(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】鋼板の耳及び耳屑の自動切断システム
(51)【国際特許分類】
B23K 7/00 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
B23K7/00 501A
(21)【出願番号】P 2019153909
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000159618
【氏名又は名称】吉川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 恭典
(72)【発明者】
【氏名】鮎川 瞬
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-057657(JP,A)
【文献】特開昭52-054642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被切断鋼板の幅方向に沿うように被切断鋼板の上方に配置され、被切断鋼板の長手方向に沿う方向(以下「走行方向」という。)に移動可能な走行フレームと、
前記走行フレームの長手方向に沿う方向(以下「横行方向」という。)に移動可能な横行ブロックと、
前記横行ブロックに取り付けられたトーチユニットとを備え、
前記トーチユニットは、被切断鋼板の耳をガス切断するための耳切断用トーチと、被切断鋼板の耳屑をガス切断するための耳屑切断用トーチと、前記耳屑切断用トーチを走行方向に移動させる走行方向移動機構と、前記耳屑切断用トーチを横行方向に移動させる横行方向移動機構とを含み、
前記耳切断用トーチ及び前記耳屑切断用トーチは昇降可能であ
り、
前記トーチユニットは昇降軸を介して前記横行ブロックに取り付けられており、前記昇降軸を昇降させることにより、前記耳切断用トーチ及び前記耳屑切断用トーチが同調して昇降し、
前記横行ブロックに対して走行方向に移動可能に取り付けられた移動ブロックを更に備え、前記昇降軸は前記移動ブロックを介して前記横行ブロックに取り付けられている、鋼板の耳及び耳屑の自動切断システム。
【請求項2】
前記横行方向移動機構は、前記耳屑切断用トーチの横行方向への移動速度を変化させることができる、請求項
1に記載の鋼板の耳及び耳屑の自動切断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の自動ガス切断システムに関し、特にその鋼板(被切断鋼板)の耳及び耳屑の自動切断システム
【背景技術】
【0002】
鋼板の自動ガス切断システムとして、3本のトーチを備えるものが特許文献1に開示されている。特許文献1では、3本のトーチのうち2本のトーチを用いて、被切断鋼板の長手方向の両端(被切断鋼板の両耳)を同時に切断する。ところが、この耳切断中、耳屑の反りにより被切断鋼板に位置ずれが生じることから、耳切断後は、所定の間隔(例えば約4.5m)で耳屑切断を行う必要がある。現状この耳屑切断は、作業者が別途手作業で行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、鋼板の耳及び耳屑を自動で切断できる、鋼板の耳及び耳屑の自動切断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、次の1から2の鋼板の耳及び耳屑の自動切断システムが提供される。
1.
被切断鋼板の幅方向に沿うように被切断鋼板の上方に配置され、被切断鋼板の長手方向に沿う方向(以下「走行方向」という。)に移動可能な走行フレームと、
前記走行フレームの長手方向に沿う方向(以下「横行方向」という。)に移動可能な横行ブロックと、
前記横行ブロックに取り付けられたトーチユニットとを備え、
前記トーチユニットは、被切断鋼板の耳をガス切断するための耳切断用トーチと、被切断鋼板の耳屑をガス切断するための耳屑切断用トーチと、前記耳屑切断用トーチを走行方向に移動させる走行方向移動機構と、前記耳屑切断用トーチを横行方向に移動させる横行方向移動機構とを含み、
前記耳切断用トーチ及び前記耳屑切断用トーチは昇降可能であり、
前記トーチユニットは昇降軸を介して前記横行ブロックに取り付けられており、前記昇降軸を昇降させることにより、前記耳切断用トーチ及び前記耳屑切断用トーチが同調して昇降し、
前記横行ブロックに対して走行方向に移動可能に取り付けられた移動ブロックを更に備え、前記昇降軸は前記移動ブロックを介して前記横行ブロックに取り付けられている、鋼板の耳及び耳屑の自動切断システム。
2.
前記横行方向移動機構は、前記耳屑切断用トーチの横行方向への移動速度を変化させることができる、前記1に記載の鋼板の耳及び耳屑の自動切断システム。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耳切断用トーチ及び耳屑切断用トーチにより、鋼板の耳及び耳屑を自動で切断できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態である、鋼板の耳及び耳屑の自動切断システムの概略平面図。
【
図2】
図1に示す鋼板の耳及び耳屑の自動切断システムの要部を示し、(a)は平面図、(b)は正面図。
【
図4】耳切断速度、耳屑切断速度及び耳屑切断複合速度の関係を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に、本発明の一実施形態である、鋼板の耳及び耳屑の自動切断システム(以下、単に「自動切断システム」という。)100を示している。
この自動切断システム100は、被切断鋼板Sの幅方向に沿うように被切断鋼板Sの上方に配置され、被切断鋼板Sの長手方向に沿う方向、すなわち走行方向に移動可能な走行フレームとして、門型フレーム10を備えている。具体的にはこの門型フレーム10は、被切断鋼板Sの幅方向を跨ぐ(架設する)ように配置され、レールR,R上を走行方向に移動可能である。なお、門型フレーム10を走行させるための駆動機構(モータ等)は図示を省略している。
【0009】
門型フレーム10には2つの横行ブロック20が取り付けられている。具体的には、2つの横行ブロック20はそれぞれ、門型フレーム10の長手方向に沿う方向、すなわち横行方向に移動可能に取り付けられている。なお、この横行方向とは被切断鋼板Sの幅方向に沿う方向でもある。
【0010】
2つの横行ブロック20にはそれぞれ、移動ブロック30及び昇降軸40を介してトーチユニット50が取り付けられている。トーチユニット50は、被切断鋼板Sの耳をガス切断するための耳切断用トーチ51と、被切断鋼板の耳屑をガス切断するための耳屑切断用トーチ52とを含む。これら耳切断用トーチ51及び耳屑切断用トーチ52は昇降可能であり、更に耳屑切断用トーチ52は走行方向及び横行方向の両方向に移動可能である。
【0011】
図2に、自動切断システム100の要部(トーチユニット50部分)を示している。
トーチユニット50は、耳切断用トーチ51及び耳屑切断用トーチ52に加え、耳屑切断用トーチ52を走行方向に移動させる走行方向移動機構53と、耳屑切断用トーチ52を横行方向に移動させる横行方向移動機構54とを含む。
【0012】
走行方向移動機構53は、耳屑切断用トーチ52を保持する保持部材53aと、この保持部材53aを走行方向に移動可能に保持する保持プレート53bとを含み、図示しない駆動機構によって保持部材53aを保持プレート53bに沿って走行方向に移動させることで、耳屑切断用トーチ52を走行方向に移動させる。このように、耳屑切断用トーチ52を走行方向に移動させることで、耳切断用トーチ51と耳屑切断用トーチ52との間の走行方向の間隔(距離)(以下「走行方向トーチ間距離」という。)を調整可能である。
【0013】
横行方向移動機構54は、保持プレート53bに連結された移動部材54aと、この移動部材54aを横行方向に移動可能に保持する保持プレート54bとを含み、図示しない駆動機構によって移動部材54aを保持プレート54bに沿って横行方向に移動させることで、耳屑切断用トーチ52を横行方向に移動させる。このように耳屑切断用トーチ52を横行方向に移動させることで、耳屑を切断することができると共に、耳切断用トーチ51と耳屑切断用トーチ52との間の横行方向の間隔(距離)(以下「横行方向トーチ間距離」という。)を調整可能である。
【0014】
なお、耳屑切断用トーチ52を走行方向及び横行方向に移動させるための駆動機構は、ステッピングモータ、ACサーボモータ等の各種モータとすることができるが、特に、耳屑切断用トーチ52を横行方向に移動させるための駆動機構は、耳屑切断速度をスムーズに変化させることができるように、ACサーボモータとすることが好ましい。
【0015】
本実施形態においてトーチユニット50は、耳屑のエッジを検出するためのエッジセンサ55を更に含む。
【0016】
このトーチユニット50は上述のとおり、移動ブロック30及び昇降軸40を介して横行ブロック20に取り付けられている。具体的には、トーチユニット50は昇降軸40に固定的に取り付けられ、この昇降軸40が移動ブロック30に固定的に取り付けられ、この移動ブロック30が横行ブロック20に走行方向に移動可能に取り付けられている。
【0017】
このようにトーチユニット50は昇降軸40に固定的に取り付けられているから、トーチユニット50に含まれる耳切断用トーチ51及び耳屑切断用トーチ52は、昇降軸40の昇降動作に伴い同調して昇降する。
また、トーチユニット50は移動ブロック30を介して横行ブロック20に取り付けられているから、移動ブロック30を走行方向に移動させることにより、トーチユニット50に含まれる耳切断用トーチ51及び耳屑切断用トーチ52の走行方向の位置を調整可能である。
【0018】
次に、本実施形態の自動切断システム100による被切断鋼板Sの耳及び耳屑の切断方法について説明する。
図3に、その切断概要を示している。
【0019】
切断に先立ち、走行方向トーチ間距離D1を設定する。この走行方向トーチ間距離D1が短すぎると耳屑切断用トーチ52による耳屑切断の際にえぐれ等により、被切断鋼板Sの製品側に疵が生じるからである。すなわち、走行方向トーチ間距離D1は製品側への疵抑制の点から、被切断鋼板Sの板厚等に応じて設定する。なお、走行方向トーチ間距離D1は被切断鋼板Sの板厚が厚いほど長く設定するが、被切断鋼板Sの板厚等に応じた走行方向トーチ間距離D1の具体的な設定値は実験により予め決定しておく。
【0020】
耳切断を開始するにあたり、耳切断用トーチ51を耳切断開始位置S1に移動させる。この耳切断用トーチ51の耳切断開始位置S1への移動(位置合わせ)は、門型フレーム10の走行及び横行ブロック20の横行によって行うことができる。なお、被切断鋼板Sの端部は直線でないことが多く、両側の耳切断開始位置S1,S1には走行方向に位置ずれがある。このように両側の耳切断開始位置S1,S1に走行方向の位置ずれがある場合は、門型フレーム10の走行及び横行ブロック20の横行によって耳切断用トーチ51の耳切断開始位置S1への大まかな位置合わせを行ったうえで、移動ブロック30を走行方向に移動させることにより、トーチユニット50に含まれる耳切断用トーチ51を耳切断開始位置S1に正確に位置合わせすることができる。
なお、耳切断を開始するにあたり、両側の耳切断用トーチ51は必ずしも耳切断開始位置S1に正確に位置合わせする必要はなく、走行方向の多少の位置ずれは許容される。走行方向に多少の位置ずれがあったとしても、両側の耳切断用トーチ51の火入れのタイミングを調整する(ずらす)ことで、耳切断を開始することができる。したがって、本実施形態の自動切断システム100において、移動ブロック30は省略可能である。
【0021】
耳切断開始位置S1にて火入れを行った後、門型フレーム10を走行させることで耳を切断する。その耳切断速度(門型フレーム10の走行速度)は被切断鋼板Sの板厚に応じて設定する。なお、被切断鋼板Sの板厚は走行方向で変動することがあるが、耳切断速度に影響を及ぼすほどのものではない。
一方、被切断鋼板Sの板厚が走行方向で変動すると、耳切断用トーチ51の先端(火口)と被切断鋼板Sの表面との間の距離が変動することになり、この距離の変動は耳切断の安定性に影響を及ぼすことがある。そこで、本実施形態では、被切断鋼板Sの表面高さを検出する高さセンサを別途設け、この高さセンサの検出値に応じて、昇降軸40の昇降動作により耳切断用トーチ51の高さ位置を自動で調整することもできる。
【0022】
なお、耳切断中、耳屑切断用トーチ52は例えば耳側に退避させておく。この退避動作は、横行方向移動機構54により耳屑切断用トーチ52を横行方向に移動させることで行う。
【0023】
耳切断により生じた耳屑が所定の長さ(例えば約4.5m)になったら、耳屑切断を行う。耳屑切断を行うあたり、耳屑切断開始時(耳屑切断用トーチ52の火入れ時)の横行方向トーチ間距離D2を設定する。この横行方向トーチ間距離D2が短すぎると耳屑切断用トーチ52の火入れが困難になると共に、被切断鋼板Sの製品側にえぐれ等の疵が生じるからである。すなわち、耳屑切断開始時の横行方向トーチ間距離D2は火入れの容易性及び製品側への疵抑制の点から、被切断鋼板Sの板厚等に応じて設定する。なお、耳屑切断開始時の横行方向トーチ間距離D2は被切断鋼板Sの板厚が厚いほど長く設定するが、被切断鋼板Sの板厚等に応じた横行方向トーチ間距離D2の具体的な設定値は実験により予め決定しておく。また、耳屑の巾が狭い場合に熱応力の影響により反りが大きくなり、耳屑が外側へ反った場合は、火入れが困難になることから、横行方向トーチ間距離D2を長く設定するが、被切断鋼板Sの板厚等に応じた横行方向トーチ間距離D2の具体的な設定値は実験により予め決定しておく。
一方、本実施形態ではエッジセンサ55を有することから、このエッジセンサ55で検出した耳屑のエッジ位置に応じて、耳屑切断開始時の横行方向トーチ間距離D2を設定し、その設定値となるように、耳屑切断用トーチ52を横行方向移動機構54により横行方向に移動させることもできる。
【0024】
耳屑切断用トーチ52の火入れ後、耳屑切断用トーチ52を横行方向移動機構54により横行方向に移動させることで耳屑を切断する。その実質的な耳切断速度は、
図4に示すように耳切断速度(門型フレーム10の走行速度)aと耳屑切断速度(横行方向移動機構54による横行速度)bとの複合速度cとなるが、この耳屑切断複合速度cは、耳屑切断開始から徐々に加速する。また、耳屑切断終了の際には徐々に減速する。
このように、耳屑切断複合速度c(耳屑切断速度b)をスムーズに変化させることができるようにするため、横行方向移動機構54の駆動機構はACサーボモータとすることが好ましい。すなわち、例えばステッピングモータでは耳屑切断速度をスムーズに変化させることが困難であり、また、停止時に振動が生じ、この振動により被切断鋼板Sの製品側に疵が生じることがある。
【0025】
なお、
図4に示す耳屑切断複合速度cには自ずと上限があるところ、耳切断速度aは耳切断の作業効率を確保するためにできるだけ高いことが望まれる。したがって実作業上は、耳屑切断複合速度cの上限を勘案して耳屑切断速度bの上限を設定することになる。
【0026】
以上のとおり、本実施形態の自動切断システム100によれば、耳切断用トーチ51で耳を切断しながら、耳屑切断用トーチ52により耳屑を自動で切断できる。耳及び耳屑切断後は、例えば耳切断用トーチ51を用いて、被切断鋼板Sの幅方向の切断を行い、所定サイズの製品を得ることができる。
【0027】
なお、本実施形態では、トーチユニット50は昇降軸40に固定的に取り付けることにより、耳切断用トーチ51及び耳屑切断用トーチ52を同調して昇降させるようにしたが、耳切断用トーチ51と耳屑切断用トーチ52とをそれぞれ独立して昇降させることもできる。例えば、
図2において耳切断用トーチ51以外の部分を、別途の昇降軸に取り付けることで、耳切断用トーチ51と耳屑切断用トーチ52とをそれぞれ独立して昇降させることができる。ただし、切断用トーチ51及び耳屑切断用トーチ52の昇降の制御系統を単純化する点から、本実施形態のように耳切断用トーチ51及び耳屑切断用トーチ52を同調して昇降させるようにすることが好ましい。
【0028】
また、本実施形態では、門型フレーム10に2つの横行ブロック20(トーチユニット50)を設けたが、横行ブロック20(トーチユニット50)の数は1つであってもよい。ただし、両側の耳及び耳屑を同時に切断して切断効率を向上させる点から、横行ブロック20(トーチユニット50)は1枚の被切断鋼板あたり2つ設けることが好ましい。すなわち、本実施形態のように被切断鋼板が1枚の場合は、横行ブロック20(トーチユニット50)は2つ設けておけばよいが、被切断鋼板が2枚の場合は4つ、被切断鋼板が3枚の場合は6つ設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0029】
100 自動切断システム
10 門型フレーム(走行フレーム)
20 横行ブロック
30 移動ブロック
40 昇降軸
50 トーチユニット
51 耳切断用トーチ
52 耳屑切断用トーチ
53 走行方向移動機構
53a 保持部材
53b 保持プレート
54 横行方向移動機構
54a 移動部材
54b 保持プレート
55 エッジセンサ
S 被切断鋼板
S1 耳切断開始位置
R レール
D1 走行方向トーチ間距離
D2 横行方向トーチ間距離