(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】がん免疫療法の予後予測のためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230630BHJP
C07K 14/53 20060101ALI20230630BHJP
C07K 14/56 20060101ALI20230630BHJP
C07K 14/475 20060101ALI20230630BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20230630BHJP
C07K 14/52 20060101ALI20230630BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
G01N33/68
C07K14/53
C07K14/56
C07K14/475
C07K14/47
C07K14/52
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2019559651
(86)(22)【出願日】2018-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2018045465
(87)【国際公開番号】W WO2019117132
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2017237807
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510126379
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立病院機構
(73)【特許権者】
【識別番号】599045903
【氏名又は名称】学校法人 久留米大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】笹田 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】松尾 規和
(72)【発明者】
【氏名】東 公一
(72)【発明者】
【氏名】星野 友昭
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/109546(WO,A2)
【文献】特表2017-523244(JP,A)
【文献】特表2017-524693(JP,A)
【文献】国際公開第2017/140826(WO,A1)
【文献】特開2017-106915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C07K 14/53
C07K 14/56
C07K 14/475
C07K 14/47
C07K 14/52
C12Q 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測方法であって、
免疫チェックポイント阻害薬の投与前に採取された生体試料中のGM-CSFのレベルを予め設定されたGM-CSFのカットオフ値と比較し、前記レベルが予め設定されたGM-CSFのカットオフ値以上である場合に
前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後の予後が良好であると予測し、または前記レベルが予め設定されたGM-CSFのカットオフ値未満である場合に
前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後の予後が不良であると予測する方法、ここで、生体試料は血漿または血清であり、がんは非小細胞肺癌であ
り、免疫チェックポイント阻害薬は抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である。
【請求項2】
免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測方法であって、
免疫チェックポイント阻害薬の投与前に採取された生体試料中のCHI3L1のレベルを予め設定されたCHI3L1のカットオフ値と比較し、前記レベルが予め設定されたCHI3L1のカットオフ値以下である場合に
前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後の予後が良好であると予測し、または前記レベルが予め設定されたCHI3L1のカットオフ値超である場合に
前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後の予後が不良であると予測する方法、ここで、生体試料は血漿または血清であり、がんは非小細胞肺癌であ
り、免疫チェックポイント阻害薬は抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である。
【請求項3】
免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測方法であって、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2および/またはVEGFのレベルを、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前に採取された生体試料中の対応するCXCL2および/またはVEGFのレベルと比較し、投与後に採取された生体試料中のCXCL2および/またはVEGFのレベルが投与前に採取された生体試料中の対応するCXCL2および/またはVEGFのレベルと比較して減少している場合に予後が良好であると予測し、または投与後に採取された生体試料中のCXCL2および/またはVEGFのレベルが投与前に採取された生体試料中の対応するCXCL2および/またはVEGFのレベルと比較して減少していない場合に予後が不良であると予測する方法、ここで、生体試料は血漿または血清であり、がんは非小細胞肺癌であ
り、免疫チェックポイント阻害薬は抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である。
【請求項4】
免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測方法であって、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のMMP2のレベルを、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前に採取された生体試料中のMMP2のレベルと比較し、投与後に採取された生体試料中のMMP2のレベルが投与前に採取された生体試料中のMMP2のレベルと比較して増加している場合に予後が良好であると予測し、または投与後に採取された生体試料中のMMP2のレベルが投与前に採取された生体試料中のMMP2のレベルと比較して増加していない場合に予後が不良であると予測する方法、ここで、生体試料は血漿または血清であり、がんは非小細胞肺癌であ
り、免疫チェックポイント阻害薬は抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である。
【請求項5】
免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測方法であって、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2のレベルをモニターし、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2のレベルが免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2のレベルと比較して減少する場合に予後が良好であると予測し、または前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2のレベルが免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2のレベルと比較して増加する場合に予後が不良であると予測する方法、ここで、生体試料は血漿または血清であり、がんは非小細胞肺癌であ
り、免疫チェックポイント阻害薬は抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である。
【請求項6】
前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料が、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与開始から6-8週間以降に採取された生体試料である、請求項3-
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2のレベルが前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2と比較して減少している場合に治療関連有害事象を発現するとさらに予測する、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
免疫チェックポイント阻害薬の投与前のGM-CSFのレベルに基づいて、治療関連有害事象を発現するとさらに予測する、請求項1-
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1-
8のいずれか一項に記載の方法に用いるためのキット。
【請求項10】
CXCL2、VEGF、CHI3L1、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1
つ以上のバイオマーカーであって、請求項1-
8のいずれか一項に記載の方法のための薬効評価用バイオマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、日本国特許出願第2017-237807号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本発明は、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測のためのバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法は、特定の患者のみに効果が認められ、その治療費は高額である。現在、免疫チェックポイント阻害薬は、例えば抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体が用いられている。PD-1免疫チェックポイント阻害薬治療は、免疫系を標的としているので、臨床転帰および治療関連有害事象(AE)に関連する特徴は、従来の治療とは大きく異なると思われる(非特許文献1-7)。例えば、免疫組織化学(IHC)により評価される腫瘍細胞または免疫細胞上のPD-L1発現は、抗PD-1治療を受けている非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)患者において改善された奏効率と関連していることが報告されている(非特許文献3、8および9)。しかしながら、PD-L1の発現は、同じ腫瘍内であっても全く異質であり得、かつ状況に応じて動的かつ劇的に変化する可能性があるため、必ずしも信頼できるマーカーではない(非特許文献8および9)。さらに、IHCベースのPD-L1発現を評価するための腫瘍の生検は、気管支鏡またはビデオ補助胸腔鏡などの侵襲的処置を必要とし、調査される腫瘍の大きさおよび場所によっては困難な場合がある。治療関連AEおよび好中球-リンパ球比などの他の特徴もまた、抗PD-1治療に対する応答の潜在的な予測因子として示唆されている(非特許文献10-12)。しかしながら、現在、抗PD-1治療への応答の予測のための臨床的に信頼でき、かつ有用なバイオマーカーはまだ存在していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Borghaei H, Paz-Ares L, Horn L, Spigel DR, Steins M, Ready NE, et al. Nivolumab versus docetaxel in advanced nonsquamous non-small-cell lung cancer. N Engl J Med 2015;373:1627-39.
【文献】Brahmer J, Reckamp KL, Baas P, Spigel DR, Steins M, Ready NE, et al. Nivolumab versus docetaxel in advanced squamous-cell non-small-cell lung cancer. N Engl J Med 2015;373:123-35.
【文献】Garon EB, Rizvi NA, Hui R, Leighl N, Balmanoukian AS, Eder JP, et al. Pembrolizumab for the treatment of non-small-cell lung cancer. N Engl J Med 2015;372:2018-28.
【文献】Gettinger SN, Horn L, Gandhi L, Spigel DR, Antonia SJ, Rizvi NA, et al. Overall survival and long-term safety of nivolumab (anti-programmed death 1 antibody, BMS-936558, ONO-4538) in patients with previously treated advanced non-small-cell lung cancer. J Clin Oncol 2015;33:2004-12.
【文献】Rizvi NA, Mazieres J, Planchard D, Stinchcombe TE, Dy GK, Antonia SJ, et al. Activity and safety of nivolumab, an anti-PD-1 immune checkpoint inhibitor, for patients with advanced, refractory squamous non-small-cell lung cancer (CheckMate 063): a phase 2, single-arm trial. Lancet Oncol 2015;16:257-65.
【文献】Herbst RS, Baas P, Kim DW, Felip E, Perez-Gracia JL, Han JY, et al. Pembrolizumab versus docetaxel for previously treated, PD-L1-positive, advanced non-small-cell lung cancer (KEYNOTE-010): a randomised controlled trial. Lancet. 2016;387:1540-50.
【文献】Reck M, Rodriguez-Abreu D, Robinson AG, Hui R, Csoszi T, Fulop A, et al. Pembrolizumab versus Chemotherapy for PD-L1-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2016;375:1823-1833.
【文献】Topalian SL, Taube JM, Anders RA, Pardoll DM. Mechanism-driven biomarkers to guide immune checkpoint blockade in cancer therapy. Nat Rev Cancer. 2016;16:275-87.
【文献】Friedman CF, Postow MA. Emerging Tissue and Blood-Based Biomarkers that may Predict Response to Immune Checkpoint Inhibition. Curr Oncol Rep. 2016;18:21.
【文献】Hasan Ali O, Diem S, Markert E, Jochum W, Kerl K, French LE, et al. Characterization of nivolumab-associated skin reactions in patients with metastatic non-small cell lung cancer. Oncoimmunology. 2016;5:e1231292.
【文献】Osorio JC, Ni A, Chaft JE, Pollina R, Kasler MK, Stephens D, et al. Antibody-Mediated Thyroid Dysfunction During T-cell Checkpoint Blockade in Patients with Non-Small Cell Lung Cancer. Ann Oncol. 2016 Dec 19.
【文献】Bagley SJ, Kothari S, Aggarwal C, Bauml JM, Alley EW, Evans TLet al. Pretreatment neutrophil-to-lymphocyte ratio as a marker of outcomes in nivolumab-treated patients with advanced non-small-cell lung cancer. Lung Cancer. 2017;106:1-7.
【文献】Eisenhauer EA, Therasse P, Bogaerts J, Schwartz LH, Sargent D, Ford R, et al. New response evaluation criteria in solid tumours: revised RECIST guideline (version 1.1). Eur J Cancer. 2009;45:228-47.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の解決課題は、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測のためのバイオマーカーを提供することである。また、当該バイオマーカーのレベルに基づいて予後予測もしくは治療関連有害事象の発現を予測するためのキットならびに当該バイオマーカーの予後予測もしくは治療関連有害事象の発現の予測のための使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測のためのバイオマーカーを見出し、本発明を完成させた。本発明は特に、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測のための顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)、キチナーゼ3様1(CHI3L1)、C-X-Cモチーフケモカイン2(CXCL2)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、インターフェロン(IFN)α2およびマトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP2)からなる群から選択される1つ以上のバイオマーカーに関する。
【0006】
ある態様において、本発明は、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測方法であって、
a)採取された生体試料中のGM-CSFのレベルを、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値と比較する工程、
b)採取された生体試料中のCHI3L1のレベルを、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値と比較する工程、
c)前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2、VEGF、IFNα2および/またはMMP2のレベルを、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前に採取された生体試料中の対応するCXCL2、VEGF、IFNα2および/またはMMP2のレベルと比較する工程、または
d)前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2のレベルをモニターする工程、
を含む方法を提供する。
【0007】
さらなる態様において、本発明は、CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1以上のバイオマーカーであって、前記方法のための薬効評価用バイオマーカーを提供する。
【0008】
さらなる態様において、本発明は、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測または治療関連有害事象の発現の予測のための、CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1つ以上のバイオマーカーの使用を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1以上のバイオマーカーにより、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1-1】
図1Aは、臨床転帰と治療関連AEとの関連を示す。縦軸はベースラインからの標的病変腫瘍量における最大パーセント変化である。
【
図1-2】
図1Bは、無増悪生存期間のカプラン・マイヤープロットを示す。
【
図1-3】
図1Cは、治療関連AEを発現した患者および発現しなかった患者について全生存期間を示す。差異はログランク検定により評価した。
【
図2-1】
図2Aは、NSCLC患者の代表的なフローサイトメトリープロットを示す。
【
図2-2】
図2Bは、20例のニボルマブ投与患者からの投与前後の末梢血試料におけるPD-1+CD4+、PD-1+CD8+、およびFoxP3+CD4+リンパ球の相対的な割合を示す。その差異は、ウィルコクソンの符号付順位検定により統計的に分析した。
【
図3-1】
図3Aは、投与および末梢血サンプリングのスケジュールを示す。
【
図3-2】
図3Bは、投与前の血漿GM-CSFおよびCHI3L1の中央値で割けた2つのグループにおける無増悪生存期間のカプラン・マイヤープロット(n=27)を示す。差異はログランク検定により評価した。
【
図3-3】
図3Cは、投与後の血漿中CXCL2、VEGF、IFNα2およびMMP2レベルにおける変化で割けた2つのグループ(減少vs減少なし)における無増悪生存期間のカプラン・マイヤープロット(n=20)を示す。差異はログランク検定により評価した。
【
図4-1】
図4Aは、20例のニボルマブ投与患者からの投与前後の血漿試料におけるCXCL2、VEGF、IFNα2およびMMP2力価を示す。患者は、客観的腫瘍反応(PR、SD、およびPD)に従って分類した。
【
図4-2】
図4Bは、投与後の血漿中CXCL2、VEGF、IFNα2およびMMP2レベルにおける減少を有するまたは有しないニボルマブ投与患者における客観的腫瘍反応(PR、SD、およびPD)の割合を示す。
【
図4-3】
図4Cは、20例のニボルマブ投与患者からの投与前後の血漿試料におけるCXCL2力価を示す。患者は、治療関連AEに従って分類した。
【
図4-4】
図4Dは、
図4Dは、投与後の血漿中CXCL2レベルにおける、減少を有するまたは有しないニボルマブ投与患者における治療関連AEの割合を示す。
【
図4-5】
図4Eは、各患者における投与後の、血漿中CXCL2、VEGF、IFNα2およびMMP2レベルにおける変化と客観的腫瘍反応および治療関連AEの関連のまとめを示す。
【
図5-1】
図5Aは、ベースラインからの血漿中CXCL2レベルにおける時間依存変化を示す。
【
図5-2】
図5Bは、ベースラインからの血漿中VEGFレベルにおける時間依存変化を示す。
【
図5-3】
図5Cは、ベースラインからの血漿中IFNα2レベルにおける時間依存変化を示す。
【
図5-4】
図5Dは、ベースラインからの血漿中MMP2レベルにおける時間依存変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1つの態様において、本発明は、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測のための、CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1つ以上のバイオマーカーに関する。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測方法であって、
a)採取された生体試料中のGM-CSFのレベルを、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値と比較する工程、
b)採取された生体試料中のCHI3L1のレベルを、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値と比較する工程、
c)前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2、VEGF、IFNα2および/またはMMP2のレベルを、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前に採取された生体試料中の対応するCXCL2、VEGF、IFNα2および/またはMMP2のレベルと比較する工程、または
d)前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2のレベルをモニターする工程、
を含む、方法に関する。
【0013】
さらなる別の態様において、本発明は、がんの治療方法であって、
a)採取された生体試料中のGM-CSFのレベルを、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値と比較する工程、
b)採取された生体試料中のCHI3L1のレベルを、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値と比較する工程、
c)免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2、VEGF、IFNα2および/またはMMP2のレベルを、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前に採取された生体試料中の対応するCXCL2、VEGF、IFNα2および/またはMMP2のレベルと比較する工程、または
d)免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2のレベルをモニターする工程、を含み、かつ
e)工程a)、b)、c)またはd)で得られた結果に基づいて予後予測し、予後が良好であると予測された対象に免疫チェックポイント阻害薬を投与する工程
を含む、方法に関する。
【0014】
本開示において、免疫チェックポイント阻害薬は、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体が使用されてもよい。免疫チェックポイント阻害薬はがん細胞に直接作用するのではなく、患者の免疫応答能を増強させることにより作用する。免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体は、PD-1/PD-L1経路を阻害するとされている。抗PD-1抗体は、特に限定されないが、ニボルマブおよびペムブロリズマブであり得る。抗PD-L1抗体は、特に限定されないが、アベルマブ、アテゾリズマブおよびデュルバルマブであり得る。
【0015】
本開示において、治療関連有害事象または有害事象とは、治療または処置に際して観察される、あらゆる好ましくない意図しない徴候(臨床検査値の異常も含む)、症状、疾患である。有害事象と治療や処置との因果関係は問わない。有害事象は、例えば米国立がん研究所が作成した『有害事象共通用語規準』により評価される。
【0016】
本開示において、予後とは、ある疾患について何らかの治療を施した後の患者の経過についての医学的見通しまたは患者の余命を意味する。例えば予後予測は、無増悪生存期間、全生存期間または客観的腫瘍反応の予測が挙げられる。予後が良好であるとは、例えば、疾患の治療後のその疾患の臨床段階が悪化しないかまたは悪化するのが遅いこと、癌の場合はリンパ節への腫瘍転移が見られないかまたは少ないこと、周辺組織への腫瘍細胞の浸潤が起こらないかまたはそのレベルが低いこと、または再発が起こらないかもしくは再発までの期間が長いこと、などを意味する。従って、患者の予後が良好である場合または患者の予後が良好であると予測される場合に、患者が治療関連有害事象を発現することまたは患者が治療関連有害事象を発現すると予測されることはあり得る。
【0017】
本開示において、比較する工程には、検出または測定する工程等を含み得る。「比較」という用語は、数値を測定することにより得られる情報を比べること、または異なる条件から得られる情報を比べることを意味し得る。生体試料から得られる情報は、例えば、移動度、色調、蛍光強度、発光強度または濃淡などで比べることができる。情報を取得する方法は、特に限定されないが、一般に使用されている様々な方法を用いることができる。当該方法は、例えばELISAまたはラジオイムノアッセイ(RIA)、マルチプレックスアッセイなどの免疫学的測定法が使用されてもよい。
【0018】
本開示において、カットオフ値は、当業者が利用可能な手法の中から適宜選択し決定することができる。例えばカットオフ値は、免疫チェックポイント阻害薬が投与されていないがん患者集団中の生体試料における対応するバイオマーカーのレベルの中央値であり得る。GM-CSFのカットオフ値は、免疫チェックポイント阻害薬が投与されていないがん患者集団中の生体試料におけるGM-CSFのレベルの中央値であり得る。CHI3L1のカットオフ値は、免疫チェックポイント阻害薬が投与されていないがん患者集団中の生体試料におけるCHI3L1のレベルの中央値であり得る。GM-CSFのカットオフ値の範囲は、GM-CSFのレベルがマルチプレックスアッセイで測定される場合、例えば約10~30pg/ml、約15~25pg/ml、約17.5~22.5pg/mlである。好ましくは、GM-CSFのカットオフ値の範囲は、GM-CSFのレベルがマルチプレックスアッセイで測定される場合、約15~25pg/mlである。CHI3L1のカットオフ値の範囲は、CHI3L1のレベルがマルチプレックスアッセイで測定される場合、例えば約60~120ng/ml、約70~110ng/ml、約80~100ng/ml、約85~95ng/mlである。好ましくは、CHI3L1のカットオフ値の範囲は、CHI3L1のレベルがマルチプレックスアッセイで測定される場合、約70~110ng/mlである。
【0019】
本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「20±10%~30±10%」を含むものとする。
【0020】
本開示において、免疫チェックポイント阻害薬の投与形態、投与部位、投与量は特に制限されず、対象の状態に応じて当業者が適宜決定できる。好ましい投与形態の例は静脈内投与である。好ましい投与部位の例は血管内である。好ましい投与量の例は2-10mg/kg(体重)を2-3週間間隔である。
【0021】
本発明の一実施形態では、バイオマーカーのレベルが予め設定されたカットオフ値と比較される。本発明のバイオマーカーは、CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1以上のバイオマーカーであり得る。本実施形態では、好ましくは、GM-CSFおよびCHI3L1からなる群から選択される1以上のバイオマーカーのレベルが予め設定されたカットオフ値と比較される。本発明の一実施形態において、免疫チェックポイント阻害薬の投与開始前に採取された生体試料中のバイオマーカーのレベルが、予め設定されたカットオフ値と比較される。
【0022】
本発明のさらなる実施形態では、予後予測が、GM-CSFのレベルが、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値以上であることが予後が良好であると予測し、または前記レベルが、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値未満であることが予後が不良であると予測することを特徴とする。本発明の別の実施形態では、予後予測が、CHI3L1のレベルが、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値以下であることが予後が良好であると予測し、または前記レベルが、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値超であることが予後が不良であると予測することを特徴とする。
【0023】
本発明の一実施形態では、免疫チェックポイント阻害薬の投与前および投与後のバイオマーカーのレベルが比較される。本発明のバイオマーカーは、CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1以上のバイオマーカーであり得る。本実施形態では、好ましくはCXCL2、VEGF、IFNα2およびMMP2からなる群から選択される1以上のバイオマーカーのレベルが比較される。
【0024】
本発明のさらなる実施形態では、予後予測が、免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2、VEGFまたはIFNα2のレベルが、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前の対応するCXCL2、VEGFまたはIFNα2のレベルと比較して減少していることが、予後が良好であると予測し、または免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2、VEGFまたはIFNα2のレベルが、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前の対応するCXCL2、VEGFまたはIFNα2のレベルと比較して減少していないことが、予後が不良であると予測することを特徴とする。
【0025】
本発明のさらなる実施形態では、予後予測が、免疫チェックポイント阻害薬の投与後のMMP2のレベルが、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前のMMP2のレベルと比較して増加していることが、予後が良好であると予測し、または免疫チェックポイント阻害薬の投与後のMMP2のレベルが、投与前に採取された生体試料中のMMP2のレベルと比較して増加していないことが、予後が不良であると予測することを特徴とする。
【0026】
本発明の一実施形態では、免疫チェックポイント阻害薬の投与後のバイオマーカーのレベルがモニターされる。本開示において、モニターするとは、経時的変化を観察することを意味し、本実施形態では、免疫チェックポイント阻害薬の投与開始前と、免疫チェックポイント阻害薬の投与開始後の1または複数の時点で採取された生体試料中のバイオマーカーのレベルが比較される。本発明のバイオマーカーは、CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1以上のバイオマーカーであり得る。本実施形態では、好ましくはCXCL2のバイオマーカーのレベルがモニターされる。
【0027】
本発明のさらなる実施形態では、予後予測が、免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2のレベルが免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2のレベルと比較して減少することが、予後が良好であると予測し、または免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2のレベルが免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2のレベルと比較して増加することが、予後が不良であると予測することを特徴とする。
【0028】
本発明の一実施形態では、バイオマーカーのレベルに基づいて治療関連有害事象の発現を予測する。本発明のバイオマーカーは、CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1以上のバイオマーカーであり得る。本実施形態では、好ましくはCXCL2およびGM-CSFからなる群から選択される1以上のバイオマーカーのレベルが比較される。ある実施形態では、治療関連有害事象の発現の予測が、免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2のレベルが、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2と比較して減少していることが、治療関連有害事象を発現すると予測することを特徴とする。別の実施形態では、免疫チェックポイント阻害薬の投与前のGM-CSFのレベルが、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値未満であることが、治療関連有害事象を発現すると予測することを特徴とする。
【0029】
本開示において、バイオマーカーは生体試料に由来する。生体試料は、例えば血液試料が挙げられる。生体試料の採取は侵襲的処置または非侵襲的処置が行われ得る。血液試料は、末梢血、末梢血単核細胞、血漿または血清であり得る。生体試料を採取する時期は特に制限されない。本発明の一態様では、生体試料は、免疫チェックポイント阻害薬の投与開始前に採取される。この場合において、必ずしも免疫チェックポイント阻害薬を投与する工程を伴うとは限らない。当該工程を含まない場合は、投与開始前とは、特定の時期に限られない。本発明の特定の実施形態では、生体試料は、免疫チェックポイント阻害薬の投与開始から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および/または20週間以降に採取される。生体試料は、好ましくは、免疫チェックポイント阻害薬の投与開始から6週間以降、さらに好ましくは、6-8週間以降または12-20週間以降に採取されてもよい。
【0030】
本開示において、がんは、例えば、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、食道癌、胃癌、小腸癌、大腸癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、胆嚢癌、頭頸部癌、皮膚癌、肉腫、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌、甲状腺癌、カルチノイド、肺芽腫、脳腫瘍、または胸腺癌が挙げられる。がんは、非小細胞肺癌、腎細胞癌、悪性黒色腫、頭頸部癌、ホジキン病または胃癌であってもよい。がんは、進行性/再発性非小細胞肺癌であり得る。
【0031】
本発明の一実施形態では、バイオマーカーのレベルに基づいて予後予測または治療関連有害事象の発現を予測するためのキットが含まれる。本発明のバイオマーカーは、CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1以上のバイオマーカーであり得る。キットには、バイオマーカーのレベルを比較するための様々な構成が含まれ得る。キットの構成は、生体試料中のバイオマーカーのレベルを検出および/または可視化できるものであればよい。キットは、試料中のバイオマーカーのレベルを分析するためのコンピュータモデルまたはアルゴリズムをさらに含む。キットは、例えば、ELISAまたはRIA、マルチプレックスアッセイなどの免疫学的測定法のためのキットでありうる。
【0032】
本発明の一実施形態では、バイオマーカーの予後予測または治療関連有害事象の発現の予測のための使用が含まれる。本発明のバイオマーカーは、CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1以上のバイオマーカーであり得る。バイオマーカーの予後予測または治療関連有害事象の発現の予測のための使用は、例えば、直接的にまたは間接的にバイオマーカーのレベルを予後予測または治療関連有害事象の発現の予測のために検出、測定または比較することを意味する。
【0033】
例示的な実施形態において、本発明は、以下を提供する:
(1)
免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測のための、CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1つ以上のバイオマーカー。
(2)
前記バイオマーカーがGM-CSFまたはCHI3L1であって、前記バイオマーカーのレベルが予め設定されたカットオフ値と比較される、(1)に記載のバイオマーカー。
(3)
前記バイオマーカーがCXCL2、VEGF、IFNα2またはMMP2であって、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前および投与後の前記バイオマーカーのレベルが比較される、(1)に記載のバイオマーカー。
(4)
前記バイオマーカーがCXCL2であって、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後の前記バイオマーカーのレベルがモニターされる、(1)に記載のバイオマーカー。
(5)
予後予測が、GM-CSFのレベルが、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値以上であることが予後が良好であると予測し、または前記レベルが、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値未満であることが予後が不良であると予測することを特徴とする、(2)に記載のバイオマーカー。
(6)
予後予測が、CHI3L1のレベルが、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値以下であることが予後が良好であると予測し、または前記レベルが、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値超であることが予後が不良であると予測することを特徴とする、(2)に記載のバイオマーカー。
(7)
予後予測が、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2、VEGFまたはIFNα2のレベルが、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前の対応するCXCL2、VEGFまたはIFNα2のレベルと比較して減少していることが、予後が良好であると予測し、または前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2、VEGFまたはIFNα2のレベルが、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前の対応するCXCL2、VEGFまたはIFNα2のレベルと比較して減少していないことが、予後が不良であると予測することを特徴とする、(3)に記載のバイオマーカー。
(8)
予後予測が、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後のMMP2のレベルが、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前のMMP2のレベルと比較して増加していることが、予後が良好であると予測し、または前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後のMMP2のレベルが、投与前に採取された生体試料中のMMP2のレベルと比較して増加していないことが、予後が不良であると予測することを特徴とする、(3)に記載のバイオマーカー。
(9)
予後予測が、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2のレベルが免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2のレベルと比較して減少することが、予後が良好であると予測し、または前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2のレベルが免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2のレベルと比較して増加することが、予後が不良であると予測することを特徴とする、(4)に記載のバイオマーカー。
(10)
前記バイオマーカーが、生体試料に由来する、(1)-(9)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(11)
生体試料が、血液試料である、(10)に記載のバイオマーカー。
(12)
血液試料が、末梢血、末梢血単核細胞、血漿または血清である、(11)に記載のバイオマーカー。
(13)
免疫チェックポイント阻害薬が、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である、(1)-(12)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(14)
がんが、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、食道癌、胃癌、小腸癌、大腸癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、胆嚢癌、頭頸部癌、皮膚癌、肉腫、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌、甲状腺癌、カルチノイド、肺芽腫、脳腫瘍、または胸腺癌である、(1)-(13)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(15)
がんが、非小細胞肺癌、腎細胞癌、悪性黒色腫、頭頸部癌、ホジキン病、膀胱癌または胃癌である、(14)に記載のバイオマーカー。
(16)
がんが、進行性/再発性非小細胞肺癌である、(15)に記載のバイオマーカー。
(17)
前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料が、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与開始から6-8週間以降に採取された生体試料である、(1)-(16)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(18)
予後予測が、無増悪生存期間、全生存期間または客観的腫瘍反応の予測である、(1)-(17)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(19)
前記バイオマーカーがCXCL2であって、免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2のレベルが、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2と比較して減少していることが、治療関連有害事象を発現するとさらに予測する、(3)、(4)、(7)または(9)-(18)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(20)
前記バイオマーカーがGM-CSFであって、GM-CSFのレベルに基づいて、治療関連有害事象を発現するとさらに予測する、(1)、(2)、(5)または(10)-(18)のいずれかに記載のバイオマーカー。
(21)
(1)-(20)のいずれかに記載のバイオマーカーのレベルに基づいて予後予測または治療関連有害事象の発現を予測するためのキット。
(22)
(1)-(20)のいずれかに記載のバイオマーカーの、予後予測または治療関連有害事象の発現の予測のための使用。
(23)
免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測方法であって、
a)採取された生体試料中のGM-CSFのレベルを、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値と比較する工程、
b)採取された生体試料中のCHI3L1のレベルを、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値と比較する工程、
c)前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2、VEGF、IFNα2および/またはMMP2のレベルを、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前に採取された生体試料中の対応するCXCL2、VEGF、IFNα2および/またはMMP2のレベルと比較する工程、または
d)前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2のレベルをモニターする工程、
を含む、方法。
(24)
工程a)において、前記レベルが、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値以上であることが予後が良好であると予測し、または前記レベルが、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値未満であることが予後が不良であると予測することを特徴とする、(23)に記載の方法。
(25)
工程b)において、前記レベルが、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値以下であることが予後が良好であると予測し、または前記レベルが、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値超であることが予後が不良であると予測することを特徴とする、(23)に記載の方法。
(26)
工程c)において、投与後に採取された生体試料中のCXCL2、VEGFおよび/またはIFNα2のレベルが、投与前に採取された生体試料中の対応するCXCL2、VEGFおよび/またはIFNα2のレベルと比較して減少していることが、予後が良好であると予測し、または投与後に採取された生体試料中のCXCL2、VEGFおよび/またはIFNα2のレベルが、投与前に採取された生体試料中の対応するCXCL2、VEGFおよび/またはIFNα2のレベルと比較して減少していないことが、予後が不良であると予測することを特徴とする、(23)に記載の方法。
(27)
工程c)において、投与後に採取された生体試料中のMMP2のレベルが、投与前に採取された生体試料中のMMP2のレベルと比較して増加していることが、予後が良好であると予測し、または投与後に採取された生体試料中のMMP2のレベルが、投与前に採取された生体試料中のMMP2のレベルと比較して増加していないことが、予後が不良であると予測することを特徴とする、(23)に記載の方法。
(28)
工程d)において、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2のレベルが免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2のレベルと比較して減少することが、予後が良好であると予測し、または前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2のレベルが免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2のレベルと比較して増加することが、予後が不良であると予測することを特徴とする、(23)に記載の方法。
(29)
生体試料が、血液試料である、(23)-(28)のいずれかに記載の方法。
(30)
血液試料が、末梢血、末梢血単核細胞、血漿または血清である、(29)に記載の方法。
(31)
免疫チェックポイント阻害薬が、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である、(23)-(30)のいずれかに記載の方法。
(32)
がんが、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、食道癌、胃癌、小腸癌、大腸癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、胆嚢癌、頭頸部癌、皮膚癌、肉腫、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌、甲状腺癌、カルチノイド、肺芽腫、脳腫瘍、または胸腺癌である、(23)-(31)のいずれかに記載の方法。
(33)
がんが、非小細胞肺癌、腎細胞癌、悪性黒色腫、頭頸部癌、ホジキン病、膀胱癌または胃癌である、(32)に記載の方法。
(34)
がんが、進行性/再発性非小細胞肺癌である、(33)に記載の方法。
(35)
前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料が、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与開始から6-8週間以降に採取された生体試料である、(23)-(34)のいずれかに記載の方法。
(36)
予後予測が、無増悪生存期間、全生存期間または客観的腫瘍反応の予測である、(23)-(35)のいずれかに記載の方法。
(37)
免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2のレベルが、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2と比較して減少していることが、治療関連有害事象を発現するとさらに予測する、(23)-(36)のいずれかに記載の方法。
(38)
GM-CSFのレベルに基づいて、治療関連有害事象を発現するとさらに予測する、(23)-(37)のいずれかに記載の方法。
(39)
(23)-(38)のいずれかに記載の方法に用いるためのキット。
(40)
CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1以上のバイオマーカーであって、(23)-(38)のいずれかに記載の方法のための薬効評価用バイオマーカー。
【0034】
また、他の例示的な実施形態において、本発明は、以下を提供する:
(1)
がんの治療方法であって、
a)採取された生体試料中のGM-CSFのレベルを、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値と比較する工程、
b)採取された生体試料中のCHI3L1のレベルを、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値と比較する工程、
c)前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2、VEGF、IFNα2および/またはMMP2のレベルを、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前に採取された生体試料中の対応するCXCL2、VEGF、IFNα2および/またはMMP2のレベルと比較する工程、または
d)前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2のレベルをモニターする工程、を含み、かつ
e)工程a)、b)、c)またはd)で得られた結果に基づいて予後予測し、予後が良好であると予測された対象に免疫チェックポイント阻害薬を投与する工程
を含む、方法。
(2)
工程a)において、前記レベルが、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値以上であることが予後が良好であると予測し、または前記レベルが、予め設定されたGM-CSFのカットオフ値未満であることが予後が不良であると予測することを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3)
工程b)において、前記レベルが、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値以下であることが予後が良好であると予測し、または前記レベルが、予め設定されたCHI3L1のカットオフ値超であることが予後が不良であると予測することを特徴とする、(1)に記載の方法。
(4)
工程c)において、投与後に採取された生体試料中のCXCL2、VEGFおよび/またはIFNα2のレベルが、投与前に採取された生体試料中の対応するCXCL2、VEGFおよび/またはIFNα2のレベルと比較して減少していることが、予後が良好であると予測し、または投与後に採取された生体試料中のCXCL2、VEGFおよび/またはIFNα2のレベルが、投与前に採取された生体試料中の対応するCXCL2、VEGFおよび/またはIFNα2のレベルと比較して減少していないことが、予後が不良であると予測することを特徴とする、(1)に記載の方法。
(5)
工程c)において、投与後に採取された生体試料中のMMP2のレベルが、投与前に採取された生体試料中のMMP2のレベルと比較して増加していることが、予後が良好であると予測し、または投与後に採取された生体試料中のMMP2のレベルが、投与前に採取された生体試料中のMMP2のレベルと比較して増加していないことが、予後が不良であると予測することを特徴とする、(1)に記載の方法。
(6)
工程d)において、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2のレベルが免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2のレベルと比較して減少することが、予後が良好であると予測し、または前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料中のCXCL2のレベルが免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2のレベルと比較して増加することが、予後が不良であると予測することを特徴とする、(1)に記載の方法。
(7)
生体試料が、血液試料である、(1)-(6)のいずれかに記載の方法。
(8)
血液試料が、末梢血、末梢血単核細胞、血漿または血清である、(7)に記載の方法。
(9)
免疫チェックポイント阻害薬が、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である、(1)-(8)のいずれかに記載の方法。
(10)
がんが、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、食道癌、胃癌、小腸癌、大腸癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、胆嚢癌、頭頸部癌、皮膚癌、肉腫、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌、甲状腺癌、カルチノイド、肺芽腫、脳腫瘍、または胸腺癌である、(1)-(9)のいずれかに記載の方法。
(11)
がんが、非小細胞肺癌、腎細胞癌、悪性黒色腫、頭頸部癌、ホジキン病、膀胱癌または胃癌である、(10)に記載の方法。
(12)
がんが、進行性/再発性非小細胞肺癌である、(11)に記載の方法。
(13)
前記免疫チェックポイント阻害薬の投与後に採取された生体試料が、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与開始から6-8週間以降に採取された生体試料である、(1)-(12)のいずれかに記載の方法。
(14)
予後予測が、無増悪生存期間、全生存期間または客観的腫瘍反応の予測である、(1)-(13)のいずれかに記載の方法。
(15)
免疫チェックポイント阻害薬の投与後のCXCL2のレベルが、前記免疫チェックポイント阻害薬の投与前のCXCL2と比較して減少していることが、治療関連有害事象を発現するとさらに予測する、(1)-(14)のいずれかに記載の方法。
(16)
GM-CSFのレベルに基づいて、治療関連有害事象を発現するとさらに予測する、(1)-(15)のいずれかに記載の方法。
(17)
(1)-(16)のいずれかに記載の方法に用いるためのキット。
(18)
CXCL2、VEGF、CHI3L1、IFNα2、GM-CSFおよびMMP2からなる群から選択される1以上のバイオマーカーであって、(1)-(16)のいずれかに記載の方法のための薬効評価用バイオマーカー。
【0035】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
材料および方法
患者
単一施設(久留米大学病院、久留米市、日本)においてニボルマブ(nivolumab)を投与されている進行性/再発性NSCLC患者を2016年2月-9月に本試験に組み入れた。少なくとも1レジメンの化学療法歴を有する進行性/再発性NSCLCの適格患者にニボルマブ(3mg/kg)を2週間ごとに投与した。ニボルマブ投与前に27例から末梢血試料を採取した。また、ニボルマブ投与後(初回投与日から6-8週間後)に、6週間を超える無増悪生存期間(PFS)を示していた20例から末梢血試料を採取した。さらに、ニボルマブの投与を継続している患者から6-12週間ごとに末梢血試料を採取した(
図3A)。末梢血単核細胞(PBMC)および血奬はバイオマーカー解析に用いた。本試験はヘルシンキ宣言の規定に従って実施され、久留米大学病院の臨床試験審査委員会(IRB)によって承認された。本試験に参加した患者全員から、本試験の性質および起こり得る結果を説明した後にインフォームドコンセントを取得した。
【0037】
免疫組織化学(IHC)解析
パラフィン包埋組織試料を4μm厚さの切片に薄切し、コーティングされたガラス製スライドに載せた。その後、BOND-III自動染色装置(ライカマイクロシステムズ社、ニューカッスル・アポン・タイン、英国)を用いて、抗PD-L1抗体(×100、クローンE1L3N、Cell Signaling Technology社、ダンバーズ、マサチューセッツ州、米国)による処理を行った。簡潔に言えば、組織切片を、エピトープ賦活化溶液2(pH 9.0)を用いて30分間加熱処理し、抗PD-L1抗体を加えて30分間インキュベートした。この自動システムでは、HRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)ポリマーを二次抗体として、refineポリマー検出システム(ライカマイクロシステムズ社)を用いた。スライドは、色素原として3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)を用いて可視化した。
【0038】
フローサイトメトリー解析
ニボルマブ投与前後に14ミリリットルの末梢血を採取し、Ficoll-Paque Plus(GEヘルスケア社、ウプサラ、スウェーデン)を用いた密度勾配遠心法によりPBMCを分離した。PBMCを、20%ヒトAB型血清を含むPBS中に懸濁し、適切に希釈した抗体を加えて、氷上で30分間インキュベートした。本試験で用いた抗体は、BioLegend社(サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)の抗CD3-PE(クローンOKT3)、BDバイオサイエンス(フランクリンレイクス、ニュージャージー州、米国)の抗CD4-FITC(クローンRPA-T4)、抗CD8-PerCP-Cy5.5(クローンRPA-T8)、抗CD279-APC(クローンMIH4)、抗CD25-APC(クローンM-A251)、抗FoxP3-PE(クローン259D/C7)、およびマウスIgG1(κ)-PE(クローンMOPC-21、陰性対照用)であった。抗ヒトFoxP3染色キット(BDバイオサイエンス)は、製造者の指示に従って用いた。染色した細胞は、BD FACS Canto IIでFACS Divaソフトウェア(BDバイオサイエンス)を用いて解析した。
【0039】
血奬中の可溶性因子の測定
ニボルマブ投与前後の血奬中の88の異なる可溶性因子(サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、その他)のレベルを包括的に検出するために、ビーズベースのマルチプレックスアッセイを用いた。本アッセイでは、Bio-Plex 200システム(バイオラッド・ラボラトリーズ、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、米国)を用いて、製造者の指示に従い、2倍希釈した血奬の100-μl中の可溶性因子を測定した。バイオラッド・ラボラトリーズの解析キットを用いて、可溶性因子としてIL-1Rα、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12(p40)、IL-12(p70)、IL-13、IL-15、IL-16、IL-17A、IL-19、IL-20、IL-22、IL-26、IL-27、IL-28A、IL-29、IL-32、IL-34、IL-35、IFN-α2、IFN-β、IFN-γ、TNF-α、GM-CSF、6Ckine、BCA-1、CTACK、ENA-78、エオタキシン、エオタキシン-2、エオタキシン-3、フラクタルカイン、GCP-2、Gro-α、CXCL2(Gro-β)、IP-10、I-TAC、MIP-1α、MIP-1δ、MIP-3α、MIP-3β、MPIF-1、SCYB16、SDF-1 α+β、TARC、TECK、MCP-1、MCP-2、MCP-3、MCP-4、MDC、MIF、MIG、VEGF、APRIL、BAFF、sCD30、sCD163、CHI3L1、gp130、sIL-6Rα、LIGHT、MMP-1、MMP-2、MMP-3、オステオカルシン、オステオポンチン、ペントラキシン3、sTNF-R1、sTNF-R2、TSLP、TWEAK、VEGF、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、およびIgAを測定した。
【0040】
統計解析
有害事象(AE)の重症度を米国立がん研究所の有害事象共通用語規準第4版を用いて等級分けし、それらとニボルマブ治療との因果関係を治験責任医師が判定した。最良総合効果は、ニボルマブの初回投与日から、固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECIST)1.1の基準(非特許文献13)で明記された増悪が最初に客観的に確認された日までに記録された最良反応の認定と定義した。PFSは、初回投与日から、増悪またはあらゆる原因による死亡の日までの期間と定義した。全生存期間(OS)は、初回投与日から、あらゆる原因による死亡の日までの期間と定義した。生存曲線はカプラン・マイヤー法を用いて導出し、ログランク検定によって比較した。
【0041】
治療関連AEの発生と最良総合効果との関連をフィッシャーの直接確率検定で解析した。投与後の可溶性因子のレベルの変化と客観的腫瘍反応または治療関連AEの割合との関連も、フィッシャーの直接確率検定で推定した。投与前後のPBMCのリンパ球サブセットの割合の差を、ウィルコクソンの符号付順位検定により解析した。どのバイオマーカーがニボルマブ治療の有効性および安全性と関連するかを評価するために、臨床的特徴、腫瘍細胞上のPD-L1の発現、投与前のPBMC上のPD-1とFoxP3の発現、および投与前の血奬中の可溶性因子が、PFSおよび治療関連AEと関連するかどうかを調査した。患者全員について、コックス回帰および一変量ロジスティック回帰を実施し、これらの因子がそれぞれPFSおよび治療関連AEと関連するかどうかを調査した。さらに、ニボルマブの初回投与日から6-8週間後におけるPBMC上のPD-1とFoxP3の発現および血奬中可溶性因子レベルの変化が、安全性および有効性と関連するかどうかを調査した。PFSが6週間を超える患者20例について、コックス回帰および一変量ロジスティック回帰を実施し、変化がそれぞれPFSおよび治療関連AEと関連するかどうかを調査した。ハザード比およびオッズ比を95%信頼区間(CI)と共に示した。P<0.05で統計的に有意と見なした。すべての統計解析は、JMPバージョン11(SAS Institute Inc.、キャリー、ノースカロライナ州、米国)またはWindows版Graph Pad Prismバージョン6.07(GraphPadソフトウェア、ラ・ホーヤ、カリフォルニア州、米国、www.graphpad.com)を用いて実行した。
【0042】
結果
患者背景
ニボルマブ療法を受けている進行性/再発性NSCLC患者の合計27例を本試験に組み入れた。患者全体の年齢の中央値は69歳(53-82歳)で、20例(74%)は男性であった。17例(63%)は一般状態(PS)が良好で、米国東部がん治療共同研究グループ(ECOG)の分類が0または1であった。18例(67%)と7例(26%)はそれぞれ腺癌と扁平上皮癌であり、7例(26%)と1例(4%)はそれぞれEGFR変異とALK変異を有した。7例(26%)は喫煙未経験者で、22例(81%)はステージIVまたは再発癌であった(表1)。すべての患者は、少なくとも1レジメンの化学療法歴を有していた。解析の時点で、客観的奏効率(ORR)と疾患コントロール率(DCR)はそれぞれ33.3%と51.9%であった。経過観察期間の中央値は198日(64-330日)であった。PFSの中央値は57日(27-288日)であり、OSの中央値は未到達であった。
【表1】
【0043】
奏効率およびPFSに対する治療関連AEの影響
ニボルマブを投与されたNSCLC患者において、過去に免疫関連AEと臨床転帰の潜在的な相関が報告されているため(非特許文献10および11)、本コホートにおける治療関連AEとニボルマブの有効性との関係を調査した。表2に示す通り、全グレードの治療関連AEが患者の44%において発生した。投与中止に至る治療関連AEは6例(22%)において発生し、ASTおよびALTの上昇[2例(7%)]、クレアチニンの上昇[1例(4%)]、副腎機能不全[1例(4%)]、甲状腺機能低下[1例(4%)]、肺炎[1例(4%)]が含まれた。
図1Aは、ベースラインから治療後までの腫瘍量の変化を示す。腫瘍量は13例(48%)において減少し、そのうち10例は治療関連AEを発現した。全グレードの治療関連AEを発現したグループにおけるORRおよびDCRは、発現しなかったグループに比べて有意に高かった(それぞれORR:57% vs 7%、P=0.003;DCR:83% vs 26%、P=0.006)。さらに、
図1Bおよび
図1Cに示す通り、ニボルマブ療法によるPFSおよびOSはどちらも、治療関連AEを発現した患者において有意に長かった(それぞれHR、0.173;95% CI、0.066-0.453;P<0.001:HR、0.218;95% CI、0.049-0.967;P=0.045)。これらの結果は、ニボルマブを投与されたNSCLC患者において治療関連AEの発生率が高いことが良好な臨床転帰とよく相関することを示唆した。
【表2】
【0044】
臨床病理学的特性とPFSまたは治療関連AEとの関連
ニボルマブ治療の有効性および安全性を予測できるバイオマーカーを調査するために、投与前の臨床病理学的特性がPFSまたは治療関連AEと相関するかどうかを解析した(表3)。ニボルマブ治療前の良好なPSおよび低い体温がPFSの改善と関連したのに対し(それぞれHR、2.29;95% CI、1.339-3.915;P=0.003:HR、2.395;95% CI、1.271-4.514;P=0.007)、年齢、性別、組織像、喫煙状況、病期、過去の全身療法の回数など、その他の因子は関連しなかった。また、好中球・リンパ球比がPFSまたはAEと関連するかどうかも調査したが、そのような有意な関係は認められなかった。PD-L1の発現は27例中19例(70%)の腫瘍試料において評価可能であり、そのうち10例(53%)は新鮮な生検標本として、9例(47%)は保管された標本として入手した。ベースラインのPD-L1の発現は、4例(21%)が弱陽性(腫瘍細胞の1-49%)、4例(21%)が強陽性(腫瘍細胞の>50%)であった(表1)。表3に示す通り、PD-L1の発現はPFSまたは治療関連AEと相関しなかった(それぞれP=0.331とP=0.845)。
【表3】
略語:PFS、無増悪生存期間;AE、有害事象;HR、ハザード比;CI、信頼区間;PS、一般状態;Sq、扁平上皮
【0045】
リンパ球サブセットの分布頻度に対する影響
次に、ニボルマブ投与前後のPD-1+CD4+、PD-1+CD8+、FoxP3+CD4+リンパ球を含む、リンパ球サブセットの分布頻度を解析した(
図2A)。投与前の血液試料におけるCD4+およびCD8+リンパ球中のPD-1+細胞の割合は、投与後の試料に比べて有意に高かった(それぞれ12.9±7.6% vs 6.6±4.6%、P=0.004;12.1±6.5% vs 5.9±3.9%、P<0.001)。対照的に、投与前の血液試料におけるCD4+リンパ球中のFoxP3+細胞の割合は、投与後の試料に比べて有意に低かった(7.1±3.8% vs 11.4±8.5%、P=0.024)(
図2B)。ニボルマブ投与前のPD-1+CD4+、PD-1+CD8+、およびFoxP3+CD4+リンパ球のベースラインの割合も、投与後のそれらの割合の変化も、PFSまたは治療関連AEと有意に関連しなかった(表3および表4)。
【表4】
略語:PFS、無増悪生存期間;AE、有害事象;HR、ハザード比;CI、信頼区間
【0046】
投与前の血奬中の可溶性因子とPFSまたは治療関連AEとの関連
免疫反応を介在するどの可溶性因子がPFSまたは治療関連AEと関連するかを明らかにするために、投与前の血奬試料中の88の異なる可溶性因子のレベルを調査した。コックス回帰はGM-CSFおよびCHI3L1の血奬中レベルがPFSと有意に相関することを示した(それぞれP=0.005およびP=0.007)。これらの因子の影響を説明するために、GM-CSFおよびCHI3L1の中央値で割けた2つのグループにおけるPFSのカプラン・マイヤープロットを
図3Bに示す。投与前のGM-CSFの高レベルはPFSの改善と有意に関連した(生存期間の中央値186日vs 47日、P=0.013)。さらに、CHI3L1の低レベルはPFSの改善と関連している傾向はあったが(生存期間の中央値126日vs 55日)、統計学的有意に達しなかった(P=0.238)。
【0047】
血奬中可溶性因子レベルの変化とPFSまたは治療関連AEとの関連
血奬中の88の異なる可溶性因子のレベルの変化がPFSまたは治療関連AEと関連するかどうかも解析した。コックス回帰は、CXCL2、VEGF、IFNα2、およびMMP2のレベルの変化がPFSと有意に相関することを示した(それぞれP<0.001、P=0.019、P=0.014、およびP=0.010)。さらに、CXCL2のレベルの変化も治療関連AEと有意に関連した(P=0.017)(表4)。これらの結果を踏まえて、選択された可溶性因子の変化に従って患者を2つのグループに層別化した(すなわち、「減少あり」または「減少なし」)。層別化したグループにおけるPFSのカプラン・マイヤープロットを
図3Cに示す。血奬中CXCL2レベルの減少を示した患者は、PFSの中央値が有意に長かった(生存期間の中央値252日vs 57日、P=0.003)。また、血奬中VEGFレベルの減少を示した患者も、減少しなかった患者に比べてPFSが有意に長かった(生存期間の中央値243日vs 57日、P=0.015)。一方、血奬中IFNα2およびMMP2レベルに従って層別化されたグループは、PFSの有意差を示さなかった。
図4Aは、客観的腫瘍反応に従って選択されたグループにおける投与前後のCXCL2、VEGF、IFNα2、MMP2のレベルを示す。CXCL2およびMMP2のレベルの変化が臨床反応と有意に関連したのに対し(それぞれP=0.001およびP=0.044)、VEGFやIFNα2など、その他の因子は有意に関連しなかった(
図4B)。さらに、
図4Cは、治療関連AEを発現したグループと発現しなかったグループにおける投与前後のCXCL2レベルを示す。
図4Dに示す通り、CXCL2レベルの減少を示した患者は、そうでない患者に比べ、治療関連AEの発現率が相対的に高かった(86% vs 38%、P=0.07)。血奬中CXCL2が減少した患者の大部分(86%、7例中6例)がPRと治療関連AEの両方を同時に示す傾向があったことは注目に値した(
図4E)。
【0048】
血奬中可溶性因子レベルの縦断的解析
選択された可溶性因子のレベルの動的変化が臨床転帰にいかに影響を与え得るかをさらに明らかにするために、
図5に示す通り、それらの力価のタイムコースを解析した。ニボルマブを投与された患者20例のうち、11例(55%)は増悪のために投与を中止し、9例(45%)は解析時点で投与を継続していた。特に、増悪を認めた患者11例中9例(82%)において、再発はベースラインを超える血奬中CXCL2レベルの上昇と密接に一致した。さらに、投与中に血奬中CXCL2レベルの低下を維持した患者6例の全員が持続的な疾患コントロールを示し、ニボルマブ療法を継続することができた。対照的に、VEGF、IFNα2、およびMMP2は、それらの力価のタイムコースと臨床転帰との明らかな関連を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測のためのバイオマーカーを提供する。本発明の新規バイオマーカーの提供により、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法の予後予測が可能となる。