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特許7304795インク受容層用組成物、インクジェット用記録シート、及びインクジェット用記録シートの製造方法
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  • 特許-インク受容層用組成物、インクジェット用記録シート、及びインクジェット用記録シートの製造方法 図1
  • 特許-インク受容層用組成物、インクジェット用記録シート、及びインクジェット用記録シートの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】インク受容層用組成物、インクジェット用記録シート、及びインクジェット用記録シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
B41M5/52 100
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019205461
(22)【出願日】2019-11-13
(65)【公開番号】P2020082733
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2018215725
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110217
【氏名又は名称】TOPPANエッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼瀬 菜々実
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-137644(JP,A)
【文献】特開2006-168268(JP,A)
【文献】特開2010-158875(JP,A)
【文献】特開2001-191641(JP,A)
【文献】特開平10-329416(JP,A)
【文献】特開2008-143136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット用記録シートが備えるインク受容層を形成するための、インク受容層用組成物であって、
前記インク受容層用組成物は、カチオン性樹脂、多糖類及び水を含有し、
前記カチオン性樹脂が、ポリアミンと、エピクロルヒドリンの重縮合物と、からなる群から選択される1種又は2種以上であり、
前記多糖類が、グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上の縮合物であり、
前記インク受容層用組成物において、前記インク受容層用組成物の総質量に対する、前記カチオン性樹脂の含有量の割合が、3~30質量%であり、
前記インク受容層用組成物において、前記インク受容層用組成物の総質量に対する、前記多糖類の含有量の割合が、0.3~1.3質量%である、インク受容層用組成物。
【請求項2】
前記多糖類が、グアーガム及びキサンタンガムのいずれか一方又は両方である、請求項1に記載のインク受容層用組成物。
【請求項3】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に形成されたインク受容層と、を備えたインクジェット用記録シートであって、
前記インク受容層は、カチオン性樹脂及び多糖類を含有し、
前記カチオン性樹脂が、ポリアミンと、エピクロルヒドリンの重縮合物と、からなる群から選択される1種又は2種以上であり、
前記多糖類が、グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上の縮合物であり、
前記インク受容層において、前記インク受容層の総質量に対する、前記カチオン性樹脂の含有量の割合が、70~99質量%であり、
前記インク受容層において、前記インク受容層の総質量に対する、前記多糖類の含有量の割合が、1~30質量%である、インクジェット用記録シート。
【請求項4】
前記多糖類が、グアーガム及びキサンタンガムのいずれか一方又は両方である、請求項3に記載のインクジェット用記録シート。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のインクジェット用記録シートの製造方法であって、
請求項1又は2に記載のインク受容層用組成物を、グラビアオフセット印刷法により、304.8m/min以上の速度で、基材の少なくとも一方の面上に塗工する工程を有する、インクジェット用記録シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク受容層用組成物、インクジェット用記録シート、及びインクジェット用記録シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷を行う対象のインクジェット用記録シートは、通常、基材と、この基材上に設けられたインク受容層と、を備えて構成される。インク受容層は、インクを吸収させて、印字や画像を形成するための層である。インク受容層は、インクの定着等に必要な成分と、これらを分散又は溶解させるための溶媒と、を含有する液状の組成物を、基材上に塗工し、乾燥させることで形成できる。前記組成物を基材上に塗工する方法は、目的に応じて、公知の方法から選択できる。そして、必要に応じて、前記組成物は、この塗工方法への適用に適した特性を有するように、含有成分が調節される。
【0003】
例えば、前記組成物の塗工方法として、グラビアオフセット印刷法を適用する場合には、前記組成物は、ある程度高粘度であることが必要となる。組成物の粘度が低過ぎると、組成物を、これを転写するためのロール上に正常に載せることができない。さらに、組成物の粘度が低過ぎると、印刷中に組成物が飛散し易いため、通常であれば、1000feet/min(304.8m/min)以上であることが望ましいとされている印刷速度を、ここまで上げることができない。このような問題点を回避するためには、例えば、組成物の粘度を200mPa・s以上とすることが望ましい。
【0004】
前記組成物の粘度を高くするためには、例えば、組成物に増粘剤を含有させることが有効である。このような組成物として、増粘剤を含有し、種々の塗工方法へ適用可能とされた画像形成用処理液が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-246135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、単純に組成物に増粘剤を含有させただけでは、形成されたインク受容層が、十分にその効果を発揮できないことがあった。例えば、増粘剤は、インク受容層に吸収されたインクの乾燥性を低下させることがある。その場合、通常であれば、500feet/min(152.4m/min)以上であることが望ましいとされているインクジェット印刷の速度を、ここまで上げることができなかった。インクジェット印刷時の印刷速度を上げられなければ、印刷物の生産性が低下してしまう。
【0007】
本発明は、インクジェット用記録シート中のインク受容層を形成するための液状の組成物であって、グラビアオフセット印刷時に、印刷速度を必要以上に下げる必要がなく、良好な印刷適性を示し、さらに、インクジェット印刷時のインクの乾燥性が良好なインク受容層を形成可能なインク受容層用組成物と、前記組成物を用いて得られたインクジェット用記録シートと、を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、インクジェット用記録シートが備えるインク受容層を形成するための、インク受容層用組成物であって、前記インク受容層用組成物は、カチオン性樹脂、多糖類及び水を含有し、前記カチオン性樹脂が、ポリアミンと、エピクロルヒドリンの重縮合物と、からなる群から選択される1種又は2種以上であり、前記多糖類が、グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上の縮合物であり、前記インク受容層用組成物において、前記インク受容層用組成物の総質量に対する、前記カチオン性樹脂の含有量の割合が、3~30質量%であり、前記インク受容層用組成物において、前記インク受容層用組成物の総質量に対する、前記多糖類の含有量の割合が、0.3~1.3質量%である、インク受容層用組成物である。
本発明の第1の態様においては、前記多糖類が、グアーガム及びキサンタンガムのいずれか一方又は両方であることが好ましい。
【0009】
本発明の第2の態様は、基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に形成されたインク受容層と、を備えたインクジェット用記録シートであって、前記インク受容層は、カチオン性樹脂及び多糖類を含有し、前記カチオン性樹脂が、ポリアミンと、エピクロルヒドリンの重縮合物と、からなる群から選択される1種又は2種以上であり、前記多糖類が、グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上の縮合物であり、前記インク受容層において、前記インク受容層の総質量に対する、前記カチオン性樹脂の含有量の割合が、70~99質量%であり、前記インク受容層において、前記インク受容層の総質量に対する、前記多糖類の含有量の割合が、1~30質量%である、インクジェット用記録シートである。
本発明の第2の態様においては、前記多糖類が、グアーガム及びキサンタンガムのいずれか一方又は両方であることが好ましい。
本発明の第3の態様は、前記第2の態様のインクジェット用記録シートの製造方法であって、前記第1の態様のインク受容層用組成物を、グラビアオフセット印刷法により、304.8m/min以上の速度で、基材の少なくとも一方の面上に塗工する工程を有する、インクジェット用記録シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インクジェット用記録シート中のインク受容層を形成するための液状の組成物であって、グラビアオフセット印刷時に、印刷速度を必要以上に下げる必要がなく、良好な印刷適性を示し、さらに、インクジェット印刷時のインクの乾燥性が良好なインク受容層を形成可能なインク受容層用組成物と、前記組成物を用いて得られたインクジェット用記録シートと、が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット用記録シートの一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るインクジェット用記録シートの他の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<インク受容層用組成物>>
本発明の一実施形態に係るインク受容層用組成物は、インクジェット用記録シートが備えるインク受容層を形成するための、インク受容層用組成物であって、前記インク受容層用組成物は、カチオン性樹脂、多糖類及び水を含有し、前記カチオン性樹脂が、ポリアミンと、エピクロルヒドリンの重縮合物と、からなる群から選択される1種又は2種以上であり、前記多糖類が、グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上の縮合物であり、前記インク受容層用組成物において、前記インク受容層用組成物の総質量に対する、前記カチオン性樹脂の含有量の割合が、3~30質量%であり、前記インク受容層用組成物において、前記インク受容層用組成物の総質量に対する、前記多糖類の含有量の割合が、0.3~1.3質量%である。
【0013】
本実施形態のインク受容層用組成物は、前記カチオン性樹脂及び多糖類という特定範囲の成分を、特定範囲の含有量で含有していることで、グラビアオフセット印刷時に、印刷速度を必要以上に下げる必要がなく、良好な印刷適性を示し、さらに、インクジェット印刷時のインクの乾燥性が良好なインク受容層を形成できる。なお、本明細書においては、インク受容層用組成物が、このように、「グラビアオフセット印刷時に、印刷速度を必要以上に下げる必要がなく、良好な印刷適性を示す」ことを、「グラビアオフセット印刷適性を有する」、という。
【0014】
本実施形態のインク受容層用組成物は、例えば、インクの滲み、インクの裏抜け(インクがシートの印刷面から反対側の裏面へと透過してしまう現象)等を抑制可能なインク受容層の形成に用いることもできる。
以下、インク受容層用組成物の各含有成分について、説明する。
【0015】
<カチオン性樹脂>
前記カチオン性樹脂は、ポリアミンと、エピクロルヒドリン(別名:3-クロロ-1,2-エポキシプロパン)の重縮合物と、からなる群から選択される1種又は2種以上である。
前記カチオン性樹脂は、水の共存下で、カチオン性を呈する樹脂である。
前記カチオン性樹脂は、インク受容層においては、インクを定着させ、インク受容層がその基本的な作用を発現するために必須の成分である。また、前記カチオン性樹脂は、インク受容層用組成物においては、良好なグラビアオフセット印刷適性を実現する。
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、「カチオン性樹脂」とは、上述の「ポリアミン」又は「エピクロルヒドリンの重縮合物」を意味する。
【0016】
[ポリアミン]
カチオン性樹脂における前記ポリアミンとしては、例えば、アミノ基(-NH)と、アミノ基中の1個又は2個の水素原子が水素原子以外の基で置換された置換アミノ基と、アミノ基又は前記置換アミノ基が塩を形成している基と、からなる群から選択される1種又は2種以上を、1分子中に、合計で2個以上有する樹脂が挙げられる。
【0017】
ポリアミンが、その1分子中に、2個以上の置換アミノ基又は前記塩を形成している基を有する場合、これら置換アミノ基又は前記塩を形成している基は、互いに同一でも異なっていてもよい。
なお、本明細書においては、置換アミノ基及び前記塩を形成している基に限らず、複数の選択肢が存在する官能基について、「2個以上の官能基は、互いに同一でも異なっていてもよい」とは、すべての官能基が同一であってもよいし、すべての官能基が異なっていてもよいし、一部の官能基のみが同一であってもよいことを意味する。
【0018】
ポリアミンは、直鎖状、分岐鎖状(本明細書においては、「直鎖状」及び「分岐鎖状」を包括して「鎖状」と称する)及び環状のいずれであってもよい。本明細書において、「環状のポリアミン」とは、環状構造を有するポリアミンを意味し、環状構造のみを有していてもよいし、環状構造と非環状構造(すなわち鎖状構造)をともに有していてもよい。
【0019】
ポリアミン中でのアミノ基、置換アミノ基及び前記塩を形成している基の位置は、特に限定されない。
例えば、ポリアミンが鎖状である場合には、アミノ基、置換アミノ基及び前記塩を形成している基は、主鎖の末端部に存在していてもよいし、非末端部に存在していてもよい。なお、本明細書において、「主鎖」とは、分子中に存在するひと繋がりの鎖状骨格のうち、この鎖状骨格を形成している原子数が最大であるものを意味する。
【0020】
ポリアミンとしては、例えば、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン若しくは第4級アンモニウム塩のモノマー、オリゴマー又はポリマーが挙げられる。
ポリアミンとして、より具体的には、例えば、ポリアミン-エピクロルヒドリン重縮合物;第2級アミノ基、第3級アミノ基又は第4級アンモニウム基を有するアクリル重合体;ポリビニルアミン;ポリビニルアミジン;5員環アミジン類;ジシアンジアミド-ホルマリン共重合体等のジシアン系カチオン性樹脂;ジシアンジアミド-ポリエチレンアミン共重合物等のポリアミン系カチオン性樹脂;ポリエチレンポリアミン、ポリプロピレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン類及びその誘導体;ジアリルジメチルアンモニウム-SO共重合物;ジアリルアミン塩-SO共重合物;ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物;アリルアミン塩の重合物;ビニルベンジルトリアリルアンモニウム塩の単独重合体又は共重合体;ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合物;アクリルアミド-ジアリルアミン塩共重合物等が挙げられる。
ポリアミン-エピクロルヒドリン重縮合物は、エピクロルヒドリンの重縮合物であるが、本明細書においては、後述するエピクロルヒドリンの重縮合物ではなく、ポリアミンとして取り扱う。
【0021】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を包含する概念である。「(メタ)アクリレート」と類似の用語についても同様であり、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリロイル基」とは、「アクリロイル基」及び「メタクリロイル基」の両方を包含する概念である。
【0022】
また、本明細書において、重合物には、重縮合物も含まれる。
また、本明細書において、「誘導体」、「類」との記載は、特に断りのない限り、元の化合物の1個以上の水素原子が水素原子以外の基で置換されているものを意味する。ここで、「基」とは、複数個の原子が結合してなる原子団だけでなく、1個の原子も包含するものとする。
【0023】
[エピクロルヒドリンの重縮合物]
カチオン性樹脂における、前記エピクロルヒドリンの重縮合物(ただし、ポリアミン-エピクロルヒドリン重縮合物を除く)は、エピクロルヒドリンから誘導された構成単位を有していればよい。
エピクロルヒドリンの重縮合物としては、例えば、エピクロルヒドリンと、エピクロルヒドリン以外のモノマーと、の重縮合物(換言すると、エピクロルヒドリンから誘導された構成単位と、エピクロルヒドリン以外のモノマーから誘導された構成単位と、を有する樹脂)が挙げられる。
【0024】
エピクロルヒドリン以外のモノマーは、エピクロルヒドリンと重縮合が可能であれば、特に限定されない(ただし、ポリアミンを除く)。前記モノマーとしては、例えば、アミノ基(-NH)、又は、アミノ基中の1個又は2個の水素原子が水素原子以外の基で置換された置換アミノ基を、1分子中に1個有するアミン化合物が挙げられる。
【0025】
前記アミン化合物の分子量は特に限定されない。例えば、前記アミン化合物は、分子量が10000未満のような低分子化合物であってもよいし、分子量が10000以上のような高分子化合物であってもよい。また、前記アミン化合物は、重合物及び非重合物のいずれであってもよい。ここで、「重合物」には「重縮合物」も含まれる。
【0026】
前記アミン化合物中でのアミノ基及び置換アミノ基の位置は、特に限定されない。
【0027】
前記エピクロルヒドリンの重縮合物を構成する、エピクロルヒドリン以外のモノマー(換言すると、前記重縮合物中の、エピクロルヒドリン以外のモノマーから誘導された構成単位)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0028】
エピクロルヒドリン以外のモノマーは、前記アミン化合物であることが好ましく、アルキルアミン(アルキル基を有するアミン)であることがより好ましく、ジメチルアミンであることが特に好ましい。
すなわち、前記エピクロルヒドリンの重縮合物は、アミン化合物-エピクロルヒドリン重縮合物であることが好ましく、アルキルアミン-エピクロルヒドリン重縮合物であることがより好ましく、ジメチルアミン-エピクロルヒドリン重縮合物であることが特に好ましい。
【0029】
インク受容層用組成物が含有するカチオン性樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
例えば、インク受容層用組成物は、カチオン性樹脂として、1種又は2種以上のポリアミンのみを含有していてもよいし、1種又は2種以上の、エピクロルヒドリンの重縮合物のみを含有していてもよいし、1種又は2種以上のポリアミンと、1種又は2種以上の、エピクロルヒドリンの重縮合物と、をともに含有していてもよい。
【0030】
インク受容層用組成物において、インク受容層用組成物の総質量に対する、カチオン性樹脂の含有量の割合は、3~30質量%であり、3.5~27質量%であることが好ましく、4~24質量%であることがより好ましく、4.5~22質量%であることが特に好ましい。また、前記割合は、例えば、7.5質量%以上であってもよい。前記割合がこのような範囲であることで、インク受容層用組成物は、グラビアオフセット印刷時に、その印刷速度と印刷適性が悪化することがなく、さらに良好な特性のインク受容層の形成を可能とする。特に、前記割合が前記下限値以上であることで、インク受容層のインクの滲みを抑制する効果が高くなる。また、前記割合が前記上限値以下であることで、インク受容層用組成物の乾燥性が高くなり、さらに、インク受容層のインク吸収性が高くなる。
【0031】
<多糖類>
前記多糖類は、グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上の縮合物である。前記多糖類は、インク受容層用組成物の粘度を高くするための成分(すなわち増粘剤)であり、インク受容層においては、インクの乾燥性を低下させることがなく、インク受容層が十分にその効果を発揮することを可能とする。
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、「多糖類」とは、上述の「グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上の縮合物」を意味する。
【0032】
前記多糖類は、グルコースから誘導された構成単位と、ガラクトースから誘導された構成単位と、マンノースから誘導された構成単位と、グルクロン酸から誘導された構成単位と、からなる群から選択される1種又は2種以上を有していればよい。
前記多糖類としては、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上のみの縮合物(換言すると、構成単位として、グルコースから誘導された構成単位と、ガラクトースから誘導された構成単位と、マンノースから誘導された構成単位と、グルクロン酸から誘導された構成単位と、からなる群から選択される1種又は2種以上のみを有する縮合物);グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上と、それ以外の単糖(本明細書においては、「他の単糖」と略記することがある)と、の縮合物(換言すると、構成単位として、グルコースから誘導された構成単位と、ガラクトースから誘導された構成単位と、マンノースから誘導された構成単位と、グルクロン酸から誘導された構成単位と、からなる群から選択される1種又は2種以上と、前記他の単糖から誘導された構成単位と、を有する縮合物)が挙げられる。
【0033】
前記多糖類で好ましいものとしては、例えば、ガラクトース及びマンノースのみの縮合物;グルコース、マンノース及びグルクロン酸のみの縮合物;ガラクトース、マンノース及び前記他の単糖のみの縮合物;グルコース、マンノース、グルクロン酸及び前記他の単糖のみの縮合物等が挙げられる。
【0034】
前記多糖類が、グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上と、前記他の単糖と、の縮合物である場合、1分子の前記多糖類における、すべての構成単位の総数に対する、グルコースから誘導された構成単位と、ガラクトースから誘導された構成単位と、マンノースから誘導された構成単位と、グルクロン酸から誘導された構成単位と、の合計数の割合([1分子の前記多糖類における、グルコースから誘導された構成単位と、ガラクトースから誘導された構成単位と、マンノースから誘導された構成単位と、グルクロン酸から誘導された構成単位と、の合計数]/[1分子の前記多糖類における、すべての構成単位の総数]×100)は、特に限定されないが、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0035】
前記割合の上限値は、特に限定されない。例えば、前記他の単糖を用いたことによる効果が、より顕著に得られる点では、前記割合は99%以下であることが好ましい。
【0036】
前記他の単糖は、グルコースと、ガラクトースと、マンノースと、グルクロン酸と、のいずれにも該当しないものであれば、特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
【0037】
前記多糖類を構成する前記他の単糖(換言すると、前記多糖類中の、前記他の単糖から誘導された構成単位)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0038】
前記多糖類の重量平均分子量は、特に限定されないが、100000~80000000であることが好ましく、150000~60000000であることがより好ましい。
なお、本明細書において、重量平均分子量とは、特に断りのない限り、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値である。
【0039】
インク受容層用組成物が含有する前記多糖類は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0040】
インク受容層用組成物が含有する前記多糖類で好ましいものとしては、例えば、グアーガム、キサンタンガムが挙げられる。
すなわち、インク受容層用組成物が含有する前記多糖類は、グアーガム及びキサンタンガムのいずれか一方又は両方であることが好ましい。
【0041】
インク受容層用組成物において、インク受容層用組成物の総質量に対する、前記多糖類の含有量の割合は、0.3~1.3質量%であり、0.3~1.1質量%であることが好ましく、0.3~0.95質量%であることがより好ましく、0.3~0.8質量%であることが特に好ましい。前記割合がこのような範囲であることで、インク受容層用組成物は、グラビアオフセット印刷時に、その印刷速度と印刷適性が悪化することがなく、さらに良好な特性のインク受容層の形成を可能とする。特に、前記割合が前記下限値以上であることで、インク受容層用組成物の粘度が高くなる。また、前記割合が前記上限値以下であることで、インク受容層のインクの乾燥性が高くなる。
【0042】
<水>
インク受容層用組成物において、水は、水以外の成分を溶媒又は分散させるための成分であり、インク受容層からは除去される。
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、溶媒と分散媒を包括して「溶媒」と称する。
【0043】
インク受容層用組成物において、インク受容層用組成物の総質量に対する、水の含有量の割合は、例えば、68.7~96.7質量%であってもよい。
【0044】
<他の成分>
前記インク受容層用組成物は、前記カチオン性樹脂と、前記多糖類と、水と、のいずれにも該当しない、他の成分(本明細書においては、「他の成分」と略記することがある)を含有していてもよい。
前記他の成分は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。
前記他の成分としては、例えば、前記カチオン性樹脂以外のカチオン性樹脂(本明細書においては、「他のカチオン性樹脂」と称することがある)、前記多糖類以外の多糖類(本明細書においては、「他の多糖類」と称することがある)、水以外の溶媒、バインダー、インク定着剤、多価金属塩、pH調整剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、酸化防止剤、防腐剤、耐水化剤、紙力増強剤、染料、顔料、色素定着剤、顔料分散剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤等の、インクジェット用記録シートのインク受容層において通常使用され得る成分が挙げられる。
【0045】
インク受容層用組成物が含有する前記他の成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0046】
インク受容層用組成物において、前記他の成分の含有量は、通常、前記カチオン性樹脂及び多糖類の合計含有量100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、例えば、15質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、及び1質量部以下のいずれかであってもよく、0質量部、すなわち、インク受容層用組成物は、前記他の成分を含有していなくてもよい。他の成分の前記含有量が前記上限値以下であることで、前記カチオン性樹脂及び多糖類を用いたことによる効果が、より顕著に得られる。
さらに、前記他の成分の含有量は、他の成分の種類に応じて、上述の範囲内でさらに調節されていてもよい。
【0047】
[他のカチオン性樹脂]
前記他のカチオン性樹脂は、先に説明したポリアミンと、エピクロルヒドリンの重縮合物と、のいずれにも該当しないカチオン性樹脂である。
他のカチオン性樹脂は、この条件を満たせば、特に限定されない。
他のカチオン性樹脂は、インク定着剤として用いることができる。
【0048】
前記他のカチオン性樹脂としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム、ポリ酢酸アルミニウム等のアルミニウム塩が挙げられる。
【0049】
インク受容層用組成物が含有する他のカチオン性樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0050】
インク受容層用組成物において、他のカチオン性樹脂の含有量は、前記カチオン性樹脂の含有量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、例えば、5質量部以下、3質量部以下及び1質量部以下のいずれかであってもよく、0質量部、すなわち、インク受容層用組成物は、他のカチオン性樹脂を含有していなくてもよい。他のカチオン性樹脂の前記含有量が前記上限値以下であることで、前記カチオン性樹脂を用いたことによる効果が、より顕著に得られる。
【0051】
[他の多糖類]
前記他の多糖類は、先に説明したグルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上の縮合物、に該当しない多糖類である。
他の多糖類は、この条件を満たせば、特に限定されない。
他の多糖類は、例えば、増粘剤、バインダー等として用いることができる。
【0052】
他の多糖類としては、例えば、酸化デンプン、リン酸エステル化デンプン、ローコンス等が挙げられる。
【0053】
インク受容層用組成物が含有する他の多糖類は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0054】
インク受容層用組成物において、他の多糖類の含有量は、前記多糖類の含有量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、例えば、5質量部以下、3質量部以下及び1質量部以下のいずれかであってもよく、0質量部、すなわち、インク受容層用組成物は、他の多糖類を含有していなくてもよい。他の多糖類の前記含有量が前記上限値以下であることで、前記多糖類を用いたことによる効果が、より顕著に得られる。
【0055】
[水以外の溶媒]
水以外の溶媒は、常温で液状であり、通常、溶媒又は分散媒として使用される成分のうち、水以外の成分であれば、特に限定されない。
なお、本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15~25℃の温度等が挙げられる。
【0056】
本実施形態においては、インク受容層用組成物を製造するために、前記カチオン性樹脂、多糖類、又は溶媒以外の前記他の成分を、分散物又は溶液として配合したときに、前記分散物又は溶液を調製するために使用した溶媒(ただし水を除く)以外に、溶媒(ただし水を除く)を配合しなかった場合には、前記水以外の溶媒とは、前記分散物又は溶液を調製するために使用した溶媒(ただし水を除く)を意味する。
一方、前記分散物又は溶液を調製するために使用した前記溶媒(ただし水を除く)以外に、別途溶媒(ただし水を除く)を配合した場合には、前記水以外の溶媒とは、前記分散物又は溶液を調製するために使用した溶媒(ただし水を除く)と、この別途配合した溶媒(ただし水を除く)と、の双方を意味する。
そして、前記カチオン性樹脂、多糖類、及び溶媒以外の前記他の成分を、いずれも固形物として配合した場合には、前記水以外の溶媒とは、これらとは別に配合した溶媒(ただし水を除く)を意味する。
【0057】
水以外の溶媒としては、例えば、アルコール等が挙げられる。
【0058】
インク受容層用組成物が含有する水以外の溶媒は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0059】
[pH調整剤]
前記pH調整剤としては、例えば、塩基が挙げられる。
インク受容層用組成物は、カチオン性樹脂を含有しているため、通常は酸性になり易い。したがって、グラビアオフセット印刷時には、印刷装置がその構成部品として鉄製のものを備えていると、この鉄製構成部品は、印刷後に洗浄を行わない限り、腐食(錆が発生)してしまう。そして、構成部品が腐食している印刷装置の印刷性能は、著しく悪化してしまう可能性がある。
【0060】
前記鉄製構成部品としては、例えば、グラビアローラーのシャフト部及びギア部等が挙げられるが、これらに限定されない。
印刷装置が、その構成部品として鉄製のものを備えている理由は、例えば、印刷装置の機械的強度を保つためである。
【0061】
これに対して、塩基を含有し、酸性度が低下されている、又は酸性ではないインク受容層用組成物を用いることによって、グラビアオフセット印刷時に、鉄製構成部品を備えた印刷装置を用い、印刷後に洗浄を行わなくても、この鉄製構成部品の腐食を抑制でき、印刷装置の印刷性能の悪化を回避できる。
【0062】
前記塩基は、強塩基であることが好ましい。
前記塩基は、水に対して、70g/100mL以上の溶解度を有するものが好ましく、100g/100mL以上の溶解度を有するものがより好ましい。そして、前記塩基は、18~23℃の水に対して、これら溶解度を有するものが好ましい。
【0063】
好ましい前記塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0064】
インク受容層用組成物が含有する塩基は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0065】
塩基を含有するインク受容層用組成物で好ましいものとしては、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのいずれか一方又は両方を含有するものが挙げられる。
【0066】
塩基を用いる場合、インク受容層用組成物において、インク受容層用組成物の総質量に対する、塩基の含有量の割合は、0.4~1.2質量%であることが好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、インク受容層用組成物の、塩基を用いたことによる効果がより高くなる。前記割合が前記上限値以下であることで、インク受容層用組成物が固形物(不溶物)を含有することを避けられる(溶解性が増大する)効果が向上し、インク受容層用組成物の塗工適性が向上する。
前記割合は、例えば、用いる塩基の種類に応じて、上述の数値範囲内においてさらに調節してもよい。
【0067】
インク受容層用組成物の腐食抑制効果の程度は、例えば、鉄をインク受容層用組成物中に浸漬し、浸漬前後のインク受容層用組成物について、特定の波長域で吸収スペクトルを測定し、L表色系におけるL、a及びbの値を算出して、これら算出値から求めた、浸漬前後でのインク受容層用組成物の色差(ΔE)により、評価できる。
この評価方法は、インク受容層用組成物の鉄に対する腐食抑制効果が低い場合には、鉄の腐食速度が速いことに伴って、インク受容層用組成物の色味が大きく変化することを利用して、インク受容層用組成物について、その色味の変化の度合いから、腐食抑制効果の程度を評価するものである。
より具体的には、以下のとおりである。
【0068】
すなわち、例えば、インク受容層用組成物と、鉄とを、[インク受容層用組成物(質量部)]:[鉄(質量部)]=85:15の質量比で混合し、鉄をインク受容層用組成物中に浸漬してこの状態のまま、鉄とインク受容層用組成物を、28℃の温度条件下で72時間静置し、浸漬前後でのインク受容層用組成物について、380~780nmの波長域で吸収スペクトルを測定し、L表色系におけるL、a及びbの値を算出して、これら算出値から、浸漬前後でのインク受容層用組成物の色差(ΔE)を算出し、その値によって、インク受容層用組成物の腐食抑制効果を評価できる。
【0069】
鉄の浸漬前後のインク受容層用組成物の色差(ΔE)は、鉄を浸漬する前のインク受容層用組成物のL、a及びbの値をそれぞれ、L 、a 及びb とし、鉄を浸漬した後のインク受容層用組成物のL、a及びbの値をそれぞれ、L 、a 及びb としたとき、下記式:
ΔE=[(L -L +(a -a +(b -b 1/2
により算出できる。
【0070】
インク受容層用組成物の腐食抑制効果は、例えば、多糖類を含有していない点以外は、目的とするインク受容層用組成物と同じである試験用インク受容層用組成物を用いて、評価してもよい。これは、粘度が高いインク受容層用組成物では、L、a及びbの正確な値を算出できない可能性があり、その一方で、多糖類がインク受容層用組成物の腐食抑制効果に与える影響は、全く無いか又は極めて軽微であるためである。
【0071】
本実施形態のインク受容層用組成物の前記ΔEは、40以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましく、1以下であることがさらに好ましい。
前記ΔEが1以下であるインク受容層用組成物の腐食抑制効果は、極めて高く、鉄の腐食速度は、ステンレスの腐食速度と同等である。
前記ΔEが1を超え、7以下であるインク受容層用組成物の腐食抑制効果は、ΔEが1以下である場合よりも劣るが、高く、鉄の腐食速度は、防錆処理された鉄の腐食速度と同等である。
前記ΔEが7を超え、40以下であるインク受容層用組成物の腐食抑制効果は、ΔEが1以下である場合よりも劣り、鉄は、28℃の環境下で、インク受容層用組成物と約12時間接触することで腐食が始まるが、他の対策(ただし、印刷後の鉄製構成部品の洗浄を除く)を併用することで、鉄製構成部品を備えた印刷装置の印刷性能は、悪化しない。
鉄は、28℃の環境下で、前記ΔEが40を超えるインク受容層用組成物と1~2時間接触することで腐食が始まり、他の対策(ただし、印刷後の鉄製構成部品の洗浄を除く)を併用しても、鉄製構成部品を備えた印刷装置の印刷性能は、悪化するおそれがある。
【0072】
インク受容層用組成物の吸収スペクトルは、分光光度計を用いることで測定でき、その測定値を用いて、L表色系におけるL、a及びbの値を算出できる。
【0073】
本実施形態のインク受容層用組成物は、高粘度であり、グラビアオフセット印刷法を適用するのに好適である。
23℃の環境下で、B型粘度計を用いて測定した、前記インク受容層用組成物の粘度は、200Pa・s以上であることが好ましく、例えば、300Pa・s以上、400Pa・s以上、500Pa・s以上、600Pa・s以上、及び700Pa・s以上のいずれかであってもよく、1200Pa・s以上であってもよい。インク受容層用組成物は、その粘度が200Pa・s以上であることで、良好なグラビアオフセット印刷適性を有する。
インク受容層用組成物の粘度は、B型粘度計を用い、例えば、JIS Z 8803:2011に準拠して、測定できる。
【0074】
前記インク受容層用組成物の前記粘度は、グラビアオフセット印刷適性がより向上する点では、1600Pa・s以下であることが好ましい。
【0075】
前記インク受容層用組成物は、溶解性が良好で、固形物の析出が微量であるか、又は認められず、固形物の析出が抑制されており、グラビアオフセット印刷法に限らず、種々の塗工方法への適用に好適である。
【0076】
<<インク受容層用組成物の製造方法>>
インク受容層用組成物は、前記カチオン性樹脂、多糖類、水、及び必要に応じて前記他の成分を配合して、これら配合成分を十分に撹拌することで製造できる。
【0077】
各成分の配合順序は特に限定されない。
各成分の配合時には、すべての成分を添加してからこれらを混合してもよいし、一部の成分を順次添加しながら混合してもよく、すべての成分を順次添加しながら混合してもよい。
水と、それ以外の溶媒は、先に説明したように、前記カチオン性樹脂、多糖類、又は溶媒以外の前記他の成分とあらかじめ混合して使用してもよいし、これらの成分とあらかじめ混合することなく、単独で使用してもよい。
【0078】
各成分の配合時の温度は特に限定されず、配合成分の種類等に応じて適宜調節すればよいが、通常は、15~30℃であることが好ましい。
混合方法は特に限定されず、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法;ミキサー、三本ロール、ニーダー又はビーズミル等を使用して混合する方法;超音波を加えて混合する方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。
混合時間は、製造するインク受容層用組成物の総量や混合方法等に応じて、適宜調節すればよく、例えば、10分~24時間であることが好ましい。
【0079】
<<インクジェット用記録シート、インクジェット用記録シートの製造方法>>
本発明の一実施形態に係るインクジェット用記録シートは、基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に形成されたインク受容層と、を備えたインクジェット用記録シートであって、前記インク受容層は、カチオン性樹脂及び多糖類を含有し、前記カチオン性樹脂が、ポリアミンと、エピクロルヒドリンの重縮合物と、からなる群から選択される1種又は2種以上であり、前記多糖類が、グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上の縮合物であり、前記インク受容層において、前記インク受容層の総質量に対する、前記カチオン性樹脂の含有量の割合が、70~99質量%であり、前記インク受容層において、前記インク受容層の総質量に対する、前記多糖類の含有量の割合が、1~30質量%である。
【0080】
本実施形態のインクジェット用記録シートにおけるインク受容層は、上述のインク受容層用組成物を用いて形成されている。したがって、本実施形態のインクジェット用記録シートは、インクジェット印刷時のインクの乾燥性が良好であり、インクジェット印刷時の印刷速度を、例えば、152.4m/min(500feet/min)以上とすることが可能であり、高速印刷を行うのに好適である。
以下、インクジェット用記録シートの構成と、その製造方法について、説明する。
【0081】
<基材>
前記基材の構成材料は特に限定されず、塗工層を形成可能なものから目的に応じて選択すればよい。例えば、基材は耐水性基材であってもよいし、非耐水性基材であってもよい。
前記耐水性基材としては、例えば、JIS P8135:1998に準拠した湿潤引張強度試験において、縦目及び横目のいずれかの残留率が10%以上である基材が挙げられる。
【0082】
基材の構成材料として、具体的には、例えば、耐水紙、コート紙、上質紙、アート紙、キャストコート紙、レジンコート紙、合成紙等の紙類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン、ポリイミド等の合成樹脂等が挙げられる。
【0083】
基材は、単層からなるものであってもよいし、2層以上の複数層からなるものであってもよく、複数層からなる場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよい。すなわち、すべての層が同一であってもよいし、すべての層が異なっていてもよく、一部の層のみが異なっていてもよい。そして、複数層が互いに異なる場合、これら複数層の組み合わせは特に限定されない。
なお、本明細書においては、基材の場合に限らず、「複数層が互いに異なる」とは、各層の構成材料及び厚さの少なくとも一方が互いに異なることを意味する。
【0084】
基材の厚さは、基材の形状がシート状又はフィルム状である限り、特に限定されないが、20~1000μmであることが好ましく、35~500μmであることがより好ましく、50~200μmであることが特に好ましい。基材の厚さが前記下限値以上であることで、インク受容層の構造をより安定して保持できる。基材の厚さが前記上限値以下であることで、インクジェット用記録シートとしての取り扱い性がより良好となる。
基材が複数層からなる場合には、各層の合計の厚さが、上記の好ましい基材の厚さとなるようにするとよい。
【0085】
基材としては、市販品を用いてもよいし、公知の方法で製造したものを用いてもよい。
【0086】
<インク受容層>
前記インク受容層は、前記インク受容層用組成物を基材上に塗工し、乾燥させることで形成できる。
インク受容層用組成物の基材上への塗工は、1回で行ってもよいし、複数回に分けて行ってもよい。塗工を複数回に分けて行う場合には、乾燥させた塗工層上に、さらにインク受容層用組成物を塗工する方法、及び、乾燥させていない塗工層上に、さらにインク受容層用組成物を塗工する方法、のいずれであってもよい。
インク受容層用組成物の塗工量は、インク受容層用組成物の、前記カチオン性樹脂及び多糖類等の含有量、インク受容層の厚さ等を考慮して、適宜調節すればよい。
【0087】
インク受容層用組成物の塗工方法は特に限定されず、液状物を塗工できる方法であれば、いずれであってもよいが、グラビアオフセット印刷法であることが好ましい。
前記インク受容層用組成物は、従来の組成物とは異なり、粘度が高いため、グラビアオフセット印刷法を適用した場合に、インク受容層用組成物を転写するためのロール上に正常に載せることができる。さらに、前記インク受容層用組成物は、高速でグラビアオフセット印刷を行った場合にも、印刷中に飛散し難い。このように、前記インク受容層用組成物は、グラビアオフセット印刷適性を有しており、グラビアオフセット印刷法を適用することで、インク受容層の形成時に、本発明の効果が最も発揮される。
【0088】
本実施形態においては、粘度が高い前記インク受容層用組成物を用いることにより、そのグラビアオフセット印刷法での印刷速度を、例えば、304.8m/min(1000feet/min)以上とすることが可能であり、高速印刷が可能である。
【0089】
塗工したインク受容層用組成物は、送風乾燥、加熱送風乾燥等、公知の方法で乾燥させればよい。乾燥温度、乾燥時間等の条件は、乾燥方法に応じて適宜設定すればよい。例えば、加熱送風乾燥を行う場合には、加熱温度は80~120であることが好ましく、加熱時間は、30秒~3時間であることが好ましい。ただし、この乾燥条件は一例である。
【0090】
インク受容層は、カチオン性樹脂及び多糖類を含有する。
インク受容層が含有するカチオン性樹脂は、インク受容層用組成物が含有するカチオン性樹脂と同じであり、ポリアミンと、エピクロルヒドリンの重縮合物と、からなる群から選択される1種又は2種以上である。また、インク受容層が含有する多糖類は、インク受容層用組成物が含有する多糖類と同じであり、グルコース、ガラクトース、マンノース及びグルクロン酸からなる群から選択される1種又は2種以上の縮合物である。
【0091】
インク受容層が含有するカチオン性樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
例えば、インク受容層は、カチオン性樹脂として、1種又は2種以上のポリアミンのみを含有していてもよいし、1種又は2種以上の、エピクロルヒドリンの重縮合物のみを含有していてもよいし、1種又は2種以上のポリアミンと、1種又は2種以上の、エピクロルヒドリンの重縮合物と、をともに含有していてもよい。
【0092】
インク受容層が含有する前記多糖類は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0093】
インク受容層が含有する前記多糖類で好ましいものとしては、例えば、グアーガム、キサンタンガムが挙げられる。
すなわち、インク受容層が含有する前記多糖類は、グアーガム及びキサンタンガムのいずれか一方又は両方であることが好ましい。
【0094】
インク受容層用組成物中の、常温で気化しない成分同士の含有量の比率は、通常、インク受容層の前記成分同士の含有量の比率と同じとなる。
【0095】
したがって、前記インク受容層において、前記インク受容層の総質量に対する、前記カチオン性樹脂の含有量の割合は、70~99質量%であり、80~98.6質量%であることが好ましく、85~98.3質量%であることがより好ましく、90~98質量%であることが特に好ましい。
【0096】
また、前記インク受容層において、前記インク受容層の総質量に対する、前記多糖類の含有量の割合は、1~30質量%であり、1.3~20質量%であることが好ましく、1.6~15質量%であることがより好ましく、2~10質量%であることが特に好ましい。前記割合が前記上限値以下であることで、インク受容層のインクの乾燥性がより高くなる。
【0097】
前記インク受容層は、前記カチオン性樹脂と、前記多糖類と、のいずれにも該当しない、他の成分(本明細書においては、「他の成分」と略記することがある)を含有していてもよい。
インク受容層が含有する前記他の成分は、インク受容層用組成物が含有する前記他の成分のうち、水以外の溶媒を除いたものと同じである。
【0098】
インク受容層が含有する前記他の成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0099】
インク受容層において、前記他の成分の含有量は、通常、前記カチオン性樹脂及び多糖類の合計含有量100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、例えば、15質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、及び1質量部以下のいずれかであってもよく、0質量部、すなわち、インク受容層は、前記他の成分を含有していなくてもよい。他の成分の前記含有量が前記上限値以下であることで、前記カチオン性樹脂及び多糖類を用いたことによる効果が、より顕著に得られる。
【0100】
さらに、前記他の成分の含有量は、他の成分の種類に応じて、上述の範囲内でさらに調節されていてもよい。
例えば、インク受容層において、他のカチオン性樹脂の含有量は、前記カチオン性樹脂の含有量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、例えば、5質量部以下、3質量部以下及び1質量部以下のいずれかであってもよく、0質量部、すなわち、インク受容層は、他のカチオン性樹脂を含有していなくてもよい。他のカチオン性樹脂の前記含有量が前記上限値以下であることで、前記カチオン性樹脂を用いたことによる効果が、より顕著に得られる。
例えば、インク受容層において、他の多糖類の含有量は、前記多糖類の含有量100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、例えば、5質量部以下、3質量部以下及び1質量部以下のいずれかであってもよく、0質量部、すなわち、インク受容層は、他の多糖類を含有していなくてもよい。他の多糖類の前記含有量が前記上限値以下であることで、前記多糖類を用いたことによる効果が、より顕著に得られる。
【0101】
基材上でのインク受容層の形成量は、0.4g/m以上であることが好ましく、0.6g/m以上であることがより好ましく、0.8g/m以上であることが特に好ましい。インク受容層の形成量が前記下限値以上であることで、インク受容層を設けたことによる効果が、より顕著に得られる。
一方、基材上でのインク受容層の形成量の上限値は、特に限定されない。例えば、インク受容層の形成が過剰とならない点では、基材上でのインク受容層の形成量は、10g/m以下であることが好ましい。
【0102】
前記インク受容層の形成量は、例えば、インク受容層用組成物の基材上への塗工量、又はインク受容層用組成物の各配合成分の配合量等を調節することで、調節できる。
【0103】
本実施形態のインクジェット用記録シートにおいて、基材上でのインク受容層の形成量(g/m)の値は、形成されたインク受容層の厚さ(μm)の値と、ほば又は全く同じとなる。
【0104】
本実施形態のインクジェット用記録シートは、基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に形成されたインク受容層と、を備えていればよく、インク受容層を基材の片面上のみに備えていてもよいし、両面上に備えていてもよい。
前記インクジェット用記録シートが、基材の両面上にインク受容層を備えている場合、これら2層のインク受容層は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0105】
すなわち、本実施形態のインクジェット用記録シートは、上述のインク受容層用組成物を、基材の少なくとも一方の面(一方の面又は両面)上に塗工する工程を有する製造方法で製造できる。そして、好ましい製造方法は、上述のインク受容層用組成物を、グラビアオフセット印刷法により、304.8m/min以上の速度で、基材の少なくとも一方の面(一方の面又は両面)上に塗工する工程を有する製造方法である。
【0106】
次に、本実施形態のインクジェット用記録シートの全体構成について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態のインクジェット用記録シートの一例を模式的に示す断面図である。また、図2は、本実施形態のインクジェット用記録シートの他の例を模式的に示す断面図である。
なお、図2において、図1に示すものと同じ構成要素には、図1の場合と同じ符号を付している。
また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0107】
図1に示すインクジェット用記録シート1は、基材11の一方の面(本明細書においては「第1面」と称することがある)11a上のみに、インク受容層12を備えて、構成されている。
図2に示すインクジェット用記録シート2は、基材11の第1面11a上と、他方の面(本明細書においては「第2面」と称することがある)11b上と、の両方(すなわち両面上)に、ともにインク受容層12を備えて、構成されている。インクジェット用記録シート2における2層のインク受容層12,12については、必要に応じて、基材11の第1面11a上に設けられているものを第1インク受容層121として示し、基材11の第2面11b上に設けられているものを第2インク受容層122として示して、互いに区別する。
【0108】
図1において、符号12aは、インク受容層12の基材11側とは反対側の面(本明細書においては「第1面」と称することがある)を示し、符号12bは、インク受容層12の基材11側の面(本明細書においては「第2面」と称することがある)を示している。
図2において、符号12a、121a及び122aは、それぞれインク受容層12、第1インク受容層121及び第2インク受容層122の、基材11側とは反対側の面(第1面)を示し、符号12b、121b及び122bは、それぞれインク受容層12、第1インク受容層121及び第2インク受容層122の、基材11側の面(第2面)を示している。
【0109】
図1及び図2において、基材11及びインク受容層12(第1インク受容層121、第2インク受容層122)は、それぞれ先に説明したものである。
【0110】
ただし、図1及び図2に示すインクジェット用記録シートは、本実施形態のインクジェット用記録シートの一例に過ぎず、本実施形態のインクジェット用記録シートはこれらに限定されない。
【0111】
本実施形態のインクジェット用記録シートにおいて、インク受容層は、基材上の形成対象面の全面に設けられていてもよいし、一部の領域のみに設けられていてもよい。
本実施形態のインクジェット用記録シートをインク受容層が設けられている側の上方から見下ろして平面視したときに、インク受容層の表面積は、基材の表面積に対して同等以下であればよく、この条件を満たす限り、特に限定されない。そして、このように平面視したときのインク受容層及び基材の形状も、目的に応じて任意に設定でき、特に限定されない。例えば、このように平面視したときの、インク受容層及び基材の形状は、互いに相似形であってもよいし、非相似形であってもよい。
【0112】
本実施形態のインクジェット用記録シートは、目的に応じて、基材上にインク受容層以外の他の層を備えていてもよい。
前記他の層としては、例えば、粘着剤層、接着剤層、剥離フィルム等が挙げられる。
【0113】
前記粘着剤層及び接着剤層としては、例えば、インクジェット用記録シートを目的物に貼付して、固定するためのものが挙げられる。インクジェット用記録シートは、このような粘着剤層又は接着剤層を備えている場合、さらにこれらの層上に剥離フィルムを備え、粘着剤層又は接着剤層が露出していないものが好ましい。
【0114】
前記接着剤層としては、例えば、当初は互いに剥離した状態にある接着対象物の重ね合わせ面同士を、この接着剤層を介して接着した後、これら接着対象物同士を剥がすことにより、接着対象物の重ね合わせ面同士を傷付けることなく、再び剥離した状態とすることを可能とする、いわゆる再剥離可能に接着対象物同士を接着する疑似接着剤層も挙げられる。本明細書においては、疑似接着剤層による接着対象物同士の接着を「疑似接着」と称し、疑似接着している接着対象物同士を、再び剥離した状態とすることを「再剥離」と称する。
疑似接着剤層は、インク受容層上に設けられていてもよい。
【0115】
疑似接着剤層を備えたインクジェット用記録シートは、疑似接着剤層に接着対象物が再剥離可能に接着された状態であってもよいし、接着対象物が接着されていなくてもよい。また、疑似接着剤層を備えたインクジェット用記録シートは、1枚のインクジェット用記録シートが折りこまれて、疑似接着剤層によって再剥離可能に接着された状態であってもよい。
【実施例
【0116】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0117】
<基材>
以下の実施例、比較例及び参考例において、基材としては、以下に示すものを使用した。
【0118】
【表1】
【0119】
<原料>
以下の実施例、比較例及び参考例において、カチオン性樹脂、多糖類及び塩基としては、それぞれ以下に示すものを使用した。
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
[実施例1]
<<インク受容層用組成物の製造>>
室温下で、水(90.35g)に多糖類(b)-1(0.55g)を添加し、撹拌機を用いて約500rpmの撹拌速度で1時間撹拌することにより、多糖類(b)-1を完全に溶解させ、水溶液を得た。
次いで、室温下で、得られた水溶液にカチオン性樹脂(a)-1(9.1g、アルキルアミン-エピクロルヒドリン重縮合物として5.0g、水として4.1g)を添加し、撹拌機を用いて約500rpmの撹拌速度で10分撹拌することにより、液状のインク受容層用組成物を得た。
【0124】
<<インクジェット用記録シートの製造>>
バーコーターを用いて、上記で得られたインク受容層用組成物を、基材(z)-1の一方の面上に塗工し、この塗工済みの基材(z)-1を、105℃の熱風オーブン内に入れて1分乾燥させることによりインク受容層を形成し、インクジェット用記録シートを得た。このインクジェット用記録シートにおいて、基材(z)-1上でのインク受容層の形成量は、2g/mであった。
【0125】
<<インク受容層用組成物の評価>>
上記で得られたインク受容層用組成物について、下記項目を評価した。結果を表7及び表8に示す。
【0126】
<溶解性の評価>
インク受容層用組成物を目視観察し、下記基準に従って、このインク受容層用組成物の溶解性を評価した。
(評価基準)
A:組成物中に固形物が認められず、濁りがない。
B:組成物の経時による僅かな増粘、又は若干の白濁が認められるが、固形物は認められない。
C:組成物の経時による僅かな増粘、又は若干の白濁が認められ、固形物が認められる。
【0127】
<粘度の測定>
B型粘度計(東機産業社製)を用い、23℃の環境下で、ローター回転数を30rpmとして、インク受容層用組成物の粘度を測定した。そして、その測定値に基づき、下記基準に従って、このインク受容層用組成物のグラビアオフセット印刷適性を評価した。
(評価基準)
A:粘度が300mPa・s以上であり、グラビアオフセット印刷適性が高い。
B:粘度が200mPa・s以上、かつ300mPa・s未満であり、グラビアオフセット印刷適性は「A」の場合よりも劣るが、グラビアオフセット印刷適性を有する。
C:粘度が200mPa・s未満であり、グラビアオフセット印刷適性を有しない。
【0128】
<腐食抑制効果の評価>
多糖類を含有していない点以外は、上記で得られたインク受容層用組成物と同じである試験用インク受容層用組成物(溶液)を調製した。
得られた試験用インク受容層用組成物と、鉄製部材(鉄ワッシャー)とを、[試験用インク受容層用組成物(質量部)]:[鉄製部材(質量部)]=85:15の質量比で、ガラス瓶内に封入し、鉄製部材を試験用インク受容層用組成物中に浸漬して密封した。この状態のまま、鉄製部材と試験用インク受容層用組成物を、28℃の温度条件下で72時間静置した。鉄製部材としては、その表面を研磨処理済みの、腐食箇所を有しないものを用いた。
【0129】
紫外可視分光光度計(日本分光社製「V-770」)を用いて、ガラス瓶内に封入する前(鉄製部材と共存させる前)の試験用インク受容層用組成物について、380~780nmの波長域で吸収スペクトルを測定し、L、a及びb(L 、a 及びb )の値を予め算出しておいた。さらに、上記の状態で72時間浸漬後の試験用インク受容層用組成物についても、同じ方法でL、a及びb(L 、a 及びb )の値を算出した。これらL、a及びbの算出時には、イルミナントD65、2°視野の条件を採用した。そして、これら算出値から、浸漬前後での試験用インク受容層用組成物の色差(ΔE)を算出した。そして、このΔEから、下記基準に従って、インク受容層用組成物の鉄製部材に対する腐食抑制効果を評価した。なお、表7及び表8中の「腐食抑制効果」の欄中のかっこ内の数値は、前記ΔEである。
(評価基準)
A:ΔE≦1である。
B:1<ΔE≦7である。
C:7<ΔE≦40である。
D:40<ΔEである。
【0130】
<<インクジェット用記録シートの評価>>
上記で得られたインクジェット用記録シートについて、下記項目を評価した。結果を表7及び表8に示す。
【0131】
<インクの乾燥性の評価>
インクジェットプリンターを用いて、インクジェット用記録シートのインク受容層上に、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックの4色のインクで印字を行った。印字は、より具体的には、各色ごとに印字濃度を10%単位で100%から400%まで変化させて行った。
次いで、印字終了直後に、透明なポリエチレンテレフタレート製フィルム(厚さ100μm)を、インクジェット用記録シートの前記印字面に重ね合せて、しっかりと押し当てて密着させた。
次いで、このフィルムを前記印字面に密着させたまま、前記印字面への密着面とは反対側から目視観察して、前記密着面に前記印字面から転写されていないインクの最高印字濃度を確認し、下記基準に従って、インクの乾燥性を評価した。なお、表7及び表8中の「インクの乾燥性」の欄中のかっこ内の数値は、前記最高印字濃度である。この評価方法では、前記フィルムが印字面に密着してさえいれば、評価結果にばらつきが生じないことを予め確認した。
(評価基準)
A:インクの最高印字濃度が300%以上であり、乾燥性に優れ、高速印刷適性を有している。
B:インクの最高印字濃度が190%以上300%未満であり、乾燥性が良好で、高速印刷適性を有している。
C:インクの最高印字濃度が190%未満であり、乾燥性に劣り、高速印刷適性を有していない。
【0132】
<ドット滲みの抑制効果の評価>
ドット滲みの抑制効果をドット形状係数により評価した。より具体的には、以下のとおりである。
すなわち、卓上インクジェットプリンターを用いて、印刷速度を76.2m/min(250feet/min)として、インクジェット用記録シートのインク受容層上に、水性黒色顔料インクを2cm×2cmのサイズでドットが重ならないように濃度10%で印刷(単色印刷)することにより、評価サンプルを作製した。
次いで、インクジェット用記録シートの表面の顕微鏡画像を撮影し、ドットアナライザー(王子計測機器社製「DA6000」)を用いて、その画像を解析した。具体的には、ドットの周囲長及び面積を測定し、以下の計算式によりドット形状係数を算出した。
ドット形状係数=(周囲長)/(4π×面積)
【0133】
ドット形状係数は、ドットが真円であるときには1となり、ドットの形状が真円から離れるほど、すなわち、ドットが滲んでいるほど大きな値となる。なお、本評価に先立って、印刷速度を76.2m/min(250feet/min)として、卓上インクジェットプリンターを用いて測定したドット形状係数が、高速インクジェットプリンターを用い、印刷速度を152.4m/min(500feet/min)として測定したドット形状係数と、十分な相関があることを、予め確認しておいた。
【0134】
上記の方法により、約30個のドットについて、ドット形状係数を算出して平均値を求め、下記基準に従って、ドット滲みの抑制効果を評価した。なお、表7及び表8中の「ドット滲み」の欄中のかっこ内の数値は、ドット形状係数の平均値である。
(評価基準)
A:ドット形状係数の平均値が1.3以下であり、ドットは極めて真円に近く、ドットの滲みが最も高度に抑制されている。
B:ドット形状係数の平均値が1.3を超え、1.5以下であり、ドットは、「A」の場合よりも劣るが、かなり真円に近く、ドットの滲みが高度に抑制されている。
C:ドット形状係数の平均値が1.5を超え、1.8以下であり、ドットは、「B」の場合よりも劣るが、真円に近く、ドットの滲みが抑制されている。
D:ドット形状係数の平均値が1.8を超え、2.0以下であり、ドットの滲みがやや抑制されていない。
E:ドット形状係数の平均値が2.0を超えており、ドットの滲みが「D」の場合よりもさらに抑制されていない。
【0135】
<<インク受容層用組成物の製造及び評価、インクジェット用記録シートの製造及び評価>>
[実施例2~35]
基材の種類と、インク受容層用組成物の配合成分の種類と、インク受容層用組成物の配合成分の配合量と、基材上でのインク受容層の形成量と、のいずれかを、表5又は表6に示すとおりとした点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、インク受容層用組成物及びインクジェット用記録シートを製造し、評価した。結果を表7及び表8に示す。
なお、表5及び表6中の配合成分の欄の「-」との記載は、その成分が未配合であることを意味する。
【0136】
<<インクジェット用記録シートの製造及び評価>>
[比較例1]
インク受容層用組成物を用いなかった点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、インクジェット用記録シートを製造し、評価した。結果を表8に示す。
【0137】
本比較例では、インク受容層用組成物を用いていないため、これを得るためのすべての成分が未配合である。
【0138】
[比較例2]
インク受容層用組成物を用いなかった点以外は、実施例2の場合と同じ方法で、インクジェット用記録シートを製造し、評価した。結果を表8に示す。
本比較例でも、インク受容層用組成物を用いていないため、これを得るためのすべての成分が未配合である。
【0139】
<<インク受容層用組成物の製造及び評価>>
[比較例3~6、参考例1~2]
インク受容層用組成物の配合成分の種類と、その配合量と、の両方を、表5又は表6に示すとおりとした点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、インク受容層用組成物を製造し、評価した。結果を表7及び表8に示す。
【0140】
なお、比較例3~6、参考例1~2では、後述するように、インクジェット用記録シートは製造せず、評価を行わなかった。表5及び表6中、基材の欄の「-」との記載は、基材を使用しなかったことを意味し、インク受容層形成量(g/m)の欄の「-」との記載は、インク受容層を形成しなかったことを意味する。表7及び表8中の評価結果の欄の「-」との記載は、その項目が未評価であることを意味する。
【0141】
【表5】
【0142】
【表6】
【0143】
【表7】
【0144】
【表8】
【0145】
上記結果から明らかなように、実施例1~35のインク受容層用組成物は、固形物を含んでおらず、溶解性が高く、塗工適性を有していた。また、実施例1~35のインク受容層用組成物は、粘度が229mPa・s以上(229~1469mPa・s)であり、高粘度であって、グラビアオフセット印刷適性を有していた。特に、実施例1~7、10、11、13~22、25~32、35のインク受容層用組成物は、粘度が312mPa・s以上(312~1469mPa・s)であり、より高粘度であって、グラビアオフセット印刷適性が高かった。さらに、実施例1~7、10、11、13~20のインク受容層用組成物は、粘度が436mPa・s以上(436~1469mPa・s)であり、より一層高粘度であって、グラビアオフセット印刷適性が特に高かった。
【0146】
実施例1~35のインク受容層用組成物は、カチオン性樹脂として、アルキルアミン-エピクロルヒドリン重縮合物又はポリアミンを含有し、インク受容層用組成物の総質量に対する、カチオン性樹脂の含有量の割合が、5~20質量%であった。
また、実施例1~35のインク受容層用組成物は、多糖類として、マンノース及びガラクトースの縮合物と、グルコース、マンノース及びグルクロン酸の縮合物と、のいずれか一方又は両方を含有し、インク受容層用組成物の総質量に対する、多糖類の含有量の割合が、0.3~0.75質量%であった。
【0147】
実施例1~35のインクジェット用記録シートは、上述のインク受容層用組成物を用いていることで、インクの乾燥性が良好で、高速印刷適性を有していた。特に、実施例1のインクジェット用記録シートは、インクの乾燥性が高かった。
【0148】
このように、実施例1~35のインク受容層用組成物は、グラビアオフセット印刷時に、印刷速度を必要以上に下げる必要がなく、良好な印刷適性を有しており、さらに、インクジェット印刷時のインクの乾燥性が良好なインク受容層を形成可能であった。
【0149】
さらに、実施例2~35のインクジェット用記録シートは、ドット滲みの抑制効果を有していた。実施例1のインクジェット用記録シートは、ドット滲みの抑制効果を有していなかったが、インク受容層用組成物の配合成分の調節や、基材の種類の選択によって、ドット滲みの改善が可能であると考えられる。
【0150】
一方、実施例21~26、29、30、33~35のインク受容層用組成物は、鉄製部材の腐食抑制効果を有していた。これら実施例のインク受容層用組成物は、塩基を含有し、インク受容層用組成物の総質量に対する、塩基の含有量の割合が、0.5~1質量%であった。
【0151】
これに対して、比較例1~2のインクジェット用記録シートは、インク受容層用組成物を用いず、インク受容層を形成しなかったため、インク受容層がもたらす効果を有しないものであった。さらに、比較例2のインクジェット用記録シートは、インクの乾燥性に劣り、高速印刷適性を有していなかった。
【0152】
比較例3、5及び6、並びに参考例1及び2のインク受容層用組成物は、固形物を含んでおり、溶解性が低く、塗工適性を有しておらず、基材上への正常な塗工が不可能であった。そのため、これら比較例及び参考例においては、インクジェット用記録シートは製造せず、評価を行わなかった。また、これら比較例及び参考例のインク受容層用組成物は、固形物の影響で、その粘度の正確な測定が不可能であったため、粘度も測定しなかった。
【0153】
比較例3、5及び6のインク受容層用組成物は、前記多糖類ではなく、他のポリマー(ポリビニルアルコール、カルボキシルメチルセルロールナトリウム又はセルロースナノファイバー)を含有していた。
参考例1及び2のインク受容層用組成物は、カチオン性樹脂として、アルキルアミン-エピクロルヒドリン重縮合物を含有し、インク受容層用組成物の総質量に対する、カチオン性樹脂の含有量の割合が、15質量%であり、さらに、多糖類として、マンノース及びガラクトースの縮合物を含有し、インク受容層用組成物の総質量に対する、多糖類の含有量の割合が、0.5質量%であったが、塩基として、炭酸ナトリウムを含有する(参考例1)か、又は水酸化ナトリウムを含有し、インク受容層用組成物の総質量に対する、塩基の含有量の割合が、1.5質量%であった(参考例2)。
【0154】
比較例4のインク受容層用組成物は、粘度が低過ぎて、グラビアオフセット印刷適性を有していなかった。そのため、比較例4においては、インクジェット用記録シートは製造せず、評価を行わなかった。
比較例4のインク受容層用組成物は、前記多糖類ではなく、他のポリマー(比較例3の場合と同じポリビニルアルコール)を含有し、さらに、その含有量が、比較例3の場合よりも少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明は、インクジェット用記録シート、特に、高速印刷に好適なインクジェット用記録シートとして利用可能である。
【符号の説明】
【0156】
1,2・・・インクジェット用記録シート、11・・・基材、11a・・・基材の第1面、11b・・・基材の第2面、12・・・インク受容層、12a・・・インク受容層の第1面、12b・・・インク受容層の第2面、121・・・第1インク受容層、121a・・・第1インク受容層の第1面、121b・・・第1インク受容層の第2面、122・・・第2インク受容層、122a・・・第2インク受容層の第1面、122b・・・第2インク受容層の第2面
図1
図2