(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】生分解性の立体網状繊材集合体
(51)【国際特許分類】
D04H 3/011 20120101AFI20230630BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20230630BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
D04H3/011 ZBP
C08L101/16
D04H3/16
(21)【出願番号】P 2019021550
(22)【出願日】2019-02-08
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591100448
【氏名又は名称】パネフリ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】南 正治
(72)【発明者】
【氏名】中村 信雄
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】小谷 道彦
(72)【発明者】
【氏名】古賀 政臣
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-032236(JP,A)
【文献】特開2013-011042(JP,A)
【文献】特開平10-046463(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212544(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 - 18/04
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性の立体網状繊材集合体であって、
局所的接合が互いにもたらされた複数の繊材から構成されており、
前記繊材は、生分解性樹脂、および、前記局所的接合のための接合促進樹脂を含んだ組成を少なくとも有
し、
前記立体網状繊材集合体の前記繊材の線径が0.6mm~3mmであって、前記立体網状繊材集合体における前記繊材の平均長さが250mm以上であり、
前記接合促進樹脂は、前記生分解性樹脂と引張弾性率の点で異なっており、
前記生分解性樹脂がポリヒドロキシアルカノエートを含んで成る生分解性樹脂であって、前記接合促進樹脂の引張弾性率が前記ポリヒドロキシアルカノエートを含んで成る前記生分解性樹脂の引張弾性率よりも300~750MPa小さいか、あるいは、前記生分解性樹脂がポリブチレンサクシネートアジペートを含んで成る生分解性樹脂であって、前記接合促進樹脂の引張弾性率が前記ポリブチレンサクシネートアジペートを含んで成る前記生分解性樹脂の引張弾性率よりも125~245MPa小さい又は大きい、立体網状繊材集合体。
【請求項2】
前記接合促進樹脂が、ポリブチレンアルキレートテレフタレート
およびポリカプロラクトンから成る群から選択される少なくとも1種を含む、請求項
1に記載の立体網状繊材集合体。
【請求項3】
前記生分解性樹脂と前記接合促進樹脂との総計を100重量部とすると、前記生分解性樹脂が35~95重量部を成し、前記接合促進樹脂が5~65重量部を成す、請求項1
または2に記載の立体網状繊材集合体。
【請求項4】
前記繊材が可塑剤を更に有して成る、請求項1~
3のいずれかに記載の立体網状繊材集合体。
【請求項5】
前記生分解性樹脂と前記接合促進樹脂との総計100重量部に対して、前記可塑剤が5~30重量部となっている、請求項
4に記載の立体網状繊材集合体。
【請求項6】
前記ポリヒドロキシアルカノエートが、以下の一般式で表される繰り返し単位を含む、請求項
1~
5のいずれかに記載の立体網状繊材集合体。
【化1】
(式中、RはC
nH
2n+1で表されるアルキル基であり、nは1以上15以下の整数である)
【請求項7】
前記ポリヒドロキシアルカノエートは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)である、請求項
1~
6のいずれかに記載の立体網状繊材集合体。
【請求項8】
前記ポリブチレンアルキレートテレフタレートが、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバセートテレフタレートおよびポリブチレンアゼレートテレフタレートから成る群から選択される少なくとも1種である、請求項
2に従属する請求項
3~
7のいずれかに記載の立体網状繊材集合体。
【請求項9】
前記可塑剤が変性グリセリンである、請求項
4または
5に従属する請求項
6~
8のいずれかに記載の立体網状繊材集合体。
【請求項10】
前記繊材を成す材料のメルトフローレート(MFR)が、3~80g/10分である、請求項1~
9のいずれかに記載の立体網状繊材集合体。
【請求項11】
前記繊材を成す材料のメルトフローレート(MFR)が、10~80g/10分である、請求項1~
9のいずれかに記載の立体網状繊材集合体。
【請求項12】
前記繊材を成す材料のメルトフローレート(MFR)が、20~80g/10分である、請求項1~
9のいずれかに記載の立体網状繊材集合体。
【請求項13】
前記生分解性が海洋分解性である、請求項1~
12のいずれかに記載の立体網状繊材集合体。
【請求項14】
前記接合促進樹脂の引張弾性率が600MPa以下である、請求項
1に記載の立体網状繊材集合体。
【請求項15】
前記局所的接合として前記繊材が互いに点接続されている、請求項1に記載の立体網状繊材集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性の立体網状繊材集合体に関する。より詳細には、本発明は、織布、編物、不織布、フエルトなど日常的に目にする機会が多い繊維物とは外観が異なる立体網状繊材集合体であって、特に生分解性を有する立体網状繊材集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
身の回りの製品および工業製品などの製品の多くにはクッション材が用いられている。例えば、自動車や電車等のシート、医療用器具および家具等にクッション材が用いられている。このようなクッション材は、従来より発泡ポリウレタンまたは木綿等が用いられてきた。発泡ポリウレタンは、重合過程で発泡ポリウレタンに残存するモノマー等が刺激性を呈し得る。よって、人に対して使用される製品に発泡ポリウレタンが利用される場合、肌に触れることで人体に悪影響を及ぼすことがある。また、発泡ポリウレタンは通気性が十分といえず、使用用途によっては望ましくない。一方、木綿には残存モノマーの問題はないものの、繊維が偏在し易く、クッション材として満足のいく機能を奏し得ない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-3257号公報
【文献】特許第5459436号公報
【文献】特許第5459438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発泡ポリウレタンまたは木綿等に代わるクッション材としては、例えば特許文献2および3などで開示される如くポリエステル等の樹脂から紡糸された繊材を網状に成型・成形させた集合体が提案されている。かかる繊材集合体は、刺激性の残存モノマーの問題、繊材の偏在といった問題はなく、さらに高い通気性を有し得る。
【0005】
本願発明者らは、従前の樹脂製の網状成形集合体では克服すべき課題が依然あることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者らは見出した。
【0006】
樹脂繊材から成る網状成形集合体は、強度や成形し易さの点で一般に好ましいものの、廃棄の点で改善の余地があり得る。例えば、樹脂繊材は、焼却処理に過度な高温条件を要すると焼却炉にとって好ましくない。また、樹脂繊材の種類によっては焼却に際してダイオキシン類等の環境汚染物質をもたらし得る。樹脂繊材を埋め立て処分することも考えられるが、樹脂繊材は、微生物による分解を受けにくく、それゆえ、自然分解され得ない。一度埋め立てた場所は再度の利用が困難であり、種々の廃棄物量が増大している近年の状況では、埋め立て場所の確保自体が難しくなってきている。特に、意図せずに廃棄された網状成形集合体の樹脂繊材は、それが自然界で分解されないと、環境汚染を引き起こす要因になりかねない。
【0007】
自然環境を守る材料という観点からは生分解性材料を使用することが考えられるものの、従来の樹脂材を生分解性のものに単に置き換えただけでは十分とはいえない。これは立体網状繊材集合体について特にいえることを本願発明者らは見出した。具体的には、立体網状繊材集合体は、複数の繊材が局所的に互いに接合されて立体的な網状のループが構成されているところ、単に生分解性の材料に置き換えただけでは“立体網状ループ”が好適に形成され難いことを見出した。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、環境の観点に鑑みつつも、立体網状ループの形成の点でより満足のいく立体網状繊材集合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された立体網状繊材集合体の発明に至った。
【0010】
本発明では、生分解性の立体網状繊材集合体であって、
局所的接合が互いにもたらされた複数の繊材から構成されており、
繊材は、生分解性樹脂、および、局所的接合のための接合促進樹脂を含んだ組成を少なくとも有する、立体網状繊材集合体が提供される。
【0011】
本発明の立体網状繊材集合体は、それを構成する繊材が、生分解性樹脂、および、局所的接合のための接合促進樹脂を含んだ組成を有することを特徴の1つとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の立体網状繊材集合体は、生分解性の繊材から成り、環境の観点でより望ましいものとなっている。つまり、使用後において自然界分解され得、廃棄される立体網状繊材集合体が環境汚染などの問題を引き起こす虞が減じられている。
【0013】
また、本発明の立体網状繊材集合体は、生分解性の繊材から成りつつも、その局所的接合が不都合に低減されていない。つまり、本発明では、繊材同士の局所的な接合がより満足のいくものになっており、立体網状繊材集合体として所望の立体網状構成を成している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の立体網状繊材集合体を表した模式的斜視図および一部拡大図
【
図2】本発明の立体網状繊材集合体の“可撓性”を説明するための模式的斜視図
【
図4】間隙空間のサイズの確認試験の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の一実施形態に係る立体網状繊材集合体をより詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図面における各種の要素は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、寸法比などの細部は実物と異なり得る。
【0016】
本明細書で直接的または間接的に用いる上下方向および左右方向は、それぞれ図中における上下方向および左右方向に相当する。ある好適な態様では、鉛直方向下向き(すなわち、重力が働く方向)が「下方向」に相当し、その逆向きが「上方向」に相当すると捉えることができる。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材または同じ意味内容を示す。
【0017】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、特段の言及がない限り、下限および上限の数値そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈され得る。
【0018】
本発明は、生分解性の立体網状繊材集合体に関する。本発明の立体網状繊材集合体は、目視の点でいえば
図1に示されるような外観を有しているものであり、日常的に目にする機会が多い繊維物と外観が異なっている。つまり、本発明の立体網状繊材集合体は、織布、編物、不織布、フエルトなどの繊維物とは外観が異なっている。
【0019】
図1に示すように、本発明の立体網状繊材集合体100は、局所的接合が互いにもたらされた複数の繊材1から構成されている。複数の繊材1が互いに交差するように局所的に接合することで立体網状繊材集合体100がもたらされているといえる。かかる局所的な接合に起因して多数のループがランダムに形成されている。つまり、立体網状繊材集合体100は、中実構造でなく、複雑に絡み合う“繊材”に起因して立体配置的および/または形態的にランダムな間隙空間15(すなわち、立体網状ループ)が多く形成された構造となっている。
【0020】
本明細書にいう「立体網状繊材集合体」とは、複数の繊材がランダムな方向に湾曲して互いに局所的に接合することで立体的に集合した構造体であり、全体として三次元的に網状を成している構造体である。
図1に示すようにランダムに配向する繊材1が互いに局所的な接合を成しており、それゆえ立体網状繊材集合体100では繊材接合部がもたらされている。このような複数の繊材1の局所的な接合部に起因して間隙空間15は立体配置的かつ形態的にランダムな状態で設けられている。図示する態様から分かるように、好ましくは接合部・点接合部を有する繊材の内側の中空部分が「間隙空間」となっている。特に、かかる接合部・点接合部は、好ましくは繊材同士が融着されたものである。よって、複数の繊材(特に湾曲繊材、好ましくはランダムな湾曲繊材)が互いに接合した融着接合部(特に点融着部)を有し、そのような融着接合部(点融着部)を有するランダムな湾曲繊材の内側に形成されている中空部分が「間隙空間」に相当する。より具体的には、融着接合部によってもたらされている複数の繊材がなす閉領域(特に複数の繊材によって囲まれる閉領域であって、好ましくはランダムな閉領域)が間隙空間に相当する。別の表現でいえば、複数のランダムな湾曲細材が互いに接合した点接合部(特に融着接合部・融着点接合部)を有し、そのような点接合部(特に融着接合部・融着点接合部)に起因してランダムな湾曲細材の内側に形成されている中空部分が「間隙空間」に相当するともいえる。
【0021】
立体網状繊材集合体に関していう「繊材」とは、全体が細長い形状を有するものの、布繊維(衣服などの繊維)や濾材繊維などよりも太く、かつ、立体網状繊維集合体にてランダムに曲がりくねった形態の細長部材のことを意味している。このような比較的太い繊材でありながらも、それらは上述した点接合・融着点接合を成している。よって、本発明における立体網状繊材集合体は、一般的な繊維品(日常的に目にする機会が多い繊維品)とは本質的に異なり、それゆえ織布、編物、不織布、フエルトなどの繊維物と差別化され得る。例えば、本発明における繊材は、水濾過用濾材(より具体的には水槽用の水濾過濾材、例えば魚などの生物飼育用の水濾過濾材、より具体的には例えば観賞魚用の水濾過濾材、一例を挙げると、マット工房から販売されている“ローズマット”濾材)などの繊維よりも太く、かつ、それよりも長い細長部材である。また、立体網状繊材集合体に関していう「互いに局所的に接合する」とは、繊材全体が接続された形態にあるのではなく、繊材同士が“点接続”するように(好ましくは、繊材の表面同士が局所的に接合するように、より好ましくは互いにランダムに異なる方向に向いた繊材同士が交差して“点接触”するように)引っ付いた形態のことを実質的に指している。
【0022】
立体網状繊材集合体に関していう「複数の繊材」とは、例えば縦寸法15cm×横寸法15cm×厚み寸法1cmの立体網状繊維集合体を想定した場合、その中に100~400本程度(例えば、150~350本)の繊材が存在することを意味している。
【0023】
立体網状繊材集合体における繊材は、布製品および水濾過用濾材などの一般的な繊維品の繊維よりも太い。つまり、立体網状繊材集合体における繊材の線径(断面径)は、好ましくは0.6mm~3mm程度であり、より好ましくは0.7mm~2mm程度、例えば0.7mm~1.5mmである。繊度が上記範囲内であると、布製品および水濾過用濾材(線径・断面径:約0.03mm)などの一般的な繊維品よりも太い繊維となり、より好適な強度および堅さが供され得る。なお、上記の線径(断面径)の値につき詳述しておくと、「立体網状繊材集合体における繊材の線径・断面径」および「水濾過用濾材の繊維の線径・断面径」は、それぞれ以下の測定手法で得られた値を意味している。
・立体網状繊材集合体における繊材の線径(断面径)
シンワ測定製のデジタルノギスを用いて、繊材の長手方向に対して直角になるように線径測定。繊維同士が融着している部分(局所的な接合部)は避け、任意に10箇所測定し、その相加平均値を算出。
・水濾過用濾材の繊維の線径(断面径)
キーエンス製のマイクロスコープVHX700Fを用いて、200倍に拡大した画像を撮影し、ピントの合ったところで、繊維の長手方向に対して直角になるように線径測定。繊維同士が絡まっている部分は避け、任意に10箇所測定し、その相加平均値を算出。
【0024】
立体網状繊材集合体100の繊材の長さは、布製品(代表的には衣服)、不織布および水濾過用濾材(特にウール状の水濾過用濾材)などの繊維製品の繊維よりも一般に長い。例えば、立体網状繊材集合体における繊材の平均長さは水濾過用濾材の繊維の長さよりも長くなっている。このように通常の繊維製品よりも長い繊材は、間隙空間15の形成に有効に寄与し得る。なお、ここでいう「水濾過用濾材」とは、よりきれいな水を得るための濾材(好ましくは綿状の濾材)を意味している。かかる水濾過用濾材は例えば魚(特に観賞魚)の水槽などに用いられる濾材であり、明確性のため具体的な例示をしておくと「マット工房から販売されている“ローズマット”濾材」である。
【0025】
長い繊材につき詳述しておく。立体網状繊材集合体の繊材の平均長さは、250mm以上、好ましくは300mm以上、より好ましくは350mm以上であり、かつ、700mm以下、好ましくは650mm以下、より好ましくは600mm以下である(より端的にいえば、繊材の平均長さは250~700mm、300~650mmまたは350~600mmであってよい)。ここでいう「繊材の長さ」とは、立体網状繊材集合体の繊材の接合を解除して直線状に伸ばしたと仮定した場合の長さのことを実質的に意味しており、「繊材の平均長さ」は、立体網状繊材集合体に含まれる複数の繊材長さの平均である。より具体的には、上記の繊材の平均長さの値は、縦20cm×横20cm×厚み1cmの直方体形状の立体網状繊材集合体サンプルから繊材を任意に抜き出し、次いで、繊材の一方の端をテープで固定した後で繊材が切れないように引っ張りながら繊材の他方の端をテープで固定して測定した値の平均(例えば3本の相加平均)である。同様にして、上記の「水濾過用濾材の繊維の長さ」は、縦20cm×横20cm×厚み1cmの水濾過用濾材から繊維を抜き出し、次いで、繊維の一方の端をテープで固定した後で繊維が切れないように引っ張りながら繊維の他方の端をテープで固定して測定した値の平均(例えば10本の相加平均)である。本発明では立体網状繊材集合体における繊材がこのように長繊材であるからこそ、繊材がランダムに曲がりくねった形態を取り易くなり立体配置的かつ形態的にランダムな間隙空間15が好適に立体網状繊材集合体100にもたらされ易くなる。
【0026】
立体網状繊材集合体100の見掛け密度は、好ましくは0.020g/cm3~0.300g/cm3、より好ましくは0.025g/cm3~0.200g/cm3、さらに好ましくは0.030g/cm3~0.150g/cm3、さらに好ましくは0.035g/cm3~0.100g/cm3、特に好ましくは0.040g/cm3~0.080g/cm3である。見掛け密度が上記範囲にある立体網状繊材集合体は、比較的軽量であり、ハンドリングの点で望ましくなる。ここでいう見掛けの密度は、200mm×200mmの平面視サイズに立体網状繊材集合体を切断して得られる切断体(例えば厚さ1cm)に対して直径200mmの円盤状部材で1g/cm2の圧力を付与したときの厚み寸法を測定し、次いで、得られた厚みから体積を求め、切断体の重さを体積で除することで測定される密度である。
【0027】
図1に示す形態から分かるように、立体網状繊材集合体100では複数の繊材1から間隙空間15がもたらされている。特に、本発明における「間隙空間」は、繊材が局所的に接合すること(好ましくは繊材同士の点接合)で形成された立体網状繊材集合体の中空部分(間隙)に相当する。かかる局所的に接合は、好ましくは、溶融状態の繊材がランダムな方向で互いに融着することでもたらされたものに相当する。それゆえ、立体網状繊材集合体では繊材(好ましくは長い繊材、より好ましくはランダムに曲がりくねった長繊材)に関して局所的な融着部(すなわち“点融着部”)が存在し、それによって複数の間隙空間がもたらされている。換言すれば、立体網状繊材集合体100は、ランダムに曲がりくねった細材または極細材1(湾曲細材・湾曲極細材)から成っているところ、その湾曲細材が複数の接合部(点接合部)、特に融着部(点融着部)を有することで「間隙空間」がもたらされているともいえる。また、融着接合部によってもたらされている複数の繊材が成す閉領域(すなわち、融着接合部を有する複数の湾曲繊材によって囲まれる閉領域)が立体網状繊材集合体の間隙空間に相当する。このような立体網状繊材集合体100の間隙空間は、目視で該集合体の向こう側が観測できる相対的に大きいサイズとなっている特徴を有する(換言すれば、立体網状繊材集合体を手にとって顔の前・目の前に20cm離して位置付けると、その立体網状繊材集合体の向こう側が間隙空間を介して見ることができる)。これは、立体網状繊材集合体100の間隙空間が「繊維(特に短繊維)が密に詰まった不織体形態の集合体」よりも大きいサイズであることを意味している。繊維(特に短繊維)が密に詰まった不織体形態の集合体は遮りが大きく目視で向こう側が実質観測できないところ、本発明における立体網状繊材集合体100は、“間隙空間”に起因して遮りがより少なく目視で向こう側が観測できるようになっている。
【0028】
例えば、立体網状繊材集合体の平面視における間隙空間の平均サイズは、目視の観点でいえば、好ましくは3~10mm程度、より好ましくは3~8mm程度(例えば4~7mm程度)となっている。また、より客観性が高い指標となる「ふるい試験法」に基づくと、立体網状繊材集合体の間隙空間のサイズ(最大サイズ)が3.5~4.5mm、例えば3.75~4.25mm程度(1つ例示すると4.0mm)となっている。この“ふるい試験法”による間隙空間の最大サイズは、種々の粒径から成る粒体群(例えば砂または砂利)が立体網状繊材集合体を通過するか否かの知見に基づいている。
【0029】
本明細書でいう「ふるい試験法による間隙空間の最大サイズ」とは、広義には、立体網状繊材集合体をふるいとして用いて種々の粒径範囲の砂利をふるい操作にかけた際、透過率50%に依拠して算出されるサイズを意味している。狭義には、「ふるい試験法による間隙空間の最大サイズ」は、実施例の《間隙空間のサイズの確認試験》に従って算出されるものであり、従って、以下の条件下のふるい試験において透過率が50%超える条件からそれ未満となる条件を把握することで得られるサイズである。
● 形状およびサイズ
“網ふるい”として用いる立体網状繊材集合体の形状およびサイズは以下の通りである。
・形状:平板状(直方体形状)
・サイズ:縦寸法10cm、横寸法10cm、厚さ寸法1cm
● ふるいにかける砂利
「粒径4.0mm~5.0mm」、「粒径3.0mm~4.0mm」、「粒径2.4mm~3.0mm」、「粒径2.0mm~2.4mm」、「粒径1.7mm~2.0mm」、「粒径0.9mm~1.7mm」、「粒径0.5mm~0.9mm」、「粒径0.25mm~0.5mm」、「粒径0.1mm~0.25mm」の9種類の砂利(特に《間隙空間のサイズの確認試験》における〈ふるい分け試験に用いた砂〉および「(I)砂利粒径の調整」に従って調製される9種類の砂利)
● ふるい分け試験
9種の砂利を2.0gずつ個々に精秤して立体網状繊材集合体の上に載せ1分間約60往復の割合となるように手動で振動させる。より具体的には、立体網状繊材集合体を両手で持ち、水平面内を一方向となるように、振幅約70mmで1分間約60往復の割合で振動させる。得られたふるい下の砂利の重量を精秤し、それぞれの砂利につきふるいを透過した割合をふるい下百分率として算出する(ふるい下百分率“100%”は、全ての砂利がふるいを透過したことを意味する一方、ふるい下百分率“0%”は、砂利がふるいを全く透過しなかったことを意味する)。9種類の砂利ごとにふるい下百分率を算出する。より客観性を高めるべく、かかるふるい分け試験は3回ずつ実施する(即ち、n=3とする)。
● 評価
9種類の粒径毎にふるい下百分率を棒グラフで表す。具体的には、グラフ縦軸を“ふるい下百分率”とし、グラフ横軸を9種類の粒径範囲とする。横軸は、粒径範囲が小さい順から大きくなるように並べる(《間隙空間のサイズの確認試験》における
図4参照)。
このようにして得られたグラフにおいて、横軸の値が大きくなるように順にみていった場合に“ふるい下百分率”が50%以上の値からそれ未満となる条件を把握し、その境界となる値を「ふるい試験法による間隙空間の最大サイズ」とする。つまり、50%超える値から50%未満となる条件において、その50%未満における粒径範囲の最小値が「ふるい試験法による間隙空間の最大サイズ」とする(
図4に示す例でいえば、実施例について横軸に沿って右へと順にみていくと「4.0~5.0mm」の条件で50%未満となるので、その数値範囲の最小値の“4.0mm”が本発明でいう「間隙空間の最大サイズ」に相当する)。
【0030】
本発明の立体網状繊材集合体100は、
図1に示す形態から分かるように、好ましくは「繊材同士の複数の局所接合に起因したランダムな間隙構造15」を有している。ここでいうランダムな間隙構造とは、複数の間隙部が立体的配置および形態の観点でランダムになっていることを意味している。かかる間隙構造ゆえ、本発明の立体網状繊材集合体では、好ましくは異方性が減じられ、主面に対する方向については特にどれかに依存することなくいずれの方向であっても好適なクッション特性を呈し得る。
【0031】
本発明の立体網状繊材集合体は、その目付けが好ましくは0.5~2.0kg/m2となっている。より好ましくは立体網状繊材集合体の目付けは1.0~1.5kg/m2であり、例えば約1.1kg/m2または約1.4kg/m2などであってよい。ここでいう目付けの数値は、200mm×200mmの平面視サイズの立体網状繊材集合体を切断して得られる切断体の重さをその平面視面積で除すことによって測定されたものを意味している。このような目付けであることによって、繊材の点で太くなり、立体網状繊材集合体がより好適な強度および堅さを呈し得る。
【0032】
ある好適な態様では、立体網状繊材集合体が全体として剛性があるものの可撓性も有している。つまり、立体網状繊材集合体100は全体としてその構造を維持したまま(例えば、好ましくは局所的接合を維持したまま)撓ませることができ、特に人の手によって加えられる力で撓ませることができる(
図2参照)。本発明の立体網状繊材集合体100は、ランダムな間隙空間を有しており、それに起因して全体が可撓性を有しているともいえる。かかる可撓性ゆえ、各種の用途としてより好適に用いることが可能となる。
【0033】
本発明の立体網状繊材集合体は、好ましくは、それ単一品でクッション材などに用いることができる。つまり、
図1および
図2に示す態様から分かるように、複数の繊材1が互いに局所的に接合した立体網状繊材集合体100のみで、他の部材が組み合わされることなくクッション材として供すことができる。これは、複数の繊材1が互いに局所的に接合して成る立体網状繊材集合体100が、上述の如く力を加えると全体的に撓ませることができるものの、決して軟らかいといったものでなく所望の堅さを有していることに1つ起因する。つまり、立体網状繊材集合体が仮に過度に軟らかい場合、構造強度を上げるべく補強材と組み合わせることが場合によっては考えられるものの、本発明における立体網状繊材集合体では、繊材および/または繊材同士の接合部などに起因して所望の堅さがもたらされており、その必要はない。
【0034】
図示する形態から分かるように、本発明の立体網状繊材集合体は、局所的に接合した複数の繊材が全体的に詰った形態を好ましくは有している。「全体的に詰った形態」とは、立体網状繊材集合体について、繊材が存在する繊材領域がどの箇所においても同様に存在していることを意味しており、非繊材領域(例えば、立体網状繊材集合体の繊材部分を部分的に除去した又は刳り抜いたような局所的な非繊材領域)が設けられていないことを意味している。つまり、立体網状繊材集合体の内部において繊材密度に極端な偏りがなく、好ましくは本発明の立体網状繊材集合体は、どの断面で切り取っても、同様な繊材断面密度を有している。
【0035】
ここで立体網状繊材集合体の製造方法について説明しておく。まず、原料樹脂の融点以上の温度に加熱した二軸押出機によって、樹脂を溶融混練する。次いで、複数の孔を有するTダイから、溶融状態の樹脂を連続的に下方向に吐出することによって紡糸すると、立体網状繊材集合体を成型できる。Tダイの直下においては、水浴(または湯浴)を設置し、水浴中に2つのコンベアを並行に設置し、コンベアの一部が水面上になるように配置しておく。これにより、溶融状態の樹脂からなる繊材が、2つのコンベアのクリアランス間において、水浴水面に達する際に、浮力が発生することで繊材がランダムな方向性を持つようになる。同時に、この多数の繊材は、2つのコンベアに挟まれ、除熱されながら水浴中を運ばれ、繊材同士が融着しながら固化することによって、立体網状繊材集合体が成型される。成型された立体網状繊材集合体は、適当な長さおよび形状に切断される。なお、立体網状繊材集合体の厚みは、2つのコンベアのクリアランス間の距離に依存し得る。
【0036】
本発明の立体網状繊材集合体は、“生分解性”となっている特徴を有している。海、湖、池、沼および河川・川ならびに土壌などに本発明の立体網状繊材集合体が廃棄された場合であっても長期的にみれば自然分解され得る。つまり、本発明の立体網状繊材集合体は、長期間環境中に残存して自然環境や生活環境に負荷を与えるといった虞が低減されている。
【0037】
別の表現でいえば、本発明の立体網状繊材集合体は、海、湖、池、沼および河川・川ならびに土壌などの自然界において、微生物が関与して分解され得る。つまり、立体網状繊材集合体は、大きく捉えると樹脂材から成るものであるが、近年の廃棄物問題に鑑みると、環境に優しいものとなっている。
【0038】
“生分解性”ゆえ、本発明の立体網状繊材集合体では繊材自体が生分解性樹脂を含んで成る。本発明では、繊材が、単に生分解性樹脂を含んでいるだけでなく、立体網状繊材集合体を成すために必要な特有の成分も含んでいる。これにつき、繊材はその局所的接合のための成分を更に含んでいる。
【0039】
具体的には、本発明の立体網状繊材集合体では、繊材が、「生分解性樹脂」のみならず「繊材同士の局所的接合のための接合促進剤」も含んだ組成を少なくとも有している。これによって、立体網状繊材集合体は、繊材の局所的接合に起因して立体的形態を好適に維持しつつも、海、湖、池、沼および河川・川ならびに土壌などに廃棄された場合に自然分解されることになる。つまり、生分解性樹脂および接合促進剤を含んだ繊材組成は、立体網状繊材集合体の生分解特性に寄与しつつも、立体網状形態の好適な維持に資する。
【0040】
繊材が、生分解性樹脂を含まない場合、立体網状繊材集合体がそもそも生分解特性を呈さない。後述する[実施例]で実証されていることであるが、本願発明者らは、生分解性のために単に繊材組成を生分解性樹脂にしただけでは、立体網状繊材集合体が所望に形成されないことを見出した。具体的には、繊材組成が実質的に生分解性樹脂のみだと繊材から成る立体網状構造が好適に得られないことを見出した。生分解性樹脂だけに依存すると、複数の繊材1の局所的な接合部に起因した間隙空間15(すなわち、立体網状ループ)が好適に形成されず、それゆえ、繊材集合体が三次元立体的な形態を取り難くなり得るともいえる。
【0041】
そのような事項に鑑み、本発明では、繊材が、生分解性樹脂、および、繊材同士の局所的接合のための接合促進剤を含んだ組成を有している。
【0042】
ある好適な態様では、繊材組成の生分解性樹脂が、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)およびポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(PBSAT)から成る群から選択される少なくとも1種となっている。繊材がこのような生分解性樹脂を含んでいると、立体網状繊材集合体が海、湖、池、沼および河川・川ならびに土壌などに廃棄された場合の自然分解に好適に資することになる。このような生分解性樹脂は、例えば市販のものを用いてよい。
【0043】
繊材組成の接合促進樹脂は、立体網状繊材集合体における繊材同士の局所的接合に少しでも資するものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、接合促進樹脂は、その引張弾性率が、ある程度の範囲内に収まっていることが好ましい。例示すると、接合促進樹脂の引張弾性率は600MPa以下となっていることが好ましい。より好ましくは接合促進樹脂の引張弾性率が550MPa以下となっており、例えば、接合促進樹脂の引張弾性率が500MPa以下である。かかる接合促進樹脂の引張弾性率の下限値は、好ましくは50MPaであり、例えば90MPaまたは100MPaである。このような引張弾性率の範囲にある接合促進樹脂は、繊材において生分解性樹脂と相俟って繊材同士の局所的接合を向上させ易くなる。よって、複数の繊材の局所的な接合部に起因した間隙空間(すなわち、立体網状ループ)が好適に形成され易くなり、ひいては繊材集合体が三次元立体的な形態を取り易くなる。このようなことから分かるように、本発明において接合促進樹脂は、“繊材の交点結合剤”、“間隙空間の形成促進剤”または“立体網状ループの形成促進剤”などと称すこともできる。
【0044】
ここで、本明細書における「引張弾性率」の値は、JIS K7161に基づいて測定されるものを意味している。
【0045】
また、別の切り口からいえば、接合促進樹脂は、好ましくは引張弾性率の点で生分解性樹脂と異なっている。つまり、接合促進樹脂の引張弾性率は、生分解性樹脂の引張弾性率とある程度の差を有していることが好ましい。例示すると、接合促進樹脂の引張弾性率が生分解性樹脂の引張弾性率に対して少なくとも40%大きく又は小さくなる程度に接合促進樹脂と生分解性樹脂とが引張弾性率の点で相違していることが好ましい。この上限値は、好ましくは700%であり、ある場合では500%、200%、150%または100%などである。つまり、接合促進樹脂の引張弾性率が生分解性樹脂の引張弾性率に対して40%~700%大きく又は小さくなるように(ある場合では40%~500%、40%~200%、40%~150%もしくは40%~100%大きく又は小さくなるように)接合促進樹脂と生分解性樹脂とが引張弾性率の点で相違していることが好ましい。このような接合促進樹脂は、繊材にて生分解性樹脂と相俟って繊材同士の局所的接合を好適に向上させ得る。よって、複数の繊材の局所的な接合部に起因した間隙空間(すなわち、立体網状ループ)が好適に形成され易くなり、ひいては繊材集合体が三次元立体的な形態を取り易くなる。なお、接合促進樹脂と生分解性樹脂との組合せによっては、接合促進樹脂の引張弾性率が生分解性樹脂の引張弾性率に対して60%~700%もしくは70%~690%大きく又は小さくなるように、あるいは、40%~150%もしくは40%~140%大きく又は小さくなるように接合促進樹脂と生分解性樹脂とが引張弾性率の点で相違している場合も考えられ得る。
【0046】
更に別の切り口からも説明する。繊材組成の生分解性樹脂が例えばポリヒドロキシアルカノエート(PHA)である場合、接合促進樹脂の引張弾性率は、その生分解性樹脂の引張弾性率(引張弾性率:約850MPa)よりも小さいことが好ましい。例えば、接合促進樹脂の引張弾性率は、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を含んで成る生分解性樹脂の引張弾性率よりも250~800MPa小さくなっていることが好ましく、より好ましくは生分解性樹脂の引張弾性率より300~750MPa小さくなっており、さらに好ましくは生分解性樹脂の引張弾性率より350~750MPa小さく(例えば360~745MPa小さく)なっている。このような接合促進樹脂は、繊材において生分解性樹脂と相俟って繊材同士の局所的接合を好適に向上させ得る。よって、複数の繊材の局所的な接合部に起因した間隙空間(すなわち、立体網状ループ)が好適に形成され易くなり、ひいては繊材集合体が三次元立体的な形態を取り易くなる。
【0047】
同様にして、繊材組成の生分解性樹脂が例えばポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)である場合には、接合促進樹脂の引張弾性率は、その生分解性樹脂の引張弾性率(引張弾性率:約250MPa)よりも小さい又は大きいことが好ましい。例えば、接合促進樹脂の引張弾性率は、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)を含んで成る生分解性樹脂の引張弾性率よりも好ましくは100~250MPa小さく又は大きくなっており、より好ましくは生分解性樹脂の引張弾性率より125~245MPa小さく又は大きくなっており、さらに好ましくは生分解性樹脂の引張弾性率より130~240MPa小さく又は大きくなっている(例えば生分解性樹脂の引張弾性率より130~150MPa小さくなっていたり、あるいは、生分解性樹脂の引張弾性率より220~240MPa大きくなっていたりする)。このような接合促進樹脂は、繊材にて生分解性樹脂と相俟って繊材同士の局所的接合を好適に向上させ得る。よって、複数の繊材の局所的な接合部に起因した間隙空間(すなわち、立体網状ループ)が好適に形成され易くなり、ひいては繊材集合体が三次元立体的な形態を取り易くなる。
【0048】
例えば、接合促進樹脂が、ポリブチレンアルキレートテレフタレート、ポリカプロラクトン(PCL)およびポリブチレンサクシネート(PBS)から成る群から選択される少なくとも1種となっていてよい。かかる接合促進樹脂は、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)およびポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(PBSAT)から成る群から選択される生分解性樹脂と相俟って繊材同士の局所的接合を好適に向上させ易い。つまり、ある好適な態様では、繊材組成が、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)およびポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(PBSAT)から成る群から選択される少なくとも1種の生分解性樹脂と、ポリブチレンアルキレートテレフタレート、ポリカプロラクトン(PCL)およびポリブチレンサクシネート(PBS)から成る群から選択される少なくとも1種とを含んでなる組成となっている。接合促進樹脂は、例えば市販のものを用いてよい。
【0049】
ある好適な態様では、ポリブチレンアルキレートテレフタレートは、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンセバセートテレフタレート(PBSeT)およびポリブチレンアゼレートテレフタレート(PBAzT)から成る群から選択される少なくとも1種となっている。このようなポリブチレンアルキレートテレフタレートが接合促進樹脂として用いられると、生分解性樹脂と相俟って繊材同士の局所的接合の向上に好適に寄与し、それゆえ、局所的な接合部に起因した間隙空間が好適に形成され易くなる。
【0050】
繊材組成における生分解性樹脂と接合促進樹脂との含有比は、局所的接合に起因して立体的形態が好適に維持されると共に、海、湖、池、沼および河川・川ならびに土壌などに廃棄された場合の自然分解に資するものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、繊材組成における生分解性樹脂と接合促進樹脂との総計を100重量部とすると、そのうちで生分解性樹脂が35~95重量部を成し、接合促進樹脂が5~65重量部を成していてよい。生分解性樹脂および接合促進樹脂の種類などに依るが、生分解性樹脂に対する接合促進樹脂の比が過度に小さいと、繊材同士の局所的接合の強度が不都合に減じられ得る一方、生分解性樹脂に対する接合促進樹脂の比が過度に大きくなると、軟らかくなり過ぎて立体的形態がもたらされ難くなる。よって、繊材組成の生分解性樹脂と接合促進樹脂との重量ベースの含有比は35~95:5~65となっていることが好ましい。
【0051】
また、生分解性樹脂の含有量が比較的多い場合では、生分解性樹脂の含有量が70~95重量部または75~95重量部などであるのに対して、接合促進樹脂の含有量は5~30重量部または5~25重量部などであってよい(繊材組成における生分解性樹脂と接合促進樹脂との総計は100重量部である)。一方、生分解性樹脂の含有量が比較的少ない場合、生分解性樹脂の含有量が35~65重量部または35~50重量部などであるのに対して、接合促進樹脂の含有量は35~65重量部または50~65重量部などであってよい(繊材組成における生分解性樹脂と接合促進樹脂との総計は100重量部である)。さらにいえば、それよりも更に多い又は少ない生分解性樹脂の含有量であってもよく、包括的にいえば生分解性樹脂の含有量が100重量部に対して接合促進樹脂の含有量が10~200重量部などとなっていてよい。
【0052】
本発明の立体網状繊材集合体では、繊材が、可塑剤を含んでいてよい。つまり、繊材組成が生分解性樹脂と接合促進樹脂と可塑剤とを含んで成るものであってよい。ある好適な態様では、繊材組成が生分解性樹脂と接合促進樹脂と可塑剤とのみから実質的に成っている。繊材組成において可塑剤は、生分解性樹脂および接合促進樹脂の少なくとも一方に対して効果的に働きかけ、好ましくは生分解性樹脂および接合促進樹脂の少なくとも一方を軟らかくさせ得る。これにより、繊材同士の局所的接合が好適に向上し得、局所的な接合部に起因した間隙空間が好適に形成され易くなる。好ましくは、繊材に含まれる可塑剤は、少なくとも生分解性樹脂を軟らかくするように作用するものであり、それによって繊材同士の局所的接合を好適に向上させ得る。
【0053】
可塑剤は、繊材において生分解性樹脂および接合促進樹脂の少なくとも一方を軟らかくさせ得るものであれば(好ましくは、押出機から押出された繊材前駆体から立体網状が形成されるに際して繊材前駆体がより軟らかい状態になるようなものであれば)、特に制限されない。例えば、可塑剤としては、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエートなどの変性グリセリン、ジエチルヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸エステル系化合物、ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジカプリレート、ポリエチレングリコールジイソステアレートなどのポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、エポキシ化大豆油、エポキシ化脂肪酸2-エチルヘキシル、セバシン酸系モノエステルなどが挙げられる。
【0054】
ある好適な態様では、可塑剤は変性グリセリンとなっている。変性グリセリンの場合、生分解性樹脂および/または接合促進樹脂に対して混ざり易く(すなわち、そのような樹脂に対して相溶性が良く)、繊材同士の局所的接合を向上させ易くなる。よって、変性グリセリンの場合においては局所的な接合部に起因した間隙空間が好適に形成され易くなる。
【0055】
変性グリセリンとしては、グリセリンエステル系化合物が好ましい。グリセリンエステル系化合物としては、グリセリンのモノエステル、ジエステル、又はトリエステルのいずれも使用することができる。グリセリンのトリエステルのなかでも、グリセリンジアセトモノエステルが好ましい。グリセリンジアセトモノエステルの具体例としては、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノオレート、グリセリンジアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエート、グリセリントリアセテート、グリセリントリカプリレート、グリセリンモノカプリルモノカプリンモノラウレート等を挙げることができる。あくまでも例示にすぎないが、生分解性樹脂および/または接合促進樹脂との相溶性の観点からグリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノオレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエートおよびグリセリントリアセテートから成る群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0056】
繊材組成における可塑剤との含有比は、局所的接合に起因して立体的形態が好適に維持されると共に、海、湖、池、沼および河川・川ならびに土壌などに廃棄された場合の自然分解に資するものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、生分解性樹脂と接合促進樹脂との総計100重量部に対して、5~50重量部となるように可塑剤が繊材に含まれていてよい。つまり、繊材組成の樹脂(生分解性樹脂および接合促進樹脂)と可塑剤との重量ベースの含有比は、100:5~50となっていてよい。
【0057】
ある場合では、生分解性樹脂と接合促進樹脂との総計100重量部に対して、可塑剤が5~40重量部、例えば5~30重量部、5~20重量部または5~15重量部(より限定した例では8~12重量部)となるように繊材に含まれている。つまり、繊材組成の樹脂(生分解性樹脂および接合促進樹脂)と可塑剤との重量ベースの含有比は、100:5~40、100:5~30、100:5~20、100:5~15、100:8~12などであってよい。特に制限されるわけではないが、可塑剤の含有量がそのような上限値を超えると、ブリードなどの不都合な現象が生じやすくなり、かえって繊材同士の局所的接合の強度が減じられてしまう傾向が出てくる。
【0058】
ある好適な態様では、生分解性樹脂はアルカノエート系の樹脂成分を含んで成るものとなっている。特に、ヒドロキシル基が付随したアルカン酸または何らかの修飾を受けたアルカン酸を構成モノマーとし、そのようなものがエステル結合して形成されたポリマーが海水分解性ポリマーとして用いられていることが好ましい。
【0059】
例えば、繊材における生分解性成分が、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)となっていることが好ましい。より具体的には、繊材組成における生分解性樹脂は、以下の一般式で示される繰り返し単位を含んだポリヒドロキシアルカノエートであってよい。
【化1】
(式中、RはC
nH
2n+1で表されるアルキル基であり、nは1以上15以下の整数である)
【0060】
例えば、ポリヒドロキシアルカノエートは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、いわゆるPHBHであってよい。かかるPHBHの製法は、特に制限されるものでなく、公知の手法を用いてよい。例えば、国際公開(WO)2013/147139号に開示されている手法によってPHBHを得てよい。また、PHBHとして、市販のPHBHを用いてよく、例えば株式会社カネカのカネカ生分解性ポリマーPHBHのX131A、X151Aおよび/またはX331Nを用いてもよい。
【0061】
なお、繊材の生分解性樹脂には、上記のポリヒドロキシアルカノエートの他に、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)および/またはポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(PBSAT)が更に含まれていてもよい。
【0062】
別のある好適な態様では、繊材を成す材料のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは3~80g/10分、より好ましくは10~80g/10分、さらに好ましくは20~80g/10分である。このようにMFRが3g/10分以上であると、繊材集合体が三次元立体的な形態を取り易くなる。特に、MFRが10g/10分以上または20g/10分以上などとなると、局所的接合の強度・密着性がより向上し易くなる。一方、MFRが、80g/10分を超える場合、特に120g/10分を超える場合に顕在化し得るが、そのような過度に高いMFRでは、押出成形時のドローダウンが大きくなり成形が困難となり易い。また、繊材が細くなる傾向が出て成形体の強度低下が引き起こされる虞がある。
【0063】
本明細書における「メルトフローレート(MFR)」は、JIS K7210(165℃ 2.16kgf荷重)に準拠して測定したものを指している。
【0064】
ある好適な態様では、本発明の立体網状繊材集合体が海洋分解性の集合体となっている。本発明における“生分解性”が海洋分解性となっているといえる。つまり、局所的接合が互いにもたらされた複数の繊材から構成されているところ、繊材が「海洋分解性樹脂」および「局所的接合のための接合促進樹脂」を少なくとも含んだ組成を少なくとも有している。
【0065】
本発明では、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)およびポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(PBSAT)から成る群から選択される少なくとも1種は、海洋分解性を少なくとも呈し得るものである。つまり、そのような海洋分解性樹脂を本発明の繊材樹脂として用いてよい。海洋分解性は、海中において長期的にみて分解性を呈する特性であるので、海洋分解性を“海水分解性”と称すこともできる。
【0066】
以上、本発明の各種態様を説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく、特許請求の範囲に規定される範囲から逸脱することなく種々の変更が為され得ると当業者は理解されよう。
【0067】
例えば、上記では立体網状繊材集合体が実質的に単一の構造や材料を有する態様について説明してきたが、本発明は特にこれに限定されない。本発明の立体網状繊材集合体が、生分解性を呈する繊材を有しつつも、特に生分解性を呈さない別の繊材が付加的に含まれた構造であってもよい。
【0068】
また、立体網状繊材集合体の繊材の断面の構造および形状は特に限定されず、例えば中実構造および/または中空構造であってよく、円形断面および/または異形断面であってよい。また、2種以上の樹脂から繊材が構成されていてもよく、その場合の繊材の断面構造が芯鞘構造、偏心芯鞘構造、サイドバイド構造、分割構造および/または海島構造などであってよい。
【0069】
さらには、繊材には必要に応じて添加剤が付加的に含まれていてもよい。例えば、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、顔料、光安定剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、発泡剤、着色剤、ブロッキング防止剤、滑剤、帯電防止剤および可塑剤から成る群から選択される少なくとも1種の添加剤が含まれていてよい。更にいえば、繊材には、ガラスフィラー、カーボンフィラーのような無機または有機フィラーが含まれていてもよい。
【実施例】
【0070】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
《生分解性の立体網状繊材集合体の成形特性に関する確認試験》
立体網状繊材集合体の成形特性(立体網状構造の成形および局所的接合の強度・密着性)ならびに分解性を評価する試験を行った。
【0072】
繊材の生分解性樹脂および接合促進樹脂として以下の樹脂を使用した。
● 生分解性樹脂
・ポリヒドロシキアルカノエート系樹脂(PHBH/カネカ製 アオニレックスX151A/引張弾性率:850MPa)
・ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA/三菱ケミカル製 BioPBS FD92PB/引張弾性率:250MPa)
● 接合促進樹脂
・ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT/BASF製 エコフレックスC1200/引張弾性率:110MPa)
・ポリカプロラクトン(PCL/Perstorp社 Capa6500/引張弾性率:480MPa)
任意成分の可塑剤としては以下を使用した。
・変性グリセリン(グリセリンジアセトモノラウレート/理研ビタミン製 リケマールPL012)
【0073】
実施例および比較例のため、繊材原料の配合比率を種々に変えて立体網状繊材集合体の作製を試みた。具体的には、下記の通りに従って立体網状繊材集合体を作製した。
【0074】
生分解性樹脂、接合促進剤樹脂および任意の可塑剤の配合比率は、
図3の表に示すものとした(表中の配合比は重量比を示している)。まず、かかる表中の各配合比率の原料からペレットを作製した。同方向噛合型二軸押出機(東芝機械社製、TEM-26SS)をペレットの作製に用いた。設定温度130~190℃で表中の各配合比率の原料をそれぞれ溶融混練し、二軸押出機のダイスからストランド状に引き取った後、ペレット状にカットした。次いで、ペレットを同方向噛合型二軸押出機(東芝機械社製、TEM-26SS)でφ1mm×6穴ダイスから押出した。ダイスから押出された繊材は30~50℃の水浴で受けることによってランダムに絡み合わせ2~3段に積層させるように厚みを持たせつつ、幅寸法が約50mmとなるように引き取った。以上の手法によって立体網状繊材集合体を作製した。
【0075】
(立体網状繊材集合体の評価)
得られた立体網状繊材集合体について、以下の特性を評価した。
● 立体網状構造の成形(成形加工性)
複数の繊材から成る立体網状構造が所望に成形されるか否かの指標として、成形加工性を評価した。評価の判定基準は下記の通りである。
・判定○:連続しての成形が可能
・判定△:成形品の固化速度が遅めであるが連続成形可能
・判定×:成形品の固化が遅くベトツキにより連続成形不可
結果を
図3の表に示す。
● 局所的接合の強度・密着性
立体網状繊材集合体の繊材同士における局所的接合(繊材交点)の強度・密着性を評価した。すなわち、立体網状ループの形成強度を評価した。具体的には、立体網状繊材集合体の幅方向の端から1cmピッチに45度下向きに4箇所を折り曲げた時の交点接着の保持率を評価した。評価の判定基準は下記の通りである。
・判定◎:以下の一次判定4または5の場合
・判定〇:以下の一次判定3の場合
・判定△:以下の一次判定2の場合
・判定×:以下の一次判定1の場合
一次判定1:交点接着保持率0~10%
一次判定2:交点接着保持率11~30%
一次判定3:交点接着保持率31~50%
一次判定4:交点接着保持率51~70%
一次判定5:交点接着保持率71~100%
結果を
図3の表に示す。
● 生分解性の評価
立体網状繊材集合体の生分解性を呈するか否かを評価した。具体的には、目開き80μmのメッシュで異物を除去した海水16Lをプラスチックコンテナに投入し、ASTM D-7081に準じて海水1Lに対し0.5gの塩化アンモニウムと、同0.1gのリン酸2カリウムを加えた。かかる海水に実施例及び比較例の立体網状繊材集合体(約3g)を水温23℃の海水中に浸漬し、2ヵ月後の重量減少率を評価した。
・重量減少率(%)=(浸漬前重量-浸漬2ヶ月後重量)/浸漬前重量×100
海水は兵庫県高砂市の港湾部から採取し、1ヶ月に1度海水の入れ替えを実施した。評価の判定基準は下記の通りである。
・判定〇:重量減少率が殆ど見られなかったもの(重量減少率10%以下の場合)
・判定×:有意な重量減少率が見られたもの(重量減少率10%より高い場合)
結果を
図3の表に示す。
【0076】
図3の結果からは以下のことが分かった。
・繊材原料が生分解性樹脂のみから成る場合、実質的に立体網状成形ができないか、あるいは、不十分な立体網状成形となる。
・繊材原料として生分解性樹脂に接合促進樹脂が加えられると、所望の立体網状成形が可能となる。特に、生分解性樹脂と接合促進樹脂とが繊材原料として併用されることによって、局所的接合の強度・密着性は向上する。
・全体的な傾向として、繊材原料として生分解性樹脂および接合促進樹脂に加えて更に可塑剤が加えられると、局所的接合の強度・密着性が向上し易い。
・生分解性樹脂および接合促進樹脂の繊材原料、ならびに、それに可塑剤が加えられた繊材原料から成形された立体網状繊材集合体は、いずれも生分解性を呈する。
・全体的な傾向として、繊材原料のMFRが3~80g/10分であると、所望の立体網状成形が可能となる。また、MFRが10g/10分以上または20g/10分以上などとなると、局所的接合の強度・密着性がより向上し易くなる。
【0077】
《間隙空間のサイズの確認試験》
本発明に立体網状繊材集合体の平面視における間隙空間の平均サイズは、目視の観点でいえば4~7mm程度(またはそれ以上のサイズ、例えば5~10mm程度)である。一方、「比較例基盤」として挙げる水濾過用濾材の平面視の間隙空間の平均サイズは、0.5mm程度、大きく見積もっても1mm未満である。
【0078】
かかる間隙空間サイズについては、より客観性が高い指標を得るべく「ふるい試験法」を実施した。以下それについて詳述する。
【0079】
〈ふるい分け試験に用いた砂〉
まず、実施例基盤および比較例基盤を透過させるための砂として園芸用の「寒水砂(株式会社コメリ製、JANコード4920501912045)」(粒径:1.0mm~3.0mm)と園芸用の「根ぐされ防止剤(株式会社プロトリーフ製、JANコード4535885077602)」(粒径:3.0mm~6.0mm)を用いた。さらに、「寒水砂」の一部を粉砕して粒径1.0mm未満の粉体を得た。以下では、本試験で用いた「寒水砂」、「根ぐされ防止剤」および「寒水砂の粉体」を総称して「砂利」と呼ぶ。これら砂利の粒径を揃えるために、JIS Z 8815(1994)を参考にしてふるい分け試験を実施した。試験に用いたふるいは、以下に示す長谷川金網(株)製および関西金網(株)製の開目の異なる10種類の金網を用いた(表1参照)。
【0080】
【0081】
(I)砂利粒径の調整
上記砂利を乾式・手動ふるい分けに付して砂利粒径を調整した。ふるい分けに要する時間は、1分間にふるいを通過する粒子群の質量が装入試料質量の0.1%以下になるまでの時間とした。まずNo.1のふるいを用い、砂利を3~5g入れた。ふるいを両手で持ち、水平面内を一方向に、振幅約70mm、1分間約60往復の割合で振動させた。ふるい下に得られた砂利を「粒径5.0mm以下」とし、さらにNo.2のふるいを用いて同様のふるい分け試験を行うことで、「粒径4.0mm~5.0mm」と「粒径4.0mm以下」を得た。さらに、No.3~No.10のメッシュをそれぞれ用いて同様の操作を行い、最終的に、「粒径4.0mm~5.0mm」を含め、「粒径3.0mm~4.0mm」、「粒径2.4mm~3.0mm」、「粒径2.0mm~2.4mm」、「粒径1.7mm~2.0mm」、「粒径0.9mm~1.7mm」、「粒径0.5mm~0.9mm」、「粒径0.25mm~0.5mm」、「粒径0.1mm~0.25mm」の9種類の砂利に分けた。尚、粒径0.1mm未満の粉体および粒径5.0mm以上の大砂は除外した。これらの操作を繰り返し、9種類の砂利がそれぞれ5g以上になるまでふるい分け試験を行った。
【0082】
(II)ふるい試験(実施例基盤および比較例基盤の間隙空間サイズの評価)
上記のふるい分け試験で得られた9種類の粒径範囲の砂利を用いた。以下の実施例基盤および比較例基盤を網ふるいとして用い、ふるい分け試験(乾式・手動ふるい分け)を行った。ふるい時間・ふるい手法は上記(I)の条件と同じである。9種の砂利を2.00gずつそれぞれ精秤して“ふるい”(即ち、実施例基盤または比較例基盤)の上に載せ、1分間約60往復の割合で振動させた。具体的には、網ふるいを両手で持ち、水平面内を一方向となるように、振幅約70mmで1分間約60往復の割合で振動させた。得られたふるい下の砂利の重量を精秤して、それぞれの砂利について、ふるいを透過した割合をふるい下百分率として算出した(ふるい下百分率“100%”は、全ての砂利がふるいを透過したことを意味する一方、ふるい下百分率“0%”は、砂利がふるいを全く透過しなかったことを意味している)。9種類の砂利ごとにそのようなふるい下百分率を算出した。つまり、粒径・ふるい毎の45パターンの試験を行い、それぞれを3回ずつ実施した(即ち、n=3とした)。
実施例の基盤
生分解性樹脂(カネカ製のカネカ生分解性ポリマーPHBH型式X151A、接合促進樹脂(BASF社製エコフレックスC1200)および可塑剤(理研ビタミン株式会社製リケマールPL012)から成る繊材の立体網状繊材集合体を用いた。全体サイズは、縦寸法:10cm、横寸法:10cm、厚さ寸法:1cmである。なお、繊材組成についていえば、生分解性樹脂と接合促進樹脂との総計を100重量部とすると、そのうち約77重量部が生分解性樹脂であり、約23重量部が接合促進樹脂である。また、生分解性樹脂と接合促進樹脂との総計100重量部に対して可塑剤が約11.5重量部である。
比較例基盤
水濾過用濾材(マット工房社販売、商品名:ローズマット、原反)を用いた。全体サイズは、縦寸法:10cm、横寸法:10cm、厚さ寸法:1cmである。
【0083】
結果を
図4に示す。
図4のグラフからは、以下の事項を把握することができる。
・比較例の基盤(ローズマット)では、粒径0.25~0.5mmの砂利は略100%通過するものの、粒径0.5~0.9mmの砂利の透過率は50%を下回っている。つまり、0.5mmを境に砂利の透過率は半分以上/半分以下となる。これは、比較例の基盤(ローズマット)における間隙空間サイズは、約0.5mm(最大で妥当に見積もって約0.5mm)と見込まれる。
・一方、実施例の立体網状繊材集合体では、粒径3.0~4.0mmの砂利は透過率50%よりも大きいものの、粒径4.0~5.0mmの砂利では透過率が50%を下回る。つまり、上記と同様の指標で4.0mmを境に透過率は半分以上/半分以下となっている。これは、実施例の立体網状繊材集合体における間隙空間サイズは、約4.0mm(最大で妥当に見積もって約4.0mm)であると見込まれる。このように、実施例の立体網状繊材集合体の間隙空間は、比較例の基盤(ローズマット)のそれよりも8倍程度の大きいサイズとなっており、相当に大きいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の立体網状繊維集合体は、反発性が要求される用途において有用である。つまり、本発明の立体網状繊維集合体は、家庭用、一般消費者用または工業用などのクッションとしては当然のこと、種々の用途で用いることができる。あくまでも例示にすぎないが、乗り物の内装部材として、一般寝具または家具の芯材として、または医療・介護用器具のクッション材、フロア材、芯材またはベルトなどとして有用である。そのような立体網状繊維集合体が仮に廃棄されたとしても(特に、海、湖、池、沼および河川・川ならびに土壌などに廃棄されたとしても)、少なくとも部分的に自然分解され得るので、環境負荷が大きくない。
【0085】
また、本発明の立体網状繊維集合体は、振動および/または騒音を抑制する作用も奏し得るので、その必要がある用途においても有用である。あくまでも例示にすぎないが、本発明の立体網状繊維集合体は、例えば車道(特に高速道路)および鉄道などの高架橋および/または当該高架橋を支える橋脚、ならびに風力発電装置における風車の支柱に適用される振動減衰材または減音材などとして用いることができたりする。
【0086】
さらには、本発明の立体網状繊維集合体は、藻類の移植などを助力するための移植補助材などとしても用いることができる。つまり、本発明の立体網状繊維集合体を、より簡易に海底に据え付けることができるツールとして用いることができる。例えば、本発明の立体網状繊維集合体は、大型藻類などの海藻を浅海域の海底などに直接的に移植するのに好適に用いることができる。かかる場合、立体網状繊維集合体の間隙空間は大型藻類の仮根の貫通路として用いることができる。
【符号の説明】
【0087】
1 繊材
15 間隙空間
100 立体網状繊材集合体