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特許7304847粘着剤組成物、粘着シートおよび加工物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、粘着シートおよび加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20230630BHJP
   C09J 4/00 20060101ALI20230630BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20230630BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20230630BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J4/00
C09J11/06
C09J7/38
H01L21/78 M
H01L21/78 P
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020509981
(86)(22)【出願日】2019-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2019012175
(87)【国際公開番号】W WO2019188819
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2018058130
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】高岡 慎弥
(72)【発明者】
【氏名】垣内 康彦
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 高志
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-035852(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165619(WO,A1)
【文献】特開2012-126879(JP,A)
【文献】特開2017-179025(JP,A)
【文献】特開2017-193624(JP,A)
【文献】特開2018-026567(JP,A)
【文献】特開2018-154737(JP,A)
【文献】特開2005-054176(JP,A)
【文献】特開2010-145428(JP,A)
【文献】国際公開第2016/12815(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
H01L 21/78- 21/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)および加熱により炭化水素系ガスを放出してカルボキシ基に変化するカルボキシ前駆基を有するカルボキシ前駆基含有モノマー(a2)を含むとともに、側鎖に活性エネルギー線反応性基を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、
活性エネルギー線の照射および加熱の少なくとも一方により酸を発生する酸発生剤(B)と、
光開始剤(C)と
を含有し、
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、前記カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)を35質量%以上、75質量%以下の割合で含有する
ことを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、前記カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)から誘導される繰り返し単位からなり、その繰り返し単位数が10以上であるポリ(メタ)アクリレート鎖を含有しないことを特徴とする請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位として、ヒドロキシ基含有モノマー(a3)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)は、第二級炭素原子を有するアルキル基の第二級炭素原子と(メタ)アクリロイルオキシ基とが結合した構造を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、第三級炭素原子を有するアルキル基の第三級炭素原子と(メタ)アクリロイルオキシ基とが結合した構造を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、およびベンジル(メタ)アクリレートの少なくとも一種であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)は、sec-ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、sec-ヘキシル(メタ)アクリレート、sec-オクチル(メタ)アクリレート、sec-ノニル(メタ)アクリレート、sec-デシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ヘキシル(メタ)アクリレート、tert-オクチル(メタ)アクリレート、tert-ノニル(メタ)アクリレート、tert-デシル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、およびベンジル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)の少なくとも一種として、2-エチルヘキシルアクリレートを含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備えることを特徴とする粘着シート。
【請求項8】
前記粘着剤層の厚さは、1μm以上、60μm以下であることを特徴とする請求項7に記載の粘着シート。
【請求項9】
脆質部材の加工のために使用されることを特徴とする請求項7または8に記載の粘着シート。
【請求項10】
半導体加工のために使用されることを特徴とする請求項7~9のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか一項に記載の粘着シートを被加工物に積層する積層工程と、
前記被加工物を前記粘着シート上で加工して、加工物を得る加工工程と、
前記加工物に積層された前記粘着シートにおける前記粘着剤層に対して、活性エネルギー線の照射を行う照射工程と、
前記加工物に積層された前記粘着シートにおける前記粘着剤層に対して、加熱を行う加熱工程と、
前記照射工程および前記加熱工程を経た前記粘着シートを、前記加工物から剥離する剥離工程と
を含む加工物の製造方法であって、
前記加熱工程を前記照射工程の完了後に行うか、あるいは前記照射工程と前記加熱工程とを同時に行うことを特徴とする加工物の製造方法。
【請求項12】
前記加工物は、半導体装置または半導体装置の一部材であることを特徴とする請求項11に記載の加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体から容易に剥離することができる粘着シート、そのような粘着シートの製造を可能にする粘着剤組成物、およびそのような粘着シートを用いた加工物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体チップや積層セラミックコンデンサといった電子部品の製造工程においては、半導体ウエハやセラミックグリーンシート積層体といった加工対象を仮固定するために粘着シートが用いられることがある。このような製造工程においては、例えば、半導体ウエハやセラミックグリーンシート積層体等の被着体を粘着シートに固定した状態で、これらを所定の大きさに切断し、その後得られた切断片を粘着シートから分離することが行われている。
【0003】
ここで、上述した粘着シートとしては、所望のタイミングで粘着シートと被着体との密着性を低下させることができるものが使用される。当該粘着シートによれば、切断片を得た後に、粘着シートと被着体との密着性を低下させることで、当該切断片の粘着シートからの分離を容易に行うことが可能となる。
【0004】
このような所望のタイミングで被着体との密着性を低下させることができる粘着シートとして、特許文献1および特許文献2には、重合体を構成するモノマー単位としてカルボキシ前駆基含有モノマーを含むアクリル系重合体と、酸触媒または酸発生剤とを含有する粘着剤組成物によって粘着剤層が形成されてなる粘着シートが開示されている。当該粘着シートでは、酸触媒または酸発生剤から生じる酸成分の作用によって、上述したカルボキシ前駆基含有モノマーからガスが発生し、当該ガスが粘着シートと被着体との界面に溜まることで、粘着シートを被着体から容易に分離できるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5577461号
【文献】特許第5174217号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したような電子部品の製造方法では、より工程を簡略化して、生産効率を上昇させる観点から、被着体からの粘着シートの分離をさらに容易に行うことが求められている。そこで、本発明者らは、粘着シートを引き剥がす力を印加することなく、被着体から粘着シートを分離する手法について検討したものの、特許文献1および特許文献2に開示されるような従来の粘着シートは、そのような手法に用いることはできず、被着体からの分離の際に、引き剥がす力の印加を要するものであった。そのため、より容易に剥離できる粘着シートが望まれている。
【0007】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、被着体から容易に剥離できる粘着シート、そのような粘着シートの製造を可能にする粘着剤組成物、およびそのような粘着シートを用いた加工物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第一に本発明は、重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)および加熱により炭化水素系ガスを放出してカルボキシ基に変化するカルボキシ前駆基を有するカルボキシ前駆基含有モノマー(a2)を含むとともに、側鎖に活性エネルギー線反応性基を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、活性エネルギー線の照射および加熱の少なくとも一方により酸を発生する酸発生剤(B)と、光開始剤(C)とを含有することを特徴とする粘着剤組成物を提供する(発明1)。
【0009】
上記発明(発明1)の粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を備える粘着シートでは、粘着剤層中に酸発生剤(B)に由来する酸の存在下、粘着剤層が加熱されることにより放出される炭化水素系ガスによって、粘着シートと被着体との接触面積が減少する作用とともに、活性エネルギー線の照射による粘着剤層の硬化によって、被着体に対する粘着力が低下する作用が生じ、これらの作用が相まって被着体から粘着シートを非常に容易に剥離することが可能となる。
【0010】
上記発明(発明1)において、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位として、ヒドロキシ基含有モノマー(a3)を含むことが好ましい(発明2)。
【0011】
上記発明(発明1,2)において、前記カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)は、第二級炭素原子を有するアルキル基の第二級炭素原子と(メタ)アクリロイルオキシ基とが結合した構造を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、第三級炭素原子を有するアルキル基の第三級炭素原子と(メタ)アクリロイルオキシ基とが結合した構造を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、およびベンジル(メタ)アクリレートの少なくとも一種であることが好ましい(発明3)。
【0012】
上記発明(発明1~3)において、前記カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)は、sec-ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、sec-ヘキシル(メタ)アクリレート、sec-オクチル(メタ)アクリレート、sec-ノニル(メタ)アクリレート、sec-デシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ヘキシル(メタ)アクリレート、tert-オクチル(メタ)アクリレート、tert-ノニル(メタ)アクリレート、tert-デシル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、およびベンジル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい(発明4)。
【0013】
上記発明(発明1~4)において、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、前記カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)を1質量%以上、75質量%以下の割合で含有することが好ましい(発明5)。
【0014】
上記発明(発明1~5)において、前記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)の少なくとも一種として、2-エチルヘキシルアクリレートを含むことが好ましい(発明6)。
【0015】
第2に本発明は、前記粘着剤組成物(発明1~6)から形成された粘着剤層を備えることを特徴とする粘着シートを提供する(発明7)。
【0016】
上記発明(発明7)において、前記粘着剤層の厚さは、1μm以上、60μm以下であることが好ましい(発明8)。
【0017】
上記発明(発明7,8)は、脆質部材の加工のために使用されるものであってもよい(発明9)。脆質部材の加工の完了後には、脆質部材から粘着シートを容易に剥離できることが好ましく、この観点から、脆質部材の加工のためには上記発明(発明7,8)を使用することが好ましい。
【0018】
上記発明(発明7~9)においては、半導体加工のために使用されることが好ましい(発明10)。
【0019】
第3に本発明は、前記粘着シート(発明7~10)を被加工物に積層する積層工程と、前記被加工物を前記粘着シート上で加工して、加工物を得る加工工程と、前記加工物に積層された前記粘着シートにおける前記粘着剤層に対して、活性エネルギー線の照射を行う照射工程と、前記加工物に積層された前記粘着シートにおける前記粘着剤層に対して、加熱を行う加熱工程と、前記照射工程および前記加熱工程を経た前記粘着シートを、前記加工物から剥離する剥離工程とを含む加工物の製造方法であって、前記加熱工程を前記照射工程の完了後に行うか、あるいは前記照射工程と前記加熱工程とを同時に行うことを特徴とする加工物の製造方法を提供する(発明11)。
【0020】
上記発明(発明11)において、前記加工物は、半導体装置または半導体装置の一部材であることが好ましい(発明12)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る粘着シートは、被着体から容易に剥離することができる。また、本発明に係る粘着剤組成物によれば、そのような粘着シートを製造することが可能である。さらに、本発明に係る加工物の製造方法では、粘着シートを被着体から容易に剥離することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔粘着剤組成物〕
本実施形態に係る粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、酸発生剤(B)と、光開始剤(C)とを含有する。
【0023】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)および加熱により炭化水素系ガスを放出してカルボキシ基に変化するカルボキシ前駆基を有するカルボキシ前駆基含有モノマー(a2)を含む。さらに、上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、側鎖に活性エネルギー線反応性基を有する。
【0024】
また、上記酸発生剤(B)は、活性エネルギー線の照射および加熱の少なくとも一方により酸を発生するものである。
【0025】
本実施形態に係る粘着剤組成物では、上述の通り、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が側鎖に活性エネルギー線反応性基を有するとともに、粘着剤組成物が光開始剤(C)を含んでいる。これらにより、当該粘着剤組成物を用いて形成される粘着剤層に対して活性エネルギー線を照射することで、活性エネルギー線反応性基同士が結合する反応を進行させることができ、それにより粘着剤層を硬化させることができる。その結果、当該粘着剤層を備える粘着シートでは、被着体に対する粘着力が低下する。
【0026】
また、本実施形態に係る粘着剤組成物では、上述の通り(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)を含むことにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)がカルボキシ前駆基を有するものとなっている。さらに、粘着剤組成物が酸発生剤(B)を含んでいる。これらにより、当該粘着剤組成物を用いて形成される粘着剤層に対して、活性エネルギー線の照射および加熱の少なくとも一方の刺激を与えることで、酸発生剤(B)から酸が生じ、さらに当該酸の存在下において粘着剤層を加熱することで、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が有するカルボキシ前駆基において、炭化水素系ガスが放出されるとともにカルボキシ基が残留するという分解反応が生じる。放出された炭化水素系ガスは、粘着シートにおける粘着剤層と被着体との界面に溜まり、これにより、粘着剤層と被着体との接触面積が減少するとともに、被着体に対する粘着力がさらに低下することとなる。
【0027】
以上のように、本実施形態に係る粘着剤組成物を用いて形成される粘着剤層を備える粘着シートでは、活性エネルギー線の照射による粘着剤層の硬化によって粘着力が低下する作用(以下、「第一の作用」という場合がある。)と、炭化水素系ガスの発生によって粘着剤層と被着体との接触面積が減少する作用(以下、「第二の作用」という場合がある。)とが相まって、粘着シートを被着体から容易に剥離することが可能となる。これらの作用は、ともに外部からの刺激によって生じるものであるため、上述したような被着体からの剥離は所望のタイミングで生じさせることができる。
【0028】
ここで、第二の作用においては、前述した通り、炭化水素系ガスの発生と同時に、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)にカルボキシ基が生じることとなる。そのため、炭化水素系ガスの放出量が増えるほど、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)に存在するカルボキシ基の量が増大することとなる。ここで、一般的に、粘着剤層中におけるカルボキシ基の量が増大するほど、当該粘着剤層における粘着力が上昇し易いものとなる。したがって、従来の粘着シートのように、炭化水素系ガスの発生に係る第二の作用のみによって被着体からの剥離を生じさせる場合には、生じた炭化水素系ガスによって粘着剤層と被着体との接触面積が減少して剥離が促される一方で、粘着剤層の粘着力自体が十分に低下し難い。しかしながら、本願実施形態に係る粘着剤組成物によれば、炭化水素系ガスの発生に係る第二の作用とともに、粘着剤層の硬化により粘着力が低下する第一の作用も生じるため、被着体から剥離を容易に行うことが可能となる。
【0029】
また、第一の作用によって被着体に対する粘着力が低下することにより、第二の作用において生じる炭化水素系ガスが、粘着剤層と被着体とを引き離し易くなる。また、そのように引き離された部位には、さらなる炭化水素系ガスが溜まり易くなるため、当該部位を起点として、粘着剤層と被着体との分離が促進されるものとなる。そのため、本実施形態に係る粘着剤組成物を用いて得られる粘着シートでは、第一の作用と第二の作用とが相乗的に作用することで、被着体から非常に容易な剥離を達成することができる。
【0030】
なお、本実施形態に係る粘着剤組成物によれば、粘着シートと被着体との密着性を著しく低下させることができるため、粘着シートを引き剥がす力を印加することなく、粘着シートを被着体から剥離させることもできる。例えば、粘着シートまたは被着体の自重により、粘着シートを被着体から剥離させることができる。具体的には、被着体に粘着シートが貼付されてなる積層体において、粘着シート側を下側に向け、重力により粘着シートを被着体から落下させることで剥離させることができる。なお、本明細書では、粘着シートを引き剥がす力を印加することなく、粘着シートが被着体から剥がれている状態となったり、剥がれ落ちたりすることを「自己剥離」というものとし、また、そのような性質を「自己剥離性」というものとする。
【0031】
1.(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)および加熱により炭化水素系ガスを放出してカルボキシ基に変化するカルボキシ前駆基を有するカルボキシ前駆基含有モノマー(a2)を含むとともに、側鎖に活性エネルギー線反応性基を有するものである限り、特に制限されない。
【0032】
作製し易いとともに、所望の性能を達成し易いという観点から、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)およびカルボキシ前駆基含有モノマー(a2)を含むモノマーを共重合体して得られるアクリル系共重合体(AP)と、当該アクリル系共重合体(AP)と反応可能な官能基および活性エネルギー線反応性基を含有する活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)とを反応させてなるものであることが好ましい。以下では、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)がアクリル系共重合体(AP)と活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)との反応により得られたものである場合について説明する。
【0033】
アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アクリル系共重合体(AP)が、重合体を構成するモノマーとして、アルキル基の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を含有することで、得られる粘着剤が所望の粘着性を発現することができる。この観点から、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中でも、アルキル基の炭素数が1~8の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを使用することが好ましく、特にn-ブチル(メタ)アクリレートおよび2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートの少なくとも一方を使用することが好ましく、さらには2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。なお、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
なお、アクリル系共重合体(AP)は、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)の少なくとも一種として、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以下のモノマーを含むことが好ましく、特にホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が-40℃以下のモノマーを含むことが好ましく、さらにはホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が-60℃以下のモノマーを含むことが好ましい。アクリル系共重合体(AP)のモノマーとして含まれるカルボキシ前駆基含有モノマー(a2)は、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が比較的高い傾向にあるため、アクリル系共重合体(AP)がホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以下のモノマーも含むことで、得られる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)全体としてのガラス転移温度(Tg)を適度な温度に調整することが容易となる。それにより、本実施形態に係る粘着剤組成物から形成される粘着剤層が、被着体に対して良好な粘着力(粘着剤層に対して活性エネルギー線の照射および加熱を行う前であって、前述した第一の作用および第二の作用が生じていない状態における粘着力;以下「初期粘着力」という場合がある。)を発揮し易いものとなる。このような観点からも、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)としては、n-ブチル(メタ)アクリレートおよび2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートの少なくとも一方を使用することが好ましく、特に2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0035】
アクリル系共重合体(AP)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を、10質量%以上含有することが好ましく、特に20質量%以上含有することが好ましく、さらには30質量%以上含有することが好ましい。また、アクリル系共重合体(AP)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、上述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を、90質量%以下で含有することが好ましく、特に80質量%以下で含有することが好ましく、さらには70質量%以下で含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)の含有量が10質量%以上であることで、得られる粘着剤層が所望の初期粘着力を発揮し易いものとなる。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)の含有量が90質量%以下であることで、得られる粘着剤層に対して活性エネルギー線を照射した際に、粘着力を良好に低下させ易いものとなる。
【0036】
カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)としては、酸の存在下において加熱により炭化水素系ガスを放出してカルボキシ基に変化するカルボキシ前駆基を有するとともに、アクリル系共重合体(AP)を構成できるものであれば、特に限定されない。
【0037】
カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)の好ましい例としては、第二級炭素原子を有するアルキル基の第二級炭素原子と(メタ)アクリロイルオキシ基とが結合した構造を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、第三級炭素原子を有するアルキル基の第三級炭素原子と(メタ)アクリロイルオキシ基とが結合した構造を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、およびベンジル(メタ)アクリレートの少なくとも一種が挙げられる。
【0038】
上述した、第二級炭素原子を有するアルキル基の第二級炭素原子と(メタ)アクリロイルオキシ基とが結合した構造を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの好ましい例としては、sec-ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、sec-ヘキシル(メタ)アクリレート、sec-オクチル(メタ)アクリレート、sec-ノニル(メタ)アクリレート、sec-デシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
上述した、第三級炭素原子を有するアルキル基の第三級炭素原子と(メタ)アクリロイルオキシ基とが結合した構造を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの好ましい例としては、tert-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ヘキシル(メタ)アクリレート、tert-オクチル(メタ)アクリレート、tert-ノニル(メタ)アクリレート、tert-デシル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0040】
以上のカルボキシ前駆基含有モノマー(a2)の好ましい例の中でも、sec-ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートおよびベンジル(メタ)アクリレートの少なくとも1種を使用することが好ましく、特にtert-ブチル(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)としてtert-ブチル(メタ)アクリレートを使用することで、良好に炭化水素系ガスを放出し易くなり、それにより、本実施形態に係る粘着シートの被着体からの剥離をより容易に行うことが可能となる。
【0041】
なお、以上のカルボキシ前駆基含有モノマー(a2)の好ましい例は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
アクリル系共重合体(AP)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)を、1質量%以上含有することが好ましく、10質量%以上含有することがより好ましく、特に35質量%以上含有することが好ましく、さらには40質量%以上含有することが好ましい。また、アクリル系共重合体(AP)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)を、75質量%以下で含有することが好ましく、特に65質量%以下で含有することが好ましく、さらには55質量%以下で含有することが好ましい。カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)の含有量が1質量%以上であることで、前述した第二の作用の際に、粘着剤層から炭化水素系ガスが良好に発生するものとなり、本実施形態に係る粘着シートの被着体からの剥離をより容易に行うことが可能となる。また、カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)の含有量が75質量%以下であることで、前述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)やそのほかのモノマーの含有量を十分に確保し易いものとなり、本実施形態に係る粘着シートにおいて所望の粘着力を達成し易くなるとともに、前述した第一の作用による粘着剤層の硬化を生じさせ易くなる。
【0043】
アクリル系共重合体(AP)は、重合体を構成するモノマー単位として、前述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)およびカルボキシ前駆基含有モノマー(a2)とともに、ヒドロキシ基含有モノマー(a3)を含むことが好ましい。アクリル系共重合体(AP)が、重合体を構成するモノマー単位としてヒドロキシ基含有モノマー(a3)を含むことで、アクリル系共重合体(AP)が側鎖としてヒドロキシ基を含有するものとなる。ここで、当該ヒドロキシ基は、活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)との反応点として機能することが可能となり、それにより、活性エネルギー線反応性基が十分に導入された(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を得ることが容易となる。また、本実施形態における粘着剤組成物が後述する架橋剤(特にポリイソシアネート系化合物)を含有する場合には、上述のヒドロキシ基が架橋剤との反応点としても機能することが可能となり、良好に架橋した粘着剤を得ることが容易となる。
【0044】
ヒドロキシ基含有モノマー(a3)の好ましい例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシへプチル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。これらの中でも、上述した架橋剤や活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)との反応性に優れる観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
アクリル系共重合体(AP)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、ヒドロキシ基含有モノマー(a3)を、1質量%以上含有することが好ましく、特に5質量%以上含有することが好ましく、さらには8質量%以上含有することが好ましい。また、アクリル系共重合体(AP)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、ヒドロキシ基含有モノマー(a3)を、50質量%以下で含有することが好ましく、特に40質量%以下で含有することが好ましく、さらには25質量%以下で含有することが好ましい。ヒドロキシ基含有モノマー(a3)の含有量が1質量%以上であることで、上述したような架橋剤や活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)との反応をより良好に生じさせることが可能となる。また、ヒドロキシ基含有モノマー(a3)の含有量が50質量%以下であることで、前述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)およびカルボキシ前駆基含有モノマー(a2)の含有量を十分に確保し易いもとなり、前述した第一の作用および第二の作用を効果的に生じさせることが可能となる。
【0046】
アクリル系共重合体(AP)は、所望により、当該共重合体を構成するモノマー単位として、前述した(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)、カルボキシ前駆基含有モノマー(a2)およびヒドロキシ基含有モノマー(a3)以外の他のモノマーを含有してもよい。
【0047】
そのような他のモノマーの例としては、カルボキシ基、アミノ基、アジリジニル基といった架橋剤との反応が可能な反応基を有するモノマーが挙げられる。特に、カルボキシ基を含有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。また、アミノ基を含有するモノマーとしては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、n-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0048】
上述した他のモノマーの更なる例としては、メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル;フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド等の非架橋性のアクリルアミド;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の非架橋性の3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル;スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
アクリル系共重合体(AP)の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。また、アクリル系共重合体(AP)は、上述した各モノマーを常法によって共重合することにより得ることができる。例えば、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、水溶液重合法などにより重合して製造することができる。中でも、重合時の安定性および使用時の取り扱い易さの観点から、有機溶媒中で行う溶液重合法で製造するのが好ましい。
【0050】
例えば、有機溶媒中にモノマー成分の混合物を溶解した後、従来公知のアゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-アミノジプロパン)二塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等のアゾ系重合開始剤またはベンゾイルパーオキシド等の過酸化物系重合開始剤を添加してラジカル重合させることにより、アクリル系共重合体(AP)を製造することができる。
【0051】
アクリル系共重合体(AP)の質量平均分子量は、10万以上であることが好ましく、特に20万以上であることが好ましく、さらには30万以上であることが好ましい。また、当該質量平均分子量は、200万以下であることが好ましく、特に100万以下であることが好ましく、さらには80万以下であることが好ましい。アクリル系共重合体(AP)の質量平均分子量が上記範囲であることで、所望の初期粘着力を有する粘着剤層を形成し易いものとなる。なお、本明細書における質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0052】
活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)としては、アクリル系共重合体(AP)と反応可能な官能基を有するともに、活性エネルギー線反応性基を含有するものであれば、特に限定されない。
【0053】
アクリル系共重合体(AP)と反応可能な官能基の例としては、イソシアネート基、エポキシ基、カルボキシ基等が挙げられる。ここで、アクリル系共重合体(AP)が、重合体を構成するモノマーとして、前述したヒドロキシ基含有モノマー(a3)を含有する場合には、活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)は、当該モノマーに由来するヒドロキシ基との反応性に優れたイソシアネート基を有することが好ましい。
【0054】
また、活性エネルギー線反応性基は、エネルギー線硬化性の炭素-炭素二重結合であることが好ましく、特に(メタ)アクリロイル基であることが好ましい。活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)は、1分子中に、活性エネルギー線反応性基を1~5個有することが好ましく、特に1~2個有することが好ましい。
【0055】
活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)の例としては、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物などが挙げられる。これらの中でも、アクリル系共重合体(AP)に対して活性エネルギー線反応性基を導入し易く、それにより、前述した第一の作用を生じさせ易いという観点から、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートが好ましい。活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、アクリル系共重合体(AP)が有するヒドロキシ基に対して、活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)が10モル%以上の割合で反応してなるものであることが好ましく、特に40モル%以上の割合で反応してなるものであることが好ましく、さらには70モル%以上の割合で反応してなるものであることが好ましい。また、本実施形態における(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)は、アクリル系共重合体(AP)が有するヒドロキシ基に対して、活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)が99モル%以下の割合で反応してなるものであることが好ましく、特に90モル%以下の割合で反応してなるものであることが好ましく、さらには85モル%以下の割合で反応してなるものであることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が、アクリル系共重合体(AP)と活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)とが上述した割合で反応してなるものであることで、活性エネルギー線反応性基が十分に導入されたものとなり、前述した第一の作用を生じさせ易いものとなる。
【0057】
アクリル系共重合体(AP)と活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)との反応は、常法によって行えばよい。この反応工程により、アクリル系共重合体(AP)中のヒドロキシ基と、活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)中の官能基(例えばイソシアネート基)とが反応して、活性エネルギー線反応性基がアクリル系共重合体(AP)の側鎖として導入され、エネルギー線硬化性の(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が得られる。
【0058】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の質量平均分子量は、20万以上であることが好ましく、特に30万以上であることが好ましく、さらには40万以上であることが好ましい。また、当該質量平均分子量は、200万以下であることが好ましく、特に100万以下であることが好ましく、さらには80万以下であることが好ましい。
【0059】
なお、本実施形態に係る粘着剤組成物は、以上説明した(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を1種含有するものであってもよく、または2種以上含有するものであってもよい。また、本実施形態に係る粘着剤組成物は、以上説明した(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)とともに、別の(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含有するものであってもよい。
【0060】
2.酸発生剤(B)
酸発生剤(B)としては、活性エネルギー線の照射および加熱の少なくとも一方により酸を発生し、当該酸によって、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)におけるカルボキシ前駆基含有モノマー(a2)に由来する部分から炭化水素系ガスが十分に放出させることが可能である限り、特に限定されない。
【0061】
酸発生剤(B)が活性エネルギー線の照射により酸を発生するものである場合、そのような酸発生剤(B)の例としては、N-ヒドロキシナフタルイミドと酸成分とのエステル化合物またはその誘導体や、オニウム塩等が挙げられ、当該オニウム塩の例としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩、セレニウム塩、ピリジニウム塩、フェロセニウム塩、ホスホニウム塩、チオピリニウム塩等が挙げられる。
【0062】
上述したN-ヒドロキシナフタルイミドと酸成分とのエステル化合物またはその誘導体における酸成分の例としては、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0063】
上述したオニウム塩におけるアニオン成分の例としては、CFSO 、(CFSO、(CFSO、BF 、PF 、AsF 、SbF 、B(C 等が挙げられる。
【0064】
特に、本実施形態における酸発生剤(B)としては、良好に酸を発生させ易いという観点から、N-ヒドロキシナフタルイミドと酸成分とのエステル化合物またはその誘導体が好ましく、より好ましくはN-ヒドロキシナフタルイミドとトリフルオロメタンスルホン酸のエステル化合物またはその誘導体が好ましく、1,8-ナフタルイミドトリフルオロメタンスルホン酸エステルまたはその誘導体が特に好ましい。
【0065】
また、酸発生剤(B)が活性エネルギー線の照射により酸を発生するものである場合、当該活性エネルギー線の種類としては、紫外線、電子線等であることが好ましく、特に、取り扱いが容易であるとともに、酸の効果的に発生させることができる紫外線であることが好ましい。
【0066】
一方、酸発生剤(B)が加熱により酸を発生するものである場合、当該酸発生剤(B)の例としては、N-(4-メチルベンジル)4’-ピリジニウム・ヘキサフルオロアンチモネートなどのピリジニウム塩誘導体;ヒドラジニウム塩;ホスホニウム塩;ジメチルフェニルスルホニウム・ヘキサフルオロホスフェートなどのスルホニウム塩;ホスホン酸エステル;シクロヘキシル(4-メチルフェニル)スルホネート、イソプロピル(4-メチルフェニル)スルホネートなどのスルホン酸エステル;1,2,4-トリメリット酸のプロピルビニルエーテルなどのカルボン酸のビニルエーテル付加物誘導体等が挙げられる。
【0067】
以上説明した酸発生剤(B)は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】
本実施形態に係る粘着剤組成物における酸発生剤(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、0.5質量部以上であることが好ましく、特に1質量部以上であることが好ましく、さらには2質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、20質量部以下であることが好ましく、特に15質量部以下であることが好ましく、さらには10質量部以下であることが好ましい。酸発生剤(B)の含有量が0.5質量部以上であることで、得られる粘着剤層において効果的に酸を発生させることができ、それにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)から炭化水素系ガスを良好に発生させることができ、その結果、粘着シートの被着体からの剥離をより容易に行うことが可能となる。また、酸発生剤(B)の含有量が20質量部以下であることで、本実施形態に係る粘着剤組成物を用いて塗膜を形成する際に、良好な面状態を維持し易くなる。
【0069】
3.光開始剤(C)
光開始剤(C)は、活性エネルギー線の照射によって生じる、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の活性エネルギー線反応性基における反応を促進することができるものである。これにより、本実施形態に係る粘着剤組成物から形成される粘着剤層の硬化を促進することが可能である限り、特に限定されないが、光ラジカル重合開始剤であることが、反応性の面から好ましい。
【0070】
このような光開始剤(C)の例としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等が挙げられ、具体的には、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β-クロールアンスラキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが例示される。これらの中でも、活性エネルギー線反応性基における反応を効果的に促進することができるという観点から、アセトフェノン化合物が好ましく、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンがより好ましい。これらの光開始剤(C)は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0071】
本実施形態に係る粘着剤組成物における光開始剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.5質量部以上であることが好ましく、さらには1.0質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましく、特に8質量部以下であることが好ましく、さらには5質量部以下であることが好ましい。光開始剤(C)の含有量が上述した範囲であることで、活性エネルギー線反応性基における反応を効果的に促進することができ、その結果、粘着シートの被着体からの剥離をより容易に行うことが可能となる。
【0072】
4.架橋剤(D)
本実施形態に係る粘着剤組成物は、架橋剤(D)を含むことが好ましい。粘着剤組成物が架橋剤(D)を含むことにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と架橋剤(D)との架橋反応が生じることが可能となり、本実施形態に係る粘着剤組成物から形成される粘着剤層において、三次元網目構造を良好に形成することが可能となる。これにより、所望の粘着力を有する粘着剤層を形成することが容易となる。
【0073】
架橋剤(D)としては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)との間で架橋反応を生じることができるものである限り、特に限定されず、ポリイソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、金属キレート系化合物、アジリジン系化合物等のポリイミン化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、金属アルコキシド、金属塩等が挙げられる。これらの中でも、架橋反応を制御し易いことなどの理由により、ポリイソシアネート系化合物またはエポキシ系化合物であることが好ましく、特にポリイソシアネート系化合物であることが好ましい。
【0074】
ポリイソシアネート系化合物は、1分子当たりイソシアネート基を2個以上有する化合物である。具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;など、およびそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。これらの中でも、トリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートが好ましい。
【0075】
エポキシ系化合物としては、例えば、1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン等が挙げられる。
【0076】
本実施形態に係る粘着剤組成物が架橋剤(D)を含有する場合、当該架橋剤(D)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.2質量部以上であることが好ましく、さらには0.3質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部に対し、20質量部以下であることが好ましく、特に15質量部以下であることが好ましく、さらには10質量部以下であることが好ましい。架橋剤(D)の含有量が上述した範囲であることで、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と架橋剤(D)との架橋反応が適度に生じ、それにより、所望の粘着力を有する粘着剤層を形成することが容易となる。
【0077】
5.その他の成分
本実施形態に係る粘着剤組成物は、上記の成分に加えて、染料や顔料等の着色材料、難燃剤、フィラー、可塑剤、帯電防止剤などの各種添加剤を含有してもよいが、当該添加剤としては、紫外線の透過を阻害しないもののみを使用することが好ましい。
【0078】
6.粘着剤組成物の製造方法
本実施形態に係る粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、酸発生剤(B)と、光開始剤(C)と、所望により、架橋剤(D)と、添加剤とを混合することで製造することができる。当該混合は、溶剤中で行ってもよく、この場合、粘着剤組成物の塗布液を得ることができる。
【0079】
上記溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0080】
このようにして調製された塗布液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、粘着性組成物の濃度が10質量%以上、60質量%以下となるように希釈する。なお、塗布液を得るに際して、溶剤等の添加は必要ではなく、粘着性組成物がコーティング可能な粘度等であれば、溶剤を添加しなくてもよい。
【0081】
〔粘着シート〕
本実施形態に係る粘着シートは、本実施形態に係る粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備えたものである。本実施形態に係る粘着シートは、当該粘着剤層の片面側に積層された基材を備える片面粘着シートであってもよく、当該粘着剤層が基材の両面にそれぞれ積層されてなる基材付き両面粘着シートであってもよく、または、基材を備えていない基材無し両面粘着シートであってもよい。基材付き両面粘着シートの場合は、片方の粘着剤層のみが本実施形態に係る粘着剤組成物から形成されていてもよいし、両方の粘着剤層が本実施形態に係る粘着剤組成物から形成されたものであってもよい。また、本実施形態に係る粘着シートは、粘着剤層を被着体に貼付するまでの間、粘着剤層を保護する目的で、粘着剤層における被着体に貼付される面(以下「粘着面」という場合がある。)に剥離シートが積層されていてもよい。
【0082】
1.粘着シートの構成
(1)基材
本実施形態に係る粘着シートが上述した片面粘着シート、または基材付き両面粘着シートである場合、当該粘着シートを構成する基材は、粘着剤層を積層可能である限り、その構成材料は特に限定されず、通常は樹脂系の材料を主材とするフィルムから構成される。
【0083】
そのフィルムの具体例としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン-ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリウレタンフィルム;ポリイミドフィルム;ポリアミドフィルム;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;フッ素樹脂フィルムなどが挙げられる。またこれらの架橋フィルム、アイオノマーフィルムのような変性フィルムも用いられる。上記の基材はこれらの1種からなるフィルムでもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた積層フィルムであってもよい。
【0084】
基材は、活性エネルギー線に対して透過性を有することが好ましい。基材がこのような透過性を有することにより、粘着剤層に対し、基材を介して活性エネルギー線を効果的に照射することが可能となる。これにより、粘着剤層を良好に硬化させ易くなり、粘着シートの被着体からの剥離がより容易となる。また、酸発生剤(B)として、活性エネルギー線の照射により酸を発生する場合には、効果的に酸を発生させ易くなり、その結果、粘着シートの被着体からの剥離がより容易となる。
【0085】
また、基材は、耐熱性を有することが好ましい。本実施形態に係る粘着シートでは、粘着剤層を加熱することで前述した炭化水素系ガスの放出が促進される。また、本実施形態における酸発生剤(B)として、加熱によって酸を発生する酸発生剤(B)を使用する場合には、当該酸の発生のためにも粘着剤層を加熱する必要がある。そのため、基材として耐熱性を有するものを使用することで、このような加熱を行った場合であっても、粘着シートの変形を抑制することが可能となる。特に、本実施形態に係る粘着シートを、半導体ウエハ等のダイシングに使用する場合には、粘着シートの変形を抑制することで、ダイシングにより得られた切断物の移動や飛び散りを効果的に抑制することが可能となる。
【0086】
基材には、顔料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤が含まれていてもよい。顔料としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。また、フィラーとしては、メラミン樹脂のような有機系材料、ヒュームドシリカのような無機系材料およびニッケル粒子のような金属系材料が例示される。こうした添加剤の含有量は特に限定されないが、基材が所望の機能を発揮し、平滑性や柔軟性を失わない範囲に留めるべきである。
【0087】
また、基材においては、その表面に設けられる層(粘着剤層等)との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、プライマー層を設けるプライマー処理、酸化法、凹凸化法等により表面処理を施すことができる。上記プライマー処理においてプライマー層を構成する成分としては、例えば、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアクリル系などの合成樹脂が例示され、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理等が挙げられ、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。一例として、プライマー処理によりプライマー層を形成した樹脂フィルム、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく用いられる。
【0088】
基材の厚さは、粘着シートが所望の工程において適切に機能できる限り、限定されない。例えば、基材の厚さは、20μm以上であることが好ましく、特に25μm以上であることが好ましく、さらには50μm以上であることが好ましい。また、当該厚さは、450μm以下であることが好ましく、特に400μm以下であることが好ましく、さらには350μm以下であることが好ましい。
【0089】
(2)粘着剤層
粘着剤層は、前述した粘着剤組成物から形成されるものである。当該粘着剤層の厚さは1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、特に10μm以上であることが好ましく、さらには15μm以上であることが好ましい。また、粘着剤層の厚さは60μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、特に40μm以下であることが好ましく、さらには30μm以下であることが好ましい。粘着剤層の厚さが1μm以上であることで、被着体に対する初期粘着力が十分なものとなり、被着体をより良好に固定することが可能となるとともに、粘着剤層から炭化水素系ガスを放出させる際には、当該炭化水素系ガスの放出量が十分なものとなり、前述した第二の作用によって、粘着シートの被着体からの剥離を容易に行い易くなる。また、粘着剤層の厚さが60μm以下であることで、粘着剤層に対して活性エネルギー線を照射した場合に、粘着剤層を十分に硬化させ易くなり、前述した第一の作用によって、粘着シートの被着体からの剥離を容易に行い易くなる。
【0090】
(3)剥離シート
本実施形態に係る粘着シートが剥離シートを備えるものである場合、当該剥離シートとしては、粘着剤層から剥離シートを良好に剥離できるものである限り限定されない。当該剥離シートの例としては、グラシン紙、コート紙、上質紙等の紙基材、これらの紙基材にポリエチレン等の樹脂をラミネートしたラミネート紙、またはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンフィルムなどのプラスチックフィルムが挙げられる。これらの剥離面(粘着剤層と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等の剥離剤が挙げられる。
【0091】
剥離シートの厚さについては特に制限はないが、通常20μm以上、250μm以下である。
【0092】
2.粘着シートの物性
本実施形態に係る粘着シートの初期粘着力(前述した第一の作用および第二の作用を生じさせる前の粘着力)は、2N/25mm以上であることが好ましく、特に4N/25mm以上であることが好ましく、さらには6N/25mm以上であることが好ましい。また、当該初期粘着力は、30N/25mm以下であることが好ましく、特に25N/25mm以下であることが好ましく、さらには20N/25mm以下であることが好ましい。上記粘着力が2N/25mm以上であることで、被着体を加工する工程において、被着体を粘着シート上に保持し易くなり、良好な加工を行い易くなる。また、上記粘着力が30N/25mm以下であることで、活性エネルギー線を照射することで粘着剤層を硬化させた後における粘着力を後述する範囲に調整し易くなる。なお、上記初期粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2000に準じた180°引き剥がし法により測定した粘着力をいい、詳細な測定方法は後述する実施例に示す通りである。
【0093】
また、本実施形態に係る粘着シートでは、活性エネルギー線を照射することで粘着剤層を硬化させた後且つ加熱を行う前(すなわち、前述した第二の作用に係る炭化水素系ガスの放出が生じる前)における粘着力が、1N/25mm以下であることが好ましく、特に0.5N/25mm以下であることが好ましく、さらには0.2N/25mm以下であることが好ましい。本実施形態に係る粘着シートでは、活性エネルギー線の照射によって粘着剤層を硬化させることが可能であるため、粘着力を1N/25mm以下に低下させることが可能である。そして、上記粘着力を1N/25mm以下に低下させることにより、粘着シートを被着体からより容易に剥離することが可能となる。なお、上記粘着力の下限値については特に限定されないものの、0.001N/25mm以上であることが好ましく、特に0.005N/25mm以上であることが好ましく、さらには0.01N/25mm以上であることが好ましい。また、上記粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2000に準じた180°引き剥がし法により測定した粘着力をいい、詳細な測定方法は後述する実施例に示す通りである。
【0094】
3.粘着シートの製造方法
本実施形態に係る粘着シートの製造方法は特に限定されず、従来の粘着シートと同様に製造することができる。
【0095】
例えば、粘着剤層を構成する粘着剤組成物、および所望によりさらに溶媒または分散媒を含有する塗布液を調製し、剥離シートの剥離面上に、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スリットコーター、ナイフコーター等によりその塗布液を塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥させることにより、粘着剤層を形成することができる。
【0096】
このように得られた粘着剤層と剥離シートとの積層体は、そのままの状態で、または、当該積層体における剥離剤層側の面に他の剥離シートをさらに積層した状態で、基材無し両面粘着シートとすることができる。
【0097】
また、片面粘着シートを製造する場合には、上述のように得られた粘着剤層と剥離シートとの積層体における粘着剤層側の面を、基材の片面側に貼付することで、基材と粘着剤層と剥離シートとを備える片面粘着シートとすることができる。
【0098】
片面粘着シートの別の製造方法としては、上述した塗布液を基材の片面側に塗布し、得られた塗膜を乾燥させることで、基材と粘着剤層とを備える粘着シートを製造してもよい。
【0099】
さらに、基材付き両面粘着シートを製造する場合には、上述のように得られた粘着剤層と剥離シートとの積層体を2枚用意し、一の積層体における粘着剤層側の面を基材の一方の面に積層するとともに、他の積層体における粘着剤層側の面を上記基材の他方の面に積層することで、一の剥離シートと一の粘着剤層と基材と他の粘着剤層と他の剥離シートとが順に積層されてなる基材付き両面粘着シートを得ることができる。
【0100】
基材付き両面粘着シートの別の製造方法としては、上述した塗布液を基材の両面側にそれぞれ塗布し、得られた塗膜をそれぞれ乾燥させることで、一の粘着剤層と基材と他の粘着剤層とを備える粘着シートを製造してもよい。
【0101】
なお、粘着シートの製造のために使用した剥離シートは、粘着シートの製造後に剥離してもよいし、粘着シートを被着体に貼付するまでの間、粘着剤層を保護していてもよい。
【0102】
また、上述した塗布液は、塗布を行うことが可能であればその性状は特に限定されず、粘着剤層を形成するための成分を溶質として含有する場合もあれば、分散質として含有する場合もある。
【0103】
なお、粘着剤組成物が架橋剤(D)を含有する場合には、上記の乾燥の条件(温度、時間など)を変えることにより、または加熱処理を別途設けることにより、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と架橋剤(D)との間における架橋反応を進行させ、粘着剤層内に所望の存在密度で架橋構造を形成させることが好ましい。例えば、粘着剤層を形成した後に、23℃、相対湿度50%の環境に数日間静置するといった養生を行うことが好ましい。
【0104】
4.粘着シートの使用
本実施形態に係る粘着シートは、粘着剤層が前述した粘着剤組成物を用いて形成されたものであるため、前述した第一の作用および第二の作用により、粘着シートを被着体から非常に容易に剥離することができる。そのため、本実施形態に係る粘着シートは、被着体に貼付した後に、当該被着体が粘着シートから剥離される用途に好適に使用することができる。特に、本実施形態に係る粘着シートは、所定の部材の加工のために使用することが好ましく、具体的には、粘着シートを被着体としての被加工物に貼付し、当該被加工物を粘着シート上で加工した後、得られた加工物を粘着シートから分離する用途に使用することが好ましい。このような用途の詳細については後述する。
【0105】
上述した加工される部材としては、特に制限されないものの、例えば脆質部材が挙げられる。当該脆質部材の例としては、ガラス、セラミックグリーンシート、セラミックグリーンシート積層体、樹脂フィルム、薄膜金属板等が挙げられる。このような脆質部材は、力が印加されることで割れたり、崩壊したりし易い。特に、従来の粘着シートに貼付された脆質部材から当該粘着シートを剥離する際、剥離のために印加される力によって脆質部材が割れたり、崩壊したりし易い。しかしながら、本実施形態に係る粘着シートは、非常に容易に剥離することが可能であり、例えば粘着シートの自重により被着体から剥離することも可能であるため、脆質部材の割れや崩壊を抑制しながら、剥離することが可能となる。そのため、脆質部材の加工には、本実施形態に係る粘着シートを用いることが好ましい。なお、本明細書において、部材の加工とは、当該部材を粘着シート上で形成することを含むものとする。そのため、部材がセラミックグリーンシートである場合、当該セラミックグリーンシートの加工とは、既に形成されているセラミックグリーンシートを粘着シート上で切断等の処理を行うだけでなく、粘着シート上にてセラミックグリーンシートを形成することも含むものとする。
【0106】
また、本実施形態に係る粘着シートは、半導体加工のために使用することが好ましい。特に、半導体ウエハや半導体パッケージのダイシングや裏面研磨に使用することが好ましい。このようなダイシングを行うと、粘着シート上には、半導体ウエハや半導体パッケージが切断されてなる微小な切断物が多数積層された状態となる。これらの切断物は、粘着シートから個々にピックアップされることとなる。ここで、本実施形態に係る粘着シートは、前述した第一の作用および第二の作用によって、被着体から非常に容易に剥離することが可能であるため、当該粘着シートを上述したダイシングに使用することで、切断物のピックアップを良好に行うことが可能となる。また、本実施形態に係る粘着シートを裏面研磨に使用する場合には、研磨されて非常に薄くなった被着体に与える衝撃を極力抑制しながら、粘着シートを剥離することができ、被着体の割れや崩壊を効果的に抑制することができる。
【0107】
また、本実施形態に係る粘着シートが両面粘着シートである場合、当該両面粘着シートは、硬質の被着体同士を貼合し、所望により加工等を行った後に、被着体同士を分離する用途に使用することが好ましい。このような貼合の例としては、半導体ウエハやガラス板と硬質の支持体との貼合等が挙げられる。貼合された硬質の被着体同士の分離は、被着体同士を引き離す力を印加した際に、当該力を受けても被着体がしなりにくいために、非常に困難となることがある。特に、被着体同士が粘着剤層を介して過度に密着している場合には、分離の際に被着体が破壊される可能性もある。しかしながら、本実施形態に係る粘着シートによれば、前述した第一の作用および第二の作用によって、被着体から非常に容易に剥離することが可能であるため、上述のような破壊を生じさせることなく、非常に容易に硬質の被着体同士を分離することができる。なお、本実施形態に係る粘着シートを上述した用途に使用する場合には、前述した第一の作用を効果的に生じさせるために、被着体のいずれか一方が、活性エネルギー線に対して透過性を有するものであることが好ましい。
【0108】
また、本実施形態に係る粘着シートが、本実施形態に係る粘着剤組成物から形成された一の粘着剤層と、所望の粘着剤から構成される他の粘着剤層とを備える基材付き両面粘着シートである場合には、当該一の粘着剤層による、被着体から非常に容易に剥離することができるという効果と、当該他の粘着剤層による、所望の効果とを両立することもできる。このように、他の粘着剤層として種々の粘着剤層を組み合わせることにより、本実施形態に係る粘着シートは、様々な用途において優れた性能を発揮することが可能となる。上述した他の粘着剤層を構成する粘着剤としては、例えば、活性エネルギー線硬化性の粘着剤、被着体への糊残りが生じ難い粘着剤、耐熱性に優れる粘着剤、耐溶剤性に優れる粘着剤等が挙げられる。
【0109】
〔加工物の製造方法〕
本実施形態に係る加工物の製造方法は、前述した粘着シートを被加工物に積層する積層工程と、当該被加工物を当該粘着シート上で加工して、加工物を得る加工工程と、当該加工物に積層された当該粘着シートにおける粘着剤層に対して、活性エネルギー線の照射を行う照射工程と、当該加工物に積層された当該粘着シートにおける粘着剤層に対して、加熱を行う加熱工程と、当該照射工程および当該加熱工程を経た粘着シートを、当該加工物から剥離する剥離工程とを含む。そして、本実施形態に係る加工物の製造方法では、加熱工程を照射工程の完了後に行うか、あるいは照射工程と加熱工程とを同時に行う。
【0110】
(1)積層工程
上述した積層工程では、前述した粘着シートにおける粘着面に対し、被加工物に積層する。粘着シートが剥離シートを備える場合には、当該剥離シートを剥離して露出した粘着剤層の粘着面に対し、被加工物を積層する。ここで、被加工物としては、粘着シート上で加工されるものであれば特に限定されず、例えば、半導体ウエハ、半導体パッケージ等の半導体部材や、ガラス、セラミックグリーンシート積層体、樹脂フィルム、薄膜金属板等の脆質部材、セラミックスラリー、未硬化の封止樹脂等のような、部材を形成するための塗布液等が挙げられる。上述した半導体ウエハ等のように、被加工物が既に所定の形状を有するものである場合には、粘着シートにおける粘着面を当該被加工物に貼付することで、積層を行う。また、上述したセラミックスラリーのように、被加工物が所定の形状を未だ有していない液状のものである場合には、当該被加工物を粘着シートにおける粘着面に塗布して塗膜を形成することで、積層を行う。また、粘着シートが両面粘着シートである場合には、当該両面粘着シートにおける被加工物を積層した粘着面と反対の粘着面を支持体等に貼付してもよい。
【0111】
(2)加工工程
貼付工程に続き、加工工程として、被加工物を粘着シート上で加工して、加工物を得る。ここで、被加工物が、半導体ウエハ、半導体パッケージ、ガラス、セラミックグリーンシート積層体等である場合には、上述した加工として、ダイシング、裏面研磨、回路形成、封止等を行い、加工物として、半導体チップといった半導体装置の一部材、半導体装置、ガラスチップ等を得る。また、被加工物が、セラミックスラリーである場合には、上述した加工として、セラミックスラリーを塗布して得られる塗膜を乾燥し、加工物としてセラミックグリーンシートを得る。
【0112】
本実施形態における粘着シートでは、前述した粘着剤組成物により粘着剤層が形成されていることにより、粘着剤層に対して活性エネルギーの照射や加熱を行う前においては、被加工物および加工物に対して良好な初期粘着力を発揮することができる。そのため、上述した加工の際に被加工物や加工物が移動したり、飛び散ることが抑制され、良好に加工を行うことができる。
【0113】
(3)照射工程および加熱工程
加工工程の後、照射工程および加熱工程を行う。ここで、加熱工程は、照射工程の完了後に行ってもよく、または照射工程と加熱工程とを同時に行ってもよい。
【0114】
(3-1)照射工程
照射工程では、粘着シート上に加工物が積層された状態で、当該粘着シートにおける粘着剤層に対して活性エネルギー線の照射を行う。ここで、活性エネルギー線の照射は、当該活性エネルギー線に対して透過性を有する部材を介して行うことが好ましい。例えば、粘着シートが、活性エネルギー線に対して透過性を有する基材を備える片面粘着シートである場合には、当該基材を介して粘着剤層に活性エネルギー線を照射することが好ましい。また、粘着シートが両面粘着シートであり、その片方の粘着面が、活性エネルギー線に対して透過性を有する支持体に貼付されている場合には、当該支持体を介して粘着剤層に活性エネルギー線を照射することが好ましい。さらに、粘着シートが片面粘着シートおよび両面粘着シートのいずれの場合においても、当該粘着シート状に積層された加工物が活性エネルギー線に対して透過性を有する場合には、加工物を介して粘着剤層に活性エネルギー線を照射してもよい。
【0115】
粘着剤層に対して活性エネルギー線を照射することで、粘着剤層中に含有される(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の側鎖に存在する活性エネルギー線反応性基において反応が進行する。これにより、粘着剤層が硬化し、粘着剤層の加工物に対する粘着力が低下する第一の作用が生じることとなる。
【0116】
酸発生剤(B)として、活性エネルギー線の照射により酸を発生するものを使用している場合には、活性エネルギー線の照射によって、粘着剤層中に含有される酸発生剤(B)から酸が発生する。当該酸は、加熱工程の際に、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が有するカルボキシ前駆基から炭化水素系ガスが放出される反応を促進する。
【0117】
上記活性エネルギー線としては、電離放射線、すなわち紫外線、電子線などが挙げられる。これらのうちでも、比較的照射設備の導入の容易な紫外線が好ましい。
【0118】
電離放射線として紫外線を用いる場合には、取り扱いの容易さから波長200~380nm程度の紫外線を含む近紫外線を用いることが好ましい。紫外線の光量は、通常50mJ/cm以上とすることが好ましく、特に100mJ/cm以上とすることが好ましく、さらには200mJ/cm以上とすることが好ましい。また、紫外線の光量は、通常2000mJ/cm以下とすることが好ましく、特に1700mJ/cm以下とすることが好ましく、さらには1400mJ/cm以下とすることが好ましい。紫外線の照度は、通常50mW/cm以上とすることが好ましく、特に100mW/cm以上とすることが好ましく、さらには200mW/cm以上とすることが好ましい。また、紫外線の照度は、通常500mW/cm以下とすることが好ましく、特に450mW/cm以下とすることが好ましく、さらには400mW/cm以下とすることが好ましい。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、UV-LEDなどが用いられる。
【0119】
電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、通常10kV以上、1000kV以下であることが好ましい。また、照射線量は、通常0.1kGy以上、10kGy以下であることが好ましい。電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
【0120】
(3-2)加熱工程
加熱工程では、粘着シート上に加工物が積層された状態で、粘着剤層を加熱する。加熱工程では、粘着剤層中において、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)が有するカルボキシ前駆基から炭化水素系ガスが放出する反応が加熱により進行する。この反応において、酸発生剤(B)に由来する酸が触媒として作用し、当該反応を促進する。ここで、酸発生剤(B)として加熱により酸を発生するものを使用している場合には、加熱工程における加熱によって、酸発生剤(B)から酸が供給される。一方、酸発生剤(B)として活性エネルギー線の照射により酸を発生するものを使用している場合には、前述の通り、照射工程における活性エネルギー線の照射により酸発生剤(B)から酸が供給される。粘着剤層から放出された炭化水素系ガスは、粘着シートにおける粘着剤層と被着体との界面に溜まり、これにより、粘着剤層と加工物との接触面積が減少する第二の作用が生じることとなる。
【0121】
上述した加熱のための手段としては、例えば、ホットプレート、熱風乾燥機、近赤外線ランプ、加熱ローラーなどの適当な手段を採用することができる。加熱条件としては、例えば、100℃以上、250℃以下の温度で、5秒以上、30分以下の時間加熱することが好ましい。
【0122】
(4)剥離工程
照射工程および加熱工程の完了に続き、粘着シートを加工物から剥離する。本実施形態における粘着シートは、粘着剤層が硬化して粘着力が低下する第一の作用と、炭化水素系ガスの発生によって粘着剤層と加工物との接触面積が減少する第二の作用とが相まって生じることにより、加工物から粘着シートを非常に容易に剥離することが可能となる。そのため、例えば、加工物が半導体装置(特に半導体チップ)やガラスチップである場合には、吸引コレット等の汎用手段を用いて、当該加工物を容易にピックアップすることができる。さらに、本実施形態における粘着シートは、積極的に粘着シートを引き剥がすような処理を行うことなく、自己剥離させることも可能であるため、例えば、粘着シートを上下反転させる等の処理を行って、粘着シートの自重により加工物から粘着シートを落下させたり、加工物の自重により粘着シートから加工物を落下させることもできる。
【0123】
また、粘着シートが両面粘着シートであり、その片方の粘着面が支持体に貼付されている場合には、粘着シートの加工物からの剥離とともに、当該粘着シートの支持体からの剥離を行ってもよい。ここで、加工物からの剥離および支持体からの剥離を行う順番としては特に限定されず、また同時に行ってもよい。本実施形態に係る粘着シートによれば、支持体からの剥離も、加工物からの剥離と同様に、非常に容易に行うことができる。粘着シートの支持体から剥離は、手動または汎用手段を用いて、支持体から粘着シートを取り除くことで行ってもよく、あるいは、上述したように、粘着シートの自重により支持体から落下させることで行ってもよい。
【0124】
以上のように、本実施形態に係る加工物の製造方法では、活性エネルギー線の照射および加熱によって、粘着シートを加工物から非常に容易に剥離することが可能であるため、優れた性能を有する加工物を効率的に製造することが可能となる。
【0125】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例
【0126】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0127】
〔実施例1〕
n-ブチルアクリレート10質量部と、2-エチルヘキシルアクリレート35質量部と、tert-ブチルアクリレート45質量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート10質量部とを共重合し、アクリル系共重合体(AP)を得た。このアクリル系共重合体(AP)と、活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)としてのメタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)とを、MOIの反応量がアクリル系共重合体100g当たり10.7g(アクリル系共重合体(AP)中の2-ヒドロキシエチルアクリレート単位100モル当たり80モル(80モル%))となるように反応させて、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)を得た。なお、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の質量平均分子量を、後述する方法にて測定したところ、50万であった。
【0128】
得られた(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部(固形分換算;以下同じ)と、酸発生剤(B)としての1,8-ナフタルイミドトリフルオロメタンスルホン酸エステル3質量部と、光開始剤(C)としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(BASF社製,製品名「イルガキュア184」)3質量部と、架橋剤(D)としてのトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(東ソー株式会社製,製品名「コロネートL」)0.5質量部とを溶媒としてのメチルエチルケトン中で混合し、粘着剤組成物の塗布液を得た。
【0129】
得られた塗布液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の主面がシリコーン系剥離剤によって剥離処理されてなる剥離シート(リンテック株式会社製,製品名「SP-PET381031」)の剥離処理面上に塗布し、100℃で2分間加熱することで乾燥させて、厚さ25μmの粘着剤層を形成した。
【0130】
次に、上記粘着剤層における剥離シートとは反対側の面と、基材としての易接着層付きポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製,製品名「コスモシャインA4300」,厚さ:50μm)の易接着層側の面とを貼合した後、温度23℃、相対湿度50%の環境下で168時間シーズニングを行うことで、基材、粘着剤層および剥離シートが順に積層してなる粘着シートを得た。
【0131】
ここで、上述した質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)したポリスチレン換算の質量平均分子量である。
<測定条件>
・GPC測定装置:東ソー株式会社製,HLC-8020
・カラム :「TSK guard column HXL-L」、「TSK gel G2500HXL」、「TSK gel G2000HXL」、「TSK gel G1000HXL」(いずれも東ソー株式会社製)を順次連結したもの
・カラム温度:40℃
・展開溶媒 :テトラヒドロフラン
・流速 :1.0mL/min
・検出器 :示差屈折計
・標準試料 :ポリスチレン
【0132】
〔実施例2~3,比較例1~3〕
アクリル系共重合体(AP)を構成するモノマーの割合、活性エネルギー線反応性基含有化合物(AC)の使用量、ならびに酸発生剤(B)、光開始剤(C)および架橋剤(D)の含有量を表1に示すように変更したこと以外、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0133】
〔実施例4~7,比較例4〕
アクリル系共重合体(AP)を構成するモノマーの組成を表2に示すように変更したこと以外、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0134】
〔試験例1〕(粘着力の測定)
実施例および比較例で製造した粘着シートを裁断し、幅25mm×長さ100mmの試験片を得た。当該試験片から剥離シートを剥離し、露出した粘着面を、23℃、50%RH(相対湿度)の環境下で、ステンレス板(360番研磨済みのSUS304)における研磨面に貼付し、同環境下に24時間静置した。これにより、測定用サンプルを得た。
【0135】
この測定用サンプルについて、JIS Z0237;2000に準じ、万能型引張試験機(オリエンテック株式会社製,TENSILON/UTM-4-100)を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°にてステンレス板から粘着シートを剥離し、そのときに測定される粘着力をUV照射前の粘着力(N/25mm)とした。結果を表1および表2に示す。
【0136】
また、上記と同様に作製した測定用サンプルについて、紫外線照射装置(リンテック株式会社製,製品名「RAD-2000」)を用いて、基材を介して粘着剤層に対して紫外線(UV)照射(照度:300mW/cm,光量:1200mJ/cm)を行い、粘着剤層を硬化させた。そして、上記同様の条件にて、粘着シートの粘着力を測定し、これをUV照射後の粘着力(N/25mm)とした。結果を表1および表2に示す。
【0137】
〔試験例2〕(自己剥離性の評価)
試験例1と同様に作製した測定用サンプルについて、紫外線照射装置(リンテック株式会社製,製品名「RAD-2000」)を用いて、基材を介して粘着剤層に対して紫外線(UV)照射(照度:300mW/cm,光量:1200mJ/cm)を行い、粘着剤層を硬化させた。
【0138】
続いて、測定用サンプルを、オーブン内にて150℃で10分間加熱した後、室温環境下に放置した。なお、オーブンでの加熱および放置の際には、測定用サンプルにおける粘着シート側の面が常に上側となるように取り扱った。
【0139】
測定用サンプルが室温まで冷却した後、測定用サンプルを持ち上げ、さらにステンレス板を支えた状態で、粘着シート側の面とステンレス板側の面とを反転させて、粘着シート側の面が下側となるようにした。その際の粘着シートの状態について、以下の基準に基づいて、粘着シートの自己剥離性を評価した。結果を表1および表2に示す。
A:粘着シートが落下した。
B:粘着シートが落下しなかったものの、粘着シートとステンレス板との界面において、気泡による浮きおよび剥がれの少なくとも一方が生じた。
F:粘着シートが落下せず、且つ、粘着シートとステンレス板との界面において、気泡による浮きおよび剥がれの両方が生じなかった。
【0140】
なお、表1および表2に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
BA:n-ブチルアクリレート
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
t-BA:tert-ブチルアクリレート
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
MOI:2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
表1および表2から分かるように、実施例で得られた粘着シートは、活性エネルギー線の照射および加熱によって、優れた自己剥離性を発揮するものとなり、非常に簡単に剥離することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明に係る粘着シートは、脆質部材や半導体部材等の加工のために使用することができる。