(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/10 20060101AFI20230630BHJP
H01G 2/06 20060101ALI20230630BHJP
H01G 4/228 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
H01G9/10 G
H01G2/06 A
H01G4/228 W
H01G9/10 D
(21)【出願番号】P 2019539684
(86)(22)【出願日】2018-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2018032478
(87)【国際公開番号】W WO2019045072
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2017167592
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017167593
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 美代子
(72)【発明者】
【氏名】椿 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】青山 達治
(72)【発明者】
【氏名】久保 大輔
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-086102(JP,A)
【文献】実開昭58-109243(JP,U)
【文献】特開平02-194614(JP,A)
【文献】実公昭54-000977(JP,Y1)
【文献】特開昭61-113223(JP,A)
【文献】特開2008-130774(JP,A)
【文献】特開平06-338439(JP,A)
【文献】国際公開第2012/117820(WO,A1)
【文献】特開平07-254530(JP,A)
【文献】実開平01-107123(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 2/06
H01G 4/228
H01G 9/00-9/18
H01G 9/21-9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極を含むコンデンサ素子と、
前記一対の電極の間に介在する電解質と、
前記一対の電極にそれぞれ電気的に接続された一対のリードと、
前記コンデンサ素子および前記電解質が収容され、開口を有するケースと、
前記開口を封止し、前記リードを引き出すための一対の挿通孔を有する封口体と、
前記リードを引き出すための一対の貫通孔を有する絶縁板と、
前記封口体と前記絶縁板の間に充填された樹脂部材と、を備え、
前記絶縁板は、前記樹脂部材に当接する樹脂接合面と、前記樹脂接合面に対向する実装面とを有し、前記樹脂接合面において少なくとも1つの凸部または凹部を有し、
前記ケースは、前記開口を含むカール部を有し、
前記樹脂部材は、前記カール部に沿って延び、前記ケースの外面の少なくとも一部に接着している周縁固定部を有し、
前記カール部は、少なくとも1つのスリットを有し、
前記スリットは、前記封口体と前記絶縁板の間に充填された前記樹脂部材と、前記周縁固定部とを連通する流路を形成する、電解コンデンサ。
【請求項2】
前記絶縁板は、前記樹脂接合面において、前記カール部の少なくとも一部の下方に配置された少なくとも1つの溝部を有し、
前記溝部は、前記封口体と前記絶縁板の間に充填された前記樹脂部材と、前記周縁固定部とを連通する流路を形成する、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記ケースは、前記ケースの前記外面において前記カール部につながる絞り部、および該絞り部につながる側部を有し、
前記絶縁板は、前記樹脂接合面から前記ケースの前記外面に沿って前記側部まで延びる壁部を有し、
前記樹脂部材は、前記外面と前記壁部との間に形成された間隙において前記外面の一部を覆うように構成された、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記絶縁板の主面は、略矩形の形状を有し、
前記壁部は、前記絶縁板の角部に配置されている、請求項3に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記カール部の端部は、前記封口体と離間し、前記カール部と前記封口体との間は前記樹脂部材が充填されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記絶縁板の前記凸部または凹部は、前記カール部より内側に配置された、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記カール部は、少なくともその一部が前記絶縁板の前記樹脂接合面に当接する、請求項1~6のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
前記電極は、前記封口体内で前記リードに電気的に接続されるタブ部を有し、
前記封口体は、前記タブ部より径が小さい前記リードの周囲に形成された一対の環状空間を有し、
前記樹脂部材は、前記環状空間に充填されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】
前記絶縁板は、前記一対の貫通孔の間に前記樹脂接合面から前記実装面まで貫通する樹脂注入孔を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項10】
前記ケースは、略円形の平面形状を有し、
前記絶縁板は、前記樹脂接合面において少なくとも1つの凸部を有し、
前記絶縁板の前記樹脂接合面は、その中心から周縁部に向かって前記封口体側に凸となるような曲面を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項11】
前記ケースは、略円形の平面形状を有し、
前記絶縁板は、前記樹脂接合面において少なくとも1つの凹部を有し、
前記絶縁板の前記樹脂接合面は、その中心から周縁部に向かって前記実装面側に凸となるような曲面を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項12】
コンデンサ素子、電解質、および封口体が収容された
、開口を有するケースを有する電解コンデンサであって、
前記封口体と絶縁板の間に充填された樹脂部材を備え、
前記絶縁板は、前記樹脂部材に当接する樹脂接合面と、前記樹脂接合面に対向する実装面とを有し、前記樹脂接合面において少なくとも1つの凸部または凹部を有し、
前記ケースは、前記開口を含むカール部を有し、
前記樹脂部材は、前記カール部に沿って延び、前記ケースの外面の少なくとも一部に接着している周縁固定部を有し、
前記カール部は、少なくとも1つのスリットを有し、
前記スリットは、前記封口体と前記絶縁板の間に充填された前記樹脂部材と、前記周縁固定部とを連通する流路を形成する、電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサに関し、とりわけ封口体と座板との間に樹脂部材を備える電解コンデンサに関する。なお本願は、2017年8月31日付けで提出された日本特許出願第2017-167592および第2017-167593を基礎とする優先権を主張するとともに、これらに開示されたすべての内容は、参考として本願に一体のものとして統合される。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、一般に、その高い信頼性から民生機器のみならず、過酷な条件下で使用される車載用回路の一部として広く利用されつつある。特にエンジン等の高温多湿な環境で用いられる電解コンデンサは、例えば約150℃で数千時間オーダの条件下での動作を保証することが求められている。
【0003】
典型的な電解コンデンサは、一対の電極を含むコンデンサ素子と、これらの間に介在する電解質と、コンデンサ素子および電解質を収容し、開口を有するケースと、開口を封止するブチルゴム製の封口体と、一対の貫通孔を有する座板と、一対の電極にそれぞれ電気的に接続し、貫通孔から延びる一対のリードとを備え、封口体と絶縁板との間は空隙が設けられ、封口体は実質的に外気(高温多湿な環境)に晒されている。
【0004】
封口体に含まれるブチルゴムは、一般に、高分子ポリマーであり、空気(酸素)または水分(湿気)に晒されると酸化劣化し、分子鎖が切断され、低分子量化する。また、封口体は、カーボンを含有しており、高温多湿な環境に晒されると、体積が減少して割れやすくなり、含有カーボン同士が結合して封口体の導電性が増大し、一対の電極間にリーク電流が生じ、電解コンデンサとして機能を損なう虞がある。
【0005】
また、例えば特許文献1に記載された電解コンデンサは、コンデンサ本体の下方部分を受容するよう陥没した陥没部を中央に有した座板と、上方が閉塞されている筒状の金属ケース内に、電解質を有するコンデンサ素子が収納され金属ケースの下方の開口部が封口体により密封され、コンデンサ素子から下方に引き出された一対の電極端子が封口体を貫通して下方に延び、さらに上記座板を貫通し座板の底面に沿って互いに離れる方向に折り曲げられているコンデンサ本体とを具備し、コンデンサ本体が、座板の陥没部の周囲の非陥没部に設けられた、少なくとも陥没部側が開口した凹部に注入された接着剤により座板に固着されている電解コンデンサが知られている。
【0006】
特許文献1に記載の接着剤は、座板の陥没部の周囲の非陥没部の凹部から注入されたものであって、座板とコンデンサ本体を確実に固定するためのものである。
【0007】
さらに、例えば特許文献2に記載されたチップ型コンデンサは、外装ケースの開口部を弾性ゴム等からなる封口体で封止し、さらに外装ケース開口および開口部付近の側面を絞り込む、いわゆるカーリング加工を施して外装ケース内部を密封するものである。特許文献2には、同一端面から複数のリード線を導出したコンデンサの端面に、このリード線と対応する位置に透孔を備えた絶縁板を当接させ、透孔を挿通して絶縁板から突出したリード線を、絶縁板の端面に沿って折り曲げるとともに、コンデンサの端面と絶縁板、およびコンデンサのリード線と絶縁板の透孔との間隙に樹脂層を形成することが提案されている。
【0008】
特許文献2に記載の樹脂層は、コンデンサの端面と絶縁板、およびコンデンサのリード線と絶縁板の透孔との間隙に形成され、折り曲げ工程でストレスが加わったリード線と絶縁板の透孔との間から水分や洗浄溶剤が侵入することを防ぐことにより、高い信頼性を実現しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2000-269081号公報
【文献】特開平2-194614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の接着剤は、座板の陥没部の周囲の非陥没部の凹部から注入されたものであり、コンデンサ本体を座板に固定することを支援するものであるが、外装ケースの開口部に装着されたゴム製の封口体は、使用時、座板に設けられた孔を介して外装ケース内に侵入する空気(酸素)および/または水分(湿気)に容易に晒され、極めて酸化しやすい。封口体が酸化すると、体積が減少して割れやすくなり、封口体を構成するゴムが低分子量化し、含有カーボン同士が結合して、一対の電極端子間でリーク電流が生じやすい。
【0011】
また特許文献2に記載の樹脂層は、コンデンサの端面と絶縁板、およびコンデンサのリード線と絶縁板の透孔との間隙に形成されるため、同様に弾性ゴム等で構成された封口体は、外部から侵入する空気(酸素)および/または水分(水蒸気)から保護されるとも考えられる。しかしながら、樹脂層は、エポキシ樹脂やシリコン樹脂で構成され、弾性ゴムで構成された封口体とは熱膨張係数が大きく異なるため、長期間の使用に伴うヒートショックにより、樹脂層が封口体から剥離し、これらの間の界面に空隙が生じる場合がある。樹脂層と封口体との間に空隙が生じると、弾性ゴム製の封口体は、同様に、外部から侵入する空気(酸素)および/または水分(湿気)に晒され、酸化し、割れやすくなり、さらに空隙内に蓄積された水分を介して一対の電極端子間でリーク電流が生じ得る。
【0012】
そこで本発明の1つの態様は、封口体と絶縁板(座板)の間に樹脂部材を充填して、樹脂部材と封口体の間の密着性を向上させ、外部から侵入する空気(酸素)および/または水分(水蒸気)を確実に遮断して、封口体の酸化劣化を未然防止することにより、過酷な動作条件下であっても長期間にわたる高い信頼性を実現する電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様に係る電解コンデンサは、一対の電極を含むコンデンサ素子と、前記一対の電極の間に介在する電解質と、前記一対の電極にそれぞれ電気的に接続された一対のリードと、前記コンデンサ素子および前記電解質が収容され、開口を有するケースと、前記開口を封止し、前記リードを引き出すための一対の挿通孔を有する封口体と、前記リードを引き出すための一対の貫通孔を有する絶縁板と、前記封口体と前記絶縁板の間に充填された樹脂部材と、を備え、前記絶縁板は、前記樹脂部材に当接する樹脂接合面と、前記樹脂接合面に対向する実装面とを有し、前記樹脂接合面において少なくとも1つの凸部または凹部を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の1つの態様に係る電解コンデンサによれば、封口体と絶縁板(座板)の間に樹脂部材を充填して、樹脂部材と封口体の間の密着性を向上させ、外部から侵入する空気(酸素)および/または水分(水蒸気)を確実に遮断して、封口体の酸化劣化を未然防止することにより、過酷な動作条件下であっても長期間にわたる高い信頼性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電解コンデンサの内部を部分的に示す一部破断斜視図である。
【
図2】(a)~(c)はそれぞれ、
図1の電解コンデンサの平面図、底面図、および側面図である。
【
図3】(a)は、
図2(a)のIII-III線から見た電解コンデンサの断面図であり、(b)は(a)の座板を上から見た平面図である。
【
図4】(a)は、第1の実施形態に係る別の電解コンデンサの断面図であり、(b)は(a)の座板を上から見た平面図である。
【
図5】第1の実施形態に係るさらに別の電解コンデンサの座板を上から見た平面図である。
【
図6】
図4(a)と同様の断面図であって、電解コンデンサの樹脂部材と連通する周縁固定部を示す。
【
図7】(a)~(d)は、
図3(b)および
図4(b)と同様の平面図であって、樹脂接合面に形成された凹状流路(溝部)を示す。
【
図8】
図7(a)のVIII-VIII線から見た電解コンデンサの断面図である。
【
図9】ケースのカール部を下から見た底面図であり、カール部に設けられた4つのスリットを示す。
【
図10】
図6と同様の断面図であって、中心から周縁部に向かって上に凸となるような曲面を含む座板を示す。
【
図11】
図6と同様の断面図であって、樹脂接合面から実装面まで貫通する樹脂注入孔を示す。
【
図12】(a)~(c)は、第1の実施形態の変形例に係る電解コンデンサを示す、
図2(a)~
図2(c)と同様の平面図、底面図、および側面図である。
【
図13】(a)~(c)は、第1の実施形態の別の変形例に係る電解コンデンサを示す、
図2(a)~
図2(c)と同様の平面図、底面図、および側面図である。
【
図14】
図13(a)のXIV-XIV線から見た電解コンデンサの断面図である。
【
図15】
図13(a)のXV-XV線から見た電解コンデンサの断面図である。
【
図16】第1の実施形態のさらに別の変形例に係る電解コンデンサの平面図である。
【
図17】本発明の第2の実施形態に係る電解コンデンサの内部を部分的に示す一部破断斜視図である。
【
図18】(a)は、第2の実施形態に係る電解コンデンサを示す、
図3(a)と同様の断面図であり、(b)は(a)の座板を上から見た平面図である。
【
図19】(a)は、第2の実施形態に係る別の電解コンデンサの断面図であり、(b)は(a)の座板を上から見た平面図である。
【
図20】第2の実施形態に係るさらに別の電解コンデンサの座板を上から見た平面図である。
【
図21】
図19(a)と同様の断面図であって、電解コンデンサの樹脂部材と連通する周縁固定部を示す。
【
図22】(a)~(d)は、
図18(b)および
図19(b)と同様の平面図であって、樹脂接合面に形成された凹状流路(溝部)を示す。
【
図23】
図22(a)のXXIII-XXIII線から見た電解コンデンサの断面図である。
【
図24】
図23と同様の断面図であって、中心から周縁部に向かって下に凸となるような曲面を含む座板を示す。
【
図25】
図21と同様の断面図であって、樹脂接合面から実装面まで貫通する樹脂注入孔を示す。
【
図26】
図13(a)のXIV-XIV線から見た第2の実施形態に係る電解コンデンサの断面図である。
【
図27】
図13(a)のXV-XV線から見た第2の実施形態に係る電解コンデンサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付図面を参照して本発明に係る電解コンデンサの実施形態を以下説明する。各実施形態の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語(たとえば「上方」、「下方」、「外側」、および「内側」等)を適宜用いるが、これは説明のためのものであって、これらの用語は本発明を限定するものでない。なお各図面において、電解コンデンサの各構成部品の形状または特徴を明確にするため、これらの寸法を相対的なものとして図示し、必ずしも同一の縮尺比で表したものではない。
【0017】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電解コンデンサ1の内部を部分的に示す一部破断斜視図である。
図2(a)~(c)はそれぞれ、
図1の電解コンデンサ1の平面図、底面図、および側面図である。第1の実施形態に係る電解コンデンサ1は、概略、
図1に示すように、一対の電極2(図では1つのみ図示)を含むコンデンサ素子10と、一対の電極2の間に介在する電解質(図示せず)と、コンデンサ素子10および電解質を収容し、開口を有するケース20と、一対の貫通孔51(
図3)を有する座板50(「絶縁板」ともいう。)と、封口体30と座板50の間に充填された樹脂部材40(「接着材」ともいう。)と、コンデンサ素子10の一対の電極2に接続され、座板50の貫通孔51から延びる一対のリード60と、を備える。また、座板50は、樹脂部材40に当接する樹脂接合面52と、これに対向する実装面53とを有し、樹脂接合面52において少なくとも1つの凸部70を有する。
【0018】
添付図面を参照しながら、電解コンデンサ1に広く用いられるコンデンサ素子10、ケース20、封口体30、およびリード60(電極2)について以下説明するが、本発明は、これらの構成部品に限定されるものではなく、他のコンデンサ素子、ケース、封口体、および電極を採用することができる。なお、本発明に係る電解コンデンサ1は、電解質として電解液または導電性高分子などの固体電解質を用いる電解コンデンサや、電解質として電解液および固体電解質を用いたいわゆるハイブリッド電解コンデンサにも利用することができる。
【0019】
(コンデンサ素子)
再び、
図1を参照して、コンデンサ素子10について説明する。コンデンサ素子10は、概略、誘電体層を有する陽極箔12と、陰極箔14と、これらの間で電解質を保持するセパレータ16とを巻回して構成される。またコンデンサ素子10は、陽極箔12および陰極箔14にそれぞれ電気的に接続された一対の電極2(
図1では一方の電極2のみを図示)を有する。さらにコンデンサ素子10は、その最外周を固定する巻止めテープ(図示せず)を有する。
【0020】
陽極箔12は、これに限定するものではないが、例えばアルミニウム、タンタル、またはニオブ等の弁作用金属またはこれらの弁作用金属を含む合金等からなる金属箔の表面を粗面化して形成される。金属箔の粗面化は、直流電解法または交流電解法等のエッチング処理技術を用いて行ってもよい。金属箔を粗面化することにより、その表面に複数の凹凸を形成することができる。陽極箔12上の誘電体層は、粗面化された表面の孔や窪み(ピット)の内壁面に沿って形成されるため、その表面積を増大させることができる。
【0021】
陽極箔12上の誘電体層は、例えば金属箔をアジピン酸アンモニウム溶液などの化成液に浸漬して、(必要に応じて電圧を印加した状態で)金属箔を化成処理することにより形成してもよい。陽極箔12は、一般に、弁作用金属等を含む大判の金属箔の表面を粗面化し、化成処理した後、所望の大きさに裁断することにより量産することができる。
【0022】
陰極箔14は、同様に、例えばアルミニウム、タンタル、ニオブ等の弁作用金属またはこれらの弁作用金属を含む合金等からなる金属箔の表面を粗面化して形成される。陰極箔14は、必要に応じて、陽極箔12と同様、粗面化および/または化成処理を行ってもよい。
【0023】
セパレータ16は、これに限定するものではないが、例えば、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン、ポリアミド(例えば、脂肪族ポリアミド、アラミドなどの芳香族ポリアミド)の繊維を含む不織布等を用いて形成してもよい。
【0024】
コンデンサ素子10は、例えば誘電体層を形成した陽極箔12、セパレータ16、および陰極箔14を重ね合わせて巻回し、セパレータ16に電解質を保持させることにより構成することができる。また、
図1に示すコンデンサ素子10は、一対の電極2(
図1では一方の電極2のみを図示)の一方の端部が陽極箔12および陰極箔14にそれぞれ電気的に接続され、他方の端部がコンデンサ素子10の端面(
図1では下方端面)から延出するように形成される。
【0025】
電解質は、固体電解質、電解液、電解液および固体電解質等を組み合わせたハイブリッド型電解質を用いることができる。電解液は、非水溶媒とこれに溶解させたイオン性物質(溶質、例えば、有機塩)との混合物であってもよい。非水溶媒は、有機溶媒でもよく、イオン性液体でもよい。非水溶媒としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチルアセトアミド等を用いることができる。有機塩としては、例えば、マレイン酸トリメチルアミン、ボロジサリチル酸トリエチルアミン、フタル酸エチルジメチルアミン、フタル酸モノ1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム、フタル酸モノ1,3-ジメチル-2-エチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。
【0026】
固体電解質は、例えば、マンガン化合物や導電性高分子を含む。導電性高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンおよびこれらの誘導体などを用いることができる。導電性高分子を含む固体電解質は、例えば、原料モノマーを誘電体層上で化学重合および/または電解重合することにより、形成することができる。また固体電解質は、導電性高分子が溶解した溶液、または導電性高分子が分散した分散液を、誘電体層に塗布することにより形成することができる。なお、コンデンサ素子は上記のものに限らず、コンデンサ素子として機能するものであれば、任意の構成を有するものであってもよい。
【0027】
(封口体)
封口体30は、絶縁性を有するものであれば任意のものを用いて形成することができるが、好適には、弾性および封止性の高いゴム部材を用いて形成される。また耐熱性の高いゴム部材として、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(ハイパロンゴムなど)、ブチルゴム、またはイソプレンゴム等が挙げられる。
【0028】
封口体30は、ケース20の開口の形状に対応する平面形状(例えば、円盤状またはディスク状)を有し、電極2のタブ部19を通すための挿通孔(図示せず)を有するように予め成形される。
【0029】
(電極)
一対の電極2は、コンデンサ素子10から延びるタブ部19を有し、一対のリード60は、封口体30の内部において溶接等によりタブ部19に接続されている。タブ部19は、例えばアルミニウムのような弁作用金属で形成され、その金属の酸化被膜で覆われていることが好ましい。一方、リード60は、例えば、鉄、銅、ニッケル、錫などの遷移金属を含むCP線、Cu線等で形成されている。タブ部19およびリード60は、その一部が封口体30内に埋設されるが、タブ部19の径がリード60の径より小さいため、封口体30内において、リード60の周囲に環状空間32が形成されている。
【0030】
(ケース)
ケース20は、典型的には、略円筒形状を有し、コンデンサ素子10および封口体30を収容する開口を有する。また略円筒形状のケース20は、側部21と、これにつながる略環状の絞り部23およびカール部25を有する。すなわちカール部25がケース20の開口を画定する。ケース20は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、真鍮などの金属あるいはこれらの合金を用いて形成される。なお、ケース20の側部21、絞り部23、およびカール部25は、部分的または全体的にラミネートフィルムで覆われていてもよいし、覆われていなくてもよい。後述の樹脂部材40との接着適合性を判断して、ラミネートフィルムの被膜の要否、およびラミネートフィルムの材質を判断してもよい。
【0031】
(樹脂部材、接着材)
本発明の実施形態に係る電解コンデンサ1は、封口体30と後述する座板50との間に充填された樹脂部材40を有する。
図3(a)は、
図2(a)のIII-III線から見た電解コンデンサ1の断面図である。電解コンデンサ1は、
図3(a)に示すように、ケース20内にコンデンサ素子10および封口体30を収容し、
図3(a)とは上下反転させた状態で硬化前の流動性樹脂を、封口体30の表面、ケース20の内面、および座板50の樹脂接合面52で画定された空間、およびリード60の周囲に形成された環状空間32を液密に封止するように充填して、樹脂部材40を形成する。
【0032】
一般に、電解コンデンサ1は、過酷な条件下でのリフロー処理または高温環境下での長期間の使用等により、その電解液等の液体が気化し、気化したガスによりケース20の内圧が高まり、封口体30に応力が加わることがある。ケース20の内圧が高まると、電解液は、封口体30内に浸潤(透過)するか、または封口体30と電極2のタブ部19との間、もしくは封口体30とケース20との間の界面に形成された微小な空隙を介して樹脂部材40に達する場合がある。そして電解液が蒸発し、ケース20の外部に蒸散すると、電解コンデンサ1としての所定の特性を維持することができなくなってしまう。
【0033】
しかしながら、本発明の第1の実施形態によれば、座板50に凸部70を設けることにより、樹脂部材40が、ケース20および座板50と密着するように固定するため、たとえ電解液等の液体がケース20内で蒸発し、封口体30内に浸潤(透過)し、または微小な空隙を介して樹脂部材40に達する場合があっても、電解液のケース20の内部から外部へ蒸散することを、樹脂部材40が実質的に低減または防止し、電解コンデンサ1としての所望の信頼性を維持することができる。
【0034】
すなわち、本発明の第1の実施形態に係る凸部70は、[発明が解決しようとする課題]の欄で上記説明したように、樹脂部材40(接着材)とケース20および封口体30との間の密着性(封止性)を向上させることにより、外部からケース20内に侵入する際の空気等の侵入経路、およびケース20内の電解液等の液体が外部へ蒸散する際の蒸散経路を増長させ、複雑にする(紆余曲折させる)ことで、電解コンデンサ1の所望の長期信頼性を実現するものである。
【0035】
また、本発明の第1の実施形態に係る樹脂部材40は、リード60の周囲に形成された環状空間32を液密に封止するように充填されるため、たとえ電解液が封口体30と樹脂部材40との間の界面または環状空間32に達する場合があっても、遷移金属を含む材料で形成されたリード60の腐食を防止することができる。
【0036】
次に、樹脂部材40を充填する前後の作製工程について、より具体的に説明する。ケース20内にコンデンサ素子10および封口体30を収容した後、ケース20の側部21の開口端部の近傍を絞り加工して(周方向から圧力を加えて変形させて)、絞り部23を形成して、ケース20で封口体30を封止する。さらにケース20の開口端部をカール加工して(開口端部を半径方向内側に変形させて)U字状またはL字状のカール部25を形成する。すなわちケース20の絞り部23およびカール部25は、側部21に連続して形成されるものである。
【0037】
そしてカール加工したケース20内に、硬化前の流動性樹脂を封口体30の上にポッティング、塗布または注入した後、リード60を貫通孔51に挿通させて座板50を配置する。このときカール部25が、座板50の樹脂接合面52のうち凸部70が形成されない面(本願では、「基準面54」という。)に当接することにより、ケース20が座板50に対して上下方向(高さ方向)に位置合わせされる。その後、流動性樹脂を硬化させることにより、封口体30と座板50との間に充填された樹脂部材40が形成される。さらに、流動性樹脂を硬化させて樹脂部材40を形成した後、座板50の実装面53に沿って延びるように、リード60を折り曲げる。
【0038】
流動性樹脂は、熱硬化性または光硬化性のものであることが好ましい。また流動性樹脂は、フィラー、硬化剤、重合開始剤、および/または触媒などを含んでいてもよい。熱硬化性の流動性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ジアリルフタレート、または不飽和ポリエステル等を含むものであってもよい。フィラーは、例えば、シリカ、アルミナなどの絶縁性の化合物(酸化物など)、ガラス、または鉱物材料(タルク、マイカ、クレーなど)等の絶縁性の粒子を一種または二種以上のものを含むものであってもよい。
【0039】
また流動性樹脂は、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)またはポリブチレンテレフタレート(PBT)等の熱可塑性樹脂またはこれを含むものであってもよい。さらに、流動性樹脂は、射出成形、インサート成形、または圧縮成形等の成形技術を用いて注入してもよい。
【0040】
(座板、絶縁板)
図3(b)は、
図3(a)の座板50を上から見た平面図である。
図4(a)は、第1の実施形態に係る別の電解コンデンサ1の断面図であり、
図4(b)は、
図4(a)の座板50を上から見た平面図である。
図5は、第1の実施形態に係るさらに別の電解コンデンサ1の座板50を上から見た平面図である。図中、ケース20のカール部25が座板50の基準面54と当接する点の集合(すなわち円)を破線で示す。
【0041】
本発明の実施形態に係る座板50は、最も簡便な形態として、
図3(b)および
図4(b)に示すように、略正方形の平面形状を有し、極性を示すための2つの切欠部55を有する。また、座板50は、樹脂部材40に当接する樹脂接合面52(上面)と、実装基板(図示せず)に対向する実装面53(下面)とを有し、樹脂接合面52において少なくとも1つの凸部70を備える。凸部70は、
図3(b)に示すように、ケースの中心と同心円状に形成される単一の凸部であってもよいし、
図4(b)に示すように、2つの凸部70であってもよい。また凸部70は、
図5に示すように、中心付近に配置された凸部70と放射状(半径方向)に延びる凸部70とを組み合わせたものであってもよい。さらに、さらに数多く凸部70を設けてもよいし、格子状または千鳥状の凸部70であってもよい(図示せず)。
【0042】
使用時、電解コンデンサ1が大きな環境温度の変化(サーマルショック)に晒されると、封口体30と樹脂部材40の熱膨張係数の差に起因して、封口体30が樹脂部材40に比して大きく膨張または縮小する傾向がある。しかしながら、本発明の第1の実施形態によれば、樹脂接合面52に凸部70を設けることにより、封口体30と樹脂部材40の間の密着強度を実質的に増大させ、外部から侵入する空気(酸素)および/または水分(水蒸気)を確実に遮断するとともに、電解液等の液体がケース20の外部へ蒸散(減少)を実質的に低減または防止して、電解コンデンサ1の所望の長期信頼性を担保することできる。
【0043】
なお、詳細図示しないが、樹脂部材40を硬化させた後、リード60を折り曲げる際にリード60に加わるストレスを軽減するために、座板50の貫通孔51付近に傾斜部または湾曲部(図示せず)を設けてもよい。また座板50の貫通孔51は、凸部70内に形成されるため、従来技術のように凸部が形成されない場合に比して、傾斜部または湾曲部を容易に形成することができる。
【0044】
さらに、本発明の実施形態に係る樹脂部材40は、好適には、
図6に示すように、カール部25から絞り部23に向かって延び、ケース20の外面の少なくとも一部に接着して、ケース20を外側から規制または固定するように構成された周縁固定部42を有する(詳細後述する)。これにより、座板50およびケース20と樹脂部材40との間の密着強度がさらに改善され、外部から侵入する空気等の遮断、および電解液等の外部への蒸散の防止をより確実なものとして、電解コンデンサ1のより高い信頼性を実現することできる。
【0045】
(周縁固定部)
上述のように、ケース20を外側から固定する樹脂部材40の部分(
図6)を、本願においては、便宜上、周縁固定部42という。周縁固定部42は、封口体30と座板50との間に充填された樹脂部材40と一体のもの、すなわち樹脂部材40と連通(連続)するものであることが好ましい。周縁固定部42は、樹脂部材40を形成する硬化前の流動性樹脂がケース20の外側に流出する流路を設けることにより、簡便に形成することができる。
【0046】
次に、
図7~
図11を参照しながら、周縁固定部42を形成するための座板50またはケース20のカール部25の形態について詳細に説明する。
図7(a)~(d)は、
図3(b)および
図4(b)に示す座板50の樹脂接合面52の基準面54に凹状流路56(溝部)が形成された座板50の平面図である。図中、便宜上、凹状流路56はハッチングを付して示し、ケース20のカール部25が座板50の基準面54と当接する点の集合(すなわち破断した円)を破線で示す。
【0047】
ケース20のカール部25は、いずれの場合も座板50の樹脂接合面52の基準面54に当接しているため、ケース20は座板50に対する上下方向(高さ方向)の位置が規制される(位置合わせされる)。ケース20を上下反転させた状態で、硬化前の粘性を有する流動性樹脂を封口体30の上にポッティングまたは注入した後、座板50を所定の圧力で下方に押圧すると、流動性樹脂は、座板50の樹脂接合面52の基準面54、凸部70、および凹状流路56(
図7)と封口体30との間の空間、およびリード60の周囲の環状空間32に充填される。
【0048】
このとき余剰の流動性樹脂は、凹状流路56を介してケース20の外側に押し出され、ケース20の外面に沿って流れる。すなわち凹状流路56は、カール部25の内側および外側にある流動性樹脂を連通するものである。なお、座板50を下方に押圧するとき、封口体30と座板50の間の空間に、気泡を混入させないことが好ましいが、本発明は、気泡を必ずしも完全に混入させないことを要求するものではなく、ある程度の気泡の混入を許容するものである。このように充填され、押し出された流動性樹脂が硬化すると、樹脂部材40および周縁固定部42が一体のものとして形成される。
【0049】
また流動性樹脂は、カール部25の周囲全体を覆い、カール部25(特に、その端部)は封口体30とは離間するように配置されている。とりわけカール部25がU字状形状を有する場合、流動性樹脂は、下に凸となる曲面を含むカール部25の上面および下面に当接するとともに、樹脂接合面52に沿った方向に延びるカール部25の先端部の内面および外面に当接するように充填されるので(すなわち流動性樹脂はカール部25を上下左右から包囲されて接着されるので)、樹脂部材40はカール部25をより強固に固定することができる。
なお、付言すると、前掲特許文献2のカール部の先端部は封口体に食い込んでおり、カール部の上面には樹脂層が形成されておらず、カール部の下面が樹脂層に接着しているに過ぎないので、カール部と樹脂層との間の接着強度は極めて小さい。
【0050】
図7(a)および
図7(b)に示す凹状流路56は、座板50の角部57に向かって延び、周縁固定部42は座板50の角部57付近に形成され、
図7(c)および
図7(d)に示す凹状流路56は、座板50の端部58に向かって延び、周縁固定部42は座板50の端部58付近に形成される。なお、
図8は、
図7(a)のVIII-VIII線から見た断面図であり、座板50の角部57に向かって延びる凹状流路56を示すものである。
【0051】
座板50の平面寸法は、ユーザの仕様または標準規格により規定されており、角部57付近に形成される周縁固定部42は、端部58付近に形成される周縁固定部42より大きく形成することができるので、座板50およびケース20と樹脂部材40との間の密着性を向上させる点において、前者は後者より有利である。
【0052】
なお、凹状流路56は、3つ以下であってもよいし5つ以上であってもよい。また凹状流路56の平面形状は、図示したものより大きくてもよいし、小さくてもよい。さらに凹状流路56は、角部57または端部58に限らず、その中間位置に向かって延びるものであってもよいし、必ずしも周方向に等間隔に配置されなくてもよい。
【0053】
図9は、ケース20のカール部25を下から見た底面図であり、座板50の配置位置を破線で示す。カール部25は、略円環状の平面形状を有するが、少なくとも1つの(
図9では4つの)スリット26が形成されている。カール部25のスリット26は、座板50の凹状流路56と同様、カール部25の内側および外側にある流動性樹脂を連通するものである。
【0054】
ケース20のカール部25は、スリット26を設けない部分において、座板50の樹脂接合面52の基準面54に当接しているため、ケース20は座板50に対する上下方向(高さ方向)の位置が規制される(位置合わせされる)。同様に、流動性樹脂を封口体30の上にポッティングまたは注入した後、座板50を所定の圧力で下方に押圧すると、流動性樹脂は、カール部25の周囲全体を覆い、封口体30と座板50の樹脂接合面52との間の空間、およびリード60の周囲の環状空間32に充填される。また余剰の流動性樹脂は、カール部25のスリット26を介してケース20の外側に押し出され、重力の作用により、ケース20の外面に沿って流れる。このように充填され、押し出された流動性樹脂が硬化すると、互いに連通(連続)する樹脂部材40および周縁固定部42が一体のものとして形成される。
【0055】
なお、詳細図示しないが、カール部25のスリット26は、4つ(
図9)に限定されるものではなく、3つ以下または5つ以上であってもよい。またスリット26は、座板50の角部57に向かって延びるものに限らず、端部58に向かって延びるもの、またはその中間位置に向かって延びるものであってもよいし、必ずしも周方向に等間隔に配置されなくてもよい。
【0056】
上述のように、流動性樹脂を封口体30の上にポッティングまたは注入した後、座板50を所定の圧力で下方に押圧するとき、封口体30と座板50の間の空間に、気泡を混入させないことが好ましい。そこで座板50は、
図10に示すように、その樹脂接合面52の基準面54を平坦に維持しつつ(
図7(c)および
図7(d)参照)、中央に配置された凸部70および凹状流路56が連続した曲面を有するように構成してもよい。すなわち座板50の樹脂接合面52は、その中心から周縁部に向かって上に凸となるような曲面を含むように形成して、流動性樹脂に含まれる可能性のある気泡を中央から周縁部へ、さらには凹状流路56からケース20の外側に排出するように構成してもよい。
【0057】
また流動性樹脂は、射出成形、インサート成形、または圧縮成形等の成形技術を用いて注入してもよく、座板50は、
図11に示すように、硬化前の流動性樹脂を封口体30と座板50の間に注入するための樹脂接合面52から実装面53まで貫通する樹脂注入孔59を有してもよい。樹脂注入孔59は、1つまたはそれ以上設けてもよい。また座板50は、樹脂注入孔59とは別に、流動性樹脂を注入する際に空気を排出させるための排気孔(図示せず)を有し、封口体30と座板50の間の空間に気泡を混入させないことが好ましい。樹脂注入孔59および排気孔は、流動性樹脂の充填が完了した時点で、封口体30と座板50との間の空間と同様、流動性樹脂で充填される。
【0058】
なお、
図3(a)および
図4(a)等の断面図において、樹脂部材40は、封口体30の表面、ケース20の内面、座板50の樹脂接合面52、および環状空間32のリード60に完全に密着するように充填されるものとして上記説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち上述のように、樹脂接合面52に少なくとも1つの凸部70を設けて、外部からケース20内に侵入する際の空気等の侵入経路、およびケース20内の電解液等の液体が外部へ蒸散する際の蒸散経路を増長させ、複雑にすることにより、電解コンデンサ1の所望の長期信頼性を実質的に担保するものあれば、本発明は、樹脂部材40が上記構成部品とわずかに離間することを排除するものではない。
【0059】
(座板(絶縁板)の変形例)
図12(a)~
図12(c)および
図13(a)~
図13(c)は、それぞれ上記説明した第1の実施形態の変形例に係る電解コンデンサ1を示す、
図2(a)~
図2(c)と同様の平面図、底面図、および側面図である。なお、変形例に係る電解コンデンサ1は、座板50がケース20に沿って延びる壁部80を有する点を除き、上記実施形態と同様の構成を有するので、重複する構成に関する説明を省略する。
【0060】
上記説明した第1の実施形態に係る電解コンデンサ1の座板50は、一般に、「平座板」と呼ばれるのに対し、
図12(a)~
図12(c)に示す変形例に係る電解コンデンサ1の座板50は、ケース20のカール部25に沿って延びる壁部80を有し、この壁部80がケース20を座板50に対して水平方向に位置合わせするものであることから、「位置合わせ平座板」ともいう。さらに、
図13(a)~
図13(c)に示す変形例に係る座板50は、ケース20の側部21および絞り部23に沿って、より長く延びる耐振壁部80を有し、耐振壁部80がケース20を座板50に確実に固定して、耐振性能を向上させるものであることから、「耐振座板」とも呼ばれる。「位置合わせ平座板」および「耐振座板」は、ともに座板50の角部57に壁部80を有することから、本願では、便宜上、これらを総称して耐振座板50として以下説明する。
【0061】
詳細な説明を省略するが、平座板を備えた電解コンデンサ1に係る実施形態で上記説明したように、樹脂部材40と周縁固定部42とを連通(連結)する座板50の凹状流路56(溝部)およびカール部25のスリット26は、耐振座板を備えた電解コンデンサ1にも同様に適用することができる。
【0062】
図14は、
図13(a)のXIV-XIV線から見た断面図であり、
図15は、
図13(a)のXV-XV線から見た断面図である。耐振座板50は、角部57に壁部80を有し、
図15に示すように、ケース20の側部21(図示しないが、択一的には、絞り部23またはカール部25)と、壁部80との間に形成された間隙82に樹脂部材40が充填されるように構成される。耐振座板50の壁部80がより高いほど、より多くの流動性樹脂がケース20と耐振座板50の壁部80の間に充填され、座板50およびケース20と樹脂部材40との間の密着強度をいっそう増大させることができる。こうして、耐振座板50を有する電解コンデンサ1は、外部から侵入する空気等を遮断し、電解液等の外部への蒸散を防止することにより、電解コンデンサ1のより高い信頼性を実現することできる。また、
図14に示すように、壁部80は、ケース20の側部21との間隔が狭い部分を有することにより、ケース20と耐振座板50との位置合わせをより正確に行うことができる。
【0063】
上述のように、座板50の平面寸法は、一般に、ユーザの仕様または標準規格により規定されているが、
図16に示すように、ケース20の径を小さくするか、座板50の平面寸法を大きくして、壁部80を耐振座板50の角部57だけでなく、ケース20を包囲するように形成して、樹脂部材40が、ケース20の周囲全体に設けられた間隙82に流動性樹脂が充填されるようにしてもよい。ケース20の周囲全体に設けられた間隙82に充填された流動性樹脂は、座板50の角部57とケース20の間の間隙82にのみ充填された流動性樹脂に比して、座板50およびケース20と樹脂部材40との間の密着強度をさらにいっそう増大させることができる。このように構成された耐振座板50を有する電解コンデンサ1は、外部から侵入する空気等の遮断、電解液等の外部への蒸散の防止をより確実なものとし、電解コンデンサ1のより高い信頼性を実現することできる。
【0064】
[第2の実施形態]
図17~
図27を参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る電解コンデンサ1について説明する。第2の実施形態による電解コンデンサ1は、概略、座板50が、凸部70の代わりに、樹脂接合面52において少なくとも1つの凹部75を有する点を除き、第1の実施形態と同様の構成を有するので、重複する内容については説明を省略する。
【0065】
図17は、本発明の第2の実施形態に係る電解コンデンサ1の内部を部分的に示す一部破断斜視図である。第2の実施形態に係る電解コンデンサ1の外形形状を表す平面図、底面図、および側面図は、第1の実施形態に係る
図2(a)~(c)と同様である。
【0066】
第2の実施形態に係る電解コンデンサ1に用いられるコンデンサ素子10、ケース20、封口体30、樹脂部材40、およびリード60(電極2)、は、第1の実施形態と同様の構成を有し、同様の方法により形成される。
【0067】
図18(a)は、第2の実施形態に係る電解コンデンサ1の
図3(a)と同様の断面図であり、
図18(b)は
図18(a)の座板を上から見た平面図である。
図19(a)は、第2の実施形態に係る別の電解コンデンサ1の断面図であり、
図19(b)は、
図19(a)の座板50を上から見た平面図である。
図20は、第2の実施形態に係るさらに別の電解コンデンサ1の座板50を上から見た平面図である。図中、ケース20のカール部25が座板50の基準面54と当接する点の集合(すなわち円)を破線で示す。
【0068】
上述のように、第2の実施形態に係る電解コンデンサ1において、座板50は、樹脂接合面52において少なくとも1つの凹部75を有する(特に
図17、
図18(a)および
図19(a)参照)。
【0069】
すなわち本発明の第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様、座板50に凹部75を設けることにより、樹脂部材40が、ケース20および座板50と密着するように固定するため、たとえ電解液等の液体がケース20内で蒸発し、封口体30内に浸潤(透過)し、または微小な空隙を介して樹脂部材40に達する場合があっても、電解液のケース20の内部から外部へ蒸散することを、樹脂部材40が実質的に低減または防止することができる。こうして、電解コンデンサ1としての所望の信頼性を維持することができる。
【0070】
また、本発明の第2の実施形態に係る凹部75は、樹脂部材40(接着材)とケース20および封口体30との間の密着性(封止性)を向上させることにより、外部からケース20内に侵入する際の空気等の侵入経路、およびケース20内の電解液等の液体が外部へ蒸散する際の蒸散経路を増長させ、複雑にする(紆余曲折させる)ことができる。これにより、さらに長期間にわたる電解コンデンサ1の所望の信頼性を実現することができる。
【0071】
さらに、第2の実施形態に係る樹脂部材40は、第1の実施形態と同様、リード60の周囲に形成された環状空間32を液密に封止するように充填されるため、たとえ電解液が封口体30と樹脂部材40との間の界面または環状空間32に達する場合があっても、遷移金属を含む材料で形成されたリード60の腐食を防止することができる(
図18(a)および
図19(a)参照)。
【0072】
樹脂部材40を充填する前後の作製工程、および流動性樹脂の具体的な特性ならびに構成材料は、第1の実施形態のものと同様であるので、その詳細な説明を省略する。
【0073】
座板50(絶縁板)は、最も簡便な形態として、
図18(b)および
図19(b)に示すように、略正方形の平面形状を有し、極性を示すための2つの切欠部55を有する。また、座板50は、樹脂部材40に当接する樹脂接合面52(上面)と、実装基板(図示せず)に対向する実装面53(下面)とを有し、樹脂接合面52において少なくとも1つの凹部75を備える。凹部75は、
図18(b)に示すように、ケースの中心と同心円状に形成される円形平面形状を有するものであってもよいし、
図19(b)に示すように、ドーナツ平面形状を有するものであってもよい。また凹部75は、
図20に示すように、中心付近に配置された凹部75と放射状(半径方向)に延びる凹部75とを組み合わせたものであってもよい。さらに、さらに数多く凹部75を設けてもよいし、格子状または千鳥状の凹部75であってもよい(図示せず)。
【0074】
使用時、電解コンデンサ1が大きな環境温度の変化(サーマルショック)に晒されると、封口体30と樹脂部材40の熱膨張係数の差に起因して、封口体30が樹脂部材40に比して大きく膨張または縮小する傾向がある。しかしながら、本発明の第2の実施形態によれば、樹脂接合面52に凹部75を設けることにより、封口体30と樹脂部材40の間の密着強度を実質的に増大させ、外部から侵入する空気(酸素)および/または水分(水蒸気)を確実に遮断するとともに、電解液等の液体がケース20の外部へ蒸散(減少)を実質的に低減または防止して、電解コンデンサ1の所望の長期信頼性を担保することできる。
【0075】
さらに、本発明の第2の実施形態に係る樹脂部材40は、好適には、
図21に示すように、カール部25から絞り部23に向かって延び、ケース20の外面の少なくとも一部に接着して、ケース20を外側から規制または固定するように構成された周縁固定部42を有する。これにより、座板50およびケース20と樹脂部材40との間の密着強度がさらに改善され、外部から侵入する空気等の遮断、および電解液等の外部への蒸散の防止をより確実なものとして、電解コンデンサ1のより高い信頼性を実現することできる。
【0076】
図22(a)~(d)は、
図18(b)および
図19(b)に示す座板50の樹脂接合面52の基準面54に凹状流路56(溝部)が形成された座板50の平面図である。図中、便宜上、凹状流路56はハッチングを付して示し、ケース20のカール部25が座板50の基準面54と当接する点の集合(すなわち破断した円)を破線で示す。
【0077】
図22(a)および
図22(b)に示す凹状流路56は、座板50の角部57に向かって延び、周縁固定部42は座板50の角部57付近に形成され、
図22(c)および
図22(d)に示す凹状流路56は、座板50の端部58に向かって延び、周縁固定部42は座板50の端部58付近に形成される。なお、
図23は、
図22(a)のXXIII-XXIII線から見た断面図であり、座板50の角部57に向かって延びる凹状流路56を示すものである。
なお、
図8に示す凹状流路56は、カール部25の内側において、座板50に形成された凹部75と同一の深さを有するものとして図示したが、これに限定されるものではなく、凹状流路56は、凹部75より浅くなるか、または深くなるように形成してもよい。
【0078】
周縁固定部42、凹状流路56、ならびにスリット26の構成、および周縁固定部42の形成方法は、第1の実施形態と同様であるので、重複する部分に関する更なる説明を省略する。
なお、流動性樹脂を封口体30の上にポッティングまたは注入した後、座板50を所定の圧力で下方に押圧するとき、封口体30と座板50の間の空間に、気泡を混入させないことが好ましい。
図24に示す座板50は、その中心から周縁部に向かって下に凸となるような曲面を含むように形成されているため、流動性樹脂に含まれる可能性のある気泡が中央から周縁部へ、さらには凹状流路56からケース20の外側に排出される。
【0079】
座板50は、
図25に示すように、硬化前の流動性樹脂を封口体30と座板50の間に注入するための樹脂接合面52から実装面53まで貫通する樹脂注入孔59を有してもよい。樹脂注入孔59は、1つまたはそれ以上設けてもよい。また座板50は、樹脂注入孔59とは別に、流動性樹脂を注入する際に空気を排出させるための排気孔(図示せず)を有し、封口体30と座板50の間の空間に気泡を混入させないことが好ましい。樹脂注入孔59および排気孔は、流動性樹脂の充填が完了した時点で、封口体30と座板50との間の空間と同様、流動性樹脂で充填される。
【0080】
ここでは詳細図示しないが、第1の実施形態の耐振座板50(絶縁板)に関して
図12(a)~
図12(c)、
図13(a)~
図13(c)、および
図14~
図16を参照して説明した変形例は、第2の実施形態(凹部75を有する耐振座板50)にも同様に適用することができる。
【0081】
図26および
図27は、それぞれ
図13(a)のXIV-XIV線およびXV-XV線から見た第2の実施形態に係る電解コンデンサの断面図である。耐振座板50は、角部57に壁部80を有し、
図27に示すように、ケース20の側部21(図示しないが、択一的には、絞り部23またはカール部25)と、壁部80との間に形成された間隙82に樹脂部材40が充填されるように構成される。耐振座板50の壁部80がより高いほど、より多くの流動性樹脂がケース20と耐振座板50の壁部80の間に充填され、座板50およびケース20と樹脂部材40との間の密着強度をいっそう増大させることができる。こうして、耐振座板50を有する電解コンデンサ1は、外部から侵入する空気等を遮断し、電解液等の外部への蒸散を防止することにより、電解コンデンサ1のより高い信頼性を実現することできる。また、
図26に示すように、壁部80は、ケース20の側部21との間隔が狭い部分を有することにより、ケース20と耐振座板50との位置合わせをより正確に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、封口体と座板の間に充填された樹脂部材を有する電解コンデンサに利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1…電解コンデンサ、2…電極、
10…コンデンサ素子、12…陽極箔、14…陰極箔、
16…セパレータ、19…タブ部、
20…ケース、21…側部、23…絞り部、25…カール部、26…スリット、
30…封口体、32…環状空間、
40…樹脂部材(接着材)、42…周縁固定部、
50…座板(絶縁板)、51…貫通孔、52…樹脂接合面、53…実装面、
54…基準面、55…切欠部、56…凹状流路(溝部)、57…角部、
58…端部、59…樹脂注入孔、
60…リード、
70…凸部、75…凹部、
80…壁部、82…間隙