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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】温度制御装置及び加熱制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 23/00 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
G05D23/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022009240
(22)【出願日】2022-01-25
(62)【分割の表示】P 2017134041の分割
【原出願日】2017-07-07
(65)【公開番号】P2022044705
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000146054
【氏名又は名称】株式会社松井製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000185868
【氏名又は名称】タクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】久田松 潤
(72)【発明者】
【氏名】黒田 静男
(72)【発明者】
【氏名】古城 文史雄
【審査官】山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-193160(JP,A)
【文献】特開平04-262005(JP,A)
【文献】特開2009-202482(JP,A)
【文献】特開2017-087441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱用媒体としての蒸気を供給する送媒管路が入口側に接続され、流出する媒体を排出し、排出弁が介装された管路が出口側に接続される媒体流路を有する対象物の温度を制御する温度制御装置であって、
前記対象物の温度を所定の間隔で取得する温度取得部と
前記対象物に蒸気を供給して加熱した状態で、前記温度取得部で取得した温度に基づいて前記対象物の所定の間隔毎の昇温速度を算出する昇温速度算出部と、
所定の閾値を設定する閾値設定部と、
前記昇温速度算出部で算出した昇温速度に基づいて、前記排出弁の開閉を制御する制御部と、
を備え、
前記昇温速度算出部は、
前記対象物の温度が該対象物の設定温度よりも低い第1温度のときの第1昇温速度を算出し、
前記閾値設定部は、
前記加熱用媒体の温度に応じて予め定められた、前記対象物の温度と昇温速度の変化率との関係から算出される前記設定温度のときの昇温速度の変化率と、前記第1昇温速度と、に基づいて算出される前記設定温度のときの昇温速度を、前記閾値として設定し、
前記制御部は、
前記昇温速度算出部で算出した昇温速度が前記閾値よりも小さい場合、前記排出弁を所要時間の間、開にする温度制御装置。
【請求項2】
前記加熱用媒体の圧力を取得する圧力取得部と、
前記加熱用媒体の温度に基づく飽和圧力及び前記圧力取得部で取得した圧力に応じて重み付け係数を算出する係数算出部と、
を備え、
前記閾値設定部は、
前記係数算出部で算出した係数に応じて前記閾値を設定する請求項に記載の温度制御装置。
【請求項3】
前記対象物の設定温度と前記昇温速度を算出したときの前記対象物の温度との差に応じて前記排出弁を開の状態にする所要時間を算出する所要時間算出部を備え、
前記制御部は、
前記所要時間算出部で算出した所要時間の間、前記排出弁を開にする請求項1又は請求項2に記載の温度制御装置。
【請求項4】
加熱用媒体としての蒸気を供給する送媒管路が入口側に接続され、流出する媒体を排出し、排出弁が介装された管路が出口側に接続される媒体流路を有する対象物の温度を、コンピュータに制御させるためのコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記対象物の温度を所定の間隔で取得する処理と、
前記対象物に蒸気を供給して加熱した状態で、取得した温度に基づいて前記対象物の所定の間隔毎の昇温速度を算出する処理と、
前記対象物の温度が該対象物の設定温度よりも低い第1温度のときの第1昇温速度を算出する処理と、
前記加熱用媒体の温度に応じて予め定められた、前記対象物の温度と昇温速度の変化率との関係から算出される前記設定温度のときの昇温速度の変化率と、前記第1昇温速度と、に基づいて算出される前記設定温度のときの昇温速度を閾値として設定する処理と、
前記所定の間隔毎の昇温速度を算出する処理において算出した昇温速度が前記閾値よりも小さい場合、前記排出弁を所要時間の間、開にする処理と、
を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項5】
加熱用媒体としての蒸気を供給する送媒管路が入口側に接続され、流出する媒体を排出し、排出弁が介装された管路が出口側に接続される媒体流路を有する対象物の温度を制御する温度制御装置による加熱制御方法であって、
前記対象物の温度を温度取得部が所定の間隔で取得し、
前記対象物に蒸気を供給して加熱した状態で、取得された温度に基づいて前記対象物の所定の間隔毎の昇温速度を昇温速度算出部が算出し、
前記対象物の温度が該対象物の設定温度よりも低い第1温度のときの第1昇温速度を前記昇温速度算出部が算出し、
前記加熱用媒体の温度に応じて予め定められた、前記対象物の温度と昇温速度の変化率との関係から算出される前記設定温度のときの昇温速度の変化率と、前記第1昇温速度と、に基づいて算出される前記設定温度のときの昇温速度を閾値として閾値設定部が設定し、
算出された昇温速度に基づいて、前記排出弁の開閉を制御する制御部が、前記昇温速度算出部で算出した昇温速度が前記閾値よりも小さい場合、前記排出弁を所要時間の間、開にする加熱制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度制御装置及び加熱制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック等の合成樹脂を用いて成型品を射出成形する射出成形機には金型が使用されている。射出成形の金型は、溶融したプラスチックが充填される空間部分であるキャビティ、溶融したプラスチックを冷却固化するための媒体を流す流路を有する。金型の温度を正確に所要の温度に維持することは、成型品の精度を高めるために重要なことであり、金型温度調節機が用いられている。
【0003】
このような金型温度調節機では、金型に対する加熱と冷却とが交互に繰り返される。加熱の際に用いられる蒸気が有する熱エネルギーが金型に移動した結果、蒸気が水に相変化し、ドレンが発生する。かかるドレンは排出弁を介して排出される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-200431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、金型内の媒体流路に溜まるドレンの量が増加すると金型の温度が設定温度に到達する時間が遅くなる事態が生じる。また、溜まったドレンの量によっては、設定温度に到達せずに温度が低下するおそれもある。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、設定温度に到達する時間の遅延を防止して、サイクルタイムを短縮することができる温度制御装置及び加熱制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る温度制御装置は、加熱用媒体としての蒸気を供給する送媒管路が入口側に接続され、流出する媒体を排出し、排出弁が介装された管路が出口側に接続される媒体流路を有する対象物の温度を制御する温度制御装置であって、前記対象物の温度を所定の間隔で取得する温度取得部と前記対象物に蒸気を供給して加熱した状態で、前記温度取得部で取得した温度に基づいて前記対象物の所定の間隔毎の昇温速度を算出する昇温速度算出部と、所定の閾値を設定する閾値設定部と、前記昇温速度算出部で算出した昇温速度に基づいて、前記排出弁の開閉を制御する制御部と、を備え、前記昇温速度算出部は、前記対象物の温度が該対象物の設定温度よりも低い第1温度のときの第1昇温速度を算出し、前記閾値設定部は、前記加熱用媒体の温度に応じて予め定められた、前記対象物の温度と昇温速度の変化率との関係から算出される前記設定温度のときの昇温速度の変化率と、前記第1昇温速度と、に基づいて算出される前記設定温度のときの昇温速度を、前記閾値として設定し、前記制御部は、前記昇温速度算出部で算出した昇温速度が前記閾値よりも小さい場合、前記排出弁を所要時間の間、開にする
【0008】
本発明に係るコンピュータプログラムは、加熱用媒体としての蒸気を供給する送媒管路が入口側に接続され、流出する媒体を排出し、排出弁が介装された管路が出口側に接続される媒体流路を有する対象物の温度を、コンピュータに制御させるためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータに、前記対象物の温度を所定の間隔で取得する処理と、前記対象物に蒸気を供給して加熱した状態で、取得した温度に基づいて前記対象物の所定の間隔毎の昇温速度を算出する処理と、前記対象物の温度が該対象物の設定温度よりも低い第1温度のときの第1昇温速度を算出する処理と、前記加熱用媒体の温度に応じて予め定められた、前記対象物の温度と昇温速度の変化率との関係から算出される前記設定温度のときの昇温速度の変化率と、前記第1昇温速度と、に基づいて算出される前記設定温度のときの昇温速度を閾値として設定する処理と、前記所定の間隔毎の昇温速度を算出する処理において算出した昇温速度が前記閾値よりも小さい場合、前記排出弁を所要時間の間、開にする処理と、を実行させる。
【0009】
本発明に係る加熱制御方法は、加熱用媒体としての蒸気を供給する送媒管路が入口側に接続され、流出する媒体を排出し、排出弁が介装された管路が出口側に接続される媒体流路を有する対象物の温度を制御する温度制御装置による加熱制御方法であって、前記対象物の温度を温度取得部が所定の間隔で取得し、前記対象物に蒸気を供給して加熱した状態で、取得された温度に基づいて前記対象物の所定の間隔毎の昇温速度を昇温速度算出部が算出し、前記対象物の温度が該対象物の設定温度よりも低い第1温度のときの第1昇温速度を前記昇温速度算出部が算出し、前記加熱用媒体の温度に応じて予め定められた、前記対象物の温度と昇温速度の変化率との関係から算出される前記設定温度のときの昇温速度の変化率と、前記第1昇温速度と、に基づいて算出される前記設定温度のときの昇温速度を閾値として閾値設定部が設定し、算出された昇温速度に基づいて、前記排出弁の開閉を制御する制御部が、前記昇温速度算出部で算出した昇温速度が前記閾値よりも小さい場合、前記排出弁を所要時間の間、開にする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、設定温度に到達する時間の遅延を防止できるため、サイクルタイムを短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態の温度制御装置としての金型温度調節機の構成の一例を示す説明図である。
図2】本実施の形態の金型温度調節機による金型の温度調節の一例を示す模式図である。
図3】本実施の形態の金型温度調節機50による昇温速度の算出の一例を示す説明図である。
図4】金型温度の推移の一例を示す模式図である。
図5】金型の昇温特性の一例を示す模式図である。
図6】金型の温度と昇温速度の変化率との関係を示す模式図である。
図7】本実施の形態の金型温度調節機による閾値設定するための昇温速度の算出例を示す説明図である。
図8】本実施の形態の金型温度調節機による閾値設定するための設定温度のときの昇温速度の変化率の算出方法の一例を示す模式図である。
図9】本実施の形態の金型温度調節機による加熱制御時の金型の温度の推移の一例を示す模式図である。
図10】本実施の形態の金型温度調節機による加熱制御の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本実施の形態の温度制御装置としての金型温度調節機50の構成の一例を示す説明図である。本実施の形態では、温度制御装置として金型温度調節機50を例に挙げて説明するが、温度制御装置は金型温度調節機に限定されるものではない。金型温度調節機50は、対象物としての金型200の温度を調節(制御)する。なお、以下では、対象物として金型200を例に挙げて説明するが、対象物は金型200に限定されるものではない。
【0013】
金型200の入口側には管路11(送媒管路)が接続されている。管路11に介装された加熱弁としての加熱電磁弁21を通じて蒸気(加熱用媒体)を金型200へ供給することができ、管路11に介装された電磁弁22を通じて圧縮空気(コンプレッサエア)を金型200へ供給することができ、また、管路11に介装された冷却電磁弁23を通じて冷却水(冷却媒体)を金型200へ供給することができるようになっている。なお、以下では、加熱用媒体として蒸気を用いる例について説明する。
【0014】
管路11は、途中で2系統に分岐してあり、分岐した管路11それぞれが金型200の入口側に接続されている。分岐した管路11それぞれには、送媒バルブ25を介装してある。また、管路11の所定箇所には、蒸気の圧力を検出するための圧力センサ32を設けている。
【0015】
金型200の出口側には管路12(返媒管路)が接続されている。管路12に介装された排出弁としての排水電磁弁24を通じて媒体(例えば、水又はエア)を排出することができるようになっている。
【0016】
管路12は、途中で2系統に分岐してあり、分岐した管路12それぞれが金型200の出口側に接続されている。分岐した管路12それぞれには、返媒バルブ26を介装してある。
【0017】
金型200の所定箇所には、金型の温度を検出するための温度センサ31が設けられている。
【0018】
金型温度調節機50は、制御部51、温度取得部52、昇温速度算出部53、閾値設定部54、記憶部55、圧力取得部56、係数算出部57、所要時間算出部58などを備える。
【0019】
制御部51は、加熱電磁弁21、電磁弁22、冷却電磁弁23、排水電磁弁24それぞれの開閉(例えば、開閉タイミング、開状態の開時間、閉状態の閉時間など)を制御する。
【0020】
図2は本実施の形態の金型温度調節機50による金型200の温度調節の一例を示す模式図である。図中、横軸は時間を示し、図中の曲線は金型200の温度を示す。なお、図中の金型200の温度は模式的に示すものであり、実際の温度とは異なる場合がある。
【0021】
金型200の温度が加熱開始温度(例えば、20℃など)のときに、制御部51は、時点t1において加熱制御を開始する。具体的には、加熱電磁弁21及び排水電磁弁24を開き、電磁弁22及び冷却電磁弁23を閉じ、蒸気を金型200へ投入(供給)し、金型200を加熱する。排水電磁弁24を開くのは、加熱当初は、比較的多くのドレンが発生するので、ドレンを排出するためである。
【0022】
時点t2において、制御部51は、排水電磁弁24を閉じる。排水電磁弁24を閉じるのは、金型200内の媒体流路、管路11、12内の圧力を加熱媒体である蒸気の圧力まで上昇させる(近づける)ためである。このとき、圧力上昇に伴って金型200の温度も上昇し、加熱される。
【0023】
金型200の温度が設定温度(例えば、120℃など)に到達すると、時点t3において射出が開始され、溶融したプラスチックが金型200に充填される。
【0024】
時点t4において、制御部51は、加熱電磁弁21を閉じ、電磁弁22及び排水電磁弁24を開き、圧縮空気を金型200に供給することにより、金型200内に残った蒸気を排出する。
【0025】
時点t5において、制御部51は、電磁弁22を閉じ、冷却電磁弁23を開くことにより、冷却制御を開始する。これによって、金型200の温度は低下する。
【0026】
時点t6において、制御部51は、冷却電磁弁23を閉じ、時点t7において、電磁弁22を開くことにより、圧縮空気を金型200に供給する。これにより、金型200内に残った水を排出する。
【0027】
時点t8において、金型200から成型品を取り出し、射出成形サイクルが終了する。また、成型品を取り出すタイミングは、時点t8(例えば、時点t7において圧縮空気を金型200に供給した後など)に限られず、金型200が所定の温度まで冷却された後、すなわち、時点t6で冷却電磁弁23を閉じた後、時点t7で圧縮空気を金型200に供給する前でもよい。このとき、時点t7の圧縮空気の供給で射出成形サイクルの終了となる。
【0028】
温度取得部52は、金型200の温度を取得する。金型200内部に設けられた温度センサ31が出力する信号を取得することにより、温度取得部52は、金型200の温度を取得することができる。
【0029】
昇温速度算出部53は、金型200に蒸気を供給して加熱した状態(例えば、加熱電磁弁21を開とし、排水電磁弁24を閉とした状態)で、温度取得部52で取得した温度に基づいて金型200の昇温速度を算出する。
【0030】
図3は本実施の形態の金型温度調節機50による昇温速度の算出の一例を示す説明図である。図中、横軸は時間を示し、縦軸は金型200の温度を示す。金型200の加熱開始直前の温度をT0とする。温度取得部52は、所定の間隔Δt(例えば、1秒など)で金型200の温度を取得する。図6に示すように、加熱開始後、時点tのときの金型200の温度をTとし、時点tよりもΔt前の時点(t-Δt)のときの金型200の温度をT′とすると、時点tのときの昇温速度は、[(T-T′)/Δt]で求めることができる。なお、所定の間隔Δは、1秒に限定されない。
【0031】
制御部51は、昇温速度算出部53で算出した昇温速度に基づいて、排水電磁弁24の開閉を制御する。金型200の温度を設定温度まで上昇させる加熱制御の途中で、算出した昇温速度に基づいて排水電磁弁24を閉から開にする制御を設けることにより、金型200内の媒体流路及び管路12に溜まったドレンを排出することができ、溜まったドレンによって金型200の温度が設定温度に到達するまでの時間が遅くなる事態を防止することができる。
【0032】
図4は金型温度の推移の一例を示す模式図である。図中、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示す。図中、実線で示す曲線は金型200内の媒体流路及び管路12に溜まったドレンが少ない場合の金型の温度の推移を表し、破線で示す曲線は金型200に溜まったドレンが多い場合の金型の温度の推移を表す。なお、図中の金型の温度の推移は模式的に表すものであり、実際の温度の推移とは異なる場合もある。図4に示すように、金型200の媒体流路及び管路12に溜まったドレンが多い場合には、金型200の温度は設定温度に到達しないこと、あるいは設定温度に到達するまでの時間が、金型200の媒体流路及び管路12に溜まったドレンが少ない場合よりも長くなることがある。また、金型200の媒体流路及び管路12に溜まったドレンが多い場合、金型200の媒体流路及び管路12に溜まったドレンが少ない場合よりも、昇温速度が小さくなることが分かる。
【0033】
制御部51は、昇温速度算出部53で算出した昇温速度が所定の閾値Xより小さい場合、排水電磁弁24を所要時間の間だけ開にする。所定の閾値Xは、例えば、金型200の設定温度のときの昇温速度とすることができる。金型200の温度が設定温度よりも低い場合において、金型200内の媒体流路及び管路12にドレンが溜まっていないとき、あるいは溜まったドレンの量が無視することができる程度のときには、昇温速度は、設定温度のときの昇温速度(すなわち、所定の閾値X)以下となることはない。従って、昇温速度算出部53で算出した昇温速度が所定の閾値Xよりも小さい場合には、金型200内の媒体流路及び管路12にドレンが溜まっていると判定することができる。
【0034】
昇温速度が所定の閾値Xより小さい場合、排水電磁弁24を所要時間の間、開にする。これにより、金型200内の媒体流路及び管路12に溜まったドレンを排出することができ、金型200の温度が設定温度に到達する時間が遅くなる事態を防止することができる。また、排水電磁弁24を所要時間の間だけ開にすることにより、蒸気の圧力の低下を抑制することができる。
【0035】
次に、上述の閾値Xの設定方法について説明する。
【0036】
図5は金型200の昇温特性の一例を示す模式図である。図中、横軸は時間を示し、縦軸は金型の温度を示す。図5では、金型の種類として、小型、中型、大型に分けて、各金型の昇温特性を表している。小型、中型、大型の別は、例えば、金型の大きさに応じて区分することができる。図5に示す昇温特性は、例えば、実測値をプロットして得ることができ、あるいはシミュレーションで計算して得ることもできる。金型が小型の場合、加熱開始温度(例えば、20℃など)から設定温度(例えば、120℃など)に到達するまでの時間が、金型が大型である場合に比べて短いことが分かる。図5中の各曲線において、任意の温度における曲線の傾きが、昇温速度を表す。
【0037】
図6は金型200の温度と昇温速度の変化率との関係を示す模式図である。図中、横軸は温度を示し、縦軸は昇温速度の変化率を示す。加熱開始温度T0を、例えば、20℃とし、設定温度Tsを120℃とすると、設定温度120℃における上昇温度(Ts-T0)は100℃(=120-20)となる。
【0038】
金型200の温度と昇温速度の変化率との関係は、金型200の上昇温度毎に昇温速度の変化率をプロットしたものであり、予め実測値又はシミュレーション結果等によって定めることができる。また、金型200の温度と昇温速度の変化率との関係は、ドレンの存在による影響がない又は無視することができる状態を前提とすることができる。金型200の上昇温度毎に昇温速度の変化率をプロットした点を繋ぐと、金型200の温度と昇温速度の変化率との関係は、上昇温度の増加とともに変化率が低下し、例えば、直線状又は曲線状で表すことができる。また、当該関係が曲線で表される場合には、1又は複数の線分で近似することもできる。
【0039】
図6中、Tv1、Tv2は、蒸気温度であり、例えば、蒸気温度がTv1のときは、金型200の温度と昇温速度の変化率との関係は実線で表すことができ、蒸気温度がTv2(Tv2>Tv1)のときは、金型200の温度と昇温速度の変化率との関係は破線で表すことができる。
【0040】
図7は本実施の形態の金型温度調節機50による閾値設定するための昇温速度の算出例を示す説明図である。図中、横軸は時間を示し、縦軸は金型200の温度を示し、実線で示す曲線は、金型200の昇温特性を示す。
【0041】
図7に示すように、金型200の加熱開始直前の温度をT0とし、加熱開始後、時間taが経過したときの金型200の温度をT1(曲線上符号Aで示す)とする。
【0042】
温度T1のときの昇温速度(第1昇温速度)は、[(T1-T0)/ta]で表すことができ、曲線の点Aにおける接線の傾きとなる。なお、時間ta又は温度T1は、固定値である必要はなく、適宜設定することができる。すなわち、第1昇温速度を算出する際の温度T1は適宜設定することができる。
【0043】
閾値設定部54は、金型200の温度と昇温速度の変化率との関係における設定温度のときの変化率及び第1昇温速度に基づいて閾値Xを設定する。第1昇温速度は、上述の温度T1のときの昇温速度とすることができる。
【0044】
図8は本実施の形態の金型温度調節機50による閾値設定するための設定温度のときの昇温速度の変化率の算出方法の一例を示す模式図である。図中、横軸は温度を示し、縦軸は昇温速度の変化率を示す。加熱開始直前の金型200の温度をT0とし、金型200の温度が設定温度Tsのときの昇温速度の変化率をRsとする。なお、図8に示す関係は、予め記憶部55に記憶しておいてもよく、あるいは、演算で求めるようにしてもよい。
【0045】
図8に示すように、金型200の昇温速度の変化率を直線で表すことができるとした場合、蒸気温度Tvと、加熱開始直前の金型200の温度T0から、変化率の傾きは、[-1/(Tv-T0)]となる。また、設定温度Tsのときの昇温速度の変化率Rsは、[1-{(Ts-T0)/(Tv-T0)}]で求めることができ、設定温度Tsのときの昇温速度は、[Rs×(T1-T0)/ta]となる。(図7中符号B)
【0046】
閾値設定部54は、設定温度Tsのときの昇温速度[Rs×(T1-T0)/ta]を所定の閾値Xとして設定する。
【0047】
これにより、第1温度としての温度T1のときの昇温速度[(T1-T0)/ta]を算出することにより、昇温速度の所定の閾値Xを自動的に設定することができ、金型200の温度が設定温度に到達する時間が遅くなる事態を防止することができる。
【0048】
上述のように、時点taにおいて、第1昇温速度を算出するとともに、設定温度のときの閾値Xを設定する。時点taの後、昇温速度算出部53は、所定の間隔Δtで取得された金型200の温度に基づいて、昇温速度を算出する。制御部51は、昇温速度算出部53で算出した昇温速度が所定の閾値Xより小さいか否かを判定する。なお、昇温速度の算出周期は、所定の間隔Δtでもよく、間隔Δtよりも長い間隔でもよい。
【0049】
図9は本実施の形態の金型温度調節機50による加熱制御時の金型200の温度の推移の一例を示す模式図である。金型200の温度がT0の状態から加熱を開始し、時間t12が経過した時点での金型200の温度がT12とし、温度T12のときの昇温速度が閾値Xよりも小さい場合、排水電磁弁24(排出弁)を所要時間の間だけ開にするので、金型200内の媒体流路及び管路12に溜まったドレンが蒸気によって排水電磁弁24から排出される。これによって、ドレンが除去されるので、金型200の昇温速度が大きくなり、設定温度に到達するまでの時間が遅くなることを防止することができる。なお、排水電磁弁24を所要時間の間だけ開にしてドレンを排出する動作は、再度、金型200の昇温速度を算出して、必要であれば繰り返すこともできる。
【0050】
また、前述のように、第1温度としての温度T1のときの第1昇温速度を算出することにより、閾値Xを自動的に設定することができ、金型200の温度が設定温度に到達する時間が遅くなる事態を防止することができる。
【0051】
また、閾値設定部54は、蒸気の温度に応じて閾値Xを設定することができる。蒸気の温度が異なると、図6で示したように、金型200の温度と昇温速度の変化率との関係における変化率の傾きも異なる。すなわち、当該変化率の傾きに応じて閾値Xを変更することができ、蒸気の温度に応じて最適な閾値Xを設定することができる。
【0052】
圧力取得部56は、蒸気の圧力を取得する。圧力取得部56は、例えば、圧力センサ32が出力する信号を取得することにより、蒸気の圧力を取得することができる。
【0053】
係数算出部57は、蒸気の温度に基づく飽和圧力と圧力取得部56で取得した圧力との差に応じて重み付け係数を算出する。例えば、蒸気温度から飽和圧力を算出し、実際の蒸気圧力と比較し、算出した飽和圧力が実際の蒸気圧力より小さい場合、蒸気が湿っているためドレンが溜まりやすいと考えられる。
【0054】
閾値設定部54は、係数算出部57で算出した係数(重み付け係数)に応じて閾値Xを設定する。例えば、算出した飽和圧力が実際の蒸気圧力よりも小さいときは、閾値を大きくするような重み付け係数を閾値に乗算し、また算出した飽和蒸気圧が実際の蒸気圧力よりも大きいときは、閾値を小さくするような重み付け係数を閾値に乗算することにより、蒸気の状態も考慮したより適切な閾値Xに変更することができる。重み付け係数は、算出した飽和圧力と実際の蒸気圧力の差に応じて演算で求めてもよいし、あらかじめ設定した一定の値としてもよい。なお、重み付け係数を一定とする場合には、係数算出部57を具備しなくてもよい。
【0055】
所要時間算出部58は、金型200の設定温度と、昇温速度を算出したときの金型200の温度との差に応じて排水電磁弁24を開の状態にする所要時間を算出する。例えば、所要時間=[(設定温度-昇温速度を算出したときの金型200の温度)×係数]とすることができる。
【0056】
制御部51は、所要時間算出部58で算出した所要時間の間だけ排水電磁弁24を開にする。現在の金型温度(昇温速度を算出したときの金型200の温度)と設定温度との差が小さいほど、排水電磁弁24を開にする所要時間を短くして蒸気の圧力の低下を防ぐ。圧力の低下を防ぐことにより、金型200の温度が低下することを防止することができる。
【0057】
図10は本実施の形態の金型温度調節機50による加熱制御の処理手順の一例を示すフローチャートである。以下では、便宜上、処理の主体を制御部51として説明する。制御部51は、金型200の加熱を開始する(S11)。加熱開始により、図2で示した、蒸気投入、加熱が行われる。
【0058】
制御部51は、ドレンが少ない状態又はない状態で、第1温度を取得し(S12)、第1温度のときの昇温速度を算出する(S13)。制御部51は、所定の昇温速度の変化率及び第1温度のときの昇温速度に基づいて、設定温度のときの閾値Xを設定する(S14)。
【0059】
制御部51は、温度を取得し(S15)、取得した温度のときの昇温速度を算出する(S16)。制御部51は、算出した温度が閾値X(例えば、設定温度のときの昇温速度)以上であるか否かを判定する(S17)。
【0060】
昇温速度が閾値以上でない場合(S17でNO)、制御部51は、所要時間の間だけ排水電磁弁24(排出弁)を開き(S18)、後述のステップS19の処理を行う。昇温速度が閾値X以上である場合(S17でYES)、制御部51は、金型200の温度が設定温度に到達したか否かを判定し(S19)、設定温度に到達していない場合(S19でNO)、ステップS15以降の処理を続ける。
【0061】
設定温度に到達した場合(S19でYES)、制御部51は、処理を終了する。図10に示す加熱制御の処理が終了すると、冷却処理(不図示)が行われる。当該冷却処理の後、次の加熱サイクルでは、図10に示す処理が行われる。なお、次の加熱サイクルにおいて、成形条件が同じであれば、ステップS12~S14の処理は省略することができる。
【0062】
本実施形態の金型温度調節機50は、CPU(プロセッサ)、RAMなどを備えたコンピュータを用いて実現することもできる。すなわち、図10に示すような、各処理の手順を定めたコンピュータプログラムをコンピュータに備えられたRAMにロードし、コンピュータプログラムをCPU(プロセッサ)で実行することにより、コンピュータ上で金型温度調節機50の加熱制御方法を実現することができる。
【0063】
上述のように、本実施の形態によれば、ドレンを排出するタイミングを特定することができ、必要な量だけのドレンを排出することができるので、金型の温度が設定温度に到達するまでの時間が遅くなる事態を防止することができる。また、ドレンを排出することができるので、不要なドレンを加熱する事態も防止することができ、余計な熱量が消費されることも抑制することができる。
【0064】
上述の各実施の形態では、閾値を一つの値としているが、閾値に幅を持たせて数値範囲とすることもできる。
【0065】
上述の実施の形態において、冷却媒体としては水を用いることができるが、水に代えて油を使用することもできる。
【0066】
金型温度調節機50は、加熱電磁弁21、電磁弁22、冷却電磁弁23及び排水電磁弁24の全部又は一部、送媒バルブ25、返媒バルブ26、管路11、12の一部を具備する構成であってもよい。
【0067】
上述の実施の形態では、加熱電磁弁21、電磁弁22、冷却電磁弁23及び排水電磁弁24の開閉制御を一つの制御部で制御する構成であるが、これに限定されるものではなく、電磁弁毎に異なる制御部が制御してもよい。
【0068】
上述の実施の形態では、温度制御装置の一例として金型温度調節機について説明したが、温度制御装置は金型温度調節機に限定されるものでなく、蒸気を用いて加熱制御するものを具備する装置であれば、本実施の形態を適用することができる。
【0069】
本実施の形態に係る温度制御装置は、媒体流路を有する対象物に管路を介して媒体を流して前記対象物の温度を制御する温度制御装置であって、前記対象物の温度を取得する温度取得部と、前記対象物から流出する媒体を排出する排出弁の開閉を制御する制御部と、前記対象物に加熱用媒体を供給して加熱した状態で、前記温度取得部で取得した温度に基づいて前記対象物の昇温速度を算出する昇温速度算出部とを備え、前記制御部は、前記昇温速度算出部で算出した昇温速度に基づいて、前記排出弁の開閉を制御する。
【0070】
本実施の形態に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、媒体流路を有する対象物に管路を介して媒体を流して前記対象物の温度を制御させるためのコンピュータプログラムであって、コンピュータに、前記対象物の温度を取得する処理と、前記対象物から流出する媒体を排出する排出弁の開閉を制御する処理と、前記対象物に加熱用媒体を供給して加熱した状態で、取得した温度に基づいて前記対象物の昇温速度を算出する処理と、算出した昇温速度に基づいて、前記排出弁の開閉を制御する処理とを実行させる。
【0071】
本実施の形態に係る加熱制御方法は、媒体流路を有する対象物に管路を介して媒体を流して前記対象物の温度を制御する温度制御装置による加熱制御方法であって、前記対象物の温度を温度取得部が取得し、前記対象物から流出する媒体を排出する排出弁の開閉を制御部が制御し、前記対象物に加熱用媒体を供給して加熱した状態で、取得された温度に基づいて前記対象物の昇温速度を昇温速度算出部が算出し、算出された昇温速度に基づいて、前記排出弁の開閉を前記制御部が制御する。
【0072】
温度取得部は、対象物の温度を取得する。対象物は、例えば、金型である。金型内部に設けられた温度センサが出力する信号を取得することにより、温度取得部は、対象物(金型)の温度を取得することができる。
【0073】
制御部は、対象物に加熱用媒体を供給するための加熱弁及び対象物から流出する媒体を排出する排出弁それぞれの開閉を制御する。加熱用媒体としては、所定温度、所定圧力の蒸気を用いることができる。対象物から流出する媒体には、加熱用媒体が相変化した水(ドレン)、冷却水などが含まれる。なお、冷却用の媒体は水に限定されず、例えば、油でもよい。
【0074】
昇温速度算出部は、対象物に加熱用媒体を供給して加熱した状態(例えば、加熱弁を開とし、排出弁を閉とした状態)で、温度取得部で取得した温度に基づいて対象物の昇温速度を算出する。対象物の温度は、例えば、所定の間隔Δtの都度取得することができる。加熱開始後、時点tのときの対象物の温度をTとし、時点tよりもΔt前の時点のときの対象物の温度をT′とすると、時点tのときの昇温速度は、[(T-T′)/Δt]で求めることができる。
【0075】
制御部は、昇温速度算出部で算出した昇温速度に基づいて、排出弁の開閉を制御する。対象物の温度を設定温度まで上昇させる加熱制御の途中で、算出した昇温速度に基づいて排出弁を閉から開にする制御を設けることにより、対象物内の媒体流路に溜まったドレンを排出することができ、溜まったドレンによって対象物の温度が設定温度に到達する時間が遅くなる事態を防止することができる。
【0076】
本実施の形態に係る温度制御装置は、所定の閾値を設定する閾値設定部を備え、前記制御部は、前記昇温速度算出部で算出した昇温速度が前記閾値よりも小さい場合、前記排出弁を所要時間の間、開にする。
【0077】
閾値設定部は、所定の閾値を設定する。制御部は、昇温速度算出部で算出した昇温速度が所定の閾値よりも小さい場合、排出弁を所要時間の間、開にする。所定の閾値は、例えば、対象物(例えば、金型)の設定温度のときの昇温速度とすることができる。金型の温度が設定温度よりも低い場合には、金型内の媒体流路及び返媒管路にドレンが溜まっていないとき、あるいは溜まったドレンの量が無視することができる程度のとき、昇温速度は、設定温度のときの昇温速度(すなわち、所定の閾値)以下となることはない。従って、昇温速度算出部で算出した昇温速度が所定の閾値よりも小さい場合には、金型内の媒体流路及び返媒管路にドレンが溜まっていると判定することができる。
【0078】
昇温速度が所定の閾値より小さい場合、排出弁を所要時間の間、開にすることによって、対象物内の媒体流路及び返媒管路に溜まったドレンを排出することができ、対象物の温度が設定温度に到達する時間が遅くなる事態を防止することができる。また、排出弁を所要時間の間だけ開にすることにより、加熱用媒体の圧力の低下を抑制することができる。
【0079】
本実施の形態に係る温度制御装置は、前記昇温速度算出部は、前記対象物の温度が該対象物の設定温度よりも低い第1温度のときの第1昇温速度を算出し、前記閾値設定部は、前記対象物の温度と昇温速度の変化率との関係における前記設定温度のときの変化率及び前記第1昇温速度に基づいて前記閾値を設定する。
【0080】
昇温速度算出部は、対象物の温度が設定温度よりも低い第1温度のときの第1昇温速度を算出する。加熱開始直前の対象物の温度をT0、加熱開始時点から時間taが経過したときの対象物の第1温度をT1とすると、第1昇温速度は、[(T1-T0)/ta]で算出することができる。
【0081】
閾値設定部は、対象物の温度と昇温速度の変化率との関係における設定温度のときの変化率及び第1昇温速度に基づいて前記閾値を設定する。対象物の温度と昇温速度の変化率との関係は、金型の上昇温度毎に昇温速度の変化率をプロットしたものであり、予め実測値又はシミュレーション結果等によって定めることができる。また、対象物の温度と昇温速度の変化率との関係は、ドレンの存在による影響がない又は無視することができる状態を前提とすることができる。金型の上昇温度毎に昇温速度の変化率をプロットした点を繋ぐと、当該関係は、上昇温度の増加とともに変化率が低下し、例えば、直線状又は曲線状で表すことができる。
【0082】
昇温速度の変化率を直線で表すことができるとした場合、蒸気温度Tvと、加熱開始直前の対象物の温度T0から、変化率の傾きは、[-1/(Tv-T0)]となる。対象物の設定温度をTsとし、設定温度Tsのときの昇温速度の変化率をRsとすると、変化率Rsは、[1-{(Ts-T0)/(Tv-T0)}]で求めることができ、設定温度Tsのときの昇温速度は、[Rs×(T1-T0)/ta]となる。
【0083】
これにより、第1温度T1のときの昇温速度を算出することにより、昇温速度の所定の閾値を自動的に設定することができ、対象物の温度が設定温度に到達する時間が遅くなる事態を防止することができる。
【0084】
本実施の形態に係る温度制御装置において、前記閾値設定部は、前記加熱用媒体の温度に応じて前記閾値を設定する。
【0085】
閾値設定部は、加熱用媒体の温度に応じて閾値を設定する。加熱用媒体の温度が異なると、対象物の温度と昇温速度の変化率との関係における変化率の傾きも異なる。当該変化率の傾きに応じて閾値を変更することができ、加熱用媒体の温度に応じて最適な閾値を設定することができる。
【0086】
本実施の形態に係る温度制御装置は、前記加熱用媒体の圧力を取得する圧力取得部と、前記加熱用媒体の温度に基づく飽和圧力及び前記圧力取得部で取得した圧力に応じて重み付け係数を算出する係数算出部とを備え、前記閾値設定部は、前記係数算出部で算出した係数に応じて前記閾値を設定する。
【0087】
圧力取得部は、加熱用媒体の圧力を取得する。例えば、蒸気を対象物である金型へ供給する管路に圧力センサを設け、圧力センサが出力する信号を取得することにより、蒸気の圧力を取得することができる。
【0088】
係数算出部は、加熱用媒体の温度に基づく飽和圧力及び圧力取得部で取得した圧力に応じて重み付け係数を算出する。例えば、蒸気温度から飽和圧力を算出し、実際の蒸気圧力と比較し、算出した飽和圧力が実際の蒸気圧力より小さい場合、蒸気が湿っているためドレンが溜まりやすいと考えられる。
【0089】
閾値設定部は、係数算出部で算出した係数(重み付け係数)に応じて閾値Xを設定する。例えば、算出した飽和圧力が実際の蒸気圧力よりも小さいときは、閾値を大きくするような重み付け係数を閾値に乗算し、また算出した飽和蒸気圧が実際の蒸気圧力よりも大きいときは、閾値を小さくするような重み付け係数を閾値に乗算することにより、蒸気の状態も考慮したより適切な閾値Xに変更することができる。重み付け係数は、算出した飽和圧力と実際の蒸気圧力の差に応じて演算で求めてもよいし、あらかじめ設定した一定の値としてもよい。
【0090】
本実施の形態に係る温度制御装置は、前記対象物の設定温度と前記昇温速度を算出したときの前記対象物の温度との差に応じて前記排出弁を開の状態にする所要時間を算出する所要時間算出部を備え、前記制御部は、前記所要時間算出部で算出した所要時間の間、前記排出弁を開にする。
【0091】
所要時間算出部は、対象物の設定温度と、昇温速度を算出したときの対象物の温度との差に応じて排出弁を開の状態にする所要時間を算出する。例えば、所要時間=[(設定温度-現在金型温度)×係数]とすることができる。
【0092】
制御部は、所要時間算出部で算出した所要時間の間、排出弁を開にする。現在の金型温度(昇温速度を算出したときの対象物の温度)と設定温度との差が小さいほど、排出弁を開にする所要時間を短くして蒸気の圧力の低下を防ぐ。圧力の低下を防ぐことにより、金型の温度低下を防止できるため、サイクルタイムを短縮することができる。
【0093】
なお、前述の実施の形態の少なくとも一部を任意に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0094】
11、12 管路
21 加熱電磁弁(加熱弁)
22 電磁弁
23 冷却電磁弁
24 排水電磁弁(排出弁)
25 送媒バルブ
26 返媒バルブ
31 温度センサ
32 圧力センサ
50 金型温度調節機(温度制御装置)
51 制御部
52 温度取得部
53 昇温速度算出部
54 閾値設定部
55 記憶部
56 圧力取得部
57 係数算出部
58 所要時間算出部
200 金型(対象物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10