(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】医薬品の眼内放出用デバイス
(51)【国際特許分類】
A61K 9/52 20060101AFI20230630BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230630BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230630BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230630BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230630BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230630BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230630BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20230630BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20230630BHJP
A61K 31/56 20060101ALI20230630BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230630BHJP
A61F 9/007 20060101ALI20230630BHJP
【FI】
A61K9/52
A61K47/02
A61K45/00
A61K39/395 N
A61K31/7088
A61K48/00
A61K31/713
A61K38/36
A61K38/18
A61K31/56
A61P27/02
A61F9/007 170
(21)【出願番号】P 2020514215
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(86)【国際出願番号】 IB2018056907
(87)【国際公開番号】W WO2019053584
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】102017000101582
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】501193001
【氏名又は名称】ポリテクニコ ディ ミラノ
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO-Italy
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100167623
【氏名又は名称】塚中 哲雄
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214259
【氏名又は名称】山本 睦也
(72)【発明者】
【氏名】フェデリカ ボスケッティ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ フェローニ
(72)【発明者】
【氏名】マッテオ ジュセッペ チェレダ
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第96/003978(WO,A1)
【文献】特表2016-513715(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101862230(CN,A)
【文献】特表2013-522314(JP,A)
【文献】特表2008-521489(JP,A)
【文献】国際公開第2016/094510(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0054408(US,A1)
【文献】特表2009-523821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61F 9/00-9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方が他方の中に入り込んでいる少なくとも2つの中空固体を含む眼内
薬物送達のための埋め込み型デ
バイス:
ここで、前記一方が他方の中に入り込んでいる少なくとも2つの中空固体の壁がマグネシウム
合金に基づく生分解性材料でできており、前記一方が他方の中に入り込んでいる少なくとも2つの中空固体が、前記中空固体の最も内側のコア(core)と呼ばれる容積と、その最も内側の中空固体とその外側の中空固体との間に構成されるクラウン(crown)と呼ばれる1つ以上の容積とを規定する、
ここで、前記壁が前記デバイスの埋め込み後の時間に応じて透過性となる、不透過性の連続壁である、
ここで、前記一方が他方の中に入り込んでいる中空固体は、共通して上側及び/又は下側の基部を有するように配列される、
ここで、前記一方が他方の中に入り込んでいる中空固体は、最も外側の中空
固体から最も内側の中空固体の順に従って、同じ高さでありながら、より小さくなる。
【請求項2】
前記コア及び/又は少なくとも1つのクラウンに少なくとも1種の活性成分が数回分含まれる、請求項1に記載の埋め込み型デバイス。
【請求項3】
前記マグネシウム
合金に基づく生分解性材料が、アルミニウム-マグネシウム、リチウム-マグネシウム、カルシウム-マグネシウム、亜鉛-マグネシウム、マンガン-マグネシウムの合金からなる群から選択される合金である、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記合金はJDBMマグネシウム合金: Mg-2.5Nd-0.2Zn-0.4Zr(wt%、JDBM)である、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記活性成分が、抗VEGF化合物(例えば、モノクローナル抗体:ラニビズマブ、ベバシズマブ、ブロルシズマブ);アプタマー:ペガプタニブ;融合タンパク質:VEGF Trap-Eye アフリベルセプト;低分子干渉RNA(SiRNA);抗血小板由来増殖因子(PDGF);抗チロシンキナーゼ又はチロシンキナーゼ阻害剤;抗レセプターキナーゼ;チロシンキナーゼ・カスケードの細胞内阻害剤;マルチキナーゼ阻害剤;mTOR阻害剤;インテグリン阻害剤;血管破壊剤(VGA);抗ニコチン剤、抗補体剤又は補体阻害剤;免疫調節物質;抗酸化剤;毛様体神経栄養因子(CNTF);コルチコステロイド;非ステロイド性抗炎症剤;生物学的な材料(例えばヌクレオチド配列を含むウイルスベクター;細胞(例えば前記ウイルスベクターの少なくとも1種でトランスフェクションされたもの)、を含む群から個別に又はお互いを組み合わせて選択される、請求項2から4の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載のデバイス:
ここで、前記デバイスは、同心円状の基部を有し、一方が他方の中に入り込んでいる3つのシリンダを含むシリンダ状のデ
バイス(l)である、
ここで、前記同心円状の基部は、前記シリンダの軸方向の一方の端及び他方の端の両方に位置して、前記デバイス(1)内に以下の3つの容積を規定する:第1クラウン(5)、第2クラウン(6)及びコア(7)、
ここで、前記第1クラウン(5)、前記第2クラウン(6)、及び前記コア(7)は、それぞれ、1回分の薬剤を収容するのに適合している。
【請求項7】
請求項1から5の何れか一項に記載のデバイス:
ここで、前記デバイスは、前記デバイス(31)内の3つの容積、すなわち、第1の容積(35)、第2の容積(36)、及びコア(37)を規定する、一方が他方の中に入り込んでいる3つの平行6面体を含む、
ここで、前記第1の容積(35)、前記第2の容積(36)、及び前記コア(37)は、それぞれ収容する薬剤量1回分に適合している。
【請求項8】
以下を含む、埋め込み型デバイスの製造方法:
・マグネシウム及び/又はマグネシウム合金による構造を形成すること、ここで、前記構造は、コアと呼ばれる少なくとも1つの最も内側の容積、及びクラウンと呼ばれる少なくとも1つの容積を規定する、一方が他方の中に入り込んでいる少なくとも2つの中空固体を含み、ここで、一方が他方の中に入り込んでいる少なくとも2つの中空固体によって規定される少なくとも2つの容積は、いずれも外側に向いた少なくとも1つの開口部を有する;
・1種以上の活性成分により前記構造を充填すること;
・前記構造を閉鎖すること。
【請求項9】
眼内病態の治療に用いる請求項1から7の何れか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記コア及び/又は少なくとも1つの前記クラウンの中に、数回分の少なくとも1種の活性成分が、最も外側から最も内側に向かって、前記中空固体の壁が溶解するにつれて、量子的に(単位量)放出されるものとして含まれる、請求項9に記載のデバイス。
【請求項12】
前記壁をその溶解によって透過性とする、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の活性成分を含む、眼の後眼房に注射可能な生分解性デバイスに関する。このデバイスは、少なくとも1種の活性成分のスケジュールされた放出を可能にする。ここでスケジュールされた放出とは、前述の少なくとも1種の活性成分の予め定められた用量の放出、いわば量子的な方法(単位量)での放出を、経時的に明確かつ予め定められた瞬間に行うことを意味する。
【背景技術】
【0002】
黄斑症という用語は、網膜の中心部の領域である黄斑を侵す一連の疾患を指す。これらの中で、最も一般的な形態は加齢黄斑変性(AMD)である。その他にみられる黄斑症は、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈血栓症による黄斑浮腫、滲出性近視性黄斑症、AMDによるものではない脈絡膜新生血管(CNV)である。
【0003】
AMDは、先進国の50歳以上の人々の視覚障害の主な原因である。AMDは滲出型と非滲出型の2種類の発症形式を有する。滲出型又は新生血管型は、AMDに関連する急性視力低下の症例の90%を占め、非滲出型より頻度が低い。
【0004】
血管内皮増殖因子(VEGF)は、新しい血管の形成、又は脈絡膜の新生血管を誘発する強力な血管新生剤であり、その存在は滲出性黄斑症の病因となる。
【0005】
現在、黄斑症の治療は、血管内皮増殖因子阻害 (抗VEGF) 剤を基とする薬剤の硝子体内注射が代表的である。臨床研究では、月1回注射する抗VEGF剤は、90%以上の症例で初期視力を維持でき、治療を受けた患者の25~40%で改善できることが示されている。
【0006】
治療の有効性に不可欠な特徴は、組織が所定の量の抗VEGF剤に定期的に曝露されることである。
【0007】
黄斑症に用いられる既知の抗VEGF剤のうち、ペガプタニブ、ラニビズマブ及びアフリベルセプトを取り上げて以下に述べる。ラニビズマブの承認された治療プロトコルは、最大視力及び/又は血管新生活性の欠如が達成されるまで、月1回の投与を行う。この治療の後、必要に応じて頻回のモニタリングと治療を行う。アフリベルセプトは、月に1回、3カ月間連続して罹患眼に注射し、その後は2カ月ごとに1回注射する。
【0008】
反復注射による治療は、患者にとって遵守困難であり、また有意に高価である。
【0009】
US2006110429は、一定期間で装填された薬剤を放出することができる、制御された薬剤放出眼システムについて記載している。複数回の放出は意図されていない。
【0010】
WO2011097634は、2回分の量の薬剤の2段階放出のための眼内埋め込み器具について記載している。ここで、埋め込み器具は、レーザーによって活性化されて、その結果破壊され、設定された時間での放出が可能になる。
【0011】
また、WO2009097468に記載された埋め込み器具は、外部から放出を制御し、実際のシステムの活性化は光源により得られる。
【0012】
US2005244465は、サンドイッチ構造を有する眼内埋め込み器具について記載している。中央部分に薬剤を含み、2つの外層はポリマー材料でできている。このサンドイッチ構造の形状パラメータは、ポリマー材料の特性と共に、経時的な薬剤の放出を調節する。示された解決法は、眼レベルでの望ましくない分解生成物を放出することになる生分解性ポリマー材料でできた製品、という欠点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、医師及び患者が今日対処しなければならない先行技術デバイスの未解決の問題を解決する、スケジュールされた放出デバイスである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の説明
本発明のデバイスは、生分解性材料の層からなる埋め込み型デバイスであって、少なくとも1種の活性成分が異なる層の間に配置され、これが予め定められた間隔で量子的に(単位量で)放出される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図表の説明
【
図1】
図1:本発明による埋め込み型デバイスの一実施形態。
【
図2】
図2:本発明による埋め込み型デバイスのさらなる実施形態。
【
図3】
図3:本発明による埋め込み型デバイスのさらなる実施形態。
【
図4】
図4:本発明による試作品の代表的な写真、A) 上から見た図、B) 外径の評価のための側面図、及びC) 側面視と閉鎖盤の外観。
【
図5】
図5:サンプル形態の24時間時間スケール分析:それらをテストする前から局在が認められる(t = 0)。24時間後、流体の流れは局在するマグネシウムを酸化し、その後腐食生成物を侵食し、侵食表面を平坦にした。
【
図6】
図6: 腐食試験後の典型的な局所的な高さのガウス分布。正規分布の平均値と標準偏差値は、A) 0 Pa、B) 0.01 Pa、C) 0.032 PaのFISSについて示した。
【
図7】
図7:腐食試験8、24、48時間後の平均高の低下の経時的推移。最初の8時間では、(i) FISS = 0.01 Paと(ii) FISS = 0.032 Paとの間に統計学的な差はない(一元配置分散分析試験、p < 0.05)。
【
図8】
図8:24時間の腐食を受けたマグネシウムサンプルの高さの総減少量。一元配置分散分析試験(p < 0.05)では、静的条件(0 Pa、白色柱)と動的条件の最初の例(0.01 Pa、黒色柱)との間に統計学的な差は認められなかった。動的刺激(0.032Pa、灰色柱)の2番目の例は、静的条件(0 Pa)及び動的条件の最初の例(0.01 Pa)の両方と統計学的な差がある。
【
図9】
図9:FISS値の変化に伴うマグネシウム生分解の腐食速度の傾向曲線(A)とヒストグラム(B)。分析が静的条件から最もストレスの多いもの(0.032 Pa)の分析に切り替わるとき、腐食速度の一次導関数はゼロへ近付く。
【
図10】
図10:3.4μm/日(FISS = 0.032 Pa、左)又は1.9μm/日(FISS = 0 Pa、右)の腐食速度を適用した場合の壁の月毎の生分解。
【
図11】
図11:本発明によるデバイス内に封入したベバシズマブの硝子体内投与(IVI)後の異なる時間相における硝子体腔の赤道面上の薬剤の分布。
【
図12】
図12:硝子体腔の異なるxy面上の薬剤の分布: (a)3D像、(b) z = 0.15 cm、(c) z = 0.30 cm、(d) z = 0.45 cm及び(e) z = 0.60 cm(z = 0)。デバイス内に封入したベバシズマブのIVI後30秒間のシミュレーション後に、すべてのマップを書き出した。
【
図13】
図13:外硝子体(三角形)、内硝子体(ひし形)及び総初期容積(円形)におけるベバシズマブの分布。四角で示した線は、デバイスから放出された後のシミュレーション中のベバシズマブの総量を表している。
【
図14】
図14:シミュレーション30秒後の網膜-脈絡膜-強膜複合体におけるベバシズマブ濃度の変化。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明の埋め込み型デバイス対象は、一方が他方の中に入り込んでいる少なくとも2つの中空固体を含み、この少なくとも2つの中空固体は生分解性材料でできている。この少なくとも2つの中空固体は、i)前記中空固体の最も内側にあるコア(core)と呼ばれる容積、及びii)前記最も内側の中空固体とその外側の中空固体との間にある、クラウン(crown)と呼ばれる1つ以上の容積を規定する。前記コア及び前記少なくとも1つのクラウンは、収容する薬剤量に適合する。
【0017】
埋め込み型デバイスを構成する一方が他方の中に入り込んでいる中空固体の数が治療レジメンを規定する。一例を挙げると、一方が他方の中に入り込んでいる2つの中空固体、従って2つの生分解性層からなる埋め込み型デバイスは、埋め込み後に、2回分の薬剤量を放出することが可能である。
一方が他方の中に入り込んでいる3つの中空固体からなる埋め込み型デバイスは、埋め込み後、3回分の薬剤量を放出することが可能である。最大20個まで、好ましくは10個までの一方が他方の中に入り込んでいる中空固体、又は最大5個まで、好ましくは3個までの一方が他方の中に入り込んでいる中空固体からなる実施形態が設えられた。
【0018】
幾何学的な固体の中から前記中空固体が選択される。好ましくは、それらは多面体又は回転固体である。
【0019】
ある実施形態において、本発明によるデバイスを構成する異なる中空固体は、互いに異なるタイプである;純粋に例として、2つの中空固体を含むデバイスにおいて、最も内側の固形はシリンダであり、外側の固形は平行6面体である。
【0020】
別の実施形態では、本発明によるデバイスを構成する異なる中空固体は同一の型である;純粋に例として、2つの中空固体を含むデバイスにおいて、最も内側の固体は角柱であり、外側の固体はより大きな角柱である。
【0021】
好ましい実施形態では、一方が他方の中に入り込んでいる前記中空固体は、互いに同心円状である。
【0022】
ある実施形態において、一方が他方の中に入り込んでいる前記中空固体は「マトリョーシカ様」構造に配列される。すなわち、最も内側の中空固体は、その外側の中空固体に完全に含まれる。
【0023】
別の実施形態では、一方が他方の中に入り込んでいる前記中空固体は、共通して上側及び/又は下側の基部を有するように配列される。つまり、一方が他方の中に入り込んでいる前記中空固体(例えば、異なる基部を有する円柱又は平行6面体)は、すなわち、最も外側の中空固体から最も内側の中空固体に移動する、同じ高さのより小さな中空固体である。
【0024】
この「共有基部」の実施形態は、構造上の観点から利点を提供するため特に好ましい。実際、「マトリョーシカ様」構造とは異なり、一方が他方の中に入り込んでいる中空固体が、共通して上側の基部及び/又は下側の基部を有する実施形態は、マグネシウム及び/又はマグネシウム合金において空のデバイスの実装を可能にする。次いで、前記デバイスは少なくとも1種の活性成分で充填され、望ましい剤形においては、前記上側基部及び/又は前記下側基部で閉鎖される。
【0025】
図1に模式化された実施形態では、本発明の保護範囲の非限定的な例によって提供され、前記デバイスはシリンダ型である。前記シリンダ型デバイス1は、同心円状の基部と共に一方が他方の中に入り込んでいる3つのシリンダを備え、これにより2つの円形のクラウンを同定する。前記シリンダーの側壁2、3、4は、生分解性材料でできている。すなわち、一方が他方の中に入り込んでいる3つのシリンダは、第1クラウン5、第2クラウン6及びコア7の3つの容積のうちの1つを規定する。前記第1クラウン5は、前記第2クラウン6及び前記コア7それぞれが薬剤を含む。第1クラウン5に含まれる薬剤は、眼内に前記デバイス1を埋め込んだ後に前記デバイスから放出される最初のものである。続く過程において、前記第2クラウン6に含まれる第2の薬剤が放出され、前記コア7に含まれる第3の薬剤がさらに放出される。前記デバイス1は、上端でと下端で、上側基部11と下側基部12によって閉鎖される。前記上側基部11及び前記下側基部12は、生分解性材料でできている。
【0026】
図2に模式的に示されている別の実施形態では、デバイスは球形であり、2つの同心円状の中空球からなり、具体例では、外球22及び内球21が、コア27及びクラウン26を規定する。前記コア及び前記1つのクラウンは、それぞれ薬剤を含む。前記2つの同心円状の中空球は、本発明に関する生分解性材料でできている。
【0027】
図3に模式化された実施形態では、前記デバイスは平行6面体であり、好ましくは正方形の基部を有する。前記デバイス30は、一方が他方の中に入り込んでいる3つの中空の平行6面体を備える。前記平行6面体の外側壁32、33、34は、それぞれ外、中及び内側で、本発明によれば生分解性材料でできている。前記3つの中空の平行6面体は、前記デバイス31内の3つの容積:第1容積35、第2容積36及びコア37を規定する。前記第1容積35、前記第2容積36及び前記コア37は、それぞれ薬剤を含む。第1容積35に含まれる薬剤は、眼内に前記デバイス31を埋め込んだ後に前記デバイスから放出される最初のものである。続く過程において、前記第2容積36内に含まれる第2の薬剤が放出され、前記コア37内に含まれる第3の薬剤が連続して放出される。前記デバイス31は、上側基部311及び下側基部312によって末端で閉鎖される。前記上側基部311及び前記下側基部312は、本研究に関する生分解性材料からできている。
【0028】
本発明に関するデバイスに用いられる生分解性材料は、マグネシウム化合物である。埋め込み型デバイスにおけるマグネシウム化合物の使用に見出される利点は、湿潤環境における耐腐食性の低さ及び腐食生成物の高い生体適合性による、完全な吸収と関連付けられる。アルミニウム合金、リチウム、カルシウム、亜鉛、マンガンなどのマグネシウム合金が特に好ましい実施形態である。
【0029】
好ましい実施形態において、前記デバイスは、JDBMマグネシウム合金、良好な機械的性質及び生体腐食耐性を有するMg-2.5Nd-0.2Zn-0.4Zr 合金(wt%、JDBM)からなる。あるいは、前記合金は、JBDM-2、Mg-2.2Nd-0.1Zn-0.4Zr (重量%、JDMB-2と称される)である。
【0030】
マグネシウム層の厚さは、その分解速度を規定し、より大きな厚さはより長い分解時間に対応する。本発明による実施形態では、共通して上側基部及び/又は下側基部を提供し、ここで、前記上側基部及び/又は下側基部の劣化は、前記デバイスに含まれる容積の各々の外側に向かう開口部を規定し、上側基部及び/又は下側基部は、最も内側の中空固体の劣化までの維持を保証するような厚さで構成される。
【0031】
本発明によるデバイスは不透過性であり、前記デバイスの埋め込み後時間に応じて透過性となる。好ましい実施形態では、前記透過性は、最も外側の中空固体の壁を溶解することによって得られる。眼内滞留時間及びその厚さに応じて起こる前記溶解は、最も外側の中空固体に含まれる活性成分の放出をもたらす。その後、眼内液によって発揮される腐食に、内接した中空固体の壁が曝露されると、最も外側の中空固体に内接した中空固体の壁の劣化が起こり、その中に含まれる活性成分が放出される。ある実施形態において、前記中空固体の壁厚は、前記中空固体の各々について同じである。別の実施形態では、前記活性成分が液状形態である場合に有利に適用され、前記中空固体の壁厚は、前記最も外側の中空固体から前記最も内側の中空固体に向かって変化・増加する。
【0032】
前記コアは、前記中空固体の最も内側にあり、前記1つ以上の容積は、ある実施形態において、前記最も内側の中空固体とその外側の中空固体との間に含まれる。別の実施形態では、それらは異なる容積を有する。
【0033】
一方が他方の中に入り込んでいる前記中空固体は、1つの実施形態において、同一の生分解性材料でできた仕切りによって互いに連結され、ここで、前記仕切りは、例えば構造的機能を有する。
【0034】
前記埋め込みデバイスに装填される少なくとも1種の活性成分は、眼内使用のための活性成分から選択される活性成分である。好ましくは、前記活性成分は、抗VEGF化合物(例えば、モノクローナル抗体:ラニビズマブ、ベバシズマブ、ブロルシズマブ);アプタマー:ペガプタニブ;融合タンパク質:VEGF Trap-Eye アフリベルセプト;低分子干渉RNA(SiRNA);抗血小板由来増殖因子(PDGF);抗チロシンキナーゼ又はチロシンキナーゼ阻害剤;抗レセプターキナーゼ;チロシンキナーゼ・カスケードの細胞内阻害剤;マルチキナーゼ阻害剤;mTOR阻害剤;インテグリン阻害剤;血管破壊剤(VGA);抗ニコチン剤、抗補体剤又は補体阻害剤;免疫調節物質;抗酸化剤;毛様体神経栄養因子(CNTF);コルチコステロイド;非ステロイド性抗炎症剤;生物学的な材料(例えばヌクレオチド配列を含むウイルスベクター;細胞(例えば前記ウイルスベクトルの少なくとも1種でトランスフェクションされたもの)、を含む群から選択される。
【0035】
前記活性成分は、個別に、又は混合して充填される。
【0036】
好ましい実施態様において、前記埋め込み型デバイスは、抗VEGF化合物の3薬剤を含み、ここで、前記3薬剤は各々治療に必要な量からなる。各特定の化合物のこれらの量は、当業者に知られている。
【0037】
ある実施形態では、前記の少なくとも1種の活性成分は、液状形態、あるいは凍結乾燥製品として充填される。
【0038】
ある実施形態において、少なくとも1種の活性成分は、そのまま、あるいは当業者に知られている賦形剤とともに、充填される。
【0039】
ある実施形態において、埋め込み型デバイスはシリンダ形であり、約10 mm、又は約5 mm、及び約0.6 mmの基部直径を有する。
【0040】
ある実施形態では、埋め込み型デバイスは球形であり、直径は約0.6 mmである。
【0041】
別の実施形態では、埋め込み型デバイスは、正方形の断面を有する平行6面体であり、好ましくは約10 mmの高さ、又は約5 mmの高さを有し、かつ基部で約0.6 mmの対角線を有する。
【0042】
本発明のさらなる一面は、埋め込み型デバイスを製造するための方法であり、以下を含む:
- マグネシウム及び/又はマグネシウム合金により形成すること、ここで、前記構造は、一方が他方の中に入り込んでいる少なくとも2つの中空固体がコアと呼ばれる少なくとも1つの最も内側の容積及びクラウンと呼ばれる少なくとも1つの容積を規定する、ここで、一方が他方の中に入り込んでいる少なくとも2つの中空固体によって規定される少なくとも2つの容積は、いずれも外側に向いた少なくとも1つの開口部を有する;
- 一つ以上の活性成分により前記構造を充填すること;
- 前記構造を閉鎖すること。
【0043】
前記充填は、一方が他方の中に入り込んでいる少なくとも2つの中空固体から得られた前記少なくとも2つの容積に、液状又は凍結乾燥形態の1つ又はそれ以上の活性成分を、そのまま又は何らかの剤形で、導入することによって行われる。
【0044】
前記閉鎖は、前記少なくとも二つの容積の各々の外側に向いた前記少なくとも1つの開口部を閉じるマグネシウム及び/又はマグネシウム合金で作られた閉鎖要素により行われる。好ましい実施形態において、
図1及び
図3の実施態様に示されている、前記少なくとも1つの開口部は、前記中空固体の上側基部及び/又は下側基部と一致する。従って、前記閉鎖要素は、前記最外中空固体の上側基部及び/又は下側基部である。
【0045】
前記閉鎖要素は、デバイス内の最も内側の中空固体が劣化するまで、その維持を保証するような厚さで作られる。
【0046】
本発明の埋め込み型デバイスは、バランスのとれた生理食塩水に懸濁された後、眼の後眼房に配置される。最も外側の中空固体及びそれに続く最も内側の中空固体の劣化は、生分解可能な材料からなる前記中空固体における硝子体の動きによって誘導される腐食によって規定される。
【0047】
有利なことに、本発明によるデバイスは、それに含まれる薬剤のスケジュールされた放出を引き起こすための外部刺激を必要としない。
【0048】
前記壁上における硝子体の動きは、特定のせん断応力値(τij)
を生成し、ここで前記せん断応力は式1に従って計算される。
【数1】
式1
【0049】
前記せん断応力は、(A)と定義されたデバイスの自由表面に作用し、流体の動的粘度(μ)によって規定される係数に従い、
【数2】
と定義される速度勾配に線型的に関係する。
【0050】
この現象には、
【数3】
式2
に従い、実質的に一定の速度(CR)で、臨床的な治療タイミング(t)に従って、完全な侵食(溶解)まで進行する物質の厚さ(ΔV/A)の漸進的かつ均一な低下が含まれる。
【0051】
侵食が完全になると、クラウン内の放出される薬剤は、Navier-Stokes連続式によって定義される随意的及び不随意的眼球運動によって生成される輸送動態に従い、質量及びFickの保存、及び硝子体液のレオロジー特性、動的粘性及び密度に関連して広がる。
【0052】
薬剤の初回放出が広がると、前記デバイスの中空固体の侵食が始まり、露出するようになる。このプロセスは、多様な治療レジメンを満たすために、埋め込み型デバイスを構成する一方が他方の中に入り込んでいる中空固体の数と同じ回数繰り返される。
【0053】
以下の実施例は、純粋に例示的であり、付記請求項によって定義される本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0054】
実施例1:本発明によるデバイスの試作品の実施。
【0055】
Liu F et al.2015、Mater Sci Eng C Mater Biol Appl48:400-7. に記載された方法に従って、外径の異なる同心円状の小殻3個と閉鎖盤2個を作製した。簡単に説明すると、3つのJDBM合金棒(2.5wt%Nd、0.2wt%Zn、0.4wt%Zrを含むMgマグネシウム合金)を空の小部屋に加工し、次いで350℃で未加工の管に押し出した。最終サイズは外径8.0 mm、厚さ0.5 mmであった。次いで、押し出した管の半-完成品の薄片加工を室温で行い、各過程で面積を10%から15%に減少させた。外径4.0 mm、厚さ250 μmの細い管が得られるまで、薄片加工による面積の更なる縮小を行った。最終工程として、厚さ200 μmの3つの微小管を製造し、その外径をそれぞれ2.0 mm、1.5 mm及び1.0 mmに縮小した。最後に、各微小管を長さ20 mmの10個の小殻に切断した。一方を他方の内側に3つの小殻の内挿が実施され、
図4A、B、Cのように示される構成を得た。直径3.0 mm及び厚さ0.6 mmの円盤の一連のシリーズが、押し出し、仕上げされた棒の断面から切断された(
図4C)。このようにして得られた試作品は、本発明によるデバイスの1:4スケールの再現である。デバイスの寸法に関する試作品のより大きな寸法は、液化条件における硝子体腔の実験モデルでのin vitroでの腐食及び放出試験を促進するために有用であり、実際のものの4倍拡大された再現である(Stocchino et al. 2007、Phys MedBiol 52:2021-2034; Stocchino et al. 2010、Phys Med Biol 55:453-67.)。
【0056】
実施例2:腐食及び放出試験
【0057】
材料の特徴付けには、純マグネシウムの試料に均一に制御された腐食を用いた。共焦点レーザ走査顕微鏡(CLSM)データは、in vitroの眼環境における試料の高さの局所的低下と対応する腐食速度を評価することを可能にした。画像処理のための特定のアルゴリズムを開発することにより、画像処理結果を定性的解析から腐食速度の局所的及び定量的解析に拡張した。静的条件と動的条件の比較を、(i)像の高さの低下、(ii)腐食速度の全体的な解析及び容積損失の評価の点で行った。最後に、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて自由浸食表面の形態を取得した。流体力学がマグネシウム腐食に及ぼす鍵となる役割は正確に報告されており、流体の動き(Efird, 2011)と相関しており、アドホックに製造されたマグネシウム試料への眼球系特有の流体の流れにせん断応力が及ぼす影響を強調している。異なるFISS刺激後にいくつかの表面形態を分析し(
図5)、そこには穴の局在、酸化マグネシウム(MgO)腐食生成物、及び平坦で均一な腐食を含む。したがって、均一なものとは異なる局在の存在及び腐食のタイプ(すなわち、孔食)は、試験前の試料の形態に強く影響される(
図5)。データは、厚さの均一性がない領域のみが、製造欠陥によりすでに局在化があった領域であることを示している。しかしながら、局所の流体の流れる条件の影響は、FISS基準範囲ではそれほど深くはない:3つのケースすべてにおいて、流体の流れは酸化された腐食生成物を表面から除き、均一で平坦な侵食機構を改善した。この効果は高いFISS領域でより明白である:より重篤な局所的攻撃は高いFISS範囲でのみ認められるが、これはおそらく、一定の閾値を超えて、流れの方向に沿ったFISSの増加が腐食を加速したという事実による(Wang, 2014)。腐食機構における均一さが寄与する主な重要性は、実験における生分解中に異なる時間スケールで取得したCLSMデータによって確認した。実際、サンプル像のCLSMデータは事後処理され、検査したすべてのFISS構成について、局所的な高さの低下の正規分布が認められた(
図6)。もちろん、FISS範囲が高いほど高さの低下と容積損失が大きくなり、1日のびらんにより2.85 μmの低下に達した(FISS = 0.032Pa、
図7-8)。0.032 Pa、0.01 Pa及び0 PaのFISS値を解析することにより、対応する腐食速度は、それぞれ、3.4、2.7及び1.9 μm/日であった(
図9)。このように、最もストレスの強い眼の動的条件(FISS = 0.032Pa)が使用され、2回の連続した注射(1か月)の間で得られた臨床的差と共に考慮され、潜在的な純マグネシウム厚は103 μmとなった。基準FISS範囲を変更することにより(0.01Pa及び0Pa)、り、厚さ81~57 μmの、より薄い殻が必要となる。
【0058】
実施例3:活性成分の放出の評価
【0059】
活性成分の放出は、層の腐食が可能で、よってデバイス内に封入された薬剤の単回の放出をシミュレートできる信頼性の高いモデルで分析した。この点に関し、FEMモデリングは、眼環境において平坦で均一なマグネシウム腐食を正確に再現することができるように開発された。これにより:
・生分解性層の最終的な形状及び寸法を規定すること;
・既知の初期層構成からの腐食時間を推定すること;
・形状と大きさが既知の生分解性層の毎月の腐食速度を推定すること
が可能になった。
【0060】
有限要素法(FEM)に基づく提案モデルは、より複雑な応力条件(例えば、不均質な眼のせん断応力領域)をシミュレートすることができ、これは、腐食現象の複雑さを支援するためのデバイス構成の最適化を必要とし、いかなる場合においても典型的な動的オン-オフ放出を可能にするであろう(
図10)。単層デバイスからのベバシズマブの放出モデルは、カプセル化薬物の放出モードを示す。
図11-13に示したデータは、拡散に関して対流がどのように主要な役割を果たしているかを示している。薬剤消費の時間推定値(236秒)は、薬剤デリバリーに対する眼球運動の大きな影響を示している(
図14)。得られたデータは、最もストレスの多い構成(FISS = 0.032 Pa)を考慮すると、本発明によるデバイスを構成する固形の各層は、好ましい実施形態において、0.103 mmであるという結論を導く。
【0061】
実施例4:溶解評価試験
【0062】
実施例1に記載した撮像法を用いて、マグネシウム試料の分解速度を試験した。下記の表1に示すデータは、必要な分解時間に応じて、すなわち、初回の薬剤放出からその次の薬剤放出までの望ましい間隔に応じた必要なマグネシウムの厚さを示す。
【0063】
【0064】
有利なことに、本発明に沿ったデバイスは、量子(単位量の)放出による、経時的な規定用量の薬剤のスケジュールされ制御された投与を可能にする。好ましい実施形態では、前記デバイスが1つのコア及び2つのクラウンを含み、1回の注入で4回の薬剤投与をスケジュールすることが可能であり、ここで、デバイスに含まれない1回目の薬剤投与は、デバイスの注入と同時に施行され、次の3回は、それぞれデバイスの第1クラウン、第2クラウン及びコアに含まれ、従って、治療の必要性を4回の注入から1回の注入へ軽減する。
【0065】
別の実施形態において、本発明のデバイスは、皮下埋め込みデバイスあるいは摂取可能なデバイスにも適用され、完全な生分解性及び規定された活性成分の経時的にスケジュールされた放出といった特徴は、皮下埋め込みデバイスあるいは摂取可能なデバイスにも有利な適用を見出す。
【0066】
本発明による埋め込み型デバイスは、繰り返す侵襲的な治療の影響を大幅に軽減する。例えば、1回の注射で、AMDにおいて少なくとも3か月間必要とされる抗VEGF治療を提供することが可能である。患者管理のコストと反復注射による感染リスクは減少し、患者の治療遵守態度は向上する。
【0067】
生体不活性腐食生成物を生成する生体不活性物質である、生分解性材料としてのマグネシウムの使用は、眼内システムの一体性と作動を損ない重大な免疫反応を発生させるような非常に毒性の高い腐食生成物を発生させるポリマーベースのデバイスに関連する限界も克服する。