IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシーの特許一覧

特許7304823外科的に配置され中性子束により活性化される治療用高エネルギー荷電粒子発生システム
<>
  • 特許-外科的に配置され中性子束により活性化される治療用高エネルギー荷電粒子発生システム 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】外科的に配置され中性子束により活性化される治療用高エネルギー荷電粒子発生システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20230630BHJP
【FI】
A61N5/10 U
A61N5/10 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019571991
(86)(22)【出願日】2018-08-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 US2018046474
(87)【国際公開番号】W WO2019036355
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】62/545,522
(32)【優先日】2017-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン、ジョン、エイチ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイベル、マイケル、ディー
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0330084(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0180917(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0103410(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0226774(US,A1)
【文献】国際公開第01/070336(WO,A1)
【文献】特開2002-320684(JP,A)
【文献】米国特許第09528952(US,B1)
【文献】特表2002-529160(JP,A)
【文献】特開2014-195505(JP,A)
【文献】特表2006-516599(JP,A)
【文献】国際公開第2013/033249(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物(12)の体内の局所化した癌細胞に適した治療線源物質(10)であって、
当該治療線源物質は水に溶解せず、無毒であり、さらに中性子照射場が形成されないときは実質的に非放射性であるが、所定の期間にわたり形成される所与の強さ以上の中性子照射場では電離作用は強いが透過性が低い放射線の線源となるものであり、
当該治療線源物質は非放射性の状態で当該動物の体内に埋め込まれ、当該動物の体外から中性子照射場が形成されることにより、当該電離作用は強いが透過性が低い放射線を発生するものであり、
当該治療線源物質はB-10濃度が濃縮されているBCまたはP-31により構成され、
当該治療線源物質は、中性子を実質的に透過させるが当該電離作用の強い放射線の少なくとも一部を遮蔽する放射線遮蔽材が或る面に形成された、ミクロン単位の厚さを有する非常に薄いディスクまたはプレートの形をしている
ことを特徴とする治療線源物質。
【請求項2】
請求項1の治療線源物質(10)と、
動物の体内に埋め込まれている当該治療線源物質(10)に中性子照射場を形成するための中性子発生装置アレイであって、中性子を当該治療線源物質(10)にさまざまな角度で照射するために身体の周囲に配置された複数の電気式中性子発生装置により構成されている、中性子発生装置アレイ
を含むシステム
【請求項3】
前記複数の電気式中性子発生装置(14)は複数のNeutristorである、請求項2のシステム
【請求項4】
前記治療線源物質(10)が発生する前記電離作用は強いが透過性が低い放射線を最適化するように中性子エネルギーを調節するために、前記電気式中性子発生装置(14)と前記治療線源物質(10)との間に中性子減速材(16)を含む、請求項2のシステム
【請求項5】
前記中性子減速材(16)はDOまたはCを含む、請求項4のシステム
【請求項6】
前記治療線源物質への中性子照射による生成物が放出するガンマ線の強度を監視するガンマ線スペクトロメータ(18)を含むとともに、当該中性子照射時の荷電粒子の生成速度を監視できるようにする、請求項2のシステム
【請求項7】
前記ガンマ線強度および前記中性子照射場の中性子線強度を監視して身体が受けた放射線量を求める制御システム(20)を含む、請求項6のシステム
【請求項8】
前記制御システム(20)は前記監視されたガンマ線強度および前記放射線量に基づいて前記中性子照射場の強さを制御するように構成されている、請求項7のシステム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
従来式出願である本願は、2017年8月15日出願の米国仮特許出願第62/545,522号に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は概して癌治療に関し、具体的には高度に局所化した癌細胞の治療に関する。
【背景技術】
【0003】
人体における腫瘍のような高度に局所化した癌細胞の電離放射線による治療は、かなり効果があることが証明されている。しかし、電離放射線を人体にあてると、通常は、意図した標的部位に到達する前に正常組織を通過するため、正常組織に損傷が生じる。そのため、一回の放射線照射により腫瘍が受ける損傷を減らそうとすると、複数回の治療が必要となり、潜在的に有害な生物学的影響が蓄積されるとともに、治療にかかる費用が増加することになる。正常細胞の損傷修復速度が腫瘍の成長速度および/または転移速度に追いつかず十分な治療ができない場合、患者は癌腫で死亡する可能性が高い。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、癌の放射線治療の有害な影響を克服する、動物の体内の局所化した癌細胞の治療方法を提供する。この方法は、所与の強さを下回る中性子照射場では実質的に非放射性であるが、所与の強さ以上の中性子照射場では電離作用は強いが透過性が低い放射線の線源となる治療線源を体内の癌細胞の近傍に定置するステップを含む。この定置ステップは、当該治療線源物質を当該癌細胞に密接するように外科的に埋め込むのが好ましい。当該治療線源には、所定の期間にわたり体外から所与の強さ以上の中性子照射場が形成され、この照射場形成ステップが所定の間隔で繰り返される。当該電離作用は強いが透過性が低い放射線の当該治療線源は、BC、P-31または他の物質を含む。当該物質は、高エネルギーのアルファまたはベータ粒子を発生させるがガンマ線は発生させない(発生させても低エネルギーのガンマ線)ものが好ましい。当該治療線源は、水に溶解せず、身体に対して無毒で、半減期が短いものである必要がある。BCを使用する場合、当該BCのB-10濃度が濃縮されていることが望ましい。
【0005】
好ましい一実施態様において、当該治療線源は、当該電離作用は強いが透過性が低い放射線を実質的に当該癌細胞だけに照射するように構成されている。それを実現するために、当該治療線源の当該癌細胞とは反対側の面には放射線遮蔽材が形成されている。当該治療線源に中性子照射場を形成するステップは、Neutristorのような電気式中性子発生装置により中性子を当該治療線源に照射するステップを含むのが好ましい。そのような一実施態様は、中性子を当該治療線源にさまざまな角度で照射するために身体の周囲に配置された複数の電気式中性子発生装置を使用する。
【0006】
本願の方法の別の実施態様は、当該治療線源が発生する当該電離作用は強いが透過性が低い放射線を最適化するように中性子エネルギーを調節するための中性子減速材を当該電気式中性子発生装置と当該治療線源との間に使用するステップを含む。当該中性子減速材は、DO、C、または同様の減速特性を有する他の物質でよい。当該中性子減速材は、当該電気式中性子発生装置と身体との間の体外に配置される。
【0007】
そのような一実施態様において、当該治療線源は当該局所化した癌細胞の治療の合間も体内に留置され、治療完了後に体内から取り出される。当該治療線源はミクロン単位の厚さを有する1つ以上の非常に薄いディスクまたはプレートにより構成され、当該治療線源はさらに、当該1つ以上のディスクまたはプレートが当該癌細胞の周囲に定置されて中性子照射場に曝されると、当該電離作用は強いが透過性が低い放射線が当該局所化した癌細胞の塊全体に影響を及ぼすのに十分な総合表面積を有する。
【0008】
本願の方法のさらに別の実施態様は、当該治療線源物質への中性子照射による生成物が放出するガンマ線の強度をガンマ線スペクトロメータにより監視するとともに、当該中性子照射時の荷電粒子の生成速度を監視できるようにするステップを含む。当該監視されたガンマ線強度および当該中性子場の中性子線強度を用いて、身体が受けた放射線量を求めることができる。本願の方法はまた、当該監視されたガンマ線強度および当該放射線量に基づいて当該中性子場の強さを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0010】
図1】本発明の方法の実施に使用できる装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
高度に局所化した癌細胞を治療するための本発明によると、放出される放射線が当該局所化した癌細胞の塊全体に影響を及ぼすのに十分な表面積を有する、1つ以上の非常に薄い(例えばミクロン単位の厚さ)ディスクまたはプレート状の治療線源が、患者の体内に腫瘍に近接して、好ましくは腫瘍に隣接して埋め込まれる。本願で使用する「患者」という用語は、ヒトなどの動物を意味する。使用する治療線源物質は、高エネルギーのアルファまたはベータ粒子を発生させるがガンマ線は発生させない(発生させても低エネルギーのガンマ線)ものでなければならない。この物質は、水に溶解せず、無毒でなければならない。この物質の中性子反応生成物もまた、患者に対して無毒で、半減期が非常に短いものである必要がある。そのような性質を有する物質の一例は線源物質として使用するBCであり、短い半減期とはBCとほぼ同等かまたはより短い半減期、高エネルギーのアルファまたはベータ粒子とはエネルギー範囲がBCと同等以上のアルファまたはベータ粒子、また、ガンマ線は発生させない(発生させても低エネルギーのガンマ線)とはガンマ線を発生させない(発生させてもBCとほぼ同等の低エネルギーのガンマ線)ということである。この物質の好ましい実施態様は、B-10濃度が濃縮されたBCを使用するものである。高濃度のP-31を含有する化合物の使用は、別の許容できる選択肢である。照射用として挿入する治療線源物質は、多数の商業的に利用可能な作製技術により成形可能であり、線源物質の癌腫とは反対側の面を遮蔽材で覆うのが好ましい。当該遮蔽材は、中性子を実質的に透過させるが、癌腫の周りの正常組織を電離作用の強い粒子の少なくとも一部から遮蔽して保護する、例えばアルミニウムのような軽金属である。
【0012】
線源物質を患者に埋め込んだ後、サンディア国立研究所が開発し、G.Jennings、C.Sanzeni、D.R.Winn著の「Novel Compact Accelerator Based Neuron and Gamma Sources for Future Detector Calibration」と題するSnowmass 2013白書(フェアフィールド大学、Fairfield CT06824)に記述された、「Neutristor」と設計と構成が類似する小型の電気式高速中性子発生装置アレイにより、治療線源物質に中性子照射場を形成することができる。このアレイは、患者の身体の他の部分への中性子照射が過度にならないようにしながら中性子反応速度を最大にするに十分な中性子線強度を線源位置で得るに必要な構成にするのが理想的である。このアレイの理想的な幾何学的構成は、中性子がさまざまな角度で癌腫に入射して、アレイの各発生装置から最大数の十分に熱化された中性子が標的部位に到達するような構成である。これは、中性子源アレイの幾何学的構成とともに、中性子源アレイと照射を受ける標的との間に配置される中性子減速材としての材料の厚さを変えることによって達成する。最適な条件の確立に必要な計算は、当業者であれば、ロスアラモス国立研究所が提供するMCNPなど多種多様な市販の中性子輸送計算製品を用いて行うことができる。
【0013】
図1は、本発明の或る特定の方法を実施するための装置を説明する概略図である。図1に示すように、治療線源10は患者12の体内に埋め込まれる。電気式中性子発生装置14のアレイは、患者12の体内の治療線源10に中性子照射場を形成するように構成されている。図示のような幾何学的構成の中性子減速材16は、各電気式中性子発生装置14と標的である治療線源10との間に配置される。中性子減速材16は、十分な量のDOまたはCのような物質を含み、中性子と標的である治療線源物質との反応による荷電粒子の発生にとって最適なエネルギーを有する中性子の数を最大化する目的を達成するように別個に調整される。
【0014】
ガンマ線スペクトロメータ18は、中性子反応によって生成される標的同位体から放出されるガンマ線の強度を測定することにより、中性子照射時の荷電粒子の生成速度の監視を可能にする。これは、多数の市販の装置によって達成できる。
【0015】
コンピュータ制御システム20は、測定されたガンマ線強度および中性子発生装置の活性度から患者に照射された放射線量を求め、目標線量と比較する。制御システム20は、ガンマ線強度と線量の測定値に基づいて、アレイ中の任意のまたはすべての中性子発生装置により提供される中性子線の強度を増減させる能力がある。
【0016】
本願で説明する癌腫の治療方法およびシステムは、所望の領域に限られた量の放射線治療用堆積物を形成するために化合物を注射するのではなく、非放射性の標的を作製して腫瘍の中またはその周辺に埋め込む点で、他種の放射線治療法とは異なる。元々非放射性であった物質を病院環境内で中性子によって活性化させる本願のシステムは、荷電粒子による癌治療の恩恵を最大にするとともに、望ましくないコストおよび患者と介護者の放射線被曝を最小限に抑えることができる。この方法により、非常に正確かつ効率的に癌細胞を破壊できる。また、患者の全身放射線量を増加させずに、腫瘍が完全に死滅するまで標的線源を体内に留置することができる。比較的容易に複数回の照射を実施できる。例えばNeutristorのような電気式中性子発生装置を使用すると、原子炉や非常に大きな中性子源の設置場所ではなく、病院の環境内で治療を行うことが可能になる。これにより、既存の放射線治療法に比べて治療費が大幅に抑えられる(または治療による収益性が大幅に向上する)。
【0017】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何ら制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物を包含する。
図1