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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】電力系統監視装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/08 20200101AFI20230630BHJP
   G01R 31/11 20060101ALI20230630BHJP
   H02H 3/00 20060101ALI20230630BHJP
   H02H 7/26 20060101ALI20230630BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
G01R31/08
G01R31/11
H02H3/00 Q
H02H7/26 F
H02J13/00 301D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019172645
(22)【出願日】2019-09-24
(65)【公開番号】P2021050954
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 達基
(72)【発明者】
【氏名】志賀 雅人
(72)【発明者】
【氏名】木村 光利
(72)【発明者】
【氏名】藤本 憲太郎
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-102059(JP,A)
【文献】特開2004-028659(JP,A)
【文献】特開2010-271104(JP,A)
【文献】特開2012-108011(JP,A)
【文献】特開平10-300808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/08-31/11、
H02H 1/00-3/07、
99/00、
7/22-7/30、
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統におけるサージを用いて事故点を標定する電力系統監視装置であって、
電力系統を伝播するサージ波形を計測して計測波形を得る第1の手段、
前記電力系統の系統構成情報と事故点情報に基づいて前記電力系統を伝播するサージ波形を模擬生成し模擬波形を得る第2の手段、
前記計測波形と前記模擬波形の相似性を判断して事故点を標定する第3の手段、
標定した前記事故点の標定結果を出力する第4の手段、
を備え
前記電力系統の系統構成情報には、反射点の情報を含むとともに、新たに生成あるいは消滅した反射点の有無を判定する手段を備えることを特徴とする電力系統監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力系統監視装置であって、
前記第1の手段は、電力系統における事故点で生じたサージ波形を計測して計測波形を得ることを特徴とする電力系統監視装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力系統監視装置であって、
電力系統にサージを注入するとともに、前記第1の手段は注入したサージによるサージ波形を計測することを特徴とする電力系統監視装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電力系統監視装置であって、
前記計測波形および模擬波形は、単発波形が複数個時系列的に組み合わされた波形列であることを特徴とする電力系統監視装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電力系統監視装置であって、
前記系統構成情報とは既知である反射点を含む系統構成の情報であり、事故点情報とは未知変数である事故点、サージ到着時刻、サージ伝播速度であることを特徴とする電力系統監視装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電力系統監視装置であって、
前記模擬波形の生成においては事故点を複数仮設定し、サージ到着時刻、サージ伝播速度を未知数とする複数の模擬波形を得ることを特徴とする電力系統監視装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電力系統監視装置であって、
前記第2の手段および前記第3の手段で構成される処理装置と、前記第1の手段、または前記第4の手段の間にデータの伝送手段を備えて両者間でデータ交換することを特徴とする電力系統監視装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の電力系統監視装置であって、
前記第4の手段は、前記事故点の標定結果と、標定結果の推定精度を併せて出力することを特徴とする電力系統監視装置。
【請求項9】
電力系統におけるサージを用いて事故点を標定する電力系統監視方法であって、
電力系統を伝播するサージ波形を計測して計測波形を得、
前記電力系統の系統構成情報と事故点情報に基づいて前記電力系統を伝播するサージ波形を模擬生成し模擬波形を得、
前記計測波形と前記模擬波形の相似性を判断して事故点を標定し、
標定した前記事故点の標定結果を出力し、
前記電力系統の系統構成情報には、反射点の情報を含むとともに、新たに生成あるいは消滅した反射点の有無を判定することを特徴とする電力系統監視方法。
【請求項10】
請求項9に記載の電力系統監視方法であって、
前記模擬波形を得るために、電力系統上の位置と時間の平面上でサージの伝搬経路を作図することを特徴とする電力系統監視方法。
【請求項11】
請求項9に記載の電力系統監視方法であって、
前記模擬波形を得るために、既知である系統構成情報と未知である事故点情報による数式を用いる数値解析手法を実行することを特徴とする電力系統監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力系統における事故点を標定する電力系統監視装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統は、電力の安定供給のために多くの機器と制御方法を組み合わすことで構築して、運用されている大規模システムである。電力系統の状態は様々な要因で変化することが知られており、電圧、電流、電力、周波数等の物理量による表記が行われている。系統状態は、系統構成で作られる面的な広がりを持ち、また時間的な変化を伴う。また系統連系する発電と負荷によって大きく変化する。エネルギーの供給は安定であるべきなので、定常状態を維持するように様々な制御機器と制御手法が利用されている。
【0003】
電力供給に支障をもたらす事故が発生するとき、速やかに事故点(事故が起きた箇所)を特定して、復旧作業を開始することは、供給信頼度を高めるために必須の要請となっている。そして速やかな事故復旧を実現するには、事故内容を速やかに把握することが求められる。しかし現状は、事故が発生した現場で、人による確認作業によって事故点を特定する場合が多い。したがって事故点を特定するまでには、現場へ到着するまでの時間に加えて担当者の作業時間があり、ここには経験、知識、体調などの個人状況が入り込むことになる。
【0004】
一方、近年になって、ネットワークとデジタル信号処理の進展により、電力系統に設置したセンサで計測した信号が利用できるようになってきている。センサ計測信号を用いて系統状態を推定する技術が多く提案されている。事故点を推定する技術は事故点標定と呼ばれ、サージ方式、周波数方式などの事故点標定方式が提案されている。
【0005】
これらのなかでサージ方式は、線路を伝播するサージの到達時刻を用いて事故点を標定する。サージは進行波に分類されて、光に近い速度で伝播し、またインピーダンスが不整合となる点で反射することが知られている。このサージの波形をAD変換器でサンプリングした計測波形のデジタルデータを用いて、事故点を標定する事故点標定方式がある。
【0006】
特許文献1は、事故時に発生したサージが線路伝搬に伴い減衰する場合にも精度よく事故点を標定できる方法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-108011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の技術は、電力系統の事故点で発生して伝播するサージを、線路上の複数箇所で到達時刻を計測して、到達時間差を算出することを基本としている。そして、事故点から計測点までの距離、サージの到達時間差、およびサージの伝播速度を用いて関係式を作ることで、事故点を算出することを原理としている。しかし実用化するには以下の課題がある。
【0009】
電力系統の計測信号には、ノイズ、高調波、線間クロストーク等により波形が歪むことがあり、サージの到達時刻を精度よく検出するのが困難な場合がある。
【0010】
複数箇所でサージ到達時間差を計測するには、各箇所の計測装置の時刻同期が必要になる。しかし、例えばGPS(Global Positioning System)の時刻精度はマイクロ秒程度であることが多く、時刻精度を向上するための装置コストが増大する。
【0011】
到達時間差を用いて事故点を算出するには、サージの伝播速度が必要であるが、サージの伝播速度は線種等の条件で変化することが知られている。事前の実験等で測定した伝播速度を利用するならば、伝播速度の変化により測定結果に誤差が発生することがある。あるいは対象系統の線路のサージ伝播速度を計測する手段を用いるならば、装置コストが増大することになる。
【0012】
線路を伝播するサージは、インピーダンス不整合となる箇所で反射して、方向を反転して進むことが知られている。反射点になるのは線路の分岐点、碍子等の機器であることから、反射波は避けることができない。このため計測波形には、事故点から直接に伝播してくる直接波と、反射点で反射して伝播する反射波が混在する。波形の到達時刻を検出するとき、反射波はノイズとなり検出精度を低下させることがある。
【0013】
以上のことから本発明においては、簡易な装置構成で精度の高い標定が可能になる効果が得られる電力系統監視装置および方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上のことから本発明においては、電力系統におけるサージを用いて事故点を標定する電力系統監視装置であって、電力系統を伝播するサージ波形を計測して計測波形を得る第1の手段、電力系統の系統構成情報と事故点情報に基づいて前記電力系統を伝播するサージ波形を模擬生成し模擬波形を得る第2の手段、計測波形と模擬波形の相似性を判断して事故点を標定する第3の手段、標定した事故点の標定結果を出力する第4の手段、を備えることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、電力系統におけるサージを用いて事故点を標定する電力系統監視方法であって、電力系統を伝播するサージ波形を計測して計測波形を得、電力系統の系統構成情報と事故点情報に基づいて電力系統を伝播するサージ波形を模擬生成し模擬波形を得、計測波形と模擬波形の相似性を判断して事故点を標定し、標定した事故点の標定結果を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な装置構成で精度の高い標定が可能になる効果が得られる。
【0017】
具体的には、サージ波形の到達時刻を計測する必要はなく、反射波をノイズとして除去する手段は不要であり、サージの伝播速度を設定、あるいは計測する手段は不要である。これらは、いずれも装置構成の簡易化と標定精度の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1a】事故点でサージ発生する場合のサージ伝播の現象を示す図。
図1b】注入点でサージ発生する場合のサージ伝播の現象を示す図。
図2】本発明の事故点標定の処理手順を示す図。
図3a】作図による模擬波形生成の事例を示す図。
図3b】作図による模擬波形生成の事例を示す図。
図3c】作図による模擬波形生成の事例を示す図。
図3d】作図による模擬波形生成の事例を示す図。
図3e】作図による模擬波形生成の事例を示す図。
図4】作図手順においてサージ到達時刻に配置する単発波形の表記例を示す図。
図5】計測波形と模擬波形の相似性の算出方法を説明する図。
図6】計測波形と模擬波形の相似性を説明する図。
図7】事故点のみに着目したときの事故点と相似性の関係例を示す図。
図8】事故点標定の処理手順を説明する図。
図9】事故点標定の装置構成例を説明する図。
図10】事故点標定の表示画面の構成例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面等を用いて、本発明の実施例について説明する。以下の実施例は本願発明の内容の具体例を示すものであり、本願発明がこれらの実施例に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。
【0020】
電力系統の技術は、配電系統と送電系統に分けて説明することがある。以下は、配電系統に着目して説明するが、送電系統にも適用可能な技術である。
【0021】
なお本発明の説明では、交流の電圧と電流を、単に電圧、電流と呼ぶことがある。
【0022】
本発明は、計測手段を用いて採取したサージの計測波形を信号処理することで事故点を標定することを特徴とする。
【実施例1】
【0023】
図1a、図1bを用いて、電力系統のサージ伝播の現象を説明する。ここで図1aは事故点でサージ発生する場合、図1bは注入点でサージ発生する場合を示している。
【0024】
これらの図の横軸は電力系統の線路を示し、事故点Pf(あるいは注入点Pi)、反射点Pr、計測点Psが配置される。縦軸は事故発生後の時間tの経過を示している。サージは、時間経過とともに線路を伝播することから、図中の斜め線として位置と時間の関係が描かれる。以下の説明では、この斜め線を伝播線と呼ぶことにする。
【0025】
サージの発生要因は、事故が発生したときに過渡的な電気現象として事故点Pfで発生して伝播するサージ(図1a)がある。また、何らかのパルス発生手段を用いて線路にパルスを注入することで発生するサージ(図1b)がある。後者は、事故発生とは異なるタイミングで、事故点Pfとは異なる箇所(注入点Pi)で人為的にサージの発生が可能である。
【0026】
このようにして発生するサージは、線路上に用意する計測点Psにおいて、電圧あるいは電流の波形を計測することによってサージ波形として採取できる。この計測波形は、事故点Pf(あるいは注入点Pi)から計測点Psに直接に到達する直接波Wdと、反射点Prで反射してから計測点Psに到達する反射波Wrで構成される。反射点Prは、電気的なインピーダンス不整合等によりサージが反射する点であり、線路分岐点、碍子、線路末端、等の設備機器、電圧調整機器があり、これらは系統構成情報から事前に把握可能である。また事故点Pf自体も反射点Prになる。なおサージは正負、いずれの極性方向にも発生しうる。また反射波Wrは、反射の前後で振幅が反転(正負が反転)する場合がある。反射による振幅反転(正負が反転)を正しく推定できる場合には、サージ波形の大きさと極性(正負)と位置に着目した信号処理ができる。しかしこれらの極性については、波形振幅の絶対値あるいは二乗値等をとることで反転の有無に関わることなく、サージ波形の大きさと位置に着目することができる。
【0027】
このようにサージ計測波形は、事故点Pf(あるいは注入点Pi)と反射点Prの位置関係、およびサージの伝播速度、事故の発生時刻、によって関係づけられることになる。
【0028】
上記を整理すると、事故点Pf(あるいは注入点Pi)の位置とサージ波形は、以下の既知変数と未知変数で関係づけられる。まず既知の変数は、反射点Prと計測点Psの電力系統上における位置である。これに対し、未知の変数は、事故点Pf(あるいは注入点Pi)の位置と事故発生時刻とサージ伝播速度である。
【0029】
これらの変数は、着目する現象に応じて異なる表記ができる。例えば事故発生時刻は、計測波形に着目すればサージの到着時刻になる。サージ伝播速度は、計測波形に着目すれば波形の時間幅に換算できる。以下の説明では、これらの用語を適宜に置き換えて利用することがある。
【0030】
本発明は、上記変数を用いて、以下に示す図2の処理手順で事故点標定する。
【0031】
事故点標定の処理では、最初に処理ステップS1において、系統構成情報の入力を行う。系統構成情報に基づいて反射点Prと計測点Psの位置を決めることができる。また、模擬波形生成手段の準備を行う。この準備段階においては、事故点Pf(あるいは注入点Pi)、事故発生時刻、サージ伝播速度を変数として、サージの直接波Wdと反射波Wrを生成する模擬波形生成手段を用意する。また変数の初期値を設定しておく。ここまでの一連の処理は、いわば準備段階ということができる。
【0032】
処理ステップS2では、実際に事故発生を検知するまで待機する。事故発生時には、処理ステップS3においてサージ波形の入力を行う。ここでは、サージの計測波形Wsとしてサージの直接波Wdと反射波Wrが重畳する波形を入力する。
【0033】
処理ステップS4では、事故点Pfを標定するための探索を実行する。具体的には、処理ステップS41、S42、S43では、予め処理ステップS1において準備した模擬波形生成手段を用いて、事故点を仮設定し、変数として遅延時刻と波形幅を設定して模擬波形Wpを生成する。模擬波形Wpは、これらの変数を可変にして複数組のものが生成される。処理ステップS44で計測波形Wsと模擬波形Wpの相似性を算出する。処理ステップS45では事故点と相似性の関係を記憶する。
【0034】
処理ステップS5では、終了条件を判定して満たしていれば探索手順を終了する。満たしていない場合は、適宜上記処理ステップS41、S42、S43の手順を繰り返す。
【0035】
本発明の探索手順は、数値解析の手法を用いて解(最も相似性が高くなる変数)を探ることである。このために全探索、最適化計算等の探索の手法を利用する。繰り返しの終了条件としては、例えば繰り返しの回数、あるいは相似性の収束、等を利用する。
【0036】
最後に処理ステップS6では、終了条件を満たしたとき、計測波形Wsと模擬波形Wpが最も相似する事故点Pfを標定結果として選定し、処理ステップS7において出力する。標定結果は、事故点Pfの除去作業の担当者に適切に伝達されるように、文字、図形、画像、あるいは音声等を用いて出力する。また途中経過をログデータとして蓄積する。
【0037】
以上の説明から明らかなように、本発明は計測波形Wsと模擬波形Wpの類似を、相似性という指標で評価する。相似性は、後述するように、波形の位置(時刻)、波形幅(時間幅)に依存しない波形の類似を表す数値として算出する。したがって適切な条件を付加すれば、波形の相関性算出、波形のパタンマッチング、等の技術用語に言い換えることが可能である。
【0038】
本発明は、サージの直接波Wdと反射波Wrを組み合わせた模擬波形Wpを作ることを特徴の一つとしている。模擬波形Wpの作り方としては、作図による方法と、数式による方法がある。どちらも同じサージ伝播を表す方法であり互換性がある。
【0039】
以下の実施例の説明では、まず作図による方法を、図3aから図3eを用いて原理説明して、そのあとで数式による方法を説明する。
【0040】
作図による模擬波形生成について、図3aから図3eを用いて説明する。まず図3aは、事故点Pfと計測点Psが異なる場合の模擬波形Wpの生成方法を図示している。ここでは事故点Pfの前方(右)方向と後方(左)方向にそれぞれ複数の反射点Prがあり、計測点Psは事故点Pfの後方に隣接して存在しているものとする。この位置関係の場合には計測点Psには時刻t1、t2、t3にサージ計測がされることになる。従って逆に言えば、時刻t1、t2、t3にサージ波形として直接波Wd、反射波Wrが現れる模擬波形Wpを作成し、これが計測波形Wsと相似関係にあれば事故点をPfに特定することができる。なおこの表記において、実線は直接波Wdの伝搬経路、点線は反射波Wrの伝搬経路を表している。
【0041】
図3bは、計測点が2か所ある場合の模擬波形Wpの生成方法を図示している。ここでは事故点Pfの前方(右)方向と後方(左)方向にそれぞれ複数の反射点Prと複数の計測点Psが存在している。この位置関係の場合には前方の計測点Ps1には時刻t2、t4にサージ計測がされ、後方の計測点Ps2には時刻t1、t3、t5にサージ計測がされることになる。従って逆に言えば、時刻t1、t2、t3、t4、t5にサージ波形として直接波Wd1、Wd2、反射波Wrが現れる模擬波形Wp1、Wp2を作成し、これらが計測波形Wsと相似関係にあれば事故点をPfに特定することができる。
【0042】
図3cは、事故点Pfと計測点Psが同じ場合の模擬波形Wpの生成方法を図示している。この例は、一般的には計測点Psは例えば変電所内の母線に設置されるが、その母線において事故が発生した場合を想定している。ここでは事故点Pfと計測点Psが同じ場所に位置しており、これらの前方(右)方向と後方(左)方向にそれぞれ複数の反射点Prが存在している。この位置関係の場合には計測点Psには時刻t1、t2、t3、t4、t5にサージ計測がされることになる。従って逆に言えば、時刻t1、t2、t3、t4、t5にサージ波形として直接波Wd、反射波Wrが現れる模擬波形Wpを作成し、これらが計測波形Wsと相似関係にあれば事故点をPfに特定することができる。
【0043】
以上のケース(図3aから図3c)は、電力系統における事故発生時に事故点標定を行う図1aのケース(事故点でサージ発生する場合)を想定している。これに対し、図1bのケース(注入点でサージ発生する)は、事故継続中に人工的にパルス注入する場合であり、図3dに模擬波形の生成方法を図示している。
【0044】
図3dの例では、注入点Piと計測点Psは例えば事故発生現場近傍の作業場所であって、ほぼ同一地点に設定されており、前方の事故点を含む複数の反射点及び後方の反射点からの反射波が順次得られる。なおこの場合には、注入点Piと計測点Psは同じ場所にあることからすべてが反射波となるが、最初のサージを直接波Wdとして取り扱う。この位置関係の場合には計測点Psには時刻t1、t2、t3、t4、t5にサージ計測がされることになる。従って逆に言えば、時刻t1、t2、t3、t4、t5にサージ波形として直接波Wd、反射波Wrが現れる模擬波形Wpを作成し、これらが計測波形Wsと相似関係にあれば事故点をPfに特定することができる。
【0045】
図3eの例では、基本的には図3aと同じ系統構成であり各点の位置は同じであるが、反射点Prf1の前方と後方では送電線路の線種が異なっている。このため、計測点Psにおける前方からの反射波は線種の違いによる伝搬速度の変化により、図3aよりも遅れて反射波Wr3が到来する。この場合にあっても、線種の違いによる伝搬速度の変化を考慮した模擬波形を作成することで、上述したケースと同様の相似関係の確認により事故点の標定が可能である。
【0046】
上記の各ケースは、いずれも、横軸は電力系統の線路に沿った事故点Pf、反射点Pr、計測点Psの位置を示して、縦軸は時間tの経過を示している。図中の斜め線は、線路位置(横軸)と時間(縦軸)の関係を持つサージの伝播線である。時間軸tは、事故の発生時刻を原点として、それ以降の時間経過を作図している。
【0047】
上記表示によれば、サージの伝播速度が速いほど伝播線の勾配は水平に近くなり、到達時刻が早くなる。逆に伝播速度が遅いほど伝播線の勾配は急になり、到達時刻が遅くなる。伝播速度は波形の時間幅に換算出来て、サージの伝播速度が速いほど波形幅(時間幅)は短くなり、サージの伝播速度が遅いほど波形幅(時間幅)は長くなる。
【0048】
サージは、事故点Pf(あるいは注入点Pi)から系統の両側に向かって進む直接波Wdと、反射点Prで方向を逆転して進む反射波Wrがある。これらのサージが計測点Psを通過するとき、単発のサージ波形として計測される。そこで、直接波Wdと反射波Wrが計測点Psに到着する時刻にサージの単発波形を配置することで、複数の単発波形を組み合わせた模擬波形Wpを作る。なおサージは正負いずれにも発生し得、かつ反射波Wrは、反射点で振幅(正負)が反転することがある。そこでサージや反射波の絶対値あるいは二乗値をとり、正負に依存せずに、利用する方法がある。
【0049】
本発明は、このようにして計測点Psで観測される直接波Wdと反射波Wrの組み合わせを、模擬波形Wpとして生成することを特徴とする。
【0050】
前記したように本発明において、図中の伝播線の勾配がサージの伝播速度に相当する。したがって系統構成の情報から線種の違いが判るとき、線種の違いによる伝播速度の変化を、伝播線の勾配の変化として反映できる。このとき線種による伝播速度の変化の比率が、伝播線の勾配の変化の比率として作図できればよいので、伝播速度が定量的にわかっている必要はない。
【0051】
図4に、上記の作図手順においてサージ到達時刻に配置する単発波形の表記例を示す。図4には、インパルス状の波形、正弦波状の波形、一部逆極性を含む正弦波状の波形、三角波が例示され、本発明の作図ではこれらの波形はどのようなものであってもよい。
【0052】
実際に観測されるサージの波形は複雑な形状をしているが、本発明では後述するようにサージの単発波形ではなく、直接波Wdと反射波Wrの複数の波の組み合わせを波形として扱う。このため、模擬波形Wpの生成に用いる単発波形が計測波形Wsと類似している必要はない。例えば、デルタ関数として知られる瞬時の波形、方形波、三角波等の波形が利用できる。これらの単発波形の振幅と波形幅は限定するものではない。単発波形の波形幅は、狭くするほど時間軸方向の分解能が高くなるが、一方で適宜な時間幅を持たせるほうが安定した結果が得られる。また単発波形の振幅は、伝播距離が長くなるほど減衰するとして変化させても良い。
【0053】
本発明は、計測波形Wsと模擬波形Wpに含まれる直接波Wdと反射波Wrの時間的な位置関係の類似、言い換えれば直接波Wdと反射波Wrの時間間隔の類似を、両者を比較することで相似性として算出する。この相似性の算出に用いる、計測波形Wsおよび模擬波形Wpの波形幅(時間幅)は限定するものではない。例えば適宜な個数の単発波形が含まれるように、波形幅を任意に設定しても良い。あるいは、標定する線路範囲とサージ伝播速度を暫定的に設定して、その条件からサージの伝播時間を算出して、その時間に届くサージが含まれるように、計測波形Wsおよび模擬波形Wpの波形幅(時間幅)を設定しても良い。このとき線路範囲に含まれる反射点の個数、伝播距離に伴うサージの減衰等を考慮に入れて波形幅(時間幅)を設定しても良い。
【0054】
次に、模擬波形Wpの作り方として、数式による方法を説明する。
【0055】
前記した作図による模擬波形Wpの生成手順を、数式を用いて表記することで、プログラム等を用いて模擬波形Wpを生成することができる。このため前記した作図のなかでサージ伝播を示す伝播線を、線路方向と時間方向に関わる一次式として数式化する。反射点Pr、計測点Psは、線路位置として設定する。計測点Psと伝播線(一次式)の交点が到着時刻となり、その時刻にサージ(直接波と反射波)の単発波形を配置することで、模擬波形Wpを生成する。また反射点Prと伝播線(一次式)の交点で、逆向きに進む反射波の伝播線(一次式)を生成する。
【0056】
これらの数式化において、事故点Pfは未知変数として扱う。そして計測波形Wsと模擬波形Wpの相似性の指標を用いて、最も相似性が高くなる事故点を決定する。
【0057】
以下、模擬波形Wpの生成手順の一例を示す。
【0058】
まず標定の計算に利用する変数と条件を設定する。ここでは、線路位置xについて、始点は適宜に設定する。時刻tについて、初期値は適宜に設定する。反射点の位置r(i)、(i=1~M)について、系統構成情報に基づいて設定する。計測点の位置m(k)、(k=1~N)について、系統構成情報に基づいて設定する。
【0059】
次に標定計算に用いる変数(未知数)を用意する。ここでは事故点の位置をFs、サージ到着時刻をTs、サージ伝播速度をVsとする。ただし、ここでサージ到着時刻Tsは、最初のサージが到着する時刻であり、前記した事故発生時刻からの換算値である。
【0060】
上記の記号を用いてサージ伝播の伝播線を定式化する一例を(1)式に示す。なお、複数のサージ伝播式を組み合わせて表記するにはマトリクス形式で表記する方法があるが、ここでは省略する。
【0061】
【数1】
【0062】
また、(1)式のサージ伝播式を用いて模擬波形を生成するため以下のルールを用意する。これらのルールは、「事故点Pfから線路の両方向に向かってサージ波形を伝播させる。」、「サージ波形と反射点Prの交点で向きを反転した反射波Wrを生成する。」、「サージ波形と計測点Psの交点に時間幅を持った単発波形を置く。」といったものである。
【0063】
サージ波形と反射点Prの交点時刻Trは、サージ伝播式S(t)と反射点Prの位置r(i)を等号でつないで時刻tについて解くことで得られる。この交点時刻から、逆向きに進む新たな反射波Wrのサージ伝播式を作り、再び反射点Prとの交点時刻の算出を繰り返す。
【0064】
サージ波形と計測点Psの交点時刻Tmは、サージ伝播式S(t)と計測点Psの位置m(k)を等号でつないで時刻tについて解くことで得られる。この結果を用いて、交点の時刻Tmに単発波形を配置することで模擬波形Wpを生成する。
【0065】
ここでもし、計測波形Wsに計測誤差が無く、また模擬波形生成に用いる系統構成情報に誤差が無ければ、計測波形Wsと模擬波形Wpを組み合わせて解析的に解くことで事故点Pf(あるいは注入点Pi)を算出できる。しかし実用的には、計測波形には計測誤差が含まれて、また模擬波形生成に用いる系統構成情報には誤差が含まれるので解析的には解けないことが多い。
【0066】
そこで本発明は、計測波形Wsと模擬波形Wpに含まれる誤差を考慮するために、前記したように時間幅を持った単発波形を配置したうえで、相似性の指標を用いて数値計算的に事故点Pf(あるいは注入点Pi)を探索する。
【0067】
本発明は、後述するように、模擬波形Wpを生成して計測波形Wsと模擬波形Wpの相似性を算出する手順を、全探索あるいは最適化計算を用いて繰り返し計算することで、最も相似性が高くなる事故点を決定する。
【0068】
ここで模擬波形Wpの時間幅に特に制約はなく、直接波Wdと反射波Wrが適宜に組み合わされているように設定する。このため、時間幅を固定設定する方法、あるいは適宜の個数の直接波Wdと反射波Wrが含まれるように自動的に時間幅を設定する方法、等を利用して良い。計算範囲が短ければ計算負荷は軽減するが標定精度は低下し、逆に時間幅が長ければ計算負荷は増加するが標定精度は向上する傾向にある。
【0069】
この探索手順の計算過程として、正しく事故点Pf(あるいは注入点Pi)が求められるときに計測波形Wsと模擬波形Wpの相似性は最も高くなり、それ以外では相似性が低くなる、分布特性が得られる。例えば線路位置を横軸、相似性を縦軸とすれば、事故点位置において最も相似性が高くなる凸型の分布特性が得られる。この分布特性を、事故点決定の根拠として、あるいは事故点決定の精度として表記することができる。
【0070】
次に計測波形Wsと模擬波形Wpの間の相似性を算出することについて説明する。
【0071】
本発明は、計測波形Wsと模擬波形Wpの相似性を算出する手順を備える。幾何学の分野では、二つの図形の類似を考えるときに、図形の向きと大きさに関わらない指標として「相似」という用語が使われる。本発明は、計測波形Wsと模擬波形Wpの類似を、波形の始点と幅(時間幅)に関わらない類似を考えるため、相似性として算出する。そして本発明は、事故点が正しく標定できたときに計測波形Wsと模擬波形Wpの相似性が最も高くなることを利用して、事故点を決定する。
【0072】
図5を用いて、計測波形Wsと模擬波形Wpの相似性を算出することについて説明する。ここでは、計測波形Wsの時系列情報をX(t)、模擬波形Wpの時系列情報をY(t)で表記している。計測波形X(t)は波として計測されているが、模擬波形Y(t)は事故点に基づく模擬波形であり、波到達時刻と伝搬速度(波形幅)を含むインパルス列として表記されている。
【0073】
図5に示すように計測波形Wsと模擬波形Wpを、時間tの時系列信号X(t)とY(t)で表す。ここで時間tは離散的なサンプリング時刻を示す。したがって離散的なサンプリングの順番に置き換えても良い。相似性の算出方法の例を以下の(2)、(3)、(4)式に示す。ここで記号Σ(シグマ)は時間tについての加算を示す。
【0074】
【数2】
【0075】
(2)式に示す相似性1は、設定した時間幅T(t=0~T)の中で、同一時刻のX(t)とY(t)の掛け算を、時間軸方向に繰り返して足し算することで、相似性を算出する。この式は、相関性の算出式と同等であり、両者が類似するほど大きな値が得られる。したがって事故点Pfと相似性の関係を算出して、最も相似性が高くなるときに、正しく事故点Pfが算出できていることになる。
【0076】
【数3】
【0077】
(3)式に示す相似性2は、相似性1の算出式の変形であり、同一時刻のX(t)とY(t)を正値に変換してから相似性を算出する場合を示す。正値をとるには二乗する方法、絶対値を取る方法等があり。ここでは絶対値をとる方法を示している。この計算式は、反射波の振幅(正負)が反転する場合にも、位置関係に着目した相似性を算出することができる。
【0078】
【数4】
【0079】
(4)式に示す相似性3は、設定した時間幅の中で、同一時刻のX(t)とY(t)の差分を二乗する計算を、時間軸法に繰り返して足し算することで相似性を算出する。二乗するのは正値を作るためであり、代わりに絶対値をとっても良い。この式の分母は二乗誤差の算出式と同等であり、両者が類似するほど小さな値になるので、その逆数をとって相似性として用いる式を示している。
【0080】
本発明は、サージの単発波形の相似性を評価するものではなく、直接波Wdと反射波Wrが組み合わされた波形を模擬波形Wpとして評価対象とする。このため、模擬波形Wpの生成に用いる単発波形は、計測波形Wsに含まれる単発波形と相似している必要はない。例えば模擬波形Wpを作るための単発波形を0と1の2値の方形波としても良い。このとき、例えば(3)式の相似性2は、模擬波形が1の範囲で計測波形を加算すればよく(5)式で示すような簡易な計算になる。
【0081】
【数5】
【0082】
上記は、複数の計測手段から得られる計測波形Wsを用いて相似性を算出する式に拡張できる。このとき、計測点k(k=1~N)で計測波形Xi(t)を採取して、計測点k(k=1~N)に対応する模擬波形Yk(t)を生成する。そして、計測波形Xk(t)と模擬波形Yk(t)を用いて相似性を算出する。(1)、(2)、(3)式を拡張した時の相似性の算出式の例を(6)(7)(8)式に示す。
【0083】
【数6】
【0084】
【数7】
【0085】
【数8】
【0086】
これらの式中で、記号Π(パイ)は計測点k(k=1~N)についての積を表し、記号Σ(シグマ)は時間t(t=0~T)についての加算を示す。複数の計測波形を用いて相似性を算出することは、ランダムなノイズ成分をキャンセルして、事故点標定の精度が向上する効果がある。
【0087】
次に、波形の始点と幅(時間幅)を考慮した相似性の算出方法を説明する。本発明は、図6に示すように事故点、サージ到着時刻、サージ伝播速度を変数として相似性を算出する。ここでは、波として示される計測波形X(t)と、インパルス列として示される模擬波形Y(t)が事故点に基づく模擬波形として重ね表示されている。またここでは、波の到達時刻と伝搬速度(波形幅)を考慮して重ね表示されている。従って、模擬波形Y(t)の変数は、事故点までの距離、到達時刻、伝搬速度(波形幅)である。
【0088】
これら変数のうち、事故点は、模擬波形Y(t)のサージの発生個所になる。
【0089】
また次の変数であるサージが計測点に到着する時刻は、模擬波形Y(t)の始点時刻になる。波形の始点時刻をSaとすれば、模擬波形Y(t)の時系列信号をY(t-Sa)と表記できる。
【0090】
最後の変数であるサージの伝播速度は、波形幅に反映する。伝播速度をSvとすれば、模擬波形Y(t)の時系列信号をY(Sv・t)と表記できる。伝播速度Svが大きければ(伝播速度が早ければ)模擬波形Y(t)の時刻を早回しすることに相当して波形幅は短くなり、逆に伝播速度Svが小さければ(伝播速度が遅ければ)模擬波形Y(t)の時刻を遅く回すことに相当して波形幅が長くなる。
【0091】
このように本発明は、計測波形X(t)と模擬波形Y(t)の波形全体を対象にして相似性を算出するため、ノイズ、波形歪み等による影響が小さくなる。言い換えれば、本発明の計算手順自体が、ノイズ除去の効果を持っている。このため計測波形に対するノイズ除去、周波数フィルタ等の前処理は必要とせず、あるいは使う場合にも簡易な計算で良く、処理負荷の軽減に効果がある。
【0092】
次に、数値計算による探索手順について説明する。計測波形X(t)と模擬波形Y(t)が最も相似する事故点を数値計算で探索するため、未知変数として、事故点、サージ到着時刻、サージ伝播速度を用意する。
【0093】
図7に、上記変数のうち事故点のみに着目したときの事故点と相似性の関係を例示する。事故点と相似性の関係は、正しく事故点を設定した時に最も相似性が高くなり、その周辺になるほど相似性が低下することで、事故点を中心にした分布特性となる。同様に、三つの未知変数と相似性の関係についても、正しく推定できたときに模擬波形と計測波形の相似性が最も高くなることを利用して、変数の値を数値計算で決定する。
【0094】
なお上記説明において、模擬波形Wpの生成には既知情報である系統構成情報と未知情報である事故点情報を用いている。ここで系統構成情報とは、反射点を含む系統構成の情報であり、事故点情報とは未知変数である事故点、サージ到着時刻、サージ伝播速度である。そのうえで模擬波形Wpの生成においては事故点を複数仮設定し、サージ到着時刻、サージ伝播速度を未知数とする複数の模擬波形Wpを得たものである。
【0095】
上記の各処理は、図2のフローチャートの中で実現することができる。なお本発明は数値計算による探索の方法を限定するものではなく、全探索、あるいは高速化のため最適化計算等の計算方法を利用することができる。この探索方法は、計算負荷、探索結果の妥当性、探索手順の安定性、等を考慮して決めることになる。
【0096】
例えば全探索手法で探索する場合は、上記の未知変数である事故点位置、サージの到着時刻、サージの伝播速度を変化させながら繰り返し計算する3重ループを作り、それぞれのループ内で相似性を算出して、最も相似性が高くなるときの変数を検出する。このように変数の取り得る範囲を網羅してループ計算する方法は、計算負荷は高くなるが、探索に漏れがなく、結果の妥当性と安定性に優れる。
【0097】
また本発明は最適化計算の手法と手順を限定するものではない。例えばPSO(粒子群最適化手法)を本発明への適用する場合は、事故点位置、サージの到着時刻、サージの伝播速度を座標軸とする空間上に、解候補を設定して、最も相似性が高くなる解候補を探索することになる。そして探索の繰り返し計算に、何らかの終了条件を用意することで探索終了を判断して、繰り返し計算を終了して結果を出力する。最適化計算を利用することで、全探索に比べて計算負荷が軽減できる効果が得られる。
【実施例2】
【0098】
実施例1では、本発明の全体的な説明と、主に図1aの事故点でサージを発生する場合を中心にして説明をしている。これに対し、実施例2では、図1bのパルス注入を実施する場合について詳細に説明する。
【0099】
なおパルス注入による手法は、事故発生後これを除去できずに事故継続している段階において、作業者が現場付近に到着し、事故点の詳細位置を特定するための現場探索の場面で使用されることが多い。
【0100】
本発明の実施例の一つとして、事故発生後に外部装置を用いて線路にパルス注入することでサージを発生させて事故点を標定することができる。
【0101】
この方法では、パルス注入点Piがサージの発生個所になり、事故点Pfはサージの反射点Prとなる。そして、パルス注入点Piで発生して伝播するサージについて前記と同様に模擬波形Wpを生成して、計測波形Wsと模擬波形Wpとの相似性を探索することで事故点を標定することができる。
【0102】
この方法は、事故発生後に、線路の適宜箇所をパルス注入点としてサージを発生する。本発明は、パルスを注入する原理、装置構成、作業方法等を限定するものではない。電極接触、電磁誘導、等の手段を用いてパルス注入してサージを発生することができる。また、線路に設置されているSVR、SVC、開閉器、等の機器をスイッチングすることでサージを発生することができる。これらの機器を利用して、事故発生後に限ることなく、健全時の適宜なタイミングでサージの発生と計測をして、系統状態の変化を検出するために利用しても良い。
【0103】
本発明は、図8に示す処理フロー手順を用いて事故点Pfを標定する。
【0104】
まず処理ステップS11において、対象とする線路にパルス注入点Piと計測点Psを設置する。なお両者は同一箇所でも良いが、この手法が適用される場面では、現場に設置されるのがよい。
【0105】
次に処理ステップS12では、パルスを注入して、計測波形Wsを採取する。
【0106】
次に処理ステップS13では、設置したパルス注入点と計測点、および対象とする系統構成の情報に基づいて模擬波形Wpを生成する。この処理は、図2の処理ステップS4の処理を適用して実現可能である。
【0107】
最後に処理ステップS14において計測波形Wsと模擬波形Wpの相似性を用いて事故点を標定する。この処理は、図2の処理ステップS6、S7の処理を適用して実現可能である。
【0108】
本発明の実施例2による事故点標定方式によれば、「事故発生後に、事故点の標定が可能」、「任意の箇所をパルス注入点および計測点として設定できる」、「複数回の標定の作業を繰り返して、事故点の絞り込むことが可能になる」、「線路に設置されているSVR、SVC、開閉器、等の既存機器を、パルス注入(サージ発生)の手段として利用することができる」などの効果を得ることができる。
【0109】
計測器が設置されていない線路を巡視して事故点探索することは人手と時間がかかる作業になる。これに対して本発明の実施例2に係るパルス注入による事故点標定方式は、事故発生後の事故点探索に必要となる人手と時間を削減する効果がある。
【実施例3】
【0110】
実施例3では、反射点Prの取り扱いについて説明する。これは反射点Prが新たに発生し、あるいは消滅することの取り扱いである。
【0111】
前記したように、サージの反射点Prとなるインピーダンス不整合箇所には、分岐点、碍子等がある。さらに加えて、何らかの理由で反射点Prが発生、消滅することがある。例えば、経年劣化による特性変化で、絶縁抵抗が低下する箇所が新たな反射点Prとして発生する場合がある。また一時的な他物接触によってインピーダンス不整合が発生・消滅する場合がある。このような反射点Prの生成、消滅は、何らかの系統状態の変化を示唆しているとして、事故に至らずとも、供給信頼性の低下を招く懸念として事前のアラームとして利用することができる。
【0112】
本発明は、反射点Prの生成、消滅をサージ計測波形Wsの変化から検出することが可能である。本発明の事故点標定技術は、「反射点が生成、消滅した箇所を標定する」、「反射点が生成、消滅する状況において、発生した事故点を標定する」ことに適用可能である。
【0113】
以下に、パルス注入方式を利用した標定方法を説明する。この場合の方法1は、アラーム出力することである。
【0114】
現在の計測波形と事前の計測波形を比較して、事故発生はないものの反射点の変化を検出した時、新たに反射点が発生したと判断する。そして新たな反射点の箇所を、前記の事故点標定方式を用いて算出する。
【0115】
例えば一時的な樹木接触により新たな反射点が発生する場合があり、接触を繰り返すことで事故が発生する懸念がある。事故原因を未然に除去するために、新たな反射点の発生をアラームとして出力することができる。
【0116】
この場合の方法2は、事故後の事故点絞り込みである。事故発生の検出後に、パルス注入方式でサージの計測波形を採取して、新たに発生した反射点の箇所を、前記の事故点標定を用いて標定する。繰り返してパルス注入して事故点標定することで、徐々に事故点を絞り込むことができる。
【0117】
本発明の実施例3では、模擬波形全体の相似性を利用して事故点標定するので、模擬波形の生成に幾つかの反射点が欠落、あるいは追加していても、標定が可能である。
【実施例4】
【0118】
実施例4では、模擬波形Wpの発生及び事故点標定に係る演算処理を高速化計算させることについて説明する。
【0119】
本発明の事故点標定方式は、事故点と、事故発生時刻(サージ到着時刻)と、サージ伝播速度を変数として、終了条件を満たすまで相似性を繰り返し計算する。この繰り返し計算は、最適化計算を利用して実現できる。最適化計算の方法を限定するものではないが、例えばPSO(粒子群最適化手法)がある。
【0120】
簡単のためサージ到着時刻を0とすれば、事故点とサージ伝播速度の二つが未知の変数とする。繰り返し計算のなかで変数(事故点とサージ伝播速度)を設定して、前記した方法で模擬波形を生成し、計測波形との相似性を算出する。そして相似性が最も高くなる二つの変数(事故点とサージ伝播速度)を探索する。繰り返し計算の終了条件として、相似性が一定値よりも大きくなったとき、相似性の変化が一定値より小さくなったとき、あるいは繰り返し計算回数が一定値以上になったとき、等の判定を行う。
【実施例5】
【0121】
実施例5では、本発明の電力系統監視装置の装置構成について説明する。特に子局とサーバの間でデータ伝送する構成について説明する。
【0122】
図9に本発明を実施する電力系統監視装置の装置構成例を示す。装置構成は、処理時間、コスト、伝送データ量、等の基準に基づいて決めることになる。
【0123】
図9では、電力系統の計測点(図示の例では、センサ付き開閉器の設置点を示している)で波形を計測し、例えばネットワークなどを介して計測波形データをサーバ側に得、所定の処理結果を画面表示する。
【0124】
本発明を実施する装置構成について検討するときに、これを実現する主要な要素機能は、計測波形の入力手段、模擬波形の生成手段、相似性の算出手段、並びに最も相似性が高くなる事故点を決定する手段であるといえる。
【0125】
これらの手段は、子局と拠点サーバ、に分散して配置することができる。ここで拠点サーバとは、例えば配電自動化システムのような集中型の監視制御装置を示す。分散配置の方法は、装置コスト、処理時間等を考慮して決めることになる。また分散配置する場合は、両者間でデータ授受するためのデータ伝送手段を用意する。
【0126】
構成例の一つとして、子局側に上記手段の全てを配置する方法がある。この構成は、標定結果のみを拠点サーバ側に伝送すれば良く、データ伝送量を削減できる。また、模擬波形の生成を拠点サーバ側で実施して子局側に伝送することで、子局側の処理負荷を軽減することができる。
【0127】
別の構成例として、子局側で計測した波形データを拠点サーバ側に伝送し、サーバ側で計測波形と模擬波形を用いた標定を実施する方法がある。この構成は、サーバ側の計算能力を活用した信号処理が可能になり、子局側の負担を軽減できる。また複数箇所で計測したサージ波形を集約することで、標定精度の向上を実現することができる。
【0128】
また、上記の子局と拠点サーバを利用しないで、可搬型の事故点標定装置として構成する方法がある。パルス注入手段を備えることで、事故後の任意の箇所でサージを発生させて、事故点を標定する。事故発生近傍での詳細な探索に利用できるほか、事故復旧作業後の事故点除去の確認のために利用する。パルス注入方法としては、電極を電線に接触させる方法がある。計測波形を採取するためには、電極を電線に接触させる方法がある。作業性を高めるため、パルス注入点と計測点を同一箇所にして計測波形を採取することができる。そして近隣の反射点の情報を用いて模擬波形を生成して、計測波形と模擬波形の相似性を用いた事故点標定を実施できる。可搬型の装置とすることで、事故発生後の任意のタイミングと任意の場所を設定して標定を繰り返して、事故点を徐々に絞り込むことができる。
【実施例6】
【0129】
実施例6では、標定結果の出力、使い方について説明する。
【0130】
図10に、本発明の事故点標定の結果を表示する画面構成例を示す。ここでは、復旧作業担当者に対して、事故点の標定結果、標定結果の根拠、および標定の精度を提示する例を示している。
【0131】
相似性が最も高くなる事故点を決定する探索手順の経過データを一時的に記憶して提示することで、標定の根拠を示すことができる。多くの場合、事故点の位置と相似性の関係は、最も相似性が高くなる事故点を中心にした分布特性となる。この事故点と相似性の関係を提示することは、標定結果を利用する作業者に、標定の根拠と精度を示して、解釈を助けることになる。
【0132】
また本発明は、上記と同様に探索手順の経緯を用いて、何らかの理由で事故点標定が不可であると判定する条件を用意して、その判定結果と根拠を提示することができる。このために、事故点標定が不可になる判定条件として、「計測波形の歪み、ノイズが大きく、標定精度が得られない」、「線路に反射点がなく、直接波と反射波が重畳した計測波形、模擬波形が得られない」、「線路に反射点が極めて多数あり反射波が重なり合って平均化した波形になる」等を用意する。
【0133】
本発明は、上記条件を用いて標定不可について判定する。この判定に用いる閾値は、事前に固定設定してもよく、あるいは対象系統の特性に合わせて設定しても良い。事故点の標定結果とともに標定の可不可の判断結果を出力することで、復旧作業の進め方の指針として利用することができる。
【実施例7】
【0134】
実施例7では、事故点の有無の判定について説明する。本発明による事故点標定を用いて、対象系統の事故点の有無を判定することについて説明する。
【0135】
前記したパルス注入による事故点標定は、パルス注入によって発生するサージの直接波と、線路にある反射点からの反射波と、事故点で反射してくる反射波を計測波形として採取する。一方、模擬波形は、パルス注入する注入点と、系統構成情報から設定する反射点に、事故点を変数として組み合わせることで生成する。模擬波形の生成時に事故点を設定しなければ、健全な線路を伝播するサージ波形を生成できる。
【0136】
計測波形が、事故点を設定せずに作成した模擬波形と相似性が最も高くなる場合には、対象とする線路は健全(事故点がない)と判定する。これらの判定結果を出力することで、復旧作業の必要性の判断を支援することができる。
【0137】
このように事故点標定を用いて事故点の有無を判定する方法は、「事故復旧作業による事故点除去の確認」、「開閉器等を用いて切り離した部分系統内の支障(事故点)有無の確認」等に利用可能である。
【0138】
例えば、事故発生時に開閉器等を用いて系統から切り離した部分系統(あるいはマイクログリッド)について、停電復旧を試みる前に、該系統内に事故点が無い、もしくは事故点除去済みであることを確認するために、上記の手順を利用することができる。
【0139】
このように本発明は、事故後に復電開始するために、対象とする系統に事故点がないことを確認する方法として利用できる。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10