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特許7304524燃料電池のカソード触媒層および燃料電池
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  • 特許-燃料電池のカソード触媒層および燃料電池 図1
  • 特許-燃料電池のカソード触媒層および燃料電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】燃料電池のカソード触媒層および燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20230630BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20230630BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230630BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M8/1004
H01M8/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019039712
(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公開番号】P2020145044
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博晶
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和哉
(72)【発明者】
【氏名】石本 仁
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-225424(JP,A)
【文献】特開2009-199915(JP,A)
【文献】国際公開第2011/096355(WO,A1)
【文献】特開2006-173028(JP,A)
【文献】特開2011-198501(JP,A)
【文献】特開2008-060002(JP,A)
【文献】特開2006-134629(JP,A)
【文献】特開2005-259650(JP,A)
【文献】特開2010-080085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1粒子状導電部材、第1触媒粒子、第1繊維状導電部材、および、プロトン伝導性樹脂を含み、前記第1触媒粒子の少なくとも一部が前記第1粒子状導電部材に担持されている第1触媒層と、
第2粒子状導電部材、第2触媒粒子、および、プロトン伝導性樹脂を含み、前記第2触媒粒子の少なくとも一部が前記第2粒子状導電部材に担持されている第2触媒層と、を有し、
前記第2粒子状導電部材に担持された前記第2触媒粒子と前記第2粒子状導電部材との合計質量に占める前記第2粒子状導電部材に担持された前記第2触媒粒子の質量の割合で表される第2触媒担持密度Dが、前記第1粒子状導電部材に担持された前記第1触媒粒子と前記第1粒子状導電部材との合計質量に占める前記第1粒子状導電部材に担持された前記第1触媒粒子の質量の割合で表される第1触媒担持密度Dよりも大きい、燃料電池のカソード触媒層。
【請求項2】
前記第1触媒層において、前記第1触媒粒子の全体の質量に占める前記第1繊維状導電部材に担持された前記第1触媒粒子の質量の割合は、0.5%以下である、請求項1に記載のカソード触媒層。
【請求項3】
前記第2触媒担持密度は、前記第1触媒担持密度の3倍以下である、請求項1または2に記載のカソード触媒層。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のカソード触媒層を有するカソードと、
アノードと、
前記カソードと前記アノードの間に介在する電解質膜と、を備え、
前記第1触媒層と前記電解質膜との間に前記第2触媒層が介在する、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池のカソード触媒層、および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜およびそれを挟む一対の電極を有する膜電極接合体を備える。一対の電極は、それぞれ、電解質膜側から順に、触媒層およびガス拡散層を備える。
【0003】
カソード側の触媒層として、特許文献1では、電解質膜側の第1層とガス拡散層側の第2層の2層構造とし、第1層における触媒担持体に対する触媒の担持密度を第2層における触媒担持体に対する触媒の担持密度の3~6倍とした構成が開示されている。
【0004】
ところで、電解質膜としてプロトン伝導性の高分子電解質膜を用いる場合、高分子電解質膜のプロトン伝導性を高めるために水分が必要である。そこで、燃料ガスまたは酸化性ガスを加湿したうえで、触媒層に供給することが通常行われる。この場合、水蒸気ガスを生成し、燃料ガスまたは酸化性ガスを加湿するための設備(加湿器)が、通常、燃料電池セルとは別に設けられる。
【0005】
一方、加湿器を設置するための十分なスペースを確保できない環境においても燃料電池を利用できることが望まれている。また、加湿器の小型化も望まれている。よって、低加湿(例えば、相対湿度20%~40%)の条件において高い出力性能を有する燃料電池が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-73149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように、カソード触媒層を触媒担持密度の異なる二層構造とした場合、単に電解質膜側の触媒担持密度を高めたのでは、触媒担持密度の増大により触媒粒径が増大してしまい、反応面積が低下する場合がある。
【0008】
一方、ガス拡散層側の触媒担持密度を低くする場合、同等の触媒反応を得るために、触媒層の厚みを厚くする必要がある。例えば、触媒担持密度を1/3程度に低くする場合、触媒の担持量が同じになるように、触媒層の厚みを3倍程度に厚くする必要が生じる。この結果、プロトン移動の抵抗が増大する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一局面は、第1粒子状導電部材、第1触媒粒子、第1繊維状導電部材、および、プロトン伝導性樹脂を含み、前記第1触媒粒子の少なくとも一部が前記第1粒子状導電部材に担持されている第1触媒層と、第2粒子状導電部材、第2触媒粒子、および、プロトン伝導性樹脂を含み、前記第2触媒粒子の少なくとも一部が前記第2粒子状導電部材に担持されている第2触媒層と、を有し、前記第2粒子状導電部材に担持された前記第2触媒粒子と前記第2粒子状導電部材との合計質量に占める前記第2粒子状導電部材に担持された前記第2触媒粒子の質量の割合で表される第2触媒担持密度Dが、前記第1粒子状導電部材に担持された前記第1触媒粒子と前記第1粒子状導電部材との合計質量に占める前記第1粒子状導電部材に担持された前記第1触媒粒子の質量の割合で表される第1触媒担持密度Dよりも大きい、燃料電池のカソード触媒層に関する。
【0010】
本開示の他の局面は、上記カソード触媒層を有するカソードと、アノードと、前記カソードと前記アノードの間に介在する電解質膜と、を備え、前記第1触媒層と前記電解質膜との間に前記第2触媒層が介在する、燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、カソード触媒の利用効率が向上し、燃料電池の発電性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の実施形態に係る燃料電池の単セルの構造を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る触媒層の内部を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態に係る燃料電池のカソード触媒層は、第1触媒層と第2触媒層とを有する2層構造である。第1触媒層は、第1粒子状導電部材、第1触媒粒子、および、第1繊維状導電部材を含み、第1触媒粒子の少なくとも一部が第1粒子状導電部材に担持されている。第2触媒層は、第2粒子状導電部材、および、第2触媒粒子を含み、第2触媒粒子の少なくとも一部が第2粒子状導電部材に担持されている。なお、燃料電池を構成する場合、カソード触媒層の第2触媒層が電解質膜側に位置するように、電解質膜とカソード触媒層とが積層される。カソード触媒層の第1触媒層側には、ガス拡散層が積層され得る。
【0014】
ここで、第1粒子状導電部材に担持された第1触媒粒子と第1粒子状導電部材との合計質量に占める、第1粒子状導電部材に担持された第1触媒粒子の質量の割合を、第1触媒担持密度Dとする。第2粒子状導電部材に担持された第2触媒粒子と第2粒子状導電部材との合計質量に占める、第2粒子状導電部材に担持された第2触媒粒子の質量の割合を、第2触媒担持密度Dとする。第2触媒担持密度は、第1触媒担持密度よりも大きい(D<D)。
【0015】
燃料電池の発電時においては、カソード触媒層内で、プロトン(水素イオン)が酸化物イオンと反応し、水が生成される。酸化物イオンは、第1触媒層側から供給される酸化性ガス(例えば、空気)から、カソード触媒層内に配された触媒を介した触媒反応によって、生成される。一方、プロトンは、アノードにおいて生成され、電解質膜を介してカソード触媒層に拡散する。よって、カソード触媒層の電解質膜に近い側が、電解質膜から遠い側よりもプロトン濃度が高くなり易く、電解質膜に近い側で触媒反応が集中し易い。
【0016】
このため、電解質膜側に配される第2触媒層の触媒担持密度Dを第1触媒層の触媒担持密度Dよりも大きくしておくことで、触媒の利用効率を高めることができる。
【0017】
特に、低加湿の発電条件では、プロトン伝導性が低下することから、プロトンはカソード触媒層内で電解質膜から離れた領域まで拡散し難く、カソード触媒層の厚み方向においてプロトン濃度の分布の偏りが顕著になり易い。よって、電解質膜に近い側で、触媒反応の集中度合が一層大きくなり易い。低加湿条件では、例えば、カソード触媒層の厚みをTとして、カソード触媒層の電解質膜側のT/4の厚みの領域において、全発電電流の3/4が生成される場合も起こり得る。本開示の構成によれば、このような低加湿の条件においても、燃料電池の性能低下を抑えることができる。
【0018】
しかしながら、第1触媒層の触媒担持密度を低くしたことに伴い、第1触媒層の厚みは厚くなりがちである。この結果、ガスの拡散性が低下し、またプロトン移動の抵抗が増加する場合がある。本実施形態では、第1触媒層が第1繊維状導電部材を含むことによって、ガス拡散性が高められ、またプロトンの移動抵抗の増加が抑制される。また、発電によって生成される水が排水され易くなる。
【0019】
第1触媒層において、第1繊維状導電部材に第1触媒粒子が担持されていてもよい。しかしながら、第1繊維状導電部材の触媒担持密度が低いほど、第1繊維状導電部材の撥水性が高くなる。よって、第1繊維状導電部材の触媒担持密度が低いほど、第1触媒層の排水性が向上し、ガス拡散性を高めることができる。第1触媒粒子は、第1繊維状導電部材には実質的に担持されておらず、実質的に第1粒子状導電部材にのみ担持されていることが好ましい。ここで、第1触媒粒子の全体の質量のうち、第1繊維状導電部材に担持されている第1触媒粒子の質量の割合が0.5%以下である場合、第1触媒粒子は、実質的に第1粒子状導電部材にのみ担持されているといえる。
【0020】
第2触媒担持密度Dは、第1触媒担持密度Dの1.2倍以上であってもよく、1.5倍以上であってもよい。第2触媒担持密度Dの下限が上記の場合に、触媒の利用効率が高められ易い。
【0021】
第2触媒担持密度Dは、第1触媒担持密度Dの3倍以下であってもよい。第1触媒担持密度に対する第2触媒担持密度の比が過度に大きい場合、第2触媒粒子の粒径が増大し、反応面積が低下する場合がある。また、カソード触媒層の全体の厚みが厚くなりすぎて、プロトンの移動抵抗が増大する場合がある。第2触媒担持密度Dを、第1触媒担持密度Dの3倍以下とすることで、触媒粒子の粒径の増大が抑制され、触媒反応面積の低下が抑制され得る。また、カソード触媒層全体の厚みが適度な厚みとなり、プロトン移動抵抗の増加が抑制され得る。第2触媒担持密度Dは、第1触媒担持密度Dの2倍以下であってもよい。
【0022】
第2触媒担持密度Dは、例えば、20%~60%である。第2触媒担持密度Dを20%以上とすることで、大きな反応面積が得られる。一方、第2触媒担持密度Dを60%以下に留めることで、触媒粒子の粒径の増大が抑制され、反応面積の低下が抑制される。第2触媒担持密度Dは、30%~60%もしくは30%~50%であってもよい。
【0023】
これに対し、第1触媒担持密度Dは、例えば、5%~40%である。第1触媒担持密度Dは、10%~40%もしくは10%~30%であってもよい。
【0024】
触媒層の反応性向上の観点から、第1および第2触媒層は、更に、プロトン伝導性樹脂を含むことが好ましい。この場合、プロトン伝導性樹脂は、粒子状導電部材(第1および第2粒子状導電部材)、繊維状導電部材(第1繊維状導電部材)、および/または、触媒粒子(第1および第2触媒粒子)の少なくとも一部を被覆している。
【0025】
第1触媒層と同様、第2触媒層に繊維状導電部材(第2繊維状導電部材)を含ませてもよい。しかしながら、第2触媒層が第2繊維状導電部材を含む場合、第2粒子状導電部材と第2繊維状導電部材との質量の合計に対する第2繊維状導電部材の質量の割合Fは、第1触媒層において、第1粒子状導電部材と第1繊維状導電部材との質量の合計に対する第1繊維状導電部材の質量の割合Fよりも小さくてもよい。第2触媒層は、第2繊維状導電部材を実質的に含まないことが好ましい。この場合、第2触媒層がバッファ層となって、第1繊維状導電部材が電解質膜に突き刺さることによる電解質膜の損傷が抑制され、損傷部分からガスがリークするのを防止できる。
【0026】
なお、割合Fは、例えば20%以下であり、10%以下であってもよい。割合Fが0.5%以下であれば、第2触媒層は第2繊維状導電部材を実質的に含まないといえる。
【0027】
これに対し、割合Fは、例えば20%以上であり、30%以上、もしくは45%以上であってもよい。割合Fは、例えば80%以下であり、65%以上であってもよい。上記Fの下限と上限は任意に組み合わせることができる。
【0028】
以下に、カソード触媒層の構成要素について、詳細に説明する。
【0029】
(粒子状導電部材)
第1粒子状導電部材および第2粒子状導電部材としては、特に限定されないが、導電性に優れる点で、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが挙げられる。その粒径(あるいは、複数の連結した一次粒子で構成されたストラクチャーの長さ)は特に限定されず、従来、燃料電池の触媒層に用いられるものを使用することができる。
【0030】
(繊維状導電部材)
第1繊維状導電部材および第2繊維状導電部材としては、例えば、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の繊維状炭素材料が挙げられる。繊維状導電部材の直径Dについては、特に限定されないが、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは5nm以上200nm以下であり、更に好ましくは10nm以上170nm以下である。この場合、触媒層中に占める繊維状導電部材の体積割合を小さくしながら、ガス経路を十分に確保することができ、ガス拡散性を高めることができる。繊維状導電部材の直径Dは、触媒層から繊維状導電部材を任意に10本取り出し、これらの直径を平均化することにより求められる。直径は、繊維状導電部材の長さ方向に垂直な方向の長さである。
【0031】
繊維状導電部材の長さLについても、特に限定されないが、好ましくは0.2μm以上20μm以下であり、より好ましくは0.2μm以上10μm以下であるとよい。この場合、繊維状導電部材の少なくとも一部が触媒層の厚み方向に沿って配向し、ガス拡散経路を確保しやすい。繊維状導電部材の長さLは、平均繊維長さであり、触媒層から繊維状導電部材を任意に10本取り出し、これらの繊維状導電部材の繊維長さを平均化することにより、求められる。なお、上記の繊維状導電部材の繊維長さとは、略直線状の繊維状導電部材の場合、繊維状導電部材の一端と、その他端とを直線で結んだときのその直線の長さを意味する。繊維状導電部材のアスペクト比L/Dは、特に限定されないが、好ましくは10以上500以下であり、より好ましくは20以上250以下である。
【0032】
繊維状導電部材は、内部に中空の空間(中空部)を有していてもよい。この場合、触媒層内において、繊維状導電部材の長さ方向の両端のそれぞれが開口していてもよい。繊維状導電部材の長さ方向の両端のそれぞれが開口しているとは、当該開口により中空部と外部とが連通していることを意味する。すなわち、繊維状導電部材の両端の開口は、電解質膜およびガス拡散層のいずれによっても塞がれておらず、ガスが両端から出入り可能である。
中空部を有する繊維状導電部材の側壁には、中空部と外部とを連通する貫通孔が設けられてもよい。貫通孔の少なくとも一部を塞ぐように、触媒粒子を繊維状導電部材の側壁に配し、固定化することができる。貫通孔の少なくとも一部を塞ぐように側壁に担持された触媒粒子は、反応ガスとの接触がより効率的に行われ、触媒層の反応効率を大幅に高められる。
【0033】
(触媒粒子)
第1触媒粒子および第2触媒粒子としては、特に限定されないが、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt、Os、Ir、ランタノイド系列元素およびアクチノイド系列の元素からなる群より選択される少なくとも1種を含む合金や単体といった触媒金属が挙げられる。例えば、アノードに用いられる触媒粒子としては、Pt、Pt-Ru合金等が挙げられる。カソードに用いられる触媒粒子としては、Pt、Pt-Co合金等が挙げられる。触媒粒子の少なくとも一部は、粒子状導電部材に担持されている。ガスの反応効率を高める観点から、触媒粒子は、粒子状導電部材に加えて、繊維状導電部材に担持されていてもよい。
【0034】
触媒粒子の固定化の観点から、触媒粒子の直径Xは、好ましくは1nm以上10nm以下であり、より好ましくは2nm以上5nm以下である。Xが1nm以上である場合、触媒粒子による触媒効果が十分に得られる。Xが10nm以下である場合、触媒粒子を繊維状導電部材の側壁に担持させ易い。
【0035】
触媒粒子の直径Xは、以下のようにして求められる。
触媒層のTEM画像で観察される任意の1個の触媒粒子について、当該粒子の断面積と等しくなる円の直径を粒径とする。これを、TEM画像で観察される100~300個の触媒粒子に対して行い、それぞれの粒径を算出する。これらの粒径の平均値を触媒粒子の直径Xとする。
【0036】
(プロトン伝導性樹脂)
プロトン伝導性樹脂としては特に限定されないが、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子、炭化水素系高分子等が例示される。なかでも、耐熱性と化学的安定性に優れる点で、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子等が好ましい。パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子としては、例えばNafion(登録商標)が挙げられる。
【0037】
触媒層の厚みは、燃料電池の小型化、および、プロトン抵抗を低く維持し、高出力を得る観点から、可能な限り薄いことが望ましい。一方で、強度の観点から、過度に薄くないことが好ましい。一般に、繊維状導電部材の配合割合が多くなると、触媒層の厚みは厚くなり易い。
【0038】
カソード触媒層の厚みは、例えば、4μm以上15μm以下である。このうち、第1触媒層の厚みは、2μm以上12μm以下であってもよい。第2触媒層の厚みは、1μm以上7μm以下であってもよい。第2触媒層の厚みに対する第1触媒層の厚みの比は、1以上4以下であってもよく、2以上3以下であってもよい。ここで、触媒層の厚みは、平均厚みであり、触媒層の断面における任意の10箇所について、一方の主面から他方の主面まで、触媒層の厚み方向に沿った直線を引いたときの距離を平均化することにより、求められる。
【0039】
触媒層は、例えば、以下のようにして作製される。
まず、触媒粒子を担持した粒子状導電部材を、分散媒(例えば、水、エタノール、プロパノール等)中で混合する。次いで、得られた分散液を撹拌しながら、プロトン伝導性樹脂、および、必要に応じて繊維状炭素材料を順次添加して、触媒分散液を得る。プロトン伝導性樹脂は、2回以上に分けて添加してもよい。この場合、プロトン伝導性樹脂の2回目以降の添加は、繊維状炭素材料と共に行ってもよい。その後、得られた触媒分散液を、電解質膜または適当な転写用基材シートの表面に均一な厚さで塗布し、乾燥させることにより、触媒層が得られる。
【0040】
塗布法としては、慣用の塗布方法、例えば、スプレー法、スクリーン印刷法、および、ブレードコーター、ナイフコーター、グラビアコーターなどの各種コーターを利用するコーティング法等が挙げられる。転写用基材シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンなどの平滑表面を有するシートを用いることが好ましい。転写用基材シートを用いる場合、得られた触媒層は、後述する電解質膜またはガス拡散層に転写される。
【0041】
触媒層の電解質膜またはガス拡散層への転写は、触媒層の転写用基材シートに対向していた面を、電解質膜またはガス拡散層に当接させることにより行われる。触媒層の平滑な面を電解質膜またはガス拡散層に当接させることにより、触媒層との界面抵抗が減少し、燃料電池の性能が向上する。電解質層に直接、触媒分散液を塗布してもよい。
【0042】
本開示の実施形態に係る燃料電池は、上記のカソード触媒層を有するカソードと、アノードと、カソードとアノードの間に介在する電解質膜と、を備える。このとき、カソード触媒層の第1触媒層と電解質膜との間に、カソード触媒層の第2触媒層が介在している。
【0043】
以下、本実施形態に係る燃料電池の構造の一例を、図1を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係る燃料電池に配置される単セルの構造を模式的に示す断面図である。通常、複数の単セルは積層されて、セルスタックとして燃料電池に配置される。図1では、便宜上、1つの単セルを示している。
【0044】
単セル200は、電解質膜110と、電解質膜110を挟むように配置されたカソード触媒層121およびアノード触媒層122と、カソード触媒層121およびアノード触媒層122をそれぞれ介して、電解質膜110を挟むように配置されたカソード側ガス拡散層131およびアノード側ガス拡散層132と、を有する膜電極接合体100を備える。また、単セル200は、膜電極接合体100を挟むカソード側セパレータ241およびアノード側セパレータ242を備える。電解質膜110は、カソード触媒層121およびアノード触媒層122より一回り大きいため、電解質膜110の周縁部は、カソード触媒層121およびアノード触媒層122からはみ出している。電解質膜110の周縁部は、一対のシール部材251、252で挟持されている。
【0045】
図2は、カソード触媒層121の内部を模式的に示す図であり、カソード触媒層内部を面方向からみた図である。図2は、電解質膜110も示す。図2に示すように、カソード触媒層121は、第1触媒層121Aおよび第2触媒層121Bの2層を含む。第1触媒層121Aは、第1粒子状導電部材123、第1触媒粒子124、および、第1繊維状導電部材125を含む。一方、第2触媒層121Bは、第2粒子状導電部材126および第2触媒粒子127を含むが、繊維状導電部材(第2繊維状導電部材)を実質的に含まない。
【0046】
第1触媒層121Aにおいて、第1触媒粒子124は第1粒子状導電部材123に担持されている。第2触媒層121Bにおいて、第2触媒粒子127は第2粒子状導電部材126に担持されている。第2粒子状導電部材126における第2触媒粒子127の担持密度(第2触媒担持密度)は、第1粒子状導電部材123における第1触媒粒子124の担持密度(第1触媒担持密度)よりも大きい。これにより、触媒の利用効率を高めることができる。
【0047】
第1触媒層121Aにおいて、第1触媒粒子124の一部が第1繊維状導電部材125に担持されていてもよい。しかしながら、第1触媒層121Aの排水性を高め、ガス拡散性を高める観点からは、第1繊維状導電部材125に担持される第1触媒粒子124の量を低減してもよい。第1繊維状導電部材125は、第1触媒粒子124を実質的に担持していないことがより好ましい。
【0048】
アノード触媒層122は、公知の材質および公知の構成を採用できる。アノード触媒層は、カソード触媒層と同様、導電部材、導電部材に担持される触媒粒子、および、プロトン導電性樹脂を含み得る。また、導電部材は、粒子状導電部材および/または繊維状導電部材を含み得る。
【0049】
アノード触媒層は、カソード触媒層ほど高い酸化性の環境にさらされることはないが、反応で水が生成されないため、カソード触媒層よりも低湿の環境になり易い。この結果として、プロトン伝導性が低下し易い。カソード触媒層よりも高いプロトン伝導性が得られるように、粒子状導電部材、繊維状導電部材、および、プロトン導電性樹脂の各組成および含有割合は変更され得る。
【0050】
(電解質膜)
電解質膜110として、高分子電解質膜が好ましく用いられる。高分子電解質膜の材料としては、プロトン伝導性樹脂として例示した高分子電解質が挙げられる。電解質膜の厚みは、例えば5~30μmである。
【0051】
(ガス拡散層)
カソード側ガス拡散層131およびアノード側ガス拡散層132としては、基材層を有する構造でもよく、基材層を有さない構造でもよい。基材層を有する構造としては、例えば、基材層と、その触媒層側に設けられた微多孔層とを有する構造体が挙げられる。基材層には、カーボンクロスやカーボンペーパー等の導電性多孔質シートが用いられる。微多孔層には、フッ素樹脂等の撥水性樹脂と、導電性炭素材料と、プロトン伝導性樹脂(高分子電解質)との混合物等が用いられる。
【0052】
(セパレータ)
カソード側セパレータ241およびアノード側セパレータ242は、気密性、電子伝導性および電気化学的安定性を有すればよく、その材質は特に限定されない。このような材質としては、炭素材料、金属材料等が好ましい。金属材料には、カーボンを被覆してもよい。例えば、金属板を所定形状に成形し、表面処理を施すことにより、カソード側セパレータ241およびアノード側セパレータ242が得られる。
【0053】
本実施形態においては、カソード側セパレータ241のカソード側ガス拡散層131と当接する側の面には、ガス流路261が形成されている。一方、アノード側セパレータ242のアノード側ガス拡散層132と当接する側の面には、ガス流路262が形成されている。ガス流路の形状は特に限定されず、ストレート型、サーペンタイン型等に形成すればよい。
【0054】
(シール部材)
シール部材251、252は、弾性を有する材料であり、ガス流路261、262から燃料および/または酸化剤がリークすることを防止している。シール部材251、252は、例えば、カソード触媒層121およびアノード触媒層122の周縁部をループ状に取り囲むような枠状の形状を有する。シール部材251、252としては、それぞれ、公知の材質および公知の構成が採用できる。
【0055】
以下、本開示を実施例に基づいて、更に詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
<カソード触媒層用の分散液の調製>
触媒粒子(Pt-Co合金)を担持した粒子状導電部材(カーボンブラック)を適量の水に添加、撹拌して、分散させた。得られた分散液を撹拌しながら適量のエタノールを加えた後、触媒粒子を担持した上記粒子状導電部材100質量部に対して、繊維状導電部材(気相成長炭素繊維、平均直径150nm、平均繊維長10μm)35質量部、および、プロトン伝導性樹脂(パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子)100質量部を添加し、撹拌することにより、カソード触媒層の第1触媒層用の触媒分散液を調製した。
【0057】
第1触媒層用の触媒分散液において、粒子状導電部材と触媒粒子との合計質量に占める触媒粒子の質量の割合(第1触媒担持密度D)は、30%とした。
【0058】
また、触媒粒子(Pt-Co合金)を担持した粒子状導電部材(カーボンブラック)を適量の水に添加、撹拌して、分散させた。得られた分散液を撹拌しながら適量のエタノールを加えた後、触媒粒子を担持した上記粒子状導電部材100質量部に対して、プロトン伝導性樹脂(パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子)100質量部を添加し、撹拌することにより、カソード触媒層の第2触媒層用の触媒分散液を調製した。
【0059】
第2触媒層用の触媒分散液において、粒子状導電部材と触媒粒子との合計質量に占める触媒粒子の質量の割合(第2触媒担持密度D)は、50%とした。
【0060】
<アノード触媒層用の分散液の調製>
触媒粒子(Pt)を担持した粒子状導電部材(カーボンブラック)を適量の水に添加、撹拌して、分散させた。得られた分散液を撹拌しながら適量のエタノールを加えた後、触媒粒子を担持した上記粒子状導電部材100質量部に対して、繊維状導電部材(気相成長炭素繊維、平均直径150nm、平均繊維長10μm)35質量部、および、プロトン伝導性樹脂(パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子)120質量部を添加し、撹拌することにより、アノード触媒層用の触媒分散液を調製した。
【0061】
<単セルの作製>
スプレー法を用いて、厚さ15μmの電解質膜(パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子膜)表面に、得られたカソード触媒層の第2触媒層用の触媒分散液を、均一な厚さで塗布した。その後、乾燥して、第2触媒層を形成した。
さらに、第2触媒層上に、第1触媒層用の触媒分散液を、均一な厚さで塗布した。その後、乾燥して、第1触媒層と第2触媒層の2層からなるカソード触媒層を形成した。
【0062】
カソード触媒層の膜厚は6μmであり、このうち第1触媒層の膜厚は4μm、第2触媒層の膜厚は2μmであった。
【0063】
同様に、スプレー法を用いて電解質膜の他方の表面に、得られたアノード触媒層用の触媒分散液を均一な厚さで塗布した。その後、乾燥して、アノード触媒層を形成した。アノード触媒層の膜厚は4.5μmであった。
【0064】
次に、ガス拡散層として多孔質導電性カーボンシートを2枚準備し、一方をアノード触媒層に、他方をカソード触媒層に、それぞれ当接させた。
【0065】
次に、アノードおよびカソードを囲むように枠状シール部材を配置した。ガス拡散層に接する部分にガス流路を有する一対のステンレス鋼製平板(セパレータ)で全体を挟持して、試験用単セルA1を完成させた。
【0066】
<評価>
実施例1の単セルA1の発電性能を評価した。具体的には、単セルA1を80℃に加熱し、相対湿度30%の燃料ガスをアノードに、相対湿度30%の酸化剤ガス(空気)をカソードに供給した。燃料ガス、および、酸化剤ガスは、各電流密度において、セル入口ガス圧力50~70kPaに加圧して供給した。そして、電流が一定に流れるように負荷制御装置を制御し、アノードおよびカソードの電極面積に対する電流密度を変化させながら、単セルA1の電圧(初期電圧)Vおよび出力密度Pを測定し、出力密度が最大となる最大出力密度Pmaxを求めた。
【0067】
[比較例1]
単セルの作製において、実施例1におけるカソード触媒層の第1触媒層用の触媒分散液のみを、電解質膜の表面に、均一な厚さで塗布した。その後、乾燥して、カソード触媒層を形成した。
カソード触媒層の膜厚は8μmであった。
【0068】
これ以外については、実施例1と同様にして、試験用単セルB1を完成させ、実施例1と同様に評価した。なお、セルA1とセルB2において、カソード触媒層の全体に占める触媒粒子の量は同じである。
【0069】
セルA1の最大出力密度Pmaxは、セルB1の最大出力密度を100としたとき、171であり、カソード触媒層をガス拡散層側の第1触媒層と電解質膜側の第2触媒層との2層とし、第2触媒層の触媒担持密度を第1触媒層よりも高めることにより、発電性能が劇的に改善された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示に係る燃料電池は、定置型の家庭用コジェネレーションシステム用電源や、車両用電源として、好適に用いることができる。本開示は、高分子電解質型燃料電池への適用に好適であるが、これに限定されるものではなく、燃料電池一般に適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
100:膜電極接合体
110:電解質膜
121:カソード触媒層
121A:第1触媒層
123:第1粒子状導電部材
124:第1触媒粒子
125:第1繊維状導電部材
121B:第2触媒層
126:第2粒子状導電部材
127:第2触媒粒子
122:アノード触媒層
131:カソード側ガス拡散層
132:アノード側ガス拡散層
200:燃料電池(単セル)
241:カソード側セパレータ
242:アノード側セパレータ
251,252:シール部材
261,262:ガス流路
図1
図2