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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】複合磁性体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20230630BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20230630BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20230630BHJP
   H01F 3/08 20060101ALN20230630BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F17/04 F
H01F41/02 D
H01F3/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019071243
(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公開番号】P2020170785
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】嶋 博司
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098278(JP,A)
【文献】特開2008-166385(JP,A)
【文献】特開2016-039222(JP,A)
【文献】特開2013-243330(JP,A)
【文献】特開2012-238841(JP,A)
【文献】特開2012-104547(JP,A)
【文献】特開2014-179579(JP,A)
【文献】特開2001-060507(JP,A)
【文献】特開2009-290024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
H01F 17/04
H01F 41/02
H01F 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平状の軟磁性金属粉末をバインダ成分により結着させた複合磁性体であって、
前記複合磁性体を貫く貫通部が形成されており、
前記貫通部の内壁面の表面粗さは5μm以上であり、
前記複合磁性体は、磁気コアとして用いられるものであり、
前記貫通部は、貫通導体を保持する孔と、前記孔に接続されたギャップであり、
前記内壁面は、前記孔の内周面及び前記ギャップの互いに対向する側壁面であり、
前記ギャップは、前記孔に接続された第1ギャップ部と、前記第1ギャップ部から延びた第2ギャップ部とを有している
複合磁性体。
【請求項2】
請求項1に記載の複合磁性体であって、
前記複合磁性体は、60体積%以上の軟磁性金属粉末と、4体積%以上30体積%以下の前記バインダ成分と、10体積%以上30体積%以下の細孔とを含んでいる
複合磁性体。
【請求項3】
請求項1又は請求項に記載の複合磁性体であって、
前記貫通部は、貫通方向に沿って見たとき、閉じた形状を有している
複合磁性体。
【請求項4】
請求項1から請求項までのいずれかに記載の複合磁性体と、コイルとを備えるインダクタであって、
前記コイルは、前記複合磁性体の一対の主面の一方に設けられた第1導体と、前記複合磁性体の主面の他方に設けられた第2導体と、前記貫通部内に配置され、前記第1導体と前記第2導体とを接続する貫通導体と、を備える
インダクタ。
【請求項5】
扁平状の軟磁性金属粉末をバインダ成分により結着させた複合磁性体の製造方法であって、
前記軟磁性金属粉末と前記バインダ成分を含むバインダとを混合した混合物から成形体を形成し、
ビッカース硬度が12HV1以上55HV1以下となるように、前記成形体を熱硬化させて熱硬化体を形成し、
前記熱硬化体に打ち抜き加工を施して、前記熱硬化体を貫通する貫通部を形成するものであり、
前記貫通部は、貫通導体を保持する孔と、前記孔に接続されたギャップからなり、
前記ギャップは、前記孔に接続された第1ギャップ部と、前記第1ギャップ部から延びた第2ギャップ部とを有している
複合磁性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合磁性体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複合磁性体とコイルとを備えるインダクタを開示している。複合磁性体は、扁平形状を有する軟磁性金属粉末をバインダ成分によって結着させて構成されている。複合磁性体には、厚み方向において複合磁性体を貫通する貫通部が形成されている。貫通部は、コイルを構成するピンを挿入する孔部と孔部に接続されたギャップ部とを含む。特許文献1において、複合磁性体への貫通部の形成は、フライス盤を用いて行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-39222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のインダクタに用いられる複合磁性体は、軟磁性金属粉末を高密度に有している。これら軟磁性金属粉末は、それぞれ絶縁被膜で覆われており、互いに電気的に絶縁されている。ところが、貫通部付近の軟磁性金属粉末は、フライス盤を用いて貫通部を形成する際に切削され変形する。その結果、軟磁性金属粉末が互いに導通し、貫通部の内壁面の電気抵抗値が低下する可能性がある。また、軟磁性金属粉末が互いに導通するに至らない場合でも、貫通部の内壁面の面内方向における耐電圧が低下し、インダクタの使用中にコイルが短絡する虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、貫通部における内壁面の面内方向における耐電圧を向上させた複合磁性体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の複合磁性体として、扁平状の軟磁性金属粉末をバインダ成分により結着させた複合磁性体であって、
前記複合磁性体を貫く貫通部が形成されており、
前記貫通部の内壁面の表面粗さは5μm以上である
複合磁性体を提供する。
【0007】
また、本発明は、第2の複合磁性体として、第1の複合磁性体であって、
前記複合磁性体は、磁気コアとして用いられるものであり、
前記貫通部は、貫通導体を保持する孔であり、
前記内壁面は、前記孔の内周面である
複合磁性体を提供する。
【0008】
また、本発明は、第3の複合磁性体として、第2の複合磁性体であって、
前記貫通部は、前記貫通導体を保持する孔と、前記孔に接続されたギャップであり、
前記内壁面は、前記孔の内周面及び前記ギャップの互いに対向する側壁面である
複合磁性体を提供する。
【0009】
また、本発明は、第4の複合磁性体として、第1から第3の複合磁性体のいずれかであって、
前記複合磁性体は、60体積%以上の軟磁性金属粉末と、4体積%以上30体積%以下の前記バインダ成分と、10体積%以上30体積%以下の細孔とを含んでいる
複合磁性体を提供する。
【0010】
また、本発明は、第5の複合磁性体として、第1から第4の複合磁性体のいずれかであって、
前記貫通部は、貫通方向に沿って見たとき、閉じた形状を有している
複合磁性体を提供する。
【0011】
また、本発明は、第1から第5の複合磁性体のいずれかと、コイルとを備えるインダクタであって、
前記コイルは、前記複合磁性体の一対の主面の一方に設けられた第1導体と、前記複合磁性体の主面の他方に設けられた第2導体と、前記貫通部内に配置され、前記第1導体と前記第2導体とを接続する貫通導体と、を備える
インダクタを提供する。
【0012】
さらに、本発明は、扁平状の軟磁性金属粉末をバインダ成分により結着させた複合磁性体の製造方法であって、
前記軟磁性金属粉末と前記バインダ成分を含むバインダとを混合した混合物から成形体を形成し、
ビッカース硬度が12HV1以上55HV1以下となるように、前記成形体を熱硬化させて熱硬化体を形成し、
前記熱硬化体に打ち抜き加工を施して、前記熱硬化体を貫通する貫通部を形成する
複合磁性体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
貫通部の内壁面の表面粗さを5μm以上としたことで、内壁面の面内方向において、所望の耐電圧を有する複合磁性体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施の形態による磁気コア(複合磁性体)を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施の形態による磁気コアの変形例を示す斜視図である。
図3図1の磁気コアを製造する製造方法を示すフローチャートである。
図4図3の製造方法により作製された試料(熱硬化体)のビッカース硬度を測定する測定方法を説明するための図である。
図5図3の製造方法により作製された試料(磁気コア)における貫通部の内壁面の耐電圧試験を行う試験装置を示す概略図である。
図6図5の試験装置を用いて複数の試料に対して行った耐電圧試験の結果(印加電圧に対する抵抗値の測定結果)を示すグラフである。フライス加工により貫通部を形成した五つの試料(No.11~No.15)についての試験結果と、打ち抜き加工により貫通部を形成した五つの試料(No.21~No.25)についての試験結果とが示されている。
図7図6に示される試験結果に基づいて求めた印加電圧に対する表面抵抗率を示すグラフである。フライス加工により貫通部を形成した試料(No.11~No.15)から耐電圧の高い三つを選択し、打ち抜き加工により貫通部を形成した試料(No.21~No.25)から耐電圧の高い三つを選択して、印加電圧に対する表面抵抗率を夫々求めた結果が示されている。
図8】本発明における表面粗さの定義を説明するための図である。試料の切断面が部分的に示されている。切断面は、試料の厚み方向と平行であり、且つ貫通部の内壁面と直交している。
図9】貫通部の内壁面における表面粗さの分布度数を示すグラフである。ダイシングにより貫通部を形成した試料(No.06)、フライス加工により貫通部を形成した試料(No.16)、ドリル加工により貫通部を形成した試料(No.31)及び打ち抜き加工により貫通部を形成した試料(No.26)についての測定結果が示されている。
図10】貫通部の内壁面における表面粗さと耐電圧との関係を示すグラフである。フライス加工により貫通部を形成した五つの試料(No.11~No.15)と、打ち抜き加工により貫通部を形成した五つの試料(No.21~No.25)とについて測定結果が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照すると、本発明の一実施の形態による磁気コア10は、矩形の板状形状を有している。磁気コア10は、軟磁性金属粉末(図示せず)をバインダ成分(図示せず)により結着させた複合磁性体からなる。磁気コア10は、コイル(図示せず)と組み合わされ、インダクタ(図示せず)を構成する。磁気コア10は、一体成形構造であるため、組立ばらつきがなく、インダクタを構成する際の取り扱いも容易である。
【0016】
図1に示されるように、磁気コア10には、厚み方向において複合磁性体を貫通する貫通部12が形成されている。貫通部12は、複数の孔部(孔)21と、これら孔部21に接続されたギャップ部23とを有している。貫通部12は、貫通方向(厚み方向)に沿って見たとき、閉じた形状を有している。本実施の形態において、厚み方向はZ方向である。
【0017】
図1に示されるように、本実施の形態において、孔部21の数は四つである。孔部21は、コイル(図示せず)を構成する貫通導体(図示せず)を保持するためのものである。貫通導体は、孔部21(貫通部12)内に配置され、例えば、磁気コア(複合磁性体)10の一対の主面の一方に設けられた第1導体(図示せず)と、磁気コア10の主面の他方に設けられた第2導体(図示せず)とを接続する。第1導体及び第2導体は、貫通導体とともにコイル(の一部)を構成する。
【0018】
また、本実施の形態において、ギャップ部23は、図1に示されるように、孔部21間に接続された二つの第1ギャップ部(ギャップ)31と、二つの第1ギャップ部31間に接続された第2ギャップ部(ギャップ)33とを有している。第1ギャップ部31は、孔部21に貫通導体を挿入する際に孔部21の変形を容易にするとともに、磁気ギャップとして機能する。第2ギャップ部33は、磁気ギャップとして機能する。
【0019】
但し、本発明は、上述した図1に示される形態に限られない。孔部21の数及びその配置、ギャップ部23の数、形状及び配置は、求められるインダクタの特性等に応じて決定される。例えば、本実施の形態において、第1ギャップ部31の内壁面は曲面であるが、平面であってもよい。また、第2ギャップ部33は、第1ギャップ部31間を接続しているが、図2に示されるように、第2ギャップ部(中足ギャップ)33に代えて第1ギャップ部31の夫々から磁気コア10Aの縁に向かって延びる二つの第2ギャップ部(外足ギャップ)33Aを形成してもよい。換言すると、貫通部12は、貫通方向に沿って見たとき開いた形状を有していてもよい。しかしながら、中足ギャップは、漏洩磁束がないという点で、漏洩磁束を生じる外足ギャップに比べて優れている。また、中足ギャップを持つ磁気コア10を用いたインダクタは、外足ギャップを持つ磁気コア10Aを用いたインダクタに比べて周辺導体の影響を受けにくいという特長もある。なお、ギャップ部23は、必要に応じて設けられるものであって必須ではない。
【0020】
次に、図3を参照して、磁気コア10の製造方法について説明する。まず、扁平化された軟磁性金属粉末を製造する(ステップS301)。詳しくは、Fe系合金を原料とし、アトマイズ法等の方法により、軟磁性金属粉末を得る。続いて、得られた軟磁性金属粉末をボールミル等の扁平化装置を用いて扁平化する。Fe系合金として、Fe-Si系合金が好ましく、Fe-Si-Al系合金(センダスト(登録商標))又はFe-Si-Cr系合金がより好ましい。また、軟磁性金属粉末として、アモルファス相を主相とするものやその一部をナノ結晶化させたものを用いてもよい。
【0021】
次に、扁平化した軟磁性金属粉末に、バインダと溶剤とを秤量して混合し、さらに必要に応じて増粘剤を秤量して混合し、混合物(磁性塗料)を作製する(ステップS302)。バインダとして、無機酸化物を主成分とするものを用いることが好ましい。無機酸化物を主成分とするバインダとして、例えばメチル系シリコーンレジンやメチルフェニル系シリコーンレジン等を用いることができる。続いて、ドクターブレード法やダイスロット法等を用いて磁性塗料を基板上に塗布(印刷)し、加熱乾燥させて予備成形体(グリーンシート)を得る(ステップS303)。
【0022】
次に、得られた予備成形体を適当なサイズに切断し、切断後のシートを1枚もしくは複数枚積層して積層体とする(ステップS304)。ここで、適当なサイズは、例えば、複数の磁気コア10(図1参照)を二次元に配列したのに等しいサイズである。
【0023】
次に、積層体を加圧成形して成形体を得る(ステップS305)。続いて、得られた成形体を所定の加熱条件で加熱して熱硬化させ、熱硬化体を得る(ステップS306)。
【0024】
ステップS306において、成形体の熱硬化は、ビッカース硬度が12HV1以上55HV1以下となるように行う。加熱条件は、実験に基づいて決定することができる。熱硬化体のビッカース硬度は、成形体を熱硬化させる際の加熱温度に依存するのみならず、成形体を形成する際(ステップS305)の加圧力にも依存する。したがって、加熱条件は、成形体を形成する際の加圧力を考慮して決定する。詳しくは、成形体を形成する際の加圧力と成形体を熱硬化させる際の加熱温度との様々な組み合わせを用いて複数の試料(熱硬化体)を製作し、それらのビッカース硬度を測定した結果に基づいて加熱条件を決定する。
【0025】
ビッカース硬度の測定は以下のように行う。まず、図4に示されるように、正四角錘ダイヤモンド41を試料(熱硬化体)43に押し付ける。詳しくは、押圧力F=1kgfで10秒間、試料43の表面45に正四角錘ダイヤモンド41を押し付ける。次に、試料43の表面45に形成された圧痕47の対角線長d1及びd2を測定し、対角線平均長d=(d1+d2)/2を計算する。同一の試料43に対して複数回の測定を行い、得られた複数の対角線平均長dの平均値を用いてもよい。得られた対角線平均長dを用いて、ビッカース硬度HV≒1.8544×F(kgf)/d(mm)を計算する。この結果に基づいて、ビッカース硬度が12HV1以上55HV1以下となる熱硬化条件を決定する。
【0026】
再び、図3を参照すると、次に、打ち抜き加工により、厚み方向において熱硬化体を貫通する貫通部12(図1参照)を形成する(ステップS307)。熱硬化体のビッカース硬度が12HV1より低いと、形成された貫通部12がその形状を維持できない。例えば、第2ギャップ部33(図1参照)の横方向の幅が縮小し、最悪の場合、第2ギャップ部33が潰れる。なお、本実施の形態において、横方向はY方向である。また、本実施の形態において、熱硬化体のビッカース硬度が55HV1より高いと、打ち抜き加工を行ったときに、熱硬化体に亀裂等の損傷が発生する。本実施の形態において、熱硬化体は、そのビッカース硬度が12HV1以上55HV1以下なので打ち抜き加工が可能であり、打ち抜き加工による損傷の発生がなく、また、加工後に貫通部12の形状を維持することが可能である。しかも、打ち抜き加工は、フライス加工等の他の加工法に比べて加工に要する時間が短いので、貫通部12を効率よく形成することができる。
【0027】
次に、複数の磁気コア10(図1参照)にそれぞれ対応するように熱硬化体を切り分ける(ステップS308)。また、必要に応じて、切り分けられた熱硬化体の研磨や洗浄を行う。なお、ステップ308は、ステップ307と同時に予め実施しておいてもよい。その後、切り分けられた熱硬化体の焼成を行う(ステップS309)。この焼成により、バインダの有機成分が分解して失われ、焼結体内部に細孔が形成される。また、バインダの無機成分(バインダ成分)は残存し、軟磁性金属粉同士を結着させる。より詳しくは、例えば焼結体は、60体積%以上の軟磁性金属粉末と、4体積%以上30体積%以下のバインダ成分と、10体積%以上30体積%以下の細孔を含んでいる。こうして、軟磁性金属粉末をバインダ成分により結着させた磁気コア10(複合磁性体)が完成する。完成した磁気コア10は、細孔の存在により弾性を有し、応力による特性劣化が少ない。また、この磁気コア10は、焼成による収縮が極めて小さいため、寸法精度が高い。
【0028】
以下、本実施の形態において、貫通部12(図1参照)の形成を打ち抜き加工によって行う理由について説明する。
【0029】
貫通部12(図1参照)を形成する方法として、ダイシング、フライス加工、ドリル加工及び打ち抜き加工がある。ダイシング、フライス加工及びドリル加工は、いずれも加工対象物を切削加工するものであるのに対して、打ち抜き加工は、パンチ及びダイを用いて加工対象物に剪断力を加えるものである。これらの方法を用いて形成された貫通部12の内壁面121の表面状態の相違を調べるため、貫通部12の内壁面121の面内方向における耐電圧試験を行った。試料は、貫通部12の形成工程を除いて同一の製造工程により製造した。貫通部12の形成は、ダイシング、フライス加工及び打ち抜き加工により行った。また、上述した製造工程に加えて、貫通部12の内壁面121を試料の外側へ露出させる切断工程を実施した。試料の厚みは、1.15mmであった。
【0030】
上述したように、貫通部12(図1参照)には、孔部21とギャップ部23とがある。貫通部12が孔部21の場合、その内壁面121は内周面、すなわち曲面である。一方、ギャップ部23の内壁面121は、互いに対向する一対の側壁面である。側壁面は、曲面又は平面である。本実施の形態において、第1ギャップ部31の側壁面は曲面であり、第2ギャップ部33の側壁面は平面である。いずれにせよ、連続する孔部21の内壁面121とギャップ部23の内壁面121とは、形成方法が同一であれば、その形状によらずに同一の表面状態を有すると考えられる。したがって、本実施の形態において、耐電圧試験は、第2ギャップ部33の内壁面121(平面)の一方に対して行った。
【0031】
貫通部12(図1参照)の内壁面121の面内方向における耐電圧試験には、図5に示されるような試験装置を用いた。図5に示される試験装置は、互いに平行に配置された二本の銅線51に、測定器53を接続したものである。銅線51として直径0.3mmのものを用い、銅線51間の距離は5mmとした。測定器53として、菊水電子工業製の絶縁抵抗試験機TOS7200を用いた。測定は、温度85℃、湿度85%の条件下で1000時間置いた試料55を銅線51に押し付けて行った。貫通部12の内壁面121を銅線51に接触させ、その状態で銅線51間に電圧を1秒間印加して抵抗値を測定した。印加電圧を段階的に増加させ、測定を繰り返した。測定結果を表1及び図6に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1から理解されるように、ダイシングにより形成された貫通部12の内壁面121(試料No.01~05)の抵抗値は、測定器53(図5参照)の測定限界値(0.3MΩ)以下であり、耐電圧を測定することができなかった。また、フライス加工による貫通部12の内壁面121(試料No.11~15)の抵抗値は、表1及び図6から理解されるように、印加電圧10Vにおいて500MΩ以下であり、耐電圧は100Vを下回っていた。一方、打ち抜き加工による貫通部12の内壁面121(試料No.21~25)の抵抗値は、印加電圧10Vにおいて700MΩを超えており、耐電圧は100Vを上回っていた。このように、打ち抜き加工による貫通部12の内壁面121の抵抗値は、他の加工方法により形成された貫通部12の内壁面121の抵抗値よりも総じて高い。
【0034】
表1の結果に基づいて、各試料55の貫通部12の内壁面121の表面抵抗率ρsを求めた。表面抵抗率の式:表面抵抗率ρs=抵抗R*幅W/長さL、に基づいて、表面抵抗率ρs=測定抵抗値R×厚み(=1.15mm)/長さ(=5mm)として求めた。その結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示される結果から、フライス加工により貫通部12を形成した試料No.11~No.15のうち耐電圧の高いもの三つを選択し、表面抵抗率ρsの平均値を求めた。同様に、表2に示される結果から、打ち抜き加工により貫通部12を形成した試料No.21~No.25のうち耐電圧の高いもの三つを選択し、表面抵抗率ρsの平均値を求めた。その結果を表3及び図7に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3及び図7から理解されるように、打ち抜き加工による貫通部12の内壁面121の表面抵抗率ρsは、フライス加工による貫通部12の内壁面121の表面抵抗率よりも一桁高い。このように、打ち抜き加工により形成された貫通部12の内壁面121は、高い表面抵抗率ρsを有しているので、貫通部12を形成した後に、内壁面121の表面抵抗率を高めるための処理を行う必要がない。
【0039】
次に、貫通部12の形成方法の違いによる貫通部12の内壁面121の表面粗さの相違について調べた。貫通部12の形成方法として、ダイシング、フライス加工、ドリル加工及び打ち抜き加工を用いた。試料は、耐電圧試験の場合と同様に作成した。本実施の形態における表面粗さは、以下のように定義した。
【0040】
図8に示されるように、試料80の厚み方向に平行で且つ貫通部12の内壁面121と直交する切断面に対して測定区間を設定する。詳しくは、表層に近い90μm(=30μ×3)の二つの部分を測定対象から外し、残りの部分を測定対象とする。そして、測定対象部分に対して、試料80の厚み方向において夫々が所定の長さを有する複数の測定区間を設定する。より詳しくは、試料80の厚み方向において、各測定区間の長さが30μmとなるように複数の測定区間を設定する。この設定は、互いに隣り合う測定区間が、部分的に重なり合うように行ってもよい。設定された各測定区間において、横方向に最も突出している部分(Max)と最も凹んでいる部分(Min)との間の距離(Max-Min)を測定し、区間値とする。そして、各試料80について測定した全ての区間値の平均値を求める。こうして求めた平均値を、貫通部12の内壁面121の表面粗さと定義した。
【0041】
ダイシング、フライス加工、ドリル加工及び打ち抜き加工の夫々により貫通部12を形成した試料80について、貫通部12の内壁面121の区間値を測定した結果を表4に示す。表4は、厚み970μm(=1.15mm-90μ×2)の測定対象部分に対して、互いに隣り合う測定区間が部分的に重なり合うように38個の測定区間を設定した結果を示している。また、測定した区間値の度数分布を表5及び図9に示す。さらに、測定した区間値の標準偏差σ及び平均値(表面粗さ)を表6に示す。加えて、抜き打ち加工により貫通部12を形成した厚み0.4mmの試料について測定した区間値、及びその標準偏差σと平均値とを表7に示す。表7は、厚み220μm(=0.4mm-90μ×2)の測定対象部分に対して、互いに隣り合う測定区間が部分的に重なり合うように16個の測定区間を設定した結果を示している。
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
【表6】
【0045】
【表7】
【0046】
表4、表5及び図9から理解されるように、打ち抜き加工により形成された貫通部12の区間値は、他の方法により形成された貫通部12の区間値よりも総じて大きい。換言すると、打ち抜き加工により形成された貫通部12の内壁面121の表面は、他の方法により形成された貫通部12の内壁面121の表面よりも粗いといえる。これは、表6に示される結果からも明らかである。即ち、打ち抜き加工による貫通部12の内壁面121の区間値の標準偏差σ及び平均値(表面粗さ)は、他の加工法による貫通部12の内壁面121の区間値の標準偏差σ及び平均値(表面粗さ)よりも、夫々大きい。なお、表7から理解されるように、試料80の厚みが薄い場合も、打ち抜き加工による貫通部12の内壁面121の表面状態は比較的粗いといえる。
【0047】
上述した耐電圧試験の結果と表面粗さの測定結果から、貫通部12の内壁面121の粗さが粗いほど耐電圧が高いと推測される。そこで、耐電圧試験の対象であった試料のうちフライス加工及び打ち抜き加工により貫通部12を形成した試料(試料No.11~No.15及び試料No.21~No.25)についても、内壁面121の表面粗さを測定した。測定した表面粗さと耐電圧との関係を、表8及び図10に示す。
【0048】
【表8】
【0049】
表8及び図10から理解されるように、表面粗さと耐電圧との間には、概ね比例関係が認められる。そして、耐電圧100(V)以上を実現するには、表面粗さが5μm以上あればよいことがわかる。よって、本実施の形態では、貫通部12の形成方法として、打ち抜き加工を採用し、貫通部12の内壁面121の表面粗さが5μm以上となるようにする。換言すると、貫通部12の形成方法として打ち抜き加工を採用することにより、形成される貫通部12の内壁面121の表面粗さを5μmとすることができる。これにより、貫通部12の内壁面121の面内方向の抵抗値(表面抵抗率)を高め、耐電圧を高めることができる。その結果、磁気コア10(図1参照)がコイル(図示せず)と組み合わされたとき、コイルが貫通部12の内壁面121を介して短絡することを防止することができる。
【0050】
以上、本発明について実施の形態を掲げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の変形・変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、第1ギャップ部31は夫々二つの孔部21接続しているが、各孔部21に夫々独立したギャップ部を接続するようにしてもよい。この場合、第2ギャップ部33は形成されない。
【符号の説明】
【0051】
10,10A 磁気コア(複合磁性体)
12 貫通部
121 内壁面
21 孔部
23 ギャップ部
31 第1ギャップ部
33,33A 第2ギャップ部
41 正四角錘ダイヤモンド
43 試料
45 表面
47 圧痕
51 銅線
53 測定器
55,80 試料(磁気コア)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10