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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】MASH型A/D変換回路
(51)【国際特許分類】
   H03M 3/02 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
H03M3/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019066015
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020167514
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101133
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 初音
(74)【代理人】
【識別番号】100199749
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 成
(74)【代理人】
【識別番号】100188880
【弁理士】
【氏名又は名称】坂元 辰哉
(74)【代理人】
【識別番号】100197767
【弁理士】
【氏名又は名称】辻岡 将昭
(74)【代理人】
【識別番号】100201743
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 和真
(72)【発明者】
【氏名】手島 紘明
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-118493(JP,A)
【文献】Gert Cauwenberghs, Gabor C. Temes,Adaptive Digital Correction of analog Errors in MASH ADC's -- Part I: Off-Line and Blind On-Line Calibration,IEEE TRANSACTIONS ON CIRCUITS AND SYSTEMS -- II: ANALLOG AND DIGITAL SIGNAL PROCESSING,2000年07月,VOL.47, NO.7,pp.621-628
【文献】Peter Kiss et al.,Adaptive Digital Correction of analog Errors in MASH ADC's -- Part II: Correction Using TEST-Signal Injection,IEEE TRANSACTIONS ON CIRCUITS AND SYSTEMS -- II: ANALLOG AND DIGITAL SIGNAL PROCESSING,2000年07月,VOL.47, NO.7,pp.629-638
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 3/00-9/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの積分回路を有するΔΣA/D変換回路が少なくとも初段に設けられた複数段のA/D変換回路から成るアナログ回路と、
前記複数段のA/D変換回路によるA/D変換後の信号それぞれに対してフィルタリング処理を施すデジタルフィルタ部と、
前記デジタルフィルタ部による複数のフィルタリング処理後の信号を加算する加算部と、
前記複数段のA/D変換回路のうちの少なくとも初段のΔΣA/D変換回路が有する積分回路の帰還係数に基づいて、前記デジタルフィルタ部によるフィルタリング処理を調整する調整部と、
前記複数段のA/D変換回路のうちの少なくとも初段のΔΣA/D変換回路を、2次のΔΣA/D変換回路として動作させる状態から既知の信号が入力される1次のΔΣA/D変換回路として動作させるように切換える切換部と、
前記既知の信号及び前記1次のΔΣA/D変換回路によるA/D変換後の信号に基づいて、前記積分回路の帰還係数を算出する算出部とを備え、
前記調整部は、前記算出部により算出された帰還係数に基づいて、前記デジタルフィルタ部によるフィルタリング処理を調整する
ことを特徴とするMASH型A/D変換回路。
【請求項2】
前記切換部は、前記複数段のA/D変換回路のうちの少なくとも初段のΔΣA/D変換回路を、2次のΔΣA/D変換回路として動作させる期間と、1次のΔΣA/D変換回路として動作させる期間とを時分割で切換える
ことを特徴とする請求項1記載のMASH型A/D変換回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アナログ信号をデジタル信号に変換するMASH型A/D変換回路に関する。
【背景技術】
【0002】
センサインタフェース回路におけるA/D変換回路の候補として、ΔΣA/D変換回路が挙げられる。ΔΣA/D変換回路は、オーバーサンプリングを行い、また、発生する量子化雑音がハイパスの伝達特性を持つため(ノイズシェーピングと呼ぶ)、信号帯域のS/N比が高いことが特徴である。
【0003】
ΔΣA/D変換回路の精度向上方法の1つとして、MASH方式がある(例えば特許文献1参照)。MASH方式では、ΔΣA/D変換回路が少なくとも初段に設けられた複数段のA/D変換回路を有している。このMASH方式では、前段のΔΣA/D変換回路で入力信号を量子化し、後段のA/D変換回路で前段のΔΣA/D変換回路で発生した量子化雑音を量子化して差し引く。MASH方式では、接続されたΔΣ変調回路の次数の合計がN次である場合、量子化雑音の伝達関数がN次微分(N次ハイパス)の伝達特性を持つ。このように、MASH方式では、量子化雑音に高次微分の特性を持たせることで、オーバーサンプリング比が小さい場合でも信号帯域内の量子化雑音を低減でき、低次のΔΣ変調回路と比較して高いS/N比を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-136072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、MASH方式では、ΔΣ変調に用いる積分回路の理想からのずれが原因で、後段のA/D変換回路で前段のΔΣA/D変換回路で発生した量子化雑音を消し切れず、変換精度が下がるという課題がある。積分回路において、ずれに対する寄与の大きい要素は、オペアンプのゲインが有限であることによる電荷のリークである。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、積分回路のリークによる影響を低減可能なMASH型A/D変換回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るMASH型A/D変換回路は、2つの積分回路を有するΔΣA/D変換回路が少なくとも初段に設けられた複数段のA/D変換回路から成るアナログ回路と、複数段のA/D変換回路によるA/D変換後の信号それぞれに対してフィルタリング処理を施すデジタルフィルタ部と、デジタルフィルタ部による複数のフィルタリング処理後の信号を加算する加算部と、複数段のA/D変換回路のうちの少なくとも初段のΔΣA/D変換回路が有する積分回路の帰還係数に基づいて、デジタルフィルタ部によるフィルタリング処理を調整する調整部と、複数段のA/D変換回路のうちの少なくとも初段のΔΣA/D変換回路を、2次のΔΣA/D変換回路として動作させる状態から既知の信号が入力される1次のΔΣA/D変換回路として動作させるように切換える切換部と、既知の信号及び1次のΔΣA/D変換回路によるA/D変換後の信号に基づいて、積分回路の帰還係数を算出する算出部とを備え、調整部は、算出部により算出された帰還係数に基づいて、デジタルフィルタ部によるフィルタリング処理を調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、上記のように構成したので、積分回路のリークによる影響を低減可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係るMASH型A/D変換回路の構成例を示す図である。
図2】実施の形態1におけるアナログ回路の構成例を示す図である(Z関数表記)。
図3】実施の形態1における2次ΔΣA/D変換回路の構成例を示す回路図である。
図4】実施の形態1における切換部による各スイッチの切換え動作例を示すタイミングチャートである。
図5図5A図5Bは、2次ΔΣA/D変換回路の動作例を示す図であり、図5AはΦAの期間での動作例を示す図であり、図5BはΦBの期間での動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係るMASH型A/D変換回路の構成例を示す図である。
MASH型A/D変換回路は、外部から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して出力するMASH方式のA/D変換回路である。MASH型A/D変換回路は、図1に示すように、アナログ回路1、デジタルフィルタ部2、加算部3、切換部4、算出部5及び調整部6を備えている。図1において、UはMASH型A/D変換回路(後述する2次ΔΣA/D変換回路7)への入力信号を示し、VMASHはMASH型A/D変換回路(加算部3)からの出力信号を示している。
【0011】
アナログ回路1は、積分回路を有するΔΣA/D変換回路が少なくとも初段に設けられた複数段のA/D変換回路から成る。図1,2では、アナログ回路1は、1段目に2次ΔΣA/D変換回路7を有し、2段目に1次ΔΣA/D変換回路8を有している。図2では、後述する積分回路701,702,801をリーク込みのZ関数形式で表している。図1,2において、Uは1次ΔΣA/D変換回路8への入力信号を示し、Vは2次ΔΣA/D変換回路7からの出力信号を示し、Vは1次ΔΣA/D変換回路8からの出力信号を示している。また、図2において、Qは2次ΔΣA/D変換回路7で発生する量子化雑音を示し、Qは1次ΔΣA/D変換回路8で発生する量子化雑音を示している。また図2に示す2次ΔΣA/D変換回路7は、従来から知られている一般的な構成部分についてのみ示している。
【0012】
2次ΔΣA/D変換回路7は、2つの積分回路(積分回路701及び積分回路702)を有し、外部からアナログ信号が入力される。2次ΔΣA/D変換回路7は、図3に示すように、積分回路701、積分回路702、信号入力部703、スイッチSW1、スイッチSW2、A/D変換部704、D/A変換部705、スイッチSW3及びスイッチSW4を備えている。また図1,3では、2次ΔΣA/D変換回路7がリークによる影響を低減する対象とされており、2次ΔΣA/D変換回路7は、上記構成に加え、信号入力部706、スイッチSW5、A/D変換部707、遅延部708、D/A変換部709、スイッチSW6、信号入力部710、スイッチSW7、A/D変換部711、遅延部712、D/A変換部713及びスイッチSW8を備えている。
【0013】
積分回路701は、出力信号が入力信号の積分値に比例する回路である。積分回路701は、オペアンプOP1、キャパシタC11、スイッチSW11、スイッチSW12、スイッチSW13、キャパシタC12、スイッチSW14及びキャパシタC13を有している。
【0014】
オペアンプOP1は、反転入力端子が接地されている。
キャパシタC11は、一端にアナログ信号が入力される。
スイッチSW11は、一端がキャパシタC11の他端に接続され、他端が接地されている。
スイッチSW12は、一端がキャパシタC11の他端に接続され、他端がオペアンプOP1の非反転入力端子に接続されている。
スイッチSW13は、一端がオペアンプOP1の非反転入力端子に接続されている。
キャパシタC12は、一端がスイッチSW13の他端に接続され、他端がオペアンプOP1の出力端子に接続されている。
スイッチSW14は、一端がオペアンプOP1の非反転入力端子に接続されている。
キャパシタC13は、一端がスイッチSW14の他端に接続され、他端がオペアンプOP1の出力端子に接続されている。
【0015】
積分回路702は、出力信号が入力信号の積分値に比例する回路である。積分回路702は、オペアンプOP2、キャパシタC21、スイッチSW21、スイッチSW22、スイッチSW23、キャパシタC22、スイッチSW24及びキャパシタC23を有している。
【0016】
オペアンプOP2は、反転入力端子が接地されている。
キャパシタC21は、一端にアナログ信号が入力される。
スイッチSW21は、一端がキャパシタC21の他端に接続され、他端が接地されている。
スイッチSW22は、一端がキャパシタC21の他端に接続され、他端がオペアンプOP2の非反転入力端子に接続されている。
スイッチSW23は、一端がオペアンプOP2の非反転入力端子に接続されている。
キャパシタC22は、一端がスイッチSW23の他端に接続され、他端がオペアンプOP2の出力端子に接続されている。
スイッチSW24は、一端がオペアンプOP2の非反転入力端子に接続されている。
キャパシタC23は、一端がスイッチSW24の他端に接続され、他端がオペアンプOP2の出力端子に接続されている。
【0017】
信号入力部703は、外部からアナログ信号が入力される。
【0018】
スイッチSW1は、一端が信号入力部703に接続され、他端が積分回路701が有するキャパシタC11の一端に接続されている。
【0019】
スイッチSW2は、一端が積分回路701が有するオペアンプOP1の出力端子に接続され、他端が積分回路702が有するキャパシタC21の一端に接続されている。
【0020】
A/D変換部704は、入力信号を加算してA/D変換を行う。A/D変換部704は、入力端子が、信号入力部703、積分回路701が有するオペアンプOP1の出力端子、及び積分回路702が有するオペアンプOP2の出力端子にそれぞれ接続されている。
【0021】
D/A変換部705は、入力信号に対してD/A変換を行う。D/A変換部705は、入力端子がA/D変換部704の出力端子に接続されている。
【0022】
スイッチSW3は、一端がD/A変換部705の出力端子に接続され、他端が積分回路701が有するキャパシタC11の一端に接続されている。
【0023】
スイッチSW4は、一端が積分回路702が有するキャパシタC21の一端に接続され、他端が接地されている。
【0024】
信号入力部706は、切換部4からアナログ信号が入力される。図3において、U1Sは信号入力部706への入力信号を示している。
【0025】
スイッチSW5は、一端が信号入力部706に接続され、他端が積分回路701が有するキャパシタC11の一端に接続されている。
【0026】
A/D変換部707は、入力信号に対してA/D変換を行う。A/D変換部707は、入力端子が積分回路701が有するオペアンプOP1の出力端子に接続されている。
【0027】
遅延部708は、入力信号に対して遅延処理を行う。遅延部708は、入力端子がA/D変換部707の出力端子に接続されている。
【0028】
D/A変換部709は、入力信号に対してD/A変換を行う。D/A変換部709は、入力端子が遅延部708の出力端子に接続されている。
【0029】
スイッチSW6は、一端がD/A変換部709の出力端子に接続され、他端が積分回路701が有するキャパシタC11の一端に接続されている。
【0030】
信号入力部710は、切換部4からアナログ信号が入力される。図3において、U2Sは信号入力部710への入力信号を示している。
【0031】
スイッチSW7は、一端が信号入力部710に接続され、他端が積分回路702が有するキャパシタC21の一端に接続されている。
【0032】
A/D変換部711は、入力信号に対してA/D変換を行う。A/D変換部711は、入力端子が積分回路702が有するオペアンプOP2の出力端子に接続されている。
【0033】
遅延部712は、入力信号に対して遅延処理を行う。遅延部712は、入力端子がA/D変換部711の出力端子に接続されている。
【0034】
D/A変換部713は、入力信号に対してD/A変換を行う。D/A変換部713は、入力端子が遅延部712の出力端子に接続されている。
【0035】
スイッチSW8は、一端がD/A変換部713の出力端子に接続され、他端が積分回路702が有するキャパシタC21の一端に入力されている。
【0036】
1次ΔΣA/D変換回路8は、1つの積分回路(積分回路801)を有し、2次ΔΣA/D変換回路7が有する積分回路702からの出力信号が入力される。なお、1次ΔΣA/D変換回路8の回路構成については従来と同様であり、その説明を省略する。
【0037】
2次ΔΣA/D変換回路7は、Silva-Steensgaard変調器と呼ばれる2次の変調方式の回路である。2次ΔΣA/D変換回路7は、A/D変換部(量子化部)704の前段にフィードフォワード経路を有し、積分回路702からの出力信号が2周期前にA/D変換部704で発生した量子化雑音と等しくなる特徴がある。よって、この2次ΔΣA/D変換回路7が有する積分回路702からの出力信号を、1次ΔΣA/D変換回路8へ入力することで、MASH型A/D変換回路を構成可能となる。
【0038】
デジタルフィルタ部2は、アナログ回路1が有する各A/D変換回路によるA/D変換後の信号に対してフィルタリング処理を施す。図1では、デジタルフィルタ部2は、デジタルフィルタ9及びデジタルフィルタ10を有する。
【0039】
デジタルフィルタ9は、2次ΔΣA/D変換回路7からの出力信号(A/D変換後の信号)に対してフィルタリング処理を実施する。
【0040】
デジタルフィルタ10は、1次ΔΣA/D変換回路8からの出力信号(A/D変換後の信号)に対してフィルタリング処理を実施する。
【0041】
加算部3は、デジタルフィルタ部2からの出力信号(フィルタリング処理後の信号)を加算する。図1では、加算部3は、デジタル処理により、デジタルフィルタ9からの出力信号(フィルタリング処理後の信号)と、デジタルフィルタ10からの出力信号(フィルタリング処理後の信号)とを加算する。
【0042】
切換部4は、対象とするΔΣA/D変換回路を、当該ΔΣA/D変換回路が有する積分回路毎に、既知の信号が入力される1次ΔΣA/D変換回路として動作させる。この際、切換部4は、対象とするΔΣA/D変換回路を通常に動作させる期間と、当該ΔΣA/D変換回路を積分回路毎に1次ΔΣA/D変換回路として動作させる期間とを時分割で交互に切換える。また、既知の信号としては、例えば、基準電圧の整数分の1の電圧の信号を用いる。
【0043】
図3に示す2次ΔΣA/D変換回路7に対しては、切換部4は、図4に示すように、ΦA及びΦBから成る期間を1周期として、スイッチSW1~SW8,SW11~SW14,SW21~SW24のオンオフを切換える。
【0044】
すなわち、切換部4は、スイッチSW13及びスイッチSW23については、ΦAの期間内でオンとし、それ以外の期間はオフとする。
また、切換部4は、スイッチSW14及びスイッチSW24については、φBの期間内でオンとし、それ以外の期間はオフとする。
また、切換部4は、スイッチSW11及びスイッチSW21については、ΦAの前半の期間内及びΦBの前半の期間内でオンとし、それ以外の期間はオフとする。
また、切換部4は、スイッチSW12及びスイッチSW22については、ΦAの後半の期間内及びΦBの後半の期間内でオンとし、それ以外の期間はオフとする。
また、切換部4は、スイッチSW1及びスイッチSW2については、ΦAの前半の期間内でオンとし、それ以外の期間はオフとする。
また、切換部4は、スイッチSW3及びスイッチSW4については、ΦAの後半の期間内でオンとし、それ以外の期間はオフとする。
また、切換部4は、スイッチSW5及びスイッチSW7については、ΦBの前半の期間内でオンとし、それ以外の期間はオフとする。
また、切換部4は、スイッチSW6及びスイッチSW8については、ΦBの後半の期間内でオンとし、それ以外の期間はオフとする。
【0045】
また、切換部4は、ΦBの期間内で、既知の信号であるアナログ信号を信号入力部706に入力し、既知の信号であるアナログ信号を信号入力部710に入力する。なお、信号入力部706に入力されるアナログ信号と信号入力部710に入力されるアナログ信号は、同じ値の信号でもよいし、異なる値の信号でもよい。
【0046】
算出部5は、対象とするΔΣA/D変換回路が有する積分回路毎に、上記既知の信号及び上記1次ΔΣA/D変換回からの出力信号(A/D変換後の信号)に基づいて、帰還係数を算出する。帰還係数は、積分回路における1周期前の出力信号の帰還を示す係数である。
【0047】
なお、切換部4及び算出部5は、MASH型A/D変換回路に必須の構成ではなく、MASH型A/D変換回路に設けられていなくてもよい。
【0048】
調整部6は、対象とするΔΣA/D変換回路が有する積分回路の帰還係数に基づいて、デジタルフィルタ部2によるフィルタリング処理を調整する。なお、調整部6は、MASH型A/D変換回路に切換部4及び算出部5が設けられていない場合には、事前(MASH型A/D変換回路の電源起動時等)に検出した帰還係数に基づいて、デジタルフィルタ部2によるフィルタリング処理を調整する。また、調整部6は、MASH型A/D変換回路に切換部4及び算出部5が設けられている場合には、算出部5により算出された帰還関数に基づいて、デジタルフィルタ部2によるフィルタリング処理を調整する。
【0049】
なお、切換部4、算出部5及び調整部6は、システムLSI(Large Scale Integration)等の処理回路、又はメモリ等に記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等により実現される。
【0050】
次に、図1~3に示すMASH型A/D変換回路の動作例について説明する。
上述したように、従来のMASH型A/D変換回路では、積分回路のリークにより、量子化雑音を消し切れず、変換精度が下がる。そこで、実施の形態1に係るMASH型ΔΣA/D変換回路では、この量子化雑音を低減するため、アナログ回路1の特性パラメータ(帰還係数)を検出してデジタルフィルタ部2の特性をフィードフォワード形式で調整する。
【0051】
ここで、リークを有する一般的な積分回路をZ関数で記述すると、下式(1)となる。式(1)において、Yは積分回路からの出力信号を示し、γは帰還係数を示し、Xは積分回路への入力信号を示している。帰還係数は、理想的な積分回路の場合には1となる。また、積分回路に使用するオペアンプのゲインをAとすると、帰還係数のオーダはA/(A+1)程度となり、ゲインが大きい程理想的な積分回路に近くなる。
Y={γz-1/(1-γz-1)}X (1)
【0052】
図2に示す積分回路701,702,801にそれぞれリークが存在する場合、2次ΔΣA/D変換回路7からの出力信号は下式(2)となり、1次ΔΣA/D変換回路8からの出力信号は下式(3)となる。式(2)において、γは2次ΔΣA/D変換回路7が有する積分回路701の帰還係数を示し、γは2次ΔΣA/D変換回路7が有する積分回路702の帰還係数を示している。また、γ’は2次ΔΣA/D変換回路7が有する積分回路701のリーク率を示し、γ’=1-γである。また、γ’は2次ΔΣA/D変換回路7が有する積分回路702のリーク率を示し、γ’=1-γである。また、Q’は、2次ΔΣA/D変換回路7が有するA/D変換部704で発生する量子化雑音に(1に近い)帰還係数がかかった値を示し、Q’=γγである。また、式(3)において、1次ΔΣA/D変換回路8への入力信号は、U=z-2Q’である。また、γは1次ΔΣA/D変換回路8が有する積分回路801の帰還係数を示している。また、γ’は1次ΔΣA/D変換回路8が有する積分回路801のリーク率を示し、γ’=1-γである。また、Q’は、1次ΔΣA/D変換回路8が有するA/D変換部で発生する量子化雑音に(1に近い)帰還係数がかかった値を示し、Q’=γである。
≒U+(1-z-1Q’+{(γ’/γ)+(γ’/γ)}(1-z-1)Q’(2)
≒-z-2Q’+(1-z-1)Q’+γ’Q’(3)
【0053】
式(2)における{(γ’/γ)+(γ’/γ)}(1-z-1)Q’の項、及び、式(3)におけるγ’Q’の項は、積分回路701,702,801のリークにより現れた項である。
【0054】
この式(2),(3)を用いて、図1に示すMASH型A/D変換回路からの出力信号を計算すると、下式(4)となる。
MASH=z-2+(1-z-1
=z-2+(1-z-1Q’+{(γ’/γ)+(γ’/γ)}(1-z-1)Q’+(1-z-1γ’Q’(4)
【0055】
図1に示すMASH型A/D変換回路において、仮に積分回路701,702,801にリークが無ければ、1段目の量子化雑音(Q)が差し引かれた上で、2段目の量子化雑音に3次(2次+1次)のノイズシェープがかかる。しかしながら、式(4)に示すように、MASH型A/D変換回路では積分回路701,702,801にリークが存在するため、出力信号にQ’の1次微分による影響が現れ、変換精度が低下する。
【0056】
そこで、調整部6は、帰還係数を取得し、積分回路のリークによる影響の項を差し引く。なお、調整部6による調整はデジタルで行えるため、帰還係数が検出できれば誤差なく差し引きを行える。ここで、対象とするΔΣA/D変換回路が1段目の2次ΔΣA/D変換回路7である場合、調整部6はγ,γの値を取得して下式(5)のように調整する。式(5)において、V’MASHは上記調整後のMASH型A/D変換回路からの出力信号を示している。式(5)におけるV’MASHは、量子化雑音の1次微分の項((1-z-1)Q’)に対し、1より十分小さい係数(γ’)が2次で掛かる。一方で、VMASHは上記係数(γ’)が1次で掛かるため、上記調整後の方が量子化雑音の1次微分を抑制できている。
V’MASH=z-2+{(1-z-1+{(γ’/γ)+(γ’/γ)}(1-z-1)}V
=z-2+(1-z-1Q’+{(γ’/γ)+(γ’/γ)}γ’(1-z-1)Q’+{(γ’/γ)+(γ’/γ)+γ’}(1-z-1Q’(5)
【0057】
なお、調整部6は、γ,γの値を、事前(MASH型A/D変換回路の電源起動時等)に検出してもよいし、リアルタイムに検出してもよい。一方、積分回路はアナログ的な特性値を有するため、温度特性等による長期的なドラフトを起こすことが考えられる。そのため、調整部6は、γ,γの値をリアルタイムに検出した方が、積分回路の特性の変化の検出をA/D変換動作と並行して実施でき、温度特性等によるドリフトの影響を抑制可能となる。
【0058】
そこで、図1~3に示すMASH型ΔΣA/D変換回路では、特定の周期で2次ΔΣA/D変換回路7の動作を切換えることで、通常のA/D変換動作とγ,γの値のリアルタイム検出との実施を並行して行うことを可能とする。
【0059】
具体的には、図4,5に示すように、MASH型ΔΣA/D変換回路は、ある期間(ΦA)では、2次ΔΣA/D変換回路7を通常に動作させる。一方、MASH型ΔΣA/D変換回路は、ΦAと重複しない期間(ΦB)では、2次ΔΣA/D変換回路7を、積分回路701については1次ΔΣA/D変換回路7Aとして動作させ、積分回路702については1次ΔΣA/D変換回路7Bとして動作させ、既知の信号をそれぞれ入力する。すなわち、図4に示すように、切換部4は、ΦAとΦBの期間で、それぞれスイッチSW1~SW8,SW11~SW14,SW21~SW24を切換え、且つ、φBの期間には既知の信号であるアナログ信号を信号入力部706及び信号入力部710に入力する。図5において、V1Sは1次ΔΣA/D変換回路7Aからの出力信号を示し、V2Sは1次ΔΣA/D変換回路7Bからの出力信号を示している。また、図5において、Q1Sは1次ΔΣA/D変換回路7Aで発生する量子化雑音を示し、Q2Sは1次ΔΣA/D変換回路7Bで発生する量子化雑音を示している。
【0060】
この場合、ΦBの期間における1次ΔΣA/D変換回路7Aからの出力信号は下式(6)となり、ΦBの期間における1次ΔΣA/D変換回路7Bからの出力信号は下式(7)となる。
1S=γ-11S+(1-γ-1)Q1S (6)
2S=γ-12S+(1-γ-1)Q2S (7)
【0061】
そして、式(6),(7)から下式(8),(9)のように、デジタルローパスフィルタ(H(z))を演算して、量子化雑音の項を消すと、γ,γが得られる。
H(z)V1S/U1S=γ(8)
H(z)V2S/U2S=γ(9)
【0062】
実施の形態1におけるMASH型A/D変換回路は、上記方式を用いることで、ΦAでのA/D変換動作とΦBでの帰還係数のリアルタイム検出とを並行して実施可能となる。
【0063】
なお上記では、対象とするΔΣA/D変換回路が初段のΔΣA/D変換回路(図1,2では2次ΔΣA/D変換回路7)のみである場合を示した。しかしながら、これに限らず、対象とするΔΣA/D変換回路は、初段のΔΣA/D変換回路に加え、後段のΣA/D変換回路(図1,2では1次ΔΣA/D変換回路8)も含めてもよい。
【0064】
また上記では、切換部4は、対象とするΔΣA/D変換回路を通常に動作させる期間と、当該ΔΣA/D変換回路を積分回路毎に1次ΔΣA/D変換回路として動作させる期間とを時分割で交互に切換える場合を示した。しかしながら、これに限らず、切換部4は、対象とするΔΣA/D変換回路を通常に動作させる期間と、当該ΔΣA/D変換回路を積分回路毎に1次ΔΣA/D変換回路として動作させる期間とを時分割で3分割以上で切換えてもよい。この場合、積分回路が有するキャパシタ及びスイッチ(例えば図3では、積分回路701が有するキャパシタC12,C13及びスイッチSW13,SW14並びに積分回路702が有するキャパシタC22,C23及びスイッチSW23,SW24)もそれぞれ時分割の数に合わせて3つ以上となる。
【0065】
また上記では、切換部4は、対象とするΔΣA/D変換回路を、当該ΔΣA/D変換回路が有する積分回路毎に、既知の信号が入力される1次ΔΣA/D変換回路として動作させる場合を示した。しかしながら、これに限らず、切換部4は、対象とするΔΣA/D変換回路を、既知の信号が入力される2次以上のΔΣA/D変換回路(図1,2では2次ΔΣA/D変換回路)として動作させてもよい。この場合、算出部5は、上記既知の信号及び上記2次以上のΔΣA/D変換回からの出力信号(A/D変換後の信号)に基づいて、帰還係数を算出する。
【0066】
また、実施の形態1に係るMASH型A/D変換回路は、加算部3による処理後の信号に対してフィルタリング処理を施すデジタルフィルタを更に有していてもよい。
【0067】
以上のように、この実施の形態1によれば、MASH型A/D変換回路は、積分回路を有するΔΣA/D変換回路が少なくとも初段に設けられた複数段のA/D変換回路から成るアナログ回路1と、A/D変換回路によるA/D変換後の信号に対してフィルタリング処理を施すデジタルフィルタ部2と、デジタルフィルタ部2によるフィルタリング処理後の信号を加算する加算部3と、対象とするΔΣA/D変換回路が有する積分回路の帰還係数に基づいて、デジタルフィルタ部2によるフィルタリング処理を調整する調整部6とを備えた。これにより、実施の形態1に係るMASH型A/D変換回路は、積分回路のリークによる影響を低減可能となる。
【0068】
また、実施の形態1に係るMASH型A/D変換回路は、対象とするΔΣA/D変換回路を、既知の信号が入力される1次以上のΔΣA/D変換回路として動作させる切換部4と、既知の信号及び1次以上のΔΣA/D変換回路によるA/D変換後の信号に基づいて、帰還係数を算出する算出部5とを備え、調整部6は、算出部5により算出された帰還係数に基づいて、デジタルフィルタ部2によるフィルタリング処理を調整してもよい。これにより、実施の形態1に係るMASH型A/D変換回路は、帰還係数をリアルタイムに検出でき、S/N比を更に向上可能となる。
【0069】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、若しくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 アナログ回路
2 デジタルフィルタ部
3 加算部
4 切換部
5 算出部
6 調整部
7 2次ΔΣA/D変換回路
8 1次ΔΣA/D変換回路
9 デジタルフィルタ
10 デジタルフィルタ
701 積分回路
702 積分回路
703 信号入力部
704 A/D変換部
705 D/A変換部
706 信号入力部
707 A/D変換部
708 遅延部
709 D/A変換部
710 信号入力部
711 A/D変換部
712 遅延部
713 D/A変換部
801 積分回路
図1
図2
図3
図4
図5