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  • 特許-包装用多層構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】包装用多層構造体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230630BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230630BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230630BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
B32B27/00 H
B32B27/18 Z
B32B27/32 Z
B65D65/40 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018228095
(22)【出願日】2018-12-05
(65)【公開番号】P2020090018
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-11-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 沙耶
(72)【発明者】
【氏名】清藤 晋也
(72)【発明者】
【氏名】石原 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩介
(72)【発明者】
【氏名】村上 卓生
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】片野 廣通
(72)【発明者】
【氏名】外室 乃樹
(72)【発明者】
【氏名】成田 廣大
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-215439(JP,A)
【文献】特開2012-030497(JP,A)
【文献】特開2003-119329(JP,A)
【文献】特開平02-150481(JP,A)
【文献】特開平11-115124(JP,A)
【文献】特開2014-084389(JP,A)
【文献】特開平11-334004(JP,A)
【文献】特開2005-163021(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135476(WO,A1)
【文献】特開2017-019516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
包装される物質に対しての滑り性を向上させるための液状滑剤が分散されている滑剤供給用樹脂層を中間層として有する包装用多層構造体において、
包装される物質が存在する側の面を内面、その反対側の面を外面としたとき、
前記滑剤供給用樹脂層の内面側には、該包装用多層構造体の内面を形成している内面樹脂層が形成されており、
前記内面樹脂層は、エチレン系樹脂から形成されており、厚みが10~100μmであり、
前記内面樹脂層と前記滑剤供給用樹脂層が隣接しており、
前記滑剤供給用樹脂層の外面側には、ガスバリア性樹脂層が配置され、
前記包装用多層構造体に含まれる前記液状滑剤の含有量が、前記滑剤供給用樹脂層と前記内面樹脂層とを合わせての25℃での液状滑剤飽和含有量以下であり、前記液状滑剤飽和含有量の10%以上に設定され、
前記包装される物質が、スラリー状或いはペースト状の物質であることを特徴とする包装用多層構造体。
【請求項2】
前記滑剤供給用樹脂層が、樹脂成分としてオレフィン系樹脂を含む請求項1に記載の包装用多層構造体。
【請求項3】
前記滑剤供給用樹脂層の外面側には、オレフィン系樹脂層が隣接して設けられている請求項1または2に記載の包装用多層構造体。
【請求項4】
前記滑剤供給用樹脂層に隣接して前記ガスバリア性樹脂層が配置されている場合には、該滑剤供給用樹脂層には、酸変性オレフィン系樹脂がブレンドされている請求項1に記載の包装用多層構造体。
【請求項5】
前記滑剤供給用樹脂層は、1~200μmの厚みを有している請求項1~4の何れかに記載の包装用多層構造体。
【請求項6】
前記液状滑剤は、前記滑剤供給用樹脂層を供給源としてのブリーディングにより内部に分布している請求項1~5の何れかに記載の包装用多層構造体。
【請求項7】
フィルムもしくはシート、チューブ、袋或いはカップの形態を有している請求項1~6の何れかに記載の包装用多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装される物質(内容物)に対して滑り性を向上させる液状滑剤が、内容物が接触する面(内面)に分布している包装用多層構造体に関するものであり、特にチューブ、袋、カップなどの容器、さらには、袋やカップの作製に用いるフィルムやシートとして好適に使用される包装用多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック容器は、成形が容易であり、安価に製造できることなどから、各種の用途に広く使用されている。例えば、容器壁の内面がポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂層で形成されている容器は、ボトル、チューブ或いは袋(パウチ)などの形態として、粘稠なスラリー状或いはペースト状の内容物を収容するための容器として広く使用されている。
【0003】
ところで、粘稠な内容物を収容するためのプラスチック容器では、該内容物を速やかに排出することが要求される。
このような要求を満足するために、従来は、特許文献1等に記載されているように、容器内面を形成するオレフィン系樹脂層に、脂肪族アミド等の両親媒性化合物からなる常温で固体状の滑剤を配合するという手段が採用されていたのであるが、最近では、特許文献2,3等に開示されているように、流動パラフィンや食用油等による液膜を、内面を形成しているオレフィン系樹脂層の表面に形成するという手段が種々提案されている。
【0004】
例えば、上記の固体状の滑剤を内面のオレフィン系樹脂層に配合するという手段は、ブリーディングにより容器内面に滑剤の多分子層を形成することにより、容器内に収容されている内容物に対する滑り性向上させるというものであり、容器の形態を問わず、ある程度の効果が認められる。
【0005】
一方、容器内面に液膜を設けるという手段は、上記のような固体状の滑剤を用いる手段と比較すると、内容物に対する滑り性向上効果が著しく大きいのであるが、容器の形態がボトルに限定され、チューブ容器やパウチなどの袋状容器には適用し難いという問題がある。
即ち、パウチなどの袋状容器は、フィルムをヒートシールに貼り付けて開口部を有する袋状体に成形し、この後、この袋状体に内容物を充填し、最後に袋状体の開口部を熱融着して閉じることにより製造される。この場合、この袋状容器の形成に用いるフィルムの表面に液膜が形成されていると、このフィルムをロールで巻き取る際に、表面の液膜が裏移りしてしまうという問題がある。このような問題は、カップを形成するために使用されるシートについても生じる。
また、チューブ容器では、内容物の充填に先立って、容器の外面に印刷を施すという工程が必要である。この印刷工程では、チューブ容器の内部に、チューブ容器の胴部壁を安定に保持するために、所定の治具が挿入され、この状態で印刷作業が行われることとなる。しかるに、このチューブ容器の内面に液膜が形成されていると、印刷のためにチューブ容器の内部に挿入された治具に液膜が転写されてしまうという問題がある。
【0006】
このように、容器の内面に液膜を形成するという手段は、内容物に対する滑り性を著しく高め、内容物の排出性を顕著に高めることができるのであるが、液膜の裏移りや転写などの問題があるため、実用上、その適用がボトルに限定されてしまい、その改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-284066号公報
【文献】特許第5971337号
【文献】特許第5673905号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、被包装物に対する滑り性や耐付着性を向上させる液状滑剤を含有していながら、該液状滑剤の表面へのブリーディングに起因する裏移りや転写の問題が有効に解決していると同時に、被包装物に対する優れた滑り性や耐付着性が発揮され、ボトル以外の容器、例えばチューブ、袋、カップなどの容器、さらには、袋やカップの作製に用いるフィルムやシートとして、好適に使用される包装用多層構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は先に、上記のような包装用多層構造体について、内面層と外面層との間の中間層として滑剤含有樹脂層(融点が0℃以下の液状の滑剤を容器内面に供給する樹脂層)を有する多層構造を有しており、内容物が接触する最内面層がオレフィン系樹脂により形成された滑剤フリー層であり、外面層が液状滑剤の移行遮断性を示す包装用多層構造体を提案した(特願2017-155670号)。本発明者等は、かかる先願の技術を推し進め、液状の滑剤を被包装物が接触する面(内面)に供給する滑剤供給用樹脂層を、内面樹脂層に隣接する中間層として設け、この包装用多層構造体に含まれる液状滑剤のトータル量を、前記滑剤供給用樹脂層と前記内面樹脂層とを合わせての液状滑剤の25℃での飽和含有量以下となるように設定することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明によれば、包装される物質に対しての滑り性を向上させるための液状滑剤が分散されている滑剤供給用樹脂層を中間層として有する包装用多層構造体において、
包装される物質が存在する側の面を内面、その反対側の面を外面としたとき、
前記滑剤供給用樹脂層の内面側には、該包装用多層構造体の内面を形成している内面樹脂層が形成されており、
前記内面樹脂層は、エチレン系樹脂から形成されており、厚みが10~100μmであり、
前記内面樹脂層と前記滑剤供給用樹脂層が隣接しており、
前記滑剤供給用樹脂層の外面側には、ガスバリア性樹脂層が配置され、
前記包装用多層構造体に含まれる前記液状滑剤の含有量が、前記滑剤供給用樹脂層と前記内面樹脂層とを合わせての25℃での液状滑剤飽和含有量以下であり、前記液状滑剤飽和含有量の10%以上に設定され、
前記包装される物質が、スラリー状或いはペースト状の物質であることを特徴とする包装用多層構造体が提供される。
【0011】
本発明の包装用多層構造体においては、以下の態様を好適に採用することができる。
(1)前記滑剤供給用樹脂層が、樹脂成分としてオレフィン系樹脂を含むこと
(2)前記滑剤供給用樹脂層の外面側には、オレフィン系樹脂層が隣接して設けられていること。
)前記滑剤供給用樹脂層に隣接して前記ガスバリア性樹脂層が配置されている場合には、該滑剤供給用樹脂層には、酸変性オレフィン系樹脂がブレンドされていること。
)前記滑剤供給用樹脂層は、1~200μmの厚みを有していること。
)フィルムもしくはシート、チューブ、袋或いはカップの形態を有していること。
【発明の効果】
【0012】
本発明の包装用多層構造体は、包装される物質(被包装物)に対しての滑り性を向上させるための液状滑剤を含有しており、この液状滑剤が被包装物と接触する面に分布していることにより、被包装物の構造体表面への付着残存を有効に防止し、この構造体から速やかに取り出すことができるという基本特性を有しているのであるが、重要な特徴は、液状滑剤の供給源となる滑剤供給用樹脂層が、多層構造体の内面(被包装物が接触側の面)を形成する内面樹脂層に隣接する中間層として設けられており、且つ液状滑剤量が滑剤供給用樹脂層と前記内面樹脂層とを合わせての25℃での液状滑剤飽和含有量以下となるように設定されている点に重要な特徴を有する。
【0013】
一般に、液状滑剤により被包装物に対する滑り性を発揮させる場合、被包装物が接触する面にある程度の厚みで液状滑剤の液膜が形成されていることが必要であると考えられていた。このために、従来公知の技術において、被包装物との接触面に液状滑剤をスプレーすることにより塗布したり、或いは該接触面を含む樹脂に液状滑剤を配合しておき、該樹脂からの液状滑剤のブリーディングにより液状滑剤の液膜を形成するという手法が採用されていた。しかるに、このような手法では、この多層構造体をフィルムなどの形態で使用したときに、ロールでの巻き取りなどにより多層構造体が重ね合わされたときに、液膜の裏移りを生じてしまう。このために、本発明者等の先願(特願2017-155670号)では、接触面を形成する層に隣接する中間層に液状滑剤を配合し、中間層(液状滑剤供給層)からの液状滑剤のブリーディングにより接触面に液状滑剤の液膜を形成する手法を提案している。即ち、この手法では、被包装物が接触する面に液状滑剤の液膜が形成するまでにある程度の時間がかかるため、液膜が形成する前であれば、液膜の裏移りなどの問題を有効に解消できるわけである。
しかしながら、このような手法を採用した場合においても、最終的には、十分な厚みの液膜を形成するために、かなりの量の液状滑剤が中間層(液状滑剤供給層)に配合されており、裏移り防止性は液膜が形成するまえの段階で限定的に生じているに過ぎず、被包装物に対する滑り性と同時に裏移り防止性を発揮させることはできない。
【0014】
しかるに、本発明では、上記のように多層構造体に含まれる液状滑剤の含有量を調整しておくことにより、被包装物に対する優れた滑れた滑り性が発揮されている場合においても、この多層構造体を重ね合わせたときの裏移りを生じることがない。即ち、後述する実施例にも示されているように、被包装物に対する滑り性と同時に裏移り防止性を確保することが可能となる。
このような現象は実験的に確認されたものであり、その理由は、正確に解明されてはいないが、本発明者等は次のように推定している。
【0015】
即ち、接触面を形成する層(内面樹脂層)に隣接する中間層(液状滑剤供給層)に液状滑剤を配合し、この液状滑剤供給層から液状滑剤を内面樹脂層に移行させる場合において、液状滑剤量が滑剤供給用樹脂層と前記内面樹脂層とを合わせての25℃での液状滑剤飽和含有量(トータル飽和量)以下に設定したときには、被包装物に対する滑り性が発揮される程度の量で液状滑剤が含まれていた場合にも、内面樹脂層に移行した液状滑剤は、表面に液膜を形成することはないが、表面に分布し、この結果、裏移り防止性と同時に、被包装物に対する滑り性が発揮されるのであろうと考えられる。例えば、溶融樹脂に液状滑剤を配合する場合には、固体状樹脂のような飽和含有量というようなパラメータは無いため、液状滑剤は固体状樹脂でのトータル飽和量を超える量で使用され、この結果、ある程度の時間が経過した後は、被包装物が接触する面で液状滑剤の液膜が形成されてしまい、この結果、裏移り防止性と被包装物に対する滑り性とを同時に発揮させることはできない。しかるに、本発明では、被包装物に対する滑り性が発揮される状態でも、液状滑剤は液膜を形成せずに、表面に分布しているに過ぎないため、裏移り防止性が発揮されるわけである。
尚、液状滑剤飽和含有量を特定する温度を25℃に設定したのは、この包装用多層構造体は、成形後から市販されるまでは、通常、常温(25℃)もしくは常温以下の温度に保持され、さらに、飽和量は、樹脂の融点未満の温度であれば、その変動はほとんど誤差レベルであり、25℃での飽和含有量を基準値としておけば、問題がないからである。
【0016】
このように、本発明の包装用多層構造体は、裏移り防止性と被包装物に対する滑り性とを同時に発揮することができるため、ボトルなどの容器に限定されることなく、ロールへの巻き取り保持などに使用されるフィルムあるいはシートとして被包装物の包装に好適に使用することができ、さらには、フィルムを用いて作製される袋などの容器、或いはシートを用いてのプラグアシスト成形、真空成形等により成形されるカップなどの容器、さらにはチューブ成形により成形されるチューブなどの包装材として極めて好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の包装用多層構造体の層構造の一例を示す断面図であり、(a)は製造直後の状態を示し、(b)は製造後、一定期間経過後の状態を示す。
図2】本発明の包装用多層構造体の層構造の他の一例を示す断面図であり、(a)は製造直後の状態を示し、(b)は製造後、一定期間経過後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照して、全体として10で示す本発明の包装用多層構造体は、液状滑剤αの供給源である滑剤供給用樹脂層1を中間層として有しており、この構造体10の一方の面、即ち、内面が包装される物質(被包装物)と接触する面となっており、被包装物とは接触しない側の面が外面となっている。
【0019】
図1に示されているように、滑剤供給用樹脂層1は、被包装物が接触する内面を形成している内面樹脂層3に隣接しており、この滑剤供給用樹脂層1の外面側に隣接して、滑剤遮断性外面層5が外面側層として設けられている。即ち、滑剤供給用樹脂層1及び内面樹脂層3は、何れも滑剤移行性を示す層であり、この構造体10の製造直後においては、液状滑剤αは、滑剤供給用樹脂層1に限定して分散されているが(図1(a)参照)、経時と共に内面樹脂層3中に移行して拡散していくこととなる(図1(b)参照)。
【0020】
また、図2の例では、滑剤供給用樹脂層1及び内面樹脂層3は、図1と同様であるが、滑剤供給用樹脂層1の外面側に隣接している層は、滑剤移行性層7となっている。即ち、この構造体10の製造直後においては、液状滑剤αは、滑剤供給用樹脂層1に限定して分散されているが(図2(a)参照)、経時と共に内面樹脂層3及び滑剤移行性外面側層7中に移行して拡散していくこととなる(図2(b)参照)。
【0021】
<液状滑剤α>
本発明において使用される液状滑剤αは、被包装物、例えば流れにくく、包装体の表面に付着し易い高粘性もしくはペースト状の被包装物質に対して滑り性を発揮するために使用される液状物質であり、少なくとも被包装物が包装されている状態(即ち、使用状態)で液状を有しているものでなければならない。具体的には、0℃以下の融点を有しており、少なくとも常温(25℃)で液状の物質であり、さらに、揮散するような物質ではなく、その沸点が200℃以上の高沸点液体である。
【0022】
このような液状滑剤αとしては、種々のものを挙げることができるが、特に水や水を含む親水性の被包装物に対して優れた滑り性を発揮させるという観点から、フッ素系界面活性剤、流動パラフィンや合成パラフィンなどの炭化水素系液体、シリコーンオイル、グリセリン脂肪酸エステル、食用油などを挙げることができる。特に被包装物が食品類である場合には、グリセリン脂肪酸エステル及び食用油が最も好適である。
食用油の具体例としては、大豆油、菜種油、オリーブオイル、米油、コーン油、べに花油、ごま油、パーム油、ひまし油、アボガド油、ココナッツ油、アーモンド油、クルミ油、はしばみ油、サラダ油などを例示することができる。
【0023】
本発明において、上述した液状滑剤αは、最終的に図1(b)或いは図2(b)に示されているように、構造体10の内面(内面樹脂層3の表面)にブリーディングして内面樹脂層3中に分散して存在するが、この液状滑剤αの量が、滑剤供給用樹脂層1と内面樹脂層3とを合わせての25℃での液状滑剤飽和含有量(トータル飽和量)以下に設定されているため、その表面に液状滑剤αの膜を形成することはない。
また、被包装物に対して安定した滑り性を発揮させる上で、この液状滑剤αの量は、滑剤供給用樹脂層1の25℃での液状滑剤飽和量以上であって、特に上記トータル飽和量の10%以上に設定されていることが好ましく、40%以上に設定されていることがより好ましい。この液状滑剤αの含有量に対しては、後述する。
【0024】
<滑剤供給用樹脂層1>
上記の液状滑剤αを内蔵し、液状滑剤αの供給源となる滑剤供給用樹脂層1は、液状滑剤αを均一に分散させ且つ液状滑剤αをブリードし得るような液状滑剤移行性を示す熱可塑性樹脂により形成されるものであり、このような特性を有していれば特に制限なく使用することができるが、一般的には、成形性などの観点から、オレフィン系樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、中或いは高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテンなどを挙げることができる。勿論、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体等であってもよいし、また、特開2007-284066号等に開示されている環状オレフィン共重合体を使用することもできる。
【0025】
本発明においては、特に滑剤のブリード性などの観点から、上記のオレフィン系樹脂の中でもガラス転移点(Tg)が30℃以下のもの、好ましくは0℃以下のもの、具体的には低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、中或いは高密度ポリエチレン、或いはエチレンと他のα-オレフィンとの共重合体の如き、エチレン系樹脂であることが好ましい。即ち、ガラス転移点(Tg)が高い樹脂を用いると、構造体10の保存環境下で滑剤供給用樹脂層1がガラス状となってしまい、液状滑剤αに対するブリーディング性が大きく損なわれてしまうからである。
また、液状滑剤αに対するブリーディング性が損なわれない限りにおいて、上記のようなオレフィン系樹脂(特にエチレン系樹脂)をバージン樹脂とし、この構造体10を成形する際に発生するバリ等のスクラップ樹脂を配合したものを滑剤供給用樹脂層1のベース樹脂として使用することも可能である。
【0026】
尚、上記の滑剤供給用樹脂層1の厚みdは、これに含まれる液状滑剤αの量や包装用多層構造体10の大きさ等に応じて適宜の範囲に設定されるが、一般的には、構造体10の厚みが必要以上に厚肉とならないように、1~100μm程度の厚みとすることが望ましい。
【0027】
<内面樹脂層3>
本発明において、上記の滑剤供給用樹脂層1の内面側に隣接している内面樹脂層3は、この多層構造体10の被包装物と接触する内面を形成する層であり、この内面樹脂層3中に、滑剤供給用樹脂層1中に分散されている液状滑剤αが移行して分布することにより、被包装物に対して優れた滑り性が発揮される。
【0028】
従って、内面樹脂層3も、滑剤供給用樹脂層1と同様、液状滑剤移行性を示すものでなければならない。即ち、内面樹脂層3が滑剤移行性を有していないと、この層中に液状滑剤αを分散させることができず、被包装物に対する滑り性を発揮することができなくなってしまう。
尚、この内面樹脂層3に分布する液状滑剤αは、滑剤供給用樹脂層1中に配合された液状滑剤αが移行したものである。この内面樹脂層1に直接液状滑剤αが配合されていると、内面樹脂層1の表面(被包装物)に液状滑剤の膜を防止することができず、被包装物に対する滑り性を発揮すると同時に液状滑剤の液膜による裏移りを防止することができなくなってしまう。
【0029】
このように、本発明では、滑剤供給用樹脂層1中の液状滑剤αを内面樹脂層3中に移行させるため、滑剤供給用樹脂層1と同様に、液状滑剤移行性を有する樹脂により内面樹脂層3を形成することが必要である。即ち、内面樹脂層3は、滑剤移行性を示すオレフィン系樹脂、好ましくは、ガラス転移点が30℃以下のオレフィン系樹脂(例えば前述したエチレン系樹脂)で形成される。さらに、滑剤供給用樹脂層1との接着性を確保するため、滑剤供給用樹脂層1を形成する樹脂と同種のオレフィン系樹脂により、内面樹脂層3を形成することが好ましい。
【0030】
さらに、内面樹脂層3には、所謂アンチブロッキング剤を配合することもできる。即ち、この多層構造体10を重ね合わせて保持した時、多層構造体10同士が密着して剥がれ難くなることを、アンチブロッキング剤により防止することができる。
【0031】
このようなアンチブロッキング剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、アルミノケイ酸塩、或いはMg、Zn、Fe、Al、Ti、Zr等の金属の酸化物や炭酸塩、架橋(メタ)アクリレート樹脂を例示することができる。
また、上記のアンチブロック剤として、通常、メッシュ粒径が20μm以下の微粒子が使用されるが、このような微粒子は、内面樹脂層1の滑剤移行性を低下させる性質がある。即ち、このような微粒子は、オレフィン系樹脂の分子の自由度の高い非晶部の間隙に充填され、これにより、このような非晶部を通る液状滑剤αの通過が制限されるからである。従って、このようなアンチブロッキング剤の配合量は、比較的少量であることが好ましく、例えば、内面樹脂層3を形成するオレフィン系樹脂100質量部当り、10質量部以下、特に0.1~1質量部程度の量とするのがよい。
【0032】
本発明において、上述した内面樹脂層3の厚みは、特に制限されないが、薄すぎると、成形時に滑剤供給用樹脂層1中の液状滑剤αが一気にブリーディングし、内面樹脂層3の表面に液膜を形成してしまうことがある。また、必要以上に厚いと、被包装物に対しての滑り性が発揮し得る程度に内面樹脂層3内に液状滑剤αが分布するまでにかなりの時間を要することとなる。従って、本発明においては、このような内面樹脂層3の厚みは、1~200μm、特に10~100μmの範囲にあることが好適である。
【0033】
<外面層5,7>
本発明の包装用多層構造体10においては、図1及び図2に示されているように、滑剤供給用樹脂層1は中間層として存在しており、この滑剤供給用樹脂層1が外面にも露出しないように設計されていることが必要である。即ち、滑剤供給用樹脂層1は液状滑剤αに対する移行性を示しているため、滑剤供給用樹脂層1が外面に露出していると、外面に液状滑剤αの液膜が形成され、ベタツキなどを生じてしまい、例えば構造体10の外面への印刷、或いはラベル等の貼付等の作業が困難となってしまう。このために、滑剤供給用樹脂層1の外面に隣接して外面層5或いは7を設け、滑剤供給用樹脂層1の外面への露出を防止することが必要となる。
【0034】
このような外面に設ける層は、滑剤遮断性を有している層であってもよいし、滑剤移行性を有している層であってもよい。図1の例で設けられている外面層5は滑剤遮断性の層であり、図2の例で設けられている外面層7は、滑剤移行性の層である。
【0035】
滑剤遮断性外面層5;
滑剤遮断性外面層5は、密度が1.00g/cm以上且つガラス転移点(Tg)が35℃以上の樹脂により形成されるが、本発明では、特に、ガスバリア性樹脂を用いることが好ましく、エチレンビニルアルコール共重合体を用いることが最も好適である。即ち、このようなガスバリア性樹脂を用いることにより、より確実な滑剤遮断性と共に酸素バリア性を付与することができ、特にエチレンビニルアルコール共重合体は、特に優れた酸素バリア性を示すため、酸素透過による被包装物の酸化劣化をも有効に抑制することができる。
【0036】
上記のようなエチレンビニルアルコール共重合体としては、一般に、エチレン含有量が20乃至60モル%、特に25乃至50モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体を、ケン化度が96モル%以上、特に99モル%以上となるようにケン化して得られる共重合体ケン化物が好適である。
【0037】
また、上記のようなガスバリア性樹脂から形成される滑剤遮断性外面層5は、一般に1乃至50μmの範囲にあることが好ましい。この厚みが過度に薄いと、成形時に滑剤供給用樹脂層1中に配合されている液状滑剤αの外面側に一気に移行してしまい、外面側に液膜が形成されたり、或いはべた付き、液の垂れ落ち等を生じるおそれがあり、さらにはガスバリア性樹脂によってもたらされる酸素バリア性も不満足なものとなってしまう。また、厚みが過度に厚いと、滑剤遮断性のさらなる向上は得られず、かえって構造体10の厚みが必要以上に厚くなったり、或いはコストの増大などの点で不都合を生じてしまうからである。
【0038】
また、上記のようなガスバリア性樹脂を用いる場合には、滑剤供給用樹脂層1との接着性を高め、デラミネーションを防止するために、間に接着剤樹脂層を設けることができる。これにより、このガスバリア性樹脂からなる滑剤遮断性外面層5をしっかりと接着固定することができる。このような接着樹脂層の形成に用いる接着剤樹脂はそれ自体公知であり、例えば、カルボニル基(>C=O)を主鎖若しくは側鎖に1乃至100meq/100g樹脂、特に10乃至100meq/100g樹脂の量で含有する樹脂、具体的には、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸もしくはその無水物、アミド、エステルなどでグラフト変性されたオレフィン樹脂;エチレン-アクリル酸共重合体;イオン架橋オレフィン系共重合体;エチレン-酢酸ビニル共重合体;などが接着性樹脂として使用される。このような接着剤樹脂層の厚みは、適宜の接着力が得られる程度でよく、一般的には、1乃至20μm程度の厚みでよい。尚、このような接着剤樹脂層も、前述した密度及びガラス転移点の条件を満足すれば、滑剤遮断層として機能し得る。
【0039】
さらに、本発明では、上記のような接着剤層を設ける代わりに、前述した滑剤供給用樹脂層1中に、上記の接着剤樹脂を配合しておくことにより、ガスバリア性を有する滑剤遮断性外面層5と滑剤供給用樹脂層1との接着性を確保することもできる。この場合、滑剤供給用樹脂層1中に配合される接着剤樹脂の量は、該樹脂層1中に5~50質量%程度とするのがよい。
【0040】
尚、本発明においては、上述したガスバリア性樹脂からなる滑剤遮断性の外面層のさらに外面側に、オレフィン系樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂からなる最外面層を形成することもできる。勿論、このような最外面層との接着性が不満足な場合には、間に接着剤樹脂層を挟むことができる。
【0041】
さらに、本発明においては、前述した密度及びガラス転移点を有する樹脂を用いず、各種の無機材、例えば、アルミ箔等の金属箔、金属若しくは金属酸化物蒸着膜、ダイヤモンドライクカーボン蒸着膜、セラミックス類などにより滑剤遮断性の外面層7を形成することもできる。
ただし、このような無機材により滑剤遮断性外面層5が形成されている場合、成形手段が制限されるため、多層構造体10の形態はフィルムもしくはシートに限定される。また、このような無機材からなる滑剤遮断性外面層5は、ウレタン系接着剤等のドライラミネート接着剤を用いて設けることもできる。
【0042】
滑剤移行性外面層7;
本発明においては、上述した滑剤遮断性外面層5の代わりに、滑剤移行性外面層7を設けることもできる。即ち、図2に示されているように、滑剤移行性外面層7を設けた場合には、製造後、一定時間経過した後は、この滑剤移行性外面層7中にも液状滑剤αが分布することとなる(図2(b)参照)。
【0043】
本発明では、液状滑剤αの量が、滑剤供給用樹脂層1と内面樹脂層3とを合わせての25℃での液状滑剤飽和含有量(トータル飽和量)以下に設定されているため、滑剤移行性を示す内面樹脂層1の表面に液膜を形成することがないが、同時に、滑剤移行性を示す外面層9の表面に液膜を形成することもない。即ち、滑剤供給用樹脂層1と内面樹脂層3とを合わせてのトータル飽和含量以下に液状滑剤αの配合量が設定されていれば、当然、この液状滑剤αの配合量は、滑剤供給用樹脂層1、内面樹脂層3及び滑剤移行性外面層7を合わせてのトータル飽和含量よりも少ない量となっているからである。従って、本発明では、滑剤供給用樹脂層1の外面側の外面層として、滑剤移行性の外面層7を設けることが可能となっている。
【0044】
このような滑剤移行性外面層7の厚みは特に制限されないが、成形時での液状滑剤αの外面へのブリーディングによる液膜の形成を確実に防止し得る程度の厚みを有しているべきであり、通常、10μm以上の厚みを有していることが好適である。
【0045】
尚、上記の滑剤移行性外面層7の樹脂素材は特に制限されないが、滑剤供給用樹脂層1との接着性を考慮し、該滑剤供給用樹脂層1との同種のオレフィン系樹脂により形成されていることが好ましく、さらにはアンチブロッキング剤の配合により、この多層構造体10が重ね合わされたときの相互の密着を有効に防止することができる。
【0046】
尚、本発明において、滑剤移行性外面層7を設けた場合においても、さらに外面側に前述したガスバリア性樹脂の層等のさらに他の層や無機材料の層を設けることもでき、間に接着剤層を設けることもできる。勿論、滑剤移行性外面層7の外面に他の層をさらに設けた場合には、滑剤移行性外面層7にアンチブロッキング剤を設ける必要はない。
【0047】
<層構造>
上述したように、本発明の包装用多層構造体10は、内面樹脂層3に隣接して滑剤供給用樹脂層1が中間層として配置されている限りにおいて、種々の層構成を取り得るが、その好適な例として、以下の層構造を例示することができる。尚、以下の例において、BASは、内面樹脂層3/滑剤供給用樹脂層1からなる基本二層構造を示し、ADは接着剤樹脂層、RGは、リグラインドとバージンのポリオレフィン系樹脂とを層形成用樹脂として用いた層であり、POは、オレフィン系樹脂層、BARは、ガスバリア性樹脂層である。
(内面) BAS/BAR (外面)
(内面) BAS/AD/BAR
(内面) BAS/AD/BAR/AD/PO (外面)
(内面) BAS/PO (外面)
(内面) BAS/RG/AD/BAR/PO (外面)
(内面) BAS/無機材滑剤遮断層 (外面)
【0048】
尚、前述した各層には、各層に要求される特性を損なわない範囲において、それ自体公知の各種の配合剤、例えば、顔料、紫外線吸収剤等が必要により配合されていてよい。
【0049】
<包装用多層構造体10の製造及び形態>
本発明の多層構造体10は、各層を形成する樹脂もしくは樹脂組成物を用いて、それ自体公知の成形手段により、目的とする用途に応じた形態に成形されるが、滑剤供給用樹脂層1を形成する樹脂中には、前述した液状滑剤αが配合され、このような樹脂組成物を用いて成形が行われる。
【0050】
ところで、上記の液状滑剤αの配合量は、前述した内面樹脂層3及び滑剤供給用樹脂層1を合わせてのトータル飽和含有量以下に設定され、好ましくは該トータル飽和含有量の10質量%以上の範囲、より好ましくは40質量%以上の範囲となるように、この液状滑剤αの配合量を設定しておく。このように液状滑剤αの配合量を設定しておくことにより、製造後、所定の期間内に液状滑剤αが内面樹脂層1中に均質に分布し、液状滑剤による被包装物に対する滑り性を発現させることができ、同時に、内面樹脂層3の表面(被包装物が接触する面)及び外面の何れにも液膜を形成することがなく、多層構造体10を重ね合わせたときの液状滑剤αの裏移りやベタツキを有効に抑制することができる。例えば、液状滑剤αの量が上記範囲よりも多い場合には、内面樹脂層3の表面(さらには外面)に液状滑剤αの液膜が形成されることとなり、被包装物に対する滑り性を確保することはできても、液状滑剤αの裏移りやベタツキを防止することができない。また、その配合量が過度に少ない場合には、内面樹脂層3内への液状滑剤αの分布量が少なく、被包装物に対する滑り性が不十分になる傾向がある。
【0051】
尚、滑剤供給用樹脂層1と内面樹脂層3とを合わせてのトータル飽和含有量は、各層を形成する樹脂を過剰の液状滑剤α中に含浸させ、飽和量に達するまで液状滑剤αを樹脂中に含浸させ、その重量変化から単位重量当たりの飽和吸収量を測定しておき、この飽和吸収量に基づいて、設計される構造体10に形成される各層の厚み(樹脂量)から計算して求めることができる。
【0052】
上述した本発明の包装用多層構造体10は、ボトルの形態に成形して使用することもできるが、本発明の利点を十分に発揮させるために、フィルム或いはシート、もしくはチューブの形態を有していることが好ましい。
フィルムは、袋状容器の作成に用いるものであり、各層に応じた数の押出機を用いての共押出成形により製造することができる。また、外面層7が無機材料から成る滑剤遮断層である場合には、このような滑剤遮断層が設けられたフィルム乃至シートを用い、ドライラミネート接着剤を用い、この無機滑剤遮断層面を、成形後のフィルムに貼り付けることにより製造することができる。
かかるフィルムは、適宜、最外面層の表面に適宜印刷を施した後、適当な大きさに裁断し、ヒートシールにより製袋し、被包装物である内容物を充填した後、密封して販売される。
また、シートは、特にカップ状の容器を成形するために使用され、共押出によりシート成形した後、真空成形、プラグアシスト成形などによりカップの形態に賦形される。
さらに、チューブは、押出機を用いて筒状のプリフォームを溶融押出し、次いで圧縮成形によりネジ部などを含む頭部及び肩部を圧縮成形等により形成し、頭部にキャップを装着した状態で他方側の開口部から内容物を充填し、最後に開口部を融着して閉じることとなる。
【0053】
何れの形態の構造体10においても、滑剤供給用樹脂層1中の液状滑剤αがブリーディングしての液膜形成が防止されているため、例えばロール巻取りやロール保持、印刷或いは製袋での作業を支障なく行うことができ、また、これにより、液状滑剤αによる被包装物に対する滑り性が損なわれることもない。
【0054】
本発明の多層構造体10においては、被包装物が接触する内面樹脂層3に液状滑剤αが液膜を形成することなく分布しているため、非包装物に対する滑り性、即ち排出性が著しく高められている。従って、被包装物として、特に粘稠な内容物、例えば、マヨネーズ、ケチャップ、水性糊、蜂蜜、各種ソース類、マスタード、ドレッシング、ジャム、チョコレートシロップ、カレー、とろみをつけたペースト状食品、乳液乃至化粧クレーム等の化粧品、ペースト状医薬品、液体洗剤、シャンプー、コンデショナー、リンス等が収容される用途に好適に使用される。
【実施例
【0055】
後述する実施例及び比較例において、各層の形成に使用する材料として、以下のものを使用した。
液状滑剤;
中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)
融点:-6℃以下
直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE);
密度:0.91g/cm
MCTに対する飽和含有量:2.8wt%
低密度ポリエチレン(LDPE);
密度:0.92g/cm
MCTに対する飽和含有量:2.0wt%
ガスバリア性樹脂;
エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)
アンチブロッキング剤(AB剤);
疎水性無機粒子(メッシュ粒径5μm)
接着剤(AD剤);
無水マレイン酸変性ポリエチレン
【0056】
<フィルム作製>
後述する実施例及び比較例におけるフィルム作製は、以下の手法により行った。
ラボプラストミルを使用して、内面樹脂層(最内層)を形成する樹脂組成物を押出機Aに、滑剤供給用樹脂層(中間層)を形成する樹脂組成物を押出機Bに、外面層(最外層)用の樹脂を押出機Cに供給し、温度210℃のTダイヘッドより押し出し、内面樹脂層、MCT含有の滑剤供給用樹脂層(中間層)及び外面層(最外層)からなる三層フィルムを作製した。
【0057】
<飽和吸油量測定>
各樹脂ペレットを約20g量り取り(浸漬前の重量)、30gの中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)に浸漬し、50℃で10日間その後100℃で15分間加熱し、室温(25℃)で2時間放冷した。樹脂ペレットを取り出し、表面についたMCTをヘプタンで洗い流した後、室温で1日乾燥させた。重量を量り取り(浸漬後の重量)、浸漬前の重量との差分を出し、下記式により、前述した各樹脂の飽和含有量(飽和吸油量)を算出した。
【0058】
【数1】
【0059】
上記のようにして求めた各樹脂の飽和吸油量を用い、フィルムの各層の膜厚・樹脂組成から室温(25℃)でのフィルム1mあたりの飽和含有量を計算し、その結果を表1の飽和吸油量(iv)に表記した。このとき、滑剤の移行を遮断するエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)についてはMCTを吸油しないものとした。
【0060】
IR測定;
アルミホイル表面をFT―IR測定装置(FTS7000e、Varian(Agilent)製)で測定した。
測定法:ATR法
アタッチメント:DuraScope
【0061】
裏移り試験;
アルミホイルにフィルムの最内層側が接触するように、これら二つを重ね、上から重さ4kg、接触面積8cm×8cmの重りを3分間乗せた。アルミホイル表面の5箇所を上記方法でIR測定することで液体の付着の有無を確認した。IR測定にて5箇所全てで液体を観測しなかったものを裏移りがないと判断し○、1箇所以上で液体を観測したものを裏移りしたと判断し×とした。
【0062】
滑落試験;
フィルムを4×7cmに切り出し、最内層側のフィルム表面にソースを1g乗せたところ、およそ2.5cmの面積にソースが広がった。1分後フィルムを90°に傾斜させ、ソースが垂れ落ちる様子を確認した。フィルムの傾斜前にソースが広がっていた部分のうち、傾斜から5分後にソースが付着したままの部分の面積が10%未満のときを滑落性が良好であると判断し○、11~89%のときを滑落性があると判断し△、90%以上のときを滑落性がないと判断し×とした。
【0063】
<実施例1>
最内層を直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)からなる層、中間層を中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)5wt%含有させたオレフィンからなる層、最外層をエチレンビニル共重合体樹脂(EVOH)からなる層とし、表1に記載する組成となるように3層フィルムを作製した。
フィルムの各層の膜厚を顕微鏡にて測定したところ、最内層50μm、中間層50μm、最外層50μmであった。これらの樹脂組成、膜厚からフィルム1mあたりに含まれるMCT量(MCT含有量)を計算すると、2.3g/mであった。また、これらの樹脂組成、膜厚からフィルム1mあたりで吸油可能なMCT量(飽和含有量)を計算すると、2.8g/mであった。よって作製したフィルムが飽和含有量>MCT含有量であることを確認した。作製してから1週間後および3ヶ月後に滑落試験を、3ヶ月後に裏移り試験を行った。結果を表1に示す。
【0064】
<実施例2>
最内層をLLDPE、LDPE、AB剤からなる層、中間層をMCT10wt%含有させたオレフィンからなる層、最外層をEVOHからなる層とし、表1に記載する組成となるように3層フィルムを作製した。
フィルムの各層の膜厚を顕微鏡にて測定したところ、最内層50μm、中間層15μm、最外層50μmであった。これらの樹脂組成、膜厚からフィルム1mあたりに含まれるMCT量(MCT含有量)を計算すると、1.4g/mであった。また、これらの樹脂組成、膜厚からフィルム1mあたりで吸油可能なMCT量(飽和含有量)を計算すると、1.5g/mであった。よって作製したフィルムが飽和含有量>MCT含有量であることを確認した。作製してから1週間後および3ヶ月後に滑落試験を、3ヶ月後に裏移り試験を行った。結果を表1に示す。
【0065】
<実施例3>
中間層をMCT12wt%含有する層となるように表1-実施例3に記載する組成にし、最内層の膜厚を70μmにした以外は実施例2と同様に3層フィルムを作製した。
これらの樹脂組成、膜厚からフィルム1mあたりに含まれるMCT量(MCT含有量)を計算すると、1.7g/mであった。
また、これらの樹脂組成、膜厚からフィルム1mあたりで吸油可能なMCT量(飽和含有量)を計算すると、2.0g/mであった。よって作製したフィルムが飽和含有量>MCT含有量であることを確認した。作製してから1週間後および3ヶ月後に滑落試験を、3ヶ月後に裏移り試験を行った。結果を表1に示す。
【0066】
<比較例1>
最内層の膜厚を50μmにした以外は実施例3と同様に3層フィルムを作製した。
これらの樹脂組成、膜厚からフィルム1mあたりに含まれるMCT量(MCT含有量)を計算すると、1.7g/mであった。また、これらの樹脂組成、膜厚からフィルム1mあたりで吸油可能なMCT量(飽和含有量)を計算すると、1.5g/mであった。よって作製したフィルムが飽和含有量<MCT含有量であることを確認した。作製してから1週間後および3ヶ月後に滑落試験を、3ヶ月後に裏移り試験を行った。結果を表1に示す。
【0067】
<比較例2>
MCTを含有する層を中間層とせず、内面に露出するようにして2層構成のフィルムを作製した。このMCTを含有する層は、表1において中間層の欄に示されている。即ち、MCT2.5wt%含有させたオレフィンからなる層、最外層をEVOHからなる層とし、表1に記載する組成となるように2層フィルムを作製した。
フィルムの各層の膜厚を顕微鏡にて測定したところ、最内層50μm、最外層50μmであった。
これらの樹脂組成、膜厚からフィルム1mあたりに含まれるMCT量(MCT含有量)を計算すると、1.1g/mであった。また、これらの樹脂組成、膜厚からフィルム1mあたりで吸油可能なMCT量(飽和含有量)を計算すると、1.2g/mであった。よって作製したフィルムが飽和含有量>MCT含有量であることを確認した。作製してから1週間後および3ヶ月後に滑落試験を、3ヶ月後に裏移り試験を行った。結果を表1に示す。
【0068】
<比較例3>
LLDPEのみからなる膜厚100μmのフィルムを作製した。MCTを含まないためMCT含有量は0g/mであった。作製してから1週間後および3ヶ月後に滑落試験を、3ヶ月後に裏移り試験を行った。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示す結果から分かるように、実施例1~3のように中間層のMCT濃度や最内層および中間層の膜厚によらず、室温での飽和含有量が配合されたMCT含有量を上回っていたとき、滑落試験の結果が良好であり、かつ裏移り試験でも裏移りが無く良好な結果となった。
一方で比較例1のようにMCT含有量が飽和含有量を上回っていたとき、滑落試験の結果は良好であったが、裏移り試験にて裏移りがあった。
また、比較例2のように飽和含有量がMCT含有量を上回っていたときでも、滑剤供給用樹脂層が内面に露出している最内層となる場合は、滑落試験の結果は良好であったが、裏移り試験にて裏移りがあった。比較例3のようにMCTを含まない場合は滑落試験の結果が不良となった。
以上から、内面樹脂層(最内層)に隣接して液状滑剤を含有する滑剤供給用樹脂層を中間層として設けた場合、樹脂の飽和含有量がMCT含有量を上回っていたとき、滑落性が良好であると同時に、裏移りも抑制できるフィルムとなることがわかった。
【符号の説明】
【0071】
1:滑剤供給用樹脂層
3:内面樹脂層
5:外面側滑剤移行制御層
7:外面層
10:包装用多層構造体
α:液状滑剤
図1
図2