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特許7304607無機ガス検出装置及び無機ガス検出システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】無機ガス検出装置及び無機ガス検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
G01N21/41 102
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018159514
(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公開番号】P2020034342
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】永田 晃基
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】紋川 亮
【審査官】古川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0195990(US,A1)
【文献】特開2017-020957(JP,A)
【文献】特開2014-029288(JP,A)
【文献】特開2017-067692(JP,A)
【文献】特開2014-156434(JP,A)
【文献】国際公開第2017/091779(WO,A1)
【文献】特開2004-028660(JP,A)
【文献】L. E. Kreno et al.,Metal-Organic Framework Thin Film for Enhanced Localized Surface Plasmon Resonance Gas Sensing,Analytical Chemistry,American Chemical Society,2010年09月14日,Vol.82,No.19,pp.8042-8046, Supporting Information
【文献】Akshita Dutta et al.,Influence of Hydrogen Sulfide Exposure on the Transport and Structural Properties of the Metal-Organic Framework ZIF-8,The Journal of Physical Chemistry C,American Chemical Society,2018年03月09日,Vol.122, No,13,pp.7278-7287
【文献】Kui Tan et al.,Mechanism of Preferential Adsorption of SO2 into Two Microporous Paddle Wheel Frameworks M(bdc)(ted)0.5,Chemistry of Materials,American Chemical Society,2013年10月25日,Vol.25, No.23,pp.4653-4662
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
ACS PUBLICATIONS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体と、
前記金属体に接する多孔質体であって、測定対象の硫化水素ガスと相互作用する多孔質体と、
前記金属体に光を照射する光源と、
前記光を照射された金属体における表面プラズモン共鳴による前記光の吸収を検出する検出器と、
を備え、
前記多孔質体がゼオライト型イミダゾレート構造体(ZIF)-8を含む、
5ppmの硫化水素ガスを検出可能な、硫化水素ガスの検出装置。
【請求項2】
前記金属体における前記光の吸収スペクトルの変化を検出して、前記硫化水素ガスを検出する、請求項1に記載の硫化水素ガスの検出装置。
【請求項3】
前記金属体がパターン構造をなしている、請求項1又は2に記載の硫化水素ガスの検出装置。
【請求項4】
前記金属体における前記表面プラズモン共鳴による吸光度変化が生じる波長帯域の光を透過させるバンドパスフィルタをさらに備える、請求項1からのいずれか1項に記載の硫化水素ガスの検出装置。
【請求項5】
金属体と、
前記金属体に接する多孔質体であって、測定対象の二酸化硫黄ガスと相互作用する多孔質体と、
前記金属体に光を照射する光源と、
前記光を照射された金属体における表面プラズモン共鳴による前記光の吸収を検出する検出器と、
を備え、
前記多孔質体がNi(bdc)(ted)0.5を含み、bdcは1,4-ベンゼンジカルボン酸であり、tedはトリエチレンジアミンである、
10ppmの二酸化硫黄ガスを検出可能な、二酸化硫黄ガスの検出装置。
【請求項6】
金属体と、
前記金属体に接する多孔質体であって、測定対象の二酸化硫黄ガスと相互作用する多孔質体と、
前記金属体に光を照射する光源と、
前記光を照射された金属体における表面プラズモン共鳴による前記光の吸収を検出する検出器と、
を備え、
前記多孔質体が[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン(DAPTMS)で修飾されたメソポーラスシリカを含む、
二酸化硫黄ガスの検出装置。
【請求項7】
金属体と、
前記金属体に接する多孔質体であって、測定対象の二酸化硫黄ガスと相互作用する多孔質体と、
前記金属体に光を照射する光源と、
前記光を照射された金属体における表面プラズモン共鳴による前記光の吸収を検出する検出器と、
を備え、
前記多孔質体が3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)で修飾されたメソポーラスシリカを含む、
二酸化硫黄ガスの検出装置。
【請求項8】
金属体と、
前記金属体に接する多孔質体であって、測定対象の二酸化硫黄ガスと相互作用する多孔質体と、
前記金属体に光を照射する光源と、
前記光を照射された金属体における表面プラズモン共鳴による前記光の吸収を検出する検出器と、
を備え、
前記多孔質体がゼオライト型イミダゾレート構造体(ZIF)-8を含む、
二酸化硫黄ガスの検出装置。
【請求項9】
前記金属体における前記光の吸収スペクトルの変化を検出して、前記二酸化硫黄ガスを検出する、請求項からのいずれか1項に記載の二酸化硫黄ガスの検出装置。
【請求項10】
前記金属体がパターン構造をなしている、請求項からのいずれか1項に記載の二酸化硫黄ガスの検出装置。
【請求項11】
前記金属体における前記表面プラズモン共鳴による吸光度変化が生じる波長帯域の光を透過させるバンドパスフィルタをさらに備える、請求項から10のいずれか1項に記載の二酸化硫黄ガスの検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検出技術に関し、無機ガス検出装置及び無機ガス検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
安全で快適な社会システムの維持のため、工場や火山から排出される揮発性有機化合物(VOC)や腐食性ガス等の有毒ガス、及び水素などの危険ガスに対する環境モニタリングへのニーズが高まっており、幅広い分野でガスセンサが開発されている。そうした中で、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を応用したガスセンサが開発されている。LSPRガスセンサは、ガスによるセンサ周辺の屈折率変化により生じる、光の吸収ピークにおける波長シフトを検出することにより、ガスを検出する。ガスの屈折率が空気より大きい場合、光の吸収ピークは長波長側にシフトする。
【0003】
例えば、LSPRガスセンサにおいて、金ナノパターンにメソポーラスシリカを塗布することで、1ppm以下のVOCを検出した報告がある(例えば、特許文献1、2及び非特許文献1参照。)。また、高分解能LSPRスペクトル分光法も併用することにより、ヘリウム、アルゴン、窒素及び空気を識別した報告(例えば、非特許文献2参照。)がある。さらに、LSPRガスセンサにおいて、銀ナノパターンに金属有機構造体(MOF)の一種のHKUST-1を塗布することで、10%の二酸化炭素を検出した報告(例えば、非特許文献3参照。)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-256126号公報
【文献】特開2015-206786号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Monkawa, T. Nakagawa, H. Sugimori, E. Kazawa, K. Sibamoto, T. Takei, and M. Haruta, "With high sensitivity and with wide-dynamic-range localized surface-plasmon resonance sensor for volatile organic compounds", Sensors and Actuators B: Chemical, 196, 1-9 (2014).
【文献】L. E. Kreno, J. T. Hupp and R. P. V. Duyne," Metal-Organic Framework Thin Film for Enhanced Localized Surface Plasmon Resonance Gas Sensing", Anal. Chem. 82, 8042-8046 (2010).
【文献】J. M. Bingham, J. N. Anker, L. E. Kreno and R. P. V. Duyne," Gas Sensing with High-Resolution Localized Surface Plasmon Resonance Spectroscopy", J. AM. CHEM. SOC. 132, 17358-17359 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LSPRガスセンサがVOCを高感度で検出可能な理由は、メソポーラスシリカに吸収されたVOCが毛細管凝縮により気体から液体に変化し、大幅な屈折率変化が生じるためと考えられている。これに対し、無機ガスは、多孔質体において液体に変化せず、空気の屈折率との差が小さいため、LSPRガスセンサで無機ガスを高感度に検出できないと考えられている。そこで、本発明は、無機ガスを高感度で検出可能な無機ガス検出装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様によれば、金属体と、金属体に接する多孔質体であって、測定対象の無機ガスと相互作用する多孔質体と、金属体に光を照射する光源と、光を照射された金属体における表面プラズモン共鳴による光の吸収を検出する検出器と、を備える、無機ガス検出装置が提供される。
【0008】
上記の無機ガス検出装置が、金属体における光の吸収スペクトルの変化を検出して、無機ガスを検出してもよい。
【0009】
上記の無機ガス検出装置において、多孔質体が、マイクロポア、メソポア、及びマクロポアから選択される少なくとも一つを有してもよい。
【0010】
上記の無機ガス検出装置において、多孔質体が、メソポーラスシリカを備えていてもよい。無機ガスが硫化水素であってもよい。無機ガスが二酸化硫黄であってもよい。
【0011】
上記の無機ガス検出装置において、多孔質体が、金属有機構造体を備えていてもよい。
【0012】
上記の無機ガス検出装置において、金属有機構造体が、ゼオライト型イミダゾレート構造体(ZIF)であってもよい。金属有機構造体がZIFである場合、無機ガスが硫化水素であってもよい。
【0013】
上記の無機ガス検出装置において、ZIFがZIF-8であってもよい。金属有機構造体がZIF-8である場合、無機ガスが硫化水素であってもよい。
【0014】
上記の無機ガス検出装置において、金属有機構造体が、fcu-MOFであってもよい。金属有機構造体がfcu-MOFである場合、無機ガスが硫化水素であってもよい。
【0015】
上記の無機ガス検出装置において、金属有機構造体が、Mを2価の金属イオン、Lをジカルボキシ基を持つ配位子、Pを二座配位子として、M(L)(P)0.5であってもよい。金属有機構造体がM(L)(P)0.5である場合、無機ガスが二酸化硫黄であってもよい。
【0016】
上記の無機ガス検出装置において、多孔質体が無機ガスと相互作用する化合物で修飾されていてもよい。
【0017】
上記の無機ガス検出装置において、化合物が、カルボキシル基、ヒドロキシル基、及びスルホ基から選択される少なくとも一つを有していてもよい。化合物がカルボキシル基、ヒドロキシル基、及びスルホ基から選択される少なくとも一つを有する場合、無機ガスが硫化水素であってもよい。
【0018】
上記の無機ガス検出装置において、化合物が、アミノ基、カルボキシル基、及びヒドロキシル基から選択される少なくとも一つを有していてもよい。化合物がアミノ基、カルボキシル基、及びヒドロキシル基から選択される少なくとも一つを有する場合、無機ガスが二酸化硫黄であってもよい。
【0019】
上記の無機ガス検出装置において、化合物が、カルボニル基及びエステル結合から選択される少なくとも一つを有していてもよい。化合物がカルボニル基及びエステル結合から選択される少なくとも一つを有する場合、無機ガスが二酸化炭素であってもよい。
【0020】
上記の無機ガス検出装置において、金属体がパターン構造をなしていてもよい。
【0021】
上記の無機ガス検出装置において、パターン構造が、格子状に配置されたパターン構造であってもよい。
【0022】
上記の無機ガス検出装置において、パターン構造が、格子状に配置されたドットパターン構造であってもよい。
【0023】
上記の無機ガス検出装置において、金属体が、酸化膜を介して基板上に配置されていてもよい。
【0024】
上記の無機ガス検出装置が、金属体における表面プラズモン共鳴による吸光度変化が生じる波長帯域の光を透過させるバンドパスフィルタをさらに備えていてもよい。
【0025】
また、本発明の態様によれば、金属体と、金属体に接する多孔質体と、をそれぞれ備える複数の複合体と、複数の複合体のそれぞれに光を照射する光源と、光を照射された複数の複合体のそれぞれの金属体における表面プラズモン共鳴による光の吸収を検出する検出器と、を備え、複数の複合体の少なくとも一部の多孔質体が、測定対象の無機ガスと相互作用する、無機ガス検出システムが提供される。
【0026】
上記の無機ガス検出システムにおける複数の複合体の少なくとも一部において、多孔質体が異なっていてもよい。
【0027】
上記の無機ガス検出システムにおいて、複数の複合体のうち測定対象の無機ガスを送られた複合体を透過した光を測定信号とし、複数の複合体のうち測定対象の無機ガスを送られない複合体を透過した光を参照信号としてもよい。
【0028】
上記の無機ガス検出システムが、複数の複合体の少なくとも一部に測定対象の無機ガスを送るための流路をさらに備えていてもよい。
【0029】
上記の無機ガス検出システムが、複数の複合体のそれぞれの金属体における表面プラズモン共鳴による吸光度変化が生じる波長帯域の光を透過させるバンドパスフィルタをさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、無機ガスを高感度で検出可能な無機ガス検出装置及び無機ガス検出システムを提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】第1実施形態に係る無機ガス検出装置を示す模式図である。
図2】第1実施形態に係る無機ガス検出装置のチップを透過した光のスペクトルを示す模式的なグラフである。
図3】第1実施形態に係る無機ガス検出装置の製造方法を示す模式図である。
図4】第1実施形態に係る無機ガス検出装置の製造方法を示す模式図である。
図5】第1実施形態に係る無機ガス検出装置の製造方法を示す模式図である。
図6】第1実施形態に係る無機ガス検出装置の製造方法を示す模式図である。
図7】第1実施形態に係る無機ガス検出装置の製造方法を示す模式図である。
図8】第1実施形態に係る無機ガス検出装置の製造方法を示す模式図である。
図9】第1実施形態に係る無機ガス検出装置の製造方法を示す模式図である。
図10】第1実施形態に係る無機ガス検出装置の製造方法を示す模式図である。
図11】第1実施形態に係る無機ガス検出装置の製造方法を示す模式図である。
図12】第1実施形態に係る無機ガス検出装置の製造方法を示す模式図である。
図13】実施例に係る無機ガス検出装置による検出結果を示すグラフである。
図14】実施例に係る無機ガス検出装置による検出結果を示すグラフである。
図15】実施例に係る無機ガス検出装置による検出結果を示すグラフである。
図16】実施例に係る無機ガス検出装置による検出結果を示すグラフである。
図17】実施例に係る無機ガス検出装置による検出結果を示すグラフである。
図18】実施例に係る無機ガス検出装置による検出結果を示すグラフである。
図19】第2実施形態に係る無機ガス検出システムを示す模式的上面図である。
図20】第2実施形態に係る無機ガス検出システムを示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。ただし、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0033】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る無機ガス検出装置は、図1に示すように、金属体13と、金属体13に接する多孔質体15であって、測定対象の無機ガスと相互作用する多孔質体15と、金属体13に光を照射する光源20と、光を照射された金属体13における表面プラズモン共鳴による光の吸収を検出する検出器30と、を備える。金属体13と多孔質体15は、チップ10をなしている。金属体13は、例えば金(Au)及び銀(Ag)等からなり、好ましくはパターン構造を有する。
【0034】
チップ10は、例えば、基板11と、基板11上に配置された酸化膜12と、をさらに備える。金属体13は、例えば、酸化膜12上に配置されている。多孔質体15は、例えば、金属体13を覆うように、基板11上に配置されている。
【0035】
基板11は、光源20が発する光に対して透明であり、例えば結晶石英等からなる。酸化膜12は、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化クロム(Cr23)、酸化ニッケル(NiO)、又は酸化チタン(TiO2)等の誘電体からなる。金属体13は、光源20が発する光に対して不透明であり、好ましくは斜方格子、六角格子、正方格子、矩形格子、及び平行格子等の格子状に規則的に配置されたドットパターンを有するが、これに限定されない。金属体13の膜厚は、例えば10nm以上100nm以下である。金属体13の個々のドットが円形である場合、直径は、例えば100nm以上500nm以下であるが、特に限定されない。
【0036】
多孔質体15は、金属体13に直接接していてもよいし、物質を介して金属体13に接していてもよい。相互作用により、多孔質体15は、例えば、無機ガスを吸着する。吸着は物理吸着及び化学吸着を含み、化学吸着により、多孔質体15と無機ガス間に化学結合が形成されてもよい。多孔質体15は、例えば、マイクロポア、メソポア、及びマクロポアから選択される少なくとも一つの細孔を有する。マイクロポアは、例えば、孔径が2nm以下の細孔である。マイクロポアを有する多孔質体を、マイクロポーラス体という場合がある。メソポアは、例えば、孔径が2nm以上50nm以下の細孔である。メソポアを有する多孔質体を、メソポーラス体という場合がある。マクロポアは、例えば、孔径が50nm以上の細孔である。マクロポアを有する多孔質体を、マクロポーラス体という場合がある。多孔質体15は、マイクロポア、メソポア、及びマクロポアから選択される少なくとも二つを複合的に有していてもよい。
【0037】
多孔質体15は、例えば、メソポーラスシリカを備える。あるいは、多孔質体15は、金属有機構造体(MOF)を備える。金属有機構造体の例としては、ゼオライト型イミダゾレート構造体(ZIF)が挙げられる。ゼオライト型イミダゾレート構造体の例としては、nを自然数としてZIF-nが挙げられる。自然数nは、例えば、2から4、8、10から12、14、20、21、23、60から62、64、65、67から77のいずれかであるが、特に限定されない。中でも、ZIF-8が好適である。また、金属有機構造体の例としては、fcu-MOF及びM(L)(P)0.5が挙げられる。Mは2価の金属イオンであり、例えばNi2+、Cu2+及びZn2+である。Lはジカルボキシ基を持つ配位子であり、Pは二座配位子である。fcu-MOFの例としては、fumarate-based fcu-MOF(fum-fcu-MOF)が挙げられる。M(L)(P)0.5の例としては、Ni(bdc)(ted)0.5が挙げられる。bdcは1,4-ベンゼンジカルボン酸であり、tedはトリエチレンジアミンである。理論に拘束されるものではないが、例えば、金属有機構造体の金属イオン及び有機配位子の少なくとも一方が、無機ガスと相互作用する。
【0038】
例えば、多孔質体15の材料及び構造等は、検出対象の無機ガスに応じて選択される。これにより、多孔質体15が、検出対象の無機ガスと特異的に相互作用し、検出対象の無機ガスが多孔質体15に接したときに、金属体13における表面プラズモン共鳴による光の吸収ピークの波長シフトが生じる。検出対象の無機ガスが硫化水素である場合、多孔質体15は、例えば、メソポーラスシリカ、ZIF-8、及びfum-fcu-MOFから選択される少なくとも一つを備える。検出対象の無機ガスが二酸化硫黄である場合、多孔質体15は、例えば、メソポーラスシリカ、Ni(bdc)(ted)0.5を備える。
【0039】
また、例えば、検出対象の無機ガスに応じて、多孔質体15を検出対象の無機ガスと相互作用する化合物で修飾する。この場合、多孔質体15の材料及び構造等は、任意である。化合物は、検出対象の無機ガスに応じて選択される。これにより、化合物で修飾された多孔質体15が、検出対象の無機ガスと特異的に相互作用し、検出対象の無機ガスが多孔質体15に接したときに、金属体13における表面プラズモン共鳴による光の吸収ピークの波長シフトが生じる。検出対象の無機ガスが硫化水素である場合、多孔質体15を修飾する化合物は、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、及びスルホ基から選択される少なくとも一つの官能基を有する。検出対象の無機ガスが二酸化硫黄である場合、多孔質体15を修飾する化合物は、例えば、アミノ基、カルボキシル基、及びヒドロキシル基から選択される少なくとも一つの官能基を有する。検出対象の無機ガスが二酸化炭素である場合、多孔質体15を修飾する化合物は、例えば、カルボニル基及びエステル結合から選択される少なくとも一つを有する。なお、アミノ基とは、置換されていないアミノ基(-NH2)のみならず、アルキルアミノ基(-NHR)及びジアルキルアミノ基(-NR12)を含む。
【0040】
光源20が発する光は、例えば紫外光、可視光又は近赤外光である。チップ10に光が照射されると、金属体13において局在表面プラズモン共鳴(LSPR)が発生し、金属体13を透過した光のスペクトルに吸収ピークが現れる。吸収ピークは、チップ10の多孔質体15と無機ガスが相互作用することによって、波長シフトする。波長シフトの大きさは、可視光領域よりも近赤外領域の方が大きい傾向にある。したがって、無機ガスが微量である場合は、例えば、近赤外光を発する光源20を用いると、無機ガスを高感度に検出し得る。
【0041】
チップ10と検出器30の間には、局在表面プラズモン共鳴による吸光度変化が生じる波長帯域の光を透過させるバンドパスフィルタ17を配置してもよい。検出器30としては、電荷結合素子(CCD)等が使用可能である。検出器30には、例えば中央演算処理装置(CPU)等の処理装置が接続される。処理装置は、検出器30が検出した、チップ10を透過した光のスペクトルにおける吸収ピークの有意な波長シフトの有無を判定する。処理装置は、例えば、所定の波長帯域における光の強度が所定の値以上に変化した場合、無機ガスが存在すると判定する。また、処理装置300は、所定の波長帯域における光の強度が所定の値以上に変化しなかった場合、無機ガスが存在しないと判定する。あるいは、処理装置は、例えば、所定の波長帯域における光の強度の変化量に基づいて、無機ガスの濃度を算出してもよい。
【0042】
例えば、2つのバンドパスフィルタを用いて、所定の波長X1における光強度Aと、波長X1と異なる波長X2における光強度Bと、を測定してもよい。例えば、波長X2は、波長X1より長い。図2に示すように、例えば、波長X1は、チップ10を透過した光の吸収ピークの波長シフトが無機ガスによって生じた際に、光強度がA1からA2に上昇する波長である。波長X2は、チップ10を透過した光の吸収ピークの波長シフトが無機ガスによって生じた際に、光強度がB1からB2に低下する波長である。また、波長X1、X2は、チップ10が測定対象の無機ガスに接触していない場合、光強度A1より光強度B1のほうが強くなり、チップ10が測定対象の無機ガスに接触している場合、光強度B2より光強度A2のほうが強くなるよう設定される。
【0043】
処理装置は、例えば、以下の判別式を用いて、チップ10が測定対象の無機ガスに接触しているか否かを判別する。以下の判別式において、Dが正である場合、処理装置は、チップ10が測定対象の無機ガスに接触していると判別する。また、以下の判別式において、Dが負である場合、処理装置は、チップ10が測定対象の無機ガスに接触していないと判別する。
D=(A-B)/(A+B)
【0044】
なお、第1実施形態に係る無機ガス検出装置で、揮発性有機化合物(VOC)を検出してもよい。
【0045】
次に、ナノインプリントリソグラフィー法を採用したチップ10の製造方法について説明する。図3に示すように、複数のウェルが設けられたモールド100を用意する。モールド100は、例えばニッケル(Ni)等の金属からなる。例えば、ウェルの径は500nm、深さは500nm、ピッチは1000nmであるが、これらに限定されない。モールド100において、複数のウェルは格子状に配置されている。複数のウェルの配置の態様は、製造されるチップが備える金属体のパターン構造の態様に相似する。
【0046】
紫外線(UV)硬化樹脂からなる樹脂シートの平坦な表面に、モールド100を押しつけた後、樹脂シートにUVを照射し、図4に示すように、反転レプリカモールド110を作製する。
【0047】
図5に示すように、表面に蒸着膜119が形成された基板11を用意する。基板11は、例えば結晶石英等からなる。蒸着膜119は、例えば、ケイ素(Si)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、又はチタン(Ti)等の、半金属又は金属からなる。さらに、図6に示すように、下地層としての蒸着膜119上に樹脂をコーティングし、樹脂層120を形成する。樹脂層120は、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の熱可塑性樹脂からなる。
【0048】
次に、図7に示すように、加熱した樹脂層120に反転レプリカモールド110を押しつけ、樹脂層120に、格子状に配置された複数のウェルを形成する。さらに、樹脂層120を冷却後、樹脂層120をマスクとして、アルゴン(Ar)ガス等により異方性エッチングを施し、図8に示すように、樹脂層120に設けられた複数のウェルのそれぞれの底面から基板11表面を露出される。またさらに、図9に示すように、樹脂層120表面及び基板11表面の露出した部分に、ケイ素、クロム、ニッケル、又はチタン等の、半金属又は金属を蒸着し、蒸着膜121を形成する。蒸着膜121の厚さは、例えば蒸着膜119の厚さと同じである。
【0049】
その後、図10に示すように、蒸着膜121上に金を蒸着して金からなる堆積膜122を形成する。さらに、図11に示すように、樹脂層120をリフトオフすることにより、蒸着膜121上に、金からなるパターン構造を有する金属体13を形成する。次に、基板11、蒸着膜119、121、及び金属体13を、450℃から1000℃で加熱する。例えば蒸着膜119、121がケイ素からなる場合は、ガラスの軟化点(500℃から600℃)以上で加熱することが好ましい。加熱により、ケイ素、クロム、ニッケル、又はチタン等からなる蒸着膜119、121が酸化され、図12に示すように、二酸化ケイ素、酸化クロム、酸化ニッケル、又は酸化チタンからなる酸化膜12が、基板11と金属体13との間、及び基板11上のパターン構造を有する金属体13から露出する部分に形成される。
【0050】
例えば、結晶石英からなる基板上に、熱酸化膜を介さずに、金からなるパターン構造を形成すると、アンモニア過酸化水素水による洗浄で、パターン構造が基板上から消失する場合がある。これに対し、第1実施形態に係るチップの製造方法によれば、加熱により、酸化膜12と金属体13の界面が粗面化され、酸化膜12と金属体13の密着性が向上する。そのため、アンモニア過酸化水素水による洗浄で、基板11表面から金属体13が消失することを抑制することが可能となる。
【0051】
また、ケイ素、クロム、ニッケル、又はチタン等の半金属又は金属は、屈折率が高いため、図11に示す蒸着膜119、121の厚さが薄くても、局在表面プラズモン共鳴のスペクトル分解能を劣化させる。そのため、微量物質の検出が困難となる。これに対し、二酸化ケイ素、酸化クロム、酸化ニッケル、又は酸化チタンは、非酸化物よりも屈折率が低いため、局在表面プラズモン共鳴のスペクトル分解能を劣化させず、微量物質の検出を妨げない。
【0052】
次に、例えば、水熱合成法(浸漬法)、スピンコーティング法、ディップコーティング法、及び滴下塗布法等を用いて、金属体13の表面及びパターン構造を有する金属体13で覆われていない酸化膜12の表面に多孔質体の原料を配置し、多孔質体の原料を乾燥させることにより、金属体13の表面及びパターン構造を有する金属体13で覆われていない酸化膜12の表面に、図1に示す多孔質体15が形成される。さらに、任意で、多孔質体15を化合物で修飾する。
【0053】
第1実施形態に係る無機ガス検出装置によれば、測定対象の無機ガスと相互作用する多孔質体15を用いることにより、測定対象の無機ガスを高感度で特異的に検出することが可能である。また、電気で駆動される光源20及び検出器30を測定対象ガスに接触しないようにすることにより、無機ガス検出装置を堅牢にすることが可能である。第1実施形態に係る無機ガス検出装置は、例えば、火山ガスや工業ガスに含まれる無機ガスの検出に有用である。
【0054】
(実施例1)
石英基板、石英基板上に配置された酸化ケイ素膜、及び酸化ケイ素膜上に正方格子上に配置された金からなるドットパターン構造を備えるチップを用意した。ドットパターン構造のぞれぞれのドットの厚さは50nm、直径は400nm、間隔は800nmであった。用意したチップを炉に入れ、室温から0.1時間で450℃まで昇温後、1時間450℃加熱した。次に、チップを10分間オゾン酸化処理し、さらにチップを5分間、75℃でアンモニア過水(NH3/H22/H2O=10/10/50mL)処理し、不純物を除去した。その後、チップを水ですすぎ、スピンコーター(Slope 0.1秒、回転数5000rpm、10秒)で乾燥させた。
【0055】
また、50mmol/Lの濃度で酢酸亜鉛を含むメタノール溶液と、100mmol/Lの濃度で2-メチルイミダゾールを含むメタノール溶液と、を1:1(v/v)で混合し、室温で30分以上静置した。これにより生成した白色固体のZIF-8を濾過してメタノールで洗浄し、乾燥させた。さらに、ZIF-8をメタノールに懸濁させて、2mg/mLの濃度でZIF-8を含む多孔質体原料液を調製した。チップのドットパターン構造上に多孔質体原料液を滴下し、その後、多孔質体原料液を乾燥させて、チップのドットパターン構造上にZIF-8からなる多孔質体を形成した。
【0056】
ZIF-8からなる多孔質体を備えるチップに光を照射し、チップを透過した光の特定の波長における光強度を測定した。チップが備えるZIF-8からなる多孔質体に5ppmの硫化水素ガスを接触させると、その間、図13に示すように、吸収ピークの波長シフトに伴う、特定の波長における光強度の低下が検出された。この結果は、実施例1に係る無機ガス検出装置が、硫化水素ガスを短時間に高感度で検出可能であることを示している。
【0057】
(実施例2)
実施例1と同様にドットパターン構造を備えるチップを用意し、チップを10分間オゾン酸化処理した。次に、チップを、1mmol/Lの濃度で11-メルカプト-1-ウンデカノール(MUD)を含むエタノール溶液に24時間室温で浸漬させた。その後、チップをエタノールで洗浄し、MUDの自己組織化単分子膜をチップのドットパターン構造上に形成させた。
【0058】
また、27mmol/Lの濃度でY(NO33・6H2Oを含み、29mmol/Lの濃度でフマル酸を含み、0.4mol/Lの濃度で2-フルオロ安息香酸を含むジメチルホルムアミド(DMF)と、水と、の混合溶液(5.4:1)をバイアルに入れ密閉し、105℃で24時間加熱した。そのバイアルに、MUDの自己組織化単分子膜が形成されたチップを105℃で1時間浸漬させた。その後、チップをエタノールで洗浄し、乾燥させて、チップのドットパターン構造上にfum-fcu-MOFからなる多孔質体を形成した。
【0059】
fum-fcu-MOFからなる多孔質体を備えるチップに光を照射し、チップを透過した光の特定の波長における光強度を測定した。チップが備えるfum-fcu-MOFからなる多孔質体に5ppmの硫化水素ガスを接触させると、その間、図14に示すように、吸収ピークの波長シフトに伴う、特定の波長における光強度の低下が検出された。この結果は、実施例2に係る無機ガス検出装置が、硫化水素ガスを短時間に高感度で検出可能であることを示している。
【0060】
(実施例3)
実施例1と同様にドットパターン構造を備えるチップを用意し、チップを10分間オゾン酸化処理した。次に、チップを、1mmol/Lの濃度で16-メルカプトヘキサデカンカルボン酸(MHDA)を含む5%酢酸-エタノール溶液に24時間室温で浸漬させた。その後、チップを10%酢酸-エタノールで洗浄し、MHDAの自己組織化単分子膜をチップのドットパターン構造上に形成させた。
【0061】
10mmol/Lの濃度でNi(OAc)2・4H2Oを含むDMF溶液に10分間、MHDAの自己組織化単分子膜が形成されたチップを浸漬させた。その後、チップをDMFで洗浄し、10mmol/Lの濃度で1,4-ベンゼンジカルボン酸を含み、5mmol/Lの濃度でトリエチレンジアミンを含むDMF溶液に10分間、チップを浸漬させた。これを20回繰り返した後、チップをエタノールで洗浄し、乾燥させて、チップのドットパターン構造上にNi(bdc)(ted)0.5からなる多孔質体を形成した。
【0062】
Ni(bdc)(ted)0.5からなる多孔質体を備えるチップに光を照射し、チップを透過した光の特定の波長における光強度を測定した。チップが備えるNi(bdc)(ted)0.5からなる多孔質体に10ppmの二酸化硫黄ガスを接触させると、その間、図15に示すように、吸収ピークの波長シフトに伴う、特定の波長における光強度の低下が検出された。この結果は、実施例3に係る無機ガス検出装置が、二酸化硫黄ガスを短時間に高感度で検出可能であることを示している。
【0063】
(実施例4)
実施例1と同様にドットパターン構造を備えるチップを用意した。また、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)1.1gを蒸留水10mLに温めながら溶解し、硝酸を加え、pHを2に調整した。この溶液にテトラエトキシシラン(TEOS)5.35mLを室温で攪拌しながら加えた。室温で3時間程度攪拌することにより透明なメソポーラスシリカ前駆体溶液が得られた。ドットパターン構造を備えるチップをスピンコーターに固定し、調製したメソポーラスシリカ前駆体溶液をチップ上に数滴垂らし、回転速度5000rpmで30秒間チップを回転させ、ドットパターン構造上にメソポーラスシリカからなる多孔質体の薄膜を作製した。得られたメソポーラスシリカからなる多孔質体中に存在する界面活性剤を除去するため、多孔質体を電気炉中で450℃、1時間焼成した。昇温速度は20℃/分とした。
【0064】
メソポーラスシリカからなる多孔質体を備えるチップに光を照射し、チップを透過した光の特定の波長における光強度を測定した。チップが備えるメソポーラスシリカからなる多孔質体に5ppmの硫化水素ガスを接触させると、その間、図16に示すように、吸収ピークの波長シフトに伴う、特定の波長における光強度の低下が検出された。この結果は、実施例4に係る無機ガス検出装置が、硫化水素ガスを短時間に高感度で検出可能であることを示している。
【0065】
(実施例5)
実施例4と同様にメソポーラスシリカからなる多孔質体を備えるチップを用意した。チップと、0.1mLの[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン(DAPTMS)及び0.7mLのトルエンの混合溶液の入ったバイアルと、をテフロン(登録商標)容器に入れて密閉し、テフロン容器を150℃で3時間加熱した。DAPTMSは、下記化学式1に示すように、官能基としてジメチルアミノ基を有する。
【化1】
【0066】
その後、チップを、エタノール、トルエンの順で超音波洗浄し、乾燥させて、DAPTMSで修飾されたメソポーラスシリカからなる多孔質体をチップのドットパターン構造上に形成した。
【0067】
DAPTMSで修飾されたメソポーラスシリカからなる多孔質体を備えるチップに光を照射し、チップを透過した光の特定の波長における光強度を測定した。チップが備えるDAPTMSで修飾されたメソポーラスシリカからなる多孔質体に10ppmの硫化水素ガスを接触させても、その間、図17に示すように、吸収ピークの波長シフトに伴う、特定の波長における光強度の低下は検出されなかった。これに対し、チップが備えるDAPTMSで修飾されたメソポーラスシリカからなる多孔質体に0.6ppmの二酸化硫黄ガスを接触させると、吸収ピークの波長シフトに伴う、特定の波長における光強度の低下が検出された。この結果は、実施例5に係る無機ガス検出装置が、二酸化硫黄ガスを短時間に高感度で特異的に検出可能であることを示している。
【0068】
(実施例6)
実施例4と同様にメソポーラスシリカからなる多孔質体を備えるチップを用意した。チップと、0.1mLの3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)及び0.7mLのトルエンの混合溶液の入ったバイアルと、をテフロン容器に入れて密閉し、テフロン容器を150℃で3時間加熱した。APTMSは、下記化学式2に示すように、官能基としてアミノ基を有する。
【化2】
【0069】
その後、チップを、エタノール、トルエン、1mmol/L水酸化ナトリウム水溶液、1mmol/L硝酸の順で超音波洗浄し、乾燥させて、APTMSで修飾されたメソポーラスシリカからなる多孔質体をチップのドットパターン構造上に形成した。
【0070】
多孔質体を備えないチップに光を照射し、チップを透過した光の特定の波長における光強度を測定した。チップに20ppmの二酸化硫黄ガスを接触させても、その間、図18に示すように、吸収ピークの波長シフトに伴う、特定の波長における光強度の低下は検出されなかった。
【0071】
修飾されていないメソポーラスシリカからなる多孔質体を備えるチップに光を照射し、チップを透過した光の特定の波長における光強度を測定した。チップが備える修飾されていないメソポーラスシリカに20ppmの二酸化硫黄ガスを接触させると、吸収ピークの波長シフトに伴う、特定の波長における光強度の低下が検出された。
【0072】
APTMSで修飾されたメソポーラスシリカからなる多孔質体を備えるチップに光を照射し、チップを透過した光の特定の波長における光強度を測定した。チップが備えるAPTMSで修飾されたメソポーラスシリカに20ppmの二酸化硫黄ガスを接触させると、吸収ピークの波長シフトに伴う、特定の波長における光強度の低下が検出された。当該光強度の低下は、修飾されていないメソポーラスシリカからなる多孔質体を備えるチップを用いたときよりも顕著であった。
【0073】
DAPTMSで修飾されたメソポーラスシリカからなる多孔質体を備えるチップに光を照射し、チップを透過した光の特定の波長における光強度を測定した。チップが備えるDAPTMSで修飾されたメソポーラスシリカに20ppmの二酸化硫黄ガスを接触させると、吸収ピークの波長シフトに伴う、特定の波長における光強度の低下が検出された。当該光強度の低下は、APTMSで修飾されたメソポーラスシリカからなる多孔質体を備えるチップを用いたときよりも顕著であった。
【0074】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る無機ガス検出システムは、図19及び図20に示すように、金属体と、金属体に接する多孔質体と、をそれぞれ備える複数の複合体50A、50B、50C、50Dと、複数の複合体50A、50B、50C、50Dのそれぞれに光を照射する光源20と、光を照射された複数の複合体50A、50B、50C、50Dのそれぞれにおける表面プラズモン共鳴による光の吸収を検出する検出器30と、を備える。
【0075】
複数の複合体50A、50B、50C、50Dのそれぞれにおける金属体及び多孔質体の材料及び構造等は、第1実施形態と同様である。無機ガス検出システムは、複数の複合体50A、50B、50C、50Dのそれぞれの金属体における表面プラズモン共鳴による吸光度変化が生じる波長帯域の光を透過させるバンドパスフィルタ17をさらに備えていてもよい。
【0076】
第2実施形態に係る無機ガス検出システムは、例えば、複数の複合体50A、50B、50C、50Dの少なくとも一部である複合体50A、50B、50Cに測定対象の無機ガスを送るための流路60をさらに備える。流路60の導入口の近傍には、例えば、測定対象ガスからダスト等の固体を除去するフィルター61が配置される。測定対象ガスは、例えば、ポンプ等の吸引器62によって、流路60外から流路60内に吸引される。
【0077】
複数の複合体50A、50B、50C、50Dの少なくとも一部である複合体50A、50B、50Cは、測定対象の無機ガスと相互作用する。ただし、複数の複合体50A、50B、50C、50Dの少なくとも一部である複合体50A、50B、50Cにおいて、多孔質体が異なっていてよい。例えば、複合体50Aの多孔質体は硫化水素と相互作用し、複合体50Bの多孔質体は二酸化硫黄と相互作用し、複合体50Cの多孔質体は二酸化炭素と相互作用するが、これに限定されない。
【0078】
検出器30には、処理装置300が接続される。処理装置300は、複数の複合体50A、50B、50C、50Dのうち測定対象ガスを送られた複合体50A、50B、50Cを透過した光の強度を表す信号を測定信号とし、測定対象ガスを送られない複合体50Dを透過した光の強度を表す信号を参照信号とする。処理装置300は、同時測定された測定信号から参照信号を引いた差分信号を用いて、無機ガスの存在の有無を判定する。これにより、温度変化等の影響を受けやすいバックグラウンドノイズを除去し、感度を向上させることが可能である。
【0079】
また、処理装置300は、複数の複合体50A、50B、50C、50Dのうち測定対象ガスを送られた複合体50A、50B、50Cを透過した光の強度に基づいて、測定対象混合ガスが含み得る各無機ガス成分の存在を検出することが可能である。さらに、処理装置300は、多変量解析等の数値解析を用いて、測定対象混合ガスが含み得る各無機ガス成分の濃度を算出してもよい。
【0080】
(他の実施形態)
上記のように本発明を実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。例えば、実施形態では、ナノインプリントリソグラフィー法を用いたチップの製造方法を説明したが、電子線リソグラフィー法を用いてチップを製造してもよい。このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。
【符号の説明】
【0081】
10・・・チップ、11・・・基板、12・・・酸化膜、13・・・金属体、15・・・多孔質体、17・・・バンドパスフィルタ、20・・・光源、30・・・検出器、50・・・複合体、60・・・流路、61・・・フィルター、62・・・吸引器、100・・・モールド、110・・・反転レプリカモールド、119・・・蒸着膜、120・・・樹脂層、121・・・蒸着膜、122・・・堆積膜、300・・・処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図18
図19
図20