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特許7304676(メタ)アクリル酸エステル系重合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル酸エステル系重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/12 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
C08F20/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017063355
(22)【出願日】2017-03-28
(65)【公開番号】P2018165320
(43)【公開日】2018-10-25
【審査請求日】2019-12-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】坂田 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】溝口 大昂
(72)【発明者】
【氏名】森田 武彦
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】杉江 渉
【審判官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/083619(WO,A1)
【文献】特開2014-91752(JP,A)
【文献】国際公開第01/083619(WO,A1)
【文献】特開2014-91752(JP,A)
【文献】特開昭60-215007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/00 - 20/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1);
CH =CR COOR (1)
(式中、R は、水素原子又はメチル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基を表す。R は炭素数1~30のアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基のいずれかを表す。)で表される(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分と重合開始剤とを用いた重合反応の生成物である(メタ)アクリル酸エステル系重合体組成物であって、
組成物が含む(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、原料となる単量体成分全体100質量%に対する(メタ)アクリル酸エステルの割合が95~100質量%であり、
不飽和ジカルボン酸(モノ、ジ)エステル;(メタ)アクリルアミド誘導体;不飽和アミン化合物;不飽和アミド化合物;ビニルエステル類;ビニルエーテル系単量体;ビニル芳香族系単量体;オレフィン類から選択されるその他の単量体の割合が原料となる単量体成分全体100質量%に対して0~5質量%であるものであり、
重合開始剤である10時間半減期温度が100℃以下の有機過酸化物由来の構造部位を重合鎖の末端に有し、
熱重量分析において、加熱前の重量に対する、200℃で30分間加熱した後の重量減少率が10%以下であり、重量平均分子量が500~3000であ
ことを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系重合体組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の(メタ)アクリル酸エステル系重合体組成物を含む可塑剤。
【請求項3】
請求項1に記載の(メタ)アクリル酸エステル系重合体組成物を製造する方法であって、
該製造方法は、10時間半減期温度が100℃以下の有機過酸化物である重合開始剤を単量体の合計100質量%に対して0.5~2.0質量%使用し、溶媒として芳香族炭化水素系溶媒又はエステル系溶媒を使用して単量体成分全体100質量%に対して下記式(1);
CH =CR COOR (1)
(式中、R は、水素原子又はメチル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基を表す。R は炭素数1~30のアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基のいずれかを表す。)で表される(メタ)アクリル酸エステルを95~100質量%
不飽和ジカルボン酸(モノ、ジ)エステル;(メタ)アクリルアミド誘導体;不飽和アミン化合物;不飽和アミド化合物;ビニルエステル類;ビニルエーテル系単量体;ビニル芳香族系単量体;オレフィン類から選択されるその他の単量体を0~5質量%含む単量体成分を160~300℃で重合する工程と、
該重合工程で得られた生成物を酸吸着能を有する吸着剤で処理する工程とを含む
ことを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系重合体組成物の製造方法。
【請求項4】
前記吸着剤は、無機化合物であることを特徴とする請求項3に記載の(メタ)アクリル酸エステル系重合体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル系重合体及びその製造方法に関する。より詳しくは、各種合成樹脂等の可塑剤として好適に用いることができる(メタ)アクリル酸エステル系重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、エポキシ樹脂をはじめとする数多くの合成樹脂が開発され、様々な用途に広く利用されている。合成樹脂の柔軟性はガラス転移温度等によって影響されることになるが、合成樹脂が使用される用途によっては、使用される温度域との関係で求められる柔軟性や可撓性が得られないことがあり、そのような場合には、柔軟性や可撓性を改善するために可塑剤が添加されることがある。このような合成樹脂に用いられる可塑剤として、所定の温度、時間で重合させて得られるアクリル系重合体からなる可塑剤が開示されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第01/83619号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可塑剤を合成樹脂に添加する場合、合成樹脂と可塑剤とが高温で混錬されることが一般的である。したがって、可塑剤には高温でも分解しない熱安定性の高いものであることが求められ、より熱安定性の高い可塑剤を開発する工夫の余地があった。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、熱安定性に優れた可塑剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、熱安定性に優れた可塑剤について種々検討したところ、熱重量分析において、加熱前の重量に対する、200℃で30分間加熱した後の重量減少率が10%以下である(メタ)アクリル酸エステル系重合体が、熱安定性に優れた可塑剤として好適に用いることができることを見出した。また本発明者は、(メタ)アクリル酸エステル系重合体の熱安定性を向上させることができる製造方法も見出し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分を原料とする(メタ)アクリル酸エステル系重合体であって、上記(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、熱重量分析において、加熱前の重量に対する、200℃で30分間加熱した後の重量減少率が10%以下であることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系重合体である。
本発明はまた、(メタ)アクリル酸エステル系重合体を製造する方法であって、上記製造方法は、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分を重合する工程と、上記重合工程で得られた生成物を吸着剤で処理する工程とを含むことを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体は上述の構成よりなり、柔軟性の低い樹脂の柔軟性を向上させることができ、かつ、熱安定性の高い重合体であることから、可塑剤として好適に用いることができる。
また、本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法は上述の構成よりなり、(メタ)アクリル酸エステル系重合体の熱安定性を高めることができる製造方法であることから、可塑剤として使用される(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0010】
<(メタ)アクリル酸エステル系重合体、可塑剤>
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、熱重量分析において、加熱前の重量に対する、200℃で30分間加熱した後の重量減少率が10%以下であることを特徴とする。このような条件で測定した熱重量分析における重量減少率が10%以下である(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、合成樹脂と高温で混錬する際にも熱分解が充分に抑制され、熱安定性に優れた可塑剤として好適に用いることができる。
上記重量減少率は、9%以下であることが好ましい。より好ましくは、8%以下であり、更に好ましくは、7%以下である。
(メタ)アクリル酸エステル系重合体の熱重量分析は、実施例に記載の方法で行うことができる。
【0011】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分を原料とする(メタ)アクリル酸エステル系重合体、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を含む(メタ)アクリル酸エステル系重合体の少なくとも1に該当する。
【0012】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の原料となる(メタ)アクリル酸エステルは、下記式(1);
CH=CRCOOR (1)
(式中、Rは、水素原子又はメチル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基を表す。Rは炭素数1~30の1価の有機基を表す。)で表される構造であることが好ましい。
上記式(1)中、Rの1価の有機基は、炭素数1~18のものが好ましく、炭素数1~8のものがより好ましい。Rは、直鎖状の基であってもよく、分岐状の基であってもよく、環状の基であってもよいが、直鎖状または分岐状の基であることが好ましい。
の1価の有機基としては、アルキル基(直鎖状、分岐状、環状等)、アルケニル基(直鎖状、分岐状、環状等)、アリール基、ヘテロアリール基等が例示され、これらは置換基を有していても良い。該置換基としては、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、チオール基、カルボキシ基、カルボキシエステル基、カルボキシアミド基、スルホン酸基、リン酸基、アルキル基、アリール基、アリール基、ヘテロアリール基等が例示され、置換基はさらに置換基を有していても良い。置換基(置換基1)が更に置換基(置換基2)を有する構造とは、置換基(置換基1)が有する水素原子の1つ又は複数が置換基(置換基2)に置き換わった構造を意味する。
【0013】
上記(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリル酸ベンジルなどの(メタ)アクリル酸アリールエステル類;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類;α-ヒドロキシメチルアクリル酸メチル、α-ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、α-ヒドロキシメチルアクリル酸ブチル、α-ヒドロキシエチルアクリル酸メチル、α-ヒドロキシエチルアクリル酸エチル、α-ヒドロキシエチルアクリル酸ブチルなどのα-ヒドロキシアルキルアクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物などの(メタ)アクリル酸誘導体類;(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸トリパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル、パーフルオロエチレンなどの(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキルエステル類;γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシランなどのケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル系単量体類が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中でも、上記式(1)におけるRが置換基を有するアルキル基、または置換基を有しないアルキル基である構造に該当する(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類、(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキルエステル類等が好ましい。より好ましくは、上記式(1)におけるRが置換基を有しないアルキル基である構造に該当する(メタ)アクリル酸アルキルエステル類である。
なお、置換基を有するアルキル基とは、アルキル基の水素原子の1または2以上が置換基で置換された構造を有する基を表す。
【0014】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の原料となる単量体成分に含まれる(メタ)アクリル酸エステルのうち、Rの炭素数が1~30の(メタ)アクリル酸エステルの使用量は、全(メタ)アクリル酸エステル100モル%に対して、50~100モル%であることが好ましく、80~100モル%であることがより好ましく、90~100モル%であることが更に好ましい。
【0015】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の原料となる単量体成分は、(メタ)アクリル酸エステルを含む限り、その他の単量体を含んでいてもよいが、単量体成分全体100質量%に対する(メタ)アクリル酸エステルの割合は80~100質量%であることが好ましい。より好ましくは、90~100質量%であり、更に好ましくは、95~100質量%であり、最も好ましくは、100質量%、すなわち、本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体が(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位のみで構成されていることである。
【0016】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の原料となる単量体成分が、(メタ)アクリル酸エステル以外のその他の単量体を含む場合、その他の単量体としては、少なくとも1つのラジカル重合性基を有する化合物であればよいが、例えば、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、イタコン酸ジエチル、メチレングルタル酸ジブチル等の不飽和ジカルボン酸(モノ、ジ)エステル;(メタ)アクリルアミド、N-モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等の、(メタ)アクリルアミド誘導体;N-ビニルピリジン、N-ビニルイミダゾール等の不飽和アミン化合物;N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミド等の不飽和アミド化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の、ビニルエステル類;エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;スチレン、インデン等のビニル芳香族系単量体;オクテン、ブタジエン等の、オレフィン類;などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0017】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の原料となる単量体成分に含まれる(メタ)アクリル酸エステル以外のその他の単量体の割合は、単量体成分全体100質量%に対して、20質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、10質量%以下であり、更に好ましくは、5質量%以下であり、最も好ましくは、0質量%である。
【0018】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、通常は(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を含む。(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位とは、(メタ)アクリル酸エステルが重合して形成される構造と同じ構造を有する構造単位であり、実際に(メタ)アクリル酸エステルが重合して形成された構造には限定されない。例えば、アクリル酸メチル、CH=CH(COOCH)の場合、アクリル酸メチルに由来する構造単位は、-CH-CH(COOCH)-で表される(ただし、該構造であればアクリル酸メチルを実際に重合する以外の方法で形成された構造も、アクリル酸メチルに由来する構造単位に含まれる)。
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、その他の単量体に由来する構造単位を含む。その他の単量体に由来する構造単位とは、その他の単量体が重合して形成される構造と同じ構造を有する構造単位であり、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位は含まれない。(メタ)アクリル酸エステル、その他の単量体の例示は上記のとおりであり、本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体に含まれる(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位、その他の単量体に由来する構造単位の好ましい含有量は、上記本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の原料となる単量体成分に含まれる(メタ)アクリル酸エステル、その他の単量体の含有量とそれぞれ同じである。
【0019】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、重量平均分子量が500~5000であることが好ましい。可塑剤は、合成樹脂の隙間に入り込むことで樹脂が規則的に配列して結晶化するのを防いで柔軟性等を増大させるものであるため、(メタ)アクリル酸エステル系重合体がこのような比較的分子量の小さいものであることで、可塑剤としてより好適なものとなる。(メタ)アクリル酸エステル系重合体の重量平均分子量は、より好ましくは、700~3000であり、更に好ましくは、1000~2500である。
(メタ)アクリル酸エステル系重合体の重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0020】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、主鎖末端に含まれるビニル基の含有量が(メタ)アクリル酸エステル系重合体における繰り返し単位に対して、0モル%以上、10モル%以下であることが好ましく、0モル%以上、9モル%以下であることがより好ましく、0モル%以上、8モル%以下であることがさらに好ましい。重合体の主鎖末端に含まれるビニル基の含有量を少なく設定することで、酸化等に起因して色相低下を防ぐことができる。
(メタ)アクリル酸エステル系重合体の末端ビニル基の含有量は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0021】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、酸価が0以上、0.5mgKOH/g以下であることが好ましく、0以上、0.3mgKOH/g以下であることがより好ましく、0以上、0.2mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。上記範囲であると、色相がより良好になる傾向にあり、また、金属などに対する腐食性も十分に抑えられるため、可塑剤としてより好ましく使用できる傾向にある。
(メタ)アクリル酸エステル系重合体の酸価は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0022】
本発明はまた、本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含む可塑剤でもある。
上述したように、本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体は熱安定性に優れた可塑剤として好適に用いることができ、例えば、アクリル樹脂に添加したときに、アクリル樹脂フィルム等の耐折り曲げ性を向上させたり、耐ブリードアウト性を発現させたりすることができる。
本発明の可塑剤は、本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体のみからなるものであってもよく、その他の成分を含んでいてもよいが、可塑剤全体100質量%に対する本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の割合は、80質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、90質量%以上である。
【0023】
本発明の可塑剤が本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体以外のその他の成分を含む場合、その他の成分としては、未反応の残留単量体、重合開始剤、溶媒等が挙げられ、これらの1種を含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。これらの含有量は1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましい。
【0024】
<(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法>
本発明はまた、(メタ)アクリル酸エステル系重合体を製造する方法であって、該製造方法は、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分を重合する工程と、該重合工程で得られた生成物を吸着剤で処理する工程とを含む(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法でもある。
上述した特許文献1にはアクリル系重合体を含む可塑剤が開示されているが、特許文献1に記載の製造方法に比べて、本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法で製造することで、得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体をより熱安定性の高いものとすることができる。
【0025】
上記(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分を重合する工程で用いる単量体成分は、(メタ)アクリル酸エステルを含むものである限り特に制限されないが、上述した本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の原料となる単量体成分と同様のものが好ましい。
【0026】
上記(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分を重合する工程では、重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤を使用することで(メタ)アクリル酸エステル系重合体の分子量を制御しやすくなり、また、原料単量体の転化率を向上させることができる。
重合開始剤としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキシド、ジ-t-アミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン等のジアルキルパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーベンゾエート、t-アミルパーオキシイソノナノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等のパーオキシエステル、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール、t-ブチルハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート、等の有機過酸化物;過酸化水素などの無機過酸化物;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1、1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)などのアゾ系開始剤等の1種又は2種以上を用いることができる。
これらの重合開始剤は、分子量をより適切な範囲に設定しやすくなる傾向にあることで好ましい。
また、これらの重合開始剤の中でも、ジアルキルパーオキシド、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアシルパーオキサイドから選択される1種または2種以上の有機過酸化物を使用すると、得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体の高温状態でも酸成分を発生させないものである点から好ましい。
【0027】
上記(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分を重合する工程で重合開始剤を使用する場合、重合開始剤の使用量は、単量体成分に含まれる単量体の合計100質量%に対して0.5~10質量%であることが好ましい。このような割合で使用することで、開始剤を使用することの効果を充分に発揮しつつ、得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体を熱安定性の高いものとすることができる。重合開始剤の使用量は、より好ましくは、0.5~5.0質量%であり、更に好ましくは、0.5~2.0質量%である。
【0028】
上記重合工程が、単量体成分に含まれる単量体の合計100質量%に対して重合開始剤含有量が0.5質量%以下であるか、又は、10時間半減期温度が100℃以下である重合開始剤を使用するかの少なくとも一方を満たす条件で行われることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
重合開始剤は、最終生成物中に残存していると、高温状態で分解する等により酸成分を発生させて樹脂を劣化させたり、異臭、着色の原因となることがある。このため、得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体をより熱安定性の高いものとする点から重合開始剤の使用量を抑えることが好ましく、重合工程を単量体成分に含まれる単量体の合計100質量%に対して重合開始剤含有量が0.5質量%以下の条件で行うことは、本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法の好適な実施形態の1つである。この場合、単量体成分に含まれる単量体の合計100質量%に対する重合開始剤含有量は、より好ましくは、0.2質量%以下であり、更に好ましくは、0.1質量%以下である。
なお、最終生成物中の開始剤残渣はLC-MS等一般的な分析手法を用いることで定量可能である。
【0029】
また、重合開始剤として、酸成分を発生させにくいものを用いることも、得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体をより熱安定性の高いものとする点から好ましい。10時間半減期温度が100℃以下である重合開始剤は、重合・精製過程で十分加熱することによって、精製後のポリマー中に開始剤が残存しにくくなるため、このような重合開始剤を用いることも、本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法の好適な実施形態の1つである。より好ましくは、10時間半減期温度が90℃以下である重合開始剤を用いることであり、更に好ましくは、10時間半減期温度が80℃以下である重合開始剤を用いることである。
上記重合開始剤の具体例のうち、10時間半減期温度が100℃以下である重合開始剤に該当するものは、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)、ジラウリルパーオキシド、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートである。
【0030】
上記(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分を重合する工程では、更に連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン際、3-メルカプトプロピオン際、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、2-メルカプトエタンスルホン酸、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等のチオール系連鎖移動剤;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等のハロゲン化物;イソプロパノール、グリセリン等の、第2級アルコール;亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩、及びそれらの水和物等;亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、及びそれらの塩(例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム等)等の低級酸化物及びそれらの塩等等の1種又は2種以上が挙げられる。
連鎖移動剤を使用する場合、その使用量は、単量体成分に含まれる単量体の合計100質量%に対して0.1~5質量%とすることが好ましい。より好ましくは、0.5~2質量%である。
【0031】
上記重合工程は、溶媒を用いて行ってもよい。溶媒としては、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、トルエンやベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチルや酢酸n-ブチル等のエステル系溶媒、メチルエチルケトンやアセトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフランやジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、エタノールやプロパノール等の炭素数4~8以外のアルコール系溶媒などの種々のものが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができるが、重合温度を考慮すると、常圧で100℃以上の沸点を有する溶剤を用いることが好ましい。
これらの中でも、酢酸ブチル又はトルエンが好ましい。酢酸ブチルやトルエンは、適度な沸点を有するため、重合工程を加圧状態で行った場合でも内部の圧力が高くなり過ぎず、また、反応後に溶媒を留去することも難しくない。また、酢酸ブチルやトルエンは適度な連鎖移動剤としての効果を有する点でも好ましい。
溶媒の使用量は特に制限されないが、単量体成分に含まれる単量体の合計100質量%に対して50~900質量%とすることが好ましい。より好ましくは、200~500質量%である。
また、上記溶媒とその他有機溶媒を併用する場合、上記溶媒とその他有機溶媒の質量比は、90/10~10/90が好ましく、80/20~20/80がより好ましく、50/50~30/70がよりさらに好ましい。
【0032】
上記(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分を重合する工程における重合反応の温度は、重合反応が進行する限り特に制限されないが、160℃以上であることが好ましい。重合反応の温度を160℃以上とすることで、重合開始剤の使用量を少なくするか、使用しなくしても重合反応を充分に進めることができるため、より熱安定性に優れた(メタ)アクリル酸エステル系重合体を製造することができる。重合工程の反応温度は、より好ましくは、170℃以上であり、更に好ましくは、180℃以上である。また、反応原料等の熱分解等を防止する点から、反応温度は300℃以下であることが好ましい。
【0033】
上記重合工程の時間は特に制限されないが、1~240分であることが好ましい。より好ましくは、5~180分であり、更に好ましくは、10~120分である。
上記重合工程は、常圧、加圧、減圧のいずれの圧力条件で行ってもよい。
また上記重合工程は、大気雰囲気下で行ってもよく、窒素、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性雰囲気下で行う場合、反応器(重合釜等)に不活性ガスを添加しながら重合反応を実施しても良く、予め反応器を不活性気体で置換した後に重合反応を実施しても良い。
【0034】
上記重合工程で得られた生成物を吸着剤で処理する工程は、重合工程で得られた重合体に含まれる不純物を吸着剤で処理することで除去する工程である。不純物を除去することで重合体を熱安定性の高いものとすることができる。
吸着剤で処理する工程で使用する吸着剤は特に制限されず、物理吸着によるもの、化学吸着によるもののいずれのものであってもよいが、特に開始剤残渣や酸に対して吸着能を有するものが好ましい。
物理吸着剤としては、活性炭、モレキュラーシーブ等が挙げられる。
化学吸着剤としては、シリカゲル、活性白土、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等の周期表第1~13属の金属元素の酸化物;水酸化アルミニウム、等の周期表第1~13属の金属元素の水酸化物;ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、等の周期表第1~13属の金属元素の酸化物と二酸化ケイ素との複合体;マグネシウム・アルミニウム固溶体、等の周期表第1~14属の金属元素2種の複合酸化物;周期表第1~14属の金属元素2種を含む層状複水酸化物、等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0035】
上記吸着剤で処理する工程で使用する吸着剤としては、上記のものの中でも、化学吸着によるものが好ましい。より好ましくは、化学吸着により酸またはアルカリ吸着能を有する無機化合物である。このような無機化合物を用いて重合体以外の酸またはアルカリを吸着により除去することで、得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体をより熱安定性に優れたものとすることができる。
上記化学吸着剤の具体例のうち、化学吸着により酸またはアルカリ吸着能を有する無機化合物としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。
また上記のとおり、吸着剤としては開始剤残渣や酸に対して吸着能を有するものが好ましく、そのような吸着剤としては、協和化学工業(株)のキョーワード200、300、500、600、700、2000等が挙げられる。
【0036】
上記吸着剤の使用量は、重合工程に使用される単量体成分100質量%に対して、0.01~10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.1~5質量%であり、更に好ましくは、0.5~5質量%である。
【0037】
上記吸着剤で処理する工程における処理の方法は特に制限されないが、重合工程で得られた重合体と吸着剤とを加熱攪拌することが好ましい。加熱攪拌することで、重合体の粘度が高くなることを防いで吸着剤と重合体とを充分に混合することができる。この場合、加熱温度は、40~120℃であることが好ましい。より好ましくは、60~110℃であり、更に好ましくは、80~100℃である。
加熱攪拌する時間は、充分な不純物の除去と重合体の製造効率とを考えると、1~120分であることが好ましい。より好ましくは、5~90分であり、更に好ましくは、10~60分である。
【0038】
重合体と吸着剤とを加熱攪拌する場合、攪拌しやすくするため、溶媒を添加して行ってもよい。溶媒としては、上述した重合工程に用いる溶媒のうち、常圧で100℃以上の沸点を有するものを用いることが好ましい。
溶媒を添加する場合、溶媒の使用量は、重合体100質量%に対して、100~900質量%であることが好ましい。より好ましくは、100~400質量%である。
上記吸着処理工程は、常圧、加圧の圧力条件で行ってもよい。
また上記吸着処理工程は、大気雰囲気下で行ってもよく、窒素、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0039】
上記吸着剤で処理する工程において、上記重合体と吸着剤とを加熱攪拌した後、重合体と吸着剤とを分離する方法は特に制限されないが、加熱状態でろ過を行うことが好ましい。加熱状態でろ過を行うことで、重合体が増粘してフィルターが目詰まりすることを防ぎながら簡便に重合体と吸着剤とを分離することができる。
加熱状態でろ過を行う場合の温度は、40~100℃であることが好ましい。より好ましくは、50~100℃であり、更に好ましくは、60~100℃である。
【0040】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法は、上記重合工程と、吸着剤で処理する工程とを含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、精製工程、触媒不活性化工程、希釈工程、濃縮工程、抽出工程、水添工程、エステル交換工程、未反応原料の回収工程、反応生成物を溶剤や水で洗浄する工程(洗浄工程)、反応生成物を活性炭や無機吸着剤等の固体吸着剤で処理する工程、不純物を溶剤で抽出する工程、反応生成物や反応原料をろ過する工程等が挙げられる。
【実施例
【0041】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0042】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体の分子量(重量平均分子量、数平均分子量)、末端ビニル基量、及び、酸価は、それぞれ以下の方法により行った。
<分子量測定>
重合体の重量平均分子量、数平均分子量は、以下の装置及び条件によりGPC(ゲルパーミネーションクロマトクラフィー)で測定した。
装置:東ソー HLC-8320
カラム:guardcolumn superHL、TSKgel Super H2000
カラム温度:40℃
注入量:10μL
移動相:テトラヒドロフラン(和光試薬特級 安定剤含有)
流速:0.6mL/min
検出器:RI
検量線:TSK standard POLYSTYRENE
<末端ビニル基量測定>
(メタ)アクリル酸エステル系重合体のH-NMRより、5.6ppm、6.2ppm付近の末端ビニル基由来のピークと4ppm付近の(メタ)アクリル酸エステルの酸素に近いメチレン鎖に由来するピークとの比より、繰り返し単位に対するビニル基のモル比(mol%)を求めた。
<酸価>
200mLナスフラスコに試料5gと滴定溶剤A(和光純薬工業(株)社製、2-プロパノール:49.0-50.0v/v%、トルエン:49.0-50.0v/v%溶液)100mL、指示薬溶液(p-ナフトールベンゼン0.1gを滴定溶剤Aに溶解させた溶液)0.5mLを入れ、均一な溶液になるまで降り混ぜた。
ビュレットを用いて0.1mol/L KOH/イソプロパノール(iPrOH)溶液で滴定し、溶液の色が黄橙色から緑色に変わるまでに要した溶液の量(V1)を読み取った。
同様に試料なしで試験を行い、中和に要した量(V0)をブランクの値とした。
これらの値を下の計算式に当てはめて、酸価を算出した。
酸価(mgKOH/g)=(56.1×0.1×(V1-V0))/m (m:試料の質量(g))
【0043】
[本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の実施例、比較例]
実施例1
(重合工程)
容量1500mlの加圧式攪拌槽型反応装置に、溶媒として酢酸ブチル189質量部を加えて密栓し、窒素ガスにより加圧、解圧を繰り返して反応器内部を窒素で置換した。電熱ヒーターにより、反応器内温度を200℃まで昇温した後、パーロイルL(日油(株)社製、製品名:パーロイルL、開始剤)6.3質量部を酢酸ブチル(反応器へ初期添加した溶媒と同じ種類の溶媒)262.7質量部へ均一に混合した開始剤溶液と、ブチルアクリレート((メタ)アクリル酸エステル、以下BA)125部を酢酸ブチル42質量部へ均一に混合したモノマー溶液を、高圧定量ポンプを用いてそれぞれ同時に反応器へ、2時間かけて連続的に投入し、反応器内の温度を200℃に保ったまま、60分間保持した。
その後、冷却し、反応器内の圧力が十分に低下したことを確認した後、解圧して内容物を取り出し、溶媒を除去した。さらに残存溶媒や残存モノマー等の低沸点成分を減圧留去することで、無色透明の重合体を得た。なお、残存単量体は1000ppm未満であった。さらに吸着剤処理工程を実施し、無色透明の重合体(本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(1))を得た。
得られた重合体の重量平均分子量は2260、数平均分子量は1310、重合度10.2、末端ビニル基は10.0mol%、酸価は0.03mgKOH/gであった。
【0044】
(吸着剤処理工程)
冷却管を備え付けた1000mlナスフラスコに、上記重合工程で得られた(メタ)アクリル酸エステル系重合体(1)82質量部、酢酸ブチル294質量部、吸着剤(協和化学工業(株)社製Mg、Al含有ハイドロタルサイト、製品名:キョーワード500SH)2.9質量部を加え、100℃に加熱したオイルバスにつけ、60分間加熱攪拌した。その溶液をメンブレンフィルター(ADVANTEC,PTFE, 0.1μm)を用いて、およそ60℃で熱時濾過した。濾液を濃縮し、低沸点成分を減圧留去することで、無色透明の重合体(本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(1))を得た。
【0045】
実施例2
実施例1において、吸着剤処理工程を実施しなかった他は、実施例1と同様にして無色透明の重合体(本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(2))を得た。なお、残存単量体は1000ppm未満であった。
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(2)の重量平均分子量は2090、数平均分子量は1300、重合度は10.1、末端ビニル基量は8.1mol%、酸価は0.30mgKOH/gであった。
【0046】
実施例3
実施例2において、開始剤をVE-073(和光純薬工業(株)社製、製品名:VE-073、開始剤)に変更した他は、実施例2と同様にして無色透明の重合体(本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(3))を得た。なお、残存単量体は1000ppm未満であった。
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(3)の重量平均分子量は2060、数平均分子量は1240、重合度は9.6、末端ビニル基量は7.1mol%、酸価は0.02mgKOH/gであった。
【0047】
実施例4
実施例1において、開始剤溶液の代わりに酢酸ブチル溶液269部を使用し、開始剤を使用しなかった他は、実施例1と同様にして無色透明の重合体(本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(4))を得た。なお、残存単量体は1000ppm未満であった。
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(4)の重量平均分子量は2890、数平均分子量は1460、重合度は11.4、末端ビニル基量は8.9mol%、酸価は0.02mgKOH/gであった。
【0048】
実施例5
実施例4において、酢酸ブチル溶液の代わりにトルエン溶液を使用した他は、実施例4と同様にして無色透明の重合体(本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(5))を得た。なお、残存単量体は1000ppm未満であった。
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(5)の重量平均分子量は1980、数平均分子量は1270、重合度は9.9、末端ビニル基量は8.5mol%、酸価は0.01mgKOH/gであった。
【0049】
比較例1
実施例2において、開始剤をV-601(和光純薬工業(株)社製、製品名:V-601、開始剤)に変更した他は、実施例2と同様にして無色透明の重合体(本発明の(メタ)アクリル酸エステル比較重合体(1))を得た。なお、残存単量体は1000ppm未満であった。
本発明の(メタ)アクリル酸エステル比較重合体(1)の重量平均分子量は1900、数平均分子量は1170、重合度は9.1、末端ビニル基量は8.2mol%、酸価は0.01mgKOH/gであった。
【0050】
実施例1~5で製造した(メタ)アクリル酸エステル系重合体(1)~(5)及び比較例1で製造した(メタ)アクリル酸エステル比較重合体(1)について、以下の方法により、熱重量分析を行った。結果を表1に示す。
実施例1~5の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(1)~(5)は、いずれも200℃、30分加熱後の熱重量減少が少なく、熱安定性の高い重合体であることが確認された。
<熱重量分析>
分析装置:Bruker axs社製 TG-DTA2000SA
分析条件:総測定時間48min、測定温度範囲20-200℃(昇温速度:10.0deg/min、200℃到達後30分保持)
サンプリング間:1.0sec
雰囲気:N 50mL/min
重量減少率は、測定前の重量から測定後の重量を差し引いた重量を、測定前の重量で割ることで算出した。
【0051】
【表1】
【0052】
[本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法の実施例、比較例]
実施例6
実施例1において、開始剤をパーブチルDに変更した他は、実施例1と同様にして無色透明の重合体(本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(6))を得た。なお、残存単量体は1000ppm未満であった。
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体(6)の重量平均分子量は1770、数平均分子量は1130、重合度は8.8、末端ビニル基量は3.0mol%、酸価は0.02mgKOH/gであった。
【0053】
比較例2
実施例6において、吸着処理工程を実施しなかった他は、実施例6と同様にして無色透明の重合体(本発明の(メタ)アクリル酸エステル比較重合体(2))を得た。なお、残存単量体は1000ppm未満であった。
本発明の(メタ)アクリル酸エステル比較重合体(2)の重量平均分子量は1680、数平均分子量は1010、重合度は7.9、末端ビニル基量は2.1mol%、酸価は0.08mgKOH/gであった。
【0054】
実施例6で製造した(メタ)アクリル酸エステル系重合体(6)及び比較例2で製造した(メタ)アクリル酸エステル比較重合体(2)について、上記と同様の方法により、熱重量分析を行った。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示されているように、吸着剤処理を行った実施例6では吸着剤処理を行わなかった比較例2に比べて、200℃、30分加熱後の熱重量減少が少なくなっている。この点は、実施例1、2についても同様である。これらの結果から、本発明の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法を用いることで、(メタ)アクリル酸エステル系重合体の熱安定性を向上させることができることが確認された。