(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20230630BHJP
H01Q 13/10 20060101ALI20230630BHJP
H01Q 5/357 20150101ALI20230630BHJP
【FI】
H01Q13/08
H01Q13/10
H01Q5/357
(21)【出願番号】P 2020219304
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱邉 太一
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01108616(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 5/00- 5/55
H01Q 13/00- 13/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の周波数帯の通信に対応する第1の導体と、
前記第1の導体に対向する接地導体と、
前記第1の導体と前記接地導体との間に対向し、給電点を有する第2の導体と、を備え、
前記第2の導体は、前記第1の導体の上下方向の一端側と対向して設けられ、
前記第1の導体は、前記第2の導体と反対側の他端側と対向する位置に、前記第1の周波数帯と異なる第2の周波数帯の通信に対応するスロットを有
し、
前記スロットは、前記第1の導体の長手方向に平行な方向に、前記第2の周波数帯に対応する波長の1/2倍以下の長さを有し、
前記第1の導体は、前記第1の導体の長手方向に平行な方向に、前記第1の周波数帯に対応する波長の1/2倍以下の長さを有する、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記第1の導体に対応する前記第1の周波数帯は、前記スロットに対応する前記第2の周波数帯より低い、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記スロットは、前記給電点から前記第2の周波数帯に対応する波長の1/4倍の距離離れた位置と対向する、前記第1の導体上の位置に配置される、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第2の導体は、前記第1の導体のインピーダンスと整合するインピーダンスを有するスタブ導体をさらに有し、
前記第1の導体は、前記スタブ導体の一端側に配置される前記給電点を介して前記スタブ導体と電気的に導通している、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、誘電体基板と、誘電体基板上に形成され導体からなる略矩形状の放射素子と、放射素子に給電するための給電点に接続される給電線路とを備えるパッチアンテナが開示されている。このパッチアンテナでは、給電点は、給電線路とマッチングするインピーダンスを有する。これにより、アンテナ特性が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、上述した従来の状況に鑑みて案出され、複数の通信周波数帯に対応して所望方向へのアンテナ特性の改善を実現するアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、第1の周波数の通信に対応する矩形状のアンテナ導体が設けられたアンテナ面と、前記アンテナ面に対向し、接地導体が設けられたグランド面と、前記アンテナ面と前記グランド面との間に対向して設けられ、給電点を有する矩形状の給電面と、を備え、前記給電点は、前記給電面の上下方向の一端側に設けられ、前記アンテナ導体は、前記給電面の前記給電点と反対側の他端側と対向する位置に、前記第1の周波数と異なる第2の周波数の通信に対応する矩形状のスロットを有し、前記スロットは、前記第1の導体の長手方向に平行な方向に、前記第2の周波数帯に対応する波長の1/2倍以下の長さを有し、前記第1の導体は、前記第1の導体の長手方向に平行な方向に、前記第1の周波数帯に対応する波長の1/2倍以下の長さを有する、アンテナ装置を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、アンテナ装置において、複数の通信周波数帯に対応して所望方向へのアンテナ特性の改善を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態1に係るパッチアンテナのI-I方向で見た積層構造を示す断面図
【
図4A】給電点が中央部寄りに配置された基板の上面(表面)を示す平面図
【
図4B】給電点が中央部から端部寄りに変更配置された基板の上面(表面)を示す平面図
【
図4C】給電点が中央部から端部寄りに変更配置され、かつ反対側の端部側にスロットが追加配置された第1の基板の上面(表面)を示す平面図
【
図5】複数のパッチアンテナを各スロットの長手方向の向きを異ならせて離間配置した六面体アンテナの一面を示す平面図
【
図6】
図5の配置における2GHz帯のアンテナ特性例を示す図
【
図7】
図5の配置における5GHz帯のアンテナ特性例を示す図
【
図8】実施の形態1の変形例に係るパッチアンテナの第1の基板を平面視した上面(表面)とアンテナ特性例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示に至る経緯)
特許文献1のパッチアンテナは使用周波数60GHz帯に適用したものとして開示されている。特許文献1では使用周波数が例えば60GHzのように単一のものが想定されており、複数の異なる通信周波数帯(例えば2GHz帯と5GHz帯などのような2つの通信周波数帯)に対応可能なアンテナ装置(いわゆるデュアルバンド対応のアンテナ装置)の構成は開示されていない。デュアルバンド対応のアンテナ装置を構成する上では、例えば対応可能とするそれぞれの通信周波数帯の無線信号が干渉しないように無線信号の分離精度が要求される。
【0009】
そこで、以下の実施の形態では、複数の通信周波数帯に対応して所望方向へのアンテナ特性の改善を実現するアンテナ装置の例を説明する。
【0010】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示に係るアンテナ装置を具体的に開示した実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0011】
(実施の形態1)
本開示に係るアンテナ装置の一例として、実施の形態1ではパッチアンテナ(言い換えると、平面アンテナもしくはマイクロストリップアンテナ(MSA:Microstrip Antenna))を例示して説明する。パッチアンテナは、例えば、航空機等の座席の背面側に設けられるシートモニタに搭載されてよい。また、パッチアンテナは、後述するように、空間内の電波の到来方向を測定するための六面体アンテナが有する6つの面のそれぞれに配置されてもよい(
図5参照)。このように、パッチアンテナが搭載あるいは適用される製品は特に限定されない。
【0012】
図1は、実施の形態1に係るパッチアンテナ5のI-I方向で見た積層構造を示す断面図である。
図1には、
図2における矢印I-I線方向から見た断面が示されている。実施の形態1に係るパッチアンテナ5は、複数の通信周波数帯(例えば2つの異なる周波数帯の通信を扱うデュアルバンド)対応のアンテナ装置の一例であり、例えばWi-Fi(登録商標)に代表される2.45GHz帯の無線信号(言い換えると、電波)の送信(放射)を行うとともに、Wi-Fi(登録商標)に代表される5.3GHz帯の無線信号(言い換えると、電波)の送信(放射)を行う。
【0013】
図1に示すように、パッチアンテナ5は、最下位層にグランド面10、中間層に給電面20、最上位層にアンテナ面40が積層された3層構造の基板8を有する。基板8は、例えばPPO(Polyphenyleneoxide)等の比誘電率の高い誘電体で成形された誘電体基板であり、第1の基板8aと第2の基板8bとが積層された多層構造を有する。
【0014】
グランド面10は、第1の基板8aの下面(背面)側に設けられ、アンテナ面40および給電面20のそれぞれよりも広い面積を有する。アンテナ面40は、第2の基板8bの上面(表面)側に設けられる。給電面20は、第1の基板8aの上面(表面)側と第2の基板8bの下面(裏面)側との間に対向して設けられる。したがって、実施の形態1に係るパッチアンテナ5は、電波を放射する際、アンテナ面40を給電面20からの下面励振によって給電する。基板8全体の厚さは例えば3mm、第1の基板8aの厚さは2.9mm、第2の基板8bの厚さは0.1mmであるが、これらの値に限定されない。また、基板8の下面(つまりグランド面10の背面)側には、パッチアンテナ5に給電するための無線信号を供給する無線通信回路(図示略)が設けられる。
【0015】
基板8の上面(表面)に配置されたアンテナ面40から基板8の下面(背面)側に配置されたグランド面10にかけて貫通する貫通孔86には、ビア導体54が設けられる。ビア導体54は、貫通孔86に例えば導電材を充填することで円柱形状に成形される。ビア導体54は、アンテナ面40(具体的には、第1の導体の一例としてのパッチ45)に形成された接点41(つまりビア導体54の上端面)と、給電面20(具体的には、第2の導体の一例としてのスタブ導体25の一端側)に形成された給電点21(つまりビア導体54の中間断面)と、グランド面10に形成された接点11(つまりビア導体54の下端面)とを導通させる1本の導体である。ビア導体54は、アンテナ面40(具体的には、上述したパッチ45あるいはスロットSL1(後述参照))をパッチアンテナとして駆動するための給電導体である。接点11は、基板8の下面(背面)側に配置された無線通信回路(図示略)の給電端子(図示略)に接続される。
【0016】
図2は、パッチアンテナ5のアンテナ面40を示す平面図である。アンテナ面40には、第1の周波数帯(例えば2.4GHz帯)の通信に対応する矩形状の第1の導体の一例としてのパッチ45が設けられる。パッチ45は、例えば長方形状の銅箔で形成される。パッチ45の面の1箇所には、円形状の開口部44が形成され、その中央に接点41(つまり、ビア導体54の先端面)が露出する。言い換えると、パッチ45と接点41とは非導通であり、ショートしていない。なお、パッチ45と接点41とは導通(つまりショート)していてもよい。パッチ45は、並列共振回路の特性を有し、給電面20の給電点21に供給される無線通信回路(図示略)からの励起信号にしたがって、2.4GHz帯の電波(無線信号)を放射(送信)する。言い換えると、パッチアンテナ5は、パッチ45のスロットSL1(後述参照)以外の部分において共振することで、第1の周波数帯(例えば2.4GHz帯)の電波(無線信号)を放射(送信)する。
【0017】
図2に示すように、パッチ45は、長手方向に、第1の周波数帯(例えば2.45GHz)に対応する波長λ
1の1/2倍(つまりλ
1/2)の長さが基板8の比誘電率に基づく波長短縮率効果の影響を受けることを想定して設計した長さa(
図4C参照)を有する。つまり、長さaは、λ
1/2以下となる。また、パッチ45は、長手方向に直交する方向(短手方向)に、第1の周波数帯(例えば2.45GHz)に対応する波長λ
1の1/4倍(つまりλ
1/4)以下の長さが基板8の比誘電率に基づく波長短縮率効果の影響を受けることを想定して設計した長さb(
図4C参照)を有する。つまり、長さbは、λ
1/4以下となる。ここで、長さaは例えば28mmであり、長さbは例えば14mmである。
【0018】
波長λ1は、パッチアンテナ5の第1の周波数帯(例えば2.45GHz)を共振周波数とする波長の長さを示し、真空中を伝搬する場合は122mmとなる。つまり、第1の周波数帯(例えば2.45GHz)の信号による共振はパッチ45の部分で発生する(つまり電界が集中する)ため、伝搬する媒体となる基板8の比誘電率の影響(つまり波長短縮率効果)を大きく受けてλ1/2が61(=122/2)mmから28mmへと短縮することを考慮して横方向の長さaを設計している。縦方向の長さbについても同様に、伝搬する媒体となる基板8の比誘電率の影響(つまり波長短縮率効果)を受けてλ1/4が30.5mmから14mmへと短縮することを考慮して縦方向の長さbを設計している。
【0019】
このように、パッチアンテナ5のパッチ45が(長手方向の長さ,短手方向の長さ)=(a,b)[mm:ミリメートル]を有した長方形状に成形されることで(a>b)、パッチアンテナ5がシートモニタ等の通信端末あるいは六面体アンテナ(上述参照)に搭載された際にパッチ45の長手方向がパッチアンテナ5の長手方向と平行になる。これにより、パッチアンテナ5の長手方向の長さに合わせて第1の周波数帯(例えば2.45GHz)の波長λ1が設定された場合、第1の周波数帯(例えば2.45GHz)の通信において水平偏波の電波が垂直偏波の電波に対して相対的に強く放射される。
【0020】
また、パッチ45は、給電面20の給電点21と反対側の他端側と対向する位置(
図2参照)に、第1の周波数帯と異なる第2の周波数帯(例えば5.3GHz)の通信に対応する矩形状のスロットSL1を有する。つまり、パッチ45は全域が銅箔で形成されておらず、一定面積分の領域の銅箔が切り欠かれたことでスロットSL1が形成されている。
【0021】
スロットSL1は、長手方向(言い換えると、パッチ45の長手方向と平行な方向)に、第2の周波数帯(例えば5.3GHz)に対応する波長λ
2の1/2倍(つまりλ
2/2)の長さが基板8の比誘電率に基づく波長短縮率効果の影響を受けることを想定して設計した長さc(
図4C参照)を有する。つまり、長さcは、λ
2/2以下となる。また、スロットSL1は、短手方向(言い換えると、パッチ45の短手方向と平行な方向)の長さ(例えば1.5mm)を有する。ここで、長さcは例えば23mmである。
【0022】
波長λ2は、パッチアンテナ5の第2の周波数帯(例えば5.3GHz)を共振周波数とする波長の長さを示し、真空中を伝搬する場合は56mmとなる。つまり、第2の周波数帯(例えば5.3GHz)の信号による共振はスロットSL1の部分で発生する(つまり電界が集中する)ため、伝搬する媒体となる基板8の比誘電率の影響(つまり波長短縮率効果)を受けてλ2/2が28(=56/2)mmから23mmへと短縮することを考慮して横方向の長さcを設計している。なお、第1の周波数帯(例えば2.45GHz)はパッチ45の部分で共振しているため基板8の比誘電率の影響(つまり波長短縮率効果)が大きく、第2の周波数帯(例えば5.3GHz)はスロットSL1で共振しているため基板8の比誘電率の影響(つまり波長短縮率効果)の影響を受けにくく、波長短縮率効果に違いが生じている。
【0023】
また、スロットSL1は、給電点21から第2の周波数帯(例えば5.3GHz)に対応する波長λ2の1/4倍(つまりλ2/4)の長さほど離れた位置に設けられている。このλ2/4に相当する長さは、上述した基板8の比誘電率の影響(つまり波長短縮率効果)を受けることを想定して設計されている。これにより、第1の周波数帯(例えば2.45GHz)の通信と比べて、縦方向(言い換えるとパッチアンテナ5の短手方向と平行な上下方向)の共振が発生し易くなってスロットSL1の位置における電界が強くなり、第2の周波数帯(例えば5.3GHz)の通信において垂直偏波の電波が水平偏波の電波に対して相対的に強く放射される。
【0024】
図3は、パッチアンテナ5の給電面20を示す平面図である。給電面20には、給電線とも言える第2の導体の一例としてのスタブ導体25が設けられる。スタブ導体25は、第1の周波数帯(例えば2.45GHz)の通信に適合したパッチ45のインピーダンスと整合するインピーダンスを有し、パッチ45のインピーダンスとマッチングするためにパッチ45と直列に接続される直列共振回路の特性を有する。つまり、スタブ導体25は、パッチ45と電気的に直列に結合することで、パッチアンテナ5の放射リアクタンス成分をゼロに近づけることが可能である。
【0025】
スタブ導体25は、その一端側に設けられた給電点21と給電点21を起点として複数の折り返し部を備えた伝送線路部とを有する。この伝送線路部は、複数の伝送線路のそれぞれが直列に接続された線路を有する。スタブ導体25の全長は、例えば3λ
1/4である。伝送線路部を構成する複数の伝送線路のそれぞれの長さ(線路長)は、それぞれ必ずしも同一でなくてもよい。
図3に示す伝送線路部を構成する複数の伝送線路は、線路幅が短い2つの伝送線路と、線路幅が太い1つの伝送線路とにより構成されている。線路幅が太い伝送線路が設けられることで、線路幅が太い伝送線路が設けられない場合に比べてスタブ導体25の全体長が長くなることを抑制できる。
【0026】
グランド面10には、接地導体15が形成される(
図1参照)。接地導体15は、銅箔の材質で、基板8(特に第1の基板8a)の下面(背面)側のほぼ全体に亘って長方形状に形成される。接地導体15の全周の長さは、パッチ45の全周の長さよりも数波長分、長く設定される。接地導体15の全周が長くなると、パッチ45が共振し易くなり、またパッチ45の全周の長さも接地導体15に合わせて長くできる。
【0027】
次に、実施の形態1に係るパッチアンテナ5の構成(
図4C参照)に至る経緯について、比較例(
図4Aおよび
図4B参照))を踏まえて説明する。
図4Aは、給電点21z1が中央部寄りに配置された基板8z1の上面(表面)を示す平面図である。
図4Bは、給電点21z2が中央部から端部寄りに変更配置された基板8z2の上面(表面)を示す平面図である。
図4Cは、給電点21が中央部から端部寄りに変更配置され、かつ反対側の端部側にスロットSL1が追加配置された第1の基板8aの上面(表面)を示す平面図である。
【0028】
ここでは、
図4A~
図4Cを参照して、
図4A,
図4B,
図4Cのそれぞれに示すデュアルバンド対応のパッチアンテナを構成した例において、2GHz帯および5GHz帯のアンテナ特性(例えば水平偏波、垂直偏波の放射特性)のシミュレーション結果とその考察について説明する。
図4Cに示す第1の基板8aならびにスタブ導体25は、実施の形態1に係るパッチアンテナ5に設けられる。なお、比較による説明を分かり易くするため、基板8z1(
図4A参照),基板8z2(
図4B参照),第1の基板8a(
図4C参照)の長手方向の長さaおよび短手方向の長さbはそれぞれ同一とする。
【0029】
図4Aの基板8z1では、スタブ導体25z1が基板8z1の上面(表面)の縦方向(言い換えると短手方向)の中央部寄りに配置されている。基板8z1を備えたパッチアンテナは、2GHz帯の電波を放射する際には長手方向の長さaを有するパッチ(図示略)の全体において共振し、さらに、5GHz帯の電波を放射する際にはパッチの長手方向に存在する2つの長さbの部分でそれぞれ共振する。したがって、
図4Aに示すパッチアンテナの構成によれば、2GHz帯,5GHz帯の放射特性PTYz12,PTYz15において、2GHz帯では水平偏波Hz1が垂直偏波Vz1よりも強く放射され、5GHz帯でも2GHz帯と同様に水平偏波Hz2が垂直偏波Vz2よりも強く放射される。また、5GHz帯では、2つの長さbの部分でそれぞれ共振するために所望方向(例えば前方方向となる0度方向)においては、電界が弱まる節N1が発生してしまい、水平偏波Hz2のアンテナ特性が劣化してしまう。
【0030】
図4Bの基板8z2では、スタブ導体25z2が基板8z2の上面(表面)の縦方向(言い換えると短手方向)の中央部から端部(例えば下端部)寄りに配置されている。基板8z2を備えたパッチアンテナは、2GHz帯の電波を放射する際には同様に長手方向の長さaを有するパッチ(図示略)の全体において共振し、さらに、5GHz帯の電波を放射する際にはパッチの長手方向に存在する2つの長さbの部分と新たにパッチの短手方向の長さbの部分とでそれぞれ共振する。つまり、
図4Aの構成に比べて、5GHz帯において縦方向の共振が新たに加わることになる。したがって、
図4Bに示すパッチアンテナの構成によれば、2GHz帯,5GHz帯の放射特性PTYz22,PTYz25において、2GHz帯では水平偏波Hz3が垂直偏波Vz3よりも強く放射され、5GHz帯では縦方向の共振が加わったことで垂直偏波の特性が改善し垂直偏波Vz4が水平偏波Hz4よりも少し強く放射される。但し、5GHz帯では、所望方向(例えば前方方向となる0度方向)において垂直偏波Vz4と水平偏波Hz4との差分N2が小さく、水平偏波と垂直偏波との分離精度が劣化してしまう。
【0031】
図4Cの第1の基板8aでは、スタブ導体25が第1の基板8aの上面(表面)の縦方向(言い換えると短手方向)の中央部から端部(例えば下端部)寄りに配置され、さらに、給電点21からλ
2/4離れた位置(
図2および
図3参照)と対向するパッチ45の位置にスロットSL1が配置されている。第1の基板8aの上面(表面)に設けられた給電面20を備えたパッチアンテナ5は、2GHz帯の電波を放射する際には同様に長手方向の長さaを有するパッチ45のスロットSL1以外の部分において共振し、さらに、5GHz帯の電波を放射する際にはスロットSL1の長手方向の長さcの部分で共振する。つまり、
図4Bの構成に比べて、5GHz帯においてはスロットSL1での共振が支配的となる。したがって、
図4Cに示すパッチアンテナ5の構成によれば、2GHz帯,5GHz帯の放射特性PTY2,PTY5において、2GHz帯では水平偏波H1が垂直偏波V1よりも強く放射され、5GHz帯ではスロットSL1での共振が加わったことで垂直偏波の特性が大幅に改善し垂直偏波V2が水平偏波H2よりも強く放射される。これにより、5GHz帯では、所望方向(例えば前方方向となる0度方向)において垂直偏波V2と水平偏波H2との差分N3が大きくなり、水平偏波と垂直偏波との分離精度が向上してアンテナ特性が改善する。
【0032】
次に、実施の形態1に係るパッチアンテナ5を、六面体アンテナを構成する一面に複数(例えば2つ)配置した場合のアンテナ特性について、
図5~
図7を参照して説明する。
図5は、複数のパッチアンテナを各スロットの長手方向の向きを異ならせて離間配置した六面体アンテナの一面CUB1を示す平面図である。
図6は、
図5の配置における2GHz帯のアンテナ特性例を示す図である。
図7は、
図5の配置における5GHz帯のアンテナ特性例を示す図である。
【0033】
図5に示す六面体アンテナの一面CUB1には、合計4つのパッチアンテナ5が配置されている。具体的には、
図5の紙面左上には第1のパッチアンテナ5Aが横長で配置され、同図の紙面左下には第2のパッチアンテナ5Bが縦長で配置されている。また、
図5の紙面右上には第3のパッチアンテナ5Cが縦長で配置され、同図の紙面右下には第4のパッチアンテナ5Dが縦長で配置されている。第3のパッチアンテナ5Cおよび第4のパッチアンテナ5Dは外部出力用に設けられている。
【0034】
第1のパッチアンテナ5A,第2のパッチアンテナ5Bにおいて、スロットSL5A,SL5Bの長手方向と第1のパッチアンテナ5A,第2のパッチアンテナ5Bの長手方向とは平行である。第2のパッチアンテナ5Bは、第1のパッチアンテナ5Aが90度時計回りに回転されて配置されている。なお、信号干渉をできるだけ抑制するために、第1のパッチアンテナ5A~第4のパッチアンテナ5Dのそれぞれは離間して配置され、第1のパッチアンテナ5Aおよび第4のパッチアンテナ5Dが同じ向きに配置され、第2のパッチアンテナ5Bおよび第3のパッチアンテナ5Cが同じ向きに配置されている。
【0035】
ここで、第1のパッチアンテナ5Aおよび第2のパッチアンテナ5Bを例示して、
図6を参照して2GHz帯の無線信号を放射する時のアンテナ特性(例えば放射特性、ピークゲイン特性)を説明する。
【0036】
図6(つまり2GHz帯)によれば、第1のパッチアンテナ5Aの垂直偏波のピークゲイン特性PG2Vuと第2のパッチアンテナ5Bの垂直偏波のピークゲイン特性PG2Vdとを比べると、第2のパッチアンテナ5Bの方が第1のパッチアンテナ5Aよりもピークゲインが高くなっている。したがって、第2のパッチアンテナ5Bの方が第1のパッチアンテナ5Aよりも強い垂直偏波が放射されていることが分かる。また、第1のパッチアンテナ5Aの垂直偏波の放射特性RP2Vuと第2のパッチアンテナ5Bの垂直偏波の放射特性RP2Vdとを比べると、所望方向(例えば前方方向である0度方向)には第2のパッチアンテナ5Bの方が第1のパッチアンテナ5Aよりもより強く垂直偏波を放射している。これは、第1のパッチアンテナ5Aのパッチの長手方向が横向き(いわゆる横長)に形成され、かつ第2のパッチアンテナ5Bのパッチの長手方向が縦向き(いわゆる縦長)に形成されているためである。
【0037】
また、第1のパッチアンテナ5Aの水平偏波のピークゲイン特性PG2Huと第2のパッチアンテナ5Bの水平偏波のピークゲイン特性PG2Hdとを比べると、第1のパッチアンテナ5Aの方が第2のパッチアンテナ5Bよりもピークゲインが高くなっている。したがって、第1のパッチアンテナ5Aの方が第2のパッチアンテナ5Bよりも強い水平偏波が放射されていることが分かる。また、第1のパッチアンテナ5Aの水平偏波の放射特性RP2Huと第2のパッチアンテナ5Bの水平偏波の放射特性RP2Hdとを比べると、所望方向(例えば前方方向である0度方向)には第1のパッチアンテナ5Aの方が第2のパッチアンテナ5Bよりもより強く水平偏波を放射している。これは、第1のパッチアンテナ5Aのパッチの長手方向が横向き(いわゆる横長)に形成され、かつ第2のパッチアンテナ5Bのパッチの長手方向が縦向き(いわゆる縦長)に形成されているためである。
【0038】
図7(つまり5GHz帯)によれば、第1のパッチアンテナ5Aの垂直偏波のピークゲイン特性PG5Vuと第2のパッチアンテナ5Bの垂直偏波のピークゲイン特性PG5Vdとを比べると、第1のパッチアンテナ5Aの方が第2のパッチアンテナ5Bよりもピークゲインが高くなっている。したがって、第1のパッチアンテナ5Aの方が第2のパッチアンテナ5Bよりも強い垂直偏波が放射されていることが分かる。また、第1のパッチアンテナ5Aの垂直偏波の放射特性RP5Vuと第2のパッチアンテナ5Bの垂直偏波の放射特性RP5Vdとを比べると、所望方向(例えば前方方向である0度方向)には第1のパッチアンテナ5Aの方が第2のパッチアンテナ5Bよりもより強く垂直偏波を放射している。これは、第1のパッチアンテナ5Aのスロットの長手方向が横向き(いわゆる横長)に形成され、かつ第2のパッチアンテナ5Bのスロットの長手方向が縦向き(いわゆる縦長)に形成されているためである。
【0039】
また、第1のパッチアンテナ5Aの水平偏波のピークゲイン特性PG5Huと第2のパッチアンテナ5Bの水平偏波のピークゲイン特性PG5Hdとを比べると、第2のパッチアンテナ5Bの方が第1のパッチアンテナ5Aよりもピークゲインが高くなっている。したがって、第2のパッチアンテナ5Bの方が第1のパッチアンテナ5Aよりも強い水平偏波が放射されていることが分かる。また、第1のパッチアンテナ5Aの水平偏波の放射特性RP5Huと第2のパッチアンテナ5Bの水平偏波の放射特性RP5Hdとを比べると、所望方向(例えば前方方向である0度方向)には第2のパッチアンテナ5Bの方が第1のパッチアンテナ5Aよりもより強く水平偏波を放射している。これは、第1のパッチアンテナ5Aのスロットの長手方向が横向き(いわゆる横長)に形成され、かつ第2のパッチアンテナ5Bのスロットの長手方向が縦向き(いわゆる縦長)に形成されているためである。
【0040】
以上により、実施の形態1に係るパッチアンテナ5は、第1の周波数帯(例えば2.45GHz)の通信(例えば無線通信)に対応する矩形状の第1の導体(例えばパッチ45)と、第1の導体(例えばパッチ45)に対向する接地導体15と、第1の導体(例えばパッチ45)と接地導体15との間に対向し、給電点21を有する矩形状の第2の導体(例えばスタブ導体25)と、を備える。第2の導体(例えばスタブ導体25)は、第1の導体(例えばパッチ45)の上下方向の一端側と対向して設けられる。第1の導体(例えばパッチ45)は、第2の導体(例えばスタブ導体25)と反対側の他端側と対向する位置に、第1の周波数帯と異なる第2の周波数帯(例えば5.3GHz)の通信に対応する矩形状のスロットSL1を有する。
【0041】
これにより、パッチアンテナ5は、第1の周波数帯(例えば2.45GHz)の無線通信においてはパッチ45で共振し、第2の周波数帯(例えば5.3GHz)の無線通信においてはスロットSL1で共振するので、複数の通信周波数帯に対応して所望方向(例えばユーザがいる前方方向)へのアンテナ特性(例えば周波数帯ごとに水平偏波と垂直偏波とのうち一方を他方より高利得とすること)の改善を実現できる。例えば、パッチアンテナ5が搭載される通信端末は航空機等の閉空間で使用されることがあるが、閉空間内では電波の反射が発生しやすく電波が縦揺れの波になりやすくため、水平偏波の利得特性だけでなく垂直偏波の利得特性が高いことが望ましいと考えられる。特に通信端末の前方にはユーザ(例えば航空機内の乗客)がいることがあるので、デュアルバンド対応のパッチアンテナ5が搭載されることで通信周波数別に水平偏波あるいは垂直偏波の一方が他方よりもより強く放射でき、ユーザビリティの向上の貢献が期待される。
【0042】
また、第1の導体(例えばパッチ45)に対応する第1の周波数帯(例えば2.45GHz)は、スロットSL1に対応する第2の周波数帯(例えば5.3GHz)より低い。これにより、パッチアンテナ5において、第1の導体(例えばパッチ45)は広い面積部分で共振できるので水平偏波を垂直偏波より強く放射可能となり、さらに、スロットSL1は給電点21から縦方向(パッチ45の短手方向)にλ2/4ほど離れた位置で共振できるので垂直偏波を水平偏波より強く放射可能となる。したがって、パッチアンテナ5は、2GHzと5GHzとの両方(つまりデュアルバンド)において水平偏波と垂直偏波との分離精度を向上してアンテナ特性を改善できる。
【0043】
また、スロットSL1は、第1の導体(例えばパッチ45)の長手方向に平行な方向に、第2の周波数帯(例えば5.3GHz)に対応する波長λ2の1/2倍以下の長さを有する。第1の導体(例えばパッチ45)は、第1の導体(例えばパッチ45)の長手方向に平行な方向に、第1の周波数帯(例えば2.45GHz)に対応する波長λ1の1/2倍以下の長さを有する。これにより、縦方向(言い換えるとパッチアンテナ5の短手方向と平行な上下方向)の共振が発生し易くなってスロットSL1の位置における電界が強くなり、第2の周波数帯(例えば5.3GHz)の通信において垂直偏波の電波が水平偏波の電波に対して相対的に強く放射される。
【0044】
また、スロットSL1は、給電点21から第2の周波数帯(例えば5.3GHz)に対応する波長λ2の1/4倍の距離離れた位置と対向する、第1の導体(例えばパッチ45)上の位置に配置される。これにより、給電点21からλ2/4ほど離れた位置と対向するパッチ45にスロットSL1が配置されることでスロットSL1に電界が集中し易くなって所望方向(例えばユーザがいる前方方向)へのアンテナ特性(例えば利得)が向上する。
【0045】
また、第2の導体は、第1の導体(例えばパッチ45)のインピーダンスと整合するインピーダンスを有するスタブ導体25をさらに有する。第1の導体(例えばパッチ45)は、スタブ導体25の一端側に配置される給電点21を介してスタブ導体25と電気的に導通している。これにより、パッチアンテナ5は、スタブ導体25がパッチ45と電気的に直列に結合することで、パッチアンテナ5の放射リアクタンス成分をゼロに近づけることが可能であり、パッチアンテナ5が動作可能な電波の周波数帯を広帯域化できる。
【0046】
(実施の形態1の変形例)
実施の形態1の変形例として、実施の形態1に係るパッチアンテナ5をより小型化することを目的としたパッチアンテナの例を、
図8を参照して説明する。
図8は、実施の形態1の変形例に係るパッチアンテナの第1の基板8aを平面視した上面(表面)とアンテナ特性例を示す図である。実施の形態1の変形例でも同様に、パッチアンテナにおいて、第1の基板8aとその上位に設けられる第1の導体(例えばパッチ、
図8では図示略)とは対向配置され、グランド面10Aは第1の導体(例えばパッチ45)より広い面積部分を有する。
図8の第1の基板8aは、例えば
図2の第1の基板8aの1/2の容積(体積)を有する構成であり、紙面右側には、複数のビア導体56が一列に並んで設けられている。つまり、実施の形態1の変形例においても、スロットSL1Aの配置、スタブ導体25Aおよび給電点21Aの位置も実施の形態1のパッチアンテナ5と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0047】
ビア導体56は、実施の形態1の変形例に係るパッチアンテナのアンテナ面に形成されたパッチ(第1の導体の一例)と、グランド面10Aに設けられた接地導体とを導通させる導体であり、複数のビア導体56が一列に並ぶように等間隔に設けられる(
図8参照)。ビア導体56が挿通されるために第1の基板8aに形成された複数の貫通孔は、いわゆるスルーホールである。
【0048】
したがって、
図8Cに示す実施の形態1の変形例に係るパッチアンテナの構成によれば、実施の形態1に係るパッチアンテナ5に比べて小型化が実現可能となるだけでなく、2GHz帯,5GHz帯の放射特性PTY2A,PTY5Aにおいて、実施の形態1に係るパッチアンテナ5と同様に、2GHz帯では水平偏波H1Aが垂直偏波V1Aよりも強く放射され、5GHz帯ではスロットSL1Aでの共振が加わったことで垂直偏波の特性が大幅に改善し垂直偏波V2Aが水平偏波H2Aよりも強く放射される。これにより、5GHz帯では、所望方向(例えば前方方向となる0度方向)において垂直偏波V2Aと水平偏波H2Aとの差分が大きくなり、水平偏波と垂直偏波との分離精度が向上してアンテナ特性が改善する。
【0049】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各種の実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0050】
例えば、上述した実施の形態1もしくはその変形例に係るパッチアンテナ5は、電波を送信する送信装置のアンテナに適用されるユースケースを例示して説明したが、電波を受信する受信装置のアンテナに適用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本開示は、複数の通信周波数帯に対応して所望方向へのアンテナ特性の改善を実現するアンテナ装置として有用である。
【符号の説明】
【0052】
5 パッチアンテナ
5A 第1のパッチアンテナ
5B 第2のパッチアンテナ
8 基板
8a 第1の基板
8b 第2の基板
10 グランド面
15 接地導体
20 給電面
21、21A 給電点
25、25A スタブ導体
40 アンテナ面
41 接点
44 開口部
45 パッチ
54 ビア導体
86 貫通孔
SL1、SL1A スロット