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  • 特許-アルカリ乾電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】アルカリ乾電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/06 20060101AFI20230630BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
H01M4/06 T
H01M4/62 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021574460
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2020039334
(87)【国際公開番号】W WO2021152932
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2020012893
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康文
(72)【発明者】
【氏名】中堤 貴之
(72)【発明者】
【氏名】樟本 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】福井 厚史
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-034375(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109309218(CN,A)
【文献】国際公開第2018/066204(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配されるセパレータと、電解液と、を備え、
前記負極は、亜鉛を含む負極活物質と、P-O結合を有する化合物Aと、テレフタル酸と、を含み、
前記化合物Aは、リン酸、リン酸塩、亜リン酸エステルおよびリン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記負極において、前記負極活物質に由来するZn元素に対する、前記化合物Aに由来するP元素のモル比:P/Znは、0.00001以上、0.0014以下であり、
前記テレフタル酸に対する前記化合物Aのモル比は、0.025以上、2.5以下である、アルカリ乾電池。
【請求項2】
前記化合物Aは、一般式(1):
【化1】
(一般式(1)中、Rは、炭素原子数が1以上、20以下の炭化水素基であり、Rは、エチレン基またはプロピレン基であり、n1は、ROの平均付加モル数を表し、0以上、8以下であり、Xは、水素原子またはOM基であり、Mは、水素原子またはアルカリ金属原子であり、Yは、水素原子またはアルカリ金属原子である。)で表される化合物を含む、請求項1に記載のアルカリ乾電池。
【請求項3】
前記一般式(1)中のn1は、2以上、4以下である、請求項に記載のアルカリ乾電池。
【請求項4】
前記化合物Aは、一般式(2):
【化2】
(一般式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数が1以上、20以下の炭化水素基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、エチレン基またはプロピレン基であり、n2は、ROの平均付加モル数を表し、0以上、8以下であり、n3は、ORの平均付加モル数を表し、0以上、8以下であり、Xは、水素原子またはOM基であり、Mは、水素原子またはアルカリ金属原子である。)で表される化合物を含む、請求項1に記載のアルカリ乾電池。
【請求項5】
前記一般式(1)中のn2とn3の合計は、2以上、4以下である、請求項に記載のアルカリ乾電池。
【請求項6】
前記負極中に含まれる前記負極活物質の粒子の粒径D50は、120μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のアルカリ乾電池。
【請求項7】
前記負極中に含まれる前記負極活物質の粒子の粒径D50は、75μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のアルカリ乾電池。
【請求項8】
前記負極中に含まれる前記負極活物質の粒子は、粒径75μm以下の粒子を60体積%以上含む、請求項1~のいずれか1項に記載のアルカリ乾電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルカリ乾電池の低温環境下での放電性能の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ乾電池(アルカリマンガン乾電池)は、マンガン乾電池に比べて容量が大きく、大きな電流を取り出すことができるため、広く利用されている。アルカリ乾電池の電解液には、水酸化カリウム等の水溶液が用いられ、20℃付近の室温環境下では、良好な粘度とイオン伝導性を有する。
【0003】
ところで、特許文献1では、放電時の反応生成物の結晶成長に伴い生じる内部短絡を抑制する目的で、負極活物質としてアルミニウムを含む亜鉛合金を含むゲル状負極にリン酸またはリン酸イオンを含ませることが提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、電池に強い衝撃等が加えられることに伴うゲル状負極の正極への飛散により生じる内部短絡を抑制する目的で、ゲル状負極に特定の粒径のテレフタル酸を含ませることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2609609号明細書
【文献】国際公開2018/066204号パンフレット
【発明の概要】
【0006】
0℃等の低温環境下での放電では、負極から正極へ電解液(水)が移動(拡散)し難くなり、正負極間の電解液(水)のバランスが悪くなり、放電性能が低下することがある。放電時に、負極で水が生成し、正極で水が消費されることから、放電時の負極から正極への電解液(水)の移動(拡散)は、放電性能に大きな影響を及ぼす。
【0007】
本開示の一側面は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配されるセパレータと、電解液と、を備え、前記負極は、亜鉛を含む負極活物質と、P-O結合を有する化合物Aと、テレフタル酸と、を含み、前記テレフタル酸に対する前記化合物Aのモル比は、0.025以上、2.5以下である、アルカリ乾電池に関する。
【0008】
本開示によれば、低温環境下における放電性能に優れたアルカリ乾電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態におけるアルカリ乾電池の一部を断面とする正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態に係るアルカリ乾電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に配されるセパレータと、電解液と、を備える。負極は、亜鉛を含む負極活物質と、P-O結合を有する化合物A(以下、単に、化合物Aとも称する。)と、テレフタル酸と、を含み、テレフタル酸に対する化合物Aのモル比は、0.025以上、2.5以下である。
【0011】
特定のモル比で化合物Aとテレフタル酸とを負極に含ませることにより、低温環境下での放電性能が特異的に向上する。その詳細な理由は不明であるが、化合物Aはテレフタル酸と均一に混ざり合い易く、負極内で化合物Aがテレフタル酸と特定のモル比で混ざり合っている場合、低温放電時の正負極間の電解液(水)のバランスが改善されるものと推測される。テレフタル酸に対する化合物Aのモル比は、好ましくは0.25以上、2.3以下であり、より好ましくは0.25以上、1.5以下である。
【0012】
テレフタル酸に対する化合物Aのモル比は、例えば、以下の方法により求めることができる。
【0013】
電池を分解し、負極を取り出し、純水で負極中の成分を抽出し、静置して、上澄み液を得、陽イオン除去カラムで液中のアルカリ分を除去する。その後、イオンクロマトグラフィー(IC)法を用いて、上澄み液中のテレフタル酸イオン量を求める。また、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法を用いて、上澄み液中のリン量を求める。液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)および核磁気共鳴(NMR)法を併用して化合物Aの構造(分子量)を求め、リンが化合物Aに由来するものであることを確認する。上記分析の結果に基づいて、得られたテレフタル酸イオン量およびリン量を用いて、(化合物A/テレフタル酸)のモル比を求める。
【0014】
負極において、負極活物質に由来するZn元素に対する、化合物Aに由来するP元素のモル比:P/Znは、好ましくは0.00001以上、0.0014以下であり、より好ましくは0.0001以上、0.0008以下である。P/Znが0.00001以上である場合、低温放電時の正負極間の液バランスが改善され易い。P/Znが0.0014以下である場合、負極中の電解液において良好な粘度およびイオン伝導性が得られ易い。負極中のZn量およびP量は、例えば、ICP発光分光分析法により求められる。
【0015】
化合物Aとしては、例えば、リン酸が挙げられる。化合物Aは、アルカリ金属塩等の塩であってもよく、例えばリン酸塩であってもよい。リン酸塩としては、例えば、リン酸カリウム(KPO)、リン酸ナトリウム(NaPO)、リン酸水素カリウム(KHPO)、リン酸水素ナトリウム(NaHPO)等が挙げられる。中でも、リン酸カリウムが好ましい。化合物Aは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
また、化合物Aは、P-O結合を有するエステル化合物A(以下、単に、エステル化合物Aとも称する。)であってもよい。エステル化合物Aは、親水基としてP-O結合含有基および疎水基として炭化水素基を有し、アニオン性界面活性剤として作用し得る。P-O結合含有基は、負極活物質に吸着し易い。親水性の観点から、P-O結合含有基は、OM基(Mは水素原子またはアルカリ金属原子)を1つまたは2つ有してもよい。エステル化合物Aは、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基等の親水基を有してもよい。
【0017】
エステル化合物Aは、亜リン酸エステル、リン酸エステルが好ましく、リン酸エステルがより好ましい。この場合、低温放電時の正負極間での電解液(水)のバランスの改善効果が顕著に得られ易い。より具体的には、エステル化合物Aとしては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル、アルキルリン酸エステル等が挙げられる。エステル化合物Aは、モノエステルでもよく、ジエステルでもよく、トリエステルでもよい。
【0018】
低温環境下での放電性能が向上し易い観点から、エステル化合物Aは、以下の一般式(1)で表されるモノエステル化合物が好ましい。一般式(1)で表される化合物をテレフタル酸と特定のモル比で共存させることで、低温放電時の正負極間の液バランスが改善され易い。
【0019】
【化1】
【0020】
一般式(1)中、Rは、炭素原子数が1以上、20以下の炭化水素基である。Rは疎水性を有し、低温放電時の正負極間の電解液(水)のバランス改善に影響を与える。Rは、エチレン基:-CHCH-またはプロピレン基:-CH(CH)CH-である。n1は、ROの平均付加モル数(RO単位の平均繰り返し数)を表し、0以上、8以下である。n1=0の場合、Rは、(RO)n1を介さずに、酸素原子を介してリン原子に結合する。Xは、水素原子またはOM基であり、Mは、水素原子またはアルカリ金属原子である。Yは、水素原子またはアルカリ金属原子である。アルカリ金属原子は、例えば、カリウム原子、ナトリウム原子等である。
【0021】
低温環境下での放電性能の更なる向上の観点から、Rは、炭素原子数が2以上、16以下の炭化水素基が好ましく、炭化水素数が2以上、10以下の炭化水素基がより好ましい。n1は、1以上、4以下であってもよく、2以上、4以下が好ましい。この場合、負極から正極への電解液の拡散性が向上し易く、低温放電時の正負極間の液バランスが改善され易い。
【0022】
低温環境下での放電性能が向上し易い観点から、エステル化合物Aは、以下の一般式(2)で表されるジエステル化合物が好ましい。一般式(2)で表される化合物をテレフタル酸と特定のモル比で共存させることで、低温放電時の正負極間の液バランスが改善され易い。
【0023】
【化2】
【0024】
一般式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数が1以上、20以下の炭化水素基である。RおよびRは疎水性を有し、低温放電時の正負極間の電解液(水)のバランス改善に影響を与える。RおよびRは、それぞれ独立して、エチレン基:-CHCH-またはプロピレン基:-CH(CH)CH-である。n2は、ROの平均付加モル数(RO単位の平均繰り返し数)を表し、0以上、8以下である。n2=0の場合、Rは、(RO)n2を介さずに、酸素原子を介してリン原子に結合する。n3は、ORの平均付加モル数(OR単位の平均繰り返し数)を表し、0以上、8以下である。n3=0の場合、Rは、(ORn3を介さずに、酸素原子を介してリン原子に結合する。Xは、水素原子またはOM基であり、Mは、水素原子またはアルカリ金属原子(例えば、カリウム原子、ナトリウム原子等)である。
【0025】
低温環境下での放電性能の更なる向上の観点から、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数が2以上、16以下の炭化水素基が好ましく、炭化水素数が2以上、10以下の炭化水素基がより好ましい。n2およびn3は、それぞれ独立して、1以上、4以下であってもよい。n2とn3の合計は、2以上、4以下が好ましい。この場合、負極から正極への電解液の拡散性が向上し易く、低温放電時の正負極間の液バランスが改善され易い。
【0026】
式(1)中のRならびに式(2)中のRおよびRの炭化水素基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基等を含む。中でも、炭素原子数が1以上、20以下のアルキル基が好ましい。アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ナノデシル基、エイコシル基等を含む。アルケニル基は、ビニル基、1-プロぺニル基、アリル基、イソプロぺニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基等を含む。
【0027】
負極中のテレフタル酸の含有量は、例えば、負極活物質100質量部あたり、0.01質量部以上、0.5質量部以下であってもよい。負極中のテレフタル酸の含有量が負極活物質100質量部あたり0.01質量部以上である場合、低温放電時の正負極間の液バランスが改善され易い。負極中のテレフタル酸の含有量が負極活物質100質量部あたり0.5質量部以下である場合、負極中の電解液において良好な粘度およびイオン伝導性が得られ易い。
【0028】
テレフタル酸は、負極内で電解液に溶解し難いことがあり、粒子状に存在し得る。負極に含ませるテレフタル酸の粒径(D50)は、例えば、25μm以上、210μm以下であってもよく、100μm以上、210μm以下であってもよい。この場合、負極の分散性が高められ、負極が均一化され易い。
【0029】
なお、本明細書中、粒径(D50)とは、体積基準の粒度分布におけるメジアン径である。粒径(D50)は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子分布測定装置を用いて求められる。
【0030】
本開示の一実施形態に係るアルカリ乾電池としては、円筒形電池、コイン形電池などが挙げられる。
【0031】
以下、本実施形態に係るアルカリ乾電池を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本開示の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。さらに、他の実施形態との組み合わせも可能である。
【0032】
図1は、本開示の一実施形態におけるアルカリ乾電池の横半分を断面とする正面図である。図1は、インサイドアウト型の構造を有する円筒形電池の一例を示す。図1に示すように、アルカリ乾電池は、中空円筒形の正極2と、正極2の中空部内に配されたゲル状の負極3と、これらの間に配されたセパレータ4と、電解液とを含み、これらが、正極端子を兼ねた有底円筒形の電池ケース1内に収容されている。電解液には、アルカリ水溶液が用いられる。
【0033】
正極2は、電池ケース1の内壁に接して配されている。正極2は、二酸化マンガンと電解液とを含む。正極2の中空部内には、セパレータ4を介して、ゲル状の負極3が充填されている。負極3は、亜鉛を含む負極活物質、化合物Aおよびテレフタル酸に加え、通常、電解液とゲル化剤とを含む。
【0034】
セパレータ4は、有底円筒形であり、電解液を含む。セパレータ4は、円筒型のセパレータ4aと、底紙4bとで構成されている。セパレータ4aは、正極2の中空部の内面に沿って配され、正極2と負極3とを隔離している。よって、正極と負極との間に配されたセパレータとは、円筒型のセパレータ4aを意味する。底紙4bは、正極2の中空部の底部に配され、負極3と電池ケース1とを隔離している。
【0035】
電池ケース1の開口部は、封口ユニット9により封口されている。封口ユニット9は、樹脂製のガスケット5、負極端子を兼ねる負極端子板7、および負極集電体6からなる。ガスケット5は環状の薄肉部5aを有する。電池内圧が所定値を超えると、薄肉部5aが破断して電池外部へガスが放出される。負極集電体6は負極3内に挿入されている。負極集電体6は、頭部と胴部とを有する釘状の形態を有しており、胴部はガスケット5の中央筒部に設けられた貫通孔に挿入され、負極集電体6の頭部は負極端子板7の中央部の平坦部に溶接されている。電池ケース1の開口端部は、ガスケット5の外周端部を介して負極端子板7の周縁部の鍔部にかしめつけられている。電池ケース1の外表面には外装ラベル8が被覆されている。
【0036】
インサイドアウト型構造の場合、低温環境下では、電解液の粘度が上昇し、電解液(水)が正極の外周部(電池ケース側)まで移動し難く、正負極間の液バランスが悪く、正極の外周部が有効に利用され難く、放電性能が低下し易い。よって、特定のモル比で化合物Aとテレフタル酸とを負極に含ませることにより、正負極間の液バランスが改善され、低温環境下での放電性能の向上効果が顕著に得られる。
【0037】
以下、アルカリ乾電池の詳細について説明する。
【0038】
(負極)
負極活物質としては、亜鉛、亜鉛合金等が挙げられる。亜鉛合金は、耐食性の観点から、インジウム、ビスマスおよびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。亜鉛合金中のインジウム含有量は、例えば、0.01~0.1質量%であり、ビスマス含有量は、例えば、0.003~0.02質量%である。亜鉛合金中のアルミニウム含有量は、例えば、0.001~0.03質量%である。亜鉛合金中において亜鉛以外の元素が占める割合は、耐食性の観点から、0.025~0.08質量%であるのが好ましい。
【0039】
負極活物質は、通常、粒子状の形態で使用される。負極の充填性および負極内での電解液の拡散性の観点から、負極活物質粒子の粒径(D50)は、例えば、100μm以上、200μm以下であってもよく、110μm以上、160μm以下であってもよい。
【0040】
また、負極活物質粒子の粒径(D50)は、120μm以下であってもよく、75μm以下であってもよく、40μm以上、75μm以下であってもよい。負極活物質粒子の粒径(D50)が120μm以下である場合、負極の反応効率がより高められ、低温環境下での放電性能が更に向上する。好ましくは、負極活物質粒子の粒径(D50)が75μm以下である。
【0041】
負極の反応効率の向上の観点から、負極中に含まれる負極活物質の粒子は、粒径75μm以下の粒子を60体積%以上含んでいてもよい。
【0042】
負極は、例えば、負極活物質と、化合物Aと、テレフタル酸と、ゲル化剤と、電解液とを混合することにより得られる。化合物Aの添加量は、例えば、負極活物質100質量部あたり、0.005質量部以上、0.45質量部以下である。ゲル化剤としては、アルカリ乾電池の分野で使用される公知のゲル化剤が特に制限なく使用され、例えば、吸水性ポリマー等が使用できる。このようなゲル化剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムが挙げられる。ゲル化剤の添加量は、例えば、負極活物質100質量部あたり、0.5質量部以上、2.5質量部以下である。
【0043】
負極作製時において、エステル化合物Aが、炭素原子数が多い炭化水素基を有する場合、エステル化合物Aが電解液に溶解し難いことがある。この場合、負極作製時にエステル化合物Aとともにテレフタル酸を予め電解液に含ませることにより、電解液中でエステル化合物Aが均一に分散し易くなり、電解液の撹拌を必要最小限に抑えて、電解液の撹拌に伴う発泡を抑制することができる。負極作製時にテレフタル酸を予め電解液に含ませない場合、電解液中にエステル化合物Aを均一に分散させるために電解液を十分に撹拌する必要があり、電解液が発泡することがある。
【0044】
負極には、耐食性を向上させるために、インジウムやビスマス等の水素過電圧の高い金属を含む化合物を適宜添加してもよい。亜鉛等のデンドライトの成長を抑制するために、負極に、微量のケイ酸やそのカリウム塩等のケイ酸化合物を適宜添加してもよい。
【0045】
(負極集電体)
ゲル状負極に挿入される負極集電体の材質としては、例えば、金属、合金等が挙げられる。負極集電体は、好ましくは、銅を含み、例えば、真鍮等の銅および亜鉛を含む合金製であってもよい。負極集電体は、必要により、スズメッキ等のメッキ処理がされていてもよい。
【0046】
(正極)
正極は、通常、正極活物質である二酸化マンガンに加え、導電剤および電解液を含む。また、正極は、必要に応じて、さらに結着剤を含有してもよい。
【0047】
二酸化マンガンとしては、電解二酸化マンガンが好ましい。二酸化マンガンの結晶構造としては、α型、β型、γ型、δ型、ε型、η型、λ型、ラムスデライト型が挙げられる。
【0048】
二酸化マンガンは粉末の形態で用いられる。正極の充填性および正極内での電解液の拡散性等を確保し易い観点からは、二酸化マンガンの粒径(D50)は、例えば、25μm以上、60μm以下である。
【0049】
成形性や正極の膨張抑制の観点から、二酸化マンガンのBET比表面積は、例えば、20m2/g以上、50m2/g以下の範囲であってもよい。なお、BET比表面積とは、多分子層吸着の理論式であるBET式を用いて、表面積を測定および計算したものである。BET比表面積は、例えば、窒素吸着法による比表面積測定装置を用いることにより測定できる。
【0050】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラックの他、黒鉛等の導電性炭素材料が挙げられる。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛等が使用できる。導電剤は、繊維状等であってもよいが、粉末状であることが好ましい。導電剤の粒径(D50)は、例えば、3μm以上、20μm以下である。
【0051】
正極中の導電剤の含有量は、二酸化マンガン100質量部に対して、例えば、3質量部以上、10質量部以下であり、好ましくは、5質量部以上、9質量部以下である。
【0052】
正極は、例えば、正極活物質、導電剤、アルカリ電解液、必要に応じて結着剤を含む正極合剤をペレット状に加圧成形することにより得られる。正極合剤を、一旦、フレーク状や顆粒状にし、必要により分級した後、ペレット状に加圧成形してもよい。
【0053】
ペレットは、電池ケース内に収容された後、所定の器具を用いて、電池ケース内壁に密着するように二次加圧してもよい。
【0054】
(セパレータ)
セパレータの材質としては、例えば、セルロース、ポリビニルアルコール等が例示できる。セパレータは、上記材料の繊維を主体として用いた不織布であってもよく、セロファンやポリオレフィン系等の微多孔質フィルムであってもよい。不織布と微多孔質フィルムとを併用してもよい。不織布としては、セルロース繊維およびポリビニルアルコール繊維を主体として混抄した不織布、レーヨン繊維およびポリビニルアルコール繊維を主体として混抄した不織布等が例示できる。
【0055】
図1では、円筒型のセパレータ4aと、底紙4bとを用いて、有底円筒形のセパレータ4を構成している。有底円筒形のセパレータは、これに限らず、アルカリ乾電池の分野で使用される公知の形状のセパレータを用いればよい。セパレータは、1枚のシートで構成してもよく、セパレータを構成するシートが薄ければ、複数のシートを重ね合わせて構成してもよい。円筒型のセパレータは、薄いシートを複数回巻いて構成してもよい。
【0056】
セパレータの厚みは、例えば、200μm以上、300μm以下である。セパレータは、全体として上記の厚みを有しているのが好ましく、セパレータを構成するシートが薄ければ、複数のシートを重ねて、上記の厚みとなるようにしてもよい。
【0057】
(電解液)
電解液は、正極、負極およびセパレータ中に含まれる。電解液としては、例えば、水酸化カリウムを含むアルカリ水溶液が用いられる。電解液中の水酸化カリウムの濃度は、例えば、30質量%以上、50質量%以下である。電解液に、さらに酸化亜鉛を含ませてもよい。電解液中の酸化亜鉛の濃度は、例えば、1質量%以上、5質量%以下である。
【0058】
(電池ケース)
電池ケースには、例えば、有底円筒形の金属ケースが用いられる。金属ケースには、例えば、ニッケルめっき鋼板が用いられる。正極と電池ケースとの間の密着性を良くするためには、金属ケースの内面を炭素被膜で被覆した電池ケースを用いるのが好ましい。
【0059】
<実施例>
以下、本開示を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
《実施例1》
下記の手順により、図1に示す単3形の円筒形アルカリ乾電池(LR6)を作製した。
【0061】
[正極の作製]
正極活物質である電解二酸化マンガン粉末(粒径(D50)35μm)に、導電剤である黒鉛粉末(粒径(D50)8μm)を加え、混合物を得た。電解二酸化マンガン粉末および黒鉛粉末の質量比は92.4:7.6とした。なお、電解二酸化マンガン粉末は、比表面積が41m2/gであるものを用いた。混合物100質量部に電解液1.5質量部を加え、充分に攪拌した後、フレーク状に圧縮成形して、正極合剤を得た。電解液には、水酸化カリウム(濃度35質量%)および酸化亜鉛(濃度2質量%)を含むアルカリ水溶液を用いた。
【0062】
フレーク状の正極合剤を粉砕して顆粒状とし、これを10~100メッシュの篩によって分級して得られた顆粒11gを、外径13.65mmの所定の中空円筒形に加圧成形して、正極ペレットを2個作製した。
【0063】
[負極の作製]
負極活物質と、電解液と、ゲル化剤と、化合物Aと、テレフタル酸(粒径(D50)130μm)とを混合し、ゲル状の負極3を得た。負極活物質には、0.02質量%のインジウムと、0.01質量%のビスマスと、0.005質量%のアルミニウムとを含む亜鉛合金粉末(粒径(D50)130μm)を用いた。亜鉛合金粉末中に占める75μm以下の粒子の割合は23体積%であった。電解液には、正極の作製で用いた電解液と同じものを用いた。ゲル化剤には、架橋分岐型ポリアクリル酸および高架橋鎖状型ポリアクリル酸ナトリウムの混合物を用いた。化合物Aには、リン酸カリウム(KPO)を用いた。負極活物質と、電解液と、ゲル化剤との質量比は、100:50:1とした。
【0064】
テレフタル酸に対する化合物Aのモル比は、0.28とした。負極中の化合物Aの含有量は、負極活物質100質量部あたり0.05質量部とした。負極中のZn元素に対するP元素のモル比:P/Znは、0.00015とした。負極中のテレフタル酸の含有量は、負極活物質100質量部あたり0.14質量部とした。
【0065】
[アルカリ乾電池の組立て]
ニッケルめっき鋼板製の有底円筒形のケース(外径13.80mm、円筒部の肉厚0.15mm、高さ50.3mm)の内面に日本黒鉛(株)製のバニーハイトを塗布し、厚み約10μmの炭素被膜を形成し、電池ケース1を得た。電池ケース1内に正極ペレットを縦に2個挿入した後、加圧して、導電膜10を介して電池ケース1の内壁に密着した状態の正極2を形成した。有底円筒形のセパレータ4を正極2の内側に配置した後、電解液を注入し、セパレータ4に含浸させた。電解液には、正極の作製に用いた電解液と同じものを用いた。この状態で所定時間放置し、電解液をセパレータ4から正極2へ浸透させた。その後、6gのゲル状負極3を、セパレータ4の内側に充填した。
【0066】
セパレータ4は、円筒型のセパレータ4aおよび底紙4bを用いて構成した。円筒型のセパレータ4aおよび底紙4bには、質量比が1:1であるレーヨン繊維およびポリビニルアルコール繊維を主体として混抄した不織布シート(坪量28g/m2)を用いた。底紙4bに用いた不織布シートの厚みは0.27mmであった。セパレータ4aは、厚み0.09mmの不織布シートを三重に巻いて構成した。
【0067】
負極集電体6は、一般的な真鍮(Cu含有量:約65質量%、Zn含有量:約35質量%)を、釘型にプレス加工した後、表面にスズめっきを施すことにより得た。負極集電体6の胴部の径は1.15mmとした。ニッケルめっき鋼板製の負極端子板7に負極集電体6の頭部を電気溶接した。その後、負極集電体6の胴部を、ポリアミド6,12を主成分とするガスケット5の中心の貫通孔に圧入した。このようにして、ガスケット5、負極端子板7、および負極集電体6からなる封口ユニット9を作製した。
【0068】
次に、封口ユニット9を電池ケース1の開口部に設置した。このとき、負極集電体6の胴部を、負極3内に挿入した。電池ケース1の開口端部を、ガスケット5を介して、負極端子板7の周縁部にかしめつけ、電池ケース1の開口部を封口した。外装ラベル8で電池ケース1の外表面を被覆した。このようにして、アルカリ乾電池A1を作製した。
【0069】
[評価]
上記で作製した電池A1について、以下の方法で、低温環境下における放電性能を評価した。
【0070】
作製した電池について、0℃の環境下において250mAで放電した。この時、電池の閉路電圧が0.9Vに達するまでの放電時間を測定した。放電時間を、比較例1の電池X1の放電時間を100とした指数として表した。
【0071】
《実施例2~5、比較例5~6》
負極中の化合物Aの含有量およびテレフタル酸に対する化合物Aのモル比を表1に示す値とした以外、実施例1の電池A1と同様の方法により実施例2~5の電池A2~5および比較例5~6の電池X5~X6を作製し、評価した。
【0072】
《比較例1》
負極に化合物Aおよびテレフタル酸の両方を含ませなかった以外、実施例1の電池A1と同様の方法により比較例1の電池X1を作製し、評価した。
【0073】
《比較例2》
負極にリン酸カリウムを含ませ、テレフタル酸を含ませなかった。負極中のリン酸カリウムの含有量を負極活物質100質量部あたり0.1質量部とした。
【0074】
上記以外、実施例1の電池A1と同様の方法により比較例2の電池X2を作製し、評価した。
【0075】
《比較例3》
負極に化合物Aを含ませなかった以外、実施例1の電池A1と同様の方法により比較例2の電池X2を作製し、評価した。
【0076】
《比較例4》
負極に化合物Aの代わりに酢酸カリウムを含ませ、負極中の酢酸カリウムの含有量を負極活物質100質量部あたり0.1質量部とした以外、実施例1の電池A1と同様の方法により比較例4の電池X4を作製し、評価した。
【0077】
評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
特定のモル比でテレフタル酸と化合物Aとを負極に含ませた実施例1~5の電池A1~A5では、低温環境下での放電性能が向上した。
【0080】
テレフタル酸および化合物Aを負極に含ませなかった比較例1の電池X1では、低温環境下での放電性能が低下した。テレフタル酸を負極に含ませなかった比較例2の電池X2では、低温環境下での放電性能が低下した。化合物Aを負極に含ませなかった比較例3の電池X3では、低温環境下での放電性能が低下した。リン酸カリウムの代わりに酢酸カリウムを負極に含ませた比較例4の電池X4では、低温環境下での放電性能が低下した。
【0081】
テレフタル酸に対するリン酸カリウムのモル比が0.025未満である比較例5の電池X5では、正負極間の液バランスが悪くなり、低温環境下での放電性能が低下した。
【0082】
テレフタル酸に対するリン酸カリウムのモル比が2.5超である比較例6の電池X6では、リン酸カリウムが過多で正負極間の液バランスが悪くなり、低温環境下での放電性能が低下した。
【0083】
《実施例6~12》
化合物Aとして、表2および表3に示す化合物a1~a7(エステル化合物A)を用いた。負極中の化合物Aの含有量を負極活物質100質量部あたり0.24質量部とした。(P/Zn)および(化合物A/テレフタル酸)のモル比を表4に示す値とした。
【0084】
上記以外、実施例1の電池A1と同様の方法により実施例6~12の電池B1~B7を作製し、評価した。評価結果を表4に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
特定のモル比でテレフタル酸と化合物a1~a7とを負極に含ませた実施例6~12の電池B1~B7では、低温環境下での放電性能が向上した。特に、電池B4~B7では、優れた放電性能が得られた。
【0089】
《実施例13~15》
粒径(D50)が65μmであり、75μm以下の粒子を72体積%含む亜鉛合金粉末を負極活物質に用いた以外、実施例1、6および10の電池A1、B1およびB5と同様の方法により、それぞれ実施例13~15の電池D1~D3を作製し、評価した。評価結果を表5に示す。
【0090】
【表5】
【0091】
実施例13~15の電池D1~D3では、低温環境下での放電性能が更に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示に係るアルカリ乾電池は、例えば、ポータブルオーディオ機器、電子ゲーム、ライト等の電源として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0093】
1 電池ケース
2 正極
3 負極
4 有底円筒形のセパレータ
4a 円筒型のセパレータ
4b 底紙
5 ガスケット
5a 薄肉部
6 負極集電体
7 負極端子板
8 外装ラベル
9 封口ユニット
図1