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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】ピッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10C 1/16 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
C10C1/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019157989
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021036012
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 秀一
(72)【発明者】
【氏名】細谷 郁雄
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-516831(JP,A)
【文献】特開2002-275478(JP,A)
【文献】特開平09-279154(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104293366(CN,A)
【文献】特開平02-204314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10C 1/00
C10B 55/0,57/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
褐炭及び水を含む混合物を加圧下で水熱処理することで得られる褐炭合成油、または前記褐炭合成油の溶剤不溶分を原料とし、
前記原料を、触媒の存在下で、加圧下で加熱し、前記原料をピッチ化する工程と、
前記ピッチ化する工程で得られた反応生成物からピッチを分離する工程と、
を有し、
前記触媒は、ハロゲン含有有機化合物またはハロゲン含有無機化合物であり、
前記ハロゲン含有有機化合物は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリスチレン、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-塩化エチレン共重合体、塩化ビニル-塩化プロピレン共重合体、塩化ビニル-スチレン共重合体、または塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体であり、
前記ハロゲン含有無機化合物は、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化チタン、塩化ジルコニウム、フッ化アンチモン、塩化鉄、塩化亜鉛、フッ化ホウ素、塩化ホウ素、ヨウ化アルミニウム、塩化ガリウム、臭化ガリウム、塩化アンチモン、塩化スズ、臭化チタン、臭化亜鉛、臭化スズ、臭化鉄、フッ化アルミニウム、フッ化チタン、フッ化亜鉛、またはフッ化スズである、ピッチの製造方法。
【請求項2】
請求項に記載のピッチの製造方法において、
前記ハロゲン含有有機化合物は、ポリ塩化ビニルである、ピッチの製造方法。
【請求項3】
請求項に記載のピッチの製造方法において、
前記ハロゲン含有無機化合物は、塩化アルミニウムである、ピッチの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のピッチの製造方法において、
前記原料が前記褐炭合成油である場合、前記触媒と前記褐炭合成油との混合比(前記触媒/前記褐炭合成油)は、質量比で、5/100以上20/100以下である、ピッチの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のピッチの製造方法において、
前記原料が前記溶剤不溶分である場合、前記触媒と前記溶剤不溶分との混合比(前記触媒/前記溶剤不溶分)は、質量比で、5/100以上20/100以下である、ピッチの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のピッチの製造方法において、
前記ピッチ化する工程は、第1の条件で行い、
前記第1の条件は、0.2MPa以上1.5MPa以下、260℃以上450℃以下、及び20分以上4時間以下である、ピッチの製造方法。
【請求項7】
請求項に記載のピッチの製造方法において、
前記ピッチ化する工程は、前記第1の条件でピッチ化を行う1段目ピッチ化工程と、前記第1の条件よりも温度が低くかつ時間が長い第2の条件でピッチ化を行う2段目ピッチ化工程とを有する、ピッチの製造方法。
【請求項8】
請求項に記載のピッチの製造方法において、
前記第2の条件は、0.2MPa以上1.5MPa以下、250℃以上350℃以下、及び1時間以上10時間以下である、ピッチの製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のピッチの製造方法において、
前記反応生成物から前記ピッチを分離する工程は、前記反応生成物を洗浄した後、洗浄された前記反応生成物を減圧蒸留することにより分離する、ピッチの製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のピッチの製造方法において、
前記ピッチを分離する工程で前記反応生成物から分離された前記ピッチを、さらに炭化する工程を有する、ピッチの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
21世紀は炭素材の時代と言われ、その軽量、高強度、高弾性、高導電性、耐熱性、及び耐摩耗性等の性質を活かした汎用炭素材及び高機能炭素材(例えば、炭素繊維及びその複合材料、各種電極材料、発熱体、並びに成型断熱材等)が開発され商品化されてきた。
株式会社富士経済によれば、炭素繊維材料関連では、今後、航空機及び自動車産業での需要拡大が見込まれ、日本でのこの分野の市場は2030年度には約3500億円に達すると見込まれている。
炭素繊維原料は、PAN系とピッチ系がある。炭素繊維以外では、ピッチ系が汎用炭素材及び高機能炭素材の各種原料に用いられている。その中で、最近需要が急増している電気製鋼用黒鉛電極は、高温時の軸方向への伸びが小さく、導電性に優れたピッチ系のニードルコークからのみ製造されている。
また、近年の中国の需要増により、黒鉛電極市場は2018年末には100万円/t~150万円/tにも高騰し、現在も高値が続いている。
【0003】
ピッチの原料は、石油系残渣及びコールタールに大別される。主要供給元は石油精製業、製鉄業、及びコークス製造業であるが、それぞれ燃料油需要の減少や、良質な原料炭の不足及び高騰によるコークスレス化の進展に伴い、副産物のピッチの原料の供給が先細りになり、将来の需要を賄いきれなくなるとの予測がある。
【0004】
我が国では、通常、コークス炉から回収されたコールタールを起点として各種ピッチを製造している。熱分解反応であるコークス炉からはコールタールが約7%~8%の収率で回収される。
例えば、非特許文献1には、既存のコールタールからピッチを製造する方法が開示されている。特許文献1には、コールタールから炭素繊維用ピッチを製造する方法が開示されている。非特許文献2には、石炭系メソフェーズピッチの物性を改善することを目的として、ピッチとポリ塩化ビニルとを溶剤共存下で共熱処理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-011422号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】芳香族及びタール工業ハンドブック第3版56頁(日本芳香族工業会 編)
【文献】”メソフェーズピッチとポリ塩化ビニルの共熱処理-溶剤共存下での改質-”TANSO1991年 1991巻 146号 27頁~32頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法で使用される石炭は、強粘結炭を主体とした瀝青炭に限られ、冷間及び熱間のコークス強度低下をもたらし易い褐炭は使用が困難とされている。また、特許文献1に記載のコールタール及び非特許文献2に記載の石炭系メソフェーズピッチは、どちらも褐炭由来ではない。
我が国には、褐炭を原料とする褐炭由来のコールタールや、この褐炭由来のコールタールを起点としたピッチは存在しないとされている。加えて、褐炭由来のコールタールは、瀝青炭由来のコールタールに比べ、脂肪族に富み、芳香族炭素割合が低く、芳香環の縮合度が小さい上に、酸素含有量が多いため、ピッチへの転換や、とりわけ異方性炭素材料への展開は極めて難しいとされている。
【0008】
褐炭は、その性状に鑑み、世界に多量に存在し、安価であるにも関わらず十分に利用されていないのが現状である。このような褐炭を、ピッチの製造に用い、汎用炭素材及び高機能炭素材に利用できれば有用である。
本発明の目的は、褐炭に由来する褐炭合成油または褐炭合成油の溶剤不溶分を用いて、実用性のあるピッチを製造できるピッチの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、褐炭及び水を含む混合物を加圧下で水熱処理することで得られる褐炭合成油、または前記褐炭合成油の溶剤不溶分を原料とし、前記原料を、触媒の存在下で、加圧下で加熱し、前記原料をピッチ化する工程と、前記ピッチ化する工程で得られた反応生成物からピッチを分離する工程と、を有するピッチの製造方法が提供される。
【0010】
本発明の一態様に係るピッチの製造方法において、前記触媒は、ハロゲン含有化合物であることが好ましい。
【0011】
本発明の一態様に係るピッチの製造方法において、前記ハロゲン含有化合物は、ハロゲン含有有機化合物であり、前記ハロゲン含有有機化合物は、ポリ塩化ビニルであることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様に係るピッチの製造方法において、前記ハロゲン含有化合物は、ハロゲン含有無機化合物であり、前記ハロゲン含有無機化合物は、塩化アルミニウムであることが好ましい。
【0013】
本発明の一態様に係るピッチの製造方法において、前記原料が前記褐炭合成油である場合、前記触媒と前記褐炭合成油との混合比(前記触媒/前記褐炭合成油)は、質量比で、5/100以上20/100以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の一態様に係るピッチの製造方法において、前記原料が前記溶剤不溶分である場合、前記触媒と前記溶剤不溶分との混合比(前記触媒/前記溶剤不溶分)は、質量比で、5/100以上20/100以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の一態様に係るピッチの製造方法において、前記ピッチ化する工程は、第1の条件で行い、前記第1の条件は、0.2MPa以上1.5MPa以下、260℃以上450℃以下、及び20分以上4時間以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様に係るピッチの製造方法において、前記ピッチ化する工程は、前記第1の条件でピッチ化を行う1段目ピッチ化工程と、前記第1の条件よりも温度が低くかつ時間が長い第2の条件でピッチ化を行う2段目ピッチ化工程とを有することが好ましい。
【0017】
本発明の一態様に係るピッチの製造方法において、前記第2の条件は、0.2MPa以上1.5MPa以下、250℃以上350℃以下、及び1時間以上10時間以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の一態様に係るピッチの製造方法において、前記反応生成物から前記ピッチを分離する工程は、前記反応生成物を洗浄した後、洗浄された前記反応生成物を減圧蒸留することにより分離することが好ましい。
【0019】
本発明の一態様に係るピッチの製造方法において、前記ピッチを分離する工程で前記反応生成物から分離された前記ピッチを、さらに炭化する工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、褐炭に由来する褐炭合成油または褐炭合成油の溶剤不溶分を用いて、実用性のあるピッチを製造できるピッチの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態の製造方法を示すフローチャート。
図2】亜臨界水熱触媒反応プロセスの一例を示す図。
図3】A炭由来、B炭由来及びC炭由来の褐炭合成油の蒸留曲線を示すグラフ。
図4】A炭由来、B炭由来及びC炭由来の褐炭合成油の留分割合を示すグラフ。
図5】第2実施形態の製造方法を示すフローチャート。
図6】第3実施形態の製造方法を示すフローチャート。
図7A】実施例1のピッチの偏光顕微鏡写真(倍率100倍)。
図7B】実施例1のピッチの偏光顕微鏡写真(倍率400倍)。
図8A】実施例2のピッチの偏光顕微鏡写真(倍率100倍)。
図8B】実施例2のピッチの偏光顕微鏡写真(倍率400倍)。
図9A】実施例3のピッチの偏光顕微鏡写真(倍率200倍)。
図9B】実施例3のピッチの偏光顕微鏡写真(倍率500倍)。
図9C】実施例3のピッチの偏光顕微鏡写真(倍率1000倍)。
図10】実施例4のピッチの偏光顕微鏡写真(倍率400倍)。
図11】比較例1のピッチの偏光顕微鏡写真(倍率400倍)。
図12】ナフテン環数及び芳香環数の比(Rn/Ra)と芳香族指数faとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前に記載される数値を下限値とし、「~」の後に記載される数値を上限値として含む範囲を意味する。
【0023】
〔第1実施形態〕
本実施形態に係るピッチの製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」とも称する)は、褐炭合成油または「褐炭合成油の溶剤不溶分」を原料に用いてピッチを製造する方法である。
本明細書において、褐炭とは、無水無灰基準において、総発熱量が5,800kcal/kg以上7,300kcal/kg未満の石炭を意味する。なお、瀝青炭とは、無水無灰基準において、総発熱量が8,100kcal/kg以上8,400kcal/kg未満の石炭を意味する。亜瀝青炭とは、無水無灰基準において、総発熱量が7,300kcal/kg以上8,100kcal/kg未満の石炭を意味する。
本明細書において、「褐炭合成油」とは、褐炭に由来する合成油であって、具体的には、褐炭及び水を含む混合物を加圧下で水熱処理することで得られる合成油を意味する。この「褐炭及び水を含む混合物を加圧下で水熱処理する」というプロセスは、亜臨界水熱触媒反応プロセスとも呼ばれている。詳細は後述する。
本明細書において、「褐炭合成油の溶剤不溶分」とは、前記褐炭合成油を、溶剤に溶解させたときの不溶分を意味する。例えば、褐炭合成油を溶剤としてのヘキサンに溶解させたときのヘキサン不溶分は、ヘキサン全量に対し30質量%程度である、本実施形態の製造方法では、この30質量%程度のヘキサン不溶分が、原料としての「褐炭合成油の溶剤不溶分」に相当する。
【0024】
図1は、第1実施形態の製造方法を示すフローチャートである。
本実施形態の製造方法は、原料である「褐炭合成油」または「褐炭合成油の溶剤不溶分」を、触媒の存在下で、加圧下で加熱し、前記原料をピッチ化する工程ST1(以下、「ピッチ化工程ST1」とも称する)と、前記ピッチ化工程ST1で得られた反応生成物からピッチを分離する工程ST2(以下、「ピッチ分離工程ST2」とも称する)と、を有する。
【0025】
従来、ピッチの原料としては、石炭及びコールタールが用いられてきた。コールタールの原料である石炭は、前述の通り、主に、瀝青炭が利用されており、褐炭は、芳香族炭素割合が低い等の性状から、利用が困難とされていた。
本発明者らは、ピッチの原料として、特定のプロセス(亜臨界水熱触媒反応プロセス)で製造された褐炭由来の合成油(褐炭合成油)または「褐炭合成油の溶剤不溶分」を用い、この原料を触媒の存在下で、加圧下で加熱してピッチ化し、その後、反応生成物からピッチを分離する(好ましくは減圧蒸留で分離する)ことにより、実用性のあるピッチを製造できることを見い出した。さらに、原料をピッチ化する際に用いる触媒を選択することで、等方性ピッチと、メソフェーズピッチの両者を製造できることを見い出した。
本明細書において、「等方性ピッチ」とは、ピッチを炭化させることで得られる炭化物(以下、「ピッチ炭化物」とも称する)を偏光顕微鏡で観察した場合に、通常、光学的等方性組織のみしか出現させ得ないピッチを意味する。
本明細書において、「メソフェーズピッチ」とは、ピッチ炭化物を偏光顕微鏡で観察した場合に、光学的異方性組織を形成し得るピッチを意味する。偏光顕微鏡によるピッチ炭化物の観察方法は、実施例の項に記載する。
本実施形態の製造方法によれば、世界に多量に存在する未利用の褐炭を有効に利用して褐炭由来のピッチを製造することができる。
さらに本実施形態の製造方法によれば、等方性ピッチと、メソフェーズピッチの両者を製造できるので、製造されたピッチを、その構造に応じて汎用炭素材にも高機能炭素材にも適用することができると考えられる。
このような褐炭の利用は、未利用資源のノーブルユースの観点、及び将来のピッチ原料不足を解消する観点からも極めて有用である。
【0026】
始めに、原料である褐炭合成油及び「褐炭合成油の溶剤不溶分」について説明する。
【0027】
<褐炭合成油>
図2は、亜臨界水熱触媒反応プロセス(以下、「Cat-HTRプロセス」とも称する)の概要である。図2は、Cat-HTRプロセスの一例である。
図2に示すCat-HTRプロセスにおいては、まず、褐炭及び水を混合した褐炭水スラリーを、触媒の存在下で、240気圧、350℃で亜臨界水熱処理を行い、圧力を瞬時に大気圧まで降下させ、ガスを分離する(約15質量%、主体はCO)。得られた、反応物スラリーから水を分離し、更に450℃で蒸留すると、約60質量%の改質炭、及び約20質量%~30質量%の褐炭合成油が得られる。
通常、コークス炉から得られるコールタールの収率は、約7質量%~8質量%とされているが、このCat-HTRプロセスで得られる褐炭合成油の収率は、約20質量%~30質量%と高い。したがって、本実施形態の製造方法によれば、コールタールからピッチを製造する場合に比べ、褐炭を効率よく利用することができる。
なお、図2に示すCat-HTRプロセスにおいて、亜臨界水熱処理における圧力(240気圧)、温度(350℃)及び圧力を瞬時に降下させたときの圧力(大気圧)、並びに蒸留温度(450℃)はこれに限定されない。
【0028】
(褐炭合成油の性状)
褐炭合成油に含まれる芳香族炭化水素の割合は、通常、40質量%~60質量%である。褐炭合成油に含まれる脂肪族炭化水素の割合は、通常、40質量%~60質量%である。芳香族炭化水素及び脂肪族炭化水素の割合(質量%)は、公知の13C-NMR法により測定することができる。
褐炭合成油の元素分析値は、通常、炭素原子が82質量%~84質量%、水素原子が8質量%~10質量%、及び酸素原子が6質量%~8質量%である。元素分析値は、JIS M8813(2004)に基づき測定することができる。
褐炭合成油の沸点留分は、通常、170℃~620℃である。
【0029】
表1は、A炭(インドネシア産の褐炭)、B炭(インドネシア産の褐炭)及びC炭(インドネシア産の褐炭)を用いてCat-HTRプロセスで製造された褐炭合成油の各元素濃度である。
以下、A炭、B炭及びC炭を用いてCat-HTRプロセスで製造された褐炭合成油を「A炭由来の褐炭合成油」、「B炭由来の褐炭合成油」及び「C炭由来の褐炭合成油」と称することがある。
表2は、IFO(Intermediate Fuel Oil) RMG380(Residual Marine fuel oil の動粘度380mm/sグレード)の主な規格値、並びにA炭由来、B炭由来及びC炭由来の褐炭合成油の物性値である。
図3に、A炭由来、B炭由来及びC炭由来の褐炭合成油の蒸留曲線を示す。
図4に、A炭由来、B炭由来及びC炭由来の褐炭合成油の留分割合を示す。
【0030】
【表1】
【0031】
・表1の説明
<1は、1ppm未満であることを示す。
n/aは、分析していないことを示す。
【0032】
【表2】
【0033】
・表2の説明
<1は、1ppm未満であることを示す。
n/aは、分析していないことを示す。
【0034】
褐炭合成油は、亜臨界水熱触媒反応プロセスで得られたものであれば表1~2及び図3~4に示す性状に限定されない。
【0035】
<褐炭合成油の溶剤不溶分>
「褐炭合成油の溶剤不溶分」における溶剤としては、かかる溶剤への褐炭合成油の溶解により、溶剤不溶分が30質量%以上得られるものが好ましい。前記溶剤としては、例えば、ヘキサン、アセトン、及びベンゼン等が挙げられる。
【0036】
本実施形態の製造方法の各工程について説明する。
【0037】
<ピッチ化工程ST1>
ピッチ化工程ST1は、原料(褐炭合成油または褐炭合成油の溶剤不溶分)を、触媒の存在下で、加圧下で加熱し、原料をピッチ化する工程である。
ピッチ化工程ST1における圧力、温度、昇温速度、反応時間、及び原料の撹拌速度の好適な範囲は、原料のピッチ化を良好に進行させる観点から、以下の通りである。
【0038】
・圧力
ピッチ化工程ST1における圧力は、好ましくは0.2MPa以上1.5MPa以下、より好ましくは0.2MPa以上1.0MPa以下、さらに好ましくは0.4MPa以上0.8MPa以下である。
【0039】
・温度
ピッチ化工程ST1における温度は、好ましくは260℃以上450℃以下、より好ましくは260℃以上430℃以下、さらに好ましくは260℃以上420℃以下である。
【0040】
・昇温速度
昇温速度は、好ましくは5℃/分以上20℃/分以下、より好ましくは5℃/分以上10℃/分以下である。
【0041】
・反応時間
ピッチ化工程ST1における反応時間は、好ましくは20分以上4時間以下、より好ましくは20分以上2時間以下である。
【0042】
・原料の撹拌速度
ピッチ化工程ST1は、原料を撹拌しながら行うことが好ましい。
撹拌速度は、好ましくは300rpm以上1200rpm以下である。
【0043】
ピッチ化工程ST1は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等が挙げられる。不活性ガスは、1種のガスでも、2種以上を混合した混合ガスでもよい。不活性ガスとしては、窒素が好ましい。
【0044】
ピッチ化工程ST1は、原料のピッチ化をより良好に進行させる観点から、第1の条件で行うことが好ましい。前記第1の条件は、0.2MPa以上1.5MPa以下、260℃以上450℃以下、及び20分以上4時間以下である。
【0045】
(触媒)
触媒は、ハロゲン含有化合物であることが好ましい。ハロゲン含有化合物は、ハロゲン含有有機化合物及びハロゲン含有無機化合物に分類される。ハロゲン含有化合物におけるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。
ハロゲン含有有機化合物及びハロゲン含有無機化合物について、順に説明する。
【0046】
・ハロゲン含有有機化合物
ハロゲン含有有機化合物としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリスチレン、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-塩化エチレン共重合体、塩化ビニル-塩化プロピレン共重合体、塩化ビニル-スチレン共重合体、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
ハロゲン含有有機化合物としては、原料のピッチ化を促進する観点から、塩素含有有機化合物であることが好ましく、中でも、ポリ塩化ビニル(PVC)であることが好ましい。
ポリ塩化ビニルとしては特に限定されず、市販品であっても、公知の方法で製造したものであってもよい。ポリ塩化ビニルの純度は高い程好ましいが、触媒として機能する限り特に限定されない。
ポリ塩化ビニルの平均重合度は、1000以上1500以下程度であることが好ましい。すなわち、ポリ塩化ビニルの平均重量分子量は、7000以上1万程度が好ましい。
【0047】
原料が褐炭合成油であり、触媒がハロゲン含有有機化合物(好ましくはポリ塩化ビニル)の場合、触媒と褐炭合成油との混合比(前記触媒/前記褐炭合成油)は、褐炭合成油の重縮合改質効果を発現させる観点から大きい程よいが、質量比で、好ましくは5/100以上20/100以下、より好ましくは5/100以上10/100以下、さらに好ましくは8/100以上10/100以下である。
前記比(前記触媒/前記褐炭合成油)が、質量比で、5/100以上であると、褐炭合成油の重縮合改質効果が発現され易くなる。
前記比(前記触媒/前記褐炭合成油)が、質量比で、20/100以下であると、褐炭合成油の重縮合改質効果を良好に発現させ、かつコストを削減できる。
【0048】
原料が「褐炭合成油の溶剤不溶分」であり、触媒がハロゲン含有有機化合物(好ましくはポリ塩化ビニル)の場合、触媒と「褐炭合成油の溶剤不溶分」との混合比(前記触媒/前記褐炭合成油の溶剤不溶分)は、前記溶剤不溶分の重縮合改質効果を発現させる観点から大きい程よいが、質量比で、好ましくは5/100以上20/100以下、より好ましくは5/100以上10/100以下、さらに好ましくは8/100以上10/100以下である。
前記比(前記触媒/前記褐炭合成油の溶剤不溶分)が、質量比で、5/100以上であると、前記溶剤不溶分の重縮合改質効果が発現され易くなる。
前記比(前記触媒/前記褐炭合成油の溶剤不溶分)が、質量比で、20/100以下であると、前記溶剤不溶分の重縮合改質効果を良好に発現させ、かつコストを削減できる。
【0049】
触媒としてハロゲン含有有機化合物(好ましくポリ塩化ビニル)を用いると、製造されるピッチ炭化物の光学組織が、局所的にまたは全面的にモザイク状になり易い。なお、光学組織は、ピッチ炭化物を偏光顕微鏡で観察することにより確認できる。
ピッチ炭化物の光学組織は、モザイク構造、流れ構造及びドメイン構造を有する順に異方性が高い組織とされている。表3に、光学的異方性構造の分類例を示す。なお、表3に示す分類は、持田勲、松岡秀一、前田恵子他 第16回石炭科学会議・第46回燃料協会合同大会発表論文集(1979)200頁~206頁に基づく。
表3に示すように、モザイク構造及び流れ構造は、サイズに応じて、さらに分類される。モザイク構造は、超々微細モザイク、超微細モザイク、微細モザイク、中粒モザイク、粗粒モザイク及び超粗粒モザイクの順に異方性が高くなる。流れ構造は、粗粒流れ構造及び流れ構造の順に異方性が高くなる。
したがって、本実施形態の製造方法において、触媒としてハロゲン含有有機化合物(好ましくポリ塩化ビニル)を用いると、メソフェーズピッチが得られ易くなる。その結果、高機能炭素材に適用し得るピッチを製造することができる。
【0050】
【表3】
【0051】
・ハロゲン含有無機化合物
ハロゲン含有無機化合物としては、例えば、塩化アルミニウム(AlCl)、臭化アルミニウム(AlBr)、塩化チタン(TiCl)、塩化ジルコニウム(ZrCl)、フッ化アンチモン(SbF)、塩化鉄(FeCl)、塩化亜鉛(ZnCl)、フッ化ホウ素(BF)、塩化ホウ素(BCl)、ヨウ化アルミニウム(AlI)、塩化ガリウム(GaCl)、臭化ガリウム(GaBr)、塩化アンチモン(SbCl)、塩化スズ(SnCl)、臭化チタン(TiBr)、臭化亜鉛(ZnBr)、臭化スズ(SnBr)、臭化鉄(FeBr)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化チタン(TiF)、フッ化亜鉛(ZnF)、及びフッ化スズ(SnF)等が挙げられる。
ハロゲン含有無機化合物としては、原料のピッチ化を促進する観点から、塩素含有無機化合物であることが好ましく、中でも、塩化アルミニウム(AlCl)であることが好ましい。
塩化アルミニウムとしては特に限定されず、入手したものであっても、公知の方法で製造したものであってもよい。塩化アルミニウムの純度は高い程好ましいが、触媒として機能する限り特に限定されない。
【0052】
原料が褐炭合成油であり、触媒がハロゲン含有無機化合物(好ましくは塩化アルミニウム)の場合、触媒と褐炭合成油との混合比(前記触媒/前記褐炭合成油)は、褐炭合成油の重縮合改質効果を発現させる観点から大きい程よいが、質量比で、好ましくは5/100以上20/100以下、より好ましくは10/100以上20/100以下、さらに好ましくは10/100以上15/100以下である。
前記比(前記触媒/前記褐炭合成油)が、質量比で、5/100以上であると、褐炭合成油の重縮合改質効果が発現され易くなる。
前記比(前記触媒/前記褐炭合成油)が、質量比で、20/100以下であると、褐炭合成油の重縮合改質効果を良好に発現させ、かつコストを削減できる。
【0053】
原料が「褐炭合成油の溶剤不溶分」であり、触媒がハロゲン含有無機化合物(好ましくは塩化アルミニウム)の場合、触媒と「褐炭合成油の溶剤不溶分」との混合比(前記触媒/前記褐炭合成油の溶剤不溶分)は、前記溶剤不溶分の重縮合改質効果を発現させる観点から大きい程よいが、質量比で、好ましくは5/100以上20/100以下、より好ましくは10/100以上20/100以下、さらに好ましくは10/100以上15/100以下である。
前記比(前記触媒/前記褐炭合成油の溶剤不溶分)が、質量比で、5/100以上であると、前記溶剤不溶分の重縮合改質効果が発現され易くなる。
前記比(前記触媒/前記褐炭合成油の溶剤不溶分)が、質量比で、20/100以下であると、前記溶剤不溶分の重縮合改質効果を良好に発現させ、かつコストを削減できる。
【0054】
触媒としてハロゲン含有無機化合物(好ましくは塩化アルミニウム)を用いると、製造されるピッチ炭化物の光学組織が、等方性構造になり易くなる。
したがって、触媒としてハロゲン含有無機化合物(好ましくは塩化アルミニウム)を用いて製造されたピッチは、汎用炭素材への適用が期待される。
【0055】
<ピッチ分離工程ST2>
ピッチ分離工程ST2は、ピッチ化工程ST1で得られた反応生成物からピッチを分離する工程である。
ピッチを分離する方法としては特に限定されないが、例えば、減圧蒸留法、常圧蒸留法、溶媒抽出法、濾別、及び遠心分離法等が挙げられる。中でも、ピッチを分離する方法としては、減圧蒸留法が好ましい。
【0056】
ピッチを分離する方法が減圧蒸留法である場合、ピッチを分離し易くする観点から、減圧蒸留時の圧力は4Torr以上200Torr以下であることが好ましく、温度は150℃以上300℃以下であることが好ましく、昇温時間は60分以上180分以下であることが好ましい。
【0057】
ピッチ分離工程ST2は、ピッチ化工程ST1で得られた反応生成物を洗浄した後に、前記反応生成物からピッチを分離することが好ましい。
反応生成物の洗浄は、少なくとも水洗浄及び酸洗浄の一方を行うことが好ましく、水洗浄及び酸洗浄の両方を行うことがより好ましい。
【0058】
酸洗浄に用いる洗浄液としては特に限定されないが、酸、有機溶剤及び水の混合溶液であることが好ましい。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、及び硝酸等が挙げられる。これらは単独で用いても組み合わせて用いてもよい。
有機溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、脂肪族炭化水素(例えば、ペンタン及びヘキサン等)、芳香族炭化水素(例えば、トルエン及びキシレン等)、アルコール(例えば、エタノール等)及びアセトン等が挙げられる。これらは単独で用いても組み合わせて用いてもよい。酸、有機溶剤及び水の混合比率は適宜調整することが好ましい。酸洗浄の回数は1回でもよいし、複数回でもよい。
【0059】
水洗浄に用いる洗浄液としては特に限定されないが、アルコール、有機溶剤(ただしアルコール以外)及び水の混合溶液であることが好ましい。
有機溶剤としては、前記酸洗浄の項で列挙した有機溶剤と同様のものが挙げられる。アルコール、有機溶剤及び水の混合比率は適宜調整することが好ましい。水洗浄の回数は1回でもよいし、複数回でもよい。
【0060】
すなわち、ピッチ分離工程ST2は、ピッチ化工程ST1で得られた反応生成物を洗浄した後(より好ましくは水洗浄及び酸洗浄の両方を行った後)、洗浄された前記反応生成物を減圧蒸留することにより分離することが好ましい。
【0061】
〔ピッチの用途〕
本実施形態の製造方法で製造されたピッチは、例えば、汎用炭素材及び高性能炭素材に適用することができる。
本実施形態の製造方法では、等方性ピッチと、メソフェーズピッチの両者を製造することができる。
等方性ピッチは、その炭化物の柔軟性及び摺動性等の性質を活かし、汎用炭素材に好適に用いることができる。
汎用炭素材としては、例えば、電極等の粘結材(例えば、鉄鋼用バインダー等)、高密度等方性炭素、等方性炭素材、黒鉛及び耐熱材等が挙げられる。
メソフェーズピッチは、その炭化物の高弾性及び高伝導性等の性質を活かし、高性能炭素材に好適に用いることができる。
高性能炭素材としては、例えば、炭素電極(例えば、ニードルコークス等)及び炭素繊維原料(例えば、電極等の含浸材等)等が挙げられる。
後述する第2実施形態、第3実施形態及び他の実施形態で製造されたピッチも同様に、上記汎用炭素材及び上記高性能炭素材に適用することができる。
【0062】
〔第2実施形態〕
図5は、第2実施形態の製造方法を示すフローチャートである。
第2実施形態の製造方法は、第1実施形態に対し、ピッチ化工程を2段で実施する点が第1実施形態と異なる。すなわち、第2実施形態のピッチ化工程は、第1実施形態のピッチ化工程ST1の実施後、さらに2段目ピッチ化工程を実施する。その他の点については第1実施形態と同様であるので、その説明を省略または簡略化する。
第2実施形態の製造方法は、図5に示すように、所定の条件で、原料である褐炭合成油または「褐炭合成油の溶剤不溶分」をピッチ化する1段目ピッチ化工程ST11と、所定の条件でさらに原料をピッチ化する2段目ピッチ化工程ST12と、2段目ピッチ化工程で得られた反応生成物からピッチを分離する工程(ピッチ分離工程ST2)と、を有する。
【0063】
<1段目ピッチ化工程ST11>
1段目ピッチ化工程ST11は、第1実施形態のピッチ化工程ST1と同義であり、好ましい範囲も同様である。すなわち、1段目ピッチ化工程ST11の条件は、第1実施形態におけるピッチ化工程ST1における圧力、温度、昇温速度、反応時間、及び原料の撹拌速度と同様の範囲であることが好ましく、第1実施形態における第1の条件で行うことがより好ましい。
【0064】
<2段目ピッチ化工程ST12>
2段目ピッチ化工程ST12における圧力、温度、昇温速度、反応時間、及び原料の撹拌速度の好適な範囲は、原料のピッチ化をより良好に進行させる観点から、以下の通りである。
【0065】
・圧力
2段目ピッチ化工程ST12における圧力は、好ましくは0.2MPa以上1.5MPa以下、より好ましくは0.2MPa以上1.0MPa以下、さらに好ましくは0.4MPa以上0.8MPa以下である。
【0066】
・温度
2段目ピッチ化工程ST12における温度は、第1実施形態における第1の条件(260℃以上450℃以下)よりも低いことが好ましい。
具体的には、2段目ピッチ化工程ST12における温度は、好ましくは250℃以上350℃以下、より好ましくは250℃以上320℃以下、さらに好ましくは250℃以上300℃以下である。
【0067】
・昇温速度
前記温度に到達するまでの昇温速度は、好ましくは5℃/分以上20℃/分以下、より好ましくは5℃/分以上15℃/分以下である。
【0068】
・反応時間
2段目ピッチ化工程ST12における反応時間は、第1実施形態における第1の条件(20分以上4時間以下)よりも長いことが好ましい。
具体的には、2段目ピッチ化工程ST12における反応時間は、好ましくは30分以上10時間以下、より好ましくは30分以上5時間以下である。
【0069】
・原料の撹拌速度
2段目ピッチ化工程ST12は、原料を撹拌しながら行うことが好ましい。
撹拌速度は、好ましくは300rpm以上1200rpm以下である。
【0070】
2段目ピッチ化工程ST12は、第1実施形態のピッチ化工程ST1と同様に不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0071】
2段目ピッチ化工程ST12は、原料のピッチ化をより良好に進行させる観点から、第2の条件で行うことが好ましい。第2の条件は、0.2MPa以上1.5MPa以下、250℃以上350℃以下、及び1時間以上10時間以下である。
【0072】
すなわち、第2実施形態におけるピッチ化工程は、第1の条件(0.2MPa以上1.5MPa以下、260℃以上450℃以下、及び20分以上4時間以下)でピッチ化を行う1段目ピッチ化工程ST11と、第1の条件よりも温度が低くかつ時間が長い第2の条件(0.2MPa以上1.5MPa以下、250℃以上350℃以下、及び30分以上10時間以下)でピッチ化を行う2段目ピッチ化工程ST12とを有することが好ましい。
【0073】
〔第2実施形態の効果〕
第2実施形態の製造方法(ピッチ化工程を2段で行う方法)でピッチを製造すると、ピッチの収率、ピッチの炭化物収率(ピッチ基準)及びピッチの炭化物収率(原料基準)のいずれも増加させることができる。
また、第2実施形態の製造方法でピッチを製造すると、ピッチの芳香環数Raを増加させることができる。特に、触媒として、ハロゲン含有有機化合物であるポリ塩化ビニルを添加して製造したピッチは、芳香族指数fa(BL法)、芳香族指数fa(13C-NMR法)、芳香環数Ra、及びナフテン環数Rnをいずれも増加させるが、一方ナフテン環数及び芳香環数の比(Rn/Ra)は減少させることができるので、凡そfa>0.6(BL法)かつRn/Ra<0.8となるようなメソフェーズピッチが出現する調和のとれた比率になり易い。
したがって、第2実施形態の製造方法によれば、より実用性の高いピッチ及びピッチの炭化物を製造することができる。
【0074】
〔第3実施形態〕
図6は、第3実施形態の製造方法を示すフローチャートである。
第3実施形態の製造方法は、第2実施形態に対し、ピッチ分離工程ST2で分離されたピッチを、さらに炭化する工程(以下、「炭化工程ST3」とも称する)を有する点が第2実施形態と異なる。その他の点については第2実施形態と同様であるので、その説明を省略または簡略化する。
具体的には、第3実施形態の製造方法は、1段目ピッチ化工程ST11と、2段目ピッチ化工程ST12と、ピッチ分離工程ST2と、さらに炭化工程ST3とを有する。
【0075】
<炭化工程>
炭化工程ST3は、ピッチ分離工程ST2で分離されたピッチをさらに炭化する工程である。
炭化方法は特に限定されない。炭化方法としては、例えば、不活性ガス雰囲気下でピッチを加熱する方法が挙げられる。不活性ガスとしては、第1実施形態のピッチ化工程ST1の項で列挙した不活性ガスと同様のものが挙げられる。
【0076】
炭化を良好に進行させる観点から、炭化工程ST3における炭化温度は450℃以上650℃以下であることが好ましく、昇温速度は1℃/分以上5℃/分以下であることが好ましく、保持時間の好適な範囲は30分以上4時間以下であることが好ましい。
炭化装置としては、ピッチを低酸素雰囲気下(好ましくは不活性ガス雰囲気下)で炭化できる装置であれば特に限定されず、公知の炭化装置を用いることができる。
【0077】
〔第3実施形態の効果〕
第3実施形態によれば、原料をピッチ化する際に用いる触媒を選択することで、光学的等方性組織を有するピッチ炭化物、光学的異方性組織を有するピッチ炭化物、または光学的等方性組織及び光学的異方性組織の両者を有するピッチ炭化物を製造することができる。したがって、製造されたピッチ炭化物を、前述の等方性ピッチまたはメソフェーズピッチのそれぞれの利点を活かした用途に適用することができる。用途としては、例えば、第1実施形態の「ピッチの用途」で記載した用途が挙げられる。
【0078】
〔他の実施形態〕
本発明は、上述の実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変更、改良等は、本発明に含まれる。
例えば、第1実施形態において、ピッチ分離工程の後に、さらに炭化工程を実施してもよい。
例えば、第2実施形態及び第3実施形態において、ピッチ化工程を3段以上で行ってもよい。
【実施例
【0079】
以下、本発明に係る実施例を説明する。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。
【0080】
〔実施例1〕
原料として、図2に示す亜臨界水熱触媒反応プロセスで製造した褐炭合成油を用いた。この褐炭合成油は、表1~2及び図3~4に示す性状のA炭由来の褐炭合成油である。
触媒として、ポリ塩化ビニル(ナカライテスク社製、品番:36305-65、平均重合度:1020)を用いた。
【0081】
<ピッチ化工程(1段目ピッチ化工程)>
褐炭合成油100質量部に対し、PVC8質量部を添加した。褐炭合成油とPVCとの全量は50gである。
褐炭合成油とPVCとの混合物をオートクレーブに投入し、オートクレーブ内を反応雰囲気ガス(Nガス)で5回置換した後、系内を室温(25℃)で、初期圧0.4MPaで維持した。
次に、初期圧を維持しつつ、バンドヒーターを用いて混合物を10℃/分の昇温速度で390℃まで昇温し、1000rpmで撹拌しながら、390℃で1時間加熱し(第1の条件)、褐炭合成油をピッチ化した。
次に、バンドヒーターを外し、風冷にて反応生成物を急冷して系内を室温(25℃)まで戻し、ガス抜きを行った。
【0082】
次に、反応生成物を直接回収して定量した。また、テトラヒドロフラン(THF)を用いて、攪拌機等への付着物も回収して定量した。
【0083】
<ピッチ分離工程>
(酸洗浄)
水とTHFとの混合溶液(水:THF=1:1(質量比))を用いて、反応生成物の全量(攪拌機等への付着物を含む)をナスフラスコに回収した後、酸洗浄を行った。
具体的には、35質量%濃度の塩酸/水/THFの混合溶液A(質量比は、塩酸:水:THF=1:1:2~1:1:3)を準備し、反応生成物1質量部に対し混合溶液Aを10質量部混合し、超音波振とう後、エバポレーターで蒸留してTHFを除去した。その後、水溶液を除去し、水煮沸洗浄を3回行った。この水煮沸洗浄3回を1セットとし、これを2セット繰り返した。
【0084】
(水洗浄)
次に、酸洗浄後の反応生成物に対し、水洗浄を行った。具体的には、エタノール/水/THFの混合溶液B(質量比は、エタノール:水:THF=1:1:1)を準備し、酸洗浄後の反応生成物1質量部に対し混合溶液Bを10質量部混合し、超音波振とう後、エバポレーターで蒸留してTHFを除去した。その後、エタノール水溶液の煮沸洗浄を5回行った。
【0085】
(均一化処理)
水洗浄後の反応生成物を乾燥させた後、反応生成物をTHFに溶解させた。
【0086】
(減圧蒸留)
次に、圧力8Torr、温度220℃(昇温時間120分)で減圧蒸留を2時間行い、ピッチを留出した。以上のようにして、実施例1の褐炭由来のピッチを得た。
【0087】
<炭化工程>
留出したピッチから試料3gを採取し、以下の条件で炭化処理を行った。
以上のようにして、実施例1のピッチから、さらにピッチ炭化物を得た。
-条件-
・装置 :炭化装置(KRI社作製、電気加熱式横型炭化炉を備える炭化装置)
・昇温速度:1.5℃/分
・炭化温度:600℃
・保持時間:1時間
・雰囲気ガス:窒素(300mL/分)
【0088】
〔実施例2〕
実施例1に対し、1段目ピッチ化工程の後に、下記方法で2段目ピッチ化工程を行ったこと以外、実施例1と同様の方法で実施例2のピッチ及びピッチ炭化物を得た。
【0089】
<2段目ピッチ化工程>
1段目ピッチ化工程において、系内を室温(25℃)まで戻し、ガス抜きを行った後、系内を0.4MPaとした。1段目ピッチ化工程で得られた反応生成物を10℃/分の昇温速度で280℃まで再昇温し、1000rpmで撹拌しながら、280℃で4時間加熱し(第2条件)、反応生成物をさらにピッチ化した。
【0090】
〔実施例3〕
実施例2に対し、褐炭合成油に代えて、この「褐炭合成油の溶剤不溶分」を原料に用いたこと以外、実施例2と同様の方法で実施例3のピッチ及びピッチ炭化物を得た。なお、「褐炭合成油の溶剤不溶分」は、以下のようにして準備した。
【0091】
<褐炭合成油の溶剤不溶分>
褐炭合成油2.5gとヘキサン50mLとを混合し、得られた混合物をソックスレー抽出器に挿入し50℃で加温しながら約50回ヘキサンを還流させてヘキサン可溶分を抽出した。その後、円筒濾紙を用いてヘキサン不溶分を分別した。具体的には、円筒濾紙内に残った残渣物を100℃で乾燥しヘキサンを蒸留させた。このヘキサン蒸留後の残渣物をヘキサン不溶分(褐炭合成油の溶剤不溶分)とした。
【0092】
〔実施例4~6〕
実施例1に対し、PVC8.0質量部に代えて塩化アルミニウム(ナカライテスク社製、品番:01711-15、純度:98%)13.33質量部を用いたこと、並びに1段目ピッチ化工程の温度及び時間を表4に示す温度及び時間に変更したこと以外、実施例1と同様の方法で実施例4~6のピッチ及びピッチ炭化物を得た。
【0093】
〔実施例7〕
実施例2に対し、PVC8.0質量部に代えて塩化アルミニウム(AlCl)13.33質量部を用いたこと、1段目ピッチ化工程の温度及び時間を表4に示す温度及び時間に変更したこと、並びに2段目ピッチ化工程の温度を表4に示す温度に変更したこと以外、実施例2と同様の方法で実施例7のピッチ及びピッチ炭化物を得た。
【0094】
〔比較例1〕
実施例2に対し、触媒を添加しなかったこと以外、実施例2と同様の方法で比較例1のピッチ及びピッチ炭化物を得た。
【0095】
〔評価〕
<ピッチ収率及びピッチ炭化物収率>
ピッチ収率(Y)、ピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(Y)及びピッチ炭化物収率(原料基準)(Y)を以下の方法で算出した。
いずれの収率も灰分を除外して算出した。すなわち、ピッチ収率(Y)、ピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(Y)及びピッチ炭化物収率(原料基準)(Y)は、無灰ベースでの収率である。結果を表4に示す。
【0096】
〔灰分量の測定〕
原料、ピッチ及びピッチ炭化物に含まれる灰分量は以下の条件で測定した。乾燥質量基準の灰分量は、下記式(10)により算出した。
乾燥質量基準の灰分量[wt%]=Wash/Wdry×100…(10)
dry:120℃乾燥質量[g]
ash:燃焼灰質量[g]
-条件-
・装置:示差熱天秤TG-DTA(マックサイエンス社製)
・雰囲気:大気雰囲気、200mL/min
・120℃乾燥質量Wdryの温度条件
昇温速度:10℃/minで、室温(25℃)から120℃まで昇温
保持時間:120℃、20min
・燃焼灰質量Washの温度条件
昇温速度:10℃/minで、120℃から950℃まで昇温
【0097】
〔ピッチ収率(Y)〕
ピッチ収率(Y)は、式(1)により算出した。
(wt%)={W*(100-A)/100}/{W*(100-A)/100}…(1)
:原料の投入量(g)
:ピッチの収量(g)
:原料の灰分(wt%)
:ピッチの灰分(wt%)
【0098】
〔ピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(Y)〕
ピッチ炭化物収率(Y)は、式(2)により算出した。
(wt%)={Wc*(100-A)/100}/{W*(100-A)/100}…(2)
:炭化前のピッチの質量(g)
:ピッチ炭化物の質量(g)
:ピッチの灰分(wt%)
:ピッチ炭化物の灰分(wt%)
【0099】
〔ピッチ炭化物収率(原料基準)(Y)〕
ピッチ炭化物収率(Y)は、前記式(1)及び式(2)の結果から、式(3)により算出した。
(wt%)= Y×Y/100…(3)
:前記式(1)で算出したピッチ収率(wt%)
:前記式(2)で算出したピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(wt%)
【0100】
【表4】
【0101】
・表4の説明
実施例3のカッコ内の数字は、「褐炭合成油の溶剤不溶分」の質量を基準としたときの収率を示す。
【0102】
表4に示すように、褐炭合成油もしくは「褐炭合成油の溶剤不溶分」に、触媒(PVCもしくはAlCl)を添加して製造した実施例1~7のピッチ及びピッチ炭化物は、触媒を添加せずに製造した比較例1のピッチ及びピッチ炭化物に比べ、ピッチ収率(Y)、ピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(Y)及びピッチ炭化物収率(原料基準)(Y)が共に増加する傾向が見られた。
なお、比較例1は、ピッチ収率(Y)は高いが、ピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(Y)及びピッチ炭化物収率(原料基準)(Y)が共に低かった。比較例1は、触媒を添加しなかったことにより、褐炭合成油の重縮合改質が不十分だったためと考えられる。比較例1のピッチ及びピッチ炭化物は実用性を有さないと考えられる。
実施例1~7のピッチ及びピッチ炭化物によれば、触媒を添加したことによる重縮合改質効果が確認された。
また、実施例2と実施例1との比較、及び実施例7と実施例6との比較により、ピッチ化工程を2段で行うことにより、ピッチ収率(Y)、ピッチ炭化物収率(ピッチ基準)(Y)及びピッチ炭化物収率(原料基準)(Y)のいずれも増加できることがわかった。
【0103】
<ピッチの構造解析>
ピッチの芳香族指数fa、芳香環数(Ra)、ナフテン環数(Rn)、並びにナフテン環数及び芳香環数の比(Rn/Ra)を以下の方法で算出した。
ピッチの芳香族指数faは、13C-NMRにより直接求める方法と、H-NMRデータからブラウン・ラドナー法(以下、「BL法」とも称する)で解析する方法の2通りの方法で算出した。結果を表5に示す。
【0104】
(芳香族指数fa(13C-NMR法))
芳香族指数fa(13C-NMR法)は、熱キノリンにピッチ0.1gを全溶させ、13C-NMR(日本電子社製、ECX-400)にて、芳香族炭素の化学シフトに帰属するピークの積分値と、脂肪族の化学シフトに帰属するピークの積分値とを求め、これらの積分値に基づき算出した。
【0105】
(芳香族指数fa(BL法)、芳香環数Ra、ナフテン環数Rn、及び比Rn/Ra)
芳香族指数fa(BL法)は、THFとピリジンとの混合溶媒(1:1)に対するピッチ0.1gの可溶分を用いてH-NMR(ブルカー・ジャパン社製(品番:DRX500)にて得られた化学シフトピークより芳香族水素(Ha)並びにα位、β位及びγ位の脂肪族水素(Hα、Hβ及びHγ)を算定し、BL法の手法により算出した。
表5中の平均構造中の環数は、前記芳香族指数fa(BL法)と同様の方法で、前記芳香族水素(Ha)及び前記脂肪族水素(Hα、Hβ及びHγ)を算定し、さらに、元素分析値(JIS M8813(2004))およびゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(東ソー社製、HLC-8220型))に基づく分子量分布のデータを加えて、BL法により算出した。表5には、芳香環数(Ra)、ナフテン環数(Rn)、並びにナフテン環数及び芳香環数の比(Rn/Ra)を示した。
【0106】
(ナフテン環数及び芳香環数の比(Rn/Ra)と芳香族指数faとの関係)
図12は、ナフテン環数及び芳香環数の比(Rn/Ra)と芳香族指数faとの関係を示すグラフである。図12には、以下の3種の石油系ピッチ1~3のプロット、及びペリ型のfaの最大値曲線(理論値対Rn/Ra)も示した。図12中、石油系ピッチ1~3の芳香族指数faはBL法で解析した値である。
・石油系ピッチ1(図12中、A240)…米国アシュランド社製、240℃蒸留残渣
・石油系ピッチ2(図12中、Yピッチ)…国内コーキングプロセスで得られたピッチ
・石油系ピッチ3(図12中、水素化Yピッチ)…石油系ピッチ2を水素化したピッチ
【0107】
【表5】
【0108】
-表5の説明-
「>7.0(推定)」は、芳香環数Raが、推定で7.0超えであることを示す。
「-」は算出していないことを示す。
【0109】
表5及び図12より、実施例1~7のピッチは、比較例1のピッチに比べ、13C-NMRから算出した芳香族指数faが高い値を示した。
中でも、実施例1~3及び実施例6~7のピッチは、13C-NMR法にて算出した芳香族指数faが0.73以上であった。
図12に示すように、実施例1~3及び実施例6~7のピッチと、石油系ピッチ1~3とを、BL法で得られた芳香族指数faを用いて比較すると、実施例2のピッチ(図12中、P2-P)は、石油系ピッチ2~3(図12中、Yピッチ及び水素化Yピッチ)と近い値であった。
【0110】
<ピッチ炭化物の光学組織>
ピッチ炭化物を偏光顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社製、DM2700P)を用いて以下の方法で観察した。
各例で得られたピッチ炭化物から試料0.5gを採取した。この試料を樹脂で包含して樹脂を研磨し、顕微鏡観察用試料を作製した。
偏光顕微鏡をクロスニコルの状態とし、石英検板を入れて顕微鏡観察用試料を観察した。
【0111】
図7A~7Bは、実施例1のピッチ炭化物の偏光顕微鏡写真である(倍率100倍及び400倍)。褐炭合成油に触媒としてPVCを添加して製造した実施例1のピッチ炭化物は、等方性組織とモザイク状の構造を有する異方性組織とが混在していた。なお、実施例1のピッチ炭化物は、等方性組織の方が異方性組織よりもやや多かった。
図8A~8Bは、実施例2のピッチ炭化物の偏光顕微鏡写真である(倍率100倍及び400倍)。褐炭合成油に触媒としてPVCを添加して製造した実施例2のピッチ炭化物は、全面が中粒モザイク状の構造を有しており、異方性組織であった。
図9A~9Cは、実施例3のピッチ炭化物の偏光顕微鏡写真である(倍率200倍、500倍及び1000倍)。「褐炭合成油の溶剤不溶分」に触媒としてPVCを添加して製造した実施例3のピッチ炭化物は、ほぼ全面が微細および中粒モザイク状の異方性組織を有していた。
【0112】
図10は、実施例4のピッチ炭化物の偏光顕微鏡写真である(倍率400倍)。褐炭合成油に触媒としてAlClを添加して製造した実施例4のピッチ炭化物は、全面が等方性組織であった。
また、褐炭合成油に触媒としてAlClを添加して製造した実施例5~7のピッチ炭化物についても偏光顕微鏡にて観察した。その結果、実施例5~7のピッチ炭化物は、いずれも等方性組織であった。
【0113】
図11は、比較例1のピッチ炭化物の偏光顕微鏡写真である(倍率400倍)。
褐炭合成油に触媒を添加せずに製造した比較例1のピッチ炭化物は、等方性組織であった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の製造方法は、褐炭に由来する褐炭合成油または「褐炭合成油の溶剤不溶分」を用いてピッチを製造できるので、世界に多量に存在し、かつ未利用とされることが多い褐炭を有効に利用することができる。製造されたピッチは、汎用炭素材及び高機能炭素材の両方に適用し得るので、本発明の製造方法は、産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0115】
ST1…ピッチ化工程、ST11…1段目ピッチ化工程、ST12…2段目ピッチ化工程、ST2…ピッチ分離工程、ST3…炭化工程。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12