾル溶液)を含浸させるために、繊維5をセットする。本実施の形態1では、2種類の捲縮加工されたポリエステルの繊維5を複合化して布状(不織布)にして用いている。
【0018】
捲縮加工とは、繊維5の1本1本に嵩高性と伸縮性をもたせるために施す加工であり、繊維5をスプリングのように巻いた状態にする加工方法である。この捲縮加工された繊維5を捲縮繊維と呼び、不織布化する前に予め捲縮加工を施す。捲縮繊維を交絡させて不織布を製造することで、弾力性に富んだ不織布を得ることができる。
【0019】
捲縮繊維とは、繊維5の中の1本1本が縮んで巻いている事を指す(ばねのように巻いている繊維のことである)。ウール(毛)などは捲縮性がありパーマをかけたように中の繊維1本1本が縮んで巻いていると、繊維が、かさ高になり伸縮性や弾力性も出てくる。ポリエステルの繊維5では仮撚加工でこの捲縮性を与えられる。
【0020】
捲縮繊維の一方の繊維は、比較的高融点(250~260℃)の高融点繊維5bであり、配合比率は50~80重量%である。もう一方の繊維は、比較的低融点(170~190℃)の低融点繊維5aであり、配合比率は20~50重量%である。
【0021】
低融点繊維5aの比率が50重量%を超えると、後の工程で加熱する際に固化する割合が高くなりすぎるため、柔軟性・成形性を低下させる原因になる。低融点繊維5aの比率が20重量%を下回ると、形状自立性が低下する。
【0022】
繊維5の選定については、後の成形条件や断熱材としての耐熱温度の観点から設定することが好ましい。本実施の形態における繊維5の材質はポリエステル繊維について記述しているが、これに限定されるものではなく、異材質の繊維5を混合させても良い。可逆性の熱可塑性樹脂繊維以外でも、バインダとの組合せで無機繊維を混合させても良い。
【0023】
繊維5の長については、両者とも、捲縮加工前の平均繊維長は30~100mm、好ましくは50~80mmであり、捲縮後の平均繊維長は20~90mm、好ましくは40~70mmである。繊維長が短すぎる場合、繊維同士の交絡不足となり、不織布としての強度が低下する。また、繊維長が長すぎる場合、不織布製造段階での生産性の低下、不要な毛羽立ちが発生する。
【0024】
繊維5の径については、両者とも、経済性を鑑み調達し易い平均繊維径5~20μmの一般的なグレードを選定した。繊維径が細すぎる場合は調達コストの上昇が考えられ、太すぎる場合は熱パスとなり断熱材に不適切となる。
(2)原料混合
シリカエアロゲルを製造する際の出発原料として、水ガラス(珪酸ソーダ水溶液)を用い、調製は水ガラスの珪酸濃度、またゲル化時に使用する酸の種類と濃度、ゲル化条件(温度、時間、pH)を調整することで制御できる。
【0025】
この水ガラスの珪酸濃度については、シリカ重量がゾル総重量に対して5~20重量%になるように調製すればよく、10~20重量%であると好ましい。珪酸濃度が、6重量%以下であると、珪酸濃度が薄いため湿潤ゲル骨格の強度が不十分になる場合がある。また、珪酸濃度が20重量%を越えると、ゾル溶液のゲル化時間が急激に早くなり制御できなくなる場合がある。
【0026】
酸については、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸などを使用することができるが、珪酸の加水分解反応の促進および得られるゲルの骨格強度、後に続く疎水化工程も考慮すると、塩酸を使用することが好ましく、濃度については1N~12Nが好ましく、より好ましくは6N~12Nである。塩酸濃度が低過ぎると、所望のpHに調整する際、より大量の希塩酸を添加する必要があるため、珪酸濃度が減少し、シリカネットワークの構築が効果的に進行しない場合がある。
【0027】
より工業的には、ゾル溶液のポットライフの観点から、所望のゲル化反応を起こすためには以下の方法が良い。必要な酸の2倍量を仕込んだゾル溶液Aと、酸を含まないゾル溶液Bを調整する。これらのゾル溶液をそれぞれ別系統で搬送し、塗布先の型や基材の直上で、これらのゾル溶液を混合させ、型や基材に塗布する方法が好ましい。
(3)含浸
繊維材料(不織布)にゾル溶液を注ぐ。ハンドロールでゾル溶液を不織布に押し込んで含浸させる。ゾル溶液の含浸量は、不織布繊維中の理論空間体積に対して過剰に使用する(100体積%以上)。不織布中の理論空間体積は、不織布繊維の嵩密度より計算する。また、含浸方法としては、不織布ロールをロールごとゾル溶液に浸漬させる方法や、Roll―to―Rollで不織布を一定速度で送りながら、ディスペンサーやスプレーノズルからゾル溶液を塗布する方法でも良い。生産性の観点からRoll―to―Roll方式が好ましい。
【0028】
(4)フィルム挟み
ゾル溶液を含浸させた不織布をプリプロピレンフィルム(厚み50μm×2枚)に挟み、室温23℃で数分間放置してゾル溶液をゲル化させる。このようにして不織布繊維と、不織布繊維中の空間体積に位置するシリカエアロゲルとを含有する複合層を形成する。不織布を挟むフィルムの材質、厚みに関しては、上記に限定されるものではない。
【0029】
フィルムの材質は、養生工程にて加熱を要するため、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などがよい。フィルムの材質は、使用最高温度が100℃以上であり、尚且つ、線熱膨張係数が100(×10-6/℃)以下である樹脂素材が好ましい。フィルムとして、線熱膨張係数が100(×10-6/℃)より大きい樹脂素材を用いた場合、不織布繊維もしくはゲルとの線膨張係数の差が大きくなる。このため、養生後にゲルを室温まで冷却する過程において、ゲルに皺が入ってしまう場合がある。尚、ゾル溶液を含浸させた不織布を仮にフィルム等に挟まずに、2軸ロールやスキージ等の何らかの方法で厚み規整を実施したとしても、ゲルが厚み規整治具表面に大量に付着してしまう。このため、狙いとする厚み規整ができない。さらに、断熱材の厚みバラツキを助長し、所望の熱伝導率を有する断熱材が得られないことになる。
【0030】
(5)厚み規整
ゲル化を確認後、ギャップを設定した2軸ロールにフィルムごと含浸不織布を通し、加圧する。そして、不織布から余分なゲルを絞りだして、厚みを1mm狙いで規整する。尚、厚み規整の方法は、上記に限定されるものではなく、スキージやプレスといった方法で厚みを規整してもよい。過剰に含浸されたゾル溶液(この段階ではゲル状)の余分なゲルの絞り出しにより、
図2(a)に示す、複合層2の両面にエアロゲル層1を形成する。エアロゲル層1は、ポリプロピレンフィルムで挟まれているため、平滑な面のゲルシートが製造できる。
【0031】
厚み規整のタイミングは、不織布に含浸されたゾル溶液がゲル化し始めた直後が好ましい。ゲル化前に厚み規整を行うと、流動性があるため、ロール加圧後に押し戻りが発生し、厚み規整の効果が得られない。十分に硬化が進むと流動性が全く無い状態となるため、厚み規整による圧力によりシリカネットワークを破壊し、ゲルにクラックを生じさせてしまう。また、厚み規整時のギャップ設定は、狙い厚みに2枚のフィルム厚みを足した総厚みに対して、5~20%減らした厚みとするのが好ましい。例えば、狙い厚みが1.0mm、フィルム厚みが0.05mmの場合、総厚みは1.1mmとなり、ギャップ設定値としては、0.88~1.05mmとする。ギャップ設定値を総厚みより小さくする理由は、後工程(養生、疎水化、乾燥工程)で膨潤して厚くなってしまうため、予め膨潤厚み分を差し引いておくためである。ギャップ設定値を総厚みの5%未満にした場合、シート状断熱材3の厚みは結果的に狙い厚みよりも厚くなる場合がある。ギャップ設定値が厚みの20%より大きくすると、最終的に得られるシートの厚みが目標の±20%以内からはずれる。
【0032】
(6)養生
前記ゲルシートを、乾燥時にかかる毛管力に耐えうるだけの強度にするために、シリカ粒子の重縮合、および、二次粒子の成長を促す必要がある。ゲル化後、ゲルシートの水分が揮発しない0~100℃で、好ましくは60~90℃、で加熱養生し、シリカ粒子の重縮合と二次粒子の成長を促進させる。養生温度が60℃未満であると珪酸に必要な熱が伝わらず、シリカ粒子の成長が促進されず、養生が十分に進行するまでに時間を要する上に、ゲル強度が低く、乾燥時に大きく収縮する場合があり、所望のエアロゲルが得られない場合がある。また、養生温度が90℃を超え100℃に近づくほど、ゲルシートの水分が揮発してゲルと分離する現象がみられ、これにより得られるゲルの体積が減少して、所望のエアロゲルが得られない場合がある。また、養生中にゲルシートの水分が容易に揮発しないよう、養生中の湿度を70%以上にすることが好ましい。養生時間は養生する温度やゲルシートの厚みにもよるが、3分~24時間が好ましい。養生時間が3分未満であると、ゲル壁の強度向上が不十分な場合がある。養生時間が24時間を超えると、ゲル壁の強度の向上における養生の効果が乏しくなり、逆に生産性を損なう場合がある。
【0033】
(7)フィルム剥がし
養生終了後、室温で放冷させた後、養生後のゲルシートを取り出して、フィルムを剥がす。
【0034】
(8)疎水化1(塩酸浸漬工程)
ゲルシートを塩酸(6~12規定)に浸漬後、常温23℃で45分以上静置してゲルの中に塩酸を取り込む。
【0035】
(9)疎水化2(シロキサン処理工程)
ゲルシートを例えば、シリル化剤であるオクタメチルトリシロキサンとアルコールとして2-プロパノール(IPA)の混合液に浸漬させて、55℃の恒温槽に入れて2時間反応させる。トリメチルシロキサン結合が形成され始めると、ゲルから塩酸水が排出され、2液分離する。上層にシロキサン、下層に塩酸水と2-プロパノールが、主に分布する。
【0036】
(10)乾燥
ゲルシートを150℃の恒温槽に移して2時間乾燥させると、シート状断熱材3が製造される。
なお、
図2(a)に示した構造を実現するためには、(3)~(5)で述べたように、過剰量のゾル溶液を含浸させた不織布を2枚のフィルムで挟み、ゲル化したのちに、一定のギャップを設定した2軸ロールの間を通すことで実現される。上記製造方法では、
図2(a)の構造において、複合層2から、両面のエアロゲル層1へエアロゲルが連続する。
【0037】
(11)断熱材セット
シート状断熱材3の両端2辺を固定する。固定方法は、クランプやピンテンターなどの方法を用いる。
【0038】
(12)加熱
ここから、
図3を用いて3次元成形の詳細を説明する。
図3は3次元成形時の繊維の概略断面図である。
図3(a)はシート状断熱材、
図3(b)は3次元形状断熱材を示す。
【0039】
固定されたシート状断熱材3を、低融点繊維5aの融点まで加熱し軟化させる。
【0040】
(13)加圧
加熱されたシート状断熱材3を、成形型へ搬送し、5~6kPaで加圧しながら、60sec保持する。加圧の過程で、目標厚みまで成形型を閉じていくと、軟化したシート状断熱材3は成形型の最も高い凸形状に接触し、引き伸ばされながら成形型に熱を奪われる。シート状断熱材3に引張応力がかかると、不織布の捲縮繊維が伸ばされると同時に、エアロゲルにも引張応力がかかる。エアロゲルの降伏点を超えて引張応力をかけると、エアロゲルが小片に破断しながら成形型に沿う。小片になったエアロゲルは不織布に絡み取られるが、表面付近の一部のエアロゲルは成形型にも付着する。これは、エアロゲルが脆弱な材料であるためである。捲縮繊維の伸びについては、3次元形状に関わり、成形前のシート状態に対し凹凸形状のアスペクト比(例えば凸形状であれば形状高さを形状幅で除算した値)が大きいほど捲縮繊維は伸ばされる。成形前の繊維状態は捲縮繊維が全方位に交絡しているが、成形過程で成形型の凸形状に向かって伸ばされていく。特にシート状から3次元形状に変形させる際に織皺がはいる様な形状部については、捲縮繊維の伸びが発生する。
【0041】
捲縮繊維の伸びが発生し易い(織皺がはいり易い)形状部としては、異なる三方向以上を面に囲われた形状部が挙げられ、例えば凸形状のコーナー部や半球体形状などがあり、より具体的には、当該形状部を2次元平面に展開する場合に、切れ目がなければ展開できない形状部が該当する。
【0042】
前記コーナー部では、3次元形状として最初に固化する面(凸形状であればその底面。当該面は成形型に温度を奪われ、温度が低融点繊維5a以下になると固化するため、それ以上の成形性がなくなる。)を起点に捲縮繊維が伸ばされる。前記工程(11)断熱材セットにおいて、シート状断熱材3は両端2辺を固定されているため、前記最初に固化する面と前記固定された辺の間にも引張応力がかかり、捲縮繊維が伸ばされる。
【0043】
囲われる面が二方向であれば、シート状断熱材3は柔軟性があるため伸びが発生し難いが、内包する低融点繊維5a同士が隣接していれば融着するため形状を保持することは可能である。
【0044】
形状強度については、内包する低融点繊維5aの割合を増やすことや、成形条件の変更で調整可能である。
【0045】
捲縮繊維は、上記のように部分的に他の部分と比較して伸ばされる。つまり、直線的になっている。
【0046】
本実施の形態で使用した捲縮繊維の自由長さは、捲縮繊維を引き伸ばした長さより5~20mm短いため、繊維の伸び量は20mm未満、好ましくは10mm未満である。シート状断熱材3に過剰な引張応力をかけると、捲縮繊維が伸ばされ捲縮状態を解きながら引張方向に繊維が配向し始め、繊維密度が低い場所から透けや穴開きが発生する。透けや穴開きが発生すると、エアロゲルの保持ができなくなり、断熱性能や遮音性能が低下する。
【0047】
不織布の温度が低融点繊維5aの融点未満に下がると、成形型に熱を奪われたシート状断熱材3の当該部は徐々に固化し始める。固化した当該部を起点に不織布は伸ばされながら成形型の形状に沿う。固化する過程で、不織布内の隣接する低融点繊維5a同士が融着し、高融点繊維5bと上記小片になったエアロゲルを保持して、3次元形状断熱材4の配置が固定される。
【0048】
本実施の形態では、成形型は室温にて実施したが、温調することで前後工程(加熱・冷却)を本工程に取り込むことも可能で、温度制御を高精度に行うことで形状転写性の向上が見込まれる。
【0049】
(14)冷却
成形型から取り出す前に、空冷にて60℃以下、好ましくは40℃以下まで冷却を行う。本実施の形態では、成形型に温調機能が無いため、成形型とシート状断熱材3が加圧時間経過後も熱をもった状態であり、高温状態で取り出すと、サンプルが成形型に張り付いてしまうことを防ぐためである。成形型に温調機能をつけることで生産性の向上が見込まれる。
【0050】
(15)取り出し
冷却完了後に成形型からサンプルを取り出すことで、
図2(b)や
図3(b)に示す3次元形状断熱材4を製造することが可能で、繊維材料の低融点繊維5aを選択的に溶融、固化させることで自立性の高い3次元形状を保つことが可能となる。
【0051】
本実施の形態での3次元形状の定義は、シェル構造の形状であるものとする。シェル構造とは、薄いシートに曲率を持たせ曲面形状にしたものであり、一般的なシートや布は3次元形状には含まないものとする。薄いシートを曲面板にすることで、平らなシートよりも強度を増すことが可能となる。本発明では、低融点繊維5aを含有させ選択的に溶融、固化させているため、交絡する低融点繊維5a同士が融着し、シェル構造の強度を高めることが可能で、この強度は加熱条件、加圧条件で調整可能である。
【0052】
前記自立性とは、成形されたシェル構造の3次元形状体が、常温・常圧下における無負荷状態において、当該3次元形状の寸法変化率が5%以下であることとする。例えば、コップ状の形状であれば、水平面上に底部もしくは上部を下にして形状が立った状態で3次元形状体を置いた場合に、支えがなくても3次元形状体そのままの状態を保ち、3次元形状体の外形寸法(上部外径寸法、底部外形寸法、高さ寸法)の寸法変化率が5%以下である性質のことをいう。
【0053】
ここで3次元形状とは、凹部、凸部、屈曲部、湾曲部などを有する形体であり、平面、直方体、立方体ではないものを意味する。
【0054】
この自立性をもつ3次元形状断熱材は、断熱材を施工する現場において取付性を大幅に改善することができる。
【0055】
また、低融点繊維5aの融点よりも大幅に低い温度で加熱しても形状を保つことは難しく、高融点繊維5bの融点よりも高い温度で加熱すると溶融樹脂がエアロゲルの細孔に入り込み、断熱性能を著しく低下させる。
【0056】
図2(b)におけるエアロゲル層1は、本実施の形態1におけるシート状断熱材3の固定部に相当し、クランプさせたために初期状態を保っているが、用途に応じてトリミングしても良い。
【0057】
<外形評価>
本発明品の3次元形状断熱材4の外形寸法の変化率は、常温・常圧下における無負荷状態において、1%以内であることを確認し、上記自立性があることも確認できた。また、指で押さえる程度の加圧で5%以上の寸法変化が生じ、加圧解放後に加圧前の外形寸法に復元することも確認できた。これは、断熱材を施工する現場において、取付性を改善することができると考えられる。
【0058】
<表面観察>
図4(a)と
図4(b)は、断熱材表面のSEM画像であり、
図4(a)は、工程(10)完了後のシート状断熱材、
図4(b)は、工程(15)完了後の3次元形状断熱材である。
【0059】
シート状断熱材3の表面は、平滑なエアロゲル層1が形成されていることが分かる。一方、3次元形状断熱材4の表面は、エアロゲルと繊維材料の両方を確認することができ、エアロゲルが細断化され繊維間に遍在していることが確認できた。これは、繊維材料が成形時に伸ばされる際の引張応力により、エアロゲルが破断し、一部は繊維間に、一部は成形型に付着したものと考えられる。
【0060】
<性能評価>
断熱材の成形前後の断熱性能(熱伝導率)と遮音性能(透過損失)の評価結果について表1を用いて説明する。
【0061】
熱伝導率測定には、熱流計HFM 436Lamda(NETZCH製)を用いた。透過損失測定には、垂直入射吸音率/透過損失測定システム WinZac MTX(日本音響エンジニアリング製)を用いた。
【0062】
【0063】
<基準>
3次元形状断熱材4の熱伝導率は、0.024W/mK以下、透過損失は10dB以上を合格とした。両方を満足する条件を総合判定として合格とした。
【0064】
熱伝導率については、静止空気の常温における熱伝導率は0.026W/mK程度といわれている。そのため、効果的に熱の流れを絶つためには、熱伝導率を静止空気より小さい熱伝導率とする必要がある。したがって、熱伝導率の合格基準は、静止空気の熱伝導率よりも約10%低い0.024W/mK以下とした。これは、熱伝導率が0.024W/mKより大きいと、静止空気の熱伝導率とあまり変わらないため、空気断熱に対する優位性が損なわれるためである。
【0065】
透過損失については、1kHzの値と、1k~5kHz帯域の平均値をそれぞれ10dB以上という目標を設定した。
【0066】
<実施の形態1の効果>
効果的な遮音性能と断熱性能を併せ持つ、自立した3次元形状を成す断熱材及びその製造方法を提供することが可能である。
(実施の形態2)
図5は本発明の実施の形態2の断熱材の製造方法の工程図である。
図5における(11a)と(11b)は、
図1における(11)に相当する。
図6は本発明の実施の形態2のシート状断熱材と被覆材を積層させる積層工程の概略図である。本実施の形態2は実施の形態1の応用例であり、
図5、
図6を用いて変更点のみを説明する。本実施の形態2は、実施の形態1におけるエアロゲルが細断化され発塵することの対策である。
【0067】
(11a)部材積層
シート状断熱材3の基材として用いた繊維材料と同等の部材(被覆材7)を2枚準備し、内1枚にシート状断熱材3を表面に固定し、もう1枚の被覆材7を前記シート状断熱材3の上に被せる。
【0068】
固定方法は、繊維による縫合やピン止めなどの方法を用いる。固定具材質は前記繊維材料に含まれる高融点繊維と同等以上とする。加圧工程までシート状断熱材3が固定されていないと、成形型内での位置が定まらないだけでなく、テンションが掛からないことにより成形型への形状追従性が低下する。
【0069】
被覆材7の材質は、繊維材料以外にも、可逆性の熱可塑性樹脂材料であれば良く、シート状、フィルム状、フォーム状など形態は問わない。この熱可塑性樹脂に熱硬化性フィラーを添加した材料を用いることで、加圧工程後の成形品に剛性を付与することが可能となる。
【0070】
また、被覆材7に嵩高い繊維材料や多孔質材など吸音性能がある部材を用いることで、3次元成形後の断熱材に吸音性能も付与することが可能となる。また、これらの被覆材7の表面改質することで撥水性・撥油性・難燃性なども付与することが可能となる。
【0071】
(11b)積層体セット
上記で積層した被覆材7とシート状断熱材3を固定した被覆材7の両端2辺を固定する。固定方法は、クランプやピンテンターなどの方法を用いる。4辺を固定してもよい。
【0072】
<実施の形態2の効果>
シート状断熱材3を被覆材で覆うことで、エアロゲルが細断された場合でも生産設備を発塵から防ぐことができる。また、熱硬化性のある部材を積層することで剛性を付与することが可能となる。また、表面改質することで撥水性・撥油性・難燃性などの機能を付与することや、吸音性のある部材を積層することで吸音性も付与することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の断熱材は、効果的な遮音性能と断熱性能を併せ持つ、自立した3次元形状を成すことができ、その結果、各種熱交換機器、住宅、自動車などの、各種断熱・遮音の用途に適用でき、産業上有用である。
【符号の説明】
【0074】
1 エアロゲル層
2 複合層
3 シート状断熱材
4 3次元形状断熱材
5 繊維
5a 低融点繊維
5b 高融点繊維
7 被覆材