(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】相変化を伴う現象のシミュレーション方法及びシミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04492 20160101AFI20230630BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20230630BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20230630BHJP
【FI】
H01M8/04492
H01M8/04537
H01M8/04 Z
(21)【出願番号】P 2019076485
(22)【出願日】2019-04-12
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2018108649
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保岡 悠
(72)【発明者】
【氏名】山本 恵一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】松下 史弥
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-245874(JP,A)
【文献】特開2009-193672(JP,A)
【文献】特開2017-130306(JP,A)
【文献】特開2009-211940(JP,A)
【文献】特開2005-135814(JP,A)
【文献】特開2010-160993(JP,A)
【文献】L. Matamoros, D. Bruggemann,Simulation of water and heat management in proton exchange membrane fuel cells,Journal of Power Sources,Elsevier,2006年05月18日,Vol.161,p.203-213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体における単位体積当たりの気液界面の面積、及び、前記気液界面の相変化速度から、前記多孔質体の単位体積、単位時間当たりの相変化量
に基づいて、前記多孔質体を含む燃料電池の液水分布を算出し、
そこでは、前記多孔質体において液水以外の空隙に拡散するガスの実効的な相互拡散係数を、ボルツマン方程式の考え方に基づくシミュレーション手法を用いて算出し、
前記ガスの実効的な相互拡散係数に基づいて、前記燃料電池における前記ガスの分布を算出し、前記燃料電池における前記液水分布及び前記ガスの分布に基づいて、前記燃料電池における電位の分布を算出する、
相変化を伴う現象のシミュレーション方法であって、
前記液水分布の算出に式4を用い、
【数1】
前記ガスの実効的な相互拡散係数の算出に式5で示されるStefan-Maxwell方程式を用いる、
【数2】
相変化を伴う現象のシミュレーション方法。
(式4中、εは細孔に対する空隙の割合(空隙率)であり、ρ
l
は液水の密度であり、sは細孔内の液水の充填率であり、tは時間であり、Kは液水の透過率であり、Pcは毛管圧であり、μ
l
は液水の粘性係数であり、r
w
は液水の単位体積、単位時間当たりの相変化量である。)
(式5中、X
i
は第1ガス粒子iのモル分率であり、X
j
は第2ガス粒子jのモル分率であり、V
i
は第1ガス粒子iの速度であり、V
j
は第2ガス粒子jの速度であり、D
ij
eff
は、第1ガス粒子iと第2ガス粒子jとの実効的な相互拡散係数(ガスの実効的な相互拡散係数)である。)
【請求項2】
前記相変化量の算出前に、
前記多孔質体の形状及び材質に関する情報を含む構造情報を取得し、
前記多孔質体の構造情報に基づき、前記多孔質体における単位体積当たりの気液界面の面積を算出する、
請求項1記載の相変化を伴う現象のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記相変化量の算出前に、前記多孔質体における単位体積当たりの気液界面の面積を取得する、
請求項1に記載の相変化を伴う現象のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記相変化量の算出前に、分子動力学法を用いて前記気液界面の相変化速度を算出する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の相変化を伴う現象のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記相変化量の算出前に、前記気液界面の相変化速度を取得する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の相変化を伴う現象のシミュレーション方法。
【請求項6】
演算処理部を備え、
前記演算処理部は、多孔質体における単位体積当たりの気液界面の面積、及び、前記気液界面の相変化速度から、前記多孔質体の単位体積、単位時間当たりの相変化量
に基づいて、前記多孔質体を含む燃料電池の液水分布を算出し、
そこでは、前記多孔質体において液水以外の空隙に拡散するガスの実効的な相互拡散係数を、ボルツマン方程式の考え方に基づくシミュレーション手法を用いて算出し、
前記ガスの実効的な相互拡散係数に基づいて、前記燃料電池における前記ガスの分布を算出し、前記燃料電池における前記液水分布及び前記ガスの分布に基づいて、前記燃料電池における電位の分布を算出するように構成されている、
相変化を伴う現象のシミュレーション装置であって、
前記演算処理部は、前記液水分布の算出に式4を用い、
【数3】
前記ガスの実効的な相互拡散係数の算出に式5で示されるStefan-Maxwell方程式を用いるように構成されている、
【数4】
相変化を伴う現象のシミュレーション装置。
(式4中、εは細孔に対する空隙の割合(空隙率)であり、ρ
l
は液水の密度であり、sは細孔内の液水の充填率であり、tは時間であり、Kは液水の透過率であり、Pcは毛管圧であり、μ
l
は液水の粘性係数であり、r
w
は液水の単位体積、単位時間当たりの相変化量である。)
(式5中、X
i
は第1ガス粒子iのモル分率であり、X
j
は第2ガス粒子jのモル分率であり、V
i
は第1ガス粒子iの速度であり、V
j
は第2ガス粒子jの速度であり、D
ij
eff
は、第1ガス粒子iと第2ガス粒子jとの実効的な相互拡散係数(ガスの実効的な相互拡散係数)である。)
【請求項7】
前記演算処理部は、
前記相変化量の算出前に、
前記多孔質体の形状及び材質に関する情報を含む構造情報を取得し、
前記多孔質体の構造情報に基づき、前記多孔質体における単位体積当たりの気液界面の面積を算出するように構成されている、
請求項
6記載の相変化を伴う現象のシミュレーション装置。
【請求項8】
前記演算処理部は、前記相変化量の算出前に、前記多孔質体における単位体積当たりの気液界面の面積を取得するように構成されている、
請求項
6に記載の相変化を伴う現象のシミュレーション装置。
【請求項9】
前記演算処理部は、前記相変化量の算出前に、分子動力学法を用いて前記気液界面の相変化速度を算出するように構成されている、
請求項
6~8のいずれか一項に記載の相変化を伴う現象のシミュレーション装置。
【請求項10】
前記演算処理部は、前記相変化量の算出前に、前記気液界面の相変化速度を取得するように構成されている、
請求項
6~8のいずれか一項に記載の相変化を伴う現象のシミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相変化を伴う現象のシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質体を含む燃料電池では、多孔質体における液体の水(液水)の輸送により、その性能が影響を受ける。このため、例えば、特許文献1の燃料電池のシミュレーション方法では、触媒層の構造を算出し、水の輸送等に基づき触媒層の性能を算出し、触媒層の性能を基に燃料電池の発電性能を算出することにより、電解質膜と電極とを有する膜-電極を備える燃料電池の発電性能をシミュレーションしている。
【0003】
また、多孔質体における液水の輸送は、液水に加わる圧力勾配に加え、蒸発及び凝縮の相変化にも影響を受ける。この液水の蒸発量及び凝縮量の相変化量について、例えば、非特許文献1の方法によれば、多孔質体における液水の充填率(飽和度)に比例するように決定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Energy Vol. 73 pp618-634 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高精度な相変化を伴う現象のシミュレーション方法の構築を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、多孔質体における単位体積当たりの気液界面の面積、及び、前記気液界面の相変化速度から、前記多孔質体の単位体積、単位時間当たりの相変化量を算出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、高精度な相変化を伴う現象のシミュレーション方法を提供することができるという効果を奏する。
【0009】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る相変化を伴う現象のシミュレーション装置を示す機能ブロック図である。
【
図2】相変化を伴う現象のシミュレーション方法に用いられる多孔質体を模式的に示した断面図である。
【
図3】気液界面の相変化速度に関する解析領域を模式的に示す斜視図である。
【
図4】気体分子の数の経時変化を示すグラフである。
【
図5】その他の変形例に係るシミュレーション方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施の形態2に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法の一例を示すフローチャートである。
【
図8】ガスの相互拡散係数に関する解析領域を模式的に示す斜視図である。
【
図9】本発明の実施の形態3に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法の一例を示すフローチャートである。
【
図10】実施の形態1に係るシミュレーション方法の一例を示すフローチャートである。
【
図11】変形例1に係るシミュレーション方法の一例を示すフローチャートである。
【
図12】変形例2に係るシミュレーション方法の一例を示すフローチャートである。
【
図13】変形例3に係るシミュレーション方法の一例を示すフローチャートである。
【
図14】変形例4に係るシミュレーション方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の基礎となった知見)
本発明者らは、多孔質体における液水に関するシミュレーションの精度向上について検討した。液水の相変化は、液水の気液界面を介して水分子が移動することにより生じる。しかしながら、非特許文献1の方法では、液水の相変化量は、多孔質体における液水の充填率に基づいており、多孔質体における気液界面の面積が液水の相変化量に反映されていない。そこで、本発明者等は、多孔質体における気液界面の面積を考慮して液水の相変化量を求めることにより、シミュレーションの精度向上が図られることを見出した。
【0012】
第1の発明に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、多孔質体における単位体積当たりの気液界面の面積、及び、前記気液界面の相変化速度から、前記多孔質体の単位体積、単位時間当たりの相変化量を算出する。
【0013】
この方法によれば、液水の相変化量(蒸発量及び凝縮量)は、多孔質体における単位体積当たりの気液界面の面積に基づいて算出される。このため、液水の相変化量について、相変化が生じる気体と液水の気液界面を考慮した高精度なシミュレーションを行うことができる。
【0014】
第2の発明に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、第1の発明において、前記相変化量の算出前に、前記多孔質体の構造情報を取得し、前記多孔質体の構造情報に基づき、前記多孔質体における単位体積当たりの気液界面の面積を算出する。この方法によれば、多孔質体の構造を考慮した液水の相変化量のシミュレーションを行うことができる。
【0015】
第3の発明に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、第1の発明において、前記相変化量の算出前に、前記多孔質体における単位体積当たりの気液界面の面積を取得する。この方法によれば、取得した気液界面の面積を考慮した液水の相変化量を高精度にシミュレーションすることができる。
【0016】
第4の発明に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、第1~3のいずれかの発明において、前記相変化量の算出前に、分子動力学法を用いて前記気液界面の相変化速度を算出する。この方法によれば、単位体積当たりの単位面積当たりに蒸発する液水量を決定する相変化速度係数を決定することができる。この方法によれば、分子動力学法を用いて算出した相変化速度を考慮した液水の相変化量を高精度にシミュレーションすることができる。また、このシミュレーション方法においては、分子動力学法を用いることにより、実験等に比べて容易に気液界面の相変化速度を取得することができる。
【0017】
第5の発明に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、第1~3のいずれかの発明において、前記相変化量の算出前に、前記気液界面の相変化速度を取得する。この方法によれば、取得した相変化速度を考慮した液水の相変化量を高精度にシミュレーションすることができる。
【0018】
第6の発明に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、第1~5のいずれかの発明において、前記多孔質体の単位体積、単位時間当たりの相変化量に基づいて、前記多孔質体を含む燃料電池の液水分布を算出する。この方法によれば、燃料電池における液水分布について、液水の気液界面を考慮した高精度なシミュレーションを行うことができる。
【0019】
第7の発明に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、第6の発明において、前記多孔質体において液水以外の空隙に拡散するガスの実効的な相互拡散係数を、ボルツマン方程式の考え方に基づくシミュレーション手法を用いて算出し、前記ガスの実効的な相互拡散係数に基づいて、前記燃料電池における前記ガスの分布を算出し、前記燃料電池における前記液水分布及び前記ガスの分布に基づいて、前記燃料電池における電位の分布を算出する。
【0020】
この方法によれば、燃料電池の電位分布(発電性能予測)のシミュレーションを高精度に行うことができる。なお、ボルツマン方程式の考え方に基づくシミュレーション手法とは、格子ボルツマン法及び格子ガス法のことを意味している。
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下では全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0022】
(実施の形態1)
<シミュレーション装置の構成>
本発明の実施の形態1に係る相変化を伴う現象のシミュレーション装置10は、
図1に示すように、多孔質体における液体の水(液水)の相変化量等を予測する装置である。この多孔質体には、燃料電池セルに用いられるガス拡散層及び触媒層等が例示される。このため、シミュレーション装置10は、例えば、燃料電池におけるシミュレーション装置として用いられるが、これ以外のシミュレーション装置にも用いることができる。
【0023】
液水の相変化は、水の液体から気体への変化(蒸発)、及び、水の気体から液体への変化(凝縮)である。また、液水の相変化量は、蒸発する水の量(蒸発量)、又は、凝縮する水の量(凝縮量)である。
【0024】
シミュレーション装置10は、演算処理部11及び記憶部12を有しており、例えば、コンピュータによって構成されている。例えば、演算処理部11としてコンピュータのCPU等が例示され、記憶部12として演算処理部11によりアクセス可能なメモリ等が例示される。
【0025】
記憶部12には、多孔質体における液水の相変化等をシミュレーションするプログラム及びこれに必要な情報が記憶されている。なお、このプログラム及びこれに必要な情報は、コンピュータに内蔵されたメモリに記憶されたものに限定されず、他の記憶媒体に記憶されたものであってもよいし、入力装置によって入力されたものであってもよいし、ネットワークを介して受信されたものであってもよい。
【0026】
演算処理部11は、記憶部12に記憶されたプログラム等のソフトウェアを読み出して実行することにより、多孔質体における液水の相変化等をシミュレーションする。シミュレーション装置10は、それぞれ、単独の装置で構成されていても構わないし、互いに協働する複数の装置で構成されていても構わない。
【0027】
<多孔質体の構成>
シミュレーションの対象とする
図2の多孔質体20について説明する。多孔質体20には、壁部分21及び多数の細孔22が設けられている。壁部分21は、例えば、樹脂及びカーボン担体等の有機物、ガラス等の無機物、並びに、その混合物等により形成されている。
【0028】
細孔22は、多孔質体20において周囲が壁部分21により取り囲まれていた空間である。細孔22に液体状の水(液水24)が分布している場合、細孔22から液水24を除いた空間(空隙23)が、ガスの粒子が移動可能な空間となる。このため、空隙23は、多孔質体20において壁部分21及び液水24以外の領域である。例えば、燃料電池の場合、ガスの粒子としては、水素、酸素及び窒素等が例示される。
【0029】
<相変化を伴う現象のシミュレーション方法>
相変化を伴う現象のシミュレーション方法は、例えば、
図1のシミュレーション装置10によって
図10に示すフローチャートに沿って実行される。ここでは、
図2に示す多孔質体20の単位体積及び単位時間当たりの液水24の相変化量についてシミュレーションする。
【0030】
シミュレーション装置10の演算処理部11は、多孔質体20における単位体積当たりの気液界面の面積、及び、気液界面の相変化速度から、多孔質体20の単位体積、単位時間当たりの相変化量を算出する(ステップS20)。
【0031】
この液水24の相変化は、多孔質体20の細孔22において空隙23に接する液水24の気液界面(液水24の表面)において生じる。多孔質体20における単位体積当たりの気液界面の面積(比表面積Sf)は、単位体積の多孔質体20において細孔22の空隙23に接している液水24の気液界面の面積である。また、気液界面の相変化速度(相変化速度係数k)は、気液界面において液水24が蒸発する速度、又は、気液界面において液水24に凝縮する速度である。
【0032】
続いて、演算処理部11は、相変化速度係数k及び比表面積Sfに基づき、下記式3から多孔質体20の単位体積及び単位時間当たりの液水24の相変化量(多孔質体20の単位体積当たりの気液界面の相変化速度(単位体積、単位時間当たりの相変化量rw))を算出する。
【0033】
この式3において、kは、相変化速度係数である。液水24の水蒸気分圧pwv、液水24の飽和蒸気圧psat、温度Tは、求めたいシミュレーション条件により定められる。
【0034】
【0035】
このような相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、液水24の比表面積Sf及び相変化速度係数kから、単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを算出している。このように、液水24の比表面積Sfによって、多孔質体20において相変化が生じる液水24の気液界面の面積(表面積)を考慮して、液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを高精度にシミュレーションすることができる。
【0036】
<変形例1>
変形例1に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、相変化量の算出前に、多孔質体20の構造情報を取得し、多孔質体20の構造情報に基づき、多孔質体20における単位体積当たりの気液界面の面積を算出する。このシミュレーション方法は、
図1のシミュレーション装置10によって
図11に示すフローチャートに沿って実行される。
【0037】
具体的には、演算処理部11は、
図11のシミュレーション方法において対象とする多孔質体20の構造情報を取得する(ステップS21)。この多孔質体20の構造情報は、多孔質体20の形状及び材質に関する情報を含む。
【0038】
例えば、多孔質体20の壁部分21の材質情報としては、壁部分21に対する液水24の接触角θが例示され、これは実験等より予め定めされうる。また、多孔質体20内の液水24の情報として、表面張力γがあり、これは実験等より予め定めされている。
【0039】
壁部分21の形状情報は、多孔質体20の画像情報等により得られる。例えば、FIB-SEM(Focused Ion Beam-Scanning Electron Microscope)を用いて、多孔質体20について所定の方向において異なる位置で複数の断面画像を連続的に撮影する。
【0040】
この複数の断面画像を積層した画像(積層画像)を画像処理によって二値化の作業を行う。これにより、細孔面20aの位置情報を含むシミュレーション用の計算メッシュが、多孔質体20の形状情報として作成される。ここで、積層画像に基づいた多孔質体20の形状情報の取得には、Math2Market社製のGeoDict(ドイツの登録商標)等の解析ソフトウェアを用いてもよい。
【0041】
そして、演算処理部11は、ステップS21において情報が取得された多孔質体20における液水24の分布(液水分布)を取得する(ステップS22)。液水分布は、多孔質体20の細孔22に配置される液水24の位置情報(座標等)であって、以下のとおり、式2及びポアモルフォロジー法による液水24を詰め込むシミュレーションを行うことにより求められる。
【0042】
【0043】
例えば、これは、Math2Market社製の解析ソフトGeoDict等のソフトウェアに用いることにより算出することが可能である。具体的には、まず、多孔質体20の壁部分21の材質情報、及び、圧力(毛管圧)により、多孔質体20内に液水24が存在可能な空隙の半径をヤング・ラプラスの式(式2)により決定する。式2において、pcは毛管圧[Pa]である。γは液水24の表面張力[N/m]であり、θは壁部分21に対する液水24の接触角[°]であって、これらは壁部分21の材質情報から求められる。rは、空隙の半径[m]である。
【0044】
多孔質体20における壁部分21に対する液水24の接触角θが90°を超える(θ>90°)場合、壁部分21は撥水性である。このため、液水24は、毛管圧Pcによって細孔22から押し出される力を受ける。毛管圧Pcから式2に基づいて液水24が浸入できる空隙23の最小の半径rを求める。そして、多孔質体20の所定面から液水24を順次、詰め込むシミュレーションを、空隙23の最小の半径rを基にポアモルフォロジー法により実行する。これにより、多孔質体20に配置される液水24の位置情報が液水分布として求められる。
【0045】
一方、液水24の接触角θが90°を下回る(θ<90°)場合、多孔質体20の壁部分21は親水性である。このため、液水24は、毛管圧Pcによって細孔22に取り込まれる力を受ける。毛管圧Pcから式2に基づいて気体により液水24が排出される空隙23の最大の半径rを求める。そして、上記多孔質体20の形状情報に基づく多孔質体20の所定面から液水24が記載により順次、押し出されるシミュレーションを、空隙23の最大の半径rを基に上記ポアモルフォロジー法により実行する。これにより、多孔質体20に配置される液水24の位置情報が液水分布として求められる。
【0046】
ここで、毛管圧Pcを変化させることにより、多孔質体20における液水24の充填率が変化する。このため、式2において毛管圧Pcを変えながら、シミュレーションを実行することにより、液水分布が充填率の関数として得られる。なお、液水24の充填率は0から1の範囲に設定される。液水24の充填率が0は、細孔22に液水24が配置されていない状態を示し、液水24の充填率が1は、細孔22に液水24が満たされている状態を示す。
【0047】
例えば、Math2Market社製の解析ソフトGeoDictを用いることにより、多孔質体20の構造情報及び液水24の充填率から液水分布が決定される。
【0048】
続いて、演算処理部11は、ステップS22の液水分布に基づき、多孔質体20の単位体積当たりの気液界面の面積(比表面積Sf)を算出する(ステップS23)。
【0049】
ここで、S21における壁部分21の形状情報から、細孔22の位置が求められる。また、S22における液水分布から、細孔22における液水24の位置が求められる。このため、これらの位置から、多孔質体20における空隙23に接する液水24の気液界面の面積(表面積)を算出する。
【0050】
そして、気液界面の面積を多孔質体20の体積により割ることにより、液水24の比表面積Sfが算出される。ここで、液水分布が充填率の関数で表されている場合、これに基づく液水24の比表面積Sfも充填率の関数で定められる。例えば、液水24の比表面積Sfは、Math2Market社製のGeoDict等のソフトウェアを用いることにより得られる。
【0051】
続いて、演算処理部11は、気液界面の相変化速度係数k、及び、ステップS23の液水24の比表面積Sfに基づき、上記式3から多孔質体20の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを算出する(ステップS20)。
【0052】
このように、多孔質体20の構造情報に基づいて算出した液水24の比表面積Sfを用いて、多孔質体20の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを算出している。これにより、多孔質体20の構造を考慮した、液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを高精度にシミュレーションすることができる。
【0053】
<変形例2>
変形例2に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、相変化量の算出前に、多孔質体20における単位体積当たりの気液界面の面積を取得する。このシミュレーション方法は、
図11に示すフローチャートにおけるステップS21~S23の処理に代えて、
図12に示すフローチャートにおけるステップS24の処理が実行される。
【0054】
具体的には、演算処理部11は、
図12のシミュレーション方法において対象とする多孔質体20の単位体積当たりの気液界面の面積(比表面積S
f)を取得する(ステップS24)。この比表面積S
fは、シミュレーション装置10に対する入力値であってもよく、例えば、記憶部12に記憶されたものに限定されず、他の記憶媒体に記憶されたものであってもよいし、入力装置によってシミュレーション装置10に入力されたものであってもよいし、ネットワークを介して受信されたものであってもよい。
【0055】
そして、演算処理部11は、気液界面の相変化速度係数k、及び、ステップS24の液水24の比表面積Sfに基づき、上記式3から多孔質体20の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを算出する(ステップS20)。
【0056】
このように、取得した液水24の比表面積Sfを用いて、多孔質体20の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを算出する。これにより、取得した比表面積Sfに応じた、液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを高精度にシミュレーションすることができる。
【0057】
<変形例3>
変形例3に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、相変化量の算出前に、分子動力学法を用いて気液界面の相変化速度を算出する。このシミュレーション方法は、
図1のシミュレーション装置10によって
図13に示すフローチャートに沿って実行される。
【0058】
具体的には、演算処理部11は、気液界面の相変化速度(相変化速度係数k)を算出する(ステップS25)。この相変化の速度(相変化速度)は、例えば、
図3に示す解析領域30において分子動力学法によるシミュレーションを行うことによって求められる。
【0059】
解析領域30は、例えば、直方体形状の空間である。この解析領域30に、膜のように薄い直方体形状の液水24(液膜31)が、配置されている。液膜31は、解析領域30の長手方向に対して直交する方向に拡がり、解析領域30を長手方向に2つの部分(第1空間32、第2空間33)に区分けするように配置されている。このため、液膜31は、第1空間32に接する一方面(第1主面31a)、及び、第2空間33に接する他方面(第2主面31b)を有している。第1主面31a及び第2主面31bから成る液水24の気液界面において液膜31の水分子が相変化する。
【0060】
解析領域30において平衡状態の液膜31に熱エネルギーを加える。これにより、液膜31の水分子が液水24の気液界面から蒸発し、気体分子となる。この気体分子の数をカウントする。この気体分子の数の経時変化が
図4のグラフに求められる。
【0061】
図4のグラフに示すように、時刻0から時刻aまでは気体分子の数の経時変化が所定値以下であり、液膜31が平衡状態である。そして、時刻aで所定量のエネルギーを液膜31に加える。この時刻aにおいて気体分子の数の経時変化が増加し、水分子の蒸発が開始する。そして、時刻bにおいて気体分子の数の経時変化が減少し、水分子の蒸発が終了して、液膜31が平衡状態となる。この時刻aから時刻bまでの気体分子の数の経時変化から、気液界面の相変化速度r
0が求められる。
【0062】
この気液界面の相変化速度r0及びシミュレーション条件を下記式1に代入することにより、気液界面の単位面積当たりの液水24の相変化速度(相変化速度係数k)が算出される。この式1において、S0は、単位体積当たりの液水24の気液界面の面積(液水24の表面積)であって、液膜31の第1主面31a及び第2主面31bの合計面積を解析領域30の体積で割った値である。pwvは、液水24の水蒸気分圧であり、psatは、液水24の飽和蒸気圧であり、Tは、温度であって、これらはシミュレーション条件により定められる。Rは、気体定数であり、MH2Oは、液水24の分子量である。
【0063】
【0064】
そして、演算処理部11は、ステップS25の気液界面の相変化速度係数k、及び、液水24の比表面積Sfに基づき、上記式3から多孔質体20の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを算出する(ステップS20)。
【0065】
このように、算出した気液界面の相変化速度を用いて、多孔質体20の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを算出している。これにより、算出条件に応じた、液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを高精度にシミュレーションすることができる。
【0066】
また、このシミュレーション方法においては、分子動力学法によるシミュレーションによって気液界面の相変化速度を取得可能である。この相変化速度から気液界面の相変化速度係数kを実験等に比べて容易に取得することができる。
【0067】
なお、ステップS20において、液水24の比表面積Sfは、例えば、変形例1のようにシミュレーション装置10によって算出されてもよいし、変形例2のようにシミュレーション装置10によって取得されてもよい。
【0068】
例えば、気液界面の相変化速度係数k、及び、液水24の比表面積S
fがシミュレーション装置10によって算出される場合、相変化を伴う現象のシミュレーション方法は、
図5に示すフローチャートに沿って実行される。この
図5のステップS1は
図13のステップS25に相当し、
図5のステップS2~S4は
図11のステップS21~S23にそれぞれ相当し、
図5のステップS5は
図11のステップS20に相当する。
【0069】
<変形例4>
変形例4に係る相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、相変化量の算出前に、気液界面の相変化速度を取得する。このシミュレーション方法は、
図13に示すフローチャートにおけるステップS25の処理に代えて、
図14に示すフローチャートにおけるステップS26の処理が実行される。
【0070】
具体的には、演算処理部11は、気液界面の相変化速度(相変化速度係数k)を取得する(ステップS25)。この相変化速度係数kは、シミュレーション装置10に対する入力値であってもよく、例えば、記憶部12に記憶されたものに限定されず、他の記憶媒体に記憶されたものであってもよいし、入力装置によって入力されたものであってもよいし、ネットワークを介して受信されたものであってもよい。
【0071】
そして、演算処理部11は、ステップS26の気液界面の相変化速度係数k、及び、液水24の比表面積Sfに基づき、上記式3から多孔質体20の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを算出する(ステップS20)。
【0072】
このように、取得した相変化速度係数kに応じた、液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwを高精度にシミュレーションすることができる。
【0073】
なお、ステップS20において、液水24の比表面積Sfは、例えば、変形例1のようにシミュレーション装置10によって算出されてもよいし、変形例2のようにシミュレーション装置10によって取得されてもよい。
【0074】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係るシミュレーション装置10は、
図6に示す燃料電池50における液水24の分布(液水分布)をその発電性能として予測する装置である。
【0075】
燃料電池50は、例えば、電解質膜51、これを互いの間に挟む一対の触媒層52、これを互いの間に挟む一対のガス拡散層53、及び、これを互いの間に挟むガス流路54により構成されている。このうち、触媒層52及びガス拡散層53の少なくともいずれか1つの部材が多孔質体20により形成されている。
【0076】
シミュレーション装置10による相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、燃料電池50内における液水24の充填率を算出する。
【0077】
<燃料電池における液水分布の決定>
多孔質体20の単位体積当たりの相変化速度(単位体積、単位時間当たりの相変化量rw)に基づいて、燃料電池50における液水分布を下記式4により算出することができる。ここで、燃料電池50における条件を式4に代入する。
【0078】
式4において、εは細孔22に対する空隙23の割合(空隙率)であり、ρlは液水24の密度であり、sは細孔22内の液水24の充填率であり、tは時間[sec]である。また、Kは液水24の透過率であり、rは液水24の充填率の次数である。Pcは毛管圧であり、上記式1により求められる。μlは液水24の粘性係数である。rwは液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量であり、上記式3から求められる。
【0079】
【0080】
このように、燃料電池50内での液水24の充填率sの分布が式4により求められる。これは、例えば、FLUENT(登録商標)等のソフトウェアに導入することにより算出される。
【0081】
<相変化を伴う現象のシミュレーション方法>
相変化を伴う現象のシミュレーション方法は、例えば、シミュレーション装置10によって
図7に示すフローチャートに沿って実行される。
図7に示すフローチャートでは、
図10に示すステップS20の処理に加えて、ステップS6の処理をさらに実行する。なお、
図7のステップS20の処理の前に、
図11のステップS21~S23の処理、又は、
図12のステップS24の処理を行ってもよい。また、
図7のステップS20の処理の前に、
図13のステップS25の処理、又は、
図14のステップS26の処理を行ってもよい。
【0082】
シミュレーション装置10の演算処理部11は、多孔質体20の単位体積当たりの相変化速度(単位体積、単位時間当たりの相変化量rw)を算出する(ステップS20)。ここでは、ステップS20の処理により液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwが求められる。
【0083】
また、演算処理部11は、液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwに基づいて、燃料電池50における液水24の分布(液水分布)を算出する(ステップS6)。この燃料電池50における液水分布は、上述の通り、式4により求められる。
【0084】
この相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwに基づいて燃料電池50における液水分布を算出している。これにより、液水24の比表面積Sfに基づいた液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwによって、多孔質体20において相変化が生じる液水24の気液界面の面積を考慮して、燃料電池50における液水分布を高精度にシミュレーションすることができる。
【0085】
また、式4における液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwに、多孔質体20における液水24の輸送が依存する。このため、多孔質体20から成る部材を含む燃料電池50において、液水24の輸送を考慮した高精度のシミュレーションを行うことができる。
【0086】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3に係るシミュレーション装置10は、
図6に示す燃料電池50の電位の分布をその発電性能として予測する装置である。燃料電池50の電位分布は、燃料電池50における液水24の分布(液水分布)及びガスの分布に基づいて求められる。燃料電池50におけるガスの分布は、ガスの実効的な相互拡散係数に基づいて算出される。
【0087】
<ガスの実効的な相互拡散係数の決定>
ガスの粒子が細孔22における空隙23において移動しながら、ガスが拡散する。このガスの拡散について、ボルツマン方程式の考え方に基づくシミュレーション手法を用いたガス拡散シミュレーションでは、
図8に示す流路構造の解析領域40が用いられる。
【0088】
解析領域40は、多孔質体20、第1流路41及び第2流路42を有している。第1流路41及び第2流路42は、例えば、断面が矩形状であって、第1方向に長く延びており、互いに間隔を空けて互いに平行に設けられている。多孔質体20は、例えば、直方体形状であって、第1流路41と第2流路42との間に配置されており、第1方向に直交する第2方向に延びている。
【0089】
第1方向における多孔質体20の寸法は第1流路41及び第2流路42の各寸法よりも小さい。第2方向における多孔質体20の寸法は第1流路41及び第2流路42の各寸法よりも大きい。第1方向及び第2方向に直交する第3方向における孔質体の寸法は第1流路41及び第2流路42の各寸法と等しい。
【0090】
このような解析領域40において、多孔質体20は第1流路41及び第2流路42に接続されており、多孔質体20の細孔22は第1流路41及び第2流路42とそれぞれ連通している。細孔22は第1流路41側の面と第2流路42側の面との間に長く延びており、第1流路41と第2流路42とは細孔22を介して互いに連通している。
【0091】
ここで、液水24が多孔質体20に充填され、細孔22に形成された空隙23と第1流路41及び第2流路42とが連通する。この第1流路41及び第2流路42には互いに異なる種類のガス(第1ガス、第2ガス)を流入する。この流入するガスの流速は、実際の燃料電池の触媒層の中を流れるガスの平均的な流速に設定する。
【0092】
第1ガスの粒子(第1ガス粒子i)は第1流路41の入口から流入し、その一部が多孔質体20の空隙23に流れ込んで拡散し、残りは第1流路41の出口から流出する。第2ガスの粒子(第2ガス粒子j)は第2流路42の入口から流入し、その一部が多孔質体20の空隙23に流れ込んで拡散し、残りは第2流路42の出口から流出する。
【0093】
これにより、第1流路41の出口における第1ガスのモル分率、及び、第2流路42の出口における第2ガスのモル分率は、空隙23における第1ガス及び第2ガスの拡散状態(ガスの相互拡散)に依存する。このため、上記格子ボルツマン法のガス拡散シミュレーションによる各流路の出口における第1ガスのモル分率及び第2ガスのモル分率が、下記式5で示されるStefan-Maxwell方程式のモル分率に一致するように、実効的な相互拡散係数Dij
effを調整することによって、実効的な相互拡散係数Dij
effが求められる。例えば、これは、FLUENT等の熱流体解析ソフトウェアを利用することにより算出することが可能である。
【0094】
【0095】
式5において、Xiは第1ガス粒子iのモル分率であり、X
j
は第2ガス粒子jのモル分率である。Viは第1ガス粒子iの速度であり、Vjは第2ガス粒子jの速度である。Dij
effは、第1ガス粒子iと第2ガス粒子jとの実効的な相互拡散係数(ガスの実効的な相互拡散係数)である。ガスの実効的な相互拡散係数Dij
effは、多孔質体20の形状及び多孔質体20における液水分布を考慮したガスの相互拡散係数である。
【0096】
この多孔質体20における液水分布は、多孔質体20における液水24の充填率に依存する。よって、ガスの実効的な相互拡散係数Dij
effは、充填率を変数とする関数として得られる。
【0097】
<燃料電池の電位分布の決定>
燃料電池50の電位は、下記式6、式7及び式8で表される電子及びプロトンに関する方程式により算出される。また、例えば、FLUENT等のソフトウェアに用いることにより算出されうる。
【0098】
【0099】
【0100】
式6において、σe
-は電子の電気伝導度であり、ψe
-は電子の電位である。式7において、σH
+はプロトンの電気伝導度であり、ψH
+はプロトンの電位である。式6及び式7において、Rcatは、電子の触媒層52における化学反応により生成された電流の密度であって、下記式8に示すバトラー・ボルマー方程式により得られる。
【0101】
【0102】
式8において、ζcatは、触媒層52における白金の有効面積であり、jcatは、参照交換電流密度である。[O2]は酸素のモル分率であり、上記式5のガスの分布▽Xiである。[O2]refは参照の酸素モル分率である。γcatは、濃度次数であり、acatは、移動係数であり、Fはファラデー定数であり、Rは気体定数であり、Tは温度である。
【0103】
<相変化を伴う現象のシミュレーション方法>
相変化を伴う現象のシミュレーション方法は、例えば、シミュレーション装置10によって
図9に示すフローチャートに沿って実行される。
図9に示すフローチャートでは、
図7に示すステップS20及びS6の処理に加えて、ステップS7-S10の処理をさらに実行する。このステップS7の処理をステップS20とS6との間に実行し、ステップ8-S10の処理をS6の後に実行する。
【0104】
なお、
図9に示すフローチャートでは、ステップS20の処理の前に、
図11のステップS21-S23の処理、又は、
図12のステップS24の処理を行ってもよい。また、
図9のステップS20の処理の前に、
図13のステップS25の処理、又は、
図14のステップS26の処理を行ってもよい。
【0105】
シミュレーション装置10の演算処理部11は、多孔質体20の単位体積当たりの相変化速度(単位体積、単位時間当たりの相変化量rw)、を算出する(ステップS5)。ここでは、ステップS20の処理により液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwが求められる。
【0106】
また、演算処理部11は、ガスの実効的な相互拡散係数Dij
effを算出する(ステップS7)。この実効的な相互拡散係数Dij
effは、例えば、上述の通り、ボルツマン方程式の考え方に基づくシミュレーション手法のガス拡散シミュレーションによる結果及び式5のStefan-Maxwell方程式を用いて得られる。
【0107】
続いて、演算処理部11は、燃料電池50における液水分布を算出する(ステップS6)。ここでは、上記式4により液水24の充填率sを算出することで燃料電池50における液水分布が求まる。
【0108】
また、演算処理部11は、燃料電池50における式4の実効的な浸透係数、式6、式7の実効的な電気電導度、実効的なプロトン伝導度及び式10の実効的な熱伝導係数を式9の離散化されたボルツマン方程式に基づいて算出する。式9において、αは位相空間座標の指標であり、fiはi種粒子の分布関数であり、Ωij
αはi種及びj種の衝突項である。式10において、jTは熱流束であり、σT
effは実効的な熱伝導度であり、Tは温度である。
【0109】
【0110】
【0111】
続いて、演算処理部11は、燃料電池50のガスの分布を算出する(ステップS8)。ここでは、ステップS6で求めた実効的な相互拡散係数Dij
effを用いた上記式5において、燃料電池50の各条件を代入する。これにより、ガスのモル分率を算出することで、燃料電池50におけるガスの分布が求まる。
【0112】
そして、演算処理部11は、燃料電池50の電位の分布を算出する(ステップS9)。ここでは、上記式6~8により電位を算出することで、燃料電池50における電位の分布が求まる。
【0113】
続いて、演算処理部11は、燃料電池50の電位の分布が収束したか否かを判定する(ステップS10)。ステップS9で算出した電位の変化量が所定値よりも大きければ、電位が収束していないとして(ステップS10:NO)、ステップS6の処理に戻り、ステップS6及びS8~S10の処理を繰り返す。一方、電位の変化量が所定値以下であれば、電位が収束したとして(ステップS10:YES)、シミュレーションを終了する。
【0114】
このような相変化を伴う現象のシミュレーション方法では、液水24の単位体積、単位時間当たりの相変化量rwに基づいて燃料電池50における液水分布を算出する。また、細孔22において液水24以外の空隙23に拡散するガスの実効的な相互拡散係数Dij
effを、ボルツマン方程式の考え方に基づくシミュレーション手法を用いて算出し、これに基づいて燃料電池50におけるガスの分布を算出する。そして、燃料電池50における液水分布及びガスの分布に基づいて、燃料電池50の電位の分布を算出している。
【0115】
このように、液水分布を考慮することにより、燃料電池50における過剰な液水24によるフラッディング等の現象を踏まえて、燃料電池50の電位を高精度にシミュレーションすることができる。
【0116】
また、上記ステップS6、S8及びS9において液水分布が求まり、この分布に対して定まるガスの分布におけるガスの反応によって、燃料電池50の電位が求められる。このように、液水分布を考慮することにより、燃料電池50における過剰な液水24によるフラッディング等の現象を踏まえて、燃料電池50の電位を高精度にシミュレーションすることができる。
【0117】
なお、上述した実施の形態で示した構成は一例であり、適宜変更してもよい。
【0118】
また、上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の相変化を伴う現象のシミュレーション方法は、高精度な相変化を伴う現象のシミュレーション方法等として有用である。
【符号の説明】
【0120】
10 :シミュレーション装置
11 :演算処理部
20 :多孔質体
24 :液水
50 :燃料電池